(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
質量%で、C:0.08〜0.20%、Si:0.5%以下、Mn:0.8〜1.8%、P:0.10%以下、S:0.030%以下、Al:0.10%以下、N:0.010%以下を含み、さらにTi:0.01〜0.3%、Nb:0.01〜0.1%、V:0.01〜1.0%の1種あるいは2種以上を下記(1)式で求められるC*が0.07以上となるように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、
フェライト相と焼き戻しベイナイト相の合計が面積率で95%以上であり、かつ、組織の平均粒径が5.0μm以下であり、さらに、析出Fe量が0.10質量%以上、粒径20nm未満の析出物として析出したTi、Nb、Vの析出量が下記(2)式で求められる析出C相当量として0.025質量%以上で、かつ、粒径20nm未満の析出物の半数以上がランダム析出した組織と、を有することを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板。
C*=(Ti/48+Nb/93+V/51)×12 ・・・(1)
ただし、(1)式における各元素記号は、それぞれの元素の含有量(質量%)を表す。
([Ti]/48+[Nb]/93+[V]/51)×12 ・・・(2)
ただし、(2)式における[Ti]、[Nb]、[V]は、粒径20nm未満の析出物として析出したTi、Nb、Vそれぞれの析出量(質量%)を表す。
前記組成に加えてさらに、質量%で、Mo:0.005〜0.50%、Ta:0.005〜0.50%、W:0.005〜0.50%の1種あるいは2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の溶融亜鉛めっき鋼板。
前記組成に加えてさらに、質量%で、Cr:0.01〜1.0%、Ni:0.01〜1.0%、Cu:0.01〜1.0%の1種あるいは2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の溶融亜鉛めっき鋼板。
前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.0005〜0.01%、REM:0.0005〜0.01%の1種あるいは2種を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の溶融亜鉛めっき鋼板。
請求項1〜6のいずれかに記載の組成を有する鋼を鋳造してスラブとし、該スラブを、鋳造後そのまま、あるいは、一旦冷却した後に1200℃以上に再加熱したのちに、粗圧延を行い、
粗圧延終了後、mスタンドからなる仕上げ圧延でのnスタンド目の圧下率をrn、nスタンド目のスタンド入側の温度をTn(℃)、nスタンドでの蓄積歪RnをRn=rn(1−exp{−11000(1+C*)/(Tn+273)+8.5})としたとき、蓄積歪R1〜Rmの合計である累積歪を0.7以上とするとともに、仕上げ圧延出側温度を850℃以上とする仕上げ圧延を行い、
仕上げ圧延終了後、仕上げ圧延出側温度から650℃までの温度域を平均冷却速度30℃/s以上で冷却し、巻き取り温度を350℃以上600℃以下として巻き取り、酸洗したのち、
均熱温度を650〜770℃とし、均熱時間を10〜300sとする焼鈍を行い、
焼鈍後、420〜500℃の亜鉛めっき浴に浸漬して溶融亜鉛めっきを行った後、400〜200℃の温度域を平均冷却速度10℃/s以下で冷却することを特徴とする、
フェライト相と焼き戻しベイナイト相の合計が面積率で95%以上であり、かつ、組織の平均粒径が5.0μm以下であり、さらに、析出Fe量が0.10質量%以上、粒径20nm未満の析出物として析出したTi、Nb、Vの析出量が下記(2)式で求められる析出C相当量として0.025質量%以上で、かつ、粒径20nm未満の析出物の半数以上がランダム析出した組織を有する溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
ただし、上記蓄積歪Rnの算出式におけるexp{−11000(1+C*)/(Tn+273)+8.5}が1を超える場合は1とする。
([Ti]/48+[Nb]/93+[V]/51)×12 ・・・(2)
ただし、(2)式における[Ti]、[Nb]、[V]は、粒径20nm未満の析出物として析出したTi、Nb、Vそれぞれの析出量(質量%)を表す。
