【文献】
Clin. Cancer Res., 2009, Vol. 15, No. 18. pp. 5852-5860
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
配列番号27〜35のいずれかとして示される配列、または少なくとも80%の配列同一性を有するが、i)GD2に結合する能力、およびii)T細胞シグナリングを誘導する能力を保持するそれらのバリアントを含む、請求項1または2に記載のCAR。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ジシアロガングリオシド(GD2、pubchem:6450346)は、主として細胞表面において発現する、シアル酸を含有するスフィンゴ糖脂質である。この糖鎖抗原の機能は、完全には理解されていないが、腫瘍細胞の細胞外マトリクスタンパク質への接着において重要な役割を担うと考えられている。GD2は、神経芽腫において密に、均一でかつほぼ普遍的に発現する。正常な組織において、GD2発現は、皮膚色素細胞および末梢疼痛線維ミエリン鞘に大きく限定される。CNS内で、GD2は、胎児性抗原であるようだが、散在したオリゴデンドロサイトにおいて、および下垂体後葉内で不明瞭に発現することが見出されている。これは、GD2を、標的抗腫瘍治療に十分に適切にさせる。
【0003】
抗GD2抗体は、神経芽腫における治療として広く試験されている。2種のクローン(クローン3F814および3F8)ならびにそれらの誘導体は、現在臨床上の使用にある。別のクローンである14.187は、IgG2a(14g2a)へのアイソタイプスイッチの後、そして最終的にch14.18を形成するために、ヒトIgG1を用いたキメラ化の後に、マウスIgG3として試験されている。この後者の抗体は、無作為化試験においてはっきりとした効果をもたらした:米国小児腫瘍学グループは、危険性の高い神経芽腫を有する小児であって、最初の処置後、放射線学的寛解を達成した小児におけるch14:18の無作為化フェーズIII試験を報告した。これらの患者において、平均2.1年の追跡調査で、ch14:18アームにおけるEFSにおいて20%の改善があった。重要なことに、ニューロパチーを含む慢性疼痛として最も一般的でかつ眼球麻痺としてより一般的でない神経毒性が、これらの薬剤に伴う主要な用量制限毒性である。
【0004】
これらの治療用mAbは洗練され続けている:ch14.18から誘導されたIL−2免疫サイトカインが記載されている。これは、微少残存病変においていくらかの効果を伴うが、巨大病変に対しては伴わないかなり毒性の薬剤である。ch14.18は、完全にヒト化されており、そのFcは、補体の活性化を阻害するために変異されている。このヒト化型のCh14.18は臨床試験にあるが、非常に限定されたデータしか利用可能でない。3F8抗体のヒト化も記載されている。GD2血清療法由来の臨床データは励みになるものであるが、持続的完全寛解は、依然として限定されており、微少病変のセッティングにおけるものを除いて、抗体についての臨床上有用な役割についての証拠はない。
【0005】
それゆえ、神経芽腫および他のGD2発現がんを処置するための改良された治療的アプローチについての必要性が存在する。
【0006】
キメラ抗原受容体(CAR)
キメラ抗原受容体は、通常の構成において、モノクローナル抗体(mAb)の特異性を、T細胞のエフェクター効果へ移植したタンパク質である。その通常の構成は、抗原認識アミノ末端、スペーサー、膜貫通ドメインが全て、T細胞生存および活性化シグナルを伝達する混成エンドドメインに連結した、I型膜貫通ドメインタンパク質の形態である(
図1aを参照)。
【0007】
これら分子の最も一般的な形態は、標的抗原を認識するモノクローナル抗体に由来する一本鎖可変フラグメント(scFv)の融合物であり、スペーサーおよび膜貫通ドメインを介してシグナリングエンドドメインに融合される。このような分子は、scFvによるそれらの標的の認識に応答してT細胞の活性化をもたらす。T細胞がこのようなCARを発現するとき、それらは標的抗原を発現する標的細胞を認識し、かつ殺傷する。腫瘍関連抗原に対する数種のCARが開発されており、このようなCARを発現するT細胞を使用する養子移植アプローチは、現在広範ながんの処置のための臨床試験にある。
【0008】
抗原結合ドメインが、scFv 14g2aに基づく、GD2に対するキメラ抗原受容体が記載されている(国際公開第2013/040371号およびYvon et al(2009、Clin Cancer Res 15:5852−5860))。
14g2a−CD28−OX40−ζ CARを発現するヒトT細胞は、いくらかの抗腫瘍活性を有するが、疾患を完全に根絶することができないことが示された(上記と同様にYvon et al (2009))。
本発明者らは、改善した性質を有する代替的なGD2標的化CARを作製しようとした。
【発明の概要】
【0011】
本発明の態様の概要
本発明者らは、K666抗体に基づくGD2結合ドメインを含む、GD2を標的とする新しいキメラ抗原受容体(CAR)を構築した。
【0012】
抗GD2抗体14g2aは、治療用抗体として使用され、現在までにCAR研究において試験された唯一のscFvである(PMID:18978797)ため、価値の基準として理解され得る。本発明者らは、第二世代の構成における14g2aおよびhuK666に基づくCARを比較した。これは、臨床試験において使用される最も広範に使用されるCAR構成であるためである。本発明者らは、huK666 CAR T細胞が、14g2a等価物よりも多くのIFN−γを放出し、より良好に増殖し、かつより完全に殺傷することを見出した。
【0013】
したがって、第一の態様において、本発明は、
a)以下の配列:
CDR1−SYNIH(配列番号1)、
CDR2−VIWAGGSTNYNSALMS(配列番号2)、
CDR3−RSDDYSWFAY(配列番号3)
を有する相補性決定領域(CDR)を有する重鎖可変領域(VH)、および
b)以下の配列:
CDR1−RASSSVSSSYLH(配列番号4)、
CDR2−STSNLAS(配列番号5)、
CDR3−QQYSGYPIT(配列番号6)
を有するCDRを有する軽鎖可変領域(VL)
を含む、ジシアロガングリオシド(GD2)結合ドメインを含む、キメラ抗原受容体(CAR)を提供する。
【0014】
