(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6422294
(24)【登録日】2018年10月26日
(45)【発行日】2018年11月14日
(54)【発明の名称】電子モジュール用基板の製造方法及び電子モジュール用基板
(51)【国際特許分類】
H01L 23/12 20060101AFI20181105BHJP
H01L 23/13 20060101ALI20181105BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20181105BHJP
B23K 20/04 20060101ALI20181105BHJP
B23K 1/00 20060101ALI20181105BHJP
B23K 1/20 20060101ALI20181105BHJP
H05K 3/34 20060101ALI20181105BHJP
【FI】
H01L23/12 J
H01L23/12 C
H01L23/36 C
B23K20/04 B
B23K1/00 330E
B23K1/20 H
H05K3/34 501Z
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-206593(P2014-206593)
(22)【出願日】2014年10月7日
(65)【公開番号】特開2016-76619(P2016-76619A)
(43)【公開日】2016年5月12日
【審査請求日】2017年7月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 久義
(72)【発明者】
【氏名】南 和彦
(72)【発明者】
【氏名】平野 智哉
【審査官】
木下 直哉
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−072314(JP,A)
【文献】
特開平11−354699(JP,A)
【文献】
特開平10−270612(JP,A)
【文献】
特開2014−050847(JP,A)
【文献】
特開2012−248697(JP,A)
【文献】
特開2013−235936(JP,A)
【文献】
特開2013−222758(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 1/00−3/08
B23K 20/00−20/26
B23K 31/02
B23K 33/00
H01L 23/12−23/15
H01L 23/29
H01L 23/34−23/36
H01L 23/373−23/427
H01L 23/44
H01L 23/467−23/473
H05K 3/32−3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層状に一体化された複数の部材を具備し、
前記複数の部材として、電子素子がはんだ付けにより接合される上面を有するNi又はNi合金で形成されたNi板と、金属回路板と、絶縁板とを少なくとも含む、電子モジュール用基板の製造方法であって、
複数の部材のうち少なくとも互いに重なり合う二つの部材をろう付けにより接合することと、
前記ろう付け時に前記Ni板の上面に形成された酸化膜を、水素還元法により除去することを含み、
前記Ni板は圧延材からなる電子モジュール用基板の製造方法。
【請求項2】
前記複数の部材として、更に、金属緩衝板と冷却部材とを含んでいる請求項1記載の電子モジュール用基板の製造方法。
【請求項3】
前記金属回路板は、前記Ni板とは異種の金属板を少なくとも一枚含んでおり、
前記Ni板と前記金属回路板は、前記二つの部材をろう付けにより接合する前に、拡散接合により互いに積層状に接合一体化されたものである請求項1又は2記載の電子モジュール用基板の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれに記載の電子モジュール用基板の製造方法により製造された電子モジュール用基板。
【請求項5】
積層状に一体化された複数の部材を具備し、
前記複数の部材として、電子素子がはんだ付けにより接合される上面を有するNi又はNi合金で形成されたNi板と、金属回路板と、絶縁板とを少なくとも含む、電子モジュール用基板であって、
