(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6424076
(24)【登録日】2018年10月26日
(45)【発行日】2018年11月14日
(54)【発明の名称】圧電振動子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H03H 3/02 20060101AFI20181105BHJP
【FI】
H03H3/02 C
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-241025(P2014-241025)
(22)【出願日】2014年11月28日
(65)【公開番号】特開2016-103741(P2016-103741A)
(43)【公開日】2016年6月2日
【審査請求日】2017年7月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000166948
【氏名又は名称】シチズンファインデバイス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(72)【発明者】
【氏名】井口 康博
【審査官】
竹内 亨
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−062793(JP,A)
【文献】
特開2003−192500(JP,A)
【文献】
特開平03−209822(JP,A)
【文献】
特開2003−198302(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 3/00−3/10
H03H 9/00−9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電振動片が形成された圧電基板の表面に金属膜を形成する工程と、
前記金属膜の表面にレジスト膜を形成する工程と、
前記レジスト膜を所定の形状にパターニングしてレジストパターンを形成する工程と、
前記レジストパターンをマスクとして前記金属膜をエッチングする工程と、
を有する圧電振動子の製造方法において、
前記圧電基板の表面において前記金属膜のエッチングレートが異なる第1の領域と
第2の領域を特定する工程と、
前記第1の領域のエッチングレートと前記第2の領域のエッチングレートの差に
基づいて前記の第1の領域および前記第2の領域のレジストパターンの形状を決定とする工程と、
を有することを特徴とする圧電振動子の製造方法。
【請求項2】
前記第1の領域のエッチングレートより前記第2の領域のエッチングレートが速いことを特徴とする請求項1記載の圧電振動子の製造方法。
【請求項3】
前記第2の領域は前記圧電振動片が形成される製品領域を含み、
前記第1の領域は前記圧電振動片が形成されない非製品領域を含むことを特徴とする請求項1または2記載の圧電振動子の製造方法。
【請求項4】
前記第1の領域は前記製品領域を含まないことを特徴とする請求項3記載の圧電振動子の製造方法。
【請求項5】
前記圧電基板は前記圧電基板を整列させる仕切り材を有するバスケットに収納され、
前記第1の領域は前記仕切り材に隣接する領域で、
前記第2の領域は前記仕切り材に隣接しない領域で、
あることを特徴とする請求項1〜4のいずれかひとつに記載の圧電振動子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電振動子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年電子機器の軽薄小型により電子機器を構成する部品は軽薄小型化の要求が強い。電子機器を構成する部品の一つである圧電振動子は、フォトリソグラフィ技術を利用して圧電振動片の軽薄小型化を行っている。
【0003】
図1は、フォトリソグラフィ技術を利用した圧電基板の上面図である。圧電基板1は、圧電振動片2と圧電振動片2を保持するための枠部5と圧電振動片2と枠部5を連結するための連結部6とで構成されている。圧電振動片2には励振電極3と引出電極4が形成され、枠部5にはテストパターン7が形成されている。また、圧電振動子のコスト競争に伴い圧電基板1より多くの圧電振動片2を作るため、圧電基板1の全領域を有効に活用している。
【0004】