前記420〜500℃の亜鉛めっき浴に浸漬して溶融亜鉛めっきを行った後、460〜600℃まで再加熱し1s以上保持した後に、400〜200℃の温度域を平均冷却速度10℃/s以下で冷却することを特徴とする請求項7に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
前記400〜200℃の温度域を平均冷却速度10℃/s以下で冷却した後、さらに0.1〜3.0%の板厚減少率とする加工を施すことを特徴とする請求項7または8に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1、特許文献2に記載の技術では、打ち抜き性が十分でないという問題があった。また、特許文献3に記載の技術では、析出強化によって大きく高強度化した場合、打ち抜き性が改善できないという問題があった。さらに特許文献4に記載の技術でも、打ち抜きのクリアランスが大きくなった場合には打ち抜き性が劣化するという問題があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、打ち抜き性により優れた溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果なされたものであり、以下の構成を有する。
[1]質量%で、C:0.08〜0.20%、Si:0.5%以下、Mn:0.8〜1.8%、P:0.10%以下、S:0.030%以下、Al:0.10%以下、N:0.010%以下を含み、さらにTi:0.01〜0.3%、Nb:0.01〜0.1%、V:0.01〜1.0%の1種あるいは2種以上を下記(1)式で求められるC
*が0.07以上となるように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、フェライト相と焼き戻しベイナイト相の合計が面積率で95%以上であり、かつ、組織の平均粒径が5.0μm以下であり、さらに、析出Fe量が0.10質量%以上、粒径20nm未満の析出物として析出したTi、Nb、Vの析出量が下記(2)式で求められる析出C相当量として0.025質量%以上で、かつ、粒径20nm未満の析出物の半数以上がランダム析出した組織と、を有することを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板。
C
*=(Ti/48+Nb/93+V/51)×12 ・・・(1)
ただし、(1)式における各元素記号は、それぞれの元素の含有量(質量%)を表す。
([Ti]/48+[Nb]/93+[V]/51)×12 ・・・(2)
ただし、(2)式における[Ti]、[Nb]、[V]は、粒径20nm未満の析出物として析出したTi、Nb、Vそれぞれの析出量(質量%)を表す。
[2]前記組成に加えてさらに、質量%で、Mo:0.005〜0.50%、Ta:0.005〜0.50%、W:0.005〜0.50%の1種あるいは2種以上を含有することを特徴とする[1]に記載の溶融亜鉛めっき鋼板。
[3]前記組成に加えてさらに、質量%で、Cr:0.01〜1.0%、Ni:0.01〜1.0%、Cu:0.01〜1.0%の1種あるいは2種以上を含有することを特徴とする[1]または[2]に記載の溶融亜鉛めっき鋼板。
[4]前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.0005〜0.01%、REM:0.0005〜0.01%の1種あるいは2種を含有することを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の溶融亜鉛めっき鋼板。
[5]前記組成に加えてさらに質量%で、Sb:0.005〜0.050%を含有することを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の溶融亜鉛めっき鋼板。
[6]前記組成に加えてさらに質量%で、B:0.0005〜0.0030%を含有することを特徴とする[1]〜[5]のいずれかに記載の溶融亜鉛めっき鋼板。
[7][1]〜[6]のいずれかに記載の組成を有する鋼を鋳造してスラブとし、該スラブを、鋳造後そのまま、あるいは、一旦冷却した後に1200℃以上に再加熱したのちに、粗圧延を行い、粗圧延終了後、mスタンドからなる仕上げ圧延でのnスタンド目の圧下率をr
n、nスタンド目のスタンド入側の温度をT
n(℃)、nスタンドでの蓄積歪R
nをR
n=r
n(1−exp{−11000(1+C
*)/(T
n+273)+8.5})としたとき、蓄積歪R
1〜R
