(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
無負荷時において平坦な振動面を有する第1振動電極、前記第1振動電極に対向して配置された第1背面電極、前記第1振動電極と前記第1背面電極との間に設けられた第1のマイクロギャップを含む誘電体領域とで第1のエレクトレット構造体を構成した第1のフィルム状エレクトレットセンサと、
無負荷時において平坦な振動面を有する第2振動電極、前記第2振動電極に対向して配置された第2背面電極、前記第2振動電極と前記第2背面電極との間に設けられた第2のマイクロギャップを含む誘電体領域とで第2のエレクトレット構造体を構成した第2のフィルム状エレクトレットセンサと、
前記第1のフィルム状エレクトレットセンサと前記第2のフィルム状エレクトレットセンサとの間に挿入され、前記第1のフィルム状エレクトレットセンサと前記第2のフィルム状エレクトレットセンサとを互いに接合する層間接着層と、
を備え、前記第1及び第2のフィルム状エレクトレットセンサのそれぞれの全体の音響インピーダンスが、被測定試料の音響インピーダンスよりも小さくなるように、前記第1及び第2のマイクロギャップが調整されていることを特徴とするデュアルエレクトレットセンサ。
無負荷時において平坦な振動面を有する第1振動電極、前記第1振動電極に対向して配置された第1背面電極、前記第1振動電極と前記第1背面電極との間に設けられた第1のマイクロギャップを含む誘電体領域とで第1のエレクトレット構造体を構成した第1のフィルム状エレクトレットセンサと、無負荷時において平坦な振動面を有する第2振動電極、前記第2振動電極に対向して配置された第2背面電極、前記第2振動電極と前記第2背面電極との間に設けられた第2のマイクロギャップを含む誘電体領域とで第2のエレクトレット構造体を構成した第2のフィルム状エレクトレットセンサと、前記第1のフィルム状エレクトレットセンサと前記第2のフィルム状エレクトレットセンサとの間に挿入され、前記第1のフィルム状エレクトレットセンサと前記第2のフィルム状エレクトレットセンサとを互いに接合する層間接着層とを備えるデュアルエレクトレットセンサを、被測定試料に密着させるステップと、
前記第1及び第2のフィルム状エレクトレットセンサのいずれか一方を送信用素子として、該送信用素子から前記被測定試料に対し、機械的振動を出射するステップと、
前記第1及び第2のフィルム状エレクトレットセンサのいずれか他方を受信用素子として、該受信用素子が前記被測定試料から前記機械的振動を受信するステップと、
前記受信用素子で受信した送受信波形のそれぞれのピーク強度と重心周波数を用いて前記被測定試料の硬さを測定するステップと、
を含み、前記第1及び第2のフィルム状エレクトレットセンサのそれぞれの全体の音響インピーダンスが、前記被測定試料の音響インピーダンスよりも小さくなるように、前記第1及び第2のマイクロギャップが調整されていることを特徴とする硬度測定方法。
無負荷時において平坦な振動面を有する第1振動電極、前記第1振動電極に対向して配置された第1背面電極、前記第1振動電極と前記第1背面電極との間に設けられた第1のマイクロギャップを含む誘電体領域とで第1のエレクトレット構造体を構成した第1のフィルム状エレクトレットセンサを構成する工程と、
無負荷時において平坦な振動面を有する第2振動電極、前記第2振動電極に対向して配置された第2背面電極、前記第2振動電極と前記第2背面電極との間に設けられた第2のマイクロギャップを含む誘電体領域とで第2のエレクトレット構造体を構成した第2のフィルム状エレクトレットセンサを構成する工程と、
前記第1のフィルム状エレクトレットセンサと前記第2のフィルム状エレクトレットセンサとの間に層間接着層を挿入して、前記第1のフィルム状エレクトレットセンサと前記第2のフィルム状エレクトレットセンサとを互いに接合する工程と、
を含み、前記第1及び第2のフィルム状エレクトレットセンサのそれぞれの全体の音響インピーダンスを、被測定試料の音響インピーダンスよりも小さくなるように、前記第1及び第2のマイクロギャップを調整することを特徴とするデュアルエレクトレットセンサの製造方法。
前記第1のフィルム状エレクトレットセンサを2つ折りに折り畳んで接着するステップを更に含むことを特徴とする請求項6に記載のデュアルエレクトレットセンサの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、図面を参照して、本発明の第1及び第2の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。又、第1及び第2の実施の形態で例示的に記述した各層の厚さや寸法等も限定的に解釈すべきではなく、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものであり、設計指針と要求される特性や仕様に応じて、種々の値に決定することが可能であることに留意すべきである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
又、以下に示す第1及び第2の実施の形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0013】
(第1の実施の形態)
図1に示すように、本発明の第1の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサ1は、無負荷時において平坦な振動面を有する第1振動板(26a,25a)、第1振動板(26a,25a)の振動面に対向した平坦な第1主面及びこの第1主面に平行に対向する第2主面で定義され、分極方向を揃えた第1エレクトレット層23a、第1エレクトレット層23aの第2主面に第1主面を接した第1背面電極22aを備える第1のフィルム状エレクトレットセンサと、第1のフィルム状エレクトレットセンサの第1背面電極22aの第2主面に第1主面を接した層間接着層(第1層間接着層)21aと、第1層間接着層21aの第2主面に第1主面を接し、無負荷時において平坦な振動面を有する第2振動板(26b,25b)、第2振動板(26b,25b)の振動面に対向した平坦な第2主面及びこの第2主面に平行に対向する第2主面で定義され、分極方向を揃えた第2エレクトレット層23b、第2エレクトレット層23bの第2主面に第1主面を接した第2背面電極22bを備える第2のフィルム状エレクトレットセンサと、第2のフィルム状エレクトレットセンサの第2背面電極22bの第2主面に第1主面を接した第2層間接着層21bと、第2層間接着層21bの第2主面に第1主面を接したシールド層28と、を備え、耐圧に優れたフィルム状のフレキシブル素子である。即ち、2枚のフィルム状エレクトレットセンサが第1層間接着層21aを介して積層された構造をなしている。
【0014】
図1において、第1振動板(26a,25a)と第1エレクトレット層23aと第1背面電極22aとで受信用素子1aを構成し、第2振動板(26b,25b)と第2エレクトレット層23bと第2背面電極22bとで送信用素子1bを構成している。
図1に示す第1の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサ1により、送信時の送信用素子1bの振動を受信用素子1aを用いて知ることができる。なお、
図1に示す第1の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサ1おいて、第1振動板(26a,25a)は、導電体からなる第1振動電極26aと第1振動電極26aの下面(第2主面)に第1主面を接した第1振動板絶縁層25aを備え、第2振動板(26b,25b)は、導電体からなる第2振動電極26bと第2振動電極26bの下面(第2主面)に第1主面を接した第2振動板絶縁層25bを備える。
【0015】
第1背面電極22aと第1エレクトレット層23aとは、金属学的に接合していてもよく、接着剤等により接着されていてもよく、或いは、機械的な圧力で単に接している状態でもよい。同様に、第2背面電極22bと第2エレクトレット層23bとは、金属学的に接合していてもよく、接着剤等により接着されていてもよく、或いは、機械的な圧力で単に接している状態でもよい。
第1エレクトレット層23a及び第2エレクトレット層23bは、電荷を帯び、電界を外部に放出している層であり、例えば、コロナ放電により高分子フィルムを帯電させたり、強誘電体を加熱して表面電荷を除去したりして製造する。そして、第1振動板絶縁層25aと第1エレクトレット層23aとの間には、粒径が10nm〜100μmの絶縁体の微粒子からなる第1スペーサ24a
i-2,24a
i-1,24a
i,24a
i+1,24a
1+2が挿入され、第1振動板絶縁層25aと第1エレクトレット層23aとの間に定義される「第1のマイクロギャップ」の間隔を制御している。同様に、第2振動板絶縁層25bと第2エレクトレット層23bとの間は、粒径が10nm〜100μmの絶縁体の微粒子からなる第2スペーサ24b
i-2,24b
i-1,24b
i,24b
i+1,24b
