(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6424905
(24)【登録日】2018年11月2日
(45)【発行日】2018年11月21日
(54)【発明の名称】切断加工装置及び切断加工方法
(51)【国際特許分類】
B21D 28/16 20060101AFI20181112BHJP
B21D 28/00 20060101ALI20181112BHJP
B21D 28/02 20060101ALI20181112BHJP
B23D 15/06 20060101ALI20181112BHJP
B23D 33/02 20060101ALI20181112BHJP
B23D 33/08 20060101ALI20181112BHJP
【FI】
B21D28/16
B21D28/00 B
B21D28/02 Z
B23D15/06 Z
B23D33/02 B
B23D33/08 B
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-573345(P2016-573345)
(86)(22)【出願日】2016年2月1日
(86)【国際出願番号】JP2016052888
(87)【国際公開番号】WO2016125730
(87)【国際公開日】20160811
【審査請求日】2017年7月28日
(31)【優先権主張番号】特願2015-20331(P2015-20331)
(32)【優先日】2015年2月4日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 一般社団法人 日本塑性加工学会、第65回塑性加工連合講演会講演論文集、平成26年9月22日発行に発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】西村 隆一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】中澤 嘉明
【審査官】
石川 健一
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第07430951(US,B1)
【文献】
特開平01−293922(JP,A)
【文献】
特開平10−263721(JP,A)
【文献】
特開平11−221628(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 28/16
B21D 28/00
B21D 28/02
B23D 15/06
B23D 33/02
B23D 33/08
B26F 1/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対的に接近する第1の切刃及び第2の切刃により板材の端部を切除して被加工材を得る切断加工装置であって、
前記板材のうちの前記被加工材となる被加工材部分を表裏面より挟持する第1の当接部及び前記第1の切刃と;
前記板材のうちの前記端部となる端材部分を表裏面より挟持する前記第2の切刃及び第2の当接部と;
前記板材の表裏面のうちの少なくとも一方における、前記被加工材部分及び前記端材部分が同一平面上にある平坦状態を維持したまま、前記第1の切刃及び前記第2の切刃を相対的に接近開始させる駆動部と;
前記板材の切断後でかつ前記第2の切刃及び前記第2の当接部による前記端部の挟持を解いた後、前記端部に対して外力を付与する端材除去部と;
を備えることを特徴とする切断加工装置。
【請求項2】
前記第1の切刃及び前記第2の切刃に、これら第1の切刃及び第2の切刃の接近方向から見た場合に、曲線部が形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の切断加工装置。
【請求項3】
前記第1の切刃の前記曲線部の曲率が、−0.07mm−1以上0.20mm−1以下である
ことを特徴とする請求項2に記載の切断加工装置。
【請求項4】
相対的に接近する第1の切刃及び第2の切刃により板材の端部を切除して被加工材を得る切断加工方法であって、
前記板材のうちの前記被加工材となる被加工材部分を表裏面より挟持する工程と;
前記板材のうちの前記端部となる端材部分を表裏面より挟持する工程と;
前記板材の表裏面のうちの少なくとも一方における、前記被加工材部分及び前記端材部分が同一平面上にある平坦状態を維持したまま、前記第1の切刃及び前記第2の切刃を相対的に接近開始させる工程と;
切断した前記端材部分を、前記挟持した場所から落とす工程と;
を有することを特徴とする切断加工方法。
【請求項5】
前記端材部分の把持した最大幅寸法が、前記端材部分の最小幅寸法の0.5倍未満である
ことを特徴とする請求項4に記載の切断加工方法。
【請求項6】
