(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6422980
(24)【登録日】2018年10月26日
(45)【発行日】2018年11月14日
(54)【発明の名称】クラッチカバーベアリング
(51)【国際特許分類】
F16D 23/14 20060101AFI20181105BHJP
F16C 19/16 20060101ALI20181105BHJP
F16C 33/80 20060101ALI20181105BHJP
F16C 33/78 20060101ALI20181105BHJP
【FI】
F16D23/14 A
F16C19/16
F16C33/80
F16C33/78 D
【請求項の数】10
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-541416(P2016-541416)
(86)(22)【出願日】2014年11月10日
(65)【公表番号】特表2017-503977(P2017-503977A)
(43)【公表日】2017年2月2日
(86)【国際出願番号】DE2014200623
(87)【国際公開番号】WO2015090301
(87)【国際公開日】20150625
【審査請求日】2017年11月7日
(31)【優先権主張番号】102013226165.9
(32)【優先日】2013年12月17日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】515009952
【氏名又は名称】シェフラー テクノロジーズ アー・ゲー ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Schaeffler Technologies AG & Co. KG
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ ゼスター
(72)【発明者】
【氏名】ルーベン クラートフ
(72)【発明者】
【氏名】ドミニク ノル
(72)【発明者】
【氏名】ヨハネス オーザー
【審査官】
中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】
実開平1−121723(JP,U)
【文献】
特開平4−312215(JP,A)
【文献】
特開2009−47223(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 11/00− 23/14
F16C 19/00− 19/56
F16C 33/30− 33/66
F16C 33/72− 33/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力分断クラッチの作動装置に用いられるアンギュラ玉軸受として構成されるクラッチカバーベアリングであって、
内側軸受輪(2)および外側軸受輪(3)と、
前記軸受輪(2,3)の間に配置された、転動体としての玉(4)と、
前記軸受輪(2,3)の間で、該軸受輪(2,3)の対称軸線に対して垂直の平面上にそれぞれ配置された、直径が異なる2つの内側シール(6,7)と、
前記内側軸受輪(2)と相対回動不能に結合されたシャフト(9)と、
より小さな直径の前記内側シール(6)に前置された防護ディスク(13)であって、前記シャフト(9)と相対回動不能に結合され、かつ前記より小さな直径の内側シール(6)を越えて半径方向外方へ突出しており、当該防護ディスク(13)と前記外側軸受輪(3)との間に環状隙間(21)が形成される、防護ディスク(13)と、
を備えることを特徴とする、クラッチカバーベアリング。
【請求項2】
前記防護ディスク(13)は、金属薄板部分として構成される、請求項1記載のクラッチカバーベアリング。
【請求項3】
前記内側シール(6,7)は、接触式のシールとして構成される、請求項1または2記載のクラッチカバーベアリング。
【請求項4】
前記防護ディスク(13)は、前記シャフト(9)の周に形成された少なくとも1つの切欠(15)に係合するスナップフック(14)を有する、請求項1から3までのいずれか1項記載のクラッチカバーベアリング。
【請求項5】
前記スナップフック(14)は、前記内側軸受輪(2)へ向けて軸方向に延在する区分(16)を有する、請求項4記載のクラッチカバーベアリング。
【請求項6】
