(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の車両用引出装置では、ねじりコイルばねのコイル部分がねじり変形により軸方向に揺動するため、引出しと筐体との間のクリアランスを大きく取る必要があり、スペースに無駄が生じていた。
【0005】
本発明は、引出しと引出収容部との間のクリアランスを小さくすることが可能な車両用引出装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためになされた請求項1の発明は、車両内の引出収容部に対して出入する引出しと、前記引出しと前記引出収容部との間に挟まれて、それら引出しと引出収容部とを前記引出しの出入方向と交差する方向に連結し、前記引出しの出入に際して、前記引出しとの連結部位が前記引出収容部との連結部位の側方を通過するときに、それら連結部位同士の間隔が短くなって弾性変形するアシストばねと、を有する車両用引出装置において、前記アシストばねは、円の一部を切り欠いた形状の開ループ部と、前記開ループ部のうち切り欠き部を挟んで対向する両端部から対をなして延設され、一方が前記引出しに連結し、他方が前記引出収容部に連結する1対の連結アームと、で構成され、前記開ループ部には、径方向の外側又は内側に突出するループ突部が形成され
、前記1対の連結アームは、前記切り欠き部に対して前記開ループ部の中心と反対側に位置して前記切り欠き部側が狭まるハの字状に配置され、前記開ループ部が前記切り欠き部を閉じるように弾性変形したときに互いに当接する1対の対向当接部を有している車両用引出装置である。
【0007】
請求項2の発明は、前記ループ突部は、前記開ループ部の周方向における中央部に配置されている請求項1に記載の車両用引出装置である。
【0008】
請求項3の発明は、前記ループ突部は、前記開ループ部を周方向に等分するように複数配置されている請求項1又は2に記載の車両用引出装置である。
【0010】
請求項
4の発明は、前記1対の連結アームは、前記開ループ部の両端部から直線状に延びた1対の基端直線部と、前記1対の基端直線部の前記開ループ部と反対側の端部から互いに離れるように直線状に延びた1対の先端直線部と、を備え、前記1対の対向当接部は、前記1対の基端直線部によって構成された請求項
1乃至3のうち何れか1の請求項に記載の車両用引出装置である。
【0011】
請求項
5の発明は、前記1対の連結アームは、前記切り欠き部側が狭まるハの字状に配置され、前記1対の連結アームにおける前記引出しとの連結部位又は前記引出収容部との連結部位は、前記1対の連結アームの対向方向の外側に開口したC字形状のスナップリングで構成された請求項1乃至
4のうち何れか1の請求項に記載の車両用引出装置である。
【0012】
請求項
6の発明は、前記アシストばねは、前記引出しの幅方向に対をなして配置され、前記アシストばねの前記引出しとの連結部位は、その可動ストロークの中央位置より後側で、前記引出収容部との連結部位との間隔が最も短くなるように配置された請求項1乃至
5のうち何れか1の請求項に記載の車両用引出装置である。
【0013】
請求項
7の発明は、前記アシストばねは、樹脂製であることを特徴とする請求項1乃至
6のうち何れか1の請求項に記載の車両用引出装置である。
【発明の効果】
【0014】
[請求項1,
7の発明]
請求項1の発明では、アシストばねが、円の一部を切り欠いた形状の開ループ部と、開ループ部の両端部から延設されて、一方が引出しに連結し、他方が引出収容部に連結する1対の連結アームと、で構成されている。即ち、本発明のアシストばねは、ねじりコイルばねのループ部分の巻き数が1周未満となった構造になっている。本発明によれば、ねじりコイルばねを用いた従来の車両用引出装置と比較して、アシストばねをループの軸方向に薄くすることが可能となる。また、コイル状の部分が無いため、アシストばねが弾性変形する際に、コイル状部分がコイル軸方向に揺動することも低減できる。そのため、引出しと引出収容部との間のクリアランスを小さくすることが可能となる。ここで、開ループ部は、ねじりコイルばねのループ部分よりも強度が低下するため、開ループ部に応力が集中したときのアシストばねの破損が問題となり得る。しかしながら、本発明では、開ループ部に形成されたループ突部によって、開ループ部にかかる応力を低減させることが可能となり、アシストばねの破損を抑制することが可能となる。
【0015】
なお、アシストばねは、金属製であってもよいし、請求項