1+2が挿入され、第2振動板絶縁層25bと第2エレクトレット層23bとの間に定義される「第2のマイクロギャップ」の間隔を制御している。
【0016】
無負荷時には、第1エレクトレット層23aの第1主面は、第1振動板(26a,25a)の振動面に平行に対向し、第2エレクトレット層23bの第2主面は、第2振動板(26b,25b)の振動面に平行に対向している。第1の実施形態に係るフィルム状エレクトレットセンサにおいて、
図1に示したフッ素樹脂フィルム等からなる第1エレクトレット層23aと、第1エレクトレット層23aの下面に形成された第1背面電極22aと、第1エレクトレット層23aの上面に形成された複数の島状シリカ領域等からなる第1スペーサ24a
i-2,24a
i-1,24a
i,24a
i+1,24a
1+2とを備える積層構造体の全体によって「第1のエレクトレット構造体」が定義され、フッ素樹脂フィルム等からなる第2エレクトレット層23bと、第2エレクトレット層23bの下面に形成された第2背面電極22bと、第2エレクトレット層23bの上面に形成された複数の島状シリカ領域等からなる第2スペーサ24b
i-2,24b
i-1,24b
i,24b
i+1,24b
1+2とを備える積層構造体の全体によって「第2のエレクトレット構造体」が定義される。
【0017】
第1振動電極26aと第1エレクトレット層23aの間が、巨視的な「第1ギャップ幅W
g1」を定義し、第2振動電極26bと第2エレクトレット層23bの間が、巨視的な「第2ギャップ幅W
g2」を定義している。第1ギャップ幅W
g1及び第2ギャップ幅W
g2は、それぞれ0.1〜100μmの範囲内である。第1振動板絶縁層25aと第1エレクトレット層23aとの間に定義される微視的な空気ギャップである第1のマイクロギャップとは、第1ギャップ幅が10nm〜100μmでギャップ中の空気の絶縁破壊強度が5〜200MV/mと巨視的なギャップ中よりも向上しているギャップである。第2振動板絶縁層25bと第2エレクトレット層23bとの間に定義される微視的な空気ギャップである第2のマイクロギャップとは、第2ギャップ幅が10nm〜100μmでギャップ中の空気の絶縁破壊強度が5〜200MV/mと巨視的なギャップ中よりも向上しているギャップである。巨視的な第1ギャップ幅W
g1及び第2ギャップ幅W
g2の場合、空気の絶縁破壊強度は3MV/m程度である。但し、巨視的な第1ギャップ幅W
g1中、及び巨視的な第2ギャップ幅W
g2中は空気以外にフッ素系ガスなどの絶縁ガスを注入すること、或いは真空にすることにより更に絶縁破壊強度を向上できる。
【0018】
第1振動電極26aは第1エレクトレット層23aの静電力により引き付けられて撓むが、これが第1のマイクロギャップの絶縁破壊強度を低下させる。撓んだ状態での第1振動電極26aのギャップ側の面の凹凸を中心線平均粗さRaで表した場合、上記のような高い絶縁破壊強度を得るためには、中心線平均粗さRaは第1ギャップ幅の10分の1以下でなければならない。同様に、第2振動電極26bは第2エレクトレット層23bの静電力により引き付けられて撓むが、これが第2のマイクロギャップの絶縁破壊強度を低下させる。撓んだ状態での第2振動電極26bのギャップ側の面の凹凸を中心線平均粗さRbで表した場合、上記のような高い絶縁破壊強度を得るためには、中心線平均粗さRbは第2ギャップ幅の10分の1以下でなければならない。
【0019】
第1振動板(26a,25a)は、撓みが第1ギャップ幅Wgの10分の1以下であり、第1振動電極26aが導電性に優れ、第1振動板絶縁層25aが電気絶縁性に優れていれば、どのような材料を使用してもかまわない。同様に、第2振動板(26b,25b)は、撓みが第2ギャップ幅Wgの10分の1以下であり、第2振動電極26bが導電性に優れ、第2振動板絶縁層25bが電気絶縁性に優れていれば、どのような材料を使用してもかまわない。第1振動板(26a,25a)及び第2振動板(26b,25b)は、剛性が高い必要があるが、高い周波数に追随できるために軽量である方が好ましい。
【0020】
このため、第1振動板(26a,25a)及び第2振動板(26b,25b)としては、アルミニウムとその合金又は、マグネシウムとその合金を第1振動電極26a及び第2振動電極26bとして用い、第1振動板絶縁層25a及び第2振動板絶縁層25bとしてFEP層を貼り付けたものが採用可能である。或いは、PET、PEN、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等を第1振動板絶縁層25aとして用い、この第1振動板絶縁層25a及び第2振動板絶縁層25b上にアルミニウムを蒸着して第1振動電極26a及び第2振動電極26bとしてもよい。或いは、アルミナ、窒化珪素、炭化珪素セラミックス等を第1振動板絶縁層25a及び第2振動板絶縁層25bとして用い、この第1振動板絶縁層25a上にアルミニウムを蒸着又は、銀を焼付して第1振動電極26a及び第2振動電極26bとしてもよい。
【0021】
その他にも、従来のエレクトレットマイクロフォンの絶縁層に使用しているFEP樹脂やシリカ層を有するシリコン基板などを第1振動板絶縁層25a及び第2振動板絶縁層25bに用いることも可能であるが、この場合、撓みが第1ギャップ幅の10分の1以下となるように厚さを増すことが必要であり、従来のエレクトレットマイクロフォンの設計思想とは大きく異なる。又、その他の絶縁性に優れた樹脂(シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ウレタン、ABS、軟質塩化ビニルなど)等を第1振動板絶縁層25aとして用い、この第1振動板絶縁層25a及び第2振動板絶縁層25b上に、接着、蒸着、焼付により第1振動電極26a及び第2振動電極26bをそれぞれ取り付け、第1振動板(26a,25a)及び第2振動板(26b,25b)とすることも可能である。この場合、第1振動電極26aか第1振動板絶縁層25aの厚さを増して、第1振動板(26a,25a)に必要な剛性を確保し、第2振動電極26bか第2振動板絶縁層25bの厚さを増して、第2振動板(26b,25b)に必要な剛性を確保する。
【0022】
第1スペーサ24a
i-2,24a
i-1,24a
i,24a
i+1,24a
1+2と第2スペーサ24b
i-2,24b
i-1,24b
i,24b
i+1,24b
1+2はいずれも電気絶縁性に優れた材料を使用する必要がある。具体的には、シリカ、アルミナ、窒化珪素、炭化珪素などのセラミックス、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリエチレン系樹脂(PETなどを含む)、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ウレタン、ABS、軟質塩化ビニルなどの樹脂が使用可能である。又、第1スペーサ24a
i-2,24a
i-1,24a
i,24a
i+1,24a
1+2と第2スペーサ24b
i-2,24b
i-1,24b
i,24b
i+1,24b
1+2は、両方を弾性率が2GPa以下の材料を使用することも可能である。但し、第1振動板(26a,25a)側に第1振動板絶縁層25aがあり、その第1振動板絶縁層25aの弾性率が2GPa以下である場合は、第1スペーサ24a
i-2,24a
i-1,24a
i,24a
i+1,24a
1+2の弾性率に制限はなく、第2振動板(26b,25b)側に第2振動板絶縁層25bがあり、その第2振動板絶縁層25bの弾性率が2GPb以下である場合は、第2スペーサ24b
i-2,24b
i-1,24b
i,24b
i+1,24b
1+2とエレクトレット絶縁層16の弾性率に制限はない。電気絶縁性に優れ弾性率が2GPa以下の材料には、具体的には、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ウレタン、ABS、軟質塩化ビニルなどの樹脂がある。
【0023】
第1スペーサ24a
i-2,24a
i-1,24a
i,24a
i+1,24a
1+2及び第2スペーサ24b
i-2,24b
i-1,24b
i,24b
i+1,24b
1+2は、
図1に示すような、粒径が10nm〜100μmの微粒子の他、第1振動板絶縁層25aの下面、第1エレクトレット層23a上面のいずれかの表面、又は対向する両面側、並びに、第2振動板絶縁層25bの下面、第2エレクトレット層23b上面のいずれかの表面、又は対向する両面側に、パルスレーザ照射、リソグラフィー、エッチング、プレスなどで形成させた高さ10nm〜100μmの微小突起を設けてもよい。
【0024】
粒子や突起は、第1振動板絶縁層25aと第1エレクトレット層23aとの間で支持部となり、これにより第1のマイクロギャップが形成され、第2振動板絶縁層25bと第2エレクトレット層23bとの間との間で支持部となり、これにより第2のマイクロギャップが形成される。第1のマイクロギャップを形成できれば第1スペーサ24a
i-2,24a
i-1,24a
i,24a
i+1,24a
1+2の形状及び第2のマイクロギャップを形成できれば第2スペーサ24b
i-2,24b
i-1,24b
