(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について説明する。なお、本明細書において「フィルム」とは、二次元的な構造物、例えば、シート、プレート、不連続な膜などを含む意味に用いる。
【0019】
<基材フィルム>
本発明において用いられる基材フィルムは、高分子物質からなるフィルムである。基材フィルムの材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン12などのポリアミド、ポリ塩化ビニル、エチレン酢酸ビニル共重合体またはその鹸化物、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンサルファイド、芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、セルロース、酢酸セルロース、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、およびこれらの共重合体などが挙げられる。水溶性樹脂層及びポリ乳酸系樹脂層との密着性と積層フィルムとして均一な厚みを確保する観点から、基材フィルムの材料としては、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルまたはポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンが好ましい。表面の濡れ張力が高いことから、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルが特に好ましい。
【0020】
水溶性樹脂層及びポリ乳酸系樹脂層を塗膜層として形成する前に、基材フィルムにコロナ放電処理、火炎処理、プラズマ処理、あるいは紫外線照射処理などの表面処理を施すことがより好ましい。
【0021】
基材フィルムは、未延伸フィルム、一軸延伸フィルム、二軸延伸フィルムのいずれでもよいが、寸法安定性および機械特性の観点から、二軸延伸フィルムが好ましい。
【0022】
また、基材フィルムには、各種の添加剤が含まれていてもよい。例えば、酸化防止剤、耐候剤、熱安定剤、滑剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、着色剤等である。また、著しく表面平滑性を損なわない程度であれば、無機または有機の粒子を含んでいてもよい。例えば、タルク、カオリナイト、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化珪素、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、アルミナ、硫酸バリウム、ジルコニア、マイカ、リン酸カルシウム、架橋ポリスチレン系粒子などである。
【0023】
前記粒子の平均粒子径は、好ましくは0.001〜10μm、より好ましくは0.003〜5μmである。なお、ここで平均粒子径は、透過型電子顕微鏡などを用いて10,000〜100,000倍の写真を撮影し、数平均により求めた粒子径である。
【0024】
さらに、これらの基材フィルムは、透明であることが好ましい。基材フィルムの全光線透過率は、40%以上が好ましく、60%以上がさらに好ましく、上限は限りなく100%に近くても問題ない。基材フィルムのヘイズは20%以下であることが好ましく、15%以下がより好ましい。ヘイズが20%を超えると、積層された水溶性樹脂層及びポリ乳酸系樹脂層に含まれる不純物に対する光学検査機による検査確認が難しくなる場合がある。ヘイズの下限に特に制限はなく、限りなく0%に近くても問題ない。
【0025】
基材フィルムの厚みは、特に限定されないが、2〜1,000μmが好ましく、経済性の観点から10〜500μmがより好ましい。
【0026】
基材フィルムの表面の中心線平均粗さSRaは3〜50nmが好ましく、より好ましくは5〜40nm、さらに好ましくは5〜20nmである。中心線平均粗さSRaが3nmより小さいと平滑すぎて摩擦が大きくなり、フィルムの搬送性が低下し、ロール状で巻き取る際にしわが入ったりする場合がある。また、中心線平均粗さSRaが50nmより大きいと、表面の凹凸により塗工を行った際に塗布ヌケ・ピンホール等の欠点が発生する場合がある。
【0027】
基材フィルムの表面の十点平均粗さSRzは50〜1,000nmが好ましく、より好ましくは100〜800nm、さらに好ましくは100〜600nm、特に好ましくは100〜400nmである。十点平均粗さSRzが50nmより小さいと平滑すぎて摩擦が大きくなり、フィルムの搬送性が低下し、ロール状で巻き取る際にしわが入ったりする場合がある。また、十点平均粗さSRzが1,000nmより大きいと、表面の凹凸により塗工を行った際に塗布ヌケ・ピンホール等の欠点が発生する場合がある。
【0028】
なお、上述したSRaやSRzなどの3次元粗さで規定される基材フィルムの表面とは、ポリ乳酸系樹脂層、水溶性樹脂層が積層される面をいう。
【0029】
基材フィルムの3次元粗さは、面積S(0.4mm
2(1mm×0.4mm))の領域を測定対象とし、触針曲率半径2μmの触針式の3次元粗さ計を用いて、カットオフ値を0.25mmとし、測定長1mm、該測定方向に対して直交する方向に5μm間隔で81回測定し、得られた表面のプロファイル曲線をJIS B0601:1996に従って、中心線平均粗さSRa及び十点平均粗さSRzを算出した値である。
【0030】
また、本発明の効果を損ねない範囲でポリ乳酸系樹脂層の少なくとも片面に、ゼラチン、コラーゲン、ヒアルロン酸、キトサン及び合成ポリペプチド等からなる生体吸収性材料層をさらに形成してもよい。
【0031】
また、基材フィルムと前記水溶性樹脂層及びポリ乳酸系樹脂層との密着性を向上させるため、基材フィルム上にウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレンイミンなどのアンカー処理剤を用いてアンカー層を形成し、該アンカー層上に塗膜層を形成してもよい。該アンカー層の厚みは特に限定されないが、0.1〜5.0μmが好ましい。
