特許第6423321号(P6423321)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6423321
(24)【登録日】2018年10月26日
(45)【発行日】2018年11月14日
(54)【発明の名称】Vリブドベルト及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16G 5/20 20060101AFI20181105BHJP
   F16G 5/06 20060101ALI20181105BHJP
   B29D 29/10 20060101ALI20181105BHJP
   B32B 25/02 20060101ALI20181105BHJP
   B32B 25/10 20060101ALI20181105BHJP
【FI】
   F16G5/20 A
   F16G5/06 Z
   B29D29/10
   B32B25/02
   B32B25/10
【請求項の数】9
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-131715(P2015-131715)
(22)【出願日】2015年6月30日
(65)【公開番号】特開2017-15164(P2017-15164A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2017年12月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006068
【氏名又は名称】三ツ星ベルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(72)【発明者】
【氏名】原田 大司
(72)【発明者】
【氏名】杉村 恒平
(72)【発明者】
【氏名】田中 脩平
【審査官】 川口 真一
(56)【参考文献】
【文献】 実開平4−56243(JP,U)
【文献】 特開2013−145032(JP,A)
【文献】 特開平7−27181(JP,A)
【文献】 特開2005−69358(JP,A)
【文献】 特表2005−533983(JP,A)
【文献】 特開平10−9345(JP,A)
【文献】 特開平7−35201(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16G 5/20
F16G 5/06
B29D 29/10
B32B 25/02
B32B 25/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム組成物の加硫物を含む圧縮ゴム層と心線と伸張層とを備えるとともに、前記圧縮ゴム層の側部がプーリと接触する研削面であり、かつ前記圧縮ゴム層の底部がプーリと接触しない非研削面であるVリブドベルトであって、
前記底部の表面が、前記ゴム組成物の加硫温度で溶融する熱可塑性繊維を含む不織布の熱処理物と、前記ゴム組成物の加硫物とを含む複合層であり、かつ
前記不織布の熱処理物が、繊維形状が残存した繊維状部と、繊維形状を消失した非繊維状部とで形成されているVリブドベルト。
【請求項2】
熱可塑性繊維が、ポリオレフィン繊維及びポリウレタン繊維からなる群より選択された少なくとも1種である請求項1記載のVリブドベルト。
【請求項3】
熱可塑性繊維がポリプロピレン系繊維である請求項1又は2記載のVリブドベルト。
【請求項4】
不織布の目付量が12〜30g/mである請求項1〜3のいずれかに記載のVリブドベルト。
【請求項5】
不織布の平均厚みが0.03〜0.3mmである請求項1〜4のいずれかに記載のVリブドベルト。
【請求項6】
不織布の繊維が所定の方向に配向しており、繊維の長手方向がベルトの長手方向と平行である請求項1〜5のいずれかに記載のVリブドベルト。
【請求項7】
圧縮ゴム層がリブ部を有し、かつこのリブ部の平均厚みがVリブドベルト全体の平均厚みに対して54%以下である請求項1〜6のいずれかに記載のVリブドベルト。
【請求項8】
円筒状ドラムに伸張層を形成するための伸張層用部材を装着する伸張層装着工程、さらに心線を巻き付ける心線スピニング工程、さらに圧縮ゴム層を形成するための未加硫ゴムシートを巻き付ける圧縮ゴム層巻付工程、巻き付けた未加硫ゴムシートの上に、さらに熱可塑性繊維を含む不織布を巻き付ける不織布巻付工程、前記伸張層用部材、心線、未加硫ゴムシート及び不織布を、前記熱可塑性繊維の融点よりも高い温度で加硫して加硫スリーブを得る加硫工程、加硫スリーブの不織布側において、圧縮ゴム層の側部のみを研削で成形する研削工程を含む請求項1〜7のいずれかに記載のVリブドベルトの製造方法。
【請求項9】
加硫温度が、熱可塑性繊維の融点よりも5〜15℃高い温度である請求項8記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車エンジン補機駆動などに用いられるVリブドベルトに関し、詳しくは、研削によりリブ部を形成する方法において研削量を削減でき、かつ外観及び耐久性に優れたVリブドベルト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム工業分野のなかでも、特に自動車用部品においては高機能、高性能化が望まれている。このような自動車用部品に用いられるゴム製品の一つとして、リブをベルト長手方向に沿って設けたVリブドベルトがあり、このVリブドベルトは、例えば、自動車のエアーコンプレッサーやオルタネータなどの補機駆動の動力伝達に広く用いられている。
【0003】
Vリブドベルトの製造方法として、研削により断面逆台形状のリブ部(圧縮ゴム層)を形成する製造方法が知られている。具体的には、Vリブドベルトの製造過程で、まず、円筒状金型の外周面に各成形部材(外被布、未加硫ゴムシート、心線など)を巻き付けて積層したベルトスリーブを形成する。通常、ベルトスリーブは研削面(リブを形成する圧縮ゴム層)が外周側に、ベルト背面が内周側となるようにスリーブを形成する。次に、ベルトスリーブの外周側に加硫ジャケットを被せた状態で加硫缶内に配置して加硫を行う。ベルトスリーブの加硫においては、ベルトスリーブ外周表面と加硫ジャケット内周表面とを接触させた状態で加硫し、加硫後に加硫ジャケットを外す(離型する)。また、加硫中にベルトスリーブ内にエア(気泡)が溜まらないように通気(エア抜き)が必要である。この離型性と、通気性(エア抜き)とを確保するために、スリーブ外周表面に分厚めの不織布を巻いて加硫を行い、離型後に、圧縮ゴムの研削部位とともに不織布も研削して除去する工法(リブ部全体を研削する方法)が採られている。
