(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1クラッチ部をトルク伝達状態にするために供給される作動油と、前記第2クラッチ部を連結状態にするために前記連結部材に供給される作動油は、第1油圧ポートを介して供給される、請求項1又は2に記載のロックアップ装置の制御方法。
前記第1クラッチ部をトルク伝達解除状態にするために前記第1クラッチ部に供給される作動油と、前記第2クラッチ部を連結解除状態にするために前記連結部材に供給される作動油は、第2油圧ポートを介して供給される、請求項1から3のいずれかに記載のロックアップ装置の制御方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の装置において、ロックアップ状態では第2クラッチ部のみによって機械的にトルクが伝達されている状態である。このような状態から第2クラッチ部でのトルク伝達状態を解除すると、遷移状態としてのクラッチのすべりが生じないので、第2クラッチ部のトルク伝達解除時にショックが生じるおそれがある。
【0009】
本発明の課題は、ロックアップ状態において、フロントカバーと出力側とを機械的に連結してロックアップ状態での作動油の供給を不要にした装置において、ロックアップ状態からロックアップ解除状態に移行する際のショックを抑えることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明の一側面に係るロックアップ装置の制御方法は、第1クラッチ部、トルク伝達部材、及び第2クラッチ部を有するロックアップ装置において、ロックアップ状態から、ロックアップ状態を解除する際の制御方法である。第1クラッチ部は、作動油によって作動してフロントカバーとタービンとの間でトルク伝達あるいはトルク伝達解除を行う。トルク伝達部材は第1クラッチ部からのトルクをタービンに伝達する。第2クラッチ部は、作動油により作動する連結部材によってフロントカバーとトルク伝達部材とを機械的に連結あるいは連結解除する。そして、ロックアップ状態では、第2クラッチ部が連結状態で、第1クラッチ部がトルク伝達解除状態である。
【0011】
このロックアップ装置の制御方法は、第1ステップと、第2ステップと、第3ステップと、を含む。第1ステップは、第2クラッチ部を連結状態に維持した状態で第1クラッチ部をトルク伝達状態にする。第2ステップは、第1クラッチ部のトルク伝達状態を維持した状態で、第2クラッチ部の連結を解除する。第3ステップは、第2クラッチ部の連結が解除された後に、第1クラッチ部をトルク伝達解除状態にする。
【0012】
この装置では、作動油によって第1クラッチ部を作動させることによって、フロントカバーとタービンとの間でトルクが伝達される。また、作動油によって第2クラッチ部の連結部材を作動させることによって、連結部材がフロントカバーとトルク伝達部材とを機械的に連結し、フロントカバーとトルク伝達部材との間でトルクが伝達される。
【0013】
ここでは、第1クラッチ部をトルク伝達状態にすることによってフロントカバーとトルク伝達部材との相対回転を小さくしながら、第2クラッチ部における機械的な連結によって、フロントカバー→トルク伝達部材→タービンの経路でトルクを伝達することができる。このため、連結部材を介してフロントカバーとトルク伝達部材との間でトルクが伝達されれば、第1クラッチ部及び第2クラッチ部には作動油を作用させる必要がなくなる。
【0014】
また、ここでは、ロックアップ状態からロックアップ解除状態に移行する際に、いったん第1クラッチ部をトルク伝達状態にした後に第2クラッチ部の連結を解除している。このため、第1クラッチ部をいったんトルク伝達状態にすることなく第2クラッチ部での連結を解除する場合に比較して、ロックアップ解除時におけるショックを抑えることができる。
【0015】
(2)本発明の別の側面に係るロックアップ装置の制御方法では、第1ステップでは、第1クラッチ部に第1油圧を作用させてトルク伝達状態にする。また、第2ステップでは、第1クラッチ部に第1油圧を作用させた状態で、第2クラッチ部に第1油圧より低い第2油圧を作用させて第2クラッチ部の連結を解除する。
【0016】
これにより、第1クラッチ部におけるトルク伝達状態を維持したまま、第2クラッチ部での連結を解除することができる。
【0017】
(3)本発明のさらに別の側面に係るロックアップ装置の制御方法では、第1クラッチ部をトルク伝達状態にするために供給される作動油と、第2クラッチ部を連結状態にするために連結部材に供給される作動油は、第1油圧ポートを介して供給される。
