(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
《I》 ステレオリソグラフィ用の液体光硬化性樹脂組成物であって、
(i)ラジカル重合性のモノマー、オリゴマー、プレポリマーおよびこれらの混合物から選択されるラジカル重合性有機化合物(A)を、当該液体光硬化性樹脂組成物の総重量を基準にして90〜99.9重量%の割合で含有し;
(ii)感光性ラジカル重合開始剤(B)を、当該液体光硬化性樹脂組成物の総重量を基準にして0.1〜10重量%の割合で含有し;
《II》 ラジカル重合性有機化合物(A)として、下記の一般式(I):
【化1】
(式中、
Zは、
アダマンタン、2,4−ジニトロフェニルまたはシクロデキストリンに基づくキャッピング基であり;
点線は、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール(PEG−PPG)ブロックコポリマーおよびポリジメチルシロキサン(PDMS)からなる群より選択されるポリマー鎖であり、当該ポリマー鎖上にシクロデキストリン環(単一または複数)が滑り込み;
mは整数で、シクロデキストリン環中のブドウ糖ユニットの数を表し;
nは整数で、シクロデキストリン環の数を表し;
Xは、独立にHまたはラジカル重合性基であって、少なくとも1つのXがラジカル重合性基である)
を有するポリロタキサン化合物を、ラジカル重合性有機化合物(A)の重量を基準にして、0.5〜20重量%の割合で含有し;且つ、
《III》 ラジカル重合性有機化合物(A)として、
(i)1モルの有機ジイソシアネート化合物と、2モルのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとの反応により得られる、次の一般式(A−1a):
D−{NH−CO−O−R
2−O−CO−C(R
1)=CH
2}
2 (A−1a)
(式中、R
1は水素原子またはメチル基であり、R
2はアルキレン基であり、Dは有機ジイソシアネート化合物残基である)
で表されるウレタン系ジ(メタ)アクリレート化合物(A−1a);および/または
(ii)1モルのジエポキシ化合物と、2モルの(メタ)アクリル酸との反応により得られる、次の一般式(A−1b):
E−{C(H)(OH)−CH
2−O−CO−C(R
3)=CH
2}
2 (A−1b)
(式中、R
3は水素原子またはメチル基であり、Eはジエポキシ化合物残基である)
で表されるジ(メタ)アクリレート化合物(A−1b)を、
ラジカル重合性有機化合物(A)の重量を基準にして、5〜95重量%の割合で更に含有する;
ことを特徴とする、ステレオリソグラフィ用の液体光硬化性樹脂組成物。
上記の一般式(I)で表されるポリロタキサン化合物において、点線で表されるポリマー鎖がポリエチレングリコールであり、シクロデキストリン環がαーシクロデキストリン環であり、キャッピング基Zが−NH−アダマンタンである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のステレオリソグラフィ用の液体光硬化性樹脂組成物。
【背景技術】
【0002】
現状技術
光硬化性液体樹脂組成物は通常、コーティング材料、フォトレジストおよび歯科用材料として幅広く使用されている。近年、極めて正確な3次元物体を形成できる能力を有するという理由で、光硬化性樹脂組成物およびレーザービームなどの光源を使った3次元CADデータに基づく積層造形方法が注目を集めいている。
【0003】
ステレオリソグラフィ技術では、制御された量の光エネルギーを光硬化性液体樹脂に供給することによる薄層を硬化するステップ、光硬化性液体樹脂をその硬化薄層上に供給するステップおよび制御された量の光エネルギーを光硬化性液体樹脂中に供給することにより別の薄層を硬化するステップを繰り返すことにより3次元物体を製造する方法が、特許文献1により開示され、その基本的な実施方法が特許文献2により提案されている。それ以降、ステレオリソグラフィ技術に関する多くの提案がなされてきた。
【0004】
典型的な3次元物体の製造方法として、上方から造形容器中に収容された光硬化性液体組成物の液面上へのコンピュータ制御UVレーザービームによる選択的照射を行って所望の厚さの硬化樹脂層を順次形成する積層操作を反復することによる3次元物体の製造方法が広く知られており、一般的に用いられている。本方法は、近年、極めて大きな注目を集めている。理由は、この方法により、たとえ物体の形状がかなり複雑な場合でも、目的の3次元物体を容易に、しかも、比較的短時間で得ることができるためである。一方、本発明者らは、硬化樹脂層を形成するために、造形容器の光透過性底面を通して直線的に移動する線描画システムを使ってスポット形状に変換した光を照射する液体歯科用光硬化性樹脂組成物、または特許文献3に記載のように造形容器の光透過性底面を通る複数の顕微光学的シャッターを配列させることにより形成された面状描画マスクを通過させた光を平面状に照射した液体歯科用光硬化性樹脂組成物を層毎に硬化して人工歯を得ることを提案した。コーティング材料、フォトレジストおよび歯科用材料のための光硬化性樹脂組成物として、光重合開始剤を、不飽和ポリエステル、エポキシ(メタ)アクリレート化合物、ウレタン(メタ)アクリレート化合物、(メタ)アクリレート化合物などの硬化性樹脂材料に加えることにより得られる材料が広く使われている。
【0005】
さらに、ステレオリソグラフィのための光硬化性樹脂組成物として、光重合開始剤を、エポキシ(メタ)アクリレート化合物、ウレタン(メタ)アクリレート化合物、(メタ)アクリレート化合物、オリゴエステル(メタ)アクリレート化合物、エポキシ化合物のうちの1種または2種またはそれ以上からなる硬化性樹脂材料の混合物に加えることにより得られる材料が広く使われている。
【0006】
特許文献4、特許文献5および特許文献6は、歯モデルおよび人工歯の製造について記載している。
【0007】
取り扱い、造形速度および造形物精度の観点から、ステレオリソグラフィ用の光硬化性樹脂化合物は、硬化後に低収縮および良好な機械的特性を与える低粘度液体である必要がある。近年、3次元積層造形法(3Dプリンター)ブームに伴い、3次元物体に対する使用および需要が劇的に拡大している。そのため、高靱性および高弾性を有する3次元物体が機能性部品のために必要とされ、また、その目的のために種々の方策が実施されている。
【0008】
発明者らは、特許文献3で、人工歯の製造に好適な液体光硬化性樹脂組成物を提案している。好ましい実施形態では、ラジカル重合性有機化合物からから本質的に成る光硬化性樹脂組成物の少なくとも一部として、組成物は、1モルの有機ジイソシアネート化合物と、2モルのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとの反応により得られる、次の一般式(A−1a):
D−{NH−CO−O−R
2−O−CO−C(R
1)=CH
2}
2 (A−1a)
(式中、R
1は水素原子またはメチル基であり、R
2はアルキレン基であり、Dは有機ジイソシアネート化合物残基である)で表される少なくとも1種のウレタン系ジ(メタ)アクリレート化合物(A−1a);および1モルのジエポキシ化合物と、2モルの(メタ)アクリル酸との反応により得られる、次の一般式(A−1b):
E−{C(H)(OH)−CH
2−O−CO−C(R
3)=CH
2}
2 (A−1b)
(式中、R
3は水素原子またはメチル基であり、Eはジエポキシ化合物残基である)で表されるジ(メタ)アクリレート化合物(A−1b)を含む。
【0009】
提案された人工歯の耐久性をさらに改善するために、高靱性を材料に付与して、装着中に不注意な力が加えられた場合にも破壊を回避することが必要である。
【0010】
ステレオリソグラフィによって作製される、高靱性、高弾性率を有する3次元物体の製造のために、ゴムポリマー粒子を含む光硬化性樹脂を使って3次元物体を作成する方法が知られている(特許文献7、特許文献8)。しかし、この方法は、光硬化性樹脂中でゴムポリマー粒子と配合されるために、樹脂組成物の粘度が高くなり、モデル化精度および取り扱い性が低下するという欠点がある。また、高靱性を得るおよび引張伸びを改善するための、カプロラクトンユニットを含むウレタンアクリレート組成物が知られている(特許文献9)。しかし、引張伸びのみがある程度改善されるが、機械的強度と靱性のバランスが十分であるとはいえない。
【0011】
人工歯の性能改善はまた、ステレオリソグラフィにより作製された3次元物体の性能改善を意味し、また、立体的に成形された3次元物体が、プロトタイプまたは最終製品として十分な能力を備えることを意味する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、3次元物体、特に、人工歯の製造方法、およびこの方法で用いられる光硬化性樹脂組成物を提供することである。該光硬化性樹脂組成物を用いることにより、短時間で、低体積収縮で優れた寸法精度を有し、加えて、高靱性、高弾性および優れた機械的性質をさらに有する3次元物体を得ることができる。
【0014】
