(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
情報記録媒体用ガラス基板の製造方法において、重ねられた状態にある複数枚のガラス素板の内周端面に対して回転させて摺動させることにより、複数枚の前記ガラス素板の前記内周端面を研磨する工程に用いられる研磨用ブラシであって、
複数本のブラシ毛材からなるブラシ毛束と、
外周面に前記ブラシ毛束が螺旋状に植え付けられた軸心部材と、を備え、
前記研磨用ブラシの回転軸に対して平行な方向において、複数本の前記ブラシ毛材は、複数本の前記ブラシ毛材が前記軸心部材に植え付けられている植え付け基部の幅に比べて、その植え付け基部から延びる複数本の前記ブラシ毛材の各々の先端によって形成される領域の幅の方が小さくなるように、前記軸心部材に植え付けられており、
複数本の前記ブラシ毛材は、前記ブラシ毛束としての先端が、前記平行な方向における両外側部分に比べて前記平行な方向における中央側部分が径方向の外側に位置する円弧状を呈するように、前記軸心部材に植え付けられている、
研磨用ブラシ。
情報記録媒体用ガラス基板の製造方法において、重ねられた状態にある複数枚のガラス素板の内周端面に対して回転させて摺動させることにより、複数枚の前記ガラス素板の前記内周端面を研磨する工程に用いられる研磨用ブラシであって、
複数本のブラシ毛材からなるブラシ毛束と、
外周面に前記ブラシ毛束が螺旋状に植え付けられた軸心部材と、を備え、
前記研磨用ブラシの回転軸に対して平行な方向において、複数本の前記ブラシ毛材は、複数本の前記ブラシ毛材が前記軸心部材に植え付けられている植え付け基部の幅に比べて、その植え付け基部から延びる複数本の前記ブラシ毛材の各々の先端によって形成される領域の幅の方が小さくなるように、前記軸心部材に植え付けられており、
複数本の前記ブラシ毛材は、前記ブラシ毛束としての先端の全体が、前記平行な方向に沿って延びる平坦状を呈するように、前記軸心部材に植え付けられており、
前記研磨用ブラシの回転軸に対して平行な方向において、複数本の前記ブラシ毛材は、複数本のうちの95%以上の前記ブラシ毛材の先端が、前記軸心部材に複数本の前記ブラシ毛材が植え付けられている前記植え付け基部の幅を100%の基準とした場合に前記軸心部材の表面に対して垂直な方向に延びる前記植え付け基部の幅方向の中心線を基準として±40%以内の範囲内に位置するように、前記軸心部材に植え付けられている、
研磨用ブラシ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に基づいた実施の形態および各実施例について、以下、図面を参照しながら説明する。実施の形態および各実施例の説明において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。実施の形態および各実施例の説明において、同一の部品、相当部品に対しては、同一の参照番号を付し、重複する説明は繰り返さない場合がある。
【0014】
[実施の形態]
(情報記録装置30)
図1を参照して、まず、情報記録装置30について説明する。
図1は、情報記録装置30を示す斜視図である。情報記録装置30は、実施の形態における情報記録媒体用ガラス基板(以下、単にガラス基板ともいう)の製造方法によって製造されたガラス基板1を、情報記録媒体10として備える。
【0015】
具体的には、情報記録装置30は、情報記録媒体10、筐体20、ヘッドスライダー21、サスペンション22、アーム23、垂直軸24、ボイスコイル25、ボイスコイルモーター26、クランプ部材27、および固定ネジ28を備える。筐体20の上面上には、スピンドルモーター(図示せず)が設置される。
【0016】
磁気ディスクなどの情報記録媒体10は、クランプ部材27および固定ネジ28によって、上記のスピンドルモーターに回転可能に固定される。情報記録媒体10は、このスピンドルモーターによって、たとえば数千rpmの回転数で回転駆動される。詳細は
図4および
図5を参照して後述されるが、情報記録媒体10は、ガラス基板1に化学強化層12(
図5参照)および磁気記録層14(
図4および
図5参照)が形成されることによって製造される。
【0017】