図2(a)〜(f)は、圧電振動片に励振電極を形成する工程を説明する図であり、圧電振動片の断面図(
図1のA−A断面)である。
図2(a)は、金属膜を形成する前の圧電振動片の断面図で、
図2(b)は、第1の金属膜と第2の金属膜とを形成した圧電振動片の断面図で、
図2(c)は、第1のレジスト層と第2のレジスト層とを形成した圧電振動片の断面図で、
図2(d)は、第1のレジストパターンと第2のレジストパターンとを形成した圧電振動片の断面図で、
図2(e)は、レジストパターンの開口部に露出している金属膜をエッチングした圧電振動片の断面図で、
図2(f)は、レジストパターンを除去して励振電極を形成した圧電振動片の断面図である。
図3は、圧電基板をバスケットに収納した図であって(a)は上面図、(b)は断面図である。
【0005】
図1に示すように、圧電基板1には、フォトリソグラフィ技術などを用いて複数の圧電振動片2が形成されている。
【0006】
図2(b)に示すように、圧電振動片2に蒸着またはスパッタリングによって、第1の金属膜11と第2の金属膜12を形成する。第1の金属膜11と第2の金属膜12は下地層と表面層からなり、下地層の金属膜としてクロム(Cr)膜を500Å程度形成し、表面層の金属膜として金(Au)を800Å程度積層し形成する。
【0007】
図2(c)に示すように、圧電振動片2の第1の金属膜11と第2の金属膜12の表面層上にスプレーコート法などによって、レジストを塗布し第1の金属膜11の表面層上に第1のレジスト層13と、第2の金属膜12の表面層上に第2のレジスト層14を形成する。
【0008】
圧電振動片2の第1のレジスト層13と第2のレジスト14層にフォトマスクを用いてレジストパターンを露光後、現像し不要なレジスト層を除去し、
図2(d)に示すように、第1のレジストパターン15と、第2のレジストパターン16を形成する。
【0009】
圧電振動片2の第1のレジストパターン15の開口部に露出している第1の金属膜11と第2のレジストパターン16の開口部に露出している第2の金属膜12をエッチングするために、バスケット30に複数枚の圧電基板1を互いに隔てて収納して、バスケット30をエッチング液に浸漬して、
図2(e)に示すように、第1の金属膜11と第2の金属膜12をそれぞれエッチングする。このとき、各圧電基板1は、
図3に示すように、バスケット30に形成された両端部仕切り材31に仕切られて起立した状態で収納されている。圧電基板1を収納するバスケット30の材料として、テフロン(登録商標)等の耐蝕性材料が用いられる。
【0010】
金属膜をエッチングする溶液として、金(Au)はヨウ素とヨウ化カリウムとの混合液を用い、クロム(Cr)は硝酸第2セリウムアンモニウム溶液を用いる。
【0011】
最後に圧電振動片2の表面上の第1のレジストパターン15と第2のレジストパターン16を除去することによって、
図2(f)に示すように、圧電振動片2に励振電極3が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−310642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前述した圧電基板上の金属膜をエッチングする工程では、生産性を高めるためにバスケット30に複数枚の圧電基板1を収納して圧電基板上の金属膜のエッチングを行っている。
図4は、圧電基板1(圧電振動片2等は不図示)をバスケット30に収納し圧電基板1と両端部仕切り材31との関係を表した側断面図である。バスケット30には圧電基板1を互いに隔てて収納させるために両端部仕切り材31により仕切ることによって、各圧電基板同士が貼りつくことなく金属膜のエッチングを行うことができるが、圧電基板1と両端部仕切り材31が隣接する領域は、圧電基板1と両端部仕切り材31との間隔が狭いためエッチング液の流れは少ない。圧電基板1に両端部仕切り材31が隣接しない領域はエッチング液の流れは多い。
【0014】
すなわち、圧電基板1と両端部仕切り材31が隣接する領域と圧電基板1と両端部仕切り材31が隣接しない領域のエッチング液の流れが異なることにより、エッチングレートも異なり均一なエッチングが出来ない。
【0015】
バスケット30に形成された両端部仕切り材31に隣接する圧電基板1の領域を第1の領域41(ハッチング部)とする。(
図4)第1の領域41は、エッチング液の流れが少なく金属膜残り19が発生しやすい領域で、