【0032】
<ポリ乳酸系樹脂層>
本発明のポリ乳酸系樹脂層に用いられるポリ乳酸系樹脂は、ポリL−乳酸(L体)および/またはポリD−乳酸(D体)を主成分とすることが好ましい。ここで主成分とは、乳酸由来の成分の含有量が、ポリ乳酸系樹脂を構成する全ての単量体成分100mol%に対して70mol%以上100mol%以下のものをいい、実質的にポリL−乳酸および/またはポリD−乳酸のみからなるホモポリ乳酸系樹脂が好ましく用いられる。
【0033】
また、本発明に用いるポリ乳酸系樹脂のポリD−乳酸量は好ましくは4〜13mol%、より好ましくは6〜13mol%である。ポリD−乳酸量が4mol%より小さくなると有機溶媒への溶解性が低下し塗剤化することができない場合があり、13mol%より大きくなると生体適合性が低下する場合がある。
【0034】
本発明に用いるポリ乳酸系樹脂は、結晶性を有することが好ましい。ポリ乳酸系樹脂が結晶性を有するとは、該ポリ乳酸系樹脂を加熱下で十分に結晶化させた後に、適当な温度範囲で示差走査熱量分析(DSC)測定を行った場合、ポリ乳酸成分に由来する結晶融解熱が観測されることをいう。通常、ホモポリ乳酸系樹脂は、光学純度が高いほど融点や結晶性が高い。ポリ乳酸系樹脂の融点や結晶性は、分子量や重合時に使用する触媒の影響を受けるが、通常、光学純度が98%以上のホモポリ乳酸系樹脂では融点が170℃程度であり結晶性も比較的高い。また、光学純度が低くなるに従って融点や結晶性が低下し、例えば光学純度が88%のホモポリ乳酸系樹脂では融点は145℃程度であり、光学純度が75%のホモポリ乳酸系樹脂では融点は120℃程度である。光学純度が70%よりもさらに低いホモポリ乳酸系樹脂では明確な融点は示さず非結晶性となる。
【0035】
本発明に用いるポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量は、通常少なくとも5万以上、好ましくは8万〜40万、より好ましくは10万〜30万である。なお、本発明でいう重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)でクロロホルム溶媒にて測定を行い、ポリメチルメタクリレート(PMMA)換算法により計算した分子量をいう。ポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量を5万以上とすることで、該ポリ乳酸系樹脂を含んだ本発明のポリ乳酸系樹脂層の機械特性を優れたものとすることができ、さらに本発明の水溶性樹脂層とポリ乳酸系樹脂層からなる積層フィルムの機械特性をも優れたものとすることができる。
【0036】
本発明に用いるポリ乳酸系樹脂は、塗膜液作成時の溶媒への溶解性向上を目的として、結晶性を有するホモポリ乳酸系樹脂と非晶性のホモポリ乳酸系樹脂を混合してもよい。この場合、非晶性のホモポリ乳酸系樹脂の割合は本発明の効果を損ねない範囲で決定すればよい。また、水溶性樹脂層とポリ乳酸系樹脂層からなる積層フィルムとした際に、比較的高い耐熱性を付与したい場合は、使用するポリ乳酸系樹脂のうち少なくとも1種に光学純度が95%以上のポリ乳酸系樹脂を含むことが好ましい。
【0037】
本発明に用いるポリ乳酸系樹脂は、L−乳酸、D−乳酸のほかにエステル形成能を有するその他の単量体成分を共重合した共重合ポリ乳酸系樹脂であってもよい。共重合可能な単量体成分としては、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸類の他、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール等の分子内に複数の水酸基を含有する化合物類またはそれらの誘導体、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸等の分子内に複数のカルボン酸基を含有する化合物類またはそれらの誘導体が挙げられる。なお、上記した共重合成分の中でも、用途に応じて生分解性を有する成分を選択することが好ましい。これら共重合成分は、ポリ乳酸系樹脂を構成する全ての単量体成分100mol%に対して0mol%以上30mol%以下含有することが好ましい。
【0038】
ポリ乳酸系樹脂の製造方法としては、詳細は後述するが、乳酸からの直接重合法、ラクチドを介する開環重合法などを挙げることができる。
【0039】
本発明のポリ乳酸系樹脂は、加水分解による強度低下を抑制し、良好な耐久性(長期保管性)を付与する観点から、ポリ乳酸系樹脂中のカルボキシル基末端濃度が30当量/10
3kg以下であることが好ましく、より好ましくは20当量/10
3kg以下、さらに好ましくは10当量/10
3kg以下である。ポリ乳酸系樹脂中のカルボキシル基末端濃度が30当量/10
3kg以下であると、加水分解の自己触媒ともなるカルボキシ基末端濃度が十分低いために、実用的に良好な耐久性を付与できる。ポリ乳酸系樹脂中のカルボキシル基末端濃度下限について特に制限はなく、限りなく0当量に近くても問題ない。
【0040】
ポリ乳酸系樹脂中のカルボキシル基末端濃度を30当量/10
3kg以下とする方法としては、例えば、ポリ乳酸系樹脂の合成時の触媒や熱履歴により制御する方法、フィルム状に成形する際の加工温度の低下あるいは加熱時間の短縮によって熱履歴を低減する方法、反応型化合物を用いカルボキシル基末端を封鎖する方法等が挙げられる。
【0041】
反応型化合物を用いカルボキシル基末端を封鎖する方法では、ポリ乳酸系樹脂中のカルボキシル基末端の少なくとも一部が封鎖されていることが好ましく、全量が封鎖されていることがより好ましい。反応型化合物としては、例えば、脂肪族アルコールやアミド化合物等の縮合反応型化合物やカルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物等の付加反応型化合物が挙げられるが、反応時に余分な副生成物が発生しにくい点で付加反応型化合物が好ましく、中でも反応効率の点からカルボジイミド化合物が好ましい。
