(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6424919
(24)【登録日】2018年11月2日
(45)【発行日】2018年11月21日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B60C 5/14 20060101AFI20181112BHJP
B60C 9/08 20060101ALI20181112BHJP
B29D 30/30 20060101ALI20181112BHJP
【FI】
B60C5/14 Z
B60C9/08 Z
B29D30/30
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-82741(P2017-82741)
(22)【出願日】2017年4月19日
(65)【公開番号】特開2018-177111(P2018-177111A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2018年3月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】三好 雅章
【審査官】
増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】
特開平04−176705(JP,A)
【文献】
特開2015−174594(JP,A)
【文献】
特開2010−167829(JP,A)
【文献】
特開平11−005261(JP,A)
【文献】
国際公開第2005/007423(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 5/14
B29D 30/30
B60C 9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、該一対のビード部間に装架されたカーカス層と、前記トレッド部における該カーカス層の外周側に配置されたベルト層と、前記カーカス層に沿ってタイヤ内面に配置されたインナーライナー層と、前記カーカス層と前記インナーライナー層との層間であって、前記一対のビード部の各先端部分を除く領域の全域に亘って配置された部分タイゴム層とを有する空気入りタイヤにおいて、
前記部分タイゴム層のタイヤ幅方向両側の端面がそれぞれ前記部分タイゴム層の前記カーカス層側の面に対して鋭角をなす傾斜面であり、該傾斜面の前記部分タイゴム層の前記カーカス層側の面に対する傾斜角度が20°〜60°であり、前記部分タイゴム層の厚さが0.1mm〜1.0mmであることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記部分タイゴム層を構成するゴムの硬度が50〜70であることを特徴とする請求項
1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記ベルト層のタイヤ幅方向最外側端部から前記インナーライナー層に向けて引いた垂
線Pに対する前記部分タイゴム層の前記ビード部側への突出量L1が15mm以上である
ことを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
未加硫のインナーライナー層またはカーカス層における加硫後の空気入りタイヤの一対
のビード部の各先端部分を除く領域に対応する部位の全域に亘って未加硫の部分タイゴム
層が載置され、該未加硫の部分タイゴム層を介して前記未加硫のインナーライナー層上に
未加硫のカーカス層が積層されたグリーンタイヤを成形し、該グリーンタイヤを内側から
ブラダーで押圧しながら加硫することで、厚さが0.1mm〜1.0mmである部分タイゴム層を備えた空気入りタイヤの製造方法において、
前記未加硫の部分タイゴム層の幅方向両端部にそれぞれ前記未加硫の部分タイゴム層の
一方の面に対して鋭角をなす傾斜面を形成し、該傾斜面の前記一方の面に対する傾斜角度
を20°〜60°とし、前記一方の面が前記未加硫のカーカス層側となる向きで前記未加
硫の部分タイゴム層を前記未加硫のインナーライナー層と前記未加硫のカーカス層との間
に積層することを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーカス層とインナーライナー層との層間の一部に限定的に配置される部分タイゴム層を備えた空気入りタイヤおよびその製造方法に関し、更に詳しくは、部分タイゴム層を採用した場合に懸念される加硫故障を防止し、且つ、部分タイゴム層を採用することによるタイヤ重量や転がり抵抗の低減を充分に発揮することを可能にした空気入りタイヤおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤでは、一般的に、タイヤ製造時に未加硫タイヤをインフレートする際に、カーカスコードがインナーライナー層に喰い込むことを防止するために、カーカス層とインナーライナー層との層間にタイゴム層が配置される。このようなタイゴム層に関して、近年、タイヤ重量や転がり抵抗の低減を図るために、カーカス層とインナーライナー層との層間の全域ではなく左右のショルダー領域に選択的に配置された部分タイゴム層を採用することが提案されている(例えば、特許文献1,2を参照)。