本発明の別の目的は、前記樹脂組成物を使って作製されるおよび/またはステレオリソグラフィ方法により得られる、優れた強度および靱性を有する人工歯を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記目的を達成するように鋭意検討を行った。その結果、請求項1で示すようにその他のラジカル重合性化合物および光重合開始剤と組み合わせた光硬化性基、好ましくはメタクリロイル基を有するポリロタキサン化合物が、優れた取り扱い性を有する低粘度を示し、また、この光硬化性樹脂組成物を光照射により短時間で硬化することができることから、上記目的を達成するために極めて効果的であり、特にステレオリソグラフィプロセスに好適なことを見出した。
【0016】
ステレオリソグラフィにこの光硬化性樹脂組成物を使用することにより、優れた寸法精度および低体積収縮を有し、加えて、高靱性、高弾性および優れた機械的性質をさらに有する3次元物体が得られるということが明らかになった。さらに、この光硬化性樹脂組成物をステレオリソグラフィに用いて人工歯を製造することにより、良好な耐久性、優れた寸法精度、高い機械的強度、高靱性および優れた審美性を得ることができるということが明らかになった。
【0017】
近年注目を集めている超分子化合物であるポリロタキサンは、多くのナノサイズ環、例えば、シクロデキストリンが、ポリエチレングリコール鎖などの線形ポリマーに侵入した分子である。一般に、いくつかのシクロデキストリン環が、ポリエチレングリコール(PEG)鎖上に滑り込んでいる。該ポリエチレングリコール(PEG)鎖はアダマンタンアミン残基などの嵩高い基によりキャッピングされ、その環の滑落を防いでいる。ポリロタキサンは、Soft Matter 2007,2,1456−1473で、J.Araki,K.Itoらにより徹底的に調査されている。このポリロタキサンをその他のポリマー材料に付加することにより、「移動可能な架橋ポイント」が材料中に現れる。応力が加わると最適な位置にこの移動可能な架橋ポイントは、強化作用、高膨潤指数および高膨張率、などの効果を材料にもたらすといわれている。ポリロタキサン製造の出発材料は、主にポリエチレングリコール(PEG)およびシクロオリゴ糖のα−シクロデキストリンであり、両方とも、高い生物学的安全性を有し、ポリロタキサンは医療用途で開発が進められている。
【0018】
さらに、国際公開第2005/095493号では、架橋性ポリマーとして、ポリロタキサンおよびケイ皮酸、クマリン、カルコン、アントラセン、スチリルピリジン、スチリルピリジニウム塩、スチリルキノリウム塩などの他の光架橋基を含む架橋ポリロタキサン組成物が開示されている。この国際公開特許には、水性ゲルなどの生成が提案され、その技術的範囲は、本発明によるステレオリソグラフィ用の光硬化性組成物とは極めて異なる。また、国際公開第2011/105532号および特開2011−046917号には、アクリロイル基、スチリル基、ビニルエーテル基、マレイミド基を含む架橋ポリロタキサン組成物が開示されている。これらの架橋基は、高分子反応によりポリロタキサン中に導入される。特に、アクリロイル基の導入により得られたポリロタキサンが記載されている。前記特許文献では、光架橋性ポリマー化合物および光重合開始剤から構成されている。この光架橋性ポリロタキサン化合物を使って引っ掻き傷による損傷を改善する方法が記載されているが、このような光硬化性組成物のステレオリソグラフィへの適応に関する技術的開示については何ら言及がない。さらに、本発明の主目的であるステレオリソグラフィに好適な光架橋性アクリレートモノマーを含む光硬化性樹脂組成物の記載がなく、また、積層造形法を用いたときの光硬化性特性についての記載がない。
【0019】
本発明では、別のラジカル重合性化合物に対する光反応性基として、例えば、(メタ)アクリロイル基で変性した特定の割合のポリロタキサン化合物を加えることにより、光硬化性組成物としての元の性能を損なうことなく、硬化材料の機械的性質、すなわち、造形物の性能を劇的に改善することが可能である。
【0020】
したがって、第1の態様は、本発明は、ステレオリソグラフィによる3次元物体、特に、人工歯の製造方法に関し、液体光硬化性樹脂組成物が光により硬化され、前記光硬化性樹脂組成物は、
(i)光硬化性樹脂組成物の総重量を基準にして、ラジカル重合性モノマー、オリゴマー、プレポリマーおよびこれらの混合物から選択される、90〜99.9重量%のラジカル重合性有機化合物(A)、
(ii)光硬化性樹脂組成物の総重量を基準にして、0.1〜10重量%の感光性ラジカル重合開始剤(B)を含み、
前記ラジカル重合性有機化合物(A)は、ラジカル重合性有機化合物(A)の重量を基準にして、0.5〜20重量%の、次の一般式(I):
【0021】
【化1】
(式中、
Zは、好ましくはアダマンタンおよびその誘導体、2,4−ジニトロフェニル、またはシクロデキストリンおよびその誘導体から選択される嵩高いキャッピング基であり;
点線は、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール(PEG−PPG)ブロックコポリマーまたはポリジメチルシロキサン(PDMS)からなる群より選択されるポリマー鎖であり、該ポリマー鎖上にシクロデキストリン環(単一または複数)が滑り込み;
mは整数で、シクロデキストリン環中のブドウ糖ユニットの数を独立に表し、好ましくはm=6、7または8であり;
nは整数で、シクロデキストリン環の数を表し;
Xは、独立にH、またはメタクリロイル含有基またはアクリロイル含有基などのラジカル重合性基であり、ただし、少なくとも1つのXはラジカル重合性基であるものとする)を有するポリロタキサン化合物を含む。
【0022】
本発明による方法は、上記で考察したように、改善された光硬化性樹脂組成物のために、優れた特性を有する3次元物体の製造を可能とする。実際に、本発明の別の態様は、ステレオリソグラフィ用の液体光硬化性樹脂組成物であって、
(i)光硬化性樹脂組成物の総重量を基準にして、ラジカル重合性モノマー、オリゴマー、プレポリマーおよびこれらの混合物から選択される、90〜99.9重量%のラジカル重合性有機化合物(A)、
(ii)光硬化性樹脂組成物の総重量を基準にして、0.1〜10重量%の感光性ラジカル重合開始剤(B)を含み、
前記ラジカル重合性有機化合物(A)は、ラジカル重合性有機化合物(A)の重量を基準にして、0.5〜20重量%の、次の一般式(I):
【0023】
【化2】
(式中、
Zは、好ましくはアダマンタンおよびその誘導体、2,4−ジニトロフェニル、またはシクロデキストリンおよびその誘導体から選択される嵩高いキャッピング基であり;
点線は、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール(PEG−PPG)ブロックコポリマーまたはポリジメチルシロキサン(PDMS)からなる群より選択されるポリマー鎖であり、該ポリマー鎖上にシクロデキストリン環(単一または複数)が滑り込み;
mは整数で、シクロデキストリン環中のブドウ糖ユニットの数を独立に表し、好ましくはm=6、7または8であり;
nは整数で、シクロデキストリン環の数を表し;
Xは、独立にH、またはメタクリロイル含有基またはアクリロイル含有基などのラジカル重合性基であり、ただし、少なくとも1つのXはラジカル重合性基であるものとする)を有するポリロタキサン化合物を含む。
【0024】
ポリマー鎖がポリエチレングリコールである場合には、α−シクロデキストリン(m=6)が好ましく、ポリマー鎖がポリプロピレングリコールの場合には、β−シクロデキストリン(m=7)が好ましく、さらにポリマー鎖がポリジメチルシロキサンの場合には、γ−シクロデキストリン(m=8)が好ましい。シクロデキストリン環の数は、重要性は小さいが、好ましい値は、n=30〜100である。
【0025】
本発明による光硬化性樹脂組成物中の感光性ラジカル重合開始剤(B)として、光を照射して、ラジカル重合性有機化合物(A)のラジカル重合を開始できる任意の重合開始剤を使用可能である
【0026】
本発明で使用可能な感光性ラジカル重合開始剤(B)の具体例としては、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、およびベンゾインフェニルエーテルなどのベンゾインエーテル化合物;アセトフェノン、2,2−ジメトキシアセトフェノンおよび1,1−ジクロロアセトフェノンなどのアセトフェノン化合物;ベンジルジメチルケタールおよびベンジルジエチルケタールなどのベンジルケタール化合物;2−メチルアントラキノン,2−エチルアルキルアントラキノン,2−tertiary−ブチルアントラキノン、1−クロロアントラキノンおよび2−アミルアントラキノンなどのアントラキノン化合物;トリフェニルホスフィンなどのホスフィン化合物、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドなどのベンゾイルホスフィンオキシド化合物(Irgacure TPO);ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(Irgacure819)などのビスアシルホスフィンオキシド;ベンゾフェノンおよび4,4’−ビス(N,N’−ジメチルアミノ)ベンゾフェノンなどのベンゾフェノン化合物;チオキサントンおよびキサントン;アクリジン誘導体;フェナジン誘導体;キノキサリン誘導体;1−フェニル−1,2−プロパンジオンおよび2−O−ベンゾイルオキシム;4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−プロピル)ケトン(Irgacure2959);1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシイソプロピルフェニルケトン、フェニル 1−ヒドロキシイソプロピルケトン、および4−イソプロピルフェニル 1−ヒドロキシイソプロピルケトンなどの1−アミノフェニルケトンまたは1−ヒドロキシフェニルケトン;などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
