特許第6425760号(P6425760)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6425760ポリアミドイミド溶液、多孔質ポリアミドイミドフィルム、およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6425760
(24)【登録日】2018年11月2日
(45)【発行日】2018年11月21日
(54)【発明の名称】ポリアミドイミド溶液、多孔質ポリアミドイミドフィルム、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/28 20060101AFI20181112BHJP
【FI】
   C08J9/28CFG
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-81326(P2017-81326)
(22)【出願日】2017年4月17日
(62)【分割の表示】特願2015-557872(P2015-557872)の分割
【原出願日】2015年1月15日
(65)【公開番号】特開2017-122243(P2017-122243A)
(43)【公開日】2017年7月13日
【審査請求日】2017年8月1日
【審判番号】不服-5087(P-5087/J1)
【審判請求日】2018年4月12日
(31)【優先権主張番号】特願2014-6004(P2014-6004)
(32)【優先日】2014年1月16日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100103115
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 康廣
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 直史
(72)【発明者】
【氏名】柴田 健太
(72)【発明者】
【氏名】山田 宗紀
(72)【発明者】
【氏名】繁田 朗
(72)【発明者】
【氏名】細田 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】越後 良彰
【合議体】
【審判長】 大島 祥吾
【審判官】 渕野 留香
【審判官】 阪▲崎▼ 裕美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−269575(JP,A)
【文献】 特開2007−154029(JP,A)
【文献】 特開2001−266949(JP,A)
【文献】 特開2008−27766(JP,A)
【文献】 特開2004−256750(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J9/28
C08G73/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
含窒素極性溶媒とエーテル系溶媒とを含有する均一なポリアミドイミド溶液であって、
前記エーテル系溶媒が、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、およびトリエチレングリコールからなる群から選択される単独または2種以上の溶媒であり、
前記含窒素極性溶媒が、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素およびジメチルエチレン尿素からなる群から選択される単独または2種以上の溶媒であり、
前記エーテル系溶媒が前記含窒素極性溶媒の沸点よりも5℃以上高い沸点を有し、
前記ポリアミドイミドのジアミン成分が、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、m−フェニレンジアミンおよび4,4′−ジフェニルメタンジアミンからなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記エーテル系溶媒の含有量が、ポリアミドイミド溶液質量に対し50質量%超であり、
前記ポリアミドイミドの固形分濃度が、ポリアミドイミド溶液質量に対し25質量%以下であり、
前記ポリアミドイミドが、前記含窒素極性溶媒および前記エーテル系溶媒からなる溶媒に溶解した均一溶液であることを特徴とする多孔質ポリアミドイミドフィルム形成用ポリアミドイミド溶液。
