(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態の二相冷却装置を説明する前に、比較実施形態の、ポンプを並列の流路にそれぞれ設けることで冗長化した二層冷却装置を、
図9〜11を用いて説明する。
【0013】
図9は、ポンプを並列の流路にそれぞれ設けることで冗長化した二層冷却装置の俯瞰図である。システムボード900に設置された二相冷却装置は、閉ループ系をなしている。二相冷却装置は、蒸発器913と凝縮器909と液分岐タンク907とを有する。
【0014】
凝縮器909は蒸気管918を介して蒸発器913と接続される。液分岐タンク907は、液管908を介して凝縮器909と接続される。
【0015】
比較実施形態の二相冷却装置は、更に逆止弁903、904と、ポンプ901、902とを有する。
【0016】
ポンプ901は、逆止弁903を介して液分岐タンク907に接続され、ポンプ902は逆止弁904を介して液分岐タンク907に接続される。
【0017】
蒸発器913は、液戻管911を介してポンプ901、902に接続される。
【0018】
蒸発器913、蒸気管918、凝縮器909、液管908、液分岐タンク907、逆止弁903、ポンプ901、液戻管911、蒸発器913の順序で第一環状流路が形成される。蒸発器913、蒸気管918、凝縮器909、液管908、液分岐タンク907、逆止弁904、ポンプ902、液戻管911、蒸発器913の順序で第二環状流路が形成される。第一環状流路と第二環状流路によりポンプ901、902が冗長化される。
【0019】
二相冷却装置には作動流体が封入されている。作動流体には、例えば、水やアルコールの他、スリーエム社製FLUORINERT(登録商標)やNOVEC(登録商標)などのフッ素系不活性液体を利用することができる。作動流体の選択は二相冷却装置の用途に応じて、作動流体の沸点や発熱体の熱量に応じて選択する。
【0020】
蒸発器913は発熱部品912と熱的に接続されて配置される。発熱部品912は、例えば、サーバに内蔵されるCPUである。蒸発器913の内部には、気体の作動流体が通過可能で、液体の作動流体を毛細管現象によって吸い上げるウィック(図示せず)が設けられている。ウィックが吸い上げた液体の作動流体は、ウィックの表面で発熱部品912から得た熱によって蒸発(気化)する。発熱部品912は、液体の作動流体に対して潜熱を与えることにより冷却される。
【0021】
凝縮器909は、作動流体が流通する流路の周辺に熱的に接続されたフィン(図示せず)を有している。フィンは、例えば板状のプレートフィンを、流路にそって平行に流路を中心とする放射状に設けたり、板状のプレートフィンを流路に垂直に流路にそって複数配置することが考えられる。このフィンに、冷却ファン910から送風が行われ、作動流体が冷やされる。気体の作動流体が冷やされることで、潜熱が放出され、作動流体は凝縮(液化)する。
【0022】
蒸気管918は、蒸発器913の作動流体の出口と凝縮器909の作動流体の入り口とを連結し、蒸発器913で加熱された作動流体を凝縮器909へと導く。蒸気管918は、銅などの金属を用いて形成することができる。
【0023】
冷却ファン910は、凝縮器909にそって配置される。冷却ファン910は、発熱部品912の発熱量に応じて冷却ファン910そのものの数を増減したり、送風する風量を増減させたりすることで、発熱部品912の温度を一定の値に保つことが可能である。
【0024】
液分岐タンク907は、作動流体の中で凝縮しきれなかった気体の作動流体を分離し、液体の作動流体を流路に残す。凝縮器909の冷却能力を超えて、気体の作動流体が凝縮器909に送られると、気体の作動流体は凝縮器909の中で完全に凝縮されず、気体のまま凝縮器909を出ることになる。気体の作動流体がポンプ901、902に到達すると、ポンプ901、902が空回りし、作動流体を送り出すことができなくなる。したがって、ポンプ901、902に気体の作動流体が送り込まれないよう、ポンプ901、902と凝縮器909の間に液分岐タンク907を設けて、気体の作動流体を分離している。液分岐タンク907は、銅などの金属を用いて形成することができる。
