特許第6422516号(P6422516)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6422516-トグル式型締装置の型締力調整方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6422516
(24)【登録日】2018年10月26日
(45)【発行日】2018年11月14日
(54)【発明の名称】トグル式型締装置の型締力調整方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/66 20060101AFI20181105BHJP
   B29C 45/76 20060101ALI20181105BHJP
   B29C 45/17 20060101ALI20181105BHJP
   B22D 17/26 20060101ALI20181105BHJP
【FI】
   B29C45/66
   B29C45/76
   B29C45/17
   B22D17/26 J
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-4862(P2017-4862)
(22)【出願日】2017年1月16日
(65)【公開番号】特開2018-114617(P2018-114617A)
(43)【公開日】2018年7月26日
【審査請求日】2017年8月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100097696
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 嘉昭
(74)【代理人】
【識別番号】100147072
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 裕通
(72)【発明者】
【氏名】松崎 孝治
【審査官】 越本 秀幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−110960(JP,A)
【文献】 特開平04−086208(JP,A)
【文献】 特開平04−086209(JP,A)
【文献】 特開平08−034043(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00−45/84
B22D 17/00−17/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定盤と、可動盤と、型締ハウジングと、前記可動盤を挟んで前記固定盤と前記ハウジングとを連結しているタイバーと、前記可動盤と前記型締ハウジングとの間に設けられているトグル機構とからなり、前記固定盤と前記可動盤とに金型が取付けられた状態で前記トグル機構のクロスヘッドを駆動すると型開閉が、そして前記タイバーに設けられているタイバーナットを駆動すると型厚の調整ができるようになっているトグル式型締装置において、型閉じさせるのに所定の押力を要する金型を取付けた状態で型締力を調整する型締力調整方法であって、
前記クロスヘッドを駆動する駆動力と前記可動盤の型閉力との比である拡大率の関係を色々なクロスヘッド位置についてクロスヘッド位置−拡大率関係データとして予め記憶しておき、
前記トグル式型締装置において基準となる型締力を基準型締力とし、該基準型締力に対応する金型タッチ位置を基準金型タッチ位置とし、該基準金型タッチ位置における拡大率を基準拡大率とし、前記基準金型タッチ位置において前記金型を型閉じさせるのに必要な前記クロスヘッドの駆動力を基準クロスヘッド駆動力とするとき、
任意の金型タッチ位置である調整金型タッチ位置が与えられ、該調整金型タッチ位置において金型が型閉じするか否かを確認するとき、前記クロスヘッド位置−拡大率関係データから前記調整金型タッチ位置に対応する拡大率を得て調整拡大率とし、このとき前記クロスヘッドを駆動する駆動力である調整クロスヘッド駆動力は、
調整クロスヘッド駆動力=基準拡大率/調整拡大率×基準クロスヘッド駆動力
により与えることを特徴とするトグル式型締装置の型締力調整方法。
【請求項2】
請求項1に記載の型締力調整方法において、
型締力と金型が型閉じするクロスヘッド位置である金型タッチ位置の関係を色々な型締力について型締力−金型タッチ位置関係データとして予め記憶しておき、