i,24b
i+1,24b
1+2の形状はどのようなものでも構わないが、突起の接触点の曲率が大きい方が望ましい。又、最大高さ(Rmax)が10nm〜100μmの表面粗さをもつ層を積層すれば、第1スペーサ24a
i-2,24a
i-1,24a
i,24a
i+1,24a
1+2がなくても第1のマイクロギャップを形成でき、第2スペーサ24b
i-2,24b
i-1,24b
i,24b
i+1,24b
1+2がなくても第2のマイクロギャップを形成できる。
【0025】
第1振動板絶縁層25a及び第2振動板絶縁層25bは、上述のように10nm〜100μmの突起を形成させるか、粒径が10nm〜100μmの微粒子を表面に付着させた絶縁体の層である。必要に応じて複数の絶縁層を積層して、第1のマイクロギャップ層及び第2のマイクロギャップ層の数をそれぞれ増やすことができる。又は、一部の絶縁層の表面にのみ突起の形成又は微粒子の付着を行い、残りは、密着させるか、乾燥接触させて表面粗さにより第1のマイクロギャップ及び第2のマイクロギャップを形成することも可能である。第1ギャップ幅及び第2ギャップ幅が100μm以内に収まれば、絶縁フィルムの積層枚数が多い方が、音響のダンピング特性が向上する。又、絶縁層を厚くすると第1ギャップ幅及び第2ギャップ幅も大きくなるが、これにより第1振動電極26aの撓みによる第1のマイクロギャップの絶縁破壊強度の低下や、第2振動電極26bの撓みによる第2のマイクロギャップの絶縁破壊強度の低下を防ぐことができる。しかし、第1ギャップ幅及び第2ギャップ幅の増大は、ギャップ中の電界強度の低下にもつながる。そのため、絶縁層の厚さ、第1のマイクロギャップ及び第2のマイクロギャップの構造などにより最適な積層枚数が決まる。
【0026】
第1エレクトレット層23a及び第2エレクトレット層23bは、ギャップに5〜200MV/mの電界を発生させるだけの表面電位を有していなければならない。第1エレクトレット層23a及び第2エレクトレット層23bの代表例として、以下の二種類が採用可能である:
(イ)コロナ放電により帯電させた絶縁層:
フッ素系樹脂又はシリカ表面にコロナ放電により電荷を帯電させて第1エレクトレット層23aとしたもの;
(ロ)加熱により帯電させた強誘電層:
強誘電層としては、強誘電体の単結晶若しくは多結晶、又は結晶性高分子が採用可能で、強誘電体としては、ペロブスカイト型化合物、タングステンブロンズ構造化合物、ビスマス系層状構造化合物、ウルツ鉱構造結晶、酸化亜鉛、水晶、ロッシェル塩、等が使用できる。例えば、PZT、LiNbO
3、PVDFなどの分極方向が一方向に配向した強誘電体を加熱し、焦電効果により一時的に分極を低下させて表面電荷を除去し、再び室温に冷却することで第1エレクトレット層23aとしたもの。
【0027】
第1エレクトレット層23a及び第2エレクトレット層23bの厚さは、以下に示す式(10)で表されるl
maxより小さくなるように決定する必要がある。例えば、式(10)考慮して、10〜80μm程度、第1背面電極22a及び第2背面電極22bの厚さは例えば8〜40μm程度、第1振動板(26a,25a)及び第2振動板(26b,25b)の厚さは例えば8〜40μm程度に選定することができる。即ち、以下に示す式(10)で表されるl
maxより小さくなるように選定されている限り、第1振動板(26a,25a)、第2振動板(26b,25b)、第1エレクトレット層23a、第2エレクトレット層23b、第1背面電極22a及び第2背面電極22bの具体的な厚さや平面寸法は、設計指針と要求される性能や仕様に応じて決定することができる。
【0028】
第1の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサ1によれば、
図2に示すように、デュアルエレクトレットセンサ1を構成する片方のフィルム状エレクトレットセンサを送信用素子1bとして、デュロメータ硬さ100以下の軟質材料からなる被測定試料2pに振動を送信し、もう片方のフィルム状エレクトレットセンサを受信用素子1aとして被測定試料2pからの振動を受信して、送受信波形を測定すれば,送受信波形のピーク強度と重心周波数を用いて、軟質材料からなる被測定試料2pの硬さと押付圧力を測定することが可能である。
【0029】
例えば、
図2に示す測定系において、天然ゴム(デュロメータ硬さ71),シリコーン3種類(デュロメータ硬さ51,33,29),エラストマー(デュロメータ硬さ10)のような軟質材料のブロックを被測定試料2pとした場合は、このブロックの表面に第1の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサ1を搭載して、Al板38とロードセル37を介し、ロードセル37で上から加圧板36を用いて、圧縮荷重を被測定試料2pに負荷すればよい。第1の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサ1とAl板38との間には両面テープ39が保護材として挿入されている。加圧板36の4隅には貫通孔が開口されており、この貫通孔にボルト51A,51B,…が挿入されている。ナット52A,52B,…;53A,53B,…をボルト51A,51B,…に沿って移動することにより、加圧板36をボルト51A,51B,…の方向に沿って移動することにより、圧縮荷重が被測定試料2pに負荷される。そして、この圧縮荷重が被測定試料2pに負荷された状態で、送信用素子1bに15Vのステップ波を入力することで送信用素子1bから振動を発生させ,そのときの振動を受信用素子1aで測定することで、軟質材料からなる被測定試料2pの振動の応答特性を調べることにより、被測定試料2pの硬さと押付圧力を測定することが可能である。
【0030】
第1の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサ1によれば、測定系の音響インピーダンスを被測定試料2pを構成しているデュロメータ硬さ100以下の軟質材料の音響インピーダンスに近づけることで軟質材料の硬さによる音響の伝達率の変化を効率よく捉えることができる。例えば、被測定試料2pを構成する軟質材料として、人体や植物などの生体,農作物などが好適であり、これらの被測定試料2pに接触させることにより、振動特性の変化から被測定試料2pに対する接触圧力や被測定試料2pの硬さ(硬度)を測定できる。
【0031】
第1の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサは、
図1に例示したような、フィルム状エレクトレットセンサが2枚積層された構造であるので、フィルム状エレクトレットセンサ内部のマイクロギャップにより他の機械電気変換素子を用いたセンサより音響インピーダンスを低くすることができる。その結果、デュロメータ硬さ(タイプA)100以下軟質材料の音響インピーダンスに近づけることで軟質材料の硬さによる音響の伝達率の変化を効率よく捉えることができる。このとき、被測定試料に密着させた状態でフィルム状エレクトレットセンサの送受信波形を測定すれば,送受信波形のピーク強度と重心周波数を用いて、軟質材料の硬さと押付圧力を測定することが可能である。
【0032】
又、第1の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサは、フレキシブルな薄型センサであることから2枚のフィルム状エレクトレットセンサの積層が容易であり、かつ軟質材料に密着させることが可能である。更に、わずかな押付圧力で測定が可能であるため果実等の被測定試料を損傷させる恐れがない。
なお、第1の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサ1は、
図1に例示した構造に限定されるものではない。例えば、非特許文献1に開示されているような、多孔質ポリマーを帯電させることで第1及び第2のエレクトレット構造体を構成した構造を採用してもよい。即ち、非特許文献1に開示されたエレクトレット素子としての多孔質層を、第1の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサ1の構成の一部として使用することが可能である。但し、製造コストを考慮すると薄膜フィルムを積層するだけで第1及び第2のエレクトレット構造体を製造することが可能な
図1に例示した構造のデュアルエレクトレットセンサ1の方が実用的である。
【0033】
<硬度測定システム>
本発明の第1の実施の形態に係る硬度測定システムは、
図3に示すように、デュアルエレクトレットセンサ1の送信用素子1bを発振させために必要なパルス波又はステップ波の電圧波形を生成する発振器61と、デュアルエレクトレットセンサ1の振動による受信用素子1aからの出力電圧をデジタルデータの送受信波形に変換するAD変換器62と、AD変換器62が変換したデジタルデータを取り込むバッファ63と、バッファ63からデータを取り込んで、デュロメータ硬さを算出する演算回路64とを有する測定器6を備える。
【0034】
