(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6424765
(24)【登録日】2018年11月2日
(45)【発行日】2018年11月21日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 5/00 20060101AFI20181112BHJP
B60C 11/03 20060101ALI20181112BHJP
B60C 11/12 20060101ALI20181112BHJP
【FI】
B60C5/00 H
B60C11/03 B
B60C11/03 100B
B60C11/12 D
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-152604(P2015-152604)
(22)【出願日】2015年7月31日
(65)【公開番号】特開2017-30557(P2017-30557A)
(43)【公開日】2017年2月9日
【審査請求日】2018年7月19日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(72)【発明者】
【氏名】芝井 孝志
【審査官】
増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−205410(JP,A)
【文献】
特開2015−123936(JP,A)
【文献】
特開2012−228992(JP,A)
【文献】
特開2013−220780(JP,A)
【文献】
特開2016−74256(JP,A)
【文献】
国際公開第2015/186443(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 5/00
B60C 11/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備えると共に、車両に対する装着方向が指定された空気入りタイヤにおいて、
前記トレッド部にタイヤ周方向に延びる一対のセンター主溝と該センター主溝の外側でタイヤ周方向に延びる一対のショルダー主溝を含む4本の主溝を設け、これら主溝により5列の陸部を区画すると共に、車両外側のセンター主溝をタイヤ周方向に沿ってジグザグ形状とし、前記トレッド部に前記ジグザグ形状を有するセンター主溝以外の主溝からタイヤ幅方向両側に向かって延長して各陸部内で終端する複数本のラグ溝を設けたことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
同一の主溝に対して連通するラグ溝について、該主溝よりもタイヤ幅方向外側に位置するラグ溝のタイヤ周方向に対する傾斜方向と該主溝よりもタイヤ幅方向内側に位置するラグ溝のタイヤ周方向に対する傾斜方向とが同一方向であることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
車両内側のセンター主溝に対して連通するラグ溝のタイヤ周方向に対する傾斜方向と車両内側のショルダー主溝に対して連通するラグ溝のタイヤ周方向に対する傾斜方向とが互いに反対方向であることを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
車両外側のショルダー主溝からタイヤ幅方向内側に向かって延びるラグ溝が終端側においてタイヤ周方向の一方側に向かって屈曲した屈曲部を有し、該屈曲部を有するラグ溝が形成された陸部に前記屈曲部に対して連通することなくタイヤ周方向に沿って間欠的に延在する複数本の細溝を形成し、該細溝を前記ジグザグ形状を有するセンター主溝に対して実質的に平行に配置したことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記屈曲部を有するラグ溝の幅W1がその連通する主溝の幅W2に対して0.10×W2≦W1≦0.55×W2の関係を満足することを特徴とする請求項4に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