【0004】
近年、コスト低減の観点から研削量(廃棄ゴム量)の低減や、ベルト厚みの低減などによる材料費低減の取り組みがなされている。研削量(廃棄ゴム量)の低減としては、リブ全体を研削するのではなく、リブ部の先端面(逆台形状の底部)を研削せずV溝のみ(側部のみ)を研削する工法が検討されているが、この工法では加硫スリーブ外周表面がそのままリブ先端面となるので、外周表面に不織布を用いると、リブ部の先端面(リブ先端面)に不織布が残存する。
【0005】
リブ先端面に不織布を有するVリブドベルトとしては、例えば、特開2005−69358号公報(特許文献1)には、短繊維含有ゴムを使用せずに、プーリとの間で発生する異音の発生やベルト表面の磨耗を抑制するために、リブゴム層をベルト厚み方向にゴム層と不織布層とを交互に積層した構造に構成することが提案されており、リブゴム層のリブ先端面に不織布層を有するVリブドベルトが開示されている。
【0006】
しかし、リブ先端面に不織布を有するVリブドベルトでは、不織布面の外観的な見映えが低下するうえに、ベルト走行において、ベルトの屈曲性が低下して(不織布が突っ張って曲げの妨げになって)、耐久性が低下する(クラックが入り易くなる)。一方、不織布を使用せずに製造すると、離型性や通気性(エア抜き)が不充分になるほか、スリーブ表面(リブ先端面)には加硫ジャケットの表面性状が転写され、例えば、表面に傷がある加硫ジャケットの場合は、傷が転写され外観が低下する。
【0007】
また、特表2005−533983号公報(特許文献2)には、リブ先端面に熱可塑性樹脂層(繊維状でなく被膜状の層)を有するVリブドベルトが開示されている。この文献には、熱可塑性樹脂層をリブと接合した後、ベルトを切断してVベルト状に削られると記載されている。
【0008】
しかし、このVリブドベルトでも、通気性(エア抜き)が不充分なうえに、ベルトの屈曲性が低下し(熱可塑性樹脂層が突っ張って曲げの妨げになり)、耐久性が低下する(クラックが入り易くなる)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−69358号公報(請求項1、段落[0012][0019]、図4(a))
【特許文献2】特表2005−533983号公報(請求項1、段落[0018][0019])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、少ない研削量(廃棄ゴム量)でリブ部を研削して形成でき、かつ加硫工程を円滑に進行できるVリブドベルト及びその製造方法を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、外観に優れ、かつ耐クラック性や耐熱性などの耐久性も向上できるVリブドベルト及びその製造方法を提供することにある。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、不織布の接着処理が不要であり、かつ繊維を含んでいても、巻き付け作業性を向上できるVリブドベルト及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、側部がプーリと接触する研削面であり、かつ底部がプーリと接触しない非研削面であるVリブドベルトの圧縮ゴム層の底部の表面を、前記圧縮ゴム層を構成するゴム組成物の加硫温度で溶融する熱可塑性繊維を含み、かつ繊維形状が残存した繊維状部と、繊維形状を消失した非繊維状部とで形成された不織布の熱処理物と、前記ゴム組成物の加硫物とを含む複合層とすることにより、少ない研削量(廃棄ゴム量)で研削によりリブ部を形成でき、かつ加硫工程を円滑に進行できることを見いだし、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明のVリブドベルトは、ゴム組成物の加硫物を含む圧縮ゴム層と心線と伸張層とを備えるとともに、前記圧縮ゴム層の側部がプーリと接触する研削面であり、かつ前記圧縮ゴム層の底部がプーリと接触しない非研削面であるVリブドベルトであって、前記底部の表面が、前記ゴム組成物の加硫温度で溶融する熱可塑性繊維を含む不織布の熱処理物と、前記ゴム組成物の加硫物とを含む複合層であり、かつ前記不織布の熱処理物が、繊維形状が残存した繊維状部と、繊維形状を消失した非繊維状部とで形成されている。前記熱可塑性繊維は、ポリオレフィン繊維及びポリウレタン繊維からなる群より選択された少なくとも1種(特にポリプロピレン系繊維)であってもよい。前記不織布の目付量は12〜30g/m程度である。前記不織布の平均厚みは0.03〜0.3mm程度である。前記不織布の繊維は所定の方向に配向しており、繊維の長手方向がベルトの長手方向と平行であってもよい。前記圧縮ゴム層がリブ部を有し、かつこのリブ部の平均厚みがVリブドベルト全体の平均厚みに対して54%以下であってもよい。
【0015】
本発明には、円筒状ドラムに伸張層を形成するための伸張層用部材を装着する伸張層装着工程、さらに心線を巻き付ける心線スピニング工程、さらに圧縮ゴム層を形成するための未加硫ゴムシートを巻き付ける圧縮ゴム層巻付工程、巻き付けた未加硫ゴムシートの上に、さらに熱可塑性繊維を含む不織布を巻き付ける不織布巻付工程、前記伸張層用部材、心線、未加硫ゴムシート及び不織布を、前記熱可塑性繊維の融点よりも高い温度で加硫して加硫スリーブを得る加硫工程、加硫スリーブの不織布側において、圧縮ゴム層の側部のみを研削で成形する研削工程を含む前記Vリブドベルトの製造方法も含まれる。