【文献】
加藤裕之、橋本拓郎、渡辺重哉,ステレオPIV計測における模型表面ハレーション防止法,宇宙航空研究開発機構研究開発報告,日本,宇宙航空研究開発機構,2006年 3月31日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
粒子画像流速測定法(PIV、Particle Image Verocimetry)とは、
(a)供試体周りの流体の流れ場に、流体に追従するトレーサー粒子を混入させ、
(b)連続的又は断続的に撮影されたトレーサー粒子の可視化画像から微小時間(dt)離れた2時刻におけるトレーサー粒子の変位ベクトル(dx)を求め、
(c)トレーサー粒子の速度ベクトル(dx/dt)を推定する
方法をいう。
【0003】
PIV法は、流れ場の空間構造を把握しやすく、流速が速い流れ場に対しても適用できるという利点がある。そのため、PIV法を用いた測定装置に関し、従来から種々の提案がなされている(特許文献1〜3参照)。
PIV法を用いて速度ベクトルを求めるためには、トレーサー粒子に可視光を照射し、トレーサー粒子からの散乱光をカメラ、ビデオなどの撮像装置で撮影する必要がある。この時、供試体表面からの反射光が撮像装置に映り込むことがある。特に、供試体表面近傍の流れ場を撮像する際には、反射光が映り込みやすくなる。トレーサー粒子の散乱光に比べて、背景となる反射光の輝度値が相対的に大きくなるため、速度ベクトルの計測精度を低下させる原因となる。
【0004】
反射光の映り込みを抑制する方法として、供試体の表面に反射防止膜を形成することが考えられる。このような反射防止膜としては、例えば、
(a)ポリウレタンを発泡させることにより得られる反射抑制シート(特許文献4)、
(b)透明支持体上に微細な凹凸表面を有する防眩層が形成された防眩フィルム(特許文献5)、
(c)ガラス状炭素からなる基板に対して酸素を含むガスを用いてイオンビーム加工を施すことにより得られ、根元部分から先端に向けて縮径した針状又は錘状の形状を有する突起群を備えた反射防止構造体(特許文献6)、
(d)テーパー状細孔を有する陽極酸化ポーラスアルミナからなる鋳型を作製し、テーパー状細孔を高分子フィルムに転写することにより得られる無反射構造(特許文献7)、
(e)静電植毛技術により短繊維を基材表面に接着した植毛紙(特許文献8)、
などが知られている。
【0005】
起毛系のマクロ的構造物(特許文献4、8)は、現状、反射低減が最も高いことが経験上明らかになっており、カメラレンズや望遠鏡の内装材として用いられている。しかし、マクロ的構造物は厚さが0.3mm以上あるため、PIV用の供試体の表面にこれを貼り付けると、供試体近傍の流れ場への影響のみならず、供試体の表面形状そのものを変更してしまう問題がある。
【0006】
一方、ナノスケールの突起構造(特許文献5〜7)は、通常、5°正反射条件でほぼ無反射となることが知られている。しかし、入射角の大きい条件でほぼ無反射となる反射防止膜は少ない。例えば、特許文献5には、入射角30°で光を入射したときに、反射角30°の反射率が0.05%以上2%以下となる点が記載されている。また、特許文献6には、光の入射角を5°、12°、30°、又は45°に変化させた場合であっても、反射率は1%未満となる点が記載されている。
さらに、PIV実施時にこれらの構造をそのまま利用しても、必ずしも効果が現れるわけではなく、さらなる絞り込みが必要である。また、これらの構造は、平坦な基板上、あるいはレンズなどの単純曲面上に形成するのが通常であり、自由曲面上に適用した事例はない。
【0007】
非特許文献1は、上記の問題点に対処する方法を提案した唯一の文献である。同文献には、市販されている様々な表面処理法を系統的に調べ、艶あり黒が最も効果があることが記載されている。また、ローダミン等を用いて波長シフトさせ、バンドパスフィルタを用いて撮像する手法も提案されている。しかしながら、正反射条件では十分な写り込み低減には至らない。
【0008】
さらに、非特許文献2、3には、実験後の画像処理により、ソフト的に写り込みを除去する方法が開示されており、いくつかの事例での効果が示されている。しかしながら、その手法の適用には多大な労力を要する。また、粒子そのものの情報が失われる可能性もあるため、完全なノイズ除去が保証されるものではない。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 反射防止構造体]
図1に、本発明の一実施の形態に係る反射防止構造体の断面模式図を示す。なお、
図1では、見やすくするために各部の寸法を実際の寸法より拡大して描いてある。
【0023】
図1において、反射防止構造体10は、
可視光(波長:λ)の受光面側に複数の突起12a、12a…を備えた突起構造体12と、
突起構造体12の裏面側に形成された、吸光係数αと層厚さtの積で定義される吸収度αtが6以上である黒色材料からなる黒化層16と
を備えている。