前記調整金型タッチ位置は、所定の目標型締力が与えられたとき、前記型締力−金型タッチ位置関係データから前記目標型締力に対応して得られる金型タッチ位置とすることを特徴とするトグル式型締装置の型締力調整方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の型締力調整方法において、前記調整金型タッチ位置において前記調整クロスヘッド駆動力で前記クロスヘッドを駆動するとき、前記クロスヘッド位置が所定時間変化しないとき金型が型閉じしていると判断することを特徴とするトグル式型締装置の型締力調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型を型閉じ状態にするのに所定の押力で型閉じする必要があるバネ入り金型が取付けられたトグル式型締装置の型締力調整方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トグル式型締装置を備えた射出成形機は、ベッド上に固定されている固定盤、ベッド上にスライド自在に設けられている型締ハウジング、固定盤と型締ハウジングとの間に設けられている4本のタイバー、タイバーに挿通されている可動盤、型締ハウジングと可動盤の間に設けられているトグル機構等から構成されている。トグル機構はクロスヘッドと複数本のトグルリンクとから構成され、所定の駆動機構によって駆動されるようになっている。例えば、クロスヘッドにはボールナットが設けられ、このボールナットに螺合するボールネジを型開閉モータによって駆動するようになっている。型開閉モータを駆動するとクロスヘッドが軸方向に駆動され、トグル式型締装置が型開閉される。ところで4本のタイバーは、一方の端部が固定盤に対して固定されているが、他方の端部近傍は型締ハウジングに対して次のように結合されている。すなわち型締ハウジングには貫通孔が明けられており、それぞれの貫通孔にタイバーが挿通されている。挿通されているタイバーには所定の長さで雄ネジが形成され、この雄ネジにタイバーナットが螺合している。そしてタイバーナットが型締ハウジングに設けられているスペースに軸方向の移動が規制された状態で回転可能に収納されている。4個のタイバーナットは所定の型厚調整機構によって同期して回転させることができるようになっている。このようにタイバーが型締ハウジングに結合されているので、型厚調整機構を駆動して4個のタイバーナットを回転すると、タイバーの有効長、すなわち固定盤と型締ハウジングの連結長さを調整することができる。
【0003】
このようなトグル式型締装置の固定盤と可動盤とに金型が取付けられ、型締めされるようになっているが、型締力はタイバーの引張力によって発生する。つまり型開閉モータによりクロスヘッドを駆動すると所定のクロスヘッド位置において金型同士がタッチする。引き続きクロスヘッドを駆動するとトグル機構が伸張して可動盤と型締ハウジングの間隔は広がるが、金型が型閉じされているので固定盤と可動盤の間隔は変化しない。つまり固定盤と型締ハウジングの間隔が広がってタイバーが伸張することになる。このタイバーの伸張による引張力によって型締力が発生する。クロスヘッドは、型締完了位置まで駆動して型締めを完了する。型締完了時において得られる型締力は、金型がタッチするクロスヘッド位置つまり金型タッチ位置によって変化することになる。トグル式型締装置においては、金型タッチ位置を変更して色々な大きさの型締力を得るようにしているが、それぞれの型締力に対する金型タッチ位置のデータはコントローラに入力されている。従って型締力調整においては、成形に必要な型締力が明確になったら、その型締力を得るための金型タッチ位置が決定され、この金型タッチ位置において金型がタッチするようにタイバーの有効長を調整することになる。
【0004】
具体的な型締力調整方法については色々な方法があるが、比較的広く実施されている方法は次のようにする。まず、型開き状態にして、実際の金型の型厚よりも厚くなるように、タイバーの有効長を長めに調整する。この状態でクロスヘッドを駆動して、所望の型締力を得るための金型タッチ位置にする。追い込んでいない状態に調整されているので、金型タッチ位置にしても金型は型閉じしない。クロスヘッドがこの金型タッチ位置を維持するようにして、つまり型開閉モータを停止して、タイバーの有効長を短くする方向に調整する。つまり型厚調整機構の型厚調整モータを駆動して型厚減の方向に調整する。金型が型閉じしたら型厚調整機構を停止し、型締力調整を完了する。
【0005】
