(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1スリーブ、前記スライド部材、前記第3スリーブ、及び前記第2スリーブは、前記軸方向に各端面が対向して配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のシリンダ錠装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて具体的に説明する。
【0013】
(シリンダ錠装置の構成)
図1は、本願発明の実施の形態に係るシリンダ錠装置の分解斜視図である。また、
図2は、ボデーに収容された状態の各部品を部分断面で示す立体斜視図である。
【0014】
本願発明の実施の形態に係るシリンダ錠装置1は、ボデー20と、ボデー20の内側に回転自在に配されたロータ30と、ボデー20とロータ30の間に回転自在に配され、ロータ30の径方向へ移動自在に設けられたタンブラ50が径方向外側へ付勢されることにより回転方向に係合し、正規キーのキー挿入孔への挿入により回転方向との係合が解除される第1スリーブ40と、ロータ30におけるキー挿入側と反対側に対向して配される回転自在なホルダレバー60と、第1スリーブ40とホルダレバー60の間に配され、第1スリーブ40がボデー20に対して所定角度だけ相対的に回転するとホルダレバー60側へ向かって軸方向に移動するスライド部材であるスライダ70と、ロータ30とホルダレバー60の間に配され、ホルダレバー60に対して軸方向へ移動自在かつ回転方向に連動し、スライダ70がホルダレバー60側へ向かって移動するとロータ30との係合が解除される第2スリーブ80と、スライダ70と第2スリーブ80の間に配され、スライダ70がホルダレバー60側へ向かって移動するとロータ30と回転方向に嵌合する第3スリーブ90と、を有して構成されている。
【0015】
図1に示すように、このシリンダ錠装置1は、円筒部を備えて車両のドア等に装着されるボデー20と、ボデー20の内側に回転自在に配されるロータ30と、ボデー20とロータ30の間に回転自在に配される第1スリーブ40と、ロータ30に径方向へ移動自在となるよう設けられるタンブラ50と、ロータ30におけるキー挿入側と反対側に対向して配される回転自在なホルダレバー60と、を備えている。シリンダ錠装置1は、正規キー(マスターキー)がロータ30に挿入された状態でキーが回転されると第2スリーブ80及びホルダレバー60がロータ30と共に回転する。一方、シリンダ錠装置1は、不正なキーやドライバー等でロータ30が無理に回転されると、ロータ30側と第2スリーブ80側との係合を解除してロータ30をホルダレバー60に対して空回りさせる係合解除機構を備えており、いわゆるフリーホイール方式が採用されている。すなわち、ロータ30と第2スリーブ80とによりクラッチ機構が構成されている。
【0016】
具体的には、シリンダ錠装置1は、
図1、2に示すように、第1スリーブ40、スライド部材であるスライダ70、第3スリーブ90、及び第2スリーブ80が軸CL方向に各端面が対向して配置され、ロータ30と接触するようスライダ70、第2スリーブ80等をロータ30側へ付勢するスプリング110と、を備え、これらの協働によりフリーホイール機構を実現している。
【0017】
ボデー20は、
図1、2に示すように、内部にロータユニット3(ロータ30)、第1スリーブ40等を収容する円筒部21a、車両のドア等に装着される場合に表面に露出して装着されるフロント部21b等から構成されている。ボデー20は、円筒部21aが車両のドアパネル等の挿通孔に挿通されて、フロント部21bがドアパネルの表面に露出した状態で装着されて固定される。
【0018】
図1に示すように、ロータ30は、段部を備えた略円柱状を呈し、キー挿入孔31が軸CL方向へ延びるよう形成されている。また、
図1に示すように、ロータ30におけるキー挿入側と反対側の外周面には、第2スリーブ80の凹部81と係合可能な凸部36が形成される。凸部36は周方向へ延び、略180°の間隔で2つ形成されている。また、ロータ30には、タンブラ50を径方向へ案内する溝37が形成されている。本実施形態においては、計8つのタンブラ50が互い違いに配され、8つの溝37が形成されている。
【0019】
各タンブラ50は、各溝37にそれぞれ収容されるタンブラ用ばね(図示省略)により径方向外側へ付勢される。第1スリーブ40には、各タンブラ50の径方向外側端部と係合する係合溝41が形成されており、径方向外側へ付勢された各タンブラ50と係合することにより、ロータ30と第1スリーブ40が一体的に回転するようになっている。各タンブラ50には正規キー(マスターキー)に対応する孔が形成されており、各タンブラ50はロータ30に挿入されたキーの溝形状に応じて径方向へ移動する。正規キー(マスターキー)が挿入されると、全てのタンブラ50が第1スリーブ40から離脱して係合が解除され、ロータ30と第1スリーブ40とが独立して回転可能な状態となる。
【0020】
第1スリーブ40は、
