特許第6424958号(P6424958)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6424958
(24)【登録日】2018年11月2日
(45)【発行日】2018年11月21日
(54)【発明の名称】弾性波装置
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/145 20060101AFI20181112BHJP
【FI】
   H03H9/145 C
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-518372(P2017-518372)
(86)(22)【出願日】2016年12月13日
(86)【国際出願番号】JP2016087079
(87)【国際公開番号】WO2017110586
(87)【国際公開日】20170629
【審査請求日】2017年4月5日
(31)【優先権主張番号】特願2015-253657(P2015-253657)
(32)【優先日】2015年12月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大門 克也
(72)【発明者】
【氏名】玉崎 大輔
【審査官】 ▲高▼橋 徳浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−101350(JP,A)
【文献】 特開2013−138333(JP,A)
【文献】 特表2013−518455(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/007319(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H3/007−H03H3/10
H03H9/00−H03H9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、
前記圧電基板上に設けられているIDT電極と、を備え、
前記IDT電極が、互いに対向し合っている第1及び第2のバスバーと、前記第1のバスバーに一端が接続された複数本の第1の電極指と、前記第2のバスバーに一端が接続された複数本の第2の電極指と、を有し、
前記複数本の第1及び第2の電極指が互いに間挿し合っており、前記第1の電極指と前記第2の電極指が弾性波伝搬方向において重なり合っている部分を交差領域とした場合に、該交差領域が、前記第1及び第2の電極指が延びる方向において、中央側に位置している中央領域と、前記中央領域の両側に配置された第1及び第2のエッジ領域と、を有し、
前記IDT電極を覆うように、前記圧電基板上に設けられている第1の誘電体膜と、
前記第1の誘電体膜上に設けられており、前記各第1及び第2の電極指が延びる方向に沿って延びており、かつ前記中央領域に設けられており、平面視において、前記複数本の第1及び第2の電極指に重なっている、第1の質量付加膜と、
前記第1の誘電体膜上に設けられており、かつ前記第1のエッジ領域に設けられており、平面視において、前記第1及び第2の電極指のうち少なくとも一方に一部が重なっている、第2の質量付加膜と、
前記第1の誘電体膜上に設けられており、かつ前記第2のエッジ領域に設けられており、平面視において、前記第1及び第2の電極指のうち少なくとも一方に一部が重なっている、第3の質量付加膜と、をさらに備え、
前記第1の質量付加膜の弾性波伝搬方向に沿う寸法の前記中央領域における合計よりも、前記第2及び第3の質量付加膜の弾性波伝搬方向に沿う寸法の前記第1及び第2のエッジ領域における各合計の方が長い、弾性波装置。
【請求項2】
前記中央領域における弾性波の音速をV1、前記第1及び第2のエッジ領域における弾性波の音速をV2、前記第1のエッジ領域と前記第1のバスバーとの間及び前記第2のエッジ領域と前記第2のバスバーとの間に位置する領域における弾性波の音速をV3とした場合、V3>V1>V2とされている、請求項1に記載の弾性波装置。
【請求項3】
前記IDT電極の材料の密度よりも前記第1〜第3の質量付加膜の材料の密度の方が高い、請求項1または2に記載の弾性波装置。
【請求項4】