前記接近開始の時点で、前記板材の表裏面の何れにも張力が付与されていない
ことを特徴とする請求項4または5に記載の切断加工方法。
【請求項7】
前記第1の切刃及び前記第2の切刃間のクリアランスを10%超30%以下とする
ことを特徴とする請求項4〜6の何れか一項に記載の切断加工方法。
【請求項8】
前記端材部分を挟持する際の加圧力を0.05kN以上とする
ことを特徴とする請求項4〜7の何れか一項に記載の切断加工方法。
【請求項9】
前記板材は、引張強度が440MPa以上の鋼板である
ことを特徴とする請求項4〜8の何れか一項に記載の切断加工方法。
【請求項10】
前記板材の板厚が、0.6mm〜3.6mmである
ことを特徴とする請求項4〜9の何れか一項に記載の切断加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切断加工装置及び切断加工方法に関する。
本願は、2015年2月4日に日本に出願された特願2015−020331号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
自動車、鉄道車両、建材、船舶、および家電製品等には、例えば、
図10に示す薄板加工部品8(プレス成形品)が用いられる。この薄板加工部品8は、例えば、
図7A及び
図7Bに示す板材1の長手方向における端部3を曲線状の切断線2に沿って切断(せん断)する切断工程と、上記切断工程後の板材1(すなわち、板材1の被加工材部分4)をプレス成形するプレス工程とを経て製造される。なお、
図7Aは、板材1の平面図であり、
図7Bは、
図7Aの符号Xで示した部分の拡大図である。
【0003】
図8は、板材1を切断する際に用いられる従来の切断加工装置10を示す断面模式図である。
図8に示すように、板材1の端部3を切断する際は、板材1を下刃11と板押さえ13とにより挟持しながら、下刃11に対して所定のクリアランスCL/t(%)を有する上刃12を下降させる。これにより、板材1の端部3が切除され、板材1より被加工材6が得られる。なお、上記のCLは、
図8に示すように、上刃12と下刃11との間の距離を表し、上記のtは、板材1の板厚を表す。すなわち、上記の「クリアランスCL/t(%)」は、板厚tに対する距離CLの割合を表す。
【0004】
図9は、被加工材6をプレス成形する際に用いられるプレス成形装置20を示す断面模式図である。
図9に示すように、被加工材6を、パンチ21、ダイ22、およびパッド23を用いて伸びフランジ成形することにより、
図10に示す薄板加工部品8を得ることができる。
【0005】
ここで、
図8に示す切断工程では、板材1より端部3を切除する際、板材1の被加工材部分4に、バリが発生することがある。バリは、強い加工を受けて硬くなっているために、被加工材6の加工性(成形性)を低下させる。そして、被加工材6の加工性が低下すると、薄板加工部品8の歩留り低下および製造コスト上昇が生じる。バリは、クリアランスCL/t(%)が大きいほど(例えば、10%超)、顕著に発生するため、クリアランスCL/t(%)を所定の値(例えば10%以下)に管理することは、薄板加工部品8の量産性を高めるために重要である。
【0006】
しかしながら、板材1を曲線状の切断線2に沿って切断する際に、上刃12と下刃11との間のクリアランスCL/tを所定の値(例えば10%以下)に管理することは、金型の製作精度等の観点から、容易でない。また、板材1を直線状に切断する場合であっても、板材1の切断時に生じる、金型の弾性変形等によってクリアランスCL/tが変化する。したがって、量産工程において、クリアランスCL/tを所定の値に管理し、バリ発生を抑制することは、容易でない。
【0007】
ここで、特許文献1では、上下に設けたローラにより、打抜き加工時に発生したバリを押し潰す打抜き用金型が開示されている。また、特許文献2では、板材の上下から同一位置および同一形状のパンチプレスを行うことにより、孔開け部分の断面にバリが発生することを防止する方法が開示されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1では、打抜き加工により発生したバリを押し潰すため、押し潰された部分は硬化し、加工性がさらに低下する。また、特許文献2では、板材の上下から同一位置および同一形状のパンチプレスを行うため、プレス加工機が2台必要となり、設備費等のコストが増大する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】日本国特開平10−263721号公報
【特許文献2】日本国特開平11−221628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、被加工材6にバリが発生する要因として、板材1を切断する際の板材1の倒れ込みに着目した。