図1、2に示すように、略円筒状を呈し、ボデー20とロータ30の間に回転自在に配される。円筒状の周面には軸方向へ延びる一対の係合溝41が形成されている。また、第1スリーブ40のスライダ側の端面には、後述するスライダ70の嵌合傾斜凹部71と嵌合する傾斜突起部42が形成されている。本実施形態においては、第1スリーブ40側が傾斜突起部とされ、それに嵌合するスライダ70の嵌合傾斜凹部が凹部とされているが、逆の嵌合条件であってもよく、例えば、第1スリーブ40側が嵌合傾斜凹部であってもよい。
【0021】
スライド部材であるスライダ70は、
図1、2に示すように、第1スリーブ40の端面に対向して配置されている。上述のように、スライダ70は嵌合傾斜凹部71を備え、第1スリーブ40の傾斜突起部42と嵌合している。また、
図1に示すように、ガイド部72を180°対向した位置に備え、このガイド部72は、ボデー20のガイド溝22にスライド可能に嵌合している。
【0022】
スライダ70は、嵌合傾斜凹部71にテーパ部71aが形成されている(嵌合する第1スリーブ40の傾斜突起部42にもテーパ部42aが形成されている)。第1スリーブ40が回転駆動されると、テーパ部71aにおいて駆動力を受け、軸CL方向の分力によりスライダ70はスライドして移動する。すなわち、シリンダ錠装置1は、第1スリーブ40に形成された傾斜突起部42と、スライダ70に形成された嵌合傾斜凹部71の各テーパ部によるカム機構を備える。このカム機構は、第1スリーブ40がボデー20に対して相対的に回転するとスライダ70を第2スリーブ80の方向へスライド移動させる。
【0023】
スライダ70が軸CL方向へ移動することにより、スプリング110のばね力に抗して第2スリーブ80をロータ30から離脱させ、ロータ30の凸部36と第2スリーブ80の凹部81との係合が解除される。
【0024】
第2スリーブ80は、
図1に示すように、略円板状を呈し、中心にはロータ30の先端側を受容するための受容孔82が形成される。第2スリーブ80には、ホルダレバー60へ向かって延びる円筒部83が形成され、円筒部83の先端には複数の連結部84が突出形成される。各連結部84がホルダレバー60に形成された挿通孔61を挿通し、これにより、第2スリーブ80はホルダレバー60に軸方向へ移動自在に設けられている。
【0025】
第2スリーブ80の各凹部81は、第2スリーブ80におけるキー挿入側の面の受容孔82内周縁に形成されている(
図1参照)。これにより、ロータ30の各凸部36が各凹部81に嵌り込まらない角度である場合は、各凸部36がキー挿入側の面と干渉して、ロータ30と第2スリーブ80の相対的な回転が許容される。すなわち、第2スリーブ80とロータ30との係合が解除された状態で、第2スリーブ80における凹部81以外の部分が凸部36と摺接する。このように、ロータ30と第2スリーブ80の係合が解除された状態では、スプリング110から第2スリーブ80に加わる付勢力はロータ30で受け止められる。
図1に示すように、第2スリーブ80の外周には、ボデー20に対して回転規制をするための切欠部85が形成されている。
【0026】
第3スリーブ90は、フランジ形状の本体91と第1スリーブ40との回転方向の係合を行なう係合突起部92を4箇所有して形成されている。第3スリーブ90は、スライダ70と第2スリーブ80の間に、軸CL方向に各端面が対向して配置されている。
【0027】
図3(a)は、本願発明の実施の形態に係るシリンダ錠装置の通常時の縦断面図、
図3(b)は、フリーホイール作動時の縦断面図である。第3スリーブ90には、本体91の内径側に嵌合凹部93が形成されている。この嵌合凹部93は、
図3(a)に示すように、通常時にはロータ30の凸部36と嵌合しないが、フリーホイール動作時には、
図3(b)、
図4(a)に示すように嵌合する。これにより、第3スリーブ90は、通常時にはロータ30の回転には追従しないが、フリーホイール動作時にはロータ30の回転に追従した回転動作を行なう。
【0028】
図4(a)は、本願発明の実施の形態に係るシリンダ錠装置のマスターキー復帰機構を説明するための立体斜視図であり、
図4(b)は、フリーホイール作動時における第1スリーブと第3スリーブとの嵌合状態を示す立体斜視図である。第3スリーブ90は、係合突起部92が第1スリーブ40の係合段部43に対して、軸CL方向にはスライド移動可能で、回転方向には係合可能とされている。
図4(b)に示すように、この回転方向の係合状態は、通常時だけでなく、フリーホイール動作時でも係合状態とされている。
【0029】
スプリング110は、付勢手段としてのトーションコイルバネであって、圧縮バネとしての巻回部と、それぞれの端部が径方向に突出して形成された端部とで構成されている。これにより、前述した第2スリーブ80をロータ30側へ付勢する圧縮バネとして機能すると共に、円周方向に付勢力を発生するトーションバネとして機能することができる。
【0030】
ホルダレバー60は、
図1に示すように、連結部62とレバー100の連結部105とは、ピン115により連結されている。ホルダレバー60の回転はレバー100に伝達され、先端に形成された結合部102を回転駆動する。この結合部102は、図示省略するドアパネル内に配置されたドアロック機構部に結合され、キー(ロータ30)の回転に連動した回転によりドアロック機構部を駆動して、ドアのロック又はアンロックを行なう。
