(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6424762
(24)【登録日】2018年11月2日
(45)【発行日】2018年11月21日
(54)【発明の名称】クランプ付き樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
F02F 7/00 20060101AFI20181112BHJP
F16B 2/22 20060101ALI20181112BHJP
【FI】
F02F7/00 L
F16B2/22 C
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-149850(P2015-149850)
(22)【出願日】2015年7月29日
(65)【公開番号】特開2017-31827(P2017-31827A)
(43)【公開日】2017年2月9日
【審査請求日】2018年1月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】角谷 良明
【審査官】
木村 麻乃
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−303677(JP,A)
【文献】
特開平10−196847(JP,A)
【文献】
特開平9−250517(JP,A)
【文献】
特開2006−183737(JP,A)
【文献】
特開2008−240789(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 7/00
F16B 2/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランプが本体に一体成形されたクランプ付き樹脂成形体であって、
前記クランプは、
前記本体からそれぞれ延設されるとともに互いに対向する一対の支持板と、
前記一対の支持板の間に設けられて前記一対の支持板同士をそれぞれ連結する一対の連結板と、を備え、
前記一対の支持板には、前記一対の支持板の延設方向と前記一対の支持板の対向方向との双方に対して直交する直交方向の一方の端に支持凹部がそれぞれ形成され、
前記支持凹部は、前記延設方向において一対の連結板の間に位置し、
前記一対の連結板における前記直交方向の前記一方の端に爪部が形成されている、
クランプ付き樹脂成形体。
【請求項2】
前記本体は外周縁を有し、
前記一対の支持板は、前記本体の周方向において互いに対向しており、
前記一対の連結板は、前記本体の外周縁よりも外周側に位置している、
請求項1に記載のクランプ付き樹脂成形体。
【請求項3】
前記支持凹部は断面半円弧状をなしている、
請求項1または請求項2に記載のクランプ付き樹脂成形体。
【請求項4】
前記対向方向における前記支持凹部の縁部が面取りされている、
請求項3に記載のクランプ付き樹脂成形体。
【請求項5】
前記一対の連結板の内側面における前記爪部に連なる部分がそれぞれ断面円弧状をなしている、
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のクランプ付き樹脂成形体。
【請求項6】
前記一対の連結板の内側面における前記対向方向の中央部には突出部がそれぞれ形成されており、
前記突出部における前記爪部に連なる部分が断面円弧状をなしている、
請求項5に記載のクランプ付き樹脂成形体。
【請求項7】
前記対向方向における前記突出部の縁部が面取りされている、
請求項6に記載のクランプ付き樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランプが本体に一体成形されたクランプ付き樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関のシリンダヘッドの上部には、樹脂製のロッカカバー(シリンダヘッドカバーと称されることもある。)が設けられている(例えば特許文献1参照)。特許文献1に記載のロッカカバーの上面には、ロッカカバーの長手方向に延びる凹部と、ロッカカバーの短手方向において同凹部を両側から挟む一対の凸部とが形成されている。凹部の上面には、上記短手方向に沿って延びるとともに一対の凸部を連結するリブが一体成形されている。またリブの上端には、点火プラグ用のケーブルをクランプするための複数のクランプ溝が形成されている。このクランプ溝は、上方に向けて開かれたU字状の断面形状を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭63―112258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載のロッカカバーを樹脂成形する際には、通常、ロッカカバーの上方及び下方にそれぞれ移動する一対の型からなる成形型が用いられる。
ところが、特許文献1に記載のロッカカバーにおいては、クランプ溝がU字状の断面形状を有していることから、クランプ溝からケーブルが抜け出すおそれがある。
【0005】
これに対して、ケーブルの抜け出しを規制するための爪部をリブに一体成形することが考えられる。しかしながらこの場合、上記一対の型からなる成形型を用いてロッカカバーを樹脂成形しようとすれば、爪部が型抜きのできない部位、所謂アンダーカット部となる。そのため、上記一対の型に加えて爪部の形状に対応したスライドコアなどが必要となり、成形型の構成が複雑となる。その結果、ロッカカバーを容易に形成することができない。
【0006】
