特許第6425558号(P6425558)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6425558
(24)【登録日】2018年11月2日
(45)【発行日】2018年11月21日
(54)【発明の名称】電子放出素子、及び電子放出装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 1/312 20060101AFI20181112BHJP
【FI】
   H01J1/312
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-11415(P2015-11415)
(22)【出願日】2015年1月23日
(65)【公開番号】特開2016-136485(P2016-136485A)
(43)【公開日】2016年7月28日
【審査請求日】2017年9月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】特許業務法人あーく特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥永 洋夢
(72)【発明者】
【氏名】平川 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】岩松 正
【審査官】 右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−306520(JP,A)
【文献】 特開2011−175790(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 1/312
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と、第2電極と、前記第1電極および第2電極の間に設けられた中間層とを備え、前記第1電極および第2電極の間に電圧を印加することによって前記第2電極から電子を放出させる電子放出素子であって、
前記第2電極は、前記中間層に接する第1層と、当該電子放出素子の表面側となる第2層とからなる積層構造とされており、
前記第1層の材料がAu、前記第2層の材料がPtであることを特徴とする電子放出素子。
【請求項2】
請求項に記載の電子放出素子であって、
前記第2層は、給電辺側の層厚が対向辺側の層厚よりも大きい構成であることを特徴とする電子放出素子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電子放出素子と、
前記電子放出素子における前記第1電極および第2電極の間に電圧を印加する電源とを備えたことを特徴とする電子放出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧を印加することによって表面電極から電子を放出させることのできる電子放出素子およびそれを用いた電子放出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電子放出素子として、スピント(Spint)型電極、カーボンナノチューブ(CNT)型電極等で構成された電子放出素子が一般的に知られている。これらの電子放出素子は尖鋭突起部に高電圧を印加して約1GV/mの強電界を形成し、トンネル効果により電子を放出することができる。
【0003】
しかしながら、これら両タイプの電子放出素子は、電子放出部の表面近傍において強電界を発生させるため、放出電子は電界により大きなエネルギーを得たものとなる。そして、大きなエネルギーを得た放出電子は、気体分子を容易に電離させる。気体分子の電離により生じた陽イオンは、強電界によって素子表面に向かって加速衝突し、スパッタリングによる素子破壊が生じる問題がある。
【0004】
また、酸素の解離エネルギーは電離エネルギーよりも低く、大気中で電子を放出させるとこれらの強電界により容易にオゾンが発生する。オゾンは人体に有害である上、その強力な酸化力により多種多様なものを酸化させる。そのため、電子放出素子の周辺部材にダメージが与えられるという問題が存在し、これを避けるために周辺部材には耐オゾン性の高い材料を用いなければならないという制限が生じている。
【0005】