【請求項2】
前記多孔質ポリアミドイミドフィルムが60〜85体積%の気孔率を有する、請求項1に記載の多孔質ポリアミドイミドフィルム形成用ポリアミドイミド溶液。
【請求項3】
前記多孔質ポリアミドイミドフィルムがリチウム二次電池用セパレータとして使用される、請求項1〜のいずれかに記載の多孔質ポリアミドイミドフィルム形成用ポリアミドイミド溶液。
【請求項4】
固体状のポリアミドイミドを、含窒素極性溶媒およびエーテル系溶媒を含む混合溶媒に溶解させることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の多孔質ポリアミドイミドフィルム形成用ポリアミドイミド溶液の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜のいずれかに記載の多孔質ポリアミドイミドフィルム形成用ポリアミドイミド溶液を基材上に塗布後、200℃以下の温度で乾燥することにより相分離現象を誘起せしめ多孔質化することを特徴とする多孔質ポリアミドイミドフィルムの製造方法。
【請求項6】
基材がポリエステルフィルムであることを特徴とする請求項に記載の多孔質ポリアミドイミドフィルムの製造方法。
【請求項7】
前記多孔質ポリアミドイミドフィルムが60〜85体積%の気孔率を有する、請求項またはに記載の多孔質ポリアミドイミドフィルムの製造方法。
【請求項8】
請求項のいずれかに記載の方法によって製造された多孔質ポリアミドイミドフィルムのリチウム二次電池用セパレータへの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミドイミド溶液およびその製造方法、ならびにこのポリアミドイミド溶液から得られる多孔質ポリアミドイミドフィルムおよびその製造方法に関するものである(以下、ポリアミドイミドを「PAI」と略記することがある)。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド系の多孔質フィルムは、その優れた耐熱性と高い気孔率を利用して、電子材料や光学材料、リチウム二次電池用セパレータ、フィルタ、分離膜、電線被覆等の産業用材料、医療材料の素材等の分野で利用されている。ポリイミド系の多孔質フィルムの中で、ポリイミド前駆体(ポリアミック酸)を利用する熱硬化型のポリイミド(PI)については、この多孔質フィルムを製造する方法として、アミド系溶媒とエーテル系溶媒とを溶媒として含有するPI前駆体溶液を、300℃以上の耐熱性を有する基材上に塗布後、乾燥することによって、相分離現象を誘起せしめた後、300℃程度の高温で熱硬化して多孔質PIフィルムを得る方法(以下、この方法を「乾式多孔化プロセス」と略記することがある)が提案されている(特許文献1)。この方法は、多孔質PIフィルムを製造する際に、基材上に形成された塗膜を、貧溶媒を含む凝固液に浸漬し、多孔質化を図る湿式多孔化プロセスとは異なり、多孔質化のための凝固浴を用いる必要がない。そのため、多孔質PIフィルム製造の際、凝固浴から廃液が発生しないので、乾式多孔化プロセスは環境適合性の良好な優れた方法である。ただ、熱硬化型の多孔質ポリイミドフィルムを製造するには、熱硬化の際、基材上に形成されたPI前駆体塗膜の収縮がおこり、そのため、場合によっては、その適用範囲が限定されることがあった。
【0003】
そこで、前記したような塗膜製造の際に収縮が発生しないPAIを用いて多孔質フィルムや被膜を製造する方法が提案されている。例えば、特許文献2〜4には、アミド系溶媒とエーテル系溶媒とを溶媒として含有するPAI溶液を、銅線やアルミ条等の基材上に塗布後、500℃程度の高温で熱処理することによって、多孔質PAI被膜やフィルムを得る方法が提案されている。これらの方法は、高温での溶媒の分解と揮発に起因する発泡現象を利用して多孔質PAI被膜を得ようとするものであった。またPAI溶液はエーテル系溶媒の含有量が極めて少ないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4947989号公報
【特許文献2】特開2013−187029号公報
【特許文献3】特開2013−210493号公報