本発明の目的は、爪部を有するクランプと本体とが一体成形された樹脂成形体を容易に形成することのできるクランプ付き樹脂成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するためのクランプ付き樹脂成形体は、クランプが本体に一体成形されたクランプ付き樹脂成形体であって、前記クランプは、前記本体からそれぞれ延設されるとともに互いに対向する一対の支持板と、前記一対の支持板の間に設けられて前記一対の支持板同士をそれぞれ連結する一対の連結板と、を備え、前記一対の支持板には、前記一対の支持板の延設方向と前記一対の支持板の対向方向との双方に対して直交する直交方向の一方の端に支持凹部がそれぞれ形成され、前記支持凹部は、前記延設方向において一対の連結板の間に位置しており、前記一対の連結板における前記直交方向の前記一方の端に爪部が形成されている。
【0008】
同構成によれば、樹脂成形体を樹脂成形する際、クランプの一対の支持板については上記直交方向の一方に向けて型抜きをする上でアンダーカット部が存在しない。また、一対の連結板については上記直交方向の他方に向けて型抜きをする上でアンダーカット部が存在しない。このため、上記直交方向において互いに反対方向に移動する一対の型からなる成形型によってクランプを成形することができる。したがって、成形型の構成を簡単にすることができる。よって、樹脂成形体を容易に形成することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、爪部を有するクランプと本体とが一体成形された樹脂成形体を容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】クランプ付き樹脂成形体の一実施形態について、クランプを中心としたシリンダヘッドカバーの一部を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、
図1〜
図8を参照して、一実施形態について説明する。なお、本実施形態では、クランプ付き樹脂成形体を、内燃機関のシリンダヘッドの上部に取り付けられるシリンダヘッドカバーとして具体化している。
【0012】
図1に示すように、シリンダヘッドカバー10は硬質樹脂材料によって形成されており、カバー本体11と、カバー本体11の上面に一体成形されたクランプ20とを備えている。このクランプ20は、例えば機関冷却水が流通するホース50を留めるためのものである。
【0013】
カバー本体11の外周縁には、フランジ12が全周にわたって形成されている。フランジ12には、複数の挿通孔13が周方向に間隔をおいて形成されている。
図1〜
図3に示すように、クランプ20は、カバー本体11から外周側に向けてそれぞれ延設されるとともにカバー本体11の周方向において互いに対向する一対の支持板30と、一対の支持板30の間に設けられて一対の支持板30同士をそれぞれ連結する一対の連結板40とを備えている。なお、以降において、一対の支持板30が延設される方向を単に延設方向Xと称し、一対の連結板40が対向する方向を単に対向方向Yと略称する。また、延設方向Xと対向方向Yとの双方向に対して直交する方向を単に直交方向Zと略称する。
【0014】
図1に示すように、一対の支持板30は、カバー本体11の外周縁よりもそれぞれ外周側まで延設されており、互いに平行をなしている。一対の連結板40は、カバー本体11の外周縁よりもそれぞれ外周側に位置しており、互いに平行をなしている。
【0015】
図2に示すように、一対の支持板30の上端31、すなわち、直交方向Zの一方の端には、断面半円弧状の支持凹部32がそれぞれ形成されている。
図2〜
図6、及び
図8に示すように、支持凹部32は、延設方向Xにおいて一対の連結板40の間に位置している。
【0016】
図2、
図3、
図7、及び
図8に示すように、一対の支持板30の内側面における延設方向Xの先端側の部分には、直交方向Zの全体にわたって内側に向けて突出する突設部34がそれぞれ形成されている。突設部34における延設方向Xの両端部に上記一対の連結板40が連結されている。
【0017】
突設部34の上端には、断面半円弧状の逃がし凹部35が形成されている。逃がし凹部35は支持凹部32と同心円状をなしている。ただし、逃がし凹部35の半径は支持凹部32の半径よりも大きくされている。
【0018】
図2〜
図6に示すように、一対の連結板40の上端41には、延設方向Xの内側に向けて突出する爪部42が形成されている。
図2及び
図8に示すように、一対の連結板40の内側面43における対向方向Yの中央部には、突出部44がそれぞれ形成されている。
図2、
図4〜
図6に示すように、上記内側面43における爪部42に連なる部分は断面円弧状をなしている。
【0019】
図4に示すように、突出部44における円弧状の部分(断面円弧状の部分)は、支持凹部32を仮想的に円周方向に延長した円弧に一致する。また、内側面43における円弧状の部分のうち突出部44以外の他の部分は、逃がし凹部35を仮想的に円周方向に延長した円弧に一致する。
【0020】
図3及び
図8に示すように、対向方向Yにおける支持凹部32の両方の縁部33はそれぞれ面取りされており、湾曲面状をなしている。また、
図8に示すように、対向方向Yにおける突出部44の両方の縁部45はそれぞれ面取りされており、湾曲面状をなしている。
【0021】
こうしたシリンダヘッドカバー10を樹脂成形する際、直交方向Zにおいて互いに反対方向に移動する一対の型からなる成形型が用いられる。ここで、クランプ20の一対の支持板30については直交方向Zの一方(
図2の上方)に向けて型抜きがなされる一方、一対の連結板40については直交方向Zの他方(
図2の下方)に向けて型抜きがなされる。
【0022】
次に、本実施形態の作用について説明する。