本発明で使用される歯科用光硬化性樹脂組成物では、紫外線、近紫外線、および短波長可視光下で満足できる光硬化が可能であるという事実を考慮すると、前述の感光性ラジカル重合開始剤のうちで、トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィン(Irgacure TPO)およびビスアシルホスフィンオキシド(Irgacure819)などのベンゾイルホスフィンオキシドを感光性ラジカル重合開始剤(B)として使用するのが好ましい。
【0028】
本発明による樹脂組成物のさらなる実施形態および特性を以降で説明する。組成物は、全ての実施形態において本発明による方法で使用/硬化可能な本発明による樹脂組成物であるために、それらの実施形態は必要な変更を加えてステレオリソグラフィ方法に適用される。
【発明を実施するための形態】
【0029】
請求項で定められるポリロタキサン化合物は、ラジカル重合性有機化合物(A)の重量を基準にして、0.5〜20重量%の比率で含まれる場合に、本発明の効果を示す。本発明の好適な実施例では、ポリロタキサン化合物は、1〜15重量%の比率で含まれる。0.5重量%未満の場合には、ポリロタキサン化合物による高弾性および高靱性の利益を得ることができない。さらに、量が20重量%より多い場合には、光硬化性樹脂組成物の粘度が極端に高くなり、本発明の目的に使用するのが不可能になる。
【0030】
本発明の好ましい実施形態では、前記ラジカル重合性基は、スペーサーユニットにより前記シクロデキストリン環に結合されたメタクリロイルまたはアクリロイル含有ユニットにより構成される。欧州特許第1734066A1号および国際公開第2011/105532A1号は、このような変性ポリロタキサン化合物を得るための多くの可能な製造方法を提供している。例えば、ポリロタキサン化合物のラジカル重合性基は、前記シクロデキストリン環のヒドロキシル基に結合したスペーサー分子のヒドロキシル基と、CH
2=C(R
1)CO
2(CH
2)
2NCO(式中、R
1は水素原子またはメチル基である)とを反応させることにより得られるメタクリロイル含有基またはアクリロイル含有基とすることができ、スペーサーユニットは、−[(C=O)(CH
2)
5O−]
p−H、またはH−[−O(CH
2)
5(C=O)]
qOCH(Me)CH
2(pとqは整数で、反復単位の数を示す)から独立に選択される。好ましいスペーサーユニットは、カプロラクトン系である。特許文献の国際公開第2011/105532A1号は、ポリロタキサン分子の(ヒドロキシプロピル)シクロデキストリン環のポリカプロラクトン変性およびポリカプロラクトン鎖への(メタ)アクリロイル基の導入ついて記載している。好ましくは、ラジカル重合性基は、−[(C=O)(CH
2)
5O−]
p−CONH(CH
2)
2CO
2C(R
1)=CH
2または−CH
2CHMeO−[(C=O)(CH
2)
5O−]
q−CONH(CH
2)
2CO
2C(R
1)=CH
2から独立に選択され、式中、R
1は水素原子またはメチル基であり、pとqは、反復単位の数を示す整数である。
【0031】
pおよびqに対する好ましい平均値は3〜4である。本発明の有利な実施形態では、シクロデキストリン環では、2つのヒドロキシル基は、光架橋性基で誘導体化され、特に、−[(C=O)(CH
2)
5O−]
p−CONH(CH
2)
2CO
2C(R
1)=CH
2基および−CH
2CHMeO−[(C=O)(CH
2)
5O−]
q−CONH(CH
2)
2CO
2C(R
1)=CH
2基を有する。
【0032】
好ましくは、前記光硬化性樹脂組成物の粘度は、ISO2555の方法に準拠して、単一円筒型粘度計を使って25℃で測定して、20,000mPa・s以下、より好ましくは15,000mPa・s以下、およびさらにより好ましくは10,000mPa・s以下である。粘度が低いことは、ステレオリソグラフィプロセスの、取り扱い性、造形速度および造形物精度の観点から良好な結果を与える。歯科用光硬化性樹脂組成物の粘度は、ラジカル重合性有機化合物(A)の種類および組み合わせ、可能なフィラー(C)の種類および平均粒径、ラジカル重合性有機化合物(A)とフィラー(C)の混合比率などを選択することにより制御できる。
【0033】
別の好適な本発明の実施形態では、前記ラジカル重合性有機化合物(A)は、
(i)1モルの有機ジイソシアネート化合物と、2モルのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとの反応により得られる、次の一般式(A−1a):
D−{NH−CO−O−R
2−O−CO−C(R
1)=CH
2}
2 (A−1a)
(式中、R
1は水素原子またはメチル基であり、R
2はアルキレン基であり、Dは有機ジイソシアネート化合物残基である)で表されるウレタン系ジ(メタ)アクリレート化合物(A−1a);および/または
(ii)1モルのジエポキシ化合物と、2モルの(メタ)アクリル酸との反応により得られる、次の一般式(A−1b):
E−{C(H)(OH)−CH
2−O−CO−C(R
3)=CH
2}
2 (A−1b)
(式中、R
3は水素原子またはメチル基であり、Eはジエポキシ化合物残基である)で表されるジ(メタ)アクリレート化合物(A−1b)をさらに含む。
【0034】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、使用されるラジカル重合性有機化合物(A)が全てアクリレート化合物により、または全てメタクリレート化合物により組成物が構成されるのが好ましい。メタクリレート化合物とアクリレート化合物を混合した場合、反応系が掻き乱され、所望の物理的性質を有する硬化生成物を得るのが困難になることが多い。
【0035】
また、ラジカル重合性基を有するポリロタキサン化合物とウレタン系ジ(メタ)アクリレート化合物(A−1a)及び/またはジ(メタ)アクリレート化合物(A−1b)とを含有する本発明のラジカル重合性有機化合物(A)は、ポリロタキサン化合物(I)の含有量を、ラジカル重合性有機化合物(A)の重量に対して0.5〜20重量%であることが好ましい。
【0036】
ラジカル重合性有機化合物(A)は、メタクリレート系のみで構成されることが好ましい。当該組成物により作製される3次元物体が人工歯、または人体と接触する物体である場合には、生体適合性の観点からアクリル基を有する化合物と比較すると、メタクリル基を有する化合物(A)が好ましい。任意のラジカル重合性有機化合物は、それが光硬化性樹脂として使用可能であれば、光硬化性樹脂組成物中のポリロタキサン化合物以外のラジカル重合性有機化合物(A)として使用することができる。入手可能性および反応性の観点から、分子中に1個または2個またはそれを以上のアクリロイル基および/またはメタクリロイル基を有する(メタ)アクリル化合物を使用するのが好ましい。これら化合物中で、本発明で使用される光硬化性樹脂組成物は、人体との適合性、入手の容易さ、機械的性質、などの観点から、ラジカル重合性有機化合物(A)の一部として、
(i)1モルの有機ジイソシアネート化合物と、2モルのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとの反応により得られる、次の一般式(A−1a):
D−{NH−CO−O−R
2−O−CO−C(R
1)=CH
2}
2 (A−1a)
(式中、R
1は水素原子またはメチル基であり、R
2はアルキレン基であり、Dは有機ジイソシアネート化合物残基(2つのイソシアネート基が有機ジイソシアネート化合物から除去された後の基)である)で表される少なくとも1種のウレタン系ジ(メタ)アクリレート化合物(A−1a);および
(ii)1モルのジエポキシ化合物と、2モルの(メタ)アクリル酸との反応により得られる、次の一般式(A−1b):
E−{C(H)(OH)−CH
2−O−CO−C(R
3)=CH
2}
2 (A−1b)
(式中、R
3は水素原子またはメチル基であり、Eはジエポキシ化合物残基(ジエポキシ化合物から2つのエポキシ基が除去された後の基)である)で表されるジ(メタ)アクリレート化合物(A−1b)を含むのが好ましい。
【0037】
本発明による樹脂組成物は、次の化合物:ウレタン系ジ(メタ)アクリレート化合物(A−1a)およびジ(メタ)アクリレート化合物(A−1b)の片方または両方を含んでよい。
【0038】
さらに、少なくとも1種のウレタン系ジ(メタ)アクリレート化合物(A−1a)および1種のジ(メタ)アクリレート(A−1b)の含量(両方の化合物が含まれる場合は合計含量)は、ラジカル重合性有機化合物(A)の重量を基準にして、好ましくは5〜95重量%、より好ましくは20〜80重量%、およびさらにより好ましくは30〜70重量%である。
【0039】
ラジカル重合性有機化合物(A)が上述の組成物である場合は、ステレオリソグラフィにより得られる3次元物体は優れた機械的性質を有する。