mの合計である累積歪を0.7以上とするとともに、仕上げ圧延出側温度を850℃以上とする仕上げ圧延を行い、仕上げ圧延終了後、仕上げ圧延出側温度から650℃までの温度域を平均冷却速度30℃/s以上で冷却し、巻き取り温度を350℃以上600℃以下として巻き取り、酸洗したのち、均熱温度を650〜770℃とし、均熱時間を10〜300sとする焼鈍を行い、焼鈍後、420〜500℃の亜鉛めっき浴に浸漬して溶融亜鉛めっきを行った後、400〜200℃の温度域を平均冷却速度10℃/s以下で冷却することを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
ただし、上記蓄積歪R
nの算出式におけるexp{−11000(1+C
*)/(T
n+273)+8.5}が1を超える場合は1とする。
[8]前記420〜500℃の亜鉛めっき浴に浸漬して溶融亜鉛めっきを行った後、460〜600℃まで再加熱し1s以上保持した後に、400〜200℃の温度域を平均冷却速度10℃/s以下で冷却することを特徴とする[7]に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[9]前記400〜200℃の温度域を平均冷却速度10℃/s以下で冷却した後、さらに0.1〜3.0%の板厚減少率とする加工を施すことを特徴とする[7]または[8]に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0008】
本発明により打ち抜き性が向上するメカニズムは必ずしも明らかではないが、つぎのように考えられる。すなわち、Feの炭化物であるセメンタイトとランダム析出した20nm未満の微細な析出物(微細析出物)により、打ち抜き時にセメンタイトがボイドの起点となり、特定の分布をもっていない微細析出物が打ち抜き方向への亀裂の進展を促進するとともに、組織の結晶粒径を小さくすることで、特定方向に亀裂が大きく伸展するのを防止でき、打ち抜き端面を平滑にすることができる。
【0009】
なお、本発明が対象とする鋼板は、溶融亜鉛めっき鋼板、および、合金化溶融亜鉛めっき鋼板である。さらに、その上に化成処理などにより皮膜を形成した鋼板も含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明の溶融亜鉛めっき鋼板は、打ち抜き性により優れる。
本発明の溶融亜鉛めっき鋼板は、打ち抜き時のクリアランスが大きい場合でも優れた打ち抜き性を有する。
本発明によれば、C、Si、Mn、P、S、Al、N、および、Ti、Nb、V量を制御した鋼スラブを、熱間圧延するに際し、圧下率と圧延温度、および、圧延後の冷却速度と巻取温度を制御し、さらに焼鈍して溶融亜鉛めっきを行い、冷却するに際し、均熱温度、均熱時間、および、冷却速度を制御し、粒径20nm未満の析出物をランダムに析出させるともにセメンタイトも析出させた所定の組織とすることで、高強度で、かつ、打ち抜き性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができ、工業上有効な効果がもたらされる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を具体的に説明する。
はじめに、本発明に係る溶融亜鉛めっき鋼板の成分組成について説明する。以下において含有量の単位「%」は、特にことわらない限り「質量%」を意味する。
【0013】
[成分組成]
C:0.08〜0.20%
Cは、Ti、Nb、Vと微細な炭化物を形成し、強度向上に寄与するとともに、Feとセメンタイトを形成し、打ち抜き性の向上にも寄与する。そのためCの含有量は0.08%以上とする必要がある。一方、多量のCはマルテンサイト変態を促進してしまうとともに、Ti、Nb、Vとの微細な炭化物形成を抑制してしまう。また、過剰なCは、溶接性を低下させるともに、靭性や成型性を大きく低下させてしまう。したがって、Cの含有量は0.20%以下とする必要がある。Cの含有量は、好ましくは0.15%以下であり、さらに好ましくは0.12%以下である。
【0014】
Si:0.5%以下
Siは、鋼板表面に酸化物を形成して、不めっきを生じさせる。さらに、フェライト変態を促進することで、粒径20nm未満の微細析出物(Ti、Nb、V系炭化物)を列状に析出させ、ランダム析出するのを阻害するだけでなく、組織の結晶粒径も大きくしてしまう。そのためSiの含有量は、0.5%以下とする必要がある。Siの含有量は、好ましくは0.2%以下であり、より好ましくは0.1%以下であり、さらに好ましくは0.05%以下である。Siの含有量の下限はとくに規定しないが、不可避的不純物として0.005%含まれていても問題ない。
【0015】
Mn:0.8〜1.8%