反射防止構造体10は、突起構造体12と黒化層14との間に挿入された支持体14をさらに備えていても良い。
【0024】
[1.1. 突起構造体]
[1.1.1. 形状]
「突起構造体12」とは、平面上又は曲面上に、複数の突起12a、12a…が規則的又は不規則的に並んでいる構造体をいう。
突起12aは、根元の径が大きく、かつ、先端に向かって径が小さくなる構造を備えている必要がある。これは、空気層と突起12aの共存領域の屈折率を徐々に変化させるためである。このような突起構造体12に光を入射させると、光は、表面で反射されることなく突起構造体12を透過する。突起12aの形状としては、例えば、錘状、半球状、半楕円球状などがある。
また、突起12aの間に平坦部が露出していると、反射光の輝度値(又は反射率)が大きくなる場合がある。従って、受光面に平坦部が露出しないように、突起12aを密に並べるのが好ましい。
【0025】
[1.1.2. 入射光]
突起構造体12に入射させる光は、粒子画像を可視化する必要があるため、可視光である必要がある。入射光の波長λは、可視光域である限りにおいて特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な値を選択することができる。
入射光は、単色光であっても良く、あるいは、白色光であっても良い。鮮明な粒子画像を得るためには、入射光の強度は強いほど良い。単色光は、白色光に比べて高強度の光を発生させるのが容易であるので、入射光として好適である。
入射光の形状は、特に限定されない。例えば、入射光は、シート状の形状を有する光(シート光)であっても良く、あるいは、ボリューム光であっても良い。
【0026】
[1.1.3. 突起の寸法]
各突起12aの寸法は、反射光の輝度値に影響を与える。シート状の入射光が物質の境界面で反射する場合において、入射光は、電界成分が入射光のシート面に垂直な光(s波、s偏光)と、電界成分がシート面に平行な光(p波、p偏光)に分けることができる。一般に、s波は、入射光の入射条件によらず、p波よりも反射率が大きくなることが知られている。突起12aの寸法を最適化すると、反射光の輝度値がより高くなる条件下(すなわち、s偏光条件下)においても、高い反射防止効果が得られる。
【0027】
一般に、突起12aの高さHが60nm以上になると、高い反射防止効果が得られると言われている。s偏光条件下において、艶あり黒よりも高い反射防止効果を得るためには、突起12aの高さHは、100nm以上が好ましい。高さHは、好ましくは、170nm以上、さらに好ましくは、180nm以上、さらに好ましくは、200nm以上である。
【0028】
一方、突起12aのアスペクト比が大きくなりすぎると、均一な直立構造を製造するのが困難となるため、ヘイズが大きくなる。従って、突起12aのアスペクト比は、5以下が好ましい。
ここで、「アスペクト比」とは、突起12aの最大部の直径Dに対する突起12aの高さHの比(=H/D)をいう。
図1に示すように、突起12aが密に配列している場合、直径Dに代えて、突起12aのピッチPを用いることができる。
【0029】
また、反射光の輝度値は、入射光の波長λの影響を受ける。反射構造体10の表面に光の波長以下の小さな凹凸を持つ突起構造体12を形成すると、表面から内部に向かって屈折率が徐々に変化する。その結果、入射光は、表面で反射することなく突起構造体12を透過する。高い反射防止効果を得るためには、突起12aのピッチP及び直径Dは、それぞれ、λ以下である必要がある。
ここで、突起12aのピッチP及び直径Dを論ずる場合において、「入射光の波長λ」とは、
(a)入射光が単色光である時は、光の中心波長をいい、
(b)入射光が白色光である時は、最大のエネルギーを持つ光の波長をいう。
【0030】
[1.1.4. 吸光係数]
反射防止構造体10は、入射光が反射することなく突起構造体12を透過し、透過した光を黒化層16が吸収することによって光の反射を抑制する。そのため、突起構造体12の材料の吸光係数α(=4πκ/λ、κは消衰係数)は、小さいほど良い。αは、好ましくは、α<100cm
-1、さらに好ましくは、α<50cm
-1、さらに好ましくは、α=0(無色透明)である。
但し、
(a)突起構造体12と黒化層の16の界面、あるいは、
(b)突起構造体12と黒化層16の間に支持体14が挿入されている時には、突起構造体12と支持体14の界面、及び支持体14と黒化層16の界面
で入射光が反射される場合がある。界面での反射を抑制するためには、突起構造体12、支持体14、及び黒化層16の屈折率を最適化する必要がある。この点については、後述する。
【0031】
[1.1.5. 材料]
上述した条件を満たす限りにおいて、突起構造体12の材料は、特に限定されない。突起構造体12の材料としては、例えば、
(a)光反応性ポリマー、
(b)熱可塑性ポリマー(ポリカーボネート・ポリエチレン、ポリスチレン、ポリメタクリル酸(PMA)など)、
などがある。
