特許第6423916号(P6423916)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ファルマセンス アクチェンゲゼルシャフトの特許一覧

<>
  • 特許6423916-シリンジ型ポンプ 図000002
  • 特許6423916-シリンジ型ポンプ 図000003
  • 特許6423916-シリンジ型ポンプ 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6423916
(24)【登録日】2018年10月26日
(45)【発行日】2018年11月14日
(54)【発明の名称】シリンジ型ポンプ
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/142 20060101AFI20181105BHJP
   A61M 5/172 20060101ALI20181105BHJP
   A61M 5/32 20060101ALI20181105BHJP
【FI】
   A61M5/142 522
   A61M5/172 500
   A61M5/32 500
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-92697(P2017-92697)
(22)【出願日】2017年5月8日
(62)【分割の表示】特願2015-159098(P2015-159098)の分割
【原出願日】2011年10月7日
(65)【公開番号】特開2017-148596(P2017-148596A)
(43)【公開日】2017年8月31日
【審査請求日】2017年5月8日
(31)【優先権主張番号】10187141.6
(32)【優先日】2010年10月11日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513088249
【氏名又は名称】ファルマセンス アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハドヴァリー、パオル
(72)【発明者】
【氏名】チルキー、ハンスヨルク
【審査官】 小原 一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−206199(JP,A)
【文献】 特表2010−501282(JP,A)
【文献】 特表2006−501893(JP,A)
【文献】 特表2009−529964(JP,A)
【文献】 米国特許第04525164(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/142
A61M 5/172
A61M 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の皮膚内へ流体を皮下導入するためのデバイスであって、前記デバイスは、
− ポンプを含むケーシングと、
− 前記患者の皮膚内へ挿入されるための先端部を有するカニューレであって、前記カニューレは、前記ポンプに対して固定して位置決めされている、カニューレと、
− 前記患者の皮膚内へ前記カニューレを挿入するための手段と
を含む、デバイスにおいて、
− 前記カニューレを挿入するための手段は、可撓性の底板と接着層とを含み、
− 前記可撓性の底板は、前記ケーシングの周囲部に取り付けられており、前記可撓性の底板は、圧縮応力のかかった凸状の位置と、解放された平坦な位置とを有しており、前記圧縮応力のかかった凸状の位置では、前記カニューレの先端部が隠され、前記解放された平坦な位置では、前記可撓性の底板を越えて前記カニューレの前記先端部が露出され、
− 前記可撓性の底板は、前記カニューレを通すための開口と、前記開口の中に配置された隔壁シールとを有しており、
− 前記接着層は、前記患者の皮膚の上に前記可撓性の底板を接着するために前記可撓性の底板の表面全体に固定され、前記可撓性の底板の表面全体を覆っており、それによって、前記圧縮応力のかかった凸状の位置から前記解放された平坦な位置へ動かすときに、前記可撓性の底板が、接着された前記皮膚を前記カニューレの前記先端部に引き寄せ、それによって、前記カニューレが前記隔壁シール及び前記皮膚を貫通することを引き起こすことを特徴とする、患者の皮膚内へ流体を皮下導入するためのデバイス。
【請求項2】
