【実施例1】
【0013】
図1に示されるように、半導体モジュール10は、両面冷却型の半導体モジュールであり、一対の半導体チップ20,30、一対の金属ブロック24,34、複数の伝熱部材22,26,32,36、複数の電極板28,42,44、一対の絶縁層52,54及び一対の冷却器62,64を備える。一対の冷却器62,64が、一対の半導体チップ20,30、一対の金属ブロック24,34、複数の伝熱部材22,26,32,36及び一対の絶縁層52,54を加圧して密着するように構成されている。半導体モジュール10は、3相インバータの下側アームを構成する3つの半導体素子の1つとして用いられる。
【0014】
半導体チップ20は、IGBTである。半導体チップ20の下面のコレクタ電極は、はんだを介して伝熱部材22の上面に接合されている。伝熱部材22の下面は、絶縁層52を介して冷却器62に密着する。絶縁層52の上下面には、グリースが塗布されている。伝熱部材22は、半導体チップ20と冷却器62の間に設けられており、半導体チップ20の熱を冷却器62に伝熱する。半導体チップ20の上面のエミッタ電極は、はんだにより金属ブロック24の下面に接合されている。金属ブロック24の材料には、銅が用いられている。金属ブロック24の上面は、はんだを介して伝熱部材26の下面に接合されている。伝熱部材26の上面は、絶縁層54を介して冷却器64に密着する。絶縁層54の上下面には、グリースが塗布されている。伝熱部材26は、半導体チップ20と冷却器64の間に設けられており、半導体チップ20の熱を冷却器64に伝熱する。また、半導体チップ20の上面のゲート電極は、ワイヤーを介して制御電極板28に電気的に接続されている。
【0015】
半導体チップ30は、ダイオードである。半導体チップ30の下面のカソード電極は、はんだを介して伝熱部材32の上面に接合されている。伝熱部材32の下面は、絶縁層52を介して冷却器62に密着する。伝熱部材32は、半導体チップ30と冷却器62の間に設けられており、半導体チップ30の熱を冷却器62に伝熱する。半導体チップ30の上面のアノード電極は、はんだを介して金属ブロック34の下面に接合されている。金属ブロック34の材料には、銅が用いられている。金属ブロック34の上面は、はんだを介して伝熱部材36の下面に接合されている。伝熱部材36の上面は、絶縁層54を介して冷却器64に密着する。伝熱部材36は、半導体チップ30と冷却器64の間に設けられており、半導体チップ30の熱を冷却器64に伝熱する。
【0016】
伝熱部材22と伝熱部材32は、実際には、1つの伝熱部材として一体で構成されている。伝熱部材22と伝熱部材32の上面には、後述するように、金属層が露出しており、その金属層が出力電極板42に電気的に接続されている。即ち、半導体チップ20の下面のコレクタ電極と半導体チップ30の下面のカソード電極は、伝熱部材22,32を介して出力電極板42に電気的に接続されている。
【0017】
伝熱部材26と伝熱部材36も、実際には、1つの伝熱部材として一体で構成されている。伝熱部材26と伝熱部材36の下面には、金属層が露出しており、その金属層が入力電極板44に電気的に接続されている。即ち、半導体チップ20の上面のエミッタ電極と半導体チップ30の上面のアノード電極は、金属ブロック24、34及び伝熱部材26,36を介して入力電極板44に電気的に接続されている。
【0018】
一対の半導体チップ20,30、一対の金属ブロック24,34及び複数の伝熱部材22,26,32,36は、絶縁樹脂56に覆われている。電極板28,42,44の一部は、絶縁樹脂56から露出する。
【0019】
伝熱部材22,26,32,36は、同一の構成を有する。以下では、
図2及び
図3を参照して、伝熱部材22について詳細に説明し、他の伝熱部材26,32,36についての説明を省略する。
【0020】
図2及び
図3に示されるように、伝熱部材22は、中間層70、複数のグラファイト層71,72,73,74及び複数の金属層81,82,83,84を有する。複数のグラファイト層71,72,73,74は、第1グラファイト層71、第2グラファイト層72、第3グラファイト層73及び第4グラファイト層74を含む。グラファイト層71,72,73,74は、特許請求の範囲に記載のシート層の一例である。複数の金属層81,82,83,84は、第1金属層81、第2金属層82、第3金属層83及び第4金属層84を含む。第1金属層81及び第2金属層82は、特許請求の範囲に記載の接合層の一例である。
【0021】
中間層70は、伝熱部材22の積層方向(z軸方向)の中心に配置されている。中間層70の材料には、熱伝導等方性の金属が用いられており、この例では銅が用いられている。
