(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1〜5に記載されているような従来公知のオイル劣化を検出する方法、及び当該方法を用いた検出装置では、油密状態でオイルが劣化しているかどうかを検出する必要があるため、オイルの劣化を検出するためのセンサの設置場所に自由度が少ない。また、従来公知のオイル劣化を検出する方法等は、特に変速機における気液混相状態の撹拌場にて適用が困難である。
【0009】
さらに、特許文献6、7に記載されているようなオイルの温度及びオイルレベルを検出してオイルの劣化を検出する方法、及び当該方法を用いた検出装置では、オイルの物性又は成分を直接測定しているわけではなく、オイルの劣化を精度良く推定することが困難である。
【0010】
本発明は、油密状態でなくとも精度良くオイルの劣化を検出できるオイル劣化検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
<1> 一形態に係るオイル劣化検出装置は、添加剤を含有するオイルが収容されるオイル収容部と、前記オイル収容部に収容されるオイルとの間で流体摩擦が発生する絶縁体部を有する部材と、アースされた電極と、を有し、前記添加剤は前記絶縁体部に吸着することで流体摩擦による前記絶縁体部の流動帯電を低減し、前記絶縁体部に吸着している前記添加剤の量が低減すると前記絶縁体部が流動帯電して前記電極からアースされた部分に電荷が流れる。
【0012】
一形態に係るオイル劣化検出装置では、オイル中に含まれる添加剤が絶縁体部に吸着することで絶縁体部の流動帯電が低減され、絶縁体部に吸着している添加剤の量が低減すると絶縁体部が流動帯電して電極からアースされた部分に電荷が流れる。このため、オイル収容部に収容されたオイルが劣化してオイル中に含まれる添加剤の量が低減すると、絶縁体部に吸着している添加剤の量が低減し、その結果、電極からアースされた部分に電荷が流れるようになる。したがって、アースされた部分に流れる電荷を検出することで、オイル収容部に収容されたオイルが劣化していることが検出できる。上記のオイル劣化検出装置では、油密状態でなくとも精度良くオイルの劣化を検出することができる。
【0013】
<2> 一形態に係るオイル劣化検出装置は、<1>に記載のオイル劣化検出装置において、前記添加剤が、無灰分散剤及び金属清浄剤の少なくとも一方を含む。
【0014】
一形態に係るオイル劣化検出装置では、無灰分散剤及び金属清浄剤の少なくとも一方を含む添加剤がオイル中に含まれている。無灰分散剤及び金属清浄剤は絶縁体部に吸着することで絶縁体部の流動帯電を好適に低減する効果を奏しているため、無灰分散剤及び金属清浄剤の少なくとも一方を含む添加剤が含まれるオイルを用いるオイル劣化検出装置では、オイルの劣化をより好適に検出することができる。
【0015】
<3> 一形態に係るオイル劣化検出装置は、<1>又は<2>に記載のオイル劣化検出装置において、前記絶縁体部を有する部材が、前記オイルを撹拌する回転部材である。
【0016】
一形態に係るオイル劣化検出装置では、オイルを撹拌する回転部材に絶縁体部が設けられており、オイルの劣化を検出するために必要な絶縁体部を有する部材を別途設ける必要がなく、簡易な構造及び省スペース化が可能である。例えば、自動変速機(AT)、無段変速機(CVT)、ハイブリッド用変速機、手動変速機(MT)等にてオイルを撹拌する歯車、シャフトなどの回転部材に、絶縁体部が設けられていてもよい。
【0017】
<4> 一形態に係るオイル劣化検出装置は、<3>に記載のオイル劣化検出装置において、前記回転部材は、前記絶縁体部よりも前記オイルとの間で流体摩擦による流動帯電が生じにくい低帯電部を備え、前記絶縁体部及び前記低帯電部は、前記回転部材が回転するときに前記絶縁体部と前記低帯電部とが交互に前記電極と対面するように設けられている。
【0018】
一形態に係るオイル劣化検出装置では、回転部材が回転しているときにオイルが劣化していると、流動帯電した絶縁体部と電極とが対面することによる電極からアースされた部分への電荷の移動、及び低帯電部と電極とが対面することによるアースされた部分から電極への電荷の移動が交互に起こる。これにより、電極とアースされた部分との間での電荷の移動による周期的な電気信号が得られ、オイル収容部に収容されたオイルの劣化をさらに精度良く検出することができる。
【0019】
