(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記最大屈曲部を含む領域が、前記サイド補強ゴムのタイヤ径方向において、サイド補強ゴムの下端からサイド補強ゴムの上端までの長さの80%以内の領域である請求項1〜請求項7の何れか1項に記載のランフラットタイヤ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、ランフラットタイヤはランフラット走行(パンク走行)後に、パンクを修理して使用することができる。しかし、ランフラット走行の際に、サイド補強ゴムが一定以上の熱を受けた場合には、単なるパンク修理よりも、タイヤ自体の交換等が望まれる。
しかしながら、サイド補強ゴムがランフラット走行時に一定以上の熱を受けたか否かを視覚的に判断するのは困難である。
また、例えば、特許文献1のランフラットタイヤでは、タイヤがランフラット走行によって屈曲変形した場合に、タイヤの屈曲変形が激しい部位において、塗布された変色材料が剥がれてしまうおそれがあり、タイヤの最も屈曲変形した部位の熱履歴を確実に知ることができない場合も想定される。
【0005】
本発明は上記事項を考慮し、ランフラット走行におけるサイド補強ゴムの熱履歴を視認可能なランフラットタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
<1>トレッド部及びビード部を連結するサイドウォール部と、前記サイドウォール部の内面に配置されたサイド補強ゴムと、前記サイド補強ゴムの内面の最大屈曲部を含む領域に配置され、圧縮歪吸収層、及び、温度変化によって変色する変色材料を含み前記圧縮歪吸収層上に形成された示温層を含む示温部材と、を有するランフラットタイヤ。
【0007】
<1>に記載のランフラットタイヤでは、トレッド部とビード部を連結するサイドウォール部に圧縮歪吸収層を介して示温層が設けられており、サイドウォール部の内面に形成されたサイド補強ゴムの温度上昇に伴って変色する。このため、ランフラット走行時にサイドウォール部が繰り返し大きく撓んでサイド補強ゴムの温度が上昇すれば、示温層が変色するため、サイド補強ゴムの熱履歴を確認することができる。当該熱履歴によってサイド補強ゴムの耐久性等の程度を判断でき、パンク後のタイヤ修理かタイヤ交換かの判断を行うための有効な情報を提供できる。
【0008】
ここで、前記示温部材は前記サイド補強ゴムの内面に設けられていればよい。即ち、前記示温部材はサイド補強ゴム上に直接配置されていてもよいが、サイド補強ゴムの内面にインナーライナーが設けられている場合には、サイド補強ゴムの最大屈曲部を含む領域上にインナーライナーを介して示温部材がサイド補強ゴムの内面に配置される。
【0009】
特に、前記ランフラットタイヤでは、示温層は圧縮歪吸収層を介して貼り付けられているので、タイヤの屈曲変形によって大きく撓んでも示温層には影響しにくいので、剥がれ落ちるのを防ぐことができる。
【0010】
<2>前記圧縮歪吸収層は、25℃における弾性率が1×10
6Pa〜1×10
10Paである<1>に記載のランフラットタイヤ。
【0011】
<3>前記圧縮歪吸収層は、100℃における弾性率が1×10
5Pa〜1×10
10Paである<1>又は<2>に記載のランフラットタイヤ。
【0012】
<4>前記圧縮歪吸収層は、シリコーン樹脂系の接着剤を含む<1>〜<3>の何れか1つに記載のランフラットタイヤ。
【0013】
<5>前記圧縮歪吸収層の熱伝導率が0.2W/m・K以上である<1>〜<4>の何れか1つに記載のランフラットタイヤ。
【0014】
<6>前記圧縮歪吸収層の厚みが10μm〜3000μmである<1>〜<5>の何れか1つに記載のランフラットタイヤ。
【0015】
<7>前記示温部材が複数配置されている<1>〜<6>の何れか1つに記載のランフラットタイヤ。
【0016】
<8>複数の前記示温部材は、タイヤ周方向及びタイヤの径方向の少なくとも一方において、互いに4mm以上の間隔で配置されている<7>に記載のランフラットタイヤ。
【0017】
