特許第6422352号(P6422352)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6422352
(24)【登録日】2018年10月26日
(45)【発行日】2018年11月14日
(54)【発明の名称】自動車用の動吸振装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/14 20060101AFI20181105BHJP
   F16H 45/02 20060101ALI20181105BHJP
【FI】
   F16F15/14 Z
   F16H45/02 Y
   F16H45/02 C
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-9511(P2015-9511)
(22)【出願日】2015年1月21日
(65)【公開番号】特開2016-133195(P2016-133195A)
(43)【公開日】2016年7月25日
【審査請求日】2017年7月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000149033
【氏名又は名称】株式会社エクセディ
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】萩原 祥行
【審査官】 保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/132906(WO,A1)
【文献】 特開2013−160322(JP,A)
【文献】 特開2013−256963(JP,A)
【文献】 特開2011−099488(JP,A)
【文献】 特開2014−152838(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/105684(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/071283(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F15/00−15/36
F16H39/00−47/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルクコンバータの出力側部材に設けられる自動車用の動吸振装置であって、
前記出力側部材に固定され、前記出力側部材の回転中心まわりに回転する回転部材と、
第1収容部を有し、前記回転部材に対して前記回転中心まわりに相対回転することにより、前記出力側部材の振動を減衰する質量部と、
前記第1収容部に保持され、前記回転部材と前記質量部とを回転方向に弾性的に連結し、前記回転部材の回転時に前記第1収容部の径方向外側の部分に常に接触し摺動することによってヒステリシストルクを発生させる弾性部材と、
を備える自動車用の動吸振装置。
【請求項2】
前記弾性部材は、前記回転部材の回転時に前記第1収容部の径方向内側の部分にさらに接触し摺動することによってヒステリシストルクを発生させる、
請求項1に記載の自動車用の動吸振装置。
【請求項3】
前記ヒステリシストルクは、2Nm以上30Nm以下に設定される、
請求項1又は2に記載の自動車用の動吸振装置。
【請求項4】
前記質量部のイナーシャは、前記トルクコンバータのタービンのイナーシャより小さい、
請求項1から3のいずれか1項に記載の自動車用の動吸振装置。
【請求項5】
前記回転部材は、前記弾性部材を配置可能な第2収容部を、有しており、
前記質量部は、前記回転中心が延びる方向において、前記回転部材の両側に配置されている、
請求項1からのいずれかに記載の自動車用の動吸振装置。
【請求項6】
前記第1収容部は、前記弾性部材を保持し前記弾性部材と摺動可能な鍔部を、有し、
径方向外側の前記鍔部が、前記弾性部材に常に接触し摺動する、
請求項に記載の自動車用の動吸振装置。
【請求項7】
径方向内側の前記鍔部が、前記弾性部材にさらに接触し摺動する、
請求項6に記載の自動車用の動吸振装置。
【請求項8】
前記第2収容部は、前記弾性部材が回転方向に当接する当接部を、有し、
前記当接部は、前記回転中心から半径方向に延びる直線に沿うように、形成されている、
請求項5から7のいずれか1項に記載の自動車用の動吸振装置。
【請求項9】
前記第1収容部における前記径方向外側の部分及び径方向内側の部分は、円周方向に延び、
前記弾性部材は、前記径方向外側の部分及び前記径方向内側の部分に沿うように円弧状で前記第1収容部に配置される、
請求項1から8のいずれか1項に記載の自動車用の動吸振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用の動吸振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トルクコンバータにおいては、ロックアップ装置が設けられている(特許文献1を参照)。このロックアップ装置では、イナーシャ部材が、タービンハブに固定された出力部材に対して、相対回転可能に装着されている。また、出力部材とイナーシャ部材との間には弾性部材としてのトーションスプリングが設けられている。