<5> 一形態に係るオイル劣化検出装置は、<1>〜<4>のいずれか1つに記載のオイル劣化検出装置において、前記絶縁体部は、フッ素樹脂を含む。
【0020】
一形態に係るオイル劣化検出装置では、絶縁体部は、絶縁性に優れるフッ素樹脂を含むため、流体摩擦による流動帯電がしやすく、表面電位がより上昇しやすくなっている。そのため、絶縁体部に吸着している添加剤の量が低減すると電極からアースされた部分により多くの電荷が流れるようになるため、オイルが劣化していない場合とオイルが劣化している場合との電気信号の差がより明確になり、より精度良くオイル劣化の検出が可能となる。
【0021】
<6> 一形態に係るオイル劣化検出装置は、<1>〜<5>のいずれか1つに記載のオイル劣化検出装置において、前記絶縁体部は、エレクトレット化処理が施されている。
【0022】
一形態に係るオイル劣化検出装置では、絶縁体部は、エレクトレット化処理が施されているため、表面電位が低下しにくく、より帯電しやすくなっている。そのため、絶縁体部に吸着している添加剤の量が低減すると電極からアースされた部分により多くの電荷が流れるようになるため、オイルが劣化していない場合とオイルが劣化している場合との電気信号の差がより明確になり、より精度良くオイル劣化の検出が可能となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、油密状態でなくとも精度良くオイルの劣化を検出できるオイル劣化検出装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
更に、本明細書において組成物中の各成分の含有率は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計の含有率を意味する。
【0026】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態に係るオイル劣化検出装置100について、
図1を用いて説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係るオイル劣化検出装置の構成を示す図である。
【0027】
[オイル劣化検出装置]
第1実施形態に係るオイル劣化検出装置100は、添加剤を含有するオイルが収容されるオイル収容部11と、オイル収容部11に収容されるオイルとの間で流体摩擦が発生する絶縁体部12(絶縁体部を有する部材)と、アースされた電極13と、を有する。オイル中に含まれる添加剤は、絶縁体部12に吸着(静電吸着)することで流体摩擦による絶縁体部12の流動帯電を低減し、絶縁体部12に吸着している添加剤の量が低減すると絶縁体部12が流動帯電して電極13からアースされた部分に電荷が流れる。
【0028】
オイル劣化検出装置100は、例えば、エンジン、変速機等にて使用するオイルの劣化を検出するための装置であり、エンジン、変速機等の一部を構成する、あるいは、エンジン、変速機等に取り付けられる。
【0029】
さらに、オイル劣化検出装置100は、電極13とアースされた部分との間に、抵抗16、及び抵抗16と並列に接続された電圧計17を備える。電圧計17にて電圧を測定することで、絶縁体部12が流動帯電して電極13からアースされた部分に電荷が流れているかどうかを検出できる。
【0030】
なお、本実施形態において、抵抗16及び電圧計17を設ける代わりに、あるいは、抵抗16及び電圧計17とともに電流計を電極13とアースされた部分との間に配置し、電流計にて電極13からアースされた部分に流れる電流を測定してもよい。
【0031】
オイル劣化検出装置100では、オイル収容部11に収容されるオイル中に含まれる添加剤が絶縁体部12に吸着することで絶縁体部12の流動帯電が低減される。そのため、オイル中に含まれる添加剤が消費されておらずオイルが劣化していない場合、オイル中に含まれる添加剤が絶縁体部12に吸着して絶縁体部12の流動帯電が低減される。オイル中に含まれる添加剤が絶縁体部12に吸着し、絶縁体部12の流動帯電が低減されていれば、電極13からアースされた部分に電荷(電子)はほとんど流れず、また、電圧計17にて電圧はほとんど測定されない。そのため、電極13からアースされた部分に電荷はほとんど流れず、電圧計17にて電圧がほとんど測定されないことを確認すれば、オイルが劣化していないことが確認できる。
【0032】