このような背景から、上記のものとは異なるタイプの電子放出素子として、MIM(Metal-Insulator-Metal)型、MIS(Metal-Insulator-Semiconductor)型、あるいはBSD(Ballistic electron Surface-emitting Device)型等の電子放出素子が開発されている。これらは、素子内部の量子サイズ効果および強電界を利用して電子を加速し、平面状の素子表面(表面電極)から電子を放出させる電界電子放出素子である。これらの電子放出素子は、素子内部の電子加速層で加速した電子を放出するため、素子外部に強電界を必要としない。したがって、気体分子の電離によるスパッタリングで破壊されるという問題、およびオゾンが発生するという問題を克服できる。特許文献1には、上記の問題を克服し、かつ大気中で安定的に電子を放出可能な素子が開示されている。
【0006】
図8は、特許文献1に示された電子放出素子の構成を示す模式図である。電子放出素子70は、下部電極となる基板71と、上部電極である表面電極72と、その間に挟まれて存在する電子加速層(中間層)73とからなる。基板71と表面電極72とは電源74に繋がっており、電源74は互いに対向して配置された基板71と表面電極72との間に電圧を印加する。電子加速層73には、導電体からなり抗酸化力が高い導電微粒子731と、導電微粒子731より大きい絶縁体物質732とが含まれている。導電微粒子731として抗酸化力が高い導電体を用いることから、大気中の酸素による酸化に伴う素子劣化を発生しがたいため、大気圧中でも安定して動作させることができる。
【0007】
上記表面電極を有する電子放出素子は、フォーミングと呼ばれる半絶縁破壊過程を経験することで、電子放出特性が出現する。これらの電子放出素子は、以下に示す3つの共通した特徴をもつ。
【0008】
1つめの特徴は、素子の駆動に伴って表面電極が破壊することである。なお、電子放出の原理において表面電極の破壊は不可避ではあるが、素子の寿命を決定付けるのも表面電極の破壊である。このため、長寿命で安定した素子駆動の実現には、表面電極における必要以上の破壊の進行を抑制することが重要である。
【0009】
2つめの特徴は、素子内電流が局所的となりやすいことである。表面電極を有する電子放出素子では面的な電子放出が可能であるが、微小に見ればそれは局所的な放出点が無数に点在することにより形成されている。
【0010】
3つめの特徴は、熱の発生源が表面電極と中間層との界面で発生しやすいことである。電界電子放出の原理上、表面電極にはホットエレクトロンが流れ込み、流れ込んだホットエレクトロンの一部は表面電極と中間層との界面で緩和する。このため、素子の駆動に伴って発生する熱は表面電極と中間層との界面に集中し易くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−146891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来の電子放出素子では、上記3つめの特徴として述べたように、素子の駆動に伴って表面電極と中間層との界面で熱が発生する。この熱は、上記界面から表面電極全体に拡がり、表面電極に対して必要以上の熱的破壊を生じさせる。
【0013】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、表面電極において必要以上の熱的破壊が生じることを防止し、電子放出効率を犠牲にすることなく、素子の長寿命化を図ることのできる電子放出素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、本発明の電子放出素子は、第1電極と、第2電極と、前記第1電極および第2電極の間に設けられた中間層とを備え、前記第1電極および第2電極の間に電圧を印加することによって前記第2電極から電子を放出させる電子放出素子であって、前記第2電極は、複数層の積層構造とされていることを特徴としている。
【0015】
上記の構成によれば、第2電極において複数層を積層させることで、層同士の界面では結晶の連続性が失われ、この不連続な界面では、電気的な接続が若干弱まるが、同時に熱的・力学的な接続も弱まる。一方で、第2電極の破壊は、中間層と表面電極の界面から発生する。このため、中間層に隣接する層では熱的な破壊が生じるが、その破壊は他の層には伝わりにくい。すなわち、上記熱的破壊は、中間層に隣接する層にて食い止められ、第2電極の全体としては過剰な破壊が防止される。これにより、第2電極の機能が長寿命化し、電子放出素子の劣化が抑制される。
【0016】
前記第2電極内の複数層のうち、前記中間層に隣接している層の材料の融点が最も低い構成とすることができる。あるいは、前記第2電極内の複数層のうち、前記中間層に隣接している層の材料の融解熱が最も小さい構成とすることができる。