【0003】
確かに、このような部分タイゴム層であれば、カーカス層とインナーライナー層との層間の全域に配置される従来のタイゴム層(フルタイゴム層)と比較してタイゴム層の使用量を低減して、タイヤ重量や転がり抵抗の低減を図ることができる。しかしながら、このような部分タイゴム層は、各ショルダー領域に設けられた各部分タイゴム層が一対の端部(タイヤ赤道側の端部とタイヤ幅方向外側の端部)を有するため、タイヤ構成部材間の剥がれの基点や製造時に未圧着部になる虞がある端部の数が多くなり、タイヤの製造性に影響が出る可能性があった。
【0004】
また、上述の端部の数を考慮して、従来のフルタイゴム層の幅を単純に狭めることでタイゴム層の使用量を低減しようとしても、タイゴム層の端部が上述の剥がれの基点や未圧着部になることが懸念される。そのため、タイゴム層の構造や配置を調整して、空気透過防止性や操縦安定性を良好に維持しながら、タイゴム層の使用量を低減してタイヤ重量の軽減を図るにあたって、エア溜まり等の加硫故障を防止するための更なる改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5239507号公報
【特許文献2】特許第5723086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、カーカス層とインナーライナー層との層間の一部に限定的に配置される形状の部分タイゴム層を採用した場合に懸念される加硫故障を防止し、且つ、部分タイゴム層を採用することによるタイヤ重量や転がり抵抗の低減を充分に発揮することを可能にした空気入りタイヤおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、該一対のビード部間に装架されたカーカス層と、前記トレッド部における該カーカス層の外周側に配置されたベルト層と、前記カーカス層に沿ってタイヤ内面に配置されたインナーライナー層と、前記カーカス層と前記インナーライナー層との層間であって、前記一対のビード部の各先端部分を除く領域の全域に亘って配置された部分タイゴム層とを有する空気入りタイヤにおいて、前記部分タイゴム層のタイヤ幅方向両側の端面がそれぞれ前記部分タイゴム層の前記カーカス層側の面に対して鋭角をなす傾斜面であり、該傾斜面の前記部分タイゴム層の前記カーカス層側の面に対する傾斜角度が20°〜60°であ
り、前記部分タイゴム層の厚さが0.1mm〜1.0mmであることを特徴とする。
【0008】
また、上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤの製造方法は、未加硫のインナーライナー層またはカーカス層における加硫後の空気入りタイヤの一対のビード部の各先端部分を除く領域に対応する部位の全域に亘って未加硫の部分タイゴム層が載置され、該未加硫の部分タイゴム層を介して前記未加硫のインナーライナー層上に未加硫のカーカス層が積層されたグリーンタイヤを成形し、該グリーンタイヤを内側からブラダーで押圧しながら加硫する
ことで、厚さが0.1mm〜1.0mmである部分タイゴム層を備えた空気入りタイヤの製造方法において、前記未加硫の部分タイゴム層の幅方向両端部にそれぞれ前記未加硫の部分タイゴム層の一方の面に対して鋭角をなす傾斜面を形成し、該傾斜面の前記一方の面に対する傾斜角度を20°〜60°とし、前記一方の面が前記未加硫のカーカス層側となる向きで前記未加硫の部分タイゴム層を前記未加硫のインナーライナー層と前記未加硫のカーカス層との間に積層することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の空気入りタイヤでは、部分タイゴム層を採用して、フルタイゴム層を有する従来の空気入りタイヤに比べてタイヤ重量を軽減し、転がり抵抗を低減するにあたって、部分タイゴム層の端部を上述のように特定の角度を有する傾斜面に形成しているので、タイヤ製造時にタイヤ構成部材を積層する際にインナーライナー層とカーカス層と部分タイゴム層の端部との間にエア溜まりの原因となる段差や空隙が形成されることを抑制することができ、加硫故障の発生を防止することができる。
【0010】