図7に示すように、枠部5に形成されたテストパターン7近傍に金属膜残り19が発生し、均一なエッチングが出来ない。テストパターン7近傍に金属膜残り19が発生した例を示したが、金属膜残り19はこの箇所だけに発生するわけではない。
【0016】
バスケット30に形成された両端部仕切り材31が圧電基板1に隣接しない領域は第2の領域42である。(
図4)第2の領域42はエッチング液の流れが多く金属膜残り19が発生しない領域である。第1の領域41のエッチング液の流れを良くするために、バスケット30に形成された両端部仕切り材31と圧電基板1との間隔を広げると、エッチング液の流れは良くなるが、バスケット内に収納できる圧電基板1の枚数が少なくなるため生産性が悪くなる。
【0017】
本発明の目的はエッチングレートに合わせたエッチング面積にすることで、圧電基板上の金属膜を均一なエッチングを行う方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
圧電振動片が形成された圧電基板の表面に金属膜を形成する工程と、金属膜の表面層上にレジスト膜を形成する工程と、レジスト膜を所定の形状にパターニングしてレジストパターンを形成する工程と、レジストパターンをマスクとして金属膜をエッチングする工程を有する圧電振動子の製造方法において、圧電基板の表面において金属膜のエッチングレートが異なる第1の領域と第2の領域を特定する工程と、第1の領域のエッチングレートと第2の領域のエッチングレートの差に基づいて第1の領域および第2の領域のレジストパターンの形状を決定する工程を有する圧電振動子の製造方法とする。これによれば、エッチングレートの差に基づきレジストパターンを形成するため、圧電基板上の金属膜は均一にエッチングされる。
【0019】
第1の領域のエッチングレートより第2の領域のエッチングレートが速い圧電振動子の製造方法とする。
【0020】
第2の領域は圧電振動片が形成される製品領域を含み、第1の領域は圧電振動片が形成されない非製品領域を含む圧電振動片の製造方法とする。
【0021】
第1の領域は製品領域を含まない圧電振動子の製造方法とする。
【0022】
圧電基板を整列させる両端部仕切り材を有するバスケットに収納され、第1の領域は両端部仕切り材に隣接する領域で、第2の領域は両端部仕切り材に隣接しない領域である圧電振動子の製造方法とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、圧電基板の金属膜を均一なエッチングを行う方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】フォトリソグラフィ技術を利用した圧電基板の上面図。
【
図2】圧電振動片に励振電極を形成する工程を説明する図。
【
図4】圧電基板とバスケットの両端部仕切り材部との関係を表した側断面図。
【
図5】厚みすべり振動片を形成した圧電基板の上面図。
【
図6】本発明における厚みすべり振動片近傍の拡大図。
【
図7】従来の金属膜残りを説明する圧電振動片近傍の拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に本発明を実施するための最良の形態について図面を用いて説明する。
【0026】
本実施例では、水晶からなる厚みすべり振動子の製造方法について説明する。
図5は、厚みすべり振動片を形成した圧電基板の上面図である。なお本発明の範囲は以下の実施の形態に限定されるものでなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。また図面においては各構成をわかりやすくするために、実際の構造と各構造における縮尺や数等を異ならせる場合がある。
【0027】
厚みすべり振動片2aは矩形形状であり、励振する主振動の振動モードが厚みすべり振動であり小型化、高周波数化に適している。
【0028】
テストパターン7は厚みすべり振動片2aに備えられている引出電極4と接続しており(不図示)厚みすべり振動片2aの周波数等の特性を確認するため、測定装置のプローブピンを当接させるパターンとして使用される。テストパターンが所定の形状にならないと、周波数等の特性を確認することができない。
【0029】
先ずは、圧電基板1とバスケット30の両端部仕切り材31が隣接する第1の領域41と圧電基板1とバスケット30の両端部仕切り材31が隣接しない第2の領域42のエッチングレートの算出を行う。(