【0042】
本発明のポリ乳酸系樹脂層には、機械強度を向上させる目的で、積層フィルム全体100質量%に対して耐衝撃性改良剤を2質量%以上20質量%以下含有してもよい。好ましくは2.5質量%以上15質量%以下である。耐衝撃性改良剤の含有量が多くなるほど、耐衝撃性の改良効果は向上するが、20質量%を超えて含有しても機械強度の大幅な向上は得られない場合が多い。
【0043】
本発明に用いる耐衝撃性の向上に用いる耐衝撃性改良剤としては、ポリ乳酸系樹脂中において好適な分散性を有し少量でより高い効果が得られる点で、ポリ乳酸系樹脂以外の脂肪族ポリエステルや脂肪族芳香族ポリエステルが好ましい。
【0044】
ポリ乳酸系樹脂以外の脂肪族ポリエステルや脂肪族芳香族ポリエステルとしては、特に限定されるものではなく、具体的には、ポリグリコール酸、ポリ3−ヒドロキシ酪酸、ポリ4−ヒドロキシ酪酸、ポリ4−ヒドロキシ吉草酸、ポリ3−ヒドロキシヘキサン酸またはポリカプロラクトン、ポリエチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート・アジペートなどが挙げられる。
【0045】
さらに機械強度を向上させ、かつ、生分解性を維持するためには、ポリ乳酸系樹脂以外の脂肪族ポリエステルである、ポリブチレンサクシネート系樹脂を用いることが好ましい。より好ましくは、機械強度向上の効果が大きくポリ乳酸系樹脂と相溶性のよいポリブチレンサクシネートやポリブチレンサクシネート・アジペートである。
【0046】
本発明に用いるポリブチレンサクシネート系樹脂の重量平均分子量は10万〜30万であることが好ましい。なお、ポリブチレンサクシネート系樹脂は1,4−ブタンジオールとコハク酸を重縮合して得られる。
【0047】
本発明におけるポリ乳酸系樹脂は、例えば、次のような方法で得ることができる。原料としては、L−乳酸またはD−乳酸の乳酸成分と、前述した乳酸成分以外のヒドロキシカルボン酸を併用することができる。またヒドロキシカルボン酸の環状エステル中間体、例えば、ラクチド、グリコリド等を原料として使用することもできる。更にジカルボン酸類やグリコール類等も使用することができる。
【0048】
ポリ乳酸系樹脂は、上記原料を直接脱水縮合する方法、または上記環状エステル中間体を開環重合する方法によって得ることができる。例えば直接脱水縮合して製造する場合、乳酸類または乳酸類とヒドロキシカルボン酸類を好ましくは有機溶媒、特にフェニルエーテル系溶媒の存在下で共沸脱水縮合し、好ましくは共沸により留出した溶媒から水を除き実質的に無水の状態にした溶媒を反応系に戻す方法によって重合することにより高分子量のポリマーが得られる。
【0049】
また、ラクチド等の環状エステル中間体をオクチル酸錫等の触媒を用い減圧下開環重合することによっても高分子量のポリマーが得られることも知られている。このとき、有機溶媒中での加熱還流時の水分および低分子化合物の除去の条件を調整する方法や、重合反応終了後に触媒を失活させ解重合反応を抑える方法、製造したポリマーを熱処理する方法などを用いることにより、ラクチド量の少ないポリマーを得ることができる。
【0050】
本発明におけるポリ乳酸系樹脂層の厚みは、被着体への形状追従性の観点から、通常10〜500nmであり、10〜100nmが好ましい。10nmより薄くなると形状の保持が困難となる場合があり、500nmを超えると被着体に貼り付けた際に皺が発生する場合がある。
【0051】
また、被着体への貼付性の観点からは、本発明におけるポリ乳酸系樹脂層の厚みは、通常10〜500nmであり、好ましくは10〜300nmであり、より好ましくは50〜250nmであり、特に好ましくは160〜250nmであり、最も好ましくは160〜200nmである。10nmより薄くなる、または500nmより厚くなると被着体への貼付性が低下する場合がある。
【0052】
本発明の効果を損なわない範囲であれば、各種の添加剤が積層フィルム全体100質量%に対して30質量%以下含まれていてもよい。該各種の添加剤としては、酸化防止剤、耐候剤、熱安定剤、滑剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、着色剤等などが使用できる。添加剤の含有量の下限は特に制限なく、積層フィルム全体100質量%に対して0質量%であっても問題ない。また、透明性を損なわない程度であれば、無機または有機の粒子が積層フィルム全体100質量%に対して20質量%以下含まれていてもよい。例えば、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化珪素、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、アルミナ、硫酸バリウム、ジルコニア、リン酸カルシウム、架橋ポリスチレン系粒子、金属ナノ粒子などである。無機または有機の粒子の含有量の下限は特に制限なく、積層フィルム全体100質量%に対して0質量%であっても問題ない。
【0053】
<水溶性樹脂層>
本発明の水溶性樹脂層に用いる水溶性樹脂は水、温水や生理食塩水、グルコース溶液等に溶解可能な高分子物質である。具体的には、ポリビニルアルコールまたはその共重合体、デキストラン、アガロース、プルラン、キトサン、マンナン、カラギーナン、アルギン酸、デンプン類(酸化でんぷん、エーテル化でんぷん、デキストリンなど)、アミロース、アミロペクチン、ペクチン、レンチナン、ヒアルロン酸、ハイラン、セルロース誘導体( メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなど) などの多糖類、ゼラチン、コラーゲン、エラスチン、アルブミン、ヘモグロビン、トランスフェリン、グロブリン、フィブリン、フィブリノーゲン、ケラチン硫酸などのポリペプチド、ポリビニルピロリドン、スルホイソフタル酸等の極性基を含有する共重合ポリエステル、ポリヒドロキシエチルメタクリレートまたはその共重合体などのビニル系重合体、アクリル系高分子、ウレタン系高分子、エーテル系高分子などが好ましく挙げられる。また、これらの各種重合体をカルボキシル基、アミノ基、メチロール基などの官能基で変性した重合体も好ましく用いることができる。中でも製造コスト、入手し易さ及び衛生性の観点から、ポリビニルアルコールまたはその共重合体やプルランが好ましい。