GD2結合ドメインは、配列番号9もしくは配列番号10として示される配列を有するVHドメイン、または配列番号11もしくは配列番号12として示される配列を有するVLドメイン、またはi)GD2に結合し、かつii)T細胞シグナリングを誘導する能力を保持し、少なくとも90%の配列同一性を有するそれらのバリアントを含み得る。
【0015】
GD2結合ドメインは、配列番号7もしくは配列番号8として示される配列、またはi)GD2に結合し、かつii)T細胞シグナリングを誘導する能力を保持し、少なくとも90%の配列同一性を有するそれらのバリアントを含み得る。
【0016】
膜貫通ドメインは、配列番号13として示される配列、またはi)GD2に結合し、かつii)T細胞シグナリングを誘導する能力を保持し、少なくとも90%の配列同一性を有するそのバリアントを含み得る。
【0017】
GD2結合ドメインおよび膜貫通ドメインは、スペーサーによって連結され得る。
【0018】
スペーサーは、以下:ヒトIgG1 Fcドメイン、IgG1ヒンジ、IgG1ヒンジ−CD8ストークまたはCD8ストークの1つを含み得る。
【0019】
スペーサーは、IgG1ヒンジ−CD8ストークまたはCD8ストークを含み得る。
【0020】
スペーサーは、IgG1 Fcドメインまたはそのバリアントを含み得る。
【0021】
スペーサーは、配列番号23もしくは配列番号24として示される配列、または少なくとも80%の配列同一性を有するそれらのバリアントを含む、IgG1 Fcドメインを含み得る。
【0022】
CARは、細胞内T細胞シグナリングドメインを含むかまたはこれと会合し得る。
【0023】
細胞内T細胞シグナリングドメインは、以下のエンドドメイン:CD28エンドドメイン、OX40およびCD3ゼータエンドドメインの1つまたはそれより多くを含み得る。
【0024】
細胞内T細胞シグナリングドメインは、以下のエンドドメイン:CD28エンドドメイン、OX40およびCD3ゼータエンドドメインのすべてを含み得る。
【0025】
CARは、配列番号26〜35のいずれかとして示される配列、または少なくとも80%の配列同一性を有するが、i)GD2に結合し、かつii)T細胞シグナリングを誘導する能力を保持する、それらのバリアントを含み得る。
【0026】
第二の態様において、本発明は、本発明の第一の態様にしたがうCARをコードする核酸配列を提供する。
【0028】
核酸配列は、配列番号25として示される配列、または少なくとも90%の配列同一性を有するそのバリアントを含み得る。
【0030】
第三の態様において、本発明は、本発明の第二の態様にしたがう核酸配列を含むベクターを提供する。
【0031】
第四の態様において、本発明は、本発明の第一の態様にしたがうCARを発現する細胞を提供する。この細胞は、T細胞またはナチュラルキラー(NK)細胞などの細胞溶解性免疫細胞であり得る。
【0032】
細胞は、本発明の第一の態様にしたがうCARと自殺遺伝子とを共発現し得る。
【0033】
自殺遺伝子は、例えば、iCasp9またはRQR8であり得る。
【0034】
第五の態様において、本発明は、細胞に本発明の第二の態様にしたがう核酸を導入する工程を含む、本発明の第四の態様にしたがう細胞を作製するための方法を提供する。
【0035】
第六の態様において、本発明は、本発明の第三の態様にしたがうベクター、または本発明の第二の態様にしたがう細胞と、薬学的に許容できるキャリア、希釈剤、または賦形剤とを一緒に含む薬学的組成物を提供する。
【0036】
第七の態様において、本発明は、本発明の第三の態様にしたがうベクター、または本発明の第四の態様にしたがう細胞を被験体へ投与する工程を含む、がんを処置するための方法を提供する。
【0038】
第八の態様において、本発明は、がんの処置における使用のための、本発明の第三の態様にしたがうベクター、または本発明の第四の態様にしたがう細胞を提供する。
【0039】
第九の態様において、本発明は、がんを処置するための医薬品の製造における、本発明の第三の態様にしたがう使用、または本発明の第四の態様にしたがう細胞を提供する。
【0040】
第十の態様において、本発明は、細胞にGM3シンターゼをコードする核酸およびGD2シンターゼをコードする核酸を導入する工程を含む、GD2発現細胞を作製するための方法を提供する。
【0041】
第十一の態様において、本発明は、GM3シンターゼをコードする異種の核酸およびGD2シンターゼをコードする異種の核酸を含む、GD2発現細胞を提供する。
【0042】
第十二の態様において、本発明は、インビトロで本発明の第四の態様にしたがう細胞を刺激するための方法を提供し、これは、細胞を、本発明の第十一の態様にしたがうGD2発現細胞と接触させる工程を含む。
【0043】
第十三の態様において、本発明は、足場付着領域(SAR)を含む、CARを発現する発現カセットを提供する。
【0044】
発現カセットは、本発明の第一の態様にしたがうCARを発現し得る。
本発明の実施形態において、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
ジシアロガングリオシド(GD2)結合ドメインを含むキメラ抗原受容体(CAR)であって、
a)以下の配列:
CDR1−SYNIH(配列番号1)、
CDR2−VIWAGGSTNYNSALMS(配列番号2)、
CDR3−RSDDYSWFAY(配列番号3)
を有する相補性決定領域(CDR)を有する重鎖可変領域(VH)、および
b)以下の配列:
CDR1−RASSSVSSSYLH(配列番号4)、
CDR2−STSNLAS(配列番号5)、
CDR3−QQYSGYPIT(配列番号6)
を有するCDRを有する軽鎖可変領域(VL)
を含む、キメラ抗原受容体(CAR)。
(項目2)
前記GD2結合ドメインが、配列番号9もしくは配列番号10として示される配列を有するVHドメイン、または配列番号11もしくは配列番号12として示される配列を有するVLドメイン、または少なくとも90%の配列同一性を有するそれらのバリアントであって、i)GD2に結合する能力、およびii)T細胞シグナリングを誘導する能力を保持するバリアントを含む、項目1に記載のCAR。
(項目3)
前記GD2結合ドメインが、配列番号7もしくは配列番号8として示される配列、または少なくとも90%の配列同一性を有するそれらのバリアントであって、i)GD2に結合する能力、およびii)T細胞シグナリングを誘導する能力を保持するバリアントを含む、項目1に記載のCAR。
(項目4)
配列番号13として示される配列または少なくとも80%の配列同一性を有するそのバリアントを含む膜貫通ドメインを含む、前述の項目のいずれかに記載のCAR。
