(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記一般式(1)で表されるグリコールエーテル系有機溶剤(A)の配合量に対する、前記25℃下における表面張力が30〜50mN/mであるジオール系溶剤(B)の配合量の質量比が、1:0.5〜1:7.5である、請求項5に記載の紙基材または合成紙基材用インキセット。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の一例を説明するものである。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される変形例も含まれる。
【0030】
本発明のインキセットは、顔料、水溶性有機溶剤、界面活性剤、及び水を含むインクジェットインキ(以下、単に「インキ」ともいう)と、凝集剤を含む処理液とを含む。また、前記水溶性有機溶剤が、上記一般式(1)で表されるグリコールエーテル系有機溶剤(A)を含み、前記凝集剤が、硝酸カルシウムを、処理液全量に対し6.8〜20.8質量%含むとともに、前記処理液が、水酸基を3個以上有する化合物を処理液全量に対し15質量%以下含む(0質量%でも良い)。従来技術で説明したように、インクジェット印刷において、処理液とインクジェットインキとを併用することは従来から行われているが、本発明では、特有の材料を一定量含む処理液とインクジェットインキとを組み合わせることに、その特徴がある。
【0031】
本発明の処理液は、インクジェットインキを印刷する前に記録媒体上に付与されるものであり、前記記録媒体上にインキ凝集層を形成する。本発明の処理液により形成されたインキ凝集層(以下、単に「(本発明の)処理液層」ともいう)に含まれる硝酸カルシウムは、後から水性媒体が付与された際に溶解し、硝酸イオンとカルシウムイオンとに電離する。従って、水や水溶性有機溶媒を含む、本発明のインクジェットインキの液滴が、前記処理液層と接触した際、前記インクジェットインキの液滴内に、硝酸イオンやカルシウムイオンが電離・溶出すると考えられる。そして溶出したカルシウムイオンは、インキ液滴内に拡散するとともに、溶解及び/または分散された状態で存在し、アニオン電荷を有する、顔料や樹脂などの固体成分と、カチオン−アニオン相互作用や吸着状態の変化を引き起こす。その結果、前記溶解及び/または分散機能の低下に起因した、前記固体成分の凝集・析出や局所的な増粘が発生すると考えられる。
【0032】
なお、本明細書において「水性媒体」とは、少なくとも水を含む液体からなる媒体を意味する。
【0033】
上記のような凝集機構を発現する凝集剤として、硝酸カルシウム以外にも、カチオン性樹脂、酸性化合物や、前記硝酸カルシウム以外の無機金属塩が知られている。本発明において硝酸カルシウムが選択される理由として、イオンサイズの小さいカルシウムイオンの特徴である、拡散・浸透速度の大きさや高い凝集能、また、硝酸塩の特徴である、水性媒体に溶解する際の吸熱エネルギーの大きさが挙げられる。すなわち、硝酸カルシウムが電離する際、水性媒体から熱エネルギーを吸収する必要があるため、上記に記載した他の凝集剤に比べて、電離・溶出、そして凝集機能の発現までに、多少の時間がかかると考えられる。
【0034】
一方、本発明のインクジェットインキは、上記一般式(1)で表されるグリコールエーテル系有機溶剤(A)(以下、「特定グリコールエーテル系有機溶剤(A)ともいう」)と、界面活性剤とを含む。本発明者らは、インクジェットインキに含まれる水溶性有機溶剤が、記録媒体への浸透性に与える影響について鋭意検討を行った。その結果、前記特定グリコールエーテル系有機溶剤(A)を含むインキは、浸透性が特段に優れること、また、界面活性剤と併用することで、前記効果がさらに高まることを見出した。すなわち、特定グリコールエーテル系有機溶剤(A)と、界面活性剤とを併用したインキは、上質紙、ライナー紙などの易吸収性基材のみならず、コート紙、アート紙、キャスト紙などの難吸収性基材に対しても、好適に浸透することができる。
【0035】
ここで、上記インクジェットインキを付与する記録媒体上に、硝酸カルシウムを含む処理液層が存在する場合、前記インクジェットインキの浸透に伴い、前記硝酸カルシウムもまた、前記記録媒体内に浸透すると考えられる。上記の通り、硝酸カルシウムが凝集剤としての機能を発現するまでに多少の時間がかかることから、記録媒体の内部で、インキの凝集・増粘が起こると考えられる。その結果、記録媒体表面に留まるインキ量が減少し、塗膜耐性や乾燥性と、印刷画質とが両立した印刷物が得られることになる。
【0036】
また易吸収性基材を使用した場合、インキが凝集・増粘するまでの間に浸透が進んでしまい、フェザリングや液滴同士の合一・混合が発生することも考えられる。前記に対して本発明の場合は、硝酸カルシウムの電離時に発生する吸熱反応により、インキ液滴の液温が低下することで、粘度や表面張力が上昇し、過度な浸透・にじみを抑制する。さらに、インキに含まれる界面活性剤が、インキ液滴界面に速やかに配向することで、前記インキ液滴同士の合一が抑制できると考えられる。
【0037】
さらに本発明者らが検討した結果、処理液中に存在する硝酸カルシウムの量を、前記処理液全量に対し6.8〜20.8質量%とすることで、上記構成を有するインキとの相乗効果がさらに高まり、記録媒体や印刷速度によらず、高画質、かつ、塗膜耐性や乾燥性に優れた印刷物を、安定的に得られることを見出した。
【0038】
また、本発明の処理液では、水酸基を3個以上有する化合物を含んでも良いが、含む場合には処理液全量に対し15質量%以下であり、含まないことが好ましい。上質紙や一部のコート紙は、その表面や内部に、水酸基やカルボキシル基といった官能基を有しているため、水酸基を3個以上有する化合物を含む場合には、水酸基を3個以上有する化合物と、水素結合などの相互作用を引き起こすと考えられる。その結果、処理液に熱エネルギーを付与するなどしたとしても、前記水酸基を3個以上有する化合物は、記録媒体に残存しやすい。そのような状態の処理液層を有する記録媒体に、本発明のインクジェットインキを付与した場合、水酸基を3個以上有する化合物中に存在する前記水酸基と、カルシウムイオンとが相互作用を起こしてしまい、凝集剤としての効果発現が不十分となってしまう恐れがある。以上より本発明では、処理液中の水酸基を3個以上有する化合物の量を制限することで、記録媒体によらない、画質に優れた印刷物の作成を実現している。
【0039】
以上のように、上記記載した処理液とインキとを組み合わせることで、記録媒体や印刷速度などの印刷条件によらず、塗膜耐性や乾燥性に優れ、かつ、混色などの画像欠陥のない高画質な印刷物が作成できると考えられる。なお、上記のメカニズムは推論であり、何ら本発明を限定するものではない。
【0040】
続いて以下に、本発明の処理液の構成要素について詳細に説明する。
【0041】
<硝酸カルシウム>
上記の通り、本発明の処理液は、硝酸カルシウムを含有する。本発明において硝酸カルシウムは、インクジェットインキ中に存在する固体成分の溶解及び/または分散機能を低下させ、前記固体成分の凝集・析出や局所的な増粘を引き起こすことにより、インキ液滴同士の合一による混色を改善し、印刷条件によらず高画質画像を得るために用いられる。また上記記載のように、硝酸カルシウムの電離によって発生するカルシウムイオンは、イオンサイズが小さく、インキ液滴内や、記録媒体内部での移動・拡散が容易であること、価数が2価であり、1価のカチオンと比較して凝集機能や不溶化能力が高い。従って、いったんインキ液滴内で電離したカルシウムイオンは、前記インキ液滴内部の隅々にまで瞬時に移動し、顔料や樹脂などのアニオン電荷を帯びた固体成分の、溶解及び/または分散機能を低下させることができる。その結果、高速印刷であっても混色が発生せず、高画質な印刷物が得られる。さらには硝酸塩の特徴である、水性媒体への溶解時の大きな吸熱エネルギーにより、本発明のインキと組み合わせた際に、塗膜耐性や乾燥性に優れた印刷物を得ることができる。
【0042】
また上記の通り、本発明の処理液における、硝酸カルシウムの配合量は、インクジェットインキとの相乗効果が高まり、埋まりやにじみがなく、塗膜耐性や乾燥性に優れた印刷物が得られる観点から、処理液全量に対し6.8〜20.8質量%である。また、非常に高速での印刷であっても、オフセット印刷相当の優れた画質を発現させるため、7.0〜20.5質量%であることが好ましく、7.5〜20質量%であることが特に好ましい。なお、上記で示した硝酸カルシウムの量は、硝酸カルシウム無水物としての配合量である。
【0043】
<水酸基を3個以上有する化合物>
さらに上記の通り、本発明では、カルシウムイオンの凝集剤としての効果を十分に発現させる観点から、処理液中の水酸基を3個以上有する化合物の量は、処理液全量に対し15質量%以下である。前記処理液中の水酸基を3個以上有する化合物の量が多いほど、カルシウムイオンの機能が阻害されると考えられることから、前記処理液中の水酸基を3個以上有する化合物の量は少ないほど良いと考えられる。前記観点から、前記処理液中の水酸基を3個以上有する化合物の量は、処理液全量に対し12質量%以下であることがより好ましく、9質量%以下であることがさらに好ましく、5質量%以下であることが特に好ましく、実質的に含まないことが極めて好ましい。なお「実質的に含まない」とは、当該化合物を意図的に添加しないことを表すものであり、他材料に含まれる少量の副生成物や不純物の存在を否定するものではなく、本明細書においては、当該化合物の含有量が1質量%以下であることを表すものとする。
【0044】
水酸基を3個以上有する化合物は、常温(25℃)下において、液体のものであっても固体のものであっても良い。具体的な化合物を例示すると、グリセリン、トリメチロールプロパン、1,2,4−ブタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、ジグリセリン、エリトリトール、トレイトール、リビトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、ガラクチトール、などの鎖状ポリオール化合物、及び、前記化合物のアルキレンオキシド付加物;グルコース、スクロース、マルトース、ラクトース、セロビオース、トレハロース、フルクトース、イソマルト、ラクチトール、マルチトール、などの環状構造を有するポリオール化合物;ピンポリトール、ボルネシトール、オノニトール、ピニトール、イノシトール、キナ酸、シキミ酸、などのシクリトール化合物;などが挙げられる。上記化合物を使用する場合、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0045】
<有機溶剤>
本発明の処理液は、さらに有機溶剤を含むことができる。有機溶剤を併用することで、処理液の保湿・乾燥性や濡れ性をより好適なものに調整することができる。本発明の処理液に使用できる有機溶剤として特に制限はないが、水溶性有機溶剤を含むことが好ましい。なお有機溶剤には、上記のpH調整剤は含まれないものとする。なお本明細書において、処理液に含まれる「有機溶剤」には、上記の水酸基を3個以上有する化合物は含まれないものとする。
【0046】
本発明の処理液に含まれる有機溶剤は、水や硝酸カルシウムとの親和性や、硝酸カルシウムの溶解性の観点から、少なくとも分子構造中にヒドロキシル基を1個または2個含む水溶性有機溶剤を使用することが好ましい。
本発明の処理液に好適に用いられる、分子構造中にヒドロキシル基を1個または2個含む水溶性有機溶剤を例示すると、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、3−メトキシ−1−ブタノール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールなどの1価アルコール類;
1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール(プロピレングリコール)、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2−メチルペンタン−2,4−ジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ジブチレングリコールなどの2価アルコール(グリコール)類;
エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテルなどのグリコールモノアルキルエーテル類;を挙げることができる。
上記例示化合物のうち、本発明では特にエタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、3−メトキシ−1−ブタノール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールなどの1価アルコール類を使用することが好ましい。また上記の分子構造中にヒドロキシル基を1個または2個含む水溶性有機溶剤は、単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0047】
本発明の処理液に含まれる、分子構造中にヒドロキシル基を1個または2個含む水溶性有機溶剤の配合量は、処理液全量に対し0.1〜30質量%以下であることが好ましく、1〜25質量%であることがより好ましく、1〜20質量%であることが特に好ましい。水溶性有機溶剤の配合量を上記範囲内に収めることで、保湿性、塗膜耐性、乾燥性と濡れ性とが両立した処理液を得ることができるとともに、処理液の印刷方法によらず長期にわたり安定した印刷が可能となる。
【0048】
本発明の処理液では、他にも、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールメチルエチルエーテル、テトラエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテルなどのグリコールジアルキルエーテル類;
2−ピロリドン、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、ε−カプロラクタム、3−メチル−2−オキサゾリジノン、3−エチル−2−オキサゾリジノン、N,N−ジメチル−β−メトキシプロピオンアミド、N,N−ジメチル−β−エトキシプロピオンアミド、N,N−ジメチル−β−ブトキシプロピオンアミド、N,N−ジメチル−β−ペントキシプロピオンアミド、N,N−ジメチル−β−ヘキソキシプロピオンアミド、N,N−ジメチル−β−ヘプトキシプロピオンアミド、N,N−ジメチル−β−2−エチルヘキソキシプロピオンアミド、N,N−ジメチル−β−オクトキシプロピオンアミド、N,N−ジエチル−β−ブトキシプロピオンアミド、N,N−ジエチル−β−ペントキシプロピオンアミド、N,N−ジエチル−β−ヘキソキシプロピオンアミド、N,N−ジエチル−β−ヘプトキシプロピオンアミド、N,N−ジエチル−β−オクトキシプロピオンアミドなどの含窒素系溶剤;
γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトンなどの複素環化合物;などを使用することができる。上記の有機溶剤は、単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0049】
本発明の処理液に含まれる有機溶剤の配合量の総量は、処理液全量に対し0.1〜50質量%以下であることが好ましく、0.15〜30質量%であることがより好ましく、0.2〜25質量%であることが特に好ましい。有機溶剤の配合量を上記範囲内に収めることで、処理液の乾燥性、保湿性、濡れ性を両立させるとともに、前記有機溶剤の残留に起因する塗膜耐性の悪化を防止することが可能となる。
