特許第6425736号(P6425736)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6425736
(24)【登録日】2018年11月2日
(45)【発行日】2018年11月21日
(54)【発明の名称】パーフルオロポリマー材料の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/04 20060101AFI20181112BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20181112BHJP
   A61L 27/00 20060101ALI20181112BHJP
【FI】
   C08J7/04 UCER
   C08J7/04CEZ
   B05D7/24 302L
   A61L27/00
【請求項の数】18
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-554926(P2016-554926)
(86)(22)【出願日】2014年11月19日
(65)【公表番号】特表2016-540879(P2016-540879A)
(43)【公表日】2016年12月28日
(86)【国際出願番号】GB2014053428
(87)【国際公開番号】WO2015075450
(87)【国際公開日】20150528
【審査請求日】2017年10月3日
(31)【優先権主張番号】1320756.8
(32)【優先日】2013年11月25日
(33)【優先権主張国】GB
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516152882
【氏名又は名称】イーエスピー テクノロジー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100091443
【弁理士】
【氏名又は名称】西浦 ▲嗣▼晴
(74)【代理人】
【識別番号】100130720
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼見 良貴
(74)【代理人】
【識別番号】100130432
【弁理士】
【氏名又は名称】出山 匡
(72)【発明者】
【氏名】アンダーウッド,クリストファー ジョン
(72)【発明者】
【氏名】スティーブンズ,ロバート
【審査官】 深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/015385(WO,A1)
【文献】 特表2010−516864(JP,A)
【文献】 国際公開第03/078516(WO,A1)
【文献】 特開平03−068140(JP,A)
【文献】 特表2005−534408(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/129411(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 7/04−7/06
B05D 1/00−7/26
B32B 1/00−43/00
C09D 1/00−10/00、101/00−201/10
C08F 283/01、290/00−290/14
C08F 299/00−299/08
A61L 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーフルオロポリマー材料の処理方法であって、前記処理方法は、
i)1以上の液体パーフルオロ溶媒を含む溶媒中に、1以上の未硬化のパーフルオロポリマー材料を溶解し、溶液を形成する工程と、
ii)前記工程(i)で形成された前記溶液を基体に塗布し、多重堆積物を前記基体上に形成する工程と、
iii)前記基体にのみ所定量のエネルギーを加え、前記多重堆積物から少なくとも部分的に前記溶媒を取り除くのに十分な温度になるまで前記多重堆積物の温度を上げる工程と、
iv)前記多重堆積物内の前記パーフルオロポリマー材料を硬化し、パーフルオロエラストマー製品を形成する工程と、
を含むパーフルオロポリマー材料の処理方法。
【請求項2】
前記パーフルオロポリマー材料は、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、及びパーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVEs)から選択される1以上、又は、パーフルオロアルキルビニルエーテルである請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
前記パーフルオロアルキルビニルエーテルは、直鎖又は分岐のアルキル基を含み、且つ、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)から選択される1以上のエーテル結合を含む請求項2に記載の処理方法。
【請求項4】
前記パーフルオロポリマー材料は、テトラフルオロエチレンのターポリマー、パーフルオロアルキルビニルエーテル、及び、前記ターポリマーの架橋を可能にする官能基を含み少なくとも1種のパーフルオロ化されたキュアサイトモノマーを含む請求項1に記載の処理方法。
【請求項5】
前記キュアサイトモノマーは、シアノ、ブロモ、ヨード又はペンタフルオロフェノキシの官能基を含む請求項4に記載の処理方法。
【請求項6】
さらに、1以上のポロゲン及び/又は1以上の機能性添加物を前記工程(i)で形成された前記溶液に添加することを含む請求項1乃至5のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項7】
さらに、工程(iv)の後に、前記パーフルオロエラストマー製品から前記1以上のポロゲンを除去する工程を含む請求項6に記載の処理方法。
【請求項8】
前記1以上のポロゲンは、塩化ナトリウム、サリチル酸、ラクトース、バリン、炭酸水素ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、グリシン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルピロリドン、微粒子のポリマー、ポリ塩化ビニル及び/又は二酸化チタンから選択される1以上の材料である請求項6または7に記載の処理方法。