前記スナップフック(14)の、前記軸受輪(2,3)の軸方向に延在する前記区分(16)は、前記軸受輪(2,3)に対して垂直の平面上に位置し、かつ前記内側軸受輪(2)の端面(S1)に当接する、前記防護ディスク(13)の内側フランジ区分(17)に移行する、請求項5記載のクラッチカバーベアリング。
【請求項7】
前記防護ディスク(13)は、前記内側フランジ区分(17)の半径方向外側に配置された、該内側フランジ区分(17)に対して平行の、前記内側軸受輪(2)の前記端面(S1)から軸方向に間隔を空けた中央フランジ区分(19)を有し、該中央フランジ区分(19)は、前記より小さな直径の内側シール(6)に前置されている、請求項6記載のクラッチカバーベアリング。
【請求項8】
前記防護ディスク(13)は、前記内側フランジ区分(17)を前記中央フランジ区分(19)と結合する円錐移行区分(18)を有し、該円錐移行区分(18)は、前記より小さな直径の内側シール(6)から軸方向に間隔を空けている、請求項7記載のクラッチカバーベアリング。
【請求項9】
前記防護ディスク(13)は、前記中央フランジ区分(19)の半径方向外側に配置された、該中央フランジ区分(19)に対して平行の外側フランジ区分(20)を有し、該外側フランジ区分(20)は、軸方向で、前記内側フランジ区分(17)と前記中央フランジ区分(19)との間に配置されており、前記外側フランジ区分(20)と前記外側軸受輪(3)の前記端面(S1)との間に環状隙間(21)が形成される、請求項7または8記載のクラッチカバーベアリング。
【請求項10】
デュアルクラッチにおける請求項1記載のクラッチカバーベアリング(1)の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力分断クラッチの力支持に適した、アンギュラ玉軸受として構成されるクラッチカバーベアリングに関する。
【0002】
2つの部分クラッチから成るデュアルクラッチに用いられる、車両のクラッチレリーズシステムは、たとえば独国特許出願公開第102009056380号明細書において知られている。各部分クラッチに対応して、共通のハウジング内に配置されて案内される環状のプランジャが配置されており、各環状プランジャの1つの端部に、それぞれ1つの環状のシール要素が取り付けられている。
【0003】
本発明の課題は、クラッチカバーベアリングを、上述の先行技術に対して、組立やすさ、搬送時に場合により生じる影響の受けにくさ、ならびに軸受のシール性に関して改良することである。
【0004】
この課題は、本発明によれば、請求項1の特徴部に記載の構成を有するクラッチカバーベアリングによって解決される。クラッチカバーベアリングは、それ自体公知の基本構造でアンギュラ玉軸受として構成されており、転動体、つまり玉は、内側軸受輪と外側軸受輪との間で転動する。玉が配置された環状空間は、2つの内側シールによってシールされており、内側シールは、それぞれ軸受輪の1つに挟み込まれ、それぞれ異なる寸法が与えられている。内側シールは両方とも、クラッチカバーベアリングの回転軸線、つまり軸受輪の対称軸線に対して垂直に配置された、互いに平行な平面上に位置する。クラッチカバーベアリングの内側軸受輪は、シャフト上で相対回動不能に配置されている。シャフト上には、防護ディスクがさらに保持されており、防護ディスクは、レリーズ軸受の軸方向でより小さな直径の内側シールに前置されている。防護ディスクは、より小さな直径の内側シールを越えて半径方向外方へ突出しており、防護ディスクの半径方向外側の領域と外側軸受輪との間に環状隙間が形成されている。
【0005】
シャフト上に取り付けられた防護ディスクは、2つの機能を果たす。一方では、防護ディスクは、非接触式のシール、特にラビリンスシールとして機能し、他方では、防護ディスクは、軸方向において、内輪に対して相対的なアンギュラ玉軸受の外輪の移動を制限し、ひいては分解防止部を形成する。特に、防護ディスクにより、クラッチカバーベアリングの部品がその搬送時にたとえば揺れによって相互に緩むことを防止する防止手段が形成される。
【0006】
本発明は、アンギュラ玉軸受の軸受輪の冷間接合が原則的に効率的な組立法であるという思想を前提としている。ただし、この組立法の欠点は、構成部材の加熱なく組み立てられるアンギュラ玉軸受が、通常、軸方向での軸受輪の相互の強い摺動に対する防止手段を有していないことにある。少なくとも限定的な機能を有するそのような防止手段を形成するために、原則的に、それぞれの転動路に隣り合う、簡単には玉が越えて転動することがない肩部を軸受輪に形成することが可能である。しかし、分解防止部として用いられるこの種の肩部は、軸受部品の分離だけではなく、軸受の組立も困難にする。さらなる欠点は、たとえば強い振動によって生じることがあり、軸受の分解とも称される、アンギュラ玉軸受における不意のかつ不適切な肩部を越える玉の転動が、転動体および/または軸受輪の損傷を招いてしまうおそれがあることである。