前記ポンプが、円形のシリンジ・ポンプであることを特徴とする、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記デバイスが、前記カニューレを挿入するための手段によって前記皮膚内へ同時に挿入される1つ又は複数のカニューレを含むことを特徴とする、請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記デバイスが、患者内への注入流体の送達のための2つ以上のポンプを含むことを特徴とする、請求項1からまでのいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項5】
1つ又はいくつかの被検体に対する測定手段と、これらの測定の結果を表示し、且つ/又は前記結果を無線で伝送し、且つ/又は前記結果を使用して注入流体の送達を制御する手段とを特徴とする、請求項1からまでのいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項6】
前記可撓性の底板を前記圧縮応力のかかった凸状の位置から前記解放された平坦な位置へ動かす手段は、力のかかった緊張した位置からの弛緩による急速な運動のために前記可撓性の底板の弾性を使用することを特徴とする、請求項1からまでのいずれか一項に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1のプリアンブルに記載のシリンジ型ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
このタイプのポンプの1つの主な適用分野は、診断の目的で患者内へ生物活性液を注入すること、及び/又は体液を抽出することである。この用途では、ポンプは通常、患者の皮膚に付着するための接触表面と、注入流体の導入又は分析液の取出しのために患者の組織又は血管にアクセスするためのカニューレとを備えている。
【0003】
注入デバイスは患者の治療に広く使用されているが、その寸法及び複雑さのため、使用は特殊な設備に大きく制限されている。最近は、糖尿病の治療においてインシュリンを送達するために、注入デバイスの外来での使用が開発されてきた。必要な送達精度を実現するために、これらの注入デバイスでは通常、シリンジ・ポンプが使用される。これらのデバイスの寸法は、主にピストンを引き延ばすことで充填されるシリンジの長く延びた長手方向の形状のためにかなり大きく、たとえばベルト又は下着に取り付けて着用する必要があり、皮下に配置されたカニューレへの接続バレルとともに動作するため、不便さ及び安全上の問題を招く。
【0004】
より最近では、これらの欠点のため、皮膚に直接取り付けることができ、好ましくは長いバレルを皮下の送達カニューレに接続する必要のない点滴デバイスが開発されている。寸法及び重量を低減させる必要があるため、十分な量の注入流体を有する高精度のシリンジ型ポンプは、皮膚に直接取り付けて使用するのが困難である。したがって、実生活での動作中に受ける非常に変わりやすい環境及び生理学上の条件下で送達精度及び信頼性にかなりの欠点を有する代替のポンプのタイプが採用されており、たとえば、蠕動ポンプ、バルブを使用するピストン・ポンプ、又は可撓性容器の圧搾によって、リザーバからの送達が行われる。そのような適用分野向けのシリンジ・ポンプは、長く延びた長手方向の底面を回避するために、直径の広いバレルを有するが、この解決策には、組織のかなりの後方圧に逆らって注入するために大きい駆動力を必要とし、最も重要なことに、死容積が比較的大きくなることがほとんど避けられないために注入カニューレに気泡が入って閉塞させ、またスティックスリップ作用のためにボーラス注入が意図せず比較的大きくなるというリスクのため、欠点がある。
【0005】
バレルを適当に狭くすることでシリンジ型ポンプの底面を低減させるという興味深い解決策は、たとえばM.P.Loeb及びA.M.Olsonによる1981年出願の米国特許第4,525,164号に記載のように、弧状のバレルを使用することである。高精度のパッチ型の点滴ポンプに関するこの概念は魅力的であるが、必要な性能を有するそのような環状のシリンジ・ポンプを適当なコストで製造するにはかなりの実用上の難題があるため、安全で費用効果の高い医療用製品への変換は明白ではない。そのような製品では、弧状のバレルの生産のために、収縮率の違いにより許容差が本質的に著しく大きいプラスチック技術を使用しなければならないことが明らかである。たとえば、回転運動によって射出成型器具の心棒を取り出さなければならず、その後、円環の近位壁と遠位壁に収縮率の違いが生じるため、その結果生じる理想的な円形形状からのずれは、それに合わせて設備を適合させることでは容易に補正することができない。