【0018】
ここでは、第1クラッチ部及び連結部材は、第1油圧ポートから供給される作動油によって作動する。すなわち、連結部材を作動させるための特別の油圧ポートが不要になる。したがって、従来装置と同様の2つの油圧ポートを有するトルクコンバータに用いられる油圧回路を用いて、本制御を実行することができる。
【0019】
(4)本発明のさらに別のロックアップ装置の制御方法では、第1クラッチ部をトルク伝達解除状態にするために第1クラッチ部に供給される作動油と、第2クラッチ部を連結解除状態にするために連結部材に供給される作動油は、第2油圧ポートを介して供給される。
【0020】
ここでは、第2油圧ポートから作動油を供給することにより、第1クラッチ部及び連結部材を作動させて、第1クラッチ部及び第2クラッチ部におけるトルク伝達を解除することができる。
【0021】
(5)本発明のさらに別の側面に係るロックアップ装置の制御方法では、トルク伝達部材は、作動油によって軸方向に移動可能なピストンである。また、第1クラッチ部はピストンに固定された摩擦部材を有し、摩擦部材はフロントカバーに押圧されてフロントカバーとピストンとの間でトルクを伝達する。第2クラッチ部の連結部材はフロントカバーとピストンとを機械的に連結する。
【0022】
(6)本発明のさらに別の側面に係るロックアップ装置の制御方法では、第2クラッチ部は、第1リングギアと、第2リングギアと、を有している。第1リングギアは、フロントカバーに設けられ、内周面に複数の歯を有する。第2リングギアは、ピストンに設けられ、内周面に複数の歯を有する。連結部材は、第1リングギア及び第2リングギアの歯に噛み合い可能な複数の歯を外周面に有する。
【0023】
ここでは、連結部材の外周面に形成された歯が、第1リングギア及び第2リングギアの歯に噛み合うことによって、フロントカバーとピストンとの間で連結部材を介してトルクが伝達される。
【発明の効果】
【0024】
以上のような本発明では、ロックアップ状態において、フロントカバーと出力側とを機械的に連結してロックアップ状態での作動油の供給を不要にした装置において、ロックアップ状態からロックアップ解除状態に移行する際のショックを抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1は、本発明の一実施形態としてのロックアップ装置を有するトルクコンバータ1の断面部分図である。
図1の左側にはエンジン(図示せず)が配置され、図の右側にトランスミッション(図示せず)が配置される。
図1に示すO−Oがトルクコンバータ及びロックアップ装置の回転軸線である。
【0027】
[トルクコンバータの全体構成]
トルクコンバータ1は、エンジン側のクランクシャフト(図示せず)からトランスミッションの入力シャフトにトルクを伝達するための装置である。トルクコンバータ1は、フロントカバー2と、3種の羽根車(インペラ3、タービン4、ステータ5)からなるトルクコンバータ本体6と、ロックアップ装置7とから、構成されている。
【0028】
フロントカバー2はエンジン側の部材に固定される。フロントカバー2は、円板状の本体部2aと、外周部に形成された軸方向トランスミッション側に突出する外周筒状部2bと、を有している。
【0029】
インペラ3は、フロントカバー2の外周筒状部2bに溶接により固定されたインペラシェル12と、その内側に固定された複数のインペラブレード13と、インペラシェル12の内周部に溶接された筒状のインペラハブ14と、から構成されている。
【0030】
タービン4は流体室内でインペラ3に対向して配置されている。タービン4は、タービンシェル15と、タービンシェル15に固定された複数のタービンブレード16と、タービンシェル15の内周側に固定されたタービンハブ(出力部材の一例)17と、から構成されている。
【0031】
タービンハブ17は、フランジ17aと、第1筒状部17bと、第2筒状部17cと、第3筒状部17dと、を有している。フランジ17aは外周側に延びる円板状に形成されている。フランジ17aにはタービンシェル15の内周部が複数のリベット18によって固定されている。第1筒状部17bはフランジ17aの外周部からフロントカバー2側に突出して形成されている。第2筒状部17c及び第3筒状部17dはフランジ17aの内周部に形成されている。第2筒状部17cはフランジ17aからフロントカバー2側に突出して形成されている。第3筒状部17dは第2筒状部17cの先端の内周部からさらにフロントカバー2側に突出して形成されている。第3筒状部17dは第2筒状部17cの外径より小さい。
