(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
幅方向に長くスラリーを溜める空間からなる第1のマニホールドと、当該幅方向に広いスリットを経由して当該第1のマニホールドと繋がり、スラリーを基材に対して吐出する吐出口とが形成されたダイと、
前記第1のマニホールドに連通している流入部から前記第1のマニホールドにスラリーを供給する供給手段と、
基材に吐出されたスラリーの膜厚を測定するセンサと、
を備え、
前記スリットの前記第1のマニホールドと前記吐出口との間には、スラリーを流出させ、もしくは流入させることにより前記吐出口からのスラリーの吐出量を調整する調整部が、前記幅方向にわたって複数設けられ、
前記調整部には、流出もしくは流入させるスラリーの量の制御を行う制御装置が設けられ、前記センサによる計測結果をフィードバック可能であることを特徴とする、電池用極板の製造装置。
前記スリットの前記調整部と前記吐出口との間には、前記幅方向に長い第2のマニホールドが設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の電池用極板の製造装置。
前記スリットの前記第1のマニホールドと前記吐出口との間には、前記幅方向に長い第2のマニホールドが設けられ、前記調整部は、当該第2のマニホールドに設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の電池用極板の製造装置。
各前記調整部には、スラリーの流量が制御可能な流路である調整流路が複数並列に設けられ、それぞれの前記調整部において、複数の前記調整流路のスラリーの流量の制御範囲は互いに異なることを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の電池用極板の製造装置。
各前記調整部には、スラリーの流量が制御可能な流路である調整流路が接続されており、前記調整流路は1つの統合流路にまとめられ、前記統合流路には、さらにスラリーの流量を制御する統合流量調整ユニットが設けられていることを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の電池用極板の製造装置。
ダイに形成された幅方向に長い第1のマニホールドに溜められているスラリーを、当該幅方向に広いスリットを経由して当該第1のマニホールドと繋がる吐出口から吐出して、基材へ塗布して行う電池用極板の製造方法であって、
前記スリットの前記第1のマニホールドと前記吐出口との間に前記幅方向にわたって複数設けられた調整部において、スラリーを流出させ、もしくはスラリーを流入させるステップを含み、前記調整部におけるスラリーの流出量もしくは流入量は、基材に吐出されたスラリーの膜厚の測定結果がフィードバックされていることを特徴とする、電池用極板の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記のとおり、スラリーには活物質等が含まれており、活物質等は混合され分散されているが、スラリーの処方の仕方や組成等により特性が異なり、長時間にわたって分散された状態が続くスラリーもあれば、短時間で固形成分が沈殿したり凝集したりする不安定なスラリーもある。
【0005】
このようなスラリーを基材に塗布するためのダイには、前記特許文献1に開示されているように、幅方向に長いマニホールド(液溜め部)と、このマニホールドに繋がるスリットとが形成されており、スラリーは、マニホールドに供給され、マニホールドからスリットを通じて基材に対して吐出される。スリットは、基材の幅方向に沿って均一な量でスラリーが吐出されるように均一な隙間寸法で形成されているが、前記のような不安定なスラリーの場合、吐出作業を連続して行っていると、やがて、マニホールドの一部でスラリーの固形成分の沈殿や凝集が発生し、固形成分が滞留することがある。
【0006】
スラリーは、ダイの中央部に形成されている流入口からマニホールドへ供給され、マニホールドの全体に広がるが、上記の通りマニホールドの一部で固形成分が滞留すると、ダイの幅方向にわたってスリットから吐出されるスラリーの量にばらつきが生じ、基材上に形成される塗膜層の厚みにばらつきが生じるようになる。
【0007】
ここで、前記の通り、基材上に形成される活物質を含む層の厚さは、電池の充放電量に直接影響を与えることから、塗膜層の厚みにばらつきがある状態で電気用極板が製造されると、その極板を用いた電池の品質を低下させてしまう。そこで、従来はこのようにスラリーの吐出量にばらつきが生じた場合にはその都度ダイを分解して清掃を行ったりスリットの幅を調整したりして再び吐出量が所定の量になるようにしていたが、作業に時間を要したり作業者の熟練度によって調整の成否が変わってくるといった問題があった。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、スラリーの吐出作業を長時間継続して行っていても、基材上に形成される塗膜層の厚さを均一にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の電池用極板の製造装置は、幅方向に長くスラリーを溜める空間からなる第1のマニホールドと、当該幅方向に広いスリットを経由して当該第1のマニホールドと繋がり、スラリーを基材に対して吐出する吐出口とが形成されたダイと、前記第1のマニホールドに連通している流入部から前記第1のマニホールドにスラリーを供給する供給手段と、