(項目5)
GD2結合ドメインおよび前記膜貫通ドメインが、スペーサーによって連結されている、前述の項目のいずれかに記載のCAR。
(項目6)
前記スペーサーが、以下:ヒトIgG1 Fcドメイン、IgG1ヒンジ、IgG1ヒンジ−CD8ストークまたはCD8ストークの1つを含む、項目4に記載のCAR。
(項目7)
前記スペーサーが、IgG1ヒンジ−CD8ストークまたはCD8ストークを含む、項目6に記載のCAR。
(項目8)
前記スペーサーが、IgG1 Fcドメインまたはそのバリアントを含む、項目6に記載のCAR。
(項目9)
前記スペーサーが、配列番号23もしくは配列番号24として示される配列、または少なくとも80%の配列同一性を有するそれらのバリアントを含むIgG1 Fcドメインを含む、項目8に記載のCAR。
(項目10)
細胞内T細胞シグナリングドメインも含む、前述の項目のいずれかに記載のCAR。
(項目11)
前記細胞内T細胞シグナリングドメインが、以下のエンドドメイン:CD28エンドドメイン、OX40およびCD3ゼータエンドドメインの1つまたはそれより多くを含む、項目10に記載のCAR。
(項目12)
前記細胞内T細胞シグナリングドメインが、以下のエンドドメイン:CD28エンドドメイン、OX40およびCD3ゼータエンドドメインの全てを含む、項目11に記載のCAR。
(項目13)
配列番号26〜35のいずれかとして示される配列、または少なくとも80%の配列同一性を有するが、i)GD2に結合する能力、およびii)T細胞シグナリングを誘導する能力を保持するそれらのバリアントを含む、前述の項目のいずれかに記載のCAR。
(項目14)
前述の項目のいずれかに記載のCARをコードする核酸配列。
(項目15)
コドン最適化された、項目14に記載の核酸配列。
(項目16)
配列番号25として示される配列または少なくとも90%の配列同一性を有するそのバリアントを含む、項目14または15に記載の核酸配列。
(項目17)
自殺遺伝子もコードする、項目14〜16のいずれかに記載の核酸。
(項目18)
項目14〜17のいずれかに記載の核酸配列を含む、ベクター。
(項目19)
項目1〜13のいずれかに記載のCARを発現する、T細胞。
(項目20)
項目1〜13のいずれかに記載のCARと自殺遺伝子とを共発現する、T細胞。
(項目21)
前記自殺遺伝子が、iCasp9またはRQR8である、項目20に記載のT細胞。
(項目22)
項目19〜21のいずれかに記載のT細胞を作製するための方法であって、T細胞に、項目14〜17のいずれかに記載の核酸を導入する工程を含む、方法。
(項目23)
項目19〜21のいずれかに記載のT細胞と、薬学的に許容できるキャリア、希釈剤または賦形剤とを一緒に含む、薬学的組成物。
(項目24)
がんを処置するための方法であって、被験体に、項目19〜21のいずれかに記載のT細胞を投与する工程を含む、方法。
(項目25)
前記がんは、神経芽腫である、項目24に記載の方法。
(項目26)
がんの処置における使用のための、項目19〜21のいずれかに記載のT細胞。
(項目27)
がんを処置するための医薬品の製造における、項目19〜21のいずれかに記載のT細胞の使用。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1】キメラ抗原受容体(CAR)デザイン。 (a)CARの一般化された構造:結合ドメインが抗原を認識し、スペーサーが、細胞表面から結合ドメインを持ち上げ、膜貫通ドメインが、タンパク質を膜へと固定し、エンドドメインがシグナルを伝達する。(b)〜(d):CARエンドドメインの異なる世代および置換:(b)最初のデザインは、FcεR1−γまたはCD3エンドドメインを通じてITAMシグナルのみを伝達したが、一方で後のデザインは、追加の(c)1つまたは(d)2つの共刺激性シグナルをシスで伝達した。
【
図2】構築された抗GD2 CARのバリアント (a)ヒトIgG1スペーサーおよびCD28−OX40−ゼータエンドドメインと共に、scFvとしてマウスKM666抗体を使用する抗GD2 CAR、(b)(a)と同じ構成においてNakamuraのヒト化抗体huKM666を使用する抗GD2 CAR、(c)Fcドメインが、Fc受容体認識モチーフを除去するように改変されることを除き、(b)と同じ構成、(d)スペーサーが、IgG1ヒンジ−CD8ストークであることを除き、(c)と同じ構成、(e)スペーサーが、CD8ストークのみであることを除き、(c)と同じ、(f)スペーサーが、IgG1ヒンジのみであることを除き、(c)と同じ。
【
図3】muKM666に基づくCARとhuKM666に基づくCARとの比較。 (a)3種の正常ドナー由来の末梢血T細胞における発現、(b)ヒストグラムとして示される、これらのfacsプロットの平均蛍光強度、(c)A204(GD2陰性)標的およびLAN−1(GD2陽性)標的に対して、形質導入していないT細胞、muKM666を形質導入したT細胞およびhuKM666を形質導入したT細胞をエフェクターとして使用した、クロム放出アッセイ、(d)同じ負荷からのIL−2産生、(e)同じ負荷からのインターフェロンガンマ産生、ならびに(f)同じ負荷からの増殖倍率。
【
図4】(a)CARとのCD34マーカー遺伝子の1:1共発現を可能にするレトロウイルスコンストラクト、(b)CD34マーカー遺伝子に対するCAR発現(HAタグ)のフローサイトメトリー解析、(c)GD2陽性標的(LAN−1)およびGD2陰性標的(A204)に対する、形質導入していないT細胞および3種の異なるCARバリアントを形質導入したT細胞のクロム放出アッセイ、同じ標的およびエフェクターの(d)インターフェロンガンマ放出、(e)IL−2放出、ならびに(f)増殖。
【
図5】Fcスペーサー内へのFcR結合妨害(distrupting)変異の導入 (a)導入された変異、(b)抗Fc染色によって決定した場合のCAR(形質導入していない、wtおよび変異させた)の発現、(c)形質導入していない抗GD2 CAR T細胞、wt Fc 抗GD2 CAR T細胞および変異させたFc 抗GD2 CAR T細胞のいずれかを用いたGD2陰性標的およびGD2陽性標的の殺傷、(d)FcR発現細胞株THP−1を用いた形質導入していない抗GD2 T細胞、wt Fc 抗GD2 T細胞および変異させたFc 抗GD2 T細胞の活性化、形質導入していないCAR T細胞、wt Fc CAR T細胞および変異させたFc CAR T細胞に対する応答における、THP−1細胞株によるIL−1ベータ放出。