車両内側のショルダー主溝よりもタイヤ幅方向外側に位置するショルダー陸部にタイヤ周方向に延びる周方向補助溝を設けると共に、該ショルダー陸部に前記トレッド部の端部からタイヤ幅方向内側に向かって延びる複数本のショルダーラグ溝を設け、該ショルダーラグ溝は前記周方向補助溝に対して交差する一方で前記車両内側のショルダー主溝に至る手前で終端することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記一対のセンター主溝の相互間に位置するセンター陸部に配置されたラグ溝の延長方向の位置に、ジグザグ形状を有するセンター主溝の段差部を配置したことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレッド部にタイヤ周方向に延びる4本の主溝を設け、これら主溝により5列の陸部を区画した空気入りタイヤに関し、更に詳しくは、トレッドパターン構成の適正化により背反関係にあるドライ路面での操縦安定性とウエット路面での操縦安定性とを両立することを可能にした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤにおいて、トレッド部にタイヤ周方向に延びる複数本の主溝を設け、これら主溝により複数列の陸部を区画したトレッドパターンが採用されている(例えば、特許文献1参照)。このような空気入りタイヤにおいて、トレッド部の各陸部にタイヤ幅方向に延びる複数本のラグ溝を設けることにより、そのラグ溝に基づいて良好な排水性能を確保するようにしている。
【0003】
しかしながら、トレッド部におけるラグ溝の本数を増加させた場合、トレッド部の剛性が低下し、ドライ路面での操縦安定性が低下することになる。逆に、トレッド部におけるラグ溝の本数を減少させた場合、排水性能が低下し、ウエット路面での操縦安定性が低下することになる。このようにドライ路面での操縦安定性とウエット路面での操縦安定性とは二律背反関係にあり、両者を同時に改善することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−228992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、トレッドパターン構成の適正化により背反関係にあるドライ路面での操縦安定性とウエット路面での操縦安定性とを両立することを可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備えると共に、車両に対する装着方向が指定された空気入りタイヤにおいて、
前記トレッド部にタイヤ周方向に延びる一対のセンター主溝と該センター主溝の外側でタイヤ周方向に延びる一対のショルダー主溝を含む4本の主溝を設け、これら主溝により5列の陸部を区画すると共に、車両外側のセンター主溝をタイヤ周方向に沿ってジグザグ形状とし、前記トレッド部に前記ジグザグ形状を有するセンター主溝以外の主溝からタイヤ幅方向両側に向かって延長して各陸部内で終端する複数本のラグ溝を設けたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、車両に対する装着方向が指定された空気入りタイヤにおいて、車両外側のセンター主溝をジグザグ形状とし、そのセンター主溝に対してラグ溝を連通させない構造を採用することにより、車両外側のセンター主溝の両側に位置する陸部の剛性を十分に確保するので、ドライ路面での操縦安定性を改善することができる。このようなジグザグ形状を有するセンター主溝はそのエッジ効果に基づいてウエット路面での操縦安定性の向上にも寄与する。また、トレッド部にジグザグ形状を有するセンター主溝以外の主溝からタイヤ幅方向両側に向かって延長して各陸部内で終端する複数本のラグ溝を設けることにより、トレッド部の剛性低下を最小限に抑えながら良好な排水性能を確保するので、ドライ路面での操縦安定性とウエット路面での操縦安定性とを高い次元で両立することができる。
【0008】
本発明において、同一の主溝に対して連通するラグ溝について、該主溝よりもタイヤ幅方向外側に位置するラグ溝のタイヤ周方向に対する傾斜方向と該主溝よりもタイヤ幅方向内側に位置するラグ溝のタイヤ周方向に対する傾斜方向とが同一方向であることが好ましい。このように同一の主溝に対して連通するラグ溝の傾斜方向を一致させることにより、良好な排水性能を確保することができる。
【0009】
また、車両内側のセンター主溝に対して連通するラグ溝のタイヤ周方向に対する傾斜方向と車両内側のショルダー主溝に対して連通するラグ溝のタイヤ周方向に対する傾斜方向とは互いに反対方向であることが好ましい。ウエット性能に対する寄与が大きい車両内側の領域においてラグ溝の傾斜方向を異ならせることにより、車両内側のセンター主溝と車両内側のショルダー主溝との間に位置する陸部におけるエッジ効果を増大させ、ウエット路面での操縦安定性を効果的に改善することができる。
【0010】