基材に吐出されたスラリーの膜厚を測定するセンサと、を備え、前記スリットの前記第1のマニホールドと前記吐出口との間には、スラリーを流出させ、もしくは流入させることにより前記吐出口からのスラリーの吐出量を調整する調整部が、前記幅方向にわたって複数設けられ
、前記調整部には、流出もしくは流入させるスラリーの量の制御を行う制御装置が設けられ、前記センサによる計測結果をフィードバック可能であることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、スリットの第1のマニホールドと吐出口との間には、スラリーを流出させ、もしくは流入させる調整部が、前記幅方向にわたって複数設けられていることから、幅方向にわたって吐出口へ流れるスラリーの量を各調整部において調整することができ、吐出口からのスラリーの吐出量を幅方向にわたって所定の量に維持して塗膜層の厚みを均一にすることができる。具体的には、仮に第1のマニホールドにおいてスラリーの固形成分が沈殿や凝集し、スリットの一部において第1のマニホールドから流入するスラリーの量が少なくなっても、その一部において調整部からスラリーを補充することにより、吐出口からのスラリーの吐出量を幅方向にわたって所定の量に維持することができる。また、第1のマニホールドでなくスリットに調整部を設けていることにより、各調整部における調整を感度良く吐出口からの吐出量に反映させることが可能である。
また、センサによる計測結果をフィードバックし、調整部を通じてスリットから流出もしくはスリットに流入させるスラリーの量の制御を行うことにより、基材に吐出されるスラリーの膜厚を幅方向の全長にわたって一定に保つためのより厳密な制御が可能となる。
【0013】
また、前記スリットの前記調整部と前記吐出口との間には、前記幅方向に長い第2のマニホールドが設けられていても良い。
【0014】
この場合、第1のマニホールドで生じていたスラリーの流量のばらつきを調整部において軽減し、さらに第2のマニホールドで流量を平準化することにより、吐出口からのスラリーの吐出量を幅方向にわたって所定の量に維持することが可能である。
【0015】
また、前記スリットの前記第1のマニホールドと前記吐出口との間には、前記幅方向に長い第2のマニホールドが設けられ、前記調整部は、当該第2のマニホールドに設けられていても良い。
【0016】
この場合、スリットに直接調整部を設ければ調整の感度が良すぎて吐出口からのスラリーの吐出量の制御が困難であるときに、適度に調整感度を緩めてスラリーの吐出量の制御を容易にすることができる。
【0017】
また、前記第2のマニホールドは、前記第1のマニホールドよりも容積が小さいと良い。
【0018】
この場合、第1のマニホールドに調整部を設けるよりもスラリーの吐出量の制御を感度良く行うことが可能である。
【0019】
また、各前記調整部には、スラリーの流量を制御することが可能な流路である調整流路が複数並列に設けられ、それぞれの前記調整部において、複数の前記調整流路のスラリーの流量の制御範囲は互いに異なるようにしても良い。
【0020】
この場合、大流量の制御が必要な場合と精密な流量制御が必要な場合とで使用する調整流路を適宜切り換えることにより、短時間で塗膜層の厚さを幅方向にわたって均一にすることが可能である。
【0021】
また、各前記調整部には、スラリーの流量が制御可能な流路である調整流路が接続されており、前記調整流路は1つの統合流路にまとめられ、前記統合流路には、さらにスラリーの流量を制御する統合流量調整ユニットが設けられているようにしても良い。
【0022】
こうすることにより、それぞれの調整流路においてあらゆる流量の制御を精度良く行うことができる。
【0023】
また、本発明の電池用極板の製造方法は、ダイに形成された幅方向に長い第1のマニホールドに溜められているスラリーを、当該幅方向に広いスリットを経由して当該第1のマニホールドと繋がる吐出口から吐出して、基材へ塗布して行う電池用極板の製造方法であって、前記スリットの前記第1のマニホールドと前記吐出口との間に前記幅方向にわたって複数設けられた調整部において、スラリーを流出させ、もしくはスラリーを流入させるステップを含み、前記調
整部におけるスラリーの流出量もしくは流入量は、基材に吐出されたスラリーの膜厚の測定結果がフィードバックされていることを特徴とする。
【0024】
