(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6422448
(24)【登録日】2018年10月26日
(45)【発行日】2018年11月14日
(54)【発明の名称】電池セルセパレータを含む充電式電池
(51)【国際特許分類】
H01M 2/10 20060101AFI20181105BHJP
H01M 10/613 20140101ALI20181105BHJP
H01M 10/625 20140101ALI20181105BHJP
H01M 10/647 20140101ALI20181105BHJP
H01M 10/658 20140101ALI20181105BHJP
【FI】
H01M2/10 S
H01M10/613
H01M10/625
H01M10/647
H01M10/658
【請求項の数】10
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-559316(P2015-559316)
(86)(22)【出願日】2014年3月1日
(65)【公表番号】特表2016-512376(P2016-512376A)
(43)【公表日】2016年4月25日
(86)【国際出願番号】US2014019710
(87)【国際公開番号】WO2014134589
(87)【国際公開日】20140904
【審査請求日】2017年2月28日
(31)【優先権主張番号】14/188,663
(32)【優先日】2014年2月24日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500520743
【氏名又は名称】ザ・ボーイング・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】キャラハン, ケヴィン エス.
【審査官】
藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−222202(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0038030(US,A1)
【文献】
特開2012−033419(JP,A)
【文献】
特開2000−306560(JP,A)
【文献】
特開2009−211907(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/10
H01M 10/613
H01M 10/625
H01M 10/647
H01M 10/658
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の個別の密閉された電池セル(110)と、
金属フレーム(430)、下部非導電固定板(440)、および前記電池セル(110)を固定するための上部非導電固定板(450)を備えるシャーシ(420)であって、前記下部非導電固定板(440)は前記金属フレーム(430)の底に配置されている、シャーシ(420)と、
前記電池セル(110)の対向する表面の間に熱バリアをつくり出すための、前記個別の密閉された電池セルの間の誘電体セパレータ(210、610)の格子(460)であって、前記誘電体セパレータ(210、610)は繊維複合体でつくられ、前記格子(460)は開口のアレイを形成し、前記複数の電池セル(110)の各々は前記開口のアレイの1つに存在する、誘電体セパレータ(210、610)の格子(460)と
を備える、充電式電池。
【請求項2】
各電池セル(110)は、第1及び第2の電極(120、130)と、前記電極用のケース(140)と、前記ケース(140)内部に密閉される電解質とを含む、請求項1に記載の電池。
【請求項3】
前記繊維複合体は、フェノール樹脂マトリックスに繊維を含む、請求項1または2に記載の電池。
【請求項4】
前記繊維複合体は、ガラス繊維フェノールを含む、請求項1または2に記載の電池。
【請求項5】
前記繊維複合体は、繊維玄武岩を含む、請求項1または2に記載の電池。
【請求項6】
前記誘電体セパレータ(210、610)は、前記電池セル(110)の対向する表面と少なくとも同じ大きさを有する、請求項1から5のいずれか1項に記載の電池。
【請求項7】
各電池セル(110)は、ポリイミド薄膜(310)で巻かれている、請求項1から6のいずれか1項に記載の電池。
【請求項8】
前記電池セル(110)は、角柱状であり、前記電池セル(110)は、アレイ状に配置される、請求項1から7のいずれか1項に記載の電池。
【請求項9】
前記誘電体セパレータ(210、610)は、連結可能である、請求項8に記載の電池。
【請求項10】
前記電池セルは、リチウムイオン電池セルであり、前記電池は、旅客ビークル用に構成される、請求項8に記載の電池。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