【0025】
液管908は、凝縮器909の作動流体の出口と液分岐タンク907の作動流体の入り口とを連結し、凝縮器909で冷却された作動流体を液分岐タンク907へと導く。液管908は、銅などの金属を用いて形成することができる。
【0026】
ポンプ901、902は、扁平の遠心ポンプである。液分岐タンク907で凝縮した液体の作動流体は、ポンプ901、902内の羽根車919、920の回転によって、蒸発器913へ送られる。この時の作動流体の流れを順流と呼ぶ。一方で、ポンプ901、902の動作が停止し、蒸発器913側から液分岐タンク907へ向かう作動流体の流れを逆流と呼ぶ。第一環状流路と第二環状流路は、ポンプ901とポンプ902が並列になるよう設けられている。二相冷却装置の動作時において、ポンプ901が動作する際は、動作するポンプ901を運用系と呼ぶ。このとき、停止しているポンプ902を待機系と呼ぶ。
【0027】
逆止弁903、904は、液分岐タンク907の作動流体の出口と、ポンプ901、902の吸込口とを連結する。逆止弁903、904は、管状のケースの内側に弁体905、906を有し、ポンプ901、902の吸込口側に弁体905、906を逆止弁903、904内にとどめるための網916、917と、液分岐タンク907側に弁体905、906の直径よりも小さい開口径となるように狭められたテーパ部914、915を有する。運用系のポンプ901が動作しているとき、
図10に示されるように、弁体905は、ポンプ901側の網916に接している。待機系のポンプ902は動作せず、ポンプ901が吐出した液体の作動流体が、液戻管911を経由して待機系のポンプ902に流入し逆流する。逆流した液体の作動流体がそのまま液分岐タンク907に流入すると、液体の作動流体が液分岐タンク907とポンプ901、902の間で循環することとなり、作動流体が二層冷却装置全体に行き渡らず冷却効率が低下する。逆止弁904において、弁体906をテーパ部915に密着させることにより、液体の作動流体の流路が塞がれ、逆流が止められる。
【0028】
液戻管911は、ポンプ901、902の吐出口と蒸発器913の作動流体の入口とを連結し、運用系のポンプ901が吐出した液体の作動流体を蒸発器913に送る。液戻管911は、銅などの金属を用いて形成することができる。
【0029】
図10は、
図9において一点鎖線で囲まれた部分を拡大した俯瞰図であり、二相冷却装置の順流時の動作を示す図である。気体と液体との混合した作動流体は、液管908から液分岐タンク907へ送られる。気体の作動流体は、液分岐タンク907で分離される。液体の作動流体は運用系のポンプ901に吸い上げられる。待機系のポンプ902は動作を停止しており、液分岐タンク907から作動流体を吸い上げることはない。運用系のポンプ901が吸い上げた作動流体は、待機系のポンプ902を経由して液分岐タンク907に向って逆流しようとする。しかし、待機系の逆止弁904において、弁体906がテーパ部915を塞ぐことによって、かかる逆流を防ぐ構成となっている。
【0030】
図11は、
図10において二点鎖線A−A’に沿った高さ方向の断面図であり、二相冷却装置の断面図の一部である。液分岐タンク907は、液管908から気体と液体の混合した作動流体が送られ、そのうちの気体の作動流体を分離し、液体の作動流体をポンプ901側に送り出している。このとき、弁体905はテーパ部914から離れているため弁として作動流体の流路を塞ぐことはない。しかし、弁体905が流路上に存在することによって流路を狭める。さらに、作動流体の中で振動するため作動流体の流路を乱し流速の低下を招いている。
【0031】
以下、第一実施形態の二相冷却装置を
図1〜7を用いて説明する。
【0032】