【0017】
上記の構成によれば、第2電極の機能を長寿命化しつつ、高い放出効率も維持できる効果がより高くなる。
【0018】
また、上記電子放出素子では、前記第2電極内の複数層のうち、前記中間層に隣接している層は金属により構成されている構成とすることができる。あるいは、上記電子放出素子では、前記第2電極内の全ての層は、金属により構成されている構成とすることができる。
【0019】
また、上記電子放出素子では、前記第2電極内の複数層のうち、前記中間層に隣接している層以外の部分は、給電辺側の層厚が対向辺側の層厚よりも大きい構成とすることができる。
【0020】
上記の構成によれば、給電辺付近での断線による電子放出機能の著しい低下を防止することができる。
【0021】
さらに、本発明の電子放出装置は、上記の課題を解決するために、上記に記載のいずれかの電子放出素子と、前記電子放出素子における前記第1電極および第2電極の間に電圧を印加する電源とを備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0022】
本発明の電子放出素子及び電子放出装置は、中間層と表面電極の界面で発生する熱を中間層に隣接する層にて食い止め、第2電極全体が上記熱によって過剰に破壊されることを防止する。これにより、第2電極の機能が長寿命化し、電子放出素子の劣化が抑制されるといった効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施の形態1に係る電子放出装置の概略構成を示す模式図である。
図2】実施の形態1に係る電子放出素子を電子放出面側から見た平面図である。
図3】実施例に係る電子放出素子の製造工程を示す模式図である。
図4】実施例に係る電子放出素子の製造工程を示す模式図である。
図5】実施例に係る電子放出素子の製造工程を示す模式図である。
図6】実施例に係る電子放出素子のサンプルの評価結果を示す表である。
図7】実施の形態2に係る電子放出装置の概略構成を示す模式図である。
図8】従来の電子放出装置の概略構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
〔実施の形態1〕
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。図1は、本実施の形態1に係る電子放出装置の概略構成を示す模式図である。図2は、本実施の形態1に係る電子放出素子を電子放出面側から見た平面図である。
【0025】
電子放出装置1は、電子放出素子10および電源20を備えて構成される。すなわち、電子放出装置1では、電子放出素子10に電源20より所望の電圧が印加されることによって電子が放出される。このような電子放出装置1は、例えば、電子写真方式の画像形成装置において、感光体ドラム表面を帯電させる帯電装置として好適に使用することができる。それ以外にも、電子線硬化装置、発光体と組み合わせることによる画像表示装置、あるいは、放出された電子が発生させるイオン風を利用するイオン風発生装置等に適用することができる。
【0026】
電子放出素子10は、基板電極となる第1電極11、絶縁層12、中間層13、表面電極となる第2電極14からなり、図1に示すような積層構造を有している。電源20の負極は第1電極11に接続され、電源20の正極は第2電極14に接続される。このため、電子放出素子10を流れる電子は、中間層13において第1電極11から第2電極14に向けて加速され、一部の電子がホットエレクトロンとして第2電極14から放出される。
【0027】
第1電極11は、金属板などの電気伝導性を備えた支持体からなる。第1電極11は、十分な電気伝導性を備えていれば良く、具体例としては、Al板,Cu板,SUS板などの金属板、B,Al,N,Pなどの不純物がハイドープされた半導体基板、および金属又は導電性材料が成膜されたガラス板,アクリル板,セラミック板などの絶縁性基板を使用できる。第1電極11の板厚は特に限定されないが、素子としての剛性、および素子発熱による発熱の緩和が十分となる厚さに設定される。
【0028】
第1電極11における中間層13側の表面粗さは、中間層13の層厚と比べて十分に小さく、第1電極11と第2電極14との間で短絡が生じなければ良い。例えば、Raが0.1μm以下であれば適宜調整可能である。また、中間層13および第2電極14が耐えられるものであれば、第1電極11は柔軟性を持つ基板を使用しても良い。