【0003】
このように、このロックアップ装置では、出力部材にトーションスプリングを介してイナーシャ部材が連結されているため、イナーシャ部材及びトーションスプリングがダイナミックダンパとして機能する。このダイナミックダンパによって、タービンからタービンハブに伝達された回転変動が、減衰される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−293671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のダイナミックダンパは、タービンのトルクがタービンハブを介して入力シャフトに出力される際にトルク変動を減衰する。このタイプのダイナミックダンパは、入力シャフトに連結される部材の剛性が高い場合、例えば前輪駆動の場合等に、用いられることが多い。ここで、入力シャフトに連結される部材は、トランスミッションにトルクを伝達する部材である。
【0006】
一方で、入力シャフトに連結される部材の剛性が低い場合、例えば後輪駆動の場合等では、この剛性の低さに起因して、タービンが共振してしまうおそれがある。この場合、従来のダイナミックダンパが減衰の対象とする振動数が、上記のタービンの共振振動数とは異なるので、このタービンの共振によるトルク変動を、従来のダイナミックダンパで減衰することが難しい。
【0007】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は、トルクコンバータの出力側部材のトルク変動を効果的に低減できる動吸振装置を、提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の一側面に係る自動車用の動吸振装置は、トルクコンバータの出力側部材に設けられる。本動吸振装置は、回転部材と、質量部と、弾性部材とを、備えている。回転部材は、出力側部材に固定され、回転中心まわりに回転する。質量部は、第1収容部を有する。質量部は、回転部材に対して回転中心まわりに相対回転することにより、出力側部材のトルク変動を減衰する。弾性部材は、第1収容部に保持される。弾性部材は、回転部材と質量部とを回転方向に弾性的に連結する。弾性部材は、第1収容部に摺動することによって、ヒステリシストルクを発生させる。
【0009】
本動吸振装置では、回転部材が、トルクコンバータの出力側部材に固定されている。また、回転部材の回転時には、質量部が弾性部材を介して回転部材に対して相対的に移動することによって、トルクコンバータの出力側部材のトルク変動を直接的に減衰できる。
【0010】
ここで、本動吸振装置においてトルクコンバータの出力側部材のトルク変動が減衰されると、本動吸振装置がターゲットにした対象回転数の近傍において、トルクコンバータの出力側部材のトルク変動が部分的に増加する。
【0011】
しかしながら、本動吸振装置では、弾性部材が質量部の第1収容部に保持された状態で回転部材が回転すると、弾性部材と質量部の第1収容部とが摺動し、ヒステリシストルクが発生する。このように、本動吸振装置では、このヒステリシストルクによって、部分的に増加したトルクコンバータの出力側部材のトルク変動を、減衰することができる。
【0012】
このように、本動吸振装置では、トルクコンバータの出力側部材の主トルク変動を直接的に減衰でき、且つ主トルク変動の減衰によって発生する副次的なトルク変動をも同時に減衰することができる。すなわち、本動吸振装置では、トルクコンバータの出力側部材のトルク変動を効果的に低減できる。
【0013】
(2)本発明の別の側面に係る自動車用の動吸振装置は、次のように構成することが好ましい。ヒステリシストルクは、2Nm以上30Nm以下に設定される。
【0014】
この場合、ヒステリシストルクが2Nm以上30Nm以下に設定されるので、従来の動吸振装置と比較して、トルクコンバータの出力側部材に副次的に発生するトルク変動を、高回転数域において効果的に減衰することができる。
【0015】
(3)本発明のさらに別の側面に係る自動車用の動吸振装置では、次のように構成することが好ましい。質量部のイナーシャは、トルクコンバータのタービンのイナーシャより小さい。
【0016】
この場合、質量部のイナーシャが、トルクコンバータのタービンのイナーシャより小さく設定されている。例えば、質量部のイナーシャを大きくすると、対象回転数における主トルク変動に対する減衰効果を大きくすることができる。一方で、質量部のイナーシャが大きくなればなるほど、対象回転数近傍の副次的なトルク変動が大きくなるおそれがある。このため、副次的なトルク変動を極力増加させずに、主トルク変動を減衰するためには、質量部のイナーシャを、タービンのイナーシャより小さく設定することが、効果的である。すなわち、この構成によって、主トルク変動の減衰時に発生する副次的なトルク変動の増加を、抑制することができる。