前記加硫温度は、熱可塑性繊維の融点よりも5〜15℃高い温度であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、側部がプーリと接触する研削面であり、かつ底部がプーリと接触しない非研削面であるVリブドベルトの圧縮ゴム層の底部の表面が、前記圧縮ゴム層を構成するゴム組成物の加硫温度で溶融する熱可塑性繊維を含み、かつ繊維形状が残存した繊維状部と、繊維形状を消失した非繊維状部とで形成された不織布の熱処理物と、前記ゴム組成物の加硫物とを含む複合層であるため、圧縮ゴム層の底部の研削が不要であり、少ない研削量(廃棄ゴム量)で研削によりリブ部を形成できるとともに、溶融前の不織布が加硫工程において離型性や通気性を確保できるため、加硫時のエア抜きや、加硫ジャケットからの離型を円滑に進行できる。そのため、加硫ジャケットの傷やシミなどの転写も抑制できるとともに、不織布は加硫工程で一部溶融するため、不織布の繊維の毛羽立ちも抑制でき、外観を向上できる。さらに、加硫により不織布と圧縮ゴム層とが一体化するため、不織布の接着処理が不要であり、かつ不織布を構成する繊維の長手方向をベルトの長手方向と平行とすることにより、繊維を含んでいても、巻き付け方向(周方向)に引っ張ったときに伸びや破損を抑制でき、ベルトの巻き付け作業性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は本発明のVリブドベルトの一例を示す概略断面図である。
図2図2は実施例における耐屈曲疲労性(耐クラック性)試験に用いた試験機のレイアウトである。
図3図3は実施例2で得られたVリブドベルトの複合層の表面電子顕微鏡写真である。
図4図4は実施例2で得られたVリブドベルトの複合層の断面電子顕微鏡写真である。
図5図5は実施例2で得られたVリブドベルトのリブ部の写真である。
図6図6は参考例1で得られたVリブドベルトのリブ部の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のVリブドベルトは、研削によって断面が略逆台形状に形成され、かつゴム組成物の加硫物を含む圧縮ゴム層を備えており、この圧縮ゴム層の側部がプーリと接触する研削面であり、かつ前記圧縮ゴム層の底部がプーリと接触しない非研削面である。
【0019】
Vリブドベルトの形態は、このような圧縮ゴム層を有していれば、特に制限されず、例えば、図1に示す形態が例示される。図1は、本発明のVリブドベルトの一例を示す概略断面図である。この形態は、ベルト上面(背面)からベルト下面(内周面)に向かって順に、外被布(織物、編物、不織布など)で構成された伸張層1、ベルト長手方向に心線2を埋設した接着ゴム層3、圧縮ゴム層4を積層した形態を有している。前記圧縮ゴム層4には、ベルト長手方向に伸びる複数の断面V字状の溝が形成され、この溝の間には断面V字形状[逆台形状(リブの先端に向かって先細る台形状)]の複数のリブ(図1に示す例では4個)が形成されおり、この各リブ部の二つの傾斜面(表面)が摩擦伝動面を形成し、プーリと接して動力を伝達(摩擦伝動)する。特に、本発明では、前記リブ部の側面(傾斜面)が研削面4aであり、リブ部の底部表面が非研削面の複合層5である。
【0020】
本発明のVリブドベルトはこの形態に限定されず、このような圧縮ゴム層を備えていればよく、例えば、伸張層をゴム組成物で形成してもよく、接着ゴム層を設けることなく伸張層と圧縮ゴム層との間に心線を埋設してもよい。さらに、接着ゴム層を圧縮ゴム層又は伸張層のいずれか一方に設け、心線を接着ゴム層(圧縮ゴム層側)と伸張層との間、もしくは接着ゴム層(伸張層側)と圧縮ゴム層との間に埋設する形態であってもよい。
【0021】
[複合層]
複合層は、圧縮ゴム層の底部において、研削されずに形成され、圧縮ゴム層を構成するゴム組成物の加硫温度で溶融する熱可塑性繊維を含む不織布の熱処理物と、前記ゴム組成物の加硫物とを含む。
【0022】
(不織布の熱処理物)
不織布の熱処理物は、繊維形状が残存した繊維状部と、繊維形状を消失した非繊維状部とで形成されている。そのため、複合層は、繊維状部と非繊維状部とゴム成分との3成分が適度に混在した構造を形成し、残存した繊維形状により加硫工程における離型性や通気性、更には耐久性を確保でき、かつ溶融して生じた非繊維形状によりベルトの外観を向上できる。
【0023】
繊維状部の形状としては、熱処理前の不織布を構成する繊維の形状である。平均繊維径は、例えば1〜150μm、好ましくは5〜100μm、さらに好ましくは10〜50μm(特に20〜40μm)程度である。平均繊維長は、特に限定されず、長繊維であってもよい。
【0024】
非繊維状部の形状としては、繊維形状を消失していれば、特に限定されず、通常、フィルム状又は塊状である。これらのうち、リブ先端が突っ張った状態となり、ベルトの屈曲性が低下するのを抑制できる点から、非フィルム形状、例えば、不定形状や粒状などの塊状が好ましい。
【0025】
複合層において、繊維状部と非繊維状部との体積割合は、例えば、前者/後者=9/1〜1/9、好ましくは8/2〜2/8、さらに好ましくは7/3〜3/7程度である。繊維状部の割合が少なすぎると、加硫工程における離型性や通気性が低下する虞があり、また(非繊維状部が突っ張って曲げの妨げになって)ベルトの耐久性が低下する虞がある。逆に多すぎると、(繊維状部が毛羽立ちとなって目立ち)ベルトの外観が低下する虞がある。
【0026】
複合層における繊維状部及び非繊維状部の存在形態は、加硫工程における離型性及び通気性を確保するため、複合層の表面に繊維状部の少なくとも一部が存在していればよく、他の繊維状部及び非繊維状部は、複合層中に埋設されていてもよい。また、繊維状部の一部が複合層中に埋設するのが好ましく、繊維形状が残存した繊維の一部がゴム組成物中に埋設することにより、ベルトの外観及び耐久性を向上できる。さらに、非繊維状部の一部又は全部が複合層中に埋設するのが好ましく、非繊維状部が複合層中に埋設されることにより、複合層の表面において非繊維状部がフィルム化した場合に生じるベルトの耐屈曲性の低下を抑制できる。
【0027】
熱処理前の不織布の目付量は10〜50g/m程度の範囲から選択でき、例えば12〜30g/m、好ましくは13〜28g/m、さらに好ましくは15〜25g/m程度である。熱処理前の不織布の平均厚みは、例えば0.03〜0.3mm、好ましくは0.12〜0.27mm、さらに好ましくは0.14〜0.25mm(特に0.14〜0.23mm程度である。不織布の目付量や厚みが小さすぎると、加硫工程における離型性や通気性が低下する虞がある上に、成形(加硫前の各部材の巻き付け)の際に不織布を引っ張ると破れて巻き付けできない虞がある。一方、不織布の目付量や厚みが大きすぎると、繊維間の隙間が小さくなるため、ゴム成分が繊維間に入り込み難い上に、溶融により繊維形態を消失し易くなり、複合層の表面で不織布を構成する樹脂が単独でフィルム化する虞がある。また、不織布が剛直となり、巻き付けが困難となる虞がある。