【0032】
なお、タービンハブ17の内周面にはスプライン孔が形成されている。このスプライン孔にトランスミッションの入力軸が噛み合い可能である。
【0033】
ステータ5は、インペラ3とタービン4の内周部間に配置され、タービン4からインペラ3へと戻る作動油を整流するための機構である。ステータ5は、主に、環状のステータキャリア20と、その外周面に設けられた複数のステータブレード21と、から構成されている。ステータキャリア20は、ワンウェイクラッチ22を介して、図示しない固定シャフトに支持されている。
【0034】
なお、タービンハブ17とワンウェイクラッチ22との間、及びワンウェイクラッチ22とインペラシェル12との間には、それぞれスラストベアリング24,25が設けられている。
【0035】
[ロックアップ装置7]
ロックアップ装置7は、フロントカバー2とタービン4との間の空間に配置され、これらの間でトルクを伝達(以下、「ロックアップ状態」又は「ロックアップオン」と記す)あるいはトルク伝達を解除(以下、「ロックアップ解除」又は「ロックアップオフ」と記す)するための装置である。ロックアップ装置7は、摩擦部材28(第1クラッチ部の一例)と、ピストン30(トルク伝達部材の一例)と、ドグクラッチ(第2クラッチ部の一例)32と、ダンパ機構34と、を備えている。また、ロックアップ装置7には、油圧回路が設けられている。
【0036】
<摩擦部材28及びピストン30>
摩擦部材28は、環状に形成されており、ピストン30のフロントカバー2側の外周部側面に固定されている。摩擦部材28は、作動油によって軸方向に移動するピストン30によって、フロントカバー2とダンパ機構34及びタービン4との間でトルクを伝達あるいはトルク伝達を解除するためのものである。以下、この摩擦部材28を「第1クラッチ部28」と記す。
【0037】
図2に示すように、ピストン30は、概ね円板状の部材であって、外周円板部30aと、外周筒状部30bと、内周円板部30cと、内周筒状部30dと、を有している。ピストン30は、フロントカバー2とダンパ機構34との間に配置され、作動油によって軸方向に移動自在である。なお、
図2は
図1におけるロックアップ装置7の部分を抽出して示したものである。
【0038】
前述のように、外周円板部30aの外周部には、環状の摩擦部材28が固定されている。外周筒状部30bは、外周円板部30aから斜め内周側に延び、さらに軸方向タービン4側に延びている。内周円板部30cは外周筒状部30bから内周側に延びている。内周筒状部30dは内周円板部30cの内周端からタービン4側に延びている。内周筒状部30dは、タービンハブ17の第1筒状部17bの外周面に摺動自在に支持されている。また、タービンハブ17の第1筒状部17bの外周面にはシール部材36が配置されており、これによりピストン30の内周面とタービンハブ17の第1筒状部17bとの間がシールされている。
【0039】
<ドグクラッチ32>
図2に示すように、ドグクラッチ32は、作動油によって作動する連結部材40と、第1リングギア41と、第2リングギア42と、を有している。ドグクラッチ32は、連結部材40によってフロントカバー2とピストン30とを機械的に連結し、フロントカバー2とタービン4との間でトルクを伝達あるいはトルク伝達を解除するためのものである。
【0040】
連結部材40は、環状に形成され、フロントカバー2とタービンハブ17との間に、軸方向に移動自在に配置されている。連結部材40の内部には環状の空間が形成されている。この環状の空間には、内部にヘリウムガスが封入されたベローズ44が収容されている。ベローズ44は、軸方向に伸縮自在であり、外部、すなわち環状空間内部の圧力が変化することによって、その体積が変化するようになっている。
【0041】
連結部材40の外周面には複数の歯40aが形成されている。各歯40aのフロントカバー側の先端には、面取りが形成されている。連結部材40の内周面は、タービンハブ17の第3筒状部17dの外周面及びスラストワッシャ46(後述)の外周面に摺動自在に支持されている。タービンハブの第3筒状部17dの外周面にはシール部材47が配置されており、これにより連結部材40の内周面と第3筒状部17dとの間がシールされている。
【0042】
