【課題を解決するための手段】
【0017】
この目的は、請求項1の特徴を示す耳鏡によって、又はそれぞれの独立項の特徴を示すプローブカバーによって、又はそれぞれの独立項の特徴を示す被験体の耳内の物体を同定する方法によって、本発明に従って達成される。好ましい実施形態は、それぞれの従属項の発明主題を表す。
【0018】
具体的には、この目的は、ヘッド部分の遠位端、特にヘッド部分の遠位先端に配置される電子撮像ユニットを更に含み、前記ヘッド部分に被せるのに適している少なくとも部分的に透明なプローブカバーを前記ヘッド部分及び前記ハンドル部分の少なくともいずれかに対して気密に(少なくとも略気密に)固定するようになっている固定手段を更に含み、前記プローブカバーの少なくとも一部を移動させるようになっているプローブカバー移動機構を更に含む上記汎用型耳鏡によって達成される。
【0019】
プローブカバー移動機構と併せて耳道を加圧するために配置される耳鏡を提供することにより、耳垢粒子等のアーチファクトがプローブカバーに付着している場合でさえも、鼓膜を確実に同定することが可能になる。プローブカバー移動機構を含む耳鏡を用いると、プローブカバーに付着し、鼓膜における電子撮像ユニット又はカメラの視界を遮っている耳垢粒子等のアーチファクトを離すことができる。特に衛生上の理由から、大部分の使用事例において、耳鏡は、ヘッド部分に被せるのに適している少なくとも部分的に透明なプローブカバーと連結されている。プローブカバーは、プラスチック材料、好ましくは、透明なプラスチック材料から作製してよい。かかるプローブカバーは、低コストで大量に生産することができる使い捨て製品として設計してよい。電子撮像ユニットが鼓膜をはっきりと見ることができるように、プローブカバーは、少なくとも、それが観察点、特に偏心観察点を被覆する箇所、即ち、電子撮像ユニットの光軸と交差する箇所において透明でなければならない。また、プローブカバーは、特に、ヘッド部分を患者の耳道に導入するとき、電子撮像ユニットを含む耳鏡のヘッド部分の汚染を防ぐ。
【0020】
プローブカバー移動機構は、例えば、モータによって駆動されるラッチ機構又は自動化機構の形態で設けられてもよい。プローブカバー移動機構は、特に軸方向における、即ち、ヘッド部分の長手方向軸に対して平行な方向における、制御された所定の相対変位を可能にする。プローブカバー移動機構は、プローブカバーの近位端と相互作用するようになっており、遠位方向であろうと近位方向であろうと、プローブカバー又はプローブカバーの一部を軸運動又は変位させるようになっていることが好ましい。それに代えて又はそれに加えて、プローブカバー移動機構は、プローブカバーを回転させるようになっていてよい。
【0021】
固定手段は、周方向において完全に側面に沿って、特に全周に沿ってプローブカバーと嵌合するのに適していてよい。かかる設計により、プローブカバーがかなり易動性又は弾性である場合でさえも、実用的な方法で気密接続することができる。具体的には、プローブカバーの内側面との嵌合により、比較的高い気体圧力が印加される場合でさえも、固定手段とプローブカバーとの確実又は安全な接続を確保することができる。プローブカバーが比較的低い固有安定性しか有していない場合でさえも、固定手段とプローブカバーとの間の確実な接続を確保することができる。また、プローブカバーの遠位先端又は部分を均一に伸張させることができ、このことは、任意の視線又は複数の径方向にオフセットしている光軸のいずれかが遮られないことを保証することができる。また、プローブカバーとヘッド部分との間の相対運動は、径方向にオフセットして配置される遠位先端の任意の点で最大になり得る。
【0022】
移動機構は、耳鏡の撮像ユニット、少なくとも1つの光源、及び論理演算ユニットの少なくともいずれかに接続される運動センサを含むことができ、前記運動センサは、ヘッド部分に対して移動機構及びプローブカバーの少なくともいずれかの運動を検出するようになっている。かかる運動センサにより、電子撮像ユニットが鼓膜と視覚的に連通する可能性が高まったとき、即ち、電子撮像ユニット及び鼓膜が1つの視線上に配置されたときにのみ、それぞれの部品のスイッチを入れることができるようになる。
【0023】
1つの特定の実施形態によれば、移動機構は、プローブカバーの軸位置をヘッド部分に対して少なくとも1つの特定の軸位置に定めるために配置されるアダプタであって、好ましくは、前記プローブカバーを前記アダプタに接続するための固定手段を有するアダプタを含む。所定の軸位置により、ヘッド部分の挿入中に意図せず展開されてしまうことのないプローブカバーリザーバを提供することができる。
【0024】
1つの特定の実施形態によれば、アダプタは、プローブカバーを(手動で)耳鏡に連結することができる第1の開始位置、及びプローブカバーのリザーバがヘッド部分の遠位端に対して変位する第2の終了位置にプローブカバーの軸位置を定めるために配置される。所定の軸位置(これは、変更可能である)により、特に電子撮像ユニットが鼓膜と視覚的に連通したときにのみ、およそ所定の距離プローブカバーを変位させることができる。所定の第2の軸位置により、プローブカバーのリザーバを均一に伸張させるためにプローブカバーに伝達される特定の圧縮応力若しくは力、又は特定の張力、特に引張応力を決定することができる。
【0025】
好ましくは、移動機構は、特にプローブカバーに引張力を及ぼすことによって、長手方向軸と少なくとも略平行な方向にプローブカバーを移動させるようになっている。かかる移動機構により、プローブカバー内において均一な張力を確保することができ、また、特にヘッド部分が円錐形状であることと併せてヘッド部分の外面に対してプローブカバーを均一に押すことができる。また、かかる移動機構は、都合の良いことに、プローブカバーの近位端においてプローブカバーに干渉することができる。
【0026】
好ましくは、移動機構は、長手方向軸に対して少なくとも略垂直な方向に、プローブカバーのリザーバの少なくとも一部を移動させるようになっている。かかる移動機構は、特に径方向にオフセットしている光軸と併せて、視界を遮っている耳垢又は任意の他の粒子を視線から有効に変位させ得ることを保証することができる。
【0027】
好ましくは、移動機構は、プローブカバーの遠位部分を伸張させることによって、プローブカバーのリザーバを展開するようになっている。かかる移動機構は、視界を遮っている耳垢又は任意の他の粒子を、ヘッド部分の遠位先端から離れて有効に変位させ得ることを保証することができる。
【0028】
気密連結により、ヘッド部分の遠位先端と鼓膜との間の空洞を加圧するために、プローブカバーとヘッド部分との間に空気を通すことができる。圧力を変化させることにより、鼓膜を変位させることができる。鼓膜の可動性を検出することができる。したがって、鼓膜を加圧することにより、耳道内の様々な物体をより確実に識別することができる。したがって、「気密」という表現は、耳鏡(の遠位先端)と鼓膜との間に配置される耳道の空洞内の圧力が鼓膜の運動を誘導するほど大きくなり得るような、耳鏡の本体とプローブカバーとの間の任意の連結であると理解することができる。言い換えれば、プローブカバーと耳鏡の本体との間の連結は、耳道内の過剰の圧力が実現できる程度まで気体圧力に耐え得る。それにもかかわらず、任意の「気密」連結は、臨界である任意の過剰圧力を前記連結を介して解放できることを保証する所定の限界点を含んでいてもよい。具体的には、「気密」連結は、特定の予張力で耳鏡の本体に連結される弾性材料によって提供され得、前記予張力は、耳鏡の本体とプローブカバーとの間の任意の空洞を介して臨界である任意の過剰圧力を解放できるように規定される。
【0029】
1つの実施形態によれば、耳鏡は、例えば被験体の中耳内の気圧低下に起因する、鼓膜の可動性の低下を検出するのに適している可動性センサユニットを更に含む。可動性センサユニットは、鼓膜の可動性を調べるためのセンサユニットを表す。鼓膜の不動化は、鼓膜の後方の流体又は異常な、特に低い気圧に起因する場合がある。したがって、鼓膜から反射された波は、鼓膜によって殆ど吸収及び/又は減衰されない。これは、例えば、「音響反射」として知られている技術に従って音響変換器及びマイクロホンを用いることによって決定することができる。この技術は、参照することによりその内容を本明細書に援用する米国特許第5,868,682号に詳細に記載されている。しかし、可動性センサユニットの技術は、音響反射、ティンパノメトリ、及び耳音響放射等であるがこれらに限定されない任意の公知技術に基づいていてよい。
【0030】