複数の部材のうち少なくとも互いに重なり合う二つの部材がろう付けにより接合されており、
ろう付け時にNi板の上面に形成された酸化膜が、水素還元法により除去されており、
前記Ni板は圧延材からなる電子モジュール用基板。
【請求項6】
前記複数の部材として、更に、金属緩衝板と冷却部材とを含んでいる請求項5記載の電子モジュール用基板。
【請求項7】
前記金属回路板は、前記Ni板とは異種の金属板を少なくとも一枚含んでおり、
前記Ni板と前記金属回路板は、拡散接合により互いに接合一体化されている請求項5又は6記載の電子モジュール用基板。
【請求項8】
請求項4〜7のいずれかに記載の電子モジュール用基板におけるNi板の上面に、電子素子をはんだ付けにより接合する電子モジュールの製造方法。
【請求項9】
請求項4〜7のいずれかに記載の電子モジュール用基板におけるNi板の上面に、電子素子がはんだ付けにより接合されている電子モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子素子が搭載される電子モジュール用基板の製造方法、電子モジュール用基板、電子モジュールの製造方法、及び電子モジュールに関する。
【0002】
なお、本発明に係る電子モジュール用基板の上下方向は限定されるものではないが、本明細書及び特許請求の範囲では、基板の構成を理解し易くするため、基板における電子素子がはんだ付けにより接合される面側を上面側、その反対側を下面側と定義する。
【0003】
さらに本明細書及び特許請求の範囲では、「板」の語は、特に明示する場合を除き「箔」も含む意味で用いられる。
【背景技術】
【0004】
発熱性の半導体素子等の電子素子が搭載される電子モジュール用基板は、積層状に一体化された複数の部材を具備している。複数の部材は、電子回路が形成される金属回路板、電気絶縁性を有する絶縁板、電子素子を冷却する冷却部材(放熱部材を含む)などを含んでいる。そして、金属回路板と絶縁板は互いに重ね合わされて所定の接合手段(例:ろう付け、拡散接合)により接合一体化されている。さらに、絶縁板と冷却部材とは所定の接合手段(例:はんだ付け、ろう付け、拡散接合)により接合一体化されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
金属回路板の上面には電子素子がはんだ付けにより接合される。そこで、金属回路板の上面が良好なはんだ付け性を有するようにするため、基板の製造後に金属回路板上にNiPめっき等のNiめっき層を形成することが行われている。
【0006】
しかしながら、上述の方法では、金属回路板の上面だけではなく基板全体にNiめっき層が形成され、更に、Niめっき処理はその工程が複雑であるため、製造コストが高く付いていた。しかも、Niめっき層中に有機物等の不純物が存在する可能性があるので、不純物の影響によりはんだ付け強度が低下する虞があった。その上、Niめっき層がNiPめっき層である場合には、Niめっき層中にPが存在しているため、長期的な保管時にはんだ濡れ性が悪化する虞があった。
【0007】
そこで近年、金属回路板の上面にNi又はNi合金で形成されたNi板を接合する方法が提案されている(例えば、特許文献2〜14参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−153075号公報
【特許文献2】特開2011−183797号公報
【特許文献3】特開2012−4534号公報
【特許文献4】特開2012−104539号公報
【特許文献5】特開2011−227356号公報
【特許文献6】特開2012−240066号公報
【特許文献7】特開2012−248697号公報
【特許文献8】特開2013−219134号公報
【特許文献9】特開2013−222758号公報
【特許文献10】特開2013−222909号公報
【特許文献11】特開2013−235936号公報
【特許文献12】特開2014−50847号公報
【特許文献13】特開2014−160763号公報
【特許文献14】特開2014−160764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述の方法では、基板を構成する複数の部材のうち少なくとも互いに重なり合う二つの部材をろう付けにより接合一体化する時にNi板の上面に酸化膜が形成され易い。酸化膜が形成されるとNi板の上面のはんだ濡れ性が低下するため、ろう付け後に酸化膜を除去する必要がある。その除去方法として湿式バフ研磨が考えられる。しかし、この方法の場合、研磨時に水分がNi板の上面に吸着し、はんだ濡れ性が低下する虞がある。