【請求項9】
前記1以上のポロゲンは、前記パーフルオロエラストマー製品中のパーフルオロポリマー100重量部当たり、約10重量部〜約500重量部の量が存在する請求項6乃至8のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項10】
前記機能性添加物は、相互作用剤、加工助剤、フィラー、酸受容体、硬化促進剤、グラス繊維、ポリアラミド繊維、硬化剤及び/又は可塑剤から選択される1以上である請求項6に記載の処理方法。
【請求項11】
前記基体は、金属性のマンドレル、非金属性のマンドレル、金属性のインプラント又は非金属性のインプラントである請求項1乃至10のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項12】
前記工程(ii)において、前記工程(i)から得られた前記溶液を、圧送吹き付け、静電的に絞られた圧送吹き付け、エレクトロスプレー、超音波噴霧、注射、静電紡糸、インクジェット印刷、浸漬塗布、磨き/ペイントから選択される手法によって、前記基体に塗布する請求項1乃至11のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項13】
前記工程(i)において、1種のみの前記溶媒を使用する請求項1乃至12のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項14】
前記溶媒は、実質的に完全に除去される請求項1乃至13のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項15】
前記パーフルオロポリマーを硬化する前記工程(iv)は、前記パーフルオロポリマーが前記基体上にあるときに実行される請求項1乃至14のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項16】
前記パーフルオロポリマーを硬化する前記工程(iv)は、前記パーフルオロポリマーが前記基体上にないときに実行される請求項1乃至14のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項17】
前記パーフルオロエラストマー製品からなる製品を形成する工程(v)をさらに含む請求項1乃至16のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項18】
医療機器における、シーリング部材における、燃料電池部材における、または、整形外科インプラント上のコーティングとしての、請求項1乃至17のいずれか1項に記載の処理方法により用意したパーフルオロエラストマー製品の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーフルオロポリマー材料(perfluoropolymer materials)の処理方法、及び、医療機器(medical device)の分野などの異なる潜在的用途(potential applications)における反応生成物(resultant products)の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
パーフルオロポリマー材料又はパーフルオロエラストマー材料(perfluoroelastomeric materials)は、この技術分野ではよく知られている。またこの材料は、高いレベルの耐薬品性(chemical resistance)(耐液性(fluid resistance)、耐塩基性(base-resistance)、 誘電特性(dielectric properties)、及び、高温耐性(high temperature resistance))、プラズマ耐性(plasma resistance)、耐圧縮永久歪性(compression set resistance)、及び、有効な機械特性(effective mechanical properties)を有することが知られている。なお、圧縮永久歪(compression set)とは、変形させる圧縮荷重(compressive load)を取り去った後に、元の形状に戻らずに歪められた状態を維持するエラストマー材料(elastomeric material)の性質であり、圧縮歪の値は材料が元にもどらなかった初期偏差(original deflection)のパーセントとして表される。これらの性質の故に、この材料は多くの潜在的及び現実的な用途を有している。例えば、パーフルオロポリマー材料は、プラズマ耐性(plasma resistance)を利用した半導体産業におけるだけではなく、変形に耐え得る成形部品(molded parts)として使用するために、腐食性薬品(corrosive chemical)又は限界動作条件(extreme operating conditions)にシールまたはガスケットが晒される場所における、ゴム状シール(elastomeric seals)として使用することもできる。主要な市場(80%)は、実質的には耐溶剤としての使用である。これらの組成物の航空宇宙産業の応用は、耐酸化剤性部品(oxidizer resistant components)から、高温環境に晒されて動作する民生・軍事用のジェットエンジンのシールまでにわたる。
【0003】
FFKMゴム(FFKM gums)は、エラストマー前駆体(precursors to elastomers)であり、正確にはパーフルオロエラストマー(即ち、完全にフッ素化され、水素原子を含まないもの)と定義される。
【0004】
71〜72%に高くフッ素化されたFFKMエラストマーは、理論フッ素化レベルが76%を有するポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene)(PTFE)とほぼ同等のフッ素化レベルを有する。これは62〜68%の完全にはフッ素化されていないフルオロエラストマー(fluoroelastomers)と比べて遜色がない。このことは、例えば、フロイデンバーグスのパーフルオロエラストマーであるシムリッツ(Freudenberg's perfluoroelastomer Simriz、Simrizは登録商標)が、広い温度及び圧力範囲において反応媒体、溶媒、酸及びアルカリに対して著しい耐性を示すことを意味する。シムリッツの耐薬品性は万能性が高いため、ほとんどすべての媒体を静的にシーリングすることが可能である。