本発明の空気入りタイヤの製造方法では、未加硫の部分タイゴム層の端部を上述のように特定の角度を有する傾斜面に形成し、部分タイゴム層を積層する際の向きを特定しているので、タイヤ製造時にタイヤ構成部材がブラダーで押圧される際に、インナーライナー層とカーカス層と部分タイゴム層の端部との間にエア溜まりの原因となる段差や空隙が形成され難くなり、加硫故障の発生を防止することができる。
【0011】
本発明においては、部分タイゴム層を構成するゴムの硬度が50〜70であることが好ましい。このように部分タイゴム層の硬度を設定することで、部分タイゴム層の形状を良好に保つことが可能になり、エア抜け性を改善して加硫故障を防止するには有利になる。尚、本発明における「ゴムの硬度」とは、JIS K6253に準拠しデュロメータのタイプAにより温度20℃で測定された硬さ(所謂、JIS‐A硬度)である。
【0012】
本発明においては、部分タイゴム層の厚さが0.1mm〜1.0mmである
ので、部分タイゴム層の形状を良好に保つことが可能になり、エア抜け性を改善して加硫故障を防止するには有利になる。
【0013】
本発明においては、ベルト層のタイヤ幅方向最外側端部からインナーライナー層に向けて引いた垂線Pに対する部分タイゴム層のビード部側への突出量L1が15mm以上であることが好ましい。このように部分タイゴム層の長さを適切な範囲に設定し、最適化することで、タイヤ重量や転がり抵抗の低減と加硫故障の防止とを高度にバランスよく両立することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤの子午線断面図である。
【
図2】
図1の空気入りタイヤの要部を拡大して示す子午線断面図である。
【
図3】傾斜角度θの測定方法を説明するための要部断面図である。
【
図4】本発明の空気入りタイヤの製造方法を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
図1に示すように、本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、このトレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。尚、
図1において、CLはタイヤ赤道を示す。
【0017】
左右一対のビード部3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りに車両内側から外側に折り返されている。また、ビードコア5の外周上にはビードフィラー6が配置され、このビードフィラー6がカーカス層4の本体部と折り返し部とにより包み込まれている。一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層(
図1〜3では2層)のベルト層7が埋設されている。各ベルト層7は、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。これらベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°〜40°の範囲に設定されている。更に、ベルト層7の外周側にはベルト補強層8(図示の例では、ベルト層7の端部を覆う一対のベルト補強層8)が設けられている。ベルト補強層8は、タイヤ周方向に配向する有機繊維コードを含む。ベルト補強層8において、有機繊維コードはタイヤ周方向に対する角度が例えば0°〜5°に設定されている。タイヤ内面にはインナーライナー層9が設けられている。このインナーライナー層9は空気透過防止性能を有するブチルゴムを主体とするゴム組成物で構成され、タイヤ内に充填された空気がタイヤ外に透過することを防いでいる。
【0018】
トレッド部1におけるカーカス層4の外周側にはトレッドゴム層10が配され、サイドウォール部2におけるカーカス層4の外周側(タイヤ幅方向外側)にはサイドゴム層20が配され、ビード部3におけるカーカス層4の外周側(タイヤ幅方向外側)にはリムクッションゴム層30が配されている。トレッドゴム層10は、物性の異なる2種類のゴム層(キャップトレッドゴム層、アンダートレッドゴム層)をタイヤ径方向に積層した構造であってもよい。
【0019】
このようなインナーライナー層9とカーカス層4との間には部分タイゴム層40が配置されている。インナーライナー層9とカーカス層4との間に配置されるタイゴム層40とは、タイヤ製造時に未加硫の空気入りタイヤをインフレートする際にカーカスコードがインナーライナー層9に喰い込むことを防止するための層であり、製造後のタイヤにおいては空気透過防止性やドライ路面における操縦安定性に寄与するものであり、従来はカーカス層4とインナーライナー層9との層間の全域を覆うように設けられるものであったが(フルタイゴム層)、本発明の部分タイゴム層40は、ビード部3の先端を除く領域に限定的に設けられる。具体的には、ベルト層7のタイヤ幅方向最外側端部からインナーライナー層9に向けて引いた垂線Pとタイヤ内表面との交点Aからビードトウの先端点Bまでのタイヤ内面に沿ったペリフェリ長さをXとしたとき、交点Aからタイヤ内面に沿った距離が0.80Xを超える領域(ビード部3の先端)を除いて部分タイゴム層40は設けられる。