オイル中に含まれる添加剤は、エンジン、変速機等の使用時間が経過するにつれて徐々に消費されて失われ、オイルが劣化する。そのため、エンジン、変速機等の使用時間の経過とともに絶縁体部12に吸着している添加剤の量が低減して不足することが推測される。絶縁体部12に吸着している添加剤の量が低減すると絶縁体部12が流動帯電(図中では、負に帯電)し、その結果、電極13からアースされた部分に電荷が流れるようになる。したがって、電圧計17により電圧を測定して電極13からアースされた部分に流れる電荷を検出することで、オイル収容部11に収容されたオイルが劣化していることが検出できる。
【0033】
本実施形態に係るオイル劣化検出装置100では、油密状態でオイルが劣化しているかどうかを検出する必要がなく、特に変速機における気液混相状態の撹拌場においてもオイルの劣化を精度良く検出することができる。
【0034】
また、本実施形態に係るオイル劣化検出装置100では、オイルの温度又はオイルレベルを検出してオイルの劣化を検出する方法を採用したオイル劣化検出装置よりもオイルの性状をより直接的に把握することができ、オイルの劣化を精度良く推定することが可能である。
【0035】
オイル劣化検出装置100は、オイル収容部11を備える。オイル収容部11は添加剤を含有するオイルが収容される。本実施形態では、ハウジング14の内部にオイル収容部11が設けられており、オイル収容部11に添加剤を含有するオイルが貯留されている。オイル収容部11では、
図1に示すように矢印方向にオイルが流動及び流通している。また、オイル収容部11は、オイルを流通させるための配管であってもよく、例えば、エンジンオイルを流通させるための配管であってもよい。
【0036】
ハウジング14は、筐体の一例であり、その内部にオイル収容部11を備える。また、ハウジング14は、オイル収容部11の側部、底部等に絶縁体部12を備え、オイル収容部11の外部であって絶縁体部12の近傍に電極13を備えている。
【0037】
電極13とハウジング14との間の電荷の移動を抑制するため、電極13とハウジング14との間には絶縁部15が配置されており、電極13はハウジング14から絶縁されている。
【0038】
オイル収容部11に収容されるオイルは、摺動により摩擦及び摩耗が発生する部品(例えば、ピストン、歯車など)の潤滑に用いられ、摩擦及び摩耗を軽減する潤滑油である。
【0039】
本実施形態で用いるオイルは、絶縁体部12に吸着して絶縁体部12の流動帯電を低減する添加剤などの各種添加剤を含む。添加剤としては、絶縁体部12に吸着して絶縁体部12の流動帯電を低減する効果を奏するものであれば特に限定されない。
【0040】
中でも、添加剤としては、無灰分散剤及び金属清浄剤の少なくとも一方を含むものであることが好ましい。無灰分散剤及び金属清浄剤は、オイル中のスラッジ等の異物に吸着して潤滑面を保護するために用いられ、静電吸着によって異物に付着するが、帯電した部位である絶縁体部12にも同様に付着し、絶縁体部12の流動帯電を低減する。
【0041】
無灰分散剤としては、従来公知のものが使用可能であり、例えば、コハク酸イミド化合物が挙げられる。コハク酸イミド化合物としては、ポリアルケニルコハク酸イミド、ポリアルケニルコハク酸アミド、ポリアルケニルベンジルアミン、ポリアルケニルコハク酸エステル等が挙げられる。
【0042】
また、コハク酸イミド化合物は、コハク酸イミド化合物は、例えば、数平均分子量が500〜5000であるアルケニル基又はアルキル基で置換されたコハク酸無水物と、ポリアルキレンポリアミンと、の反応により得られる化合物であってもよい。
【0043】
本実施形態で用いるオイル中における無灰分散剤の含有率は、オイル中のスラッジ等の異物を好適に吸着する点及び絶縁体部12の流動帯電を低減する点から基油100質量%に対して0.5質量%〜10質量%であることが好ましく、0.5質量%〜5質量%であることがより好ましい。また、無灰分散剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、上記無灰分散剤の含有率は、無灰分散剤が消費される前のオイルにおける好ましい数値範囲である。
【0044】
金属清浄剤としては、従来公知のものが使用可能であり、例えば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属又はマグネシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属のサリシレート、カルボキシレート、スルフォネート、フェネート、フォスフォネートなどが挙げられる。