【0005】
この技術分野で知られている他のパーフルオロ組成物には、フルオリナート(Fluorinert、登録商標)の商品名で販売されているものを含む。フルオリナートは、電気的絶縁性を有し、また、安定したフルオロカーボン系の流体であり、主に電子装置用のクーラント液(coolant liquids)として使われている。異なる分子構造(Different molecular formulations)に様々な沸点を付与でき、このことにより、その組成物が液状のままである"一相"での応用例、または、その組成物の液体が気化冷却(evaporative cooling)を経て追加の熱を除去するために沸騰する"二相"での応用例での使用が可能である。これらのフルオリナートの一つの例として、通称FC−72と呼ばれているもの、またはパーフルオロヘキサン(perfluorohexane (C6F14))がある。パーフルオロヘキサンは沸点が56℃であるため、低い温度の伝熱の応用に使われる。他の例は、FC−75、パーフルオロ(2−ブチル−テトラヒドロフラン)(perfluoro(2-butyl-tetrahydrofurane))である。FC−70のように約215℃までの温度まで耐えることができるフルオリナートの商品名で販売されている流動体もあり、フルテック(FLUTEC 、登録商標)の商標が付された流動体も同様である。
【0006】
しかしながら、パーフルオロエラストマー材料は、高価である。その結果、シールやガスケットのような材料や部品のコストが他のエラストマー材料で造られたものよりも格段に高くなってしまう。
【0007】
そのため、パーフルオロエラストマーの性質は非常に望ましいものである一方で、その用途は限定されがちであり、よって最終用途のためのパーフルオロエラストマー最終製品を製造できるパールフルオロエラストマー材料の改良された処理方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO03/078516
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のパーフルオロエラストマー材料の処理方法は、デラウェア州のグリーンツィード社(Greene, Tweed of Delaware, Inc)、及び、シーユーメディアグループピーエルシー(CuMedica Group PLC)によりWO03/078516に開示されている。この方法は、パーフルオロエラストマー材料と2種のパーフルオロ溶媒(perfluorosolvents)との混合を含み、一方のパーフルオロ溶媒は高い沸点を有し、他方は低い沸点を有する。後者の溶媒の沸点は、溶媒が蒸発するのにいかなる熱やエネルギーを加える必要がないほどに十分に低く、その蒸発は、手動操作、すなわち、パテナイフ(putty knife)や同様の道具を使って表面領域を増やすことによって促進される。混合を促進するためにセラミック又は金属のボールを加え、その混合物を、トレー又は他の平坦面(金属又はプラスチックのもの)に注ぎ、沸点の低い溶媒を除去し、意図的に混合物の一部に沸点の高い溶媒を残す。沸点の低い溶媒が除去されると、混合物は固化し、トレー上で、パン生地状の材料(dough-like material)となる。次にこれを手作業で断片に切り刻み、圧縮モールド内のマンドレル(mandrel)に供給する。ここで材料は本硬化される。WO03/078516に記載の方法は、パーフルオロエラストマー材料を圧縮成形技術によってモールド内で成形することを専ら意図したものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって、本発明によれば、パーフルオロポリマー材料の処理方法を提供し、その処理方法は、次の工程を含む。
i)1以上の液体パーフルオロ溶媒を含む溶媒中に、1以上の未硬化のパーフルオロポリマー材料を溶解し、溶液を形成する工程と、
ii)必要に応じて、1以上のポロゲン(one or more porogens)及び/又は1以上の機能性添加物(one or more functional additives)を工程(i)で形成された溶液に添加し、混合物を形成する工程と、
iii)工程(i)及び(ii)で形成された溶液又は混合物を基体(substrate)に塗布し、部分的又は連続的な1以上の堆積層を基体上に形成する工程と、
iv)基体又は1以上の堆積層に所定量のエネルギーを加えて、1以上の堆積層から少なくとも部分的に溶媒を取り除く工程と、
v)1以上の堆積層内のパーフルオロポリマー材料を硬化し、パーフルオロエラストマー製品(perfluoroelastomeric product)を形成する工程と、
vi)所望に応じて、1以上のポロゲンをパーフルオロエラストマー製品から除去する工程。
【0011】
WO03/078516に詳述されている方法とは対照的に、本発明は工程(iii)においてパーフルオロポリマー材料を最初に堆積したのと同じ基体上で、パーフルオロポリマー材料を硬化し、また、溶媒を除去するためのエネルギーを必要とする。本発明の有利な点は、パーフルオロポリマー材料の手作業の容易さ、WO03/078516で金属トレイ及びマンドレル(mandrel)を必要とするのに対して、パーフルオロポリマー材料が堆積され、成形され、且つ、硬化する1つの単一基体(one single substrate)しか必要としないこと、WO03/078516では単一層しか許容されないのに対して、多重積層を基体上に容易に堆積できること、WO03/078516では2種の溶媒を必要とするのに対して、本発明の方法は1種のみの溶媒を用いることで実行できることを含む。