<9>前記最大屈曲部を含む領域が、前記サイド補強ゴムのタイヤ径方向において、サイド補強ゴムの下端からサイド補強ゴムの上端までの長さの80%以内の領域である<1>〜<8>の何れか1つに記載のランフラットタイヤ。
【0018】
<10>前記示温層は、80℃〜150℃の温度で変色する<1>〜<9>の何れか1つに記載のランフラットタイヤ。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ランフラット走行におけるサイド補強ゴムの熱履歴を視認可能なランフラットタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のランフラットタイヤによれば、ランフラット走行(パンク走行)後に、サイド補強ゴムの熱履歴を確認することで、サイド補強ゴムの耐久性等の程度を判断することができる。
以下、詳細について説明する。
【0022】
図1を参照しながら、本発明の第1実施形態に係るランフラットタイヤ10について説明する。なお、本発明は第1実施形態に限定されるものではない。
図1は、本発明に係るランフラットタイヤのタイヤ幅方向に沿った断面の形状を示す断面図である。なお、図中の矢印Wはランフラットタイヤ10の幅方向を示し、矢印Rはランフラットタイヤ10のタイヤ径方向を示す。また、符号CLは、ランフラットタイヤ10の幅方向中央を通る中央線を示す。
【0023】
本発明に係るランフラットタイヤ10(以下、「タイヤ10」と記載する)は、左右一対のビード部12(
図1では、片側のビード部12のみ図示)と、これら一対のビード部12内にそれぞれ埋設された一対のビードコア14と、一対のビードコア14間をトロイド状に延びたカーカス層16と、カーカス層16よりタイヤ10の径方向外側に設けられたベルト層18と、このベルト層18よりタイヤ10の径方向外側に設けられたトレッド部20と、ビード部12とトレッド部20とを連結するサイドウォール部22と、インナーライナー25と、サイドウォール部22の内面に形成されたサイド補強ゴム26と、を備えている。
【0024】
カーカス層16は、1枚又は複数枚のカーカスプライによって構成されている。本実施形態では、一例として2枚のカーカスプライで構成されている。このカーカスプライは、複数本のコード(例えば、有機繊維コードや金属コードなど)を被覆ゴムで被覆して形成されている。また、カーカス層16は、端部側がビードコア14周りにタイヤ10の内側から外側へ折り返されている。
【0025】
ベルト層18は、一例として複数枚のベルトプライによって構成されている(1枚のベルトプライで構成してもよい)。このベルトプライは、複数本のコード(例えば、有機繊維コードや金属コードなど)を被覆ゴムで被覆して形成されている。
【0026】
トレッド部20には、タイヤ10の周方向に延びる複数の周方向溝24が形成されている。また、トレッド部20には、周方向に対して交差する方向に延びる図示しない幅方向溝が複数形成されている。
【0027】
サイドウォール部22のタイヤ軸方向内側には、サイド補強ゴム26が設置されており、タイヤ10の内側壁の一部を構成している。サイド補強ゴム26の内側壁面を含めタイヤ10の内側壁にはインナーライナー25が設けられている。サイド補強ゴム26の上端部26Aは、トレッド部20まで延びており、サイド補強ゴム26の下端部26Bは、ビード部12の近傍まで延びている。また、サイド補強ゴム26は、上端部26A、及び下端部26Bへ向かうにつれ、厚みが薄くなっている。さらに、サイド補強ゴム26は、サイドウォール部22を構成するゴムよりも硬質のゴムで形成されており、タイヤ10がパンクしても、サイド補強ゴム26が車両及び乗員の重量を支えることでランフラット走行(パンク走行)ができるように構成されている。
【0028】
示温部材28は、サイド補強ゴム26の内面に、最大屈曲部を含む領域29’に配置される。後述するが、示温部材28は、圧縮歪吸収層と示温層とを含み、示温層が圧縮歪吸収層を介してサイド補強ゴム26表面に配置されている。なお、示温層とは、温度上昇による熱履歴を表示する層のことをいい、一定温度以上の熱履歴受けると不可逆的に変色する。タイヤ10は、サイド補強ゴム26の最大屈曲部29を中心に生じる撓みによって発生した熱が、圧縮歪吸収層を介することで、熱が無駄なく確実に示温部材28へ伝達される。また、示温部材28では圧縮歪吸収層上に示温層が形成されているため、ランフラット走行時に、サイド補強ゴム26が屈曲変形した際にも示温部材28はサイド補強ゴム26から剥がれにくい。このため、ランフラット走行後にサイド補強ゴム26の最大屈曲部29の熱履歴を確認することができる。