図11は、
図8に示す上刃12を下降させた状態を示す模式図であって、切断途中を示す図である。
図11に示すように、板材1を下刃11と板押さえ13とにより挟持した状態で上刃12を下降させると、上刃12が板材1の表面に接触し、板材1の端部3は下方へ倒れ込む。
【0011】
このような板材1の倒れ込みが生じると、下刃11が板材1に食い込みにくくなり、下刃11と接触している箇所からの亀裂が生じにくくなる。また、板材1の倒れ込みにより、板材1に張力が作用し、上刃12からの亀裂が生じやすくなる。そのため、
図11に示す状態からさらに上刃12を下降させると、上刃12と接触している箇所から亀裂が生じ、上刃12の移動方向に沿って切断面Sが形成される結果、バリが生じる。なお、上記の倒れ込みは、板材1の弾性変形に支配されるため、板材1の倒れ込み角度は、板材1の引張強度が高くなるほど、大きくなる。換言すれば、板材1の引張強度が大きいほど、被加工材6に生じるバリが大きくなる。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、板材の端部を切除する際のバリ発生を低コストかつ容易に抑制することができる、切断加工装置および切断加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明は以下を採用する。
(1)本発明の一態様に係る切断加工装置は、相対的に接近する第1の切刃及び第2の切刃により板材の端部を切除して被加工材を得る切断加工装置であって、 前記板材のうちの前記被加工材となる被加工材部分を表裏面より挟持する第1の当接部及び前記第1の切刃と;前記板材のうちの前記端部となる端材部分を表裏面より挟持する前記第2の切刃及び第2の当接部と;前記板材の表裏面のうちの少なくとも一方における、前記被加工材部分及び前記端材部分が同一平面上にある平坦状態を維持したまま、前記第1の切刃及び前記第2の切刃を相対的に接近開始させる駆動部と;
前記板材の切断後でかつ前記第2の切刃及び前記第2の当接部による前記端部の挟持を解いた後、前記端部に対して外力を付与する端材除去部と;を備える。
(2)上記(1)に記載の態様において、前記第1の切刃及び前記第2の切刃に、これら第1の切刃及び第2の切刃の接近方向から見た場合に、曲線部が形成されていてもよい。
(3)上記(2)に記載の態様において、前記第1の切刃の前記曲線部の曲率が、−0.07mm
−1以上0.20mm
−1以下であってもよい。
(
4)本発明の他の態様に係る切断加工方法は、相対的に接近する第1の切刃及び第2の切刃により板材の端部を切除して被加工材を得る切断加工方法であって、前記板材のうちの前記被加工材となる被加工材部分を表裏面より挟持する工程と;前記板材のうちの前記端部となる端材部分を表裏面より挟持する工程と; 前記板材の表裏面のうちの少なくとも一方における、前記被加工材部分及び前記端材部分が同一平面上にある平坦状態を維持したまま、前記第1の切刃及び前記第2の切刃を相対的に接近開始させる工程と;
切断した前記端材部分を、前記挟持した場所から落とす工程と;を有する。
(5)上記(4)に記載の態様において、前記端材部分の把持した最大幅寸法が、前記端材部分の最小幅寸法の0.5倍未満であってもよい。
(
6)上記
(4)または(5)に記載の態様において、前記接近開始の時点で、前記板材の表裏面の何れにも張力が付与されていなくてもよい。
(
7)上記
(4)〜(6)のいずれか一項に記載の態様において、前記第1の切刃及び前記第2の切刃間のクリアランスを10%超30%以下としてもよい。
(
8)上記(
4)〜(
7)のいずれか一項に記載の態様において、前記端材部分を挟持する際の加圧力を0.05kN以上としてもよい。
(
9)上記(
4)〜(
8)のいずれか一項に記載の態様において、前記板材は、引張強度が440MPa以上の鋼板であってもよい。
(
10)上記(
4)〜(
9)のいずれか一項に記載の態様において、前記板材の板厚が、0.6mm〜3.6mmであってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の上記各態様によれば、板材の端部を切除する際のバリ発生を低コストかつ容易に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1A】本発明の実施形態に係る切断加工装置を示す斜視図である。
【
図2】
図1Aに示す切断加工装置のA−A断面図であって、切断加工後の状態を示す図である。
【
図3】上記切断加工装置により得られた被加工材、および従来の切断加工装置により得られた被加工材の断面写真である。
【
図4】倒れ込み抑制部材の有無によるバリ高さの変化を示すグラフである。