更に、車両外側のショルダー主溝からタイヤ幅方向内側に向かって延びるラグ溝は終端側においてタイヤ周方向の一方側に向かって屈曲した屈曲部を有し、該屈曲部を有するラグ溝が形成された陸部に屈曲部に対して連通することなくタイヤ周方向に沿って間欠的に延在する複数本の細溝を形成し、該細溝をジグザグ形状を有するセンター主溝に対して実質的に平行に配置することが好ましい。車両外側のショルダー主溝からタイヤ幅方向内側に向かって延びるラグ溝に屈曲部を設けると共に、複数本の細溝をタイヤ周方向に沿って間欠的に設けることにより、そのエッジ効果に基づいてウエット性能を更に改善することができる。また、細溝をジグザグ形状を有するセンター主溝に対して実質的に平行に配置することにより、当該陸部の剛性を均一化し、偏摩耗の発生を効果的に抑制することができる。
【0011】
屈曲部を有するラグ溝の幅W1はその連通する主溝の幅W2に対して0.10×W2≦W1≦0.55×W2の関係を満足することが好ましい。これにより、ドライ路面での操縦安定性とウエット路面での操縦安定性とをバランス良く改善することができる。
【0012】
車両内側のショルダー主溝よりもタイヤ幅方向外側に位置するショルダー陸部にはタイヤ周方向に延びる周方向補助溝を設けると共に、該ショルダー陸部にトレッド部の端部からタイヤ幅方向内側に向かって延びる複数本のショルダーラグ溝を設け、該ショルダーラグ溝は周方向補助溝に対して交差する一方で車両内側のショルダー主溝に至る手前で終端することが好ましい。このような周方向補助溝及びショルダーラグ溝を車両内側のショルダー陸部に付加した場合、ドライ路面での操縦安定性を実質的に低下させることなくウエット路面での操縦安定性を改善することができる。
【0013】
また、一対のセンター主溝の相互間に位置するセンター陸部に配置されたラグ溝の延長方向の位置に、ジグザグ形状を有するセンター主溝の段差部を配置することが好ましい。このような配置を採用することにより、耐偏摩耗性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線断面図である。
【
図2】
図1の空気入りタイヤのトレッドパターンを示す展開図である。
【
図3】
図2のトレッドパターンの要部を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
図1〜
図3は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示すものである。この空気入りタイヤは、車両装着時におけるタイヤ表裏の装着方向が指定されたタイヤである。
図1〜
図3において、INは車両装着時の車両内側であり、OUTは車両装着時の車両外側である。
【0016】
図1に示すように、本実施形態の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、該トレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2,2と、これらサイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3,3とを備えている。
【0017】
一対のビード部3,3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側へ折り返されている。ビードコア5の外周上には断面三角形状のゴム組成物からなるビードフィラー6が配置されている。
【0018】
一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層のベルト層7が埋設されている。これらベルト層7はタイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。ベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°〜40°の範囲に設定されている。ベルト層7の補強コードとしては、スチールコードが好ましく使用される。ベルト層7の外周側には、高速耐久性の向上を目的として、補強コードをタイヤ周方向に対して例えば5°以下の角度で配列してなる少なくとも1層のベルトカバー層8が配置されている。ベルトカバー層8の補強コードとしては、ナイロンやアラミド等の有機繊維コードが好ましく使用される。
【0019】
なお、上述したタイヤ内部構造は空気入りタイヤにおける代表的な例を示すものであるが、これに限定されるものではない。
【0020】