Mnは、フェライト変態を遅延し、結晶粒径を小さくするとともに、固溶強化により高強度化にも寄与する。このような効果を得るため、Mnの含有量は0.8%以上とする必要がある。Mnの含有量は、好ましくは1.0%以上である。一方、多量のMnはスラブ割れを引き起こすとともに、マルテンサイト変態を促進させてしまう。そのため、Mnの含有量は1.8%以下とする必要がある。Mnの含有量は、好ましくは1.5%以下である。
【0016】
P:0.10%以下
Pは、溶接性を低下させるとともに、粒界に偏析して延性、曲げ性や靭性を劣化させる。さらに多量に添加すると、フェライト変態を促進することで微細析出物を列状に析出させ、微細析出物がランダム析出するのを阻害するだけでなく、結晶粒径も大きくしてしまう。そのため、Pの含有量は0.10%以下とする必要がある。Pの含有量は、好ましくは0.05%以下であり、より好ましくは0.03%以下であり、さらに好ましくは0.01%以下である。Pの含有量の下限はとくに規定しないが、不可避的不純物として0.005%含まれていても問題ない。
【0017】
S:0.030%以下
Sは、溶接性を低下させるとともに、熱間での延性を著しく低下させることで、熱間割れを誘発し、表面性状を著しく劣化させる。さらに、Sは、強度にほとんど寄与しないばかりか、不純物元素として粗大な硫化物を形成することにより、延性、曲げ性、伸びフランジ性を低下させる。これらの問題はSの含有量が0.030%を超えると顕著となり、Sの含有量は極力低減することが望ましい。したがって、Sの含有量は0.030%以下とする必要がある。Sの含有量は、好ましくは0.010%以下であり、より好ましくは0.003%以下であり、さらに好ましくは0.001%以下である。Sの含有量の下限はとくに規定しないが、不可避的不純物として0.0001%含まれていても問題ない。
【0018】
Al:0.10%以下
Alを多く添加すると、フェライト変態を促進することで微細析出物を列状に析出させ、微細析出物がランダムに析出するのを阻害するだけでなく、結晶粒径も大きくしてしまう。さらに、表面にAlの酸化物を生成して不めっきを生じさせる。したがってAlの含有量は0.10%以下とする必要がある。Alの含有量は、好ましくは0.06%以下である。Alの含有量の下限は特に規定しないが、Alキルド鋼として0.01%含まれても問題ない。
【0019】
N:0.010%以下
Nは、Ti、Nb、Vと高温で粗大な窒化物を形成し強度にあまり寄与しないことから、Ti、Nb、V添加による高強度化の効果を小さくしてしまうだけでなく、靭性の低下も招いてしまう。さらに多量に含有すると、熱間圧延中にスラブ割れを伴い、表面疵が発生する恐れがある。したがって、Nの含有量は0.010%以下とする必要がある。Nの含有量は、好ましくは0.005%以下であり、より好ましくは0.003%以下であり、さらに好ましくは0.002%以下である。Nの含有量の下限はとくに規定しないが、不可避的不純物として0.0005%含まれていても問題ない。
【0020】
Ti:0.01〜0.3%、Nb:0.01〜0.1%、V:0.01〜1.0%の1種あるいは2種以上をC
*=(Ti/48+Nb/93+V/51)×12≧0.07
Ti、Nb、Vは、Cと微細な炭化物を形成し、高強度化に寄与する。このような作用を得るためには、Ti、Nb、Vの少なくとも1種の含有量を0.01%以上とし、さらにTi、Nb、Vの含有量を下記(1)式で求められるC
*が0.07以上とする必要がある。一方、Ti、Nb、Vをそれぞれ0.3%、0.1%、1.0%を超えて多量に添加しても、高強度化の効果はあまり大きくならない反面、微細析出物が多量に析出し靭性が低下することから、Ti、Nb、Vの含有量の上限は、それぞれ0.3%、0.1%、1.0%とする必要がある。
C
*=(Ti/48+Nb/93+V/51)×12 ・・・(1)
ただし、(1)式における各元素記号は、それぞれの元素の含有量(質量%)を表す。なお含有しない元素は0とする。
【0021】
残部はFeおよび不可避的不純物である。本発明では、さらに、強度、打ち抜き性を向上させることを目的に、つぎの元素を添加することができる。
【0022】
Mo:0.005〜0.50%、Ta:0.005〜0.50%、W:0.005〜0.50%の1種あるいは2種以上
Mo、Ta、Wは、Cと微細析出物を形成することで高強度化に寄与する。このような効果を得るため、Mo、Ta、Wを添加する場合には、Mo、Ta、Wの少なくとも1種を0.005%以上添加することが好ましい。一方、多量にMo、Ta、Wを添加しても高強度化の効果はあまり大きくならない反面、微細析出物が多量に析出し靭性が低下することから、Mo、Ta、Wを添加する場合には、Mo、Ta、Wの含有量をそれぞれ0.50%以下とすることが好ましい。