【0045】
本実施形態で用いるオイル中における金属清浄剤の含有率は、オイル中のスラッジ等の異物を好適に吸着する点及び絶縁体部12の流動帯電を低減する点から基油100質量%に対して0.5質量%〜10質量%であることが好ましく、0.5質量%〜5質量%であることがより好ましい。また、金属清浄剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、上記金属清浄剤の含有率は、金属清浄剤が消費される前のオイルにおける好ましい数値範囲である。
【0046】
本実施形態で用いるオイルは、絶縁体部に吸着して絶縁体部の流動帯電を低減する前述の添加剤以外にその他の添加剤を含んでいてもよい。その他の添加剤としては、アミン系摩擦調整剤、エステル系摩擦調整剤、アミド系摩擦調整剤、リン系摩擦調整剤等の摩擦調整剤、イオウ系添加剤、粘度指数向上剤、酸化防止剤、極圧剤、摩耗防止剤、流動点降下剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤などが挙げられる。本実施形態で用いるオイル中にその他の添加剤が含まれる場合、オイル中におけるその他の添加剤の含有率は、それぞれ、基油100質量%に対して0.5質量%〜10質量%であることが好ましく、0,5質量%〜5質量%であることがより好ましい。
【0047】
オイル劣化検出装置100は、絶縁体部12を備える。絶縁体部12は、オイル収容部11に収容されるオイルとの間で流体摩擦を発生させる部位である。絶縁体部12の配置場所は、電極13の近傍であって、オイル収容部11にオイルを収容したときに、絶縁体部12がオイルと接触し、かつオイルを流動させたときに、オイルとの間で流体摩擦が発生する位置であれば特に限定されず、例えば、オイル収容部11の側部、底部等に絶縁体部12が配置されていてもよい。
【0048】
絶縁体部12は、従来公知の絶縁体から構成されていればよく、絶縁体部12を構成する絶縁体としては、フッ素樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ゴム(エラストマーを含む)等が挙げられる。
【0049】
絶縁体としては、中でも、高い絶縁性を有し、かつ流動帯電しやすい点からフッ素樹脂が好ましい。フッ素樹脂を絶縁体として用いることにより絶縁体部12が流動帯電しやすくなるため、絶縁体部12に吸着している添加剤の量が低減したときに、絶縁体部12の表面電位がより上昇する。絶縁体部12の表面電位がより上昇すると、絶縁体部12の近傍に位置する電極13からアースされた部分により多くの電荷が流れるようになるため、オイルが劣化していない場合とオイルが劣化している場合との電気信号の差がより明確になり、より精度良くオイル劣化の検出が可能となる。
【0050】
フッ素樹脂としては、フッ素を含む単量体の重合体(他のモノマーとの共重合体であってもよい)であれば特に限定されず、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTEF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、四フッ化エチレン・パーフロロプロピルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)等が挙げられる。
【0051】
また、絶縁体部12を構成する材料としては、市販されているものを用いてもよく、例えば、旭硝子株式会社製のCYTOP(登録商標)、デュポン社製のTeflon(登録商標)などの市販のフッ素樹脂を用いてもよい。
【0052】
また、絶縁体部12は、前述の絶縁体、好ましくはフッ素樹脂を含む絶縁膜又は絶縁層であってもよい。また、絶縁体部12は、導電部材等の表面に形成された絶縁膜又は絶縁層であってもよい。
【0053】
絶縁体部12は、エレクトレット化処理が施されたものであってもよく、中でも、フッ素樹脂を含み、かつエレクトレット化処理が施されたものであることが好ましい。
【0054】
エレクトレット化処理が施された絶縁体部12では、表面電位が低下しにくく、より帯電しやすくなっている。そのため、絶縁体部12に吸着している添加剤の量が低減すると電極13からアースされた部分により多くの電荷が流れるようになるため、オイルが劣化していない場合とオイルが劣化している場合との電気信号の差がより明確になり、より精度良くオイル劣化の検出が可能となる。
【0055】