【0017】
(4)本発明のさらに別の側面に係る自動車用の動吸振装置では、次のように構成することが好ましい。回転部材は、弾性部材を配置可能な第2収容部を、有している。質量部は、回転中心が延びる方向において、回転部材の両側に配置されている。
【0018】
この場合、弾性部材は、回転部材の第2収容部に配置された状態で、回転部材の両側において質量部の第1収容部のみで保持される。これにより、弾性部材を質量部の第1収容部で確実に保持した状態で、ヒステリシストルクを安定的に発生させることができる。
【0019】
(5)本発明のさらに別の側面に係る自動車用の動吸振装置では、次のように構成することが好ましい。第1収容部は、鍔部を有している。鍔部は、弾性部材を保持し、弾性部材と摺動可能である。
【0020】
この場合、弾性部材を質量部の第1収容部の鍔部で確実に保持した状態で、鍔部においてヒステリシストルクをより安定的に発生させることができる。
【0021】
(6)本発明のさらに別の側面に係る自動車用の動吸振装置は、次のように構成することが好ましい。回転部材の第2収容部は、弾性部材が回転方向に当接する当接部を、有している。当接部は、回転中心から半径方向に延びる直線に沿うように、形成されている。
【0022】
この場合、質量部が回転部材に対して相対回転すると、弾性部材が質量部の第1収容部に保持された状態で、弾性部材が回転部材の第2収容部の当接部によって押圧される。これにより、弾性部材が圧縮される。ここで、当接部は、回転中心から半径方向に延びる直線に沿うように、形成されている。このため、弾性部材が当接部によって押圧されると、弾性部材は、回転中心から離れる方向に撓みやすくなり、質量部の第1収容部と摺動する。これにより、ヒステリシストルクをより安定的に発生させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明では、動吸振装置において、トルクコンバータの出力側部材のトルク変動を効果的に低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態によるダイナミックダンパ装置を備えたトルクコンバータの断面図。
図2図1のダイナミックダンパ装置の拡大断面図。
図3図1のダイナミックダンパ装置をエンジン側から見た正面図。
図4】ダイナミックダンパ装置の特性を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[トルクコンバータ]
図1に、本発明の一実施形態によるトルクコンバータ1を示す。図1の左側にはエンジンが配置され、図1の右側にはトランスミッションが配置されている。図1に示すO−O線はトルクコンバータ1の回転軸線(回転中心の一例)である。
【0026】
トルクコンバータ1は、エンジンからトランスミッションへとトルクを伝達するための装置である。トルクコンバータ1は、主に、トルクコンバータ本体3と、ロックアップ装置5と、ダイナミックダンパ装置7と、を備えている。
【0027】
<トルクコンバータ本体>
図1に示すように、トルクコンバータ本体3は、動力が入力されるフロントカバー11と、インペラ13と、タービン15(出力側部材の一例)と、ステータ19とを、有している。
【0028】
フロントカバー11とインペラ13とは、互いの外周部が溶接されている。フロントカバー11とインペラ13とにより、流体室が形成されている。
【0029】
タービン15は、流体室内で、インペラ13に対向するように配置されている。タービン15は、タービンシェル16と、タービンシェル16の内部に固定された複数のタービンブレード17と、タービンシェル16の内周部に固定されたタービンハブ18と、を有している。
【0030】
タービンハブ18は、筒状部18aと、筒状部18aから径方向外方に延びるフランジ部18bとを、有している。フランジ部18bの外周部には、タービンシェル16の内周部が、リベット11により固定されている。なお、タービンハブ18の内周部には、スプライン孔18cが形成されている。スプライン孔18cには、トランスミッション(図示しない)にトルクを伝達するための入力シャフトが、連結されている。
【0031】
ステータ19は、タービン15からインペラ13への作動油の流れを調節する。ステータ19は、軸方向において、インペラ13の内周部とタービン15の内周部との間に、配置されている。
【0032】
<ロックアップ装置>
ロックアップ装置5は、フロントカバー11とタービン15との間に配置されている。ロックアップ装置5は、ピストン21と、クラッチ部31と、ダンパ機構41と、を有している。
【0033】
ピストン21は、軸方向に移動可能である。詳細には、ピストン21とフロントカバー11との間の空間と、ピストン21とダンパ機構41との間の空間との間の油圧差によって、ピストン21は軸方向に移動可能である。