【0032】
[1.2. 支持体]
[1.2.1. 形状]
支持体14は、突起構造体12を支持するためのものである。従って、ハンドリングが可能な程度の強度を持つ突起構造体12の製造が可能である場合には、支持体14を省略することができる。支持体14を用いる場合、その形状は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な形状を選択することができる。また、特定の波長λに応じて、支持体14内部での光の干渉を考慮して支持体14の層厚さを選択することで、波長λに対してより低い反射率を得ることもできる。なお、
図1において、支持体14は、フィルム状に描かれているが、これは単なる例示である。
【0033】
支持体14の形状としては、例えば、
(a)可撓性を持つフィルム、
(b)厚さが数mm〜数cmである平板、
(c)供試体の表面形状に倣った表面を持つ3次元形状
などがある。
【0034】
突起構造体12は、全体の厚さを1μm未満にすることができる。このような薄膜状の突起構造体12をフィルム状の支持体14で支持すると、可撓性のあるフィルム状の反射防止構造体10が得られる。このフィルムを供試体表面に貼り付けて、PIV測定を行うことができる。この場合、反射防止構造体10全体の厚さが厚くなり過ぎると、反射防止構造体10を供試体表面に貼り付けたときに、供試体の表面形状が変化し、供試体の表面近傍の流れ場を正確に測定するのが困難となる。
フィルム状の反射防止構造体10を供試体の表面に貼り付ける場合において、供試体の表面近傍の流れ場を正確に測定するには、反射防止構造体10全体の厚さが0.1mm以下となるように、支持体14の厚さを定めるのが好ましい。
【0035】
一方、供試体の表面にフィルム状の反射防止構造体を貼り付けることに代えて、供試体の全体又は供試体の表面近傍をこのような反射防止構造体で構成することができる。
例えば、供試体の表面の内、PIV測定が行われる部位が平面である場合、厚さが数mm〜数cmである平板状の支持体14と、その表面に形成された厚みが均一な突起構造体12とを備えた反射防止構造体10を作製する。得られた厚板状の反射防止構造体10は、そのままPIV測定用の供試体として用いても良く、あるいは、これを供試体の表面に嵌め込んで使用しても良い。
【0036】
供試体の表面が3次元形状を持つ場合も同様であり、供試体の表面形状に倣った表面を持つ3次元形状の支持体14と、支持体14の表面に形成された厚みが均一な突起構造体12とを備えた反射防止構造体10を作製する。得られた3次元形状を有する反射防止構造体10は、そのままPIV測定用の供試体として用ても良く、あるいは、これを供試体の表面に嵌め込んで使用しても良い。
【0037】
[1.2.2. 吸収度]
支持体14の材料の吸収度αt(α:吸光係数、t:層厚さ)は、特に限定されない。すなわち、支持体14の材料の吸収度αtは、αt<6であっても良く、あるいは、αt≧6であっても良い。
【0038】
[1.2.3. 屈折率]
反射防止構造体10の構成要素の屈折率は、反射光の輝度値に影響を与える。これらの屈折率が適切でないと、各構成要素の界面において入射光が反射されやすくなる。
高い反射防止効果を得るためには、次の式(1)の関係が成り立つのが好ましい。
|n
i−n
i+1|<0.1 ・・・(1)
但し、|n
i−n
i+1|は、隣接する2つの層の屈折率の差の絶対値。
なお、支持体14を備えていない反射防止構造体10の場合、式(1)の左辺は、突起構造体12の屈折率(n
i)と黒化層16の屈折率(n
i+1)の差の絶対値を表す。また、より高い反射防止効果を得るためには、|n
i−n
i+1|<0.02が好ましい。
【0039】
[1.2.4. 材料]
上述した条件を満たす限りにおいて、支持体14の材料は、特に限定されない。支持体14の材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルにトリル(PEN)、アクリルなどがある。
【0040】
[1.3. 黒化層]
黒化層16は、突起構造体12(及び支持体14)を透過した光を吸収するためのものである。そのため、黒化層16には、吸収度αt≧6である黒色材料が用いられる。黒化層16の材料の吸光係数αは、高いほど良い。黒化層16の厚さtは、αt≧6を満たす限りにおいて、特に限定されない。
【0041】
黒化層16としては、例えば、
(a)艶あり黒などの黒化塗料を突起構造体12の裏面又は支持体14の裏面に塗布することにより得られる層(塗布層)、
(b)突起構造体12の裏面又は支持体14の裏面に貼付られた黒色ポリマーシート、
などがある。
黒化層16として黒色ポリマーシートを用いる場合、光の侵入に影響しない粘着層を利用する必要がある。
【0042】
[1.4. 用途]