可動性センサユニットは、電子撮像ユニットと連結してもよく、前記電子撮像ユニットの部品として提供されてもよく、前記電子撮像ユニットは、好ましくは、耳道内において可変圧に曝露されたときの被験体の鼓膜の可動性を検査するようになっている。或いは、1つの特定の実施形態によれば、可動性センサは、可変圧に曝露されたときの被験体の鼓膜の可動性を検査するようになっている光学手段と連結されてもよく、前記光学手段を含んでもよい。この技術は、「気密耳鏡検査法」としても知られており、この技術は、従来、電子撮像ユニットではなく目視検査のための従来の光学手段に適用されている。本発明によれば、電子撮像ユニットは、かかる従来の光学手段と連結してもよく、前記光学手段を含んでもよい。1つの実施形態によれば、可動性センサは、電子撮像ユニットとは別個に提供される。1つの特定の実施形態によれば、可動性センサ及び光学手段は、電子撮像ユニットとは別個に提供される。
【0031】
可変圧に付されたときの鼓膜の可動性を決定するために電子撮像ユニットと併せて可動性センサユニットを用いることにより、目視検査のために通常適用される光学手段(例えば、複数のレンズ)を省略して、別の相乗効果を得ることができる。可動性センサユニットは、耳道内で規定の高圧及び/又は低圧値にて画像を捕捉するために、特にエアポンプ(手動又は電動のエアポンプ)と併せて、例えば、圧力センサを有してよい。エアポンプは、耳道内の圧力を後で低下及び上昇させるために配置される。鼓膜の可動性を評価するために、撮像ユニットにより捕捉されたときの鼓膜の外観の変化、例えば、鼓膜の反射の任意の変化、又は形状の任意の変化を評価してよい。
【0032】
1つの実施形態によれば、耳鏡は、耳道内に可変圧を印加するようになっている加圧手段を含む。また、耳鏡は、加圧手段と連結してよい。耳鏡は、少なくとも1本の気体導管を有してよい。圧力は、(圧縮又は排気)空気によって印加されることが好ましく、この場合、被験体の外耳道及び対応する装置によって気密チャンバが形成される。また、可動性センサユニットは、被験体の外耳道内で可変圧を印加するようになっている加圧手段を含んでもよく、前記加圧手段と連結してもよい。
【0033】
1つの実施形態によれば、固定手段は、プローブカバーの少なくとも一部を移動させるようになっている、特に、電子撮像ユニットの少なくとも1本の光軸に対してプローブカバーを移動させるようになっているプローブカバー移動機構と併せて提供されるアダプタを含んでもよく、前記アダプタによって提供されてもよい。アダプタは、プローブカバー移動機構の部品として提供されてもよい。
【0034】
移動機構は、移動可能に設置されている、特に軸方向に移動可能に設置されているアダプタと、前記アダプタと連携する移動装置とを含むことができる。移動装置は、特に、プローブカバーを軸方向に変位させるために超えなければならない軸力の閾値を求めるために、反力を提供することができる。これにより、ヘッド部分の遠位先端が耳道を画定している軟部結合組織と硬骨との間の移行点又は領域に配置された場合にのみ、即ち、電子撮像ユニットが鼓膜と視覚的に連通した場合にのみ、プローブカバーを変位させることが可能になる。移動装置は、好ましくは、アダプタの第1の位置を画定し、前記第1の位置は、プローブカバー及びアダプタが未だ移動も変位もしていない開始位置に相当する。開始位置は、ヘッド部分によって提供され得る任意の機械的エンドストップ又はリミットストップと併せて画定され得る。
【0035】
好ましくは、アダプタは、ヘッド部分に沿って、特に所定の並進軸に沿ってプローブカバーを軸方向に誘導するために配置される。これにより、耳道内の好ましい位置からヘッド部分を傾けたり変位させたりしにくい移動機構が得られる。
【0036】
好ましくは、移動機構は、特に遠位軸方向において、アダプタに反力を及ぼすために配置される移動装置を含む。これにより、特に電子撮像ユニットが鼓膜と視覚的に連通した場合、反力の量に依存して、特定の時点においてのみプローブカバーを変位させることができる。好ましくは、ヘッド部分の長手方向軸に実質的に平行な方向において、移動装置に予め応力が加えられるか又は弾性的に予め負荷がかけられ、前記移動装置は、機械的エンドストップ又はリミットストップにアダプタを配置するために配置される。
【0037】
1つの特定の実施形態によれば、移動機構は、近位方向において移動機構に及ぼされる軸力の閾値を規定するために配置される。これにより、特に電子撮像ユニットが鼓膜と視覚的に連通したとき、反力の量に依存して、特定の時点においてのみプローブカバーを変位させることができる。具体的には、閾値は、ヘッド部分の形状に基づいて規定することができる。ヘッド部分は、軟部結合組織と硬骨との間の移行領域までしか導入できないような形状である。したがって、ヘッド部分が耳道内で機械的にブロックされると、移動機構に及ぼされる軸力が増大し、移動機構の任意のラッチ機構が解放され得る。
【0038】
好ましくは、アダプタは、前記アダプタの遠位前側につながる気体導管、特に少なくとも1つの孔を有する。かかる設計により、好ましい入口点においてヘッド部分とプローブカバーとの間に気体を通すことができ、前記入口点は、プローブカバーとヘッド部分との間及び/又は二重プローブカバーの2つの殻の間の空洞につながる。
【0039】
1つの実施形態によれば、電子撮像ユニットは、長手方向軸から径方向にオフセットして配置される少なくとも1本の光軸を示す。径方向にオフセットしている少なくとも1本の光軸を示すヘッド部分の遠位端に小さな電子撮像ユニットを設けることによって、患者の耳道を変形させる必要なしに、又は少なくとも、上記従来の耳鏡と同程度耳道を変形させる必要なしに、患者の鼓膜を「見る」ことができる。この理由は、電子撮像ユニットの「視方向」を耳鏡のヘッド部分の長手方向軸に一致させる必要がないためである。むしろ、径方向オフセットにより、耳道が真っ直ぐになっていない場合でさえも、鼓膜に視線を確実に存在させることができるので、装置が「角を見回す」ことが可能になる。具体的には、多くの場合、外耳の耳道は、直線状ではなく、特に、耳道を画定している軟部結合組織と硬骨との間の移行領域又は移行点において少なくとも1つの湾曲を有している。「角」は、この湾曲によって生じる。具体的には、実質的に殆ど常に、耳道は、第1の湾曲及び第2の湾曲を備えるS字(S状)形を有し、前記第2の湾曲は、前記第1の湾曲よりも鼓膜に近接している。具体的には、耳道の第2の湾曲は、耳道の骨部内に少なくとも数ミリメートルも導入されていない耳鏡の任意の光学的視線又は視覚通信を遮る。「角」は、耳道の第2の湾曲であると定義することができる。具体的には、遠位方向において、第2の湾曲は、耳道の骨部につながる。軟部結合組織と硬骨との間の移行点又は領域は、この第2の湾曲に配置される。第2の湾曲は、硬骨によってのみ限定される耳道の部分につながる。好ましくは、移行領域は、湾曲に対して約数ミリメートル遠位(後方)及び約数ミリメートル近位(前方)(特に、0mm〜5mm又は1mm〜3mm)の領域であると定義することができる。
【0040】
好ましくは、移動機構は、少なくとも1本の径方向にオフセットしている光軸に対してプローブカバーを移動させるようになっている。具体的には、プローブカバー移動機構は、特に、任意の耳垢粒子が視界を遮るという問題を引き起こすことなしに又はかかる耳垢粒子の可能性が低減された状態で、電子撮像ユニットの光軸を比較的大きな径方向オフセットで配置できることを保証することができる。耳垢粒子は、多くの場合、耳道を取り囲んでいる内側表面に存在する。したがって、高径方向オフセットで、即ち、耳道の内側面に近接して配置されている光軸については、光軸を覆う部分で耳垢粒子がプローブカバーに付着し、それによって鼓膜における視野を遮る可能性が高まり得る。言い換えれば、径方向にオフセットしている光軸からの視界を耳垢粒子が遮る可能性は、少なくとも略中心に配置されている光軸からの視界を耳垢粒子が遮る可能性よりも高まり得る。プローブカバー移動機構は、鼓膜の内側面に近接して最大径方向オフセットで光軸が配置されている場合でさえも、鼓膜における視界が遮られないことを保証することができる。したがって、本発明は、プローブカバー移動機構を提供することによって、比較的大きな径方向オフセットの偏心観察点から鼓膜を観察することがより実用的且つより確実になり得るという知見に基づいている。プローブカバー移動機構は、耳道が幾つかの物体によって塞がれている場合でさえも、「角を見回す」という概念が実行可能であり且つ便利な方法で実現可能であることを保証することができる。