前記第2及び第3の質量付加膜が、前記第1及び第2のエッジ領域の弾性波伝搬方向における全長にわたっている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項5】
前記第2の質量付加膜を複数有し、前記複数の第2の質量付加膜が、弾性波伝搬方向において互いにギャップを隔てて配置されており、前記各第2の質量付加膜が、平面視において、前記各第1及び第2の電極指に、前記各第1及び第2の電極指の弾性波伝搬方向における全長にわたって重なっており、
前記第3の質量付加膜を複数有し、前記複数の第3の質量付加膜が、弾性波伝搬方向において互いにギャップを隔てて配置されており、前記各第3の質量付加膜が、平面視において、前記各第1及び第2の電極指に、前記各第1及び第2の電極指の弾性波伝搬方向における全長にわたって重なっている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項6】
前記第1の質量付加膜と前記第2及び第3の質量付加膜とが連なっている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項7】
平面視において、前記第1の質量付加膜と前記第2及び第3の質量付加膜とが、弾性波伝搬方向に垂直な方向において、ギャップを隔てて配置されている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項8】
前記各第1及び第2の電極指の弾性波伝搬方向に沿う寸法よりも、前記第1の質量付加膜の弾性波伝搬方向に沿う寸法の方が短い、請求項1〜7のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項9】
前記圧電基板と前記IDT電極との間に積層されている、第2の誘電体膜をさらに備える、請求項1〜8のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストンモードを利用した弾性波装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、横モードスプリアスを抑制するために、ピストンモードを利用した弾性波装置が提案されている。
【0003】
例えば、下記の特許文献1には、ピストンモードを利用した弾性波装置の一例が示されている。この弾性波装置は、IDT電極の複数本の第1の電極指と複数本の第2の電極指とが、弾性波伝搬方向に見たときに重なっている交差領域を有する。交差領域は、第1,第2の電極指が延びる方向において、中央領域と、中央領域の第1,第2の電極指の延びる方向の外側に設けられた第1,第2のエッジ領域とを有する。
【0004】
他方、IDT電極を覆うように、圧電基板上に誘電体膜が積層されている。誘電体膜の第1,第2のエッジ領域に位置する部分に、チタン層が埋め込まれている。これにより、第1,第2のエッジ領域における音速が、中央領域及び第1,第2のエッジ領域の外側の領域における音速よりも遅くなり、横モードスプリアスを抑制し得るとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−186808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の弾性波装置を得るための製造工程では、第1,第2のエッジ領域にチタン層を形成する必要がある。そのため、中央領域における部分と第1,第2のエッジ領域における部分とを、同一の工程で形成することができなかった。よって、交差領域の膜厚に大きなばらつきが生じるおそれがあった。従って、横モードスプリアスを充分に抑制できないおそれがあった。
【0007】
本発明の目的は、IDT電極の交差領域における膜厚のばらつきの影響を小さくすることができ、横モードスプリアスを充分に抑制することができる、弾性波装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る弾性波装置は、圧電基板と、前記圧電基板上に設けられているIDT電極とを備え、前記IDT電極が、互いに対向し合っている第1及び第2のバスバーと、前記第1のバスバーに一端が接続された複数本の第1の電極指と、前記第2のバスバーに一端が接続された複数本の第2の電極指とを有し、前記複数本の第1及び第2の電極指が互いに間挿し合っており