【0034】
ピストン21は、本体部22と、押圧部23とを、有している。本体部22は、実質的に環状に形成されている。本体部22は、第1本体部22aと、第2本体部22bとを、有している。
【0035】
第1本体部22aの内周部は、タービンハブ18の外周部に配置されている。第1本体部22aの内周部は、タービンハブ18の外周面に対して、軸方向に移動自在且つ相対回転可能に支持されている。第1本体部22aの内周部とタービンハブ18の外周面との間には、シール部材が配置されている。
【0036】
第2本体部22bの内周部は、第1本体部22aの外周部に対して、軸方向に移動自在且つ相対回転可能に支持されている。第2本体部22bの内周部と第1本体部22aの外周部との間には、シール部材が配置されている。第2本体部22bの外周端部は、後述する固定部の内周部に対して、軸方向に移動可能に支持されている。第2本体部22bの外周部と固定部の内周部との間には、シール部材が配置されている。
【0037】
押圧部23は、本体部に一体に形成され、本体部から軸方向に突出している。詳細には、押圧部23は、第2本体部22bに一体に形成され、第2本体部22bから軸方向に突出している。より詳細には、押圧部23は、第2本体部22bの外周部からダンパ機構に向けて突出している。
【0038】
クラッチ部31は、固定部32と、トルク伝達部33と、複数の摩擦部材34と、位置決め部材35とを、有している。固定部32は、フロントカバー11に固定される。トルク伝達部33は、固定部32の内周側において、固定部32に対向して配置されている。
【0039】
複数の摩擦部材34それぞれは、実質的に環状に形成されている。複数の摩擦部材34は、固定部32とトルク伝達部33との間に、配置されている。複数の摩擦部材34は、複数の第1摩擦部材34aと、複数の第2摩擦部材34bとを、有している。第1摩擦部材34aと第2摩擦部材34bとは、軸方向に互いに隣接して配置されている。複数の第1摩擦部材34aは、固定部32に係合し、軸方向に移動可能である。複数の第2摩擦部材34bは、トルク伝達部33に係合し、軸方向に移動可能である。
【0040】
位置決め部材35は、摩擦部材34を位置決めするためのものである。位置決め部材35は、実質的に環状に形成されている。位置決め部材35は、固定部32の軸方向端部(固定端とは反対側の端部)に固定されている。位置決め部材35とピストン21(押圧部23)との軸方向間には、複数の摩擦部材34が配置されている。
【0041】
ダンパ機構41は、1対のリティニングプレート42,43と、出力フランジ44と、複数の第1及び第2トーションスプリング45,46(外周側のトーションスプリング45、内周側のトーションスプリング46)とを、有している。
【0042】
1対のリティニングプレート42,43は、環状に形成された円板部材であり、軸方向に間隔をあけて対向して配置されている。一対のリティニングプレート42,43それぞれは、外周部及び内周部に、複数のスプリング収納部42a,43a,42b,43bを有している。
【0043】
一対のリティニングプレート42,43の外周部は、固定部材例えばリベット(図示しない)によって、互いに固定されている。一方のリティニングプレート42の内周部は、他方のリティニングプレート43の内周部より、内周側に延びている。一方のリティニングプレート42の内周部は、固定部材例えばリベット49により、クラッチ部31例えばトルク伝達部33に、固定されている。
【0044】
出力フランジ44は、1対のリティニングプレート42,43の軸方向間に配置されている。出力フランジ44の外周部及び内周部には、スプリング収納用の第1及び第2の開口44a,44bが形成されている。出力フランジ44の内周端部44cは、リベット11によって、タービンハブ18のフランジ部18bに固定されている。
【0045】
第1トーションスプリング45(外周側トーションスプリング)は、出力フランジ44の外周側の第1の開口44aに配置され、1対のリティニングプレート42,43の外周側スプリング収納部42a,43aによって支持されている。第2トーションスプリング46(内周側トーションスプリング)は、出力フランジ44の内周側の第2の開口44bに配置され、1対のリティニングプレート42,43の内周側スプリング収納部42b,43bによって支持されている。
【0046】
<ダイナミックダンパ装置7>
ダイナミックダンパ装置7は、所定の回転数域におけるトルク変動を、減衰する。ここでは、ダイナミックダンパ装置7は、高回転数域におけるトルク変動を減衰可能なように、設定されている。
【0047】
図2に示すように、ダイナミックダンパ装置7は、トルクコンバータ本体3、例えばタービンシェル16に、装着されている。ダイナミックダンパ装置7は、ダンパープレート51(回転部材の一例)と、一対のイナーシャリング57(質量部の一例)と、複数の第3トーションスプリング60(弾性部材の一例)とを、有している。