ピストンを用いて妥当な摩擦で十分な封止を実現し、またバレルの弧とピストンの硬質の弧状の駆動ロッドの回転運動との間の嵌合が完全でないために生じる固着を回避する上で、製造される円環に対する理想的な円形形状からのほとんど避けられないずれ、及び組織の大きな後方圧に打ち克つのに必要な強い力による変形は問題を招く。これらの難題は、たとえばインシュリンの送達のために高精度のシリンジ型ポンプに必要とされる小さいバレル直径でさらに顕著になる。たとえばR.Paul MounceらによるWO2008/024812A2又はO.YodfadらによるWO2008/139458A2における弧状のシリンジ・ポンプに関するいくつかのより最近の説明にもかかわらず、この問題は十分に対処されておらず、これらの説明又は図からは実用的な解決策が明らかになっていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第4,525,164号
【特許文献2】WO2008/024812A2
【特許文献3】WO2008/139458A2
【特許文献4】EP0825882
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、現況技術のデバイスの欠点を回避する弧状のシリンジ型ポンプを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、これは、請求項1の特徴的な特徴によって実現される。
【0009】
湾曲した環状バレルを使用するこの構成では、高精度のシリンジ・ポンプと小型の形状を組み合わせる。バレルの軸線に沿った動き全体にわたってバレルとピストンとの間で最適の嵌合を実現するために、ピストンの駆動ロッドは、バレルの内壁の表面によって案内及び支持され、好ましくは可撓性であり、したがってバレルの内側湾曲に対して自己適応性を有する。バレルは、優先的に弧が180°未満になるような湾曲を有しており、高精度の投与のために標準的なプラスチック技術で製造できるバレルの最適の長さ/直径比には、150°〜160°が最も好ましい。さらに、デバイスの個々の構成要素の改善及びこれらの構成要素の協働により、全体的な寸法の所望の低減及び機械動作の簡略化が実現される。本発明によれば、現在のデバイスに伴う主な問題は、本明細書で以下に開示する特徴を有する注入又は分析流体取出しデバイスによって解決される。
【0010】
患者の皮膚又は静脈内若しくは腹腔内ポートを通じて患者内へ注入流体を導入する当該注入デバイスは、環状チューブの一区分の形状のバレルと、バレル内へしっかりと嵌合し、駆動及び制御手段によってバレル全体を通過させることができるピストンとを有するシリンジ型ポンプを備える。ピストンは、バレルの内壁によって案内及び支持され、好ましくは可撓性であり、そのためバレルの湾曲に対して自己適応性を有する駆動ロッドによって動かされ、バレルの弧とピストンの剛性の駆動ロッドの弧との間の嵌合が完全でないために固着が生じる危険はない。さらに、この構成は、ピストンを押すロッドがバレルの遠位内面によって案内されることによる流体の送達と、ピストンを押すロッドがバレルの近位内面によって案内されることによる流体の抜出しとの両方に適応させることができる。デバイスは、患者の皮膚又は静脈内ポートに接触するための接触表面を有する。通常、皮膚への接触表面は接着剤で被覆されており、シリンジ・ポンプは、患者の皮膚又はポートの隔壁を貫通して患者内へ注入流体を導入し、又は分析流体を取り出すように構成及び寸法設定された先端部を有するカニューレに連結される。
【0011】
好ましい実施例では、本発明のデバイスは、ケーシング及びシリンジ・ポンプに対して固定して位置決めされたカニューレを有する。患者の皮膚内へのカニューレの挿入機構は、皮膚に接着する可撓性の接触表面を備えることが好ましい。
【0012】
本明細書では、以下の定義で記載の用語を定義する。
【0013】
皮膚上で一時的に着用するための接着性の接触表面は、強い接着特性、伸縮性、及び最小のアレルゲン性を有する材料から作られる。この接着層はデバイスの底部上に固定され、表面全体を覆い、又は少なくとも表面の中心部分を覆って、表面の可撓性に干渉しないように自由なリムを残す。優先的には、皮膚に固定される接着層の表面は、デバイスの可撓性の底部に固定される表面より著しく大きく、可撓性の底部に固定されないリムを残す。これはたとえば、デバイスの底部の表面を越えて延びる接着層によって、又は優先的に、デバイスの可撓性表面の表面に類似し若しくはほんのわずかに大きい皮膚への接着性表面の形状を使用するが、外側の環状区間がデバイスの底部に固定されないように、皮膚への接着性表面をデバイスの可撓性表面に固定することによって実現することができる。そのような設計は、硬質の底部を有する医療用デバイスに関するEP0825882に記載されている。