【特許文献4】国際公開2013/133333号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、公知のPAI溶液を、低温での多孔質化が容易な相分離現象を利用した乾式多孔化プロセスに適用した場合には、気孔率が低く、かつ独立気孔が多いため透過性の低いフィルムしか得られなかった。また、フィルム表面に気孔を形成させることは困難であった。従い、高い透過性が要求されるリチウム二次電池用セパレータやフィルタ等の用途に利用することは困難であった。さらに、発泡現象を利用して多孔質PAI被膜を基材から剥離して得られる多孔質PAIフィルムは、気孔の均一性に劣り、力学的強度が低いものであった。
【0006】
そこで本発明は、前記課題を解決するものであって、乾式多孔化プロセスへの適応が可能であり、耐熱性に優れ、かつ気孔率が高く、透過性に優れた多孔質PAIフィルムが得られるPAI溶液およびその製造方法、ならびにこの溶液から得られる多孔質PAIフィルム、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、PAI溶液を特定の組成、特に特定の溶媒含有量、とすることにより前記課題が解決されることを見出し、本発明の完成に至った。
【0008】
本発明は下記を趣旨とするものである。
<1> 含窒素極性溶媒およびエーテル系溶媒を含有するPAI溶液であって、
前記PAIの固形分濃度が、PAI溶液質量に対し25質量%以下であり、
前記含窒素極性溶媒の含有量が、PAI溶液質量に対し15質量%以上であり、
前記エーテル系溶媒の含有量が、PAI溶液質量に対し30質量%超であることを特徴とするPAI溶液。
<2> 固体状のPAIを、含窒素極性溶媒およびエーテル系溶媒を含む混合溶媒に溶解させることを特徴とする<1>に記載のPAI溶液の製造方法。
<3> <1>に記載のPAI溶液を基材上に塗布後、200℃以下の温度で乾燥することにより相分離現象を誘起せしめ多孔質化することを特徴とする多孔質PAIフィルムの製造方法。
<4> 基材がポリエステルフィルムであることを特徴とする<3>に記載の多孔質PAIフィルムの製造方法。
<5> <3>または<4>に記載の方法によって製造された多孔質PAIフィルム。
【発明の効果】
【0009】
本発明のPAI溶液から、低温での簡単なプロセスで容易に多孔質PAIフィルムを得ることができる。得られた多孔質PAIフィルムは、耐熱性に優れ、気孔率が高く、透過性に優れ、かつ気孔の優れた均一性に基づく良好な力学的特性を有するので、電子材料や光学材料、リチウム二次電池用セパレータ、フィルタ、分離膜、電線被覆等の産業用材料、医療材料の素材等の分野で好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の多孔質PAIフィルム断面のSEM像である。
図2図1の多孔質PAIフィルム断面の拡大SEM像である。
図3】本発明の多孔質PAIフィルム表面のSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明はPAI溶液およびその製造方法、このPAI溶液から得られる多孔質PAIフィルム、およびその製造方法に関するものである。
【0012】
[PAI溶液]
PAIは、主鎖にイミド結合とアミド結合の両方を有する耐熱性高分子であり、例えば、原料であるトリカルボン酸成分とジアミン成分との重縮合反応を行うことにより得ることができる。
【0013】
PAIのトリカルボン酸成分は、1分子あたり3個のカルボキシル基(その誘導体を含む)および1個以上の芳香環または脂肪族環を有する有機化合物であって、当該3個のカルボキシル基のうち、少なくとも2個のカルボキシル基が共に酸無水物形態を形成し得る位置に配置されたものである。トリカルボン酸成分は芳香族トリカルボン酸成分および脂環族トリカルボン酸成分を包含する概念で用いるものとする。
【0014】
芳香族トリカルボン酸成分として、例えば、ベンゼントリカルボン酸成分、ナフタレントリカルボン酸成分が挙げられる。
【0015】
ベンゼントリカルボン酸成分の具体例として、例えば、トリメリット酸、ヘミメリット酸、ならびにこれらの無水物およびそのモノクロライドが挙げられる。
【0016】
ナフタレントリカルボン酸成分の具体例として、例えば、1,2,3‐ナフタレントリカルボン酸、1,6,7−ナフタレントリカルボン酸、1,4,5−ナフタレントリカルボン酸、ならびにこれらの無水物およびそのモノクロライドが挙げられる。
【0017】