【0029】
本発明において、示温部材28は、タイヤ10のサイド補強ゴム26の内面の最大屈曲部29を含む領域29’に配置される。
【0030】
ここで、サイド補強ゴムの「最大屈曲部」とは、ランフラット走行時においてサイド補強ゴムの屈曲が最大となる部位を意味する。本発明においてサイド補強ゴムの最大屈曲部は、次のようにして決定される。まず、
図2(A)及び(B)に示すように、タイヤ幅方向断面において、タイヤ幅方向中央(CL)からビード部31に向かってサイド補強ゴムを0.5cm間隔でタイヤの最内周面を区切った一定間隔の領域群を形成する(
図2中、各領域を領域35で示す)。次に、CLから所定位置にある領域35の各々における屈曲による曲率半径の変化量、すなわち各領域35での通常走行時のタイヤ(荷重0kN、内圧200kPa)における曲率半径(r1)と、ランフラット走行時のタイヤ(荷重8.5kN、内圧50kPa)における曲率半径(r2)とを測定し、変化量(|r1−r2|)を算出する。
以上によって、サイド補強ゴム層の内面上で、算出した変化量が最も大きい領域35を最大屈曲部(
図2の32及び33参照)という。
各条件下における領域25の曲率半径は、X線CTにより得られる断面画像を画像処理し計測することによって測定することができる。
【0031】
図2(A)及び(B)に示すように、タイヤがパンクした場合、サイド補強ゴム26が、タイヤ径方向の荷重によって大きく撓んで変形する。また、タイヤ10は転動しているので、サイド補強ゴム26は、全周に亘って連続的に撓み変形が繰り返される。このとき、
図2(B)に示すように、半径r2の最大屈曲部33を生じる。この場合の、最大屈曲部の場所は、タイヤ径に関係なくタイヤの最大幅付近であることが多く、タイヤのサイド補強ゴムの最も厚い部分の一定の位置に生じることが多い。
【0032】
次に、示温部材28について説明する。
図3は示温部材の層構成を示す断面図である。
図3に示されるように、示温部材28は、圧縮歪吸収層41と、示温層43と、を含んで構成される。
図3において示温層43は圧縮歪吸収層41の表面に直接設けられているが、本発明の効果に影響を与えない範囲で、示温層43と圧縮歪吸収層41との間に更に接着層等の他の層を有していてもよい。
図3に示すように、圧縮歪吸収層41は、示温層43とサイド補強ゴム26との間に配置されており、ランフラット走行時における、サイド補強ゴム26からの屈曲変形による圧縮歪を吸収し、示温層43への圧縮歪の伝達を防ぐ。この圧縮歪吸収層41は、サイドウォール部の内面に形成されたサイド補強ゴム26の表面の最大屈曲部を含む領域(
図1の領域29’)に配置される。なお、
図3中の矢印Hは圧縮歪吸収層41の高さを示し、同様に矢印H’は示温層43の高さを示す。また、
図3中、矢印Lはタイヤ幅方向における示温部材28の長さを示す。
また、示温部材28の配置の一例を
図4の(A)及び(B)に示す。
図4(A)は、タイヤ10をタイヤ周方向に沿って切断し、タイヤ10側面側よりタイヤ10の内側を観察した模式図である。また、図(B)は、タイヤ10の内面の一部を拡大した斜視図である。
図4(A)に示すように、サイド補強ゴム26内面にはインナーライナー25を介して示温部材28が配置されている。示温部材28は、タイヤ10の内面においてタイヤ径方向に沿って縞状に装飾されるセレーション線6に沿うように、サイド補強ゴム26の最大屈曲部を含む領域に複数配置されている。
図4(B)に示すように、全体としてドーム形状の構造を有している。また、示温部材28は、示温層43と圧縮歪吸収層41との2層構造とされており、上層が示温層43とされている。示温部材28を示温層43の上方より観察した場合には、