【0041】
具体的には、視線から任意の粒子又は耳垢を変位させるために、光軸が特に最大径方向オフセットで径方向にオフセットして配置される場合、移動機構によって誘導されるプローブカバーの相対運動又は変位が最も有効である。本発明は、殆どの場合、プローブカバーの遠位先端における中心遠位点から離れて、プローブカバー全体を変位させることが最も好ましいことがあるという知見に基づいている。言い換えれば、プローブカバーの遠位先端における中心遠位点を除いて、プローブカバー全体を近位方向において後方に引っ張ることができる。この遠位点には、好ましくは、プローブカバーリザーバが設けられる。したがって、プローブカバーとヘッド部分との間の相対運動は、遠位点において最小であり得るが、径方向にオフセットして配置される遠位先端の任意の点において最大であり得る。
【0042】
径方向にオフセットしている電子撮像ユニットと併せてプローブカバー移動機構を有する耳鏡は、広範な耳鏡検査訓練を受けることなしに非医師が用いることができ、且つ損傷を引き起こすリスクが著しく低減されている、特に、患者の組織、例えば、耳道の硬骨部分内の組織を刺激するリスクが著しく低減されている耳鏡を提供することができる。かかる耳鏡は、耳道内のヘッド部分の相対位置に実質的に関係なく、特に耳道の骨部、即ち、硬骨によって画定されている部分への任意の特定の挿入深さに関係なく、鼓膜を観察することを可能にする。「角又は湾曲を見回す」ように耳鏡を配置したとき、非医師は、硬骨によって限定されている耳道の部分までヘッド部分を導入する必要はない。従来の耳鏡では、医師が耳道の骨部内に少なくとも数ミリメートル、即ち、第2の湾曲よりも著しく更に内側に耳鏡を導入しなければならないが、本発明に係る耳鏡は、第2の湾曲に隣接して配置することができる。従来の耳鏡では、特にある種の支持又は静止又は固定点を耳鏡の遠位先端に設けるために、耳道の骨部にまで耳鏡を導入する必要がある。耳鏡の遠位先端が骨部内で支持されたら、医師は、耳道を真っ直ぐにするため、及び鼓膜上に光学的視線を確保するために、耳鏡のハンドル部分に梃子の作用を適用することができる。しかし、耳鏡をこのように「整列」させたり、耳道をこのように真っ直ぐにしたりすることは、痛みを伴う。対照的に、本発明に係る耳鏡は、このように「整列」させたり真っ直ぐにしたりする必要がない。
【0043】
好ましくは、径方向オフセットは、遠位端の径方向寸法の少なくとも0.25倍、好ましくは少なくとも0.3倍、より好ましくは少なくとも0.35倍である。かかる比較的大きな径方向オフセットは、遠位先端が軟部結合組織と硬骨との間の移行点までしか導入されていない場合でさえも、耳道内の好ましい偏心観察点に光軸を配置することを保証することができる。好ましくは、少なくとも1本の光軸は、遠位端の内側面にできる限り近接して配置される。それによって、径方向オフセットを最大化することができる。
【0044】
好ましくは、電子撮像ユニット又はその少なくとも1つの光学部品(例えば、レンズ)は、ヘッド部分の最も遠位部分に配置される。具体的には、電子撮像ユニットは、ヘッド部分の前側又は前面と接触していてもよく、電子撮像ユニットは、ヘッド部分の前側又は前面を提供してもよい。これにより、ヘッド部分を耳道に深く導入する必要なしに耳道内の最も遠位に電子撮像ユニットを配置することが可能になる。
【0045】
本発明に係る耳鏡は、例えば、最新のデジタルカメラによって提供される更なる機構を備えていてよい。例えば、耳鏡は、ディスプレイ等の視覚的出力手段、スピーカー等の音響出力手段、取得された画像を保存するためにメモリカードを挿入するためのメモリカードスロット、USBポート等のケーブル接続ポート、Bluetooth(登録商標)、WIFI(登録商標)等の無線接続、及び電池等のエネルギー供給の少なくともいずれかを備えていてよい。
【0046】
好ましくは、「電子撮像ユニットの光軸」は、遠位方向、特に、鼓膜に向かって電子撮像ユニットの最遠位点から延在する軸であって、その配向は、如何なる光学部品によってもそれ以上変更されない。電子撮像ユニットの「電子撮像ユニットの光軸」は、好ましくは、最大径方向オフセットを有する光軸である。
【0047】
電子撮像ユニットは、光軸を画定するビデオカメラ、好ましくは、広角カラービデオカメラを備えていてよい。本明細書において「広角」という用語は、少なくとも80°、好ましくは少なくとも110°、例えば120°の角度を指す。かかる広角カメラは、カメラの光軸が鼓膜の丁度中心に配置されていない場合でさえも、また、適用中に鼓膜と従来の耳鏡のヘッドの先端との間の距離に比べて鼓膜がカメラから比較的離れている場合でさえも、被験体の鼓膜を検出することができる。鼓膜及び耳道の内部の少なくともいずれかの色を判定することができるので、カラービデオカメラの使用が有利である。したがって、赤色度によって炎症を検出することができる。
【0048】
電子撮像ユニットは、小型カメラ、特に、3mm×3mm未満、好ましくは2mm×2mm未満、特に1.2mm×1.2mm、更により好ましくは約1mm×約1mm、又は更には1mm×1mm未満の寸法を有する実質的に平坦な構造のウエハレベルカメラを含んでいてよい。ウエハレベルカメラは、比較的新しい技術を指す。かかるウエハレベルカメラは、僅か約3マイクロメートル/ピクセルの小さなサイズで製造することができる。したがって、ウエハレベルの撮像技術によって、(レンズを含む)カメラの設置面積は、僅か約1mm×約1mm又は更にはそれ以下でありながら、「十分な」解像度の鼓膜の画像、例えば、250ピクセル×250ピクセルの画像を得ることができる。
【0049】
「小型カメラ」という用語は、画像を捕捉する必要な方法に関して、最小寸法、好ましくは0.5mm〜2.5mm、より好ましくは0.5mm〜1.5mm、又は1mmの横寸法又は径方向寸法を有するカメラを指す。「小型カメラ」は、例えば、0.5mm〜1.5mmの直径を有し得る。(長手方向軸に対して平行な)軸方向におけるカメラの寸法は、状況による、即ち、それ程重要ではない。2mm×2mm未満、更により好ましくは約1mm×1mmの径方向寸法は、電子撮像ユニット又はカメラの光軸をヘッド部分の内側面又は外側面に非常に近接して配置することができ、それによって、例えば、10°〜60°、好ましくは15°〜40°、より好ましくは20°〜30°の角度等の比較的大きな角度で耳鏡が「角を見回す」ことができるという利点をもたらす。
【0050】
ウエハ技術に基づくカメラは、感光性と必要なスペースとの間の優れた折衷案をもたらす。感光性は、カメラの開口部又はレンズの寸法に依存する。開口部が大きいほど、感光性が高い。
【0051】
電子撮像ユニットの1本の光軸は、ヘッド部分の長手方向軸に対して実質的に中心に配置され得る。電子撮像ユニットの1本の光軸がヘッド部分の長手方向軸上に配置されている場合、電子撮像ユニットの実質的に平坦な光学部品は、ヘッド部分の長手方向軸に対して傾斜しているか又は傾斜可能であることが好ましく、その結果、電子撮像ユニットの1本の光軸(即ち「視方向」)は、ヘッド部分の長手方向軸に対して角度を成し(長手方向軸に対して傾斜し)、中心観察点からでさえも耳鏡が「角を見回す」ことができるようになる。
【0052】
1つの特定の実施形態によれば、前記電子撮像ユニットは、例えば、カメラによって提供される少なくとも1本の光軸、好ましくは、ヘッド部分の長手方向軸から径方向にオフセットして配置されている少なくとも3個又は4個のウエハレベルカメラによって提供される少なくとも3本又は4本の光軸を含んでいてよい。また、かかる構成により、電子撮像ユニットがヘッド部分の長手方向軸の丁度中心に配置される1本の光軸のみを有する場合に必要となる深さまで電子撮像ユニットを導入する必要なしに鼓膜を自由に見ることができるようになる。前記オフセットは全て、長手方向軸から少なくとも1mm、好ましくは少なくとも2mm、より好ましくは少なくとも2.5mmであってよい。最大径方向オフセットは、ヘッド部分の遠位先端の外径の限度内であることが好ましい。ヘッド部分は、電子撮像ユニットを含むその遠位端が、耳道の鼓膜に接触しない深さまでしか、特に、硬骨に接触しない深さまでしか、又は硬骨によって画定される部分内に最大数ミリメートルしか導入することができないような形状であり径方向寸法を有することが好ましい。患者の外耳の耳道は、鼓膜によって限定されている。尚、患者の外耳の耳道は、軟部結合組織によって取り囲まれており且つ通常毛髪及び耳垢を含む患者の外耳の部分(即ち、患者の外耳道)を指す外側部分を含む。前記外側部分は、患者の外耳の耳道の略外側半分を含む。更に、患者の外耳の耳道は、硬い頭蓋によって取り囲まれており且つ通常毛髪及び耳垢を全く含まない患者の外耳の部分(即ち、被験体の外耳道)を指す内側部分も含む。この部分は、患者の外耳の耳道の外側部分の近位端から鼓膜まで延在している。耳道の内側部分は、機械的摩擦によって傷ついた場合、非常に痛みを感じやすい。耳道の内側部分の損傷は、更に、迷走神経の過剰刺激を介する心血管合併症のリスクを有する。