さらに、本発明は、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)またはその他の適当な非一時的な(すなわち成形又は形成された)基体に、恒久的なアタッチメント(permanent attachment)を追加、または、積層(lamination)するのに加えて、直接の加熱を利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に従って製造されたパーフルオロエラストマー製品は、例えばインプラント(implants)、移植片(grafts)、挿入可能な医療機器(medical devices)、心臓人工血管(cardiovascular prostheses)、移植片、合成格子(synthetic lattices)(スキャフォルド(scaffold)内の人間又は動物の細胞成長のためのスキャフォルドとして機能するもの)を利用した再生医療製品(tissue engineered products)その他の構成要素等、医療目的での人間や動物の体への使用など、多くの異なった使用及び応用を有しうる。またこれらはOリングやガスケット又は同種のもの等のシーリング部材のための内部コア(internal cores)や外側シース(outer sheaths)へ応用することができる。
【0013】
このような医療用途で使用される従来の典型的なエラストマー又はプラスチックスは、特にポリウレタン(polyurethanes)、PTFE、延伸PTFE及びシリコーン(silicones)を含む。これら従来の材料は、例えば、シリコーンは許容できる多くの特性を持つものの、例えば、乏しい引裂強度(tear strength)や縫合引き抜き抵抗(suture pull-out resistance)が示すように、一般に十分な強さがなく、体内における関連する機械的特性が十分でないことを含む。
【0014】
ポリウレタンは、いくつかの応用のための優れた物理的特性を有する一方、重要な医療機器の致命的傷害(catastrophic failure)につながり得る劣化、典型的には加水分解劣化を示すことがある。延伸PTFEは、適合的で優れた生体適合性を有するが、十分な膨張性がなく、ヘルニア修復(hernia repair)又は心膜パッチ(pericardial patch)のようないくつかの応用には許容可能であるが、例えば血管における使用のような伸展性(distensibility)及びゴム状弾性(elastomeric properties)を必要とする多くの他の応用のためには理想的でない布のような特性(cloth-like properties)を有する。
【0015】
本明細書において使用される「パーフルオロエラストマー(perfluoroelastomer)」は、ここに定義されるパーフルオロエラストマー材料を硬化することにより生成された、いかなる硬化されたエラストマー材料であってもよく、硬化を引き起こす架橋基(crosslinking group)を有する硬化性のパーフルオロポリマーを含むものとする。パーフルオロエラストマーは、実質的に完全にフッ素化されており、好ましくはパーフルオロポリマーの主鎖(backbone)上の炭素原子に関しては完全にフッ素化されている。当然のことながら、この開示に基づけば、あるパーフルオロエラストマー材料中の官能性の架橋基における水素の使用のため、残った水素が架橋内のパーフルオロエラストマー中に存在していてもよい。パーフルオロエラストマーは、一般的に、架橋結合された高分子構造である。硬化してパーフルオロエラストマーを形成するためのパーフルオロエラストマー材料中で使用されるパーフルオロポリマーは、1種以上のパーフルオロ化されたモノマーを重合して生成され、そのモノマーの一つは硬化を可能にする官能基を有するパーフルオロ化されたキュアサイトモノマー(perfluorinated curesite monomer)であることが好ましい。1種以上のパーフルオロポリマー及び好ましくは少なくとも1種の硬化剤は、架橋結合されたエラストマー生成物又はパーフルオロエラストマーであるパーフルオロエラストマー材料中で混合される。
【0016】
本明細書において使用される「パーフルオロエラストマー材料(perfluoroelastomeric material)」又は「パーフルオロポリマー材料(perfluoropolymer material)」とは、少なくとも1種のパーフルオロ化された少なくとも1種の硬化を可能にする官能基を有するモノマーを含む1種以上のパーフルオロ化されたモノマーを重合することによって生成される硬化性のパーフルオロポリマー(curable perfluoropolymer)を含む高分子材料である。そのような材料は、American Standardized Testing Methods(ASTM)の定義にしたがって、FFKMsとして一般的に言及されている、または、本明細書に言及されている。
【0017】
本発明により使用され得るパーフルオロポリマー材料の具体例は、これらに限定されるものではないが、1種以上の様々なパーフルオロ化され、少なくとも1種のフッ素含有のエチレン性不飽和モノマーのコポリマーが含まれる。これは例えばテトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、及び、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVEs)である。これらには、直鎖又は分岐のアルキル基、及び、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)、パーフルオロアルコキシビニルエーテル及び他の類似化合物などのエーテル結合を含む。
【0018】
一般的に、使用されるパーフルオロポリマーは、TFEのターポリマー、PAVE、及び、ターポリマーの架橋を可能にする官能基を含む少なくとも1種のパーフルオロ化されたキュアサイトモノマーである。適当なキュアサイトモノマーとしては、数ある中でも、シアノキュアサイト、ブロモ(bromo)、ヨード(iodo)又はペンタフルオロフェノキシの官能基を有するものを含む。そのようなモノマーは、この技術分野で周知である。様々なパーフルオロエラストマー組成物に使用する硬化剤は、ビスフェノール及びそれらの誘導体、テトラフェニルすず(tetraphenyl tin)及び過酸化硬化システム(peroxide-based curing systems)を含む。加えて、パーフルオロポリマーは、放射線硬化技術を用いて硬化してもよい。そのような材料は、この技術分野で周知である。