ところで、金型は色々な種類があるが、型閉じ状態にするのに所定の押力が必要になるバネ入りの金型もある。バネの無い一般的な金型においては金型がタッチ状態になっているとき金型は確実に型閉じ状態になっているが、バネ入り金型の場合にはタッチ状態になっていてもバネ付勢によって型閉じされているとは限らない。従ってバネ入りの金型が取付けられたトグル式型締装置において型締力調整を行うには、上で説明したような型締力調整方法では調整が難しい。タッチ状態にするための小さなトルクで型厚調整モータを駆動するだけでは型閉じ状態にできないからである。バネ入りの金型において適切に型締力調整を行う方法が、色々な特許文献において提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−170321号公報
【特許文献2】特開平10−305464号公報
【0007】
特許文献1に記載の型締力調整方法は次のようにする。まず、金型を取付けた状態でトグル式型締装置を型開き状態にし、型厚調整機構を駆動してタイバーの有効長を調整する。このときのタイバーの有効長は、もし金型が取付けられていない状態でトグル式型締装置を型締状態にすると、実際の金型の厚さつまり型厚よりも固定盤と可動盤の距離が若干短くなるような長さとする。つまり、いわゆる追い込んだ状態にする。バネ入り金型を取付けた状態で型開閉モータを所定の大きさのトルクで駆動し、それによってクロスヘッドを緩やかに型閉方向に駆動し、バネ付勢に抗して金型が型閉じ状態になるようにする。このときのクロスヘッド位置を読み取る。読み取ったクロスヘッド位置と、所望の型締力を得ることができるクロスヘッド位置である金型タッチ位置との差分を計算する。トグル式型締装置を駆動して型開きする。型開きした状態で、計算した差分と等しい長さだけタイバー有効長を長くするように型厚調整機構を駆動する。型締力調整を完了する。なお、タイバーの有効長を所望の長さだけ長くするには、タイバーの雄ネジのピッチを元に回転すべきタイバーナットの回転角度を計算すればいいので、計算で得られた回転角度だけタイバーナットを回転させればよい。
【0008】
特許文献2に記載の型締力調整方法は、前記した従来の一般的な型締力調整方法に類似している。まず、バネ入り金型が取付けられているトグル式型締装置において型開き状態にして、タイバーの有効長を追い込んだ状態に調整する。所定の力で型閉じし、バネ付勢に抗して金型が型閉状態になるようにする。トグル式型締装置は追い込んだ状態に調整されているのでトグル機構は若干屈曲している。金型が型閉じした状態を維持するようにして、型厚調整機構によりタイバーの有効長が長くなる方向に調整し、クロスヘッド位置が目標とする金型タッチ位置に達したら型厚調整機構を停止し、型締力調整を終了する。ところでトグル機構においては、可動盤を駆動する力である型閉力は、型開閉モータの駆動力が拡大して発生するが、その拡大率はトグル機構の屈伸の状態によって変化する。つまりクロスヘッド位置によって拡大率は変化する。そこで特許文献2に記載の型締力調整方法においては、金型が型閉じした状態を維持できるように、変化する拡大率に応じて型開閉モータのトルクを変化させるようにしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1、2に記載のいずれの型締力調整方法によっても、バネ入り金型が取付けられたトグル式型締装置において型締力調整を実施することはできる。しかしながら解決すべき問題も見受けられる。まず特許文献1に記載の型締力調整方法においては、精度良く調整ができているかどうか確認できていない点が問題であると言える。つまり、この型締力調整方法においては、計算で得られた回転角度だけタイバーナットを回転するとき型開きした状態で回転して、これで型締力調整を完了しているので、その後、実際に型閉じをしたらクロスヘッドが所望の金型タッチ位置で金型が型閉じするかどうか不明である。タイバーの雄ネジとタイバーナットの間、タイバーナットを収納しているスペースとタイバーナットとの間、そしてトグル機構の複数本のトグルリンク間、等にはわずかに遊びがあり、これらの遊びによってズレが生じている可能性があるからである。そこで仮に、特許文献1に記載の型締力調整方法において、実際に型閉じを実施して金型を型閉じさせ、そのときの金型タッチ位置を確認して調整を完了することも考えられる。しかしながらこのようにしても問題が残る。バネ付勢に抗して金型を型閉じさせるにはある程度の押力で型閉じしなければならないが、型開閉モータをどの程度のトルクで駆動すればいいのかが分からないという問題である。トグル機構はその屈伸の状態によって拡大率が変化する。金型タッチ位置は得たい型締力によって異なるが、型開閉モータのトルクを常に一定にして金型をタッチさせるようにすると、拡大率の違いによって所定の金型タッチ位置においては押力が足りずに金型がタッチしない場合もあるし、その反対に所定の金型タッチ位置では過剰な押力が作用することもある。前者のケースは、金型の型閉じを検出することができないので型締力調整が完了できない。一方後者の場合、特に低い型締力を設定したときに生じやすいが、過剰な押力が作用するとそのまま型締めしてしまうこともあり問題である。