発振器61は、例えば、100μs以下の立ち上がり時間、好ましくは10μs以下の立ち上がり時間のパルス又はステップ電圧を送信用素子1bに出力可能であることが望ましい。AD変換器62は、受信用素子1aからの信号波形を例えば、10μs以下のサンプリング時間、好ましくは1μs以下のサンプリング時間で変換可能であることが望ましい。バッファ63は、AD変換器62は、AD変換で得られた波形を1ms〜1sで取り込み可能であることが望ましい。より好ましくは、バッファ63は、1ms〜10msで取り込み可能であることが望ましい。演算回路64は、信号波形の振幅値の演算とFFTスペクトルの算出及び重心周波数f
wの演算をする。
【0035】
図16〜18を用いて後述するように、被測定試料2pを構成している軟質材料の重心周波数f
w(縦軸)と送受信波形の高速フーリエ変換(FFT)スペクトルの第1ピーク(
図13参照。)の大きさであるピーク強度Vp(横軸)の間には、或る近似曲線で示す関係があることが分かる。この近似曲線を係数cと係数aを用いると、以下の式(1)で表すことができる:
c=f
w(Vp)
a ………(1)
ここで、iを1からnまでの正の整数として、スペクトル強度I(i)の周波数成分f(i)の重心周波数f
wは、Σをi=1からi=nまでの数列の総和を意味するとして、以下の式で定義される:
f
w=Σ(I(i)×f(i))/ΣI(i) ………(2)
【0036】
図19を用いて後述するように、式(1)の近似から、特定の係数aに対し、それぞれ係数cとデュロメータ硬さ(A)の関係が得られる。第1の実施の形態に係る硬度測定システムの演算回路64は、信号波形の振幅値の演算とFFTスペクトルの算出及び重心周波数の演算を可能とするために、バッファ63に取り込まれた送受信波形から信号振幅を抽出し、取り込まれた送受信波形からFFTスペクトルを算出し、FFTスペクトルから式(2)を用いて重心周波数を抽出するパラメータ抽出手段641と、あらかじめ設定された係数aを用いて係数cを算出する係数c算出手段642と、係数c算出手段642によって得られた係数cに対し、あらかじめ設定された係数cとデュロメータの相関データからデュロメータ硬さに変換するデュロメータ硬さ変換手段643とを備える。即ち、式(1)の近似から、デュロメータ硬さ変換手段643は、係数cを用いてデュロメータ硬さを決定する。
【0037】
更に、第1の実施の形態に係る硬度測定システムの測定器6は、使用するデュアルエレクトレットセンサ1の設定データとしての係数aを格納する係数a記録ファイル651と、係数cとデュロメータ硬さとの相関データを格納する係数cとデュロメータ硬さとの相関データ記録ファイルとを有するデータ記憶装置65と、入力装置66と、出力装置67とを有する。
第1の実施の形態に係る硬度測定方法は、
図3に示す第1の実施の形態に係る硬度測定システムを用いることにより、あらかじめ,入力装置66を介して、使用するデュアルエレクトレットセンサ1の設定データとして式(1)の係数a及び係数cとデュロメータ硬さとの相関データを測定器6のデータ記憶装置65の係数a記録ファイル651及び係数cとデュロメータ硬さとの相関データ記録ファイルに格納しておく。
【0038】
次に、発振器61によりパルス波又はステップ波の電圧波形を生成して、デュアルエレクトレットセンサ1の送信用素子1bを発振させ、被測定試料2pに対し超音波を出射する。そして、デュアルエレクトレットセンサ1の振動による受信用素子1aからの出力電圧をAD変換器62によりデジタルデータの送受信波形に変換し、バッファ63に取り込む(このとき,デュアルエレクトレットセンサ1からの信号を増幅器により増幅してもよい。)。
演算回路64のパラメータ抽出手段641は、バッファ63に取り込まれた送受信波形から信号振幅を抽出する。更に、パラメータ抽出手段641は、取り込まれた送受信波形からFFTスペクトルを算出し、式(2)を用いてFFTスペクトルから重心周波数を抽出する。
【0039】
更に、演算回路64の係数c算出手段642が、あらかじめ設定された係数aを用いて係数cを算出する。その後、演算回路64のデュロメータ硬さ変換手段643が、得られた係数cと、あらかじめ設定された係数cとデュロメータの相関データからデュロメータ硬さに変換する。デュロメータ硬さ変換手段643は、得られたデュロメータ硬さを出力装置67に出力する。
なお、簡略化した測定装置として、発振器61とAD変換器62及び演算回路のみとして、得られたピーク強度Vp及びfwを出力し、別途、式(1)の係数a及び係数cとデュロメータ硬さの相関データからデュロメータ硬さを算出する方式でもよい。
【0040】
<センサの音響インピーダンス>
第1の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサ1は、それぞれがマイクロギャップを有するフィルム状エレクトレットセンサを積層した構造である。フィルム状エレクトレットセンサのマイクロギャップ部が他の層よりも極端に剛性が低いことから,第1の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサ1の動作は、
図5(b)に示すような、マイクロギャップ部をバネとした等価回路に置き換えて検討することができる。即ち、第1の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサ1のように、同じマイクロギャップ構造のフィルム状エレクトレットセンサを2つ密着させて一体化した構造は、
図6のような同じバネ定数Kg(=Kga=Kgb)の2つバネからなる等価回路に置き換えて検討することができる。以下においては、
図6に示した等価回路を用い、片方のフィルム状エレクトレットセンサに交流電圧を入力して振動させる、単純な1自由度のバネモデルで第1の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサ1の動作を近似する。
【0041】
この1自由度のバネモデルにおいては、バネの振動は第1の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサ1に接触している被測定試料2へと伝播する。このとき、振動の被測定試料2への振動の透過率τは、
図7に示すデュアルエレクトレットセンサ1の全体の音響インピーダンスZ
sと、デュアルエレクトレットセンサ1に接触している被測定試料2の音響インピーダンスZ
mとによって式(3)のように決定される:
τ=4Z
sZ
m/(Z
s+Z
m)
2 ………(3)
デュアルエレクトレットセンサ1の音響インピーダンスZ
sはマイクロギャップにより固体よりも低くなっている。そのため,周波数が十分高い振動の場合、Z
s<<Z
mとなるので
式(3)は、
τ=4Z
s/Z
m ………(4)
で、近似できることとなり、透過率τは無視できるほど小さくなる。そのため、第1の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサ1の振動は、通常は固体である被測定試料2中にはほとんど伝搬しない。
一方,音響インピーダンスZは、ρを密度,vを音速,Eを弾性率(ヤング率)とすると、以下の式で表される:
Z= ρv=(ρE)
1/2 ………(5)
【0042】
図12にポリイソブチレンの応力緩和特性を示す。横軸に示した作用時間が長くなるほど縦軸に示した弾性率Eが低下することが分かる。ポリイソブチレン以外でも、デュロメータ硬さ100以下の軟質材料は全て同様の特性を示す。即ち、振動の周波数が低下すると応力緩和により弾性率Eが低下に伴い音響インピーダンスも低下することが分かる。なお、
図12によれば、作用時間がおよそ10
−12〜10
−3hrでは弾性率Eの変化が一様である。これから周波数にして0.3Hz〜30MHzの間で音響インピーダンスが一様に変化すると考えられる。
【0043】
デュロメータ硬さ100以下の軟質材料の場合、
図12に示すように、応力緩和のために作用時間即ち周波数が低くなるに連れて弾性率Eは著しく低下する。即ち低周波の振動になるに連れて軟質材料の音響インピーダンスは低下する。すると、軟質材料の音響インピーダンスZ
mと比較して第1の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサ1の音響インピーダンスZ
sは無視できない大きさとなる。その場合、式(4)は成立せず、式(3)に従って振動が軟質材料に透過(伝播)していく。このように、周波数が低くなるにつれて軟質材料の場合、応力緩和により弾性率Eが低下する。それに伴い音響インピーダンスZ
mも低下するので、透過率τが上昇し、被測定試料2に振動が伝播するようになる。
【0044】
即ち、周波数が低いほど、より多くの振動エネルギーが接触している軟質材料からなる被測定試料2に伝播し、結果として第1の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサ1に残る振動は弱まる。
このとき,デュアルエレクトレットセンサ1の厚さが大きすぎると、デュアルエレクトレットセンサ1内部の各層における音響インピーダンスがセンサ内部の振動の伝播に影響を及ぼすようになる。例えば,