本発明によれば、調整部において、スラリーを流出させ、もしくはスラリーを流入させるステップを含むことから、幅方向にわたって吐出口へ流れるスラリーの量を各調整部において調整することができ、吐出口からのスラリーの吐出量を幅方向にわたって所定の量に制御して塗膜層の厚みを均一にすることができる。具体的には、仮に第1のマニホールドにおいてスラリーの固形成分が沈殿や凝集し、スリットの一部において第1のマニホールドから流入するスラリーの量が少なくなっても、その一部において調整部からスラリーを補充することにより、吐出口からのスラリーの吐出量を幅方向にわたって所定の量に維持することができる。また、第1のマニホールドでなくスリットに調整部を設けていることにより、各調整部における調整を感度良く吐出口からの吐出量に反映させることが可能である。また、調
整部におけるスラリーの流出量もしくは流入量は、基材に吐出されたスラリーの膜厚の測定結果がフィードバックされていることにより、基材に吐出されるスラリーの膜厚を幅方向の全長にわたって一定に保つためのより厳密な制御が可能となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、スラリーの吐出作業を長時間継続して行っていても、基材上に形成される塗膜層の厚さを均一にすることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0028】
図1は、電池用極板の製造装置の概略構成を示す説明図である。この製造装置1は、ロールツーロールで送られる金属箔からなる基材2に、活物質、バインダー、導電助剤及び溶媒を含むスラリー3を塗布するための装置である。この製造装置によれば、塗布したスラリー3を乾燥させることで基材2上に活物質を含む層が形成され、この基材2が所定形状に切断され電池用極板となる。基材2上に形成される活物質を含む層の厚さは、電池の充放電量に直接影響を与えることから、基材2に塗布するスラリー3によって形成される塗膜層の膜厚管理は非常に重要であり、この製造装置1によれば、以下の実施形態において説明するように、スラリー3は、基材2の送り方向に沿って均一な厚さ(均一な塗膜量)で塗布される。なお、基材2の幅方向は、基材2の送り方向に直交する方向であり、
図1におけるY軸方向がこれに相当する。
【0029】
製造装置1は、基材2の幅方向に沿って長く構成されたダイ10と、このダイ10にスラリー3を供給する供給手段20とを備えている。ダイ10において、その長手方向(
図1におけるY軸方向)を幅方向という。この製造装置1では、ダイ10に対向するローラ5が設置されており、ダイ10の幅方向とローラ5の回転中心線の方向とは平行である。基材2は、このローラ5に案内され、基材2とダイ10(後述のスリット12の先端)との間隔(隙間)が一定に保たれ、この状態でスラリー3の塗布が行われる。
【0030】
本実施形態のダイ10は、先細り形状である第一リップ13aを有する第一分割体13と、先細り形状である第二リップ14aを有する第二分割体14とを、これらの間にシム板15を挟んで、組み合わせた構成からなる。
図2は、
図1のa矢視の断面図である。
図8(A)は、
図1のb矢視の断面図であり、シム板15を、
図8(B)に示している。ダイ10は、その内部に、幅方向に長い空間からなる第1のマニホールド11と、この第1のマニホールド11と繋がるスリット12とが形成され、また、第一リップ13aと第二リップ14aとの間には、スリット12の解放端である吐出口18が形成されている。すなわち、第1のマニホールド11と吐出口18とは、スリット12を経由して繋がっている。
【0031】
この構成により、供給手段20により供給されたスラリー3は、先ず第1のマニホールド11に溜められ、次に、スリット12を経由して吐出口18から吐出される。
【0032】
スリット12は、第1のマニホールド11と同様に幅方向に長く形成されており、スリット12の幅方向寸法は、後述するシム板15の内寸W(
図8(B)参照)によって決定され、スリット12の幅方向寸法と略同一の幅方向寸法のスラリー3を、基材2上に塗布することができる。スリット12の隙間寸法(高さ寸法)は、例えば0.4〜1.5mmである。本実施形態では、スリット12の隙間方向が上下方向であり、幅方向が水平方向となる姿勢でダイ10は設置されている。つまり、第1のマニホールド11とスリット12とが水平方向に並んで配置される姿勢でダイ10は設置されている。したがって、第1のマニホールド11に溜められているスラリー3をスリット12および吐出口18を通じて基材2へと流す方向は水平方向となる。
【0033】
なお、シム板15の厚さを変更することにより、第1のマニホールド11内部の圧力(塗工圧力)を調整することができ、この調整によって、様々な特性を有するスラリー3で均一な膜厚の塗工を行うことが可能となる。
【0034】