アーム23は、垂直軸24回りに揺動可能に取り付けられる。アーム23の先端には、板バネ(片持ち梁)状に形成されたサスペンション22が取り付けられる。サスペンション22の先端には、ヘッドスライダー21が情報記録媒体10を挟み込むように取り付けられる。
【0018】
アーム23のヘッドスライダー21とは反対側には、ボイスコイル25が取り付けられる。ボイスコイル25は、筐体20上に設けられたマグネット(図示せず)によって挟持される。ボイスコイル25およびこのマグネットにより、ボイスコイルモーター26が構成される。
【0019】
ボイスコイル25には所定の電流が供給される。アーム23は、ボイスコイル25に流れる電流と上記マグネットの磁場とにより発生する電磁力の作用によって、垂直軸24回りに揺動する。アーム23の揺動によって、サスペンション22およびヘッドスライダー21も矢印AR1方向に揺動する。ヘッドスライダー21は、情報記録媒体10の表面上および裏面上を、情報記録媒体10の半径方向に往復移動する。ヘッドスライダー21に設けられた磁気ヘッド(図示せず)はシーク動作を行なう。
【0020】
当該シーク動作が行なわれる一方で、ヘッドスライダー21は、情報記録媒体10の回転に伴って発生する空気流により、浮揚力を受ける。当該浮揚力とサスペンション22の弾性力(押圧力)とのバランスによって、ヘッドスライダー21は情報記録媒体10の表面に対して一定の浮上量で走行する。当該走行によって、ヘッドスライダー21に設けられた磁気ヘッドは、情報記録媒体10内の所定のトラックに対して情報(データ)の記録および再生を行なうことが可能となる。ガラス基板1が情報記録媒体10を構成する部材の一部として搭載される情報記録装置30は、以上のように構成される。
【0021】
(ガラス基板1)
図2は、本実施の形態に基づく情報記録媒体用ガラス基板の製造方法によって製造されるガラス基板1を示す平面図である。
図3は、
図2中のIII−III線に沿った矢視断面図である。
【0022】
図2および
図3に示すように、情報記録媒体10(
図4および
図5参照)にその一部として用いられるガラス基板1(情報記録媒体用ガラス基板)は、主表面2、主表面3、内周端面4、孔5、および外周端面6を有し、全体として円盤状に形成される。孔5は、一方の主表面2から他方の主表面3に向かって貫通するように設けられる。主表面2と内周端面4との間、および、主表面3と内周端面4との間には、面取部7がそれぞれ形成される。主表面2と外周端面6との間、および、主表面3と外周端面6との間には、面取部8(チャンファー部)が形成される。
【0023】
ガラス基板1の大きさは、たとえば0.8インチ、1.0インチ、1.8インチ、2.5インチ、または3.5インチである。ガラス基板の厚さは、破損防止の観点から、たとえば0.30mm〜2.2mmである。本実施の形態におけるガラス基板の大きさは、外径が約64mm、内径が約20mm、厚さが約0.8mmである。ガラス基板の厚さとは、ガラス基板上の点対称となる任意の複数の点で測定した値の平均によって算出される値である。
【0024】
(情報記録媒体10)
図4は、情報記録媒体としてガラス基板1を備えた情報記録媒体10を示す平面図である。
図5は、
図4中のV−V線に沿った矢視断面図である。
【0025】
図4および
図5に示すように、情報記録媒体10は、ガラス基板1と、化学強化層12と、磁気記録層14とを含む。化学強化層12は、ガラス基板1の主表面2,3、内周端面4、および外周端面6を覆うように形成される。磁気記録層14は、化学強化層12の主表面2,3上の所定の領域を覆うように形成される。ガラス基板1の内周端面4上に化学強化層12が形成されることによって、内周端面4の内側に孔15が形成される。孔15を利用して、情報記録媒体10は筐体20(
図1参照)上に設けられたスピンドルモーターに対して固定される。
【0026】
図5に示す情報記録媒体10においては、主表面2上に形成された化学強化層12と主表面3上に形成された化学強化層12との双方(両面)の上に、磁気記録層14が形成されている。磁気記録層14は、主表面2上に形成された化学強化層12の上(片面)にのみ設けられていてもよく、主表面3上に形成された化学強化層12の上(片面)に設けられていてもよい。
【0027】