【
図5】倒れ込み抑制部材の設定荷重と限界H/限界_基準との関係を示すグラフである。
【
図6】倒れ込み抑制部材の幅と限界H/限界_基準との関係を示すグラフである。
【
図8】従来の切断加工装置を示す断面模式図である。
【
図9】プレス成形装置を示す断面模式図であって、成形途中を示す図である。
【
図11】従来の切断加工装置によりバリが発生するメカニズムを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については同一符号を付することにより、それらの重複説明を省略する。
【0017】
図1A〜
図1Cは、本発明の実施形態に係る切断加工装置100を示す図である。
図1Aは、切断加工装置100の斜視図であり、
図1Bは、切断加工装置100の平面図であり、
図1Cは、
図1Aに示す切断加工装置100のA−A断面図である。切断加工装置100は、
図1A及び
図7Aに示すように、上刃102が鉛直方向Z(上刃102が下刃101に対して接近する方向)に移動することにより、板材1の長手方向における端部3(板材1の端材部分)を曲線状の切断線2に沿って切除(外形トリム)する。なお、図面を判読し易くするため、
図1Aにおいて、上刃102および板材1は、二点鎖線により示している。
【0018】
板材1の材質は、例えば、鉄、アルミ、ステンレス、銅、チタン、マグネシウム、または鋼等の金属である。板材1の材質は、上記に列挙したもののみに限られず、金属及び樹脂からなる複合材、または異種金属等であってもよい。
また、板材1の板厚は、0.6mm〜3.6mmであることが好ましく、0.6mm〜2.3mmであることがより好ましく、0.6mm〜1.8mmであることがさらに好ましい。
【0019】
図1A〜
図1Cに示すように、切断加工装置100は、下刃101(第1の切刃)と、下刃101に対向するように配置された板押さえ104(第1の当接部)と、板押さえ104の長手方向における両端面104aから所定距離分離して配置された一対の上刃102(第2の切刃)と、一対の上刃102に対向するように配置された一対の倒れ込み抑制部材105(第2の当接部)と、一対のスクラップ箱110とを備える。
【0020】
下刃101は、不図示の床面に固定されている。板押さえ104は、鉛直方向Zに移動可能となっている。そして、板材1を切断する際は、板材1の板厚方向における二面(表裏面)より、板材1の被加工材部分4を下刃101及び板押さえ104により挟持する。
【0021】
上刃102は、例えば、クリアランスCL/t(上刃102及び下刃101の間の距離CLを板材1の板厚tで除した値:
図8参照)が5〜30%となるように、下刃101から所定距離分離して配置されている。すなわち、上刃102の端面102a(曲線部)と下刃101の端面101a(曲線部)との間の距離は、板材1の板厚tの5〜30%となっている。なお、一対の上刃102の各々は、駆動装置120(駆動部)に設置され、鉛直方向Zに移動可能となっている。
【0022】
また、
図1Cに示すように、一対の上刃102の各々は、その下端部に設けられた凹部102bと、凹部102bの内部に設けられた押圧バー109(端材除去部)と、押圧バー109を凹部102bから押し出すように付勢する弾性体108とを有している。弾性体108は、例えば、コイルばね、または板ばね等である。なお、弾性体108の付勢力は、板材1を変形させない程度の力に設定されており、板材1の端部3は、切断後、押圧バー109及び弾性体108から外力を受けて下方に落下する。
【0023】
倒れ込み抑制部材105は、
図1Cに示すように、断面が台形状であり、板材1の端部3の下面に当接する天板面105a(平坦部)と、天板面105aに接続されてかつ天板面105aに垂直な側端面105cと、天板面105aに接続されてかつ天板面105aに対して傾斜する傾斜面105bと、天板面105aに平行な底面105dと、底面105dに設けられた弾性体107とを有する。弾性体107は、倒れ込み抑制部材105を上刃102に向けて付勢する。弾性体107は、例えば、コイルばね、又は板ばね等である。なお、弾性体107に代えて、ガスシリンダー等を設けてもよい。
また、倒れ込み抑制部材105は、その側端面105cと、下刃101の端面101aとの間の距離Dが0.01mm〜100mmとなるように、配置される。なお、距離Dは、0.01mm〜50mmであることがより好ましく、0.01mm〜10mmであることがさらに好ましい。
【0024】
板材1を切断する際は、板材1の長手方向における端部3を、板材1の板厚方向における二面(表裏面)より上刃102および倒れ込み抑制部材105で挟持する。この際、弾性体107は、0.05kN以上の加圧力となるように設定されている。
【0025】