7の発明のように、樹脂製であってもよい。請求項
7の発明によれば、射出成形によって、アシストばねを容易に製造することが可能となる。
【0016】
[請求項2の発明]
請求項2の発明によれば、開ループ部のうち応力が集中し易い中央部にループ突部が配置されているので、開ループ部にかかる応力を効率よく低減させることが可能となる。
【0017】
[請求項3の発明]
請求項3の発明によれば、開ループ部にかかる応力を、周方向で均等に低減させることが可能となる。
【0019】
[請求項
4の発明]
請求項
4の発明によれば、1対の対向当接部が直線状に構成されているので、1対の対向当接部が点状に構成されている場合と比較して、1対の対向当接部同士を当接させ易くすることが可能となる。
【0020】
[請求項
5の発明]
請求項
5の発明によれば、1対の連結アームにおける引出しとの連結部位又は引出収容部との連結部位が、C字形状のスナップリングで構成されているので、引出し又は引出収容部とアシストばねとを容易に連結することが可能となる。しかも、スナップリングは、開ループ部の両端部の対向方向で外側に開口しているので、開ループ部が弾性変形したときに、連結アームが開ループ部から受ける力がスナップ部の開口側を向くようになり、開ループ部の弾性変形時にスナップリングを外れ難くすることが可能となる。
【0021】
[請求項
6の発明]
請求項
6の発明では、アシストばねにおける引出し及び引出収容部の連結部位同士の間隔は、引出しとの連結部位が、その可動ストロークの中央位置より後側に位置するときに、最も短くなる。本発明によれば、引出しが引出収容部に収容された全閉位置に配置された状態でアシストばねが引出しを幅方向に付勢する力を大きくすることが可能となる。これにより、全閉位置に配置された引出しの幅方向のがたつきを抑制することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態を
図1〜
図13に基づいて説明する。
図1には、車両90のインストルメントパネル91が示されている。インストルメントパネル91の上部には、計器類表示窓92が備えられている。そして、インストルメントパネル91の助手席側の下部(具体的には、助手席の着座者の膝下に位置する部分)に、本実施形態に係る車両用引出装置10(以下、単に、引出装置10という。)が設けられている。
【0024】
図2に示すように、引出装置10は、前方に開口したアウターケース11と、アウターケース11内に収容される引出し13とで構成されている。引出し13は、ケース部14Aの前端部に取手部14Bが取り付けられた構造になっていて、取手部14Bには、前方に開口した指掛け凹部15が形成されている。なお、本実施形態では、アウターケース11が本発明の「引出収容部」に相当する。
【0025】
図3に示すように、インストルメントパネル91には、車室側に開口した収容空間91Sが形成されていて、アウターケース11は、収容空間91S内に収容された状態でインストルメントパネル91に固定されている。そして、アウターケース11内に引出し13が収容された状態で、引出し13が収容空間91Sの開口91A(
図1参照)を閉塞している。なお、この状態で、引出し13の前面13Fは、インストルメントパネル91の前面91Mと略面一になっている。
【0026】
図2に示すように、アウターケース11の側壁11Sと、引出し13の側壁13Sとには、アウターケース11に対して引出し13を前後方向にスライド可能とする引出スライド機構20が備えられている。これにより、引出し13は、アウターケース11に対して出入され、引出し13のケース部14A全体がアウターケース11内に収まった全閉位置(
図3参照)と、ケース部14Aの大部分がアウターケース11の前面開口11Aから突出した全開位置(
図2参照)とに配置される。
【0027】
ここで、本実施形態の引出装置10には、引出し13の出入をアシストする合成樹脂製のアシストばね50が備えられている。具体的には、アシストばね50は、
図3及び
図5に示すように、引出し13の底壁13Bとアウターケース11の底壁11Bとの間の隙間に引出し13の幅方向で対をなすように配置され、引出し13とアウターケース11とを連結する。以下、アシストばね50の構成について説明する。
【0028】
図4(A)及び
図4(B)に示すように、アシストばね50は、円の一部を切り欠いた略円弧形状の開ループ部51と、開ループ部51のうち切り欠き部52を挟んで対向するループ端部51T,51Tから延設された1対の連結アーム55,55と、で構成されている。1対の連結アーム55,55は、切り欠き部52に対して開ループ部51の中心と反対側に位置し、切り欠き部52側が狭まるハの字状に配置されている。