本発明に係る反射防止構造体10は、種々の用途に用いることができる。例えば、本発明に係る反射防止構造体10は、PIV計測に用いられる供試体表面の反射防止層として使用することができる。少なくとも表面が反射防止構造体10からなる供試体の周囲にトレーサー粒子を含む流体の流れ場を形成し、供試体に可視光を照射すると、入射光の入射角が大きい条件、あるいは、反射光の輝度が大きくなる反射条件(s偏光条件)であっても、光の反射を抑制することができる。そのため、本発明に係る反射防止構造体10を用いると、供試体の表面近傍における前記流体の流れ場を正確に計測することができる。
ここで、「供試体の表面近傍」とは、供試体の表面から1mm以下の領域をいう。
【0043】
[2. 反射防止構造体の製造方法]
本発明に係る反射防止構造体は、以下のような方法により製造することができる。
【0044】
[2.1. 基板準備工程]
まず、アルミニウム基板を準備する(基板準備工程)。フィルム状又は平板状の反射防止構造体10を製造する場合、表面が平坦であるアルミニウム基板を準備する。一方、3次元形状を有する反射防止構造体10を製造する場合には、3次元形状(雄型)を反転させた表面形状(雌型)を有するアルミニウム基板を準備する。
【0045】
[2.2. 鋳型形成工程]
次に、アルミニウム基板の表面の内、突起構造体12を形成する部分に対し、陽極酸化と酸化膜の除去(エッチング)とを繰り返す(鋳型形成工程)。これにより、アルミニウム基板の表面にテーパー状の細孔が規則的又は不規則的に並んだ鋳型が得られる。この時、陽極酸化条件及びエッチング条件を最適化すると、細孔の高さH及びピッチPを制御することができる。
【0046】
[2.3. 突起形成工程]
次に、この鋳型に突起構造体12の材料を充填する。例えば、突起構造体12がポリマーからなる場合、鋳型にポリマー融液又はポリマー溶液を充填し、ポリマーを固化させると、ポリマー表面に鋳型の凹凸が転写され、突起構造体12が得られる。この時、少量の材料を鋳型に充填すると、薄膜状の突起構造体12が得られる。一方、多量の材料を鋳型に充填すると、バルク状の突起構造体12が得られる。
【0047】
[2.4. 支持体形成工程]
次に、必要に応じて、鋳型に支持体14の材料を充填する。例えば、支持体14がポリマーからなる場合、鋳型にポリマー融液又はポリマー溶液を充填し、ポリマーを固化させると、突起構造体12の裏面に支持体14が積層された積層体が得られる。
【0048】
[2.5. 黒化層形成工程]
次に、突起構造体12の裏面又は支持体14の裏面に、吸収度αt≧6である黒化層16を形成する。黒化層16を形成した後、鋳型を取り除くと、本発明に係る反射防止構造体10が得られる。
【0049】
[3. 粒子画像流速測定装置]
本発明に係る粒子画像流速測定装置(以下、「PIV装置」ともいう)は、以下の構成を備えている。
(1)前記粒子画像流速測定装置は、
供試体周りの流体の流れ場に含まれ、かつ前記流体の流れに追従するトレーサー粒子に可視光(波長:λ)を照射する光源と、
前記トレーサー粒子からの散乱光を撮像する1又は2以上の撮像装置と
を備えている。
(2)前記粒子画像流速測定装置は、少なくとも表面が反射防止構造体からなる前記供試体の表面近傍における前記流体の流れ場を計測するために用いられる。
(3)前記反射防止構造体は、
前記可視光の受光面側に複数の突起を備えた突起構造体と、
前記突起構造体の裏面側に形成された、吸光係数αと層厚さtの積で定義される吸収度αtが6以上である黒色材料からなる黒化層と
を備えている。
(4)前記突起構造体は、
前記突起の高さが60nm以上であり、
前記突起のピッチ及び最大部の直径が、それぞれ、λ以下である。
【0050】
粒子画像測定装置は、さらに、
(a)前記光源及び前記撮像装置を固定する光学ベンチ、
(b)前記光学ベンチを前記供試体に対して相対移動させる光学ベンチ移動手段、及び/又は、
(c)微小時間離れた2時刻において撮像された粒子画像から、前記トレーサー粒子の速度ベクトルを算出する演算手段
をさらに備えていても良い。
【0051】
[3.1. 供試体、及び反射防止構造体]
本発明において、供試体は、特に限定されない。供試体としては、例えば、自動車、飛行機、船舶、建造物の模型、あるいはそれらの実機、あるいはそれらの部品などがある。
供試体の少なくとも表面は、本発明に係る反射防止構造体からなる。反射防止構造体の詳細については、上述した通りであるので説明を省略する。
【0052】
[3.2. 流体及びトレーサー粒子]
本発明において、供試体周りの流れ場を形成するための流体は、
(a)大気、不活性ガスなどの気体、あるいは、
(b)水、有機溶剤などの液体
のいずれであっても良い。
トレーサー粒子は、少なくとも流体の流れに追従可能なものであれば良い。例えば、流体が気体である場合、トレーサー粒子としては、例えば、オリーブ油、DEHS(Di-ethylhexyl sebacate)などがある。また、流体が液体である場合、トレーサー粒子としては、例えば、ポリスチレン、シリカ、ナイロンなどがある。
【0053】
[3.3. 光源]