【0054】
ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルの鹸化物であり、鹸化度は85〜98.5mol%が好ましく、85〜90mol%がより好ましい。ポリビニルアルコールの鹸化度が98.5mol%を超える場合には、得られる水溶性樹脂層の水への溶解性が低下する場合がある。
【0055】
ポリビニルアルコール共重合体としては、ビニルアルコール単位が80〜98mol%が好ましく、85〜98mol%がより好ましい。なお、鹸化度とは、ポリビニルアルコールまたはその共重合体が有する、鹸化によってビニルアルコール単位に変換され得る構造単位(典型的にはビニルエステル単位)とビニルアルコール単位との合計mol数に対して当該ビニルアルコール単位のmol数が占める割合(mol%)をいう。なお、鹸化度はJIS K6726:1994に準じて測定することができる。
【0056】
プルランとは、グルコースのみからなる多糖類の一種で、グルコース3分子がα1−4結合したマルトトリオースがα1−6結合で繋がった構造を持つ高分子であり、水溶性樹脂の1つである。
【0057】
プルランは、通常、入手しやすさ及び価格の点で有利であることから、澱粉分解物を含有する培地中でオーレオバシディウム属などの酵母を培養することにより製造されたプルランが有利に用いられる。例えば、株式会社林原商事販売のプルラン(商品名『プルランPI−20』及び『プルランPF−20』等)が好適に使用できる。ただし、これらに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲で、他のプルラン製品を用いることもできる。また、必要に応じて、任意の置換度のエステル化などの修飾を施すなどして誘導体化したマルトトリオースを反復単位としてもよい。
【0058】
本発明に用いるプルランの重量平均分子量としては、通常、5,000〜1,000,000ダルトンが好ましく、より好ましくは、10,000〜1,000,000ダルトン、さらに好ましくは50,000〜500,000ダルトンの範囲が望ましい。なお、プルランの重量平均分子量や分子量分布を選択することによって、水溶性樹脂層を所望の崩壊速度に調節することができる。配合する他の成分にもよるが、重量平均分子量が5,000ダルトン未満であるとシート状の皮膜形成が難しくなる場合があり、1,000,000ダルトンを超えると水性溶媒への溶解速度が小さくなりすぎる場合がある。
【0059】
水溶性樹脂層を構成する水溶性樹脂の平均重合度は、100〜5,000が好ましく、200〜2,500がより好ましく、400〜1,800がさらに好ましい。ここで、平均重合度とは、数平均重合度のことである。平均重合度がこの範囲にあると、均一な塗膜を形成し易く、なおかつ塗膜としての機械強度が高く、なおかつ水溶液への再溶解性に優れるため好ましい。なお、本明細書でいうポリビニルアルコールの平均重合度は、JIS K6726:1994の記載に準じて測定した平均重合度を意味する。
【0060】
本発明においては、平均重合度が異なる2種類以上の水溶性ポリマーを混合して使用してもよい。これにより、塗膜としての高い機械強度と水溶液への再溶解性に加えて、基材フィルムとの密着性およびポリ乳酸系樹脂との密着性も良好な塗膜が得られる。平均重合度が100〜800の低重合度の水溶性ポリマーと、平均重合度が1,000〜2,500の高重合度の水溶性ポリマーの2種類以上を混合して使用することが好ましい。低重合度の水溶性ポリマーは、平均重合度が300〜700のものが好ましい。高重合度の水溶性ポリマーは、平均重合度が1,300〜1,700のものが好ましい。
【0061】
本発明の効果を損ねない範囲であれば、各種の添加剤が水溶性樹脂層全体100質量%に対して30質量%以下含まれていてもよい。下限値は特に制限なく、0質量%であっても問題ない。該各種の添加剤としては、酸化防止剤、耐候剤、熱安定剤、滑剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、着色剤等などが使用できる。また、本発明の効果を損ねない範囲であれば、無機または有機の粒子が20質量%以下含まれていてもよい。下限値は特に制限なく、0質量%であっても問題ない。例えば、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化珪素、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、アルミナ、硫酸バリウム、ジルコニア、リン酸カルシウム、架橋ポリスチレン系粒子、金属ナノ粒子などが使用できる。
【0062】
本発明における水溶性樹脂層の厚みは、被着体への形状追従性の観点から、通常0.1〜15μmであり、1.0〜15μmが好ましい。より好ましくは1.0〜10μmであり、さらに好ましくは1.0〜5.0μmであり、特に好ましくは1.0〜4.0μmであり、最も好ましくは2.0〜4.0μmである。0.1μmより薄くなると形状の保持が困難となる場合があり、15μmを超えると被着体に貼り付けた際に皺が発生したり、水への再溶解に時間がかかり、ポリ乳酸系樹脂と分離しにくくなったりする場合がある。
【0063】
<積層フィルム>
温度23±2℃、相対湿度65±5%における基材フィルムと基材フィルムに接して積層されたポリ乳酸系樹脂層または水溶性樹脂層との剥離強度が5×10
−3〜5,000×10
−3(N/10mm)であることが、剥離性、取扱い性、保存性などの観点から好ましい。より好ましくは5×10
−3〜2,000×10
−3(N/10mm)であり、さらに好ましくは5×10