【
図6】発現カセットの最適化 (a)カセット:SARまたはCHS4に導入されたマップ最適化、(b)wtまたはコドン最適化したオープンリーディングフレームのいずれかを用いた異なる改変を有するCARの代表的な発現。SARコンストラクトは、所望の急なピークの発現をもたらす。(c)この3種の正常ドナーからのFACSデータの棒グラフ表示。
【
図7】異なるエンドドメインの比較 3種の異なるキメラ抗原受容体を比較した。受容体はすべて、huK666 scFv、FcR結合を低減させるために変異させたIgG1のFcドメインおよびCD28膜貫通ドメインから構成される。CAR「28tmZ」は、CD3ゼータエンドドメインを有し、「28Z」は、混成CD28−CD3ゼータエンドドメインを有し、「28OXZ」は、CD28、OX40およびCD3ゼータから構成される混成エンドドメインを有し、正常ドナー由来の末梢血T細胞に、これらのコンストラクトを同等の力価のレトロウイルスベクターを用いて形質導入した。これらの異なるT細胞株を、対照としての導入していないT細胞と一緒に比較した。T細胞に、A204細胞(GD2陰性である横紋筋肉腫細胞株)およびLAN−1細胞(GD2陽性である神経芽腫細胞株)を負荷した。増殖およびサイトカイン放出は、受容体活性が、28tmZ<28Z<28OXZであることを示す。
【
図8】iCasp9自殺遺伝子との共発現 (a)FMD−2A配列を使用した、iCasp9の抗GD2CARとの共発現、(b)単独およびCIDを用いた処理後の、NT T細胞、GD2CARを形質導入したT細胞およびiCasp9−2A−GD2CAR T細胞における、CAR発現、(c)CIDを用いた処理を行ったまたは行っていない、形質導入していないT細胞、GD2CARを形質導入したT細胞およびiCasp9−2A−GD2CARを形質導入したT細胞を用いたGD2陽性(LAN−1)標的および陰性(A204)標的の殺傷。5種の正常ドナーT細胞の平均。
【
図9】RQR8自殺遺伝子との共発現 (a)CARhuK666Fcを、レトロウイルスベクターにおいてRQR8自殺分類遺伝子と共発現させた。(b)T細胞に、このレトロウイルスベクターを用いて形質導入し、CARとRQR8との共発現を、ポリクローナル抗Fcおよびモノクローナル抗体QBend10を用いた形質導入T細胞の染色によって決定した。(c)これらのT細胞由来のCAR陽性の集団は、リツキシマブおよび補体の存在下で枯渇させることができた。(d)リツキシマブを用いて枯渇させたT細胞は、もはやGD2を発現する標的を認識しなかった。
【
図10】(a)GM3シンターゼおよびGD2シンターゼを発現するバイシストロニックベクター。(b)このベクターを用いて形質導入したSupT1細胞は、GD2陽性となる(形質導入されていない空のプロット、形質導入された灰色のプロット)。
【
図11】以下のコホート中のマウスにおける個々の腫瘍の成長曲線:左上:抗GD2 CAR脾細胞を受容している、GD2を発現するCT26腫瘍を有するマウス、右上:模倣物を形質導入された脾細胞を受容している、GD2を発現するCT26腫瘍を有するマウス、左下:抗GD2 CAR脾細胞を有するGD2陰性(wt)CT26腫瘍、右下:および脾細胞を受容していないGD2を発現するCT26腫瘍。
【
図12A】アミノ酸配列A.
図2において(a)として示される抗GD2 CAR(muKM666−HCH2CH3−CD28OXZ−配列番号26)B.
図2において(b)として示される抗GD2 CAR(huKM666−HCH2CH3−CD28OXZ−配列番号27)C.
図2において(c)として示される抗GD2 CAR(huKM666−HCH2CH3pvaa−CD28OXZ−配列番号28)D.
図2において(d)として示される抗GD2 CAR(huKM666−HSTK−CD28OXZ−配列番号29)E.
図2において(e)として示される抗GD2 CAR(huKM666−STK−CD28XOXZ−配列番号30)F.
図2において(f)として示される抗GD2 CAR(huKM666−HNG−CD28OXZ−配列番号31)G.
図2(c)において示されるような抗GD2 CARであるが、第一世代のエンドドメインを有する(huKM666−HCH2CH3pvaa−CD28tmZ−配列番号32)H.
図2(c)において示されるような抗GD2 CARであるが、第二世代のエンドドメインを有する(huMK666−HCH2CH3pvaa−CD28Z−配列番号33)I.iCasp9自殺遺伝子とともに共発現させた抗GD2 CAR−配列番号34J.RQR8自殺遺伝子とともに共発現させた抗GD2 CAR−配列番号35
【
図14】huK666 CARと14g2a CARとの比較。 (a)試験したコンストラクトのマップ:2種のコンストラクトを、初代T細胞において試験した。両方は、FMD−2A様配列とともに共発現させた、RQR8および第二世代GD2 CARをコードするレトロウイルスベクターである。コンストラクト間の唯一の差異は、一方においてscFvがhuK666であり、他方において、これが14g2aである点である。これらのコンストラクトを用いて形質導入したT細胞に、A204(GD2陰性の横紋筋肉腫細胞株)およびLAN−1(GD2陽性の細胞株)のいずれかを1:1で負荷した。(b)24時間時点で、インターフェロンガンマを上清から測定した。huK666 CAR T細胞は、より多くのIF−Gを産生する。(c)1週間後、T細胞を計数する、huK666は、より多くの増殖を示す。
【
図15】huK666または14g2aに基づく第二世代のCARと神経芽腫細胞株LAN1との間の共培養のフローサイトメトリー解析。 (a)実験のセットアップ。1週間の共培養後、細胞を採取し、フローサイトメトリーによって解析した。CD45発現は、CD45−細胞がLAN−1細胞であると、リンパ系細胞および非リンパ系細胞からの区別を可能にした。CD3/QBEND/10を用いた更なる染色は、CAR T細胞の計数を可能にした。(b)T細胞単独、(c)NT T細胞およびLAN−1細胞、(d)huK666−28−Z CAR T細胞およびLAN−1細胞、(e)14g2a−28−Z CAR T細胞およびLAN−1細胞。LAN−1細胞の残存物が、14g2a CAR T細胞共培養において見られる。
【発明を実施するための形態】
【0046】
詳細な説明
キメラ抗原受容体(CAR)