光源は、流体の流れに追従するトレーサー粒子に可視光を照射するためのものである。光源は、単色光を照射するものでも良く、あるいは、白色光を照射するものでも良い。鮮明な粒子画像を得るためには、光源は、単色光を照射するものが好ましい。光源は、シート状の光を照射するものでも良く、あるいは、ボリューム光を照射するものでも良い。さらに、光源は、連続光を照射するものでも良く、あるいは、パルス光を照射するものでも良い。光源としては、例えば、レーザー光照射装置、LEDなどがある。
【0054】
[3.4. 撮像装置]
撮像装置は、トレーサー粒子からの散乱光を撮像するためのものである。撮像装置は、1個であっても良く、あるいは、2個以上であっても良い。1個の撮像装置を備えたPIV装置の場合、速度ベクトルの2次元情報を得ることができる。一方、2個以上の撮像装置を備えたPIV装置の場合、速度ベクトルの3次元情報を得ることができる。
撮像装置と光源の位置関係は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な位置関係を選択することができる。
【0055】
[3.5. 光学ベンチ及び光学ベンチ移動手段]
PIV装置は、光源、又は、光源及び前記撮像装置を固定するための光学ベンチをさらに備えていても良い。この場合、光学ベンチを供試体に対して相対移動させる光学ベンチ移動手段をさらに備えているのが好ましい。光学ベンチ移動手段は、光学ベンチ又は供試体のいずれか一方を移動させるものでも良く、あるいは、双方を移動させるものでも良い。
光学ベンチを用いて光源及び撮像装置を固定した場合、光の照射方向及び撮影方向を固定することができる。この状態で光学ベンチを供試体の表面に沿って相対移動させると、複雑な表面形状を有する供試体であっても、供試体の表面近傍の流れ場を計測することができる。
【0056】
[3.6. 演算手段]
PIV装置は、微小時間(dt)離れた2時刻において撮像された粒子画像から、トレーサー粒子の速度ベクトルを算出する演算手段をさらに備えていても良い。2時刻の粒子画像を対比するだけでも、流れ場の情報ある程度知ることができる。しかし、演算手段をさらに備えている場合には、速度ベクトルを数値化することができる。
速度ベクトルを求めるための時間間隔(dt)は、目的に応じて最適な値を選択する。一般に、流れ場の流速に対してdtが短すぎる場合及び長すぎる場合、それぞれ速度と空間のダイナミックレンジを低下させる原因となる。そのため、流れ場の流速が速くなるほど、それに応じてdtを短くするのが好ましい。
【0057】
速度ベクトルを算出するための方法は、特に限定されない。速度ベクトルを算出する方法としては、例えば、
(a)特定の粒子に着目し、その2時刻の位置から速度ベクトルを求める方法、
(b)撮像画像を検査領域に分割し、検査領域ごとに2時刻の粒子画像の輝度値パターンの相関から、検査領域内の移動方向と距離を算出することで、速度ベクトルを求める方法、
などがある。
【0058】
[3.7. 具体例]
[3.7.1. 粒子画像流速測定装置(1)]
図2に、2台のカメラを備えた粒子画像流速測定(PIV)装置(1)の模式図を示す。
図2において、PIV装置(1)20aは、第1カメラ22と、第2カメラ24と、光源26とを備えている。光源26は、光学ベンチ28のほぼ中央に固定され、第1カメラ22及び第2カメラ24は、それぞれ、光学ベンチ28の両端に固定されている。光学ベンチ28は、図示しない光学ベンチ移動手段により、紙面の左右方向に移動可能になっている。
供試体30は風洞(図示せず)の中に設置されており、光学ベンチ28は風洞のガラス窓32の外側に設置されている。さらに、供試体30の少なくとも表面は、本発明に係る反射防止構造体(図示せず)からなる。
【0059】
L
t及びL
nは、それぞれ、光源26からの光が照射される位置近傍での供試体30の表面の接線及び法線である。θ
iは、入射光の入射角(=正反射光の反射角)であり、供試体30表面からの正反射光は、実線の矢印で示されている。β
1は、法線L
nと第1カメラ22の光軸とのなす角である。β
2は、法線L
nと第2カメラ24の光軸とのなす角である。第1カメラ22と第2カメラ24は、これらの光軸が供試体30の表面近傍の空間(
図2中、ハッチングで示した領域)で交わるように、光学ベンチ28に固定されている。
【0060】
[3.7.2. 粒子画像流速測定装置(2)]
図3に、2台のカメラを備えた粒子画像流速測定(PIV)装置(2)の模式図を示す。
図3において、PIV装置(2)20bは、第1カメラ22と、第2カメラ24と、光源26とを備えている。光源26は光学ベンチ28の一方の端部に固定され、第2カメラ24は他方の端部に固定されている。第1カメラ22は、光源26と第2カメラ24の中心よりも光源26寄りの位置に固定されている。光学ベンチ28は、図示しない光学ベンチ移動手段により、紙面の左右方向に移動可能になっている。