−3〜1,000×10
−3(N/10mm)、特に好ましくは5×10
−3〜300×10
−3(N/10mm)、最も好ましくは5×10
−3〜100×10
−3(N/10mm)である。一方、5,000×10
−3(N/10mm)を超える場合は、積層フィルムと基材フィルムとの剥離の際、積層フィルムが破れる、または積層フィルムにクラックが入る場合がある。また、5×10
−3(N/10mm)未満の場合は、水溶性樹脂層もしくはポリ乳酸系樹脂層を積層コートする際に、基材とポリ乳酸系樹脂層または水溶性樹脂層とが容易に剥離し水溶性樹脂層とポリ乳酸系樹脂層を積層できない場合がある。
【0064】
本発明の積層フィルムは、積層フィルムそのままで使用されてもよいし、他素材と積層されて使用されてもよい。ここで、他素材としては、一般に使用されている素材であれば特に限定されず、紙、アルミニウム、ケイ素等の金属またはその酸化物、不織布、樹脂フィルム、生体膜等が挙げられる。
【0065】
樹脂フィルムとしては、無延伸フィルム、二軸延伸フィルム、共押出フィルム、コーティングフィルム、蒸着フィルム、溶融押出レジン等を用いることができ、その原料としてはポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン12などのポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニルまたはその鹸化物、エチレン酢酸ビニル共重合体またはその鹸化物、ポリスチレン、芳香族ポリアミド、アイオノマー樹脂、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミド、ポリアミドイミド、セルロース、酢酸セルロース、ポリアクリロニトリルなど、およびこれらの共重合体を用いることができる。
【0066】
生体膜とは、各種細胞や細胞小器官を囲む膜を示し、また、細胞とは各種臓器、器官、組織の細胞、血液細胞、生殖細胞などを含み、また、細胞小器官とは一定の機能を有する細胞質の有形成分を示し、ゴルジ体、ミトコンドリア、中心小体、リボソーム、小胞体、リソソーム、核膜などを含む。
【0067】
また、積層構成も特に限定されず、本発明のフィルムと他素材との間に印刷層、接着剤層あるいはアンカー層があってもかまわない。
【0068】
<製造方法>
次に、本発明の積層フィルム、ポリ乳酸系樹脂フィルムの代表的製造方法について述べるが、下記の方法に限定されるものではない。
【0069】
[塗膜を形成する方法]
基材フィルムとして、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルまたはポリプロピレンなどのポリオレフィンの二軸延伸フィルムを用いる場合には、二軸延伸フィルム製膜工程後にコートするオフラインコート、二軸延伸フィルム製膜工程内でコートするインラインコートのどちらの方法を用いてもよい。
【0070】
インラインコートが用いられる場合には、フィルムが熱固定される前にコーティングを行うことが好ましい。熱固定とは、延伸されたフィルムを延伸温度より高く、またフィルムの融点より低い温度で保持したまま熱処理することによって、フィルムを結晶化させることである。したがって、未延伸フィルム、長手方向または横手方向への一軸延伸直後のフィルムあるいは二軸延伸直後のフィルムへのコーティングが好ましい。より好ましくは一軸延伸直後のフィルムへのコーティングであり、その後フィルムをさらに一軸以上に延伸、熱固定することがさらに好ましい。塗膜の乾燥方法は、熱ロール接触法、熱媒(空気、オイル等)接触法、赤外線加熱法、マイクロ波加熱法等が利用できる。
【0071】
基材フィルムの上にオフラインコートで塗膜を形成する方法は、高速で薄膜コートすることが可能である点で、構成成分を各種溶媒に分散させた溶液を、グラビアコート、リバースコート、スプレーコート、キッスコート、コンマコート、ダイコート、ナイフコート、エアーナイフコートあるいはメタリングバーコートするのが好適である。基材フィルムは、塗布前に接着促進処理、例えば空気中、窒素ガス中、窒素/炭酸ガスの混合ガス、その他の雰囲気下でのコロナ放電処理、減圧下でのプラズマ処理、火炎処理、紫外線処理等を施すことがより好ましい。さらに、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレンイミンなどのアンカー処理剤を用いてアンカー処理を施してもよい。
【0072】
水溶性樹脂塗膜の乾燥は、オフラインコートの場合には60℃〜180℃、インラインコートの場合には80℃〜250℃の範囲内で行われることが好ましい。乾燥時間は、好ましくは1秒〜60秒、より好ましくは3秒〜30秒である。
【0073】
ポリ乳酸系樹脂塗膜の乾燥は、オフラインコートの場合には60℃〜110℃、インラインコートの場合には80℃〜180℃の範囲内で行われることが好ましい。乾燥時間は、好ましくは1秒〜60秒、より好ましくは3秒〜30秒である。
【0074】
[水溶性樹脂を含んだ塗剤]
水溶性樹脂を含んだ塗剤としては、構成成分が均一に溶解した溶液が好ましい。溶媒としては、水または水/低級アルコール混合溶液が好ましく用いられる。水/低級アルコール混合溶液を用いることがより好ましい。
【0075】
水溶性樹脂を含んだ塗剤の固形分濃度は、塗剤の粘度、乾燥効率、塗工性等の生産性の観点から1.0質量%以上が好ましく、15質量%以下が好ましい。15質量%を超える高濃度塗剤を用いると溶液粘度が高くなりすぎ、水溶性樹脂層の厚みを制御することが難しくなる場合がある。1.0質量%未満の低濃度塗剤を用いる場合は、塗剤の溶媒に水との親和性のある揮発性の高い低沸点溶媒を加える方法、塗膜の乾燥を水の沸点以上の温度で行う方法等が用いられる。
【0076】
