(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、各実施形態では、同一の構成要素に同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、各図面では、説明を簡単にするため、構成要素の一部を適宜省略して示す。
【0018】
[第1の実施の形態]
図1、
図2は第1実施形態に係る便器装置10を示す斜視図である。
図1では便座14が後述する閉位置にあり、
図2では開位置にある。
図2では後述する取付用部材38やヒンジ機構40を省略する。便器装置10は、水洗式大便器であり、便器本体12と、便座14を備える。
【0019】
便器本体12はセラミックを素材とする成形品であるが、樹脂等を素材としてもよい。便器本体12は、
図2に示すように、便鉢16を有し、便鉢16の上部には開口18が形成される。便器本体12には、便鉢16の開口18周りの上端周縁部に上面部22が形成される。上面部22は、環状に連なる環状部24と、環状部24から後方に延出する延出部26とにより構成される。上面部22の上面は平坦に形成される。便器本体12には、上面部22の外周部から下方に延びる周壁部28が形成され、周壁部28により便鉢16が前後左右から囲んで覆われる。
【0020】
便器本体12の下端部にはベース部30が設けられる。ベース部30は、平面視にて前後に細長の円形状に形成され、便器本体12と別体の板材により構成される。板材の素材は樹脂であるが、金属、セラミックス等でもよい。ベース部30は床面上に載せられ、ねじ等の固定具(図示せず)により床面に固定される。便器本体12はベース部30上に載せられる。便器本体12の両横側の下端部には据付部34が設けられる。据付部34はねじ等の第1固定具36によりベース部30に据え付けられ、便器本体12がベース部30に固定される。
【0021】
図3(a)は便器装置10の外観を示す側面図であり、
図3(b)は側面断面図である。
便器本体12の上面部22には、便座14を便器本体12に取り付けるための取付用部材38が固定される。取付用部材38にはヒンジ機構40が設置され、便座14はヒンジ機構40を介して便器本体12に取り付けられる。取付用部材38とヒンジ機構40の詳細は後述する。
【0022】
図4は便器装置10の外観を示す平面図である。本図では取付用部材38やヒンジ機構40を省略する。
便座14は、
図3、
図4に示すように、便器本体12上に配置される着座部42と、便器本体12を外側から覆う前カバー部44と、を有する。着座部42は、上面部22の上面全体を覆うように環状に設けられ、その中央に開口46が形成される。着座部42の上面にはユーザが座るための座面48が設けられ、着座部42の内部には周方向に沿って空洞部50が設けられる。ユーザは自らの背中側を便器本体12の後側に向けて座面48に座る。着座部42の下面部には開口46周りに間隔を空けて脚部52が下方に突き出る。便座14は、便器本体12の上面部22上に脚部52が接触した状態で便器本体12上に支持される。
【0023】
図5(a)は便器装置10の外観を示す正面図であり、
図5(b)は正面断面図である。
前カバー部44は、
図3、
図5に示すように、着座部42と一体に設けられ、着座部42の外周部、より詳細には、着座部42の前端部42A(
図3(b)参照)、左右両横側の側端部42Bから垂下するように設けられる。前カバー部44は、便器本体12の前側、左右両横側に配置される。
【0024】
図6は便器装置10の外観を示す背面図である。
便器本体12の後側には、
図3、
図6に示すように、後カバー部56が配置される。後カバー部56は、着座部42の外周部である後端部42C(
図3(b)参照)から垂下するように設けられる。前カバー部44と後カバー部56は分離して設けられ、後カバー部56は便座14と別体に設けられる。
【0025】
前カバー部44を含む便座14と後カバー部56は、
図3(b)、
図5(b)に示すように、便器本体12の前後左右において、上端から下端までの範囲で外側に膨らみ出るように、全体として湾曲して形成される。このとき、着座部42と前カバー部44を含む便座14は、便器本体12の前側、左右両横側において、上端から下端までの範囲で外側に膨らみ出るように湾曲して形成されることになる。
【0026】
前カバー部44と後カバー部56は、便器本体12を前側、左右両横側、後側から覆う。詳細には、前カバー部44は、
図5(a)に示すように、便器本体12の左右全幅の範囲を便器本体12の前側から覆う。また、前カバー部44は、
