特許第6422802号(P6422802)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6422802
(24)【登録日】2018年10月26日
(45)【発行日】2018年11月14日
(54)【発明の名称】建築物の架構構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/20 20060101AFI20181105BHJP
   E04B 1/21 20060101ALI20181105BHJP
【FI】
   E04B1/20 E
   E04B1/21 B
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-50070(P2015-50070)
(22)【出願日】2015年3月12日
(65)【公開番号】特開2016-169536(P2016-169536A)
(43)【公開日】2016年9月23日
【審査請求日】2017年9月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小坂 英之
(72)【発明者】
【氏名】松永 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】野口 恭司
(72)【発明者】
【氏名】松崎 真豊
(72)【発明者】
【氏名】菅谷 和人
【審査官】 土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−006859(JP,A)
【文献】 特開2001−049890(JP,A)
【文献】 特開2005−350860(JP,A)
【文献】 特開2003−213791(JP,A)
【文献】 特開2012−067558(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/20
E04H 9/02
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の柱部材と、前記柱部材に実質的に単純支持されて床部材および壁部材の重量を負担する長期梁および前記柱部材に実質的に固定支持される短期梁を含む複数の大梁とを備えた建築物の架構構造であって、
前記短期梁は、前記建築物の外構面にのみ配置され
前記柱部材は、前記長期梁が接合する主柱と、前記短期梁のみが接合する間柱とを含むことを特徴とする建築物の架構構造。
【請求項2】
前記間柱が、前記建築物の外構面に配置された前記主柱に対して前記建築物の内外方向について少なくとも部分的に整合し、
前記短期梁の内の少なくとも一部のものが、前記建築物の外構面に配置された前記主柱にも接合することを特徴とする請求項に記載の建築物の架構構造。
【請求項3】
前記間柱が、前記建築物の外構面に配置された前記主柱よりも前記建築物の外側にオフセットし、前記間柱の内の少なくとも一部のものが、前記建築物の外構面に配置された前記主柱に結合しており、
前記短期梁は、前記主柱には接合していないことを特徴とする請求項に記載の建築物の架構構造。
【請求項4】
前記短期梁は、前記長期梁に対して前記建築物の外側に配置されたことを特徴とする請求項1乃至のいずれかに記載の建築物の架構構造。
【請求項5】
前記短期梁の少なくとも一部が、前記長期梁の隣接するものに対して互いに上下方向にオフセットしていることを特徴とする請求項1乃至のいずれかに記載の建築物の架構構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の架構構造に関し、特に、互いに異なる荷重を負担する2種類の大梁を有する建築物の架構構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物に作用する荷重は、その荷重が作用する時間に応じて長期荷重と短期荷重とに分類される。長期荷重は、建築物自体の重量からなる固定荷重や、人や家具等の重量からなる積載荷重等を含み、長期間にわたって常時作用する。短期荷重は、地震荷重や風荷重等を含み、作用時間が短い。多くの建築物は、長期荷重に対しては、部材が損傷しないように設計されるが、短期荷重、特に、大規模地震による荷重に対しては、部材の損傷を許容しつつ建築物の倒壊を防ぐように設計される。
【0003】
鉄筋コンクリート造の建築物では、柱と梁とを剛体接合したラーメン構造が広く採用されている。ラーメン構造の建築物では、柱と剛体接合した梁は、長期荷重および短期荷重の双方を負担する。
【0004】