【0028】
不織布を構成する繊維は、圧縮ゴム層を構成するゴム組成物の加硫温度で溶融する熱可塑性繊維であればよく、例えば、ポリオレフィン繊維、アクリル系繊維、ビニル系繊維、スチレン系繊維、ポリカーボネート系繊維、ポリウレタン繊維、熱可塑性エラストマー繊維などが挙げられる。これらの熱可塑性繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの熱可塑性繊維のうち、汎用性に優れる点から、ポリオレフィン繊維及び/又はポリウレタン繊維(ポリエステル型ポリウレタン繊維、ポリエーテル型ポリウレタン繊維など)が好ましく、ポリオレフィン繊維が特に好ましい。
【0029】
ポリオレフィン繊維を構成するオレフィン系樹脂は、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3−メチルペンテン、4−メチルペンテンなどのα−オレフィン(特に、エチレン、プロピレンなどのα−C2−6オレフィン)を主要な重合成分とする重合体であってもよい。前記α−オレフィン以外の共重合性単量体としては、例えば、(メタ)アクリル系単量体[例えば、(メタ)アクリル酸メチルや(メタ)アクリル酸エチルなどの(メタ)アクリル酸C1−6アルキルエステルなど]、不飽和カルボン酸類(例えば、無水マレイン酸など)、ビニルエステル類(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなど)、ジエン類(ブタジエン、イソプレンなど)などが挙げられる。これらの単量体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0030】
オレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン系樹脂[低、中又は高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−1共重合体、エチレン−(4−メチルペンテン−1)共重合体など]、ポリプロピレン系樹脂(ポリプロピレン、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−ブテン−1共重合体、プロピレン−エチレン−ブテン−1共重合体など)などが挙げられる。オレフィン系樹脂の融点は、共重合性単量体を特定の割合で共重合させることにより制御してもよく、例えば、ポリプロピレン系樹脂にエチレンを共重合して融点を低下させてもよい。これらのオレフィン系樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0031】
これらのオレフィン系樹脂のうち、ポリエチレンなどのポリエチレン系樹脂、ポリプロピレンなどのポリプロピレン系樹脂が好ましく、加硫温度で容易に融解する点から、適度な耐熱性にも優れる点などから、ポリプロピレンなどのポリプロピレン系樹脂が特に好ましい。
【0032】
不織布(又は不織布を構成する繊維)は、必要に応じて、慣用の添加剤、例えば、増強剤、充填剤、金属酸化物、可塑剤、加工剤又は加工助剤、着色剤、カップリング剤、安定剤(紫外線吸収剤、酸化防止剤、オゾン劣化防止剤、熱安定剤など)、潤滑剤、難燃剤、帯電防止剤などを含んでいてもよい。添加剤の割合は、不織布全体に対して10重量%以下(例えば、0.1〜5重量%)程度である。
【0033】
前記熱可塑性繊維の融点は、前記ゴム組成物の加硫温度以下であればよいが、例えば100〜180℃、好ましくは110〜170℃、さらに好ましくは160〜170℃程度である。融点が高すぎると、非繊維状部の割合が小さくなる虞があり、逆に低すぎると繊維状部の割合が小さくなる虞がある。
【0034】
不織布を構成する繊維は、ランダムに配向していてもよいが、特定の方向に対する強度を向上できる点から、所定の方向[製造工程における流れ方向(MD)方向など]に配向しているのが好ましい。所定の方向に繊維が配向した不織布は、繊維の長手方向をベルトの長手方向と平行とすることにより、巻き付け方向(周方向)に引っ張ったときに伸びや破損を抑制でき、ベルトの巻き付け作業性を向上できる。
【0035】
(ゴム組成物の加硫物)
本発明では、前記不織布の熱処理物とゴム組成物の加硫物とが適度に混在した3成分系を形成することにより、柔軟な複合層が形成され、ベルトの屈曲における障害(突っ張り)とならず、ベルトの耐久性を向上できる。
【0036】
前記ゴム組成物は、圧縮ゴム層のゴム組成物が不織布の繊維間に浸透したゴム組成物である。ゴム組成物は、特に制限されないが、通常、ゴム成分と加硫剤又は架橋剤とを含むゴム組成物が使用される。本発明は、特に、硫黄や有機過酸化物を含むゴム組成物(特に有機過酸化物加硫型ゴム組成物)で未加硫ゴム層を形成し、未加硫ゴム層を加硫又は架橋するのに有用である。
【0037】
ゴム成分としては、加硫又は架橋可能なゴム、例えば、ジエン系ゴム(天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(ニトリルゴム)、水素化ニトリルゴム、水素化ニトリルゴムと不飽和カルボン酸金属塩との混合ポリマーなど)、エチレン−α−オレフィンエラストマー、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、アルキル化クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、アクリル系ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴムなどが例示できる。これらのゴム成分は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0038】