【0020】
この部分タイゴム層40は、
図2に拡大して示すように、端面40aが部分タイゴム層40のカーカス層4側の面に対して鋭角をなす傾斜面になっている。これら傾斜面の部分タイゴム層40のカーカス層4側の面に対する傾斜角度θはそれぞれ20°〜60°である。
【0021】
尚、本発明において、傾斜角度θは、
図3に示すように測定される。即ち、
図3(a)に示すように、子午線断面において、部分タイゴム層40のカーカス層4側の面およびインナーライナー層9側の面と傾斜面とのエッジが明瞭である場合には、これらエッジどうしを結んだ線と部分タイゴム層40のカーカス層4側の面とがなす角度を傾斜角度θとする。また、
図3(b)に示すように、子午線断面において、部分タイゴム層40のカーカス層4側の面と傾斜面とのエッジが不明瞭である場合には、傾斜面が直線的に延びる部分を延長した仮想線と、部分タイゴム層40のカーカス層4側の面の延長線とがなす角度を傾斜角度θとする。
【0022】
このように部分タイゴム層40の両端面40aを特定の角度を有する傾斜面に形成しているので、タイヤ製造時にタイヤ構成部材を積層する際にインナーライナー層9とカーカス層4と部分タイゴム層40の端面40aとの間にエア溜まりの原因となる段差や空隙が形成されることを抑制することができ、加硫故障の発生を防止することができる。このように端部構造を特定することで加硫故障を防止しているので、部分タイゴム層40を採用することによる効果は維持することができる。即ち、フルタイゴム層を有する従来の空気入りタイヤに比べてタイヤ重量を軽減し、且つ、転がり抵抗を低減することができる。
【0023】
このとき、傾斜面の傾斜方向が逆であると(傾斜面がインナーライナー層9側の面に対して鋭角をなしていると)、部分タイゴム層40の端部構造が適切でないため、エア抜け性を充分に高めることが難しくなる。また、傾斜角度θが20°よりも小さいと、部分タイゴム層40の端末が薄くなり過ぎて、タイゴム層としての機能が阻害される虞がある。傾斜角度θが60°よりも大きいと、充分な傾斜がないため、傾斜面による効果が充分に得られない。尚、傾斜角度θは好ましくは35°〜55°であるとよい。
【0024】
このような形状の部分タイゴム層40を備える空気入りタイヤは、例えば以下のように製造される。まず、
図4(a)に示すように、未加硫のインナーライナー層9’における加硫後の空気入りタイヤの一対のビード部3の各先端部分を除く領域に対応する部位の全域に亘って未加硫の部分タイゴム層40’が限定的に載置される。次いで、
図4(b)に示すように、未加硫の部分タイゴム層40’を介して未加硫のインナーライナー層9’上に未加硫のカーカス層4’が積層される。この後、他のタイヤ構成部材が積層されてグリーンタイヤが成形される。そして、このグリーンタイヤを内側からブラダーで押圧しながら加硫することで、空気入りタイヤが製造される。このとき、未加硫の部分タイゴム層40’の幅方向両端部は、図示のように、それぞれ未加硫の部分タイゴム層40’の一方の面に対して鋭角をなす傾斜面となっている。そして、この傾斜面の一方の面に対する傾斜角度θ’は20°〜60°に設定されている。また、図示のように、未加硫の部分タイゴム層40’が未加硫のインナーライナー層9’上に積層される際には、一方の面が未加硫のカーカス層4’側となる向きで未加硫の部分タイゴム層40’は未加硫のインナーライナー層9’上に積層される。
【0025】
このようにすることで、
図4(b)に示したように、これらタイヤ構成部材を単純に積層しただけの状態では、インナーライナー層9’とカーカス層4’と部分タイゴム層40’の端末との間に空隙が形成されているが、ブラダーで押圧しながら加硫される工程では、補強コード(カーカスコード)が埋設されたカーカス層4’よりも柔らかいインナーライナー層9’が部分タイゴム層40’の傾斜面に沿うように変形して、その際に
図4(b)に示された空隙内のエアは押し出されていき、加硫後のタイヤでは
図2等に示すように空隙は残存しなくなる。そのため、エア抜きが良好に行われて、エア溜まりは発生しなくなり、加硫故障を効果的に防止することができる。
【0026】
尚、