図3(a)に示すように、便器本体12の前端部12Aから後部にかけての範囲を便器本体12の左右両横側から覆う。後カバー部56は、
図6に示すように、便器本体12を後側から覆う。前カバー部44と後カバー部56は、便器本体12の全周に亘る範囲を前後左右から囲んで覆うことになる。このとき、前カバー部44は便器本体12の少なくとも半周に亘る範囲を覆い、後カバー部56は前カバー部44により覆われていない範囲を覆う。ここでの「少なくとも半周に亘る範囲」とは、
図4に示すように、便器本体12を平面視したときに、便器本体12の開口18の中心点P1を開口中心点P1とすると、開口中心点P1を中心として便器本体12の外側に描かれる円での半周以上に亘る範囲をいう。
【0027】
前カバー部44と後カバー部56は、
図3(b)に示すように、便器本体12の上端部12Bから床面60近傍にかけての範囲を覆う。前カバー部44と後カバー部56は、便器本体12の上端部12Bから下部12Cにかけての範囲を少なくとも覆うことになる。ここでの「下部12C」とは、便器本体12の高さ方向の中央位置から下側の部位のことをいう。また、ここでの床面60「近傍」とは、便器本体12の上端から床面60までの高さ寸法をH
0[m]としたとき、便器本体12の上端から少なくとも0.9×H
0の範囲を覆う趣旨である。
【0028】
前カバー部44は、着座部42と便器本体12の上面部22の間に間隔を空けて形成される境界部64を外側から覆う。詳細には、前カバー部44は、便器本体12に対して前側、左右両横側、後側から境界部64を覆う。このとき、前カバー部44は、便器本体12に対して前側、左右両横側、後側から各脚部52を覆うことにもなる。これにより、脚部52は便器本体12の外観において露出せずに視認できなくなる。
【0029】
前カバー部44の下端部44Aは、
図2、
図3(a)、
図6に示すように、その左右一方の端縁部である左端縁部70が便器本体12の左側に配置され、その左右他方の端縁部である右端縁部72が便器本体12の右側に配置される。この前カバー部44の下端部44Aは、便器本体12の左側から前側を経由して右側に延在するように湾曲して形成される。また、後カバー部56の下端部56Aは、その左右一方の端縁部である左端縁部74が便器本体12の左側に配置されるとともに、前カバー部44の左端縁部70と対向して配置される。また、後カバー部56の下端部56Aは、その左右他方の端縁部である右端縁部76が便器本体12の右側に配置されるとともに、前カバー部44の右端縁部72と対向して配置される。この後カバー部56の下端部は、便器本体12の左側から後側を経由して右側に延在するように湾曲して形成される。
【0030】
前カバー部44と後カバー部56は、便器本体12とともにベース部30を前側、左右両横側、後側から覆う。これらがベース部30を覆う範囲は、便器本体12を覆う範囲と同様である。つまり、前カバー部44は便器本体12に対して前側、左右両横側からベース部30を覆い、後カバー部56は便器本体12に対して後側からベース部30を覆う。前カバー部44の下端部44Aと後カバー部56の下端部56Aは、ベース部30の外周部に沿う形状を有する。前カバー部44の下端部44Aは床面60から若干の隙間66を空けて配置される。この隙間66は、施工誤差や製造誤差等の寸法誤差を吸収できる大きさに定められる。
【0031】
前カバー部44と後カバー部56は、
図6に示すように、互いに対向する対向端部68A、68Bを有する。前カバー部44の対向端部68Aは、前カバー部44の下端部44Aの左端縁部70から便器本体12の後方を経由して前カバー部44の下端部44Aの右端縁部72に連なるように設けられる。後カバー部56の対向端部68Bは、後カバー部56の下端部56Aの左端縁部74から便器本体12の後方を経由して後カバー部56の下端部56Aの右端縁部76に連なるように設けられる。前カバー部44と後カバー部56は、各対向端部68A、68Bを跨ぐ箇所において、それぞれの外面、内面が面一となるように設けられる。なお、後カバー部56の対向端部68Bの上端位置には給水管用の管穴78が形成され、給水管は便器本体12の後部に形成される接続口80に接続される。
【0032】
各対向端部68A、68Bは、一方の対向端部68Aの長手方向に沿って他方の対向端部68Bが延びるように設けられる。つまり、各対向端部68A、68Bは、それらの輪郭線が三次元的に揃うように設けられる。各対向端部68A、68Bの輪郭線は角部のない滑らかな線状に形成される。各対向端部68A、68Bの間に形成される前カバー部44と後カバー部56の境目69は、