【0019】
このような硬化されたパーフルオロポリマーは多数市販されている。好ましいパーフルオロポリマーは、ペンシルベニア州カルプスビレにあるグリーンツィード社(Greene, Tweed & Co., Inc. of Kulpsville, Pennsylvania)から市販されているケムラッツ(Chemraz、登録商標)部品で使われているものである。他の好ましいパーフルオロポリマーは、デラウェア州ウィルミントンのネモウアズにあるイー.アイ.デュポン(E. I. du Pont de Nemours of Wilmington, Delaware)から市販されている、パーフルオロエラストマーの硬化されたカルレッツ(Kalrez、登録商標)部品及び材料である。未硬化の市販のパーフルオロポリマーも知られており、ドイツ国フロイデンベルグ(Freudenberg of Germany)から入手可能なシムリッツ(Simriz、登録商標)、ミネソタ州にあるミネソタ・マイニング・アンド・マニュファクチャリング(Minnesota Mining & Manufacturing in Minnesota)から入手可能なダイニオン(Dyneon、登録商標)、日本国大阪府にあるダイキン工業(Daikin Industries, Ltd. of Osaka, Japan)から入手可能なダイエルパーフロ(Daiel-Perfluor、登録商標)を挙げることができる。類似の材料は、イタリア国にあるアウシモントS.p.A(Ausimont S. p. A. in Italy)から入手可能である。
【0020】
本発明において使用に供される好ましい溶媒は、未硬化のパーフルオロポリマー材料及び/又は硬化剤のみが溶解するものである。最も好ましくは、パーフルオロエラストマー材料内の未硬化のパーフルオロポリマーのみが、ポロゲン、フィラー、硬化剤及び他の添加剤を溶解することなしに溶解するものである。より好ましい溶媒は、単独で又は組み合わせて使用され得るもので、パーフルオロポリマーの溶解のために特別に設計された特殊溶媒、液体のパーフルオロ化された化合物のようなそれ自身がパーフルオロ化された材料の液体が挙げられる。そのような溶媒は電子産業にて知られている。適当な市販の溶媒は、ミネソタ州のセントポールにあるスリーエム(3M, St. Paul, Minnesota)から入手可能なフロリナート(Fluorinert、登録商標)、及び、英国のプレストンにあるエフツーケミカルズ(F2 Chemicals in Preston, UK)から入手可能なフルテック(FLUTEC、登録商標)という商標名のものが挙げられる。
【0021】
好ましいフロリナート(Fluorinert、登録商標)には、例えば、FC−87、FC−84、FC−75及びFC−43の商標が付されて販売されているものが含まれる。しかしながら、パーフルオロエラストマー材料中でパーフルオロポリマーが溶解可能で、ポロゲン、フィラー、硬化剤及び他の添加剤が溶解しない公知のいずれかの溶媒又は開発された溶媒であるパーフルオロ化された溶媒(perfluorinated solvents)が好ましく、本発明の範囲内のものとして使われ得ると理解されるべきである。
【0022】
本発明で、1種以上の溶媒を使用することも可能であるが、典型的には、溶媒は、1種のみ必要である。
【0023】
一般的には、溶液中の未硬化のパーフルオロポリマー材料の総量は、パーフルオロ化された溶媒の重量当たり約30%以下であり、より一般的には約2〜約15%の間である。1または1以上の硬化剤(curing agent or agents)は、パーフルオロポリマー材料の重量が100重量部当たり計約1〜約10重量部調合し、より好ましくは約1〜約5重量部調合する。
【0024】
パーフルオロポリマー材料及び硬化剤を溶液中に入れたら、選択的に1以上のポロゲン及びいずれの添加剤も溶液内に順不同で混合し、分散して混合物を生成する。溶液に取り込まれて混合物を形成することができるポロゲン及び添加剤については後述する。この添加剤は、パーフルオロポリマー材料中のパーフルオロポリマー100重量部当たり総量で約10〜約500重量部で存在することが好ましく、より好ましくは約150〜250重量部である。
【0025】
溶液中の成分の溶解及び/又は結合は、あらゆる適当な混合又はブレンド技術により完遂してもよい。1以上のポロゲン及び添加剤の分散に先んじて、そのエラストマーの早期硬化を避けるため、溶液は加熱しないか、加熱しても硬化温度以下の温度で加熱することが好ましい。
【0026】
一般的には、パーフルオロ溶媒を通じて未溶解のパーフルオロポリマー(perfluoropolymer)のゴム固体(gum solids)を動かす機械的撹拌システムは、実質的に又は完全にパーフルオロポリマーをパーフルオロポリマー材料中のパーフルオロ溶媒に溶解することによって溶液を確立し(establish)、徹底的に且つ均等にポロゲンを分散させるために使用する。マグネチックスターラ、マルチアキシスミキサー(multi-axis mixer)、ローラーテーブル又はボールミルのいずれかが使用可能である。ボールミル、破砕機(homogenizer)又は類似の装置は、混合溶液内のポロゲン又は他の微粒子の添加剤の凝集作用を避けることができる。そのような調合又は混合は、十分に混合されたパーフルオロポリマー材料の溶液において徹底的に硬化剤及びポロゲンが分散され、もし添加物があるなら、その添加物がよく分散されるまで実行されるべきである。
【0027】
