特許第6422181号(P6422181)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6422181アクリル系粘着剤組成物ならびに粘着テープ
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  • 特許6422181-アクリル系粘着剤組成物ならびに粘着テープ 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6422181
(24)【登録日】2018年10月26日
(45)【発行日】2018年11月14日
(54)【発明の名称】アクリル系粘着剤組成物ならびに粘着テープ
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/00 20060101AFI20181105BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20181105BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20181105BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20181105BHJP
【FI】
   C09J133/00
   C09J11/04
   C09J11/06
   C09J7/38
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-229382(P2014-229382)
(22)【出願日】2014年11月12日
(65)【公開番号】特開2016-94492(P2016-94492A)
(43)【公開日】2016年5月26日
【審査請求日】2017年10月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】516115795
【氏名又は名称】株式会社テクノフローワン
(74)【代理人】
【識別番号】100161942
【弁理士】
【氏名又は名称】鴨 みどり
(72)【発明者】
【氏名】岡本泰輔
(72)【発明者】
【氏名】森一真
(72)【発明者】
【氏名】塚本美徳
【審査官】 上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−132269(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/072795(WO,A1)
【文献】 特開2013−147631(JP,A)
【文献】 特開2005−247909(JP,A)
【文献】 特開2001−240830(JP,A)
【文献】 特開2015−105299(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系共重合体(A)と、イソシアネート系硬化剤(B)と、ジルコニウム錯体触媒(C)と、遅延剤(D)とを含むアクリル系粘着剤組成物(I)であって、
該イソシアネート系硬化剤(B)の含有量が、アクリル系共重合体(A)100質量部に対し、0.1質量部以上5質量部未満であり、
該ジルコニウム錯体触媒(C)の含有量が、該アクリル系共重合体(A)100質量部に対して、0.02質量部以上であり、
該遅延剤(D)の含有量が、該ジルコニウム錯体触媒(C)1質量部に対して、30質量部以上50質量部未満であり、
40℃〜140℃、0.5分〜5分の乾燥条件で乾燥後に養生が不要である
アクリル系粘着剤組成物。
【請求項2】
前記乾燥条件で乾燥後の前記アクリル系粘着剤組成物(I)について測定した下記で定義されるイソシアネートピークの面積が、110℃、2分の乾燥条件で乾燥後の下記で定義される基準アクリル系粘着剤組成物について測定したイソシアネートピークの面積を100%とした場合に、55%以下である、
請求項1に記載のアクリル系粘着剤組成物。
・イソシアネートピーク:FT−IRチャートに表れる2275cm−1のイソシアネート基の逆対称伸縮IRピーク