これに対して、特許文献1では、長期荷重を負担する長期梁(「長期荷重用梁部材」)と、短期荷重を負担する短期梁(「地震荷重用梁部材」)とに梁を分離する構造が開示されている。長期梁と短期梁とは、互いに並列に配置されているが、柱との接合態様が異なる。長期梁は、柱によって単純支持されるように、すなわち柱とピン接合しているとみなせるように設計および施工される。長期梁は、床スラブ等の荷重を支えるが、柱とピン接合しているため、地震によって柱が振動してもその荷重を受けない。一方、短期梁は、柱によって固定支持されるように、すなわち柱と剛体接合しているとみなせるように設計および施工される。短期梁は、床スラブ等の荷重を負担しないが、地震荷重等を負担する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−6859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
長期荷重と短期荷重とを同一の梁で負担する場合、大規模地震が起きると、梁が損傷してその梁の長期荷重を支持する能力も低下するおそれがある。梁を長期梁と短期梁とに分離すると、大規模地震が起きた後、長期梁は損傷していないため、短期梁のみを補修すればよいことになる。
【0007】
このような観点に基づいて、本発明は、建築物を継続して使用しながら、地震による損傷を補修できる建築物の架構構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある側面は、複数の柱部材(4,6)と、前記柱部材に実質的に単純支持されて床部材(20)および壁部材(16)の重量を負担する長期梁(8)および前記柱部材に実質的に固定支持される短期梁(10)を含む複数の大梁(12)とを備えた建築物の架構構造(2,30)であって、前記短期梁は、前記建築物の外構面にのみ配置されたことを特徴とする。ここで、外構面という用語は、建築物の完成後に、建築物に対する外部空間からアクセス可能な構面を示す。
【0009】
この構成によれば、長期梁は地震荷重を負担しないため、大規模地震が発生しても損傷せず、建築物の長期荷重に耐える性能、すなわち長期性能が維持され、建築物を継続使用できる。さらに、大規模地震によって損傷して補修が必要な短期梁は、建築物の外構面に配置されているため、工事の作業員は、居住空間等の建築物の内部に立ち入らずに建築物の外部から補修工事を行え、居住者等の建築物の使用者は、工事中も建築物を使用できる。
【0010】
本発明の他の側面は、上記構成において、前記柱部材は、前記長期梁が接合する主柱(4)と、前記短期梁のみが接合する間柱(6)とを含むことを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、大規模地震に対して間柱の損傷を許容して主柱の損傷を防げるように、建築物を設計することができる。そのため、大規模地震が起きても建築物の長期性能が維持され、損傷して補修が必要となる柱および梁は外構面に設置された間柱および短期梁のみとなり、建築物の外部から補修工事を行うことができる。
【0012】
本発明の他の側面は、上記構成において、前記間柱が、前記建築物の外構面に配置された前記主柱に対して前記建築物の内外方向について少なくとも部分的に整合し、前記短期梁の内の少なくとも一部のものが、前記建築物の外構面に配置された前記主柱にも接合することを特徴とする接合構造(2)である。
【0013】
この構成によれば、主柱、間柱および短期梁が、主柱によって構成される外構面内で整合するように配置されるため、間柱および短期梁を設置するために新たなスペースを設ける必要がなく、建築面積を広げる必要も建築物の内部空間を狭める必要もない。
【0014】
本発明の他の側面は、前記間柱が、前記建築物の外構面に配置された前記主柱よりも前記建築物の外側にオフセットし、前記間柱の内の少なくとも一部のものが、前記建築物の外構面に配置された前記主柱に結合しており、前記短期梁は、前記主柱には接合していないことを特徴とする接合構造(30)である。
【0015】
短期梁が主柱に接合していれば、損傷した短期梁と主柱との接合部を補修する際に主柱への影響を考慮しなければならないが、この構成によれば、短期梁が主柱に接合していないため、そのような必要がない。
【0016】
本発明の他の側面は、上記構成において、前記短期梁は、前記長期梁に対して前記建築物の外側に配置されたことを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、短期梁を建築物の外部空間から補修する際に、長期梁は補修作業の妨げにならない。
【0018】
本発明の他の側面は、上記構成において、前記短期梁の少なくとも一部が、前記長期梁の隣接するものに対して互いに上下方向にオフセットしていることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、長期梁と短期梁とが重なっていないため、長期梁および短期梁が損傷しているか否かを目視で確認しやすく、補修作業も容易に行える。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、建築物を継続して使用しながら、地震による損傷を補修できる建築物の架構構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】第1実施形態に係る架構構造の平面図