、前記第1の電極指と前記第2の電極指が弾性波伝搬方向において重なり合っている部分を交差領域とした場合に、該交差領域が、前記第1及び第2の電極指が延びる方向において、中央側に位置している中央領域と、前記中央領域の両側に配置された第1及び第2のエッジ領域とを有し、前記IDT電極を覆うように、前記圧電基板上に設けられている第1の誘電体膜と、前記第1の誘電体膜上に設けられており、前記各第1及び第2の電極指が延びる方向に沿って延びており、かつ前記中央領域に設けられており、平面視において、前記複数本の第1及び第2の電極指に重なっている、第1の質量付加膜と、前記第1の誘電体膜上に設けられており、かつ前記第1のエッジ領域に設けられており、平面視において、前記第1及び第2の電極指のうち少なくとも一方に一部が重なっている、第2の質量付加膜と、前記第1の誘電体膜上に設けられており、かつ前記第2のエッジ領域に設けられており、平面視において、前記第1及び第2の電極指のうち少なくとも一方に一部が重なっている、第3の質量付加膜とをさらに備え、前記第1の質量付加膜の弾性波伝搬方向に沿う寸法よりも、前記第2及び第3の質量付加膜の弾性波伝搬方向に沿う寸法の方が長い。
【0009】
本発明に係る弾性波装置のある特定の局面では、前記中央領域における弾性波の音速をV1、前記第1及び第2のエッジ領域における弾性波の音速をV2、前記第1のエッジ領域と前記第1のバスバーとの間及び前記第2のエッジ領域と前記第2のバスバーとの間に位置する領域における弾性波の音速をV3とした場合、V3>V1>V2とされている。この場合には、横モードスプリアスをより一層抑制することができる。
【0010】
本発明に係る弾性波装置の他の特定の局面では、前記IDT電極の材料の密度よりも前記第1〜第3の質量付加膜の材料の密度の方が高い。この場合には、IDT電極の励振効率を効果的に高めることができる。
【0011】
本発明に係る弾性波装置のさらに他の特定の局面では、前記第2及び第3の質量付加膜が、前記第1及び第2のエッジ領域の弾性波伝搬方向における全長にわたっている。この場合には、第1及び第2のエッジ領域における音速を効果的に遅くすることができる。従って、横モードスプリアスをより一層抑制することができる。
【0012】
本発明に係る弾性波装置の別の特定の局面では、前記第2の質量付加膜を複数有し、前記複数の第2の質量付加膜が、弾性波伝搬方向において互いにギャップを隔てて配置されており、前記各第2の質量付加膜が、平面視において、前記各第1及び第2の電極指に、前記各第1及び第2の電極指の弾性波伝搬方向における全長にわたって重なっており、前記第3の質量付加膜を複数有し、前記複数の第3の質量付加膜が、弾性波伝搬方向において互いにギャップを隔てて配置されており、前記各第3の質量付加膜が、平面視において、前記各第1及び第2の電極指に、前記各第1及び第2の電極指の弾性波伝搬方向における全長にわたって重なっている。この場合には、弾性波装置を得るための製造工程において、第1〜第3の質量付加膜を、リフトオフ法を用いて容易に形成することができる。よって、生産性を高めることができる。
【0013】
本発明に係る弾性波装置のさらに別の特定の局面では、前記第1の質量付加膜と前記第2及び第3の質量付加膜とが連なっている。
【0014】
本発明に係る弾性波装置のさらに別の特定の局面では、平面視において、前記第1の質量付加膜と前記第2及び第3の質量付加膜とが、弾性波伝搬方向に垂直な方向において、ギャップを隔てて配置されている。
【0015】
本発明に係る弾性波装置のさらに別の特定の局面では、前記各第1及び第2の電極指の弾性波伝搬方向に沿う寸法よりも、前記第1の質量付加膜の弾性波伝搬方向に沿う寸法の方が短い。この場合には、中央領域における音速が遅くなり難い。従って、横モードスプリアスをより一層抑制することができる。
【0016】
本発明に係る弾性波装置のさらに別の特定の局面では、前記圧電基板と前記IDT電極との間に積層されている、第2の誘電体膜がさらに備えられている。この場合には、電気機械結合係数を調整することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る弾性波装置によれば、IDT電極の交差領域における膜厚のばらつきの影響を小さくすることができ、横モードスプリアスを充分に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の第1の実施形態に係る弾性波装置の平面図である。