・基準アクリル系粘着剤組成物:前記アクリル系共重合体(A)と前記イソシアネート系硬化剤(B)とを前記アクリル系粘着剤組成物(I)とほぼ同じ割合で含み、前記ジルコニウム錯体触媒(C)と前記遅延剤(D)とを含まないアクリル系粘着剤組成物
【請求項3】
基材と、
該基材上に配置され、請求項1又は2に記載のアクリル系粘着剤組成物を前記乾燥条件で乾燥した粘着層と
を含む、
粘着テープ。
【請求項4】
保護フィルムである、請求項3記載の粘着テープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル系粘着剤組成物ならびに粘着テープに関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル系粘着剤組成物において、早期に架橋反応を完了させる目的で錫触媒が使用されている(特許文献1参照)。近年、環境の観点から錫を使用しない粘着テープが求められている。特許文献2には、2つの異なるアクリル系共重合体とイソシアネート化合物、ジルコニウム錯体、ならびに過剰のアセチルアセトンなどのキレート剤を含む粘着剤組成物が記載されている。この粘着剤組成物では、凝集力と応力緩和性の調整を容易にすることができ、養生期間が数日に短縮され、耐久性の向上、白ヌケの発生の抑制ができると記載されている。
アクリル系粘着剤においては、錫不使用で、十分なポットライフを有しながら養生の要らない粘着剤組成物が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−314513号公報
【特許文献2】特開2011−132269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の課題は、汎用性の高いアクリル系粘着剤組成物において、錫触媒を使用せずに、乾燥直後に被着体に直接貼り合せることができ、1工程で加工可能な粘着層ならびにそれを含む粘着テープを製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意研究した結果、アクリル系共重合体とイソシアネート系硬化剤と特定量のジルコニウム錯体触媒と特定量の遅延剤とを含み、特定の乾燥条件で乾燥後に養生が不要となるアクリル系粘着剤組成物が、被着体に直接貼り合せることができ、1工程で加工可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明のアクリル系粘着剤組成物(I)は、アクリル系共重合体(A)と、イソシアネート系硬化剤(B)と、ジルコニウム錯体触媒(C)と、遅延剤(D)とを含んでいる。上記イソシアネート系硬化剤(B)の含有量は、アクリル系共重合体(A)100質量部に対し、0.1質量部以上5質量部未満である。上記ジルコニウム錯体触媒(C)の含有量は、上記アクリル系共重合体(A)100質量部に対して、0.02質量部以上であり、上記遅延剤(D)の含有量は、上記ジルコニウム錯体触媒(C)1質量部に対して、30質量部以上50質量部未満である。さらに、本発明のアクリル系粘着剤組成物は、40℃〜140℃、0.5分〜5分の乾燥条件で乾燥後に養生が不要である。
本発明のアクリル系粘着剤組成物(I)は、好ましくは、上記乾燥条件で乾燥後の上記アクリル系粘着剤組成物(I)について測定したイソシアネートピークの面積が、110℃、2分の乾燥条件で乾燥後の基準アクリル系粘着剤組成物について測定したイソシアネートピークの面積を100%とした場合に、55%以下である。なお、イソシアネートピークと基準アクリル系粘着剤組成物は、以下のように定義される。
・イソシアネートピーク:FT−IRチャートに表れる2275cm−1のイソシアネート基の逆対称伸縮IRピーク
・基準アクリル系粘着剤組成物:上記アクリル系共重合体(A)と上記イソシアネート系硬化剤(B)とを上記アクリル系粘着剤組成物(I)とほぼ同じ割合で含み、上記ジルコニウム錯体触媒(C)と上記遅延剤(D)とを含まないアクリル系粘着剤組成物
【0007】