図2】第1実施形態に係る架構構造の梁の横断面における断面図
図3図2における柱梁接合部分の背面図
図4図2における柱梁接合部分の正面図
図5】第2実施形態に係る架構構造の梁の横断面における断面図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0023】
まず、図1を参照して、本発明の第1実施形態に係る架構構造2における、全体的な部材の配置を説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る架構構造2の平面図である。架構構造2は、主柱4と、主柱4の内の外構面に配置されたもの同士の間に配置される間柱6と、互いに隣接する主柱4間に架け渡される長期梁8と、外構面における主柱4および間柱6間又は互いに隣接する間柱6間に架け渡される短期梁10とを備える。長期梁8および短期梁10は、主柱4又は間柱6に接合した大梁12である。一部の長期梁8の中間部には、小梁14が接合している。図1における二点差線は、建築物の外壁16の設置位置の例を示す。ここで、外構面という用語は、建築物の完成後に、建築物の外側からアクセス可能な構面を表す。従って、図1に示すように、当該建築物に囲まれているが上方は開放されている空間、例えば中庭等、を有する建築物においては、建築物の外周側の構面だけでなく、その空間を画定する内周側の構面も外構面に相当する。
【0024】
鉄筋コンクリート造の主柱4は、長期荷重および短期荷重を負担する柱であって、建築物の基礎から立設される。図1では、全ての主柱4は、外構面を形成しているが、建築物の内部に主柱4を設置してもよい。
【0025】
鉄筋コンクリート造の間柱6は、短期荷重を負担する柱であって、主柱4の間の外構面に設置されるが、建築物の内部空間に画定される構面(以下「内構面」という)には設置されない。1対の主柱4間に設置される間柱6の数は、その主柱4間のスパン等に応じて設定される。間柱6は、外構面に設置された主柱4に対して建築物の内外方向について整合するように、すなわち、外構面に沿って水平方向から見たときに主柱4に重なるように配置される。また、間柱6の建築物の内外方向の幅は主柱4よりも細く、1対の主柱4間において、建築物の内外方向の外側に間柱6が配置され、内側に長期梁8が配置される。
【0026】
プレスストレストコンクリート又は鉄筋コンクリート造の長期梁8は、主柱4間に架け渡される。長期梁8は、外構面を形成する主柱4間だけでなく、内構面を形成する主柱4間にも架け渡される。図1では、外構面を形成する主柱4間に架け渡された長期梁8は、建築物の外周側に設置された主柱4間に架け渡された12本の長期梁8と、建築物の内周側に設置された主柱4間に架け渡された4本の長期梁8とに相当し、内構面を形成する主柱4間に架け渡された長期梁8は、建築物の外周側に設置された主柱4と内周側に設置された主柱4との間に架け渡されている8本の長期梁8に相当する。後に詳述するように、長期梁8は、長期荷重を負担するとともに、主柱4に単純支持される。すなわち、長期梁8は、建築物自体の重量からなる固定荷重や、人や家具等の重量からなる積載荷重等を負担するとともに、実質的にピン接合とみなせるように主柱4に接合している。
【0027】
鉄筋コンクリート造の短期梁10は、外構面に配置され、互いに隣接する主柱4および間柱6間、又は互いに隣接する間柱6間に架け渡される。隣接する主柱4間のスパンが短くその間に間柱6を設置しないときは、その主柱4間に架け渡してもよい。短期梁10は、外構面にのみ配置され、外構面に配置された長期梁8よりも、建築物の内外方向の外側に配置される。後に詳述するように、短期梁10は、短期荷重を負担するとともに、主柱4又は間柱6に固定支持される。すなわち、短期梁10地震荷重や風荷重を負担するとともに、実質的に剛体接合とみなせるように主柱4又は間柱6に接合している。短期梁10の高さ方向の位置は、長期梁8の高さ方向の位置と一致させてもよいが、その他の位置に設けてもよい(図2参照)。
【0028】
プレスストレストコンクリート又は鉄筋コンクリート造の小梁14は、その両端において長期梁8の中間部に接合している。
【0029】
外壁16は、建築物の外部空間と内部空間とを隔てる壁であり、建築物の外構面の内側で自由にレイアウトできる。例えば、建築物が集合住宅である場合は、外壁16と外構面との間は、共用の廊下やベランダとして利用される。或いは、外構面に外壁16が設けられ、外壁16よりも建築物の外側に張り出すように共用の廊下やベランダが設けられてもよい。
