特許第6425324号(P6425324)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6425324
(24)【登録日】2018年11月2日
(45)【発行日】2018年11月21日
(54)【発明の名称】摺動部品
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/34 20060101AFI20181112BHJP
【FI】
   F16J15/34 G
   F16J15/34 H
   F16J15/34 K
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-548799(P2016-548799)
(86)(22)【出願日】2015年8月26日
(86)【国際出願番号】JP2015073988
(87)【国際公開番号】WO2016042995
(87)【国際公開日】20160324
【審査請求日】2018年2月20日
(31)【優先権主張番号】特願2014-192047(P2014-192047)
(32)【優先日】2014年9月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100201259
【弁理士】
【氏名又は名称】天坂 康種
(74)【代理人】
【識別番号】100116506
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 義宏
(72)【発明者】
【氏名】板谷 壮敏
(72)【発明者】
【氏名】砂川 和正
(72)【発明者】
【氏名】徳永 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】井上 秀行
(72)【発明者】
【氏名】細江 猛
(72)【発明者】
【氏名】山川 亮磨
(72)【発明者】
【氏名】根岸 雄大
(72)【発明者】
【氏名】吉柳 健二
(72)【発明者】
【氏名】千葉 啓一
(72)【発明者】
【氏名】吉野 顯
(72)【発明者】
【氏名】久保田 博
【審査官】 竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−110959(JP,A)
【文献】 米国特許第3147013(US,A)
【文献】 実開昭60−167861(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J15/34−15/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに相対摺動する一対の摺動部品を備え、一方の摺動部品の摺動面には、入口部及び出口部を介して高圧流体側に連通され、低圧流体側とはランド部により隔離された流体循環溝が設けられ、他方の摺動部品の摺動面には前記流体循環溝の流体に対して圧力変動を生起させる干渉溝が周方向に複数設けられ、前記干渉溝は高圧流体側に連通され、隣接する干渉溝は形状が異なるように設定されることを特徴とする摺動部品。
【請求項2】
前記隣接する干渉溝の深さは異なるように設定されることを特徴とする請求項1に記載の摺動部品。
【請求項3】
前記隣接する干渉溝の平面形状の大きさは異なるように設定されることを特徴とする請求項1に記載の摺動部品。
【請求項4】
前記干渉溝の上流側の端縁と下流側の端縁の形状が異なり、前記隣接する干渉溝は半径線に対して線対称の形状に設定されることを特徴とする請求項1に記載の摺動部品。
【請求項5】
前記一方の摺動部品は固定側密封環であり、前記他方の摺動部品は回転側密封環であって、前記回転側密封環は前記固定側密封環に対して外径を大きく、かつ、内径を小さく形成され、前記干渉溝は、径方向において前記流体循環溝の前記入口部と前記出口部の流体に対して圧力変動を生起させる位置に配設されることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の摺動部品。
【請求項6】
前記干渉溝の内径側の端部は、前記流体循環溝の前記入口部と前記出口部に近接する位置まで延びていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の摺動部品。
【請求項7】
前記干渉溝の内径側の端部は、前記流体循環溝の前記入口部及び前記出口部と径方向において重複する位置まで延びていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の摺動部品。
【請求項8】