一対のスクラップ箱110は、
図1Aに示すように、倒れ込み抑制部材105の下方に配置されている。そして、スクラップ箱110は、板材1から切断された端部3を収容する。
【0026】
また、
図1A及び
図1Bに示すように、下刃101の端面101a、及び板押さえ104の端面104aは、鉛直方向Zから見た場合に、
図7Aに示す板材1の切断線2に沿った曲線形状を有している。また、上刃102の端面102a及び倒れ込み抑制部材105の側端面105cも、鉛直方向Zから見た場合に、板材1の切断線2に沿った曲線形状を有している。すなわち、倒れ込み抑制部材105は、上刃102の端面102aに沿った形状を有している。
【0027】
倒れ込み抑制部材105の天板面105aの幅W(板材1の切断線2に交差する方向における天板面105aの長さ:
図1C参照)は、倒れ込み抑制部材105が曲線形状を有しているため、天板面105aの長手方向に沿って変化する。天板面105aの幅Wの最大寸法は、板材1の切断幅w(すなわち、切除された板材1の端部3の幅:
図7A参照)の最小寸法の0.5倍よりも小さいことが好ましい。これにより、切断された板材1の端部3の重心が、倒れ込み抑制部材105の天板面105a上に位置しないため、板材1の端部3を下方に落下させることができる。なお、天板面105aの幅Wの最大寸法は、例えば、30mm以下である。
一方、天板面105aの幅Wの最小寸法は、板材1の板厚以上であることが好ましい。この場合、倒れ込み抑制部材105の厚さを増すことができ、倒れ込み抑制部材105の強度を向上させることができる。
【0028】
次に、切断加工装置100を用いて、板材1の端部3を切除して、被加工材7を得る方法について説明する。まず、
図1A及び
図1Cに示すように、板材1を下刃101と板押さえ104との間に配置して、下刃101及び板押さえ104により、板材1の被加工材部分4を挟持する。その後、板材1の端部3を、上刃102及び倒れ込み抑制部材105により挟持する。この際、板材1の端部3は、倒れ込み抑制部材105に設けられた弾性体107により、加圧されている。
【0029】
続いて、上刃102を下降させ(上刃102を下刃101に向かって接近させ)、板材1の端部3を切断する。この際、倒れ込み抑制部材105が、板材1の端部3を加圧しているため、板材1の端部3の倒れ込み(
図11参照)を抑制することができる。そのため、板材1に張力(板材1の切断線2に交差する方向における張力)が作用することを防止するとともに、下刃101が板材1に食い込みやすくなる。その結果、上刃102から亀裂を生じさせるとともに、下刃101からも亀裂を生じさせることができるので、被加工材7にバリが発生することを抑制することができる。
【0030】
最後に、
図2に示すように、上刃102を上昇させて、板材1の切断が終了する。この際、上刃102が上昇することにより、切断後の板材1の端部3の挟持が解かれるので、端部3は、上刃102の押圧バー109により外力を受けて落下する。そのため、切断後の板材1の端部3を確実に落下させることができるので、切断作業の効率化を図ることができる。そして、倒れ込み抑制部材105の下方にスクラップ箱110が設けられているので(
図1A参照)、端部3は、倒れ込み抑制部材105の傾斜面105bにガイドされてスクラップ箱110に収容される。
【0031】
以上の工程により、切断加工装置100を用いて、板材1から被加工材7を得ることができる。そして、被加工材7に対して、
図9に示すプレス成形装置20を用いて伸びフランジ成形を行うことにより、伸びフランジ成形部を有するプレス成形品を製造することができる。この際、被加工材7は、バリが抑制されているため、伸びフランジ成形する際の成形不良発生を抑制することができる。その結果、プレス成形品の歩留り低下および製造コスト上昇を抑制でき、プレス成形品を高い歩留りで量産することができる。
【0032】
以上に説明した、本実施形態に係る切断加工装置100によれば、板材1の端部3の下面を倒れ込み抑制部材105により加圧しながら、上刃102を下刃101に接近開始させる。換言すれば、板材1の被加工材部分4及び端部3が同一平面上にある平坦状態を維持したまま(板材1の板厚方向における二面に張力を付与せずに)、上刃102を下刃101に接近開始させる。そのため、板材1の端部3の倒れ込みを抑制することができ、被加工材7にバリが発生することを抑制することができる。したがって、低コストかつ容易にバリ発生を抑制することができる。
【0033】
上述のように、従来の切断加工装置10(
図11参照)では、クリアランスCL/tが大きい場合(例えば10%超)、板材の倒れ込みによりバリが顕著に発生するが、本実施形態に係る切断加工装置100では、板材の倒れ込みを抑制することができるので、クリアランスCL/tが大きい場合でも被加工材7にバリが発生することを抑制することができる。