また、連結部材40の内周部において、タービン4側の側面には、タービン4側に突出する環状の突出部40bが形成されている。この環状突出部40bはタービンハブ17の第2筒状部17cの外周面に摺動自在に支持されている。環状突出部40bの内周面にはシール部材48が配置されており、これにより環状突出部40bの内周面と第2筒状部17cとの間がシールされている。
【0043】
第1リングギア41は、フロントカバー2のタービン4側の側面において、径方向中間部に固定されている。第1リングギア41の内周面には複数の歯41aが形成されている。また、第2リングギア42は、ピストン30の外周筒状部30bの内周面に、ピストン30と一体に形成されている。第2リングギア42の内周面には複数の歯42aが形成されている。
【0044】
連結部材40の歯40aは第2リングギア42の歯42aに常時噛み合っている。そして、連結部材40が作動油によってフロントカバー2側に移動することにより、外周面の歯40aが第1リングギア41の歯41aにも噛み合う。すなわち、連結部材40の歯40aが、第1リングギア41及び第2リングギア42の両方の歯41a,42aに噛み合った状態が、ドグクラッチ32のトルク伝達状態(クラッチオン)であり、第2リングギア42の歯42aのみに噛み合った状態がドグクラッチ32のトルク伝達解除状態(クラッチオフ)である。
【0045】
<位置決め機構>
このロックアップ装置7は、連結部材40の軸方向の位置決めを行うための位置決め機構49を有している。位置決め機構49は、スラストワッシャ46を有している。スラストワッシャ46は、
図2に示すように、タービンハブ17の第3筒状部17dとフロントカバー2との間で、連結部材40の内周側に配置されている。
【0046】
図3に拡大して示すように、スラストワッシャ46には、径方向に対向する位置に2つの貫通孔46aが形成されている(
図3では一方の孔のみ示している)。この2つの孔46aのそれぞれに、スプリングシート50が配置されている。スプリングシート50は、円板状のつば部50aと、つば部50aの中心から突出する位置決め突起50bと、を有している。そして、位置決め突起50bが、スラストワッシャ46の内周側から孔46aに挿入されている。また、2つのスプリングシート50のつば部50aの間に、2つのスプリングシート50を外方に付勢するようにスプリング51が設けられている。
【0047】
一方、連結部材40の内周面には、軸方向に並べて2つの環状凹部40c,40dが形成されている。この環状凹部40c,40dに、2つのスプリングシート50の位置決め突起50bの先端が嵌合可能である。
【0048】
このような構成により、連結部材40がフロントカバー2側に移動してドグクラッチ32がトルク伝達状態(クラッチオン)のときには、連結部材40の一方の環状凹部40cに位置決め突起50bが嵌合し、連結部材40の軸方向の移動が規制される。また、連結部材40がタービン4側に移動してドグクラッチ32がトルク伝達解除状態(クラッチオフ)のときには、連結部材40の他方の環状凹部40dに位置決め突起50bが嵌合し、連結部材40の軸方向の移動が規制される。
【0049】
<ダンパ機構34>
ダンパ機構34はピストン30とタービン4との間に配置されている。
図4に示すように、ダンパ機構34は、入力プレート54と、複数のトーションスプリング55と、フロート部材56と、出力プレート57と、を有している。
【0050】
入力プレート54は、環状の部材であり、内周部がリベット58によって、ピストン30に固定されている。入力プレート54は、支持部54aと、複数の係合部54bと、複数のストッパ爪54cと、を有している。支持部54aは、入力プレート54の径方向中間部をタービン4側に折り曲げて形成され、筒状に形成されている。複数の係合部54bは、支持部54aの一部を外周側に折り曲げ、その先端をさらにタービン4側に折り曲げて形成されている。係合部54bはトーションスプリング55の円周方向の端面に当接している。ストッパ爪54cは、支持部54aの一部を、さらにタービン4側に延長して形成されている。
【0051】
複数のトーションスプリング55は、円周方向に間隔を隔てて配置され、フロート部材56によって移動が規制されている。
【0052】
フロート部材56は、環状に形成され、側部56a、外周部56b、及び中間係合部56cを有している。
【0053】
側部56aは、ピストン30とトーションスプリング55との間に配置され、トーションスプリング55のフロントカバー2側への移動を規制している。側部56aの内周面は、入力プレート54の支持部54aの外周面に支持されており、これによりフロート部材56は径方向に位置決めされている。
【0054】