磁気記録層14は、磁性粒子を分散させた熱硬化性樹脂をガラス基板1の主表面2,3上の化学強化層12にスピンコートすることによって形成される(スピンコート法)。磁気記録層14は、ガラス基板1の主表面2,3上の化学強化層12に対して実施されるスパッタリング法または無電解めっき法等により形成されてもよい。
【0028】
磁気記録層14の膜厚は、スピンコート法の場合は約0.3μm〜1.2μm、スパッタリング法の場合は約0.04μm〜0.08μm、無電解めっき法の場合は約0.05μm〜0.1μmである。薄膜化および高密度化の観点からは、磁気記録層14はスパッタリング法または無電解めっき法によって形成されるとよい。
【0029】
磁気記録層14に用いる磁性材料としては、高い保持力を得る目的で結晶異方性の高いCoを主成分とし、残留磁束密度を調整する目的でNiまたはCrを加えたCo系合金などを付加的に用いることが好適である。
【0030】
磁気ヘッドの滑りをよくするために、磁気記録層14の表面に潤滑剤を薄くコーティングしてもよい。潤滑剤としては、たとえば液体潤滑剤であるパーフロロポリエーテル(PFPE)をフレオン系などの溶媒で希釈したものが挙げられる。
【0031】
磁気記録層14には、必要に応じて下地層または保護層を設けてもよい。情報記録媒体10における下地層は、磁性膜の種類に応じて選択される。下地層の材料としては、たとえば、Cr、Mo、Ta、Ti、W、V、B、Al、またはNiなどの非磁性金属から選ばれる少なくとも一種以上の材料が挙げられる。
【0032】
磁気記録層14に設ける下地層は、単層に限らず、同一または異種の層を積層した複数層構造としても構わない。たとえば、Cr/Cr、Cr/CrMo、Cr/CrV、NiAl/Cr、NiAl/CrMo、または、NiAl/CrV等の多層下地層としてもよい。
【0033】
磁気記録層14の摩耗および腐食を防止する保護層としては、たとえば、Cr層、Cr合金層、カーボン層、水素化カーボン層、ジルコニア層、またはシリカ層が挙げられる。これらの保護層は、下地層および磁性膜など共にインライン型スパッタ装置で連続して形成されることができる。これらの保護層は、単層としてもよく、または、同一若しくは異種の層からなる多層構成としてもよい。
【0034】
上記保護層上に、あるいは上記保護層に代えて、他の保護層を形成してもよい。たとえば、上記保護層に代えて、Cr層の上にテトラアルコキシランをアルコール系の溶媒で希釈した中に、コロイダルシリカ微粒子を分散して塗布し、さらに焼成して酸化ケイ素(SiO
2)層を形成してもよい。
【0035】
(ガラス基板の製造方法)
次に、
図6に示すフローチャート図を用いて、本実施の形態におけるガラス基板(情報記録媒体用ガラス基板)の製造方法(S100)について説明する。本実施の形態におけるガラス基板の製造方法(S100)は、ガラス素板準備工程(S10)、アルミナ研磨工程(S20)、コアリング加工工程(S30)、端面研削工程(S40)、端面研磨工程(S50)、ラップ加工工程(S60)、ポリッシュ加工工程(S70)、および、化学強化工程(S80)を備える。
【0036】
化学強化工程(S80)を経ることによって得られたガラス基板に対して、磁気記録層成膜工程(S200)が実施される。磁気記録層成膜工程(S200)を経ることによって、情報記録媒体10(
図4および
図5参照)が得られる。以下、ガラス基板の製造方法(S100)を構成する各工程S10〜S80の詳細について順に説明する。以下の説明において、各工程S10〜S80の間に適宜行なわれる簡易的な洗浄については、詳細に記載していない場合がある。
【0037】
(S10:ガラス素板準備工程)
まず、ガラス基板を構成する略円盤状のガラス素板が所定枚数分だけ準備される。ガラス素板は、たとえば、溶融ガラスを、上型、下型、胴型を用いてダイレクトプレスすることによって得られる。この際、ダイレクトプレス法の代わりに、ダウンドロー法またはフロート法を使用して形成したシートガラスから、研削砥石で切り出して円板状のガラス素板を得てもよい。
【0038】
(S20:アルミナ研磨工程)
次いで、所定枚数のガラス素板に対してアルミナ研磨処理が実施される。このアルミナ研磨処理は、寸法精度および形状精度の向上を目的としている。アルミナ研磨処理は、ラッピング装置を用いて行なわれる。粒度#400のアルミナ砥粒を用い、荷重を100kg程度に設定して、内転ギアと外転ギアとを回転させることによって、キャリア内に収納したガラス素板の両主表面が研磨される。