図5に示すように、便器本体12を正面視したときに、前カバー部44により隠れる位置に形成される。トイレ室への入室時は、通常、便器装置10を前方から見るが、そのときに境目69が隠れるため、すっきりとした印象を与えられる。なお、ここでの「正面視」とは、便器本体12の前面と向かい合う視点からみることをいう。本形態では、
図4に示すように、便器本体12の開口中心点P1と前端12Dを通る仮想線をL1としたとき、便器本体12の前方において仮想線L1が通る位置から便器本体12をみることをいう。
【0033】
前カバー部44は、
図3(b)に示すように、便器本体12の前側において、下方に向かうにつれて便器本体12に近づくように傾斜して形成される。これにより、前カバー部44の下方に足引きスペース82が形成される。足引きスペース82にはユーザの脚部を入れられ、ユーザによっては着座姿勢のときに自然な体勢にし易くなるうえ、着座姿勢から立位姿勢に立ち上がり易くなる。
【0034】
前カバー部44の下端部44Aは、便器本体12の前側において、便器本体12の前端部12Aより下側後方にずれた位置まで延びるように形成される。これにより、便器本体12の前端部12Aから汚水が垂れ落ちたとき、その床面60への直接の落下が前カバー部44により防止され、汚水の床面60との衝突に伴う前カバー部44外への汚水の飛び散りを抑えられる。
【0035】
後カバー部56は、
図2に示すように、その下端部から前方に突き出るつば部84が形成される。つば部84はベース部30の外周部上に載せられ、ねじ等の第2固定具86により固定される。
【0036】
図7(a)は便器本体12への取付用部材38の固定状態を示す平面断面図であり、
図7(b)は
図3(b)のA−A線断面図である。
取付用部材38は、前述のとおり、便座14を便器本体12に取り付けるためのものであり、便器本体12の上面部22上に載置される載置部88と、載置部88から後方に突き出る突出部90とを有する。これらは金属板等の板材により一体に構成される。取付用部材38はねじ等の第3固定具94により上面部22に固定される。
【0037】
突出部90は、便器本体12の上面部22から後方にはみ出すように設けられる。突出部90は、上面部22の後端部22Aより横幅が小さい基端側部分90Aと、基端側部分90Aより更に横幅が小さい先端側部分90Bとを有する。基端側部分90Aの左右両横側の下部には、
図3(b)、
図7に示すように、後カバー部56を取り付けるためのカバー取付部96が設けられる。後カバー部56の上部の内面には前方に突き出るカバー固定部98が設けられる。カバー取付部96にはカバー固定部98が左右に重ね合わされ、カバー固定部98はカバー取付部96にねじ等の第4固定具100により固定される。
【0038】
ここで、第2固定具86は、つば部84に形成される挿通孔(図示せず)に挿通され、ベース部30の外周部に形成されるねじ孔(図示せず)に螺合される。第4固定具100は、カバー固定部98に形成される挿通孔(図示せず)に挿通され、カバー取付部96に形成されるねじ孔(図示せず)に螺合される。後カバー部56は、各挿通孔に挿通される第2固定具86、第4固定具100のねじ孔への締め付けにより便器本体12に対して固定される。各挿通孔は各固定具86、100の軸部との間で隙間が空くように形成され、後カバー部56は各固定具86、100を用いた摩擦接合により固定される。よって、各固定具86、100の締め付けを緩めたとき、その隙間分だけ便器本体12に対して後カバー部56を位置調整できる。つまり、後カバー部56は便器本体12に対して位置調整可能に固定される。
【0039】
ヒンジ機構40は、
図3(b)、
図7(a)に示すように、便器本体12に設けられる便器側ヒンジ部102と、便座14に設けられる便座側ヒンジ部104と、便器側ヒンジ部102と便座側ヒンジ部104を連結するヒンジ軸106とを備える。便器側ヒンジ部102は、取付用部材38の先端側部分90Bの両側部に取り付けられる。便座側ヒンジ部104は、便器側ヒンジ部102の両横側に配置され、着座部42の後内面に取り付けられる。便器側ヒンジ部102は、ヒンジ軸106が回転不能に保持され、便座側ヒンジ部104は、その内側に挿通されるヒンジ軸106が回転自在に保持される。以上のヒンジ機構40では、便器本体12に対して便座14がヒンジ軸106周りに回動可能に連結される。
【0040】