内径側の端部が前記流体循環溝の前記入口部及び前記出口部と径方向においてに近接する位置まで延びている干渉溝と、内径側の端部が前記流体循環溝の前記入口部及び前記出口部と径方向において重複する位置まで延びている干渉溝とが配設されることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の摺動部品。























【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、メカニカルシール、軸受、その他、摺動部に適した摺動部品に関する。特に、摺動面に流体を介在させて摩擦を低減させるとともに、摺動面から流体が漏洩するのを防止する必要のある密封環または軸受などの摺動部品に関する。
【背景技術】
【0002】
摺動部品の一例である、メカニカルシールにおいて、その性能は、漏れ量、摩耗量、及びトルクによって評価される。従来技術ではメカニカルシールの摺動材質や摺動面粗さを最適化することにより性能を高め、低漏れ、高寿命、低トルクを実現している。しかし、近年の環境問題に対する意識の高まりから、メカニカルシールの更なる性能向上が求められており、従来技術の枠を超える技術開発が必要となっている。
そのような中で、例えば、水冷式エンジンの冷却に用いられるウォーターポンプのメカニカルシールにおいては、時間の経過とともに不凍液の1種であるLLCの添加剤、例えばシリケートやリン酸塩など(以下、「堆積物発生原因物質」という。)が、摺動面で濃縮され、堆積物が生成されメカニカルシールの機能が低下するおそれのあることが本件発明者において確認された。この堆積物の生成は薬品やオイルを扱う機器のメカニカルシールにおいても同様に発生する現象と考えられる。
【0003】
従来のメカニカルシールにおいては、摺動面の摩擦発熱による摩耗や焼損の発生を防止するために、摺動面に流体層を形成させるべく溝を形成したものが知られている(例えば、特許文献1、2、3参照。)が、これらの発明は摺動面に流体を導入するというものに留まり、摺動面における堆積物の生成を防止するという方策は講じられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−180772号公報
【特許文献2】特開平7−224948号公報
【特許文献3】米国特許第5498007号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、密封と潤滑という相反する条件を両立させつつ、摺動面における流体の循環を促進させると共に、摺動面における堆積物発生を防止し、長期間にわたり摺動面の密封機能を維持させることのできる摺動部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明の摺動部品は、第1に、互いに相対摺動する一対の摺動部品を備え、一方の摺動部品の摺動面には、入口部及び出口部を介して高圧流体側に連通され、低圧流体側とはランド部により隔離された流体循環溝が設けられ、他方の摺動部品の摺動面には前記流体循環溝の流体に対して圧力変動を生起させる干渉溝が周方向に複数設けられ、前記干渉溝は高圧流体側に連通され、隣接する干渉溝は形状が異なるように設定されることを特徴としている。
この特徴によれば、流体循環溝の入口部と出口部とにおいて、圧力差が存在し、それが絶えず交互に変動している状態になり、流体循環溝内おける流体は移動を繰り返すため、被密封流体が堆積物発生原因物質を含む場合でも、流体循環溝における堆積物の発生を防止することができ、長期間にわたり摺動面の密封機能を維持させることができる。
【0007】
また、本発明の摺動部品は、第2に、第1の特徴において、前記隣接する干渉溝の深さは異なるように設定されることを特徴としている。
この特徴によれば、流体循環溝の入口部と出口部との圧力差を大きく、かつ、確実に生じさせることができ、流体循環溝における堆積物の発生を、より一層、防止することができる。
【0008】
また、本発明の摺動部品は、第3に、第1の特徴において、前記隣接する干渉溝の平面形状の大きさは異なるように設定されることを特徴としている。
この特徴によれば、流体循環溝の入口部と出口部との圧力差を大きく、かつ、確実に生じさせることができ、流体循環溝における堆積物の発生を、より一層、防止することができる。
【0009】
また、本発明の摺動部品は、第4に、第1の特徴において、前記干渉溝の上流側の端縁と下流側の端縁の形状が異なり、前記隣接する干渉溝は半径線に対して線対称の形状に設定されることを特徴としている。