図2図2は、図1中のI−I線に沿う断面図である。
図3図3は、本発明の第1の実施形態における第1〜第3の質量付加膜の膜厚を95nmとしたときの、弾性波装置における第2,第3の質量付加膜の幅と、1次及び高次の実効電気機械結合係数との関係を示す図である。
図4図4は、本発明の第1の実施形態における第1〜第3の質量付加膜の膜厚を70nmとしたときの、弾性波装置における第2,第3の質量付加膜の幅と、1次及び高次の実効電気機械結合係数との関係を示す図である。
図5図5は、本発明の第1の実施形態における第1〜第3の質量付加膜の膜厚を120nmとしたときの、弾性波装置における第2,第3の質量付加膜の幅と、1次及び高次の実効電気機械結合係数との関係を示す図である。
図6図6は、比較例における第2,第3の質量付加膜の膜厚を6nmとしたときの、弾性波装置における第2,第3の質量付加膜の幅と、1次及び高次の実効電気機械結合係数との関係を示す図である。
図7図7は、比較例における第2,第3の質量付加膜の膜厚を4.5nmとしたときの、弾性波装置における第2,第3の質量付加膜の幅と、1次及び高次の実効電気機械結合係数との関係を示す図である。
図8図8は、比較例における第2,第3の質量付加膜の膜厚を7.5nmとしたときの、弾性波装置における第2,第3の質量付加膜の幅と、1次及び高次の実効電気機械結合係数との関係を示す図である。
図9図9は、本発明の第1の実施形態の第1の変形例に係る弾性波装置の平面図である。
図10図10は、本発明の第1の実施形態の第2の変形例に係る弾性波装置の平面図である。
図11図11は、本発明の第1の実施形態の第3の変形例に係る弾性波装置の拡大正面断面図である。
図12図12は、本発明の第2の実施形態の第4の変形例に係る弾性波装置の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0020】
なお、本明細書に記載の各実施形態は、例示的なものであり、異なる実施形態間において、構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることを指摘しておく。
【0021】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る弾性波装置の平面図である。図2は、図1中のI−I線に沿う断面図である。なお、図1においては、後述する第1〜第3の質量付加膜上の誘電体膜は省略している。
【0022】
弾性波装置1は、圧電基板2を有する。圧電基板2は、LiNbOまたはLiTaOなどの圧電単結晶や、適宜の圧電セラミックスからなる。
【0023】
圧電基板2上には、IDT電極3が設けられている。IDT電極3は、対向し合っている第1,第2のバスバー3a1,3b1を有する。IDT電極3は、第1のバスバー3a1に一端が接続されている、複数本の第1の電極指3a2を有する。さらに、IDT電極3は、第2のバスバー3b1に一端が接続されている、複数本の第2の電極指3b2を有する。
【0024】
複数本の第1,第2の電極指3a2,3b2は、互いに間挿し合っている。ここで、第1の電極指3a2と第2の電極指3b2とが弾性波伝搬方向において重なり合っている部分を交差領域Aとする。このとき、交差領域Aは、第1,第2の電極指3a2,3b2が延びる方向において、中央側に位置している中央領域A1を有する。交差領域Aは、第1,第2の電極指3a2,3b2が延びる方向において、中央領域A1の両側に配置された第1,第2のエッジ領域A2a,A2bも有する。第1のエッジ領域A2aは第1のバスバー3a1側に位置し、第2のエッジ領域A2bは第2のバスバー3b1側に位置している。
【0025】
IDT電極3は、第1,第2のエッジ領域A2a,A2bの中央領域A1側とは反対側の領域である、第1,第2の外側領域Ba,Bbを有する。第1の外側領域Baは、第1のエッジ領域A2aと第1のバスバー3a1との間に位置している。第2の外側領域Bbは、第2のエッジ領域A2bと第2のバスバー3b1との間に位置している。
【0026】