図8のように背面板29の音響インピーダンスをZ
1,デュアルエレクトレットセンサ1の第1等価層L
1の音響インピーダンスをZ
2,残りの層(第2等価層L
2,第3等価層L
3)と被測定試料2を合わせた音響インピーダンスをZ
3とする。このとき,各等価層L
1,L
2,L
3はマイクロギャップにより区切られている緻密な層であり、マイクロギャップ部のスペーサは含まれない。
【0045】
このような3つの媒質における振動の透過率τ
tは、lを第1等価層L
1の厚さ、λを第1等価層L
1の振動の波長、δ=2πl/λを第1等価層L
1中の振動の伝搬の位相差とすれば、以下の式で表される:
τ
t=4/(((Z
3/Z
1)
1/2+(Z
1/Z
3)
1/2)
2cos
2δ+((Z
1/(Z
1Z
3)
1/2+(Z
1Z
3)
1/2/Z
2)
2sin
2δ) ………(6)
したがって、位相差δ=2πl/λが十分小さければ,式(6)は以下のように近似できる。
τ
t=4/((Z
3/Z
1)
1/2+(Z
1/Z
3)
1/2)
2=4Z
1Z
3/(Z
1+Z
3)
2 ……(7)
この場合、Z
2が式(7)に含まれないので第1等価層L
1の音響インピーダンスの影響は無視できることが分かる。又、位相差δ=2πl/λが0.1以下であれば,sin
2δは1%以下となり、式(7)のように近似できると考えられる。ここで、位相差δ=0.1とし、第1等価層L
1の音速をv,測定周波数をfとすると、
λ=v/f ………(8)
より
l=v/20πf ………(9)
となる。例えば第1等価層L
1が極薄の金属層からなる電極,フッ素樹脂層からなるエレクトレット層及び極薄の接着層の積層構造であると考えると、第1等価層L
1の大部分をエレクトレット層が占めるため,その音速はフッ素樹脂の音速にほぼ等しい。
そこで第1等価層L
1の音速をフッ素樹脂層(PTFE)の音速である1520m/sとする。そして、測定周波数fを100kHzとすると、厚さlは240μmとなる。このとき、測定周波数fが小さくなると厚さlは増加することから,第1等価層L
1の厚さは、測定に用いる測定周波数fの最大値における厚さlより小さければ、つねに式(7)が成立する。即ち、上記の例の場合、測定周波数fの最大値が100kHzであれば,第1等価層L
1の厚さは240μm以下とすれば音響インピーダンスがデュアルエレクトレットセンサ1内部の振動に及ぼす影響を無視できることになる。
【0046】
このようなモデルは
図9,
図10のようにデュアルエレクトレットセンサ1の第2等価層L
2,第3等価層L
3についても同じことがいえる。従って、フィルム状エレクトレットセンサのマイクロギャップ層で区切られた第1等価層L
1,第2等価層L
2,第3等価層L
3の音速の最小値をv
min,測定に使用する周波数帯域の最大値をf
maxとすると各層の厚さは、以下に示す式(10)で表されるl
maxより小さくすればよい。
l
max=
vmin/20πf
max ………(10)
又、上記のモデルにおいて2枚のフィルム状エレクトレットセンサのどちらが送信用素子1b又は受信用素子1aであっても同じ構造のマイクロギャップであれば,被測定試料2への振動の伝播は変わらない。
【0047】
背面板29については、できるだけ第1の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサ1の振動を背面板29に伝播させないことで被測定試料2への振動の伝播へ影響を及ぼさないようにする必要がある。従って
図7に示すように背面板29の音響インピーダンスをZ
bとすると、式(3)のZ
mをZ
bとしたとき、透過率τが無視できるほど小さくなるようにすることが必要である。
即ち、背面板29の音響インピーダンスがデュアルエレクトレットセンサ1の音響インピーダンスより十分大きいことが必要である。しかし、第1の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサ1はマイクロギャップを有しているので、緻密な固体であれば金属は勿論高分子材料であっても上記の条件を満たす。但し、高分子材料の場合、被測定試料2と同様に応力緩和が生じるため,背面板29の硬さによってデュアルエレクトレットセンサ1の送受信波形も変化してしまう。この場合、少なくとも被測定試料2よりもデュロメータ硬さの大きい材料を背面板29に用いることで、被測定試料2より応力緩和の影響が小さい材料を選ぶことが必要である。
【0048】
例えば,
図11は、第1の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサ1から得られた送受信波形を示す。
図11から分かるように破線で示したアクリル樹脂は太い実線で示したアルミニウム(Al合金)と送受信波形に差はほとんどなく,硬質プラスチックであれば応力緩和の影響は小さいことが分かる。従って例えばPETフィルムなどを背面板29に用いれば,背面板29が第1の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサ1の送受信波形に及ぼす影響がなく,同時に第1の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサ1を被測定試料2にあわせて変形させることが可能となる。
【0049】
又、
図11から分かるように、点線で示した天然ゴム(デュロメータ硬さ71)は応力緩和の影響が見られるが、一点鎖線で示した硬質シリコーンゴム(デュロメータ硬さ51)や二点鎖線で示した軟質シリコーンゴム(デュロメータ硬さ33)と比較して、硬質材料では送受信波形の変化は著しく小さく、Al合金,アクリル樹脂のようなデュロメータ硬さ100以上の硬質の材料と比較して、材料が軟質になるに連れて、減衰が増加することが分かる。従って果実や生体のようなシリコーンゴムに近い又はそれより低い硬さの材料を測定する場合は、天然ゴムを背面板29としてもその影響は無視できることが分かる。このように、被測定試料2より十分硬さが大きい材料を背面板29に用いればよい。具体的にはその背面板29を用いて測定を行い,デュロメータによる測定も同時に行って、
図19のような係数cとデュロメータ硬さとの相関を導き出せばよい。
【0050】
図1に示すように、第1の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサ1の内部は、2枚のフィルム状エレクトレットセンサを接着させるための第1層間接着層21a及びフィルム状エレクトレットセンサとシールド層28を接着させるための第2層間接着層21bがある。
図6においては、第2層間接着層21bは、フィルム状エレクトレットセンサと背面板29とを接着させている。これらの第1層間接着層21a及び第2層間接着層21bは、マイクロギャップ部より音響インピーダンスが十分大きいことが必要である。しかし、緻密な層であれば上記条件を満たすので、第1層間接着層21a及び第2層間接着層21bは、通常の接着剤や両面テープなどで空隙が生じないように接着すればよい。
【0051】
又、第1の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサ1の表面を保護するために更にPPテープのようなフィルムを接着させてもよい。この場合も,緻密な層であればよく,このような保護層を含めて各層の厚さが式(10)を満たせばよい。更に、フィルム状エレクトレットセンサのノイズを低減するために、シールド層を付与してもよい。この場合も,緻密な層であればよく,このような保護層を含めて各層の厚さが式(10)を満たせばよい。
以上のように、第1の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサ1の送信用素子1b及び受信用素子1aに用いられるフィルム状エレクトレットセンサはマイクロギャップを有することで音響インピーダンスZsを著しく低下させることができることが必要である。従って、圧電セラミックスや圧電高分子を用いた電気音響変換素子はギャップのような空隙が存在しないことからデュアルエレクトレットセンサ1の素子として使用することはできない。
【0052】
図13に
図11の送受信波形の高速フーリエ変換(FFT)スペクトルを示すが、
太い実線で示したアルミニウム(Al合金)、破線で示したアクリル樹脂や点線で示した天然ゴム(デュロメータ硬さ71)のスペクトルに比し、一点鎖線で示した硬質シリコーンゴム(デュロメータ硬さ51)、二点鎖線で示した軟質シリコーンゴム(デュロメータ硬さ33)や細い実線で示したエラストマー(デュロメータ硬さ10)のスペクトル強度が低下していることが分かる。特に、このスペクトル強度の低下は、低周波領域で顕著で、低周波になるほどデュロメータ硬さ100以下の軟質材料のスペクトル強度が低下していることが分かる。結果として、材料の硬さが低下すると、音響インピーダンスの低下によって第1の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサ1が受信する振動波形は弱くなり、特に低周波成分が減少する。