図4)
【0030】
エッチングレートの算出は、ダミー圧電基板に下地層と表面層からなる金属膜を形成し、所定のレジストパターンを形成後バスケット30にダミー圧電基板を収納してバスケット30をエッチング液に浸漬して金属膜のエッチングを行う。金属膜エッチング後、第1の領域41と第2の領域42の金属膜のエッチング面積よりエッチングレートを算出する。前述したように第1の領域41はエッチング液の流れが少ないために、エッチング液の流れが多い第2の領域42に比べエッチングレートが遅い。
【0031】
図5に示すように圧電基板1に形成された厚みすべり振動片2aと枠部5と連結部6には下地層と表面層からなる金属膜17(不図示)が形成され、金属膜17の表面層上に、算出したエッチングレートに基づきレジストパターン18(不図示)が形成される。なお説明の便宜上圧電基板1の片方の面のみの説明とし従来と同様のプロセスの説明は省略する。
【0032】
図6は、厚みすべり振動片近傍の拡大図であり、
図6(a)は、第1の領域の厚みすべり振動片近傍に形成されたレジストパターンの拡大図で、
図6(b)は、第2の領域の厚みすべり振動片近傍に形成されたレジストパターンの拡大図で、
図6(c)は、電極形成後の第1の領域の厚みすべり振動片近傍の拡大図で、
図6(d)は、電極形成後の第2の領域の厚みすべり振動片近傍の拡大図である。
【0033】
図6(a)、
図6(b)に示すように、厚みすべり振動片2aと枠部5と連結部6の表面には下地層と表面層からなる金属膜17が形成され、金属膜17の表面に励振電極3と引出電極4用のレジストパターン18aと枠部5に形成されたテストパターン7用のレジストパターン18bが形成され、第1の領域41と第2の領域42の励振電極3と引出電極4とテストパターン7のレジストパターン面積の差はない。
【0034】
図6(a)に示すように、第1の領域41の枠部5に形成されたテストパターン7の周辺部には調整用パターン20用のレジストパターン18cが形成されているが、
図6(b)に示されるように、第2の領域42の枠部5に形成されたテストパターン7の周辺部には調整用パターン20はない。これはエッチングレートの差に基づきレジストパターンを形成しためであり、第1の領域41のレジストパターン面積を第2の領域42のレジストパターン面積より狭くすることで、金属膜17は均一にエッチングされる。
【0035】
次に圧電基板1をバスケット30に収納しバスケット30をエッチング液に浸漬して金属膜17のエッチングを行い、レジストパターン18a、18b、18cを除去することによって、第1の領域41では、
図6(c)に示すように、厚みすべり振動片2aには励振電極3と引出電極4が形成され、枠部5にはテストパターン7と調整用パターン20が形成され、第2の領域42では、
図6(d)に示すように、厚みすべり振動片2aには励振電極3と引出電極4を枠部5にはテストパターン7が形成される。
【0036】
図6(c)と
図6(d)に示すように、厚みすべり振動片2aに形成された励振電極3と引出電極4の形状と枠部5に形成されたテストパターン7の形状は、第1の領域41と第2の領域42で差はない。
【0037】
第1の領域41の枠部5にはテストパターン7と調整用パターン20が形成されるが、第2の領域42の枠部5にはテストパターン7が形成されるが、調整用パターン20は形成されない。これはエッチングレートに基づきレジストパターンを形成したためであり、これにより金属膜残りが発生しやすい第1の領域41での金属膜残りをなくすことができる。
【0038】
上記実施形態は厚みすべり振動片を例示したが、音叉型圧電振動片等にも適用できる。
【符号の説明】
【0039】
1 圧電基板
2 圧電振動片
2a 厚みすべり振動片
3 励振電極
4 引出電極
5 枠部
6 連結部
7 テストパターン
11 第1の金属膜
12 第2の金属膜
13 第1のレジスト層
14 第2のレジスト層
15 第1のレジストパターン
16 第2のレジストパターン
17 金属膜
18 レジストパターン
18a 励振電極と引出電極用のレジストパターン
18b テストパターン用のレジストパターン
18c 調整用パターン用のレジストパターン
19 金属膜残り
20 調整用パターン
30 バスケット
31 両端部仕切り材
41 第1の領域
42 第2の領域