【0040】
上記一般式(A−1a)では、有機ジイソシアネート化合物残基Dは、芳香族ジイソシアネート化合物残基、脂肪族ジイソシアネート化合物残基、および脂環式ジイソシアネート化合物残基のいずれであってもよい。
【0041】
ウレタン系ジ(メタ)アクリレート系化合物(A−1a)の例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、水素添加m−キシリレンジイソシアネート、および水素添加トルエンジイソシアネートなどの1種または2種以上の脂肪族ジイソシアネート化合物、ならびにジフェニルメタンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、およびキシリレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートから構成される1モルの有機ジイソシアネート化合物と、(メタ)アクリル酸が2〜6個の炭素原子を有するヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレートおよびヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレートなどの2モルのヒドロキシアルキルエステル[1モルの2〜6個の炭素原子を有するアルキレンジオールと、1モルの(メタ)アクリル酸との反応により得られる(メタ)アクリル酸エステル]との反応により得られるウレタンジ(メタ)アクリレートが挙げられるが、これらに限定されない。
【0042】
より具体的なその例には、1モルの2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートと2モルのヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの反応により得られるウレタンジ(メタ)アクリレート、1モルのイソホロンジイソシアネートと2モルのヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの反応により得られるウレタンジ(メタ)アクリレート、1モルの水素添加ジフェニルメタンジイソシアネートと2モルのヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの反応により得られるウレタンジ(メタ)アクリレート、1モルの2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートと2モルのヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとの反応により得られるジ(メタ)アクリレート、1モルのイソホロンジイソシアネートと2モルのヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとの反応により得られるウレタンジ(メタ)アクリレート、1モルの2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートと2モルのヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの反応により得られるウレタンジ(メタ)アクリレート、1モルのジフェニルメタンジイソシアネートと2モルのヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの反応により得られるウレタンジ(メタ)アクリレート、1モルのジフェニルメタンジイソシアネートと2モルのヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとの反応により得られるウレタンジ(メタ)アクリレート、1モルのトルエンジイソシアネートと2モルのヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの反応により得られるウレタンジ(メタ)アクリレート、1モルのトルエンジイソシアネートトルエンジイソシアネートと2モルのヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとの反応により得られるウレタンジ(メタ)アクリレート、などが挙げられ、1種または2種以上のウレタンジ(メタ)アクリレートを使用可能である。
【0043】
これら化合物のうちで、入手可能性、機械的性質および人体との適合性の観点から、1モルの2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートと2モルのヒドロキシエチルメタクリレートとの反応で得られるウレタンジメタクリレート(いわゆる、UDMA)が、ウレタン系ジ(メタ)アクリレート化合物(A−1a)として使用されるのが好ましい。
【0044】
上記一般式(A−1b)では、ジエポキシ化合物残基Eは、芳香族ジエポキシ化合物残基、脂肪族ジエポキシ化合物残基、および脂環式ジエポキシ化合物残基のいずれであってもよい。
【0045】
ジ(メタ)アクリレート化合物(A−1b)の非限定的例には、1種または2種以上の芳香族ジエポキシ化合物、脂環式ジエポキシ化合物、および脂肪族ジエポキシ化合物から構成される1モルのジエポキシ化合物と、2モルの(メタ)アクリル酸との反応により得られるジ(メタ)アクリレート化合物が挙げられ、入手可能性、機械的性質および人体との適合性の観点から、1モルの芳香族ジエポキシ化合物と、2モルの(メタ)アクリル酸との反応により得られるジ(メタ)アクリレートの使用が好ましい。
【0046】
その具体例には、ビスフェノールAまたはビスフェノールFなどの1モルのビスフェノール系化合物のジグリシジルエーテルと、2モルの(メタ)アクリル酸との反応により得られるジ(メタ)アクリレート化合物、ビスフェノールAまたはビスフェノールFなどのビスフェノール系化合物のアルキレンオキシド付加物とエピクロロヒドリンなどのエポキシ化剤との反応により得られる1モルのジグリシジルエーテルと、2モルの(メタ)アクリル酸との反応により得られるジ(メタ)アクリレート化合物、1モルのノボラックタイプジエポキシ化合物と2モルの(メタ)アクリル酸との反応により得られるジ(メタ)アクリレート、などが挙げられ、1種または2種以上のジ(メタ)アクリレート化合物を使用することが可能である。
【0047】
これらジ(メタ)アクリレート化合物のうちで、入手可能性、機械的性質および人体との適合性の観点から、ビスフェノールA化合物のエピクロロヒドリンとの反応により得られる1モルのジグリシジルエーテルと、2モルのメタクリル酸との反応で得られるエポキシジメタクリレート(いわゆる、BisGMA)が、エポキシ系ジ(メタ)アクリレート化合物(A−1b)として使用されるのが好ましい。
【0048】
全てのラジカル重合性有機化合物(A)が、メタクリレート系化合物であることが好適である。
【0049】
本発明の特に好ましい実施形態では、前記ポリロタキサン化合物において、ポリマー鎖はポリエチレングリコールであり、シクロデキストリンはα−シクロデキストリンであり、嵩高い基は−NH−アダマンタンである。
【0050】
本発明で使用される液体光硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、別のラジカル重合性有機化合物(A−2)を、粘度を下げる目的の化合物として、ラジカル重合性有機化合物(A)の一部としてさらに含むことができる。ウレタン系ジ(メタ)アクリレート(A−1a)とジ(メタ)アクリレート化合物(A−1b)をそれぞれ少なくとも1種ずつ用いるのが好ましい。
【0051】
その他のラジカル重合性有機化合物(A−2)を、特に、少なくとも1種のウレタン系ジ(メタ)アクリレート(A−1a)およびジ(メタ)アクリレート化合物(A−1b)と一緒に含めることにより、歯科用光硬化性樹脂組成物の粘度をステレオリソグラフィに適合する値に調節することが可能である。前記粘度を下げる化合物(A−2)は、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、ポリエステルメタクリレート、ポリエステルアクリレート、アルコール化合物のポリエーテルメタクリレート、アルコール化合物のポリエーテルアクリレートのうちの少なくとも1種であるのが好ましい。
【0052】
さらに、本発明のラジカル重合性有機化合物(A)がポリロタキサン化合物(I)、ウレタン系ジ(メタ)アクリレート化合物(A−1a)およびジ(メタ)アクリレート化合物(A−1b)以外の他のラジカル重合性有機化合物(A−2)を含む場合は、他のラジカル重合性有機化合物(A−2)の含量は、ラジカル重合性有機化合物(A)の重量を基準にして、好ましくは4〜90重量%、より好ましくは10〜79重量%、およびさらにより好ましくは15〜69重量%である。他のラジカル重合性有機化合物(A−2)の含量が上記の範囲内である場合、光硬化性樹脂組成物の粘度の低下の効果に加えて、反応性の改善効果も得ることができる。
【0053】
他のラジカル重合性有機化合物(A−2)として、従来ステレオリソグラフィ用に樹脂組成物中で使用されてきた任意のラジカル重合性有機化合物、典型的には、分子中に少なくとも1種の(メタ)アクリル基を有する化合物を使用するのが好ましい。その具体的例には、アルコール化合物の(メタ)アクリル酸エステル、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、などが挙げられる。