図2に示すように、トレッド部1には、タイヤ周方向に延びる4本の主溝11〜14が形成されている。つまり、トレッド部1には、タイヤ赤道CLよりも車両内側に位置するセンター主溝11と、タイヤ赤道CLよりも車両外側に位置するセンター主溝12と、センター主溝11よりも車両内側に位置するショルダー主溝13と、センター主溝12よりも車両外側に位置するショルダー主溝14とが形成されている。車両外側のセンター主溝12はタイヤ周方向に沿ってジグザグ形状をなしているが、他の主溝11,13,14は直線状をなしている。これら4本の主溝11〜14により、トレッド部1には、タイヤ赤道CL上に位置するセンター陸部21と、センター陸部21よりも車両内側に位置する内側中間陸部22と、センター陸部21よりも車両外側に位置する外側中間陸部23と、内側中間陸部22よりも車両内側に位置する内側ショルダー陸部24と、外側中間陸部23よりも車両外側に位置する外側ショルダー陸部25とが区画されている。
【0021】
また、トレッド部1には、ジグザグ形状を有するセンター主溝12以外の主溝11,13,14からタイヤ幅方向両側に向かって延長して各陸部21〜25内で終端する複数本のラグ溝31A,31B,33A,33B,34A,34Bがそれぞれタイヤ周方向に間隔をおいて形成されている。
【0022】
より具体的には、ラグ溝31Aは一端がセンター主溝11に連通する一方で他端がセンター陸部21内で終端し、ラグ溝31Bは一端がセンター主溝11に連通する一方で他端が内側中間陸部22内で終端している。ラグ溝33Aは一端がショルダー主溝13に連通する一方で他端が内側中間陸部22内で終端し、ラグ溝33Bは一端がショルダー主溝13に連通する一方で他端が内側ショルダー陸部24内で終端している。ラグ溝34Aは一端がショルダー主溝14に連通する一方で他端が外側中間陸部23内で終端し、ラグ溝34Bは一端がショルダー主溝14に連通する一方で他端が外側ショルダー陸部25内で終端している。
【0023】
なお、ラグ溝31Aとラグ溝31Bとは互いに対向する位置に配置されることが好ましいが、例えば、パターンノイズを緩和するために、ラグ溝31Aとラグ溝31Bとをタイヤ周方向にずれた位置に配置することも可能である。このような関係はラグ溝33Aとラグ溝33Bの配置やラグ溝34Aとラグ溝34Bの配置にも適用される。
【0024】
外側中間陸部23において、車両外側のショルダー主溝14からタイヤ幅方向内側に向かって延びるラグ溝34Aは終端側においてタイヤ周方向の一方側に向かって鉤状に屈曲した屈曲部34Cを有している。この屈曲部34Cを有するラグ溝34Aが形成された外側中間陸部23には、屈曲部34Cに対して連通することなくタイヤ周方向に沿って間欠的に延在する複数本の細溝41が形成されている。細溝41は溝幅が3.0mm以下の溝であり、所謂サイプを包含するものである。これら細溝41はジグザグ形状を有するセンター主溝12に対して実質的に平行に配置されている。
【0025】
細溝41はセンター主溝12に対して必ずしも厳密に平行である必要はない。細溝41とセンター主溝12とのタイヤ軸方向の間隔d1を測定したとき、その間隔d1の最小値d1min及び最大値d1maxが(d1max−d1min)/d1max≦0.1の関係を満足するとき、両者は実質的に平行であると見做すことができる。
【0026】
内側ショルダー陸部24には、タイヤ周方向に延びる周方向補助溝42が形成されている。周方向補助溝42は溝幅が0.8mm〜3.0mmの溝である。また、内側ショルダー陸部24には、トレッド部1の端部からタイヤ幅方向内側に向かって延びる複数本のショルダーラグ溝43がタイヤ周方向に間隔をおいて形成されている。ショルダーラグ溝43は周方向補助溝42に対して交差するが、車両内側のショルダー主溝13に至る手前で終端している。
【0027】
外側ショルダー陸部25には、トレッド部1の端部からタイヤ幅方向内側に向かって延びる複数本のショルダーラグ溝44がタイヤ周方向に間隔をおいて形成されている。ショルダーラグ溝44は車両外側のショルダー主溝14に至る手前で終端している。また、外側ショルダー陸部25には、各ラグ溝34Bの先端部からタイヤ幅方向外側に向かって延びる複数本のサイプ45が形成されている。
【0028】
上述した空気入りタイヤでは、車両外側のセンター主溝12をジグザグ形状とし、そのセンター主溝12に対してラグ溝を連通させない構造を採用することにより、車両外側のセンター主溝12の両側に位置する陸部21,23の剛性を十分に確保するので、ドライ路面での操縦安定性を改善することができる。このようなジグザグ形状を有するセンター主溝12はそのエッジ効果に基づいてウエット路面での操縦安定性の向上にも寄与する。また、トレッド部1において、ジグザグ形状を有するセンター主溝12を除く他の主溝11,13,14からタイヤ幅方向両側に向かって延長して各陸部21〜25内で終端する複数本のラグ溝31A,31B,33A,33B,34A,34Bを設けているので、トレッド部1の剛性低下を最小限に抑えながら良好な排水性能を確保することができる。つまり、ラグ溝31A,31B,33A,33B,34A,34Bは路面上の水を主溝11,13,14に案内して効率的な排水性能を発揮するが、陸部21〜25を完全に分断するものではないので、トレッド部1の剛性を高く維持することができる。これにより、ドライ路面での操縦安定性とウエット路面での操縦安定性とを高い次元で両立することができる。