【0048】
図2及び図3に示すように、ダンパープレート51は、実質的に環状に形成された円板部材である。ダンパープレート51は、環状に形成された円板部52と、複数のスプリング配置部53と、複数の支持突起54とを、有している。円板部52の内周端部は、タービンシェル16に固定されている。例えば、図2に示すように、円板部52の内周端部は、溶接によって、タービンシェル16に固定されている。図3に示すように、複数のスプリング配置部53それぞれは、円板部52に一体に形成され、円板部52から径方向外方に突出している。各スプリング配置部53は、円周方向に所定の間隔を隔てて設けられている。すなわち、円周方向において互いに隣接するスプリング配置部53の間には、凹部55が設けられている。
【0049】
各スプリング配置部53(第2収容部の一例)は、スプリング配置用の第3の開口63を、有している。第3の開口63には、第3トーションスプリング60が配置される。第3の開口63において円周方向に互いに対向する一対の開口縁部63a(円周方向の一対の縁部;当接部の一例)には、第3トーションスプリング60の端部が当接可能である。 一対の開口縁部63aそれぞれは、トルクコンバータ1の回転軸線から半径方向に延びる直線C1に沿うように、形成されている(図3を参照)。第3の開口63において径方向に互いに対向する一対の壁部と、第3トーションスプリング60の外周部とは、所定の間隔が設けられている。
【0050】
複数の支持突起54は、イナーシャリング57を径方向に位置決めする。詳細には、複数の支持突起54は、一対のイナーシャリング57の一方(後述する第1イナーシャリング58)を径方向に位置決めする。複数の支持突起54は、円板部52からロックアップ装置5に向けて突出している。複数の支持突起54それぞれは、円周方向に所定の間隔を隔てて、円板部52に一体に形成されている。
【0051】
図2及び図3に示すように、一対のイナーシャリング57は、第3トーションスプリング60を介して、ダンパープレート51に連結されている。言い換えると、ダンパープレート51に対する一対のイナーシャリング57の相対回転が、第3トーションスプリング60によって制御される。この制御によって、トルクコンバータ1の共振が抑制される。
【0052】
ここでは、高回転数域におけるトルク変動を効果的に減衰するために、一対のイナーシャリング57のイナーシャは、トルクコンバータ1のタービン15のイナーシャより小さく設定されている。例えば、一対のイナーシャリング57のイナーシャは、トルクコンバータ1のタービン15のイナーシャの1/20に、設定されている。
【0053】
一対のイナーシャリング57は、第1イナーシャリング58と、第2イナーシャリング59とから、構成されている。第1イナーシャリング58及び第2イナーシャリング59は、実質的に環状の部材である。第1イナーシャリング58及び第2イナーシャリング59は、ダンパープレート51に対して相対回転可能である。
【0054】
第1イナーシャリング58及び第2イナーシャリング59は、軸方向に所定の間隔を隔てて配置される。第1イナーシャリング58及び第2イナーシャリング59の軸方向間には、ダンパープレート51が配置される。第1イナーシャリング58及び第2イナーシャリング59は、固定部材例えばリベット56によって、軸方向に互いに連結されている。リベット56の軸部は、ダンパープレート51の凹部55に配置される。
【0055】
この構成によって、第1イナーシャリング58がダンパープレート51の支持突起54に支持された状態で、第1イナーシャリング58及び第2イナーシャリング59は、ダンパープレート51の軸方向両側で、ダンパープレート51に対して円周方向に相対回転可能である。
【0056】
次に、第1イナーシャリング58及び第2イナーシャリング59の構成を、説明する。
【0057】
第1イナーシャリング58は、第1リング本体部65と、第1窓部66(第1収容部の一例)とを、有している。第1リング本体部65は、実質的に環状に形成されている。第1窓部66は、第3トーションスプリング60を保持し、第3トーションスプリング60に摺動可能である。第1窓部66及び第3トーションスプリング60の摺動抵抗によるヒステリシストルクは、例えば、2Nm以上30Nm以下の範囲に設定される。
このヒステリシストルクに設定することによって、高回転数域において2次トルク変動(後述する)が発生した場合に、この2次トルク変動を効果的に減衰できる。
【0058】
第1窓部66は、円周方向に延びる矩形状の開口である。第1窓部66には、一対の第1鍔部67,68が設けられている。例えば、一対の第1鍔部67,68は、径方向に互いに対向して設けられている。また、一対の第1鍔部67,68は、ロックアップ装置5に向けて迫り出している。
【0059】