リチウムイオン(Li−ion)電池(LIB)は、モバイルコンピューティングデバイスや、ある自動車や航空機には望ましい。リチウムイオン電池は、ニッケル水素電池及びニッケルカドミウム電池などの充電式電池よりも軽量で、エネルギー密度が高い。リチウムイオン電池には、メモリ劣化がない。
【0002】
しかしながら、あるリチウムイオン電池には、熱暴走を含む長期にわたる問題がある。本明細書で使用されるように、熱暴走は、温度上昇が、効率低下につながり得る更なる温度上昇を引き起こす状況を意味する。例えば、発熱化学反応から生じる熱は、化学反応の速度を増加させ得る。複合システムの設計者は、様々な方法でそのような非効率性に対処し得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本明細書の実施形態によれば、充電式電池は、複数の個別の密閉された電池セルと、電池セルの対向する表面の間に熱バリア(thermal barriers)をつくり出すための、電池セルの間の誘電体セパレータとを備える。誘電体セパレータは、繊維複合体でつくられる。
【0004】
本明細書の別の実施形態によれば、充電式電池は、誘電体セパレータの格子と、格子によって形成される空間に存在する電池セルのアレイとを備える。誘電体セパレータは、電池セルの間での熱暴走の伝播を防止するように構成される。誘電体セパレータは、フェノール樹脂マトリックスの繊維から成る。
【0005】
本明細書の別の実施形態によれば、熱暴走が充電式電池セルのアレイに伝播するのを防止するための装置は、格子を形成するために連結可能である複数の誘電体セパレータを備える。格子は、電池セルが存在するための空間を形成する。誘電体セパレータは、フェノール樹脂マトリックスの繊維から成る。
【0006】
本開示の態様によれば、複数の個別の密閉された電池セルと、電池セルの対向する表面の間に熱バリアをつくり出すための、電池セルの間の誘電体セパレータであって、繊維複合体でつくられる誘電体セパレータとを備える充電式電池が提供される。
【0007】
ある実施形態では、各電池セルは、第1及び第2の電極と、電極用のケースと、ケース内部に密閉される電解質とを含む。
【0008】
ある実施形態では、繊維複合体は、フェノール樹脂マトリックスに繊維を含む。
【0009】
ある実施形態では、繊維複合体は、ガラス繊維フェノールを含む。
【0010】
ある実施形態では、繊維複合体は、繊維玄武岩を含む。
【0011】
ある実施形態では、セパレータは、少なくとも電池セルの対向する表面と同じくらい大きい。
【0012】
ある実施形態では、各電池セルは、ポリイミド薄膜で巻かれている。
【0013】
ある実施形態では、電池セルは、角柱状であり、電池セルは、アレイ状に配置され、誘電体セパレータは、格子を形成する。
【0014】
ある実施形態では、誘電体セパレータは、連結可能である。
【0015】
ある実施形態では、電池セルは、リチウムイオン電池セルであり、電池は、旅客ビークル用に構成される。
【0016】
本開示の態様によれば、充電式電池であって、誘電体セパレータの格子と、格子によって形成される空間に存在する電池セルのアレイとを備え、誘電体セパレータは、電池セルの間での熱暴走の伝播を防止するように構成され、フェノール樹脂マトリックスの繊維から成る、充電式電池が提供される。
【0017】
ある実施形態では、セパレータは、ガラス繊維フェノールから成る。
【0018】
ある実施形態では、誘電体セパレータは、連結可能である。
【0019】
ある実施形態では、電池セルは、リチウムイオン電池セルであり、電池は、旅客ビークル用に構成される。
【0020】
本開示の態様によれば、熱暴走が充電式電池セルのアレイに伝播するのを防止するための装置であって、格子を形成するために連結可能である複数の誘電体セパレータを備え、格子は、電池セルが存在するための空間を形成し、誘電体セパレータは、フェノール樹脂マトリックスの繊維から成る、装置が提供される。
【0021】
ある実施形態では、誘電体セパレータは、ガラス繊維フェノールから成る。
【0022】
ある実施形態では、誘電体セパレータは、角柱状のリチウムイオン電池セルのアレイ用に構成される。
【0023】
これらの特徴及び機能は、種々の実施形態において単独で達成することができるか、又は他の実施形態において組み合わせることができる。実施形態のさらなる詳細は、下記の説明及び図面を参照することによって理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図2】誘電体セパレータによって分離される二つの充電式電池セルの図である。
【
図3】ポリイミド薄膜で巻かれた電池セルの図である。
【
図4】複数の電池セルを含む充電式電池の図である。
【
図5】充電式電池用の誘電体セパレータの格子の図である。
【
図6A】格子に組み立てられるように構成される複数の誘電体セパレータの図である。
