【実施例】
【0030】
以下、実施例および比較例によって本発明を詳細に説明する。しかし、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。実施例で述べられている各種の測定法は、以下に述べる方法を用いて行った。
(1)<脂肪酸金属塩又は無機固形物の平均粒子径測定法>
あらかじめジメチルアセトアミド溶剤中でスラリー状に均一分散した脂肪酸金属塩類や無機固形物の固形分濃度が15%の溶液を、ジメチルアセトアミド溶媒中でベックマン・コールター社製LS13―320型粒度分布測定装置にて測定し、体積統計値基準での測定値から平均粒子径を求めた。
【0031】
(2)<強伸度物性の測定法>
22デシテックス/2フィラメントの弾性繊維を、引張試験機オリエンテック(株)製UTM−III−100型を用いて測定した。引張試験機にサンプルを掴み間隔50mmでセットし、引張速度500mm/min、温度20℃、湿度65wt%の条件下で測定した。
【0032】
(3)<紡糸安定性及び吐出圧上昇率の評価法>
22デシテックス/2フィラメント紡糸時の24時間の紡糸中に起こった糸切れ回数で評価した。また濾材として400メッシュの金網フィルターを用いた時の、24時間後の吐出圧の上昇(kgf/cm
2)を吐出圧上昇率として求めた。
【0033】
(4)<紙管上への糸の巻姿評価法>
毎分1020m/分の速度で、22デシテックス/2フィラメント(単糸繊度11デシテックス)のポリウレタン弾性繊維500gを紙管に巻き取った。この紙管に巻きとられた糸の巻姿の状態を、以下の評価基準に従って5人の目視判定で総合評価した。
○:紙管上の糸の巻姿が整っていて美しい。
△:紙管上の糸の巻姿がやや崩れ始めている。
×:紙管上の糸の巻姿が大いに崩れて美しくない。
【0034】
(5)<ポリウレタン弾性繊維の紙管からの解除性の評価法>
44デシテックス/4フィラメントポリウレタン弾性繊維を45℃、65%RHの雰囲気にて30日間放置後、紙管を梨地ローラー上に置き、ローラーを回転させながら、ローラー表面速度40m/分で、弾性繊維を送り出す。送り出された弾性繊維を50cm離れた所に設置された同じ径の梨地ローラー上に巻き取る。巻き取るローラー上の表面速度を80m/分から徐々に低下させて、送り出すローラー上の紙管に弾性繊維が紙管にからみついて逆巻きし、弾性繊維が切断されて送り出されなくなった時点の速度Sm/分を測定する。Sm/分の値が小さいほど紙管から弾性糸の糸離れが良いことを示し、これを解除性が良好と判断する。
しかし、逆にあまりに糸離れが良すぎると、紙管に巻かれたポリウレタン弾性繊維を運搬する時に、紙管に巻かれた弾性繊維の外層が糸落ちし易く、取り扱い上の問題となるので、適正な範囲が存在する。本測定において、好ましい紙管外層の弾性繊維のS(以下SOと表す)は、SO=45〜55m/分、紙管内層の弾性繊維のS(以下、SIと表す)は、SI=50〜65m/分である。SIおよびSOがこの範囲に入っているか否かで判断する。SI、SOのいずれかの値がこの範囲をはずれ、値が小さいと運搬時や整経工程で、糸落ちし易く、逆に値が大きいと紙管への逆巻きや糸切れが頻発する場合があり、問題となる。
【0035】
(6)<ポリウレタン弾性繊維の合着性の評価法>
引張試験機オリエンテック(株)製UTM−III−100型を用いた。引張試験機にサンプルを掴み間隔50mmでセットし、温度20℃、湿度65wt%の条件下で以下の方法で測定した。22デシテックス/2フィラメントの単糸を2つに分ける。引き裂いた各一本のフィラメントを、上下のチャックに別々に股を引き裂くようにセットした後に、強伸度測定と同じ方法で応力測定を開始する。
単糸を引き裂くように測定すると強く合着している部分は応力が高く、合着が弱い部分は低い値を示す。そのため測定が進行するにつれて値が上下に変動する。変動幅が小さく、かつ、平均値応力が大きい値を示すサンプル弾性糸が、フィラメントの合着性が強く良好であると判断できる。
図2に測定結果の一例を示す。
図2に示したように、測定チャートより応力の平均値と変動幅を求める。測定スタート時をベースラインとして平均値応力(a)が大きく、変動幅(b)が小さければ、ポリウレタン弾性繊維は、フィラメントの合着性が強く良好であると判断できる。
図2において、(1)は合着性が良好な例であり、(2)は合着性が不良な例である。
【0036】
(7)<金属摩擦性の評価法>
44デシテックス/4フィラメントの弾性繊維を、25℃、65%RHの雰囲気で30日間放置後、
図1の装置を用いて評価した。
図1において、1は試験糸、2は送り出しローラー、3はテンションメーター、4は編み針、5は巻き取り部、6は巻き取りローラー、7は試験糸走行糸状であり、8は編み針にかかる糸状がなす角度で29°である。試験糸を、送り速度100m/分、巻き取り速度200m/分の延伸倍率2倍で走行させ、編み針通過前後の試験糸の糸条の走行応力とその応力変動を測定した。
図3は測定結果の一例であり、T1、T2は、それぞれ、編み針通過後の走行応力の中心値(g)、編み針通過前の走行応力の中心値(g)である。摩擦係数μdは下記式(1)で与えられる。
μd=Ln(T1/T2)/2.6376・・・式(1)
摩擦係数μdは、値が小さい程、摩擦が小さく良好である。
【0037】
(8)<生地作成の整経及び編成方法>