【0053】
ヘッド部分は、軟部結合組織によって画定されている耳道の領域にしか導入することができず、硬骨によって画定されている耳道の領域には導入されない電子撮像ユニットを前記ヘッド部分の遠位端が含むような形状であることが好ましい。一方では、かかる形状は、耳鏡が非医師によって適用された場合でさえも、遠位端が鼓膜に接触しないことを保証することができる。他方では、耳道内のヘッド部分の位置を補正する必要なしに非医師が耳鏡を適用することができる。むしろ、耳道内に「どうにかして」ヘッド部分を配置するだけでよく、これは、同じ人間によって行うことができる。言い換えれば、全く支援を必要としないので、例えば、独り暮らしの老人による適用にとって好ましい。本発明に係る耳鏡は、非医師による適用を可能にすることができる。具体的には、前記耳鏡は、軟部結合組織によって画定されている耳道の領域にだけヘッド部分を導入するのに十分であるように、「角を見回す」ために配置される。
【0054】
軟部結合組織によって画定されている耳道の領域にしかヘッド部分を導入しないことにより、プローブカバーの変位中に耳道の内側面とプローブカバーとの間の摩擦を確実に低減することができる。硬骨によって画定されている耳道の領域まで深くヘッド部分を導入しないことにより、プローブカバーと耳道の内側面との間の任意の相対運動が痛みを感じやすい任意の組織に刺激を与えないことを保証することができる。
【0055】
好ましくは、遠位端の先端部分は、鼓膜から少なくとも数ミリメートル、好ましくは少なくとも3mm、より好ましくは少なくとも10mm、更に好ましくは少なくとも15mmの距離までしか被験体の外耳の耳道に導入することができない。
【0056】
既に上述した通り、本発明に係る耳鏡の先細のヘッド部分は、従来公知の耳鏡に比べて鈍く丸い先端を有する形状であってよく、それによって、患者に損傷又は不快感を与えるリスクが低減される。したがって、非医師が装置を安全に取り扱うことができる。それにもかかわらず、電子撮像ユニットがヘッド部分の遠位端に設けられ、プローブカバーを変位させる事によって、プローブカバーに付着し且つ耳道、特に鼓膜上における視界を遮っている任意の物体を変位させることができるので、本発明に係る耳鏡は、鼓膜を検出することができる。
【0057】
ヘッド部分の遠位端は、丸く滑らかな形状を備えていることが好ましい。更に、遠位端は、シリコーン等の比較的軟質の材料で作製してもよく、かかる軟質の材料で作製された外面を備えていてもよい。更に、伸縮機構によって又は弾性要素の使用によって、耳道に導入する際の長手方向力を制限することができる。
【0058】
しかし、上記した通り、従来の耳鏡の機能的概念には、ヘッド部分の先端が比較的小さく(通常、約3mmの直径しか有しない)且つ尖っている(鋭い)ことが必要である。成人の外耳道の内側部分の直径が約4mmであることに留意すべきである。したがって、(訓練を受けていない)ユーザが注意を払わない場合、先端部分が外耳道の内側部分に深く導入され、患者に重篤な損傷を与えることがある。このリスクを実質的に避けるために、本発明に係る耳鏡のヘッド部分(これも先細の形態を有する)は、好ましくは、ヘッド部分の長手方向軸に沿ってヘッド部分の遠位端点から4mm以下の位置において、少なくとも4mm、好ましくは5mm超、より好ましくは6mm超の直径を有する。したがって、幾何学的に、ヘッド部分の遠位端を被験体の耳道に深く導入し過ぎる余地がない。好ましくは、被験体の年齢層に従って様々な先細形状を用いてよい。小児の場合、例えば、本発明に係る方法を実施するようになっている耳鏡のヘッド部分は、ヘッド部分の長手方向軸に沿ってヘッド部分の遠位端点から4mm以下離れた位置において、約5mmの直径を有してよい。例えば、ヘッド部分は、0歳〜2歳の小児用の第1の特定の形状、及び2歳超の任意の患者用の第2の特定の形状を備えていてよい。しかし、必ずしも被験体の年齢層に従って様々な先細形状を使用する必要はない。むしろ、本発明のヘッド部分の形状は、被験体の耳道の深くまでヘッド部分を導入する必要がないので、全ての年齢層で使用することができる。したがって、本発明のヘッド部分の形状は、汎用検鏡を提供することができる。
【0059】
好ましくは、ヘッド部分の遠位先端は、少なくとも4.0mm、少なくとも4.7mm、好ましくは4.8mm超、より好ましくは約4.9mmの直径、特に外径を有する。約4.7mm、約4.8mm、又は約4.9mmの直径、特に外径、を有する遠位先端を有するヘッド部分は、従来の耳鏡にとって、特に小児の鼓膜を観察するためには適切でもなく適当でもない。かかる比較的大きな先端は、特に小児の耳において、耳道の骨部内まで著しく深く挿入することができない。ヘッド部分は、少なくとも小児の耳内において、鼓膜から非常に離れた位置でブロックされる。これでは、鼓膜を観察することはできず、鼓膜に視線が全く存在しない。鼓膜が見えるように耳道内で耳鏡の位置を調整することはできない。ヘッド部分は、耳道全体の位置を調整するのに十分な程度深くは導入されない。
【0060】
対照的に、本発明によれば、約4.7mm、約4.8mm、又は約4.9mmの直径を有する遠位先端は、耳道を取り囲んでいる軟部結合組織と硬骨との間の移行領域に相当する耳道の部分内の位置を超えて遠位先端を耳道に挿入することができないことを保証することができる。具体的には、最も深くても、ヘッド部分の遠位先端は、骨部の近位端にドッキング又は連結される。ヘッド部分の遠位先端は、最も深くても、耳道の骨部の外側端に配置されるが、それ以上内側には入らない。言い換えれば、耳鏡のヘッド部分は、電子撮像ユニット又は光学部品(例えば、カメラ)を含む遠位端を、耳道を画定している軟部結合組織と硬骨との間の移行領域までしか耳道に深く導入することができないような形状であることが好ましい。遠位端の内側面の直径は、径方向オフセットを最大化するために、少なくとも4.2mm、好ましくは4.4mm超、より好ましくは少なくとも4.5mm、又は4.6mmであることが好ましい。
【0061】
1つの特定の実施形態によれば、前記ヘッド部分は、3°〜10°、好ましくは4°〜8°、特に5°又は6°の開口角αを有する円錐部分を有する。かかる開口角は、非医師が硬骨によって画定されている耳道の部分までヘッド部分を導入しようと試みる場合、鼓膜に到達する前にヘッド部分の更なる挿入を耳道内でブロックすることを保証することができる。
【0062】
1つの特定の実施形態によれば、ヘッド部分は、4mm〜6mm、好ましくは4.5mm〜5.3mm、更に好ましくは4.7mm〜5.1mm、特に4.9mmの第1の直径(d1)を有する遠位先端を有する。特定の長さによって画定される長手方向軸において、ヘッド部分は、7.5mm〜9.5mm、好ましくは8mm〜9mm、更に好ましくは8.3mm〜8.8mm、特に8.5mmの第2の直径(d2)を有することが好ましい。これら直径の比(d1:d2)は、好ましくは0.57〜0.65、特に約0.58又は約0.63である。かかる形状は、鼓膜に到達する前にヘッド部分をうまくブロックすることを保証することができる。特定の長さは、好ましくは18mm〜22mm、より好ましくは19mm〜21mm、特に20mmである。これら直径又は比は、ヘッド部分、特に遠位端が、ヘッド部分を患者の外耳の外耳道を画定する軟部結合組織の領域にのみ導入でき、外耳道を画定する硬骨の領域には導入されないことを保証する幾何学的寸法を有することを保証することができる。かかる形状は、組織に刺激を与えるリスクなしに非医師が耳鏡を適用できることを保証することができる。
【0063】
好ましくは、プローブカバーは、ヘッド部分の形状と幾何学的に一致する形状又は内輪郭を有する。具体的には、プローブカバーは、上記の通り、ヘッド部分と同じ形状を有する。プローブカバーの壁厚は、好ましくは0.02mm〜0.05mmである。したがって、プローブカバーの外形又は外輪郭は、ヘッド部分に関して記述した測定値に0.04mm〜0.1mmを加えた直径を特徴とし得る。
【0064】