この特徴によれば、流体循環溝の入口部と出口部との圧力差を、より一層、大きく、かつ、確実に生じさせることができ、流体循環溝における堆積物の発生を、より一層、防止することができる。
【0010】
また、本発明の摺動部品は、第5に、第1ないし第4のいずれかの特徴において、前記一方の摺動部品は固定側密封環であり、前記他方の摺動部品は回転側密封環であって、前記回転側密封環は前記固定側密封環に対して外径を大きく、かつ、内径を小さく形成され、前記干渉溝は、径方向において前記流体循環溝の前記入口部と前記出口部の流体に対して圧力変動を生起させる位置に配設されることを特徴としている。
この特徴によれば、回転側密封環の摺動面に干渉溝が形成されるため渦を伴った旋回流が積極的に生成され、流体循環溝の入口部と出口部との圧力差を、一層、大きくすることができる。また、摺動面幅が固定側密封環により決まるため摺動面幅のバラツキを小さくすることができる。
【0011】
また、本発明の摺動部品は、第6に、第1ないし5のいずれかの特徴において、前記干渉溝の内径側の端部は、前記流体循環溝の前記入口部と前記出口部に近接する位置まで延びていることを特徴としている。
この特徴によれば、流体循環溝の入口部と出口部との圧力差を、より一層、大きくすることができる。
【0012】
また、本発明の摺動部品は、第7に、第1ないし5のいずれかの特徴において、前記干渉溝の内径側の端部は、前記流体循環溝の前記入口部及び前記出口部と径方向において重複する位置まで延びていることを特徴としている。
この特徴によれば、干渉溝による圧力変動作用が直に流体循環溝の入口部及び出口部に及ぼされるため、流体循環溝の入口部と出口部との圧力差を、さらにより一層、大きくすることができる。
【0013】
また、本発明の摺動部品は、第8に、第1ないし5のいずれかの特徴において、内径側の端部が前記流体循環溝の前記入口部及び前記出口部と径方向においてに近接する位置まで延びている干渉溝と、内径側の端部が前記流体循環溝の前記入口部及び前記出口部と径方向において重複する位置まで延びている干渉溝とが配設されることを特徴としている。
この特徴によれば、流体循環溝の入口部と出口部との圧力差を、より大きく、交互に変動させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、以下のような優れた効果を奏する。
(1)互いに相対摺動する一対の摺動部品を備え、一方の摺動部品の摺動面には、入口部及び出口部を介して高圧流体側に連通され、低圧流体側とはランド部により隔離された流体循環溝が設けられ、他方の摺動部品の摺動面には流体循環溝の流体に対して圧力変動を生起させる干渉溝が周方向に複数設けられ、干渉溝は高圧流体側に連通され、隣接する干渉溝は形状が異なるように設定されることにより、流体循環溝の入口部と出口部とにおいて、圧力差が存在し、それが絶えず交互に変動している状態になり、流体循環溝内おける流体は移動を繰り返すため、被密封流体が堆積物発生原因物質を含む場合でも、流体循環溝における堆積物の発生を防止することができ、長期間にわたり摺動面の密封機能を維持させることができる。
【0015】
(2)隣接する干渉溝の深さは異なるように設定されることにより、流体循環溝の入口部と出口部との圧力差を大きく、かつ、確実に生じさせることができ、流体循環溝における堆積物の発生を、より一層、防止することができる。
【0016】
(3)隣接する干渉溝の平面形状の大きさは異なるように設定されることにより、流体循環溝の入口部と出口部との圧力差を大きく、かつ、確実に生じさせることができ、流体循環溝における堆積物の発生を、より一層、防止することができる。
【0017】
(4)干渉溝の上流側の端縁と下流側の端縁の形状が異なり、隣接する干渉溝は半径線に対して線対称の形状に設定されることにより、流体循環溝の入口部と出口部との圧力差を、より一層、大きく、かつ、確実に生じさせることができ、流体循環溝における堆積物の発生を、より一層、防止することができる。
【0018】
(5)一方の摺動部品は固定側密封環であり、他方の摺動部品は回転側密封環であって、回転側密封環は前記固定側密封環に対して外径を大きく、かつ、内径を小さく形成され、干渉溝は、径方向において流体循環溝の前記入口部と前記出口部の流体に対して圧力変動を生起させる位置に配設されることにより、回転側密封環の摺動面に干渉溝が形成されるため渦を伴った旋回流が積極的に生成され、流体循環溝の入口部と出口部との圧力差を、一層、大きくすることができる。また、摺動面幅が固定側密封環により決まるため摺動面幅のバラツキを小さくすることができる。
【0019】