脂環族トリカルボン酸成分の具体例として、例えば、1,2,4−シクロペンタントリカルボン酸、1,2,3−シクロヘキサントリカルボン酸、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、1,3,5−シクロヘキサントリカルボン酸、1,2,4−デカヒドロナフタレントリカルボン酸、1,2,5−デカヒドロナフタレントリカルボン酸ならびにこれらの無水物およびそのモノクロライドが挙げられる。
【0018】
トリカルボン酸成分の中では、芳香族トリカルボン酸成分が好ましい。
芳香族トリカルボン酸成分の中では、トリメリット酸および無水トリメリット酸クロライド(TAC)が好ましい。
【0019】
トリカルボン酸成分は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。トリカルボン酸成分は、その一部がピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、またはビフェニルテトラカルボン酸等の成分で置換されたものを用いてもよい。
【0020】
PAIのジアミン成分は、1分子あたり2個の1級アミノ基(その誘導体を含む)および1個以上の芳香環または脂肪族環を有する有機化合物である。ジアミン成分は芳香族ジアミン成分および脂環族ジアミン成分を包含する概念で用いるものとする。
【0021】
芳香族ジアミン成分の具体例として、例えば、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル(DADE)、m−フェニレンジアミン(MDA)、p−フェニレンジアミン、4,4′−ジフェニルメタンジアミン(DMA)、4,4′−ジフェニルエーテルジアミン、ジフェニルスルホン−4,4′−ジアミン、ジフェニルー4,4′−ジアミン、o−トリジン、2,4−トリレンジアミン、2,6−トリレンジアミン、キシリレンジアミン、ナフタレンジアミン、ならびにこれらのジイソシアネート誘導体が挙げられる。
【0022】
脂環族ジアミン成分の具体例として、例えば、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、ならびにこれらのジイソシアネート誘導体が挙げられる。
【0023】
ジアミン成分の中では、芳香族ジアミン成分が好ましい。
芳香族ジアミン成分の中では、DADE、MDAおよびDMAが好ましい。
【0024】
ジアミン成分は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
PAIは、通常、200℃以上のガラス転移温度を有する。ガラス転移温度は、DSC(示差熱分析)により測定された値を用いている。
【0026】
PAIの中でも、力学的特性や耐熱性に優れた芳香族PAIが好ましい。芳香族PAIとは、前記した芳香族トリカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分との重縮合反応を行うことにより得ることができるものである。芳香族PAIは、熱可塑性であっても非熱可塑性であってもよいが、前記したガラス転移温度を有する芳香族PAIを好ましく用いることができる。
【0027】
本発明においては、PAIを溶媒に溶解したPAI溶液から、後で詳述するように、200℃以下の温度により、溶媒を除去することにより、力学的特性の優れた耐熱性フィルムを、容易に得ることができる。PAIは、この点において、成形の際、その前駆体であるポリアミック酸をイミド化するために300℃程度の高温を必要とする熱硬化型ポリイミドとは異なるものである。
【0028】
本発明のPAI溶液は、含窒素極性溶媒およびエーテル系溶媒を含む混合溶媒を含有する溶液であって、前記PAIの固形分濃度が、PAI溶液質量に対し25質量%以下であり、前記含窒素極性溶媒の含有量が、PAI溶液質量に対し15質量%以上であり、かつ、前記エーテル系溶媒の含有量が、PAI溶液質量に対し30質量%超である。
【0029】
PAIの固形分濃度が高すぎると、均一な溶液を得ることができず、フィルム形成のための使用に耐えない。PAIの固形分濃度は、フィルムにおける気孔率のさらなる増大の観点から、PAI溶液質量に対し、20質量%以下とすることが好ましい。ただ、PAIの固形分濃度を必要以上に低下させると、生産性が低下するので、PAIの固形分濃度は、5質量%以上とすることが好ましい。
【0030】
