特許第6422654号(P6422654)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6422654
(24)【登録日】2018年10月26日
(45)【発行日】2018年11月14日
(54)【発明の名称】木造建築物における床下改修システム
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/76 20060101AFI20181105BHJP
   E04B 1/72 20060101ALI20181105BHJP
【FI】
   E04B1/76 100C
   E04B1/72
   E04B1/76 200C
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-15245(P2014-15245)
(22)【出願日】2014年1月30日
(65)【公開番号】特開2015-140611(P2015-140611A)
(43)【公開日】2015年8月3日
【審査請求日】2016年11月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】511164525
【氏名又は名称】長谷川順持建築デザインオフィス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 順持
【審査官】 佐藤 美紗子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−194175(JP,A)
【文献】 特開2007−107334(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/62−1/99
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
土台上に並べられた既設の床板を剥がす床板剥がし工程と、
前記床板剥がし工程で露出した床下空間内の既存の布基礎のガラリを撤去または遮蔽するガラリ撤去工程と、
前記床下空間内において、前記布基礎の内方にホウ酸を含有させた砂を敷き詰め、前記砂で囲まれた範囲内に捨てコンクリートを打設する打設工程と、
前記布基礎の内面に発泡樹脂パネルを配設する断熱パネル設置工程と、
前記砂が敷き詰められ、前記捨てコンクリートが打設され、かつ前記布基礎の内側が断熱された前記床下空間内に蓄熱体を設置する蓄熱体設置工程と、
前記床下空間に外気を供給するための新たな空気通路を形成する空気通路設置工程と、
備え、
前記布基礎の内面に配設された前記発泡樹脂パネルが地面に接触していないことを特徴とする在来軸組構法における木造建築物における床下改修システム
【請求項2】
前記蓄熱体がコンクリートであることを特徴とする請求項1に記載の木造建築物における床下改修システム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木造建築物における床下改修システムに関し、詳しくは、既設の木造建築物における構造材あるいは補助構造材が隠蔽される床下、壁内、天井という躯体の隙間に、乾燥した空気を送り込むことにより木材そのものが所持している丈夫さを積極的に蘇生させることを可能とする木造建築物における床下改修システムに関する。
【背景技術】
【0002】
図2は、従来の木造建築物の床周りの一般的な構造を示したものである。
この木造建築物2では、コンクリートからなる布基礎4の上部に土台6を配置し、この土台6に柱8、隅柱10などが立設されている。また、土台6,6で囲まれる床下形成域には、多数の根太12が配設され、これらの根太12の上に多数の床板14が支持されている。また、柱8と隅柱10などを結ぶ垂直な壁面には、これら柱8,隅柱10の室内側に図示しない内装材が、柱8、隅柱10の外側に図示しない外装材が、それぞれ配設される。さらに、室内に断熱性を付与させるために、柱8,10と、図示しない内装材と外装材との間に、すなわち、壁体空間内にグラスウールなどの繊維状の断熱材を充填したり、あるいは柱の外側に板状の断熱材を立設したりしている。また、布基礎4にはガラリ16が設置されており、このガラリ16により床下空間Sの通風性が確保されている。
【0003】