【0023】
Cr:0.01〜1.0%、Ni:0.01〜1.0%、Cu:0.01〜1.0%の1種あるいは2種以上
Cr、Ni、Cuは、組織を細粒化するとともに固溶強化元素として作用することで高強度化と打ち抜き性の向上に寄与する。このような効果を得るため、Cr、Ni、Cuを添加する場合には、Cr、Ni、Cuの少なくとも1種を0.01%以上添加することが好ましい。一方、Cr、Ni、Cuを多量に添加しても効果が飽和するだけでなくめっき性を阻害することから、Cr、Ni、Cuを添加する場合には、Cr、Ni、Cuの含有量をそれぞれ1.0%以下とすることが好ましい。
【0024】
Ca:0.0005〜0.01%、REM:0.0005〜0.01%の1種あるいは2種
Ca、REMは、硫化物の形態を制御することで延性、靭性を向上させることができる。このような効果を得るためCa、REMを添加する場合には、Ca、REMの少なくとも1種を0.0005%以上添加することが好ましい。一方、Ca、REMの多量の添加により逆に延性が損なわれるおそれがあることから、Ca、REMを添加する場合には、Ca、REMの含有量をそれぞれ0.01%以下とすることが好ましい。
【0025】
Sb:0.005〜0.050%
Sbは、熱間圧延時において表面に偏析することから、スラブが窒化するのを防止することで粗大な窒化物の形成を抑制することができる。このような効果を得るためSbを添加する場合には、Sbを0.005%以上添加することが好ましい。一方、多量にSbを添加しても効果が飽和するだけでなく加工性が劣化することから、Sbを添加する場合は、Sbの含有量を0.050%以下とすることが好ましい。
【0026】
B:0.0005〜0.0030%
Bは、組織を細粒化することで、打ち抜き性向上に寄与することができる。このような効果を得るため、Bを含有させる場合は、Bの含有量を0.0005%以上とすることが好ましく、0.0010%以上とすることがより好ましい。一方、多量のBは熱間圧延時の圧延荷重を上昇させてしまう恐れがあることから、Bを含有する場合は、Bの含有量を0.0030%以下とすることが好ましく、0.0020%以下とすることがより好ましい。
その他、Sn、Mg、Co、As、Pb、Zn、Oなどの不純物を合計で0.5%以下含んでいても、特性には問題ない。
【0027】
次に、本発明の溶融亜鉛めっき鋼板の組織について説明する。
【0028】
フェライト相と焼き戻しベイナイト相の合計が面積率で95%以上
フェライト相や焼き戻しベイナイト相は延性に優れることから、フェライト相と焼き戻しベイナイト相の合計を面積率で95%以上とする必要がある。フェライト相と焼き戻しベイナイト相の合計は、面積率で好ましくは98%以上、より好ましくは100%である。
【0029】
組織の平均粒径:5.0μm以下
組織の平均粒径が大きいと打ち抜き性が劣化することから、組織の平均粒径(全組織の平均結晶粒径)は5.0μm以下とする必要がある。組織の平均粒径は好ましくは3.0μm以下である。
【0030】
析出Fe量:0.10質量%以上
セメンタイトは打ち抜き時にボイドの起点として作用し、打ち抜き性の向上に寄与する。そのためセメンタイトして析出するFe量(析出Fe量)は0.10質量%以上とする必要がある。析出Fe量は、好ましくは0.20質量%以上である。一方、析出Fe量の上限はとくに規定しないが、多量のセメンタイトは穴広げ性などの成形性や靭性を劣化させるため、析出Fe量は、0.60質量%以下とするのが好ましく、0.40質量%以下とするのがより好ましい。
【0031】
粒径20nm未満の析出物として析出したTi、Nb、Vの析出C相当量:0.025質量%以上
粒径20nm未満の析出物は強度に寄与する。このような作用を得るため、粒径20nm未満の析出物として析出したTi、Nb、Vの析出量を下記(2)式で求められる析出C相当量で0.025質量%以上とする必要がある。前記析出C相当量は、好ましくは0.035質量%以上である。一方、前記析出C相当量の上限はとくに規定しないが、粒径20nm未満の析出物が多くなると靭性が低下することから、前記析出C相当量は、0.10質量%以下が好ましく、0.08質量%以下がより好ましく、0.05質量%以下がさらに好ましい。
([Ti]/48+[Nb]/93+[V]/51)×12 ・・・(2)
ただし、(2)式における[Ti]、[Nb]、[V]は、粒径20nm未満の析出物として析出したTi、Nb、Vそれぞれの析出量(質量%)である。
【0032】
粒径20nm未満の析出物の半数以上がランダム析出