また、本発明の粘着テープは、基材と、上記基材上に配置され、上記のアクリル系粘着剤組成物を上記乾燥条件で乾燥した粘着層とを含んでいる。上記粘着テープは、保護フィルムであることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、被着体に直接貼り合せることができ、1工程で加工可能なアクリル系粘着剤組成物ならびにそれを含む粘着テープを製造できる。本発明のアクリル系粘着剤組成物は、錫レスであるため、環境に優しく、また、アクリル系粘着剤であるため、汎用性が高い粘着テープをより低コストで製造できる。また、本発明の粘着テープによれば、環境に優しく、汎用性が高い粘着テープをより低コストで製造できる。また、各種保護フィルム等に使用される微粘着の粘着テープにおいては、セパレータレスとすることも可能である。さらには、強粘着の粘着テープにおいては、巻き取り後の経時凹凸の発生等の継時変化の少ない粘着層ならびにそれを含む粘着テープを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例のアクリル系粘着剤組成物を種々の乾燥時間で乾燥した後の、FT−IRチャートに表れる2275cm−1のイソシアネート基の逆対称伸縮ピーク面積率の変化を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.アクリル系粘着剤組成物(I)
本発明のアクリル系粘着剤組成物(I)は、アクリル系共重合体(A)と、イソシアネート系硬化剤(B)と、ジルコニウム錯体触媒(C)と、遅延剤(D)とを含んでいる。
【0011】
1−1 アクリル系共重合体(A)
本発明のアクリル系粘着剤組成物(I)に含まれるアクリル系共重合体(A)としては、特に限定されず、公知のアクリル系共重合体が使用できる。具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸エステル単量体と反応性官能基を有する単量体とを共重合させた共重合体が挙げられる。アクリル系共重合体(A)を合成する単量体成分中、(メタ)アクリル酸エステル単量体が50質量%以上含まれることが好ましく、60質量%以上含まれることがより好ましい。
【0012】
反応性官能基を有する単量体としては、例えば、カルボキシル基含有単量体、水酸基含有単量体、グリシジル基含有単量体、アミド基,N−置換アミド基含有単量体、三級アミノ基含有単量体等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。なかでも水酸基含有単量体が好ましい。
【0013】
アクリル系共重合体(A)としては、例えば、SK−1496[綜研化学(株)製]、ダイカラック5250[大同化成工業(株)製]などの市販品を好適に使用できる。
【0014】
アクリル系粘着剤組成物におけるアクリル系共重合体(A)の含有量は、5〜60質量%が好ましく、5〜40質量%がより好ましく、10〜35質量%がさらに好ましい。
【0015】
1−2 イソシアネート系硬化剤(B)
本発明のアクリル系粘着剤組成物に含まれるイソシアネート系硬化剤(B)としては、特に限定されないが、例えば、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、上記芳香族イソシアネート化合物の水素添加物等の脂肪族又は脂環族イソシアネート;それらイソシアネートの2量体もしくは3量体又はそれらイソシアネートと、トリメチロールプロパンなどのポリオールの付加物などの各種イソシアネートに由来するイソシアネート化合物が挙げられる。これらは単独で、あるいは2種以上を組み合せて使用することができる。
【0016】
イソシアネート化合物(B)としては、例えば「コロネートL」、「コロネートHX」、「コロネートHL−S」、「コロネート2234」[以上日本ポリウレタン工業(株)製]などの市販品を好適に使用できる。
【0017】
イソシアネート系硬化剤(B)の含有量としては、アクリル系共重合体(A)100質量部に対し、0.1質量部以上5質量部未満である
【0018】
1−3 ジルコニウム錯体触媒(C)
本発明のアクリル系粘着剤組成物(I)に含まれるジルコニウム錯体触媒(C)としては、特に限定されないが、例えば、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート等のジルコニウムとアセチルアセトンとがキレート化したものが挙げられる。