【0050】
また本発明の処理液は、沸点が240℃以上の有機溶剤の含有量が、前記処理液全量に対して10質量%未満であることが好ましい(0質量%でも良い)。240℃以上の有機溶剤を含まないか、含むとしてもその配合量を上記範囲内に調製することで、高速印刷時の処理液の乾燥性が十分なものとなり、また、記録媒体内に浸透・残留することがなくなるため、硝酸カルシウムの凝集性能や塗膜耐性を向上させることができる。なお上記沸点が240℃以上の有機溶剤の含有量の算出にあたっては、水酸基を3個以上有する化合物(ただし、25℃において液体であるもの)のうち沸点が240℃以上であるものの含有量や、分子構造中にヒドロキシル基を1個または2個含む水溶性有機溶剤のうち沸点が240℃以上であるものの含有量も、その計算に含めるものとする。
【0051】
<界面活性剤>
本発明の処理液は、表面張力を調整し、記録媒体上への濡れ性を向上させるため界面活性剤を使用することが好ましい。界面活性剤には、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤など様々なものが存在するが、本発明の処理液に使用する場合は、硝酸カルシウムの凝集機能を阻害することなく、処理液の濡れ性を向上できる観点から、ノニオン性界面活性剤を選択することが好ましい。
【0052】
また前記ノニオン性界面活性剤についても、アセチレン系、シロキサン系、アクリル系、フッ素系など、様々な種類のものが知られているが、処理液の濡れ性、後から付与されるインクジェットインキの濡れ性、処理液の印刷安定性を両立させるため、アセチレン系界面活性剤、及び/または、シロキサン系界面活性剤を使用することが好ましく、少なくともアセチレン系界面活性剤を含むことが特に好ましい。
【0053】
本発明で使用される界面活性剤は、公知の方法により合成したものでもよいし、市販品を使用してもよい。界面活性剤を市販品から選択する場合、例えばシロキサン系界面活性剤としてBY16−201、FZ−77、FZ−2104、FZ−2110、FZ−2162、F−2123、L−7001、L−7002、SF8427、SF8428、SH3749、SH8400、8032ADDITIVE、SH3773M(東レ・ダウコーニング社製)、Tegoglide410、Tegoglide432、Tegoglide435、Tegoglide440、Tegoglide450、Tegotwin4000、Tegotwin4100、Tegowet250、Tegowet260、Tegowet270、Tegowet280(エボニックデグサ社製)、SAG−002、SAG−503A(日信化学工業社製)、BYK−331、BYK−333、BYK−345、BYK−346、BYK−347、BYK−348、BYK−349、BYKUV3500、BYK−UV3510(ビックケミー社製)、KF−351A、KF−352A、KF−353、KF−354L、KF355A、KF−615A、KF−640、KF−642、KF−643(信越化学工業社製)などを、またアセチレン系界面活性剤としてサーフィノール61、104E、104H、104A、104BC、104DPM、104PA、104PG−50、420、440、465、485、SE、SE−F、ダイノール604、607(エアープロダクツ社製)、オルフィンE1004、E1010、E1020、PD−001、PD−002W、PD−004、PD−005、EXP.4001、EXP.4200、EXP.4123、EXP.4300(日信化学工業社製)などを挙げることができる。上記の界面活性剤は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0054】
中でも、後述する様々な塗工方法で、均一な凝集層とするためには、表面に速やかに界面活性剤が配向し、表面張力を低下・安定化させる必要がある。前記観点から、アセチレン系界面活性剤として、下記一般式(2)で表される化合物を含むことが特に好ましい。
【0056】
一般式(2)中、sは1〜3の整数、tは0以上の整数、uは0以上の整数であり、t+uは1〜30の整数である。またEtはエチレン基を表す。中でも、一般式(2)において、sが1または2であり、t+uが5〜20の整数であることが好ましい。
【0057】
上記に例示した市販品のうち、上記一般式(2)で表される化合物として、サーフィノール420、440、465、485、ダイノール604、607、オルフィンE1004、E1010が挙げられる。これらのうち、一般式(2)において、sが1または2であり、t+uが2〜20の整数である化合物として、サーフィノール465、ダイノール607、オルフィンE1010がある。
【0058】
またシロキサン系界面活性剤を使用する場合、界面活性剤としての機能や、水性媒体に対する溶解特性を調整するため、各種有機基が導入された、変性シロキサン系界面活性剤を用いることが好ましい。なかでも、有機基としてポリエーテル基を用いた、ポリエーテル変性シロキサン系界面活性剤は、ポリエーテル基を構成する、エチレンオキシド基やプロピレンオキシド基の数を調整することで、界面活性剤の親水・疎水性が任意に制御できるとともに、界面への配向速度に優れた界面活性剤にできることから、本発明の処理液には好適に用いられる。
【0059】
本発明の処理液が界面活性剤を含む場合、その添加量は、処理液全量に対して0.1〜3.0質量%であることが好ましく、0.15〜2.0質量%であることが特に好ましい。上記範囲で界面活性剤を添加することで、塗布方法によらず、また高速印刷時であっても、記録媒体に対する十分な濡れ性を発現することができ、かつハジキなどの塗工品質の劣化も起こすことはない。ただし界面活性剤の配合量は、後述するインクジェットインキの表面張力を考慮したうえで決定することが好ましい。
【0060】
本発明では、印刷物のにじみを防ぐ観点から、処理液の表面張力はインクジェットインキの表面張力以上とすることが好ましい。処理液の表面張力をインクジェットインキの表面張力より大きくすることで、処理液を記録媒体に付与した際の、塗膜表面に配向する界面活性剤の量を減らすことができ、処理液層の表面エネルギーが過剰に低下することがなくなるため、後から印刷されるインクジェットインキの濡れ性が好適なものとなり、にじみのない、高画質な印刷物を得ることができる。
【0061】
<バインダー樹脂>
本発明の処理液は、さらにバインダー樹脂を含むことができる。バインダー樹脂とは、インクジェットインキと処理液との反応に関与しない樹脂であり、バインダー樹脂を併用することで、印刷物の耐水性を向上させることができるため、前記印刷物を様々な用途に使用することができる。なお一般的には、バインダー樹脂として水溶性樹脂と樹脂微粒子が知られており、本発明ではどちらを用いても差し支えないが、インクジェットインキと瞬時に混和し、高速印刷において処理液の凝集能力をより効果的に発現させる点から、水溶性樹脂を選択したほうが好ましい。
【0062】
前記バインダー樹脂の含有量は、金属イオンの量に応じて決定されることが好ましい。具体的には、前記処理液に含まれる金属イオンの含有量に対する、前記バインダー樹脂の含有量の質量比が、金属イオンの含有量1に対しバインダー樹脂の含有量が0より大きく50未満であることが好ましく、0より大きく30未満であることが特に好ましい。上記範囲の場合、印刷物の耐水性が向上し、さらに波打ち(記録媒体の一部が水分を吸って部分的に伸び、波状になる現象)や、カール(水分に起因した記録媒体の湾曲)の発生のない、高画質な印刷物が得られる。
【0063】
本発明では、バインダー樹脂として任意のものを使用することができるが、中でも、ノニオン性水溶性樹脂を用いると、耐水性向上や、波打ち・カール抑制に効果的であることから好ましい。なお、処理液の基本性能が維持できる範囲で、ノニオン性水溶性樹脂にアニオンユニット若しくはカチオンユニットが付加した樹脂を用いても構わない。本発明において使用できるバインダー樹脂の具体例として、ポリエチレンイミン、ポリアミド、各種の第4級アンモニウム塩基含有水溶性樹脂、ポリアクリルアマイド、ポリビニルピロリドン、ポリアルキレンオキシド、デンプン、メチルセルロース、ヒドロキシセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの水溶性セルロース、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルアセタール及びポリビニルアルコールなど、及びこれらの変性物、が挙げられる。また、硝酸カルシウムに対して安定な範囲で、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、マレイン酸樹脂、スチレンマレイン酸樹脂、ウレタン樹脂、エステル樹脂なども使用できるが、これらに限定されないのはいうまでもない。
【0064】
これらのうち、後から印刷されるインクジェットインキ中の液体成分を吸収し、高速印刷において、乾燥性を特段に良化できる点から、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセタール、ポリアルキレンオキシド、セルロース誘導体、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂から選択される少なくとも1種を選択することが好ましい。とりわけポリビニルアルコール、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂から選択される1種以上の樹脂は、透明性、塗膜耐性、顔料に対するバインダー力などの、インクジェットインキ用処理液に必要な物性を有しており、かつ入手が容易であること、変性物も含め種類が豊富であることなどの点から好ましい。
【0065】
上記のうちポリビニルアルコールに関しては、経時での処理液のpH低下が抑制できることから、けん化度が95%以上であるもの(完全けん化品)を用いることが最も好ましい。すなわち、けん化度が95%以上であるポリビニルアルコールを用いることで、耐水性、波打ち・カール抑制に加え、光沢性、透明性、インクジェットインキ吸収性に優れた処理液層が得られ、かつ、pHなどの経時安定性に優れた処理液を得ることができる。またアクリル樹脂、及び/または、スチレンアクリル樹脂に関しては、処理液中での硝酸カルシウムとの反応を防ぎ、pHや粘度などの経時安定性や凝集効果に優れた処理液にできるとともに、印刷物の耐水性、光沢性や波打ち・カール抑制性にも優れる点から、酸価が100以下であるものを選択することが最も好ましい。なお酸価は、後述する顔料分散用樹脂の場合と同様の方法により、測定することができる。
【0066】
本発明の処理液がバインダー樹脂を含有する場合、その数平均分子量(Mn)は、3,000〜90,000であることが好ましく、4,000〜86,000であることが特に好ましい。上記範囲のバインダー樹脂であれば、一般的に求められる耐水性を十分に発現しつつ、処理液層の膨潤に起因する記録媒体の波打ち・カールが起こらないうえに、カルシウムイオンの移動が阻害されないことから、凝集効果が悪化することがない。さらには、上記数平均分子量範囲のバインダー樹脂を使用することにより、処理液の粘度を好適な範囲内に収めることもできる。
【0067】
なお、本発明における数平均分子量は常法によって測定することができる。一例を挙げると、TSKgelカラム(東ソー社製)を用い、RI検出器を装備したGPC(東ソー社製、HLC−8120GPC)で、展開溶媒にTHFを用いて測定したポリスチレン換算の数平均分子量として測定することができる。
【0068】
<pH調整剤>
本発明の処理液は、前記pH範囲にするために、pH調整剤を含んでも良い。pH調整剤とは、大気中の二酸化炭素の吸収によるpH低下など、環境変化によるpH変動を抑制し、液のpHを一定に保つ機能を有する材料を示す。本発明では、pH調整能を有する材料を任意に選択することができ、塩基性化させる場合は、ジメチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、などのアルカノールアミン;その他1級アミン、2級アミン、3級アミン、4級アンモニウム塩;アンモニア水;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩などを使用することができる。また酸性化させる場合は塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸などの各種無機酸;酢酸、クエン酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸、マロン酸、アスコルビン酸、グルタミン酸などの各種有機酸;酢酸リチウム、酢酸ナトリウムなどのアルカリ金属の酢酸塩、などを使用することができるが、これらに限定されるものではない。上記のpH調整剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。中でも、金属イオン成分を含まないpH調整剤が、硝酸カルシウムの凝集性能に影響を与えないことから、好ましい。
【0069】
pH調整剤の配合量としては、処理液全量に対し0.01〜5質量%であることが好ましい。pH調整剤の配合量を上記範囲内とすることで、処理液中の硝酸カルシウムの機能を阻害することなく、前記処理液のpH調整が可能となるだけでなく、安全性や臭気の点からも好適である。さらに、長期的・連続的なアンカー塗工時であっても、pHを安定的に維持しつつ、高速塗工時であっても前記処理液の乾燥性が保てる点から、前記配合量は0.15〜3質量%であることがより好ましい。
【0070】
本発明の処理液における、上記pH調整剤の沸点は、処理液塗工時における、塗工装置上での乾燥、固着を防止する観点から、50℃以上であることが好ましく、高速印刷時の乾燥性悪化を防止する観点から、400℃以下であることが好ましい。
【0071】
本発明の処理液における、上記pH調整剤の分子量は、重量平均分子量(Mw)で500以下であることが好ましい。上記分子量のpH調整剤を使用することで、高速印刷時の処理液の塗工むら改善に加え、処理液の粘度を好適な範囲内に収めることができる。なおpH調整剤が単一物質の場合は、上記重量平均分子量を、前記単一物質の分子量に読み替えるものとする。
【0072】
<水>
本発明の処理液に含まれる水の含有量としては、処理液全量に対し10〜90質量%の範囲であることが好ましい。
【0073】
<その他の成分>
また本発明の処理液は、所望の物性値とするために、必要に応じて消泡剤、防腐剤などの添加剤を適宜に添加することができる。これらの添加剤を使用する場合、その配合量は処理液全量に対して0.01質量%以上10質量%以下とすることが好ましい。
【0074】
<処理液の製造方法>
上記の成分からなる本発明の処理液は、例えば、硝酸カルシウム、水、及び、必要に応じて有機溶剤、界面活性剤、バインダー樹脂、pH調整剤や、上記で挙げたような適宜に選択される添加剤成分を加え、撹拌・混合したのち、必要に応じて濾過することで製造される。ただし本発明の処理液の製造方法は上記に限定されるものではない。
【0075】
なお撹拌・混合の際は、必要に応じて前記混合物を40〜100℃の範囲で加熱してもよい。ただしバインダー樹脂として樹脂微粒子を使用する場合は、前記樹脂微粒子のMFT以下の温度で加熱することが好ましい。
【0076】
また濾過を実施する際、フィルター開孔径は、粗大粒子やダストが除去できるものであれば特に制限されないが、好ましくは0.3〜100μm、より好ましくは0.5〜50μmである。また濾過を行う際は、フィルターは単独種を用いても、複数種を併用してもよい。
【0077】
<処理液の特性>