【0029】
図4(B)に示すように、1対の連結アーム55,55は、ループ端部51Tから離れた側が互いに離れるように、ループ端部51T側で屈曲した構造になっている。そして、1対の連結アーム55,55のうちループ端部51T側に位置する1対の基端直線部56,56の延長線L1,L1がなす角度αは、ループ端部51Tから離れた側に位置する1対の先端直線部57,57の延長線L2,L2がなす角度βよりも小さくなっている。
【0030】
1対の連結アーム55,55のうち一方の連結アーム55の先端部には、連結アーム55,55の対向方向の外側に開口したスナップリング58が形成されている。また、他方の連結アーム55の先端部には、連結孔59が貫通形成されている。
図5に示すように、連結孔59には、アウターケース11の底壁11Bから上方に突出したケース側支軸11J(
図3参照)が挿通される。また、スナップリング58は、引出し13の底壁13Bから下方に突出した引出側支軸13J(
図3参照)に外側から嵌合する。なお、以下では、スナップリング58を備えた連結アーム55を第1連結アーム55Aと、連結孔59を備えた連結アーム55を第2連結アーム55Bと、称して、1対の連結アーム55,55を適宜区別することにする。
【0031】
ところで、
図4(B)に示すように、本実施形態のアシストばね50では、開ループ部51に、径方向に突出するループ突部53が備えられている。同図の例では、3つのループ突部53が、開ループ部51を周方向に等分するように配置されている。それら3つのループ突部53は全て、径方向の外側に向かって突出している。
【0032】
図9(A)〜
図9(C)には、
図4(B)の例とは、ループ突部53の数、向き又は配置が異なった別のアシストばね50の例が示されている。
図9(A)の例では、径方向の外側に突出したループ突部53が、開ループ部51の周方向の中央部に1つだけ備えられている。
図9(B)の例では、径方向の外側に突出したループ突部53が2つ備えられている。それら2つのループ突部53は、ループ端部51T,51Tと同様に、切り欠き部52を挟むように対向配置されている。
図9(C)の例では、径方向の外側に突出したループ突部53が5つ備えられている。それら5つのループ突部53は、開ループ部51のうち切り欠き部52と対向する部分に等間隔に配置され、真ん中のループ突部53は、開ループ部51の周方向の中央部に配置されている。
【0033】
アシストばね50の構成に関する説明は以上である。次に、アシストばね50の作用、即ち、アシストばね50による引出し13の出入のアシストについて説明する。なお、以下では、引出し13の全開位置側を前側と、全閉位置側を後側と、適宜、呼ぶことにする。
【0034】
図5には、引出し13が全閉位置に配置されたときのアシストばね50が示されている。アシストばね50は、開ループ部51を前側にして、引出し13のケース部14Aとアウターケース11とを引出し13の幅方向に連結している。具体的には、ケース側支軸11Jは、アウターケース11の幅方向の中央部に対をなして横並びに配置され、引出側支軸13Jは、引出し13が全閉位置に配置された状態で、ケース側支軸11Jの斜め後方に配置されている。アシストばね50の開ループ部51は、引出し13の幅方向でケース側支軸11Jと引出側支軸13Jとの間に挟まれ、切り欠き部52を後側に向けた状態でケース側支軸11Jよりも前側に配置されている。そして、第2連結アーム55Bの連結孔59にケース側支軸11Jが挿通されると共に、第1連結アーム55Aのスナップリング58が引出側支軸13Jと嵌合している。
【0035】
ここで、本実施形態では、引出し13が全閉位置に配置された状態で、アシストばね50の開ループ部51は、切り欠き部52を挟むループ端部51T,51Tが互いに近づくように弾性変形されている。従って、引出し13は、アシストばね50,50によって後方に付勢される。なお、詳細には、各アシストばね50は、引出し13を斜め後方に付勢するが、1対のアシストばね50,50が左右対称に配置されているので、それら1対のアシストばね50,50の付勢力は、引出し13の幅方向で相殺される。
【0036】
引出し13が全閉位置から前方に引き出されると、
図5から