これらのうち、有害なハロゲンを含まず、耐オゾン性、耐熱性、耐寒性を有し、経済性にも優れる点から、エチレン−α−オレフィンエラストマー(エチレン−α−オレフィン系ゴム)が好ましい。さらに、エチレン−α−オレフィンエラストマーは、他のゴムに比べて水濡れ性が低いため、注水時の動力伝動性や静音性を著しく向上できる。
【0039】
エチレン−α−オレフィンエラストマー(エチレン−α−オレフィン系ゴム)としては、例えば、エチレン−α−オレフィンゴム、エチレン−α−オレフィン−ジエンゴムなどが挙げられる。
【0040】
α−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、ブテン、ペンテン、メチルペンテン、ヘキセン、オクテンなどの鎖状α−C3−12オレフィンなどが挙げられる。α−オレフィンは、単独又は2種以上組み合わせて使用できる。これらのα−オレフィンのうち、プロピレンなどのα−C3−4オレフィン(特にプロピレン)が好ましい。
【0041】
ジエンモノマーとしては、通常、非共役ジエン系単量体、例えば、ジシクロペンタジエン、メチレンノルボルネン、エチリデンノルボルネン、1,4−ヘキサジエン、シクロオクタジエンなどが例示できる。これらのジエンモノマーは単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0042】
代表的なエチレン−α−オレフィンエラストマーとしては、例えば、エチレン−α−オレフィンゴム(エチレン−プロピレンゴム(EPR))、エチレン−α−オレフィン−ジエンゴム(エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDMなど))などが例示できる。好ましいエチレン−α−オレフィンエラストマーはEPDMである。
【0043】
エチレン−α−オレフィンゴムにおいて、エチレンとα−オレフィンとの割合(質量比)は、前者/後者=40/60〜90/10、好ましくは45/55〜85/15(例えば、50/50〜82/18)、さらに好ましくは55/45〜80/20(例えば、55/45〜75/25)程度であってもよい。また、ジエンの割合は、ゴム全体に対して4〜15質量%程度の範囲から選択でき、例えば、4.2〜13質量%(例えば、4.3〜12質量%)、好ましくは4.4〜11.5質量%(例えば、4.5〜11質量%)程度であってもよい。なお、ジエン成分を含むエチレン−α−オレフィンゴムのヨウ素価は、例えば、3〜40(好ましくは5〜30、さらに好ましくは10〜20)程度であってもよい。ヨウ素価が小さすぎると、ゴム組成物の加硫が不十分になって磨耗や粘着が発生し易く、またヨウ素価が大きすぎると、ゴム組成物のスコーチが短くなって扱い難くなると共に耐熱性が低下する傾向がある。
【0044】
有機過酸化物としては、通常、ゴム、樹脂の架橋に使用されている有機過酸化物、例えば、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアルキルパーオキサイド(例えば、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、1,1−ジ−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−ヘキサン、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシ−イソプロピル)ベンゼン、ジ−t−ブチルパーオキサイドなど)などが挙げられる。これらの有機過酸化物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。さらに、有機過酸化物は、熱分解による1分間の半減期が150〜250℃(例えば、175〜225℃)程度の過酸化物が好ましい。
【0045】
加硫剤又は架橋剤(特に有機過酸化物)の割合は、ゴム成分(エチレン−α−オレフィンエラストマーなど)100質量部に対して、固形分換算で、1〜10質量部、好ましくは1.2〜8質量部、さらに好ましくは1.5〜6質量部(例えば、2〜5質量部)程度である。
【0046】
ゴム組成物は、さらに加硫促進剤を含んでいてもよい。加硫促進剤としては、例えば、チウラム系促進剤、チアゾ−ル系促進剤、スルフェンアミド系促進剤、ビスマレイミド系促進剤、ウレア系促進剤などが挙げられる。これらの加硫促進剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。加硫促進剤の割合は、固形分換算で、ゴム成分100質量部に対して、例えば、0.5〜15質量部、好ましくは1〜10質量部、さらに好ましくは2〜5質量部程度である。
【0047】
ゴム組成物は、架橋度を高め、粘着摩耗などを防止するために、さらに共架橋剤(架橋助剤、又は共加硫剤)を含んでいてもよい。共架橋剤としては、慣用の架橋助剤、例えば、多官能(イソ)シアヌレート[例えば、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアリルシアヌレート(TAC)など]、ポリジエン(例えば、1,2−ポリブタジエンなど)、不飽和カルボン酸の金属塩[例えば、(メタ)アクリル酸亜鉛、(メタ)アクリル酸マグネシウムなど]、オキシム類(例えば、キノンジオキシムなど)、グアニジン類(例えば、ジフェニルグアニジンなど)、多官能(メタ)アクリレート[例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなど]、ビスマレイミド類(N−N’−m−フェニレンビスマレイミドなど)などが挙げられる。これらの架橋助剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。架橋助剤の割合(複数種を組み合わせる場合は合計量)は、固形分換算で、ゴム100質量部に対して、例えば0.01〜10質量部、好ましくは0.05〜8質量部、さらに好ましくは0.1〜5質量部程度である。
【0048】