【
図6B】格子に組み立てられるように構成される複数の誘電体セパレータの図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
ここで
図1を参照するが、
図1は、充電式電池セル110を示す。電池セル110は、陽極120及び陰極130と、陽極120及び陰極130用のケース140と、ケース140内部に密閉される電解質(図示されず)を含む。
【0026】
電池セル110は、任意の特定の化学的性質(chemistry)に限定されない。例は、リチウムイオン、金属カドミウム、及びニッケル水素を含むが、これらに限定されない。電池の化学的性質次第で、電池セル110は、熱暴走の影響を受けやすくなり得る。
【0027】
電池セル110は、そのケース140の側面に通気口(図示されず)、及びその通気口を覆う破裂板150を有する。破裂板150は、ケース140に抵抗溶接されるステンレス鋼膜であり得る。破裂板150は、所定の内部セル圧力(熱暴走で生じ得る)で開き、通気口の覆いを取り除くように設計される。通気口の覆いがいったん取り除かれると、ケース140内部からの材料が、通気口を通して吐き出され得る。
【0028】
電池セル110は、任意の特定の形状に限定されない。例えば、電池セル110は、角柱状又は円筒状であり得る。
図1は、角柱状である電池セル110を示す。
【0029】
ここで、誘電体セパレータ210によって分離される二つの電池セル110を示す
図2を参照する。誘電体セパレータ
210は、電池セル110の対向する表面の間に熱バリアをつくり出す。誘電体セパレータ210の主な目的は、熱暴走が電池セル110の一つから電池セル110の他のセルに伝播するのを防ぐことである。二次的目的は、意図していない電流経路が電池セル110の間に生じるのを防ぐことである。誘電体セパレータ210は、断熱を提供し、電池セル110の間に最小限の間隔を維持する。
【0030】
誘電体セパレータ210は、少なくとも対向する各電池セル表面全体を覆い得る。
図2は、電池セル110と同一の高さ及び幅を有する誘電体セパレータ210を示す。
【0031】
誘電体セパレータ210の厚さ及び構成は、熱暴走が伝播するのを防ぐように選択される。熱暴走中に華氏900度の温度に到達する電池セル110の例を考える。誘電体セパレータ210は、この温度を上回る断熱及び電気絶縁を提供するように設計される。
【0032】
選択される材料は、繊維がマトリックスに埋め込まれる繊維複合体であり得る。繊維及びマトリックスは、熱暴走の高温に耐えることができる。このような繊維の例は、石英繊維、セラミック繊維、及び炭化ケイ素繊維を含むが、これらに限定されない。そのようなマトリックスの例は、フェノール樹脂マトリックスである。
【0033】
いくつかの実施形態では、誘電体セパレータ210は、ガラス繊維フェノールから成る。ガラス繊維フェノールは、樹脂に繊維ガラス強化繊維のプライを含む。誘電体セパレータ210は、薄板として形成され得る。プライは、製造中の歪みを防ぐために対称であり得る。
【0034】
いくつかの実施形態では、誘電体セパレータは、玄武岩の極細繊維でつくられる繊維玄武岩から成る。繊維玄武岩は、鉱質の斜長石、輝石、及び橄欖石から成り得る(The fiber basalts may be composed of the minerals plagioclase, pyroxene, and olivine)。
【0035】
ここで、
図3を参照する。各電池セル110のケース140のエッジは、ポリイミド薄膜310で巻かれ得る。ポリイミド薄膜の例は、Kapton(登録商標)テープである。ポリイミド薄膜310は、長期にわたる湿気進入にさらされる充電式電池に有益である。例えば、航空機において、電池は、長期にわたる湿気侵入にさらされることがある。ポリイミド薄膜310は、湿気が、隣接する電池セル110の表面の間で電流を伝導するのを防ぐ。
【0036】
充電式電池は、複数の電池セル110と、電池セル110の対向する表面の間に誘電体セパレータ210とを含み得る。充電式電池は、電池セル110の任意の特定の配置に限定されない。しかしながら、誘電体セパレータ210によって、強力なリチウムイオン電池セル110は、密なアレイ状に配置することができる。このような配置の例が、
図4に示される。
【0037】
ここで
図4を参照するが、
図4は、複数の電池セル110と、電池セル110を収容するためのシャーシ420とを含む充電式電池410を示す。シャーシ420は、金属フレーム430と、下部固定板440と、上部固定板450とを含む。下部固定板440は、フレーム430の底に位置付けられる。
【0038】
シャーシ420は、誘電体セパレータ210の格子460を更に含む。格子460は、開口のアレイを形成する。各電池セル110は、開口の一つに存在する。格子は、電池セル110のうちの任意の二つの対向する表面が、誘電体セパレータ210によって分離されることを保証する。