キメラ抗原受容体(CAR)(キメラT細胞受容体、人工T細胞受容体、およびキメラ免疫受容体としても公知)は、免疫エフェクター細胞上に任意の特異性を移植する、改変された受容体である。古典的なCARにおいて、モノクローナル抗体の特異性は、T細胞上に移植される。CARをコードする核酸配列は、例えばレトロウイルスベクターを使用して、T細胞に転移され得る。このようにして、多数のがん特異的T細胞は、養子細胞移入のために生成させることができる。このアプローチのフェーズI臨床試験は、効果を示す。
【0047】
CARの標的抗原結合ドメインは、一般的にスペーサーおよび膜貫通ドメインを介してシグナリングエンドドメインに融合される。CARが標的抗原に結合するとき、これは標的抗原が発現されるT細胞へ活性化シグナルの伝達をもたらす。
【0048】
本発明のCARは、KM666モノクローナル抗体(Nakamura et al(2001)Cancer Immunol.Immunother.50:275−284)に基づくGD2結合ドメインを含む。
【0049】
本発明のCARは、
a)以下の配列:
CDR1−SYNIH(配列番号1)、
CDR2−VIWAGGSTNYNSALMS(配列番号2)、
CDR3−RSDDYSWFAY(配列番号3)
を有する相補性決定領域(CDR)を有する重鎖可変領域(VH)、および
b)以下の配列:
CDR1−RASSSVSSSYLH(配列番号4)、
CDR2−STSNLAS(配列番号5)、
CDR3−QQYSGYPIT(配列番号6)
を有するCDRを有する軽鎖可変領域(VL)を含む、GD2結合ドメインを含む。
【0050】
GD2結合活性に負の影響を及ぼさずに、このCARまたは各CARに1つまたはそれより多くの変異(置換、付加または欠失)を導入することが、可能であり得る。各CARは、例えば、1つ、2つまたは3つのアミノ酸変異を有し得る。
【0051】
本発明のCARは、以下のアミノ酸配列の1つを含み得る。
【化1】
【0052】
本発明のCARは、以下のVH配列の1つを含み得る。
【化2】
【0053】
本発明のCARは、以下のVL配列の1つを含み得る。
【化3】
【0054】
本発明のCARは、配列番号7、8、9、10、11または12として示される配列の、少なくとも80、85、90、95、98または99%の配列同一性を有するバリアントを含み得、ただし、このバリアント配列は、GD2に結合する能力を保持する(適切な場合、相補的VLまたはVHドメインと結合しているとき)。
【0055】
2つのポリペプチド配列間の同一性パーセンテージは、http://blast.ncbi.nlm.nih.gov.において自由に入手できるBLASTなどのプログラムによって容易に決定され得る。
【0056】
膜貫通ドメイン
本発明のcarは、膜に跨がる(span)膜貫通ドメインも含み得る。これは、疎水性アルファヘリックスを含み得る。膜貫通ドメインは、良好な受容体安定性をもたらす、CD28に由来し得る。
【0057】
膜貫通ドメインは、配列番号13として示される配列を含み得る。
配列番号13
FWVLVVVGGVLACYSLLVTVAFIIFWV
【0058】
細胞内T細胞シグナリングドメイン(エンドドメイン)
エンドドメインは、CARのシグナル伝達部である。抗原認識の後に、受容体は集合し、そしてシグナルは細胞へ伝達される。最も一般的に使用されるエンドドメイン構成要素は、3つのITAMを含むCD3ゼータのエンドドメイン構成要素である。これは、抗原が結合した後に、T細胞に活性化シグナルを伝達する。CD3ゼータは、完全に反応力を有する活性化シグナルを提供しないことがあり、そして追加の共刺激性シグナリングが必要となり得る。例えば、キメラのCD28およびOX40は、増殖/生存シグナルを伝達するために、CD3ゼータと使用することができ、または3つ全てを一緒に使用することができる。
【0059】
本発明のCARのエンドドメインは、CD28エンドドメインおよびOX40およびCD3ゼータエンドドメインを含み得る。
【0060】
本発明のCARの膜貫通および細胞内T細胞シグナリングドメイン(エンドドメイン)は、配列番号14、15、16、17または18として示される配列、または少なくとも80%の配列同一性を有するそれらのバリアントを含み得る。
【化4】
【0061】
バリアント配列は、その配列が効果的な膜貫通ドメイン/細胞内T細胞シグナリングドメインを提供する限り、配列番号13、14、15、16、17または18に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有し得る。
【0062】
シグナルペプチド
本発明のCARは、CARがT細胞などの細胞の中で発現されたときに、新生タンパク質が小胞体へと、そしてそれに続きそれが発現される細胞表面へと指向されるように、シグナルペプチドを含み得る。
【0063】
シグナルペプチドのコアは、単一のアルファヘリックスを形成する傾向を有する、疎水性アミノ酸の長いストレッチを含み得る。シグナルペプチドは、移行の間にポリペプチドの適切なトポロジーに強制することを補助する、アミノ酸の短い正に荷電されたストレッチより開始し得る。シグナルペプチドの端部には、典型的にシグナルペプチダーゼによって認識され、かつ切断されるアミノ酸のストレッチがある。シグナルペプチダーゼは、移行間または完了の後のいずれかに切断し、遊離シグナルペプチドおよび成熟タンパク質を生成し得る。次いで遊離シグナルペプチドは、特異的なプロテアーゼによって消化される。
【0064】
シグナルペプチドは、分子のアミノ末端にあり得る。
【0065】
本発明のCARは、以下の一般式を有し得る:
シグナルペプチド−GD2結合ドメイン−スペーサードメイン−膜貫通ドメイン−細胞内T細胞シグナリングドメイン。
【0066】
シグナルペプチドは、配列番号19を含み得るか、またはシグナルペプチドが、依然としてCARの細胞表面発現を引き起こすように機能する限り、5つ、4つ、3つ、2つもしくは1つのアミノ酸変異(挿入、置換、または付加)を有するそれらのバリアントを含み得る。
配列番号19:METDTLLLWVLLLWVPGSTG
【0067】
配列番号19のシグナルペプチドは、コンパクトでありかつ高度に効果的である。それは、末端グリシンの後ろで約95%の切断をもたらすことが予測され、これは、シグナルペプチダーゼによる効果的な除去を生じさせる。
【0068】
スペーサー
本発明のCARは、GD2結合ドメインと膜貫通ドメインとを連結させ、かつGD2結合ドメインをエンドドメインから空間的に離すための、スペーサー配列を含み得る。柔軟なスペーサーは、GD2結合を可能にするために、GD2結合ドメインを異なる角度に配向させる。