ダイ10の幅方向の中央部には、流入部16が設けられており、この流入部16は、ダイ10の外部から第1のマニホールド11へ繋がる貫通孔(流入口)からなる。供給手段20は、この流入部16に一端部が接続されている流入パイプ21と、スラリー3を貯留しているタンク22と、このタンク22内のスラリー3を、パイプ21を通じてダイ10へ供給するためのポンプ23とを有している。以上より、供給手段20は、第1のマニホールド11に流入部16からスラリー3を供給することができる。なお、本実施形態では、
図1に示すように、流入部16は、第1のマニホールド11の底部17と繋がっており、この底部17からスラリー3を流入させる構成としている。
【0035】
そして、第1のマニホールド11は、供給手段20から供給されたスラリー3を溜めることができ、第1のマニホールド11に溜められているスラリー3を、スリット12を通って吐出口18からロールツーロールで送られる基材2に対して吐出し、この基材2に対してスラリー3を連続的に塗布することができる。スリット12の隙間寸法はその幅方向に一定であり、基材2上に塗布されるスラリー3の厚さは幅方向に一定となる。
【0036】
また、ダイ10には圧力センサ(図示せず)が設けられており、この圧力センサは、第1のマニホールド11のスラリー3の内圧を計測する。そして、この計測結果に基づいて供給手段20によるスラリー3の供給が制御され、第1のマニホールド11のスラリー3の内圧を一定に保つ。第1のマニホールド11で内圧が一定とされるスラリー3は、スリット12から幅方向全長にわたって均等の量で吐出され、また、前記圧力センサの計測結果に基づいて、スリット12から吐出されるスラリー3の量が変動しないように制御され、基材2上に塗布されるスラリー3の送り方向の厚さを一定とする。また、図示しないが、パイプ21の途中にはスラリー3用のフィルタが設けられている。
【0037】
そして、スリット12には、第1のマニホールド11のスラリー3を吐出口18以外からダイ10の外部へ流出させたり、第1のマニホールド11の流入部16からスラリー3を流入させる調整部31,32,33,34が設けられている。本実施形態では、スリット12の幅方向の両端部12a,12bに、第1と第2の調整部31,32が設けられ、この両端部12a,12bの間の途中部12c,12dに、第3と第4の調整部33,34が設けられている。
【0038】
調整部31,32,33,34は、スリット12とダイ10の外部とを繋ぐ貫通孔と、貫通孔に接続されているパイプ51,52,53,54とからなる。本実施形態では、パイプ51,52,53,54の一端はタンク22に繋がれており、タンク22に貯留されるスラリー3が流入部16から第1のマニホールド11に流入するのとは別に、調整部31,32,33,34からスリット12に流入する。もしくは、これら調整部31,32,33,34から流出したスラリー3は、タンク22へ戻される。なお、パイプ51,52,53,54の途中に、図示しないがフィルタが設けられているのが好ましい。
【0039】
このように、ダイ10のスリット12には、第1のマニホールド11のスラリー3を流入部16以外から流入、もしくは吐出口18以外からダイ10の外部へ流出させる調整部31,32,33,34が、スリット12の幅方向に設けられていることから、たとえばマニホールド11の両端部においてスラリー3が流れ難くなる(滞留する)ことによってマニホールド11からスリット12に流入するスラリー3の量が幅方向に不均一になったとしても、調整部31,32,33,34によって吐出口18へ流出するスラリー3の量を調節することにより、吐出口18から吐出されるスラリー3の量が幅方向に不均一になることを防ぐことができる。
【0040】
なお、第1のマニホールド11の両端部において、スラリー3の固形成分が沈殿や凝集し易くなる理由は、これら両端部には、第1のマニホールド11の幅方向端面を構成する壁が存在していることから、第1のマニホールド11の中央部から供給され幅方向両側へ広がるスラリー3は、両端部において流速が低下しやすく、スラリー3が滞留しやすいためである。特に、スラリー3は粘度(粘性)が高いため、両端部において滞留しやすく固形成分が沈殿や凝集しやすい。
【0041】
また、本実施形態の製造装置1のダイ10から吐出されるスラリー3として、粘度が数千から数万cP(剪断速度=1の場合)のものを採用することができる。
【0042】
ここで、本発明では、調整部31,32,33,34は第1のマニホールドではなく、スリット12に設けられている。これは、第1のマニホールド11は流入部16から流入したスラリー3を第1のマニホールド11全体に行き渡らせるために幅方向の断面積を大きく、すなわち容積を大きく形成されているためであり、仮に第1にマニホールドに調整部31,32,33,34を設けた場合、各調整部による局所的なスラリー量の調整を行っても、感度が悪く十分に調整の効果が得られにくい。
【0043】
これに対し、第1のマニホールド11よりも幅方向の断面積が十分に小さいスリット12に調整部31,32,33,34を設けることにより、各調整部における調整を感度良く吐出口18からの吐出量に反映させることが可能である。