より具体的には、一方の第1鍔部67(外周側の鍔部)は、外周側の円弧鍔部67aと、外周側の隅角鍔部67bとを、有している。外周側の円弧鍔部67aは、第1窓部66における径方向外側の縁部において、円周方向に延びている。外周側の隅角鍔部67bは、第1窓部66において円周方向に互いに対向する縁部の径方向外側の隅角部を、覆っている。
【0060】
他方の第1鍔部68(内周側の鍔部)は、内周側の円弧鍔部68aと、内周側の隅角鍔部68bとを、有している。内周側の円弧鍔部68aは、第1窓部66における径方向内側の縁部を、円周方向に延びている。内周側の隅角鍔部68bは、第1窓部66において円周方向に互いに対向する縁部の径方向内側の隅角部を、覆っている。
【0061】
外周側の隅角鍔部67b及び内周側の隅角鍔部68bは、第3トーションスプリング60の端部を保持する。外周側の円弧鍔部67a及び内周側の円弧鍔部68aは、第3トーションスプリング60に摺動可能である。
【0062】
第2イナーシャリング59は、第2リング本体部75と、第2窓部76(第1収容部の一例)とを、有している。第2リング本体部75は、実質的に環状に形成されている。第2窓部76は、第3トーションスプリング60を保持し、第3トーションスプリング60に摺動可能である。
【0063】
第2窓部76は、円周方向に延びる矩形状の開口である。第2窓部76には、一対の第2鍔部77,78が設けられている。例えば、一対の第2鍔部77,78は、径方向に互いに対向して設けられている。また、一対の第2鍔部77,78は、タービン15に向けて迫り出している。
【0064】
一対の第2鍔部77,78は、一対の第1鍔部67,68と同様に、外周側の円弧鍔部77a、外周側の隅角鍔部77b、内周側の円弧鍔部78a、及び内周側の隅角鍔部78bを、有している。これら外周側の円弧鍔部77a、外周側の隅角鍔部77b、内周側の円弧鍔部78a、及び内周側の隅角鍔部78bは、直接的に図面に現れていないので、図3では括弧内に記されている。
【0065】
なお、一対の第2鍔部77,78がタービン15に向けて迫り出している点を除いて、第2鍔部77,78の構成は、第1鍔部67,68の構成を同じである。このため、ここでは、第2鍔部77,78の構成については、詳細な説明は省略する。ここで省略された説明は、第1鍔部67,68の説明に準ずる。
【0066】
複数の第3トーションスプリング60は、ダンパープレート51のスプリング配置部53と、第1イナーシャリング58の第1窓部66と、第2イナーシャリング59の第2窓部76とに、配置される。
【0067】
詳細には、第3トーションスプリング60の両端部は、ダンパープレート51のスプリング配置部53における一対の開口縁部63aに当接可能である。また、第3トーションスプリング60の両端部は、第1イナーシャリング58及び第2イナーシャリング59における外周側の一対の隅角鍔部67b,77b及び内周側の一対の隅角鍔部68b,78bに当接し、これら隅角縁部67b,77b,68b,78bによって保持される。さらに、第3トーションスプリング60の外周部は、第1イナーシャリング58及び第2イナーシャリング59における外周側の円弧鍔部67a,77a及び内周側の円弧鍔部68a,78aに対して摺動可能である。
【0068】
このような第3トーションスプリング60では、第1イナーシャリング58及び第2イナーシャリング59がダンパープレート51に対して相対回転すると、第3トーションスプリング60の両端部の一方が、第1イナーシャリング58及び第2イナーシャリング59における隅角縁部67b,77b,68b,78bに保持された状態で、ダンパープレート51の一対の開口縁部63aのいずれか一方によって、圧縮される。この場合、ダンパープレート51の一対の開口縁部63aのいずれか一方は、第3トーションスプリング60の両端部の他方に当接している。
【0069】
[トルクコンバータの動作]
フロントカバー11及びインペラ13が回転している状態では、インペラ13からタービン15へ作動油が流れ、作動油を介してインペラ13からタービン15へ動力が伝達される。タービン15に伝達された動力は、タービンハブ18を介して、トランスミッションにトルクを伝達するための入力シャフト(図示せず)に、伝達される。
【0070】
入力シャフトの回転数がある一定の回転数になると、ロックアップ装置5がオンとなり、フロントカバー11からロックアップ装置5を介して機械的にタービンハブ18に動力が伝達される。具体的には、油圧の変化により、ピストン21がトランスミッション側へ移動し、ピストン21(押圧部23)とクラッチ部31の位置決め部材35とによって、複数の摩擦部材34が挟持される。すると、フロントカバー11の動力が、クラッチ部31のトルク伝達部33から、一対のリティニングプレート42,43へと伝達される。すると、この動力は、1対のリティニングプレート42,43と、外周側及び内周側のトーションスプリング45,46とを介して、出力フランジ44に伝達され、タービンハブ18に出力される。