ところで、このような木造建築物2では、新築時には乾燥して丈夫であった主要構造材であっても、経年変化によって腐朽してしまうという問題がある。このような問題の多くは、湿気が原因とされている。すなわち、土台6、柱8,10、図示しない筋交いなどを始めとして、根太12、床板14、胴縁などの木材は、充分に乾燥していれば所望の強度を確保することができるものの壁体内結露や漏水などが生じると、その湿気は容易には抜けるものではなく、次第に強度を落としてしまう。
【0004】
ここで、例えば、在来工法による既存住宅の場合、建築年数の経った柱・土台などの構造材は根腐れする程に、壁体内結露あるいは雨水などの浸水で「含水率」が増大している。測定すれば、含水率が20%を遥かに超える場合も生じている。
【0005】
また、近年では、木造建築物の改築時などに改築部分の高断熱化、高気密化を図ることが盛んに行われているが、その場合に、熱環境の設計が充分に行われないまま施工されてしまうと、風の流れのない壁体空間あるいは床下空間に湿気が逃げてしまう。すると、結果として木造建築物2が部分的に湿気を帯びてしまい、場合によってはシロアリの温床ともなって、腐朽化が促進されてしまうという問題があった。
【0006】
さらに、近年では、リフォーム工事や耐震補強工事を施工した住宅であっても、構造用合板や金物を用いてリフォームや耐震補強を行うものの、軸組材料の含水率を低下させないまま工事を行っているため、軸組み部材の含水率は工事前と何ら変わっていない場合が多いのが現状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような実情に鑑み、木造建築物の改築時、改修時などに、新築時には乾燥して丈夫であった土台や柱、筋交いなどの主要構造材、あるいは床板や根太あるいは胴縁などの補助構造材が経年変化によって腐朽してしまうことを可及的に防止することのできる木造建築物における床下改修システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係る木造建築物における床下改修システムでは、
土台上に並べられた既設の床板を剥がす床板剥がし工程と、
前記床板剥がし工程で露出した床下空間内の既存の布基礎のガラリを撤去または遮蔽するガラリ撤去工程と、
前記床下空間内において、前記布基礎の内方にホウ酸を含有させた砂を敷き詰め、前記砂で囲まれた範囲内に捨てコンクリートを打設する打設工程と、
前記布基礎の内面に発泡樹脂パネルを配設する断熱パネル設置工程と、
前記砂が敷き詰められ、前記捨てコンクリートが打設され、かつ前記布基礎の内側が断熱された前記床下空間内に蓄熱体を設置する蓄熱体設置工程と、
前記床下空間に外気を供給するための新たな空気通路を形成する空気通路設置工程と、
備え、
前記布基礎の内面に配設された前記発泡樹脂パネルが地面に接触していないことを特徴としている。
【0009】
このような構成であれば、床下の改修を行う場合に、床下から壁体内に、例えば暖かい空気の流れを発現させることができる。
また、本発明に係る木造建築物における床下改修システムでは、
前記蓄熱体がコンクリートであることが好ましい。
【0010】
このような構成の床下改修システムによれば、床下空間内に安価に蓄熱体を構築することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る木造建築物における床下改修システムによれば、床下空間に設置した蓄熱体により、例えば、床下空間から壁体空間内に、乾燥した暖かい空気あるいは冷たい空気を継続的に供給することができるので、壁体内結露などを防止することができる。また、居室空間内を積極的に対流させることにより、快適な居住空間を実現できる。
【0012】
本発明に係る床下改修システムは、リフォーム工事時、あるいは耐震工事時などに好ましく行うことができ、これにより、軸組み部材の本質的な強度を蘇生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は本発明の一実施例に係る床下改修システムを実施した木造建築物の概略断面図である。
図2図2は従来の木造建築物における床下部の構造を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施例に係る木造建築物における床下改修システムについて説明する。なお、この床下改修システムは、例えば、図2に示したような既設の木造建築物を部分的に改修する場合に、あるいは増築する場合、あるいは耐震工事を行う場合などに行うことができる。