本発明の処理液のpHは、3.5〜11とすることが好ましい。pHが前記範囲であれば、処理液が強酸性、または強塩基性であることによる、凝集作用の過剰な高速化を抑制し、埋まり不足によるスジ抑制と、固体成分の凝集・析出や局所的な増粘による高画質とが両立した印刷物を得ることができる。また、前記処理液が搭載される印刷装置に使用される部材、特に金属部材に対する、腐食などのダメージを抑制することもできる。上記効果をさらに向上させるとともに、より広いインキ組成に対して高画質な印刷物が得られる観点から、pH範囲は3.5〜9.5であることが好ましく、4〜8であることが特に好ましい。pHが4〜8であれば、様々な金属に対する腐食性抑制に優れるとともに、長時間に渡って処理液を記録媒体に付与する際、ムラのない塗工物を安定的に得ることができる。
【0078】
なお、上記pHは公知の方法、例えば堀場製作所社製卓上型pHメータF−72にて、スタンダードToupH電極またはスリーブToupH電極を使用して測定することができる。
【0079】
また本発明の処理液は、25℃における粘度を5〜100mPa・sに調整することが好ましい。上記粘度範囲を満たす処理液であれば、処理液をムラなく塗布することができ、後述の様々な印刷方法に対応させることができる。また、高速印刷時であっても、かつ処理液の塗布方法によらず、前記処理液を記録媒体に均一に付与することができ、高画質な印刷物が得られる観点から、前記処理液の25℃における粘度は5〜80mPa・sであることがより好ましく、5〜60mPa・sであることがさらに好ましく、5〜30mPa・sであることが最も好ましい。
【0080】
本発明における処理液の粘度は、処理液の粘度に応じて、例えばE型粘度計(東機産業社製TVE25L型粘度計)やB型粘度計(東機産業社製TVB10形粘度計)を用いて測定することができる。
【0081】
さらに本発明の処理液の25℃における表面張力は、様々な記録媒体に対して十分な濡れ性が発現できる観点から、20〜75mN/mであることが好ましく、21〜65mN/mであることがより好ましく、22〜45mN/mであることが特に好ましい。また後述する通り、処理液の表面張力はインクジェットインキの表面張力以上であることが好ましい。
【0082】
本発明における処理液の表面張力は、例えば表面張力計(協和界面科学社製CBVPZ)を用い、25℃環境下で白金プレート法によって測定することができる。
【0083】
続いて以下に、本発明のインクジェットインキの構成要素について詳細に説明する。
【0084】
<顔料>
本発明のインクジェットインキは、耐水性、耐光性、耐候性、耐ガス性などを有する観点に加え、高速印刷において本発明の処理液を使用した際、染料と比較して凝集速度が速いという観点から、色材として顔料を含む。本発明では、公知の有機顔料、無機顔料のいずれも使用することができる。これらの顔料は、インクジェットインキ全量に対して2質量%以上15質量%以下の範囲で含まれることが好ましく、2.5質量%以上12質量%以下の範囲で含まれることがより好ましく、3質量%以上10質量%以下の範囲で含まれることが特に好ましい。顔料の含有率を上記範囲にすることで、1パス印刷であっても十分な発色性を得つつ、インクジェットインキの粘度をインクジェット印刷に適した範囲に収めることができ、結果として長期の印字安定性を確保することができる。
【0085】
本発明で使用することができるシアン有機顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15:3、15:4、15:6、16、22、60、64、66などが挙げられる。中でも発色性や耐光性に優れる点からC.I.ピグメントブルー15:3及び/または15:4から選択される1種以上が好ましい。また色再現性を向上させる目的で、C.I.ピグメントグリーン7、36、43、58などのグリーン顔料を混合してもよい。
【0086】
本発明で使用することができるマゼンタ有機顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド5、7、12、22、23、31、48(Ca)、48(Mn)、49、52、53、57(Ca)、57:1、112、122、146、147、150、185、238、242、254、255、266、269、282、C.I.ピグメントバイオレッド19、23、29、30、37、40、43、50などが挙げられる。中でも発色性や耐光性に優れる点からC.I.ピグメントレッド122、146、150、185、202、209、254、266、269、282及び/またはC.I.ピグメントバイオレッド19からなる群から選択される1種以上の顔料が好ましい。特にC.I.ピグメントレッド122、202、209、282、C.I.ピグメントバイオレッド19などのキナクリドン顔料は、本発明の処理液と併用した際に高い発色性を示すうえ、耐候性に優れる印刷物が得られることから、特に好ましい。
【0087】
なお発色性をさらに高める観点で、マゼンタ有機顔料として、キナクリドン顔料を含む固溶体顔料を用いることも好ましい。具体的には、C.I.ピグメントレッド122とC.I.ピグメントバイオレッド19とを含む固溶体顔料、C.I.ピグメントレッド202とC.I.ピグメントバイオレッド19とを含む固溶体顔料、C.I.ピグメントレッド209とC.I.ピグメントバイオレッド19とを含む固溶体顔料、C.I.ピグメントレッド282とC.I.ピグメントバイオレッド19とを含む固溶体顔料、C.I.ピグメントレッド122とC.I.ピグメントレッド146とを含む固溶体顔料、C.I.ピグメントレッド122とC.I.ピグメントレッド150とを含む固溶体顔料、C.I.ピグメントレッド122とC.I.ピグメントレッド254とを含む固溶体顔料、C.I.ピグメントレッド122とC.I.ピグメントレッド269とを含む固溶体顔料などを挙げることができる。
【0088】
本発明で使用することができるイエロー有機顔料としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー10、11、12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、94、95、109、110、117、120、125、128、137、138、139、147、148、150、151、154、155、166、168、180、185、213などが挙げられる。なかでも発色性に優れる点からC.I.ピグメントイエロー13、14、74、120、139、180、185、213からなる群から選択される1種以上が好ましく選択される。
【0089】
本発明で使用することができるブラック有機顔料としては、例えば、アニリンフ゛ラック、ルモゲンブラック、アゾメチンアゾブラックなどが挙げられる。また、上記のシアン顔料、マゼンタ顔料、イエロー顔料や、下記のオレンジ顔料、グリーン顔料、ブラウン顔料などの有彩色顔料を複数使用し、ブラック顔料とすることもできる。
【0090】
本発明のインクジェットインキにはオレンジ顔料、グリーン顔料、ブラウン顔料などの特色を使用することもできる。具体的には、C.I.ピグメントオレンジ16、36、43、51、55、59、61、64、 71、C.I.ピグメントグリーン7、36、43、58、ピグメントブラウン23、25、26などを挙げることができる。上記特色顔料を使用することで、さらなる広演色な印刷物の作製が可能となる。
【0091】
本発明で使用される無機顔料としては特に限定されないが、例えば黒色顔料としてカーボンブラックや酸化鉄、白色顔料として酸化チタンを挙げることができる。
【0092】
本発明で使用できるカーボンブラック顔料としては、ファーネス法、チャネル法で製造されたカーボンブラックが挙げられる。中でも、これらのカーボンブラックであって、一次粒子径が11〜50nm、BET法による比表面積が50〜400m
2/g、揮発分が0.5〜10質量%、pHが2〜10などの特性を有するものが好適である。このような特性を有する市販品として、例えばNo.25、30、33、40、44、45、52、850、900、950、960、970、980、1000、2200B、2300、2350、2600;MA7、MA8、MA77、MA100、MA230(三菱化学株式会社製)、RAVEN760UP、780UP、860UP、900P、1000P、1060UP、1080UP、1255(コロンビアンカーボン社製)、REGAL330R、400R、660R、MOGUL L(キャボット社製)、Nipex160IQ、170IQ、35、75;PrinteX30、35、40、45、55、75、80、85、90、95、300;SpecialBlack350、550;Nerox305、500、505、600、605(オリオンエンジニアドカーボンズ社製)などがあり、いずれも好ましく使用することができる。
【0093】
また、白色無機顔料として好適に用いられる酸化チタンとしては、アナターゼ型、ルチル型のいずれも使用することができるが、印刷物の隠蔽性を上げるためにもルチル型を用いるのが好ましい。また、塩素法、硫酸法などいずれの方法で製造したものでも良いが、塩素法にて製造された酸化チタンを使用した方が、白色度が高いことから好ましい。
【0094】
本発明で使用することができる酸化チタンの顔料表面は、無機化合物及び/または有機化合物により処理したものを使用することが好ましい。無機化合物の例として、シリコン、アルミニウム、ジルコニウム、スズ、アンチモン、チタンの化合物、及びこれらの水和酸化物を挙げることができる。また有機化合物の例として、多価アルコール、アルカノールアミンまたはその誘導体、高級脂肪酸またはその金属塩、有機金属化合物などを挙げることができるが、中でも多価アルコール、またはその誘導体は酸化チタン表面を高度に疎水化し、分散安定性を向上させることが可能であり、好ましく用いられる。
【0095】
なお本発明では、印刷物の色相や発色性を好適な範囲に収めるため、上記の顔料を複数混合して用いることができる。例えば、カーボンブラック顔料を使用したブラックインキに対し、低印字率における色味を改善するため、シアン有機顔料、マゼンタ有機顔料、オレンジ有機顔料、ブラウン有機顔料から選択される1種以上の顔料を少量添加することができる。
【0096】
<顔料分散用樹脂>
上記顔料をインクジェットインキ中で安定的に分散保持する方法として、(1)水溶性顔料分散樹脂を顔料表面に吸着させ分散する方法、(2)水溶性及び/または水分散性の界面活性剤を顔料表面に吸着させ分散する方法、(3)顔料表面に親水性官能基を化学的・物理的に導入し、分散樹脂や界面活性剤なしでインキ中に分散する方法(自己分散顔料)、(4)水不溶性樹脂で顔料を被覆し、必要に応じてさらに別の水溶性顔料分散樹脂や界面活性剤を用いてインキ中に分散させる方法などを挙げることができる。
【0097】
本発明で用いられるインクジェットインキは、上記(3)の方法により製造された顔料(すなわち自己分散顔料)以外の方法によって分散された顔料を使用したものが好ましい。本発明は、処理液のカルシウムイオンによる不溶化によって、混色などの画像欠陥を抑制するものであり、カルシウムイオンと、樹脂や界面活性剤などの高分子量成分とが、アニオン−カチオン間相互作用反応や吸着平衡移動反応を引き起こしたほうが、顔料成分に起因した増粘・流動性低下の効果が大きく、高速印刷時であっても前記画像欠陥を抑制できるためである。
【0098】
さらに上記のうち、(1)または(4)の方法を選択する、すなわち、顔料が、顔料分散用樹脂を用いて分散されていることがより好ましく、(1)の顔料分散樹脂を用いる方法を選択することが特に好ましい。これは樹脂を構成するモノマー組成や分子量を選定・検討することにより、顔料に対する樹脂吸着能や顔料分散樹脂の電荷を容易に調整でき、結果として微細な顔料に対する分散安定性の付与や、処理液による顔料の分散機能低下能力の制御が可能となるためである。なお上記「顔料分散用樹脂」とは、上記(1)や(4)の方法において用いられる水溶性顔料分散樹脂や、上記(4)の方法において用いられる水不溶性樹脂を総称する用語として定義される。
【0099】
本発明で用いられる顔料分散用樹脂の種類は特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、マレイン酸樹脂、スチレンマレイン酸樹脂、ウレタン樹脂、エステル樹脂などを使用することができる。本発明では、材料選択性の大きさや合成の容易さの点に加え、硝酸カルシウムに対する電荷中和と不溶化による凝集の速度が好適なものとなる点から、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂を使用することが特に好ましい。なお本発明で用いられる顔料分散用樹脂は、公知の方法により合成することも、市販品を使用することもできる。
【0100】
本発明では、顔料分散用樹脂に炭素数8〜36のアルキル基を導入することが好ましい。これは、アルキル基の炭素数を8〜36とすることにより、顔料分散液の低粘度化と更なる分散安定化、粘度安定化を実現できるとともに、カルシウムイオンとアニオン−カチオン間相互作用反応や吸着平衡移動反応を起こした後の、顔料成分に起因した増粘・流動性低下の効果が極めて大きいためである。なおアルキル基の炭素数として、好ましくは炭素数10〜34であり、より好ましくは12〜30であり、さらに好ましくは炭素数18〜24である。またアルキル基は炭素数8〜36の範囲であれば、直鎖であっても分岐していてもいずれも使用することができるが、直鎖状のものが好ましい。直鎖のアルキル基としてはオクチル基(C8)、デシル基(C10)、ラウリル基(C12)、ミリスチル基(C14)、セチル基(C16)、ステアリル基(C18)、アラキル基(C20)、ベヘニル基(C22)、リグノセリル基(C24)、セロトイル基(C26)、モンタニル基(C28)、メリッシル基(C30)、ドトリアコンタノイル基(C32)、テトラトリアコンタノイル基(C34)、ヘキサトリアコンタノイル基(C36)などが挙げられる。
【0101】
本発明で用いられる顔料分散用樹脂に含まれる、炭素数8〜36のアルキル鎖を含有する単量体の、共重合体中における含有率は、顔料分散液の低粘度化と印刷物の塗膜耐性や光沢性とを両立させる観点から5質量%〜60質量%であることが好ましく、10質量%〜55質量%であることがより好ましく、20質量%〜50質量%であることが特に好ましい。
【0102】
また本発明では、顔料に対する吸着能を向上するとともに、処理液と混合した際に速やかに顔料の分散機能を低下させることができることから、顔料分散用樹脂に芳香族基を導入することが特に好ましい。これは、処理液とインクジェットインキを混合した際、処理液に含まれるカルシウムイオンと芳香族基を有する顔料分散用樹脂との間に、カチオン−π相互作用と言われる強固な分子間力が働き、両者が優先的に吸着するためである。芳香族基としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、アニシル基などが挙げられる。中でもフェニル基、トリル基が分散安定性を十分に確保できる面から好ましい。
【0103】
顔料の分散安定性と処理液との吸着性能との両立の観点から、芳香環を含有する単量体の含有率は、顔料分散用樹脂全量に対し5〜65質量%であることが好ましく、10〜50質量%であることがより好ましい。
【0104】
本発明では顔料分散用樹脂の酸価が20〜300mgKOH/gであることが好ましく、50〜250mgKOH/gであることがより好ましい。酸価を上記の範囲内に収めることで、処理液中のカルシウムイオンと混合した時の分散機能の低下効果が十分に高まり、極めて高画質な画像を得ることができる。また、インキの保存安定性が良好となるため、長期間インキ保管した後も初期と同などの分散状態を保つことができ、初期と同などの凝集性、埋まりを有する印刷物が得られるとともに、インキの吐出安定性も向上する。