【0069】
スペーサー配列は、例えば、IgG1 Fc領域、IgG1ヒンジもしくはCD8ストークまたはそれらの組み合わせを含み得る。スペーサーは、代替的にIgG1 Fc領域、IgG1ヒンジまたはCD8ストークと同様の長さおよび/またはドメイン配置特性を有する代替的な配列を含み得る。
【0070】
ヒトIgG1スペーサーは、Fc結合モチーフを除去するように変化され得る。
【0071】
これらのスペーサーについてのアミノ酸配列の例は、下記に挙げられる。
【化5】
【0072】
改変された残基は、下線が引かれており、
*は欠失を意味する。
【0073】
GD2
GD2は、ヒト神経芽腫およびメラノーマを含む神経外胚葉起源の腫瘍において発現するジシアロガングリオシドであり、ヒトにおける正常な組織においては、主として小脳および末梢神経に高度に限定された発現を有する。
【0074】
比較的腫瘍特異的なGD2の発現は、GD2を免疫療法のための適切な標的にする。
【0075】
核酸配列
本発明の第二の態様は、本発明の第一の態様のCARをコードする核酸配列に関する。
【0076】
核酸配列は、配列番号26〜35のいずれかとして示されるアミノ酸配列を有するCARをコードすることが可能であり得る。
【0077】
核酸配列は、以下の配列であり得るか、またはそれを含み得る。
【化6A】
【化6B】
【化6C】
【化6D】
【化6E】
【0078】
核酸配列は、配列番号25によってコードされるアミノ酸配列と同じアミノ酸配列をコードし得るが、遺伝暗号の縮重に起因して、異なる核酸配列を有し得る。核酸配列は、本発明の第一の態様で定義されるCARをコードする限り、配列番号25として示される配列に対して、少なくとも80、85、90、95、98または99%の同一性を有し得る。
【0079】
自殺遺伝子
T細胞は生着しかつ自律的であるため、抗GD2 CAR T細胞のレシピエントにおいて選択的にCAR T細胞を消去する手段が望まれる。自殺遺伝子は、許容可能でない毒性に直面すると、注入されたT細胞の選択的な破壊をもたらす、遺伝学的にコード可能なメカニズムである。自殺遺伝子を用いた最も早期の臨床経験は、T細胞をガンシクロビルに対して感受性にさせるヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV−TK)を用いるものである。HSV−TKは、高度に効果的な自殺遺伝子である。しかしながら、事前に形成された免疫応答は、その使用をハプロ同一幹細胞移植などの考慮すべき免疫抑制の臨床的セッティングに限定し得る。誘導性カスパーゼ9(iCasp9)は、カスパーゼ9の活性化ドメインを改変されたFKBP12で置換することによって構築された自殺遺伝子である。iCasp9は、それ以外には不活性の小分子二量体化化学誘導剤(CID)によって活性化される。iCasp9は、ハプロ同一HSCTのセッティングにおいて最近試験されており、GvHDを抑えることができる。iCasp9の最も大きな制約は、臨床グレード専売のCIDの入手可能性に依存することである。iCasp9とHSV−TKとの両方は、細胞内タンパク質であり、そのため、単独の導入遺伝子として使用される場合、これらはマーカー遺伝子とともに共発現し、形質導入された細胞の選択を可能にする。
【0080】
iCasp9は、配列番号36として示される配列、または少なくとも80、90、95もしくは98%の配列同一性を有するそのバリアントを含み得る。
【化7】
【0081】
本発明者らは、RQR8として公知である新規のマーカー/自殺遺伝子について最近記載し、これは、抗体QBEnd10を用いて検出することができ、かつ発現している細胞は、治療用抗体リツキシマブを用いて溶解させることができる。
【0082】
RQR8は、配列番号37として示される配列、または少なくとも80、90、95もしくは98%の配列同一性を有するそのバリアントを含み得る。
【化8】
【0083】
自殺遺伝子は、例えば、2つの配列間に自己切断ペプチドを使用することによって、CARとともに単一のポリペプチドとして発現され得る。
【0084】
ベクター
本発明は、本発明にしたがう核酸配列を含むベクターも提供する。このようなベクターは、本発明の第一の態様にしたがう分子を発現し、かつ産生するよう、宿主細胞に核酸配列を導入するために使用され得る。
【0085】
ベクターは、例えばプラスミドまたはレトロウイルスベクターもしくはレンチウイルスベクターなどのウイルスベクターであり得る。
【0086】
ベクターは、T細胞にトランスフェクションまたは形質導入する能力を有し得る。
【0087】
ベクターは、iCasp9またはRQR8などの自殺遺伝子をコードする核酸配列も含み得る。
【0088】
宿主細胞
本発明は、本発明にしたがう核酸を含む宿主細胞も提供する。宿主細胞は、本発明の第一の態様にしたがうCARを発現する能力を有し得る。
【0089】
宿主細胞は、ヒトT細胞またはナチュラルキラー(NK)細胞などの細胞溶解性免疫細胞であり得る。
【0090】
本発明にしたがうCARを発現する能力を有するT細胞は、T細胞にCARをコードする核酸を形質導入またはトランスフェクションすることにより作製され得る。
【0091】
CAR T細胞は、エキソビボで生成され得る。T細胞は、患者またはドナー由来の末梢血単核細胞(PBMC)サンプル由来であり得る。T細胞は、例えば抗CD3モノクローナル抗体を用いた処理によって、CARをコードする核酸を形質導入される前に活性化、および/または増加され得る。
【0092】
薬学的組成物
本発明は、本発明のベクターまたはCAR発現T細胞を、薬学的に許容されるキャリア、希釈液、もしくは賦形剤、および任意に1つまたはそれより多くの更に薬学的に有効なポリペプチド、および/もしくは化合物を一緒に含む薬学的組成物にも関する。このような製剤は、例えば、静脈注入に適した形態であり得る。
【0093】
処置の方法
本発明のCAR分子を発現するT細胞は、神経芽腫(neurobastoma)細胞などのがん細胞を殺傷する能力を有する。CARを発現するT細胞は、患者自身の末梢血由来(第一当事者)、またはドナー末梢血からの造血幹細胞移植の状態において(第二当事者)、またはつながりのないドナーからの末梢血(第三当事者)のいずれかの由来から、エキソビボで創出され得る。代替的に、CAR T細胞は、誘導性前駆細胞または胚性前駆細胞のT細胞へのエキソビボ分化に由来し得る。これらの例として、CAR T細胞は、ウイルスベクターを用いた形質導入、DNAもしくはRNAを用いたトランスフェクションを含む多くの手段の1つにより、CARをコードするDNAまたはRNAを導入することによって生成される。