図6への変化に示すように、引出側支軸13Jがケース側支軸11Jの真横に配置される。このとき、アシストばね50の開ループ部51は切り欠き部52を閉じるように弾性変形し、ループ端部51T,51T同士が互いに接近する。1対の連結アーム55,55においては、1対の基端直線部56,56が互いに当接し、1対の先端直線部57,57が基端直線部56との連絡部分を支点として先端部が互いに接近するように曲げ変形される(
図13参照)。このとき、各アシストばね50,50から引出し13が受ける力は、引出し13の幅方向を向く。なお、本実施形態では、1対の基端直線部56,56によって本発明の「1対の対向当接部」が構成されている。
【0037】
図7には、引出し13が全開位置に配置されたときのアシストばね50が示されている。引出し13が全開位置に配置された状態で、引出側支軸13Jはケース側支軸11Jの斜め前方に配置される。各アシストばね50は、切り欠き部52が引出し13の幅方向の外側を向くように配置されている。また、アシストばね50の開ループ部51は、ループ端部51T,51T同士が離れた状態になっているものの、切り欠き部52を閉じるように弾性変形されている。従って、引出し13は、アシストばね50,50によって前方に付勢されている。
【0038】
上述したように、本実施形態の引出装置10では、引出し13が
図6に示す位置に配置されると、ケース側支軸11Jと引出側支軸13Jとが最も接近し、アシストばね50,50が引出し13を横方向(引出し13の幅方向)に付勢する。
図6に示した引出し13の位置を中立位置と呼ぶことにすると、アシストばね50,50は、引出し13が中立位置より後側に配置されると、引出し13を後側(全閉位置側)へと付勢し、引出し13が中立位置より前側に配置されると、引出し13を前側(全開位置側)へと付勢する。このように、本実施形態の引出装置10では、引出し13が開操作される場合には、引出し13が中立位置よりも前方に引き出されると、アシストばね50,50によって全開位置へと付勢され、引出し13が閉操作される場合には、引出し13が中立位置よりも後方に押し込まれると、アシストばね50,50によって全閉位置へと付勢される。
【0039】
なお、
図8に示すように、引出し13が全開位置に配置された状態で、アシストばね50の第1連結アーム55Aを後側に押すと、開ループ部51の切り欠き部52が狭まり、スナップリング58を引出側支軸13Jから外すことが可能となる。そして、この状態で引出し13を前方に引き出すことで、引出し13をアウターケース11から取り外すことが可能となる。引出し13をアウターケース11に取り付ける場合には、逆の操作を行えばよい。このように、本実施形態では、第1連結アーム55Aの引出し13との連結部位をスナップリング58としたので、アシストばね50と引出し13の連結を容易に行うことが可能となる。ここで、スナップリング58は、開ループ部51のループ端部51T,51Tが対向する方向で外側に開口している。従って、開ループ部51が弾性変形したとき、第1連結アーム55Aが開ループ部51から受ける力は、スナップリング58の開口側を向くようになり、開ループ部51の弾性変形時にスナップリング58を外れ難くすることが可能となる。
【0040】
本実施形態の引出装置10の構成に関する説明は以上である。次に、引出装置10の作用効果について説明する。
【0041】
本実施形態の引出装置10では、アシストばね50が、円の一部を切り欠いた形状の開ループ部51と、開ループ部51のループ端部51T,51Tから延設されて、一方が引出し13に連結し、他方がアウターケース11に連結する1対の連結アーム55,55と、で構成されている。即ち、アシストばね50は、ねじりコイルばねのループ部分の巻き数が1周未満となった構造になっている。本実施形態によれば、ねじりコイルばねを用いた従来の車両用引出装置と比較して、アシストばね50をループの軸方向に薄くすることが可能となり、引出し13とアウターケース11との間のクリアランスを小さくすることが可能となる。
【0042】
ここで、開ループ部51は、ねじりコイルばねのループ部分よりも強度が低下するため、開ループ部51に応力が集中したときのアシストばね50の破損が問題となり得る。しかしながら、本実施形態では、開ループ部51に形成されたループ突部53によって、以下、[シミュレーションによる確認実験]で詳説するように、開ループ部51にかかる最大応力を低減させることが可能となる。これにより、アシストばね50の破損を抑制することが可能となる。
【0043】