【0029】
絶縁層12は、電気的に絶縁性を有すればよく、具体例としては金属酸化物・金属窒化物などの無機材料、またはシリコーン系樹脂、フェノール系樹脂などの有機材料を使用できる。また、絶縁層12は、電子放出素子10にとって必須な構成要素ではない。本実施形態で構成に取り入れた理由の一つは、第2電極14と電源20との接点直下で電流が流れず、この部分で電極破壊を発生させないようにするためである。絶縁層12は、電子放出面側から見て開口12Aを有するように形成され、この開口12Aの内部領域が電子放出領域となる。
【0030】
中間層13は、絶縁性樹脂、導電性樹脂、絶縁性微粒子のうちの1つ以上を含んだものよりなる。また、この構成に導電性微粒子を添加したものがより好ましい。本実施の形態では、図1に示すように、絶縁性樹脂131および導電性微粒子132を混合したものを中間層13として用いている。中間層13の層厚は0.3〜5.0μmとすることが好ましい。
【0031】
絶縁性樹脂131は、絶縁性を有する材料であれば特に限定は無く、殆どの樹脂が使用可能である。例えば、シリコーン樹脂を使用でき、その硬化タイプも特に限定されない。
【0032】
導電性微粒子132は、導電性を有すればその材料が限定されることは無く、また球形である必要もない。電気伝導性および安定性の観点からは金属が好ましく、例えば、Au,Pt,Pd,Agなどの金属微粒子を用いればよい。また、フラーレン類やカーボンナノチューブ類などの金属以外の微小粉体も使用できる。導電性微粒子132の大きさは、中間層13の厚さに対して小さい必要がある。特に、1次粒子の大きさは1桁以上小さいことが好ましい。ここでいう1次粒子の大きさは、粒子が球体であれば直径を意味し、直線状の棒形であれば軸長を意味し、曲がりくねった紐状であれば2次的楕円球体とみなして、その長軸の長さを意味する。つまり、1次粒子の大きさとは、寸法上の最も大きな長さを意味する。電子放出性能を鑑みると、一般に導電性微粒子132の大きさは3〜100nmであることが好ましい。
【0033】
本実施の形態に係る電子放出素子10は、第2電極14を複数層の積層構造とした点に特徴を有する。このため、第2電極14は、複数層の導電性材料の薄膜、すなわち中間層13側の第1層141と素子表面側の第2層142とからなる。第2電極14の各層の材料は、高い電気伝導性を備えていれば良く、金属材料であることが好ましい。尚、第2電極14の各層の材料として、金属材料以外としては、半導体、ITO(indium tin oxide)、カーボン等が考えられる。
【0034】
また、第2電極14において、中間層13に接する層(ここでは第1層141)は、他の層に比べて低融点の材質であることが好ましい。このため、第2電極14において、少なくとも中間層13に接する層(ここでは第1層141)は、金属材料であることが好ましい。
【0035】
第2電極14の総層厚が小さすぎると、その面内抵抗が増大し、中間層13に対して無視できない大きさの抵抗を持つようになる。この場合、第1電極11と第2電極14との間に一定の電圧がかからず、面内均一性が悪化する。また、第2電極14の破壊耐性が低下し、第2電極14の寿命が低下する。反対に、第2電極14の総層厚が大きすぎると、第2電極14の破壊が過剰に抑制され、欠損領域が低減することで電子放出量が低減する。
【0036】
第2電極14の積層構造について、各層を順次成膜して積み上げる方法に限らず、例えば単一な層の表面もしくは中間層側界面を後工程で形成させる方法をとってもよい。この方法は、例えば、第2電極の材料を半導体とする場合に適用できる。すなわち、最初に単一な半導体層を形成し、その後、形成された半導体の所定深さの範囲にイオン注入を行って部分的に異なる性質とする。これにより、イオン注入された層と、されなかった層とが積層構造を形成する。
【0037】
第2電極14において複数層を積層させることで、層同士の界面では結晶の連続性が失われる。この不連続な界面では、電気的な接続が若干弱まるが、同時に熱的・力学的な接続も弱まる。一方で、第2電極14の破壊は、中間層13と第2電極14の界面から発生する。このため、中間層13に隣接する第1層141では熱的な破壊が生じるが、その破壊は隣の第2層142には伝わりにくい。すなわち、上記熱的破壊は、第1層141にて食い止められ、第2電極14の全体としては過剰な破壊が防止される。これにより、第2電極14の機能が長寿命化し、電子放出素子10の劣化が抑制される。
【0038】