外周部56bは側部56aの外周端部をタービン4側に延ばして形成されたものである。この外周部56bによって、トーションスプリング55の外周側への飛び出しが規制されている。なお、トーションスプリング55の内周側への移動は、入力プレート54のストッパ爪54cによって規制されている。
【0055】
中間係合部56cは、側部56aの一部をタービン4側に切り起こして形成された部分と、外周部56bの一部を内周側及びフロントカバー2側に折り曲げて形成された部分と、を有している。中間係合部56cはトーションスプリング55の端面に当接可能である。また、外周部56bの一部を内周側に折り曲げて形成された中間係合部56cによって、トーションスプリング55のタービン4側への移動が規制されている。
【0056】
以上のような構成では、複数のトーションスプリング55のうちの1組2個のトーションスプリング55の円周方向の両端面に入力プレート54の係合部54bが係合し、1組2個のトーションスプリング55の間に中間係合部56cが挿入されてトーションスプリング55の端面に当接している。これにより、1組2個のトーションスプリング55は直列的に作用する。
【0057】
出力プレート57は、概ね円板状の部材であり、内周部がリベット18によりタービンシェル15とともにタービンハブ17のフランジ17aに固定されている。出力プレート57の外周部には、筒状部57aと、複数の係合部57bと、が形成されている。筒状部57aは、外周部をフロントカバー2側に折り曲げて形成されている。複数の係合部57bは、筒状部57aの先端の一部を外周側及びフロントカバー2側に折り曲げて形成されている。
【0058】
筒状部57aには、複数の係合部57bが形成されていない部分に円周方向に延びる切欠きが形成されている。この切欠きに、入力プレート54のストッパ爪54cが差し込まれている。したがって、ストッパ爪54cが切欠き内で移動し得る範囲で、入力プレート54と出力プレート57とは相対回転が可能である。
【0059】
複数の係合部57bは、複数のトーションスプリング55のうちの1組2個のトーションスプリング55の円周方向両端面に係合可能である。
【0060】
<油圧回路>
図5により油圧回路について説明する。油圧回路は、第1油圧ポートP1と、第2油圧ポートP2と、第1油室Q1と、第2油室Q2と、第3油室Q3及び調整油室Rを含むドグ油室Qdと、メインバルブ(第1バルブの一例)Vcと、開放バルブ(第2バルブの一例)Vo(
図7参照)と、を有している。
【0061】
第1油圧ポートP1は、タービンハブ17とワンウェイクラッチ22との間に形成されている。第1油圧ポートP1は、トルクコンバータ本体6内に作動油を供給するとともに、第1油室Q1に作動油を供給する。また、第1油圧ポートP1がドレンに接続されると、第1油室Q1の作動油は第1油圧ポートP1を介して排出される。第2油圧ポートP2は、スラストワッシャ46のフロントカバー2側の端部に形成された切欠き46bによって形成されている。第2油圧ポートP2は第2油室Q2に作動油を供給する。また、第2油圧ポートP2がドレンに接続されると、第2油室Q2の作動油は第2油圧ポートP2を介して排出される。
【0062】
第1油室Q1はピストン30のタービン4側に形成された空間である。第2油室Q2はフロントカバー2とピストン30及び連結部材40との間に形成された空間である。第1油室Q1の作動油の油圧(以下、単に「油圧」と記す)を第2油室Q2の油圧より高めることによって、ピストン30はフロントカバー2側に移動する。
【0063】
ドグ油室Qdは、第3油室Q3及び調整油室Rを含んでいる。第3油室Q3は連結部材40の内周部とタービンハブ17との間に形成された空間である。調整油室Rは、連結部材40の内部に形成された環状空間のうち、ベローズ44によって閉められた空間以外の空間である。ベローズ44は伸縮するので、調整油室Rはベローズ44が伸縮することによって、その容積が変化する。第3油室Q3と調整油室Rとは、連結部材40に形成された連結孔40eによって連通している。
【0064】
メインバルブVcは、
図5及び
図5の一部拡大図である
図6に示すように、タービンハブ17の第2筒状部17cの内部に配置されている。より詳細には、第2筒状部17cには軸方向に貫通する段付きの孔が形成されており、この孔にメインバルブVcが配置されている。メインバルブVcは、第1油室Q1と第3油室Q3(ドグ油室Qd)の差圧が所定値以上になったときに開いて、第1油圧ポートP1から第3油室Q3側に作動油を導く。メインバルブVcは、軸方向に移動可能なスプール61と、シート62と、スプリング63と、を有している。