【0022】
第1グラファイト層71は、中間層70の半導体チップ20側の面に接合する。第1グラファイト層71は、複数の配向性グラファイトシートがx軸方向に積層した積層体として構成されている。第1グラファイト層71を構成する配向性グラファイトシートは、yz面に平行なシート面の面内方向の熱伝導率が厚み方向(シート面に直交する方向であり、x軸方向)の熱伝導率よりも高く、熱伝導異方性を有する。第1グラファイト層71を構成する複数の配向性グラファイトシートの積層方向(x軸方向)は、半導体チップ20と冷却器62を結ぶ方向(z軸方向)に対して直交するように配置されている。換言すると、第1グラファイト層71を構成する配向性グラファイトシートのシート面(yz面)が、半導体チップ20と冷却器62を結ぶ方向(z軸方向)に対して平行となるように配置されている。
【0023】
第2グラファイト層72は、中間層70の冷却器62側の面に接合する。第2グラファイト層72は、複数の配向性グラファイトシートがx軸方向に積層した積層体として構成されている。第2グラファイト層72を構成する配向性グラファイトシートは、yz面に平行なシート面の面内方向の熱伝導率が厚み方向(シート面に直交する方向であり、x軸方向)の熱伝導率よりも高く、熱伝導異方性を有する。第2グラファイト層72を構成する複数の配向性グラファイトシートの積層方向(x軸方向)は、半導体チップ20と冷却器62を結ぶ方向(z軸方向)に対して直交するように配置されている。換言すると、第2グラファイト層72を構成する配向性グラファイトシートのシート面(yz面)が、半導体チップ20と冷却器62を結ぶ方向(z軸方向)に対して平行となるように配置されている。
【0024】
第3グラファイト層73は、第1金属層81及び第1グラファイト層71を介して中間層70に対向するように配置されている。第3グラファイト層73は、複数の配向性グラファイトシートがy軸方向に積層した積層体として構成されている。第3グラファイト層73を構成する配向性グラファイトシートは、xz面に平行なシート面の面内方向の熱伝導率が厚み方向(シート面に直交する方向であり、y軸方向)の熱伝導率よりも高く、熱伝導異方性を有する。第3グラファイト層73を構成する複数の配向性グラファイトシートの積層方向(y軸方向)は、半導体チップ20と冷却器62を結ぶ方向(z軸方向)に対して直交するように配置されている。換言すると、第3グラファイト層73を構成する配向性グラファイトシートのシート面(xz面)が、半導体チップ20と冷却器62を結ぶ方向(z軸方向)に対して平行となるように配置されている。さらに、第3グラファイト層73を構成する複数の配向性グラファイトシートの積層方向(y軸方向)が、第1グラファイト層71を構成する複数の配向性グラファイトシートの積層方向(x軸方向)に対して直交するように配置されている。
【0025】
第4グラファイト層74は、第2金属層82及び第2グラファイト層72を介して中間層70に対向するように配置されている。第4グラファイト層74は、複数の配向性グラファイトシートがy軸方向に積層した積層体として構成されている。第4グラファイト層74を構成する配向性グラファイトシートは、xz面に平行なシート面の面内方向の熱伝導率が厚み方向(シート面に直交する方向であり、y軸方向)の熱伝導率よりも高く、熱伝導異方性を有する。第4グラファイト層74を構成する複数の配向性グラファイトシートの積層方向(y軸方向)は、半導体チップ20と冷却器62を結ぶ方向(z軸方向)に対して直交するように配置されている。換言すると、第4グラファイト層74を構成する配向性グラファイトシートのシート面(xz面)が、半導体チップ20と冷却器62を結ぶ方向(z軸方向)に対して平行となるように配置されている。さらに、第4グラファイト層74を構成する複数の配向性グラファイトシートの積層方向(y軸方向)が、第2グラファイト層72を構成する複数の配向性グラファイトシートの積層方向(x軸方向)に対して直交するように配置されている。
【0026】
複数の金属層81,82,83,84の材料には、熱伝導等方性の金属が用いられており、この例では銅が用いられている。第1金属層81は、第1グラファイト層71と第3グラファイト層73の間に配置されており、第1グラファイト層71と第3グラファイト層73を接合する。第2金属層82は、第2グラファイト層72と第4グラファイト層74の間に配置されており、第2グラファイト層72と第4グラファイト層74を接合する。第3金属層83は、第3グラファイト層73に接合するとともに、はんだを介して半導体チップ20に接合する。第4金属層84は、第4グラファイト層74に接合するとともに、絶縁層52を介して冷却器62に密着する。これら金属層81,82,83,84は、接合層として用いられる。特に、第1金属層81及び第2金属層82は、グラファイト層間を強固に接合するとともに、グラファイト層間の伝熱効率を向上させる。