【0010】
本発明は、上述した技術背景に鑑みてなされたもので、その目的は、はんだ濡れ性が良好な上面を有する電子モジュール用基板の製造方法、電子モジュール用基板、電子モジュールの製造方法、及び、電子モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は以下の手段を提供する。
【0012】
[1] 積層状に一体化された複数の部材を具備し、
前記複数の部材として、電子素子がはんだ付けにより接合される上面を有するNi又はNi合金で形成されたNi板と、金属回路板と、絶縁板とを少なくとも含む、電子モジュール用基板の製造方法であって、
複数の部材のうち少なくとも互いに重なり合う二つの部材をろう付けにより接合することと、
前記ろう付け時に前記Ni板の上面に形成された酸化膜を、水素還元法により除去することを含む、電子モジュール用基板の製造方法。
【0013】
[2] 前記Ni板は圧延材からなる前項1記載の電子モジュール用基板の製造方法。
【0014】
[3] 前記複数の部材として、更に、金属緩衝板と冷却部材とを含んでいる前項1又は2記載の電子モジュール用基板の製造方法。
【0015】
[4] 前記金属回路板は、前記Ni板とは異種の金属板を少なくとも一枚含んでおり、
前記Ni板と前記金属回路板は、前記二つの部材をろう付けにより接合する前に、拡散接合により互いに積層状に接合一体化されたものである前項1〜3のいずれかに記載の電子モジュール用基板の製造方法。
【0016】
[5] 前項1〜4のいずれに記載の電子モジュール用基板の製造方法により製造された電子モジュール用基板。
【0017】
[6] 積層状に一体化された複数の部材を具備し、
前記複数の部材として、電子素子がはんだ付けにより接合される上面を有するNi又はNi合金で形成されたNi板と、金属回路板と、絶縁板とを少なくとも含む、電子モジュール用基板であって、
複数の部材のうち少なくとも互いに重なり合う二つの部材がろう付けにより接合されており、
ろう付け時にNi板の上面に形成された酸化膜が、水素還元法により除去されている、電子モジュール用基板。
【0018】
[7] 前記Ni板は圧延材からなる前項6記載の電子モジュール用基板。
【0019】
[8] 前記複数の部材として、更に、金属緩衝板と冷却部材とを含んでいる前項6又は7記載の電子モジュール用基板。
【0020】
[9] 前記金属回路板は、前記Ni板とは異種の金属板を少なくとも一枚含んでおり、
前記Ni板と前記金属回路板は、拡散接合により互いに接合一体化されている前項6〜8のいずれかに記載の電子モジュール用基板。
【0021】
[10] 前項5〜9のいずれかに記載の電子モジュール用基板におけるNi板の上面に、電子素子をはんだ付けにより接合する電子モジュールの製造方法。
【0022】
[11] 前項5〜9のいずれかに記載の電子モジュール用基板におけるNi板の上面に、電子素子がはんだ付けにより接合されている電子モジュール。
【発明の効果】
【0023】
本発明は以下の効果を奏する。
【0024】
前項[1]では、Ni板の上面に形成された酸化膜を水素還元法により除去することにより、Ni板の上面において酸化膜により低下したはんだ濡れ性を回復することができる。さらに、水素還元法によれば水を用いないで酸化膜を除去できるので、水分がNi板の上面に吸着することによるはんだ濡れ性の低下問題も回避することができる。したがって、はんだ濡れ性が良好な上面を有する基板を得ることができる。
【0025】
前項[2]では、Ni板が圧延材からなるものなので、Ni板の上面はNiめっき層の上面よりも平坦であり、はんだ濡れ性が良好である。しかも、Ni板の平坦な上面には酸化膜も平坦に形成されるから、酸化膜を水素還元法により除去し易い。したがって、酸化膜を容易に除去することができるし酸化膜の除去率を向上させることができる。
【0026】
前項[3]では、更に、金属緩衝板と冷却部材とを備えた基板を製造する場合であっても、前項[1]又は[2]の効果を奏し得る。
【0027】
前項[4]では、金属回路板を構成する金属板の枚数、材質、厚さ等を様々に変更することにより、金属回路板の性能の向上を図ることができる。