なお、ここでいう「エレクトレット化」とは、強い誘電性をもった絶縁体部12中に電気分極を起こさせて、絶縁体部12の表面に半永久的に電荷を保持させた状態(帯電状態)にすることを指す。絶縁体部12に電気分極を起こさせる方法としては、放電処理、熱処理、X線処理、電子線処理、紫外線(UV)処理等があり、いずれの方法を用いてもよい。また、「半永久的に電荷を保持」とは、通常の摩擦による帯電と異なり、絶縁体部12の表面電位が低下し難いことを意味する。
【0056】
オイル劣化検出装置100は、電極13を備える。電極13は、絶縁体部12近傍に配置され、アースされている。また、電極13とハウジング14との間には絶縁部15が配置されており、電極13はハウジング14から絶縁されている。電極13とアースされた部分との間には、抵抗16及び電圧計17が並列に配置されている。電極13の設置場所は、絶縁体部12の近傍、具体的には、絶縁体部12が流体摩擦により帯電しているときに、静電誘導により、絶縁体部12とは反対符号の電荷に帯電し、かつ絶縁体部12と同符号の電荷が電極13からアースされた部分に流れ、電圧計17にて電圧又は電流計(図示せず)にて電流が測定可能な場所であればよい。
【0057】
また、電極13は、オイル劣化検出装置100が搭載される機器(例えば、自動車)の本体(例えば、自動車のボディ)にアースされていてもよい。
【0058】
ここで、オイル中に含まれる添加剤が絶縁体部12に吸着し、電極13の近傍に位置する絶縁体部12の流動帯電が低減されている、すなわち、オイルが劣化していない場合、例えば、
図2に示すように、電極13からアースされた部分に電荷(電子)はほとんど流れず、電圧計17にて電圧はほとんど測定されない。
【0059】
前述のように、オイル中に含まれる添加剤は、エンジン、変速機等の使用時間が経過するにつれて徐々に消費されてオイルが劣化し、絶縁体部12に吸着している添加剤の量が低減することが推測される。その結果、オイルが劣化し始めると、絶縁体部12が流体摩擦により帯電(
図1中では、負に帯電)し、
図2に示すように、電極13からアースされた部分に電荷(電子)が流れるようになり、電圧計17にて電圧又は電流計にて電流が測定される。したがって、電圧計17により電圧又は電流計により電流を測定して電極13からアースされた部分に流れる電荷を検出することで、オイル収容部11に収容されたオイルが劣化していることが検出できる。
【0060】
オイルが劣化し始めると、絶縁体部12が流体摩擦により帯電するが、時間が経過すると、絶縁体部12にて流体摩擦による表面電位が経時的にほどんど変化せず、ほぼ一定となる。
【0061】
また、オイルが劣化し始めて電極13からアースされた部分に電荷(電子)が流れるようになると、電極13は、絶縁体部12とは反対符号に帯電(
図1中では、正に帯電)する。そして、時間が経過すると、電極13からアースされた部分に電荷が流れ続けることにより、電極13の電位が大きくなり、絶縁体部12の電位と電極13の電位が均衡する(電位の絶対値がほぼ等しくなる)ようになる。そのため、オイルが劣化して時間が経過すると、絶縁体部12の電位と電極13の電位が均衡し、
図2に示すように、電極13からアースされた部分に電荷が流れないようになると推測される。
【0062】
本実施形態において、オイルが劣化しているか否かについては、電圧計17にて測定された電圧値、電流計にて測定された電流値にて判断すればよい。例えば、電圧計17にて測定された電圧値又は電流計にて測定された電流値が特定の閾値以上となった場合にオイルが劣化していると判断してもよく、これら電圧値又は電流値がある一定時間以上特定の閾値以上となった場合にオイルが劣化していると判断してもよい。これにより、微量の電圧値又は電流値が測定されるような場合、短時間の間に電圧値又は電流値が測定されるような場合等にオイルが劣化しているとは判断されず、オイル劣化検出装置100がノイズのような電気信号を検出した際にオイルが劣化していると判断されることが抑制でき、オイルの劣化をより精度良く検出できる。
【0063】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態に係るオイル劣化検出装置200について、
図3を用いて説明する。
図3は、本発明の第2実施形態に係るオイル劣化検出装置の構成を示す図である。
【0064】