図4(A)及び(B)に示すように円形状となっている。但し、示温部材の形状は特に限定されるものではなく、例えば、示温層43の上方から観察した際の形状は、円形(楕円形を含む)、多角形(例えば、三角形、正方形、菱形、五角形、六角形、星形等)であってもよい。また、示温部材28の全体的な形状は、ドーム型に限定されるものではなく、円柱状、角柱状、ピラミッド形状等の錐形状でもよい。更に、
図4(A)及び(B)においては、示温層43と圧縮歪吸収層42とが示温部材28として、一体的にドーム状の形状を形成しているが、本発明はこれに限定されるものではない。即ち、示温層43と圧縮歪吸収層42とが同じ形状であってもよいし、異なる形状であってもよく、更には、示温層43と圧縮歪吸収層42と一体となって一つの形状とされていてもよいし、一体して一つの形状とされていなくてもよい。
【0033】
また、示温部材28は、サイド補強ゴム26の最大屈曲部を含む領域に配置される。これにより、タイヤの変形によって温度が最も上昇するサイド補強ゴムの最大屈曲部からの熱を示温層に伝達することができ、示温層が直接にタイヤからの圧縮歪を受けないようにすることができる。
【0034】
ここで、「最大屈曲部を含む領域」とは、タイヤ10内面の最大屈曲部29を含む領域が、サイド補強ゴムのタイヤ径方向において、サイド補強ゴムの下端からサイド補強ゴムの上端までの長さ、すなわち
図1のサイド補強ゴム端26Aからサイド補強ゴム端26Bまでの長さの少なくとも80%以内の領域をいう。
また、上記の領域は、最大屈曲部からの熱が示温層により効率的に伝達させる観点から、さらに50%以内が好ましく、30%以内が特に好ましい。
【0035】
圧縮歪吸収層41としては、25℃における弾性率が1×10
6Pa〜1×10
10Paであることが好ましい。25℃における弾性率が1×10
6Pa以上であることで、示温層及びサイド補強ゴムへの接着力を高め、1×10
10Pa以下であることで、示温部材28の欠落をより抑制できる。さらに、25℃においての弾性率は、1×10
7Pa〜1×10
9Paであることが好ましく、特に好ましくは1×10
7Pa〜1×10
8Paである。
また、タイヤの屈曲変形時、すなわちタイヤ表面の温度が上昇しても示温層をより強く接着させるという観点から、100℃における弾性率としては、1×10
5Pa〜1×10
10Paであることが好ましく、さらに1×10
5Pa〜1×10
8Paであることが好ましい。
【0036】
また、圧縮歪吸収層41としては、25℃における弾性率と100℃における弾性率の変化が100%以下であることが好ましい。タイヤが屈曲変形して温度が上昇しても、弾性率の変化が100%以下であることにより、示温層の欠落をより抑制できる。85%以下であることがより好ましく、特に好ましくは80%以下である。
圧縮歪吸収層41の弾性率は、万能圧縮試験機を用いて、算出することができる。例えば、原料となる樹脂を公知の方法により3cm×1cm×50μmのシート状に成形し、得られたシートを粘弾性測定装置(日立ハイテクサイエンス製 DMS7100)で試験速度5mm/分で測定し、測定値から圧縮応力−ひずみ曲線を作製し、これに基づいて算出することができる。
【0037】
圧縮歪吸収層41の材質としては、サイド補強ゴム26の屈曲変形を吸収でき、サイド補強ゴム26の表面及び示温層43の両方に接着力を有するものであれば特に限定されない。中でも、適度な弾性率を有し、温度に対し弾性率の変化が少ない柔軟な接着剤という観点から、具体的な弾性接着剤としては、例えば、ポリオレフィン系接着剤、塩素ゴム系接着剤、アクリル系接着剤[例えばY610(セメダイン社製)]、エポキシ系接着剤[例えばEP138(セメダイン社製)、ポリウレタン系接着剤[例えばUM700(セメダイン社製)]、ニトリルゴム系接着剤[例えばセメダイン521(セメダイン社製)]、塩化ビニル系接着剤[例えば201(セメダイン社製)]、酢酸ビニル系接着剤[例えば195(セメダイン社製)]、ポリエステル系接着剤[例えばR820(セメダイン社製)]、フェノール系接着剤[例えばメタロックUB、メタロックU−20(例えば東洋化学研究所社製)]、シリコーン樹脂系接着剤[例えばKR−282、KR−311(信越化学工業社製)]、変性シリコーン樹脂系接着剤[例えばPM100(セメダイン社製)]等が挙げられる。この中でもシリコーン樹脂系接着剤である、シリコーン樹脂系接着剤及び変性シリコーン樹脂系接着剤が好ましく、さらに、変性シリコーン樹脂系接着剤の中では、アクリル変性シリコーン樹脂系接着剤がより好ましい。