【0105】
酸価は公知の装置、例えば京都電子工業株式会社製「電位差自動滴定装置AT−610」を用いて電位差滴定法により測定することができる。
【0106】
また、顔料分散用樹脂の重量平均分子量は、1,000以上100,000以下の範囲内であることが好ましい。分子量が前記範囲であることにより、顔料が水中で安定的に分散し、またインキの粘度調整などが行いやすい。さらに重量平均分子量を1,000以上とすることで、顔料に吸着した、あるいは顔料を被覆している、前記顔料分散用樹脂の脱離を防止できるため、分散安定性を好適に維持できる。重量平均分子量が100,000以下であれば、分散時粘度を好適な範囲に収めることができるとともに、インクジェットヘッドからの吐出安定性の悪化も防止し、好適な印刷安定性を有するインキとすることができる。
【0107】
さらに、水溶性顔料分散樹脂の重量平均分子量は5,000以上50,000以下の範囲であることがより好ましい。分子量が前記範囲であることにより、カルシウムイオンによる不溶化の際に、インキの増粘が起き、高速印刷時であっても、混色を抑制し高画質な画像が得られるとともに、高速印刷時の連続吐出安定性も良好に保つことができる。
【0108】
本発明において、顔料をインキ中で安定的に分散保持する方法として、上記(1)の方法を選択する、すなわち、上記顔料分散用樹脂として水溶性顔料分散樹脂を用いる場合、インキへの溶解度を上げるため、前記顔料分散樹脂中の酸基が、塩基で中和されていることが好ましい。一方で、中和のため過剰に塩基を投入してしまうと、処理液中に含まれるカルシウムイオンが中和されてしまい、十分な効果を発揮することができないため、その添加量には注意を払う必要がある。塩基の添加量が過剰かどうかは、例えば水溶性顔料分散樹脂の10質量%水溶液を作製し、前記水溶液のpHを測定することにより確認することができる。本発明では、処理液の機能を十分に発現させるために、前記水溶液のpHが7〜11であることが好ましく、7.5〜10.5であることがより好ましい。
【0109】
本発明で用いられる、水溶性顔料分散樹脂を中和するための塩基としては、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミンなどのアルカノールアミン;アンモニア水;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩などを挙げることができる。
【0110】
また上記(1)の方法を選択する場合、顔料に対する水溶性顔料分散樹脂の配合量は、1〜50質量%であることが好ましい。顔料分散樹脂の配合量を、顔料に対して1〜50質量%とすることで、顔料分散液の粘度を抑え、前記顔料分散液やインクジェットインキの粘度安定性・分散安定性が良化するとともに、処理液と混合した際に速やかな分散機能の低下を引き起こすことができるため好ましい。顔料と顔料分散樹脂の比率としてより好ましくは2〜45質量%、さらに好ましくは4〜40質量%であり、最も好ましくは5〜35質量%である。
【0111】
<水溶性有機溶剤>
<特定グリコールエーテル系有機溶剤(A)>
本発明のインクジェットインキは、水溶性有機溶剤として、下記一般式(1)で表される、特定グリコールエーテル系有機溶剤(A)を含有する。上記でも説明した通り、特定グリコールエーテル系有機溶剤(A)を含むインキは、浸透性が特段に優れており、記録媒体や印刷条件によらず、塗膜耐性や乾燥性と、印刷画質とが両立できると考えられる。
【0112】
一般式(1):
R1−(−O−CH
2CH
2−)n−OH
【0113】
上記一般式(1)において、R1は、分岐構造を有してもよい、炭素数2〜4のアルキル基を表す。またnは、2または3である。
【0114】
本発明では、特定グリコールエーテル系有機溶剤(A)として、一般式(1)におけるR1が、分岐構造を有しているアルキル基である、及び/または、炭素数が4のアルキル基であるものを好適に用いることができる。一般式(1)におけるR1が、分岐構造を有しているアルキル基である、及び/または、炭素数が4のアルキル基である特定グリコールエーテル系有機溶剤(A)は、表面張力が小さいため、記録媒体の種類によらず、その内部に容易に浸透し、塗膜耐性、乾燥性や、印刷画質に優れた印刷物となるためである。
【0115】
また本発明では、一般式(1)におけるnが、2である特定グリコールエーテル系有機溶剤(A)が好ましく選択される。親水性を有するエチレンオキシド基(−O−CH
2CH
2−)が少ない特定グリコールエーテル系有機溶剤(A)であれば、コート紙、アート紙、キャスト紙などの難吸収性基材に対しても、容易に浸透することができ、塗膜耐性や乾燥性に優れた印刷物を得ることができる。また、インキの粘度が低く抑えられ、吐出安定性も向上できるため、好ましい。
【0116】
特定グリコールエーテル系有機溶剤(A)を具体的に例示すると、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノノルマルプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノノルマルブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノターシャリーブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノノルマルプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノノルマルブチルエーテル、トリエチレングリコールモノイソブチルエーテル、トリエチレングリコールモノターシャリーブチルエーテルが挙げられる。なお本発明で用いられる特定グリコールエーテル系有機溶剤(A)は、単独で用いても、2種以上で用いてもよい。
【0117】
上記の通り、上記列挙したもののうち、一般式(1)におけるR1が、分岐構造を有しているアルキル基、及び/または、炭素数が4のアルキル基である特定グリコールエーテル系有機溶剤(A)や、一般式(1)におけるnが2である特定グリコールエーテル系有機溶剤(A)を好ましく用いることができる。具体的には、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノノルマルブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノターシャリーブチルエーテルから選択される1種以上の有機溶剤を選択することが好ましい。中でも、上記に記載した好適な条件の全てを満たす、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、及び/または、ジエチレングリコールモノターシャリーブチルエーテルが、最も好ましく選択される。
【0118】
本発明のインクジェットインキにおける、特定グリコールエーテル系有機溶剤(A)の配合量の総量は、記録内部への浸透性を確保し、塗膜耐性を向上させながらも、高画質な印刷物を得る観点から、インクジェットインキ全量に対し2〜35質量%とすることが好ましく、3〜30質量%とすることがより好ましく、4〜25質量%とすることが特に好ましく、5〜20質量%とすることが最も好ましい。
【0119】
<表面張力が30〜50mN/mであるジオール系溶剤(B)>
本発明のインクジェットインキは、上記の特定グリコールエーテル系有機溶剤(A)に加えて、さらに、25℃下における表面張力が30〜50mN/mであるジオール系溶剤(B)(以下、「特定表面張力ジオール系溶剤(B)」ともいう)を含むことが好ましい。
【0120】
上記の特定グリコールエーテル系有機溶剤(A)は、表面張力が小さい。そのため、吸収性が特に高い記録媒体に印刷する場合や、印刷から乾燥までの時間間隔が長い場合、本発明のインキセットを用いたとしても、フェザリングなどの画像欠陥を抑制しきれない恐れがある。そこで、特定表面張力ジオール系溶剤(B)を併用することにより、微視的なインキ液滴の表面張力が大きくなるとともに、特定グリコールエーテル系有機溶剤(A)の有するエチレンオキシド基との間に水素結合が形成されると考えられる。その結果、記録媒体や印刷条件によらず、印刷画質が特段に優れた印刷物となる。さらに、前記水素結合に起因すると考えられる、吐出安定性の向上も実現できる。
【0121】
本発明で用いられる特定表面張力ジオール系溶剤(B)を例示すると、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどが挙げられるが、上記に限定されるものではない。また特定表面張力ジオール系溶剤(B)は単独で用いても、2種以上で用いてもよい。
【0122】
本発明において特定表面張力ジオール系溶剤(B)を使用する場合、1気圧下における沸点が180〜235℃であるものを使用することが好ましく、前記沸点が180〜225℃であるものを使用することがより好ましく、180〜210℃であるものを使用することが特に好ましい。前記沸点範囲に含まれる特定表面張力ジオール系溶剤(B)を用いることで、インキ中の固体成分が凝集・析出や局所的な増粘を引き起こしたのち、速やかに揮発し、印刷画質、塗膜耐性や乾燥性に優れた印刷物を得ることができる。上記例示した特定表面張力ジオール系溶剤(B)のうち、1気圧下における沸点が180〜235℃であるものとして、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコールなどがある。
【0123】
なお、本発明における1気圧下での沸点は、DSC(示差走査熱量分析)などの熱分析装置を用いることにより測定することができる。
【0124】
また、上記例示した特定表面張力ジオール系溶剤(B)として、炭素数が3以下であるアルカンジオールである、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオールから選択される1種以上の水溶性有機溶剤を選択することも好適である。前記炭素数が3以下であるアルカンジオールは、1気圧下における沸点が低い一方で、表面張力が35〜50mN/mと比較的高く、上記特定グリコールエーテル系有機溶剤(A)と組み合わせた際に、印刷画質を向上させる効果が最も優れている。
【0125】
さらに、特定表面張力ジオール系溶剤(B)として、ジエチレングリコール、及び/または、トリエチレングリコールを選択することも好適である。ジエチレングリコールやトリエチレングリコールは、分子構造中にエチレンオキシド基を有しており、同じくエチレンオキシド基を有する特定グリコールエーテル系有機溶剤(A)との親和性が高い。そのため、塗膜耐性、乾燥性、印刷画質に優れた印刷物を安定的に得ることができる。
【0126】
本発明のインキが特定表面張力ジオール系溶剤(B)を含む場合、その配合量は、上記効果を好適に発現させ、印刷画質に優れた印刷物が得られる観点から、インキ全量に対して、3〜45質量%であることが好ましく、4〜40質量%であることがより好ましく、5〜35質量%であることが特に好ましい。
【0127】
また上記の通り、特定表面張力ジオール系溶剤(B)は、特定グリコールエーテル系有機溶剤(A)と相互に作用することで、印刷物の印刷画質や吐出安定性を向上する材料であることから、その配合量は、前記特定グリコールエーテル系有機溶剤(A)の配合量に基づいて決定されることが特に好ましい。本発明者らが鋭意検討した結果、特定グリコールエーテル系有機溶剤(A)の配合量を1としたときの、特定表面張力ジオール系溶剤(B)の配合量の質量比が0.5〜7.5であるとき、印刷物の印刷画質や吐出安定性に優れたインキとなることを見出した。また上記効果をさらに好適なものとする観点から、前記配合量の質量比は0.7〜5であることがより好ましく、1〜3であることが特に好ましい。
【0128】
<その他の水溶性有機溶剤>
本発明では、インクジェットインキに使用される水溶性有機溶剤として、特定グリコールエーテル系有機溶剤(A)、及び、特定表面張力ジオール系溶剤(B)以外の水溶性有機溶剤を、単独もしくは複数併用することが可能である。但し、所望とする効果が低減しない程度に、その含有量を調整することが好ましい。
【0129】
具体的には、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、4−メチル−1,2−ペンタンジオール、3,3−ジメチル−1,2−ブタンジオール、グリセリン、などのポリオール系溶剤;
2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、3−メトキシ−1−ブタノール、3−メトキシ−3−メチルブタノール、などの1価アルコール系溶剤;
プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、などのプロピレングリコールモノエーテル系溶剤;
プロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、などのプロピレングリコールジエーテル系溶剤;
エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコール−2−エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、などのエチレングリコールモノエーテル系溶剤;
ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルブチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエチルエーテル、トリエチレングリコールメチルブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールメチルエチルエーテル、テトラエチレングリコールメチルブチルエーテルなど、のエチレングリコールジエーテル系溶剤;
2−ピロリドン、N−メチルオキサゾリジノン、ε−カプロラクトンなどの含窒素溶剤;
などが挙げられる。但し、これらに限定されるものではない。またこれらの溶剤は単独で使用しても良いし、複数を混合して使用してもよい。
【0130】
本発明のインクジェットインキにおける水溶性有機溶剤の総量は、インクジェットインキの保湿性、乾燥性、濡れ性を両立する観点から、インクジェットインキ全量に対し6質量%以上70質量%以下であることが好ましく、10質量%以上60質量%以下であることがより好ましく、15質量%以上50質量%以下であることが特に好ましい。
【0131】
<水溶性有機溶剤の沸点>
本発明のインクジェットインキは、1気圧下における沸点が245℃以上である水溶性有機溶剤の含有量が、前記インクジェットインキ全量に対し0質量%以上10質量%未満であることが好ましい。上記の範囲で有機溶剤量を制御することにより、高速印刷であっても、塗膜耐性や乾燥性に優れ、かつ、ブロッキング(印刷物を積み重ねたり、巻き取ったりした際、記録媒体の裏面がインキで汚れる現象)の発生もない印刷物とすることができる。また、本発明の処理液と組み合わせたときに、高速印刷であっても画質に優れた印刷物を得ることができる観点から、1気圧下における沸点が245℃未満である水溶性有機溶剤の配合量は、インクジェットインキ全量に対し0質量%以上9質量%以下とすることが特に好ましい。なお上記において「0質量%」とは、1気圧下における沸点が240℃以上である水溶性有機溶剤を含まないことを意味するものである。また、上記1気圧下における沸点が240℃以上である水溶性有機溶剤の含有量の算出にあたっては、特定グリコールエーテル系有機溶剤(A)や、特定表面張力ジオール系溶剤(B)も考慮に入れるものとする。
【0132】