本実施形態に係るオイル劣化検出装置200は、ハウジング14の内部にオイル収容部11を備え、オイル収容部11に絶縁体部12ではなく、オイルを撹拌する回転部材である歯車18が配置されている点で第1実施形態に係るオイル劣化検出装置100と相違する。なお、本実施形態において、第1実施形態と同様の構成については、同じ図面番号を付し、その説明を省略する。
【0065】
歯車18は、オイル収容部11に配置されており、オイル収容部11に収容されるオイルを撹拌するための回転部材である。歯車18は、シャフト(図示せず)に支持されており、シャフトを回転させることで、
図3に示すように、歯車18が矢印方向に回転し、オイルが撹拌される。本実施形態で用いる歯車及びシャフトは、例えば、変速機用の歯車及びシャフトであってもよい。
【0066】
歯車18の配置場所は、オイル収容部11にオイルを収容したときに、歯車18の少なくとも一部がオイルに浸漬し、オイルを撹拌可能であり、かつ、電極13の近傍であって、オイルを撹拌させたときにオイルとの間で流体摩擦が発生する位置であれば特に限定されない。
【0067】
歯車18は、歯(凹凸部)の凸部に絶縁体部22及び側面に絶縁体部32を備える。また、歯車18は、歯の凹部にオイルとの間で流体摩擦による流動帯電が生じにくい低帯電部23を備え、かつ側面における絶縁体部32以外の部分にオイルとの間で流体摩擦による流動帯電が生じにくい低帯電部33を備えている。歯車18が回転したときに、絶縁体部22及び低帯電部23が交互に電極13と対面する、あるいは、絶縁体部32及び低帯電部33が交互に電極13と対面するように、歯車18が配置される。なお、
図3中では、絶縁体部32及び低帯電部33が交互に電極13と対面するように、歯車18が配置されている。
【0068】
低帯電部23、33は、それぞれ絶縁体部22、32よりもオイルとの間で流体摩擦による流動帯電が生じにくい部位である。低帯電部23、33は、オイルとの間で流体摩擦による流動帯電がほとんど生じない、あるいは、生じない部位であることが好ましい。低帯電部としては、例えば、金属などの導電性を有する部位が挙げられる。
【0069】
オイル収容部11に収容されたオイルが劣化していない場合、絶縁体部22、32と同様に添加剤が低帯電部23、33に吸着しているため、低帯電部23、33が電極13と対面しても、電極13からアースされた部分に電荷はほとんど流れない。
【0070】
オイル収容部11に収容されたオイルが劣化している場合、絶縁体部22、32と同様に低帯電部23、33に吸着している添加剤の量が低減する。このとき、低帯電部23、33は、それぞれ絶縁体部22、32よりも表面電位(表面電位の絶対値)が小さくなる。
【0071】
オイル収容部11に収容されたオイルが劣化している場合、流動帯電した絶縁体部22又は流動帯電した絶縁体部32が電極13と対面すると、前述のように電極13からアースされた部分への電荷(電子)の移動が起こる。また、オイル収容部11に収容されたオイルが劣化している場合、表面電位が絶縁体部22よりも小さい低帯電部23又は表面電位が絶縁体部32よりも小さい低帯電部33が電極13と対面すると、アースされた部分から電極への電荷(電子)の移動が起こる。
【0072】
したがって、歯車18が回転しているときにオイルが劣化していると、流動帯電した絶縁体部22、32と電極13とが対面することによる電極13からアースされた部分への電荷の移動、及び低帯電部23、33と電極13とが対面することによるアースされた部分から電極への電荷の移動が交互に起こる。これにより、
図4に示すように、電極13とアースされた部分との間で正負の電流値又は正負の電圧値が交互に得られ、電荷の移動による周期的な電気信号(交流電流又は交流電圧)が得られる。したがって、オイル劣化検出装置200では、オイル収容部11に収容されたオイルの劣化をさらに精度良く検出することができる。
【0073】
前述の第1実施形態に係るオイル劣化検出装置100は、オイルが劣化して時間が経過すると、絶縁体部12の電位と電極13の電位が均衡し、
図2に示すように、電極13からアースされた部分に電荷が流れないようになると推測される。一方、本実施形態に係るオイル劣化検出装置200は、オイルが劣化して時間が経過しても、電極13からアースされた部分への電荷の移動及びアースされた部分から電極13への電荷の移動が交互に起こり、
図4に示すように、周期的な電気信号が得られる。したがって、本実施形態に係るオイル劣化検出装置200では、オイルの劣化をより正確に検出できる。
【0074】