また、塗布性を付与するために、水溶性樹脂を含んだ塗剤の安定性が維持される範囲内であれば、溶液中に第3成分として他の水溶性有機化合物が含まれていてもよい。上記水溶性有機化合物としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、n−ブチルセロソルブ等のグリコール誘導体、グリセリン、ワックス類等の多価アルコール類、ジオキサン等のエーテル類、酢酸エチル等のエステル類、メチルエチルケトン等のケトン類が挙げられる。また、溶液のpHは溶液の安定性の点から2〜11が好ましい。
【0077】
[ポリ乳酸系樹脂を含んだ塗剤]
ポリ乳酸系樹脂を含んだ塗剤としては、構成成分が均一に溶解した溶液が好ましい。溶媒としては、特に限定しないが、ブチルアルコール、クロロホルム、シクロヘキサン、アセトニトリル、ジクロロメタン、ジクロロエタン、酢酸エチル、エチルエーテル、ジプロピルエーテル及びトルエンからなる群から選択される少なくとも単一溶媒もしくは2種類以上の混合溶液を用いることが好ましい。生産性、取扱い性の観点から、酢酸エチルが特に好ましい。
【0078】
ポリ乳酸系樹脂を含んだ塗剤の固形分濃度は、特に限定しないが塗剤の粘度、乾燥効率、塗工性等の生産性の観点から1.0質量%以上が好ましく、10質量%以下が好ましい。
【0079】
また、塗布性を付与するために、ポリ乳酸系樹脂を含んだ塗剤の安定性が維持される範囲内であれば、溶液中に第3成分として他の有機化合物が含まれていてもよい。
【0080】
[塗剤の調製方法]
水溶性樹脂を含んだ塗剤及びポリ乳酸系樹脂を含んだ塗剤の調製方法は、特に限定されないが、本発明の効果を損ねない範囲で架橋剤、粒子等の各種の添加剤を加える場合は、塗剤中で樹脂と該添加剤が均一に分散していることが好ましい。必要に応じて、ヒーター等で溶媒の温度を上げて樹脂の溶解度を上げたり、せん断力、ずり応力のかかるホモミキサー、ジェットアジター、ボールミル、ビーズミル、ニーダー、サンドミル、3本ロール等の装置を用いて、機械的な強制分散処理をしたりする方法を用いてもよい。
【0081】
[ポリ乳酸系樹脂フィルムの作成方法]
ポリ乳酸系樹脂層からなるポリ乳酸系樹脂フィルムを得る方法としては特に限定しないが、例えば以下の方法が考えられる。
(1)水溶性樹脂層とポリ乳酸系樹脂層からなる層を基材フィルムから手で剥離した後、水溶性樹脂層を水溶液に溶解し、除去することによりポリ乳酸系樹脂層からなるポリ乳酸系樹脂フィルムを得る方法。
(2)水溶性樹脂層とポリ乳酸系樹脂層とを基材フィルム上に設けた積層フィルムを水溶液に浸漬し、水溶性樹脂層を溶解し、除去することによりポリ乳酸系樹脂層からなるポリ乳酸系樹脂フィルムを得る方法。
【0082】
ここで水溶液としては生理食塩水、グルコース溶液等、種々の水溶液を用いることができるが、特に水が好ましく用いられる。
【実施例】
【0083】
<特性の評価方法>
本発明にて用いた特性の評価方法は以下の通りである。
【0084】
(1)厚み
基材フィルム上に水溶性樹脂層とポリ乳酸系樹脂層とを段差を付けて積層した後、共焦点レーザー顕微鏡((株)キーエンス社製 VK−9710)にて観測し高低差から膜厚を算出する。なお、共焦点レーザー顕微鏡とは、次のような機構を有する測定装置を示す。まず、光源の開口部から発せられたレーザービームが対物レンズで試料に焦点を結び、該試料が発する蛍光を得る。該蛍光とレーザー反射光の混合した光が対物レンズにより再度集光される。該混合光はビームスプリッターによって分離され、レーザー反射光は素通しして該蛍光だけを検出装置に送り込む。ピンホールを通った該蛍光は光検出装置(光電子増倍管やアバランシェ・フォトダイオード)によって検出され、光信号を電気信号に変換してコンピュータに記録される。レーザーは試料を一定間隔で走査していき、最終的に全体の画像を得る。
【0085】
(2)ポリ乳酸系樹脂層の剥離性
水溶性樹脂層とポリ乳酸系樹脂層とを基材フィルム上に設けた積層フィルムについて、ポリ乳酸系樹脂層からなるポリ乳酸系樹脂フィルムの得やすさを5段階で評価した。
【0086】
評価5(易剥離):
水溶性樹脂層とポリ乳酸系樹脂層からなる層を基材フィルムから手で容易に剥離した後、水溶性樹脂層を水(23℃)に溶解すればポリ乳酸系樹脂フィルムが得られた。
【0087】
評価4(剥離可能):
評価5は達成できないが、水溶性樹脂層とポリ乳酸系樹脂層からなる層を基材フィルムから手で容易に剥離した後、水(37℃)に水溶性樹脂層を溶解すればポリ乳酸系樹脂フィルムが得られた。
【0088】
評価3(難剥離):
評価5および4は達成できないが、水溶性樹脂層とポリ乳酸系樹脂層とを基材フィルム上に設けた積層フィルムを水(23℃)に浸漬し、水溶性樹脂層を溶解すればポリ乳酸系樹脂層を剥離でき、ポリ乳酸系樹脂フィルムが得られた。
【0089】
評価2(剥離困難):
評価5、4および3は達成できないが、水溶性樹脂層とポリ乳酸系樹脂層とを基材フィルム上に設けた積層フィルムを水(37℃)に浸漬し、水溶性樹脂層を溶解すればポリ乳酸系樹脂層を剥離でき、ポリ乳酸系樹脂フィルムが得られた。
【0090】
評価1(剥離不可):
評価5、4、3および2は達成できず、水溶性樹脂層とポリ乳酸系樹脂層とを基材フィルム上に設けた積層フィルムを水に浸漬すれば水溶性樹脂層を溶解するが、ポリ乳酸系樹脂層が連続したフィルム形状を保持していなかった。
【0091】
(3)貼付性1
上記(2)ポリ乳酸系樹脂層の剥離性で評価4、5を得た積層フィルムを1cm×1cm(1cm
2)の大きさに裁断し、水溶性樹脂層とポリ乳酸系樹脂層からなる層を基材フィルムから剥離し、それぞれ健常人ボランティア12名の手の甲を霧吹きで水(37℃)をかけ湿らせ、その部分にポリ乳酸系樹脂層が皮膚側となるように置き、水溶性樹脂層があるものについては更に霧吹きで水溶性樹脂層に水(37℃)をかけ水溶性樹脂層を除去し、その後1時間自然乾燥させた。
【0092】
さらに、上記(2)ポリ乳酸系樹脂層の剥離性で評価2、3を得た積層フィルムを1cm×1cm(1cm
2)の大きさに裁断し、水(37℃)に浸漬し水溶性樹脂層を溶解してポリ乳酸系樹脂フィルムとした後、ピンセットでそれぞれ健常人ボランティア12名の手の甲に置きその後1時間自然乾燥させた。
【0093】