好ましくは、前記ヘッド部分及び/又はハンドル部分は、耳鏡におけるプローブカバーを固定するための定着手段を有する。それによって、相対運動を防ぐことができるようにヘッド部分又はハンドル部分にプローブカバーを固定することができる。かかる定着手段は、プローブカバーが早期に展開されるのを防ぐことができるが、その理由は、遠位先端が十分に深く導入されたときにのみヘッド部分とプローブカバーとの間の相対運動が可能であるためである。耳垢が視覚通信を遮るリスクを最小化することができる。定着手段は、固定手段によって提供されてもよく、前記固定手段と併せて提供されてもよい。言い換えれば、固定手段は、相対運動を防ぐことができるようにプローブカバーを固定するようになっていてよい。
【0065】
好ましくは、耳鏡は、遠位端、特に遠位先端に配置されている少なくとも1つの光源を含み、移動機構は、前記少なくとも1つの光源に対してプローブカバーを移動させるようになっている。かかる移動機構は、照明点、特に好ましい偏心照明点から離れて任意の物体(例えば、耳垢)を変位させることができる。好ましくは、少なくとも1つの光源は、長手方向軸から径方向にオフセットして配置される。
【0066】
用語「光源」は、光子を放出することができる任意の源に当てはまると理解される。遠位端又は先端に配置されている光源は、2種類の組織間の移行領域までしか遠位先端を導入しない場合でさえも、耳道を確実に照らすことができる。遠位偏心光源は、「角を見回す」という概念の実現を容易にする。
【0067】
幾何学的制約によりヘッド部分の遠位端における空間が限定されるので、光源は、光導体の遠位端によって形成されることが好ましい。例えば、光導体は、1mm未満、好ましくは0.5mm未満、より好ましくは約0.2mmの直径を有し得る。光導体は、ヘッド部分の遠位端から離れた位置に存在するLEDに接続されていてよい。光導体は、例えば、好ましくは直径が僅か約0.2mm〜約1mmであるナイロン光導体であってよい。或いは、光源は、例えば、ヘッド部分の遠位端に直接配置されている小さな発光ダイオード(LED)によって形成されてもよい。LEDにより、エネルギー消費が少なく且つ熱の発生が最小限である照明を確保することができる。
【0068】
光導体は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)又はポリアミド、特にポリアミド6.6で作製されてよい。PMMAは、光学特性が優れているという利点をもたらす。ポリアミド6.6は、可撓性が高いという利点をもたらす。
【0069】
光導体は、空間的制約の少ない状態で遠位端から離れて光源を配置することを可能にし且つ有効な放熱のための手段(例えば、プリント回路)用の空間を与える。特に、組織が熱によって損傷を受けるリスクなしに、光源を最大径方向オフセットで配置することができるので、かかる配置は「角を見回す」という概念の実現を容易にする。有効な放熱は、耳道を画定している組織に対する耳鏡の影響を低減し、組織を熱で刺激することが避けられる。
【0070】
耳鏡が、ヘッド部分の遠位端に複数の光源を備えている場合、好ましくは、各光源を別個に制御可能であることが有利である。それによって、好ましい偏心照明点から耳道を照らすことができ、例えば、陰影が低減される。様々な位置から患者の耳道内の物体を照らすことによって、例えば、個々の光源のスイッチを順次入り切りすることによって、必ずしも耳道内の運動機構により電子撮像ユニットを変位させる必要なしに、耳内の異なる物体を区別することができると考えられる。鼓膜等の電子撮像ユニットから比較的離れている物体は、ヘッド部分の遠位端における様々な位置から照らされたとき、外観が僅かしか変化しない。しかし、電子撮像ユニットに比較的近接しているアーチファクト(毛髪及び耳垢等)は、外観(位置)が大幅に変化する。したがって、耳鏡は、様々な位置から照らされている物体を撮影した画像に基づいて、患者の耳内の異なる物体を区別するようになっている手段、具体的には、論理演算ユニット(例えば、マイクロプロセッサ)を備えることが好ましい。
【0071】
好ましくは、論理演算ユニットは、光源のうちの少なくとも2つと接続され、光源のスイッチを個々に入り切りするため及び/又は光の強度を個々に変化させるために配置される。それに加えて又はそれに代えて、少なくとも1つの光源は、光源によって発せられる光の色を変化させることができるように、色を考慮して制御可能であってよい。例えば、炎症を起こした鼓膜を認識するためには赤色が好ましい場合があり、耳垢を認識するためには緑色が好ましい場合がある。
【0072】
耳鏡は、論理演算ユニットを含むことができ、前記論理演算ユニットは、光源のうちの少なくとも2つと接続され、光源のスイッチを個々に入り切りするため及び/又は光の強度を個々に変化させるために配置される。個々にスイッチを入り切りすることにより、反射光パターンの変化に起因する立体視、特に光軸に沿った深さ解析が可能になる。また、耳道を区分毎に分けて照らすことができる。例えば、3つの光源が、それぞれ、耳道の特定の部分を照らす。光源をそれぞれフィードバック制御することにより、特に様々な照明レベルに基づいて、耳道を均一に照らすことができる。論理演算ユニットは、各光源に接続されることが好ましく、前記論理演算ユニットにより、照明レベルのフィードバック制御及び調整の少なくともいずれかが可能になる。
【0073】
電子撮像ユニットと同様に、少なくとも1つの光源は、ヘッド部分の長手方向軸から径方向にオフセットして配置されることが好ましい。かかる構成により、光源がヘッド部分の長手方向軸の中心に配置された場合に必要となるように光源を耳道に深く導入する必要なしに、鼓膜を照らすことが可能になる。オフセットは、長手方向軸から少なくとも1mm、好ましくは少なくとも1.5mm、より好ましくは少なくとも2mmであってよい。オフセットは、ヘッド部分の外径の境界に対して最大であることが好ましい。1つの特定の実施形態によれば、オフセットは、少なくとも1本の光軸の径方向オフセットと同じ範囲である。少なくとも1つの光源の径方向オフセットは、電子撮像ユニットのカメラの径方向オフセットと同程度であることができる。鼓膜全体を観察するために又は陰影を低減するためには、かかる配置が好ましい。
【0074】
1つの実施形態によれば、移動機構は、プローブカバーが前記移動機構に及ぼす機械的反力に基づいて、前記プローブカバーの相対変位を自動的に開始させるようになっている。かかる移動機構により、非医師が耳鏡の適切な取り扱いを知らない場合でさえも、非医師による適切な使用が可能になる。具体的には、かかる機構を用いると、ヘッド部分が耳道内の終了位置において、特に軟部結合組織と硬骨との間の移行領域においてブロックされているとき、プローブカバーを変位させることができる。
【0075】
患者の外耳の外耳道の外側部分と内側部分との間の境界、即ち、2種類の組織の間の移行領域の深さまでしかヘッド部分の先端を耳道に導入しない場合、外耳道の外側部分からの耳垢、毛髪、及び他の種類の汚れ等のアーチファクトが、患者の鼓膜において小さな電子撮像ユニットの視界を遮るリスクが存在する。したがって、耳道内の様々な位置から数枚の画像を捕捉することが有利である。このようにするために、本発明に係る耳鏡は、ヘッド部分の様々な位置に存在するヘッド部分の遠位端における1超の光軸又はカメラ(例えば、2つの光軸又はカメラ)を含んでいてよい。
【0076】
別の好ましい実施形態では、本発明に係る耳鏡は、ハンドル部分に対して電子撮像ユニット、又は電子撮像ユニットの少なくとも1本の光軸を変位させることができるようになっている運動機構を更に備える。かかる運動機構を用いると、耳道内のヘッド部分の位置に実質的に関係なく、好ましい偏心観察点に少なくとも1本の光軸を配置することが可能である。また、かかる運動機構を用いると、被験体の耳道内の1本の光軸から様々な位置から複数の画像を捕捉することができ、それによって、2以上のカメラの必要がなくなるか、又はビームスプリッタ光学素子の必要がなくなる。運動機構を用いると、光軸が1本しか存在し得なくても、複数の好ましい偏心観察点を実現することができる。例えば、鼓膜における耳道内の特定の位置において毛髪が電子撮像ユニットの視界を少なくとも部分的に遮っている場合、電子撮像ユニットは、耳道内の別の位置において鼓膜を自由に見ることができるか、或いは、少なくとも、毛髪によって部分的に遮られていた鼓膜の部分を自由に見ることができる。
【0077】