さらに、本発明のインクジェットインキに含まれる、水溶性有機溶剤の1気圧下における加重沸点平均値が、175〜245℃であることが好ましく、180〜235℃であることがより好ましく、185〜220℃であることがさらに好ましく、190〜210℃であることが特に好ましい。水溶性有機溶剤の加重沸点平均値を上記範囲に収めることで、本発明の処理液と組み合わせたときに、高速印刷であっても高画質な画像を得ることができるとともに、吐出安定性も優れたものとなる。なお、上記加重沸点平均の算出にあたっても、特定グリコールエーテル系有機溶剤(A)や、特定表面張力ジオール系溶剤(B)も考慮に入れるものとする。また、上記1気圧下における加重沸点平均値は、それぞれの水溶性有機溶剤について算出した、1気圧下での沸点と、全水溶性有機溶剤に対する質量割合との乗算値を、足し合わせることで得られる値である。
【0133】
<バインダー樹脂>
本発明のインクジェットインキには、必要に応じてバインダー樹脂を加えてもよい。バインダー樹脂としては、一般に樹脂微粒子と水溶性樹脂とが知られており、本発明はどちらか、または両方を組み合わせて用いることができる。
【0134】
上記のうち樹脂微粒子は、水溶性樹脂と比較して高分子量のものが使用できること、またインクジェットインキ粘度を低くすることができ、より多量の樹脂をインクジェットインキ中に配合することができることから、印刷物の塗膜耐性を特段に高めるのに適している。樹脂微粒子として使用される樹脂の種類として、(メタ)アクリル系、スチレン−(メタ)アクリル系、ウレタン系、スチレン−マレイン酸系、スチレン−ブタジエン系、塩化ビニル系、塩化ビニル−酢酸ビニル系、エチレン−酢酸ビニル系、ポリオレフィン系などがあり、インキの保存安定性や印刷物の塗膜耐性、材料選択幅の広さ、及び、硝酸カルシウムと混合した際の相溶性が良好であり、白化のない印刷物が得られることを考慮すると、(メタ)アクリル系、スチレン−(メタ)アクリル系、ウレタン系、ポリオレフィン系から選択される1種以上の樹脂微粒子が好ましく使用される。なお本明細書において「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」及び/または「メタクリル」を表す。
【0135】
なお、インクジェットインキ中のバインダー樹脂が樹脂微粒子である場合は、前記樹脂微粒子のMFTを考慮する必要がある。MFTの低い樹脂微粒子を使用した場合、インクジェットインキ中に添加される水溶性有機溶剤によっては樹脂微粒子のMFTがさらに低下し、室温であっても樹脂微粒子が融着や凝集を起こす結果、インクジェットヘッドノズルの目詰まりが発生することがある。前記問題を回避するためには、樹脂微粒子を構成する単量体を調整することにより、前記樹脂微粒子のMFTを50℃以上にすることが好ましい。
【0136】
またバインダー樹脂として、MFTの低い樹脂をコア成分、MFTの高い樹脂微粒子をシェル成分とする、コア−シェル型樹脂微粒子を使用してもよい。前記コア−シェル型樹脂微粒子の製造方法として、界面重合法、懸濁重合法、in−situ重合法、転相乳化法、コアセルベーション法、液中乾燥法など、公知の方法を任意に選択できる。
【0137】
なお上記MFTは、例えばテスター産業社製MFTテスターによって測定することができる。具体的には、上記MFTテスターに設置された、温度勾配をかけることができる金属板上に、樹脂微粒子の25質量%水溶液を、WET膜厚300μmとなるように塗布する。前記金属板に温度勾配をかけ、樹脂微粒子を完全に造膜させたのち、造膜せずに白化した領域と、透明な樹脂膜が形成された領域との境界の温度を読み取り、MFTとする。
【0138】
一方、バインダー樹脂として水溶性樹脂を用いる場合、上記樹脂微粒子で見られるような樹脂微粒子同士の融着や凝集が起きないため、インクジェットプリンターのメンテナンス性能を向上させる場合などに、好適に選択される。水溶性樹脂を選択する場合、その重量平均分子量は3,000〜50,000の範囲内であることが好ましく、4,000〜40,000の範囲内であることがより好ましく、5,000〜35,000の範囲内であることが特に好ましい。重量平均分子量を10,000以上とすることで、印刷物の塗膜耐性を良好なものとすることができ、重量平均分子量を50,000以下とすることで、インクジェットヘッドからの吐出安定性やメンテナンス性に優れたインクジェットインキを得ることができる。
【0139】
バインダー樹脂として水溶性樹脂を用いる場合、前記水溶性樹脂として使用される樹脂の種類として、(メタ)アクリル系、スチレン−(メタ)アクリル系、ウレタン系、スチレン−マレイン酸系、スチレン−ブタジエン系、ビニルアルコール系、セルロース系、ポリオレフィン系などがあり、インキの保存安定性、上記水溶性有機溶剤との相溶性、材料選択幅の広さ、及び、硝酸カルシウムと混合した際の相溶性が良好であり、白化のない印刷物が得られることを考慮すると、(メタ)アクリル系、スチレン−(メタ)アクリル系、ウレタン系から選択される1種以上の樹脂微粒子が好ましく使用される。
【0140】
本発明のインクジェットインキでバインダー樹脂を用いる場合、その含有量は、固形分換算で、前記インクジェットインキ全量中1〜20質量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは2〜15質量%の範囲であり、特に好ましくは3〜10質量%の範囲である。
【0141】
<界面活性剤>
<アセチレンジオール系界面活性剤>
本発明のインクジェットインキは、界面活性剤を含む。前記界面活性剤として、従来公知のものを任意に使用することができ、中でもアセチレン系界面活性剤を含むことが好ましい。上記の通り、アセチレン系界面活性剤は短時間で界面に配向するため、硝酸カルシウムが電離する際の吸熱により、多少インキの粘度や表面張力が変化したとしても、インキ液滴界面への配向速度や、記録媒体内部への浸透速度に影響を及ぼすことがない。また、インキ液滴界面に速やかに配向することで、前記インキ液滴同士の合一が抑制でき、にじみのない、印刷画質に優れた印刷物が得られると考えられる。
【0142】
特に本発明では、前記アセチレン系界面活性剤として、グリフィン法によるHLB値が3以下であるものを選択することが好ましい。HLB(Hydrophile−Lipophile Balance)値とは、材料の親水・疎水性を表すパラメータであり、その値が小さいほど疎水性が高い。すなわち、HLB値が小さいほど、インキ液滴表面への配向速度が大きいと考えられ、印刷画質に優れた印刷物が得られる。
【0143】
なお、グリフィン法によるHLB値は、対象の材料の分子量を用いて、下記式(3)のようにして求められる。
【0144】
式(3):
HLB値=20×(親水性部分の分子量の総和)÷(材料の分子量)
【0145】
また別の実施形態として、本発明のインクジェットインキに用いられるアセチレン系界面活性剤として、上記一般式(2)で表されるものを選択することも好適である。上記一般式(2)で表されるアセチレン系界面活性剤はエチレンオキシド基を有しており、同じくエチレンオキシド基を有している、特定グリコールエーテル系有機溶剤(A)との相溶性が高いと考えられる。その結果、インキ中でアセチレン系界面活性剤が偏在することがなくなり、安定的に、高画質な印刷物を得ることができる。
【0146】
本発明では、アセチレンジオール系界面活性剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。例えば、グリフィン法によるHLB値が3以下であるアセチレンジオール系界面活性剤と、上記一般式(2)で表されるアセチレンジオール系界面活性剤とを併用することができる。またアセチレンジオール系界面活性剤は、公知の方法により合成したものを用いてもよいし、上記に例示した市販品を用いてもよい。
【0147】
本発明のインクジェットインキが、アセチレン系界面活性剤を含む場合、その配合量は、印刷物の印刷画質を好適なものとする観点から、インキ全量に対し0.2〜2.5質量%であることが好ましく、0.4〜2.0質量%であることがより好ましく、0.5〜1.5質量%であることが特に好ましい。
【0148】
<その他界面活性剤>
さらに本発明のインクジェットインキは、硝酸カルシウムを含む処理液の凝集性能を阻害しない範囲で、アセチレン系界面活性剤以外の界面活性剤(以下、単に「その他界面活性剤」ともいう)を添加してもよい。その他界面活性剤は、1種のみ用いても、2種以上を併用してもよい。また、アセチレン系界面活性剤を併用しても、併用しなくてもよい。
【0149】
最適な濡れ性の確保と、好適な吐出安定性の実現という観点から、その他界面活性剤として、シロキサン系界面活性剤、及び/または、フッ素系界面活性剤を使用することが好ましく、シロキサン系界面活性剤を使用することが特に好ましい。
【0150】
その他界面活性剤として、シロキサン系界面活性剤を使用する場合、インキ界面への配向速度や吐出安定性を向上させる観点から、有機基としてポリエーテル基を用いた、ポリエーテル変性シロキサン系界面活性剤を選択することが好ましい。また、インキ界面への配向速度の観点から、上記式(3)によって算出される、ポリエーテル変性シロキサン系界面活性剤のグリフィン法によるHLB値は、2〜12であることが好ましく、2.5〜11であることがより好ましく、3〜10であることが特に好ましい。
【0151】
また、インクジェットインキが蒸発する過程における濡れ性の制御や、塗膜耐性や耐溶剤性などの印刷物の品質向上の点で、界面活性剤の分子量も重要である。その他界面活性剤の分子量としては、重量平均分子量で1,000以上50,000以下であることが好ましく、1,500以上40,000以下の範囲内であることがより好ましい。1,000以上とすることで記録媒体に対する濡れ性を制御する効果を高めることができ、また50,000以下とすることで、保存安定性に優れたインクジェットインキを得ることができる。
【0152】
本発明で使用できるその他界面活性剤は、公知の方法により合成することも、市販品を使用することもできる。界面活性剤を市販品から選択する場合、例えばシロキサン系界面活性剤としては、処理液で使用できる界面活性剤として上記に挙げたもの、またフッ素系界面活性剤としては、ZonylTBS、FSP、FSA、FSN−100、FSN、FSO−100、FSO、FS−300、Capstone FS−30、FS−31(DuPont社)、PF−151N、PF−154N(オムノバ社製)などを挙げることができる。
【0153】
本発明のインクジェットインキが、その他界面活性剤を含む場合、その添加量としては、インクジェットインキ全量に対して、0.01質量%以上3.0質量%以下が好ましく、0.05質量%以上2.5質量%以下がさらに好ましい。
【0154】
なお、インクジェットインキに使用する界面活性剤と処理液に使用する界面活性剤は、同じでも異なっていてもよい。各々異なる界面活性剤を使用する際は、上記のとおり、両者の表面張力に注意したうえで配合量を決定したほうがよい。
【0155】
<水>
本発明のインクジェットインキに含まれる水としては、種々のイオンを含有する一般の水ではなく、イオン交換水(脱イオン水)を使用するのが好ましい。
【0156】
本発明で使用することができる水の含有量としては、インキ全量に対し20〜90質量%の範囲であることが好ましい。
【0157】
<その他の成分>
また本発明のインクジェットインキは、上記の成分の他に、必要に応じて所望の物性値を持つインキとするために、pH調整剤、消泡剤、防腐剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤などの添加剤を適宜に添加することができる。その添加量としては、インキの全質量に対して、0.01質量%以上10質量%以下が好適である。なお前記pH調整剤としては、上記処理液で使用できるものが好適に利用できる。
【0158】
なお、本発明のインクジェットインキは重合性モノマーを実質的に含有しないことが好ましい。ここで「実質的に含有しない」とは意図的に添加しないことを表すものであり、インクジェットインキを製造・保管する際の微量の混入または発生を除外するものではない。具体的には、インクジェットインキ全量に対し、重合性モノマーの量を1質量%以下とすることが好ましく、0.5質量%以下とすることがより好ましい。
【0159】
<インクジェットインキセット>
本発明のインクジェットインキは単色で使用してもよいが、用途に合わせて複数の色を組み合わせたインクジェットインキセットとして使用することもできる。組み合わせは特に限定されないが、シアン、イエロー、マゼンタの3色を使用することでフルカラーの画像を得ることができる。また、ブラックインキを追加することで黒色感を向上させ、文字などの視認性を上げることができる。さらにオレンジ、グリーンなどの色を追加することで色再現性を向上させることも可能である。白色以外の印刷媒体へ印刷を行う際にはホワイトインキを併用することで鮮明な画像を得ることができる。なおインクジェットインキがマゼンタインキを有する場合、上記の通り、前記マゼンタインキが、マゼンタ顔料としてキナクリドン顔料、及び/または、キナクリドン顔料を含む固溶体顔料を含むことが好ましい。
【0160】
<インクジェットインキの製造方法>
上記したような成分からなる本発明のインクジェットインキは、例えば、以下のプロセスを経て製造される。ただし本発明のインクジェットインキの製造方法は以下に限定されるものではない。
【0161】
<(1)顔料分散液の製造(顔料分散用樹脂を使用する場合)>
顔料分散用樹脂として、水溶性顔料分散樹脂を用いる場合、前記水溶性顔料分散樹脂と水と、必要に応じて水溶性有機溶剤とを混合・攪拌し、水溶性顔料分散樹脂混合液を作製する。前記水溶性顔料分散樹脂混合液に、顔料を添加し、混合・攪拌(プレミキシング)した後、分散機を用いて分散処理を行う。その後、必要に応じて遠心分離、濾過や、固形分濃度の調整を行い、顔料分散液を得る。
【0162】
また、水不溶性樹脂により被覆された顔料の分散液を製造する場合、あらかじめ、メチルエチルケトンなどの有機溶媒に水不溶性樹脂を溶解させ、必要に応じて前記水不溶性樹脂を中和した、水不溶性樹脂溶液を作製する。前記水不溶性樹脂溶液に、顔料と、水とを添加し、混合・撹拌(プレミキシング)した後、分散機を用いて分散処理を行う。その後、減圧蒸留により前記有機溶媒を留去し、必要に応じて、遠心分離、濾過や、固形分濃度の調整を行い、顔料分散液を得る。
【0163】
顔料の分散処理の際に使用される分散機は、一般に使用される分散機ならいかなるものでもよく、例えば、ボールミル、ロールミル、サンドミル、ビーズミル、ナノマイザー、ペイントシェーカー、マイクロフルイダイザーなどが使用できる。
【0164】
なお、顔料分散液に含まれる顔料の粒度分布を制御する方法として、分散時に顔料分散液に与える電力量を挙げること、撹拌部材(アジテータ)の形状を変更すること、分散処理後に遠心分離や濾過を行うこと、などが挙げられる。また分散機として、ボールミルやビーズミルなどのメディア分散機を使用する場合は、メディアのサイズを小さくすること、メディアの材質を変更すること、メディアの充填率を大きくすること、などが挙げられる。本発明においてメディア分散機を使用する場合、顔料を好適な粒度範囲に収めるために、上記メディアのサイズを直径0.1〜3mmとすることが好ましい。またメディアの材質として、ガラス、ジルコン、ジルコニア、チタニアが好ましく用いられる。なお上記の手法は、2種類以上を組み合わせてもよい。
【0165】
<(2)インクジェットインキの調整>
次いで、上記顔料分散液に、水溶性有機溶剤、界面活性剤、水、及び必要に応じて上記で挙げたバインダー樹脂やその他の添加剤を加え、混合・撹拌する。
【0166】