供試体30は風洞(図示せず)の中に設置されており、光学ベンチ28は風洞のガラス窓32の外側に設置されている。さらに、供試体30の少なくとも表面は、本発明に係る反射防止構造体(図示せず)からなる。
【0061】
L
t及びL
nは、それぞれ、光源26からの光が照射される位置近傍での供試体30の表面の接線及び法線である。θ
iは、入射光の入射角であり、供試体30表面からの正反射光は、実線の矢印で示されている。β
1は、法線L
nと第1カメラ22の光軸とのなす角である。β
2は、法線L
nと第2カメラ24の光軸とのなす角である。第1カメラ22と第2カメラ24は、これらの光軸が供試体30の表面近傍の空間(
図3中、ハッチングで示した領域)で交わるように、光学ベンチ28に固定されている。
【0062】
[3.7.3. 粒子画像流速測定装置(3)]
図4に、1台のカメラを備えた粒子画像流速測定装置(3)の模式図を示す。
図4において、PIV装置(3)20cは、カメラ22と、光源26とを備えている。光源26は、光学ベンチ28に固定され、カメラ22は所定の位置に固定されている。光学ベンチ28は、図示しない光学ベンチ移動手段により、紙面の左右方向に移動可能になっている。光源26を移動させる場合、光源26の光軸とカメラ22の光軸の交点はカメラ22の光軸に対して平行方向に移動するため、カメラ22のピント調整を行いながら粒子画像を撮影する。
供試体30は風洞(図示せず)の中に設置されており、カメラ22及び光源26は風洞のガラス窓32の外側に設置されている。さらに、供試体30の少なくとも表面には、本発明に係る反射防止構造体(図示せず)からなる。
【0063】
L
t及びL
nは、それぞれ、光源26からの光が照射される位置近傍での供試体30の表面の接線及び法線である。θ
iは、入射光の入射角であり、供試体30表面からの正反射光は、実線の矢印で示されている。βは、法線L
nとカメラ22の光軸とのなす角である。カメラ22と光源26は、これらの光軸が供試体30の表面近傍の空間(
図4中、ハッチングで示した領域)で直交(θ
1+β=90°)するように設置されている。
【0064】
[4. 流速測定方法]
本発明に係る流速測定方法は、本発明に係る粒子画像流速測定装置を用いて、前記供試体周りの流体の流れ場を計測することを特徴とする。
測定条件は、特に限定されるものではなく、目的に応じて種々の条件を選択することができる。また、粒子画像流速測定装置及び反射防止構造体の詳細については、上述した通りであるので説明を省略する。
【0065】
[5. 作用]
図2に示すPIV装置(1)は、速度3成分計測を行うための典型的な装置である。第1カメラ22、第2カメラ24、及び光源26を光学ベンチ28に固定し、これらを一体で気流方向に移動させながら、流れの速度場を計測する。
【0066】
図2に示すPIV装置(1)の場合、第1カメラ22は、第2カメラ24に比べて、より正反射条件に近い位置にある。
図5に、PIV装置(1)20aを用いて反射防止構造体のない供試体30周りの粒子画像を撮像した時の、第1カメラ22の撮像画像(
図5(A))、及び第2カメラ24の撮像画像(
図5(B))を示す。
図5より、第1カメラ22の撮像画像にのみ、反射光が映り込んでいるのがわかる。このような場合、供試体30近傍ではS/N比が悪化するため、粒子群の移動速度、すなわち速度場を正確に求めることができない。特に、PIVで用いる粒子の散乱光特性は、光源の照射方向に強い分布を持つため、より厳しい条件となる。
【0067】
上記のような反射光を避けるため、
図3に示すPIV装置(2)20bのような設置方法が考えられる。しかしながら、供試体30の角度や部位によっては、正反射光が映り込む。
図3に示すPIV装置(2)の場合、第1カメラ22に反射光が映り込む。
図4に示すように、カメラの光軸と光の入射方向とのなす角αが常に90°となる2次元計測の場合も同様であり、供試体30の表面の角度次第で正反射条件となる。
このように、PIVを実施するあらゆる場合において、供試体表面からの反射光が撮像画像に写り込む問題は、物理的に避けるのが難しい。そのため、供試体30の表面近傍の流れ場を正確に把握することが困難になることが多い。
【0068】
非特許文献1で示されているように、現状は、艶あり黒を用いて光を吸収し、かつ散乱光を抑制し、正反射条件付近を避けてカメラを配置する方法が効果的である。3次元的な曲面を持つ形状の場合、正反射が避けられない場合も存在するため、反射防止効果が不十分となる。
また、カメラレンズや望遠鏡などの内装材として利用される植毛系の材料を用い、その光を閉じ込める性質を利用して、反射を抑制することも効果的である。しかし、植毛系の材料は、厚さが厚いために、流れそのものへの影響のみならず、供試体表面の特徴を出すことが難しい。そのため、植毛系の材料は、ごく限られた条件でしか使用できないのが現状である。
【0069】