【0028】
前項[5]では、はんだ濡れ性が良好な上面を有する基板を提供できる。
【0029】
前項[6]〜[9]では、それぞれ前項[1]〜[4]の効果と同様の効果を奏し得る。
【0030】
前項[10]及び[11]では、基板におけるNi板の上面に電子素子がはんだ付けにより良好に接合された電子モジュールを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る電子モジュール用基板の概略断面図である。
【
図2】
図2は、同基板を製造途中の状態で示す断面図である。
【
図3】
図3は、同基板をそのNi板の上面に酸化膜が形成された状態で示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
次に、本発明の一実施形態について図面を参照して以下に説明する。
【0033】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る電子モジュール用基板10は、発熱性の半導体素子等の電子素子(二点鎖線で示す)11が搭載されるものであり、例えば、パワーモジュール用基板等の半導体モジュール用基板である。
【0034】
基板10は、積層状に一体化された複数の部材から構成されており、
図2に示すように、複数の部材として、Ni板1、金属回路板4、絶縁板6、金属緩衝板7、冷却部材8などを含んでいる。金属回路板4はNi板1の下側に配置されており、絶縁板6は金属回路板4の下側に配置されており、金属緩衝板7は絶縁板6の下側に配置されており、冷却部材8は金属緩衝板7の下側に配置されている。
【0035】
Ni板1は、Ni又はNi合金で形成された圧延材からなるものである。Ni板1の上面1aは電子素子11が搭載される素子搭載面に対応している。すなわち、電子素子11はNi板1の上面1aにはんだ付けにより接合される。本実施形態では、Ni板1は例えば純Ni板である。
【0036】
金属回路板4は、Ni板1とは異なる種類の金属板を少なくとも一枚含むものであり、本実施形態では、Ti板2とAl板3を含んでいる。そして、Ni板1と金属回路板4、即ちNi板1とTi板2とAl板3とは、拡散接合(例:クラッド圧延、放電プラズマ焼結法)により積層状に接合一体化されており、これにより、Ni板1と金属回路板4(Ti板2とAl板3)とを一体に備えた積層板5が形成されている。さらに、金属回路板4の下面、即ちAl板3の下面には絶縁板6と接合するためのろう材層9aが形成されている。ろう材層9aは例えばAl系ろう材(例:Al−Si系、Al−Si−Mg系ろう材)の層である。
【0037】
Ti板2は、Ti又はTi合金で形成された圧延材からなるものであり、Ni板1の下側に配置されている。
【0038】
Al板3は、Al又はAl合金で形成された圧延材からなるものであり、Ti板2の下側に配置されている。
【0039】
Ni板1とTi板2は、本実施形態では、拡散接合としてのクラッド圧延により互いに接合一体化されている。これにより、Ni板1とTi板2との接合界面にはNi板1中のNiとTi板2中のTiとが合金化してなる薄いNi−Ti合金層(図示せず)が拡散接合層として介在形成されている。
【0040】
Ti板2とAl板3は、本実施形態では、拡散接合としてのクラッド圧延により互いに接合一体化されている。これにより、Ti板2とAl板3との接合界面にはTi板2中のTiとAl板3中のAlとが合金化してなる薄いAl−Ti合金層(図示せず)が拡散接合層として介在形成されている。
【0041】
さらに、金属回路板4の下面に形成されたろう材層9aは、金属回路板4の下面にクラッド圧延により接合されたろう材板からなるものである。
【0042】
絶縁板6は、電気絶縁性を有するものであり、セラミック板からなる。セラミックとしては、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ケイ素(Si
3N
4)、アルミナ(Al
2O
3)、炭化ケイ素(SiC)、酸化イットリウム(Y
2O
3)、酸化カルシウム(CaO)、窒化ホウ素(BN)、酸化ベリリウム(BeO)等が用いられる。
【0043】