(6)干渉溝の内径側の端部は、流体循環溝の入口部と出口部に近接する位置まで延びていることにより、流体循環溝の入口部と出口部との圧力差を、より一層、大きくすることができる。
【0020】
(7)干渉溝の内径側の端部は、流体循環溝の入口部及び出口部と径方向において重複する位置まで延びていることにより、干渉溝による圧力変動作用が直に流体循環溝の入口部及び出口部に及ぼされるため、流体循環溝の入口部と出口部との圧力差を、さらにより一層、大きくすることができる。
【0021】
(8)内径側の端部が流体循環溝の入口部及び出口部と径方向においてに近接する位置まで延びている干渉溝と、内径側の端部が流体循環溝の入口部及び出口部と径方向において重複する位置まで延びている干渉溝とが配設されることにより、流体循環溝の入口部と出口部との圧力差を、より大きく、交互に変動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施例1に係るメカニカルシールの一例を示す縦断面図であって、回転軸の中心より上側の半分を示している。
図2図1の摺動部品の摺動面をA−Aで断面した図であって、摺動面の特徴を説明するため摺動面に近接した部分で切断しており、また、摺動面の全周を示している。
図3】本発明の実施例2に係る摺動部品の摺動面を、図2と同じ要領で、示したものである。
図4】本発明の実施例3に係る摺動部品の摺動面を、図2と同じ要領で、示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置などは、特に明示的な記載がない限り、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【実施例1】
【0024】
図1及び図2を参照して、本発明の実施例1に係る摺動部品について説明する。
なお、以下の実施例においては、摺動部品の一例であるメカニカルシールを例にして説明する。また、メカニカルシールを構成する摺動部品の外周側を高圧流体側(被密封流体側)、内周側を低圧流体側(大気側)として説明するが、本発明はこれに限定されることなく、高圧流体側と低圧流体側とが逆の場合も適用可能である。
【0025】
図1は、メカニカルシールの一例を示す縦断面図であって、摺動面の外周から内周方向に向かって漏れようとする高圧流体側の被密封流体を密封する形式のインサイド形式のものであり、高圧流体側の回転体(例えば、ポンプインペラ。図示省略)を駆動させる回転軸2側にスリーブ3及びカップガスケット4を介してこの回転軸2と一体的に回転可能な状態に設けられた一方の摺動部品である円環状の回転側密封環1と、ハウジング6に非回転状態かつ軸方向移動可能な状態で設けられた他方の摺動部品である円環状の固定側密封環5とが設けられ、固定側密封環5を軸方向に付勢するコイルドウェーブスプリング7及びベローズ8によって、ラッピング等によって鏡面仕上げされた摺動面の摺動部分S同士で密接摺動するようになっている。すなわち、このメカニカルシールは、回転側密封環1と固定側密封環5との互いの摺動部分Sにおいて、被密封流体が回転軸2の外周から大気側へ流出するのを防止するものである。
【0026】
メカニカルシールにおいては、通常、回転側密封環1及び固定側密封環5の回転中心が厳密に一致していない場合にも対応可能であるように、いずれか一方の摺動面幅を大きく、すなわち、外径を大きく、かつ、内径を小さくして、外径側の摺動面余裕代So及び内径側の摺動面余裕代Siが形成されている。本発明において、回転側密封環1と固定側密封環5とが、現に摺動している部分を摺動部分Ssと呼び、摺動面余裕代を含む場合は摺動面Sと呼ぶことにする。
図1においては、回転側密封環1の外径が固定側密封環5の外径より大きく、また、回転側密封環1の内径が固定側密封環5の内径より小さく、摺動面余裕代が回転側密封環1に形成されている場合を示しているが、本発明はこれに限定されることなく、逆の場合においても適用出来ることはもちろんである。
図1の場合、固定側密封環5の摺動部分Ssと摺動面Sとは一致している。
【0027】
図2(a)は、図1のA−A断面図であり、回転側密封環1及び固定側密封環5の摺動面Sがハッチングで示されている。
図2(a)において、摺動面Sの外径側が高圧流体側であり、また、内径側が低圧流体側、例えば大気側であり、回転側密封環1は反時計方向に回転するものとする。
【0028】
固定側密封環5の摺動面Sには、高圧流体側に連通されると共に低圧流体側とは摺動面の平滑部R(本発明においては、「ランド部」ということがある。)により隔離された流体循環溝10が周方向に4等配で設けられている。
なお、流体循環溝10は4個に限らず、少なくとも1個設けられればよく、また、等配である必要もない。