【0054】
アルコール化合物の(メタ)アクリル酸エステルの例には、分子内に少なくとも1つのヒドロキシル基を有する芳香族基含有アルコール、脂肪族アルコール、脂環式アルコール、または前述の特定のアルコールのアルキレンオキシド付加物と(メタ)アクリル酸との反応により得られる(メタ)アクリル酸エステルが挙げられ、その1種または2種以上を使用することが可能である。
【0055】
他のラジカル重合性有機化合物(A−2)のさらに具体的な例には、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートおよびその他のジペンタエリスリトールポリ(メタ)アクリレート、上述のジオール、トリオール、テトラオール、またはヘキサオールなどの多価アルコールのアルキレンオキシド付加物の(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ビスフェノールAジアクリレート、プロピレンオキシド変性ビスフェノールAジアクリレート、などが挙げられる。
【0056】
これら化合物のうちで、入手可能性および反応性の観点から、二価アルコールまたは三価またはそれを超える多価アルコールと(メタ)アクリル酸の反応により得られる分子中に2つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートを他のラジカル重合性有機化合物(A−2)として使用するのが好ましく、特に、次の一般式で(A−2a):
G−{O−CO−C(R
4)=CH
2}
2 (A−2a)
(式中、R
4は水素原子またはメチル基であり、Gは有機ジオール化合物残基(有機ジオール化合物から2つのヒドロキシル基を除去した後の残基)である)で表される少なくとも1種のジ(メタ)アクリレート化合物(A−2a)を使用するのが好ましい。
【0057】
一般式(A−2a)では、有機ジオール化合物残基Gは、芳香族ジオール化合物残基、脂肪族ジオール化合物残基、および脂環式ジオール化合物残基のいずれであってもよいが、入手可能性、粘度、および反応性の観点からは、脂肪族ジオール化合物残基が好ましい。
【0058】
ジ(メタ)アクリレート化合物(A−2a)の具体例には、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、およびテトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのオリゴエチレンまたはオリゴエチレングリコールのジ(メタ)アクリレート、テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタメチレンジ(メタ)アクリレート、およびヘキサメチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのアルキレンジオールのジ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0059】
他のラジカル重合性有機化合物(A−2)として使用可能な上記ポリエステル(メタ)アクリレートの例には、ヒドロキシル基含有ポリエステルと(メタ)アクリル酸の反応により得られるポリエステル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0060】
上記ポリエーテル(メタ)アクリレートの例には、ヒドロキシル基含有ポリエーテルと(メタ)アクリル酸の反応により得られるポリエーテル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0061】
本発明の光硬化性樹脂組成物および/または本発明の方法により製造された人工歯を装着した患者が治療を受けたときに、その装着状態や人工歯の形状や様子などがX線写真で明瞭に確認できるようにするために、本発明で用いる歯科用光硬化性樹脂組成物は、X線造影性を有する元素として、バリウム、ストロンチウム、ジルコニウム、ビスマス、タングステン、ゲルマニウム、モリブデン、ランタニドなどのX線造影性を有する元素(重金属元素)を含む無機酸化物を含有していてもよい。
【0062】
本発明で使用される光硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、1種または2種以上の顔料および染料などの着色剤、脱泡剤、レベリング剤、増粘剤、難燃剤、酸化防止剤、硬化深度調整剤、紫外線吸収剤、改質用樹脂などを、本発明の効果が損なわれない限り適切な量で含んでよい。
【0063】
前記光硬化性樹脂組成物がステレオリソグラフィに使用され、前記光硬化性樹脂組成物の100重量部当たり10〜250重量部のフィラー(C)と配合される場合、この光硬化性樹脂組成物の機械的性質は劇的に改善される。このことは、該光硬化性樹脂組成物に対して10〜250phr(樹脂100重量部に対する配合量)のフィラーを含む混合物が用いられることになる。
【0064】
一般に、本発明による光硬化性樹脂組成物中に、フィラー(C)として、1種または2種以上の無機フィラーおよび/または有機フィラーを使用することができる。
【0065】
無機フィラーの非限定的例には、周期表のI、II、III、およびIV族遷移金属の酸化物、塩化物、亜硫酸塩、炭酸塩、燐酸塩、ケイ酸塩、またはこれらの混合物が挙げられる。
【0066】
そのさらに具体的な例には、二酸化ケイ素(シリカ)粉末、酸化アルミニウム粉末(アルミナ粉末)、ジルコニア粉末、ランタンガラス粉末、バリウムガラス粉末、およびストロンチウムガラス粉末などのガラス粉末、石英粉末、硫酸バリウム粉末、酸化チタン粉末、ガラスビーズ、グラスファイバー、フッ化バリウム粉末、鉛塩粉末、滑石含有ガラスフィラー、シリカゲル粉末、コロイダルシリカ、ジルコニウム酸化物粉末、スズ酸化物粉末、炭素繊維、およびその他のセラミック粉末などが挙げられる。
【0067】
ポリマー粒子は、有機物質フィラーとして使用することができ、その例としては、ポリメチルメタクリレート粒子、架橋ポリメチルメタクリレート粒子、エチレン−酢酸ビニルコポリマー粒子、スチレン−ブタジエンコポリマー粒子、アクリロニトリル−スチレンコポリマー粒子、ABS樹脂(アクリロニトリル−スチレン−ブタジエンコポリマー樹脂)粒子、などが挙げられる。
【0068】
上記フィラー中で、硬化物(人工歯)の機械的性質の改善、および組成物の粘度の大きな増加の抑制の観点から、無機フィラーが好適なフィラー(C)として使用される。機械的性質および審美性の観点からは、特に、1種または2種以上のシリカ粉末、アルミナ粉末、ジルコニア粉末、およびガラス粉末の使用がより好ましい。
【0069】
理想的には、フィラー(C)の平均粒径は、積層造形における制限の理由から積層造形ピッチより小さく、好ましくは0.01〜50μm、より好ましくは0.01〜25μm、さらにより好ましくは0.01〜10μm、および特に好ましくは0.1〜5μmである。
【0070】
歯科用光硬化性樹脂組成物の粘度を下げることができるという観点から、フィラー(C)は、球形状を有するのが好ましく、ほぼ真球状であることがより好ましい。
【0071】
フィラー(C)は、人工歯の機械的性質の改善の観点から、シランカップリング剤で表面処理されているのが好ましい。シランカップリング剤としては、(メタ)アクリル基、エポキシ基、ビニル基、アミノ基、およびメルカプト基、などの反応性官能基を有するシランカップリング剤が挙げられ、1種または2種以上のフィラーを使用可能である。
【0072】
フィラーとしては、シリカ粉末、アルミナ粉末、ジルコニア粉末、ガラス粉末、上記粉末をシランカップリング剤で処理することにより調製された粉末、およびこれらの混合物が好ましい。
【0073】
本発明で使用可能なシランカップリング剤で処理されたフィラーの例としては、メタクリルシランで処理された真球状シリカ粉末、真球状アルミナ粉末(株式会社アドマテックスにより製造されたアドマファイン)、球状ガラス粉末(Potters Industries Inc.により製造された「Spheriglass」)およびメタクリルシランで処理されたジルコニアビーズ(ニイミ産業株式会社により製造)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0074】
本発明で使用される光硬化性樹脂組成物がフィラー(C)を含む場合には、光硬化性樹脂組成物(ラジカル重合性有機化合物(A)+感光性ラジカル重合開始剤(B))は、100重量部の液状樹脂組成物(A+B)当たり10〜250重量部のフィラー(C)と配合される。
【0075】
ラジカル重合性有機化合物(A)の含量、フィラー(C)の含量および感光性ラジカル重合開始剤(B)の含量が上記領域に入る場合、フィラー含有3次元物体、特に人工歯の製造において、光硬化性樹脂組成物の粘度および光硬化感度は、極めて満足できるものとなり、ステレオリソグラフィにより得られる3次元物体(人工歯)の強度、磨耗耐性、硬さ、低吸水率、審美性、機能性、などは満足できるものとなり、また、機械的性質も同様に、満足できるものとなる。
【0076】
より好ましくは、光硬化性樹脂組成物(ラジカル重合性有機化合物(A)+感光性ラジカル重合開始剤(B))は、100重量部の液体樹脂組成物(A+B)当たり20〜200重量部のフィラー(C)と配合される。