乾燥後のポリ乳酸系樹脂層を目視にて確認し、破れ、浮き、剥がれがないものを“5:たいへん良い”、破れ、浮き、剥がれのうちひとつでも該当するものを“4:良い”、破れ、浮き、剥がれの2つ以上該当するものを“3:やや悪い”、破れ、浮き、剥がれが全てあるものを“2:悪い”、貼付できないものを“1:大変悪い”とし、健常人ボランティア12名の平均点(小数点以下は四捨五入)を取った。
【0094】
(4)貼付性2
上記(2)ポリ乳酸系樹脂層の剥離性で評価2〜5に記載の方法で得たポリ乳酸系樹脂フィルムを面積900mm
2の円盤状に裁断しシャーレーに入れた水(10〜15℃)に浸漬した。次に温度23±5℃、相対湿度65±20%環境下にて市販のポリウレタン樹脂製の肌模型(ビューラックス(株)製、バイオスキンプレート、肌模型No.10C (20代女性)、円盤状、直径50mm×厚み5mm、硬さレベル2、攪拌率0.25、黒色)の中央部に水槽から取り出したポリ乳酸系樹脂フィルムを30秒以内に肌模型の中央部に置き、その後1時間以上自然乾燥させた。
なお、肌模型の硬さレベル
測定は、下記条件で行った。
1:デュロメーター(テクロック製GS-721N:Eタイプ)
2:定圧荷重器(テクロック製GS-710)
3:測定方法(JIS K 6253E)
4:測定時間(15秒)
乾燥後のポリ乳酸系樹脂フィルムを目視観察し、
750mm
2以上900mm
2以下の面積で密着しているものを“5:たいへん良い”、
500mm
2以上750mm
2未満の面積で密着しているものを“4:良い”、
250mm
2以上500mm
2未満の面積で密着しているものを“3:やや悪い”、
100mm
2以上250mm
2未満の面積で密着しているものを“2:悪い”、
100mm
2未満の面積で密着しているものを“1:大変悪い”
とし、10回試験の平均点(小数点以下は四捨五入)を取った。
【0095】
(5)基材フィルム表面の中心線平均面粗さSRa値、十点平均粗さSRz値
基材フィルムの表面の3次元粗さSRaおよびSRzは、3次元粗さ計ET−30HK(小坂研究所株式会社製)を用い、触針式にて下記条件で測定した。なお、測定はポリ乳酸系樹脂層または水溶性樹脂層を積層する側の面において行った。
触針曲率半径 :2μm
測定長 :1mm
送りピッチ :5μm
測定回数 :81回
カットオフ値 :0.25mm
触針荷重 :10mg
スピード :100μm/秒
【0096】
(6)基材フィルムとの密着性
積層フィルムを幅(TD)方向に15mm、長手(MD)方向に10cmのサイズにサンプリングし引張試験器(島津製作所製オートグラフAG−1S型)を用いて、基材フィルムと基材フィルムに接して積層された水溶性樹脂層またはポリ乳酸系樹脂層との剥離強度を測定した。ただし、測定サンプルは、サンプリング前に基材フィルムと接触する反対面にセロハンテープ(ニチバン社製“セロテープ”(登録商標)品番CT−18、基材:セロハン、粘着剤:ゴム系)を貼付した。また、剥離試験は、剥離速度200m/分、剥離角度180度(セロテープ面を接触)にて測定を実施した。
ここでMDとは、基材フィルムをロール状で製造した際の巻取り方向を意味し、TDとはMDに対し直交する方向を意味する。また、サンプリングから測定まで室温27±5℃、湿度65±5%RH環境下にて実施した。
5×10
−3N/10mm未満“0”
5×10
−3以上、100×10
−3N/10mm未満“5”
100×10
−3以上、300×10
−3N/10mm未満“4“
300×10
−3以上、1,000×10
−3N/10mm未満“3”
1,000×10
−3以上、2,000×10
−3N/10mm未満“2”
2,000×10
−3以上、5,000×10
−3N/10mm未満“1”
5,000×10
−3N/10mm以上“0”
とし、10回試験の平均点(小数点以下は四捨五入)を取った。
【0097】
(7)ピンホール
上記(2)ポリ乳酸系樹脂層の剥離性にて評価2〜5に記載の方法で得たポリ乳酸系樹脂フィルムを面積900mm
2の円盤状に裁断しシャーレーに入れた水(10〜15℃)に浸漬した。次に温度23±5℃、相対湿度65±20%環境下にて市販のポリウレタン樹脂製の肌模型(ビューラックス(株)製、バイオスキンプレート、肌模型No.10C (20代女性)、円盤状、直径50mm×厚み5mm、硬さレベル2、攪拌率0.25、白色)の中央部に水槽から取り出したポリ乳酸系樹脂フィルムを30秒以内に肌模型の中央部に置き、その後1時間以上自然乾燥させた。
ポリ乳酸系樹脂フィルムの表面にアゾ系油溶性染料を含有した赤色浸透液(製品名“エージレスシールチェック”、三菱ガス化学株式会社製)を滲みこませた綿棒で赤色浸透液を塗布して、3分間放置した後、表面に残った赤色浸透液を綿棒で除去し、肌模型上に発生した滲みを目視しピンホール数とした。
ピンホール5個未満:5
ピンホール5個以上10個未満:4
ピンホール10個以上15個未満:3
ピンホール15個以上20個未満:2
ピンホール20個以上:1
とし、10回試験の平均点(小数点以下は四捨五入)を取った。
【0098】
[使用した基材フィルム]
(PET−1)
2軸延伸ポリエステルフィルム(東レ(株)製“ルミラー”(登録商標)タイプ:S10、厚み100μm)。
【0099】
(PET−2)
2軸延伸ポリエステルフィルム(東レ(株)製“ルミラー”(登録商標)タイプ:T60、厚み100μm)。
【0100】
(PET−3)
2軸延伸ポリエステルフィルム(東レ(株)製“ルミラー”(登録商標)タイプ:X10S、厚み50μm)。
【0101】
[使用したポリ乳酸系樹脂]
(PLA−1)
ポリD−乳酸量12mol%、融点150℃、PMMA換算の重量平均分子量22万のポリL−乳酸系樹脂(NatureWorks社製 4060D)。
【0102】
(PLA−2)
ポリD−乳酸量4.8mol%、融点150℃、PMMA換算の重量平均分子量22万のポリL−乳酸系樹脂(NatureWorks社製 4042D)。
【0103】
(PLA−3)
ポリD−乳酸量1.4mol%、融点150℃、PMMA換算の重量平均分子量22万のポリL−乳酸系樹脂(NatureWorks社製 4032D)。