【0010】
特許文献2に記載の型締力調整方法においては、型厚調整機構の負荷が大きいという問題がある。バネ付勢に抗して金型が型閉じした状態に維持しておいて型厚調整機構を駆動している。そうすると、バネ力に抗して金型を押し付けるための押力、つまり軸力がタイバーに作用している状態で型厚調整機構を駆動していることになる。タイバーに作用する軸力は、タイバーの雄ネジとタイバーナットの間、タイバーナットとこれを収納するスペースの間、等に作用するが、このような軸力が作用しているときにタイバーナットを回転させようとすると摩擦に抗して回転させなければならないので多大なトルクが必要になる。つまり型厚調整機構に大きな負荷がかかる。従って型厚調整機構を駆動するために、型厚調整モータを大容量にする必要がありコストが大きくなるという問題がある。
【0011】
本発明は、上記したような問題点を解決した、型締力調整方法を提供することを目的としており、具体的にはバネ入り金型が取付けられたトグル式型締装置において、型厚調整機構に負荷がかからず、従って型厚調整機構を小コストで提供することができ、金型タッチ位置において確実かつ安全に型閉じを検出でき、従って精度良く型締力を調整することができる型締力調整方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記目的を達成するために、クロスヘッドを駆動するとトグル機構により型開閉が、そしてタイバーに設けられているタイバーナットを駆動すると型厚の調整ができるようになっているトグル式型締装置において、バネ入り金型を取付けた状態で型締力を調整する型締力調整方法として構成する。本発明の型締力調整方法においては、クロスヘッド位置のそれぞれにおいて、クロスヘッドの駆動力と可動盤の型閉力の比である拡大率の関係を予め得る。そして所望の型締力を得るための金型タッチ位置において金型が型閉じするか否かを確認するとき、クロスヘッドの駆動力は、拡大率を考慮して、その金型タッチ位置に応じた大きさに調整するように構成する。
【0013】
かくして、請求項1に記載の発明は、上記目的を達成するために、固定盤と、可動盤と、型締ハウジングと、前記可動盤を挟んで前記固定盤と前記ハウジングとを連結しているタイバーと、前記可動盤と前記型締ハウジングとの間に設けられているトグル機構とからなり、前記固定盤と前記可動盤とに金型が取付けられた状態で前記トグル機構のクロスヘッドを駆動すると型開閉が、そして前記タイバーに設けられているタイバーナットを駆動すると型厚の調整ができるようになっているトグル式型締装置において、型閉じさせるのに所定の押力を要する金型を取付けた状態で型締力を調整する型締力調整方法であって、前記クロスヘッドを駆動する駆動力と前記可動盤の型閉力との比である拡大率の関係を色々なクロスヘッド位置についてクロスヘッド位置−拡大率関係データとして予め記憶しておき、前記トグル式型締装置において基準となる型締力を基準型締力とし、該基準型締力に対応する金型タッチ位置を基準金型タッチ位置とし、該基準金型タッチ位置における拡大率を基準拡大率とし、前記基準金型タッチ位置において前記金型を型閉じさせるのに必要な前記クロスヘッドの駆動力を基準クロスヘッド駆動力とするとき、任意の金型タッチ位置である調整金型タッチ位置が与えられ、該調整金型タッチ位置において金型が型閉じするか否かを確認するとき、前記クロスヘッド位置−拡大率関係データから前記調整金型タッチ位置に対応する拡大率を得て調整拡大率とし、このとき前記クロスヘッドを駆動する駆動力である調整クロスヘッド駆動力は、
調整クロスヘッド駆動力=基準拡大率/調整拡大率×基準クロスヘッド駆動力
により与えることを特徴とするトグル式型締装置の型締力調整方法として構成される。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の型締力調整方法において、型締力と金型が型閉じするクロスヘッド位置である金型タッチ位置の関係を色々な型締力について型締力−金型タッチ位置関係データとして予め記憶しておき、前記調整金型タッチ位置は、所定の目標型締力が与えられたとき、前記型締力−金型タッチ位置関係データから前記目標型締力に対応して得られる金型タッチ位置とすることを特徴とするトグル式型締装置の型締力調整方法として構成される。