【0038】
圧縮歪吸収層41は、タイヤ10の屈曲変形時に、最大屈曲部29で発生する熱を示温層43へ効率的に伝達するために、熱伝導性材料を含むことができる。熱伝導性材料を含むことで、タイヤの最大屈曲部の温度上昇による熱をより確実にかつ効率的に伝えることができる。係る観点から、圧縮歪吸収層41の熱伝導率は0.2W/m・K以上であることが好ましく、より好ましくは0.5W/m・K以上であり、特に好ましくは1.5W/m・K以上である。
【0039】
前記熱伝導性材料としては、例えば、熱伝導性フィラーが挙げられる。熱伝導性フィラーとしては、熱伝導性の金属酸化物、窒化物、炭化物、金属粉、カーボン、カーボンナノチューブ、グラファイト、炭素繊維が挙げられる。
前記金属酸化物としては、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化珪素などが挙げられる。前記窒化物としては、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化珪素などが挙げられる。前記炭化物としては、炭化珪素、炭化ホウ素などが挙げられる。前記金属粉としては、銀、金、銅、アルミニウムなどが挙げられる。熱伝導性材料としては、これらから1種あるいは2種以上の混合物も使用できる。前記熱伝導性材料としては、カーボン、カーボンナノチューブ、グラファイト、炭素繊維が好ましい。
【0040】
また、圧縮歪吸収層の厚みとしては、接着性及びサイドウォール部の内面からの圧縮歪をより吸収することとの観点から、10μm〜3000μmであることが好ましく、さらに10μm〜2500μmであることが好ましく、10μm〜2000μmであることが特に好ましい。
【0041】
示温層28は、温度変化により変色する変色材料を含み、圧縮歪吸収層を介してサイド補強ゴムの内面に配置された層である。前記変色材料は、熱を吸収することで変色する材料を意味し、不可逆的に変色する材料である。
温度変化により変色する変色材料としては、特に限定されないが、例えば、非結晶−結晶または相分離−非相分離によるリタイラブル系の電子供与性呈色性化合物(例えばロイコオーラミン類、ジアリールフタリド類ポリアリールカルビノール類、アシルオーラミン類、ローダミンBラクタム類、インドリン類、スピロピラン類、フルオラン類、シアニン色素類、クリスタルバイオレット等、の電子供与性有機物等)と電子受容性化合物(例えばフェノール類、フェノール金属塩類、カルボン酸金属塩類、サリチル酸及びその誘導体、スルホン酸及びその誘導体、スルホン酸塩及びその誘導体、リン酸塩、リン酸金属塩類、酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステル金属塩類、亜リン酸塩、亜リン酸類、亜リン酸金属塩類等の酸化物等)とを含む発色材料などが挙げられる。
このような材料を用いた変色材料は、融点以上に加熱された後に急冷されることで無色となり、その後、ガラス転移点以上の温度になると、徐々に変色する特徴がある。
【0042】
なお、上記の材料の他に、顔料としてコバルト、ニッケル、鉄、銅、クロム、マンガン等の塩類を用い、これらの組成中にアミン、アンモニウム塩、炭酸基、しゅう酸基等を含んだ変色材料を用いてもよい。この場合、アンモニア、炭酸ガス、水などの発生を伴う熱分解によって顔料化合物の組成そのものが変化して変色を起こさせる。
【0043】
上記の材料を用いた場合、可逆剤等の濃度を変更することで、示温層の変色が始まる温度を調整することができる。示温層を変色させる温度は、所望の閾値によって適宜調整されるが、ランフラット走行時の温度範囲の観点から、80℃〜150℃の任意の温度で変色する変色材料を用いるのが好ましく、90℃〜120℃の任意の温度で変色する材料であることが更に好ましい。
【0044】