含窒素極性溶媒の含有量が少なすぎると、均一なPAI溶液を得ることができない。均一なPAI溶液を得るためには、含窒素極性溶媒の含有量は、PAI溶液質量に対し17質量%以上であることが好ましい。本発明において、含窒素極性溶媒の含有量における上限値は特に限定されるものではないが、フィルムにおける気孔率のさらなる増大の観点から、PAI溶液質量に対し50質量%以下、特に30質量%以下であることが好ましい。
【0031】
エーテル系溶媒の含有量が少なすぎると、十分な気孔率を有するフィルムを得ることができない。エーテル系溶媒の含有量は、フィルムにおける気孔率のさらなる増大の観点から、PAI溶液質量に対し40質量%超であることが好ましく、50質量%超、特に60質量%以上とすることがより好ましい。本発明において、エーテル系溶媒の含有量における上限値は特に限定されるものではないが、フィルムにおける気孔率のさらなる増大の観点から、PAI溶液質量に対し80質量%以下、特に75質量%以下であることが好ましい。
【0032】
溶媒組成を前記のようにすることにより、PAI溶液から得られる塗膜を乾燥して固化させる際に、塗膜中に残存するエーテル系溶媒(貧溶媒)の作用により、200℃以下の温度で効率よく相分離が起こる。従い、高い気孔率を有するPAIフィルムを得ることができる。
【0033】
本発明で用いられる含窒素極性溶媒としては、アミド系溶媒や尿素系溶媒を用いることができる。アミド系溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP 沸点:202℃)、N,N−ジメチルホルムアミド(沸点:153℃)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc 沸点:166℃)が挙げられる。尿素系溶媒としては、例えば、テトラメチル尿素(TMU 沸点:177℃)、ジメチルエチレン尿素(沸点:220℃)が挙げられる。含窒素極性溶媒は、これらを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、NMPおよびDMAcが好ましく用いられ、NMPが特に好ましい。
【0034】
本発明で用いられるエーテル系溶媒としては、前記含窒素極性溶媒よりも沸点が高いものを用いることが好ましく、その沸点差は、5℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましく、50℃以上が更に好ましい。これらのエーテル系溶媒は単独では、PAIを溶解できない貧溶媒である。エーテル系溶媒としては、例えば、ジエチレングリコールジメチルエーテル(DEGM 沸点:162℃)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(TRGM 沸点:216℃)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGM 沸点:275℃)、ジエチレングリコール(DEG 沸点:244℃)、トリエチレングリコール(TEG 沸点:287℃)等の溶媒が挙げられる。これらを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、TRGMおよびTEGMが好ましく用いられ、TEGMが特に好ましい。
【0035】
混合溶媒は、必要に応じて、他の溶媒を、本発明の効果を損なわない範囲で含んでもよい。
【0036】
本発明のPAI溶液は、例えば、以下のような製造方法で製造することが好ましい。すなわち、固体状のPAIを前記混合溶媒に溶解せしめてPAI溶液とする。固体状のPAIとしては、例えば、市販のPAI粉体(例えば、ソルベイアドバンストポリマーズ株式会社製トーロン4000Tシリーズ、トーロン4000TF、トーロンAI−10シリーズ等)を利用することができる。固体状のPAIを用いることにより、本発明の組成としたPAI溶液を容易に得ることができる。
【0037】
本発明のPAI溶液を得るには、前記したような固体状のPAIを用いて製造する方法が好ましいが、原料である前記トリカルボン酸成分および前記ジアミン成分を略等モルで配合し、それを前記混合溶媒中で重合反応させて得られる溶液も用いることができる。また、含窒素極性溶媒中のみで重合反応して溶液を得た後、これにエーテル系溶媒を加える方法や、エーテル系溶媒中のみで重合反応して懸濁液を得た後、これに含窒素極性溶媒を加える方法で、PAI溶液を得ることもできるが、前記したような固体状のPAIを用いて製造する方法が好ましい。