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の型締力調整方法において、前記調整金型タッチ位置において前記調整クロスヘッド駆動力で前記クロスヘッドを駆動するとき、前記クロスヘッド位置が所定時間変化しないとき金型が型閉じしていると判断することを特徴とするトグル式型締装置の型締力調整方法として構成される。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明は、一般的なトグル式型締装置を対象とする型締力調整方法として構成されている。すなわちトグル式型締装置は、固定盤と、可動盤と、型締ハウジングと、可動盤を挟んで固定盤と前記ハウジングとを連結しているタイバーと、可動盤と型締ハウジングとの間に設けられているトグル機構とからなり、固定盤と可動盤とに金型が取付けられた状態でトグル機構のクロスヘッドを駆動すると型開閉が、そしてタイバーに設けられているタイバーナットを駆動すると型厚の調整ができるようになっている。本発明は、このような一般的なトグル式型締装置に、いわゆるバネ入り金型が取付けられた状態で型締力を調整する型締力調整方法になる。本発明によると、クロスヘッドを駆動する駆動力と可動盤の型閉力との比である拡大率の関係を色々なクロスヘッド位置についてクロスヘッド位置−拡大率関係データとして予め記憶しておく。そしてトグル式型締装置において基準となる型締力を基準型締力とし、該基準型締力に対応する金型タッチ位置を基準金型タッチ位置とし、該基準金型タッチ位置における拡大率を基準拡大率とし、基準金型タッチ位置において金型を型閉じさせるのに必要なクロスヘッドの駆動力を基準クロスヘッド駆動力とするとき、任意の金型タッチ位置である調整金型タッチ位置が与えられ、該調整金型タッチ位置において金型が型閉じするか否かを確認するとき、クロスヘッド位置−拡大率関係データから調整金型タッチ位置に対応する拡大率を得て調整拡大率とし、このときクロスヘッドを駆動する駆動力である調整クロスヘッド駆動力は、
調整クロスヘッド駆動力=基準拡大率/調整拡大率×基準クロスヘッド駆動力
により与えるようになっている。そうすると、調整金型タッチ位置がどの位置であっても、可動盤を閉じる型閉力が一定になる。つまりバネ入り金型を常に同じ型閉力で型閉じすることができ、金型に過剰な型閉力が作用することもなく、確実に金型がタッチするか否かを確認することができる。すなわち精度良く型締力の調整が行える。そして本発明においては、金型をタッチさせるときタイバーナットを駆動することはないので、タイバーナットを駆動するための型厚調整装置には負荷がかからない。他の発明によると、調整金型タッチ位置において調整クロスヘッド駆動力でクロスヘッドを駆動するとき、クロスヘッド位置が所定時間変化しないとき金型が型閉じしていると判断するように構成されている。金型に過剰な型閉力を発生させることなく、容易に金型のタッチを判断できるので、正確に型締力を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態に係る射出成形機を模式的に示す図であり、左の図は射出成形機を型締ハウジングの方から見た側面図であり、右の図は射出成形機の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施の形態に係る型締力調整方法は、一般的なトグル式型締装置を備えた射出成形機を対象としているが、いわゆるバネ入り金型が取付けられたときの型締力調整方法である。本実施の形態に係る型締力調整方法が実施される射出成形機1は、図1に示されているように、射出装置2と、一般的なトグル式型締装置3とから構成されている。トグル式型締装置3は、従来周知のように、固定盤5と、この固定盤5に対して型開閉される可動盤6と、型締ハウジング7と、固定盤5と型締ハウジング7とを連結している複数本のタイバー9、9、…と、可動盤6と型締ハウジング7との間に設けられているトグル機構11とから構成されている。トグル機構11には、このトグル機構11を駆動するクロスヘッド12が設けられており、クロスヘッド12にはボールナット13が固定されている。そしてこのボールナット13にボールネジ14が螺合している。型締ハウジング7にはサーボモータからなる型開閉モータ16が設けられ、型開閉モータ16によってボールネジ14を回転することができるようになっている。型開閉モータ16を駆動してボールネジ14を回転すると、クロスヘッド12を軸方向に駆動することができる。クロスヘッド12が駆動されると、トグル機構11が屈伸して可動盤6が駆動されて型開閉される。
【0017】