このような変色材料としては、例えば、タイヤからの熱履歴を検知し、かつ非走行時に色が戻るのを防ぐという観点から、上記の電子供与性呈色性化合物と、電子受容性化合物を、それぞれマイクロカプセルに封入した変色材料を用いることもできる。具体的には、国際公開第2010051499号に記載されるような、染料前駆体である電子供与性化合物と、電子受容性化合物をマイクロカプセルに封入した熱分布表示体が挙げられる。このようなマイクロカプセルを利用することにより、80℃〜150℃の温度範囲で、不可逆的に熱履歴を詳細に表示することが可能である。
【0045】
示温部材28は、サイド補強ゴム26表面に複数配置されることが好ましい。この場合、複数の示温部材28は、タイヤ径方向に並ぶように設けることができる。示温層43(
図3参照)の厚みとしては、0.1mm〜10mmであることが好ましく、0.1〜5mmであることがより好ましい。0.1mm以上であると、示温層の変色における視認性が高まり、10mm以下であることで、圧縮歪吸収層との接着力がさらに向上する。
【0046】
また、圧縮歪吸収層41に示温層43をより強く接着させるために、示温層43にバインダーを含めることができる。バインダーとしては、本発明の圧縮歪吸収層との接着性を損なうものでない限り特に限定されないが、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エピクロルヒドリン変性ポリアミド、エチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、イソブチレン−無水マレインサリチル酸共重合体、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸アミド、メチロール変性ポリアクリルアミド、デンプン誘導体、カゼイン、ゼラチン等が挙げられる。また、これらのバインダーに耐水性を付与する目的で耐水性の改良剤を加えたり、疎水性ポリマーのエマルジョン、具体的には、アクリル樹脂エマルジョン、スチレン−ブタジエンラテックス等を添加することができる。
【0047】
前記バインダーの含有量は、圧縮歪吸収層41との接着の観点から、示温層43の全固形分に対して8質量%〜30質量%であることが好ましく、10質量%〜20質量%であることがより好ましい。
また、示温層43に用いられるバインダーとしては、透明性の観点からは、ポリビニルアルコールを好ましく用いることができ、中でもカルボキシ変性ポリビニルアルコールやシリカ変性ポリビニルアルコール等のPVAを用いることができる。また、示温層には公知の硬膜剤等を含有させることができる。該硬膜剤としては、ホウ酸、ホウ砂、コロイダルシリカ等の無機化合物やアルデヒド誘導体、ジアルデヒド誘導体などを挙げることができる。
【0048】
示温層43としては、上記の変色材料やバインダーの他に、他の成分を更に添加することができる。他の成分としては、目的や必要性に応じて適宜選択でき、例えば、増感剤、上記以外の顔料、潤滑剤、公知の熱可融性物質、酸化防止剤、帯電防止剤等が挙げられる
【0049】
示温部材28は、圧縮歪形成層41をサイド補強ゴム26に一定面積及び一定の厚みで塗布した後、変色材料を含む示温層43を、圧縮歪形成層41の上面に貼り付け、タイヤを高温環境下に一定時間放置して圧縮歪形成層41と示温層43の積層体をサイド補強ゴム26に定着させることで作製することができる。
【0050】
示温部材の配置位置の一例を
図4に示す。サイド補強ゴム表面上52に配置された複数の示温部材51は、タイヤ周方向及びタイヤ径方向の少なくとも一方において4mm以上の間隔で配置されていることが好ましい。タイヤ周方向及びタイヤ径方向の少なくとも一方における間隔を4mm以上とすることで、タイヤの屈曲変形時に複数の示温部材51同士が近すぎることによる互いの接触をより確実に避けて温度検知が行えるので好ましい。また、示温部材を複数配置させることで、最大屈曲部位の多少の変化によっても、より正確に温度検知を行うことができる。
また、複数に配置された場合の示温部材は、それぞれが同じ温度範囲で変色する変色材料を用いてもよいし、それぞれ異なった変色材料を用いてもよい。例えば、最大屈曲部位からの距離が近い示温部材の示温層には、遠い距離に配置された示温部材の示温層よりもより高い温度範囲で変色する変色材料を用いることで、複数あるすべての示温部材の熱履歴、すなわちより広い範囲のサイド補強部の熱履歴を詳細に知ることができる。