【0053】
そこで、
図13に示したFFTスペクトルの第1ピークの大きさVpと、送受信波形の重心周波数f
wとの関係を調べた。重心周波数f
wはΣをi=1からi=nまでの数列の総和を意味するとして、上述した式(2)で算出できる。
図13を考慮すると、第1の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサ1においては、重心周波数f
wは例えば、100Hz〜100kHzの間のFFTスペクトル強度から算出すればよいことが分かる。一般的に、軟質材料では1MHzを越える振動は減衰が強くほとんど伝播しない。又、10Hz以下の振動は測定系自体の揺れなどを含む恐れがある。そのため重心周波数の算出に用いる周波数帯域は10Hz〜1MHz,好ましくは100Hz〜100kHzがよい。
【0054】
図14に横軸に示した押付圧力に対する第1ピークの大きさ(ピーク強度)Vpの関係を示す。
図14から分かるように、ピーク強度Vpは材料の硬さによらず、横軸に示した押付圧力に依存しており、第1の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサ1の場合、10〜50kPaの押付圧力の範囲内で比例関係にある。つまり、第1ピークの大きさであるピーク強度Vpにより押付圧力を測定することが可能である。
電極の剛性(弾性率E、厚さ)、スペーサの形状や間隔を調整することで、デュアルエレクトレットセンサ1の等価バネ剛性を変化させることができ、それにより測定可能な圧力範囲を変えられる。但し、押付圧力が低すぎるとフレキシブルなデュアルエレクトレットセンサ1でも被測定試料2pと密着しなくなり、押付圧力が高すぎるとデュアルエレクトレットセンサ1の感度が極端に低下してしまう。測定できる圧力範囲は1〜1000kPaと考えられる。
【0055】
図15に押付圧力に対する重心周波数f
wの関係を示す。重心周波数f
wは押付圧力と比例関係にあるが、その大きさは被測定試料2pの硬さにより大きく異なり、硬さが低いほど重心周波数f
wは増加する。即ち、同一押付圧力において比較すれば、アルミニウム(Al合金)やアクリル樹脂の重心周波数f
wに対して、天然ゴム(デュロメータ硬さ71)の重心周波数f
wの方が高い。更に、同一押付圧力の下では、天然ゴムの重心周波数f
wよりも硬質シリコーンゴム(デュロメータ硬さ51)や軟質シリコーンゴム(デュロメータ硬さ33)の重心周波数f
wの方が高く、硬質シリコーンゴム及び軟質シリコーンゴムの重心周波数f
wよりもエラストマー(デュロメータ硬さ10)の重心周波数f
wの方が高いことが分かる。このときのピーク強度Vpと重心周波数f
wの関係を
図16〜18に示す。即ち、
図16は、天然ゴム(デュロメータ硬さ71)のピーク強度Vpと重心周波数f
wの関係を示し、
図17は硬質シリコーンゴム(デュロメータ硬さ51)のピーク強度Vpと重心周波数f
wの関係を、
図18はエラストマー(デュロメータ硬さ10)のピーク強度Vpと重心周波数f
wの関係を示す。
図16〜18にいずれの材料も、式(1)に示した近似曲線で表すことができることが分かる。
【0056】
式(1)で示めされる近似曲線において、係数a=0.7とすると、
図16〜18に示したいずれの材料でもよい一致を示した。このことから、係数cが材料の硬さと関係があるはずである。
図19に係数a=0.7のときの係数cとデュロメータ硬さ(A)の関係を示す。デュロメータ硬さ30〜100の範囲において比例関係にあり、この範囲内であれば、係数cを用いて硬さを測定できることが分かる。
生体や果実などの農産物の硬さは、デュロメータ硬さ30〜100の範囲内にあり、第1の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサ1を用いてこれらの硬さを測定することができる。そして、これを利用することで、第1の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサ1を被測定試料2に軽く押し付けて送受信波形を得るだけでデュロメータ硬さを測定することができる。
【0057】
第1の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサ1の条件では、デュロメータ硬さAで30から100の間のみ測定可能であるが、第1の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサ1の音響インピーダンスを調節することで、測定範囲を変えることも可能である。第1の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサ1の音響インピーダンスは、第1スペーサ24a
i-2,24a
i-1,24a
i,24a
i+1,24a
1+2と第2スペーサ24b
i-2,24b
i-1,24b
i,24b
i+1,24b
1+2の剛性に支配されているので、マイクロギャップ部の第1スペーサ24a
i-2,24a
i-1,24a
i,24a
i+1,24a
1+2と第2スペーサ24b
i-2,24b
i-1,24b
i,24b
i+1,24b
1+2の配置や上下の電極の剛性を変えることで、第1の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサ1の音響インピーダンスを制御可能である。
このような硬度測定は、果実などの農作物の評価にも広く使用されており、非破壊的な手法として有用である。更に、茎や葉のストレスによるわずかな硬さ変化を検出することもできる。例えば,植物体の水ポテンシャルが低下すると、茎や幹の硬さが増加することが知られている。
【0058】
(第2の実施形態)
図24に示すように、本発明の第2の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサは、無負荷時において平坦な振動面を有する第1振動板(26a,25a)、第1振動板(26a,25a)の振動面に対向した平坦な第1主面及びこの第1主面に平行に対向する第2主面で定義され、分極方向を揃えた第1エレクトレット層23a、第1エレクトレット層23aの第2主面に第1主面を接した第1背面電極22aを備える第1のフィルム状エレクトレットセンサと、第1のフィルム状エレクトレットセンサの第1背面電極22aの第2主面に第1主面を接した層間接着層(第1層間接着層)21aと、第1層間接着層21aの第2主面に第1主面を接し、無負荷時において平坦な振動面を有する第2振動板(26b,25b)、第2振動板(26b,25b)の振動面に対向した平坦な第2主面及びこの第2主面に平行に対向する第2主面で定義され、分極方向を揃えた第2エレクトレット層23b、第2エレクトレット層23bの第2主面に第1主面を接した第2背面電極22bを備える第2のフィルム状エレクトレットセンサと、第2のフィルム状エレクトレットセンサの第2背面電極22bの第2主面に第1主面を接した第2層間接着層21bと、第2層間接着層21bの第2主面に第1主面を接したシールド層28とを備える。即ち、それぞれが2つ折り構造にされた2枚のフィルム状エレクトレットセンサが第1層間接着層21aを介して積層された構造をなしている。
【0059】
第1の実施形態に係るフィルム状エレクトレットセンサと同様に、第2の実施形態に係るフィルム状エレクトレットセンサにおいても、
図24に示したフッ素樹脂フィルム等からなる第1エレクトレット層23aと、第1エレクトレット層23aの下面に形成された第1背面電極22aと、第1エレクトレット層23aの上面に形成された複数の島状シリカ領域等からなる第1スペーサ(図示省略。)を備える積層構造体の全体によって「第1のエレクトレット構造体」が定義され、フッ素樹脂フィルム等からなる第2エレクトレット層23bと、第2エレクトレット層23bの下面に形成された第2背面電極22bと、第2エレクトレット層23bの上面に形成された複数の島状シリカ領域等からなる第2スペーサ(図示省略。)を備える積層構造体の全体によって「第2のエレクトレット構造体」が定義される。
【0060】
第2の実施形態に係るフィルム状エレクトレットセンサにおいて、第1及び第2スペーサの深いトラップ準位に付着した負電荷は、第1及び第2スペーサが第1振動板絶縁層25a又は第2振動板絶縁層25bと接触しても、第1振動板絶縁層25a又は第2振動板絶縁層25bに拡散することはない。したがって、第2の実施形態に係るフィルム状エレクトレットセンサは、第1振動電極26aと第1背面電極22aとの間、及び第2振動電極26bと第2背面電極22bとの間に、それぞれ極めて狭いギャップ(マイクロギャップ)を有するように構成することが可能であり、耐圧に優れている。
【0061】
便宜上、第1のフィルム状エレクトレットセンサに着目して説明すると、第2の実施形態に係るデュアルエレクトレットセンサの製造は、以下のように行えばよい:
(a)先ず、第1振動電極26aのギャップ空間側にフッ素樹脂フィルム等からなる第1振動板絶縁層25aを形成する。具体的には、厚さ10μmのAlフィルムを用意し、それぞれ、12×30mmと10×20mmに切り出す。そして、12×30mmのAlフィルムを第1背面電極22aとし、10×20mmのAlフィルムを第1振動板絶縁層25aとする。そして、厚さ12.5μmのPFAフィルムを、これらの第1背面電極22a及び第1振動板絶縁層25aの上に真空溶着して、第1エレクトレット層23a及び第1振動板絶縁層25aをそれぞれ形成する。
【0062】
(b)そして、第1エレクトレット層23a上に、エアスプレーによりコロイダルシリカ(スノーテックス20L、日産化学)を塗布し、乾燥させてシリカ凝集体を第1エレクトレット層23aの上に形成する。このときのシリカ凝集体の塗布量は1.2μg/mm2、マイクロメータにより測定したシリカ凝集体の高さは、例えば22μmが好ましい。
(c)そして、エレクトレット構造体を構成するシリカ凝集体にコロナ放電によるチャージを行い、その表面電位を例えば−1kVとする。そして、エレクトレット構造体と対向するように、第1振動板(26a,25a)を積層し、
図20(a)に示すような12×30mmの大きさのフレキシブルなフィルム状エレクトレットセンサを実現する。
図24に示すように、このフレキシブル構造は、第1振動電極26aと、第1振動電極26aの下面に設けられた第1振動板絶縁層25aと、第1振動板絶縁層25aに対向した第1エレクトレット層23aと、第1エレクトレット層23aの上面に形成された複数の第1スペーサと、第1エレクトレット層23aの下面に接合された第1背面電極22aとを備える。なお、第1スペーサは、第1振動電極26a側の第1振動板絶縁層25a上に形成してもよい。
【0063】
(d)その後更に、銅テープを用いて第1背面電極22aの一部に第1背面電極側引出電極GNDを設け、第1振動電極26a側の一部に第1振動電極側引出電極O2を設ける。そして、両面テープ20aの層を包み込むように、
図20(b)に示すように、第1振動電極26aの側が折り込まれるように、第1の折り曲げ線A−Aを介して、この12×30mmの大きさのフィルム状エレクトレットセンサを2つ折りに折り畳んで接着すると、
図21(a)に示すように12×15mmの大きさで、第1背面電極側引出電極GND及び第1振動電極側引出電極O2を有する第1のフィルム状エレクトレットセンサが完成する。
【0064】
(e)第1のフィルム状エレクトレットセンサと同様に、12×30mmの大きさのフィルム状エレクトレットセンサを2つ折りに折り畳んで接着して、
図21(b)に示すような12×15mmの大きさで、第2背面電極側引出電極GND及び第2振動電極側引出電極I1を有する第2のフィルム状エレクトレットセンサを用意する。
(f)そして、両面テープを層間接着層(第1層間接着層)20として、
図21(c)及び(d)に示すように、それぞれ2つ折りに畳み込まれた12×15mmの大きさの第1及び第2のフィルム状エレクトレットセンサを貼り合わせれば、第3の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサが完成する。
【0065】
<水ポテンシャルの測定>
なお、
図21に示すような構造の第2の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサを用いてミニトマト等の植物の茎部に対する水ポテンシャルの測定実験を行ってもよい。
図21に示すようなフレキシブルなデュアルエレクトレットセンサ1の構造とすることにより、
図22のように植物の茎や葉の形状にあわせて変形させながらデュアルエレクトレットセンサ1を押し付けて水ポテンシャルを測定することができる。更に、
図22に示すように植物の茎等にデュアルエレクトレットセンサ1を押し付けた後、その上からプラスチックフィルム等の保護膜35を押しつけても良い。
【0066】
例えば、
図4に示すようにミニトマト茎部を被測定試料2pとして、実験を行うことが可能である。第2の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサとフィルム状エレクトレットセンサが1つだけで構成されたシングルセンサ1cにより、ミニトマト茎部からなる被測定試料2pを挟み込み、加圧板36を用いて被測定試料2pを両側から押し付けた。そして、第2の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサの送信用素子1bにより振動を発生させ,その振動を第2の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサの受信用素子1aで測定するとともに、ミニトマト茎部を伝播してきた振動をシングルセンサ1cで測定した。又、ミニトマト茎部の根元を切断することで、乾燥ストレスを与え,水ポテンシャルを増大させながら測定を繰り返した。
【0067】
第2の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサの送受信波形から前述した方法で式(1)の係数cを算出するとともに、第2の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサでの送受信波形のスペクトルのピーク強度Vpとシングルセンサ1cでの受信波形ピークVsを用いて以下の式から減衰率αを計算した:
α=20log(Vp/Vs)
a ………(11)
【0068】
図23(a)にその結果を示すように、水ポテンシャルと係数cは強い相関を示し、
図23(b)に示すように、水ポテンシャルと減衰率αは強い相関を示した。このことから,ミニトマト茎部を被測定試料2pとして、被測定試料2pに第2の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサ又は、第2の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサとシングルセンサ1cを設置し、定期的に送受信測定を行えば,水ポテンシャルの変動を非破壊的に測定することができる。又、同じ種で同程度の茎径であれば同様の結果が得られるはずなので、同じ種の同じ大きさの茎、枝、葉についてあらかじめ水ポテンシャルに対する係数cや減衰率αの挙動を調べておけば,水ポテンシャルの定量的な測定も可能となる。又、屋外での測定の場合、温度変化が大きいと上記の水ポテンシャルと係数cの関係が変化する可能性があるため、温度との関係も調べておく必要がある。茎や葉柄など光合成への影響が少ない部位へ第2の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサを設置できれば、そのまま長期間水ポテンシャルの測定を続けることができる。これを温度、湿度、CO
2、日射などの他のデータを合わせることで、植物の健康状態を診断するために有用な指標となる。
以上のべたように、第2の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサによれば、植物の水ポテンシャル変動のわずかな変化も測定することができるので、水ポテンシャルを非破壊的かつ短時間で測定できる。
【0069】
<果実の熟度判定>
図21の第2の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサを用いれば、桃、スイカ、ラフランスのような果実の熟度の判定に応用できる。即ち、熟度の判定が必要な果実を被測定試料として、
図22のように被測定試料の形状にあわせてフレキシブルに変形可能な第2の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサを接触させれば、果実の硬さを測定し、果実の熟度の判定ができる。
例えば5mm角以下の小型のデュアルエレクトレットセンサであれば、
図25のようにフレキシブルではなくても指などでデュアルエレクトレットセンサ1を果実に押し付けることで果実側を変形させて測定する。このとき被測定試料である果実が損傷しない範囲で変形できるようにセンサを小型化することが重要である。
【0070】
第2の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサを果実に接触させる方法は、果実に機械的に押し付ける、果実に指で押し付ける、床に果実を設置し、果実を転がして接触させるなどの方法がある。
第2の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサによれば、
図11のような送受信波形の応力緩和の時間依存性の特性を得るには5msあればよいので、その後の重心周波数f
wの計算時間などを考慮しても10msあれば硬さの測定が可能である。なお、2枚のフィルム状エレクトレットセンサを積層した第2の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサの場合、送信用素子1bと受信用素子1aの位置を入替えても同じ結果が得られる。
【0071】