また、熱的接続が弱まることは、第1層141から熱が逃げず、破壊し易くなることを意味する。さらに、大きな熱の発生源は放出効率の低い電流パスに存在する。この理由は、放出しなかった電子は素子内で緩和し、エネルギーが熱となって現れるためである。第1層141の破壊による第2電極14と中間層13との断線は、特に放出効率の低い無駄な電流パスにおいて生じるため、高い放出効率を維持させる。また、その破壊が第1層141のみで局所的に発生することから、素子を長寿命化できる。
【0039】
上記2つの効果(高い放出効率および長寿命化)は、中間層13に隣接する第1層141を、他の層(ここでは第2層142)に比べて低融点および小さな融解熱の材質とした場合に、より高い効果が得られた。
【0040】
<実施例>
本実施の形態1の実施例について説明する。本実施例では、第2電極14を複数層積層させたことで放出効率向上および駆動劣化抑制の効果が得られた具体例を示す。
【0041】
まず、本実施例における電子放出素子10の構成について説明する。第1電極11は、厚さが0.5mm、表面粗さRaが0.02μmのAl板を使用した。中間層13は、絶縁性樹脂131および導電性微粒子132からなり、絶縁性樹脂131として室温硬化型のシリコーン樹脂、導電性微粒子132として平均粒径10nmのAgナノ粒子を用い、層厚は1.5μm程度とした。第2電極14は、第1層141としてAuを20nm、第2層142としてPtを20nm積層した。
【0042】
続いて、本実施例に係る電子放出素子10の製造手順について、図2図5を参照して説明する。
【0043】
先ずは、図3に示すように、第1電極11上に絶縁層12を形成する。第1電極11はAl板を使用し、絶縁層12は陽極酸化法により形成されたアルマイトを使用した。絶縁層12のパターニングはスクリーン印刷法によって形成される。すなわち、絶縁層12は、中間層13に電流を流す領域(電子放出領域)に対応する開口12Aを有するように形成される。十分に絶縁性が取れるように絶縁層12の層厚は2.5μmとした。この場合、絶縁層12の層厚が中間層13の層厚よりも厚くなる。すなわち、図1に示す構成と異なり、開口12Aの領域で中間層13が周囲の絶縁層12よりも凹んだ形状となるが、このような構成であっても電子放出素子10の性能に制限を受けない。
【0044】
続いて、図4に示すように、絶縁層12および開口12Aのほぼ全面を覆うように中間層13が形成される。中間層13の形成は、例えば、スプレーコート法を用いて絶縁層12が形成されたAl基板上にその材料を塗布し、これを乾燥および硬化させることで行われる。中間層13の材料は、アルコラート処理が施されたAgナノ粒子、およびトルエン溶媒中のシリコーン溶液を所望の分量だけ試薬瓶に量り取って混合し(場合によってはトルエンを用いてさらに希釈し)、超音波洗浄器に5分間ほどかけて分散混合したものを用いた。このとき、Agナノ粒子とシリコーン固体分との質量比はおよそ1:10であった。溶液中のAgナノ粒子が十分に分散したことを確認後、スプレーコート法(ブロー圧100kPa)により絶縁層12が形成されたAl基板上に塗布した。
【0045】
中間層13の材料を塗布されたAl基板は、塗布液が乾燥および硬化するまで1日以上室温大気中で保管される。硬化後の中間層13の層厚は、断面走査型透過電子顕微鏡(断面STEM)、表面粗さ計、およびレーザ顕微鏡等を用いて測定した結果、およそ1.5μmであった。尚、この層厚は、電子放出領域(開口12A内の領域)での層厚を示している。
【0046】
中間層13の形成後(シリコーン樹脂の硬化後)に、第2電極14を成膜する。例えば、真空蒸着法を用いて各種金属をそれぞれのパターンに合わせて順次成膜する。
【0047】
まず、第2電極14の第1層141の成膜では、図5に示すように、絶縁層12の開口12Aを覆うようにする。このため、所望のメタルマスクを塗布膜付きAl基板に重ね合わせて、真空蒸着装置のチャンバ内に導入し、10-5Pa程度の高真空領域に達したところでAuの蒸着を開始した。このときの蒸着速度は0.3nm/secであり、この膜厚は水晶振動子を用いて測定した。蒸着中はチャンバ内の温度が上昇しやすいため、基板を保持するホルダ周辺を水冷方式で冷却し温度を管理する。このときの基板の温度は80℃以下と見積もられた。Auを目的の膜厚まで成膜し終えると、大気開放せず高真空を保ったまま、基板および装置の冷却のため10分間放置した。次に、第2層142となるPt蒸着も同様な手順で行う。以上の手順により、本実施例に係る電子放出素子10(図2参照)が完成する。
【0048】