図1は、本明細書で開示する二相冷却装置の俯瞰図である。システムボード100に設置された二相冷却装置は、閉ループ系をなしている。二相冷却装置は、蒸発器116と凝縮器112と液分岐タンク107、108とを有する。凝縮器112は蒸気管117を介して蒸発器116と接続される。液分岐タンク107、108は、液管111を介して凝縮器112と接続される。
【0033】
第一実施形態の二相冷却装置は、更に逆止弁103、104と、吸着管109、110と、ポンプ101、102とを有する。
【0034】
ポンプ101は、逆止弁103を介して液分岐タンク107に接続され、ポンプ102は逆止弁104を介して液分岐タンク108に接続される。
【0035】
蒸発器116は、液戻管114を介してポンプ101、102に接続される。
【0036】
蒸発器116、蒸気管117、凝縮器112、液管111、液分岐タンク107、逆止弁103、ポンプ101、液戻管114、蒸発器116の順序で第一環状流路が形成される。蒸発器116、蒸気管117、凝縮器112、液管111、液分岐タンク108、逆止弁104、ポンプ102、液戻管114、蒸発器116の順序で第二環状流路が形成される。第一環状流路と第二環状流路によりポンプ101、102が冗長化される。
【0037】
二相冷却装置の第一環状流路及び第二環状流路の内部には作動流体が封入されている。作動流体には、例えば、水やアルコールの他、スリーエム社製FLUORINERT(登録商標)やNOVEC(登録商標)などのフッ素系不活性液体を利用することができる。作動流体は、二相冷却装置の用途や、作動流体の沸点や発熱体の熱量等に応じて選択される。
【0038】
蒸発器116は発熱部品115と熱的に接続されて配置される。発熱部品115は、例えば、サーバに内蔵されるCPUである。蒸発器116の内部には、気体の作動流体が通過可能で、液体の作動流体を毛細管現象によって吸い上げるウィック(図示せず)が設けられている。ウィックが吸い上げた液体の作動流体は、ウィックの表面で発熱部品115から得た熱によって蒸発(気化)する。発熱部品115は、液体の作動流体に対して潜熱を与えることにより冷却される。
【0039】
凝縮器112は、作動流体が流通する流路の周辺に熱的に接続されたフィン(図示せず)を有している。フィンは、例えば板状のプレートフィンを、流路にそって複数配置することが考えられる。このフィンに、冷却ファン113から送風が行われ、作動流体が冷やされる。気体の作動流体が冷やされることで、潜熱が放出され、作動流体は凝縮(液化)する。
【0040】
蒸気管117は、蒸発器116の作動流体の出口と凝縮器112の作動流体の入り口とを連結し、蒸発器116で加熱された作動流体を凝縮器112へと導く。蒸気管117は、銅などの金属を用いて形成することができる。
【0041】
冷却ファン113は、凝縮器112にそって配置される。冷却ファン113は、発熱部品115の発熱量に応じて冷却ファン113そのものの数を増減したり、送風する風量を増減させたりすることで、発熱部品115の温度を一定の値に保つことが可能である。
【0042】
液分岐タンク107、108は、作動流体の中で凝縮器112において凝縮しきれなかった気体の作動流体を分離し、液体の作動流体を流路に残す。凝縮器112の冷却能力を超えて、気体の作動流体が凝縮器112に送られると、気体の作動流体は凝縮器112の中で完全に凝縮されず、気体のまま凝縮器112を出ることになる。気体の作動流体がポンプ101、102に到達すると、ポンプ101、102が空回りし、作動流体を送り出すことができなくなる。したがって、ポンプ101、102に気体の作動流体が送り込まれないよう、ポンプ101、102と凝縮器112の間に液分岐タンク107、108を設けて、気体の作動流体を分離している。液分岐タンク107、108は、銅などの金属を用いて形成することができる。
【0043】