【0029】
上記空気入りタイヤにおいて、車両内側のセンター主溝11に対して連通するラグ溝31A,31Bについて、該主溝11よりもタイヤ幅方向外側に位置するラグ溝31Bのタイヤ周方向に対する傾斜方向と該主溝11よりもタイヤ幅方向内側に位置するラグ溝31Aのタイヤ周方向に対する傾斜方向とは同一方向になっている。同様に、車両内側のショルダー主溝13に対して連通するラグ溝33A,33Bについて、該主溝13よりもタイヤ幅方向外側に位置するラグ溝33Bのタイヤ周方向に対する傾斜方向と該主溝13よりもタイヤ幅方向内側に位置するラグ溝33Aのタイヤ周方向に対する傾斜方向とは同一方向になっている。更に、車両外側のショルダー主溝14に対して連通するラグ溝34A,34Bについて、該主溝14よりもタイヤ幅方向外側に位置するラグ溝34Bのタイヤ周方向に対する傾斜方向と該主溝14よりもタイヤ幅方向内側に位置するラグ溝34Aのタイヤ周方向に対する傾斜方向とは同一方向になっている。このように同一の主溝11,13,14に対して連通するラグ溝31A,31B,33A,33B,34A,34Bの傾斜方向を一致させることにより、良好な排水性能を確保することができる。
【0030】
また、上記空気入りタイヤにおいて、車両内側のセンター主溝11に対して連通するラグ溝31A,31Bのタイヤ周方向に対する傾斜方向と車両内側のショルダー主溝13に対して連通するラグ溝33A,33Bのタイヤ周方向に対する傾斜方向とは互いに反対方向になっている。ウエット性能に対する寄与が大きい車両内側の領域において、ラグ溝31A,31Bの傾斜方向とラグ溝33A,33Bの傾斜方向とを互いに異ならせた場合、車両内側のセンター主溝11と車両内側のショルダー主溝13との間に位置する内側中間陸部22が異なる方向のエッジ成分を含むようになり、そのエッジ効果が大きくなるので、ウエット路面での操縦安定性を効果的に改善することができる。
【0031】
更に、上記空気入りタイヤにおいて、車両外側のショルダー主溝14からタイヤ幅方向内側に向かって延びるラグ溝34Aが終端側においてタイヤ周方向の一方側に向かって屈曲した屈曲部34Cを有し、該屈曲部34Cを有するラグ溝34Aが形成された外側中間陸部23に屈曲部34Cに対して連通することなくタイヤ周方向に沿って間欠的に延在する複数本の細溝41を形成し、該細溝41をジグザグ形状を有するセンター主溝12に対して実質的に平行に配置するのが良い。このように外側中間陸部23においてラグ溝34Aに屈曲部34Cを設けると共に、複数本の細溝41をタイヤ周方向に沿って間欠的に設けることにより、屈曲部34C及び細溝41のエッジ効果に基づいてウエット性能を更に改善することができる。また、細溝41をジグザグ形状のセンター主溝12に対して実質的に平行に配置することにより、外側中間陸部23の剛性を均一化し、偏摩耗の発生を効果的に抑制することができる。
【0032】
図3に示すように、屈曲部34Cを有するラグ溝34Aの幅W1はその連通するショルダー主溝14の幅W2に対して0.10×W2≦W1≦0.55×W2の関係を満足すると良い。これにより、ドライ路面での操縦安定性とウエット路面での操縦安定性とをバランス良く改善することができる。比W1/W2が0.10未満であると排水性能が低下してウエット路面での操縦安定性の改善効果が低下し、逆に0.55超であると外側中間陸部23の剛性が低下してドライ路面での操縦安定性の改善効果が低下する。
【0033】
上記空気入りタイヤにおいて、車両内側のショルダー陸部24には、タイヤ周方向に延びる周方向補助溝42を設けると共に、トレッド部1の端部からタイヤ幅方向内側に向かって延びる複数本のショルダーラグ溝43を設け、該ショルダーラグ溝43は周方向補助溝42に対して交差する一方で車両内側のショルダー主溝13に至る手前で終端した構造を採用すると良い。このような周方向補助溝42及びショルダーラグ溝43を車両内側のショルダー陸部24に付加した場合、ドライ路面での操縦安定性を実質的に低下させることなくウエット路面での操縦安定性を更に改善することができる。つまり、ラグ溝33Aと周方向補助溝42とショルダーラグ溝43とを互いに連結されることで効果的な排水が可能になるが、周方向補助溝42はショルダー陸部24の一体性を実質的に阻害しないためショルダー陸部24の剛性低下を回避することができる。
【0034】
また、