【0094】
本発明のCAR分子を発現するT細胞は、がん性の疾患(特に、GD2発現に関連したがん性の疾患)の処置のために使用され得る。
【0096】
上昇したGD2発現レベルに相関するがんの例は、神経芽腫、メラノーマ、髄芽腫、軟部組織肉腫、骨肉腫およびNSCLCなどの小細胞肺がんである。
【0097】
疾患の処置のための方法は、本発明のベクターまたはT細胞の治療上の使用に関係する。この点で、ベクターまたはT細胞は疾患に付随する少なくとも1つの症状を小さくする、減少する、もしくは改善する、および/または疾患の進行を遅延する、減少する、もしくは阻止するために、既存の疾患または状態を有する被験体に投与され得る。本発明の方法は、がん細胞などのGD2発現細胞のT細胞媒介性の殺傷を引き起こすか、または促進し得る。
【0098】
GD2発現細胞
本発明は、細胞にGM3シンターゼをコードする核酸およびGD2シンターゼをコードする核酸を導入する工程を含む、GD2発現細胞を作製するための方法も提供する。
【0099】
核酸は、プラスミドまたはウイルスベクターなどのベクターを使用して、例えば、トランスフェクションまたは形質導入によって導入され得る。
【0100】
本発明は、GM3シンターゼをコードする異種の核酸およびGD2シンターゼをコードする異種の核酸を含む、GD2発現細胞にも関する。
【0101】
この核酸は、細胞内に通常存在しないという意味で、「異種」であり得る。これは、人工的に導入されたリコンビナントの核酸配列である。
【0103】
細胞は、培養において、本発明のT細胞などのGD2CAR T細胞を刺激するために使用され得る。
【0104】
ここで本発明がさらに実施例によって記載されるが、これは本発明の実施において当業者を支援することに役立つことを意図しており、本発明の範囲を制限することを何ら意図しない。
【実施例】
【0105】
実施例1 バインダーとしてのヒト化抗体huK666の使用
CARを、Nakamuraら(2001−上記と同様)によって記載されたようなマウス抗体KM666またはそのヒト化型のhuK666のいずれか(
図2上部においてバリアント(a)および(b))由来の配列を使用し、scFvを用いて構築した。これらの受容体を発現/安定性について比較し、両方の受容体について同等であることを見出した。次に、これらの受容体を用いて形質導入したT細胞の、GD2を発現しないまたはGD2を発現するいずれかの標的細胞によって負荷したときの殺傷、サイトカイン放出および増殖を試験した。両方の受容体の殺傷は同様であったが、ヒト化scFvに基づく受容体は、優れたIL2産生および増殖をもたらすことが結論付けられた(
図3)。
【0106】
実施例2 発現および機能における異なるスペーサー構成効果の効果を試験
Fcスペーサー、ヒンジ、ヒンジ−CD8ストークおよびCd8ストークを有する抗GD2 CARを生成した(それぞれ
図2(b)、(d)、(e)および(f))。これらのCARを、正確な比較を可能にするために、2A口蹄疫自己切断ペプチドを用いて、絶対的な1:1様式でマーカー遺伝子、短縮型CD34とともに共発現させた(
図4a)。さらに、CARに対する導入遺伝子発現の比較を可能にするために、huK666 scFvに、アミノ末端HAタグを用いてタグ付与した。
【0107】
これらのコンストラクトを用いて形質導入した正常ドナーT細胞のフローサイトメトリー解析は、以下の順序:Fc>ヒンジ−ストーク=ストーク>ヒンジでより明瞭なCAR発現を実証した(
図4b)。
【0108】
GD2陰性標的と比較したGD2陽性標的の殺傷を、クロム放出アッセイを使用して比較した。これは、殺傷の有効性が、以下の順序:Fc>ヒンジ−ストーク=ストーク>ヒンジにあることを示した(
図4c)。
【0109】
CAR T細胞をGD2陽性標的または陰性標的のいずれかを負荷したときのインターフェロンガンマ放出およびIL−2放出を比較した。インターフェロンガンマ放出は、Fc、ヒンジ−ストークおよびストークを有するCARにおいて同様であったが、ヒンジバリアントにおいて少量であった。IL2放出は、以下の順序:Fc、ストーク、ヒンジ−ストーク、ヒンジで検出された(
図4dおよびe)。
【0110】
最後に、CAR T細胞をGD2陽性標的または陰性標的のいずれかを負荷したときのCAR T細胞の増殖を比較した。増殖は、以下の順序:ストーク、ヒンジ−ストーク、Fc、ヒンジで検出された(
図4dおよびe)。
【0111】
実施例3 FcR変異は、非特異的活性を廃する
上記の実施例からの全般的なデータは、Fcスペーサーが全般的に最も良好に機能することを示唆した。しかしながら、Fcドメインは、インビボで、Fc受容体を発現する細胞からの非特異的な活性化を導き得る。この効果を廃するために、
図5(a)に示されるように、変異をFc領域に導入した。これらの変異は、
図5(b)に示されるように、CAR発現において有害な影響を有しなかった。
【0112】
加えて、これらの変異は、CARの殺傷機能における影響を有しないことが示された(
図5(c))。最後に、これらの変異は、FcR発現標的(THP1とよばれる単球様株)の非特異的な殺傷およびこれらの単球によるIL−1ベータ放出の面において、所望の効果を有することが示された(
図5e)。
【0113】
実施例4 発現カセットの最適化
受容体の発現を最適化する観点で、以下:(a)カセット内への足場付着領域(SAR)の包含、(b)3’LTR内へのニワトリベータヘモグロビンクロマチンインスレーター(CHS4)の包含、および(c)オープンリーディングフレームのコドン最適化を試験した(
図6a)。SARの包含は、コドン最適化したものと同様に発現の性質を改善したが、一方でCHS4は、ほとんど効果を有しないことが示された(
図6b)。SARとコドン最適化との組み合わせは、発現を追加的に改善した(
図6c)。
【0114】
実施例5 異なるエンドドメインの比較
3種の異なるエンドドメインを有するコンストラクトを生成した:Fcスペーサー構成におけるCARでの、CD3ゼータエンドドメインを伴うCD28膜貫通ドメイン(CD28tmZ)、CD28エンドドメインおよびCD3ゼータエンドドメインを伴うCD28膜貫通ドメイン(CD28Z)、ならびにCD28膜貫通ドメイン、CD28エンドドメイン、OX30エンドドメインおよびCD3ゼータエンドドメイン(CD28OXZ)。増殖、IFNγ放出およびIL−2放出は、CD28tmZ<CD28Z<CD28OXZの順序で増大することを特筆する(