本発明の組成物は、一般的には、1種以上のポロゲン、即ちパーフルオロポリマー中に細孔(pores)を形成する材料、または、多孔度を増やす作用をする材料を含んでもよい。本発明においてポロゲンとして作用する典型的な化合物には、塩化ナトリウム(sodium chloride)、サリチル酸(salicylic acid)、ラクトース(lactose)、バリン(valine)、重炭酸ナトリウム(sodium bicarbonate)、炭酸水素ナトリウム(sodium hydrogen carbonate)、炭酸カルシウム(calcium carbonate)、グリシン(glycine)、ポリエチレンオキサイド(polyethylene oxide)、ポリエチレングリコール(PEG)(polyethylene glycol)、ポリビニルピロリドン(polyvinylpyrrolidone)、微粒子のポリマー(例えば、ポリ塩化ビニル)及び/又は二酸化チタン(titanium dioxide)から選択される1種以上の化合物などがあるが、これらに限定されない。
【0028】
一般的には、ポロゲンは、硬化された材料中に形成されたオープンセル(open cells)のサイズが均一になるように相対的に狭い粒度分布をもつ。もし、この材料が最初にこの分類に該当していない場合は、この材料を微粒子化、又は、さもなければボールミル及びふるい又は類似の装置を使用して、この分布に該当するようにしてもよい。しかしながら、当然のことながら、そのような均一性が所望されない場合には、孔形成材料(pore forming material)の粒子径の均一性は、必要ではない。本発明の好ましい具体例においては、オープンセル多孔性のパーフルオロポリマーは、約1〜約150ミクロンの平均孔径を有するものが形成される。ある応用における使用のために、この孔形成剤(pore forming agent)は、微粒子の平均径が0ミクロンより大きく10ミクロン未満で、中間サイズで約10〜約50ミクロン、大きいサイズのものが50ミクロンを超えるものが利用可能である。中間サイズは、例えば心血管の人工装具の使用において、好ましい範囲である。
ポロゲンの一般的な量は、パーフルオロポリマー材料中のパーフルオロポリマー100重量部当たり約10重量部〜約500重量部であり、より好ましくは約50重量部〜約300重量部である。高いポロゲンの充填量(loadings)は、母材高度に多孔質な母材(porous matrix)を形成するために好ましく、例えば、多孔性レベル(密度減少)が約85%以上を実現する上で、パーフルオロポリマー材料中のパーフルオロポリマー100部当たり50部〜500部又はそれ以上のポロゲンの充填量とすることができる。高い多孔性レベル(低い密度)は、所望に応じて、高い充填量により実現することができる。ポロゲンの密度、粒径及び量のすべては、セルラー材料(cellular materials)の基本的特性に寄与し、例えば、ポロゲンの密度は、所定のポロゲンの量のために占められる空間容積の変化に対応して多孔度に影響を与えることができる。材料の密度が高くなるほど、ポロゲンの量が同じであれば、孔の体積は小さくなる。さらに、ポロゲンの粒径は、孔の径及び/又は孔の表面積を変更させることが可能である。
【0029】
さらに後続するステップにおいて、所望に応じて、硬化した材料からポロゲンを除去することができる。
【0030】
本明細書において、医療への応用に関して、「機器(device)」とは、最も広い意味を有し、限定なく、すべてのタイプの医療機器、部品(parts)、構成要素(components)、人工血管(vascular protheses)、移植片(grafts)、インプラント、再生医療製品が挙げられ、再生医療製品は、スキャフォルド(scaffold)、合成椎間板(synthetic spinal disk)、人工乳房(breast prostheses)及び他のいかなる機器の形成に当たって使用するための合成格子(synthetic lattices)を利用したものを挙げることができ、他のいかなる機器は、軟組織(soft tissue)、チューブ(tubes)、カテーテル(catheters)、ステント(stents)、排液管(drainage tubes)、合成硬膜(synthetic dura mater)、心膜パッチ(pericardial patches)、カニューレ(cannulae)、フィステル(fistulas)、ポーツ(ports)及びこれらに類似のものに置き換わることができるものである。
【0031】
所望に応じて、本発明のプロセスの一部として、1種以上の硬化剤を添加してもよい。
【0032】
本発明によれば、パーフルオロポリマーを硬化する工程のステップ(v)は、パーフルオロポリマーがまだ基体上にあるとき、又は、パーフルオロポリマーが基体上にないときのいずれかのときに択一的に実行され得る。その硬化ステップに先立って、基体からパーフルオロポリマーを取り除いて、別々に硬化してもよい。
【0033】
上述のとおり、パーフルオロポリマー材料は、さらに、パーフルオロエラストマー化合物(perfluoroelastomeric compounds)の添加に適した他の機能材料を含んでもよい。これらは、グラファイト(graphite)、カーボンブラック(carbon black)、カーボンナノチューブ(carbon nanotubes)、粘土(clay)、二酸化ケイ素(silicon dioxide)、高分子グラファイト(polymeric graphite)、フルオロポリマー微粒子(fluoropolymeric particulates)(例えば、TFEホモポリマー及びコポリマーのマイクロパウダー)、硫酸バリウム(barium sulfate)、シリカ(silica)、二酸化チタン(titanium dioxide)、塩化銀(silver chloride)、磁鉄鉱(magnetite)、電気的な及び/又は磁気的な透過性を示す材料で、且つ、熱伝導性のある材料(例えばヘマタイト)、及び/又は、ヒドロキシアパタイト(hydroxyapatite)のような1種以上のフィラーが挙げられるが、これらに限定されない。フィラーは、パーフルオロポリマー(perfluoropolymer)の所望の応用に適するようにいかなる形状をもとることができるが、一般的には微粒子型(particulate form)である。
【0034】