液管111は、凝縮器112の作動流体の出口と液分岐タンク107、108の作動流体の入り口とを連結し、凝縮器112で冷却された作動流体を液分岐タンク107、108へと導く。液管111は、銅などの金属を用いて形成することができる。
【0044】
ポンプ101、102は、扁平の遠心ポンプである。液分岐タンク107、108で凝縮した液体の作動流体は、ポンプ101、102内の羽根車118、119の回転によって、蒸発器116へ送られる。この時の作動流体の流れを順流と呼ぶ。一方で、ポンプ101、102の動作が停止し、蒸発器116側から液分岐タンク107、108へ向かう作動流体の流れを逆流と呼ぶ。第一環状流路と第二環状流路は、ポンプ101とポンプ102が並列になるよう設けられている。二相冷却装置の動作時において、ポンプ101が動作する際は、動作するポンプ101を運用系と呼ぶ。このとき、停止しているポンプ102を待機系と呼ぶ。
【0045】
第一環状経路の逆止弁103は、液分岐タンク107の作動流体の出口と、ポンプ101の吸込口とを連結する。逆止弁103は、管状のケースの内側に弁体105を有し、ポンプ101の吸込口側に弁体105を逆止弁103内にとどめるための網202と、液分岐タンク107側に弁体105の直径よりも小さい開口径となるように狭められたテーパ部201を有する。吸着管109は、逆止弁103の上部と液分岐タンク107の上部とを連結する。
【0046】
第二環状経路の逆止弁104は、液分岐タンク108の作動流体の出口と、ポンプ102の吸込口とを連結する。逆止弁104は、管状のケースの内側に弁体106を有し、ポンプ102の吸込口側に弁体106を逆止弁104内にとどめるための網302と、液分岐タンク108側に弁体106の直径よりも小さい開口径となるように狭められたテーパ部301を有する。吸着管110は、逆止弁104の上部と液分岐タンク108の上部とを連結する。
【0047】
運用系のポンプ101が動作しているとき、待機系のポンプ102は動作せず、ポンプ101が吐出した液体の作動流体が、液戻管114を経由して待機系のポンプ102に流入し逆流する。逆流した液体の作動流体がそのまま液分岐タンク108に流入すると、液体の作動流体が液分岐タンク107、108とポンプ101、102の間で循環することとなり、作動流体が二層冷却装置全体に行き渡らず冷却効率が低下する。逆止弁104において、弁体106をテーパ部301に密着させることにより、液体の作動流体の流路が塞がれ、逆流が止められる。
【0048】
液戻管114は、ポンプ101、102の吐出口と蒸発器116の作動流体の入口とを連結し、運用系のポンプ101が吐出した液体の作動流体を蒸発器116に送る。液戻管114は、銅などの金属を用いて形成することができる。
【0049】
図2は、
図1において一点鎖線A−A’に沿った高さ方向の断面図である。液管111から気体と液体が混ざった作動流体が送られ、液分岐タンク107で気体の作動流体を上部に集めることによって気液を分離し、液体の作動流体をポンプ101で送り出している。液分岐タンク107の上部に蓄積された気体の作動流体は、液分岐タンク107内で自然放熱することにより冷却され液化する。従って、液分岐タンク107内の気体の作動流体は減圧状態となっている。液分岐タンク107の上部から逆止弁103の上部を吸着管109によって接続する。液分岐タンク107の気体の作動流体の減圧状態による吸着力が、吸着管109を経由して、逆止弁103で弁体105を吸着する力となる。
【0050】
逆止弁103は、液管111と同径の管構造からなり、液分岐タンク107側に向かって絞りのあるテーパ部201とポンプ101側に網202と管の内部に弁体105を有する。テーパ部201は、弁体105の直径よりも小さい内径まで絞られる。テーパ部201は、弁体105によって塞がれることにより、逆流を止める。網202は、順流時に弁体105がポンプ101へ送られるのを防止するために設けられる。さらに、網202は、順流の流速が早く、気体の作動流体が液分岐タンク107を超えて、ポンプ101にたどり着くような場合に、気体の作動流体の塊を細分化して、ポンプ101での空回りを防止する。