又、第2の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサの全体をコーティング,フィルムでくるむなどしてデュアルエレクトレットセンサを保護することで、防水性を向上できる。全体にコーティング等を施すことにより、被測定試料である果実などが濡れていても第2の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサによる測定に問題はない。
図24に示す構成に
図6〜
図10に示したような背面板29を付加してもよい。背面板29を付加すれば、背面板29の裏にヘッドアンプを内蔵することも可能であり、ヘッドアンプを内蔵することにより、第2の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサの受信感度の向上に有効である。例えば,FETと抵抗を背面板29の裏に設置し、受信用素子1aと接続してもよい。このようなアンプを用いれば、第2の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサ送信用素子1bの入力電圧を下げることができる。
【0072】
送信用素子1bへの入力はステップ電圧,パルス電圧,正弦波,矩形波など任意の信号波形を用いることができる。第2の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサにおいては、送信用素子1bへ入力する信号波形は必要な周波帯域に応じて使い分ければよい。
第2の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサにおいて、送信用素子1bと受信用素子1aは同じ構造のフィルム状エレクトレットセンサであることが望ましいが、送信用素子1bは、圧電素子に置き換えることも可能である。
以上のべたように、第2の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサによれば、果実の熟成の進行による植物体及び作物のわずかな硬さ変化も測定することで、熟成度を非破壊的かつ短時間で測定できる。
【0073】
<筋硬度センサ>
図21に例示した第2の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサは、筋硬度センサとして用いることが可能である。この場合は、第2の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサを自動的に送受信波形を取得して硬さを算出して記録する機器と接続することが好ましい。そして、定期的に第2の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサを人体の同じ部位に接触させて硬さを記録し、その経時変化から疲労や疾患を診断することができる。
【0074】
第2の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサの装着方法としては、
図25に示すように、指で軽く押し付ける方法が最も単純で、任意の部位の診断が可能である。特に、腕時計のようなリストバンドを用いて診断装置をリストバンドと一体化すれば、常時装着することが可能となり、連続的な測定を行うことでより精密な診断が可能となる。
図21に例示したような第2の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサ1をアレイ状に配置したシートを用いれば、圧力分布と硬さ分布を同時測定することが可能となる。例えば、
図26のようにマットレスの上に、デュアルエレクトレットセンサ1をアレイ状に配置し、その上に被験者が寝ることで、マットレスに加わる圧力分布とその結果生じるマットレスの硬さ変化を測定することができる。この測定を連続的に行うことで寝ている人の疲労状態の変化も知ることができる。その結果、人が寝たときに疲労が少ない若しくは回復が早い押付圧力及び硬さ分布を明らかにすることができ、快適なマットレスの開発に利用できる。
【0075】
第2の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサは、
図21及び
図24に示すような、フィルム状エレクトレットセンサが2枚積層された構造であるので、フィルム状エレクトレットセンサ内部のマイクロギャップにより他の機械電気変換素子を用いたセンサより音響インピーダンスを低くすることができる。その結果、デュロメータ硬さ100以下の軟質材料の音響インピーダンスに近づけることで軟質材料の硬さによる音響の伝達率の変化を効率よく捉えることができる。このとき、被測定試料に密着させた状態でフィルム状エレクトレットセンサの送受信波形を測定すれば,送受信波形のピーク強度と重心周波数を用いて、軟質材料の硬さと押付圧力を測定することが可能である。
又、第2の実施の形態に係るデュアルエレクトレットセンサは、フレキシブルな薄型センサであることから2枚のフィルム状エレクトレットセンサの積層が容易であり、かつ軟質材料に密着させることが可能である。更に、わずかな押付圧力で測定が可能であるため果実等の被測定試料を損傷させる恐れがない。
【0076】
(その他の実施の形態)
上記のように、本発明は第1及び第2の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な態様や代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
例えば、第2の実施形態に係るフィルム状エレクトレットセンサの製造方法において、厚さ10μmの12×20mmのAlフィルムの方を第1背面電極22aとし、10×30mmのAlフィルムを第1振動板絶縁層25aとしてもよい。その後、第2の実施形態と同様に、厚さ12.5μmのPFAフィルムを、これらの第1背面電極22a及び第1振動板絶縁層25aの上に真空溶着して、第1エレクトレット層23a及び第1振動板絶縁層25aをそれぞれ形成する。第2の実施形態と同様に、第1エレクトレット層23a上にシリカ凝集体を第1エレクトレット層23aの上に形成し、シリカ凝集体にコロナ放電によるチャージを行う。そして、エレクトレット構造体と対向するように、第1振動板(26a,25a)を積層しても、
図20(a)に示すような12×30mmの大きさのフレキシブルなフィルム状エレクトレットセンサが実現する。但し、本発明のその他の実施形態においては、銅テープを用いて第1背面電極22aの一部に第1背面電極側引出電極O2を設け、第1振動電極26a側の一部に第1振動電極側引出電極GNDを設ける。そして、両面テープ20aの層を包み込むように、
図20(b)に示すように、第1背面電極22aの側が折り込まれるように、第1の折り曲げ線A−Aを介して、この12×30mmの大きさのフィルム状エレクトレットセンサを2つ折りに折り畳んで接着しても、外観上は
図21(a)に示したのと同様な12×15mmの大きさで、第1背面電極側引出電極O2及び第1振動電極側引出電極GNDを有する第1のフィルム状エレクトレットセンサが完成する。
【0077】
同様に、12×30mmの大きさのフィルム状エレクトレットセンサを第2背面電極22bの側が折り込まれるように、2つ折りに折り畳んで接着して、外観上は
図21(b)に示したのと同様な、12×15mmの大きさで、第2背面電極側引出電極I1及び第2振動電極側引出電極GNDを有する第2のフィルム状エレクトレットセンサを完成して、第1及び第2のフィルム状エレクトレットセンサを貼り合わせるようにしてもよい。第1背面電極22aの側及び第2背面電極22bの側が折り込まれるようにした場合は、
図24に示した構造における第1振動電極26aが第1背面電極に、第1振動板絶縁層25aが第1エレクトレット層に、第1エレクトレット層23aが第1振動板絶縁層に、第1背面電極22aが第1振動電極に置き換えられ、
図24に示した構造における第2振動電極26bが第2背面電極に、第2振動板絶縁層25bが第2エレクトレット層に、第2エレクトレット層23bが第2振動板絶縁層に、第2背面電極22bが第2振動電極に置き換えられることは勿論である。
【0078】
なお、マイクロギャップの形態としては、第1及び第2の実施の形態に示したもの以外に種々の構造が採用可能である。即ち、微細なナノ粒子を凝集させた構造にして接触点の直径を極めて小さくしてもよく、フィルムの表面粗さによりマイクロギャップを形成した構造等により簡便にマイクロギャップを形成してもよい。
更に、ミクロンサイズの粒子の表面にナノ粒子を凝集させた構造にすれば、ギャップ幅をミクロンサイズに広げつつ上記と同様な効果を期待できる。更に、研磨、エッチングなどにより表面粗さを周期的に変化させた構造にして、接触点の平均間隔の制御が容易になるようにしてもよい。更に、プレスにより10μm〜の1mm間隔でフィルムに突起を形成し、その上に微粒子を塗布した構造にして、容易に接触点間隔を広く取ることができるようにしてもよく、ギャップ部に第1ギャップ絶縁層と第2ギャップ絶縁層等の複数の絶縁層を積層して、マイクロギャップ層の数を増してもよい。
このように、本発明はここでは記載していない様々な態様や実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。