【0038】
本発明のPAI溶液には、必要に応じて、各種界面活性剤や有機シランカップリング剤のような公知の添加物を、本発明の効果を損なわない範囲で添加してもよい。また、必要に応じて、PAI溶液に、PAI以外の他のポリマーを、本発明の効果を損なわない範囲で添加してもよい。
【0039】
[多孔質PAIフィルム]
本発明の多孔質PAIフィルムは、前記PAI溶液を用いて低温乾式多孔化プロセスにより製造することができる。すなわち、本発明の前記PAI溶液を、基材の表面に塗布し、80〜200℃、好ましくは100〜160℃で、10〜60分乾燥することにより、気孔率が40〜90体積%の多孔質PAIフィルムを形成することができる。その後、これらの基材から多孔質PAIフィルムを剥離して多孔質PAIフィルム単体とすることができる。また、基材上に形成された多孔質PAIフィルムは、基材から剥離することなく、基材と積層一体化して使用することもできる。なお、多孔質PAIフィルムは、耐熱性に優れるので、前記乾燥後、200℃以上の温度、例えば300℃程度で熱処理を行っても良い。
【0040】
前記基材としては、例えば、金属箔、金属線、ガラス板、熱可塑性樹脂フィルム(ポリエステル、ポリプロピレン、ポリカーボネート等融点または軟化点が300℃以下の熱可塑性樹脂フィルム)、ポリイミド等の熱硬化性樹脂フィルム、各種織物、各種不織布等が挙げられる。前記金属としては、金、銀、銅、白金、アルミニウム等を用いることができる。基材は、多孔質であっても非多孔質であってもよい。これらの中で、ポリエステルフィルムが好ましく、ポリエチレンテレフタレート(PET 融点:260℃)フィルムが特に好ましい。PETフィルムはコロナ放電処理等の表面処理が行われていても良い。これら基材への塗液の塗布方法としては、ディップコータ、バーコータ、スピンコータ、ダイコータ、スプレーコータ等を用い、連続式またはバッチ式で塗布することができる。
【0041】
前記製造方法により得られた多孔質PAIフィルムの気孔率は、40〜90体積%であることが好ましく、45〜85体積%であることがより好ましく、60〜85体積%であることがさらに好ましい。気孔率がこのように設定された多孔質PAIフィルムは、良好な力学的特性と透過性とが同時に確保されるので、リチウム二次電池用セパレータ、フィルタ等に利用することができる。多孔質PAIフィルムの気孔率は、多孔質PAIフィルムの見掛け密度と、多孔質PAIフィルムを構成するPAIの真密度(比重)とから算出される値である。詳細には、気孔率(体積%)は、多孔質PAIフィルムの見掛け密度がA(g/cm)、PAIの真密度がB(g/cm)の場合、次式により算出される。
【0042】
【数1】
【0043】
多孔質PAIフィルムの気孔の平均孔径は、0.1〜10μmが好ましく、0.5〜5μmがより好ましい。
【0044】
また、形成される気孔は、連続気孔であっても、独立気孔であってもよいが、連続気孔であることが好ましい。また、フィルム表面には気孔が形成されていることが好ましい。
【0045】
多孔質PAIフィルムの厚みは1〜300μmが好ましく、10〜100μmがより好ましい。
【0046】
前記プロセスにおいて、PAI溶液中の混合溶媒(含窒素極性溶媒とエーテル系溶媒)の種類や配合量を選ぶことにより、気孔率や気孔径を調整することができる。
【0047】
以上述べた如く、本発明のPAI溶液から容易に多孔質PAIフィルムが得られる。この多孔質PAIフィルム製造方法は、乾式多孔化プロセスに基づくので、気孔形成の際、貧溶媒を含む凝固浴からの廃液が発生しない。従い、環境適合性が良好であり、しかも、プロセスが極めて簡単である。得られた多孔質PAIフィルムは、高い気孔率と良好な力学的特性を有する。
【実施例】
【0048】
以下に、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。なお本発明は実施例により限定されるものではない。
【0049】
<実施例1>
TACと、DADEおよびMDAとを共重合(共重合モル比:DADE/MDA=7/3)して得られるPAI粉体(ソルベイアドバンストポリマーズ株式会社製トーロン4000T−HV、ガラス転移温度280℃)15gを、NMP25gとTEGM60gとからなる混合溶媒に、30℃で溶解して、PAIの固形分濃度が対PAI溶液比で15質量%であり、エーテル系溶媒の含有比率が対PAI溶液比で60質量%の均一なPAI溶液(A−1)を得た。