【0034】
また、板材1は、引張強度が高いほど上記の倒れ込みが生じやすい。したがって、倒れ込み抑制効果の観点からは、板材1は、引張強度440MPa以上の鋼板であることが好ましく、590MPa以上の鋼板であることがより好ましく、980MPa以上の鋼板であることがさらに好ましい。
また、板材1は、板厚が薄いほど上記の倒れ込みが生じやすい。したがって、板材1の板厚が薄いほど、倒れ込み抑制効果が大きくなる。
【0035】
また、板材1では、板材1の切断線2の曲率が−0.07mm
−1以上の場合には、切断時の倒れ込みが顕著に生じる。そのため、切断線2の曲率が−0.07mm
−1以上の場合には、上記の倒れ込み抑制効果が大きくなる。ここで、負の曲率は凹曲線を表し、正の曲率は凸曲線を表す。
一方、板材1の切断線2の曲率が0.20mm
−1を超える場合には、
図9に示すプレス成形装置20を用いて被加工材7を伸びフランジ成形した際に、被加工材7に応力集中が生じ、破断が生じることがある。そのため、伸びフランジ成形時の破断を抑制する観点からは、板材1の切断線2の曲率が0.20mm
−1以下であることが好ましい。
したがって、板材1の切断線2の曲率は、−0.07mm
−1以上0.20mm
−1以下であることが好ましい。
【0036】
なお、上記を換言すれば、板材1は下刃101及び上刃102の形状に沿って切断されるため、下刃101の端面101aの曲率が−0.07mm
−1以上0.20mm
−1以下であることが好ましく、上刃102の端面102aの曲率が−0.20mm
−1以上0.07mm
−1以下であることが好ましい。
【実施例】
【0037】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
【0038】
(実施例1)
本実施形態に係る切断加工装置100を用いて、板材1の端部3を切除し、被加工材を製造した。この際、板材1の切断線2の曲率(曲率半径の逆数)を、下記の表1の条件1〜5の5水準とした(条件3は、切断線2が直線状である場合を示す)。なお、表1の条件1〜3及び5では、倒れ込み抑制部材105の天板面105aの幅Wを3mmとし、クリアランスCL/tを25%とした。一方、表1の条件4では、天板面105aの幅Wを3mmとし、クリアランスCL/tを10%、25%の2水準とした。板材1として、引張強度が980MPaでかつ板厚が1.4mmである鋼板を用いた。倒れ込み抑制部材105の設定荷重(板材1に対する加圧力)は、5.0kNとした。
また、比較のため、
図8に示す従来の切断加工装置10を用いて、同様に被加工材を製造した。
【0039】
【表1】
【0040】
そして、これらの被加工材について、幅方向に垂直な断面を撮影し、バリ高さを測定した。結果を
図3および
図4に示す。
図3に示すように、比較例では、クリアランスCL/tが25%の場合、クリアランスCL/tが10%の場合と比較して、大きなバリが発生した。一方、実施例では、クリアランスCL/tが25%の場合でも、大きなバリが発生しなかった。すなわち、実施例では、クリアランスCL/tが大きい場合であっても、バリ発生が抑制できることを確認できた。
また、
図4に示す結果からも、実施例では、被加工材のバリ発生を抑制できることを確認できた。ただし、条件1では、板材の倒れ込みに起因するバリ高さが小さいため、条件2〜5に比べて、倒れ込み抑制効果が小さいことがわかった。
【0041】
(実施例2)
上記実施例1の場合と同様に、板材1の切断線2の曲率を表1の条件4として、被加工材を製造した。なお、クリアランスCL/tを25%とし、倒れ込み抑制部材105の設定荷重を0.05kN、1.5kN、3.0kN、5.0kNの4水準とした。そして、これらの被加工材に伸びフランジ成形を行って、限界フランジ高さの相対値(限界H/限界H_基準)を求めた。結果を
図5に示す。
【0042】
図5は、倒れ込み抑制部材105の設定荷重と、限界フランジ高さの相対値(限界H/限界_基準)との関係を示すグラフである。なお、
図5において、倒れ込み抑制部材の設定荷重がゼロのプロットは、従来の切断加工装置10を用いて製造された被加工材を伸びフランジ成形した場合を示している。
限界フランジ高さの相対値(限界H/限界_基準)は、約1mmピッチでフランジ高さを高くしていき、エッジ部の割れ、または板厚方向の局所的なくびれが生じない限界フランジ高さ(限界H)を、従来の切断加工装置10を用いてクリアランスCL/t=10%の条件で得られた被加工材の限界フランジ高さ(限界H_基準)で除した値である。