本実施形態では、IDT電極3は、Alからなる。なお、IDT電極3は、Al以外の適宜の金属からなっていてもよい。IDT電極3は、単層の金属膜からなっていてもよく、あるいは積層金属膜からなっていてもよい。
【0027】
ここで、弾性波装置1は、ピストンモードを利用した弾性波装置である。中央領域A1における弾性波の音速をV1、第1,第2のエッジ領域A2a,A2bにおける弾性波の音速をV2、第1,第2の外側領域Ba,Bbにおける弾性波の音速をV3とする。このとき、V3>V1>V2とされていることが好ましい。それによって、横モードスプリアスを効果的に抑制することができる。上記のような各音速V1,V2,V3の関係を図1に示す。なお、図1における左側に向かうにつれて、音速が高速であることを示す。
【0028】
図1に示すように、IDT電極3を覆うように、圧電基板2上に第1の誘電体膜4が設けられている。第1の誘電体膜4は、特に限定されないが、SiOからなる。
【0029】
第1の誘電体膜4上には、平面視において、第1,第2の電極指3a2,3b2に重なるように、第1〜第3の質量付加膜5a〜5cが設けられている。より具体的には、第1の質量付加膜5aは、中央領域A1に複数設けられている。複数の第1の質量付加膜5aは、各第1,第2の電極指3a2,3b2が延びる方向に沿って延びており、中央領域A1の該方向における全長にわたっている。複数の第1の質量付加膜5aは、弾性波伝搬方向において、互いにギャップを隔てて設けられている。複数の第1の質量付加膜5aは、平面視において、第1の電極指3a2に重なっている第1の質量付加膜5aと、第2の電極指3b2に重なっている第1の質量付加膜5aとを含む。ここで、各第1,第2の電極指3a2,3b2及び各第1の質量付加膜5aの弾性波伝搬方向に沿う寸法を幅とする。このとき、本実施形態では、各第1,第2の電極指3a2,3b2の幅よりも各第1の質量付加膜5aの幅の方が狭い。
【0030】
他方、第2の質量付加膜5bは第1のエッジ領域A2aに設けられている。第2の質量付加膜5bは、第1のエッジ領域A2aの、弾性波伝搬方向における全長にわたっている。
【0031】
第3の質量付加膜5cは第2のエッジ領域A2bに設けられている。第3の質量付加膜5cは、第2のエッジ領域A2bの、弾性波伝搬方向における全長にわたっている。このように、第1の質量付加膜5aの弾性波伝搬方向に沿う寸法よりも、第2の質量付加膜5b及び第3の質量付加膜5cの弾性波伝搬方向に沿う寸法の方が長い。
【0032】
本実施形態では、複数の第1の質量付加膜5aと、第2,第3の質量付加膜5b,5cとは連なっている。
【0033】
第1〜第3の質量付加膜5a〜5cは、本実施形態では、Ptからなる。なお、第1〜第3の質量付加膜5a〜5cは、Pt以外の適宜の金属からなっていてもよい。第1〜第3の質量付加膜5a〜5cの材料の密度は、IDT電極3の材料の密度よりも高いことが好ましい。それによって、IDT電極3の励振効率を効果的に高めることができる。なお、第1〜第3の質量付加膜5a〜5cは、単層の金属膜からなっていてもよく、あるいは積層金属膜からなっていてもよい。
【0034】
図2に示すように、第1の誘電体膜4上に誘電体層6が設けられている。誘電体層6は、図1に示した第1〜第3の質量付加膜5a〜5cを覆っている。誘電体層6は、第1の誘電体膜4側に位置している第1の層6aと、第1の層6a上に積層された第2の層6bとを有する。この場合には、例えば、第1の層6aはSiOなどからなっていてもよく、第2の層6bはSiNなどからなっていてもよい。なお、誘電体層6は、単層からなっていてもよい。
【0035】
図1に戻り、本実施形態の特徴は、平面視において、IDT電極3の交差領域Aに重なるように、第1〜第3の質量付加膜5a〜5cが設けられていることにある。それによって、IDT電極3の交差領域Aにおける膜厚のばらつきの影響を小さくすることができる。さらに、横モードスプリアスを充分に抑制することができる。これを、以下において説明する。
【0036】
図1に示すように、IDT電極3において第1の外側領域Baに位置している部分は、第1の電極指3a2のみである。IDT電極3において第2の外側領域Bbに位置している部分は、第2の電極指3b2のみである。加えて、交差領域Aにおいては、第1〜第3の質量付加膜5a〜5cが設けられているため、音速が遅くなっている。従って、弾性波装置1においては、V3>V1及びV3>V2とされている。