【0050】
この溶液を、表面がコロナ放電処理されたPETフィルム(ユニチカ社製:厚み100μm)上に塗布し、130℃で30分乾燥後、PETフィルムから塗膜を剥離することにより、厚みが50μmの多孔質PAIフィルムを得た。この多孔質PAIフィルムの気孔率の測定結果を表1に示す。また、この多孔質PAIフィルム断面および表面(PETフィルム接触面)のSEM像を図1図3に示す。断面全般にわたって、孔径2〜3μm程度の均一な連続気孔が形成され、表面にも気孔が形成されていることが判る。JIS−C−2151の規定に基づき、この多孔質PAIフィルムの力学的特性を評価した所、引張強度は14.1MPa、伸度は38.8%と良好な力学的特性を有していることが確認された。さらに、JIS−P8117の規定に基づき、この多孔質PAIフィルムのガーレ値を測定した所、1580秒であり、連続気孔に基づく良好な透過性を示すことが確認された。
【0051】
<実施例2〜8>
実施例1と同様にして、表1に示す組成で、PAI溶液(A−2〜A−8)を作成した。これらの溶液から、実施例1と同様の条件で多孔質PAIフィルムを得た。これらの多孔質PAIフィルムの気孔率測定結果を表1に示す。
【0052】
<実施例9>
PAI粉体として、TACと、DMAとを重合して得られるPAI粉体(ソルベイアドバンストポリマーズ株式会社製トーロンAI−10、ガラス転移温度272℃)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、PAI溶液(A−9)を作成した。この溶液から、実施例1と同様の条件で多孔質PAIフィルムを得た。この多孔質PAIフィルムの気孔率測定結果を表1に示す。
【0053】
<比較例1〜6>
実施例1と同様にして、表1に示す組成で、PAI溶液(B−1〜B−6)を作成した。これらの溶液から、実施例1と同様の条件で多孔質PAIフィルムを得た。これらの多孔質PAIフィルムの気孔率測定結果を表1に示す。
【0054】
<比較例7〜9>
表1に示した組成で、実施例1と同様にしてPAI溶液(B−7〜B−9)を作成しようとしたが、均一な溶液を得ることができなかった。
【0055】
<比較例10>
特開2013−187029(特許文献2)実施例1の記載に従って、PAI溶液(B−10)を作成した。すなわち、市販のPAI溶液(日立化成工業株式会社製:HI−406、PAI固形分:32質量%、溶媒:NMP、PAIのガラス転移温度:288℃)200gにTRGM51.2gを加えることにより、PAIの固形分濃度が対PAI溶液比で約25質量%であり、エーテル系溶媒の含有比率が対PAI溶液比で約21質量%の均一なPAI溶液(B−10)を得た。この溶液から、実施例1と同様の条件で多孔質PAIフィルムを得た。このPAIフィルムの気孔率測定結果を表1に示す。
【0056】
<比較例11>
特開2013−210493(特許文献3)実施例2の記載に従って、PAI溶液(B−10)を作成した。すなわち、市販のPAI溶液(日立化成工業株式会社製:HI−406、PAI固形分:32質量%、溶媒:NMP、PAIのガラス転移温度:288℃)200gに、NMP15g,TRGM10g、TEGM30gを加えることにより、PAIの固形分濃度が対PAI溶液比で約25質量%であり、エーテル系溶媒の含有比率が対PAI溶液比で約16質量%の均一なPAI溶液(B−11)を得た。この溶液から、実施例1と同様の条件で多孔質PAIフィルムを得た。このPAIフィルムの気孔率測定結果を表1に示す。
【0057】
実施例で示した様に、本発明のPAI溶液から得られた多孔質PAIフィルムの気孔率(40体積%以上)は高いものであり、二次電池セパレータやフィルタ等に好適に使用できるものであることが判る。これに対し、比較例で示したPAI溶液から得られた多孔質PAIフィルムの気孔率(40体積%未満)は低いものであり、二次電池セパレータやフィルタ等への適用は難しいことが判る。
【0058】
【表1】


【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のPAI溶液を用いて得られた多孔質PAIフィルムは、電子材料や光学材料、リチウム二次電池用セパレータ、フィルタ、分離膜、電線被覆等の産業用材料、医療材料の素材等の分野で有用である。
図1
図2
図3