なお必要に応じて、前記混合物を40〜100℃の範囲で加熱しながら撹拌・混合してもよい。ただしバインダー樹脂として樹脂微粒子を使用する際は、加熱温度は前記樹脂微粒子のMFT以下とすることが好ましい。
【0167】
<(3)粗大粒子の除去>
上記混合物に含まれる粗大粒子を、濾過、遠心分離などの手法により除去し、インクジェットインキとする。濾過の方法としては、公知の方法を適宜用いることができる。またフィルター開孔径は、粗大粒子、ダストが除去できるものであれば、特に制限されないが、好ましくは0.3〜5μm、より好ましくは0.5〜3μmである。また濾過を行う際、フィルターは単独種を用いても、複数種を併用してもよい。
【0168】
<インクジェットインキの特性>
本発明のインクジェットインキは、25℃における粘度を3〜20mPa・sに調整することが好ましい。この粘度領域であれば、特に通常の4〜10KHzの周波数を有するヘッドから10〜70KHzの高周波数のヘッドにおいても安定した吐出特性を示す。特に、25℃における粘度を3〜14mPa・sとすることで、600dpi以上の設計解像度を有するインクジェットヘッドに対して用いても、安定的に吐出させることができる。
【0169】
本発明におけるインクジェットインキの25℃における粘度は常法により測定することができる。具体的にはE型粘度計(東機産業社製TVE25L型粘度計)を用い、インキ1mLを使用して測定することができる。
【0170】
本発明のインクジェットインキは、優れた発色性を有する印刷物を得るために、顔料の平均二次粒子径(D50)を40nm〜500nmとすることが好ましく、より好ましくは50nm〜400nmであり、特に好ましくは60nm〜300nmである。平均二次粒子径を上記好適な範囲内に収めるためには、上記のように顔料分散処理工程を制御すればよい。
【0171】
<印刷物の製造方法>
本発明の処理液とインクジェットインキからなるインキセットを用いて印刷物を製造する方法として、紙基材または合成紙基材である記録媒体に、前記処理液を付与する工程と、前記処理液を付与した部分に、前記インクジェットインキを1パス印刷方式により付与する工程とを含む方法が好ましく用いられる。
【0172】
「1パス印刷方式」とは、停止している記録媒体に対しインクジェットヘッドを一度だけ走査させる、または固定されたインクジェットヘッドの下部に記録媒体を一度だけ通過させる印刷方法であり、印字されたインキの上に再度インキが印字されることがない。1パス印刷方式は、従来のインクジェットヘッドを複数回走査するインクジェット印刷方式(マルチパス印刷方式)に比べて走査回数が少なく、印刷速度を上げることができることから、印刷速度が要求される産業用途に好適とされる。特に近年活発に検討されている、オフセット印刷やグラビア印刷の代替としてのインクジェット印刷を実現するにあたっては、本方式の採用は必須といえる。
【0173】
以下に、本発明のインキセットを用いた印刷物の製造方法について説明する。
【0174】
<処理液の付与方法>
本発明では、インクジェットインキを印刷する前に、40m/分以上の速度で搬送される記録媒体上に処理液が付与される。記録媒体上への処理液の付与方法として、インクジェット印刷のように記録媒体に対して非接触で印刷する方式と、記録媒体に対し処理液を当接させて印刷する方式のどちらを採用してもよい。
【0175】
近年、ヘッド内ヒーターの採用、ヘッド内流路やノズル構造の最適化などにより、25℃における粘度が100mPa・s程度の液体組成物であっても吐出可能なインクジェットヘッドが開発されている。本発明の処理液の25℃における好適な粘度範囲は5〜100mPa・sであり、インクジェット印刷であっても前記処理液を問題なく印刷することができる。なお処理液の付与方法としてインクジェット印刷を採用する場合、非印字部において記録媒体固有の風合いを残すことができる観点から、インクジェットインキを付与する部分にのみ、前記処理液を付与することが好ましい。
【0176】
一方、インクジェットヘッドを構成する部材へのダメージ防止や、インクジェット印刷適性確保の観点から、本発明では、記録媒体に対し処理液を当接させる印刷方式が好ましく用いられる。処理液を当接させる印刷方式としては、従来から公知のものを任意に選択することができるが、装置の単純性、均一塗工性、作業効率、経済性などの観点から、ローラ形式を採用することが好ましい。なお「ローラ形式」とは、回転するロールにあらかじめ処理液を付与したのち、記録媒体に前記処理液を転写する印刷形式を指す。本発明において好ましく用いられるローラ形式の塗工機としては、例えばオフセットグラビアコーター、グラビアコーター、ドクターコーター、バーコーター、ブレードコーター、フレキソコーター、ロールコーターなどがある。
【0177】
本発明における、記録媒体上への処理液の塗工膜厚は、WET膜厚で0.5〜10μmであることが好ましく、0.5〜8.5μmであることがより好ましく、0.6〜6μmであることが特に好ましい。塗工膜厚を上記範囲内とすることで、処理液が付与されインクジェットインキが付与されない部分においても記録媒体本来の風合いを損なわない上に、高速印刷時も十分な混色抑制効果を発現しつつ、処理液中の溶剤成分の乾燥を十分に行うことができる。なお処理液の塗工膜厚は、後述するインクジェットインキの付与量と記録媒体上への処理液の残留量も加味して決定することが好ましい。
【0178】
<処理液付与後の熱エネルギー印加>
本発明では、処理液を記録媒体に付与したのち、インクジェットインキを付与する前に、前記記録媒体に熱エネルギーを印加させ、記録媒体上の処理液を乾燥させることが好ましい。また特に、インクジェットインキを付与する前に処理液を完全に乾燥させる、すなわち、前記処理液の液体成分を完全に除去された状態とすることが好ましい。処理液が完全に乾燥する前にインクジェットインキが付与されると、インクジェットインキ中の固体成分の溶解及び/または分散機能の低下を一層促進できる一方で、記録媒体上の液体成分が過剰となり、インクジェット印刷後に作用させる熱エネルギーが不十分である場合、記録媒体の波打ちやにじみなどの画像欠陥が発生する可能性がある。
【0179】
本発明で用いられる熱エネルギーの印加方法に特に制限はなく、例えば加熱乾燥法、熱風乾燥法、赤外線乾燥法、マイクロ波乾燥法、ドラム乾燥法などを挙げることができる。上記の乾燥法は単独で用いても、複数を併用してもよい。例えば加熱乾燥法と熱風乾燥法を併用することで、それぞれを単独で使用したときよりも素早く、処理液を乾燥させることができる。
【0180】
本発明では、記録媒体へのダメージや処理液中の液体成分の突沸を防止する観点から、上記のうち加熱乾燥法を採用する場合は乾燥温度を35〜100℃とすることが、また熱風乾燥法を採用する場合は熱風温度を50〜250℃とすることが好ましい。また同様の観点から、赤外線乾燥法を採用する場合は、赤外線照射に用いる赤外線の全出力の積算値の50%以上が、700nm以上1500nm以下の波長領域に存在することが好ましい。
【0181】
<処理液付与・乾燥装置>
本発明の処理液付与・乾燥装置は、後述するインクジェット印刷装置に対し、インラインあるいはオフラインで装備されるが、印刷時の利便性の点から、インラインで装備されることが好ましい。
【0182】
<インクジェットインキの付与方法>
上記で説明したとおり、インクジェットインキは記録媒体に対し1パス印刷方式により付与される。なお1パス印刷方式としては、上記のように、停止している記録媒体に対しインクジェットヘッドを一度だけ走査させる方法と、固定されたインクジェットヘッドの下部に記録媒体を一度だけ通過させる方法の2種類があるが、インクジェットヘッドを走査させる場合、前記インクジェットヘッドの動きを加味して吐出タイミングを調整する必要があり、着弾位置のずれが生じやすいことから、本発明では、インクジェットヘッドを固定し記録媒体を走査する方法が好ましく用いられる。その際、記録媒体の搬送速度は40m/分以上とすることが好ましい。特に、処理液の付与装置をインクジェット印刷装置に対しインラインで設置する場合、前記処理液の付与装置からインクジェット印刷装置までが連続的に配置され、処理液が付与された記録媒体がそのままインクジェット印刷部へ搬送されることが好ましい。
【0183】
また上記でも説明したように、本発明のインキセットを用いることで、高速かつ600dpi以上の記録解像度であっても高品質の画像を製造することができるが、オフセット印刷やグラビア印刷と同などの画質を有する印刷物を提供できる点から、印刷物の記録解像度は1200dpi以上であることが特に好ましい。
【0184】
<インクジェットヘッド>
1パス印刷方式として、固定されたインクジェットヘッドの下部に記録媒体を一度だけ通過させる方法を採用する場合、記録幅方向における記録解像度は、インクジェットヘッドの設計解像度によって決定される。上記の通り、本発明では記録幅方向の記録解像度も600dpi以上であることが好ましいことから、必然的に、インクジェットヘッドの設計解像度としても600dpi以上であることが好ましく、1200dpi以上であることが特に好ましい。インクジェットヘッドの設計解像度が600dpi以上であれば、1色につき1個のインクジェットヘッドで印刷することができるため、装置の小型化や経済性の観点で好ましい。なお600dpiよりも低い設計解像度のインクジェットヘッドを使用する場合は、1色につき複数のインクジェットヘッドを記録媒体の搬送方向に並べて使用することで、1パス印刷であっても記録幅方向における記録解像度として600dpi以上を実現することができる。
【0185】
また、記録媒体の搬送方向における印刷解像度は、インクジェットヘッドの設計解像度だけでなく、前記インクジェットヘッドの駆動周波数と印刷速度に依存し、例えば印刷速度を1/2にする、または駆動周波数を2倍にすることで、搬送方向における記録解像度は2倍になる。インクジェットヘッドの設計上、40m/分以上の印刷速度において、搬送方向における印刷解像度として600dpi以上を達成できない場合は、1色につき複数のインクジェットヘッドを記録媒体の搬送方向に並べて使用することで、印刷速度と印刷解像度とを両立させることができる。
【0186】
本発明のインクジェット1パス印刷における、インクジェットインキのドロップボリュームは、前記インクジェットヘッドの性能によるところが大きいが、高品質の画像を実現するため1〜30pLの範囲であることが好ましい。また高品質の画像を得るために、ドロップボリュームを変化させることができる階調仕様のインクジェットヘッドを使用することが特に好ましい。
【0187】
<インクジェットインキ付与後の熱エネルギー印加>
処理液が付与された記録媒体上にインクジェットインキを付与したあと、前記インクジェットインキ、及び未乾燥の処理液を乾燥させるため、前記記録媒体に熱エネルギーを印加させることが好ましい。本発明で好ましく用いられる熱エネルギーの印加方法や条件は、上記の処理液の乾燥に使用されるものと同様である。
【0188】
<インクジェットインキ乾燥装置>
インクジェットインキ乾燥装置は、インクジェット印刷装置に対しインラインあるいはオフラインで装備されるが、印刷時の利便性などの点から、インラインで装備されることが好ましい。また本発明では、にじみや色むら、記録媒体のカールなどを防止するため、熱エネルギーは印刷後30秒以内に印加することが好ましく、20秒以内に印加することがより好ましく、10秒以内に印加することが特に好ましい。
【0189】
<処理液及びインクジェットインキの付与量>
本発明では、処理液の付与量に対するインクジェットインキの付与量の比を0.1以上10以下とすることが好ましい。なお付与量の比としてより好ましくは0.5以上9以下であり、特に好ましくは1以上8以下である。付与量の比を上記範囲に収めることにより、処理液量が過剰となることで起こる記録媒体の風合いの変化や、インクジェットインキ量が過剰となり処理液の効果が不十分となることで起こるにじみや色むらが起こることなく、高品質の印刷物を得ることができる。
【0190】
<印刷速度>
上記のように、本発明のインキセットを用いて印刷物を製造する場合、その印刷速度は40m/分以上であることが好ましく、60m/分以上であることがより好ましく、80m/分以上であることが特に好ましい。
【0191】
<記録媒体>
本発明では、処理液の機能を十分に発現するために、記録媒体上に処理液中の硝酸カルシウムが一定の範囲内で存在していることが高速・高画質印刷のために必要である。従って、インクジェットインキ印刷時の、記録媒体上の処理液層の形成状況が重要であり、前記処理液層の形成に影響を与える、記録媒体の空隙率や浸透性が重要となる。本発明のインキセットを用いて印刷する際、使用する記録媒体としては公知のものを任意に用いることができるが、上記の観点より、紙基材または合成紙基材が好ましく選択される。
【0192】
なお本発明において「紙基材」とは、パルプを含む材料を抄紙してなる記録媒体を意味する。前記抄紙にあたっては、単層抄きとしてもよいし、多層抄きとしてもよい。また、その表面に塗工層を有してもよい。具体的には、上質紙、再生紙、微塗工紙、コート紙、アート紙、キャスト紙、ライナー紙、マニラボール紙、コートボール紙などが挙げられる。また「合成紙基材」とは、合成樹脂を主原料とした記録媒体であって、紙基材と同様の印刷加工特性を有する記録媒体である。
【0193】
上記の記録媒体以外にも、本発明のインキセットは、例えば綿や絹の様な布基材;紙基材;合成紙基材;ポリ塩化ビニルシート、PETフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルムの様なプラスチック基材;に対して使用できる。
【0194】
上記の記録媒体は、表面が滑らかであっても、凹凸のついたものであっても良いし、透明、半透明、不透明のいずれであっても良い。また、これらの印刷媒体の2種以上を互いに張り合わせたものでも良い。さらに印字面の反対側に剥離粘着層などを設けても良く、また印字後、印字面に粘着層などを設けても良い。また本発明で用いられる記録媒体の形状は、ロール状でも枚葉状でもよい。
【0195】
前記処理液に由来する、記録媒体表面のカルシウムイオンの濃度は0.5〜5mmol/m
2であることが好ましく、1〜4mmol/m
2であることがより好ましい。これにより、カルシウムによる凝集性と埋まり、さらには塗膜耐性を両立させることができる。
【0196】
<印刷物>
本発明の印刷物は、上記インキセットを用いて、記録媒体に印刷してなるものである。本発明の印刷物は、記録媒体や、印刷速度・記録解像度などの印刷条件によらず、塗膜耐性や乾燥性に優れる、混色や埋まり不足といった画像欠陥がなく高画質である、といった特徴を有する。
【実施例】
【0197】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、以下の記載において、「部」及び「%」とあるものは特に断らない限りそれぞれ「質量部」、「質量%」を表す。
【0198】
<I.処理液の調製>
<(1)PVA103ワニスの調製例>
下記材料を攪拌しながら室温にて1時間混合した後、90℃に加温し、さらに1時間混合した。その後、混合物を室温まで放冷することで、PVA103ワニスを得た。
PVA103(クラレ社製ポリビニルアルコール(けん化度98−99%(完全け ん化)、重合度300)) 25部
イオン交換水 75部
【0199】
<(2)処理液1の調製例>
攪拌機を備えた混合容器を準備し、下記材料を順次添加した。緩やかに攪拌しながら、室温にて1時間混合した後、60℃に加温し、さらに1時間混合した。その後、混合物を室温まで放冷したのち、孔径1μmのメンブランフィルターで濾過を行うことで、処理液1を得た。
硝酸カルシウム4水和物(米山化学工業社製) 9.8部
トリエタノールアミン(TEA) 1部
35%塩酸(35%HCl) 0.62部