「機能性添加物(functional additive)」の用語は、本明細書において特異的機能を果たすプロセスに追加される材料を意味する。そのような添加物の例としては、相互作用剤(co-agents)、加工助剤(processing aids)、硬化剤(curatives)及び/又は可塑剤(plasticizers)、又は、公知の他の添加物若しくはパーフルオロエラストマーの技術において開発された添加物が挙げられるがこれに限定されず、加工助剤は、例えば、酸受容体(acid acceptors)、硬化促進剤(cure accelerators)、ガラス繊維(glass fiber)又はケヴラー(Kevlar、登録商標)のようなポリアラミド繊維(polyaramid fibers)が挙げられる。現在のパーフルオロポリマー材料において有益な可塑剤(plasticizer)の例としては、デュポン社(du Pont)から市販されているクライトックス(Krytox、登録商標)のようなパーフルオロ化されたアルキルエーテル(perfluorinated alkyl ether)、ダイキン社(Daikin)から市販されているパーフルオロポリエーテルオイル(perfluoropolyether oil)、及び、他のパーフルオロポリエーテルオイル(perfluoropolyether oil)としてイタリア国のアウシモント社(Ausimont in Italy)から市販されているフォンブリン(Fomblin、登録商標)が挙げられ、最も好ましくはデムナム(Demnum、登録商標)S−100である。
【0035】
一般的に、あらゆる添加物は、混合物中において、パーフルオロポリマー材料中のパーフルオロポリマーの重量に基づいて約25重量%ほどの量が存在している。
【0036】
本発明のプロセスで使われる基体は、適当な材料であれば何でもよく、多孔性又は非多孔性のいずれであっても、又は、耐久性があるものであっても、捨てるもの(sacrificial)であってもよい。例えば、基体は、金属性のマンドレル(mandrel)、非金属性のマンドレル(mandrel)、金属性のインプラント(implant)又は非金属性のインプラント(implant)であってもよい。基体にとって適当な材料は、スチール(steel)、ステンレス鋼(stainless steel)、ガラス(glass)、PTFE又はePTFEが挙げられるが、これらに限定されない。基体が多孔性かどうかは、製品が使用される用途に依存する。
【0037】
1以上の堆積層を形成するために、ステップ(iii)において、ステップ(i)及び(ii)から得られた混合物を基体へ塗布する際に使われ得る方法は数多くある。これらの方法は、圧送吹き付け(Pneumatic spraying)、静電的に絞られた圧送吹き付け(Electrostatically focussed pneumatic spraying)、エレクトロスプレー(Electrospraying)、超音波噴霧(Ultrasonic spraying)、注射(Syringing)、静電紡糸(Electrostatic spinning)、インクジェット印刷(Inkjet printing)、浸漬塗布(Dip coating)、磨き/ペイント(Brushed/painted)、溶液又は液体混合物を塗るために使用し得るその他の処理方法が挙げられるが、これらのものに限定されない。
【0038】
一般的に、混合物を基体に塗布するのに使われる方法は、スプレー技術(spraying technique)であり、最も典型的なものは圧送吹き付け(Pneumatic spraying)である。
【0039】
所望に応じて、多くの層が基体に堆積されてもよい。一般的には、複数の層が設けられる。基体に堆積した各層の厚さは、典型的には、約10ミクロン未満である。コーティングの厚い層は、多重の堆積により構成され得る。多重堆積の各連続層の組成は、所望により異なるパーフルオロポリマー混合物であってもよいことに留意すべきである。
【0040】
ステップ(iv)において、基体又は1以上の堆積層にエネルギーを与え、1以上の堆積層の温度をステップ(i)における1種以上のパーフルオロ溶媒が蒸発し、少なくとも部分的に1以上の堆積層を脱溶媒するのに十分な温度まで上げることで、溶媒は、1以上の堆積層から少なくとも部分的に除去される。エネルギーは、一般的には、直接的な加熱装置(directional heating)を使用して供給される。このことは、加熱装置がパーフルオロポリマー材料上において泡の形成を防止し又は最小限にするために、またその他の好ましくない欠陥の形成を防止し又は最小限にするために、一方の面が他方の面より熱くなるようにすることを意味する。基体又は1以上の堆積層から溶媒を除去するために、ステップ(i)における1種以上のパーフルオロ溶媒の最も高い沸点を超えた温度まで上げるのに十分なエネルギーの適用は必要ではなく、このレベル未満の温度でも効果的に溶媒が除去されるだろうが、一般的には、基体又は1以上の堆積層の温度が、ステップ(i)における1種以上のパーフルオロ溶媒の最も高い沸点を超えた温度まで上がることは理解されるだろう。さらに、所望により、必要なだけ加熱ステップ(iv)を繰り返してもよい。
【0041】
パーフルオロエラストマー材料が硬化されているとき、これらの材料の硬化プロセスにおいて使われるパーフルオロポリマーの架橋結合のための3つの実証されたメカニズムがある。
【0042】
ブロックド・ジアミン(blocked diamine)を使用するジアミン架橋結合。塩基性媒体(basic media)の存在下で、フッ化ビニリデン(vinylidene fluoride)のようなモノマーは、ジアミンのポリマー鎖への付加を可能にする脱フッ化水素(dehydrofluorination)に弱い。一般的に、酸化マグネシウム(magnesium oxide)は、結果として生じたフッ化水素酸(hydrofluoric acid)を捕捉するために使用されて、フッ化マグネシウム(magnesium fluoride)及び水が生成される。ジアミン硬化(Diamine curing)は、他の架橋結合のメカニズムと比較して、優れたゴムと金属の結合特性(rubber-to-metal bonding properties)を示す。
【0043】