ヒンジ軸106は、取付用部材38の突出部90と同様、便器本体12の上面部22から後方にはみ出す位置に配置される。かりに、上面部22上にヒンジ軸106が配置される場合、便座14が上面部22の上面全体を覆うため、ヒンジ軸106周りに便座14が回動したとき、ヒンジ軸106より後方で便座14が便器本体12に干渉し易くなり、便座14の回動動作の妨げとなる。この点、本形態ではヒンジ軸106が便器本体12の上面部22から後方にはみ出す位置に配置されるため、ヒンジ軸106周りに便座14が回動したときでも、便座14と便器本体12の干渉を抑え易くなる。
【0041】
なお、ヒンジ機構40は、図示しないが、位置保持機構を有する。位置保持機構はフリーストップヒンジ構造である。フリーストップヒンジ構造は、便座14が開位置から閉位置に回転する方向を正方向としたとき、ばね等の付勢部材により正方向と逆方向に付勢する。便座14を開位置の任意の位置で停止させたとき、便座14には自重により正方向に回転力が作用する。このとき、フリーストップヒンジ構造は、自重による回転力に抗して、付勢部材の付勢力により便座14を停止させた状態に保持する。フリーストップヒンジ構造は、公知のため、その詳細は省略する。
【0042】
図8は、便座14が開位置にある状態を示す側面断面図である。
便座14は、
図3(b)、
図8に示すように、便器本体12上に着座部42が載置される閉位置(第1位置)と、閉位置から退避する開位置(第2位置)との間を移動可能である。前カバー部44は、便座14と一体に移動可能に設けられ、閉位置にあるときに便器本体12を前側、左右両横側から覆い、開位置にあるときに便器本体12を露出させる。なお、後カバー部56は、便座14と別体に設けられる。
【0043】
ベース部30の前端部30Aは、便座14が閉位置にあるとき、前カバー部44の下端部44Aの内周面との係合により、前カバー部44を含む便座14の位置を決める位置決め部108となる。ここで、位置決め部108は、便器本体12の前方に突き出るように円弧状に形成され、前カバー部44の下端部44Aは、その位置決め部108に対向する部分が位置決め部108に沿うように形成される。よって、前カバー部44の下端部44Aは位置決め部108に前方から係合可能であるとともに、位置決め部108に左右両側から係合可能に設けられる。これにより、前カバー部44の下端部44Aが位置決め部108に前方から係合されることにより、前カバー部44の前後方向の位置が決められ、位置決め部108に左右から係合されることにより、前カバー部44の左右方向の位置が決められる。
【0044】
前カバー部44の下端部44Aの内周面には緩衝材110が装着される。緩衝材110はゴム等の弾性を有する軟質材料により構成される。緩衝材110は、便座14が閉位置にあるとき、ベース部30の位置決め部108と対向する箇所に装着される。便座14が開位置から閉位置に移動したとき、前カバー部44が緩衝材110を間に挟んで位置決め部108と係合し、緩衝材110は、その衝突による衝撃を緩和する。
【0045】
着座部42の後部の内側には、着座部42が閉位置にあるとき、ヒンジ機構40を収容する収容空間112が設けられる。ヒンジ機構40は、着座部42が閉位置にあるとき、着座部42により前後左右及び上側から隠蔽され、便器装置10の外観において露出せずに視認できなくなる。
【0046】
次に、便器装置10の施工方法の一例を説明する。
まず、便器本体12をトイレ室内に設置する(S10)。便器本体12の下端部にはベース部30が予め設けられる。便器本体12は、トイレ室の床面60上にベース部30を載置させたうえで、固定具によりベース部30が床面60に固定される。
【0047】
便器本体12にヒンジ機構40を介して便座14を取り付ける(S12)。これにより、便器本体12に対する前カバー部44の対向端部68Aの位置が定まる。そして、後カバー部56を便器本体12に対して固定する(S14)。後カバー部56は、便器本体12に対して第2固定具86、第4固定具100の締め付けを緩めた状態で予め仮固定しておく。そして、前カバー部44の対向端部68Aに対して後カバー部56の対向端部68Bの位置を合わせるように後カバー部56を位置調整したうえで、第2固定具86、第4固定具100を締め付けて後カバー部56を固定する。前カバー部44と後カバー部56の対向端部68A、68Bは、それらの輪郭線が三次元的に揃うように位置を合わせる。
【0048】
このように、後カバー部56は、便器本体12に対して位置調整可能に固定されるため、便器装置10の施工時や施工後において、前カバー部44の対向端部68Aと後カバー部56の対向端部68Bを位置合せし易くなる。よって、各対向端部68A、68Bが三次元的に複雑な形状でも、これらの見栄えがよくなるように調整し易くなる。
【0049】
以上の便器装置10の作用効果を説明する。