【0051】
逆止弁103は、吸着管109と接続する部分に、下に向かって垂直方向に広がる湾曲部203を有してもよい。かかる湾曲部203で吸着管109と接続しているため、液分岐タンク107内の気体の作動流体が冷却されることにより、吸着管109の内部に、逆止弁103から液分岐タンク107に向かう吸着力が生じて、弁体105は湾曲部203に吸着される。湾曲部203が流路に対して湾曲している割合によって、弁体105も順流の流路上の体積を減らし、順流の阻害の度合いを減少させる。また、湾曲部203は後述するように、弁体105の周囲の作動流体の流れに影響して、弁体105を湾曲部203に引き寄せる機能を発揮する。かかる機能を発揮するために、湾曲部203の形状は、半球状でもすり鉢状でもよい。
【0053】
第二環状流路、すなわち凝縮器112、液管111、液分岐タンク108、逆止弁104、ポンプ102、液戻り管114、蒸発器116、蒸気管117により構成される流路を用いて、逆流時の逆止弁104の動作の説明を行う。ポンプ102は運転を停止しており、液体の作動流体を蒸発器116に送る働きをしていない。すなわち、ポンプ102は待機系であり、運用系であるポンプ101の動作に障害があった場合などに運用系に切り替わるための冗長構成である。運用系のポンプ101から送られた液体の作動流体が、液戻管114の合流点から待機系のポンプ102に向かって逆流すると、冷却装置全体の作動流体の流量の低下を招き、冷却効率が悪化する。本実施例の二相冷却装置においては、逆止弁104によって上記逆流を防ぐ。
【0054】
図3は
図1において一点鎖線B−B’に沿った高さ方向の断面図である。ポンプ102は停止しているため凝縮器112から蒸発器116への液体の作動流体の流れはない。従って、液分岐タンク108に新たに加わる気体の作動流体はなく、液分岐タンク108内で気液の平衡状態となる。逆止弁104の中では、運用系のポンプ101から送られた作動流体が、液戻管114の合流点から待機系のポンプ102に向かって流れようとする液体の作動流体の圧力によって、弁体106はテーパ部301に押さえつけられ、逆流を逆止する。
【0055】
図4は吸着管109による弁体105の吸着の原理を説明する図である。吸着管109の断面積をS、液分岐タンク107の内圧をP1としたときに、弁体105の吸着にかかる力F1はF1=P1×Sとして表される。また、内圧P1は、液相の作動流体の冷媒密度ρと、弁体105を吸着する位置と液分岐タンク107内の作動流体の気液界面との高さ方向の差hを用いて、P1=ρghと表される(gは重力加速度)。従って、弁体105の吸着にかかる力F1は式(1)のように表される。
【0056】
【数1】
一方で、作動流体の流れによって弁体105の吸着を阻害する力が発生する。この力を揚力F2とすると、F2は式(2)で表される。
【0057】
【数2】
ここで、μは作動流体の粘性係数、νは作動流体の動粘性係数、aは弁体105の半径、Vは作動流体の流れの平均速度、kは速度勾配である。
【0058】
吸着にかかる力F1と揚力F2との関係が、F1>F2となっているときに弁体105は吸着管109に吸着する。具体的には、液相の作動流体の冷媒密度ρ=0.995646g/cm
3、重力加速度9.8m/s
2、高さ方向の差h=15mm、吸着管の断面積S=1.0πmm
2であるので、F1=0.460mNである。作動流体の粘性係数μ=0.00656μg/cm・s、作動流体の動粘性係数ν=0.00661cm
2/s、弁体の半径a=1.5mm、作動流体の流れの平均速度V=0.2m/s、速度勾配k=181.8であるので、F2=0.398mNである。従って、F1>F2である。
【0059】