図7)。
【0115】
実施例6 iCasp9自殺遺伝子との共発現
iCasp9自殺遺伝子を、抗GD2 CARとともに共発現させた(
図8a−CARは、機能を実証するために任意に選択されたFcスペーサー、CD28OXZの構成であった)。CARは、iCasp9との共発現にも拘らず、良好に発現させることができた(
図8b)。小分子二量体化剤を用いたiCasp9の活性化は、CAR陽性T細胞の消去を導いた(
図8b)。この二量体化剤に曝露したiCasp9−GD2CAR T細胞は、二量体化剤に曝露したときに、これらのGD2特異性を失った(
図8c)。
【0116】
実施例7 RQR8自殺遺伝子との共発現
抗GD2 CARを、RQR8自殺分類遺伝子とともに共発現させた(
図9a−CARは、機能を実証するために任意に選択されたFcスペーサー、CD28Zの構成であった)。受容体とCARとを共発現させることが可能であった(
図9b)。リツキシマブおよび補体を用いたRQR8の自殺遺伝子機能の活性化は、形質導入されたT細胞の消去およびGD2認識の消失をもたらした(
図9cおよびd)。
【0117】
実施例8 GD2シンターゼおよびGM3シンターゼの発現は、任意の細胞株におけるGD2発現をもたらす
培養においてGD2CAR T細胞を刺激し、理想的なGD2−またはGD2+標的を得て、小動物モデルのためのシンジェニックな細胞を生成することを可能にするために、細胞株においてトランスジェニックにGD2を発現させることのできることが望ましい。GD2は、1つのタンパク質ではなく、酵素の複雑な組によって合成されることを必要とする。ここで、ちょうど2種の酵素:GM3シンターゼおよびGD2シンターゼのトランスジェニック発現発現は、これまでに形質導入した全ての細胞株において、明瞭なGD2発現をもたらすことが示されている(
図10)。
【0118】
実施例9 抗GD2 CARのインビボ機能
CT26細胞株を、上記に記載されるように、GD2を発現するように改変した(短縮のために、CT26クローン#7またはCT25#7で示される)。2×10
5の野生型(wt)またはGD2陽性のいずれかのCD26細胞を、C57BL/6マウス(CT26とシンジェニック)のわき腹に接種した。腫瘍負荷の10日後、模造物を形質導入したシンジェニック脾細胞および抗GD2 CARを形質導入したシンジェニック脾細胞を調製した。マウスを以下の4種のコホート:抗GD2 CAR脾細胞を受容した、GD2を発現するCT26腫瘍を有するマウス、模造品を形質導入した脾細胞を受容した、GD2を発現するCT26腫瘍を有するマウス、抗GD2 CAR脾細胞を有する、GD2陰性(wt)CT26腫瘍を有するマウス、および脾細胞を受容していない、GD2を発現するCT26腫瘍を有するマウス、に分けた。腫瘍を、デジタルノギスを使用して三次元で測定し、それを用いて体積を推定した。
図11は、腫瘍の成長曲線を示す。抗GD2 CAR T細胞を受容したマウスにおけるGD2陽性の腫瘍のみが、ほとんどまたは全く成長しなかった。
【0119】
実施例10 huK666および14g2aに基づく抗原結合ドメインを含むCARの機能を比較
CARの抗原結合ドメインは、その機能に影響し得る。本研究において、CARとともにhuK666に基づく抗原結合ドメインを有する本発明のCARの機能を、14g2aに基づく抗原結合ドメインを有する同等のCARと比較した。
【0120】
抗体14g2aは、治療用mAbとして使用され、CAR研究において試験された唯一のscFvであるため、GD2に対する価値の基準の抗体として理解され得る。
【0121】
第二世代のCARは、huK666または14g2aに基づいて構築し、発現させた。これらの構造は、
図14aに示される。
【0122】
レトロウイルスを、GD2 CAR、gag/polおよびエンベロープタンパク質RD114をコードするプラスミドを用いた293T細胞の一過性トランスフェクションによって産生した。3日後、上清を採取し、レトロネクチンコートされたプレート上で等しい力価のレトロウイルスを用いてPHA/IL−2活性化PBMCに形質導入するために使用した。CARは、これらの抗原結合ドメインにおいてのみ異なった。両方の場合において、結合ドメインは、IgG Fcセグメントを用いて膜に結合され、CD28およびCD3ゼータ由来の細胞内活性化モチーフを含有した。形質導入6日後に、CAR発現をフローサイトメトリーによって確認し、PBMCをGD2陽性Lan1細胞(GD2陽性細胞株)またはGD2陰性A204細胞(GD2陰性横紋筋肉腫細胞株)とともに1:1の比率で培養した。1日後、これらの共培養物由来の上清を、ELISAによってインターフェロンγレベルについてアッセイし、6日後に、T細胞増殖をフローサイトメトリーによって評価した。
【0123】
この結果は、
図14および15に示される。24時間時点において、インターフェロンガンマを上清から測定した。huK666 CAR T細胞は、より多くのIFN−γを産生することが示された(
図14b)。1週間後、T細胞を計数し、そしてhuK666 CARは、より高い増殖を有することが示された(
図14c)。
【0124】
神経芽腫細胞株LAN1との共培養の1週間後、細胞を採取し、フローサイトメトリーによって解析した。CD45発現は、CD45−細胞がLAN−1細胞であると、リンパ系細胞および非リンパ系細胞からの区別を可能にした。CD3/QBEND/10を用いた更なる染色は、CAR T細胞の計数を可能にした。huK666 CAR T細胞は、14g2a等価物よりも良好に増殖し、かつより完全に殺傷することが見出された(
図15)。
【0125】
上記の明細書の中で言及されている全ての刊行物は、本明細書中に参照により援用される。記載された方法の種々の改変および変化、ならびに本発明のシステムは、本発明の範囲および主旨から逸脱することなく、当事者に明白であろう。本発明は具体的な好ましい実施形態に関連して記載したが、特許請求の範囲に記載の発明は、そのような具体的な実施形態に過度に限定されるべきでないことが理解されるべきである。実際に、記載された手法についての発明を遂行するための、分子生物学または関連する分野の当事者にとって明らかな、本発明を実施するための記載された態様の種々の改変は、添付の特許請求の範囲内に含まれることが意図される。