【0029】
流体循環溝10は、高圧流体側から入る入口部10a、高圧流体側に抜ける出口部10b、及び、入口部10a及び出口部10bとを周方向に連通する連通部10cから構成されている。流体循環溝10は、摺動部分Ssにおいて腐食生成物などを含む流体が濃縮されることを防止するため、積極的に高圧流体側から被密封流体を摺動部分に導入し排出するという役割を担うものであり、相手摺動面の回転に合わせて摺動部分に被密封流体を取り入れ、かつ、排出しやすいように入口部10a及び出口部10bが図示のように広口に形成される一方、漏れを低減するため、低圧流体側とはランド部Rにより隔離されている。
【0030】
図2(a)においては、ある流体循環溝10の入口部10aと出口部10bとのなす中心角θ1は45°であり、隣接する流体循環溝10の出口部10bと入口部10aとのなす中心角θ2も45°に設定されている。
【0031】
本例では、入口部10a及び出口部10bは直線状に形成され、略V字状をなしているが、特にこれに限定されるものではなく、入口部10aと出口部10bとなす内角αをさらに大きく、又は、小さくしてもよく、また、直線状ではなく曲線状(円弧状など)にしてもよい。また、流体循環溝10の幅及び深さは、被密封流体の圧力、種類(粘性)などに応じて最適なものに設定される。深さの一例をあげると、100〜300μm程度である。
【0032】
また、流体循環溝は、略V字状に限らず、例えば、U字状でもよく、要は、入口部及び出口部が高圧流体側に連通されたものであればよい。
【0033】
回転側密封環1の摺動面Sには流体循環溝10の流体に対して圧力変動を生起させる干渉溝15が設けられる。
干渉溝15の形状は、図2(a)においては略矩形状のものが示されている。
【0034】
図2(a)において、干渉溝15は、周方向に15−1〜15−8の8個設けられ、周方向において、干渉溝15−1が流体循環溝10の入口部10aに対向する位置にあるとき、その下流側に隣接する干渉溝15−2は出口部10bに対向する位置に配設されるのが好ましい。
【0035】
干渉溝15は、高圧流体側に連通され、径方向において、流体循環溝10の入口部10a及び出口部10bの流体に対して圧力変動を生起させる位置に配設されるものである。
図2の場合、干渉溝15は外径側の摺動面余裕代So内に設けられ、その内径側の端部15aは径方向において流体循環溝10の入口部10a及び出口部10bに近接する位置まで延びている。
なお、ここでいう、近接とは、径方向において、干渉溝15で生成される渦等により流体循環溝10の入口部10a及び出口部10bの流体が圧力変動を生起される程度に近いという意味である。
【0036】
図2(a)においては、流体循環溝10が固定側密封環5の摺動面S(摺動部分Ssに同じ。)の外周まで形成されていることから、干渉溝15の内径側の端部15aは、径方向において固定側密封環5の摺動面Sの外周に近接する位置まで延びている。
【0037】
8個の干渉溝15−1〜15−8において、隣接する干渉溝の深さは異なるように設定されている。
図2(a)においては、図2(b)及び(c)に示すように、流体循環溝10の入口部10aに対向する位置にある干渉溝15−1、15−3、15−5及び15−7の深さは、当該流体循環溝10の出口部10bに対向する位置にある干渉溝15−2、15−4、15−6及び15−8の深さより浅く形成されている。これとは逆に、干渉溝15−1、15−3、15−5及び15−7の深さを、干渉溝15−2、15−4、15−6及び15−8の深さより深く形成してもよい。また、8個の干渉溝15−1〜15−8の深さを全て異なるようにしてもよい。
【0038】
干渉溝15の深さは、要は、流体循環溝10の入口部10aに対向する位置にある干渉溝と、当該流体循環溝10の出口部10bに対向する位置にある干渉溝の深さとが異なるように設定されればよい。
【0039】
図2(a)の場合、流体循環溝10は4等配で設けられ、流体循環溝10の入口部10aと出口部10bとのなす中心角θ1、及び、隣接する流体循環溝10、10の出口部10bと入口部10aとのなす中心角θ2は共に45°に設定されている。一方、干渉溝15は8等配で、隣接する干渉溝の中心角θは45°に設定されている。
回転側密封環1が回動して、例えば、深さの浅い干渉溝15−1、15−3、15−5及び15−7が流体循環溝10の入口部10aに対向する位置にあるとき、深さの深い干渉溝15−2、15−4、15−6及び15−8は流体循環溝10の出口部10bに対向する位置にある。