【0077】
この組成物は、光硬化性樹脂組成物が歯科用途に使用される場合に、特に好適である。
【0078】
ラジカル重合性有機化合物(A)の含量が上記領域より少ない場合、光硬化性樹脂組成物の粘度が増加する可能性があり、一方、その含量が上記範囲より多い場合、硬化物(人工歯)の機械的性質および磨耗耐性の劣化が起こる可能性がある。フィラー(C)の含量が上記範囲より少ない場合、光造形により得られる造形物(人工歯)の強度、磨耗耐性、硬さ、審美性、などは、劣化する可能性がある一方で、その含量が上記範囲より多い場合には、光硬化性樹脂組成物の粘度が大きく増加し、光造形特性の大きな劣化を引き起こし、光造形により得られる造形物(特に人工歯)の靱性(耐久性)の劣化に繋がる。感光性ラジカル重合開始剤(B)の含量が上記範囲より少ない場合、十分な光硬化行われない可能性があり、一方、その含量が上記範囲より多い場合には、光造形により得られる造形物(特に人工歯)の機械的性質が劣る。
【0079】
本発明の光硬化性樹脂組成物のラジカル重合性有機化合物は、メタクリレート系化合物のみからなるのが好ましい。
【0080】
光硬化性樹脂組成物中のポリロタキサン化合物以外のラジカル重合性有機化合物(A)としては、任意のラジカル重合性有機化合物を、使用することができる。入手可能性および反応性の観点から、分子中に1種または2種またはそれを超えるアクリロイル基および/またはメタクリロイル基を有する(メタ)アクリル化合物が好ましい。
【0081】
本発明による方法は、上記の実施形態のうちの1つの光硬化性樹脂組成物を使用する。本発明による方法の好ましい実施形態では、方法は、次のステップを含む:
(a)前記液体光硬化性樹脂組成物を光透過性底面を有する造形容器中に収容し、造形容器中の光硬化性樹脂組成物に対して、3次元CADデータに基づく1層毎のスライスデータに従って造形容器の光透過性底面を通る所定の造形パターンで光照射し、1層用の所定の造形パターンを有する硬化樹脂層を形成するステップ、
(b)ステップ(a)中に形成された1層用の硬化樹脂層を持ち上げ、それにより、硬化樹脂層の下面と造形容器の底面との間の空隙中に液体光硬化性樹脂組成物を流入させ、引き続き、硬化樹脂層の下面と造形容器の底面との間の光硬化性樹脂組成物に対して、造形容器の光透過性底面を通して所定の造形パターンで、3次元CADデータに基づく1層毎のスライスデータに従い光照射して、1層用の所定の造形パターンを有する硬化樹脂層をさらに形成するステップ、および
(c)所望の物体が得られるまで、ステップ(b)の操作を反復するステップ。
【0082】
本発明のステレオリソグラフィ方法で本発明の光硬化性樹脂組成物を使用することにより、向上した耐久性を有する人工歯が提供される。
【0083】
光透過性底面を有する造形容器中に光硬化性樹脂組成物が収容され、光が容器の底部から照射されて立体視的に造形品が製造されるステレオリソグラフィは、「規制液面方式ステレオリソグラフィ」と呼ばれ、これは既に既知である(実公平04−052042号、米国特許出願公開第2002/0,155,189A号)。発明者らは、特願2013−175277号(特開2015−043793号)において、規制液面方式ステレオリソグラフィを使って、優れた審美性、硬さ、強度、機能性およびフィット性を有する人工歯を、円滑にかつ容易に1時間未満で製造可能であることを提案している。
【0084】
さらに、例えば、(メタ)アクリル変性ポリロタキサンを含む本発明の光硬化性樹脂組成物を使うことにより、優れた審美性、硬さ、強度、機能性、およびフィット性を有する、靱性および弾性が改善された人工歯を円滑にかつ容易に短時間で製造可能である。
【0085】
液体歯科用光硬化性樹脂組成物を収容する造形容器については、全底面を光透過性材料で形成してもよく、または底面周辺部を光を透過しない材料で形成してもよい。更に、周辺部により囲まれた部分(中心部)を光透過性材料で形成してよい。それぞれの造形容器により製造される人工歯の最大サイズに従って、造形容器の底面を通って光が照射される最大面積に対応する底面中の光透過性部分の面積は選択することができる。
【0086】
造形容器の光透過性底面を形成する材料として、透明ガラス、透明プラスチック、などを使用することができる。硬化層を透過性容器から剥がすのを容易にするために、フッ素系ゴムおよびシリコーンゴムなどの透明剥離層を透明ガラスおよび透明プラスチックに適用できる。
【0087】
300〜450nmの波長を有する紫外線と可視光が、造形容器の光透過性底面を通して照射する光として利用される。光源として、レーザービーム(例えば、紫外線を放出可能な半導体励起固体レーザー、He−Cdレーザー、紫外線ダイオードレーザー(UV−LD)、380〜450nmの波長の光を放出可能なLDレーザー)、高圧水銀灯、超高圧エアガン水銀灯、低圧水銀灯、キセノンランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、紫外線のLEDランプ、紫外線蛍光灯、などを使用することができる。これらの光源のうち、装置の利便性、経済性、保守容易性などの観点から、約400nm(通常、約380〜410nm)の波長を有する光を放出可能なLDレーザーまたはLEDランプの使用が好ましい。
【0088】
造形容器中に収容された光硬化性樹脂組成物に、上面から光を照射することにより3次元物体が製造される従来から使用されている方法では、光造形は通常、300〜370nmの波長の紫外線レーザービームで照射することにより実施され、300〜370nmの波長の紫外線レーザービームを放出する光源は、一般に、高価である。
【0089】
それと対照的に、前述のように、本発明では、上記紫外線レーザービームより低いエネルギー強度の光の照射による場合であっても、また、380〜450nmの波長を有する光(可視域を含む光)の照射による場合であっても、審美性、硬さ、強度、機能性、フィット性、などに優れる人工歯を短時間で円滑に製造することができ、また、380〜450nmの波長を有する光(可視域を含む光)放出用の光源は、300〜370nmの波長の紫外線レーザービーム放出用の光源に比べて、安価で、容易に入手可能である。
【0090】
造形容器の光透過性底面を通した光の照射による造形容器に収容された歯科用液体光硬化性樹脂組成物のそれぞれの硬化樹脂層の形成について言えば、硬化樹脂層が歯科用光硬化性樹脂組成物に、レーザービームなどのスポット形状に変換された光を使って、造形容器の光透過性底面を通して線描画法で照射することにより形成される方法、または、液晶シャッターまたはデジタルマイクロミラーデバイス(DMD)などの微小光学的シャッターを複数配列させることにより形成された面状描画マスクを通過した光を、造形容器の光透過性底面を通して、歯科用光硬化性樹脂組成物の面状に照射により硬化樹脂層を形成させる方法を用いることができる。
【0091】
3次元CADデータは、コンピュータ断層撮影デバイス(CTデバイス)、磁気共鳴画像デバイス(MRI)、コンピュータX線撮影デバイス(CRデバイス)、または口腔内3Dスキャナーを使って容易に得ることができる。
【0092】
本発明の別の態様は、本発明によるまたは本発明による方法により得られた光硬化樹脂組成物を含む3次元物品である。本発明の特に好ましい実施形態では、3次元物品は人工歯である。
【0093】
本発明の方法により、および本発明による光硬化性樹脂組成物を使って、最終の歯が取り付けられるまで短時間に限る仮歯(継続歯用の仮歯、部分義歯用の仮歯、フルセットの義歯用の仮歯)として使用される人工歯、最終歯(継続使用の最終歯、部分義歯用の最終歯、フルセットの義歯用の最終歯)として使用される人工歯、歯学生の訓練用の義歯、などを短時間で、容易に、円滑に製造することが可能である。
【0094】
本発明者らの発想の前には、本発明による光硬化性樹脂組成物を使って、規制液面方式ステレオリソグラフィを使った人工歯が製造されたことはなかった。本明細書に記載された方法を用いることにより、使用者は1時間未満で人工歯を製造することが可能となる。この時間は、既知の光硬化性樹脂組成物と上面からの光照射である光造形法では不可能である。
【0095】
硬化樹脂層の下面と造形容器の底面との間の制御空隙中に流れ込んだ液体歯科用光硬化性樹脂組成物は、空気に露出されることなく底面を通って照射される光により硬化される。したがって、酸素による硬化阻害が起こることなく、光硬化が素早く確実に行われる。本発明によれば、特定のポリロタキサン化合物、ラジカル重合性有機化合物、ラジカル重合可能な有機化合物、光ラジカル重合開始剤、および好ましくはフィラーを含むこれらの混合物を含有する本発明の液状光硬化性樹脂組成物を用いることにより、補聴器や介護のような工業製品の開発、製造のための設計検証や性能チェックに有用な立体物、さらには人工歯に必要とされる様々な性質、例えば、強度、耐摩耗性、硬度、および低吸水性などを有し、審美性および機能性に優れた人工歯を短時間でスムーズに且つ簡便に製造することができる。
【0096】
さらに、本発明の1つの態様では、強度、磨耗耐性、硬さ、および低吸水率、などの人工歯に必要な種々の特性を有し、審美性および機能性に優れる人工歯を、上記の本発明の光硬化性樹脂組成物および方法を使って、歯科医または歯科技工士の技能の習熟度により影響を受けることなく、短時間で簡単に製造することが可能である。
【0097】