【0039】
(S30:コアリング加工工程)
次に、円筒状の砥石を使用して、所定枚数のガラス素板の中心部に孔がそれぞれ形成される。この孔は、
図2および
図3中における孔5に対応するものであり、情報記録媒体10をスピンドルモーターに固定する際に使用されるものである。
【0040】
(S40:端面研削工程)
端面研削工程(S40)においては、研削用の砥石を用いて、所定枚数のガラス素板の内周端面および外周端面がそれぞれ研削され、さらに内周端面および外周端面に対して所定の面取り加工が実施される。これらの加工によって、ガラス素板1の内周端面4は、面取部7を有する所定の形状に研削され、ガラス素板1の外周端面6は、面取部8を有する所定の形状に研削される。
【0041】
(S50:端面研磨工程)
次に、酸化セリウムなどの研磨スラリーを用いた端面研磨工程(S50)が実施される。端面研磨工程(S50)は、内周端面研磨工程(S51)および外周端面研磨工程(S52)を含む。
【0042】
図7を参照して、内周端面研磨工程(S51)の際には、研磨用ブラシ80(研磨部材)が用いられる。研磨用ブラシ80は、複数本のブラシ毛材からなるブラシ毛束81が円柱状の軸心部材82の外周面に螺旋状に植え付けられることによって構成される。研磨用ブラシ80の更なる詳細な構成については、
図9および
図10を参照して後述する。
【0043】
図8を参照して、内周端面4および外周端面の研削処理が実施されたガラス素板1は、
図8に示すように、たとえば400枚ずつブロック状(ブロック体9)に重ね合わせられた状態で所定の固定治具(図示せず)を用いて固定される。隣接するガラス素板1同士の間には、スペーサーなどが設けられているとよい。
【0044】
複数のガラス素板1が位置決めおよび固定された後、重ねられた状態にある複数枚のガラス素板1の内周端面4とブラシ毛束81の先端とが互いに対向するように、研磨用ブラシ80が内周端面4の内側に配置される。この状態で研磨用ブラシ80を回転させ、重ねられた状態にある複数枚のガラス素板1の内周端面4に対してブラシ毛束81を摺動させることによって、複数枚のガラス素板1の内周端面4が研磨される。
【0045】
図9を参照して、ここで、本実施の形態における内周端面研磨工程(S51)に用いられる研磨用ブラシ80は、次のように構成される。上述のとおり、研磨用ブラシ80のブラシ毛束81は、複数本のブラシ毛材83,83から構成される。研磨用ブラシ80の回転軸85に対して平行な方向において、複数本のブラシ毛材83,83は、複数本のブラシ毛材83,83が軸心部材82に植え付けられている植え付け基部R1の幅W1に比べて、その植え付け基部R1から延びる複数本のブラシ毛材83,83の各々の先端によって形成される領域R2の幅W2の方が小さくなるように、軸心部材82に植え付けられている。
【0046】
好ましくは、研磨用ブラシ80の回転軸85に対して平行な方向において、複数本のブラシ毛材83,83は、複数本のうちの95%以上のブラシ毛材83,83の先端が、軸心部材82の表面に対して垂直な方向に延びる植え付け基部R1の幅方向の中心線81Cを基準として±40%以内の範囲Q,Q(中心線81Cに平行な方向で投影視した場合の範囲)内に位置するように、軸心部材82に植え付けられているとよい。
【0047】
図10を参照して、重ねられた状態にある複数枚のガラス素板1の内周端面4を研磨用ブラシ80を用いて研磨する際には、複数のブラシ毛材83,83の各々の毛先が、ガラス素板1の内周端面4および面取部7に当接する。複数のブラシ毛材83,83の各々の毛先は、ガラス素板1の内周端面4および面取部7に接触する際、狭い範囲に集中し、隣り合うガラス素板1の面取部7,7同士の間にも定期的に強い荷重をかけることが可能となる。これにより、隣り合うガラス素板1の面取部7,7同士の間に残留しているスラッジ88(研磨屑)は効果的に除去されることとなり、面取部7に対する良好な加工レートを確保する事が可能となる。
【0048】
図11を参照して、これに対して、比較例における研磨用ブラシ80Zにおいては、複数本のブラシ毛材83,83が、軸心部材82の表面に対して垂直に起立するように植え付けられるとともに、相互に略均等な間隔を持って配置されている。