弁体105が液体の作動流体の流れに影響されず、吸着管109に吸着しやすくするため、弁体105は樹脂で球型もしくは略球形に形成されていることが望ましい。弁体105の密度は、液相の作動流体に対して浮いたり沈んだりすることがないよう、液体の作動流体の冷媒密度ρとほぼ等しいことが望ましい。吸着管109を始め蒸気管117、液管111などの管は、形状の加工の観点から銅などの金属で形成されていることが望ましい。液分岐タンク107は、形状の加工の観点と、気体の作動流体の凝縮の観点から、加工が容易で熱伝導率の高い銅で形成されていることが望ましい。式(1)にあるように、吸着管109の断面積Sが弁体105の吸着に影響を与える。吸着管109の断面積以外の形状については吸着に影響を与えないため、吸着管109は、二相冷却装置の実装の形態に合わせて適宜形状を変化させうる。実施例にかかる吸着管109は、逆止弁103との接続部と液分岐タンク107との接続部の中間付近で垂直に曲がった形状を示すが、形状はこれにこだわるわけではない。
【0060】
図5A〜
図5Dを用いて、弁体106が逆止弁104として機能している状態から吸着管110に吸着固定されている状態へ遷移する原理を説明する。
図5A〜
図5Dは、
図1において一点鎖線B−B’に沿った高さ方向の断面図である。
【0061】
図5Aは逆止弁104が弁体106で塞がれている状態を示す。逆止弁104のテーパ部301に弁体106が密着して、ポンプ102側から送られてくる作動流体を逆止している状態である。このとき、ポンプ102は待機系である。
【0062】
図5Bは、ポンプ102が稼働し逆止弁104の系が待機系から運用系へと切り替わった際の状態である。ポンプ102の稼働により作動流体の流れが変わり、弁体106をテーパ部301へ抑えている力がなくなり、弁体106をポンプ102側に流すようになる。逆止弁104は、ポンプ102側に湾曲部303を有している。かかる湾曲部303の影響で、弁体106は流れの下流に向かって直進するのではなく、ベルヌーイの法則にしたがって、流れが早く静圧が低い湾曲部303へ誘導される。弁体106はポンプ102の手前に設けられた網302によってポンプ102側への移動を制限される。
【0063】
図5Cは、弁体106が湾曲部303へ近接した状態を示す図である。弁体106が湾曲部303へ近づくと、弁体106と湾曲部303上部との隙間は狭くなる。同じ密度の作動流体がより狭い部分を通過しようとするため、流速が高まりさらに湾曲部303に接するように動く。弁体106が湾曲部303へ接触すると弁体106と湾曲部303との間の隙間の流れがなくなり、弁体106を湾曲部303に近づける働きがなくなるため、弁体106は流れの中心部、すなわち湾曲部303から離れる方向へ向かう力が働く。弁体106が湾曲部303から離れると、再度弁体106を湾曲部303へ近づける力が働くため、弁体106は湾曲部303に接するように動く。このようにして、弁体106は湾曲部303の近傍で微小な上下運動を行うことになる。この微小な上下運動によって、液体の作動流体の流れを乱すこととなる。
【0064】
図5Dは、微小な上下運動を行っている弁体106を吸着管110に吸着し固定する状態を示す図である。作動流体の流れに従って、気相の作動流体(蒸気)が運搬される。液分岐タンク108において、蒸気は浮力により液分岐タンク108の上方に分離され蓄積される。液分岐タンク108に蓄積された蒸気は、液分岐タンク108内で自然放熱することにより冷却され液化し、減圧することになる。かかる減圧によって、吸着管110内に吸着力F1が発生する。吸着力F1により弁体106が吸着管110に吸着し固定される。この結果弁体106の上下運動が止まり、液体の作動流体の流れを見出さないため、液体の作動流体が滑らかに流れることとなる。
【0065】
次に、
図6A〜
図6Dを用いて、弁体105が吸着管109に吸着しているときに、待機系へ切り替わった場合、すなわち作動流体が逆流となったときの動作を説明する。
図6A〜
図6Dは、
図1において一点鎖線A−A’に沿った高さ方向の断面図である。
【0066】