【0014】
分析流体とは、血液、間質液、又は半透性膜を通じて間質液に接触する透析液である。
【0015】
被検体とは、その濃度を使用して個人の健康、臓器機能、代謝状態、又は薬物代謝能力を診断できる任意の内因性又は外因性の物質を意味する。内因性物質の例には、グルコース、ラクテート(lactate)、酸素、クレアチニンなどがある。外因性物質の例には、薬物、そのような薬物の代謝物、診断物質(たとえば、イニュリン(inulin))などがある。
【0016】
可撓性表面の構成要素は、優先的に円形又は楕円形の底面と可撓性の底部とを有するケーシングから構成される。この底板は、たとえば円錐又は切妻形(位置1)のような突出部分を有する凸状形状に変形できるように構築される。この底部のさらなる特徴は、凸状形状から平坦な形状(位置2)に素早く動くことができることであり、これは、接着性表面によって取り付けられた皮膚をカニューレ又は診断プローブの先端部に引き寄せることによって、この運動が注入カニューレ又は診断プローブの挿入可能部分を挿入するための駆動エネルギーを提供できるのに十分な速度及び力で行われる。そのような可撓性表面は、ヒンジ領域がばねとして作用するように表面を適当に区分化することによって、及び/又はたとえば圧縮応力のかかった形状から動いて平坦な弛緩した形状をとるのに必要な可逆性の伸縮性を有する弾性材料を使用することによって実現することができる。
【0017】
2つの画定された位置で注入カニューレ又は診断プローブの挿入可能部分に対して可撓性表面を位置決めする手段は、表面全体に対して連係した形で、圧縮応力のかかった凸状の形状への可撓性表面の変形を実施でき、またこの位置から急速に解放して平坦な弛緩した形状をとることができる要素からなる。これは、可撓性表面から突出して摺動ボルト機構を押し込むいくつかのピン状要素によって優先的に実現することができるが、ねじ、傾斜面、レバーなどを使用する他の構造も可能である。
【0018】
可撓性表面を有するそのような構成要素は、適したプラスチックの射出成型によって製造することができるが、鋼鉄、複合又はセラミック材料などのような他の材料を使用することによって製造することもできる。この要素の底部は、注入カニューレ又は診断プローブの挿入可能部分に対する開口として、孔又はスリットの形状の開口を有する。注入カニューレ又は診断プローブの挿入可能部分は、位置1では全体的に覆われ、位置2では底部から突出するように、この底部に対して軸線方向に位置決めされる。
【0019】
注入流体の送達は、体内への液体の比較的速い注入(ボーラス)と、比較的遅い導入(点滴又は滴注ともいう)との両方を包含する。
【0020】
診断プローブとは、被検体の濃度を判定するための機能要素であり、それだけに制限されるものではないが、任意の分析流体取出し及びオンライン分析又はサンプリング・システムを意味する。微小透析システムの場合、透析膜が、間質液と膜の反対側を通る透析液との間の境界面を形成する。好ましい実施例では、微小透析プローブが外側及び内側バレルからなり、挿入可能な先端部で透析膜によって覆われる。内側バレルは、透析液を送達するポンプに接続され、外側バレルは、分析又はサンプリング・システムに接続される。
【0021】
駆動及び制御手段には、それだけに限定されるものではないが、内部又は外部信号に従って環状シリンジ・ポンプのピストンを動かすこと、デバイスの正しい機能を開始、制御、及び調査すること、診断要素を送出及び制御してセンサ信号を被検体測定値に変換すること、被検体測定値をオンライン又はバッチで記憶、表示、及び伝送すること、外部の制御デバイスと優先的には無線で対話すること、並びにデバイスが適正に機能していない場合又は被検体測定値が事前定義された範囲内にない場合に警告信号を与えることのように、デバイスのすべての必要な機能に対するすべての必要な機械、電子機器、及びソフトウェア要素が含まれる。
【0022】
ピストンの駆動ロッドは、環状バレルの実際の湾曲及び軸線方向の位置に適応するのに十分な径方向及び軸線方向の可撓性を提供するが、バレル内でピストンの高精度の運動を可能にするのに十分な接線方向の剛性を作用させる構造を有する。優先的には、駆動ロッドは可撓性であり、その所与の形状は環状バレルの弧に密接に対応し、わずかな径方向の力でバレルの内面の実際の形状へのほとんど完全な適応を実現するのに適したプラスチック材料が製造に使用される。環状バレルの実際の湾曲及び軸線方向の位置に駆動ロッドを適応させることで、バレルの軸線と剛性の駆動ロッドとの間の嵌合が完全でないために好ましくない閉塞が生じる可能性を回避する。