【0019】
ジルコニウム錯体触媒(C)としては、例えば、「オルガチックスZC−150」、「オルガチックスZC−540」、「オルガチックスZC−570」、「オルガチックスZC−580」、「オルガチックスZC−700」[マツモトファインケミカル(株)製]などの市販品を好適に使用することができる。
【0020】
ジルコニウム錯体触媒(C)の含有量は、上記アクリル系共重合体(A)100質量部に対して、0.02質量部以上(例えば0.02〜0.40質量部)であり、好ましくは、0.1質量部超0.40質量部以下、より好ましくは0.12〜0.35質量部、さらに好ましくは0.14〜0.35質量部である。ジルコニウム錯体触媒(C)の含有量をこのような範囲とすることにより、十分なポットライフを有しながら、40℃〜140℃、0.5分〜5分の乾燥条件で乾燥後に養生が不要なアクリル系粘着剤組成物とすることができる。
【0021】
1−4 遅延剤(D)
本発明のアクリル系粘着剤組成物(I)に含まれる遅延剤(D)としては、例えばβ−ジケトン類やβ−ケトエステル類等を用いることができ、具体的にはアセチルアセトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸−n−プロピル、アセト酢酸−i−プロピル等が挙げられる。なかでも、アセチルアセトンが好ましい。
【0022】
遅延剤(D)の含有量は、上記ジルコニウム錯体触媒(C)1質量部に対して、30質量部以上50質量部未満である。遅延剤(D)の含有量をこのような範囲とすることにより、十分なポットライフを有しながら、養生レスのアクリル系粘着剤組成物とすることができる。
【0023】
1−5 その他の成分
本発明のアクリル系粘着剤組成物(I)は、本発明の効果を損なわない範囲で、例えば、各種添加剤、溶剤、粘着付与剤、耐候性安定剤、可塑剤、軟化剤、染料、顔料、無機充填剤等のその他の成分を含んでいてもよい。
【0024】
1−6 養生不要性
本発明のアクリル系粘着剤組成物(I)は、40℃〜140℃、0.5分〜5分の乾燥条件で乾燥後に養生が不要である。「養生が不要である」とは、アクリル系粘着剤組成物を上記乾燥条件での乾燥後、直接、被着体に貼り合せることができる状態であることである。粘着層を被着体に貼り合せることができる状態とは、例えば、微粘着のアクリル系粘着剤組成物の場合は、指で触れたときに糸を引かない状態であることとすることができる。また、粘着層の架橋状態が、後述の特定の「イソシアネートピーク面積率」を有することであるとすることができる。
【0025】
1−7 イソシアネートピーク面積率
本発明のアクリル系粘着剤組成物(I)は、好ましくは、40℃〜140℃、0.5分〜5分の乾燥条件で乾燥後の上記アクリル系粘着剤組成物(I)について測定したイソシアネートピークの面積が、110℃、2分の乾燥条件で乾燥後の基準アクリル系粘着剤組成物について測定したイソシアネートピークの面積を100%とした場合に、55%以下である。なお、イソシアネートピークと基準アクリル系粘着剤組成物は、以下のように定義される。
・イソシアネートピーク:FT−IRチャートに表れる2275cm−1のイソシアネート基の逆対称伸縮IRピーク
・基準アクリル系粘着剤組成物:上記アクリル系共重合体(A)と上記イソシアネート系硬化剤(B)とを上記アクリル系粘着剤組成物(I)とほぼ同じ割合で含み、上記ジルコニウム錯体触媒(C)と上記遅延剤(D)とを含まないアクリル系粘着剤組成物
【0026】
また、以下において、110℃、2分の乾燥条件で乾燥後の基準アクリル系粘着剤組成物について測定したイソシアネートピークの面積を100%とした場合の、40℃〜140℃、0.5分〜5分の乾燥条件で乾燥後の上記アクリル系粘着剤組成物(I)について測定したイソシアネートピークの面積の割合を、イソシアネートピーク面積率と称する。イソシアネートピーク面積率が55%以下である場合に、乾燥直後に、より好ましく被着体に直接貼り合せることができ、製品化しやすくなる。
【0027】