【0065】
スプール61は、胴部61aと、シール部61bと、を有している。胴部61aには、横孔61c及び縦孔61dが形成されている。横孔61cは、胴部61aの中心部において軸方向に延びている。横孔61cの第3油室Q3側の端部は開放されており、他方の端部は閉じられている。縦孔61dは、胴部61aのシール部61b側の端部に、径方向に貫通して形成されている。シール部61bは、円錐台状に形成されており、一部に環状の溝61eが形成されて、この溝61eにOリング64が装着されている。
【0066】
シート62は、スプール61のシール部61bが嵌合可能なテーパ状の凹部62aを有している。そして、この凹部62aの底部には、第1油圧ポートP1に連通する連通孔62bが形成されている。スプリング63は、スプール61の胴部61a外周に配置され、スプール61のシール部61bをシート62の凹部62aに押し付けるように作用する。
【0067】
ここでは、スプリング63によってシール部61bのOリング64がシート62の凹部62aに押し付けられた状態では、第1油圧ポートP1からの作動油は第3油室Q3には流入しない。一方で、第1油圧ポートP1から供給される作動油の油圧が第3油室Q3側の油圧に対して相対的に高くなって、両者の差圧が所定値以上になると、スプール61がスプリング63の付勢力に抗して第3油室Q3側に移動する。この状態では、第1油圧ポートP1からの作動油は、シート62の連通孔62bから凹部62aに流入し、さらにスプール61の縦孔61d及び横孔61cを通って第3油室Q3に流入する。
【0068】
開放バルブVoは、タービンハブ17の第2筒状部17cの内部において、メインバルブVcと円周方向の位相が異なる場所(例えば径方向で対応する位置)に装着されている。開放バルブVoは、メインバルブVcと同様に、第2筒状部17cに形成された軸方向に貫通する段付きの孔に配置されている。開放バルブVoは、第3油室Q3側の油圧が第1油室Q1側の油圧より相対的に高くなると、第3油室Q3と第1油室Q1(第1油圧ポートP1)とを連通し、第3油室Q3及び調整油室Rの作動油を排出する。
【0069】
開放バルブVoは、
図7に示すように、軸方向に移動可能なスプール71と、シート72と、スプールガイド73と、を有している。
【0070】
スプール71は、組み付けられた方向が異なるが、メインバルブVcのスプール61と同様の構成である。すなわち、胴部71aと、シール部71bと、を有している。胴部71aには横孔71c及び縦孔71dが形成されている。シール部71bには環状の溝71eが形成され、この溝71eにOリング74が配置されている。
【0071】
シート72は、組み付けられた方向が異なるが、メインバルブVcのシート62と同様の構成である。すなわち、テーパ状の凹部72aを有し、凹部72aの底部には、第3油室Q3に連通する連通孔72bが形成されている。
【0072】
スプールガイド73は、第2筒状部17cの孔に配置され、筒状に形成されている。このスプールガイド73の内部の孔73aを、スプール71の胴部71aが摺動自在である。なお、スプールガイド73の端部には大径の凹部73bが形成されている。この凹部73bにスプール71のシール部71bの端面が当接することによって、スプール71の軸方向の移動が規制されている。
【0073】
ここでは、第1油室Q1(第1油圧ポートP1)側の油圧が第3油室Q3側の油圧より相対的に高い場合は、スプール71のシール部71bがシート72の凹部72aに押し付けられ、第3油室Q3及び調整油室Rの作動油は第1油室Q1(第1油圧ポートP1)側に排出されない。一方、第1油室Q1(第1油圧ポートP1)側の油圧が第3油室Q3側の油圧より相対的に低くなれば、第3油室Q3及び調整油室Rの作動油は第1油室Q1(第1油圧ポートP1)側に排出される。
【0074】
[ロックアップ装置の動作]
図8に、ロックアップ装置に対する油圧制御フローと、そのときのロックアップ装置の状態と、を示している。図の上部には、経過時間(横軸)に対する各部の油圧(左側縦軸)と、ピストン30及び連結部材40の変位(右側縦軸)と、を示している。なお、「変位」については、絶対移動量ではなく、最大変位を100%とした場合の割合(%)で示している。また、図の下部には、油圧制御の各ステージにおけるピストン30と連結部材40の動きを示している。
【0075】