【0015】
図1は、在来の軸組工法による木造建築物に、本発明に係る床下改修システムを適用した例を示したもので、図2と同一要素は同一の符号を付して説明する。
本発明が適用される木造建築物20では、1階1Fと2階2F、さらには屋根裏にも断熱材22が敷設されることにより、建物全体が包括的に断熱されている。なお、このような断熱材料および断熱工法として従来、種々提案されているが、この実施例では、グラスウールからなる繊維状の断熱材が壁体内、あるいは屋根裏などに敷設されたものとする。
【0016】
今、このような木造建築物20において、1階の床板などの改修が必要であるとする。その場合に、先ず、図2に示した既設の床板14が剥がされる。床板14を剥がすことにより、既設のガラリ16が露出する。次いで、このガラリ16を撤去もしくは遮蔽する。なお、このガラリ16の撤去もしくは遮蔽は、床板14を剥がした後、直ちに行わなくても良い。実施の時期は何ら限定されない。
【0017】
一方、ガラリ16の撤去または遮蔽に前後して、床下空間S内に白蟻の侵入を防ぐ目的で、布基礎4の内方にホウ酸を含有させた砂26を敷き詰めることが好ましい。このようにホウ酸を含有した砂26は捨てコンクリート28を新たに打設することにより、所定の範囲内に閉じ込めることができる。また、捨てコンクリート28を打設する工程に前後して、布基礎4の内側に発泡樹脂パネル24を配置することが好ましい。この発泡樹脂パネル24は、布基礎4に接着剤などを介して一時的に仮接着しても良く、あるいは土台6などに支持させて取り付けても良い。
【0018】
このように、布基礎4の立ち上がり部内面側に発泡樹脂パネル24を配設した後、本実施例では、床下空間S内にコンクリート製の蓄熱体30を設置する。蓄熱体30は床下空間Sの広い範囲に設置することが好ましい。例えば、新たにコンクリートを打設することにより蓄熱体30を構成すれば、蓄熱体30を安価に形成することができる。また、既設のコンクリートブロックを蓄熱体30の型枠として用いることもでき、コンクリートブロックの中にコンクリートを打設して蓄熱体30を構築することもできる。あるいは、コンクリートに代え樹脂材料からなる蓄熱体を設置しても良く、蓄熱体30の素材は、何ら限定されるものではない。
【0019】
打設コンクリートからなる蓄熱体30を設置する工程は、捨てコンクリート28を打設する工程と同じであっても良く、あるいは別工程であっても良い。
このような蓄熱体30は、深夜電力とヒートポンプなどにより、深夜のうちに熱を蓄えて使用することが好ましい。また、電力の代わりに家庭用ガスコージェネレーションシステムに温水ボイラなどを用いて温めても良い。
【0020】
一方、蓄熱体30に、夏場にはヒートポンプで作った冷水により冷熱を蓄えておき、小屋裏にファンを設け、このファンによって冷たい空気を引き上げて室内に開放すれば、室内を冷やしながら木材を乾燥することもできる。
【0021】
また、本実施例では、壁体空間内に、外部の新鮮な空気を導入するための新たな空気通路32が設けられている。この空気通路32は、建築物20の周囲全面に設けることが好ましいが、改築の度合いに応じてあるいは立地条件に応じて施工場所を選択することもできる。
【0022】
図示した空気通路32は、例えば、1階の押し入れ34などから床下空間S内に連通している。この空気通路32は、選択的に遮断できるように、シャッター機能を有する換気口などで構成することが好ましい。
【0023】
さらに、本実施例の木造建築物20の改築に際しては、ホルムアルデヒドなどの化学物質を除去するために、24時間換気の開口部を設けることが好ましい。すなわち、築年度の古い住宅では、このような24時間換気が行われていないため、1階の居室あるいは2階の居室のそれぞれに、外部に連通する開口部36、38を設けることが好ましい。
【0024】
また、これら1階と2階の居室には、給気用としてそれぞれ壁体に開口部40,42を設け、これらの開口部40,42を介して壁体内の湿った空気を居室内に放出させることが好ましい。
【0025】
本実施例の木造建築物における床下改修システムは、概略上記のような工程を経て施工される。