【0044】
さらに、本実施形態では、この調整部31,32,33,34それぞれには、スリット12に流入もしくはスリット12から流出させるスラリー3の量の調整を行う制御装置が設けられている。具体的に説明すると、
図2に示すように、流出パイプ51,52,53,54それぞれに、前記制御装置としてバルブ61,62,63,64が接続されている。これらバルブ61,62,63,64それぞれは、調整部31,32,33,34それぞれから流出するスラリー3の流量を調整する機能を有している。なお、バルブ61,62,63,64それぞれは、調整部31,32,33,34それぞれから流入もしくは流出するスラリー3の圧力を調整してもよい。または、調整部31,32,33,34とタンク22とを繋ぐパイプ51,52,53,54の途中に、スラリー3の流量管理(流出量調整)を行う機器(例えば、ポンプ)が設けられていてもよく、この場合、この機器が、スリット12に流入もしくはスリット12から流出させるスラリー3の排出調整を行う制御装置として機能する。
【0045】
また、この製造装置1は、基材2上へ塗布したスラリー3の膜厚を測定するセンサ36を備えている(
図1参照)。センサ36は、幅方向に沿って複数設けられていてもよい。センサ36は、非接触式であり、基材2上のスラリー3の膜厚を、幅方向に沿って複数カ所、又は、幅方向の全長にわたって計測可能であり、計測結果は、製造装置1が備えている制御装置(コンピュータ)37に出力される。制御装置37はセンサ36からの計測結果に基づくフィードバック制御を行い、バルブ61,62,63,64の開度を調整する。つまり、スラリー3の膜厚の計測結果に応じて、制御装置37は、バルブ61,62,63,64それぞれに対して制御信号を出力し、バルブ61,62,63,64それぞれの開度を調整する。これにより、スラリー3の膜厚を幅方向に一定に保つことが可能となる。
【0046】
なお、センサ36の代わりに制御装置37が有するタイマ機能により、バルブ61,62,63,64の開度を制御してもよい。つまり、塗布開始からある時間が経過するとスラリー3の固形成分の沈殿や凝集が問題となることから、この時間が経過する前の所定時間をタイマで計測し、その所定時間が経過すると、制御装置37はバルブ61,62,63,64の開度を大きくする制御を行ってもよい。
【0047】
さらに、本実施形態では、スリット12の両端部12a,12bの間の途中部12c,12dにも、調整部33,34が設けられており、両端部12a,12bのみでスラリー3の流量が多くなることを抑えている。そして、この途中部12c,12dに接続されているバルブ63,64の開度を調整することで、スラリー3の吐出作業を長時間継続して行っていても、基材2上に形成されるスラリー3の膜厚を均一にすることが可能となる。
【0048】
例えば、このダイ10を用いた塗布作業を開始してからある時間までは、第1のマニホールド11では、両端部を含めて、スラリー3の固形成分の沈殿や凝集は発生しにくく、吐出口18の全幅において均一な吐出量を得ることができる。このため、バルブ61,62,63,64の開度は、すべて同じ程度(開度がゼロであってもよい)とされる。
【0049】
しかし、ある時間を超え、第1のマニホールド11の両端部において、スラリー3の固形成分の沈殿や凝集が多く発生しそうになると、両端部に対応するバルブ61,62の開度を大きく変更する。これにより、両端部においてスラリー3が補充され、スリット12の両端部において、スラリー3の吐出量が減少してしまうのを抑えることができる。
【0050】
そして、両側のバルブ61,62の開度を大きく変更した際、吐出口18の幅方向両端部では、スラリー3の吐出量が変化する傾向にあり、これが原因となって、スリット12の幅方向の中央側に隣り合う途中部12c,12dでも、スラリー3の流量が一時的に変化する現象が起こる。
【0051】
そこで、第1のマニホールド11の両端部において、固形成分の沈殿や凝集が多く発生しそうになると、スリット12の両端部12a,12bに対応するバルブ61,62の開度を(徐々に)大きく変更すると共に、途中部12c,12dに対応するバルブ63,64の開度も(徐々に)大きく変更する制御が行われる。なお、開度変更中のバルブ63,64の開度を、開度変更中のバルブ61,62の開度よりも小さくし、途中に設けられている調整部33,34からのスラリー3の流入量を、両端の調整部31,32からのスラリー3の流入量よりも少なくしている。さらに、この際、第1のマニホールド11のスラリー3の内圧も一定となるように制御される。
【0052】
以上の制御によれば、調整部31,32,33,34を通じてスリット12に流入もしくはスリット12から流出させるスラリー3の流量を調整することにより、吐出口18から吐出させるスラリー3の量が変更される。このため、スラリー3を吐出口18から幅方向の全長にわたって均等に吐出させるためのより厳密な制御が可能となり、基材2上に形成されるスラリー3の膜厚を、幅方向及び送り方向について、均一にすることが可能となる。