また、本実施形態の引出装置10では、アシストばね50における引出し13及びアウターケース11の連結部位同士の間隔は、引出し13との連結部位が、その可動ストロークの中央位置より後側に位置するときに、最も短くなる。本実施形態によれば、引出し13が全閉位置に配置された状態でアシストばね50が引出し13を幅方向に付勢する力を大きくすることが可能となり、これにより、全閉位置に配置された引出し13の幅方向のがたつきを抑制することが可能となる。
【0044】
[シミュレーションによる確認実験]
本発明に係るループ突部53の効果を、シミュレーションソフト(LSTC社製のLS−Dyna)を使用して確認した。具体的には、
図10(A)に示すように、アシストばね50における一方の連結アーム55(
図10(A)では、右側の連結アーム55)の先端部の位置を固定する。そして、同図の矢印で示すように、他方の連結アーム55の先端部を一方の連結アーム55の先端部へ向けてΔLだけ変位させた場合の、アシストばね50にかかる応力の最大値σ(以下、最大応力σという。)をシミュレーションした。なお、
図10(A)及び
図9(A)〜
図9(C)に示すアシストばね50を、実験例1〜4とした。また、ループ突部53を有しないアシストばね150(
図10(B)参照)を実験例5とした。なお、
図10(A)及び
図10(B)に示すように、実験例1〜5では、1対の連結アーム55,55は共に、
図4(B)で示した第2連結アーム55B(連結孔59を備えた連結アーム55)と同じ構造になっている。
【0045】
[実験条件]
自然状態における実験例1〜5のアシストばね、即ち、アシストばね50,150の寸法は、以下のように設定した。即ち、アシストばね50,150の肉厚tを2[mm]、開ループ部51の中心軸方向の厚さを10[mm]とし、開ループ部51の半径rを17[mm]とした。また、連結アーム55,55の先端部同士の間隔Lを170[mm]、基端直線部56,56の延長線L1,L1同士のなす角αを55度、先端直線部57,57の延長線L2,L2同士のなす角βを160度とした。また、各アシストばね50,150はポリアセタール樹脂で構成されているとし、シミュレーションにあたって使用した物性値は、曲げ弾性率:2100MPa、引張り強さ:52MPaである。
【0046】
[実験結果]
図11に示すように、実験例1〜5では、何れも、最大応力σは、変位ΔLがゼロから大きくなるにつれて増加し、変位ΔLが50〜60mm付近を超えると一旦減少する。そして、変位ΔLが65〜80mm付近を超えると、再度、増加する。このように、実験例1〜5では、最大応力σは、変位ΔLが50〜70mmとなったときに極大となり、変位ΔLが65〜80mmとなったときに極小となる。ここで、実験例1〜4と実験例5を比較すると、変位ΔLが100mm以下の範囲では、実験例1〜4の方が実験例5よりも最大応力σが小さくなっている。このことから、ループ突部53を備えたアシストばね50では、ループ突部53を備えないアシストばね150よりも、最大応力σが低減されることが分かる。
【0047】
図12(A)には、
図11に示す実験例1のグラフにおける極大点P1での、アシストばね50の開ループ部51周辺の状態が示されている。同図に示すように、開ループ部51は、切り欠き部52を閉じるように弾性変形し、1対の基端直線部56,56の開ループ51側の端部が当接している。極大点P1よりも変位ΔLが小さい範囲での最大応力σの増加は、開ループ部51にかかる応力の増加に起因するものである。
【0048】
極大点P1よりも変位ΔLが大きくなったときに、最大応力σが低減する原因としては、以下のことが考えられる。即ち、
図12(A)に示す状態から変位ΔLが大きくなると、
図12(B)に示すように、1対の基端直線部56,56同士の当接部分が先端直線部57側へ広がっていく。その結果、開ループ部51にかかっていた力が連結アーム55側へと逃げていき、最大応力σが低減したものと推測される。
【0049】
また、
図13には、
図11に示す実験例1のグラフにおける極小点P3での、アシストばね50の状態が示されている。同図に示すように、開ループ部51は、切り欠き部52を閉じるように弾性変形し、1対の連結アーム55,55の基端直線部56,56が長手方向全体に亘って当接している。また、1対の連結アーム55,55の先端直線部57,57は、基端直線部56,56の先端部から互いに離れるように直線状に延びて、V字状に配置されている。極小点P3よりも変位ΔLが大きくなると、