【0037】
中央領域A1においては、複数の第1の質量付加膜5aが弾性波伝搬方向にギャップを隔てて設けられている。これに対して、第1,第2のエッジ領域A2a,A2bにおいては、第2,第3の質量付加膜5b,5cが、交差領域Aの弾性波伝搬方向における全長にわたっている。これにより、第1,第2のエッジ領域A2a,A2bにおける第2,第3の質量付加膜5b,5cの面積を大きくすることができる。そのため、第1,第2のエッジ領域A2a,A2bにおいて、IDT電極3に付加される質量を大きくすることができる。よって、第1,第2のエッジ領域A2a,A2bにおける音速V2を効果的に遅くすることができる。これにより、V1>V2とすることができ、かつ音速V1と音速V2との差を大きくすることができる。従って、横モードスプリアスを効果的に抑制することができる。
【0038】
下記の図3図5を用いて、第1の実施形態の効果をさらに説明する。ここで、第2,第3の質量付加膜5b,5cの弾性波伝搬方向に垂直な方向の寸法を、第2,第3の質量付加膜5b,5cの幅とする。第1の実施形態では、第2,第3の質量付加膜5b,5cの幅は同じ幅である。
【0039】
図3は、第1の実施形態における第1〜第3の質量付加膜の膜厚を95nmとしたときの、弾性波装置における第2,第3の質量付加膜の幅と、1次及び高次の実効電気機械結合係数との関係を示す図である。図4は、第1の実施形態における第1〜第3の質量付加膜の膜厚を70nmとしたときの、弾性波装置における第2,第3の質量付加膜の幅と、1次及び高次の実効電気機械結合係数との関係を示す図である。図5は、第1の実施形態における第1〜第3の質量付加膜の膜厚を120nmとしたときの、弾性波装置における第2,第3の質量付加膜の幅と、1次及び高次の実効電気機械結合係数との関係を示す図である。なお、図3図5に示す関係を求めるに際し、IDT電極の膜厚は20nmとした。
【0040】
図3図5における菱形のプロット及び実線は、1次の実効電気機械結合係数を示す。矩形のプロット及び破線は、3次の実効電気機械結合係数を示す。三角形のプロット及び破線は5次の実効電気機械結合係数を示す。X字形のプロット及び破線は7次の実効電気機械結合係数を示す。I字形のプロット及び破線は9次の実効電気機械結合係数を示す。円形のプロット及び破線は11次の実効電気機械結合係数を示す。1次の実効電気機械結合係数の値は右側の縦軸に示し、3次以上の実効電気機械結合係数の値は左側の縦軸に示す。上記プロットの形状及び線種と各次数との関係は、後述する図6図8においても同様である。
【0041】
図3に示す結果では、1次の実効電気機械結合係数が極大値となる第2,第3の質量付加膜の幅と、3次以上の実効電気機械結合係数が極小値となる第2,第3の質量付加膜の幅とはほぼ同じ幅である。従って、エネルギー効率を効果的に高めることができ、かつ横モードスプリアスを効果的に抑制することができる。
【0042】
図4に示す結果は、図3に示した関係を求めたときの第1〜第3の質量付加膜の膜厚を、25nm薄くした場合の結果である。この場合においても、1次の実効電気機械結合係数が極大値となる第2,第3の質量付加膜の幅と、3次以上の実効電気機械結合係数が極小値となる第2,第3の質量付加膜の幅とのずれは小さい。
【0043】
図5に示す結果は、図3に示した関係を求めたときの第1〜第3の質量付加膜の膜厚を、25nm厚くした場合の結果である。この場合においても、1次の実効電気機械結合係数が極大値となる第2,第3の質量付加膜の幅と、3次以上の実効電気機械結合係数が極小値となる第2,第3の質量付加膜の幅とのずれは小さい。
【0044】
このように、第1〜第3の質量付加膜の膜厚が95±25nmの広い範囲において、横モードスプリアスを効果的に抑制することができる。従って、第1〜第3の質量付加膜の膜厚のばらつきの影響を小さくすることができ、IDT電極の交差領域における膜厚のばらつきの影響を小さくすることができる。
【0045】
次に、第1の実施形態と比較例とを比較することにより、第1の実施形態の効果を説明する。比較例の弾性波装置は、IDT電極がPtからなる点及び第1の質量付加膜を有しない点において、第1の実施形態と異なる。