【0039】
ここで
図5を参照するが、
図5は、電池セル110の4×2のアレイに対する誘電体セパレータ210の格子460の例を示す。格子460は、下部固定板440上のフレーム430に配置される(フレーム430は、格子460と区別するために破線で示される)。フレーム430内部に収容されると、
図5の格子460は、八つの開口510(電池セル110毎に一つの開口510)を形成する。
【0040】
ここで再び
図4を参照する。電池セル110がそれらの開口に配置されると、上部固定板450が電池セル110上方に位置付けられ、フレーム430に留められ、電池セル110がフレーム430内部で動かないようにする。下部固定板440及び上部固定板450は、ケース140間の短絡を回避するために、非導電材料で構成され得る。電池セル110の最上部から垂直に延びるアノードスタッド及びカソードスタッドは、銅ブスバーと接続され、直列接続を形成する(第n番目のセルのアノードは、第n+1番目のセルのカソードに接続される)。
【0041】
電池410の容量及び電力は、電池410が対象とするプラットフォームの種類によって決定される。いくつかの実施形態では、電池410は、リチウムイオン電池セル110を含み得、電池410は、旅客ビークル(例えば、航空機、自動車、トラック、バス、電車、又はボート)用に構成され得る。
【0042】
格子460は、単一構造であり得る。別の方法では、格子460は、複数の個別の誘電体セパレータから組み立てられ得る。
【0043】
ここで
図6Aを参照するが、
図6Aは、格子に組み立てることができる二つの誘電体セパレータ610を示す。各セパレータ610は、他のセパレータ610との連結用のスロット620を含む。二つのセパレータ610を連結するために、それらのスロット620が整列され、セパレータが一体化される。
【0044】
ここで
図6Bを参照するが、
図6Bは、スロット620が噛合した状態で一体的に組み立てられた二つのセパレータ610を示す。有利には、セパレータ610は、留め具又は接着剤を使用せずに連結される。
【0045】
より大きな格子は、複数のスロットを有するセパレータ610を利用し得る。
図5の格子460は、例えば、三つのスロットを有する縦のセパレータと、一つのスロットを有する三つの横のセパレータとによって形成され得る。
また、本願は以下に記載する態様を含む。
(態様1)
複数の個別の密閉された電池セルと、
前記電池セルの対向する表面の間に熱バリアをつくり出すための、前記電池セルの間の誘電体セパレータであって、繊維複合体でつくられる誘電体セパレータと
を備える、充電式電池。
(態様2)
各電池セルは、第1及び第2の電極と、前記電極用のケースと、前記ケース内部に密閉される電解質とを含む、態様1に記載の電池。
(態様3)
前記繊維複合体は、フェノール樹脂マトリックスに繊維を含む、態様1に記載の電池。
(態様4)
前記繊維複合体は、ガラス繊維フェノールを含む、態様1に記載の電池。
(態様5)
前記繊維複合体は、繊維玄武岩を含む、態様1に記載の電池。
(態様6)
前記セパレータは、少なくとも前記電池セルの対向する表面と同じくらい大きい、態様1に記載の電池。
(態様7)
各電池セルは、ポリイミド薄膜で巻かれている、態様1に記載の電池。
(態様8)
前記電池セルは、角柱状であり、前記電池セルは、アレイ状に配置され、前記誘電体セパレータは、格子を形成する、態様1に記載の電池。
(態様9)
前記誘電体セパレータは、連結可能である、態様8に記載の電池。
(態様10)
前記電池セルは、リチウムイオン電池セルであり、前記電池は、旅客ビークル用に構成される、態様8に記載の電池。
(態様11)
誘電体セパレータの格子と、
前記格子によって形成される空間に存在する電池セルのアレイとを備える充電式電池であって、
前記誘電体セパレータは、前記電池セルの間での熱暴走の伝播を防止するように構成され、フェノール樹脂マトリックスの繊維から成る、充電式電池。
(態様12)
前記セパレータは、ガラス繊維フェノールから成る、態様11に記載の電池。
(態様13)
前記誘電体セパレータは、連結可能である、態様11に記載の電池。
(態様14)
前記電池セルは、リチウムイオン電池セルであり、前記電池は、旅客ビークル用に構成される、態様11に記載の電池。
(態様15)
熱暴走が充電式電池セルのアレイに伝播するのを防止するための装置であって、格子を形成するために連結可能である複数の誘電体セパレータを備え、前記格子は、前記電池セルが存在するための空間を形成し、前記誘電体セパレータは、フェノール樹脂マトリックスの繊維から成る、装置。
(態様16)
前記誘電体セパレータは、ガラス繊維フェノールから成る、態様15に記載の装置。
(態様17)
前記誘電体セパレータは、角柱状のリチウムイオン電池セルのアレイ用に構成される、態様15に記載の装置。