ゴム組成物は、必要に応じて、慣用の添加剤、例えば、加硫助剤、加硫促進剤、加硫遅延剤、増強剤(カーボンブラック、含水シリカなどの酸化ケイ素など)、充填剤(クレー、炭酸カルシウム、タルク、マイカなど)、補強繊維(アラミド短繊維などのポリアミド短繊維、ポリエステル短繊維、ビニロン短繊維など)、金属酸化物(例えば、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化鉄、酸化銅、酸化チタン、酸化アルミニウムなど)、軟化剤(パラフィンオイル、ナフテン系オイル、プロセスオイルなどのオイル類など)、加工剤又は加工助剤(ステアリン酸、ステアリン酸金属塩、ワックス、パラフィン、脂肪酸アマイドなど)、老化防止剤(酸化防止剤、熱老化防止剤、屈曲き裂防止材、オゾン劣化防止剤など)、着色剤、粘着付与剤、可塑剤、カップリング剤(シランカップリング剤など)、安定剤(紫外線吸収剤、酸化防止剤、オゾン劣化防止剤、熱安定剤など)、潤滑剤、難燃剤、帯電防止剤などを含んでいてもよい。なお、金属酸化物は架橋剤として作用してもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0049】
これらの添加剤の割合は、種類に応じて慣用の範囲から選択でき、例えば、ゴム成分100質量部に対して増強剤(カーボンブラック、シリカなど)の割合は10〜200質量部(特に20〜150質量部)程度であってもよく、補強繊維の割合は80質量部以下(例えば1〜60質量部)程度であってもよく、金属酸化物(酸化亜鉛など)の割合は1〜15質量部(特に2〜10質量部)程度であってもよく、軟化剤(パラフィンオイルなどのオイル類)の割合は1〜30質量部(特に5〜25質量部)程度であってもよく、加工剤(ステアリン酸など)の割合は0.1〜5質量部(特に0.5〜3質量部)程度であってもよい。
【0050】
(複合層の厚み)
複合層の平均厚みは、例えば0.02〜0.15mm、好ましくは0.03〜0.1mm程度である。複合層の平均厚みは、圧縮ゴム層に埋設した不織布の熱処理物を基準に測定でき、圧縮ゴム層の底部表面における任意の10箇所における埋設深さを測定して平均値を求めることにより測定できる。
【0051】
[他の層及び心線]
圧縮ゴム層は、前記複合層に含まれるゴム組成物と同一のゴム組成物で形成されている。圧縮ゴム層の平均厚みは、例えば2〜20mm、好ましくは2.5〜15mm、さらに好ましくは3〜10mm程度である。
【0052】
接着ゴム層にも前記圧縮ゴム層と同様のゴム組成物(エチレン−α−オレフィンエラストマーなどのゴム成分を含むゴム組成物)が使用できる。接着ゴム層のゴム組成物において、ゴム成分としては、前記圧縮ゴム層のゴム組成物のゴム成分と同系統又は同種のゴムを使用する場合が多い。また、加硫剤又は架橋剤、共架橋剤又は架橋助剤、加硫促進剤などの添加剤の割合も、それぞれ、前記圧縮ゴム層のゴム組成物と同様の範囲から選択できる。接着ゴム層のゴム組成物は、さらに接着性改善剤(レゾルシン−ホルムアルデヒド共縮合物、アミノ樹脂など)を含んでいてもよい。接着ゴム層の平均厚みは、例えば0.4〜3mm、好ましくは0.6〜2mm、さらに好ましくは0.8〜1.5mm程度である。
【0053】
心線は、高モジュラスな繊維、例えば、ポリエステル繊維(ポリアルキレンアリレート系繊維)、アラミド繊維などの合成繊維、炭素繊維などの無機繊維などが汎用され、ポリエステル繊維(ポリエチレンテレフタレート系繊維、ポリエチレンナフタレート系繊維)、アラミド繊維が好ましい。繊維はマルチフィラメント糸、例えば、繊度2000〜10000デニール(特に4000〜8000デニール)程度のマルチフィラメント糸であってもよい。
【0054】
心線としては、通常、マルチフィラメント糸を使用した撚りコード(例えば、諸撚り、片撚り、ラング撚りなど)を使用できる。心線の平均線径(撚りコードの繊維径)は、例えば、0.5〜3mm、好ましくは0.6〜2mm、さらに好ましくは0.7〜1.5mm程度であってもよい。心線はベルトの長手方向に埋設され、単数又は複数の心線がベルトの長手方向に平行に所定のピッチで並列的に埋設されていてもよい。
【0055】
ポリマー成分との接着性を改善するため、心線は、エポキシ化合物、イソシアネート化合物などによる種々の接着処理を施した後に、伸張層と圧縮ゴム層との間(特に接着ゴム層)に埋設してもよい。
【0056】
伸張層が外被布で形成されている場合、外被布としては、例えば、織布、広角度帆布、編布、不織布などの布材(好ましくは織布)であってもよい。伸張層がゴム組成物で形成されている場合、伸張層を構成するゴム組成物は、圧縮ゴム層を形成するゴム組成物で形成されていてもよい。伸張層の厚みは、例えば0.8〜10mm、好ましくは1.2〜6mm、さらに好ましくは1.6〜5mm程度である。
【0057】
[Vリブドベルト及びその製造方法]
本発明のVリブドベルトの平均厚みは2〜12mm程度の範囲から選択でき、例えば、2.5〜10mm、好ましくは3.8〜5mm程度であり、例えば4.1〜4.3mm程度であってもよい。リブ部の平均厚みは1〜3.5mm程度の範囲から選択でき、例えば1.2〜3mm、好ましくは1.5〜2.7mm、さらに好ましくは1.6〜2mm程度である。リブ部の平均厚みは、ベルト全体の平均厚みに対して54%以下であってもよく、好ましくは36〜53%程度である。
【0058】
本発明では、リブ部の底部表面が複合層であり、ベルトの耐久性に優れるため、リブ部の厚みを小さくできる。例えば、従来品がベルト厚み4.3±0.3mm、リブ高さ2.0±0.2mmのとき、リブ高さを0.2mm小さくすることで(2.0→1.8mm)、ベルト厚みを4.1±0.3mmに減らすことができる。リブ高さを小さくできる上に、従来必要であった研削代(リブ部の底部のための研削)が不要であるため、ベルトを構成するゴム組成物の使用量を低減できる。また、研削量が減るので、研削時間や研削屑も低減できる。さらに、ベルト厚みが減る分、ベルトの屈曲性が向上するため、応力減により耐クラック性が向上し、曲げロスの低減により省燃費性が向上する。
【0059】
本発明のVリブドベルトの製造方法は、円筒状ドラムに伸張層を形成するための伸張層用部材を装着する伸張層装着工程、さらに心線を巻き付ける心線スピニング工程、さらに圧縮ゴム層を形成するための未加硫ゴムシートを巻き付ける圧縮ゴム層巻付工程、巻き付けた未加硫ゴムシートの上に、さらに熱可塑性繊維を含む不織布を巻き付ける不織布巻付工程、前記伸張層用部材、心線、未加硫ゴムシート及び不織布を、前記熱可塑性繊維の融点よりも高い温度で加硫して加硫スリーブを得る加硫工程、加硫スリーブの不織布側において、圧縮ゴム層の側部のみを研削で成形する研削工程を含む。