なお、流体循環溝10は、周方向に等配で設けられる必要はなく、また、4個に限定されず、また、入口部10aと出口部10bとのなす中心角θ1も45°である必要もない。さらに、干渉溝16、17は周方向に等配で設けられる必要はなく、また、8個に限定されない。要は、回転側密封環1が回動した際、深さの異なる干渉溝が流体循環溝10の入口部10aと出口部10bとに対向する位置にあればよい。
【0040】
回転側密封環1が回動されると、干渉溝15の付近において渦が生成され、渦を伴った干渉溝15が周方向に移動する。干渉溝15が、ある流体循環溝10の入口部10a及び出口部10bに対向する位置に達すると、入口部10a内及び出口部10b内の流体の圧力が上昇する。圧力上昇の程度は、溝深さにより異なる。
【0041】
図2(a)に示す状態では、浅い溝からなる干渉溝15−1、15−3、15−5及び15−7が入口部10aに対向する位置にあり、深い溝からなる干渉溝15−2、15−4、15−6及び15−8が出口部10bに対向する位置にある。次に、回転側密封環1がθ2だけ回動されると、浅い溝からなる干渉溝15−1、15−3、15−5及び15−7が出口部10bに対向する位置にあり、深い溝からなる干渉溝15−2、15−4、15−6及び15−8が入口部10aに対向する位置にある。
【0042】
このように、回転側密封環1が回動されると、干渉溝15により、入口部10a内及び出口部10b内の圧力変動が次々と生起され、入口部10aと出口部10bとの圧力差が存在し、それが絶えず交互に変動している状態になる。
【0043】
入口部10aと出口部10bとにおいて、圧力差が存在し、それが絶えず交互に変動している状態になると、流体循環溝10内おける流体は移動を繰り返すため、たとえ、被密封流体が堆積物発生原因物質を含む場合でも、流体循環溝10内における堆積物の発生は防止されることになる。
【0044】
実施例1においては、以下のような顕著な効果を奏する。
(1)固定側密封環5の摺動面には、入口部10a及び出口部10bを介して高圧流体側に連通され、低圧流体側とはランド部Rにより隔離された流体循環溝10が設けられ、回転側密封環1の摺動面には流体循環溝10の流体に対して圧力変動を生起させる干渉溝15が設けられるため、流体循環溝10の入口部10aと出口部10bとにおいて、圧力差が存在し、それが絶えず交互に変動している状態になり、流体循環溝10内おける流体は移動を繰り返すため、被密封流体が堆積物発生原因物質を含む場合でも、流体循環溝10における堆積物の発生を防止することができ、長期間にわたり摺動面の密封機能を維持させることができる。また、摺動面幅が固定側密封環5により決まるため摺動面幅のバラツキを小さくすることができる。
(2)干渉溝15は、周方向に複数設けられ、これら複数の干渉溝15は、いずれかの干渉溝15が流体循環溝10の入口部10aに対向する位置にあるとき、他の干渉溝15が流体循環溝10の出口部10bに対向する位置にある場合でも、これらの干渉溝の深さが異なるため、流体循環溝10の入口部10aと出口部10bとの圧力差を大きく、かつ、確実に生じさせることができ、流体循環溝10における堆積物の発生を、より一層、防止することができる。
(3)干渉溝15の内径側の端部15aは、流体循環溝10の入口部10aと出口部10bと径方向において近接する位置まで延びているため、流体循環溝10の入口部10aと出口部10bとの圧力差を、より一層、大きくすることができる。
【実施例2】
【0045】
図3を参照して、本発明の実施例2に係る摺動部品について説明する。
実施例2は、平面形状の大きさが異なる干渉溝が配設される点で実施例1と相違するが、その他の点では実施例1と同じであり、図3において、図2と同じ符号は同じ部材を示し、重複する説明は省略する。
【0046】
図3において、平面形状の大きい干渉溝16と、平面形状の小さい干渉溝17が、それぞれ、周方向に4個づつ、交互に設けられている。これら複数の干渉溝16、17は、例えば、平面形状の大きい干渉溝16が流体循環溝10の入口部10aに対向する位置にあるとき、平面形状の小さい干渉溝17が流体循環溝10の出口部10bに対向する位置にあるように配設されるのが好ましい。
【0047】
図3の場合、流体循環溝10は4等配で設けられ、流体循環溝10の入口部10aと出口部10bとのなす中心角θ1、及び、隣接する流体循環溝10、10の出口部10bと入口部10aとのなす中心角θ2は共に45°に設定されている。一方、干渉溝16、17は8等配で、隣接する干渉溝の中心角θは45°に設定されている。
回転側密封環1が回動して、例えば、平面形状の大きい干渉溝16が流体循環溝10の入口部10aに対向する位置にあるとき、平面形状の小さい干渉溝17は流体循環溝10の出口部10bに対向する位置にある。