少なくとも1本の光軸を径方向にオフセットして配置することにより、この少なくとも1本の光軸上の遠位先端に配置されている偏心観察点を、好ましい位置に、例えば、最小曲率半径を有する耳道の部分に隣接して配置できるようになることが見出された。したがって、少なくとも1本の径方向にオフセットしている光軸から離れて、運動機構により、「角を見回す」という概念をより実用的なものにすることが容易になり得る。
【0078】
更に、かかる運動機構を提供することにより、患者の耳における様々な物体を自動的に同定することが可能になる。通常、耳鏡では、主な対象物体は鼓膜である。対照的に、耳垢、毛髪、及び他の種類の汚れ等のアーチファクトは、通常、対象ではない。むしろ、かかるアーチファクトは、患者の鼓膜への視野を遮るとき問題となる。
【0079】
しかし、アーチファクトは、鼓膜に比べて、耳道内において電子撮像ユニットの前で比較的近接しているので、電子撮像ユニットを耳道内で変位させたとき、前記アーチファクトを鼓膜と区別することができる。即ち、アーチファクトは、(電子撮像ユニットまでの距離が短いことから)耳道内の様々な位置/遠近から2枚の画像を捕捉した場合、異なる位置として表現されるが、一方、鼓膜は、(電子撮像ユニットまでの距離が比較的遠いことから)実質的に同じ位置に示される。立体視の原理に従って、本発明の装置は、電子撮像ユニットに対する様々な物体の距離を決定することを可能にする。この決定は、好ましくは耳鏡の一部を形成する論理演算ユニット(例えば、マイクロプロセッサ)によって自動的に計算することができる。更に、患者の耳道内の様々な位置から捕捉した2枚以上の画像を比較することによって、(電子撮像ユニットまでの距離が短いことから)アーチファクトとして同定された物体を画像処理ユニットによって(自動的に)消去することができる。その結果、アーチファクトを消去する画像処理手段によって重畳画像を作成又は計算することができる。画像処理手段は、耳鏡に提供されるマイクロプロセッサ等の論理演算ユニットの形態で提供され得る。したがって、外耳道の外側部分と内側部分との間の境界までしかヘッド部分の先端を耳道に導入しない(耳道に深くは導入しない)場合でさえも、鼓膜をはっきりと表現する画像を得ることができる。
【0080】
運動機構は、回転軸を中心として電子撮像ユニット又は少なくとも1本の光軸を少なくとも部分的に回転させるようになっていることが好ましい。回転軸は、ヘッド部分の長手方向軸に一致していてよい。所定の運動経路に沿って電子撮像ユニットを変位させることによって、上記の通り、電子撮像ユニットと検出される物体との間の距離を自動的に計算することができる。毛髪及び耳垢粒子等の耳道内にみられるアーチファクトの典型的な大きさを考慮して、運動機構は、好ましくは、光軸を患者の耳道内で少なくとも1mm、より好ましくは少なくとも2mm、更に好ましくは少なくとも3mm変位させることができる。例えば、1.8mm又は2mmの径方向オフセットが実現される場合、90°の回転により約3mmの変位が生じる。回転軸を中心として少なくとも90°、より好ましくは少なくとも120°、更により好ましくは180°、又は更にはそれ以上の角度の回転を実現することができる。最も好ましい偏心観察点を見出すために、2本の光軸を有するか又は2個のカメラを含む電子撮像ユニットと併せて、最大90°回転させることが適切であり得る。3本の光軸を有するか又は3個のカメラを含む電子撮像ユニットと併せて、最大60°又は70°回転させることが適切であり得る。運動機構は、両方向、即ち時計方向及び逆時計方向の回転を可能にすることが好ましい。また、運動機構は、1本超の光軸を中心とした回転変位も可能にし得る。運動機構は、少なくとも1つのモータと、1以上のギヤ及び軸受の少なくともいずれかとを備えていてよい。電子撮像ユニットは、かかる運動を可能にするために可撓性ケーブル(例えば、可撓性リボンケーブル)に接続してよい。
【0081】
好ましくは、プローブカバーは、運動機構による電子撮像ユニット又は少なくとも1本の光軸又は少なくとも1つのカメラの変位中にプローブカバーがハンドル部分に対して移動しないように、ヘッド部分及びハンドル部分の少なくともいずれかの少なくとも1つの部分に固定されるようになっている。そうしなければ、運動機構によって電子撮像ユニットが変位した場合でさえも、プローブカバーに付着している耳垢粒子等のアーチファクトが電子撮像ユニットによって表現される。しかし、これは、物体の同定及び捕捉された画像からのアーチファクトの消去に干渉する。
【0082】
電子撮像ユニット又は少なくとも1本の光軸が運動機構によって変位される場合でさえも電子撮像ユニット又は少なくとも1本の光軸に対して所定の距離が維持されるように、少なくとも1つの光源を配置することが好ましい。少なくとも1つの光源と光軸との間の所定の遠位関係により(自動)画像解析を改善することができるので、かかる構成は有利である。運動機構が設けられている場合、前記運動機構は、少なくとも1つの光源も変位させることが好ましい。光源が光導体の形態で提供される場合、光導体は、少なくとも1つの光源のかかる変位を可能にするのに十分な程度可撓性でなければならない。光導体は、ヘッド部分内で遠位に固定されることが好ましく、この場合、前記光導体は、弾性であり、弾性であることにより曲がり及び捻じりの少なくともいずれかが可能になる。或いは、光導体は剛性であってもよく、この場合、ヘッド部分と共に照明装置全体が変位し得る。
【0083】
1つの特定の実施形態によれば、運動機構が、回転軸を中心として少なくとも1つの光源を少なくとも部分的に回転させることができるように、少なくとも1つの光源は、特に、直接又は電子撮像ユニットを介して運動機構と接続され、この場合、前記回転軸は、長手方向軸に一致していることが好ましい。好ましい位置において光源を回転させることにより、高い信頼性で鼓膜全体を観察するのを可能にすることができる。
【0084】
ヘッド部分及びハンドル部分の少なくともいずれかは、運動機構による電子撮像ユニット、少なくとも1本の光軸、又は少なくとも1つのカメラの変位中に移動しないように、プローブカバーを耳鏡に固定するための連結部を提供するフォームフィット形状を有することができる。フォームフィット形状により、電子撮像ユニットが運動機構によって変位するときに、プローブカバーに付着している耳垢粒子等のアーチファクトが前記電子撮像ユニットによって表されないことを保証することができる。好ましくは、フォームフィット形状は、ヘッド部分又はハンドル部分の外面に提供される。
【0085】
好ましくは、電子撮像ユニット、前記電子撮像ユニットの少なくとも1本の光軸、又は少なくとも1つのカメラの光学部品は、回転軸上の所定の点に連続的に向くように回転軸に対して傾斜しており、前記所定の点は、電子撮像ユニット又はカメラまで一定の距離を有する。患者の外耳の外耳道の内側部分の典型的な長さを考慮して、前記距離は、3mm〜20mm、好ましくは10mm〜15mmであってよい。したがって、通常患者の耳内の主な対象物体である鼓膜の中心に配置するために、電子撮像ユニットの「視方向」を最適化する。
【0086】
好都合なことに、本発明の耳鏡は、鼓膜の可動性及び音響インピーダンスを変化させる被験体の中耳内の流体を検出するのに適している流体センサユニット、特に、音響反射、ティンパノメトリ、及び耳音響放射の少なくともいずれかに基づいて検出するようになっている流体センサユニットを更に含む。耳内の流体及び異常に低い可動性の少なくともいずれかの検出は、急性中耳炎(OM)、特に滲出性中耳炎(OME)又は重篤な耳感染症の診断における別の要因を表す。OMEは、中耳滲出液、即ち、急性感染症の徴候も症状もない無傷の鼓膜の後方における液体の存在によって定義される。OMEは、小児において診断される頻度の最も高い疾患の1つである。鼓膜の後方に流体が蓄積した場合、又は中耳内の異常な気圧が原因で鼓膜が膨隆又は陥没した場合、後者は、圧力又は音波に曝されたときに、正常時のように自由に振動することができない。したがって、鼓膜から反射される波は、鼓膜によって吸収及び/又は減衰されにくい。これは、例えば、「音響反射」として知られている技術に従って音響変換器及びマイクロホンを用いることによって決定することができる。この技術は、参照することによりその内容が本明細書に援用される米国特許第5,868,682号明細書に詳細に記載されている。しかし、流体センサユニットの技術は、音響反射、ティンパノメトリー、及び耳音響放射等であるが、これらに限定されない任意の公知の技術に基づいていてよい。
【0087】