以上のように作製された素子の評価結果を図6に示す。サンプル#1は第2電極14としてAuを50nm、サンプル#2はPtを30nm、サンプル#3は第1層141にAuを20nm、第2層142にPtを20nm、サンプル#4は第1層141にPtを20nm、第2層142にAuを20nm成膜した素子である。評価方法は、一定の電子放出量が得られるようフィードバックを掛けて制御駆動し、一定の放出量を維持できた時間を「寿命」、その寿命の間の平均放出効率を「放出効率」と定義して評価している。
【0049】
これら4サンプルの中で最も長い寿命が得られたものはサンプル#3であり、単一層のサンプル#1、サンプル#2に比べて非常に優れている。このことは、材料による差異とは異なる理由によって寿命が延びたことを示しており、2層構造を取ったためと考えられる。また、サンプル#3はサンプル#1には劣るものの高い放出効率が得られている。
【0050】
一方でサンプル#3とサンプル#4とを比較すると、同じ2層構造であるものの評価結果には大きな差がある。電極材料のAuとPtとの物性は、原子番号が隣りであることもあって非常に類似しているが、Auの方が融点が低く、また融解熱も小さい。つまり、第1層141として適するのは、その他の層よりも低融点の材質であり、融解熱も小さいことが望ましいと言える。
【0051】
〔実施の形態2〕
実施の形態1では、第2電極14の第1層141及び第2層142のそれぞれを均一な層厚としているが、本発明はこれに限定されるものではなく、第1層141及び第2層142の少なくとも一方を不均一に形成しても良い。本実施の形態2は、そのような構造の電子放出装置について説明する。図7は、本実施の形態2に係る電子放出装置の概略構成を示す模式図である。
【0052】
図7に示す電子放出装置2は、電子放出素子30および電源20を備えて構成されており、電子放出素子30は、基板電極となる第1電極11、絶縁層12、中間層13、表面電極となる第2電極34からなる。尚、図7に示す電子放出素子30は、図1に示す電子放出素子10と略同じ構成であるが、図1の第2電極14に代えて第2電極34を用いた点のみが異なっている。
【0053】
図7に示すように、電子放出素子30における第2電極34は、図1の第2電極14と同様に複数層の積層構造とされており、中間層13側の第1層341と素子表面側の第2層342とからなる。
【0054】
第2電極34において、第1層341および第2層342のそれぞれは、均一な層厚とされておらず、勾配を有している点に特徴を有している。すなわち、第1層341は、給電端子の設置辺側(給電辺側)から対向辺(給電端子から遠い側の辺)側に向かって層厚が増加している。逆に、第2層342は、給電辺側から対向辺側に向かって層厚が増加している。尚、電子放出装置2において、第2電極34に電圧を印加するための給電端子は、第2電極34の一辺(給電辺)に沿って配置されている。図7では、図中左側の辺に第2電極34の給電端子が配置されているものとする。また、給電端子は、電子放出領域(開口12A内の領域)の外部領域にて設けられる。
【0055】
上記勾配を有する第1層341または2層342を形成するためには、例えば以下の成膜方法が用いられる。まず、第1層341および第2層342は、材料をスパッタリングまたは蒸着にて成膜して形成されるものとする。そして、この成膜工程時に、第1層341または第2層342が形成される素子と材料放出源との間にシャッターが配置される。このシャッターは、成膜される素子表面と平行であり、かつ、給電辺と直交する方向に移動可能なものとする。
【0056】
成膜は、上記シャッターを移動させながら行う。例えば、第1層341の形成時には、シャッターを全開した状態から成膜を開始し、成膜期間中は、シャッターを給電辺側から対向辺側に向かって徐々に閉じていく方向に移動させる。あるいは、シャッターを全閉した状態から成膜を開始し、成膜期間中は、シャッターを対向辺側から給電辺側に向かって徐々に開いていく方向に移動させてもよい。これにより、第1層341は、給電辺側から対向辺に向かって層厚が増加するように形成される。第2層342については、シャッターの移動方向を逆にすれば、第1層341と逆勾配を有する層として形成可能である。
【0057】
本実施の形態2における電子放出素子30は、給電辺付近での断線による電子放出機能の著しい低下を防止することを目的としている。
【0058】