ここで、上記の「フランジ高さ」は、成形されたフランジの根元における立ち上がり曲率部を除いた部分のフランジ高さとする。したがって、クリアランスCL/t=10%の条件で得られた被加工材と同じ高さのフランジが成形できる場合には、限界フランジ高さの相対値(限界H/限界H_基準)は1.0となり、立ち上がり曲率部から出ない程度のフランジ高さしか成形できない場合には、限界フランジ高さの相対値はゼロとなる。
【0043】
従来の切断加工装置10により製造された被加工材には、大きなバリが発生していた。このため、
図5に示すように、この被加工材を伸びフランジ成形した際に破断が生じ、限界フランジ高さの相対値がゼロとなった。
一方、倒れ込み抑制部材の設定荷重を0.05kN以上とした場合、大きなバリが発生することなく、限界フランジ高さの相対値が0.9超となった。この結果より、切断加工装置100は、クリアランスCL/tが25%と大きい場合でも、良好な伸びフランジ成形性を有する被加工材を製造できることを確認できた。
【0044】
(実施例3)
上記実施例2の場合と同様に、板材1の切断線2の曲率を表1の条件4として、被加工材を製造した。なお、倒れ込み抑制部材105の設定荷重を5.0kNとし、倒れ込み抑制部材105の天板面105aの幅Wを3mm、6mm、10mmの3水準とした。そして、上記実施例2の場合と同様に、限界フランジ高さの相対値(限界H/限界_基準)を求めた。結果を
図6に示す。
【0045】
図6は、倒れ込み抑制部材105の天板面105aの幅Wと(限界H/限界_基準)との関係を示すグラフである。なお、
図6において、倒れ込み抑制部材の幅がゼロのプロットは、従来の切断加工装置10を用いて製造された被加工材を伸びフランジ成形した場合を示している。
図6に示すように、従来の切断加工装置10により製造された被加工材には、大きなバリが発生していた。このため、被加工材を伸びフランジ成形した際に破断が生じ、限界フランジ高さの相対値がゼロとなった。
一方、本実施形態に係る切断加工装置100により製造された被加工材には、大きなバリが発生することなく、限界フランジ高さの相対値(限界H/限界_基準)が約1.0となった。この結果からも、切断加工装置100は、クリアランスCL/tが25%と大きい場合でも、良好な伸びフランジ成形性を有する被加工材を製造できることを確認できた。
【0046】
以上、本発明の実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、本発明の範囲が上記実施形態のみに限定されるものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上記実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0047】
例えば、上記実施形態では、板材1の長手方向における端部3を切除する場合を示した。しかしながら、板材1の幅方向における端部を切除するように、切断加工装置100を構成してもよい。また、板材1の周方向における端部を切除するように(板材1の切断線2が一つの閉じた線となるように)切断加工装置100を構成してもよい。
【0048】
また、例えば、上記実施形態では、上刃102が押圧バー109及び弾性体108を有する場合を示した。しかしながら、押圧バー109及び弾性体108を倒れ込み抑制部材105に設けてもよい。また、押圧バー109及び弾性体108に代えて、ガスを板材の端部に吹き付けるガス吹き付け装置を設けてもよい。
【0049】
また、例えば、上記実施形態では、切断加工装置100が、一対の上刃102を備える場合を示した。しかしながら、切断加工装置100は、一つの上刃102を備えてもよい。
【0050】
また、例えば、上記実施形態では、板材1を曲線状に切断する場合を示した。しかしながら、板材1を直線状に切断してもよい。
【0051】
また、例えば、上記実施形態では、倒れ込み抑制部材105が傾斜面105bを有する場合を示した。しかしながら、傾斜面105bを垂直面としてもよい。ただし、弾性体107の配置スペースを確保する点、及び倒れ込み抑制部材105の強度を向上させる点等から、傾斜面105bを設けることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、板材の端部を切除する際のバリ発生を低コストかつ容易に抑制することができる、切断加工装置および切断加工方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0053】
1: 板材
2: 切断線
3: 板材の端部
7: 被加工材
20: プレス成形装置
100: 切断加工装置
101: 下刃(第1の切刃)
102: 上刃(第2の切刃)
104: 板押さえ(第1の当接部)
105: 倒れ込み抑制部材(第2の当接部)
107: 弾性体
110: スクラップ箱
120: 駆動装置(駆動部)