【0051】
タイヤの屈曲変形によって生じた温度の上昇を検知するために、例えば示温部材の温度による変色を以下のように調整することができる。
例えば、示温層は、変色後の色の明度を60%以上とするのが好ましい。一般的なタイヤの色は黒色であり、タイヤの色の明度は0%に近い。このため、示温層の変色後の色の明度が60%以上であれば、コントラスト比が高くなり、示温層の変色後の色を容易に確認できる。また、示温部材は、タイヤ内面に配置されているため陰になっており観察しにくい場合があるが、示温層の変色後の色の明度が60%以上であれば、容易に確認できる。ここで、明度とは、HSVモデルにおいて定義され、明度100%を純色、明度0%を真黒とする。また、明度は、分光測色計を用いて、標章、模様部またはグラデーション部等の測定対象の明度を他系統(例えば、Lab色空間)で測定した後、photoshop(登録商標)等のソフトウェアを用いてHSV系統に変換する方法によって測定するものとする。
【0052】
次に、本実施形態のタイヤ10の作用について説明する。
車両の走行中にタイヤ10がパンクすると、タイヤ10に充填された空気(窒素)がタイヤ10の外部に漏れ、タイヤ10の空気圧が低下する。
空気が漏れたタイヤ10は、サイドウォール部22の内面に形成されたサイド補強ゴム26が車両及び乗員の重量を支えることで、一定距離をランフラット走行することができる。
ランフラット走行時には、路面に接地しているトレッド部20側に近いサイド補強ゴム26が、タイヤ径方向の荷重によって大きく撓んで変形する。また、タイヤ10は転動しているので、サイド補強ゴム26は、全周に亘って連続的に撓み変形が繰り返される。これにより、ヒステリシスロスが増大し、サイド補強ゴム26の温度が急激に上昇する。このような現象は、サイド補強ゴム26が数回撓んだ程度では発生しないので、タイヤ10がパンクした状態でのみ発生することになる。
【0053】
サイド補強ゴム26の温度が上昇し、サイド補強ゴム26の表面温度が80℃に到達すると、サイド補強ゴム26の表面に配置された示温部材28は、サイド補強ゴム26から、圧縮歪吸収層を介して伝達された熱に反応して示温層43が不可逆的に変色を始める。また、サイド補強ゴム26は、連続して撓み変形を繰り返すことにより、熱を発生する。サイド補強ゴム26の表面温度が例えば、一定温度以上になると、サイド補強ゴム26上に設定された示温部材28が不可逆的に変色し始める。一定温度以上において、示温層43は不可逆的に変色するため、ランフラット走行が終了して時間が経過しても、サイド補強ゴム26の熱履歴を確認することができる。
【0054】
ここで、示温層43は、サイド補強ゴム26の表面に、圧縮歪吸収層41を介して配置されているので、サイド補強ゴム26が繰り返し大きく撓んでも、示温部材28がサイド補強ゴム26表面から欠落しにくい。また、圧縮歪吸収層41が適度な弾性を有することで、示温部材28がより欠落しにくくなる。
【0055】
タイヤ10において一定距離をランフラット走行した後、パンクしたタイヤ10をリムから外し、示温部材28が変色しているか確認する。この際、示温部材28が変色していれば、サイド補強ゴム26の表面温度が一定温度に到達していると判断できるため、タイヤを修理して使用可能か否かを判断することができる。
【0056】
例えば、示温部材28を確認した結果、ランフラット走行したにも関わらず、示温部材28が変色していなければ、サイド補強ゴム26の表面温度は所定の温度に到達していなかったことになる。この場合、サイド補強ゴム26は、変質に至っていないので、パンクした箇所を修理して空気を充填すれば、再びタイヤ10を使用することができる。
【0057】
また逆に、示温部材28が変色していれば、サイド補強ゴム26の表面温度が所定の温度に到達していたことになり、サイド補強ゴム26は変質している可能性があり、支持強度が低下している恐れがあると推定できる。この場合、タイヤ10を再使用せずに、新しいタイヤと交換する。
以上のように、サイド補強ゴム26の温度上昇に伴って変色する示温層28を配置することにより、タイヤ10の熱履歴を判断できる。