すなわち、既設の床板14を剥がす床板剥がし工程と、床板剥がし工程で露出した床下空間内のガラリ16を撤去または遮蔽するガラリ撤去工程と、布基礎4の内面に発泡樹脂パネル24を配設する断熱パネル設置工程と、布基礎14の内側が断熱された床下空間S内に蓄熱体30を設置する蓄熱体設置工程と、床下空間Sに外気を供給するための新たな空気通路32を形成する空気通路設置工程とを備えている。
【0026】
このような工程を経て、適宜な養生期間を確保した後、新たな床板14が敷き並べられて、改修工事が完了する。
このような工程を経ることにより、既存住宅の床下に乾燥した空気を積極的に送り込むシステムが構築される。これにより、既存住宅において、長年含水率の増大により損なわれていた軸組み部材の本質的な構造強度を蘇生させることができる。
【0027】
以下、寒冷地などにおいて蓄熱体30を設置した場合の作用効果について説明する。
このような蓄熱体30を含む改修工事が行われた既設の木造建築物20では、深夜電力などにより蓄熱体30を低コストで加温することができる。そして、日中、蓄熱体30から加温された熱が床下空間S内に図1において、矢印で示したように発散されるとともに、シャッター機能を開とした空気通路32を介して新鮮な空気が床下空間Sに導入される。これにより、蓄熱体30から発散された、乾燥して暖かい空気が床下空間S内を拡散しながら土台6、柱8などの根元付近、さらには大引き15、根太14、新たに敷設した床板などに接触し、これらを乾燥させる。このように、暖かい空気の発散および新鮮な空気の導入は継続的に行われるので、寒冷地であっても木材内部などに含浸した水分を効果的に乾燥させることができる。
【0028】
また、床下空間Sからの空気は、図1図2に矢印Bで示したように、根太12の隙間から壁体空間内に導入されるので、床下空間Sのみならず壁体空間内にも空気の流れを形成することができる。これにより、壁体内に存在する様々な木材、例えば、筋交い、胴縁、1階と2階との間の胴差などが吸収してしまった水分を効果的に乾燥させることができる。勿論、通気の流れにより結露の防止を図ることもできる。
【0029】
なお、2階の床面、あるいは2階天井から小屋裏への接続部分における壁体空間に既設の空気通路が充分に確保されていない場合には、ここに空気通路を新たに設けることが好ましい。
【0030】
このように床下空間あるいは壁体内に上方に延びる空気通路を確保し、ここに暖かい乾燥した空気を供給することにより、既設の木造建築物2の木造構造材あるいは補助構造材に含まれてしまった水分を、開口部36,38あるいは小屋裏に設けた図示しない開口部から外部に放出することができるので、木造物が本来備えている強度を積極的に塑性させることができる。
【0031】
以上、本発明の一実施例に係る木造建築物における床下改修システムについて説明したが、本発明は上記実施例に何ら限定されない。
例えば、上記実施例では、床板を改修する場合を例にして、改修システムを施工する場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、外壁改修工事あるいはシロアリ対策などを行うとき、さらには耐震工事、増築工事時などを行うときに同時に行っても良い。要は、既設の木造住宅を改修する必要が生じた場合にいつでも行うことができる。
【0032】
また、上記実施例では、2階建ての布基礎4を有する建築物について説明したが、平屋さらにはベタ基礎、あるいは寒冷地仕様のフーチングのない基礎などの建築物にも適用可能である。
【0033】
さらには太陽熱を利用して蓄熱体を温める場合や、蓄熱体30に温熱と冷熱を選択的に蓄えて空調を整える空調システムにも適用可能である。
本発明によれば、高温で短時間の急激な乾燥ではなく、床下空間に新鮮な空気を取り入れて構造材などを乾燥させることができる。すなわち、居住者が生活しながら、さらには生活の温度環境を整えながら、いわゆる低温除湿乾燥で構造材などを緩やかに乾燥させることができる。したがって、仕上がり材の損傷も少なく、施工後、長期間に渡って構造材の強度を維持させることができる。
【符号の説明】
【0034】
2 木造建築物
4 布基礎
6 土台
8 柱
10 隅柱
12 根太
14 床板
15 大引き
16 ガラリ
22 断熱材
24 断熱パネル
26 砂
32 空気通路
34 押し入れ
36,38 開口部
40,42 開口部
図1
図2