【0046】
図6は、比較例における第2,第3の質量付加膜の膜厚を6nmとしたときの、弾性波装置における第2,第3の質量付加膜の幅と、1次及び高次の実効電気機械結合係数との関係を示す図である。図7は、比較例における第2,第3の質量付加膜の膜厚を4.5nmとしたときの、弾性波装置における第2,第3の質量付加膜の幅と、1次及び高次の実効電気機械結合係数との関係を示す図である。図8は、比較例における第2,第3の質量付加膜の膜厚を7.5nmとしたときの、弾性波装置における第2,第3の質量付加膜の幅と、1次及び高次の実効電気機械結合係数との関係を示す図である。なお、以下の図6図8に示す関係を求めるに際し、IDT電極の膜厚は20nmとした。
【0047】
図6に示す比較例の結果では、1次の実効電気機械結合係数が極大値となる第2,第3の質量付加膜の幅と、3次以上の実効電気機械結合係数が極小値となる第2,第3の質量付加膜の幅とのずれは小さい。しかしながら、図7及び図8に示す結果では、1次の実効電気機械結合係数が極大値となる第2,第3の質量付加膜の幅と、3次以上の実効電気機械結合係数が極小値となる第2,第3の質量付加膜の幅とは、大きくずれている。さらに、図7に示す結果では、9次以上の実効電気機械結合係数の変化は小さくなっている。
【0048】
ここで、図7に示す結果は、図6に示した関係を求めたときの第2,第3の質量付加膜の膜厚を、1.5nm薄くした場合の結果である。図8に示す結果は、図6に示した関係を求めたときの第2,第3の質量付加膜の膜厚を、1.5nm厚くした場合の結果である。このように、比較例では、第2,第3の質量付加膜の膜厚が6±1.5nmの狭い範囲においても、該膜厚のばらつきの影響が大きい。
【0049】
第1の実施形態の弾性波装置では、図3図5に示したように、第1〜第3の質量付加膜の膜厚の範囲の広さが比較例の10倍より広い範囲において、該膜厚のばらつきの影響をより一層効果的に小さくすることができる。
【0050】
下記の表1に、第1の実施形態における、V2/V1と、IDT電極の膜厚との関係を示す。V2/V1は、第1,第2のエッジ領域の音速V2の、中央領域の音速V1に対する比である。なお、第1〜第3の質量付加膜の膜厚は80nmとした。同様に、表1に、比較例におけるV2/V1とIDT電極の膜厚との関係を示す。比較例の第2,第3の質量付加膜の膜厚は10nmとした。
【0051】
【表1】
【0052】
表1に示すように、比較例では、IDT電極の膜厚が異なることにより、V2/V1が異なっている。これに対して、第1の実施形態では、V2/V1に対して、IDT電極の膜厚のばらつきがほぼ影響していないことがわかる。従って、第1の実施形態では、IDT電極の交差領域における膜厚のばらつきの影響をより一層小さくすることができる。
【0053】
図1に戻り、第1の実施形態では、第1の誘電体膜4を介して、複数本の第1,第2の電極指3a2,3b2に対向している複数の第1の質量付加膜5aが設けられていることにより、IDT電極3の励振効率を効果的に高めることができる。加えて、第1の実施形態では、図1に示すように、各第1,第2の電極指3a2,3b2の幅よりも、各第1の質量付加膜5aの幅の方が狭い。それによって、中央領域A1における音速V1は遅くなり難い。従って、音速V1と音速V2との差をより一層大きくすることができ、横モードスプリアスをより一層抑制することができる。
【0054】
上述したように、第1,第2のエッジ領域A2a,A2bにおける音速は、第2,第3の質量付加膜5b,5cが設けられていることにより、遅くされている。よって、第1,第2のエッジ領域A2a,A2bにおいて、IDT電極3の第1,第2の電極指3a2,3b2の幅を広くする必要がない。従って、電圧を印加したときなどにおける静電破壊に対する耐性を高めることもできる。
【0055】
ところで、上述したように、第1の実施形態の弾性波装置1は、SiOからなる第1の誘電体膜4を有する。それによって、TCF(Temperature coefficient of frequency:周波数温度係数)の絶対値を小さくすることができる。よって、弾性波装置1の温度特性を改善することができる。なお、第1の誘電体膜4は、SiN、SiON、あるいは五酸化タンタルなどの適宜の材料からなっていてもよい。