イオン架橋結合(ジヒドロキシ架橋結合)。イオン架橋結合は、ジアミン硬化(diamine curing)に比べて、優れた熱抵抗(heat resistance)、改善された加水分解安定性(hydrolytic stability)、及び、優れた圧縮永久歪み(compression set)を示す。ジアミン硬化(diamine curing)と対比して、イオンメカニズム(ionic mechanism)は、付加機構(addition mechanism)ではなく、芳香族求核置換機構(aromatic nucleophilic substitution mechanism)である。ジヒドロキシ芳香族化合物(Dihydroxy aromatic compounds)が架橋剤として使用され、また一般的に4価のホスホニウム塩(quaternary phosphonium salts)が硬化プロセスを促進するために使われる。
【0044】
フリーラジカルメカニズム(free radical mechanism)を経て進む過酸化物架橋。過酸化物架橋は、水及び非水電解質においてしばしば選択されるシステムである。
【0045】
一般的に、基体は、ステップ(i)及び(ii)由来の混合物が基体に堆積している間、加熱されている。多重積層が基体上に堆積される場合、次の層が堆積される前に、各層からパーフルオロ溶媒が実質的に取り除かれることが望ましい。好ましくは熱の使用を避けるため、常温における蒸発が使われる。半溶融マトリックス(semi-solid matrix)がこの溶媒除去ステップにより形成され、マトリックス(matrix)が硬化した後、ポロゲンを固体マトリックス(solid matrix)から除去してもよい。このステップは、液体又は気体の媒体(vehicle)を用いることによって達成することができる。この媒体は、パーフルオロポリマー材料中のパーフルオロポリマーに対して不活性である一方、マトリックスからポロゲンを取り除くために、ポロゲンと反応、溶解及び/又はイオン結合することが可能である。最も好ましくは、ポロゲンは、水又はブレンステッド酸(Bronsted acid)のような希酸により洗浄することによって、固体マトリックスから取り除かれる。ブレンステッド酸としては、塩化水素酸、硝酸若しくは硫酸、又は従来よりあるアルコールが含まれる。かなり固く硬化した固体のマトリックス(solid cured matrix)は、ポロゲンが除去されると、自然に固さが減じ、より一層柔らかく、可撓性があり、弾性的になる。一般的には、パーフルオロポリマー材料は、特定のパーフルオロポリマー材料及び硬化システムのための好ましい温度又は他の硬化条件を用いて硬化してもよい。硬化は、所望により、そのような組成物のために、選択的に後硬化ステップ(post curing steps)が含まれていてもよい。硬化及び続くポロゲン除去の後に、多数のオープンセルを有する多孔質のパーフルオロポリマーが形成される。
【0046】
材料は、成形、移送成形(transfer molded)、圧縮成形(compression molded)、押し出し(extruded)等を施されて、硬化され、それからポロゲン除去の処理を受ける。ポロゲンを実質的に取り除き、より好ましくは完全に取り除くことができるのであれば、様々な抽出技術が使用されうる。当然のことながら、材料の成形、硬化、モールディング及び/又は抽出のための順序と特定のステップは、パーフルオロポリマー材料が硬化され、且つ、ポロゲンがパーフルオロポリマー材料から抽出される限りにおいて、変更してもよい。
【0047】
パーフルオロポリマー材料は、硬化ステップ(v)が実行される前であっても、堅固な構造安定性(structural integrity)を有する。
【0048】
パーフルオロポリマー材料の硬化温度は、硬化システムはもちろん、使用される組成物のタイプによって変化する。硬化条件は、異なるエラストマーシステムによって変わり、そのようなパーフルオロポリマー材料は、約280°F(138℃)より高い温度で硬化を開始することは、当業者の理解するところであろう。より高い温度が供給される場合には、より迅速な硬化時間が実現されるが、過剰に高い硬化温度を用いて基体の熱劣化を生じさせないように留意しなければならない。
【0049】
加えられる熱は、熱金型(heated molds)、硬化炉(curing oven)、輻射エネルギー等、発熱反応又は他の熱交換システムから生成された熱などの様々な熱源を利用して加えることができる。好ましくは、用語「加熱(heating)は、本明細書においてはあらゆる熱の応用、輻射エネルギー又は理想的には速い速度で溶媒を除去可能及び/又はパーフルオロポリマー材料を硬化するその他のエネルギー形態(form of energy)である。しかしながら、一般的には、基体は、誘導加熱(inductive heating)、対流加熱(convective heating)または伝導加熱(conductive heating)のいずれかを使用して加熱される。対流加熱は堆積層から溶媒の蒸発を誘発するホットゾーン(hot zone)を使用する。伝導加熱では、基体が伝導方式で加熱されて、より熱い領域が生成される。あるいは放射加熱(radiative heating)を介して、又はこれらの加熱方法の2つ以上の組み合わせを介して加熱される。伝導加熱(inductive heating)は、非接触であることが望ましく、医療機器を製造する際には、より好ましい。
【0050】
本発明の別の態様によれば、上記した方法により製造されるパーフルオロエラストマー製品が提供される。
【0051】
本発明の別の態様によれば、上記した方法により製造される、医療機器におけるパーフルオロエラストマー製品の使用が提供され、医療機器の用途として、例えば、インプラント、移植片、挿入可能な医療機器、心臓人工血管、移植片、合成格子(スキャフォルド内の人間又は動物の細胞成長のためのスキャフォルドとして機能するもの)を利用した再生医療製品、縫合(sutures)、シーリング部材、燃料電池部材、又は、整形外科インプラント上のコーティングが挙げられる。
【0052】
当業者により本発明の範囲内において上記した具体的形態について変更が可能であることは言うまでもない。よって本発明は、開示された特有の具体的形態に限定されず、添付の特許請求の範囲に定義されるように本発明の範囲内における変更を対象にしていることを意図している。