金属緩衝板7は、基板10に発生する熱応力等の応力を緩和するためのものである。金属緩衝板7の材質はアルミニウム(アルミニウム合金を含む)等の金属である。具体的には金属緩衝板7は複数の孔7aを有するパンチングメタル板で形成されている。さらに、金属緩衝板7の上面及び下面にそれぞれろう材層9bが形成されている。各ろう材層9bは、例えばAl系ろう材(例:Al−Si系、Al−Si−Mg系ろう材)の層であり、金属緩衝板7の上面及び下面にそれぞれクラッド圧延によりクラッドされたろう材板からなる。
【0044】
冷却部材8は、電子素子11の動作時に発熱する電子素子11を冷却するものであり、例えば、アルミニウム(アルミニウム合金を含む)等の金属製である。本実施形態では、冷却部材8として、電子素子11から発生した熱を放散する、複数の放熱フィン8aを有するヒートシンク(放熱部材)が用いられている。
【0045】
なお本発明では、冷却部材8はヒートシンクであることに限定されるものではなく、その他に例えば冷却器であっても良い。この場合、冷却器は通常、水等の冷媒が流通する冷媒通路を有している。
【0046】
次に、本実施形態の基板10の製造方法について以下に説明する。
【0047】
図2に示すように、上から順に積層板5、絶縁板6、金属緩衝板7及び冷却部材8を積層状に配置する。積層板5は、上述したように、Ni板1と金属回路板4としてのTi板2とAl板3とが予め積層状に接合一体化されたものであり、更に、積層板5の下面にろう材層9aが形成されている。金属緩衝板7は、上述したようにその上面及び下面にそれぞれろう材層9bが予め形成されている。
【0048】
そして、
図3に示すように、これらの部材のうち少なくとも互いに重なり合う二つの部材をろう付けにより接合一体化する。この工程を「ろう付け工程」という。本実施形態では、これらの部材をろう付けにより一括して接合一体化する。そのろう付け手段及び条件は、これらの部材を強固に接合可能な手段及び条件であれば限定されるものではないが、ろう付け手段は特に真空ろう付けであることが望ましく、この場合、そのろう付け条件は、真空度1×10
-3〜1×10
-5Pa、ろう付け温度590〜610℃、その保持時間3〜60minであることが特に望ましい。
【0049】
なお本発明では、これらの部材は一括ろう付けにより接合されることに限定されるものではなく、その他に例えば、これらの部材を個別にろう付けにより接合しても良い。すなわち具体的に例示すると、積層板5と絶縁板6をろう付けにより接合一体化し、次いで絶縁板6と金属緩衝板7をろう付けにより接合一体化し、その後、金属緩衝板7と冷却部材8をろう付けにより接合一体化しても良いし、この逆の順番でこれらの部材をろう付けにより接合しても良い。さらに、これらの部材のうち互いに重なり合う二つの部材だけをろう付けにより接合一体化し、残りの部材をろう付け以外の接合手段により接合しても良いし、これらの部材のうちの三つ以上の部材をろう付けにより接合一体化し、残りの部材をろう付け以外の接合手段により接合しても良い。
【0050】
ろう付け以外の接合手段としては、締結部材(例:ボルト、ネジ)を用いた締結や、拡散接合(例:クラッド圧延、放電プラズマ焼結法)などが適用される。
【0051】
上述のろう付け工程を行うことにより、
図3に示すように、Ni板1の上面1aにその略全体に亘って厚さ0.001〜0.5μm程度の酸化膜(詳述するとNi酸化膜)15がろう付け時に形成される。この酸化膜15は、Ni板1の上面1aのはんだ濡れ性を低下させる。
【0052】
そこで、ろう付け工程の後で酸化膜15を水素還元法により除去する。この工程を「酸化膜除去工程」という。
【0053】
水素還元法による酸化膜15の除去条件は限定されるものではないが、特に次の条件であることが酸化膜15を確実に除去できる点等で好ましい。
【0054】
望ましい水素還元雰囲気は、水素:窒素の体積割合が3〜50体積%:50〜97体積%の雰囲気である。望ましい雰囲気圧力は10〜1013hPaである。望ましい加熱温度は250〜400℃である。加熱温度の望ましい保持時間は3〜60minである。
【0055】
以上の工程を経ることにより、
図1に示した本実施形態の基板10が得られる。
【0056】