【0053】
なお、本実施形態以外の他の実施形態として、
図3に示すように、スリット12の途中であり、調整部31,32,33,34が設けられた部分と吐出口18との間に第2のマニホールド24が設けられていても良い(第2の実施形態)。
【0054】
第2のマニホールド24は、幅方向の長さは第1のマニホールド11およびスリット12と同等であり、幅方向の断面積は第1のマニホールド11よりも小さい。すなわち、第2のマニホールドよりも容積が小さい。
【0055】
このような第2のマニホールド24が調整部31,32,33,34が設けられた部分と吐出口18との間に設けられることにより、第1のマニホールド11で生じていたスラリー3の流量のばらつきを各調整部において軽減し、さらに第2のマニホールド24で流量を平準化することにより、吐出口18からのスラリー3の吐出量を幅方向にわたって所定の量に維持することが可能である。
【0056】
たとえば、第1のマニホールド11で幅方向に±10%のスラリー3の流量のばらつき生じていたとして、まず、調整部31,32,33,34でスラリー3の流量を補充することで±1%まで流量のばらつきを軽減できたとする。このように調整部31,32,33,34を通った段階で幅方向にわたるスラリー3の流量のばらつきが若干残っていたとしても、次にスラリー3が第2のマニホールド24に流入して第2のマニホールド24内でスラリー3が幅方向に広がって流量を平準化する働きにより、幅方向にわたるスラリー3の流量が均一となって、吐出口18から吐出する。
【0057】
また、第3の実施形態として、
図4に示すように、スリット12の途中(第1のマニホールド11と吐出口18の間)に第2のマニホールド24が設けられ、この第2のマニホールド24に調整部31,32,33,34が設けられていても良い。
【0058】
この実施形態においても、上記の通り、第2のマニホールド24は、幅方向の長さは第1のマニホールド11およびスリット12と同等であり、幅方向の断面積は第1のマニホールド11よりも小さい。すなわち、第2のマニホールドよりも容積が小さい。
【0059】
このような第2のマニホールド24に調整部31,32,33,34が設けられることにより、スリット12に直接調整部31,32,33,34を設ければ調整の感度が良すぎて吐出口18からのスラリー3の吐出量の制御が困難であるときに、適度に調整感度を緩めてスラリー3の吐出量の制御を容易にすることができる。
【0060】
また、第1のマニホールド11に調整部31,32,33,34を設けるのではなく、第1のマニホールド11よりも容積の小さい第2のマニホールド24に設けることにより、第1のマニホールド11に設けた場合よりも良い感度で調整部31,32,33,34による流量の調整を行うことができる。
【0061】
次に、第4の実施形態における電池用極板の製造装置のダイを
図5に示す。
【0062】
この実施形態におけるダイ10の調整部31,32,33,34に接続されているパイプ51,52,53,54は複数に分岐し、複数の調整流路がそれぞれの調整部31,32,33,34対して並列に設けられるようにパイプ51,52,53,54に接続される形態を有している。具体的には、パイプ51,52,53,54はそれぞれ二手に分岐し、パイプ51には大流量バルブ61aが設けられた調整流路と小流量バルブ61bが設けられた調整流路が接続されており、これと同様に、パイプ52には大流量バルブ62aが設けられた調整流路と小流量バルブ62bが設けられた調整流路が接続され、パイプ53には大流量バルブ63aが設けられた調整流路と小流量バルブ63bが設けられた調整流路が接続され、パイプ54には大流量バルブ64aが設けられた調整流路と小流量バルブ64bが設けられた調整流路が接続されている。
【0063】
大流量バルブ61a,62a,63a,64a、および小流量バルブ61b,62b,63b,64bはそれぞれ開閉可能でありかつスラリーの流量の制御が可能な制御装置である。また、大流量バルブ61a,62a,63a,64aによる流量の制御範囲と小流量バルブ61b,62b,63b,64bによる流量の制御範囲は互いに異なっており、大流量バルブ61a,62a,63a,64aは小流量バルブ61b,62b,63b,64bに対して大きな流量のスラリー3を通すことができて所定の範囲で流量を変化させるよう制御することが可能である反面、この制御の精度は粗い。これに対して小流量バルブ61b,62b,63b,64bはスラリー3の流量が小さい反面、精密な流量制御を行うことが可能である。
【0064】