例えば、流体センサユニットは、被験体の外耳道内に可変圧を印加するようになっている加圧手段を備えていてよい。流体センサユニットは、電子撮像ユニットと連結されていてもよく、電子撮像ユニットの部品として提供されてもよい。或いは、1つの特定の実施形態によれば、流体センサは、任意の流体を検出するようになっている光学手段と連結されていてもよく、前記光学手段を備えていてもよい。流体センサは、電子撮像ユニットとは別個に設けられる。1つの特定の実施形態によれば、流体センサ及び光学手段は、電子撮像ユニットとは別個に設けられる。鼓膜の可動性を決定するために電子撮像ユニットと流体センサユニットとを併用することにより、(複数のレンズ等)目視検査に通常適用される光学手段を省略することができ、それによって、別の相乗効果が得られる。
【0088】
上述の目的は、本発明に係る耳鏡のヘッド部分に被せるのに適しているプローブカバーであって、近位端において、前記プローブカバーは、前記プローブカバーを前記耳鏡のヘッド部分及びハンドル部分の少なくともいずれかに気密に固定するために配置される突起を有する。かかるプローブカバーにより、感染のリスクを最小限にとどめる実用的な方法で鼓膜を加圧することができる。それに代えて又はそれに加えて、ヘッド部分は、プローブカバーの円錐形及び/又は平坦な部分をプローブカバーで気密封止するためのガスケット等の手段を含んでよい。
【0089】
前記ハンドル部分に対して前記プローブカバーを移動させるために、遠位端において、前記プローブカバーの形状、特に前記プローブカバーの遠位端の形状を変化させることができるリザーバを、プローブカバーが有することができる。具体的には、リザーバは、力、特に引張力がプローブカバーに及ぼされるとき、プローブカバーを耳鏡に連結することができる第1の位置からリザーバがヘッド部分の遠位端に対して変位する第2の位置までプローブカバーを変位させることができる。好ましくは、少なくとも部分的に、リザーバは、プローブカバーに引張力が及ぼされたときに展開することができる、折り畳みフィルム又はホイル部分である。かかるリザーバ、特に折り畳みフィルム又はホイルリザーバは、特に近位方向においてプローブカバーを軸方向に引っ張ることによって、電子撮像ユニットの視野から任意のアーチファクトを変位させることができる。それに代えて又はそれに加えて、リザーバは、少なくとも部分的に、プローブカバーの他の部分よりも延性、伸縮性、伸張性、又は弾性が高い部分によって提供され得る。
【0090】
プローブカバーは、例えば、電子撮像ユニットから離れて存在する耳垢で汚染されているプローブカバーの部分を移動させるために、プローブカバーの一部を展開又は剥離できるように設計されることが好ましい。耳鏡は、電子撮像ユニットとは逆の方向にプローブカバーを移動させるための機械的手段を含むことが好ましく、逆もまた同様である。
【0091】
リザーバは、プローブカバーの遠位先端の中心に配置されているプローブカバーの部分によって、プローブカバーの遠位先端の外側部分に環状に重なり合うプローブカバーの部分によって、又はプローブカバーの遠位先端に設けられる複数の同心円状の湾曲部によって提供されることができる。これら実施形態は、それぞれ、ヘッド部分の遠位先端における観察点、特に、好ましい偏心観察点から(径方向に)離れて任意のアーチファクトを有効に変位させ得ることを保証することができる配置を提供する。具体的には、遠位先端に設けられる環状に重なり合う部分及び複数の同心円状の湾曲部の少なくともいずれかは、リザーバを収容するためのヘッド部分の遠位先端に溝、凹部、又は空洞の必要がないという利点をもたらす。むしろ、更なるセンサ、例えば、赤外線センサユニットを、特に同心円状に、遠位先端に直接配置してもよい。
【0092】
プローブカバーの遠位先端は、プローブカバーの前面又は前側としてみなすことができる。
【0093】
1つの実施形態によれば、プローブカバーは、多重プローブカバー、特に二重プローブカバーである。二重プローブカバーは、プローブカバーが深絞りによって作製される場合でさえも、高い構造安定性を提供する。好ましくは、カメラを被覆する遠位ホイル部分は、非常に薄く且つ透明であり、例えば、30マイクロメートル(μm)〜50マイクロメートル、特に20マイクロメートルの壁厚を有する。二重プローブカバーは、最小限の汚染又は感染リスクで耳道を加圧することを容易にする。プローブカバーの少なくとも1つの殻を、気密シェルとして設けることができる。前記シェルが気体透過性である必要はない。気密シェルは、ヘッド部分から耳道を有効に分離する。
【0094】
1つの実施形態によれば、プローブカバーは、二重プローブカバーであり、プローブカバーの殻間の少なくとも1つのギャップ又は溝が、検査中に耳道への気体導管、特に空気チャネルを提供する。これにより、滅菌性を保証しつつ鼓膜を加圧することが可能になる。
【0095】
好ましくは、リザーバは、二重プローブカバーの内殻によって提供される。この設計は、リザーバが、少なくとも部分的にプローブカバーの外殻によって被覆され得ることを保証することができる。したがって、任意のアーチファクトをより有効に内殻から離すことができる。また、耳道の内側面とリザーバが接触するのを避ける又は防ぐことができ、リザーバが早期に展開されるのを防ぐことができる。
【0096】
1つの実施形態によれば、プローブカバーは、気密接続を提供するのに適しているフォームフィット突起、特にU字形リムを提供する2つの殻を有し、前記突起は、重なり合っている。かかる設計は、プローブカバーの使用を容易にすることができ、また、確実な接続を保証することができる。
【0097】
好ましくは、U字形リムは、プローブカバー移動機構と連動するのに適している。かかる設計は、両方の殻が移動機構によって変位可能であり、殻のうちの一方が他方に対して変位して最終的にプローブカバーの捻じれ又は歪みを引き起こし得るのを防ぐことを保証することができる。
【0098】
それに代えて又はそれに加えて、プローブカバーは、溶接(例えば、超音波溶接)又は糊付けによって近位端で互いに結合している2つの殻を有し得る。
【0099】
遠位先端において、プローブカバーは、開放点及び所定の破壊又は展開点の少なくともいずれかを有することができる。かかる設計により、特に電子撮像ユニットが鼓膜と視覚的に連通したときに、プローブカバーのそれぞれの部分、特にプローブカバーの外殻を視野から変位させることができる。
【0100】
1つの実施形態によれば、プローブカバーは、特に深絞り又は熱成形によって作製される成形プラスチックであり、前記プローブカバーの材料は、好ましくは、ポリプロピレンである。かかるプローブカバーは、実用的な方法で加圧手段と組み合わせ得ることが見出された。具体的には、成形プラスチックが、気密シェルを提供し得る。また、かかるプローブカバーは、特にコスト効率のよい方法で、使い捨てとして容易に提供することができる。したがって、非医師は、耳鏡の任意の部品を清浄又は滅菌する必要がない。また、かかるプローブカバーは、ヘッド部分の耳道への挿入中のプローブカバーの捻じれ又は任意の歪みを防ぐために適切な剛性を有し得る。また、かかるプローブカバーは、プローブカバー又はヘッド部分に及ぼされる力の特定の閾値を超えた場合にのみプローブカバーの範囲を開始させるために、移動機構に軸反力を伝達することができる適切な剛性を有し得る。言い換えれば、プローブカバーの変位が、機械的反力に基づいて自動的に開始され得、耳鏡の耳道への挿入中に早期に生じることがないように、材料又は剛性が提供される。
【0101】
遠位方向において、プローブカバーは、遠位端に向かって壁厚が減少する、特に少なくとも半分減少するか又は1/10〜1/20減少することができる。一方では、このように先細であることにより、プローブカバーの近位部分、特に耳鏡に軸力を伝達するために設けられる部分の適切な剛性を確保することができる。他方では、遠位先端における壁厚が比較的薄いことにより、展開を容易にすることができる。壁厚又は先細は、好ましくは、10マイクロメートル〜100マイクロメートル、更に好ましくは、5マイクロメートル〜70マイクロメートル、特に20マイクロメートル〜50マイクロメートルである。
【0102】
1つの実施形態によれば、電子撮像ユニット又は少なくとも1本の光軸の回転中にプローブカバーがハンドル部分に対して移動しないように、プローブカバーは、耳鏡のヘッド部分及びハンドル部分の少なくともいずれかの少なくとも1つの部分に固定されるのに適している。かかる配置は、耳道内の圧力が意図せず変化することのないことを保証できる。耳鏡におけるプローブカバーの相対位置が一定(不変)であることにより、気密接続が容易になる。
【0103】