【0060】
具体的には、本発明の製造方法では、伸張層装着工程として、円筒状の成形ドラムに伸張層用部材を装着する。伸張層用部材の装着方法としては、伸張層用部材の種類に応じて選択でき、シート状部材の場合、伸張層用部材を円筒状ドラムに巻き付けてもよく、環状部材の場合、伸張層用部材を円筒状ドラムに被せてもよい。
【0061】
本発明では、必要に応じて、心線スピニング工程の前工程及び/又は後工程として、接着ゴム層を装着する接着ゴム層装着工程を含んでいてもよい。前工程として接着ゴム層装着工程を含む場合は、接着ゴム層装着工程は、例えば、接着ゴム層を形成するための未加硫ゴムシートと伸張層を形成するための部材との環状積層体を円筒状ドラムに被せる方法、接着ゴム層を形成するための未加硫ゴムシートと伸張層を形成するための部材との積層体を円筒状ドラムに巻き付ける方法、装着した伸張層用部材の上に接着ゴム層を形成するための未加硫ゴムシートを巻き付ける方法などであってもよい。後工程として接着ゴム層装着工程を含む場合は、接着ゴム層装着工程は、例えば、接着ゴム層を形成するための未加硫ゴムシートを心線の上に巻き付ける方法、接着ゴム層を形成するための未加硫ゴムシートと圧縮ゴム層を形成するための部材との積層体を心線の上に巻き付ける方法などであってもよい。
【0062】
そのため、前記心線スピニング工程では、通常、接着ゴム層巻付工程の有無に応じて、前記工程で装着した伸張層用部材又は接着ゴム層用未加硫シートの上に、心線を螺旋状にスピニングして巻き付ける。また、前記圧縮ゴム層巻付工程では、通常、前記工程でスピニングした心線又は巻き付けた接着ゴム層用未加硫シートの上に圧縮ゴム層(リブゴム層)を形成するための未加硫ゴムシートを巻き付ける。
【0063】
さらに、本発明では、不織布巻付工程において、圧縮ゴム層を形成するための未加硫ゴムシートの表面にベルトの加硫温度で融解する融点を有する熱可塑性繊維を含む不織布を巻き付ける。不織布を構成する繊維が所定の方向に配向されている場合は、繊維の長手方向がベルトの長手方向と平行に配置させて巻き付けるのが好ましい。
【0064】
加硫工程では、加硫方式は加硫缶方式であってもよい。加硫温度は、熱可塑性繊維の融点よりも3〜20℃、好ましくは5〜15℃、さらに好ましくは8〜12℃高い温度であってもよい。具体的な加硫温度は、ゴムの種類に応じて選択できるが、例えば140〜200℃、好ましくは150〜180℃、さらに好ましくは165〜180℃程度であってもよい。加硫温度が低すぎると、非繊維状部の割合が少なくなる虞があり、高すぎると、繊維状部の割合が多くなる虞がある。本発明では、加硫工程により、不織布と圧縮ゴム層とが一体化するため、不織布の接着処理が不要であり、生産性も高い。また、加硫時に、不織布は繊維の形態をある程度維持したまま圧縮ゴム層に埋もれていくので、加硫時のエア抜きや、加硫ジャケットからの離型にも有効である。
【0065】
研削工程では、通常、加硫スリーブを研削して圧縮ゴム層にリブを形成した後、所定幅に輪切りして切断することによりVリブドベルトが得られる。研削方法としては、慣用の方法を利用できるが、圧縮ゴム層の不織布側において、圧縮ゴム層の側部のみを研削するため、底部表面に複合層が形成されるとともに、研削量も削減できる。
【実施例】
【0066】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例で使用した不織布、ゴム組成物の成分及び心線の詳細と、測定した評価項目の評価方法を以下に示す。
【0067】
[不織布]
(実施例1〜6のポリプロピレン(PP)不織布:旭化成せんい(株)製)
実施例1:商品名「P03015」、目付15g/m、厚み0.14mm
実施例2及び6:商品名「PL2020」、目付20g/m、厚み0.23mm
実施例3:商品名「P03025」、目付25g/m、厚み0.21mm
実施例4:商品名「P03030」、目付30g/m、厚み0.27mm
実施例5:商品名「P03040」、目付40g/m、厚み0.34mm
(比較例の不織布)
比較例1:レーヨン不織布、目付30g/m、シンワ(株)製、商品名「#5130」、厚み0.25mm
比較例2及び3:低密度ポリエチレン(PE)不織布、目付30g/m、出光ユニテック(株)製、商品名「ストラテックLL」、厚み0.3mm。
【0068】
[ゴム組成物の成分]
EPDMポリマー:デュポン・ダウエラストマージャパン(株)製「IP3640」、ムーニー粘度40(100℃)
ポリアミド短繊維:旭化成(株)製「66ナイロン」
カーボンブラックHAF:東海カーボン(株)製「シースト3」
パラフィン系軟化剤:出光興産(株)製「ダイアナプロセスオイル」
有機過酸化物:化薬アクゾ(株)製「パーカドックス14RP」
含水シリカ:東ソー・シリカ(株)製「Nipsil VN3」、比表面積240m/g
老化防止剤:精工化学(株)製「ノンフレックスOD3」
加硫促進剤DM:ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド
【0069】
[心線]
心線:1,000デニールのPET繊維を2×3の撚り構成で、上撚り係数3.0、下撚り係数3.0で緒撚りしたトータルデニール6,000のコードを接着処理した繊維。
【0070】
[耐熱耐久性]
耐熱耐久性の試験に用いた走行試験機は、駆動プーリ(直径120mm)、アイドラープーリ(直径85mm)、従動プーリ(直径120mm)、テンションプーリ(直径45mm)を配置して構成される。そして、テンションプーリへの巻き付け角度が90°、アイドラープーリへの巻き付け角度が120°になるように各プーリにVリブドベルトを懸架し、雰囲気温度120℃、駆動プーリの回転数4900rpmの条件でVリブドベルトを走行させた。このとき、ベルト張力40kgf/リブとなるように駆動プーリに荷重を付与し、従動プーリに負荷8.8kWを与えた。そして、このようにVリブドベルトを走行させ、心線に達する亀裂が6個発生するまでの時間を測定した。
【0071】
[耐屈曲疲労性(耐クラック性)]
図2に示すレイアウトの試験機を用いて、実施例及び比較例で得られたVリブドベルトを130℃雰囲気下でVリブドベルトの走行試験を行い、リブ部にクラックが発生するまでの時間を測定し、耐屈曲疲労性を評価した。