【0031】
(正規キーによるシリンダ錠動作)
正規のキーがキー挿入孔31へ挿入されると、タンブラ50と第1スリーブ40との係合が解除され、ロータ30と第1スリーブ40とが独立して回転可能な状態となる。この状態でキーを回転させると、ロータ30と係合している第2スリーブ80がホルダレバー60と共に回転し、レバー100を回転駆動する。これによりドアロック機構部を駆動して、ドアのロック又はアンロックを行なうことができる。
【0032】
(不正キー等によるシリンダ錠動作)
不正なキーやドライバ等の異物がキー挿入孔31へ挿入されると、タンブラ50と第1スリーブ40との係合が解除されず、ロータ30と第1スリーブ40とは一体的に回転する状態となる。この状態でロータ30を回転させると、ロータ30と共に第1スリーブ40がボデー20に対して回転し、スライダ70がホルダレバー60側へ移動して、第2スリーブ80とロータ30との係合が解除される。これにより、不正なキーを回転させてもロータ30と第1スリーブ40が回転するのみであり、第2スリーブ80、ホルダレバー60は回転しない。
【0033】
(マスターキー復帰動作)
上記説明したフリーホイール機構において、ロータ30が回転途中で止まった場合に、ユーザーが正規キー(マスターキー)を差し込んでロータを初期位置まで復帰させるマスターキー復帰機構について説明する。
【0034】
本実施の形態では、従来設けられていない第3スリーブ90を備えている。この第3スリーブ90は、嵌合凹部93を備えており、
図3(a)に示すように、通常時にはロータ30の凸部36と嵌合しないが、フリーホイール動作時には、
図3(b)、
図4(a)に示すように嵌合する。これにより、第3スリーブ90は、通常時にはロータ30の回転には追従しないが、フリーホイール動作時にはロータ30の回転に追従した回転動作を行なう。
【0035】
また、
図4(b)に示すように、第3スリーブ90は、係合突起部92が第1スリーブ40の係合段部43に対して、軸CL方向にはスライド移動可能で、回転方向には係合可能とされている。この回転方向の係合状態は、通常時だけでなく、フリーホイール動作時でも係合状態とされている。
【0036】
したがって、フリーホイール動作時において、ロータ30は、凸部36及び嵌合凹部93を介して第3スリーブ90と回転方向に係合する。さらに、第3スリーブ90は、係合突起部92及び係合段部43を介して第1スリーブ40と回転方向に係合する。
【0037】
これにより、フリーホイール動作時にロータ30が回転途中で止まった場合において、正規キー(マスターキー)を差し込んでロータを初期位置まで復帰させることができる。
【0038】
(本発明の実施の形態の効果)
上記示した本発明の実施の形態によれば以下のような効果を有する。
(1)本発明の実施の形態に係るシリンダ錠装置1は、
図1、2に示すように、第1スリーブ40、スライド部材であるスライダ70、第3スリーブ90、及び第2スリーブ80が軸CL方向に各端面が対向して配置され、ロータ30と接触するようスライダ70、第2スリーブ80等をロータ30側へ付勢するスプリング110と、を備え、これらの協働によりフリーホイール機構を実現している。この構成により、クラッチ機構を軸CL方向に配置しているので、軽方向にシリンダ径を大きくせずに、小型化することができる。
(2)本実施の形態では、従来設けられていない第3スリーブ90を備えている。この第3スリーブ90は、フリーホイール動作時には、ロータ30の回転方向に係合し、ロータ30は第1スリーブ40と回転方向に係合している。したがって、フリーホイール動作時にロータ30が回転途中で止まった場合において、正規キー(マスターキー)を差し込んでロータを初期位置まで復帰させるマスターキー復帰機構をシリンダ径を大きくせずに実現することができる。
(3)フリーホイール機構及びマスターキー復帰機構を備えたシリンダ錠装置において、スライダ70、第3スリーブ90等を樹脂化することにより軽量化することも可能となる。
(4)シリンダ錠装置の径方向への小型化により、ボデー20の円筒部21aの径が小さくなるので、ドアパネル等の挿通孔の穴径を小さくすることができる。これにより、シリンダ錠装置の径方向への小型化ニーズに応えることが可能となる。
(5)シリンダ錠装置の径方向への小型化により、ドアパネルのドアハンドル周りの意匠上の自由度が向上する等の効果を有する。
【0039】
なお、上記実施形態においては、シリンダ錠装置1として、自動車車両のドアの解錠・施錠を行うものを例示したが、例えば住居のドア、引き出し等の解錠・施錠を行うものであってもよい。
【0040】
以上の説明からも明らかなように、本発明に係る代表的な実施の形態、及び図示例を例示したが、上記実施の形態、及び図示例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。従って、上記実施の形態、及び図示例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。