【0049】
図12を参照して、重ねられた状態にある複数枚のガラス素板1の内周端面4を研磨用ブラシ80Zを用いて研磨する際、研磨用ブラシ80Zのブラシ毛材83は、内周端面4および面取部7に当接することによって外側に向かって広がってしまう。複数のブラシ毛材83,83の各々の毛先は、ガラス素板1の内周端面4および面取部7に接触する際、狭い範囲に集中することはない。隣り合うガラス素板1の面取部7,7同士の間に対しては、常に一定の弱い荷重が掛けられるのみで、本実施の形態の研磨用ブラシ80とは異なり定期的に強い荷重をかけることはできない。結果として、隣り合うガラス素板1の面取部7,7同士の間に残留しているスラッジ88(研磨屑)を効果的に除去することは困難となる。
【0050】
したがって、本実施の形態におけるガラス基板の製造方法に用いられる研磨用ブラシ80によれば、複数のブラシ毛材83,83の各々の毛先は、ガラス素板1の内周端面4および面取部7に接触する際、狭い範囲に集中し、隣り合うガラス素板1の面取部7,7同士の間にも定期的に強い荷重をかけることが可能となる。これにより、隣り合うガラス素板1の面取部7,7同士の間に残留しているスラッジ88(研磨屑)は効果的に除去されることとなり、面取部7に対する良好な加工レートを確保する事が可能となる。
【0051】
外周端面研磨工程(S52)については、研磨用ブラシ80と同様なものが用いられる。外周端面研磨工程(S52)の際には、内周端面研磨工程(S51)と同様に、複数枚のガラス素板1が重ねられた状態で外周端面6が研磨される。端面研磨工程(S50)においては、ブロック体9(
図8参照)および研磨用ブラシ80が研磨液の中に完全に浸漬された状態で研磨処理が実施されても良いが、内周端面4または外周端面6と研磨用ブラシ80との間に研磨スラリーが流し込まれつつ(掛け流されつつ)、研磨処理が実施されてもよい。
【0052】
(S60:ラップ加工工程)
図6を再び参照して、端面研磨工程(S50)を経たガラス素板1(ガラス素板1)を洗浄した後、ラッピング加工が行なわれる。砥粒の粒度をより細かいものに変更した後、ガラス素板1の主表面2,3に対してラッピング装置を用いたラッピング加工が行なわれる。
【0053】
(S70:ポリッシュ加工工程)
ラップ加工工程(S60)を経たガラス素板1を洗浄した後、ポリッシュ加工が行なわれる。研磨装置(硬質および軟質の研磨パッド)を用いて、ガラス素板1の主表面2,3に対してポリッシュ加工が行なわれる。
【0054】
(S80:化学強化工程)
次に、洗浄工程を終えたガラス素板1に化学強化処理を実施する。化学強化処理槽を準備し、その中に硝酸カリウム(60%)と硝酸ナトリウム(40%)とを混合した化学強化液を貯留する。化学強化液を300℃〜400℃に加熱するとともに、洗浄済みのガラス素板1を200℃〜300℃に予熱する。
【0055】
化学強化液中に、ガラス素板1が3時間〜4時間浸漬される。浸漬の際には、ガラス素板1の表面全体が化学強化されるため、複数のガラス素板1が各々の端面で保持されるように、複数のガラス素板1がホルダー等に収納された状態で浸漬されることが好ましい。
【0056】
ガラス素板1に含まれるリチウムイオン、ナトリウムイオン等のアルカリ金属イオンは、これらのイオンに比べてイオン半径の大きなカリウムイオン等のアルカリ金属イオンによって置換される(イオン交換法)。イオン半径の違いによって生じる歪みより、イオン交換された領域に圧縮応力が発生し、ガラス素板の両主表面が強化される。
【0057】
以上の各工程が終了した後、ガラス素板1に残存している付着物がなくなるように、ガラス素板1は950kHzの高周波を用いて超音波洗浄されたり、アルカリ洗剤を用いて洗浄されたりする。その後、IPAベーパーを用いてガラス素板1は乾燥される。以上により、本実施の形態におけるガラス基板が得られる。
【0058】
化学強化工程を経た後にガラス基板1の主表面上に残留している付着物が除去されることによって、ガラス基板1(
図2および
図3参照)を用いて製造される磁気ディスクなどの情報記録媒体10(
図4および
図5参照)にヘッドクラッシュが発生することが低減される。本実施の形態におけるガラス基板の製造方法(S100)としては、以上のように構成される。