図13の2点鎖線に示すように、先端直線部57,57は、先端部同士が互いに近づくように撓む。その際、開ループ部51はほとんど変形しない。従って、極小点P3より変位ΔLが大きいときの最大応力σの増加は、1対の連結アーム55,55にかかる応力の増加に起因していると考えられる。
【0050】
なお、実験例5のアシストばね150は、本発明の技術的範囲には属さないが、この実験例5においても、連結アーム55,55の基端直線部56,56同士が当接することにより開ループ部51の変形が抑えられる、という効果を奏することが可能となっている。
【0051】
次に、実験例1〜4の間で実験結果を比較すると、変位ΔLが75mm以下の範囲では、実験例3、実験例2、実験例1、実験例4の順に、最大応力σが小さくなる。実験例1,2,4の間では、ループ突部53の数が増加するにつれて、最大応力σが小さくなっている。ここで、開ループ部51にループ突部53を有する実験例1〜4の間では、実験例3、実験例2、実験例1、実験例4の順に、トルク(アシスト力)が小さくなる。従って、アシストばね50によるアシスト力を確保しつつ、アシストばね50の破損を低減するという点では、実験例1が最も好ましい形態であると言える。
【0052】
また、実験例2と実験例3の間を比較すると、実験例2の方が、ループ突部53の数が少ないにもかかわらず、最大応力σが小さくなっている。この理由としては、実験例2では、ループ突部53が、開ループ部51のうち応力が最も集中し易い周方向の中央部に配置されているのに対し(
図9(A)参照)、実験例3では、ループ突部53が、開ループ部51の周方向の中央部を避けて配置されていることが考えられる(
図9(B)参照)。
【0053】
[他の実施形態]
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に説明するような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0054】
(1)上記実施形態では、本発明をグローブボックスに適用した例を示したが、コンソールボックスやその他の小物入れに適用してもよい。
【0055】
(2)上記実施形態の例では、ループ突部53が開ループ部51の径方向の外側に突出していたが、
図14(A)に示すように、径方向の内側に突出していてもよい。また、
図14(B)に示すように、一部のループ突部53が径方向の外側に突出し、残りのループ突部53が内側に突出してもよい。
【0056】
(3)上記実施形態では、アシストばね50は、合成樹脂製であったが、金属製であってもよい。なお、上記実施形態では、射出成形によって、アシストばね50を容易に製造することが可能となる。
【0057】
(4)上記実施形態では、連結アーム55が基端直線部56と先端直線部57とを備えた構成であったが、基端直線部56を備えずに、先端直線部57のみを備えた構成としてもよい。なお、上記実施形態の構成によれば、連結アーム55,55同士の当接部分が直線状となっているので、連結アーム55,55同士を当接させ易くすることが可能となる。
【0059】
(
5)上記実施形態において各アシストばね50の配置を前後反転させてもよいし(
図16(A)参照)、左右反転させてもよい(
図16(B)参照)。なお、
図16(A)及び
図16(B)には、引出し13が全閉位置に配置されたときのアシストばね50が示されている。
図16(A)の例では、アシストばね50は、開ループ部51の切り欠き部52が前方且つ引出し13の幅方向の外側を向くように配置され、
図16(B)の例では、アシストばね50は、開ループ部51の切り欠き部52が後方且つ引出し13の幅方向の外側を向くように配置されている。なお、
図16(A)において、各アシストばね50の配置を左右反転させてもよい。
[参考実施形態]
本発明の技術的範囲には属さないが、上記実施形態と同様の効果を奏することが可能な参考実施形態として、以下の構成のものが挙げられる。
即ち、上記実施形態では、1対の連結アーム55,55は、切り欠き部52に対して開ループ部51の中心と反対側に配置されていたが、図15(A)に示すように、切り欠き部52に対して開ループ部51の中心と同じ側に配置されてもよい。同図の例では、1対の連結アーム55,55は、切り欠き部52側が狭まるハの字状に配置されている。本構成では、図15(A)から図15(B)への変化に示すように、1対の連結アーム55,55の引出し13とアウターケース11との連結部位同士(切り欠き部52から離れた端部同士)が互いに接近すると、開ループ部51がループ端部51T,51Tが離れるように変形する。