PVA103ワニス 20部
2−プロパノール(iPrOH) 4部
ダイノール607(エアープロダクツ社製アセチレン系界面活性剤) 0.4部
プロキセルGXL(防腐剤、アーチケミカルズ社製1,2−ベンゾイソチアゾール −3−オン溶液) 0.05部
イオン交換水 64.13部
【0200】
<(3)処理液2〜40の調製例>
表1に記載の材料を使用する以外は、処理液1と同様の方法により、処理液2〜40を得た。
【0201】
【表1】
【0202】
【表1】
【0203】
なお、表1に記載された材料の略称及び商品名の詳細は、以下の通りである。
<1>金属塩
Ca(NO
3)
2・4H
2O:硝酸カルシウム4水和物
CaCl
2・2H
2O:塩化カルシウム2水和物
NaCl:塩化ナトリウム
<2>水酸基を3個以上有する化合物
サンニックスGP−250:三洋化成工業社製、グリセリンのプロ ピレンオキシド付加物、数平均分子量250
<3>pH調整剤
TEA:トリエタノールアミン
35%HCl:35%塩酸
CH
3COOH:酢酸
CH
3COONa:酢酸ナトリウム
<4>バインダー樹脂
BYK190:ビックケミージャパン社製スチレンマレイン酸樹脂水溶液(固形 分40%)
<5>有機溶剤
iPrOH:2−プロパノール(沸点82℃、表面張力20.9mN/m)
MB:3−メトキシ−1−ブタノール(沸点158℃、表面張力29.3mN/ m)
1,2−PD:1,2−プロパンジオール(沸点188℃、表面張力35.1m N/m)
1,2−HexD:1,2−ヘキサンジオール(沸点224℃、表面張力25. 9mN/m)
DEG:ジエチレングリコール(沸点244℃、表面張力44.2mN/m)
<6>界面活性剤
ダイノール607:エアープロダクツ社製アセチレン系界面活性剤(グリフィン 法によるHLB値=8)
サーフィノール440:エアープロダクツ社製アセチレン系界面活性剤(グリフ ィン法によるHLB値=8)
サーフィノール104E:エアープロダクツ社製アセチレン系界面活性剤(グリ フィン法によるHLB値=3)
BYK348:ビックケミージャパン社製シロキサン系界面活性剤(グリフィン 法によるHLB値=10)
<7>防腐剤
プロキセルGXL:アーチケミカルズ社製1,2−ベンゾイソチアゾール−3− オン溶液
【0204】
<II.インクジェットインキの調製>
<顔料分散樹脂1の水性化溶液の製造例>
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、ブタノール93.4部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を110℃に加熱し、重合性単量体としてスチレン20部、アクリル酸40部、ベヘニルアクリレート40部、及び重合開始剤であるV−601(和光純薬製)6部の混合物を2時間かけて滴下し、重合反応を行った。滴下終了後、さらに110℃で3時間反応させた後、V−601(和光純薬製)0.6部を添加し、さらに110℃で1時間反応を続けて、分散樹脂1の溶液を得た。さらに、室温まで冷却した後、ジメチルアミノエタノール37.1部を添加し中和したのち、水を100部添加し水性化した。その後、100℃以上に加熱し、ブタノールを水と共沸させてブタノールを留去し、固形分が30%になるように調整した。これより、顔料分散樹脂1の固形分50%の水性化溶液を得た。上記顔料分散樹脂1の水性化溶液(固形分30%)のpHを、堀場製作所社製卓上型pHメータF−72を用いて測定したところ、9.7であった。また東ソー社製HLC−8120GPCを用い、上記に示した方法で顔料分散樹脂の酸価は250mgKOH/g、重量平均分子量を測定したところ、22,500であった。
【0205】
<顔料分散樹脂2〜7の水性化溶液の製造例>
下記表2に示したように、重合性単量体の種類、量や、重合開始剤の量を変更した以外は、顔料分散樹脂1の場合と同様にして、顔料分散樹脂2〜7の水性化溶液(固形分30%)を得た。
【0206】
【表2】
【0207】
なお上表2には、各顔料分散樹脂の水性化溶液(固形分30%)のpH、顔料分散樹脂の酸価、及び、前記顔料分散樹脂の重量平均分子量についても記載した。
【0208】
<顔料分散用樹脂8の製造例>
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌器を備えた反応容器に、メチルエチルケトンを45部;重合性モノマーとして、アクリル酸を6.0部と、メチルメタクリレートを30.0部と、ラウリルメタクリレートを14.0部;重合開始剤として、2,2’−アゾビスイソブチロニトリルを0.15部;2−(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)−イソ酪酸を0.65部;それぞれ投入した。反応容器内を窒素ガスで置換したのち、75℃に昇温し、3時間にわたって重合反応を行うことで、アクリル酸、メチルメタクリレート、ラウリルメタクリレートからなる共重合体(親水性ブロック)を得た。
なお、窒素ガスで置換する前の反応容器中の混合液と、重合反応後の混合液とを、ガスクロマトグラフィー質量分析計で分析し、原料として使用した、アクリル酸、メチルメタクリレートや、ラウリルメタクリレートに由来する検出ピークを比較した。その結果、重合反応後の混合液では、アクリル酸、メチルメタクリレートや、ラウリルメタクリレートに由来するピークがほとんど観察されなかった。この結果から、投入した重合性モノマーのほぼ全てが重合したと考えられる。また、東ソー社製HLC−8120GPCを用いて測定した、上記親水性ブロックの重量平均分子量は約23,000であった。
【0209】
上記重合反応の終了後、反応系を常温まで冷却したのち、反応容器に、メチルエチルケトンを45部;重合性モノマーとして、メチルメタクリレートを10部と、ベンジルメタクリレートを40部;それぞれ投入した。反応容器内を窒素ガスで置換したのち、75℃に昇温し、3時間にわたって重合反応を行うことで、前記親水性ブロックに、メチルメタクリレートとベンジルメタクリレートからなる共重合体(疎水性ブロック)が付加した、ブロック重合体である顔料分散用樹脂8を得た。
なお、上記親水性ブロックの場合と同様に、ガスクロマトグラフィー質量分析計で重合性モノマーに由来する検出ピークの比較を行った。その結果、投入したメチルメタクリレートやベンジルメタクリレートのほぼ全てが重合し、疎水性ブロックが形成されていると考えられることが確認された。また、東ソー社製HLC−8120GPCを用いて測定した、上記顔料分散用樹脂8の重量平均分子量は約54,000であった。また東ソー社製HLC−8120GPCを用い、上記に示した方法で測定した、上記顔料分散用樹脂8の酸価は45mgKOH/gであった。
【0210】
その後、反応系を常温まで冷却したのち、反応容器から混合溶液を取り出し、固形分が40.3%になるようにメチルエチルケトンで調整することで、顔料分散用樹脂8のメチルエチルケトン溶液を得た。
【0211】
<顔料分散用樹脂9の製造例>
重合性モノマーとして、メタクリル酸を12.0部と、メチルメタクリレートを12.0部;重合開始剤として、2,2’−アゾビスイソブチロニトリルを0.2部;2−(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)−イソ酪酸を0.85部、それぞれ用いる以外は、顔料分散用樹脂8の親水性ブロックの場合と同様にして、メタクリル酸と、メチルメタクリレートとからなる共重合体(親水性ブロックB)を得た。
なお、顔料分散用樹脂8の親水性ブロックの場合と同様にして、窒素ガスで置換する前の反応容器中の混合液と、重合反応後の混合液とを、ガスクロマトグラフィー質量分析計で分析・比較した結果、投入した重合性モノマーのほぼ全てが重合したと考えられる。また、東ソー社製HLC−8120GPCを用いて測定した、上記親水性ブロックBの重量平均分子量は約12,000であった。
【0212】
また上記親水性ブロックBを含む反応系用いるとともに、重合性モノマーとして、メチルメタクリレートを56部と、2−エチルヘキシルメタクリレートを10部と、スチレンを10部、それぞれ用いる以外は、顔料分散用樹脂8の場合と同様にして、前記親水性ブロックBに、メチルメタクリレートと、2−エチルヘキシルメタクリレートと、スチレンとからなる共重合体(疎水性ブロックB)が付加した、ブロック重合体である顔料分散用樹脂9を得た。
なお、上記親水性ブロックの場合と同様に、ガスクロマトグラフィー質量分析計で重合性モノマーに由来する検出ピークの比較を行った結果、投入したメチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレートや、スチレンのほぼ全てが重合し、疎水性ブロックBが形成されていると考えられることが確認された。また、東ソー社製HLC−8120GPCを用いて測定した、上記顔料分散用樹脂9の重量平均分子量は約41,000であった。また東ソー社製HLC−8120GPCを用い、上記に示した方法で測定した、上記顔料分散用樹脂9の酸価は92mgKOH/gであった。
【0213】
その後、反応系を常温まで冷却したのち、反応容器から混合溶液を取り出し、固形分が40.3%になるようにメチルエチルケトンで調整することで、顔料分散用樹脂9のメチルエチルケトン溶液を得た。
【0214】
<シアン顔料分散液1〜7の調製例>
トーヨーカラー社製LIONOL BLUE 7358G(C.I.ピグメントブルー15:3)を20部、顔料分散樹脂1の水性化溶液(固形分濃度30%)を20部、水60部を混合し、攪拌機で予備分散した後、直径0.5mmのジルコニアビーズ1800gを充填した容積0.6Lのダイノーミルを用いて2時間本分散を行い、シアン顔料分散液1を得た。また上記において、顔料分散樹脂1を、顔料分散樹脂2〜8に代える以外は、上記シアン顔料分散液1の場合と同様にすることで、シアン顔料分散液2〜8を得た。
【0215】
<マゼンタ顔料分散液1〜7の調製例>
使用する顔料を、DIC社製FASTGEN SUPER MAGENTA RG(C.I.ピグメントレッド122)に代える以外は、上記シアン顔料分散液1〜7の調製例と同様にすることで、マゼンタ顔料分散液1〜7を得た。
【0216】
<イエロー顔料分散液1〜7の調製例>
使用する顔料を、山陽色素社製FAST YELLOW 7413(C.I.ピグメントイエロー74)に代える以外は、上記シアン顔料分散液1〜7の調製例と同様にすることで、イエロー顔料分散液1〜8を得た。
【0217】
<ブラック顔料分散液1〜7の調製例>
使用する顔料を、オリオンエンジニアドカーボンズ社製PrinteX85(カーボンブラック)に代える以外は、上記シアン顔料分散液1〜8の調製例と同様にすることで、ブラック顔料分散液1〜7を得た。
【0218】
<シアン顔料分散液8〜9の調製例>
攪拌器を備えた混合容器に、顔料分散用樹脂8のメチルエチルケトン溶液(固形分濃度40.3%)14.9部と、メチルエチルケトン14部とを加えたのち、攪拌しながら、水50部と、ジメチルアミノエタノール0.45部とを添加し、さらに30分間撹拌した。その後さらに、トーヨーカラー社製LIONOL BLUE 7358G(C.I.ピグメントブルー15:3)を20部加え、よく攪拌(予備分散)した後、直径0.5mmのジルコニアビーズ1800gを充填した容積0.6Lのダイノーミルを用いて2時間本分散を行った。次いで、得られた分散液を取り出し、水を15部加えたのち、エバポレータを用いて、メチルエチルケトンを減圧留去した。その後、固形分濃度が20%になるように調整することで、シアン顔料分散液8を得た。
また、顔料分散用樹脂8のメチルエチルケトン溶液を顔料分散用樹脂9のメチルエチルケトン溶液に代え、ジメチルアミノエタノールの添加量を0.9部とする以外は、上記シアン顔料分散液8の調製例と同様にすることで、シアン顔料分散液9を得た。
【0219】
<マゼンタ顔料分散液8〜9の調製例>
さらに、使用する顔料を、DIC社製FASTGEN SUPER MAGENTA RG(C.I.ピグメントレッド122)に代える以外は、上記シアン顔料分散液8〜9の調製例と同様にすることで、マゼンタ顔料分散液8〜9を得た。
【0220】
<イエロー顔料分散液8〜9の調製例>
さらに、使用する顔料を、山陽色素社製FAST YELLOW 7413(C.I.ピグメントイエロー74)に代える以外は、上記シアン顔料分散液8〜9の調製例と同様にすることで、イエロー顔料分散液8〜9を得た。
【0221】
<ブラック顔料分散液8〜9の調製例>
さらに、使用する顔料を、オリオンエンジニアドカーボンズ社製PrinteX85(カーボンブラック)に代える以外は、上記シアン顔料分散液8〜9の調製例と同様にすることで、ブラック顔料分散液8〜9を得た。
【0222】
<シアン顔料分散液10の調製例>
トーヨーカラー社製LIONOL BLUE 7358G(C.I.ピグメントブルー15:3)を20部、プラスコートZ−730(互応化学工業社製カルボキシル基含有ポリエステル樹脂、重量平均分子量3,000、酸価50mgKOH/g、固形分濃度25%)を24部、水を56部、それぞれ添加・混合し、攪拌機で予備分散した後、直径0.5mmのジルコニアビーズ1800gを充填した容積0.6Lのダイノーミルを用いて2時間本分散を行い、シアン顔料分散液10を得た。
【0223】
<マゼンタ顔料分散液10、イエロー顔料分散液10、ブラック顔料分散液10の調製例>
また使用する顔料を、それぞれ、DIC社製FASTGEN SUPER MAGENTA RG(C.I.ピグメントレッド122)、山陽色素社製FAST YELLOW 7413(C.I.ピグメントイエロー74)、オリオンエンジニアドカーボンズ社製PrinteX85(カーボンブラック)に代える以外は、上記シアン顔料分散液10の調製例と同様にすることで、マゼンタ顔料分散液10、イエロー顔料分散液10、ブラック顔料分散液10を得た。
【0224】
<JONCRYL690ワニスの製造例>
下記材料を攪拌しながら室温にて30分間混合した後、60℃に加温し、さらに3時間混合した。その後、混合物を室温まで放冷することで、JONCRYL690ワニスを得た。
JONCRYL690(BASF社製アクリル樹脂、重量平均分子量16,500 、酸価240mgKOH/g) 20部
イオン交換水 80部
【0225】
<CMYKインクジェットインキセット1の製造例>
下記記載の材料を、攪拌機で撹拌しながら混合容器へと順次投入し、十分に均一になるまで撹拌した。その後、孔径1μmのメンブランフィルターで濾過を行い、ヘッドつまりの原因となる粗大粒子を除去することで、インキを得た。上記工程を、シアン顔料分散液1、マゼンタ顔料分散液1、イエロー顔料分散液1、ブラック顔料分散液1のそれぞれで行うことにより、シアンインキ、マゼンタインキ、イエローインキ、ブラックインキを得、これら4色のインキをCMYKインクジェットインキセット1とした。
顔料分散液1 30部(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックのそれぞれで インキを製造した)
Joncryl8211(BASF社製アクリル樹脂エマルジョン、固形分44 %) 13部
ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル(DEMiPE) 17部
ジエチレングリコールモノブチルエーテル(DEMBE) 10部
トリエタノールアミン(TEA) 0.5部
サーフィノール465(エアープロダクツ社製アセチレン系界面活性剤、グリフ ィン法によるHLB値=13) 1部
プロキセルGXL 0.05部
イオン交換水 28.45部
【0226】
<CMYKインクジェットインキセット2〜45の製造例>