さらに、本発明の光硬化性樹脂組成物および方法を使うことにより、外観、硬さ、強度および機能性に優れる3次元物体が、光硬化性樹脂組成物の上面から光照射することにより立体造形物を製造する場合に通常使用される波長300〜370nmの紫外線レーザービームのような高価な光源を使用することなく、波長380〜450nm(可視域を含む光)の安価な光源を使用した場合でも、かなり短時間で円滑に製造することが可能となる。
【0098】
本発明の変形実施形態は、従属請求項の対象である。本発明による樹脂組成物および方法の好ましい実施形態の説明が、非限定的例として以降の頁で提供される。
【0099】
本発明の好ましい実施形態例の説明
本発明では、光重合性基を有するポリロタキサン化合物を含むラジカル重合性有機化合物(A)および感光性ラジカル重合開始剤(B)および好ましくはフィラー(C)を含む液体光硬化性樹脂組成物は、高靱性および高弾性を有する3次元物体の製造のための材料として使用される。
【0100】
本発明による(メタ)アクリル変性ポリロタキサンは、シクロデキストリンまたはヒドロキシプロピル化シクロデキストリン環を含むポリロタキサン化合物から誘導することができ、第1ステップで、シクロデキストリン環の1つまたは複数のヒドロキシル基および/またはヒドロキシプロピルのヒドロキシル基がε−カプロラクトンで誘導体化され、その後、第2ステップで、CH
2=C(R
1)CO
2(CH
2)
2NCO(式中、R
1は水素原子またはメチル基である)で誘導体化される。より具体的には、ポリロタキサン化合物は、特許文献の特開2011−046917号に開示された方法の、ヒドロキシアルキルポリロタキサンと、2−アクロイルオキシエチルイソシアネートとの反応に由来するもの、などを使って得ることができる。
【0101】
特に、これに関し、(メタ)アクリル変性ポリロタキサン化合物として、種々の分子量の化合物がアドバンスト・ソフトマテリアルズ株式会社から、溶媒を含むSM3405P、SM2400P、SM1315P、SA3405P、SA2405PおよびSA1315Pなどの市販品として入手可能である。
【0102】
溶媒を含まないSM3400C、SA3400C、SA2400C、SA1310C、SM2400C、SM1310Cなどの製品については、反応性または粘度を調整するために低分子量光架橋性モノマーを含有させて用いることができる。
【0103】
これらの中で、SM型がメタクリル変性型であり、SA型はアクリル変性製品である。これらの変性ポリロタキサンの分子量は、34シリーズで約35,000、24シリーズで約20,000、13シリーズで約11,000である。 これらの分子量は、シクロデキストリンなどの化合物の環数および直鎖ポリマーの長さにより決定される。ここでは、アドバンスト・ソフトマテリアルズ株式会社の例が示されているが、本発明という意味においては、その他のポリロタキサンの重合性誘導体によっても本発明の目的は達成できる。
【0104】
本発明は、例示する目的のために以下で具体的に記載されるが、本発明は次の実施例に限定されるものではない。
【0105】
実施例1
(1)10.0gの架橋性オリゴマーおよびメタクリル変性ポリロタキサンの混合物(アドバンスト・ソフトマテリアルズ株式会社により製造された「SeRM Key Mixture SM1310C」)、80.0gの、1モルの2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートと2モルの2−ヒドロキシエチルメタクリレートとの反応により得られた、式「CH
2=C(CH
3)−CO−O−CH
2CH
2−O−CO−NH−[CH
2C(CH
3)
2CH
2CH(CH
3)CH
2CH
2]−NH−CO−O−CH
2CH
2−O−CO−(CH
3)C=CH
2」で表されるウレタンジメタクリレート(新中村化学工業株式会社により製造された「U−2TH」)、20gのトリエチレングリコールジメタクリレート(新中村化学工業株式会社により製造された「NK−3G」)および1.1gの2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド(BASF Corporationにより製造された、「Irgacure TPO」、感光性ラジカル重合開始剤)を混合し、続けて、撹拌し、液体光硬化性樹脂組成物を調製した。B型粘度計(Brookfield Engineering Laboratories,Inc.により製造された「DV−E」)を使って、上記で得られた光硬化性樹脂組成物の粘度を25℃で測定した。結果は、1,200mPa・sであった。
(2)上記(1)で得られた液体光硬化性樹脂組成物を使って、造形容器の光透過性底面を通って光が底側から照射されるタイプの規制液面方式ステレオリソグラフィ装置で、線描画システム(DWS SRLにより製造された「DigitalWax029D」)を使って、30mWのレーザー出力、405nmの波長、0.02mmのビーム直径、4,600mm/secのレーザー操作速度、および0.05mmの1層の厚みの条件下で、3次元CADデータに基づく1層毎のスライスデータに従って光造形を行い、ISO180に準じた試験バーに適用し、その後、Galdabiniにより製造された測定装置(Impact150)を使ってISO180に従って衝撃強度特性を測定した。
(3)上記(1)で得られた液体光硬化性樹脂組成物を使って、上記(2)で使用した規制液面方式ステレオリソグラフィ装置(DigitalWax 029D)により、上記(2)の場合と同じ条件下で、ISO527−2およびISO178に準拠した引張特性および曲げ特性測定用のダンベルおよび試験バーを作製し、その後、株式会社島津製作所により製造された測定装置(AutoGraph AG−XPIus)を使って、ISO527−2およびISO178に従って引張特性および曲げ特性を測定した。高分子計器株式会社により製造されたASKER、Model Dを使って、表面硬さをショアD硬さとして測定した。結果を表1に示す。
【0106】
実施例2
(1)20.0gの架橋性オリゴマーおよびメタクリル変性ポリロタキサンの混合物(アドバンスト・ソフトマテリアルズ株式会社により製造された「SeRM Key Mixture SM1310C」)、80.0gの、1モルの2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートと2モルの2−ヒドロキシエチルメタクリレートとの反応により得られた、式「CH
2=C(CH
3)−CO−O−CH
2CH
2−O−CO−NH−[CH
2C(CH
3)
2CH
2CH(CH
3)CH
2CH
2]−NH−CO−O−CH
2CH
2−O−CO−(CH
3)C=CH
2」で表されるウレタンジメタクリレート(新中村化学工業株式会社により製造された「U−2TH」)、20gのトリエチレングリコールジメタクリレート(新中村化学工業株式会社により製造された「NK−3G」)および1.2gの2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド(BASF Corporationにより製造された、「Irgacure TPO」、感光性ラジカル重合開始剤)を混合し、続けて、撹拌し、液体光硬化性樹脂組成物を調製した。B型粘度計(Brookfield Engineering Laboratories,Inc.により製造された「DV−E」)を使って、上記で得られた光硬化性樹脂組成物の粘度を25℃で測定した。結果は、1,740mPa・sであった。
(2)上記(1)で得られた液体光硬化性樹脂組成物を使って、実施例1、(2)および(3)と同様にして3次元物体を作製し、その後、実施例1、(2)および(3)と同様にして種々の物理学的性質を測定し、表1に示す結果を得た。
【0107】
実施例3
(1)10.0gの架橋性オリゴマーおよびメタクリル変性ポリロタキサンの混合物(アドバンスト・ソフトマテリアルズ株式会社により製造された「SeRM Key Mixture SM1310C」)、80.0gの、1モルの2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートと2モルの2−ヒドロキシエチルメタクリレートとの反応により得られた、式「CH
2=C(CH
3)−CO−O−CH
2CH
2−O−CO−NH−[CH
2C(CH
3)
2CH
2CH(CH
3)CH
2CH
2]−NH−CO−O−CH
2CH
2−O−CO−(CH
3)C=CH
2」で表されるウレタンジメタクリレート(新中村化学工業株式会社により製造された「U−2TH」)、20gのトリエチレングリコールジメタクリレート(新中村化学工業株式会社により製造された「NK−3G」)および1.1gの2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド(BASF Corporationにより製造された、「Irgacure TPO」、感光性ラジカル重合開始剤)を混合し、続けて、撹拌し、液体光硬化性樹脂を調製し、その後、混合物を60.0gのメタクリルシラン処理シリカ粉末(株式会社アドマテックスにより製造された、「アドマファイン SO−C1」、0.25μmの平均粒径)と混合して液体光硬化性樹脂組成物を調製した。B型粘度計(Brookfield Engineering Laboratories,Inc.により製造された「DV−E」)を使って、上記で得られた光硬化性樹脂組成物の粘度を25℃で測定した。結果は、2,560mPa・sであった。