基準アクリル系粘着剤組成物では、上記アクリル系共重合体(A)と上記イソシアネート系硬化剤(B)とを上記アクリル系粘着剤組成物(I)とほぼ同じ割合で含むようにするために、上記遅延剤(D)の代わりに、上記の溶剤を加えてもよい。また、ほぼ同じ割合とは、全く同じ割合を100%とした場合に、例えば90〜110%の範囲での割合を含むものとすることができる。
【0028】
基準アクリル系粘着剤組成物については110℃、2分の乾燥条件での乾燥後にイソシアネートピーク面積を測定し、評価対象組成物については、それぞれの所定の乾燥条件での乾燥後にイソシアネートピーク面積を測定して比較する。
【0029】
1−8 乾燥条件
本発明のアクリル系粘着剤組成物(I)は、40℃〜140℃、0.5分〜5分の乾燥条件での乾燥により、養生が不要となる。乾燥条件は、好ましくは40℃〜140℃で0.5分〜2.5分であり、より好ましくは60℃〜120℃で0.5分〜2.5分であり、例えば110℃2分とすることができる。また、40℃〜140℃、好ましくは60℃〜120℃の温度勾配を有する乾燥炉中を、0.5分〜5分、好ましくは0.5分〜2.5分で通過させることでもよい。乾燥時間が短すぎると養生不要とすることができず、長すぎるとコスト的に問題となる。乾燥は、大気中で行うことが好ましい。
【0030】
本発明のアクリル系粘着剤組成物では、上記乾燥条件での乾燥直後に実用可能な架橋状態となるため、被着体に直接貼り合せることができ、1工程で加工可能な保護フィルム等の粘着テープを製造できる。強粘着のアクリル系粘着剤組成物では、乾燥直後に粘着層をより固くすることができ、巻き取り後の経時凹凸の発生等の継時変化の少ない粘着層ならびにそれを含む粘着テープを製造できる。
【0031】
2.粘着テープ
本発明の粘着テープは、基材と、上記基材上に配置された粘着層とを含んでいる。基材としては、PETならびに表面処理されたPET等の公知のフィルムを使用できる。粘着層は、上記のアクリル系粘着剤組成物を上記基材上に公知の方法で塗工して形成できる。
【0032】
上記粘着層は、上記のアクリル系粘着剤組成物を40℃〜140℃、0.5分〜5分の乾燥条件で乾燥した粘着層で構成されている。乾燥条件の好ましい態様は上記と同様である。上記粘着層の、イソシアネートピーク面積率は55%未満である。
【0033】
本発明の粘着テープは、微粘着である場合、セパレータレスの粘着テープとすることができ、被着体に直接貼り合せることができ、1工程で加工可能な保護フィルム等として使用できる。また、本発明の粘着テープは、強粘着の場合、従来よりも粘着層を固くできるため、巻き取り後の経時凹凸等の発生等の継時変化が抑制された粘着テープとすることができる。
【0034】
3.粘着テープの製造方法
本発明の粘着テープの製造方法は、(i)アクリル系粘着剤組成物の調合工程と(ii)粘着テープの作製工程とを含んでいる。
(i)アクリル系粘着剤組成物の調合工程では、アクリル系共重合体(A)とイソシアネート系硬化剤(B)とジルコニウム錯体触媒(C)と遅延剤(D)などの原料を調合して、アクリル系粘着剤組成物(I)を製造する。
(ii)粘着テープの作製工程では、PETなどの基材フィルムの上に、(i)アクリル系粘着剤組成物の調合工程で得られたアクリル系粘着剤組成物(I)を塗工し、40℃〜140℃、0.5分〜5分の乾燥条件で乾燥させ、粘着層を形成する。
アクリル系粘着剤組成物(I)の塗工量は、乾燥後の厚さが、保護フィルム用途(微粘着)の場合は5〜20μm、OCA用途(強粘着)の場合は20〜350μmになるように調節するのが好ましい。
この基材上に粘着層が形成されたフィルムを、乾燥後直ちに、任意の被着体あるいはPETセパレータと貼り合せたのち、ゴムニップロール等で圧着して、粘着テープを製造する。乾燥条件の好ましい態様は上記と同様である。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0036】
(1)微粘着−剥離力測定用フィルムの実機試作
微粘着用の粘着剤組成物の実機での塗工性の確認、および、乾燥時間を制御することで架橋状態を制御できるかを確認する目的で以下の実験を行った。
【0037】