基板10において、Ni板1と金属回路板4(詳述するとTi板2)との間には上述したように両者1、4(2)を接合した拡散接合層として薄いNi−Ti合金層(図示せず)が介在形成されている。金属回路板4におけるTi板2とAl板3との間には上述したように両者2、3を接合した拡散接合層として薄いAl−Ti合金層(図示せず)が介在形成されている。金属回路板4(詳述するとAl板3)と絶縁板6との間には両者4(3)、6を接合したろう材層9aが介在形成されている。絶縁板6と金属緩衝板7との間には両者6、7を接合したろう材層9bが介在形成されている。金属緩衝7と冷却部材8との間には両者7、8を接合したろう材層9bが介在形成されている。
【0057】
次いで、基板10のNi板1の上面1aに電子素子11をリフロー等のはんだ付けにより接合する。この工程を「はんだ付け工程」という。これにより、本実施形態の電子モジュール12が得られる。
【0058】
上記実施形態の基板10の製造方法では、Ni板1の上面1aに形成された酸化膜15を水素還元法により除去するので、Ni板1の上面1aにおいて酸化膜15により低下したはんだ濡れ性を回復できる。さらに、水素還元法によれば水を用いないで酸化膜15を除去できるので、水分がNi板1の上面1aに吸着することによるはんだ濡れ性の低下問題も回避できる。したがって、はんだ濡れ性が良好な上面1aを有する基板10を得ることができる。よって、基板10の上面1aに電子素子11をはんだ付けにより良好に接合することができる。
【0059】
さらに、Ni板1は圧延材からなるので、一般的にNi板1の上面1aはNiめっき層の上面よりも平坦であり、よってはんだ濡れ性が良好である。しかも、Ni板1の平坦な上面1aには酸化膜15も平坦に形成されるから、酸化膜15を水素還元法により除去し易い。したがって、酸化膜15を容易に且つ略完全に除去することができる。
【0060】
また金属回路板4は、Ni板1とは異種の金属板を少なくとも一枚含んでいるので、金属回路板4を構成する金属板(2、3)の枚数、材質、厚さ等を様々に変更することにより、金属回路板4の性能の向上を図ることができる。さらに、Ni板1と金属回路板4は、ろう付け工程の前に、拡散接合としてのクラッド圧延により互いに積層状に接合一体化されたものであるから、ろう付け工程で接合される部材の数を減らすことができ、これによりろう付け工程を容易に行うことがきる。
【0061】
以上で本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に示したものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々に変更可能である。
【0062】
上記実施形態では、金属回路板4を構成する金属板(2、3)の枚数は二枚であるが、本発明ではその他に一枚だけであっても良いし、二枚や三枚以上であっても良い。
【0063】
また上記実施形態では、積層板5は、Ni板1と金属回路板4としてのTi板2とAl板3とが互いに積層状に接合一体化されたものであるが、本発明では、積層板5はこれに限定されるものではなく、その他に例えば、金属回路板4がTi板2だけを備えたものであってNi板1と金属回路板4としてのTi板2とが互いに積層状に接合一体化されたものであっても良いし、あるいは、金属回路板4がAl板3だけを備えたものであってNi板1と金属回路板4としてのAl板3とが互いに接合一体化されたものであっても良い。
【0064】
さらに本発明では、Ni板1と金属回路板4はろう付け工程の前で接合一体化されたものであることに限定されず、その他に例えば、ろう付け工程の前ではNi板1と金属回路板4とは接合されずに分離されていて、ろう付け工程にてNi板1と金属回路板4とをろう付けにより接合一体化しても良い。
【実施例】
【0065】
次に、本発明の具体的実施例及び比較例を示す。ただし本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0066】
<実施例>
Ni板と金属回路板としてのAl板とがクラッド圧延により積層状に接合一体化されてなる積層板と、絶縁板と、金属緩衝板と、冷却部材とをそれぞれ準備した。
【0067】
積層板において、Ni板としてJIS(日本工業規格)1種の純ニッケル板を用いた。Ni板の平面視形状は正方形状であり、その一辺の長さは25mmであり、その厚さは0.03mmである。さらに、Ni板は圧延材からなるものである。
【0068】
積層板において、Al板として純度99.99%の高純度アルミニウム板を用いた。Al板の平面視形状はNi板と同じでありであり、その一辺の長さもNi板と同じであり、その厚さは0.6mmである。さらに、Al板は圧延材からなるものである。