【0023】
可撓性の駆動ロッドは通常、中間平面内でバレル壁の内面との低摩擦の接触を可能にする接触ブレースと、駆動手段の歯車に係合するのこぎり状のラックとを有する。ブレースとバレル壁の内面との間の低摩擦の接触は、適した形状及び材料によって実現される。
【0024】
ブレースは、駆動ロッドの一体部分とすることができ、又は駆動ロッドに取り付けて、摺動特性が改善された異なる材料の使用を可能にすることができ、また、駆動ロッドの必要な径方向及び軸線方向の可撓性を実現するために、ブレースは、たとえば区分化された構造を有することができる。
【0025】
別の好ましい構造は、バレル壁の内面への摺動接触を転がり接触に置き換える。そのような構造はたとえば、ヒンジ領域で十分な可撓性を有する区分によって接続された複数のロールを有することができ、バレルの湾曲に適応するようにロールの軸線を保持することができる。
【0026】
接触ブレースはすべての径方向の力成分を吸収し、それによって、実質的な封止の変形を招き、その結果、バレルの軸線と剛性の駆動ロッドとの間の嵌合が完全でないために、締まりの問題及びスティックスリップ現象並びにピストンの閉塞を生じさせる可能性のあるこれらの力から、ピストン封止を保護する。
【0027】
通常、駆動ロッドの一方の端部では、バレルの横断面の形状であるがわずかに小さい直径を有する末端部が堅く取り付けられ、ブレースによってバレルの横断面に対して直交するように調心される面を形成し、駆動ロッドからの駆動力をピストンに伝達して、バレルの軸線に対して接線方向に封止する。封止、たとえばO又はXリングを有するピストンがこの末端部と溶融し、又はこの末端部に可動式に取り付けられ、バレル内でピストンの中心の自己位置決めを可能にする。これは、駆動ロッドの末端部とピストンとの間の低摩擦の摺動表面によって、又は境界面を転がるボールによって実現することができ、バレルの軸線に沿ってバレルの内径が変化することに起因して起こりうる問題を減じる。
【0028】
機能パッケージは、解放可能な結合機構によってデバイスの硬質部分を保持するように設計され、湿度などの規定の環境内で保管中に診断プローブの活性表面を保護するための取外し可能なキャップを有し、無菌状態の維持を可能にする。機能パッケージはまた、リム要素を有し、キャップの取外し後に皮膚を押すことによって接着層のリムの正しい取付けを可能にする。さらに、機能パッケージは、早すぎる意図しない動作からデバイスの解放/開始機構を保護し、解放/開始機構は、デバイスを皮膚に取り付けて機能パッケージを取り外した後のみに作動させることができる。
【0029】
静脈内ポートは、静脈内へ配置されたカテーテルを備え、カテーテルは、カテーテルの外端部に接続要素、好ましくは隔壁を有する。
【0030】
サンプリング手段とは、それだけに限定されるものではないが生化学、免疫学、HPLC、又はLC/MS/MS方法によって、デバイスの外部から被検体の判定用の分析流体のサンプルを収集する機能要素である。サンプルは、異なる時点に得たサンプルの混合を最小まで低減させることに注意して、分離されたレセプタクル内、又は連続する空洞、たとえばバレル又はチューブ内に収集することができる。これはたとえば、空気又は不混和性流体の区分を分析流体内へ導入して、連続する空洞内に分離されたサンプルを得ることによって実現することができる。
【0031】
摺動ボルト機構は、円形又は線形の運動を受けると連続していくつかの固定された位置に適応し、閉じた状態又は開いた状態を呈する要素、たとえば固体表面又は孔からなる。摺動機構の運動は、手動で、或いは、たとえば解放要素によって作動するばねによって、たとえばボタン若しくはハンドルを押したり解放したりすることによって、又は回転運動によって駆動される。皮膚に取り付けられる可撓性表面を有する構成要素を用いて、流体送達カニューレ及び案内針内の可撓性センサを皮膚内へ並行して挿入するために、摺動ボルト機構を容易な操作で格納位置(位置1)から次の位置(位置2)へ動かすことで、圧縮応力のかかった形状からの可撓性表面を急速に解放して平坦な弛緩した形状をとらせて、流体送達カニューレ及びセンサ案内針を皮膚内へ挿入する。次に、位置2における摺動ボルト機構の一時的な閉塞が解放され、次の位置(位置3)へ摺動ボルト機構を動かすことができ、それによって案内針を部分的に後退させる。