参考例A−1
(1−1)粘着剤組成物の調合
以下の原料を調合し、粘着剤組成物を製造した。
・主剤 綜研化学製 SK−1496(アクリル系共重合体、不揮発分37〜39質量%) 100質量部
・硬化剤 綜研化学製 D−90 (イソシアネート系硬化剤、有効成分80〜90質量%) 2質量部
・触媒 マツモトファインケミカル製 ZC−700(有効成分20質量%) 0.3質量部
・遅延剤 アセチルアセトン 3質量部
・希釈溶剤 酢酸エチル 90質量部
【0038】
(1−2)粘着テープの作製
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの上に、乾燥後の塗工量が10μmになるように、上記で得られた粘着剤組成物を塗工した。上記粘着剤組成物は、実機で十分塗工可能であった。また、次に5Z、20mからなる乾燥機に60℃〜120℃の温度勾配を持たせ、この中を線速10、15、25m/minで通過させ、粘着剤組成物を乾燥させ、粘着層とした。PET上に粘着層が形成されたフィルムを未処理PETと貼り合せたのち、ゴムニップロールで圧着して、評価用粘着テープを得た。この粘着テープについて、下記の評価方法で評価を行った。
【0039】
(1−3)剥離力の測定
JIS Z0237(2000年版)に従って試験を行った。結果を表1に示す。
【0040】
(1−4)イソシアネートピーク面積率の測定
FT−IR測定装置[(株)島津製作所製、赤外顕微鏡システム AIM−8800]を用いて、所定の乾燥条件で乾燥後の粘着剤組成物について、2275cm−1のイソシアネート基の逆対称伸縮ピーク(イソシアネートピーク)を測定した。また、触媒と遅延剤を含まず、上記主剤100質量部と上記硬化剤2質量部と酢酸エチル90質量部とを調合した基準アクリル系粘着剤組成物について、空気中110℃、2分の乾燥条件で乾燥した後、イソシアネートピークを測定した。イソシアネートピーク面積率は、何れの乾燥速度の粘着剤においても、55%以下であった。
【0041】
(1−5)架橋状態の評価
微粘着のアクリル塗料では、乾燥後の架橋状態が不十分な場合に、指で触れたときに糸を引く性質がある。この場合には、養生が必要である。そこで、糸を引くものを×、完全に糸を引かないものを○、僅かに糸を引くものを○△とした。結果を表1に示す。
【0042】
参考例A−2
PET上に粘着層が形成されたフィルムを、未処理PETの代わりにシリコンアクリレートハードコート層を形成したPETと貼り合せた以外は参考例A−1と同様にして、評価用粘着テープを得た。この粘着テープについて、参考例A−1と同様に剥離力とイソシアネートピーク面積率と架橋状態の評価を行った。剥離力と架橋状態の評価結果を表1に示す。イソシアネートピーク面積率は、何れの乾燥速度の粘着剤においても、55%以下であった。
【0043】
参考例A−3
PET上に粘着層が形成されたフィルムを、未処理PETの代わりにフッ素含有シリコンアクリレートハードコート層を形成したPETと貼り合せた以外は参考例A−1と同様にして、評価用粘着テープを得た。この粘着テープについて、参考例A−1と同様に剥離力とイソシアネートピーク面積率と架橋状態の評価を行った。剥離力と架橋状態の評価結果を表1に示す。イソシアネートピーク面積率は、何れの乾燥速度の粘着剤においても、55%以下であった。
【0044】
【表1】
【0045】
表1に示すように、加工速度が10m/min(乾燥時間2.0分)、15m/min(乾燥時間1.3分)、25m/min(乾燥時間0.8分)の何れの粘着剤組成物においても、イソシアネートピーク面積率が55%以下であり、架橋状態も指で触れた場合に糸を引かず、養生不要であった。
【0046】
(2)微粘着−乾燥条件の最適化の卓上実験
養生不要とできる乾燥条件を特定する目的で下記の実験を行った。
【0047】
実施例A−4
(2−1)粘着剤組成物の調合
以下の原料を調合し、粘着剤組成物を製造した。
・主剤 綜研化学製 SK−1496(不揮発分37〜39質量%) 100質量部
・硬化剤 綜研化学製 D−90 (有効成分80〜90質量%) 2質量部
・触媒 マツモトファインケミカル製 ZC−700(有効成分20質量%)0.3質量部