便鉢16に放尿して尿等の汚水が飛び散ると、便器本体12と着座部42の間の境界部64から外側に水滴状又は霧状の汚水が流出する場合がある。本形態では着座部42の外周部から垂下するように前カバー部44や後カバー部56が設けられるため、便器本体12と着座部42の間から汚水が流出した場合、その汚水の飛散が前カバー部44や後カバー部56により遮られる。
【0050】
また、前カバー部44は、便器本体12を前側及び横側から覆うため、便器本体12の開口中心点P1周りの広い範囲での汚水の飛散が前カバー部44により遮られる。特に、前カバー部44と後カバー部56は、便器本体12を前後左右から囲んで覆うため、非常に広い範囲での汚水の飛散が前カバー部44及び後カバー部56により遮られる。よって、汚水による衣類等の汚れを効果的に抑えられる。
【0051】
また、前カバー部44と後カバー部56は、便器本体12を前後左右から囲んで覆う。よって、便器本体12と着座部42の間から汚水が流出した場合、便器本体12から離れた箇所にあるトイレ室の側壁面や床面60までの汚水の飛散が遮られ、その汚水により汚れる範囲を前カバー部44や後カバー部56の内側にとどめることができる。これにより、清掃時の清掃範囲を前カバー部44等の内側に集中させて、清掃時の作業性が良好になるうえ、トイレ室全体を衛生的に保ち易くなる。
【0052】
また、ユーザは、通常、衣類を足首側に下ろして着座部42に座り、大小便後に衣類を元に戻すが、前カバー部44の下端位置が高いと、衣類を戻すとき等に前カバー部44の下端部44Aに衣類が引っかかってしまう。この点、本形態に係る前カバー部44は、便器本体12の上端部12Bから下部12Cにかけての広い範囲を覆っており、前カバー部44と床面60の間の隙間を狭くするように設計している。従って、その隙間にユーザの衣類や脚部が入り込み難くなり、前カバー部44への衣類等の引っかかりを防止でき、汚水による衣類等の汚れを抑えるうえでの使い勝手が良好になる。
【0053】
また、便器本体12と着座部42の間の境界部64から流出した汚水が便器本体12の外面部や前カバー部44の内面部を伝わり落ちる場合もある。この点、本形態の前カバー部44は、前カバー部44と床面60の間の隙間に衣類等が入り込み難くなるため、便器本体12の外面部と衣類等の接触を防止できるうえ、前カバー部44の内面部から垂れ落ちる汚水と衣類等の接触を防止でき、汚水による衣類等の汚れを効果的に抑えられる。
【0054】
さらに、前カバー部44は、便器本体12の上端部12Bから床面60近傍にかけての広い範囲を覆うため、前カバー部44と床面60の間に衣類等を入れるのが困難となり、前カバー部44への衣類等の引っかかりを更に効果的に防止できる。また、便器本体12の外面部と衣類等の接触をさらに防止できるうえ、前カバー部44の内面部から垂れ落ちる汚水と衣類等の接触をさらに防止できる。さらには、前カバー部44の内側にある床面60には前カバー部44の内面部から垂れ落ちる汚水が付着し得る。この点、本形態では、前カバー部44と床面60の間に衣類等を入れるのが困難なため、汚水が付着した床面60と衣類等の接触も防止できる。
【0055】
また、前カバー部44は便器本体12を前側及び左右両横側から覆うため、便器装置10を前方から見たときに、その外観は便器本体12ではなく前カバー部44を含む便座14により構成される。よって、便器装置10全体のデザインを設計するうえで、便器本体12の形状にとらわれずに、前カバー部44を含む便座14の形状によりデザイン設計をでき、その自由度が高まる。
【0056】
また、前カバー部44には緩衝材110が設けられるため、前カバー部44とベース部30とが衝突したときの衝撃を緩衝材110により吸収できる。また、前カバー部44は、ベース部30の位置決め部108との係合により閉位置に位置決めされる。ここで、両者が当たるときに音が発生するが、両者が当たるときの衝撃を緩衝材110により吸収できるため、その音の大きさを低減できる。
【0057】
また、前カバー部44との係合により前カバー部44の位置を決める位置決め部108が設けられるため、前カバー部44が閉位置にあるときに定位置に保持し易くなる。このため、前カバー部44が閉位置にあるとき、前カバー部44の対向端部68Aと後カバー部56の対向端部68Bとの輪郭線を揃え易くなり、各対向端部68A、68Bが三次元的に複雑な形状でも、これらの見栄えのよい定位置に前カバー部44を保持し易くなる。なお、位置決め部108による位置決めは、たとえば、便器装置10の施工時に、前カバー部44の前後左右での位置を調整するために用いられる。また、この他にも、前カバー部44を含む便座14を開位置から閉位置に移動させるときにも用いられる。