タイバー9、9、…は、型締ハウジング7に対して次のように結合されている。すなわちタイバー9、9、…は型締ハウジング7を挿通しており、図1には示されていないが、挿通している部分には雄ネジが形成されている。この雄ネジにタイバーナット18、18、…が螺合しており、タイバーナット18、18、…は型締ハウジング7内の所定のスペースに軸方向に移動が規制された状態で回転可能に設けられ、その端部だけが図1に示されているように、型締ハウジング7の裏面側に露出している。これらのタイバーナット18、18、…は、所定の型厚調整機構19によって回転されるようになっている。型厚調整機構19は、タイバーナット18、18、…のそれぞれの端部に固着されているタイバーギア21、21、…と、これらのタイバーギア21、21、…に噛み合っているセンターギア22と、センターギア22を回転する型厚調整モータ24とから構成されている。従って型厚調整モータ24を駆動するとセンターギア22、タイバーギア21、21、…を介してタイバーナット18、18、…を同期して回転させることができる。タイバーナット18、18、…が回転するとタイバー9、9、…の有効長、すなわち固定盤5と型締ハウジング7の連結長さが変化する。これによって固定盤5と可動盤6との間の型厚を調整できるようになっている。
【0018】
このような射出成形機1のトグル式型締装置3の固定盤5と可動盤6とに、固定側金型26と可動側金型27が取付けられている。固定側金型26には内部にバネ29が設けられ、金型26、27がそれぞれのパーティング面においてタッチしても、型閉力がバネ付勢より小さければ型閉じしない。型閉力がバネ29の付勢より大きいとき、金型26、27は型閉じすることになる。
【0019】
本実施の形態に係る射出成形機1は、コントローラ31によって制御されるようになっており、型開閉モータ16も型厚調整モータ24もコントローラ31によって制御される。コントローラ31には、本実施の形態に係るトグル式型締装置3に関する色々なデータが格納されている。まず、金型がタッチするクロスヘッド位置である金型タッチ位置と、そのときに得られる型締力との関係データである型締力−金型タッチ位置関係データが格納されている。また、色々なクロスヘッド位置と、クロスヘッド12を駆動する駆動力と可動盤6の型閉力の比である拡大率との関係データであるクロスヘッド位置−拡大率関係データも格納されている。これらの型締力−金型タッチ位置関係データとクロスヘッド位置−拡大率関係データは、本実施の形態においては、次の表のようにまとめられてコントローラ31の記憶領域に格納されている。
【0020】
【表1】
【0021】
本実施の形態に係るトグル式型締装置3は所定の機種のトグル式型締装置からなり、基準となる型締力、すなわち基準型締力は5500kN(K07)になっている。そしてこの基準型締力を得るための金型タッチ位置、つまり基準金型タッチ位置は89mm(C07)になっており、この基準金型タッチ位置、つまりクロスヘッド位置では拡大率は7.9(R07)になっている。この機種においては、上の表から、例えば目標とする型締力つまり目標型締力を4000kN(K05)としたい場合には、調整すべき金型タッチ位置つまり調整金型タッチ位置は75mm(C05)にすべきことが分かる。そしてこのクロスヘッド位置における拡大率、つまり調整金型タッチ位置に対応する調整拡大率は11(R05)であることが読み取れる。
【0022】
以下、本実施の形態に係る型締力調整方法を説明する。本実施の形態に係る型締力調整方法は、いわゆるサーチ型締力調整方法を変形した方法になっている。従来のサーチ型締調整方法を簡単に説明すると、目標となる目標型締力が与えられた場合、この目標型締力を得るための調整金型タッチ位置を決定する。そして、型開き状態で型厚調整機構19を駆動してタイバー9、9、…の有効長を調整後、型開閉モータ16を駆動して型閉じして金型が調整金型タッチ位置においてタッチするか否かを確認する。タッチしなければ型開きして再び型厚調整機構19を駆動してタイバー9、9、…の有効長を調整後、型開閉モータ16を駆動して型閉じして金型が調整金型タッチ位置においてタッチするか否かを確認する。このような処理を繰り返して、調整金型タッチ位置において金型がタッチしたら型締力調整を完了する。概略的には、本実施の形態に係る型締力調整方法では、このサーチ型締力調整方法において、金型26、27が調整金型タッチ位置において型閉じするか否かを確認するようにする。なお、本実施の形態に係るトグル式型締装置3の機種においては、基準金型タッチ位置(C07)においてバネ付勢に抗して金型26、27を型閉じさせるには、型開閉モータ16を所定の基準型閉用トルク、例えば最大トルクの20%のトルクで駆動すればよいことが判明している。この基準型閉用トルクで型閉じするときには実質的に型締力は発生しない。なお、このときのクロスヘッド12の駆動力を基準クロスヘッド駆動力とする。