図4の例では未加硫のインナーライナー層9’の上に未加硫の部分タイゴム層40’を載置してから順次他のタイヤ構成部材(未加硫のカーカス層4’等)を積層しているが、本発明では、未加硫のインナーライナー層9’と未加硫の部分タイゴム層40’と未加硫のカーカス層4’とが積層された状態において、未加硫の部分タイゴム層40’の幅方向両端部が、それぞれ未加硫の部分タイゴム層40’の一方の面に対して鋭角をなす傾斜面となっていればよいので、未加硫のカーカス層4’の上に未加硫の部分タイゴム層40’を載置するようにしてもよい。
【0027】
上述の製造方法において用いられる未加硫の部分タイゴム層40’は、従来のフルタイゴム層を備えた空気入りタイヤの製造に用いられる未加硫のタイゴム層と比較すると、幅が狭く端部形状が異なるだけであるので、上述の製造方法は、従来の製造設備を大幅に変更することなく採用可能であるという利点がある。
【0028】
部分タイゴム層40を構成するゴム組成物の物性は特に限定されないが、ゴム硬度が好ましくは50〜70、より好ましくは55〜65であるとよい。このように部分タイゴム層40の硬度を設定することで、部分タイゴム層40の形状を良好に保つことが可能になり、エア抜け性を改善して加硫故障を防止するには有利になる。このとき、ゴム硬度が50よりも小さいと、部分タイゴム層40の剛性が著しく小さいため、部分タイゴム層40の形状を維持することが難しくなり、エア抜け性が低下するため、加硫故障を充分に防止することが難しくなる。部分タイゴム層40の硬度が70よりも大きいと、サイドウォール部2の剛性が高くなり過ぎるため、空気入りタイヤの本来の性能に悪影響が出る虞がある。
【0029】
部分タイゴム層40は、タイゴム層としての機能(タイヤ製造時におけるインナーライナー層9へのカーカスコードの喰い込みを防止すること等)を充分に発揮するために充分な厚さを有することが求められるが、その一方で、タイヤ重量の軽減のために使用量を抑えることが好ましい。また、部分タイゴム層40の形状を維持して良好なエア抜けを可能にするために適度な厚さを有することも求められる。そのため、本発明では、部分タイゴム層40の厚さTを、好ましくは0.1mm〜1.0mm、より好ましくは0.3mm〜0.7mmに設定するとよい。これにより、タイゴム層としての機能を充分に発揮しながら、タイヤ重量の軽減効果も充分に発揮することができ、更に、加硫故障にも有利になる。このとき、部分タイゴム層40の厚さTが0.1mmよりも小さいと、部分タイゴム層40が薄過ぎるため、部分タイゴム層40がタイゴム層として充分に機能しなくなり、タイヤ製造時におけるインナーライナー層9へのカーカスコードの喰い込みを防止する効果が限定的になる。また、部分タイゴム層40の形状維持が難しくなり、エア抜け性が低下するため、加硫故障を充分に防止することが難しくなる。部分タイゴム層40の厚さTが1.0mmよりも大きいと、部分タイゴム層40が厚くなり過ぎて使用量が増大するため、タイヤ重量の軽減効果が限定的になる。
【0030】
本発明の部分タイゴム層40は上述のようにビード部3の先端を除いた領域に限定的に設けられるが、空気透過防止性および操縦安定性を維持する観点から、上述の垂線Pに対してビード部3側へ充分に突出していることが好ましい。即ち、垂線Pに対する部分タイゴム層40のビード部3側への突出量L1が、上述のペリフェリ長さXの好ましくは0.25倍〜0.80倍、より好ましくは0.30倍〜0.70倍であるとよい。突出量L1がペリフェリ長さXの0.25倍よりも小さいと、部分タイゴム層40によって充分な領域を覆うことができず、空気透過防止性および操縦安定性を良好に維持することが難しくなる。突出量L1がペリフェリ長さXの0.80倍よりも大きいと、実質的にフルタイゴム層と同等になり、タイヤ重量を軽減する効果が充分に得られなくなる。
【0031】
部分タイゴム層40の突出量L1は、上記範囲を満たすだけでなく、15mm以上であることが好ましい。本発明者は、部分タイゴム層40を採用する場合における部分タイゴム層40の配置について鋭意研究した結果、従来のフルタイゴム層を有する空気入りタイヤと同等の空気透過防止性と操縦安定性とを得るには、部分タイゴム層40が少なくともベルト層7のタイヤ幅方向最外側端部の近傍の特定の領域(垂線Pの位置と垂線Pからビード部3側に部分タイゴム層40に沿って15mmの位置との間の領域)を覆っていることが好ましいことを知見しており、突出量L1を上記のように15mm以上とすることで、この領域を部分タイゴム層40によって確実に覆うことが可能になり、空気透過防止性と操縦安定性を高度に維持するには有利になる。このとき、突出量L1が15mm未満であると、前述の領域を覆うことができず、空気透過防止性および操縦安定性を良好に維持することが難しくなる。
【0032】