【0058】
また、ヒンジ機構40は便座14により隠蔽されるため、ヒンジ機構40を構成する部品間の隙間にホコリ、汚れ等の異物が溜まり難くなり、清掃時の作業性が良好になる。また、ヒンジ機構40が隠れるため、便器装置10の外観においてすっきりとした印象を与えられる。
【0059】
また、前カバー部44は着座部42と一体に設けられるため、前カバー部44とともに着座部42を閉位置から開位置に移動可能となる。よって、便器本体12の汚れの清掃時、便座14全体を閉位置から開位置に移動させるだけで、前カバー部44による便器本体12の被覆範囲や上面部22を露出させることができ、清掃作業時の作業性が良好になる。
【0060】
[第2の実施の形態]
図9は第2実施形態に係る便器装置10の側面断面図であり、
図10はその正面断面図である。
便器本体12は、第1実施形態と同様、便鉢16を有するが、上面部22、周壁部28、ベース部30は設けられない。便鉢16は下流側の排水通路部114に連通する。排水通路部114の下流側端部114Aは、トイレ室の床面60から引き出される排水管(図示せず)に接続され、排水管を通して下水路に接続される。便鉢16や排水通路部114は便器本体12の外部に露出する。
【0061】
便座14の着座部42は便器本体12上に配置され、溶着、接着等により接合して一体化される。このとき、便器本体12と便座14の着座部42の間に形成される境界部64を開口中心点P1周りの全周に亘る範囲で塞ぐように接合する。これにより、便器本体12と便座14の着座部42の間を通して前後左右への汚水の流出が遮られるように構成される。
【0062】
前カバー部44は、便器本体12の全周に亘る範囲を前後左右から囲んで覆う。本実施形態にて前カバー部44が便器本体12を覆う範囲は、第1実施形態にて前カバー部44と後カバー部56が便器本体12を覆う範囲と同様である。
【0063】
排水通路部114には第1トラップ部116が設けられる。第1トラップ部116には、排水通路部114の通水方向の途中位置から下降する第1上流側下降流路118と、第1上流側下降流路118から上昇する第1上昇流路120と、第1上昇流路120から下降する第1下流側下降流路122とが連続して形成される。第1トラップ部116では、第1上流側下降流路118と第1上昇流路120との内部に第1封水124が貯溜され、排水通路部114の通水方向での空気の流れが第1封水124により遮断される。
【0064】
便鉢16の上端内周部にはオーバーフロー口126が形成される。オーバーフロー口126と排水通路部114の第1下流側下降流路122とは迂回通路部128により連通される。迂回通路部128には第2トラップ部130が設けられる。第2トラップ部130には、迂回通路部128の通水方向の途中位置から下降する第2上流側下降流路132と、第2上流側下降流路132から上昇する第2上昇流路134と、第2上昇流路134から下降する第2下流側下降流路136とが連続して形成される。第2トラップ部130では、第2上流側下降流路132と第2上昇流路134との内部には第2封水138が貯溜され、迂回通路部128の通水方向での空気の流れが第2封水138により遮断される。
【0065】
以上の便器装置10の作用効果を説明する。
本形態に係る便器装置10では、便器本体12と着座部42の間の境界部64を塞ぐように接合されるため、その境界部64を通しての汚水の流出が遮られる。ここで、境界部64での接着不良等により境界部64から汚水が流出した場合でも、第1実施形態と同様、前カバー部44によって汚水の飛散が遮られるうえ、便器本体12の外面部と衣類等との接触を防止できる。よって、汚水による衣類等の汚れを効果的に抑えられる。
【0066】
また、本形態に係る便器装置10でも、前カバー部44と床面60の間の隙間が狭くなるように設計しているため、その隙間にユーザの衣類等が入り込みにくくなり、前カバー部44への衣類等の引っかかりを防止でき、使い勝手が良好になる。
【0067】
排水通路部114の詰まりにより汚水が溢れると、便座14の開口18を通して流出する汚水によりユーザの臀部が濡れかねない。この点、本形態ではオーバーフロー口126が形成されるため、汚水が溢れたときでも迂回通路部128を通して汚水を下水路に流せ、汚水の溢れを防止できる。
【0068】
また、便器本体12に便座14が一体化されるため、便座14を開閉できなくなる。よって、立位姿勢での男性の放尿による便座14の汚れを防ぐため、着座姿勢での放尿を男性ユーザにうながせるようになり、便器本体12の汚れを防止できる。
【0069】
[第3の実施の形態]