図6Aは吸着管109に弁体105が吸着している状態を示す図である。この状態では、液分岐タンク107において、新たな蒸気の流入があり、蒸気の液化による内圧の低下が継続する。この時の液分岐タンク107の内圧をP1と表す。
【0067】
図6Bは作動流体の流れが逆流になった時点を示す図である。作動流体の流れが逆流になったため、液分岐タンク107に新たな蒸気が流入することはなく内圧の低下が止まる。一方で、作動流体の液相からの蒸発が発生しており、式(3)で表される。
【0068】
【数3】
ここで、Nは単位あたりの蒸発量、Dは蒸気の拡散係数、C
sは飽和蒸気圧、C
tは液分岐タンク107内の蒸気圧、δは蒸気の濃度が変化する層(境膜)の厚さである。
【0069】
作動流体の液相からの蒸発が継続すると、やがて液分岐タンク107内の減縮に勝り、液分岐タンク107の内圧が上昇を始める。弁体105にかかる吸着力F1が弁体105を吸着管109から浮かせようとする揚力F2より大きい間は、弁体105は吸着管109に吸着・固定される。この時の液分岐タンク107の内圧をP2と表す。
【0070】
図6Cは液分岐タンク107の内圧が増加し、吸着力F1が揚力F2より小さくなった時点を示す図である。弁体105は吸着管109への吸着・固定ができず、作動流体の逆流に沿って流される。この時の液分岐タンク107の内圧をP3と表す。
【0071】
図6Dは、弁体105が最終的に逆止弁103のテーパ部201に押し付けられて作動流体の逆流が止まった状態を示す図である。この時の液分岐タンク107の内圧をP4と表す。P4は作動流体の液温での平衡蒸気圧となっている。
図6A〜6Dの液分岐タンク107の内圧P1〜P4の関係は式(4)のとおりとなる。
【0073】
図7は、逆流時の弁体105の脱着にかかる実施例を示す図である。作動流体の液温を30℃、液分岐タンク107内の蒸気も液温と平衡して30℃、弁体105を吸着する位置と液分岐タンク107内の作動流体の気液界面との高さ方向の差hは12.7mmという条件で弁体105が吸着されていると仮定する。このとき、水蒸気の拡散係数D=2.88×10
−5(m
2/s)、飽和蒸気圧Cs=4.0kPa=7.2mol/m
3、液分岐タンク107内蒸気圧Ct=P1=ρgh=1500Pa=0.56mol/m
3、境膜の厚さδ=0.1mmを式(3)に代入すると、N=1.9mol/m
2・sを得る。弁体105を吸着する位置と液分岐タンク107内の作動流体の気液界面との高さ方向の差hが11.7mmの時にちょうどF1=F2となり釣り合うと仮定すると、hが12.7mmから11.7mmに変化するため、1mm気液界面が下がるのに要する時間が吸着状態を脱するために要する時間と考えられる。ここで、1mm気液界面が下がるのに要する時間を算出する。水1molの質量は18gである。単位時間面積あたり蒸発する水の質量は、上で求めたNに18g/molを乗じて、1.9mol/m
2・s×18g/mol=34.2g/m
2・sとなる。水の質量から体積を近似して、単位時間面積あたり蒸発する体積は、約34.2cm
3/m
2・sである。単位を整理して、単位時間あたりに減少する気液界面の高さを算出すると、約34.2×10
−3mm/sとなる。したがって、気液界面が1mm減少する時間は、1mm÷34.2×10
−3mm/s=29.2sとなる。すなわち、逆流に切り替わった瞬間から約29秒後に弁体105は吸着状態を脱し、逆止弁103のテーパ部201に向けて流されることとなる。ポンプ101を停止してから作動流体の流れが止まるまでにも数秒かかる。ポンプ101を停止しただけでは、惰性で作動流体が流れ続けることは止められないからである。運用系のポンプ102から送り出された作動流体が合流点を回ってポンプ101から惰性で流れる作動流体に打ち勝つ瞬間が逆流に切り替わった瞬間である。ポンプ101が停止してからこの時点までは、約1〜3秒である。この時点から弁体105の脱着までが約29秒であり、脱着した弁体105は逆流の作動流体に流されて逆止弁103のテーパ部201へたどり着く。弁体105がテーパ部201に辿り着いたときに逆流の作動流体の逆止ができる。弁体105が脱着からテーパ部201へ到達するまでが約1〜2秒である。従って、ポンプ101が止まってから逆止するまでは約31〜34秒かかる。