44デシテックス/4フィラメントの弾性繊維588本をリバー社製の弾性糸用整経機に取り付け、弾性繊維送り出し速度150m/分、ビーム巻き取り速度300m/分にて整経し、1ビームあたり弾性繊維重量で14.7kgを16ビーム整経した。このように整経したポリウレタン弾性繊維をバックの試験糸とし、ナイロン66加工糸44デシテックス/34フィラメントをフロントとしドラフト率80%で整経し、下記条件のハーフ生地編成条件で編成した。
<編成条件>
編機:36ゲージ/インチ カールマイヤー社製 トリコット編機
組織:フロント 10/23、バック 12/10
ランナー長:フロント120cm/480コース
バック77.6cm/480コース
機上コース:100コース/インチ
この編成工程で15kg/1反の条件で20反編んだ。
【0038】
(9)<生地品位の評価法>
得られた経編生機を90℃で1分間精錬し、プレセットとして、テンター仕上げ機を用いて熱処理条件として温度190℃、時間60秒で処理した。次いで、液流染色機を用いて100℃×60分の条件で染色した。ファイナルセットとして、テンター仕上げ機を用いて、熱処理条件180℃×45秒で処理して、経編地の染上げ反を得た。試験糸とナイロン糸を交編させて得られた経編地の生地品位を、以下の評価基準に従って5人の目視判定で総合評価した。
◎:経筋がほとんどなく大変美しい。
○:経筋が目立たず美しい。
△:経筋が僅かに目視される。
×:経筋が多く、美しくない。
【0039】
[参考例1](ポリウレタン弾性繊維用紡糸原液(A)の製造)
平均分子量2000のポリテトラメチレングリコール166.6重量部および4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート31.2重量部を、窒素ガス気流中95℃において80分間攪拌しつつ反応させて、両末端がイソシアネート基残有のプレポリマーを得た。ついで、これを室温まで冷却した後、ジメチルアセトアミド270重量部を加え、溶解してプレポリマー溶液とした。
一方、エチレンジアミン2.34重量部およびジエチルアミン0.37重量部をジメチルアセトアミド157重量部に溶解し、これを前記プレポリマー溶液に室温で添加して、粘度2050ポイズ(30℃)のポリウレタン溶液を得た。こうして得られた粘調なポリマー溶液に、ポリウレタン重合体固形物に対して、1,3,5−トリス(4−ターシャルブチル−3−ヒドロキシ−2、6−ジメチルベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6−(1H,3H,5H)−トリオン(商品名CYANOX1790)1.5重量%、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロ−ベンゾトリアゾール0.5重量%を加えて紡糸原液(A)を作成した。
【0040】
[参考例2](脂肪酸金属塩の分散液の製造1)
<脂肪酸金属塩の分散液−1>
12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウム(120g)をジメチルアセトアミド(680g)に加えて20分撹拌して15重量%分散溶液として分散させた。この溶液を、0.5mmのジルコニアビーズの入ったアイメックス社製RMH−03型湿式ビーズミルを用いて、1パス循環処理して分散液を作成した。この分散液を粒度分布計で測定した結果、平均粒子径は2.0μmであった。
【0041】
[参考例3](脂肪酸金属塩の分散液の製造2)
<脂肪酸金属塩の分散液−2>
ステアリン酸マグネシウム(120g)をジメチルアセトアミド(680g)に加えて20分撹拌して15重量%分散溶液として分散させた。この溶液を、前記参考例2と同様の方法で、湿式ビーズミル処理し、脂肪酸金属塩の分散液−2を作成した。平均粒径は、0.8μmであった。
【0042】
[参考例4](脂肪酸金属塩の分散液の製造3)
<脂肪酸金属塩の分散液−3>
前記参考例2と同様な方法で、12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウムを84g加え、15重量%の分散溶液になるようにして、同様の湿式ビーズミルで3パス循環処理を行い、脂肪酸金属塩の分散液−3を作成した。平均粒径は、0.6μmであった。
【0043】
[実施例1〜
3、参考例5および比較例1〜3]
前記の紡糸用原液(A)と前記記載の方法で作成した脂肪酸金属塩の分散液とを用いて、表1記載の組成になるように脂肪酸金属塩の分散液及び無機固形物を加えた分散液を、スタティックミキサーで紡糸用原液(A)と均一に混合し各紡糸原液を作成した。
この各紡糸原液を脱泡した後、紡口フィルターとして400メッシュの金網フィルターを用いて、紡糸ノズル(口金は4個又は2個の細孔を有す)の細孔から熱風中210℃に押し出して溶剤を蒸発させた。乾燥された糸条をリング仮撚り機に通過する過程で仮撚りし、ゴッデトローラを経てオイリングローラ上でポリアルキルシロキサン、鉱物油を主成分とする油剤成分をポリウレタン弾性繊維の重量に対して5重量%付着させて、1020m/分の速度で、22デシテックス/2フィラメント及び44デシテックス/4フィラメント(単糸繊度11デシテックス)のポリウレタン弾性繊維500gを各々紙管に巻き取った。製造した糸の強伸度物性及び残留溶剤はポリウレタン弾性繊維として適性の範囲内であった。
この弾性繊維を用いて各種評価を行った結果を表1に示す。
【0044】
【表1】