・遅延剤 アセチルアセトン 2.5質量部
・希釈溶剤 酢酸エチル 90質量部
【0048】
(2−2)粘着層の作製
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの上に、乾燥後の塗工量が10μmになるように粘着剤組成物を塗工した。次に110℃の乾燥機で、0.5〜32分の種々の乾燥時間で粘着剤組成物を乾燥させ、それぞれ粘着層を得た。
【0049】
(2−3)イソシアネートピーク面積率の測定
上記で得られた各粘着層について、参考例A−1と同様に、イソシアネートピーク面積率を求めた。結果を図1に示す。
【0050】
図1に示すように、110℃、0.5分の乾燥条件においても、イソシアネートピークの面積率は55%以下であった。110℃、5分の乾燥条件では、イソシアネートピークの面積率は10%以下であった。
【0051】
(2−4)架橋状態の評価
上記で得られた各粘着層について、参考例A−1と同様に、指で触れたときに糸を引くかどうかの架橋状態の評価を行った。この結果、全ての粘着層において完全に糸を引かず、養生が不要であった。
【0052】
(3)微粘着−触媒量と遅延剤量の最適化の卓上実験
養生不要とできる触媒量の下限ならびに遅延剤倍率の上限を特定し、また、十分なポットライフを保持できる遅延剤倍率の下限を特定する目的で下記の実験を行った。
【0053】
参考例B−1
(3−1)粘着剤組成物の調合
以下の原料を調合し、粘着剤組成物を製造した。
・主剤 綜研化学製 SK−1496(不揮発分37〜39質量%) 100質量部
・硬化剤 綜研化学製 D−90(有効成分80〜90質量%) 2質量部
・触媒 マツモトファインケミカル製 ZC−700(有効成分20質量%)0.05質量部
・遅延剤 アセチルアセトン 3質量部
・希釈溶剤 酢酸エチル 90質量部
【0054】
(3−2)保護フィルムの作製
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの上に、乾燥後の塗工量が10μmになるように粘着剤組成物を塗工した。次に110℃の乾燥機で、2分乾燥させ、粘着剤組成物を乾燥させ、粘着層を得た。PET上に粘着層が形成されたフィルムを未処理PETと貼り合せたのち、ゴムニップロールで圧着して、評価用粘着テープを得た。この粘着テープについて、下記の評価方法で評価を行った。
【0055】
(3−3)架橋状態の評価
参考例A−1と同様に架橋状態の評価を行った。結果を表2に示す。
【0056】
(3−4)イソシアネートピーク面積率の測定
上記で得られた各粘着層について、参考例A−1と同様に、イソシアネートピーク面積率を求めた。イソシアネートピーク面積率は55%以下であった。
【0057】
参考例B−2〜B−4、ならびに比較例B−1〜B−5
触媒ならびに遅延剤の添加量を表2に示すように変更した以外は参考例B−1と同様にして、評価用フィルムを得た。このフィルムについて、参考例B−1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。イソシアネートピーク面積率はいずれも55%以下であった。
【0058】
【表2】
【0059】
表2に示すように、主剤100質量部(アクリル樹脂37〜39質量部)に対し、0.05質量部のZS−700(触媒量0.01質量部)を添加した場合に、炉内で乾燥後に良好な架橋状態が得られた。また、遅延剤を、触媒に対して質量比で300倍量添加しても、炉内で乾燥後に良好な架橋状態が得られた。そして、イソシアネートピーク面積率を55%以下にできた。
【0060】
参考例C−1〜C−2、実施例C−3〜C−4
触媒ならびに遅延剤の添加量を表3に示すように変更した以外は参考例B−1と同様にして、粘着剤組成物ならびに粘着層を得た。これらの粘着剤組成物について、以下の評価を行った。
【0061】
(3−5)架橋状態の評価
参考例A−1と同様に架橋状態の評価を行った。結果を表3に示す。
【0062】
(3−6)イソシアネートピーク面積率の測定
上記で得られた各粘着層について、参考例A−1と同様に、イソシアネートピーク面積率を求めた。イソシアネートピーク面積率は55%以下であった。