1つの実施形態によれば、近位端において、プローブカバーは、ヘッド部分及びハンドル部分の少なくともいずれかの静止部分にプローブカバーを固定するために配置される襟部、特に径方向に突出している円盤状襟部を有する。襟部は、ハンドル部分又はヘッド部分に対してプローブカバーが正確に配置されることを保証することができる。また、襟部は、耳鏡上にプローブカバーを手動で取り付けるために剛性のハンドル部分を提供することができる。また、襟部は、任意の体液からハンドル部分を保護することができる。したがって、非医師は、耳鏡の任意の部品を清浄又は滅菌しなくてもよい。
【0104】
1つの実施形態によれば、耳鏡は、ヘッド部分の遠位端、特にヘッド部分の遠位先端、特に中心に配置されている赤外線センサユニットを更に備えることが好ましい。赤外線センサユニットは、電子撮像ユニットの部品として提供されてもよく、別個のセンサユニットとして提供されてもよい。物体の光学的同定と併せて温度検出を行うための赤外線センサユニットを備える耳鏡を提供することにより、物体、例えば、鼓膜をより確実に同定することができる。赤外線センサユニットを更に備える耳鏡を提供することにより、誤診のリスクを最小化することができる。予診を容易にすることができる。温度検出は、診断の実施において医師を支援することができる。任意のより高度な又は最終的な疾患診断は、医師又は医師による更なる検査によって認められる被験体が示す他の症状に基づいて、医師が行わなければならない。
【0105】
赤外線センサユニットは、論理演算ユニットに接続してよく、前記論理演算ユニットは、赤外線センサユニット及び電子撮像ユニットからのデータを(特に同時に)処理するようになっている。赤外線センサユニットによって取得されるデータは、電子撮像ユニットによって取得されるデータに基づいて検証することができ、逆もまた同様である。赤外線センサユニットは、電子撮像ユニット又は光源に関して論じた位置と同じ位置に設けてよい。同様に、赤外線センサユニットは、電子撮像ユニット又は光源に関して論じたのと同じ方法で変位させてよい。
【0106】
前記耳鏡は、顕微鏡等の論理演算ユニットを更に含んでよい。論理演算ユニットは、電子撮像ユニット、少なくとも1つの光源、及び赤外線センサユニットの少なくともいずれかを制御するようになっている。論理演算ユニットは、例えば、外耳道の鼓膜及び内側部分の少なくともいずれかの炎症を検出するため及び/又は耳内の様々な位置に位置する電子撮像ユニットを用いて得られた2枚の画像及び/又は様々な位置から照らされた物体を比較して患者の耳内の様々な物体を同定及び識別するために、電子撮像ユニットによって得られる画像を解析することができる。論理演算ユニットは、更に、すでに同定されている所定の物体が消去されている新たな画像を作成又は計算するようになっていてもよい。
【0107】
上述の目的は、本発明の実施形態のうちのいずれか1つに係る耳鏡を含み、更に本発明の実施形態のうちのいずれか1つに係るプローブカバーを含む耳検査装置によって本発明に従って達成される。例えば、耳検査装置は、例えば複数の使い捨てプローブカバーを含むキット又はアセンブリとして提供されてもよく、又は、ヘッド部分に取り付け若しくは設置されているプローブカバーを備えていてもよい。
【0108】
上述の目的は、被験体の耳内の物体を同定する方法であって
− ヘッド部分に気密に被せられている少なくとも部分的に透明なプローブカバーと併せて耳鏡の前記ヘッド部分を前記被験体の外耳の耳道に導入する工程であって、前記ヘッド部分が、少なくとも1本の光軸を示す光学電子撮像ユニットを収容している工程と
− 前記ヘッド部分に対して前記プローブカバーを移動させる工程と、
− 前記電子撮像ユニットを用いて少なくとも1枚の画像を捕捉する工程と、
− 特に前記鼓膜を加圧するために、前記プローブカバーを通して前記耳道に気体を入れる工程と
を含む方法によって、本発明に従って達成される。好ましくは、少なくとも1本の光軸は、径方向にオフセットして配置される。かかる方法を用いると、鼓膜を他の物体からより確実に識別することができる。特に、耳道内の可変圧に応答して鼓膜が移動するとき、複数の画像を捕捉することができるので、様々な物体の同定が容易になる。かかる方法により、耳道内のヘッド部分の位置に実質的に関係なく、光軸が鼓膜に向いているかどうかを決定することができる。かかる方法により、実用的な方法で非医師によって適用することが可能になる。
【0109】
本発明の方法によれば、好ましくは、前記方法は、物体の温度を検出するために赤外線センサユニットを用いる工程を更に含み、前記赤外線センサユニットは、好ましくは、ヘッド部分の遠位端に配置される。赤外線センサユニットを使用すると、鼓膜と耳道内の他の物体との識別を容易にすることができる。
【0110】
本発明の方法によれば、好ましくは、前記方法は、例えば、モータによって若しくは機械的ラッチ機構によって、又は弾性要素の軸力に逆らって、特に自動的に、少なくとも1本の光軸に対してプローブカバーの少なくとも一部を移動させる工程を更に含む。好ましくは、プローブカバーの移動は、鼓膜を加圧する前に実施される。
【0111】
プローブカバーの少なくとも一部を相対運動させる工程は、プローブカバー又はヘッド部分に及ぼされる力に依存して開始、特に自動的に開始させてよく、前記力は、耳鏡のヘッド部分又はハンドル部分内に収容されている力センサによって検出することができる。或いは、プローブカバーの少なくとも一部を相対運動させる工程は、機械的に、特に、プローブカバー又はヘッド部分に及ぼされる(軸)力が閾値を超えた場合にのみ圧縮される、予め張力がかけられているか又は予め負荷がかけられている圧縮バネによって開始させることができる。
【0112】
前記方法は、電子撮像ユニットを用いて、少なくとも1本の光軸上に配置されている少なくとも1つの観察点から、特に複数の偏心観察点から複数の画像を捕捉する工程を更に含んでよい。
【0113】
また、上記装置又は方法は、被験体の耳内の鼓膜を同定し、医学的に特徴付けるために実施してもよく、前記方法は、
− ヘッド部分に気密に被せられている少なくとも部分的に透明なプローブカバーと併せて耳鏡の前記ヘッド部分を前記被験体の外耳の耳道に導入する工程であって、前記ヘッド部分が、少なくとも1本の光軸を示す光学電子撮像ユニットを収容している工程と
− 前記ヘッド部分に対して前記プローブカバーを移動させる工程と、
− 前記電子撮像ユニットを用いて少なくとも1枚の鼓膜の画像を捕捉する工程と、
− 前記プローブカバーを通して前記耳道に気体を入れる工程と
− 前記鼓膜の医学的証拠を提供するために、捕捉した前記少なくとも1枚の鼓膜の画像に基づいて前記鼓膜の可動性を評価し、前記鼓膜の医学的特徴付けを行う工程であって、前記鼓膜の医学的特徴付けが、前記鼓膜の湾曲、特に凸性を決定すること、前記鼓膜を加圧し、前記鼓膜の可動性を検出すること、及び前記鼓膜の温度を検出することの少なくともいずれかを含む工程とを含む。前記鼓膜の医学的特徴付けは、特に、例えば、温度又は特定の赤色度に関する所定の範囲に基づいて、装置によって自動的に実施されることが好ましい。
【0114】
本発明に係る方法では、好ましくは、鼓膜の医学的特徴付けは、鼓膜の湾曲、特に凸性を決定することを含む。これにより、鼓膜の膨隆又は陥没を検出することができる。これは、鼓膜の同定を容易にすることができる。また、これは、鼓室内の体液(特定の医学的状態の指標である)の場合のように、診断を容易にすることもでき、鼓膜の湾曲が凸状であることは、中耳内の圧力上昇を示す。大量の体液は、凸状の湾曲、即ち、耳鏡の方に向かう湾曲を引き起こす。膨隆又は陥没は、特定の医学的状態、即ち疾患(例えば、OME)の指標であり得る。
【0115】
本発明に係る方法では、好ましくは、鼓膜の医学的特徴付けは、鼓膜を加圧し、鼓膜の可動性を検出することを含む。例えば、前記方法を実施するための耳鏡は、被験体の外耳道内に可変圧を印加するようになっている加圧手段、例えば、圧力変換器又はポンプを備えていてよい。この技術は、「気密耳鏡検査」としても知られている。好ましくは、電子撮像ユニット自体が、可変圧に曝されたときの被験体の鼓膜の可動性を検査するようになっている。圧力は、(圧縮)空気によって印加されることが好ましく、この場合、被験体の外耳道と対応する装置、即ち、ヘッド部分又は前記ヘッド部分に被せられているプローブカバーとによって気密チャンバが形成される。
【0116】
鼓膜の温度を検出することにより、診断が容易になり得、更に、医師に掛かる必要なしに、非医師に医学情報を提供するのが容易になり得る。