【0056】
図2に示した誘電体層6は、SiNを含むことが好ましい。それによって、弾性波装置1が用いる弾性波の周波数を調整することができる。なお、誘電体層6は、必ずしも設けられていなくともよい。
【0057】
以下の図9図12に示す第1の実施形態の第1〜第4の変形例においても、IDT電極の交差領域における膜厚のばらつきの影響を小さくすることができる。さらに、横モードスプリアスを充分に抑制することができる。
【0058】
図9に示す第1の実施形態の第1の変形例のように、第2,第3の質量付加膜15b,15cをそれぞれ複数有していてもよい。複数の第2の質量付加膜15bは、弾性波伝搬方向において互いにギャップを隔てて配置されている。複数の第3の質量付加膜15cも、弾性波伝搬方向において互いにギャップを隔てて配置されている。この場合には、弾性波装置11を得るための製造工程において、第1の質量付加膜5a及び第2,第3の質量付加膜15b,15cを、リフトオフ法を用いて容易に形成することができる。よって、生産性を高めることができる。
【0059】
より具体的には、弾性波装置11を得るための製造工程において、第1の誘電体膜4上に、第1の質量付加膜5a及び複数の第2,第3の質量付加膜15b,15cを形成するためのレジスト層を形成する。次に、レジスト層をパターニングする。
【0060】
このとき、各第2,第3の質量付加膜15b,15c間の弾性波伝搬方向のギャップに相当する部分にもレジスト層が至っている。それによって、平面視において、IDT電極3の中央領域A1に重なる部分のレジスト層と、第1,第2の外側領域Ba,Bbに重なる部分のレジスト層とが接続されている。
【0061】
次に、第1の誘電体膜4上に、第1の質量付加膜5a及び複数の第2,第3の質量付加膜15b,15cとなる金属膜を形成する。次に、レジスト層を剥離する。このとき、レジスト層が上記のように接続されたパターンであるため、レジスト層を容易に剥離することができる。
【0062】
なお、各第2,第3の質量付加膜15b,15cは、平面視において、各第1,第2の電極指3a2,3b2のうち少なくとも一方に、一部が重なっていればよい。
【0063】
図10に示す第1の実施形態の第2の変形例のように、平面視において、第1の質量付加膜25aと、第2,第3の質量付加膜5b,5cとは、弾性波伝搬方向に垂直な方向において、ギャップを隔てて配置されていてもよい。
【0064】
図11に示す第1の実施形態の第3の変形例のように、圧電基板2とIDT電極3との間に、第2の誘電体膜37が積層されていてもよい。第2の誘電体膜37は、特に限定されないが、SiOやSiNなどからなる。
【0065】
第3の変形例の弾性波装置においては、第2の誘電体膜37が設けられていることにより、電気機械結合係数を調整することができる。
【0066】
図12に示す第1の実施形態の第4の変形例のように、第1の質量付加膜45aは、IDT電極3の各第1,第2の電極指3a2,3b2の幅と同じ幅であってもよい。また、平面視において、第1のバスバー3a1の少なくとも一部に重なるように、第1の誘電体膜4上に第4の質量付加膜45dが設けられていてもよい。平面視において、第2のバスバー3b1の少なくとも一部に重なるように、第1の誘電体膜4上に第5の質量付加膜45eが設けられていてもよい。第4,第5の質量付加膜45d,45eは、例えば、第1,第2の電極指3a2,3b2が延びる方向から見て、交差領域Aの弾性波伝搬方向における全長と重なるように設けられていてもよい。
【0067】
本発明は、弾性波共振子や帯域通過型フィルタなどにも好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0068】
1…弾性波装置
2…圧電基板
3…IDT電極
3a1,3b1…第1,第2のバスバー
3a2,3b2…第1,第2の電極指
4…第1の誘電体膜
5a〜5c…第1〜第3の質量付加膜
6…誘電体層
6a,6b…第1,第2の層
11…弾性波装置
15b,15c…第2,第3の質量付加膜
25a…第1の質量付加膜
37…第2の誘電体膜
45a,45d,45e…第1,第4,第5の質量付加膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12