(2)上記(1)で得られた液体光硬化性樹脂組成物を使って、実施例1、(2)で使用した、同じ規制液面方式ステレオリソグラフィ装置により、実施例1、(2)と同じ条件下で、光造形を行い、3つの真歯用の人工歯(13.1mmの高さ)を35分間にわたり作製した。
(3)上記(2)で得られた人工歯から支持部材を除去し、エタノールで洗浄後、後露光デバイス(DWS SRLにより製造された、後露光デバイス「UV硬化ユニットS2」)を使って20分間さらに後露光を行った後、表面を簡単に研削および研磨して、人工歯を作製し、この人工歯を仮歯として患者に使用した。
(4)上記(1)で得られた液体光硬化性樹脂組成物を使って、上記(2)で使用した規制液面方式ステレオリソグラフィ装置(DigitalWax 029D)により、上記(2)の場合と同じ条件下で、ISO527−2およびISO178に準拠した引張特性および曲げ特性測定用のダンベルおよび試験バーを作製し、その後、株式会社島津製作所により製造された測定装置(AutoGraph AG−XPIus)を使って、ISO527−2およびISO178に従って引張特性および曲げ特性を測定した。
【0108】
同じようにして、同様にISO180に準拠して試験バーを作製した後、衝撃強度特性を、Galdabiniにより製造された測定装置(Impact150)を使ってISO180に従って測定した。高分子計器株式会社により製造されたASKER、Model Dを使って、表面硬さをショアD硬さとして測定した。結果を表1に示す。
【0109】
実施例4
(1)20.0gの架橋性オリゴマーおよびメタクリル変性ポリロタキサンの混合物(アドバンスト・ソフトマテリアルズ株式会社により製造された「SeRM Key Mixture SM1310C」)、80.0gの、1モルの2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートと2モルの2−ヒドロキシエチルメタクリレートとの反応により得られた、式「CH
2=C(CH
3)−CO−O−CH
2CH
2−O−CO−NH−[CH
2C(CH
3)
2CH
2CH(CH
3)CH
2CH
2]−NH−CO−O−CH
2CH
2−O−CO−(CH
3)C=CH
2」で表されるウレタンジメタクリレート(新中村化学工業株式会社により製造された「U−2TH」)、20gのトリエチレングリコールジメタクリレート(新中村化学工業株式会社により製造された「NK−3G」)および1.2gの2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド(BASF Corporationにより製造された、「Irgacure TPO」、感光性ラジカル重合開始剤)を混合し、続けて、撹拌し、液体光硬化性樹脂を調製し、その後、混合物を60.0gのメタクリルシラン処理シリカ粉末(株式会社アドマテックスにより製造された、「アドマファインSO−C1」、0.25μmの平均粒径)と混合して液体光硬化性樹脂組成物を調製した。B型粘度計(Brookfield Engineering Laboratories,Inc.により製造された「DV−E」)を使って、上記で得られた光硬化性樹脂組成物の粘度を25℃で測定した。結果は、7,620mPa・sであった。
(2)上記(1)で得られた液体光硬化性樹脂組成物を使って、実施例1、(2)で使用した、同じ規制液面方式ステレオリソグラフィ装置により、実施例1、(2)と同じ条件下で、光造形を行い、3つの本歯用の人工歯(13.1mmの高さ)を35分間にわたり作製した。
(3)上記(2)で得られた人工歯から支持部材を除去し、エタノールで洗浄後、後露光デバイス(DWS SRLにより製造された、後露光デバイス「UV硬化ユニットS2」)を使って20分間さらに後露光を行った後、表面を簡単に研削および研磨して、人工歯を作製し、この人工歯を仮歯として患者に使用した。
(4)上記(1)で得られた液体光硬化性樹脂組成物を使って、上記(2)で使用した規制液面方式ステレオリソグラフィ装置(DigitalWax 029D)により、上記(2)の場合と同じ条件下で、ISO527−2およびISO178に準拠した引張特性および曲げ特性測定用のダンベルおよび試験バーを作製し、その後、株式会社島津製作所により製造された測定装置(AutoGraph AG−XPIus)を使って、ISO527−2およびISO178に従って引張特性および曲げ特性を測定した。
【0110】
同じようにして、同様にISO180に準拠して試験バーを作製した後、衝撃強度特性を、Galdabiniにより製造された測定装置(Impact150)を使ってISO180に従って測定した。高分子計器株式会社により製造されたASKER、Model Dを使って、表面硬さをショアD硬さとして測定した。結果を表1に示す。
【0111】
比較例1
(1)80.0gの、1モルの2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートと2モルの2−ヒドロキシエチルメタクリレートとの反応により得られた、式「CH
2=C(CH
3)−CO−O−CH
2CH
2−O−CO−NH−[CH
2C(CH
3)
2CH
2CH(CH
3)CH
2CH
2]−NH−CO−O−CH
2CH
2−O−CO−(CH
3)C=CH
2」で表されるウレタンジメタクリレート(新中村化学工業株式会社により製造された「U−2TH」)、20gのトリエチレングリコールジメタクリレート(新中村化学工業株式会社により製造された「NK−3G」)および1.0gの2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド(BASF Corporationにより製造された、「Irgacure TPO」、感光性ラジカル重合開始剤)を混合し、続けて、撹拌し、液体光硬化性樹脂組成物を調製した。B型粘度計(Brookfield Engineering Laboratories,Inc.により製造された「DV−E」)を使って、上記で得られた光硬化性樹脂組成物の粘度を25℃で測定した。結果は、750mPa・sであった。
(2)上記(1)で得られた液体光硬化性樹脂組成物を使って、実施例1、(2)および(3)と同様にして3次元物体を作製し、その後、実施例1、(2)および(3)と同様にして種々の物理的性質を測定し、表1に示す結果を得た。
【0112】
比較例2
(1)80.0gの、1モルの2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートと2モルの2−ヒドロキシエチルメタクリレートとの反応により得られた、式「CH
2=C(CH
3)−CO−O−CH
2CH
2−O−CO−NH−[CH
2C(CH
3)
2CH
2CH(CH
3)CH
2CH
2]−NH−CO−O−CH
2CH
2−O−CO−(CH
3)C=CH
2」で表されるウレタンジメタクリレート(新中村化学工業株式会社により製造された「U−2TH」)、20gのトリエチレングリコールジメタクリレート(新中村化学工業株式会社により製造された「NK−3G」)および1.0gの2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド(BASF Corporationにより製造された、「Irgacure TPO」、感光性ラジカル重合開始剤)を混合し、続けて、撹拌し、液体光硬化性樹脂を調製し、その後、混合物を60.0gのメタクリルシラン処理シリカ粉末(株式会社アドマテックスにより製造された、「アドマファインSO−C1」、0.25μmの平均粒径)と混合して液体光硬化性樹脂組成物を調製した。B型粘度計(Brookfield Engineering Laboratories,Inc.により製造された「DV−E」)を使って、上記で得られた光硬化性樹脂組成物の粘度を25℃で測定した。結果は、1,360mPa・sであった。
(2)上記(1)で得られた液体光硬化性樹脂組成物を使って、実施例1、(2)および(3)と同様にして3次元物体を作製し、その後、実施例1、(2)および(3)と同様にして種々の物理学的性質を測定し、下表1に示す結果を得た。
【0114】
表1の結果により示されるように、実施例1〜4で得られた造形物は、それらの十分な表面硬さ、引張強度、引張弾性率、曲げ弾性率および曲げ強度、ならびにそれらの高靱性を有するため、人工歯またはプロトタイプとして効果的に使用可能である。
【0115】
歯科用光硬化性樹脂組成物の上面から、これまで広く用いられてきた光造形法に従って光を照射して人工歯を作製すると、短い光造形時間で実用的な人工歯を作製することができない。
【0116】
本発明は広範な工業的適用性を有する。3次元物体を製造し、本発明による樹脂組成物を使用するための本発明の方法に従えば、審美性、硬さ、強度、機能性、フィット性などに優れた3次元物体、例えば、人工歯を、特別な技能を必要とせずに、短時間で、容易に、かつ円滑に製造することが可能となる。
【0117】
実施時には、この方法、光硬化性樹脂組成物および発明の主題である立体物品は、さらなる改変を受けることができ、本明細書に記載されていない変形実施形態を得ることができる。 前記修正または変形は、以下に示す特許請求の範囲に含まれる限り、本特許によって保護されているとみなされなければならない。