図11(a)は第3実施形態に係る便器装置10の外観を示す側面図であり、
図11(b)は側面断面図であり、
図12は便座14が開位置にある状態を示す側面断面図である。
第1実施形態では前カバー部44が便座14の着座部42と一体に設けた例を説明した。本実施形態に係る前カバー部44は、便座14の着座部42と分離して別体に構成される。前カバー部44は、便器本体12のベース部30にねじ等の固定具(図示せず)により固定される。前カバー部44は、便器本体12の全周に亘る範囲を前後左右から囲んで覆う。
【0070】
前カバー部44の上端辺部44Bは、便器本体12の上面部22の上面より高位置に設けられる。便座14は、便器本体12の上面部22上に載置される閉位置にあるとき、前カバー部44との間での隙間がなくなるように、便器本体12の前側、左右両横側において、前カバー部44の上端辺部44Bに載せられる。また、前カバー部44の後部には、便座14がヒンジ機構40により開閉するときに、前カバー部44との干渉を避けるための隙間142が設けられる。
【0071】
なお、便座14の着座部42と前カバー部44との間での隙間をなくすため、前カバー部44の上端辺部44Bを便器本体12の上面部22より高位置に設ける代わりに、便座14の着座部42の外周部から垂下する垂下部を設けてもよい。この場合、前カバー部44の上端辺部44Bは、便器本体12の上面部22の上面と同じ高さ又は低位置に設けられる。また、便座14の垂下部は、便座14と前カバー部44との間での隙間がなくなるように、便器本体12の前側、左右両横側において、前カバー部44の上端辺部44Bに載せられる。
【0072】
以上の第1〜第3実施形態に係る発明を一般化すると、便器装置10は、着座部42の外周部から垂下するように設けられ、便器本体12の上端部12Bから下部12Cにかけての範囲を少なくとも覆うカバー体140を備えるという技術的思想が導かれる。このカバー体140とは、第1実施形態では前カバー部44と後カバー部56が対応し、第2実施形態、第3実施形態では前カバー部44が対応する。第1実施形態では、第1カバー部としての前カバー部44と第2カバー部としての後カバー部56によりカバー体140が構成される。
【0073】
また、別の観点からは、便器装置10は、着座部42の外周部から垂下するように設けられ、便器本体12を前側及び横側から覆うカバー体140を備えるという技術的思想が導かれる。このカバー体140とは、第1実施形態では前カバー部44と後カバー部56が対応し、第2実施形態、第3実施形態では前カバー部44が対応する。
【0074】
ここで、単一の前カバー部44により便器本体12を前後左右から囲んで覆う場合であって、便座14と一体に前カバー部44を設ける場合を仮定する。このとき、便座14とともに前カバー部44が一体に移動すると、前カバー部44が便器本体12と干渉し易くなってしまう。この点、第1実施形態のように、分離して設けられる前カバー部44と後カバー部56により便器本体12を前後左右から囲んで覆う場合、便座14とともに前カバー部44が一体に移動しても、前カバー部44が便器本体12と干渉し難くなり、便座14を開閉させ易くなる。
【0075】
カバー体140は、便器本体12の上端部12Bから床面60近傍にかけての範囲を覆う例を説明したが、便器本体12の上端部12Bから下側にかけての範囲を少なくとも部分的に覆えばよい。たとえば、カバー体140は、便器本体12の上部のみを覆ってもよい。また、別の観点からは、前カバー部44や後カバー部56は、便器本体12の上端部12Bから下端部近傍にかけての範囲を覆うように設けると好ましい。ここでの下端部「近傍」とは、便器本体12の上端から下端までの高さ寸法をH
1[m]としたとき、便器本体12の上端から少なくとも0.9×H
1の範囲を覆う趣旨である。
【0076】
カバー体140は、便器本体12の全周に亘る範囲を前後左右から囲んで覆う例を説明したが、便器本体12を少なくとも前側及び横側から覆えばよい。このとき、カバー体140は、便器本体12を左右両横側から覆ってもよいし、一方の横側からのみ覆ってもよい。また、便器本体12を横側から覆ううえでは、便器本体12の前端部12Aから後部にかけての範囲を横側から覆ってもよいし、便器本体12の前部のみを横側から覆ってもよい。
【0077】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示すにすぎない。また、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が可能である。
【0078】