以下の説明では、第1クラッチ部28及びドグクラッチ32において、トルクを伝達する状態を「(クラッチ)オン」と記す。また、各クラッチにおいてトルク伝達が解除された状態を「(クラッチ)オフ」と記す。
【0076】
図8において、C1は第1油室Q1の油圧、C2は第2油室Q2の油圧、C3はドグ油室Qdの油圧を示している。Dpはピストン30の変位、Ddは連結部材40の変位を示している。
【0077】
<第1ステージI(ロックアップオフ)>
第1ステージは、トルクコンバータ本体6によるトルク伝達状態を示している。この場合は、第2油圧ポートP2から供給される作動油の油圧C2が比較的高く、第1油室Q1及びドグ油室Qdの油圧C1,C3よりも第2油室Q2の油圧C2の方が高い。したがって、第1クラッチ部28及びドグクラッチ32ともにオフであり、フロントカバー2に入力されたトルクはトルクコンバータ本体6を介してタービン4に伝達される。すなわち、ロックアップオフである。
【0078】
<第2ステージII(ロックアップオン)>
エンジンの回転数が所定の回転数に上昇すると、第2ステージに移行する。この第2ステージでは、第1油圧ポートP1から供給される作動油の油圧C1が第1ステージの油圧から上昇する。一方、第2油圧ポートP2から供給される作動油の油圧C2が低下する。したがって、第1油室Q1の油圧C1の方が第2油室Q2の油圧C2より高くなり、ピストン30がフロントカバー2側に移動して、第1クラッチ部28がオンになる。すなわち、ロックアップオンとなる。
【0079】
なお、この第2ステージでは、メインバルブVcは閉じたままである。したがって、ドグ油室Qdの油圧C3は第1ステージのまま維持され、連結部材40はフロントカバー2側に移動しない。すなわち、連結部材40は第2リングギア42に噛み合っているが、第1リングギア41には噛み合っておらず、ドグクラッチ32はオフのままである。
【0080】
この状態では、フロントカバー2からのトルクは、ピストン30に伝達され、さらにダンパ機構34を介してタービン4に伝達される。
【0081】
<第3ステージIII→第4ステージIV(機械的連結への移行)>
第2ステージの状態を所定時間維持した後は、第3ステージに移行する。この第3ステージでは、第1油室Q1の油圧C1を維持したまま第2油圧ポートP2から供給される作動油の油圧C2をさらに下げる。このとき、ドグ油室Qdの作動油(油圧)は第2ステージのまま維持されているので、第2油室Q2の油圧C2を下げることによって、ドグ油室Qdの油圧C3が第2油室Q2の油圧C2よりも高くなる。このため、連結部材40がフロントカバー2側に移動するとともに、第1油室Q1とドグ油室Qdとの差圧がより大きくなり、メインバルブVcが開く。
【0082】
メインバルブVcが開くことによって、第1油圧ポートP1からの作動油は、メインバルブVcを介してドグ油室Qd(第3油室Q3及び調整油室R)に流入する。ここで、調整油室Rに作動油が流入することによって、ベローズ44は圧縮されることになる。そして、ドグ油室Qdの油圧C3は第1油室Q1の油圧C1まで上昇する。
【0083】
このように、ドグ油室Qdの油圧C3が第1油室Q1の油圧C1まで上昇することによって、連結部材40はフロントカバー2側に移動する。ただし、このとき、連結部材40の外周面の歯40aが第1リングギア41の歯41aの端面に衝突し、確実に噛み合っていない場合が考えられる。
図8では、連結部材40の変位Ddが、途中でとまった状態を示している。
【0084】
そこで、次に第4ステージIVに移行する。この第4ステージでは、第1油圧ポートP1から供給される作動油の油圧C1を所定の油圧まで下げる。この所定の油圧は、第1クラッチ部28において、すべりが生じる程度の油圧である。このようにして、第1クラッチ部28ですべりを生じさせることによって、連結部材40(第2リングギア42)と第1リングギア41(フロントカバー2)との間に相対回転が生じる。このため、連結部材40の歯40aと第1リングギア41の歯41aの位相がずれ、互いの衝突が回避される。これにより、連結部材40は確実に第1リングギア41と噛み合うことになる。また、連結部材40の歯40aの端面には面取りが形成されているので、よりスムーズに噛み合うことになる。
【0085】
そして、第4ステージの後半では、第1油圧ポートP1及び第2油圧ポートP2をドレンに接続し、第1油室Q1及び第2油室Q2の作動油を排出する。これにより、第1及び第2油室Q1,Q2の油圧C1,C2は「0」になる。また、ドグ油室Qdの油圧が第1油室Q1の油圧より相対的に高くなるので、開放バルブVoは開き、ドグ油室Qd内の作動油も排出されて、油圧C3は「0」になる。このとき、それまで圧縮されていたベローズ44は伸びた状態になる。