【0007】
したがって、軸受の分解を確実に阻止する極めて特徴的な肩部を有する、分離が阻止されるアンギュラ玉軸受を軸受輪に取り付けるために、典型的には、熱間組立が必要である。
【0008】
本発明は、原則的にこの通例の組立法から離れて、アンギュラ玉軸受、つまりクラッチカバーベアリングを、組立目的で互いに接合すべき個々の部品の間に温度差を形成することなく取り付ける手段を開示している。
【0009】
本発明に係るクラッチカバーベアリングの場合に設けられる、複数の機能を満たす防護ディスクは、金属薄板部品として特に効率的に製造可能である。非接触式のシールとしての防護ディスクの構成に基づいて、滑り接触による軸受への追加的な入熱は、原理的に排除されている。
【0010】
好適な態様では、アンギュラ玉軸受の軸受輪に軸方向で前置された防護ディスクは、シャフトの周に設けられた少なくとも1つの切欠に係合するスナップフックを有する。スナップフックは、たとえばシャフトに設けられた、環状に延在する溝に係合することができる。代替的に、シャフトは、その周に、それぞれ1つのスナップフックが係合する個別の複数の凹部を有してもよい。
【0011】
好適には、全体として弾性変形する特性を有するスナップフックの、シャフトの表面に設けられた溝または個別の切欠に係合する端部は、軸受輪の軸方向においてその端面から幾分か間隔を空けており、各スナップフックの、シャフトの表面に対して平行の区分が、内側軸受輪の端面に向いた側で、防護ディスクの内側フランジ区分に移行する。好適には、防護ディスクの内側フランジ区分は、内側軸受輪の端面に直接に当接する。防護ディスクと、アンギュラ玉軸受のより小さな直径の内側シールとの間に十分な間隔を形成するために、防護ディスクの中央フランジ区分は、内側フランジ区分に対して、好適には軸方向で外方へ、つまり軸受輪から離間する方向にずらされている。
【0012】
内側フランジ区分と中央フランジ区分との間の円錐移行区分は、より小さな直径のシールの、半径方向内側に位置する縁も、クラッチカバーベアリングの搬送時および動作時に、常に、防護ディスクから間隔を空けて保持されることを保証する。したがって、より大きな第2の内側シールと同様に好適には接触式のまたは遠心力の作用を受けるシールとして構成された、防護ディスクに隣り合う内側シールは、たとえば搬送中に意図しない形でクラッチカバーベアリングに衝撃的な軸方向荷重が作用する場合でも、破損に対して防護されたままである。内側シールを防護するために、クラッチカバーベアリングの搬送、組立、および後の動作の間のあらゆる段階で、レリーズ軸受の両方の軸受輪の間の著しい軸方向のずれが防護ディスクによって排除されるという事実も大きく貢献する。さらに、防護ディスクによって、場合により軸受輪に設けられる肩部を越えて転動体が転動することが阻止される。
【0013】
好適な態様では、防護ディスクの半径方向で最も外側の領域は、外側フランジ区分によって形成されている。外側フランジ区分は、軸方向で、内側フランジ区分と中央フランジ区分との間に配置されているので、外側フランジ区分と外側軸受輪の端面との間に、所定の幅の環状隙間が形成される。これにより、防護ディスクの上記の3つのフランジ区分は、それぞれクラッチカバーベアリングの回転軸線に対して平行な平面上に互いに離れて位置する。
【0014】
クラッチカバーベアリングは、特にデュアルクラッチに使用するのに適している。同様に、クラッチカバーベアリングは、単純な、手動または自動で操作可能なクラッチに組み込まれてよい。
【0015】
以下、図面に基づき本発明の実施の形態を詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】防護ディスクを備えるクラッチカバーベアリングの断面図である。
【
図2】
図1の組立体の防護ディスクを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に断面図で示された、全体を符号1で示すクラッチカバーベアリングは、アンギュラ玉軸受として構成されており、デュアルクラッチの一部である。その機能については、冒頭で述べた公知先行技術が参照される。