ここで、ダイ10に設けられた本説明の調整部31,32,33,34が機能する局面として、前述のようにマニホールド11内にスラリー3の滞留が生じた場合のほかに、マニホールド11内に滞留が生じていないのに基材2上へ塗布した塗膜層の膜厚が均一でない場合にも、調整部31,32,33,34からのスラリー3の入出を行うことで塗膜層の膜厚を均一にすることができる。特に、粘度の高いスラリー3による塗膜層は、調整部31,32,33,34を用いない場合には断面が凸形状になることが多く、調整部31,32,33,34からのスラリー3の入出を行うことで塗膜層の膜厚を均一にする必要がある。
【0065】
この場合、仮に膜厚の微調整に用いられるような小流量のバルブのみを用いてスラリー3の流量の調整を行うならば、塗布開始時などで塗膜層断面の高低差が大きいときにそれを平坦にするためには長時間を要し、塗膜層の厚みが基材の幅方向に均一になるまでに基材2が搬送される距離が長くなるため、製品として使用できない部分が多くなってしまう。
【0066】
そこで、調整部31,32,33,34が大流量を制御する大流量制御モードと、小流量を制御する小流量制御モードとを切り換えながら運転されることが好ましい。すなわち、塗膜層断面の高低差が大きいときには大流量バルブ61a,62a,63a,64aが開状態、小流量バルブ61b,62b,63b,64bが閉状態である大流量制御モードとなり、塗膜層がある程度平坦になったときに大流量バルブ61a,62a,63a,64aが閉状態、小流量バルブ61b,62b,63b,64bが開状態である小流量制御モードとなることで、短時間で塗膜層の膜厚を基材2の幅方向に渡って均一にすることができ、その後精密な膜厚調整を続けることが可能となる。
【0067】
次に、第5の実施形態における電池用極板の製造装置のダイを
図6に示す。
【0068】
この実施形態におけるダイ10の調整部31,32,33,34に接続されているパイプ51,52,53,54にはバルブ61,62,63,64が設けられており、バルブ61,62,63,64の開度の制御を個別に行うことでバルブ61,62,63,64を通るスラリー3の流量比の調整が行われる。すなわち、バルブ61,62,63,64が設けられたパイプ51,52,53,54は調整部31,32,33,34におけるスラリー3の流量を調整する調整流路として機能している。
【0069】
ここで、この実施形態では、調整部31,32,33,34と接続されていない側の各調整流路の端部の配管は、
図6に示すように統合流路65として1つに統合されている。また、この統合流路65には、バルブ61,62,63,64に加えてさらにスラリー3の流量を制御する統合流量調整ユニット66が設けられている。この統合流量調整ユニット66は、バルブ61,62,63,64と同様の構成の統合流路65の流量を調整するバルブであっても良いが、統合流路65の配管径、配管長などを変化させることによって流量を変化させるものであっても良い。
【0070】
次に、上記の第5の実施形態におけるバルブ61,62,63,64の開度とこれらバルブを通るスラリー3の流量との関係を
図7に示す。ここで、一般的なバルブには流量の制御を適正に行うことができる開度である適正開度があり、適正開度の範囲内で流量の制御を行う場合は所定の精度で制御を行うことができるが、この適正開度の範囲外で流量の制御を行う場合には、精度良く制御が行えない可能性がある。たとえば、
図7においてグラフL1で示されるようなバルブ開度とスラリー流量との関係が得られる条件で、このバルブを通るスラリー流量を流量f1もしくは流量f2となるように制御しようとした場合、バルブの開度は適正開度の範囲外となり、精度良く制御が行えない可能性がある。
【0071】
そこで、この実施形態では、統合流路65に設けられた統合流量調整ユニット66でもスラリー流量を制御することにより、調整流路のバルブ61,62,63,64による流量制御を適正開度の範囲内で行えるようにしている。具体的には、
図7においてバルブ61,62,63,64を通る流量を流量f1近辺といった比較的少ない流量で制御したい場合は、統合流量調整ユニット66の開度を小さくしておく。これによってバルブ61,62,63,64におけるバルブ開度とバルブを通るスラリーの流量との関係がグラフL2のようになり、バルブ61,62,63,64の開度を大きくしてもバルブ61,62,63,64を通るスラリー3の流量は比較的少なくなる。したがって、グラフL1の状態では流量f1にするには適正開度の範囲外であるのに対し、グラフL2の状態にすることによって適正開度の範囲内で流量f1に制御することが可能となる。逆に、バルブ61,62,63,64を通る流量を流量f2近辺といった比較的多い流量で制御したい場合は、統合流量調整ユニット66の開度を大きくしておく。これによってバルブ61,62,63,64におけるバルブ開度とバルブを通るスラリーの流量との関係がグラフL3のようになり、バルブ61,62,63,64の開度を小さくしてもバルブ61,62,63,64を通るスラリー3の流量は比較的多くなる。したがって、グラフL1の状態では流量f2にするには適正開度の範囲外であるのに対し、グラフL3の状態にすることによって適正開度の範囲内で流量f2に制御することが可能となる。
【0072】