便器装置10は、トイレ室の床面60上に便器本体12が設置される床置き式大便器として構成される例を説明したが、トイレ室の側壁面に設置される壁置き式大便器として構成されてもよい。
【0079】
位置決め部108は、便器本体12の下端部に設けられたベース部30の前端部30Aである例を説明した。位置決め部108は、カバー体が閉位置にあるときに、カバー体と係合することにより、カバー体の位置を決められればよく、その設けられる位置はベース部30の前端部30Aに限られない。また、位置決め部108は、便器本体12の一部であってもよいし、便器本体12とは別部材でもよい。
【0080】
緩衝材110は、前カバー部44の下端部44Aの内周面に装着される例を説明した。緩衝材110は、カバー体が変位して、カバー体の下側又は内側に配置される物体とカバー体とが衝突するときに、そのカバー体と物体の間に挟まる位置に装着されていればよい。ここでの物体とは、第1実施形態では、前カバー部44の内側に配置される便器本体12のベース部30が該当するが、この他にも、便器本体12のベース部30以外の部位や、前カバー部44の下側に配置されるトイレ室の床面60等でもよい。また、緩衝材110の装着位置は前カバー部44である例を説明したが、前カバー部44と衝突し得る物体であるベース部30、便器本体12、床面60等に装着されてもよい。
【0081】
ヒンジ機構40は、着座部42が閉位置にあるとき、着座部42により隠蔽される例を説明したが、閉位置にあるときに露出するように構成されてもよい。また、ヒンジ機構40は、便器本体12の上面部22の延出部26、つまり、便器本体12の後方に設置される例を説明したが、便器本体12の側方、前方に設置されてもよい。
【0082】
ヒンジ機構40が有する位置保持機構はフリーストップヒンジ構造を例に説明したが、位置保持機構はこれに限られない。この他の例として、位置保持機構は、便器側ヒンジ部102と便座側ヒンジ部104の角度を保持可能なロック機構でもよい。このロック機構では、押しボタン等の操作部の操作により、角度を保持するロック状態と、ロック状態を解除する解除状態とを切り替え可能である。
【0083】
また、ヒンジ機構40は位置保持機構を含んだが、位置保持機構はヒンジ機構40と別体に設けられてもよい。この場合、位置保持機構は、たとえば、ストッパにより構成されてもよい。ストッパは、押しボタン等の操作部の操作により係合位置と退避位置の間を移動可能である。ストッパは、係合位置にあるとき、便座14と係合して便座14の自重による回転力に抗して便座14を開位置に保持する。また、ストッパは、退避位置にあるとき便座14と係合不能となり、便座14が開位置と閉位置との間を移動自在となる。いずれにしても、位置保持機構は、便座14の自重による回転力に抗して便座14を開位置に停止させた状態で保持できればよい。
【0084】
また、ヒンジ機構40は位置保持機構の代わりに、便座14の開位置から閉位置に向けての回動動作に対して制動力を与えるスローダウン機構を含んでもよい。スローダウン機構は、たとえば、公知のロータリーダンパやトルクヒンジ等により構成される。ロータリーダンパは、ヒンジ軸106に対してオイル等による粘性抵抗を作用させて制動力を与える。トルクヒンジは、ヒンジ軸106に対してバネ等によるトルクを作用させて制動力を与える。便座14の着座部42が前カバー部44と一体に設けられる場合、その全重量が比較的に重くなり、開位置から閉位置に移動するときの速度が高まり易くなる。この点、スローダウン機構があれば、開位置から閉位置にゆっくりと降ろせ、閉位置に止まるときの衝撃や音を小さくできる。
【0085】
便器装置10は、後カバー部56に給水管用の管穴78が形成される例を説明した。排水管や給水管がトイレ室の側壁面から引き出される場合、給水管用の管穴78の他に、排水管用の管穴を設けてもよい。各管の両方が床面から引き出される場合、後カバー部56に管穴78を設けなくともよい。
【0086】
後カバー部56は、第2固定具86、第4固定具100の締め付けの調整により便器本体12に対して位置調整可能に固定される例を説明した。後カバー部56は、この他にも、面ファスナー、嵌め合い等を用いて便器本体12に対して位置調整可能に固定されてよい。ここで面ファスナーを用いた場合、面ファスナーが固定具であるともとらえられる。
【0087】
前カバー部44と後カバー部56の境目69を形成する対向端部68A、68Bは、それらの輪郭線が三次元的に揃うように設けられたが、揃えられていなくともよい。また、便器本体12の下端部に設けられるベース部30は便器本体12と別体に構成される例を説明したが、これらは一体に構成されてもよい。