【0071】
[ダイナミックダンパ装置の動作]
ダイナミックダンパ装置7は、トルクコンバータ本体3例えばタービンシェル16に、装着されている。これにより、タービン15のトルク変動が、ダイナミックダンパ装置7によって抑制される。以下では、本実施形態におけるダイナミックダンパ装置7について、詳細に説明する。
【0072】
例えば、ダイナミックダンパ装置7が設置されていない場合は、図4に示すように、エンジンの所定の回転数域例えば高回転数域(1900rpm)近傍に、トルク変動が発生する場合がある(特性曲線E1を参照)。このトルク変動は、入力シャフトの剛性や入力シャフトに連結される部材の剛性等に起因してタービン15が共振するものと考えられている。
【0073】
一方で、ダイナミックダンパ装置7が設置された場合、図4に示すように、上記の高回転数域におけるトルク変動(1次トルク変動T1)は、ダイナミックダンパ装置7によって減衰される(特性曲線E2〜E4を参照)。このように、本ダイナミックダンパ装置7、例えば一対のイナーシャリング57及び複数の第3トーションスプリング60は、上記の高回転数域における1次トルク変動を効果的に減衰できるように、設定されている。
【0074】
ここで、この場合、ダイナミックダンパ装置7がターゲットにした対象回転数の1次トルク変動T1(主トルク変動の一例)は、減衰できるものの、この対象回転数近傍のトルク変動、例えば1700rpm近傍及び2000rpm近傍の第2トルク変動T2(副次的なトルク変動の一例)が、部分的に増加する(例えば、特性曲線E2を参照)。なお、図4では、対象回転数として、例えば1900rpmが想定されている。
【0075】
しかしながら、本ダイナミックダンパ装置7では、第3トーションスプリング60が、第1イナーシャリング58(外周側の円弧鍔部67a及び内周側の円弧鍔部68a)及び第2イナーシャリング59(外周側の円弧鍔部77a及び内周側の円弧鍔部78a)と摺動することによって、ヒステリシストルク(摺動抵抗によるトルク)が発生する。このヒステリシストルクによって、上記の2次トルク変動T2が減衰する(特性E3、特性E4)。
【0076】
特に、2次トルク変動T2における低回転数側のトルク変動、例えば1700rpm近傍の2次トルク変動T2が、効果的に減衰される。なお、特性曲線E2は、ヒステリシストルクを考慮していない場合である。また、特性曲線E3及び曲線特性E4のステリシストルクは、例えば、2Nm以上30Nm以下の範囲に設定されている。特性曲線E3及び曲線特性E4の違いは、ヒステリシストルクの大きさの違いであり、特性E3のヒステリシストルクは、特性E4のヒステリシストルクより小さい。
【0077】
ここで、エンジンの回転数が大きくなると、ヒステリシスも大きくなるため、2次トルク変動T2における高回転数側のトルク変動、例えば2000rpm近傍のトルク変動は、ヒステリシストルクの大きさによる影響が小さくなっている。
【0078】
このように、本ダイナミックダンパ装置7は、対象回転数における1次トルク変動T1をイナーシャリング57及び第3トーションスプリング60によって減衰し、且つ1次トルク変動T1の減衰時に発生する2次トルク変動T2をヒステリシストルクによって減衰する。
【0079】
[特徴]
(1)本ダイナミックダンパ装置7では、ダンパープレート51が、トルクコンバータ1のタービン15に固定されている。また、ダンパープレート51の回転時には、イナーシャリング57が第3トーションスプリング60を介してダンパープレート51に対して相対的に移動することによって、タービン15の1次トルク変動T1を直接的に減衰できる。
【0080】
ここで、本ダイナミックダンパ装置7においてタービン15の1次トルク変動T1が減衰されると、本ダイナミックダンパ装置7がターゲットにした対象回転数の近傍において、タービン15のトルク変動が部分的に増加する。
【0081】
しかしながら、本ダイナミックダンパ装置7では、第3トーションスプリング60がイナーシャリング57の第1窓部66及び第2窓部76に保持された状態でダンパープレート51が回転すると、第3トーションスプリング60とイナーシャリング57の第1窓部66及び第2窓部76とが摺動し、ヒステリシストルクが発生する。このように、本ダイナミックダンパ装置7では、このヒステリシストルクによって、部分的に増加したタービン15の2次トルク変動T2を、減衰することもできる。
【0082】
本ダイナミックダンパ装置7では、タービン15の1次トルク変動T1を直接的に減衰でき、且つ1次トルク変動T1の減衰によって発生する2次トルク変動T2をも同時に減衰することができる。すなわち、本ダイナミックダンパ装置7では、トルクコンバータ1のタービン15のトルク変動を効果的に低減できる。
【0083】
(2)本ダイナミックダンパ装置7では、ヒステリシストルクが2Nm以上30Nm以下に設定されるので、従来のダイナミックダンパ装置7と比較して、トルクコンバータ1のタービン15に副次的に発生する2次トルク変動T2を、高回転数域において効果的に減衰することができる。