これにより、それぞれの調整流路においてあらゆる流量の制御を精度良く行うことができ、あらゆる厚みの塗膜層、あらゆる塗布速度にも対応して均一な厚みの塗膜層を形成させることができる。
【0073】
以上より、スラリー3の吐出作業を長時間継続して行っていても、基材2上に形成される塗膜層の厚さを均一にすることが可能となる。
【0074】
また、本発明の製造装置1は、図示する形態に限らず本発明の範囲内において他の形態のものであってもよい。例えば、本実施形態(
図1参照)では、流入部16は、第1のマニホールド11の底部17と繋がっており、この底部17からスラリー3を流入させる構成としているが、流入部16は、第1のマニホールド11の側部(高さ方向の中間部)と繋がった構成であってもよい。
【0075】
また、前記実施形態では、第1のマニホールド11のスラリー3をスリット12を通じて吐出口18から基材2へと流す方向が水平方向となるようにダイ10が設置されている場合について説明したが、ダイ10の設置姿勢はこれ以外であってもよい。例えば、第1のマニホールド11とスリット12とが鉛直方向に並んで配置される姿勢でダイ10は設置されていてもよく、この場合において、第1のマニホールド11のスラリー3をスリット12を通じて吐出口18から基材2へと流す方向が鉛直方向上向きとなるようにダイ10が設置されていてもよい。
【0076】
さらに、前記実施形態では、両端部12a,12bの間において、二カ所の途中部12c,12dに調整部33,34が設けられている場合について説明したが、途中部に設ける調整部の数はこれ以外であってもよく、調整部は、両端部12a,12bの間の途中部に少なくとも一カ所設けられていればよい。
【0077】
また、シム板15の形状(
図8(B)参照)は、図示した以外のものであってもよい。シム板15の形状によりスリット12(スラリー3の流路)の形状が決定されることから、シム板15の形状によってスラリー3の固形成分が沈殿等発生しやすい途中部に、調整部を設ければよい。
【0078】
例えば、シム板15は、
図9(A)に示すように、幅方向に長い本体部15aと、この本体部15aの幅方向両側部から延びる第一の突出片15b,15cと、これら第一の突出片15b,15cの間に少なくとも一つ設けられている第二の突出片(本実施形態では二つの突出片15d,15e)とを有した櫛型であってもよい。第一の突出片15b,15cによりスリット12の幅方向寸法が規定され、第二の突出片(15d,15e)によりスリット12が途中で塞がれて幅方向に分割される。このシム板15の場合、スリット12において、隣り合う突出片それぞれの間から、スラリー3が吐出され、
図9(B)に示すように、機材2の上に複数条の塗膜層(ストライプの塗膜層)が形成される。
【0079】
そして、前記のとおり(
図2参照)、ダイ10には、調整部31,32,33,34が、スリット12幅方向の両端部12a,12bと、この両端部12a,12bの間の途中部12c,12dに設けられていることで、塗布作業を継続して行っても、櫛型であるシム板15によって分割されたスリット12の各区間からのスラリー3の吐出量を均一にすることができ、複数条の塗膜層それぞれの膜厚を一定にすることが可能となる。
【0080】
ここで、たとえば
図9(A)における突出片15d,15eがスリット12を塞ぐ位置に調整部33や調整部34が設けられていた場合、これら調整部の貫通孔が突出片15d,15eによって塞がれてしまうので、スラリー3の流量を調整する機能を失ってしまうので、このような事態を避ける必要がある。
【0081】
上記の事態を避ける手段として、たとえば突出片15d,15eが配置される位置以外の箇所に調整部を設けることが考えられる。
【0082】
また、その他の手段として、
図4に示したように第2のマニホールド24に各調整部が設けられる構成とすると良い。第2のマニホールド24にあたる部分は、シム板15によって塞がれることは無いため、突出片15d,15eなどの突出片の配置を気にすることなく、任意の位置に各調整部を配置することが可能である。
【0083】
なお、本発明の製造装置1は、塗布する塗布液が粘度の高いスラリーである場合に有効であり、粘度の高いスラリーを塗布して製品(例えば、光学フィルム)を製造する場合に適用してもよい。
【0084】
また、上記の説明では、吐出口18からの吐出量が幅方向にわたって均一になるようにすることで基材2に形成される塗膜層の厚みが幅方向にわたって均一にするようにしているが、吐出口18の吐出量は幅方向にわたって均一に限らない。たとえば
図10(A)に示すように基材2に形成された塗膜層の厚みが時間経過によって端部の厚みが減少するように変化する場合、各調整部によってスリット12の両端部におけるスラリー3の流量を多くすると良い。これにより、
図10(B)に示すように塗膜層の形状は、吐出直後は幅方向の端部が厚くなるものの、時間経過によって端部の厚みが減少し、結果的に幅方向に厚みが均一な塗膜層を得ることができる。