【0069】
絶縁板として窒化アルミニウム(AlN)板を用いた。絶縁板の平面視形状は正方形状であり、その一辺の長さは27mmであり、その厚さは0.635mmである。
【0070】
金属緩衝板として、アルミニウム製のパンチングメタル板を用いた。金属緩衝板の平面視形状は正方形状であり、その一辺の長さは25mmであり、その厚さは1.6mmである。
【0071】
冷却部材として、アルミニウム製の冷却器を用いた。冷却器はその内部に冷媒水が流通する冷媒通路を有するものである。冷却器の冷却面の平面視形状は正方形状であり、その一辺の長さは50mmである。冷却器の厚さは5mmである。
【0072】
そして、上から順に積層板、絶縁板、金属緩衝板及び冷却部材を積層状に配置し、これらの部材を真空ろう付炉を用いた真空ろう付けにより一括して接合一体化した。その際のろう付け条件は、真空度1×10
-4Pa、ろう付け温度600℃、その保持時間30minであった。そして、炉内温度をろう付け温度から室温まで低下させる途中において炉内温度が560℃になった時に炉内に空気を導入して炉内を酸素雰囲気にした。これにより、積層板のNi板の上面にその全面に亘ってNi酸化膜が形成された。
【0073】
その後、水素還元炉を用いてNi酸化膜を水素還元法により除去した。その際の除去条件は次のとおりである。水素還元雰囲気は、水素:窒素の体積割合が45体積%:55体積%の雰囲気であり、その雰囲気圧力は1013hPa(即ち1atm)であった。加熱温度及びその保持時間は350℃×5minである。
【0074】
<比較例1>
金属回路板としてのAl板と、絶縁板と、金属緩衝板と、冷却部材とをそれぞれ準備し、Ni板は準備しなかった。Al板、絶縁板、金属緩衝板及び冷却部材の構成は上記実施例と同じである。そして、これらの部材を上記実施例と同じ条件で真空ろう付けにより一括して接合一体化した。その後、Al板の上面にNiPめっき層を常法に従って形成した。
【0075】
<比較例2>
Ni板と金属回路板としてのAl板とがクラッド圧延により積層状に接合一体化されてなる積層板と、絶縁板と、金属緩衝板と、冷却部材とをそれぞれ準備した。積層板、絶縁板、金属緩衝板及び冷却部材の構成は上記実施例と同じである。そして、これらの部材を上記実施例と同じ条件で真空ろう付けにより一括して接合一体化するとともに、当該ろう付け時に上記実施例と同じ条件で積層板のNi板の上面にNi酸化膜を形成した。その後、Ni酸化膜を湿式バフ研磨により除去した。
【0076】
<評価試験>
上記実施例の基板のNi板の上面、上記比較例1の基板のNiPめっき層の上面、及び、上記比較例2の基板のNi板の上面を、それぞれ基板の電子素子搭載面とみなし、この搭載面上にはんだシートを配置してリフローによる電子素子の接合条件と略同じ条件でリフロー処理を施した。そのリフロー条件は次のとおりである。
【0077】
リフロー雰囲気は、水素:窒素の体積割合が45体積%:55体積%の雰囲気であり、その雰囲気圧力は1013hPa(即ち1atm)であり、加熱温度及びその保持時間は300℃×5minであった。
【0078】
そして、各基板の電子素子搭載面におけるはんだ濡れ性の評価として、はんだ付け前のはんだシートに対するはんだ付け後のはんだシートの収縮率を調べた。その結果を表1に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
表1中の「評価」欄に記載の符号の意味は次のとおりである。
【0081】
◎:はんだシートの収縮率が5%以下
○:はんだシートの収縮率が5%を超え10%以下
△:はんだシートの収縮率が10%を超えた。
【0082】
表1に示すように、実施例の基板の電子素子搭載面であるNi板の上面は良好なはんだ濡れ性を有していることを確認し得た。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、電子素子が搭載される電子モジュール用基板の製造方法、電子モジュール用基板、電子モジュールの製造方法、及び、電子モジュールに利用可能である。
【符号の説明】
【0084】
1:Ni板
1a:Ni板の上面
2:Ti板
3:Al板
4:金属回路板
5:積層板
6:絶縁板
7:金属緩衝板
8:冷却部材
9a、9b:ろう材層
10:電子モジュール用基板
11:電子素子
12:電子モジュール