【0063】
(3−7)ポットライフの測定
参考例C−1〜C−2、実施例C−3〜C−4で製造した粘着剤組成物を、室温環境下(25℃前後)に蓋をして保管し、1時間ごとに粘度測定を行った。4時間以上ゲル化しないものを使用可能とした。望ましくは6時間以上ゲル化しないものが良い。結果を表4に示す。
【0064】
【表3】
【0065】
【表4】
【0066】
表3に示すように、遅延剤を、触媒に対して質量比で40倍量添加した場合に、炉内で乾燥後に良好な架橋状態が得られた。そして、イソシアネートピーク面積率を55%以下にできた。また、表4に示すように、いずれの粘着剤組成物もポットライフは4時間以上であった。
【0067】
(4)強粘着−応用の可能性の確認とポットライフ延長の為の試作
強粘着塗料で養生不要とできるか、また、強粘着塗料で十分なポットライフが得られるか確認する目的で下記の実験を行った。
【0068】
参考例D−1
(4−1)粘着剤組成物(塗料)の調合
以下の原料を調合し、粘着剤組成物を製造した。
・主剤 大同化成工業製 ダイカラック5250(不揮発分39〜41質量%)100質量部
・硬化剤 日本ポリウレタン工業製 コロネートHX(不揮発分100%) 0.2質量部
・触媒 マツモトファインケミカル製 ZC−700(有効成分20質量%) 0.3質量部
・遅延剤 アセチルアセトン 3質量部
・希釈溶剤 酢酸エチル 30質量部
なお、ここでは触媒の有効成分質量に対する遅延剤の質量を50倍とした。
【0069】
(4−2)粘着テープの作製
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの上に、乾燥後の塗工量が10μmになるように上記で得られた粘着剤組成物を塗工した。次に110℃の乾燥機で2分乾燥させ、PETフィルム上に粘着層が形成された粘着テープを得た。
【0070】
(4−3)イソシアネートピーク面積率の測定
FT−IR測定装置[(株)島津製作所製、赤外顕微鏡システム AIM−8800]を用いて、乾燥後の粘着剤組成物(粘着層)について、2275cm−1のイソシアネート基の逆対称伸縮ピーク(イソシアネートピーク)を測定した。また、触媒と遅延剤を含まず、上記主剤100質量部と上記硬化剤0.2質量部と酢酸エチル33質量部とを調合した基準アクリル系粘着剤組成物について、空気中110℃、2分の乾燥条件で乾燥した後、イソシアネートピークを測定し、イソシアネートピーク面積率を求めた。結果を表5に示す。
【0071】
参考例D−2〜D−6、ならびに比較例D−1
触媒、遅延剤、ならびに酢酸エチルの添加量を表5に示すように変更した以外は参考例D−1と同様にして、評価用フィルムを得た。このフィルムについて、参考例D−1と同様に評価を行った。結果を表5に示す。
【0072】
【表5】
【0073】
参考例D−8〜D−10
触媒、遅延剤、ならびに酢酸エチルの添加量を表6に示すように変更した以外は参考例D−1と同様にして、評価用フィルムを得た。このフィルムについて、以下の方法でポットライフの評価を行った。結果を表6に示す。
【0074】
(4−4)ポットライフの測定
調液後、室温環境下(25℃前後)に蓋をして保管し、1時間ごとに粘度測定を行った。4時間後の粘度が2倍以下を使用可能とした。望ましくは6時間後でも2倍以下が良い。
【0075】
【表6】
【0076】
表5に示すように、強粘着塗料でも、イソシアネートピーク面積率は55%以下であり、養生が不要であった。また、表6に示すように、強粘着塗料でも実用可能なポットライフが得られた。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明のアクリル系粘着剤組成物によれば、錫レスで環境に優しく、汎用性が高い粘着テープをより低コストで製造できる。また、各種保護フィルム等に使用される微粘着の粘着テープにおいては、セパレータレスの微粘着の粘着テープを製造できる。さらには、強粘着の粘着テープにおいては、巻き取り後の経時凹凸の発生等の継時変化の少ない粘着層ならびにそれを含む粘着テープを製造できる。


図1