粒径20nm未満の析出物が特定の分布をもっている、すなわち、一方向に列状に析出していると、打ち抜き時に亀裂が特定の分布方向に伸展し、打ち抜き端面が大きく割れてしまう。このような端面割れは、粒径20nm未満の析出物の半数より多くが特定の分布を持った場合に顕著になることから、粒径20nm未満の析出物の半数以上はランダム析出とする必要がある。なお、本発明において、粒径20nm未満の析出物のうちランダム析出した析出物の割合は、実施例に記載の方法により求められる。
【0033】
本発明の溶融亜鉛めっき鋼板のTSは特に規定しないが、980MPa以上が好ましい。板厚も特に規定しないが、4.0mm以下が好ましく、より好ましくは3.0mm以下、さらに好ましくは2.0mm以下、さらにより好ましくは1.5mm以下である。板厚の下限は熱間圧延で製造可能な1.0mm程度でよい。
【0034】
つぎに本発明の溶融亜鉛めっき鋼板の製造条件について説明する。なお、以下の説明において、温度は鋼板等の表面温度とする。
【0035】
本発明では、上記した組成を有する鋼を鋳造した鋼素材(スラブ)を出発素材とする。
出発素材の製造方法は、とくに限定されず、例えば、上記した組成の溶鋼を転炉等の常用の溶製方法で溶製し、連続鋳造法等の鋳造方法で鋼素材(スラブ)とする方法等が挙げられる。
【0036】
スラブ:鋳造後そのまま、あるいは、一旦冷却した後に1200℃以上に再加熱
Ti、Nb、Vを微細に析出させるためには、圧延開始前にスラブ中に析出している析出物を固溶させる必要がある。そのため、鋳造後のスラブをそのまま(高温のまま)熱間圧延機の入側に搬送し粗圧延を開始するか、あるいは、一旦冷却して温片や冷片となり、Ti、Nb、Vが析出物として析出してしまったスラブを1200℃以上に再加熱したのち粗圧延を開始する必要がある。1200℃以上での保持時間は特に規定しないが、好ましくは10分以上、より好ましくは30分以上である。また、再加熱温度は、好ましくは1220℃以上、より好ましくは1250℃以上である。
【0037】
仕上げスタンドでの累積歪:0.7以上
粗圧延終了後、仕上げスタンドで仕上げ圧延を行う。この際、仕上げスタンドでの累積歪を制御することで、組織の結晶粒径を小さくすることができる。そのため、mスタンドからなる仕上げ圧延でのnスタンド目の圧下率をr
n、nスタンド目のスタンド入側の温度をT
n(℃)、nスタンドでの蓄積歪R
nをR
n=r
n(1−exp{−11000(1+C
*)/(T
n+273)+8.5})としたとき、蓄積歪の合計である累積歪R
t(R
t=R
1+R
2+・・・+R
m)を0.7以上とする必要がある。累積歪R
tは、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.5以上である。累積歪R
tの上限は特に規定しないが、2.0程度で十分である。
nスタンド目の圧下率r
nは、nスタンドの入側の板厚をt
n−1、出側の板厚をt
nとすると、r
n=−ln(t
n/t
n−1)と定義する。
【0038】
仕上げ圧延出側温度:850℃以上
仕上げ圧延の出側温度が低くなると、歪誘起析出によりTi、Nb、Vの炭化物が粗大に析出してしまう。そのため、仕上げ圧延出側温度(仕上げ最終圧延出側の温度)は、850℃以上とする必要がある。仕上げ圧延出側温度は、好ましくは880℃以上である。仕上げ圧延出側温度の上限は特に規定しないが、950℃程度で十分である。
【0039】
仕上げ圧延出側温度から650℃までの温度域の平均冷却速度:30℃/s以上
仕上げ圧延終了後、仕上げ圧延出側温度から650℃までの温度域の冷却速度が小さいと、フェライト変態が高温で起こり、組織の平均粒径が大きくなるとともに、Ti、Nb、Vの炭化物が粗大に析出してしまう。また、変態時にオーステナイトとフェライトの界面でTi、Nb、Vの炭化物が析出する相界面析出が起こることから、析出物が特定の分布をもつことになり打ち抜き性が劣化してしまう。したがって、仕上げ圧延出側温度から650℃までの温度域の平均冷却速度は30℃/s以上とする必要がある。前記平均冷却速度は、好ましくは50℃/s以上、さらに好ましくは80℃/s以上である。前記平均冷却速度の上限はとくに規定しないが、温度制御の観点から200℃/s程度で十分である。
【0040】
巻き取り温度:350℃以上600℃以下
巻き取り温度が高いとフェライト変態が促進し、変態時にオーステナイトとフェライトの界面でTi、Nb、Vの炭化物が析出する相界面析出が起こることから、析出物が特定の分布をもつことになり打ち抜き性が劣化してしまう。そのため、巻き取り温度は600℃以下とする必要がある。巻き取り温度は、好ましくは550℃以下である。一方、巻き取り温度が低いとベイナイト変態が抑制され、マルテンサイト変態が促進されてしまう。そのため、巻き取り温度は350℃以上とする必要がある。巻き取り温度は、好ましくは400℃以上である。