【0059】
(S200:磁気薄膜形成工程)
化学強化処理が完了したガラス基板の両主表面(またはいずれか一方の主表面)に対し、磁気記録層が形成される。磁気記録層は、たとえば、Cr合金からなる密着層、CoFeZr合金からなる軟磁性層、Ruからなる配向制御下地層、CoCrPt合金からなる垂直磁気記録層、C系からなる保護層、およびF系からなる潤滑層が順次成膜されることによって形成される。磁気記録層の形成によって、
図4および
図5に示す情報記録媒体10を得ることができる。
【0060】
(作用・効果)
上述したように、本実施の形態におけるガラス基板の製造方法においては、研磨用ブラシ80の複数のブラシ毛材83,83の各々の毛先は、ガラス素板1の内周端面4および面取部7に接触する際、狭い範囲に集中し、隣り合うガラス素板1の面取部7,7同士の間にも定期的に強い荷重をかけることが可能となる。これにより、隣り合うガラス素板1の面取部7,7同士の間に残留しているスラッジ88(研磨屑)は効果的に除去されることとなり、面取部7に対する良好な加工レートを確保する事が可能となる。
【0061】
[実験例]
図13を参照して、実施例として、上記の実施の形態に基づく実施例1〜3と、これらに対する比較例1〜3とについて実験を行なった。実施例1〜3および比較例1〜3において、ガラス素板準備工程、平坦度を確保するアルミナ研磨工程、コアリング加工工程、および端面研削工程については、上述の実施の形態と同一の条件である。
【0062】
内周端面研磨工程における内周端面の研磨条件としては、一回の加工枚数を400枚のブロック体9とし、螺旋状のブラシ毛束81を有する研磨用ブラシ80の回転数は4000rpmに設定し、ブロック体9の回転数は30rpmに設定した。ガラス素板1の孔5の内径は20.01mmであり、研磨加工時間は20minである。研磨の際には、研磨スラリーを内周端面4と研磨用ブラシ80との間に掛け流した。内周端面研磨工程に用いた研磨ブラシについては、後述するように、実施例1〜3および比較例1〜3においてそれぞれ異なるものを使用した。外周端面研磨においては、ブラシ研磨とし、酸化セリウムを使用した。酸化セリウムの濃度は15wt%とした。
【0063】
ラップ加工においては、実施例1〜3および比較例1〜3に共通して、両面研磨機およびダイヤモンドシート固定砥粒による研削を行なった。ポリッシュ加工工程においては、実施例1〜3および比較例1〜3に共通して、第1ポリッシュ加工工程(P1)として、セリア砥粒および硬質ウレタンパッドを使用し、第2ポリッシュ加工工程(P2)として、コロイダルシリカ砥粒および硬質スウェードパッドを使用した。その後、得られたガラス素板1に対して化学強化を行ない、ガラス基板を得た。
【0064】
(比較例1)
図13および
図14を参照して、比較例1において用いた研磨用ブラシは、ブラシ毛材83の長さLが4mmであり、ブラシ毛材83の植付範囲Rは1.5mmであり、ブラシ毛材83の毛先範囲Qは1.05mmである。植付範囲Rと毛先範囲Qとから算出されるQ/R比は、70%である。ブラシ毛束81の毛先形状としては、放射状を呈している。
【0065】
(比較例2)
図13および
図15を参照して、比較例2において用いた研磨用ブラシは、ブラシ毛材83の長さLが4mmであり、ブラシ毛材83の植付範囲Rは1.5mmであり、ブラシ毛材83の毛先範囲Qは0.75mmである。植付範囲Rと毛先範囲Qとから算出されるQ/R比は、50%である。ブラシ毛束81の毛先形状としては、平坦状を呈している。
【0066】
(実施例1)
図13、
図16、および
図17を参照して、実施例1において用いた研磨用ブラシは、ブラシ毛材83の長さLが4mmであり、ブラシ毛材83の植付範囲Rは1.5mmであり、ブラシ毛材83の毛先範囲Qは0.60mmである。植付範囲Rと毛先範囲Qとから算出されるQ/R比は、40%である。ブラシ毛束81の毛先形状としては、円弧89(
図17参照)を描くようにカール状(円弧状)を呈している。
【0067】
(実施例2)
図13、
図16、および
図17を参照して、実施例1と同様に、実施例2において用いた研磨用ブラシは、ブラシ毛材83の長さLが4mmであり、ブラシ毛材83の植付範囲Rは1.5mmである。実施例2においては、ブラシ毛材83の毛先範囲Qは0.45mmである。植付範囲Rと毛先範囲Qとから算出されるQ/R比は、30%である。ブラシ毛束81の毛先形状としては、実施例1と同様に、円弧89(