【0030】
また、地震荷重を負担する短期梁10に、制震装置18を取り付けてもよい。
【0031】
次に、図2図4を参照して、各部材の形状、接合態様および機能を説明する。図2は外構面に配置された長期梁8および短期梁10を横断する断面、並びにその直近にある間柱6および主柱4の側面を示し、内構面に設置された長期梁8や、他の主柱4および間柱6は図示を省略している。図3は、長期梁8の主柱4への接合態様を示すもので、図2の紙面右方から長期梁8を見ている。図4は、短期梁10の主柱4への接合態様を示すもので、図2の紙面左方から短期梁10を見ている。短期梁10の間柱6への接合態様は、主柱4への接合態様と同様である。
【0032】
主柱4は、地震荷重を負担するとともに、接合している長期梁8および短期梁10から力が伝達される。主柱4は、大規模地震が発生しても損傷しないように、終局強度設計がなされる。
【0033】
間柱6は、地震荷重を負担するが、床スラブ20を支持している長期梁8とは接合していないため、長期荷重を負担しない。また、間柱6は、主柱4よりも細く、主柱4よりも損傷しやすいように設計される。大規模地震が発生した場合、間柱6が損傷することは許容される。
【0034】
長期梁8は、床スラブ20を支持しているため、床スラブ20の重量や、床スラブ20に支持される外壁16および内壁(図示せず)の重量、積載荷重等を負担する。長期梁8は、その長手方向に直交する断面では矩形を呈する。長期梁8の両端部は、下側が切り欠かれた形状となっており、両端部は、上側の面は一定の高さを保つが下側の面が端面に向かうに従って上方へ向かうように傾斜しているテーパー部22と、テーパー部22から端面まで上端側および下端側が一定の高さを保って延出し、主柱4に突入する突入部24とを備える。長期梁8と主柱4との接合は、突入部24が主柱4に対して側面から突入するように係合していることによりなされる。突入部24は、主柱4の主筋(図示せず)よりも外側に配置される。このように、長期梁8は、主柱4に対して、上下寸法の小さな端部が浅く突入するように接合しているため、長期梁8と主柱4との接合は、実質的にピン接合とみなすことができる。このような構造は、プレキャストコンクリートからなる長期梁8を、主柱4との接合位置に配置し、主柱4の接合部にコンクリートを打設することによって形成される。なお、接合用の仕口体を主柱4に設置し、その仕口体を介して長期梁8を主柱4に実質的にピン接合とみなせるように接合してもよい。
【0035】
長期梁8と主柱4との接合は、実質的にピン接合とみなせるため、柱が地震等により揺れても、接合部が回転するため、水平方向の力は長期梁8に伝わらない。よって、長期梁8は、長期荷重を負担するものの、地震荷重を負担しない。そのため、大規模地震が発生しても、長期梁8は損傷しない。
【0036】
短期梁10は、その長手方向に直交する断面では矩形を呈し、その幅および高さは略一定である。短期梁10の両端では、コンクリートの端面から長手方向に主筋26が突出しており、主筋26は、機械式継ぎ手28によって、主柱4に対して反対側に延出している他の短期梁10の主筋26に接合されている。なお、機械式継ぎ手28に代えて、他の公知の継ぎ手手段を用いてもよい。短期梁10が間柱6に接合する場合も同様である。主筋26が主柱4および間柱6を貫通するように、短期梁10が主柱4および間柱6に接合しているため、短期梁10と主柱4および間柱6との接合は、実質的に剛体接合とみなすことができる。このような構造は、プレキャストコンクリート部材の短期梁10を、主筋26の継ぎ手部分が主柱4又は間柱6との接合部に位置するように配置し、主柱4又は間柱6の接合部にコンクリートを打設することによって形成される。なお、接合用の仕口体を主柱4又は間柱6に設置し、その仕口体を介して短期梁10を主柱4又は間柱6に実質的に剛体接合とみなせるように接合してもよい。また、主柱4および間柱6のスパンの中間で互いに隣接するプレキャストコンクリート部材の短期梁10の主筋26を接合してもよい。
【0037】
短期梁10は、主柱4および間柱6と剛体接合しているため、主柱4および間柱6から水平方向の荷重が伝達される。従って、通常時に主柱4および間柱6が傾くのを防止するとともに、地震時には、その地震荷重に抵抗する。大規模地震が発生した場合に、短期梁10は損傷しても、建築物の倒壊は防げるように、建築物は設計される。その一方で、短期梁10は、床スラブ20を支持していないため、自重以外の長期荷重を負担しない。短期梁10は、長期梁8に対して離間して配置されるため、互いの機能が干渉することはない。また、主柱4に接合する短期梁10は、主柱4が損傷しないように、主柱4よりも強度が低く損傷しやすいように設計される。
【0038】