【0041】
次いで、巻き取り後の熱延コイルを酸洗したのち、焼鈍を行う。
【0042】
均熱温度:650〜770℃の温度域
焼鈍時の均熱温度が低いと、Ti、Nb、Vの炭化物が析出せず、均熱温度を高くすることで、Ti、Nb、Vの炭化物をランダムに微細析出させることができる。そのため均熱温度は650℃以上とする必要がある。均熱温度は、好ましくは700℃以上、より好ましくは730℃以上である。一方、均熱温度が高くなりすぎるとTi、Nb、Vの炭化物が粗大化するとともに、均熱時にオーステナイト変態がおこり、その後の冷却でベイナイトやマルテンサイト変態が進行してしまう。そのため、均熱温度は770℃以下とする必要がある。
【0043】
均熱時間(均熱温度温度域での滞留時間):10〜300s
均熱時の均熱時間が短いと、Ti、Nb、Vの炭化物が十分に析出しない。そのため均熱時の均熱時間は10s以上とする必要があり、好ましくは30s以上である。一方、均熱時間が長くなると、Ti、Nb、Vの炭化物が粗大化するとともに、結晶粒径も大きくなってしまう。したがって、均熱時間は300s以下とする必要がある。均熱時間は、好ましくは150s以下である。
【0044】
焼鈍後、420〜500℃の亜鉛めっき浴に浸漬して溶融亜鉛めっきを行った後、冷却する。
【0045】
400〜200℃の温度域を平均冷却速度10℃/s以下で冷却
亜鉛めっき浴浸漬後の冷却速度が大きいと、セメンタイトの析出が抑制され打ち抜き性が劣化してしまう。したがってセメンタイトが微細に析出する400〜200℃の温度域を10℃/s以下で冷却する必要がある。
【0046】
なお、亜鉛めっき浴浸漬後、460〜600℃まで再加熱をおこない1s以上保持することで合金化溶融亜鉛めっき鋼板としてもよい。前記保持時間は1〜10sが好ましい。
【0047】
さらに、上記めっき後の鋼板に、軽加工を加えることで可動転位を増やし、打ち抜き性を高めてもよい。このような軽加工としては、板厚減少率を0.1%以上とする加工が挙げられる。板厚減少率は、好ましくは0.3%以上である。一方、板厚減少率が大きくなると、転位の相互作用で転位が移動しにくくなり、打ち抜き性が低下することから、かかる加工を付与する場合には、板厚減少率を3.0%以下とすることが好ましく、2.0%以下とすることがより好ましく、1.0%以下とすることがさらに好ましい。ここで、上記加工を施すに際しては、圧延ロールによる圧下を加えてもよいし、鋼板にテンションを加えた引張りによる加工を施してもよい。さらに、圧延と引張りの両方の加工を施してもよい。
【実施例】
【0048】
本発明の実施例について説明する。
表1に示す成分組成の鋼を連続鋳造してスラブとし、1250℃に再加熱したのちに、粗圧延を行い、その後、表2に示す条件で、仕上げ圧延(7スタンド)、冷却、巻き取りを行い、熱延コイルとし、酸洗したのちに、焼鈍し、470℃の亜鉛めっき浴に浸漬してめっきを行い、供試体No.1〜30の溶融亜鉛めっき鋼板を得た。さらに、前記供試体のいくつかについては、めっき後に、表2に示す再加熱処理、板厚減少率とする加工を施した。なお、表2において再加熱温度、保持時間、板厚減少率の欄の「−」は、その処理を行っていないことを示す。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
上記供試体から、試験片を採取し、析出物測定、組織観察、引張り試験、打ち抜き試験を行った。試験方法はつぎの通りとした。
【0052】
(析出Fe量)
析出Fe量は、試験片を板厚1/4まで研削した電解用試験片を陽極として10%AA系電解液(10体積%アセチルアセトン−1質量%テトラメチルアンモニウムクロライド−メタノール電解液)中で定電流電解により一定量溶解し、その後、電解によって得られた抽出残渣を孔径0.2μmのフィルターを用いて濾過してFe析出物を回収し、ついで回収されたFe析出物を混酸で溶解した後、ICP発光分光分析法によってFeを定量し、その測定値からFe析出物中のFe量(析出Fe量)を求めた。なお、Fe析出物は凝集するため、孔径0.2μmのフィルターを用いて濾過を行うことで、粒径0.2μm未満のFe析出物も回収することが可能である。
【0053】
(粒径20nm未満の析出物として析出したTi、Nb、Vの析出C相当量)