なお、流体循環溝10は、周方向に等配で設けられる必要はなく、また、4個に限定されず、また、入口部10aと出口部10bとのなす中心角θ1も45°である必要もない。さらに、干渉溝16、17は周方向に等配で設けられる必要はなく、また、8個に限定されない。要は、回転側密封環1が回動した際、平面形状の大きさの異なる干渉溝が流体循環溝10の入口部10aと出口部10bとに対向する位置にあればよい。
【0048】
平面形状の大きい干渉溝16は平面形状の小さい干渉溝17に比べて、周方向の幅及び径方向の長さが大きく、略台形状をなし、外径側にその底辺が位置するように配設されている。干渉溝16は高圧流体側に連通され、干渉溝16の内径側の端部16aは、破線で示すように、流体循環溝10の入口部10a及び出口部10bと径方向において重複する位置まで延びている。すなわち、干渉溝16は、径方向において外径側の摺動面余裕代Soにとどまらず、回転側密封環1の摺動部分Ssまで延びるように形成されている。
【0049】
平面形状の小さい干渉溝17は平面形状の大きい干渉溝16に比べて、周方向の幅及び径方向の長さが小さく、略矩形状をしている。干渉溝17は、高圧流体側に連通され、径方向において、流体循環溝10の入口部10a及び出口部10bの流体に対して圧力変動を生起させる位置に配設されるものである。
図3の場合、干渉溝17は外径側の摺動面余裕代So内に設けられ、その内径側の端部17aは径方向において流体循環溝10の入口部10a及び出口部10bに近接する位置まで延びている。
なお、ここでいう、近接とは、径方向において、干渉溝17で生成される渦等により流体循環溝10の入口部10a及び出口部10bの流体が圧力変動を生起される程度に近いという意味である。
【0050】
干渉溝16、17の平面形状の大きさにより、生起される圧力の上昇は異なり、また、干渉溝16、17と流体循環溝10の入口部10a及び出口部10bとの径方向の位置関係により、入口部10a及び出口部10bの流体に対する圧力の影響も異なる。
【0051】
実施例2においては、回転側密封環1が回動した際、平面形状の大きさの異なる干渉溝が流体循環溝10の入口部10aと出口部10bとに対向する位置にあり、平面形状の小さい干渉溝17は、内径側の端部17aが流体循環溝10の入口部10a及び出口部10bと径方向において近接する位置まで延び、平面形状の大きい干渉溝16は、内径側の端部16aが流体循環溝10の入口部10a及び出口部10bと径方向において重複する位置まで延びているため、流体循環溝10の入口部10aと出口部10bとの圧力差を、より大きく、交互に変動させることができ、流体循環溝10における堆積物の発生を、より一層、防止することができる。
【実施例3】
【0052】
図4を参照して、本発明の実施例3に係る摺動部品について説明する。
実施例3は、干渉溝の平面形状が図3に示す実施例2と相違するが、その他の点は実施例2と同じである。
なお、図4において、図3と同じ符号は同じ部材を示しており、重複する説明は省略する。
【0053】
図4において、固定側密封環5の摺動面Sには、略V字状の流体循環溝10が4等配で配設されている。
一方、回転側密封環1の摺動面Sには、干渉溝20が周方向に8個設けられ、それぞれの干渉溝20は、周方向において、流体循環溝10の入口部10a及び出口部10bに対向し、かつ、入口部10a及び出口部10bの外径側の延長上に沿うような形状に形成されている。
【0054】
また、干渉溝20は高圧流体側に連通され、干渉溝20の内径側の端部20aは、破線で示すように、流体循環溝10の入口部10a及び出口部10bと径方向において重複する位置まで延びている。すなわち、干渉溝20は、径方向において外径側の摺動面余裕代Soにとどまらず、回転側密封環1の摺動部分Ssまで延びるように形成されている。
【0055】
干渉溝20は上流側の端縁と下流側の端縁の形状が異なる。
また、隣接する干渉溝20は半径線rに対して線対称の形状に設定されている。
【0056】
図4において、干渉溝20−1、20−3、20−5及び20−7は入口部10aの外径側の延長上に沿うような形状に形成され、干渉溝20−2、20−4、20−6及び20−8は出入口部10bの外径側の延長上に沿うような形状に形成されている。すなわち、それぞれ隣接する干渉溝20−1、20−3、20−5及び20−7と干渉溝20−2、20−4、20−6及び20−8とは、半径線rを基準にして反転された形状になっている。
【0057】