【0072】
[外観性状の評価]
実施例及び比較例で得られたVリブドベルトのリブ先端面を目視で観察し、以下の基準で判定した。
【0073】
4:リブ先端面に不織布の繊維の毛羽立ちがない
3:リブ先端面の一部に不織布の繊維の毛羽立ちがわずかにあるが目立たない
2:リブ先端面に不織布の繊維の毛羽立ちがあり、やや目立つ
1:リブ先端面の全体に不織布の繊維の毛羽立ちがある。
【0074】
なお、評価基準における「毛羽立ち」とは、リブ先端面が以下の状態(1)及び(2)の糸状物を含むことを意味する。
【0075】
(1)不織布の繊維形状が維持された糸状物が、ゴムに埋設しきれず底部表面に現れている状態
(2)側部を研削する際に、底部(複合層)に埋設していた繊維形状を維持した糸状物が、グラインダーの影響で複合層から引っ張り出されて表面に出てきた状態。
【0076】
実施例1〜6及び比較例1〜3
(伸張層を形成するため外被布)
外被布として、綿繊維とポリエチレンテレフタレート繊維を重量比で50:50の混撚糸を使用したワイドアングルの平織帆布(厚み0.63mm)を用いた。これらの帆布をRFL液に浸漬した後、150℃で2分間熱処理して接着処理帆布とした。さらに、この接着処理帆布に、表1に示すゴム組成物により得た接着ゴム層を形成するためのゴムシート(厚み0.5mm)を積層した積層体を作製した。
【0077】
(圧縮ゴム層、及び接着ゴム層を形成するためのゴムシート)
表1に示すゴム組成物をバンバリーミキサーで混練し、カレンダーロールによって圧延することによって、圧縮ゴム層を形成するためのゴムシートを2.2mmの厚みで、接着ゴム層を形成するためのゴムシートを0.5mmの厚みで作製した。
【0078】
【表1】
【0079】
(ベルトの製造)
表面が平滑な円筒状ドラム(成形金型)の外周に、伸張層を形成するための外被布と接着ゴム層を形成するためのゴムシートとを積層した積層体を、接着ゴム層を形成するためのゴムシートが外周面となるように巻き付けた。この積層体の外周面に心線をスパイラル状に巻き付けた後、さらにこの心線の上に、接着ゴム層を形成するためのゴムシートと圧縮ゴム層を形成するためのゴムシートとを積層した積層体を、圧縮ゴム層を形成するためのゴムシートが最外周面となるように巻き付けた。さらに、この最外周面に不織布を巻き付け、未加硫状態のベルト成形体を作製した。
【0080】
さらに、ベルト成形体の外周側に加硫ジャケットを被せた状態で加硫缶内に配置し、加圧水蒸気により、180℃、0.9MPa、25分間の条件にて加硫を行った。
【0081】
さらに、冷却した後、加硫ジャケットを外して(離型して)得られた加硫ベルトスリーブにおいて、断面V字状の溝を形成するための所定形状の研削ホイール(砥石)にて圧縮ゴム層の側部のみを研削して、複数のリブ(断面V字状の溝)を形成した。そして、この複数のリブが形成された加硫ベルトスリーブを、カッターにより輪切りするように所定幅に切断した後、内周側と外周側とを反転することによって、図1に示す構造のVリブドベルトを得た。
【0082】
得られたVリブドベルトのリブ部表面では、不織布の一部が溶融して非繊維状部に変形するとともに、繊維状部及び非繊維状部の一部は圧縮ゴム層中に埋設し、複合層が形成されていた。実施例2で得られたVリブドベルトのリブ部表面、及び断面の走査型電子顕微鏡写真(SEM写真)を、それぞれ図3及び4に示す。図3及び4において、色の濃い部分が不織布由来の部分であり、かつ色の薄い部分が圧縮ゴム層由来の部分である。図3及び4から明らかなように、実施例1のVリブドベルトのリブ部表面には、繊維状部(色が薄く、細い線状部分)と非繊維状部(色が濃く、広がっている部分)とゴム組成物(色の濃い部分)とが混在した複合層が形成されていた。詳しくは、図3について、繊維状部が観察できる中央部分が底部の表面(非研削面)であり、左右両側部が研削面である。
【0083】
なお、比較例3については、特開2013−145032号公報の実施例に記載された金型を用いた方法でVリブドベルトを製造した。
【0084】
(ベルトの評価)
作製したVリブドベルトの耐熱耐久性、耐屈曲疲労性、リブ部表面の外観の評価結果を表2に示す。
【0085】
【表2】
【0086】
表2の結果から明らかなように、圧縮ゴム層の底部が3成分の複合層を形成した実施例1〜6と、不織布が溶融し、繊維形状を消失して単一のフィルム状の樹脂層(スキン層)を形成した比較例2及び3とを比較すると、実施例1〜6は、耐熱耐久性、耐屈曲疲労性ともに亀裂発生までの時間が長く、耐久性に優れていた。
【0087】
また、実施例1〜6と、不織布が繊維形状のままである比較例1とを比較すると、目付が40g/mと大きい実施例5であっても、比較例1よりも耐久性が優れていた。
【0088】
なお、実施例の中では、目付の小さい不織布ほど、耐屈曲疲労性試験において亀裂発生までの時間が長くなった。
【0089】
以上から、圧縮ゴム層の底部が、ゴム・樹脂・繊維の3成分の複合層である実施例は、圧縮ゴム層の底部がフィルム状の樹脂層(スキン層)や、分厚い不織布である比較例に比べ、ベルトが屈曲し易く、耐久性に優れていた。
【0090】
外観については、圧縮ゴム層の底部全面で不織布の毛羽立ちが発生する比較例1のベルトと比較すると、実施例1〜6のベルトは、不織布の毛羽立ちがない、または目立たないので、外観が良好であった。
【0091】
図5に実施例2で得られたVリブドベルトのリブ部の写真を示すが、加硫ジャケットから傷やシミが転写されず、外観が良好であった。すなわち、SEM写真では、ゴムと不織布とが混在しているように見えるが、目視では不織布は目立たなかった。
【0092】
なお、図6に不織布を用いずに製造したVリブドベルト(参考例1)のリブ部の写真を示すが、加硫ジャケットから傷やシミが転写されていた。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明のVリブドベルトは、自動車エンジン補機駆動などの伝動装置の摩擦伝動ベルトとして利用できる。
【符号の説明】
【0094】
1…伸張層
2…心線
3…接着ゴム層
4…圧縮ゴム層
4a…研削面
5…複合層
図1
図2
図3
図4
図5
図6