【0027】
伝熱部材22は、中間層70に対して上下対称な形態を有する。即ち、第1グラファイト層71と第2グラファイト層72が中間層70に対して対称な形態を有するように構成されており、第1金属層81と第2金属層82が中間層70に対して対称な形態を有するように構成されており、第3グラファイト層73と第4グラファイト層74が中間層70に対して対称な形態を有するように構成されており、第3金属層83と第4金属層84が中間層70に対して対称な形態を有するように構成されている。このため、第1グラファイト層71を構成する複数の配向性グラファイトシートの積層方向(x軸方向)と第2グラファイト層72を構成する複数の配向性グラファイトシートの積層方向(x軸方向)が平行であり、第3グラファイト層73を構成する複数の配向性グラファイトシートの積層方向(y軸方向)と第4グラファイト層74を構成する複数の配向性グラファイトシートの積層方向(y軸方向)が平行である。
【0028】
配向性グラファイトシートは、シート面の面内方向の線膨張係数が約1ppm/Kであり、厚み方向(シート面に直交する方向)の線膨張係数が約25ppm/Kである。このため、第1グラファイト層71及び第2グラファイト層72は、x軸方向に大きな線膨張係数を有する。しかしながら、第1グラファイト層71と第2グラファイト層72は、中間層70に対して対称な形態を有するように構成されているので、これらのx軸方向の線膨張係数は同一である。このため、第1グラファイト層71と第2グラファイト層72が相互に機械的に拘束することが抑えられるので、熱応力が緩和される。また、第3グラファイト層73及び第4グラファイト層74は、y軸方向に大きな線膨張係数を有する。しかしながら、第3グラファイト層73及び第4グラファイト層74は、中間層70に対して対称な形態を有するように構成されているので、これらのy軸方向の線膨張係数は同一である。このため、第3グラファイト層73及び第4グラファイト層74が相互に機械的に拘束することが抑えられるので、熱応力が緩和される。この結果、伝熱部材22は、湾曲するように熱変形することが抑えられる。
【0029】
上記したように、伝熱部材22では、複数のグラファイト層71,72,73,74のシート面が、半導体チップ20と冷却器62を結ぶ方向に対して平行となるように配置されている。さらに、中間層70及び複数の金属層81,82,83,84は熱伝導等方性である。このため、伝熱部材22は、半導体チップ20の熱を効率的に冷却器62に伝熱することができる。
【0030】
さらに、伝熱部材22では、第1グラファイト層71を構成する複数の配向性グラファイトシートの積層方向(x軸方向)と第3グラファイト層73を構成する複数の配向性グラファイトシートの積層方向(y軸方向)が直交するように配置されており、第2グラファイト層72を構成する複数の配向性グラファイトシートの積層方向(x軸方向)と第4グラファイト層74を構成する複数の配向性グラファイトシートの積層方向(y軸方向)が直交するように配置されている。これにより、伝熱部材22を全体で観測したときに、伝熱部材22を伝熱する熱は、xy面内にも広がることができるので、半導体チップ20の熱が効率的に冷却器62まで伝熱される。
【0031】
また、伝熱部材22では、中間層70が絶縁体のセラミックで形成されていてもよい。中間層70の材料が絶縁体であると、伝熱部材22が絶縁基板としても機能することができる。このような伝熱部材22(他の伝熱部材26,32,36も同様)が用いられると、
図4に示されるように、伝熱部材22,26,32,36と冷却器62,64の間の絶縁層52,54(
図1参照)が不要となる。上記したように、このような絶縁層52,54が不要となるので、絶縁層52,54の上下面に塗布されているグリースも不要となる。このため、中間層70が絶縁体のセラミックで形成されている伝熱部材22,26,32,36を用いると、グリースレスの半導体モジュール10を構築することができる。この結果、半導体モジュール10は、極めて高い冷却能を有することができる。
【0032】
以上、実施形態について詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの1つの目的を達成すること自体で技術有用性を持つものである。