図17参照)を描くようにカール状(円弧状)を呈している。
【0068】
(比較例3)
図13および
図18を参照して、比較例3において用いた研磨用ブラシは、ブラシ毛材83の長さLが4mmであり、ブラシ毛材83の植付範囲Rは1.2mmであり、ブラシ毛材83の毛先範囲Qは0.60mmである。植付範囲Rと毛先範囲Qとから算出されるQ/R比は、50%である。ブラシ毛束81の毛先形状としては、平坦状を呈している。
【0069】
(実施例3)
図13および
図19を参照して、実施例3において用いた研磨用ブラシは、ブラシ毛材83の長さLが4mmであり、ブラシ毛材83の植付範囲Rは1.5mmであり、ブラシ毛材83の毛先範囲Qは0.60mmである。植付範囲Rと毛先範囲Qとから算出されるQ/R比は、40%である。ブラシ毛束81の毛先形状としては、平坦状を呈している。
【0070】
実施例1〜3および比較例1〜3によって得られたガラス素板1に対して、内周端面4の面取部7(チャンファー面)の検査を行なった。検査方法としては、内周端面4の面取部7について、AFM(ビーコ社製Dimension3100および計測ソフトNanoScope7.2)を使用して粗さ計測を行い、表面粗さRaの値が1.0nm以上であるガラス素板1の割合を調査し、該当するガラス素板1の割合が10%以上の場合をB評価とし、10%未満6%以上の場合をA評価とし、6%未満の場合をS評価とした。
【0071】
また、ガラス素板1に成膜処理を施して情報記録媒体10としたものを、実際の情報記録装置30(ハードディスクドライブ)に組み込み、各条件について50台ずつのリードライト試験を行ない、良品率を確認した。
【0072】
図13に示すように、その結果、実施例1〜3においては面取部7の状態がいずれもA評価またはS評価であったのに対して、比較例1〜3においてはすべてB評価であった。また、実施例1,2においては、実施例3よりも良い評価が得られた。ブラシ毛束81の毛先形状がカール状(円弧状)を呈していることにより、ブラシ毛材83の先端部分が面取部7,7間の奥まで入り込む事により、面取部7をムラなく研磨する事ができたものと考えられる。
【0073】
また、比較例1,2,3においては、ガラス素板1の内周端面4の不十分な研磨に起因し、溶出物が発生してガラス素板1の表面に付着し、成膜後の情報記録媒体10においてディフェクトとなり、記録特性に異常が発生したものと考えられる。
【0074】
また、実施例1と毛先範囲Qが等しく、毛先範囲Qが植付範囲Rと等しくした比較例3では、実施例1に比べて好ましくない結果が得られた。これは、ブラシ毛材83の毛先がガラス素板1に当たる際に特定の方向に寝るため、研磨レートが低下した結果であると考えられる。
【0075】
また、実施例3では、ブラシ毛束81としての先端部分を、植付方法の工夫により平坦状とした。端面検査の結果はA評価であったが、記録特性試験は実施例1よりもやや低かった。原因を調査したところ、実施例3では面取部7の粗さは合格水準に達しているものの、主表面付近と内周端面4付近とで値にバラツキをもっている事が分かった。これは、先端で集中したブラシ毛材83の毛先が、実施例1の方が実施例3の場合に比べて面取部7の隙間に上手く入っている事が原因であると考えられる。
【0076】
したがって、本実施例の結果からも、上述の実施の形態における研磨用ブラシ80によれば、研磨用ブラシ80の複数のブラシ毛材83,83の各々の毛先は、ガラス素板1の内周端面4および面取部7に接触する際、狭い範囲に集中し、隣り合うガラス素板1の面取部7,7同士の間にも定期的に強い荷重をかけることが可能となることがわかる。これにより、隣り合うガラス素板1の面取部7,7同士の間に残留しているスラッジ(研磨屑)は効果的に除去されることとなり、面取部7に対する良好な加工レートを確保する事が可能となることがわかる。
【0077】
以上、本発明に基づいた各実施の形態および各実施例について説明したが、今回開示された各実施の形態および各実施例はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。