シリンダヘッドカバー10を樹脂成形する際、クランプ20の一対の支持板30については直交方向Zの一方(
図2の上方)に向けて型抜きをする上でアンダーカット部が存在しない。また、一対の連結板40については直交方向Zの他方(下方)に向けて型抜きをする上でアンダーカット部が存在しない。このため、直交方向Zにおいて互いに反対方向に移動する一対の型のみによってシリンダヘッドカバー10が成形される。
【0023】
このことから、フランジ12などのクランプ20とは別の部位がカバー本体11の周方向においてクランプ20に近接して設けられる場合であっても、クランプ20の成形に際して同別の部位が邪魔にならない。
【0024】
以上説明した本実施形態に係るクランプ付き樹脂成形体によれば、以下に示す効果が得られるようになる。
(1)クランプ20は、カバー本体11からそれぞれ延設されるとともに互いに対向する一対の支持板30と、一対の支持板30の間に設けられて一対の支持板30同士をそれぞれ連結する一対の連結板40とを備えている。また、一対の支持板30には、一対の支持板30の延設方向Xと一対の支持板30の対向方向Yとの双方に対して直交する直交方向Zの一方の端に支持凹部32がそれぞれ形成され、支持凹部32は、延設方向Xにおいて一対の連結板40の間に位置しており、一対の連結板40における直交方向Zの一方の端に爪部42が形成されている。
【0025】
こうした構成によれば、上記作用を奏することにより、直交方向Zにおいて互いに反対方向に移動する一対の型からなる成形型によってシリンダヘッドカバー10を成形することができる。このため、成形型の構成を簡単にすることができる。したがって、爪部42を有するクランプ20とカバー本体11とが一体成形されたシリンダヘッドカバー10を容易に形成することのできる。
【0026】
(2)一対の支持板30は、カバー本体11の周方向において互いに対向している。また、一対の連結板40は、カバー本体11の外周縁よりもそれぞれ外周側に位置している。
【0027】
こうした構成によれば、クランプ20の成形に際して、カバー本体11の周方向においてクランプ20に近接して設けられるフランジ12などのクランプ20とは別の部位が邪魔にならないため、クランプ20と上記他の部位とを周方向において近接して形成することが可能となる。したがって、クランプ20の成形位置の自由度を高めることができる。
【0028】
(3)支持凹部32が断面半円弧状をなしているため、クランプ20の一対の支持板30について上記直交方向Zの一方に向けて型抜きをする上でアンダーカット部が存在しない形状を容易に実現することができるとともに、断面円形状のホース50を支持凹部32によって安定して支持することができる。
【0029】
(4)対向方向Yにおける支持凹部32の両方の縁部33がそれぞれ面取りされているため、ホース50が支持凹部32の縁部33に当たって摩耗することを適切に抑制することができる。また、クランプ20の一対の支持板30について直交方向Zの一方に向けて型抜きをする上で、面取りされた両方の縁部33がアンダーカット部にならない。
【0030】
(5)一対の連結板40の内側面43における対向方向Yの中央部にはそれぞれ突出部44が形成されており、突出部44における爪部42に連なる部分が断面円弧状をなしている。
【0031】
こうした構成によれば、一対の連結板40の内側面43に形成された突出部44のうち断面円弧状の部分がホース50の外周面に沿うこととなり、突出部44によってホース50の変位を適切に規制して、ホース50のがたつきを抑制することができる。また、連結板40の内側面43のうち突出部44以外の部位については薄肉化を図ることができ、クランプ20の成形に要する樹脂量を節減することができる。
【0032】
(6)対向方向Yにおける突出部44の両方の縁部45がそれぞれ面取りされているため、ホース50が突出部44の縁部45に当たって摩耗することを適切に抑制することができる。また、クランプ20の一対の連結板40について直交方向Zの他方に向けて型抜きをする上で、突出部44の両方の縁部45がアンダーカット部にならない。
【0033】
<変形例>
なお、上記実施形態は、例えば以下のように変更することもできる。
・突出部44の縁部45の面取りを省略することもできる(
図8参照)。
【0034】
・支持凹部32の縁部33の面取りを省略することもできる(
図3及び
図8参照)。
・一対の連結板40の突出部44を省略することもできる(
図2参照)。
・
図9に示すように、一対の連結板40の爪部42に連なる内側面43の円弧状の部分(断面円弧状の部分)を、支持凹部32を仮想的に円周方向に延長した円弧に一致させることもできる。
【0035】
・
図9に示すように、一対の支持板30の上端31に支持凹部32のみを形成し、逃がし凹部35を省略することもできる(
図2参照)。
・連結板40の内側面を平面状をなすものとし、爪部42に対して内側面が屈曲して連なるようにしてもよい。
【0036】
・支持凹部32を断面四角形状をなすものとしてもよい。
・樹脂成形体はシリンダヘッドカバー10に限られるものではなく、他に例えば、内燃機関のインテークマニホールドや吸気ダクトとして具現化することもできる。また、エアクリーナのハウジングなどの吸気システムを構成する部品として具現化してもよい。
【符号の説明】
【0037】
10…シリンダヘッドカバー、11…カバー本体(本体)、12…フランジ、13…挿通孔、20…クランプ、30…支持板、31…上端(一方の端)、32…支持凹部、33…縁部、34…突設部、35…逃がし凹部、40…連結板、41…上端(一方の端)、42…爪部、43…内側面、44…突出部、45…縁部、50…ホース、X…延設方向、Y…対向方向、Z…直交方向。