【0084】
(3)本ダイナミックダンパ装置7では、イナーシャリング57のイナーシャは、トルクコンバータ1のタービン15のイナーシャより小さい。例えば、イナーシャリング57のイナーシャを大きくすると、対象回転数における1次トルク変動T1に対する減衰効果を大きくすることができる。一方で、イナーシャリング57のイナーシャが大きくなればなるほど、対象回転数近傍の2次トルク変動T2が大きくなるおそれがある。このため、2次トルク変動T2を極力増加させずに、1次トルク変動T1を減衰するためには、イナーシャリング57のイナーシャを、タービン15のイナーシャより小さく設定することが、効果的である。すなわち、この構成によって、1次トルク変動T1の減衰時に発生する2次トルク変動T2の増加を、抑制することができる。
【0085】
(4)本ダイナミックダンパ装置7では、第3トーションスプリング60が、ダンパープレート51のスプリング配置部53に配置された状態で、ダンパープレート51の両側においてイナーシャリング57の第1窓部66及び第2窓部76のみで保持される。これにより、第3トーションスプリング60をイナーシャリング57の第1窓部66及び第2窓部76で確実に保持した状態で、ヒステリシストルクを安定的に発生させることができる。
【0086】
(5)本ダイナミックダンパ装置7では、第3トーションスプリング60を、イナーシャリング57における第1窓部66及び第2窓部76の外周側の隅角鍔部67b及び内周側の隅角鍔部68bで、確実に保持した状態で、イナーシャリング57における第1窓部66及び第2窓部76の外周側の円弧鍔部67a及び内周側の円弧鍔部68aにおいてヒステリシストルクをより安定的に発生させることができる。
【0087】
(6)本ダイナミックダンパ装置7では、イナーシャリング57がダンパープレート51に対して相対回転すると、第3トーションスプリング60がイナーシャリング57の第1窓部66及び第2窓部76に保持された状態で、第3トーションスプリング60が、ダンパープレート51におけるスプリング配置部53の開口縁部63aによって押圧される。これにより、第3トーションスプリング60が圧縮される。ここで、開口縁部63aは、回転中心から半径方向に延びる直線C1に沿うように、形成されている。このため、第3トーションスプリング60が開口縁部63aによって押圧されると、第3トーションスプリング60は、回転中心から離れる方向に撓みやすくなり、イナーシャリング57の第1窓部66及び第2窓部76と摺動する。これにより、ヒステリシストルクをより安定的に発生させることができる。
【0088】
[他の実施形態]
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【0089】
(A)前記実施形態では、ロックアップ装置5が、第1トーションスプリング45及び第2トーションスプリング46を有する場合の例を示したが、ロックアップ装置5の構成は、前記実施形態に限定されず、どのように構成してもよい。
【0090】
(B)前記実施形態では、クラッチ部31が複数の摩擦部材34(第1摩擦部材34a及び第2摩擦部材34b)を有する場合の例を示したが、クラッチ部31の構成は、前記実施形態に限定されず、どのように構成してもよい。
【0091】
(C)前記実施形態では、第1鍔部67,68及び第2鍔部77,78における外周側の円弧鍔部67a及び内周側の円弧鍔部68aが、円弧状に形成される場合の例を示した。しかし、第3トーションスプリング60と、第1鍔部67,68及び第2鍔部77,78とが摺動し、上述したヒステリシストルクを発生することができれば、第1鍔部67,68及び第2鍔部77,78の形状は、どのように形成してもよい。例えば、外周側の円弧鍔部67a及び内周側の円弧鍔部68aの形状は、円弧以外の形状でもよい。
【0092】
(D)前記実施形態では、第3トーションスプリング60が、外周側の円弧鍔部67a,77a及び内周側の円弧鍔部68a,78aの両方に摺動可能である場合の例を、示した。これに代えて、第3トーションスプリング60が、外周側の円弧鍔部67a,77aにのみ摺動可能に、第1鍔部67,68及び第2鍔部77,78を構成してもよい。
また、低回転域では第3トーションスプリング60が外周側の円弧鍔部67a,77a及び内周側の円弧鍔部68a,78aの両方に摺動し、高回転域では第3トーションスプリング60が外周側の隅角鍔部67b,78bにのみ摺動するように、第1鍔部67,68及び第2鍔部77,78を構成してもよい。
【符号の説明】
【0093】
1 トルクコンバータ
7 ダイナミックダンパ装置
15 タービン
51 ダンパープレート
53 スプリング配置部
57 イナーシャリング
60 第3トーションスプリング
66 第1窓部
76 第2窓部
O 回転中心
図1
図2
図3
図4