【0074】
以下、第二実施形態の二相冷却装置を、
図8を用いて説明する。
【0075】
図8は本願発明の第二実施形態を示す図である。なお、第二実施形態の二相冷却装置は、上記第一実施形態を部分的に変更したものであり、第一実施形態と同一の構成要素には同一の参照符号を付して、その説明を省略する。
【0076】
第二実施形態の二相冷却装置は、蒸発器116と凝縮器112と液分岐タンク802とを有する。凝縮器112は蒸気管117を介して蒸発器116と接続される。液分岐タンク802は、液管111を介して凝縮器112と接続される。液分岐タンク802は、ポンプ801と接続し、ポンプ801は、液戻管114を介して蒸発器116と接続する。
【0077】
蒸発器116、蒸気管117、凝縮器112、液管111、液分岐タンク802、ポンプ801、液戻管114、蒸発器116の順序で第一環状流路が形成される。なお、第一実施形態と同様に、ポンプ801と同様のポンプ(図示せず)と液分岐タンク802と同様の液分岐タンク(図示せず)によって代替された第二環状流路が形成されるが、第二の実施形態の説明において省略する。以下、ポンプ801、液分岐タンク802の構造を説明するが、第二環状流路のポンプ(図示せず)と液分岐タンク(図示せず)も同様の構造である。
【0078】
ポンプ801は、扁平の遠心ポンプである。液分岐タンク802で凝縮した液体の作動流体は、ポンプ801内の羽根車809の回転によって、蒸発器116へ送られる。
【0079】
液分岐タンク802は、その内部に逆止弁803を含む構造となっている。液分岐タンク802とポンプ801との接合部において、逆止弁803によって接続されている。
【0080】
逆止弁803は、管構造からなり、液分岐タンク802と液管111との接続部側に向かって絞りのあるテーパ部806とポンプ801側に網807と管の内部に弁体805を有する。テーパ部806は、弁体805の直径よりも小さい内径まで絞られる。テーパ部806は、弁体805によって塞がれることにより、逆流を止める。網807は、順流時に弁体805がポンプ801へ送られるのを防止するために設けられる。さらに、網807は、順流の流速が早く、気体の作動流体がポンプ801にたどり着くような場合に、気体の作動流体の塊を細分化して、ポンプ801での空回りを防止する。また、逆止弁803は、吸着管804と接続する部分に、下に向かって垂直方向に広がる湾曲部808を有してもよい。
【0081】
液管111から気体と液体が混ざった作動流体が送られ、液分岐タンク802で気体の作動流体を上部に集めることによって気液を分離し、液体の作動流体をポンプ801で送り出している。液分岐タンク802の上部に蓄積された気体の作動流体は、液分岐タンク802内で自然放熱することにより冷却され液化する。従って、液分岐タンク802内の気体の作動流体は減圧状態となっている。液分岐タンク802の上部から逆止弁803の上部を吸着管804によって接続する。液分岐タンク802の気体の作動流体の減圧状態による吸着力が、吸着管804を経由して、逆止弁803で弁体805を吸着する力となる。
【0082】
かかる構成を取ることにより、二相冷却装置を搭載するスペースが限られた時でも、液分岐タンク802の容量を確保することができる。十分な容量を確保することで、気体の作動流体の凝縮による減圧の効果が増大し、十分な吸着力で弁体805を吸着管804に吸着することができる。
【0083】
なお、本発明は、上述した各実施形態に記載した構成に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形することが可能である。