上述したように、電子放出装置2において、第2電極34に電圧を印加するための給電端子は第2電極34の一辺(給電辺)に沿って配置されている。このため、第2電極34では、面内電流が給電辺側から対向辺に向けて流れるように発生し、この面内電流によって電子放出素子30における電子放出面の全体に電界が印加される。また、上記面内電流は、主に第2層342において生じる。
【0059】
本実施の形態2に係る電子放出素子30では、第2電極34の第1層341において熱的破壊を集中させ、第2層342における破壊を抑制しているものの、第2層342において破壊が全く生じないわけではない。第2層342においても、素子の長時間駆動によって破壊は生じる。また、第2層342における破壊は面内で均一に起きるものではなく、一部に集中して生じることが多い。このため、第2層342は上記破壊によって網目模様に細線化される。
【0060】
そして、細線化された第2層342において、更なる破壊進行によって断線が生じると、第2電極34において給電できない領域が発生し、その領域は電子放出素子として機能しなくなる。上記断線が給電辺に近い箇所で生じると、電子放出効率が低下する領域も大きくなり、素子全体として電子放出効率の著しい低下が起こりうる。このため、本実施の形態2における電子放出素子30では、第2層342において給電辺側の層厚を対向辺側よりも大きくすることによって、給電辺に近い箇所では上記断線が生じないようにしている。これにより、本実施の形態2における電子放出素子30は、給電辺付近での断線による電子放出機能の著しい低下を防止することができる。
【0061】
尚、図7に示す構成では、第1層341における給電辺側の端部は層厚が0となっている。これは、給電辺側の端部は、絶縁層12によって電子放出領域外とされており、この領域では第2電極34の電極破壊が発生しないためである。
【0062】
また、第2電極34全体の層厚については、実施の形態1でも述べたように、総層厚が大きすぎても小さすぎても、素子寿命の低下や電子放出量の低減といった現象が顕著となる。このため、第2電極34全体としては、適切な層厚の均一な層とすることが好ましい。このように、第2電極34全体の層厚を一定にすることを前提とした場合、第2層342を給電辺側から対向辺側に向かって層厚が減少する構成とすると、第1層341は給電辺側から対向辺側に向かって層厚が増加する構成となり、図7に示すものとなる。但し、本発明はこれに限定されるものではなく、第2層342を給電辺側から対向辺側に向かって層厚が減少する構成とし、第1層341は均一な層厚であっても良い。
【0063】
上記実施の形態1および2における第2電極14および34は、何れも2層の積層構造を有するものであるが、本発明はこれに限定されるものではなく、第2電極は3層以上の積層構造であっても良い。第2電極を3層以上とすることで、電子放出素子の長寿命化の効果が向上する可能性もある。また、第2電極を3層以上とする場合、バイメタル効果による曲げ防止機能を持たせることも可能となる。
【0064】
また、上記実施の形態2における第2電極34では、第1層341および第2層342が何れも線形的に層厚が変化する構成となっているが、本発明はこれに限定されるものではなく、非線形的に層厚が変化する構成であってもよい。あるいは、給電辺側から対向辺側に向かう途中で段差が生じるように層厚が変化するものであっても良い。第1層341および第2層342の層厚は、上述した成膜方法においてシャッターの移動を制御することで任意形状に変化させることが可能である。
【0065】
また、上記実施の形態2における第2電極34では、第2層342において給電辺側の層厚を対向辺側よりも大きくする構成としている。ここで、第2電極34が3層以上の積層構造である場合には、中間層に隣接している層以外の部分において給電辺側の層厚を対向辺側よりも大きくする構成であればよい。例えば、第2電極34が3層構造である場合、中間層に隣接している層以外の2層において、給電辺側の層厚が対向辺側よりも大きくなっていればよく、これら2層の層厚の比率に関しては特に限定されない。
【0066】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0067】
1 電子放出装置
10 電子放出素子
11 第1電極
12 絶縁層
13 中間層
14 第2電極
141 第1層(中間層に隣接している層)
142 第2層
2 電子放出装置
20 電源
30 電子放出素子
34 第2電極
341 第1層(中間層に隣接している層)
342 第2層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8