回転側密封環1が反時計方向に回動される場合、入口部10aの外径側の延長上に沿うような形状に形成された干渉溝20−1、20−3、20−5及び20−7においては、上流側の端縁20bは内径側の端部20aから外径端に向かって、滑らかな円弧状曲線で上流側に向かって比較的短く伸びている。また、下流側の端縁20cは内径側の端部20aから外径端に向かって、滑らかな円弧状曲線で下流側に向かって比較的長く伸びている。
【0058】
一方、出入口部10bの外径側の延長上に沿うような形状に形成された干渉溝20−2、20−4、20−6及び20−8においては、上流側の端縁20dは内径側の端部20aから外径端に向かって、滑らかな円弧状曲線で上流側に向かって比較的長く伸びている。また、下流側の端縁20eは内径側の端部20aから外径端に向かって、滑らかな円弧状曲線で下流側に向かって比較的短く伸びている。
【0059】
回転側密封環1が反時計方向に回動されると、干渉溝20の上流側の端縁付近では負圧が発生され、下流側の端縁付近では正圧が発生される。
入口部10aの外径側の延長上に沿うような形状に形成された干渉溝20−1、20−3、20−5及び20−7においては、上流側の端縁20bが下流側の端縁20cに比べて短いため正圧状態となり、出口部10bの外径側の延長上に沿うような形状に形成された干渉溝20−2、20−4、20−6及び20−8においては、上流側の端縁20dは下流側の端縁20eに比べて長いため負圧状態となる。
【0060】
今、回転側密封環1が反時計方向に回動されると、入口部10aでは正圧となり、出口部10bでは負圧となる。その際、干渉溝20は流体循環溝10の入口部10a及び出口部10bの上を通過する。このため、干渉溝20の影響が入口部10a及び出口部10bに、直に、伝達され、流体循環溝10の入口部10a及び出口部10bにおいては、干渉溝20が通過する際に圧力差が生じ、通過後は圧力差が解消に向かうという現象が生じ、それが絶えず発生することになる。
【0061】
上記のとおり、入口部10aと出口部10bとの間には圧力差の発生と解消とが生じ、それが絶えず発生するため、入口部10aと出口部10bとの圧力は絶えず変動する。そのため、流体循環溝10内における堆積物の発生は、確実に防止されることになる。
【0062】
実施例3においては、干渉溝20の上流側の端縁20b、20dと下流側の端縁20c、20eの形状が異なるため、流体循環溝10の入口部10aと出口部10bとの圧力は絶えず変動する。また、干渉溝20の内径側の端部20aが、流体循環溝10の入口部10a及び出口部10bと径方向において重複する位置まで延びていることにより、干渉溝20による圧力変動作用が流体循環溝10の入口部10a及び出口部10bに、直に、及ぼされる。そのため、流体循環溝10内における堆積物の発生は、確実に防止されるという顕著な効果を奏する。
【0063】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0064】
例えば、前記実施例では、摺動部品をメカニカルシール装置における一対の回転用密封環及び固定用密封環のいずれかに用いる例について説明したが、円筒状摺動面の軸方向一方側に潤滑油を密封しながら回転軸と摺動する軸受の摺動部品として利用することも可能である。
【0065】
また、例えば、前記実施例では、外周側に高圧の被密封流体が存在する場合について説明したが、内周側が高圧流体の場合にも適用できる。
【0066】
また、例えば、前記実施例では、摺動部品を構成するメカニカルシールの固定側密封環に流体循環溝を設け、回転側密封環に干渉溝を設ける場合について説明したが、これとは逆に、回転側密封環に流体循環溝、固定側密封環に干渉溝を設けてもよい。
【0067】
また、例えば、前記実施例では、流体循環溝10が複数等配に設けられる場合について説明したが、1個以上あればよく、また、複数設けられる場合も等配である必要はない。さらに、前記実施例では、干渉溝15、16、17及び20が複数等配に設けられる場合に説明したが、少なくとも2個あればよく、等配である必要もない
【符号の説明】
【0068】
1 回転側密封環
2 回転軸
3 スリーブ
4 カップガスケット
5 固定側密封環
6 ハウジング
7 コイルドウェーブスプリング
8 ベローズ
10 流体循環溝
10a 入口部
10b 出口部
10c 連通部
15 干渉溝
15a 干渉溝の内径側端部
16、17 干渉溝
16a、17a 干渉溝の内径側端部
20 干渉溝
20a 干渉溝の内径側端部
20b、20d 干渉溝の上流側端縁
20c、20e 干渉溝の下流側端縁
R ランド部
S 摺動面
Ss 摺動部分






図1
図2
図3
図4