下記表3に記載の材料を使用した以外は、インクジェットインキセット1と同様の方法により、CMYKインクジェットインキセット2〜45(それぞれC、Y、M、Kの4色)を得た。
【0227】
【表3】
【0228】
【表3】
【0229】
なお表3に記載された材料のうち、表1や上記で使用していない材料、及び略称の詳細は以下の通りである。
<1>顔料分散液
CABOJET:シアン:Cabojet250C(キャボット社製自己分散型 銅フタロシアニン顔料分散液、顔料濃度10%)、
マゼンタ:Cabojet265M(キャボット社製自己分散型 マゼンタ顔料分散液、顔料濃度10%)、
イエロー:Cabojet270(キャボット社製自己分散型イ エロー顔料分散液、顔料濃度10%)、
ブラック:Cabojet200(キャボット社製自己分散型カ ーボンブラック水溶液、顔料濃度20%)を等質量の水で希 釈し、顔料濃度10%としたもの。
<2>特定グリコールエーテル系有機溶剤(A)
DEMEE:ジエチレングリコールモノエチルエーテル(沸点196℃)
DEMiPE:ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル(沸点207℃ )
DEMBE:ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点230℃)
DEMiBE:ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル(沸点241℃)
TEMBE:トリエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点278℃)
<3>特定表面張力ジオール系溶剤(B)
1,3−PD:1,3−プロパンジオール(沸点214℃、表面張力47.1m N/m)
1,3−BuD:1,3−ブタンジオール(沸点207℃、表面張力37.1m N/m)
1,5−PenD:1,5−ペンタンジオール(沸点239℃、表面張力42. 2mN/m)
<4>その他の有機溶剤
TEMME:トリエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点249℃)
EMBE:エチレングリコールモノブチルエーテル(沸点171℃)
<5>界面活性剤
Zonyl FS−300:DuPont社製フッ素系界面活性剤(固形分濃度 40%、グリフィン法によるHLB値=14)
【0230】
<III.処理液、及びインクジェットインキの評価>
<処理液を付与した記録媒体1aの作製例>
印刷試験機フレキシプルーフ100(松尾産業株式会社製)を用い、上記で作成した処理液1を、UPM Finesse gloss紙(UPM社製、坪量115g/m
2、以下の記載や表4〜6では「記録媒体A」とした)に均一に塗工した。このとき、ローラとして線数140線/インチのセラミックローラを用い、80m/minで塗工を行い、処理液1の塗工膜厚が3.0±0.3μmになるようにした。処理液1を塗布したのち、前記OKトップコート+紙を50℃のエアオーブンに入れ、3分間乾燥させることで、処理液を付与した記録媒体1aを作製した。
【0231】
<処理液を付与した記録媒体2a〜35a、48a〜53aの作製例>
処理液を付与した記録媒体1と同様の方法で、表4に記載した処理液を使用して、処理液を付与した記録媒体2a〜25a、32a〜37aを作製した。
【0232】
<処理液を付与した記録媒体36aの作製例>
上記で作成した処理液3を用い、また印刷試験機フレキシプルーフ100で用いるセラミックローラとして線数が1000線/インチのものを用いることで、処理液3の塗工膜厚が0.4±0.1μmになるようにした以外は、処理液を付与した記録媒体1と同様にして、処理液を付与した記録媒体36aを作製した。
【0233】
<処理液を付与した記録媒体37aの作製例>
処理液を付与した記録媒体3を作製したのち、処理液3を付与した面に、再度、線数が140線/インチであるセラミックローラを備えた印刷試験機フレキシプルーフ100を用いて、前記処理液3を付与し、50℃のエアオーブンで3分間乾燥させた。上記工程をさらに2回繰り返すことで、処理液3の総ウェット塗工膜厚が12.0±1.2μmである、処理液を付与した記録媒体37aを作製した。
【0234】
<処理液を付与した記録媒体38a〜42a、54aの作製例>
処理液2〜3、5、8、19、36を用い、記録媒体としてNpi上質45(日本製紙株式会社製、坪量52.3g/m
2、以下の記載や表4〜6では「記録媒体B」とした)を用いた以外は、処理液を付与した記録媒体1と同様にして、処理液を付与した記録媒体38a〜42a、54aを作製した。
【0235】
<処理液を付与した記録媒体43a〜47aの作製例>
処理液2〜3、5、8、19を用い、記録媒体としてクラフトリプロライナー紙(王子エフテックス社製、連量146kg、以下の記載や表4〜6では「記録媒体C」とした)を用いた以外は、処理液を付与した記録媒体1と同様にして、処理液を付与した記録媒体43a〜47aを作製した。
【0236】
【表4】
【0237】
【表4】
【0238】
<処理液の塗工むら(初期)評価>
視認性向上のため、上記で作製した処理液1〜35を9.9gずつ取り分け、KayafectRed PLiquid(日本化薬社製染料)を0.1gずつ添加し、よく混合し溶解させることで、着色処理液1〜35をそれぞれ作製した。前記着色処理液を、フレキシプルーフ100(松尾産業株式会社製)を用い、下記表5に記載の記録媒体に均一に塗布した。このとき、ローラとして線数140線/インチのセラミックローラを用い、塗工速度80m/minで塗工を行い、塗工膜厚が3.0±0.3μmになるようにした。処理液を塗工したのち、50℃のエアオーブンにて3分間乾燥させることで、着色処理液を付与した記録媒体1b〜45bを作成した。
【0239】
前記方法に従い、着色処理液を付与した記録媒体を連続で10枚作成したときの、各記録媒体における色むらの程度を目視観察することで、処理液の塗工むら(初期の塗工適性)を評価した。なお評価基準は以下の通りとし、○、△を処理液の塗工むらが良好とした。
○:10枚全てでまったく塗工むらが見られなかった。
△:10枚のうち1〜2枚で塗工むらが見られた。
×:10枚のうち3枚以上で塗工むらが見られた。
【0240】
<処理液の塗工むら(経時後)評価>
前記処理液1〜35を一斗缶に10kgずつ入れ、蓋を閉めずに開放した状態で、それぞれ室温で1週間静置した。その後、各処理液の固形分濃度を測定し、前記固形分が静置前よりも大きくなっていたものについては、水を加えて、固形分が静置前と同一になるように調製することで、経時後処理液1〜35を作製した。
【0241】
前記経時後処理液1〜35を用い、上記処理液の塗工むらの評価方法と同様の方法で経時後の着色処理液1〜35、及び、経時後の着色処理液を付与した記録媒体1c〜45cを作成し、経時後処理液の塗工むら(経時後の塗工適性)を評価した。なお評価基準は、上記と同様とした。
【0242】
上記塗工むらの評価結果は、下表5に記載の通りであった。
【0243】
【表5】
【0244】
[実施例1〜87、比較例1〜12]
<インクジェットインキセット印刷装置の準備>
記録媒体を搬送できるコンベヤの上部に、インクジェットヘッドKJ4B−1200(京セラ社製)を4個設置し、インクジェットインキセットを構成するK、C、M、Yインクジェットインキをそれぞれ、上流側より充填した。なお上記インクジェットヘッドは設計解像度が1200dpi、最大駆動周波数が64kHzであり、前記最大駆動周波数かつ印刷速度80m/分で印刷したとき、記録媒体搬送方向における記録解像度が1200dpiとなる。
【0245】
<自転車画像印刷物の印刷>
上記インクジェットインキセット印刷装置のコンベヤ上に、上記で作製した処理液を付与した記録媒体をそれぞれ固定したのち、前記コンベヤを、下記に示す一定速度で駆動させた。前記処理液を付与した記録媒体が、インクジェットヘッドの設置部を通過する際、KCMYの順にインクジェットインキをドロップボリューム3pLで吐出し、JIS X 9201高精細カラーディジタル標準画像データ(CMYK/SCID)の自然画像N5(自転車)の印刷を行った。印刷後、10秒以内に前記印刷物を50℃エアオーブンに入れ3分間乾燥させることで、自転車画像印刷物を作成した。なお、コンベヤ速度は40m/min、60m/min、80m/minの3種類とし、それぞれの条件で印刷を実施し、印刷物を作成した。
【0246】
<ベタ印刷物の印刷>
上記インクジェットインキセット印刷装置の、コンベヤ上に処理液を付与した記録媒体を固定したのち、前記コンベヤを、下記に示す一定速度で駆動させた。前記処理液を付与した記録媒体が、前記インクジェットヘッドの設置部を通過する際、KCMYそれぞれのインクジェットインキをドロップボリューム3pLで吐出し、3cm×3cmの印字率100%のベタ印刷がCMYKの順番で隣接した画像の印刷を行った。印刷後、10秒以内に前記印刷物を50℃エアオーブンに入れ、一定時間乾燥させることで、ベタ印刷物を作成した。なお、下記に示す埋まり評価では、コンベヤ速度を40m/min、60m/min、80m/minの3種類とし、また50℃エアオーブンでの乾燥時間を3分間とした印刷物を用いた。また乾燥性評価では、コンベヤ速度60m/minで印刷し、50℃エアオーブンに投入してから30秒経過するごとに取り出した、ベタ印刷物を用いた。
【0247】
なお上記で評価した、記録媒体とインクジェットインキとの組み合わせは、下記表6に示す通りとした。
【0248】
上記で作成した、自転車画像印刷物、及びベタ印刷物について、下記評価を行った。得られた評価結果は下記表6に示した。
【0249】
【表6】
【0250】
【表6】
【0251】
<凝集性(混色)の評価>
顕微鏡を用い、上記自転車画像印刷物の4C(CMYK)印刷部のドット形状を倍率200倍で観察し、凝集性の評価を行った。評価結果は以下の通りとし、◎、○、△を凝集性良好とした。
◎:3種類の印刷速度の全てで、4C印刷部のドットが独立しており、混色が見 られなかった。
○:40m/min及び60m/minでは4C印刷部のドットが独立しており 、混色が見られなかったが、80m/minではドットの混色が見られた。
△:40m/minでは4C印刷部のドットが独立しており、混色が見られなか ったが、60m/min及び80m/minではドットの混色が見られた。
×:3種類の印刷速度の全てで、4C印刷部のドットの混色が見られた。
【0252】
<埋まり(初期)の評価>
顕微鏡を用い、上記ベタ印刷物を倍率200倍で観察し、色ごとに、抜けが見えないか、また、スジが発生していないかについて評価した。評価結果は以下の通りとし、◎、○、△を埋まり良好とした。なお上表6には、4色のうち、最も評価結果が悪かったものについて記載した。
◎:3種類の印刷速度の全てで、抜けやスジが見られなかった。
○:40m/min及び60m/minでは抜けやスジが見られなかったが、8 0m/minでは、抜け、またはスジが見られた。
△:40m/minでは抜けやスジが見られなかったが、60m/min及び8 0m/minでは、抜け、またはスジが見られた。
×:3種類の印刷速度の全てで、抜け、またはスジが見られた。
【0253】
<乾燥性の評価>
印刷後のベタ印刷物を50℃エアオーブンに投入したのち、30秒ごとに取り出し、前記印刷物を指で触ることで、印刷物の乾燥性の評価を行った。評価基準は下記のとおりであり、◎、○、△を乾燥性良好とした。
◎:オーブン投入から30秒後に指で触っても、インキが付着しなかった。
○:オーブン投入から30秒後には指にインキが付着したが、1分後は付着しな かった。
△:オーブン投入から1分後には指にインキが付着したが、1分30秒後は付着 しなかった。
×:オーブン投入から1分30秒後の印刷物でも、指にインキが付着した。
【0254】
<塗膜耐性の評価>
上記自転車画像印刷物を、被摩擦紙(日本製紙社製NPI−70)をセットしたサウザランド・ラブテスタ(東洋精機製作所社製)にセットし、4ポンドの荷重をかけて所定回数往復した後、インキが剥がれて下地が見えるかどうか、目視確認を行うことで、塗膜耐性の評価を行った。評価基準は下記のとおりであり、◎、○、△を実用可能領域とした。
◎:20往復後でもインキが剥がれず、下地が見えなかった。
○:20往復後ではインキが剥がれて下地が見えたが、15往復後では下地が見 えなかった。
△:15往復後ではインキが剥がれて下地が見えたが、10往復後では下地が見 えなかった。
×:10往復後でもインキが剥がれて下地が見えた。
【0255】
<経時後の、インキセットの評価>
前記処理液1〜41、及び、CMYKインクジェットインキセット1〜45を、一斗缶に10kgずつ入れ、蓋を閉めずに開放した状態で、それぞれ室温で1週間静置した。その後、各インクジェットインキの固形分濃度を測定し、初期の値よりも大きくなっていたものについては、水を加えて、固形分が経時前のインキと同じになるように調製することで、経時後処理液1〜41、及び、経時後CMYKインクジェットインキセット1〜45を作製した。
【0256】
<埋まり(経時後)の評価>
上記経時後処理液1〜41を用い、上記記載の方法と同様にして、経時後処理液を付与した記録媒体1d〜54dを作製した。前記経時後処理液を付与した記録媒体1d〜54dと、上記経時後CMYKインクジェットインキセット1〜45を用い、上記埋まりの評価方法と同様の方法で、経時後の埋まりを評価した。なお評価基準は、上記と同様とした。
【0257】
<インクジェットインキの吐出安定性の評価>
上記で作製した経時後CMYKインクジェットインキセット1〜41について、下記方法にて長期ランニング後を想定した吐出安定性の評価を行った。得られた評価結果は下表7に示した。
【0258】
インクジェットヘッドKJ4B−1200(京セラ社製)を4個搭載したインクジェット吐出装置を準備し、上記経時後CMYKインクジェットインキセットを構成するK、C、M、Yインクジェットインキをそれぞれ、上流側より充填した。次いで、ドロップボリューム3pl及び駆動周波数64kHzの条件で、2時間連続で全ノズルから吐出を行った後、ノズルチェックパターンを印字してノズル抜け本数をカウントすることで、吐出安定性の評価を行った。評価基準は以下の通りとし、◎、○、△を吐出安定性良好とした。
◎:印刷開始後2時間後のノズルチェックパターンにおいてノズル抜けが全くな かった。
○:印刷開始後2時間後のノズルチェックパターンにおいてノズル抜けが1〜2 本であった。
△:印刷開始後2時間後のノズルチェックパターンにおいてノズル抜けが3〜4 本であった。
×:印刷開始後2時間後のノズルチェックパターンにおいてノズル抜けが5本以 上であった。
【0259】
【表7】
【0260】
以上より、本願発明のインキセットを用いることで、記録媒体や、印刷速度・記録解像度などの印刷条件によらず、塗膜耐性や乾燥性に優れ、かつ、混色や埋まり不足といった画像欠陥のない高画質印刷物が作成できることがわかった。
本発明の目的は、記録媒体や、印刷速度・記録解像度などの印刷条件によらず、塗膜耐性や乾燥性に優れ、かつ、混色や埋まり不足といった画像欠陥のない高画質印刷物が作成できる、処理液とインクジェットインキとを含むインキセットを提供することにある。
インクジェットインキと、前記インクジェットインキとともに用いられる処理液とを含むインキセットであって、前記インクジェットインキが、顔料、水溶性有機溶剤、界面活性剤、及び水を含み、前記水溶性有機溶剤が、特定の構造を有するグリコールエーテル系有機溶剤を含み、前記処理液が、凝集剤を含み、前記凝集剤が、硝酸カルシウムを、処理液全量に対し6.8〜20.8質量%含み、前記処理液中に含まれる、水酸基を3個以上有する化合物の量が、処理液全量に対し15質量%以下である、インキセットである。