【0032】
以下では、本発明の好ましい実施例について、添付の図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】現況技術の構造による円形のシリンジ・ポンプの原理を示す円形のシリンジ・ポンプを有するが、バレルの湾曲に対するピストンの限定的な適応を可能にする改善された解決策を有する注入デバイスの横断面上面図である。
図2】本発明の一実施例による2つの円形のシリンジ・ポンプを有する、注入と分析流体取出しとを組み合わせたデバイスの横断面上面図である。
図3】本発明の一実施例によるシリンジの充填及び皮膚内への注入カニューレ挿入機構の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1に示す注入デバイスは、環状チューブ2の一区分の形状のバレルを収納する円筒形の側壁1を有するケーシングを有する。バレルの一方の端部3は、カニューレ(図示せず)への接続チャネルを備える。バレルは、円形の横断面を有する。
【0035】
ピストン4は、バレルの内部に構成され、バレルの内壁にしっかりと嵌合するシールを備える。ピストンは、駆動ロッド6に接続され、駆動ロッド6は、バレルの長さ全体にわたってピストンを駆動するように円形に成形される。
【0036】
環状の円筒を製造するための確立された技術を使用した場合、円筒の湾曲とピストンの駆動ロッドとの間の嵌合が完全にはならない。これを補正するために、駆動ステムのカップ状の遠位端部によって摺動可能に接触される弾性の球形ピストンを使用してその球形ピストンをバレル内で回転させる、たとえばM.P.Loeb及びA.M.Olsonによる米国特許第4,525,164号に記載の現況技術の解決策と比較すると、そのような構造は封止及び摩擦について本質的な問題を有するため、ピストンをロッド6に接続してピストンの径方向の適応を可能にする本明細書に開示の機構5は改善を表す。
【0037】
ピストンとは反対側の端部では、駆動ロッドは、中心の枢動軸線へ延びる直角に曲がったアーム7を有し、それによって、バレルを通ってピストンを動かすことによる力の径方向成分、及びその結果生じる摩擦を低減させる。ロッドの内側は、歯車駆動9によって駆動される歯車リム8を有する。歯車駆動は、たとえば、歯車列及び電気モータ(たとえば、時計機構の駆動)によって駆動され、それは、内蔵及び/又は遠隔制御要素(この図には図示せず)からの信号によって、制御された送達のために調節できる。別法として、従来技術で知られている他の駆動を用いることもできる。
【0038】
たとえば回転運動によって取り出さなければならない心棒を有する射出成型器具を用いるプラスチック技術など、環状バレル向けの標準的な製造技術を使用すると、たとえば製造中に円環状の壁の近位部分と遠位部分に収縮率の本質的な違いが生じるため、完全な円形の形状からのずれ及びその形状の変動は避けられない。製造される円環に対する理想的な円形形状からのこのほとんど避けられないずれのため、バレルと回転運動によって動かされるピストンの駆動ロッドとの間の正確で幾何学的な嵌合を確保することはできない。高いレベルの形状安定性を有する鋼鉄技術を使用してピストンの駆動ロッドが製造される場合でも、長手方向軸線に沿ったバレルの形状に対する取り付けられたピストンの嵌合は変わりやすくなる。実際には、たとえば、バレルの半径と駆動ロッドの半径が、ほんの2%の違うだけで、深刻な相対的なずれを引き起こし、たとえば、150°〜160°の円環状の弧の場合、バレル壁と駆動ロッドとの間の衝突を招く可能性があり、円環状の弧は、標準的な技術によって製造でき、シリンジ型ポンプの底面を十分に低減させることを目的としている。さらに、バレル、及び駆動ロッドに対するガイドウェイを保持するハウジングを製造するために一般に使用されるプラスチック部品は、絶対的に硬質というわけではなく、特に組織の抵抗に打ち克つために数バールの圧力を提供するのに必要な力が印加されると、わずかに変形する可能性がある。上述した弧状のピストン駆動機構に使用される硬質の駆動ロッドを用いた場合、バレルの軸線と駆動ロッドとの間の実際の形状の違いを補正するためにその結果生じる径方向及び軸線方向の力は非常に大きくなる可能性がある。これらの力は、ピストンを封止することによって吸収しなければならず、それによって変形を招き、高い摩擦を引き起こす結果、スティックスリップ現象並びに閉塞及び/又はピストンの締まりに伴う問題が生じる。従来技術並びに図1に議論及び例示した改善に記載されているように、バレルの軸線と駆動ロッドの軸線との間のずれを補正するようにピストンがわずかに適応できる場合でも、硬質の駆動ロッドとバレル壁との間の締付けによる閉塞という最悪の場合のシナリオを排除することはできない。したがって、制御された高精度の流体送達の医療用途では、硬質の駆動ロッドを有する駆動機構を使用して弧状のバレル内のピストンを動かす従来技術による構造は十分に安全とはいえない。これらの問題は、たとえば糖尿病患者に対するインシュリンなどのわずかな量の高精度の送達のためにシリンジ型ポンプに必要とされる小さいバレル直径でさらに顕著になる。