大規模地震が発生した場合、間柱6および短期梁10は、地震荷重を負担し、損傷が許容される。長期梁8は、地震荷重を負担しないため損傷せず、地震後も長期荷重を支えることができる。主柱4は、主柱4に接合している短期梁10が主柱4よりも先に損傷するため、大規模地震が発生しても損傷しない。また、間柱6および短期梁10において、コンクリートにひびが入り、鉄筋にひずみが残ったとしても、剛体接合を維持したままある程度の耐力は残存している。このように、損傷していない長期梁8および主柱4が、長期荷重を支持し、損傷した短期梁10および間柱6に水平方向の力に対する抵抗力が残っているため、建築物は倒壊せずに、使用を継続でき、その後に発生する地震に対してもある程度の抵抗が可能である。床スラブ20も、損傷しない長期梁8に支持されているため撓まず、建築物の居住性が害されることもない。外壁16は、通常の設計と同様に層間変形角を所定値以下に抑えておけば、長期梁8に支持されて損傷する部材に取り付けられていないため、損傷しない。このように、大規模地震によって建築物の短期性能が低下したとしても、長期性能は維持される。
【0039】
大規模地震の後に補修が必要な部材は、間柱6および短期梁10である。主柱4および長期梁8の補修が不要なため、低コストで補修できる。さらに、間柱6および短期梁10は外構面にのみ配置されているため、補修作業および耐震部材の追加作業等は、建築物の内部、例えば集合住宅の居室内に入ることなく行える。よって、建築物の使用、居住を継続しながら、補修工事が可能である。さらに、短期梁10および間柱6は外構面において、長期梁8よりも外側に配置されているため、建築物の外部からの作業において、長期梁8が作業の妨げとならない。また、長期梁8と高さの異なる短期梁10は、外側の面だけでなく内側の面も開放されているため、損傷しているか否かの検査や補修作業を容易に行える。
【0040】
また、長期梁8および短期梁10をプレキャストコンクリート部材とする場合、機能別に生産できるため、長期荷重および短期荷重の両方を負担する複合機能の梁に比べ、経済的に製造できる。また、長期梁8および短期梁10は、1部材の重量が複合機能の梁に比べて軽いため、架設の際に大型の揚重設備を用いる必要がなくなる。
【0041】
また、主柱4と間柱6とは、外構面に沿った水平方向に重なっているため、間柱6の設置によって、建築面積を増大させることはなく、建築物の内部空間を減少させることもない。
【0042】
次に、本発明の第2実施形態の架構構造30について説明する。説明に当たって、各部材の構成は、概ね第1実施形態に共通するため、同一の符号を付し、共通する部分はその説明を省略し、異なる部分のみを説明する。第2実施形態に係る架構構造30は、主に間柱6、短期梁10および外壁16の配置が、第1実施形態と異なる。
【0043】
間柱6は、外構面に配置された主柱4に対して、主柱4によって構成される外構面に隣接するように、建築物の内外方向の外側に配置される。外構面に配置された主柱4には、間柱6が隣接して設置され、両者はアンカーボルト等の公知の手段により結合している。
【0044】
短期梁10は、間柱6間にのみ接合しており、主柱4には接合していない。
【0045】
外壁16の一部は、第1実施形態と同様に、床スラブ20の中間部に支持されているが、外壁16の他の一部は、床スラブ20の外構面側の端部近傍に支持されている。このように、外壁16の配置は任意に設定できる。
【0046】
第2実施形態に係る架構構造30では、主柱4に作用する地震荷重等の水平荷重は、主柱4に結合している間柱6にねじれ伝達され、さらに、間柱6に剛体接合している短期梁10に伝わる。
【0047】
第1実施形態では、主柱4に短期梁10が直接に剛体接合しているため、大規模地震によって損傷した短期梁10の補修時に、主柱4と短期梁10との接合部に補修が必要となるおそれがあるが、第2実施形態では、主柱4に短期梁10が直接には剛体接合していないため、そのようなおそれがない。
【0048】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。上記実施形態は鉄筋コンクリート造の建築物に本発明を適用したものであるが、鉄骨造や鉄骨鉄筋コンクリート造の建築物に本発明を適用してもよい。また、第1実施形態において、短期梁の内の、長期梁に対して高さ方向の位置がずれておりかつ間柱が設けられていない位置に配置されて両端が主柱に接合するものは、長期梁に対して、外構面の内外方向の外側に配置される必要はなく、整合する位置や、内側に配置されてもよく、そのように配置されても建築物の外部からの短期梁の補修を妨げない。
【符号の説明】
【0049】
2,30...架構構造、4...主柱、6...間柱、8...長期梁、10...短期梁、16...外壁、20...床スラブ
図1
図2
図3
図4
図5