【0023】
本実施の形態に係る型締力調整方法は、従来のサーチ型締調整方法と同様に、まず目標型締力が与えられたら上で説明した型締力−金型タッチ位置関係データから、つまり表1から、目標型締力に対応する調整金型タッチ位置を得る。例えば、目標型締力が2000kN(K03)として与えられたら、調整金型タッチ位置は45mm(C03)となる。調整金型タッチ位置を得たら、上で説明したクロスヘッド位置−拡大率関係データから、つまり表1から、その調整金型タッチ位置に対応する調整拡大率を得る。この例では調整拡大率は41(R03)となる。なお、もし表1にない目標型締力が与えられた場合には、線形補間により前後の金型タッチ位置のデータから調整金型タッチ位置を計算により得ることができ、同様に線形補間により前後の拡大率から計算により調整拡大率を得ることができる。
【0024】
型開き状態にして、型厚調整機構19によりタイバー9、9、…の有効長を調整する。型開閉モータ16によりクロスヘッド12を駆動して調整金型タッチ位置で金型26、27が型閉じするか否かを確認する。このときのクロスヘッド12の駆動力、つまり調整クロスヘッド駆動力は以下の式で与える。
調整クロスヘッド駆動力=基準拡大率/調整拡大率×基準クロスヘッド駆動力 (1式)
前記したように本実施の形態においては基準クロスヘッド駆動力は、基準金型タッチ位置(C09)において型開閉モータ16を基準型閉用トルク、つまりこの実施の形態では最大トルクの20%のトルクで駆動するときの駆動力になっている。そして、型開閉モータ16のトルクとクロスヘッド12の駆動力とは実質的に線形の関係になる。これらのことから、1式の調整クロスヘッド駆動力を与えるために必要となる型開閉モータ16のトルクは、最大トルクに対する出力割合で考えると、次の2式で与えることができる。
出力割合=基準拡大率/調整拡大率×基準型閉用トルク/最大トルク (2式)
【0025】
このような出力割合のトルクで型開閉モータ16を駆動して型閉じするとき、クロスヘッド12は前進し、やがて停止する。例えば1秒間、あるいは数秒間クロスヘッド位置が変化しなかったら型閉じしたものと判定する。このときのクロスヘッド位置が調整金型タッチ位置であれば型締力調整を完了する。もし、クロスヘッド位置が調整金型タッチ位置に一致していなければ、型開きして型厚調整機構19を駆動してタイバー9、9、…の有効長を調整し、上で説明したのと同様にして型開閉モータ16を駆動して調整金型タッチ位置で型閉じされるか否かを確認する。調整金型タッチ位置において金型26、27が型閉じするまで型締力調整を繰り返す。
【0026】
本実施の形態に係る型締力調整方法は色々な変形が可能である。例えば、本実施の方法においては、いわゆるサーチ型締調整方法を変形した方法になっているが、他の方法で調整してもよい。どのような調整方法を採る場合であっても、調整金型タッチ位置において金型26、27が型閉じされるか否かを判定するときの調整クロスヘッド駆動力を1式で与えるようにすればよい。そうすれば金型26、27を閉じる型閉力は常に一定になり、精度良く型閉じの有無が検出できる。他の変形も可能である。例えば、型締力−金型タッチ位置関係データとクロスヘッド位置−拡大率関係データは、表としてコントローラ31の記憶領域に保存されているように説明したが、所定の関数として保存されていてもよい。どのような形式で保存されていても、目標型締力から調整金型タッチ位置を決定することができ、そのときの調整拡大率を得ることができればよい。さらには本実施の形態においてはクロスヘッド12は型開閉モータ16によって駆動されるように説明したが、油圧シリンダによって駆動されるようにしてもよい。この場合にはクロスヘッド12の駆動力は油圧シリンダの押力と等しくなるので、調整金型タッチ位置において金型26、27が型閉じするか否かを確認するときの油圧シリンダの押力は、1式で与えられる調整クロスヘッド駆動力で与えればよい。
【符号の説明】
【0027】
1 射出成形機 2 射出装置
3 トグル式型締装置 5 固定盤
6 可動盤 7 型締ハウジング
9 タイバー 11 トグル機構
12 クロスヘッド 14 ボールネジ
16 型開閉モータ 18 タイバーナット
19 型厚調整機構 24 型厚調整モータ
26 固定側金型 27 可動側金型
29 バネ 31 コントローラ
図1