【0039】
本発明によれば、スティックスリップ現象及び/又は締まりに伴う問題、或いはさらにピストンの閉塞又は硬質の駆動ロッドとバレル壁との間の締付けを回避するための解決策は、バレルの実際の湾曲に適応するピストンの駆動ロッドを使用することであり、この駆動ロッドは、バレルの内壁によって案内及び支持される。従来技術に記載の構造とは対照的に、本発明のバレルの内壁によって案内及び支持されるロッドは、費用効果の高い製造技術及び材料を使用して、理想的な形状及び形状寸法からの避けられないすべてのずれに適応することができる。流体の送達と流体の抜出しの両方に適応できる本発明の好ましい実施例を、図2に例示する。
【0040】
図2は、水平断面の上面図において、2つの独立した円形のシリンジ・ポンプを有する、注入と分析流体取出しとを組み合わせたデバイスを示す。図面のより周辺の部分には、注入流体を送達するポンプを示し、より中心の部分には、分析流体を取り出すポンプを示す。図2では、図1に対応する部品には、同じ参照番号が与えられている。図2の実施例には、硬質の駆動ロッドがない。代わりに、ピストンの駆動ロッド6は、詳細Aに横断面で示すように、バレル壁の内面によってその運動が案内及び支持されるように形成される。精度を増大させ、ピストン運動に必要な力を低減させるために、摩擦の低い平滑な運動に最適化された形状及び材料のブレースの形状の接触リム11で、ピストンの駆動ロッドとバレル壁の内面との間に滑走区間を形成することが重要である。これは、駆動ロッドに対して、適した滑走特性を有するプラスチックを使用することによって、又は適した材料のリム、たとえば鋼鉄ワイアを取り付けることによって実現することができるが、たとえば複数のロールの軸線がブレースによって保持される構造のように、摩擦低減の他の可能性を実施して、滑走抵抗を回避して転がり抵抗に置き換えることもできる。
【0041】
詳細Aに例示する駆動ロッドの径方向及び軸線方向の可撓性は、たとえば、鋼鉄ワイア若しくはロールを滑走可能に保持するブレースの区分化された構造、又はさらに、ヒンジ領域によって連結された区分を有する可撓性の駆動ロッドの背骨状構造を使用することによって、さらに増大させることができる。動力を歯車リム8へ安全に伝達してピストンを動かすために、歯車駆動9は、優先的には転がり軸受の形態の径方向に対向するブレース10によって支持され、駆動ロッドの接触リム11を押し込むが、たとえばハウジングに取り付けられた側壁のような他の構造も可能である。
【0042】
封止、たとえばO又はXリングを有するピストン4は、バレル壁の内面から画定された距離のところで駆動ロッドのブレースによって保持され、接線方向の駆動力のみをピストンへ伝達する。さらに、バレルの内腔内でピストンの自動調心を可能にするために、代替構造では、ピストンは、駆動ロッドの端部と直接堅く溶融されるのではなく、駆動ロッドの末端部に可動式に取り付けられ、この末端部がバレル壁から画定された距離のところでブレースによって保持される。これは、たとえば、駆動ロッドの末端部とピストンとの間の低摩擦の摺動表面の接触によって、又は境界面を転がるボールによって実現することができる。そのような自動調心構造は、バレルの内側の形状及び直径がバレルの軸線に沿って製造処理に由来して著しく変動する場合に、ポンプの性能を改善するのに有用であろう。
【0043】
注入流体を送達する場合、ピストンの駆動ロッドは、バレルの遠位内面によって案内及び支持されたまま押し込まれる(詳細Aに示す)。対照的に、分析流体を取り出す円形のシリンジ・ポンプは吸引モードで動作され、ピストンの駆動ロッドは、バレルの近位内面によって案内及び支持されたまま引っ張られる(詳細Aの鏡像であり、詳細としては図示せず)。たとえば、歯車リムが複線であってブレースの形状の接触リム11に対して後退し、歯車駆動9が突出ブレースを収容するスリットを有する構造内では、ピストンを動かすように近位に位置する歯車リム8を使用することもできる。
【0044】