これに対し、PIV計測を行う場合において、供試体の少なくとも表面を、所定の構造を備えた反射防止構造体とすると、入射光の入射角が大きい条件、あるいは、反射光の輝度が大きくなる反射条件(s偏光条件)であっても、艶あり黒よりも高い反射防止効果が得られる。
さらに、このような反射防止構造体は、複雑な表面形状を有する供試体の表面に直接、形成することができる。また、このような反射防止構造体は、厚さを極めて薄くすることが可能であるため、これを複雑な表面形状を有する供試体の表面に貼り付けることもできる。そのため、供試体の表面形状を著しく変更することなく、供試体表面近傍の流れ場を正確に計測することができる。
【実施例】
【0070】
[1. 実験方法]
[1.1. 実験装置]
図6(A)に、
図2〜4に代表される典型的なPIV装置のセットアップ方法を一般化した実験装置の模式図を示す。
図6(B)に、この実験装置の供試体・カメラ・シート光の位置関係の模式図を示す。この装置を用いて、供試体表面特性と撮像画像への映り込みとの関係を評価した。光源には、レーザーシート照射装置(Nd:YAGレーザー、523nm)を用いた。カメラの光軸とレーザーシート光とのなす角αの絶対値は、90°以下である。なお、この実験方法は、非特許文献1で採用された手法を、実際の計測に近い条件になるよう、シート光に置き換えたものである。
【0071】
入射角θ
iを変化させながら、撮像されたシート光の輝度値を評価した。従来の供試体表面処理手法との相対的な比較により、反射低減の有無を調べた。
また、上記の輝度値測定と光学特性との対応付けを取るため、供試体表面の絶対反射率を測定した。測定は、分光光度計(SolidSpec-3700、島津製作所製)に可変角絶対反射装置を取り付けて実施した。
【0072】
[1.2. 反射防止構造体]
特許文献8に記載の方法を用いて、
図1に示すような突起構造体12を備えた反射防止構造体10(以下、単に「突起構造体」ともいう)を作製した。支持体14には、主としてPETを用い、その裏面には艶あり黒色塗装を施した。
比較として、市販の植毛紙(以下、単に「植毛紙」ともいう)、及び表面が平坦な支持体14の裏面に艶あり黒色塗装を施した試料(以下、単に「艶あり黒」ともいう)も試験に供した。表1に、各試料の構造を示す。
【0073】
【表1】
【0074】
図7(A)の左図及び右図に、それぞれ、突起構造体の表面及び断面のSEM像を示す。
図7(B)に、この突起構造体の反射率(入射角:5°)を示す。得られた突起構造体は、ピッチが100nm、高さが200nmであった。この突起構造体は、いわゆるモスアイ構造と呼ばれる構造体であり、表面における光の屈折率が段階的に変化しているために、特に入射角が小さい条件においては反射率が0.1%以下になる。
【0075】
[1.3. 実験条件]
詳細な実験条件は、以下の通りである。
正反射入射角条件: θ
i=45°、35°、25°、15°
θ
i−β=±1°(準正反射)、±3°、±5°、±7°、±10°、±15°
レーザー出力: 6mJ/pulse
光学系拡大角: 20°
カメラレンズ: Nikon製105mm、F値16
偏光条件: s偏光、p偏光
【0076】
入射角θ
i=15°、25°、35°、45°の4条件において、法線L
nとカメラの光軸とのなす角βを変化させながら、実験を行った。各ケースにおいて、100枚の撮像画像上の平均画像から、シート光の反射領域を抽出し、その輝度値の平均値を評価値とした。なお、β=θ
iの条件は正反射となり、艶あり黒や特定の試料では正反射光がカメラ画素にダメージを与える可能性があるため、完全正反射条件は回避した。
【0077】
PIVは、光源にレーザー(Nd:YAGやNd:YLF)を用いることが多く、偏光に対する影響を無視することができない。特に、特許文献3のように、偏光を利用した計測も近年では広まっており、偏光による反射特性を把握することは重要である。そのため、本実験では、s、p偏光それぞれの条件で実験を行った。
【0078】
今回の実験では、レーザーエネルギー及びカメラの絞り(F値)を固定しており、この条件で得られた値を評価値とした。
参考として、
図8に、s偏光、β=44°、θi=45°(準正反射条件)における、レーザーエネルギー(絞り値Fは16で固定)と輝度値との関係(
図8(A))、及び絞り値F(レーザーエネルギーは6mJ/pulseで固定)と輝度値との関係(
図8(B))を示す。
図8に示すように、これらの関係は単調増加・減少するのみで、実際の実験条件(高エネルギーレーザー、小F値)でも試料ごとの相対比較は成立すると言える。また、レーザーシートの厚みの調整次第で輝度値の絶対値は、実験ごとに変化することが考えられるが、同条件の相対比較については影響がないものと考えて良い。
【0079】
[3. 結果]
[3.1. 入射角θ
iに対するカメラ角度βの影響]
図9に、艶あり黒の試料角(θ
i−β)と輝度値の関係を示す。艶あり黒については、基本的に正反射条件を挟んで増加、減少する指数関数的な分布を持つが、偏光によって結果が異なる。s偏光に対しては、常に正反射に近い条件においては、いずれの入射角に対しても高い反射率を持つ。一方、p偏光の場合、θ