本発明では、部分タイゴム層40が上述の位置に配置されるだけでなく、その端部位置が以下のように設定されることが好ましい。即ち、部分タイゴム層40の端部がリムクッションゴム層30のタイヤ径方向外側端部よりもタイヤ径方向外側に位置し、且つ、部分タイゴム層40の端部とリムクッションゴム層30のタイヤ径方向外側端部との離間距離L2がタイヤ断面高さSHの0.50倍以上であることが好ましい。更に、部分タイゴム層40の端部がビードフィラー6のタイヤ径方向外側端部よりもタイヤ径方向外側に位置し、且つ、部分タイゴム層40の端部とビードフィラー6のタイヤ径方向外側端部との離間距離L3がタイヤ断面高さSHの0.40倍以上であることが好ましい。これにより、部分タイゴム層40と他のタイヤ構成部材(リムクッションゴム層30、ビードフィラー6)との位置関係が最適化され、剛性部材である他のタイヤ構成部材(リムクッションゴム層30、ビードフィラー6)と適度に離間させることができるため、特に操縦安定性を維持するには有利になる。
【0033】
更に、部分タイゴム層40の端部がタイヤ最大幅位置よりもタイヤ径方向外側に位置し、且つ、部分タイゴム層40の端部とタイヤ最大幅位置との離間距離L4がタイヤ断面高さSHの0.05倍以上であることが好ましい。このように、部分タイゴム層40がタイヤ最大幅位置と重ならないようにすることで、タイヤ重量の軽減効果をより向上することができる。
【実施例】
【0034】
タイヤサイズが195/65R15であり、
図1に示す基本構造を有し、タイゴム層の構造、部分タイゴム層の端部に形成された傾斜面の傾斜角度θ、部分タイゴム層のゴム硬度、部分タイゴム層のゴム厚さ、部分タイゴム層の垂線Pからの突出量L1をそれぞれ表1〜2のように設定した従来例1、比較例1〜4、実施例1〜
18、参考例1の24種類の空気入りタイヤを作製した。
【0035】
尚、表1〜2の「タイゴム層の構造」の欄について、タイゴム層がフルタイゴム層である場合は「フル」、部分タイゴム層である場合は「部分」と記載した。
【0036】
これら24種類の空気入りタイヤについて、下記の評価方法により、タイゴム使用量、空気透過防止性、ドライ路面における操縦安定性(操縦安定性)を評価し、その結果を表1〜2に併せて示した。
【0037】
タイゴム使用量
各試験タイヤにおけるタイゴムの使用量を測定した。評価結果は、従来例1の測定値を100とする指数にて示した。この指数値が小さいほどタイゴム使用量が少なく、タイヤ重量を軽減できることを意味する。尚、この指数値が「80」以下であると、タイゴム使用量が充分に少ないと言え、優れたタイヤ重量の軽減効果が得られている。逆に、この指数値が「80」を超えると、タイゴム使用量は充分に低減できておらず、タイヤ重量の軽減効果は実質的に得られていないことになる。特に、この指数値が「50」以下であると、タイヤ重量の軽減効果が大きく優れている。
【0038】
転がり抵抗
各試験タイヤを、リムサイズ15×6Jのホイールに組み付け、ISO28580に準拠して、ドラム径1707.6mmのドラム試験機を用い、空気圧210kPa、荷重4.82kN、速度80km/hの条件で転がり抵抗を測定した。評価結果は、従来例1の測定値の逆数を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど転がり抵抗が低いことを意味する。
【0039】
故障発生率
各試験タイヤをそれぞれ100本ずつ製造し、成形・加硫後のタイヤの内面を観察し、成形・加硫工程での内面故障の有無を目視で確認し、故障発生率(各試験タイヤの総数に対する内面故障が発生したタイヤの本数の割合)を測定した。評価結果は、従来例1の測定値の逆数を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど内面故障の発生率が小さいことを意味する。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
表1〜2から明らかなように、実施例1〜
18はいずれも、従来例1に対して、タイゴム使用量を低減し、転がり抵抗を低減すると共に、故障発生率を改善した。
【0043】
一方、比較例1は、傾斜角度θが90°であり、部分タイゴム層の端末が傾斜していないので、傾斜面によるエア抜け性の改善は見込めず、故障発生率が悪化した。比較例2は、傾斜角度θが135°であり、部分タイゴム層の向きが本発明の構造と逆転しているので、傾斜面によるエア抜け性の改善は見込めず、故障発生率が悪化した。比較例3は、傾斜角度θが小さ過ぎるため、故障発生率を充分に維持することができなかった。比較例4は、傾斜角度θが大き過ぎるため、実質的に比較例1と同等であり、故障発生率を改善することはできなかった。
【符号の説明】
【0044】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
8 ベルト補強層
9 インナーライナー層
10 トレッドゴム層
20 サイドゴム層
30 リムクッションゴム層
40 部分タイゴム層
CL タイヤ赤道