【0104】
[使用した水溶性樹脂]
(PVA−1)
鹸化度88mol%、粘度5mPa・s(4質量%水溶液、20℃)のポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)社製 ゴーセノール EG−05P)。
【0105】
(PVA−2)
鹸化度97mol%、粘度30mPa・s(4質量%水溶液、20℃)のポリビニルアルコール((株)クラレ製 機能性ポリマー KM−118)。
【0106】
(PVA−3)
鹸化度99mol%、粘度15mPa・s(4質量%水溶液、20℃)のポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)製 ゴーセノール N−11)。
【0107】
(プルラン−1)
重量平均分子量 263±59キロダルトン、重合度(=重量平均分子量/数平均分子量)23.8、粘度100〜180mm
2/秒(温度30℃、固形分濃度10質量%水溶液)のプルラン(株式会社林原商事販売 プルランPI−20)。
【0108】
(実施例1)
加温式ホモジナイザーを用いて水溶性樹脂PVA−1を水に溶解し、さらにイソプロピルアルコールを20質量%となるように加えた水溶性樹脂エマルション液を、基材フィルムPET−1の片面に、アプリケーター法にて乾燥後の膜厚が15μmになるように塗布し、熱風乾燥式ドライヤー内にて90℃で10秒間乾燥し積層フィルムを作成した。
さらに、ポリ乳酸系樹脂層としてPLA−1を酢酸エチルに溶解した溶液を、メタリングバーを用いて乾燥後の膜厚が10nmになるように塗布し、熱風乾燥式ドライヤー内にて70℃で5秒間乾燥しポリ乳酸系樹脂層を設け積層フィルムを作成した。得られた積層フィルムの特性を表1に示した。表1に示されたように、当該積層フィルムにおけるポリ乳酸系樹脂層の剥離性は5、貼付性は5であった。
【0109】
(実施例2)
ポリ乳酸系樹脂層の厚みを50nmとしたこと以外は実施例1と同様にして積層フィルムを作成した。得られた積層フィルムの特性を表1に示した。
【0110】
(実施例3)
ポリ乳酸系樹脂層の厚みを500nmとしたこと以外は実施例1と同様にして積層フィルムを作成した。得られた積層フィルムの特性を表1に示した。
【0111】
(実施例4
[参考実施例])
メタリングバーを用いて水溶性樹脂層の厚みを0.1μmとしたこと以外は実施例1と同様にして積層フィルムを作成した。得られた積層フィルムの特性を表1に示した。
【0112】
(実施例5
[参考実施例])
メタリングバーを用いて水溶性樹脂層の厚みを0.1μmとし、ポリ乳酸系樹脂層の厚みを500nmとしたこと以外は実施例1と同様にして積層フィルムを作成した。得られた積層フィルムの特性を表1に示した。
【0113】
(実施例6)
基材フィルム/ポリ乳酸系樹脂層/水溶性樹脂層の順番に積層したこと以外は実施例1と同様にして積層フィルムを作成した。得られた積層フィルムの特性を表1に示した。
【0114】
(実施例7)
水溶性樹脂層にPVA−2を用い、ポリ乳酸系樹脂層の厚みを100nmとしたこと以外は実施例1と同様にして積層フィルムを作成した。得られた積層フィルムの特性を表1に示した。
【0115】
(実施例8)
ポリ乳酸系樹脂層にPLA−2を加温した酢酸エチル(90℃)に溶解した溶液を用いたこと以外は実施例1と同様にして積層フィルムを作成した。得られた積層フィルムの特性を表1に示した。
【0116】
(実施例9〜11)
ポリ乳酸系樹脂層および水溶性樹脂層の厚みを表2に示した厚みとしたこと以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを作成した。得られた積層フィルムの特性を表2に示した。
【0117】
(実施例12〜
13[参考実施例]、実施例14)
基材フィルムにPET−2を用い、かつ、ポリ乳酸系樹脂層および水溶性樹脂層の厚みを表2に示した厚みとした以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを作成した。得られた積層フィルムの特性を表2に示した。
【0118】
(実施例15〜16)
基材フィルムにPET−2を用い、水溶性樹脂としてプルラン−1を用い、イソプロピルアルコールを加えずに水溶性樹脂エマルション液とし、かつ、ポリ乳酸系樹脂層および水溶性樹脂層の厚みを表3に示した厚みとした以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを作成した。得られた積層フィルムの特性を表3に示した。
【0119】
(比較例1)
水溶性樹脂層の厚みを30μmにした以外は実施例1と同様にして積層フィルムを作成した。得られた積層フィルムの特性を表4に示した。
【0120】
(比較例2)
ポリ乳酸系樹脂層の厚みを5μmにした以外は実施例1と同様にして積層フィルムを作成した。得られた積層フィルムの特性を表4に示した。
【0121】
(比較例3)
メタリングバーを用いて水溶性樹脂層の厚みを0.05μmとし、ポリ乳酸系樹脂層の厚みを500nmにした以外は実施例1と同様にして積層フィルムを作成した。得られた積層フィルムの特性を表4に示した。
【0122】
(比較例4)
水溶性樹脂層にPVA−3を用い、水溶性樹脂層の厚みを17μmとし、ポリ乳酸系樹脂層の厚みを100nmとした以外は実施例1と同様にして積層フィルムを作成した。得られた積層フィルムの特性を表4に示した。
【0123】
(比較例5)
実施例1と同様にして水溶性樹脂層を形成し、積層フィルムを作成した。その後、ポリ乳酸系樹脂層にPLA−3を用いるため、PLA−3を加温した酢酸エチル(90℃)に溶解しようとしたが、PLA−3が酢酸エチルに溶解せず塗工できなかった。
【0124】
(比較例6)
基材フィルムにPET−3を用いた以外は、比較例3と同様にして積層フィルムを作成した。得られた積層フィルムの特性を表4に示した。
【0125】
【表1】
【0126】
【表2】
【0127】
【表3】
【0128】
【表4】