i=45°に近づくにつれて、輝度値分布がなだらかになる。これは、θ
i=45°付近で正反射が小さくなるブリュースター角に相当するためであると考えられる。
【0080】
図10に、植毛紙の試料角(θ
i−β)と輝度値の関係を示す。植毛紙については、輝度値の変化がカメラ角度βによってほぼ変化しないことがわかる。この結果から、植毛紙は、正反射を低減し、ヘイズの影響のみ観測されることが分かり、PIVにおける反射防止に最も効果的であることを裏付けている。
【0081】
図11に、突起構造体(H=230nm)の試料角(θ
i−β)と輝度値の関係を示す。H=230nmの突起構造体は、実験を行った突起構造体の中で最も小さな輝度値を示した試料である。正反射付近での輝度値が若干上昇するものの、植毛紙とほぼ同等の分布が得られていることがわかる。突起構造体は、従来の艶あり黒の輝度値を大幅に改善する一方で、植毛紙の1/2000の厚みで同等の効果が得られた。
【0082】
[3.2. 正反射条件付近での入射角θ
iの影響]
図9〜11の結果を、各試料について、カメラの位置βが正反射(β=θ
i)から徐々に遠ざかる条件(θ
i−β=±1°、3°、5°、又は7°)における輝度値分布で表した。
図12〜
図15に、その結果を示す。
上記同様、両偏光においても、特に正反射付近で、突起構造体が植毛紙相当の輝度値を示している。また、
図14及び
図15のp偏光において、艶あり黒が右肩下がりであるのは、上述のブリュースター角の効果と考えられる。また、正反射から離れるにつれ、艶あり黒の輝度値が最も小さくなる。これは突起構造体や植毛紙の表面のヘイズが、鏡面である艶あり黒より大きくなるためと考えられる。但し、輝度値の絶対値としては軒並み小さく抑えられている。
【0083】
[3.3. 準正反射条件に対する突起の高さHの影響]
図16及び
図17に、準正反射条件(θ
i−β=±1°)における突起の高さHに対する輝度値の分布を示す。なお、θ
iは、15°、25°、35°又は45°とした。また、この時の艶あり黒の輝度値(s偏光、p偏光)を線で示した。この結果から、各入射角θ
iにおいて、従来の艶あり黒の輝度値を下回るためには、s偏光に対しては高さHが180nm以上、p偏光に対しては高さHが230nm以上であれば良いことがわかる。また、ブリュースター角となるθ
i=45°の条件では、p偏光に関しては艶あり黒と突起構造体がほぼ同じ結果となっている。
【0084】
図18及び
図19に、
図16及び
図17と同様の分布を絶対反射率Rで表した結果を示す。絶対反射率が必ずしも輝度値と1対1に対応していない。これは、反射率測定がスポット的に表面性状を把握するのに対し、シート光の輝度値評価はより広範囲の測定を行うため、突起構造分布のばらつきの影響や、埃や傷などの表面性状の影響を受けやすいためと考えられる。現実的な観点からも、上記輝度値による評価が重要であることがわかる。一方、上記の突起の高さHについての結論は同じであることがわかる。このことから、
図16及び
図17の結果との対応付けとして、s偏光に対しては反射率0.5%以下、p偏光に対しては反射率0.25%以下が必要であることがわかる。
【0085】
また、一方で、カメラの光軸とシート光とのなす角αが常に90°(すなわち、正反射条件が必ず45°)となる2DPIVのケースでは、供試体の主たる曲面と光源の配置を考慮し、p偏光条件での実験を行うことで表面反射を低減できることがわかる。しかしながら、複雑な3次元曲面などの場合、その効果は限定的になる可能性もある。また、特許文献3の実験手法の場合、両偏光条件は不可欠であり、突起構造の利用は不可欠である。
【0086】
[3.4. 突起構造体の3次元曲面への適用]
以上のような突起構造体は、特許文献5〜7に記載されているような2次元固体基板のみならず、3次元形状にも適用可能である。その具体例を
図20に示す。これは、自動車模型の後部の形状を模った枠から、突起構造体を製造した例である。このように平板や、単純曲面のみならず、供試体を選ばずに自由曲面に適用可能である。
【0087】
[3.5. 材料の屈折率の影響]
図21に、屈折率の影響を調べた結果を示す。同じ高さ260nmの突起構造体に対して、支持体にPET(屈折率:1.6)とアクリル(屈折率:1.49)を利用した時の両者の輝度値分布を示す。支持体の裏面には、αt≧6相当の黒化層が形成されている。
この実験では、β=45°が正反射条件となる。突起構造体は光反応性ポリマー(屈折率:1.51)であることから、突起構造体と支持体の屈折率の差が有為であることがわかる。なお、この時の実験条件は、カメラレンズのf値を8で実験しているため、輝度値は大きいことに留意されたい。
【0088】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。