【0018】
クラッチカバーベアリング1は、2つの軸受輪2,3、つまり内側軸受輪2と外側軸受輪3とを備え、これらの軸受輪の間に、玉4が転動体として転動する。玉4は、ウインドウタイプ保持器として構成された、プラスチックまたは金属製の転がり軸受保持器5内に案内されている。軸受輪2,3の間に、直径の異なる2つの内側シール6,7が配置されている。
図1の組立体では左側のシール6は、より小さな寸法とされており、
図1の組立体では右側のシール7は、より大きな寸法とされている。両方の内側シール6,7は、それぞれ金属芯8を有し、外側軸受輪3に保持されている一方、各シール6,7の少なくとも1つのシールリップは、内側軸受輪2にそれぞれ接触している。
【0019】
内側軸受輪2は、シャフト9に被せ嵌められており、シャフト9と相対回動不能に結合されている。クラッチカバーベアリング1の、
図1の組立体では右側の、内側シール7の領域に配置された側で、シャフト9は、外方へ向けられた縁10を備え、縁10に、内輪2の段部11が当接する。シャフト9を摺動させるための、液圧式に作動可能なアクチュエータ12は、
図1では暗示的にしか示されていない。
【0020】
軸方向の、
図1の組立体では左方への外輪3の移動を阻止するために、シャフト9に、金属薄板から成る防護ディスク13が被せ嵌められている。防護ディスク13は、クラッチカバーベアリング1の第1の端面S1において内側軸受輪2に当接する。ここで、第1の端面S1とは、クラッチカバーベアリング1の、より小さな内側シール6が位置する端面と解される。これに対して、クラッチカバーベアリング1の、シャフト9の縁10およびより大きな直径の内側シール7が位置する端面が、S2で表されている。
【0021】
図2には、鋼板から成る、非切削式に変形された部分として製造された防護ディスク13が、分離して示されている。防護ディスク13の内側の縁には、内方へ突出する複数のスナップフック14が位置し、スナップフック14は、シャフト9の周に設けられた切欠15に係合する。各スナップフック14は、切欠15に係合する端部を起点として、内側軸受輪2へ向けてシャフト9の表面に対して平行に延在する。これに対応する、防護ディスク13の、シャフト9の周りに同心的に置かれた円筒上に位置する区分は、符号16で示されている。内側軸受輪2の端面S1で、防護ディスク13の区分16は、内側軸受輪2に直接当接する内側フランジ区分17に移行する。これでもって、防護ディスク13は、縁10と同様に、シャフト9上の内側軸受輪2の軸方向の摺動に対する防止手段を形成する。内側フランジ区分17は、端面S1における内側軸受輪2とほぼ同一の領域にわたって半径方向に延在する。
【0022】
防護ディスク13の内側フランジ区分17に続いて、半径方向外方へ円錐移行区分18があり、移行区分18は、半径方向外側の縁で、中央フランジ区分19に移行し、中央フランジ区分19は、内側フランジ区分17に対して平行に位置する平面上に配置されている。内側フランジ区分17と比べて、中央フランジ区分19は、内側軸受輪2の端面S1から大幅に間隔が離れているが、防護ディスク13のスナップフック14が係合する切欠15までは離れていない。内側フランジ区分17と中央フランジ区分19との間の軸方向の間隔は、一方では、防護ディスク13と内側シール6との間に十分な間隔を与える。この間隔は、円錐移行区分18にも与えられている。他方では、フランジ区分17,19が位置する平面が、軸方向で互いにずらされていることにより、防護ディスク13の安定性が高められている。
【0023】
防護ディスク13の半径方向外側の縁は、外側フランジ区分20によって形成される。外側フランジ区分20は、軸方向で、内側フランジ区分17と中央フランジ区分19との間の平面上に位置する。外側フランジ区分20と外側軸受輪3の端面S1との間に、隙間幅SBの環状隙間21が形成される。環状隙間21は、内側シール6に前置された非接触式のシールとして機能する。
【符号の説明】
【0024】
SB 隙間幅
S1 端面
S2 端面
1 クラッチカバーベアリング
2 内側軸受輪
3 外側軸受輪
4 玉、転動体
5 転がり軸受保持器
6 内側シール
7 内側シール
8 金属芯
9 シャフト
10 縁
11 段部
12 アクチュエータ
13 防護ディスク
14 スナップフック
15 切欠
16 区分
17 内側フランジ区分
18 移行区分
19 中央フランジ区分
20 外側フランジ区分
21 環状隙間