【0086】
ここでは、フロントカバー2に入力されたトルクは、ドグクラッチ32を介してピストン30に伝達され、その後、ダンパ機構34を介してタービン4に伝達される。すなわち、機械的連結によるロックアップオンである。
【0087】
また、この状態では、第1油室Q1に作動油は供給されないので、第1クラッチ部28はトルクを伝達しない。さらに、第2油室Q2にも作動油は供給されないので、作動油を供給するためのポンプを駆動する必要がない。すなわち、トルクコンバータに作動油を供給することなく、ロックアップ状態を維持して、フロントカバー2に入力されたトルクをタービン4に伝達することが可能になる。
【0088】
<第5ステージV(機械的連結によるロックアップオン)>
第5ステージは、フロントカバー2からのトルクがドグクラッチ32を介して機械的にタービン4に伝達されるロックアップ状態である。なお、第5ステージにおいて、ピストン30の変位は第4ステージと同じ変位を示しているが、ここでは、ピストン30に作動油による押圧力は作用していない。したがって、この第5ステージでは、第1クラッチ部28はオフである。この状態では、前述のように、第1油圧ポートP1及び第2油圧ポートP2はドレンに接続されており、各室の油圧C1,C2,C3は「0」である。すなわち、ロックアップ装置に作動油を供給することなく、ロックアップ状態を維持することができる。
【0089】
<第6ステージVI→第7ステージVII(ロックアップオフへの移行)>
第6ステージ及び第7ステージは、ロックアップ状態からロックアップ状態を解除する場合の油圧制御を示している。ここで、ロックアップ状態では、ドグクラッチ32のみによって機械的にトルクが伝達されている状態である。このような状態からドグクラッチ32をオフすると、遷移状態としてのクラッチのすべりが生じないので、ドグクラッチ32のオフ時にショックが生じるおそれがある。
【0090】
そこで、ここでは、ロックアップ状態からロックアップ解除状態にする際に、いったん第1クラッチ部28をオンした後にドグクラッチ32をオフし、その後第1クラッチ部28をオフするようにしている。
【0091】
具体的には、まず、第1油圧ポートP1から作動油を供給し、第1油室Q1の油圧C1を上昇させる。これにより、ピストン30に固定された摩擦部材28はフロントカバー2に押し付けられて第1クラッチ部28はオンになる。この状態では、フロントカバー2からのトルクは、ドグクラッチ32のみではなく、第1クラッチ部28をも介してダンパ機構34及びタービン4に伝達される。
【0092】
その後、第1油室Q1の油圧C1の上昇に遅れて、第2油圧ポートP2から作動油を供給し、第2油室Q2の油圧C2を所定の油圧まで上昇させる。このとき、メインバルブVcは閉じられているが、ベローズ44が圧縮されることによって第3油室Q3の作動油が連結部材40内部の調整油室Rに流れ込む。これによって、連結部材40は第2リングギア42側に移動する。このため、連結部材40と第1リングギア41との噛合が解除され、ドグクラッチ32はオフになる。
【0093】
ここでは、ロックアップ解除時に、いったん第1クラッチ部28をオンにし、その後ドグクラッチ32をオフにしているので、第1クラッチ部28をオンすることなくドグクラッチ32をオフする場合に比較して、ロックアップ解除時におけるショックを抑えることができる。
【0094】
その後、第7ステージに移行する。第7ステージの各部の油圧及び変位は第1ステージと同様である。ここでは、第2油室Q2の油圧C2が第1油室Q1の油圧C1より高くなるので、ピストン30はフロントカバー2から離れる方向に移動し、第1クラッチ部28は完全にオフになる。
【0095】
[他の実施形態]
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【0096】
(a)前記実施形態では、第1クラッチ部をピストンに固定された摩擦部材としたが、複数のクラッチプレートを有する多板型のクラッチにしてもよい。また、第2クラッチ部をドグクラッチとしたが、他の機械的にトルクを伝達するものであれば、構成は限定されない。
【0097】
(b)前記実施形態では、第2クラッチ部によってフロントカバーとピストンとを機械的に連結するようにしたが、トルク伝達経路はこれに限定されない。例えば、第2クラッチ部によって、フロントカバーとダンパ機構の入力部材とを機械的に連結するようにしてもよい。