粒径20nm未満の析出物として析出したTi、Nb、V量は、特許第4737278号公報に示されるように、試験片を板厚1/4まで研削した電解用試験片を陽極として10%AA系電解液中で定電流電解を行い、この電解用試験片を一定量溶解した後、該電解用試験片表面に付着した析出物を分散液中で超音波剥離した分散液を、孔径20nmのフィルターを用いて濾過し、ついで、得られた濾液中のTi、Nb、V量を、ICP発光分光分析法により分析して求めた。なお、Ti、Nb、Vの析出物はすべて該電解用試験片表面に付着するため、前記分散液中にはTi、Nb、Vの全析出物が分散している。そして、Ti、Nb、Vの析出物の全てが炭化物であったとして、粒径20nm未満の析出物として析出したTi、Nb、Vのそれぞれの析出量(質量%)を[Ti]、[Nb]、[V]としたとき、([Ti]/48+[Nb]/93+[V]/51)×12より計算した値を、粒径20nm未満の析出物として析出したTi、Nb、Vの析出C相当量とした。
【0054】
(粒径20nm未満の析出物のうちランダム析出した析出物の比率)
粒径20nm未満の析出物のうちランダム析出した析出物については、試験片から薄膜用試験片を採取し、これを研磨して薄膜試料としたのち、透過型電子顕微鏡(TEM)観察を{111}面からおこない、列状析出していないものをランダム析出としてその割合(粒径20nm未満の全析出物の個数に対する、ランダム析出した粒径20nm未満の析出物の個数の割合)を求めた。なお、「粒径20nm未満の析出物の半数以上がランダム析出した」とは、粒径20nm未満の全析出物の半数以上がランダム析出したこと、すなわち、[(ランダム析出した粒径20nm未満の析出物の個数/粒径20nm未満の全析出物の個数)×100]で求められるランダム析出した析出物の比率が50%以上であることを意味する。また、一方向のみからの観察では列状析出していてもランダム析出に見えることがあるため、{111}面から観察して列状析出していないものは、さらに90°傾けても列状析出していないものに限りランダム析出とした。そして、上記観察を10箇所について行い、ランダム析出した析出物の割合を求めその平均値を粒径20nm未満の析出物のうちランダム析出物した析出物の比率(析出物ランダム比)とした。
【0055】
(組織観察)
フェライト相および焼き戻しベイナイト相の面積率は、試験片から採取した組織観察用試験片の圧延方向−板厚方向断面を埋め込み研磨し、ナイタール腐食後、走査型電子顕微鏡(SEM)にて板厚1/4部を中心とし倍率1000倍として100×100μm領域の写真を3枚撮影し、そのSEM写真を画像処理することにより求めた。さらに組織の平均粒径は、試験片から採取した組織観察用試験片の圧延方向−板厚方向断面を埋め込み研磨し、ナイタール腐食後、板厚1/4部を中心として測定ステップ0.1μmで100×100μm領域のEBSD(Electron Back Scatter Diffraction)測定を3か所おこない、方位差15°以上を粒界として、その各々の面積を円換算して直径を求め、それらの直径の平均値を平均粒径とした。
【0056】
(引張り試験)
引張り試験は、圧延直角方向を長手としてJIS5号引張り試験片を切り出し、JIS Z2241に準拠して引張り試験をおこない、降伏強度(YP)、引張強度(TS)、全伸び(El)を評価した。
【0057】
(打ち抜き試験)
打ち抜き試験は、各試験片に対して直径10mmの穴をクリアランス5〜30%で5%刻みに3回ずつ打ち抜き、もっとも悪い端面状態のサンプルを拡大鏡にて観察し、端面の大きな割れが観察された場合(×)、微小亀裂が観察された場合(△)、割れなし(○)の3段階で評価し、「○」を合格とした。
【0058】
表3に供試体No.1〜30の特性値を示す。
【0059】
【表3】
【0060】
また、
図1に、本発明鋼と、析出Fe量のみが本発明の範囲を外れる比較鋼に関し、析出Fe量と打ち抜き性の関係を示す。析出Fe量を本発明の範囲内とすることで、打ち抜き試験において割れなしとできることがわかる。
図2に、本発明鋼と、析出C相当量のみが本発明の範囲を外れる比較鋼に関し、析出C相当量と打ち抜き性の関係を示す。析出C相当量を本発明の範囲内とすることで、打ち抜き試験において割れなしとできることがわかる。
図3に、本発明鋼と、析出物ランダム比のみが本発明の範囲を外れる比較鋼に関し、析出物ランダム比と打ち抜き性の関係を示す。析出物ランダム比を本発明の範囲内とすることで、打ち抜き試験において割れなしとできることがわかる。
図4に、本発明鋼と、組織の平均粒径のみが本発明の範囲を外れる比較鋼に関し、組織の平均粒径と打ち抜き性の関係を示す。組織の平均粒径を本発明の範囲内とすることで、打ち抜き試験において割れなしとできることがわかる。