図3は、バレルの端部部分3を通ってデバイスを接線方向に切断した中心部分である。第1のチャネル15は、デバイスの上側につながっており、隔壁14によって閉じられる。バレルを注入流体で充填するために、針13を有するシリンジ(図示せず)が隔壁14を貫通する。充填前、ピストンはバレル(図示せず)の端部部分3に接触している。注入流体はチャネル15を通って導入され、それによってピストンをバレルの反対側の端部の方へ押す。
【0045】
第2のチャネル17は、皮膚内へ注入流体を送達するために、バレル2の内部から注入カニューレ16へつながっている。カニューレ16は、他方の端部では、ハウジング19内で保持される隔壁シール18によって閉じられる。全体的な構造は、死容積が最小になり、注入流体で充填した後に著しい量の空気がシステム内に残らないような構造である。
【0046】
例示の実施例では、カニューレ16の皮膚内への挿入手段は可撓性の底板20を有し、底板20は、接着層21によって皮膚に取り付けられる。この図に示すすぐ使用できるモードでは、この可撓性の底板は、カニューレ16を覆う凸状形状に変形している。底板は、優先的に環状又は楕円形であり、デバイスの中心から離れたカニューレを挿入するために、優先的に斜めのスリットを有する2つの区分からなり、曲がると切妻形を形成する。たとえば2つ以上の点滴流体に対して2つ以上の点滴ポンプが使用される場合、及び/又は皮膚内への診断プローブの挿入と組み合わせる場合、この構成により、斜めのスリットに沿って位置決めされた2つ以上のカニューレに対してこの挿入手段を同時に使用することもできる。さらに、ばね型の機構によって、カニューレが皮膚に入る前に、カニューレが隔壁シール18を貫通する。区分は、ばね状のヒンジ領域によってケーシング1の円周に取り付けられ、さらに優先的には可撓性材料から作られる。カニューレがデバイスの中心付近に配置された場合、好ましくは5〜8個の区分へ径方向に区分化しながら、区分間の間隔及び中心の開口を設けて、中心が曲がったときに円錐を形成するような代替形態も可能である。
【0047】
下面では、可撓性の底板は、患者の皮膚にデバイスを固定するための環状又は楕円形の接着層を有し、接着層は、それぞれ底板に類似の斜めのスリット又は同心円状の中心開口を有する。この接着層は、3つの部分から構成されており、可撓性の底板に固定するための接着剤と、必要な可撓性を提供する布と、皮膚上へ固定するための接着剤とを有する。アレルゲン性の可能性が低い適した材料が市販されている。接着層は、デバイスより大きい円周を有することができるが、底板への取付けでハウジングに接続されない外側区間を残す場合、同じ円周を有することもできる。
【0048】
たとえば摺動ボルト機構(図示せず)によって、圧縮応力のかかった底板を解放する際、底板は、デバイス1のハウジングの底部の方へ急速に弛緩して平坦な形状になり、隔壁シール18のハウジング19を押し、カニューレ16は隔壁シール18を貫通し、接着層によって取り付けられた皮膚を貫通する。
【0049】
本明細書を読めば、様々な代替実施例が当業者には明らかになるであろう。たとえば、ピストンを動かす駆動手段、又は患者内への注入流体の送達若しくは患者の分析流体の取出しのためのカニューレの挿入機構は、多数の化学的、機械的、又は電気的手段を介して実現することができる。さらに、分析用に取り出した分析流体のオンライン分析又はサンプリングのための多種多様な診断要素、並びに制御及び測定手段は、デバイスとともに収容することができる。
【0050】
上述した環状のシリンジ型ポンプを有するデバイスの主な利点は、底面寸法が低減し、それによって患者が快適に着用及び操作することができ、それと同時にシリンジ型ポンプの精度が本質的に高いことである。封止、摩擦が引き起こすスティックスリップ現象、並びに標準的な費用効果の高い技術を使用して環状バレル及びデバイスを製造する際に避けられない弧状のバレルとプランジャとの間の実際の形状の正確な嵌合の欠如によって引き起こされるさらなる閉塞という、従来技術に例示されるそのようなポンプの本質的な問題は、バレルの内壁によって案内及び支持され、したがって理想的な形状及び形状寸法からのすべてのずれに適応できる駆動ロッドを、ピストンに対する駆動として使用することによって解決される。さらなる利点は、シリンジ・ポンプと皮膚を貫通するカニューレとの間の接続配管に伴う問題がないことである。さらに、本発明によるデバイスには死容積がほとんどなく、したがってポンプを注入流体で充填する際にシステムから空気を出すための複雑な機構が回避される。
図1
図2
図3