本実施形態において、オイルが劣化しているか否かについては、電圧計17にて測定された電圧値、電流計(図示せず)にて測定された電流値にて判断すればよい。例えば、電圧計17にて測定された電圧値又は電流計にて測定された電流値が特定の閾値を超えた回数がある一定回数以上となった場合にオイルが劣化していると判断してもよい。
【0075】
また、オイル劣化検出装置200では、オイルを撹拌する回転部材である歯車18に絶縁体部12が設けられており、オイルの劣化を検出するために必要な絶縁体部を有する部材を別途設ける必要がなく、簡易な構造及び省スペース化が可能である。また、回転部材としては、歯車以外にシャフトなどであってもよい。
【0076】
例えば、自動変速機(AT)、無段変速機(CVT)、ハイブリッド用変速機、手動変速機(MT)等にてオイルを撹拌する歯車、シャフトなどの回転部材に、絶縁体部が設けられており、絶縁体部が設けられた箇所以外が低帯電部となっていてもよい。
【0077】
なお、回転部材としては、各種変速機に通常取り付けられる金属製である、歯車、シャフトなどが挙げられる。
【0078】
なお、本実施形態において、歯車における歯(凹凸部)の凸部及び側面の少なくとも一方が絶縁体部を備えていればよく、歯車における歯(凹凸部)の凸部及び側面の少なくとも一方に設けられた絶縁体部が電極と対面する構成であればよい。
【0079】
なお、本発明は、上述した第1実施形態及び第2実施形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。また、
図2、4は、第1実施形態及び第2実施形態におけるオイル劣化検出装置について、時間経過により検出される電位又は電流のグラフの一例を示しており、時間経過により検出される電位又は電流の推移はこれらに限定されない。
【0080】
以下、本実施形態にて無灰分散剤及び金属清浄剤が絶縁体部の流動帯電を低減する効果を奏すること、並びに、オイルの撹拌により絶縁体部及びエレクトレット化処理された絶縁体部にて流動帯電が発生することを、実験結果を参照しつつ説明する。
【0081】
<実験1>
以下の実験により、無灰分散剤及び金属清浄剤が絶縁体部の流動帯電を低減する効果を奏することを確認した。まず、各種添加剤を含まない基油を準備した。基油に以下に示す各種添加剤を一種類のみ添加し、各種添加剤が1質量%添加された基油を準備した。次に、フッ素樹脂膜(旭硝子株式会社製のCYTOP−EGG)である試験片Aを準備した。試験片Aをヘキサン中で3分間撹拌した後の初期電位を測定し、さらに、各種添加剤を含まない基油及び各種添加剤が1質量%添加された基油に試験片Aを1分間浸漬した後の電位を測定した。結果を
図5に示す。
[実験1で用いた各種添加剤]
・アミン系摩擦調整剤
・エステル系摩擦調整剤
・アミド系摩擦調整剤
・リン系摩擦調整剤
・無灰分散剤
・金属清浄剤
・イオウ系添加剤
・粘度指数向上剤
【0082】
図5に示すように、無灰分散剤又は金属清浄剤が添加された基油では、試験片Aを基油に浸漬させることで、帯電電位が大きく低減し、ほぼゼロとなることが示された。これにより、無灰分散剤又は金属清浄剤が添加された基油では、基油に浸漬させた試験片Aに無灰分散剤又は金属清浄剤が付着して帯電電位が低減していることが推測される。
【0083】
<実験2>
以下の実験により、基油の撹拌により絶縁体部及びエレクトレット化処理された絶縁体部にて流動帯電が発生することを確認した。まず、エレクトレット化処理されていない前述の試験片A(フッ素樹脂膜:旭硝子株式会社製 CYTOP−EGG)及びエレクトレット化処理された試験片B(フッ素樹脂膜:旭硝子株式会社製 CYTOP−EGG)を準備した。次に、各種添加剤を含まない基油(潤滑油)に試験片A及び試験片Bをそれぞれ浸漬した後に基油を撹拌し、時間経過後の試験片A、Bの表面電位を測定した。結果を
図6に示す。
【0084】
図6に示すように、試験片A、Bともに時間が経過するにつれて表面電位が上昇しており、特に試験片Bでは、時間が経過するにつれて表面電位がより上昇することが示された。これにより、試験片A、Bを基油に浸漬させた状態で基油を撹拌することで、試験片A、Bに流動帯電が発生することが示された。
【0085】
図5、6の結果から、無灰分散剤又は金属清浄剤が添加された基油では基油に浸漬させた試験片(絶縁体部)に無灰分散剤又は金属清浄剤が付着して帯電電位が低減すること、及び基油に含まれる無灰分散剤又は金属清浄剤の濃度が低下すると試験片(絶縁体部)の帯電電位が増加することが推測される。