図1に示すように、センター陸部21に配置されたラグ溝31Aの延長方向の位置に、ジグザグ形状を有するセンター主溝12の段差部Sを配置すると良い。このようにラグ溝31Aの位置とセンター主溝12の段差部Sの位置との間に関係性を持たせることにより、耐偏摩耗性を改善することができる。
【実施例】
【0035】
タイヤサイズ215/55R17で、トレッド部と一対のサイドウォール部と一対のビード部とを備えると共に、車両に対する装着方向が指定された空気入りタイヤにおいて、
図2に示すように、トレッド部にタイヤ周方向に延びる一対のセンター主溝と該センター主溝の外側でタイヤ周方向に延びる一対のショルダー主溝を含む4本の主溝を設け、これら主溝により5列の陸部を区画すると共に、車両外側のセンター主溝をタイヤ周方向に沿ってジグザグ形状とし、トレッド部にジグザグ形状を有するセンター主溝以外の主溝からタイヤ幅方向両側に向かって延長して各陸部内で終端する複数本のラグ溝を設けた実施例1〜8のタイヤを製作した。
【0036】
比較のため、トレッド部にタイヤ周方向に延びる一対のセンター主溝と該センター主溝の外側でタイヤ周方向に延びる一対のショルダー主溝を含む4本の主溝を設け、これら主溝により5列の陸部を区画すると共に、全ての主溝をストレート形状とし、各主溝間に両側の主溝に対して連通する複数本のラグ溝を設けた従来例のタイヤを用意した。
【0037】
実施例1〜8において、各主溝の両側に配置されたラグ溝の傾斜方向、車両内側のセンター主溝に連通するラグ溝の傾斜方向、車両内側のショルダー主溝に連通するラグ溝の傾斜方向、外側中間陸部におけるラグ溝の屈曲部及び細溝の有無、ラグ溝の幅W1、主溝の幅W2、内側ショルダー陸部における周方向補助溝及びショルダーラグ溝の有無を表1のように設定した。表1において、主溝間のラグ溝が「連通」である場合、ラグ溝の両端が主溝に連通していることを意味し、主溝間のラグ溝が「非連通」である場合、ラグ溝の一端が主溝に対して非連通であることを意味する。
【0038】
これら試験タイヤについて、下記試験方法により、ドライ路面での操縦安定性、ウエット路面での操縦安定性、耐偏摩耗性を評価し、その結果を表1に併せて示した。
【0039】
ドライ路面での操縦安定性:
各試験タイヤをリムサイズ17×7.5Jのホイールに組み付けて排気量2400ccの前輪駆動車に装着し、ウォームアップ後の空気圧(F/R)を230kPa/220kPaとし、ドライ路面において走行した際のパネラーによる官能評価を実施した。評価結果は、従来例を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほどドライ路面での操縦安定性が優れていることを意味する。
【0040】
ウエット路面での操縦安定性:
各試験タイヤをリムサイズ17×7.5Jのホイールに組み付けて排気量2400ccの前輪駆動車に装着し、ウォームアップ後の空気圧(F/R)を230kPa/220kPaとし、舗装路からなるテストコースにおいて雨天条件下でラップタイムを計測した。評価結果は、計測値の逆数を用い、従来例を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほどウエット路面での操縦安定性が優れていることを意味する。
【0041】
耐偏摩耗性:
各試験タイヤをリムサイズ17×7.5Jのホイールに組み付けて排気量2400ccの前輪駆動車に装着し、ウォームアップ後の空気圧(F/R)を230kPa/220kPaとし、市場において10000km走行させた後、センター主溝とショルダー主溝の摩滅量を測定し、その段差量を求めた。評価結果は、段差量の逆数を用い、従来例を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど耐偏摩耗性が優れていることを意味する。
【0042】
【表1】
【0043】
この表1から判るように、実施例1〜8のタイヤは、従来例との対比において、ドライ路面での操縦安定性とウエット路面での操縦安定性とを同時に改善することができた。また、外側中間陸部において、ラグ溝の終端側に屈曲部を形成し、その屈曲部に対して連通することなくタイヤ周方向に沿って間欠的に延在する細溝を形成し、その細溝をジグザグ形状を有するセンター主溝に対して実質的に平行に配置した場合、耐偏摩耗性の改善効果が顕著に現れていた。
【符号の説明】
【0044】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
11〜14 主溝
21〜25 陸部
31A,31B,33A,33B,34A,34B ラグ溝
34C 屈曲部
41 細溝
42 周方向補助溝
43,44 ショルダーラグ溝
45 サイプ