特許第6425897号(P6425897)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6425897
(24)【登録日】2018年11月2日
(45)【発行日】2018年11月21日
(54)【発明の名称】プレート式熱交換器およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F28F 3/08 20060101AFI20181112BHJP
   F28F 3/04 20060101ALI20181112BHJP
   F28D 9/02 20060101ALI20181112BHJP
【FI】
   F28F3/08 311
   F28F3/04 Z
   F28D9/02
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-28900(P2014-28900)
(22)【出願日】2014年2月18日
(65)【公開番号】特開2015-152283(P2015-152283A)
(43)【公開日】2015年8月24日
【審査請求日】2017年1月18日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】714003416
【氏名又は名称】日新製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100182925
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 明弘
(72)【発明者】
【氏名】須釜 淳史
(72)【発明者】
【氏名】奥 学
(72)【発明者】
【氏名】堀 芳明
【審査官】 庭月野 恭
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−287575(JP,A)
【文献】 特開平04−093596(JP,A)
【文献】 特開平08−271175(JP,A)
【文献】 特開2000−111292(JP,A)
【文献】 実開平02−014587(JP,U)
【文献】 特表2012−533726(JP,A)
【文献】 特開2007−183071(JP,A)
【文献】 特開2013−204149(JP,A)
【文献】 特開2013−204150(JP,A)
【文献】 特開2013−103271(JP,A)
【文献】 特開2002−107090(JP,A)
【文献】 特開2000−193390(JP,A)
【文献】 実公昭48−039721(JP,Y1)
【文献】 米国特許第06182746(US,B1)
【文献】 特開昭54−067258(JP,A)
【文献】 特開2002−286391(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 3/00,3/04,3/08
F28D 1/03,9/00,9/02
B23K 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースを構成する矩形プレート型部品が、周縁のフランジ部に略直角に内曲げされた先端片を備えた箱型部品であり、当該箱型部品と同形の箱型部品が互いに水平面内で向きを反転させて交互に積層されており、積層上部品の前記先端片が積層下部品のフランジ近傍平坦部との当接部において固相拡散接合されてなる良好な接合強度を有するプレート式熱交換器であって、
積層された二つの箱型部品の間に、断面形状が三角形または台形または四角形で高さがフランジ高さと同じフィン部品が挿入され、積層上部品の前記先端片が積層下部品の前記フランジ近傍平坦部に当接させた際に、前記フィン部品の先端が箱型部品の上面平坦部に当接し、当該当接部で両者が固相拡散接合されて流路接合部が形成されているプレート式熱交換器。
【請求項2】
請求項1に記載のプレート式熱交換器の製造方法であって、化学成分が0.1Si+Ti+Al<0.15質量%、表面粗さRa≦0.3μmのフェライト単相系ステンレス鋼板またはオーステナイト系ステンレス鋼板を使用し、箱型部品の積層組立体を、加熱温度が1100℃以上1250℃以下、加圧力が0.3MPa以上0.9MPa以下、雰囲気圧力が1×10−2Pa以下の炉中で加熱して固相拡散接合することを特徴とするプレート式熱交換器の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のプレート式熱交換器の製造方法であって、化学成分が0.1Si+Ti+Al<0.15質量%のマルテンサイト系ステンレス鋼板を使用し、箱型部品の積層組立体を、表面粗さRa≦0.3μmの場合は加熱温度が1000℃以上1250℃以下、表面粗さ0.3μm<Ra≦0.4μmの場合は加熱温度が1100℃以上1250℃以下の条件とし、加圧力が0.3MPa以上0.9MPa以下、雰囲気圧力が1×10−2Pa以下の炉中で加熱して固相拡散接合することを特徴とするプレート式熱交換器の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載のプレート式熱交換器の製造方法であって、化学成分が0.1Si+Ti+Al<0.15質量%、表面粗さRa≦2.0μmの2相系ステンレス鋼板を使用し、箱型部品の積層組立体を、加熱温度が1000℃以上1250℃以下、加圧力が0.1MPa以上0.9MPa以下、雰囲気圧力が1×10−2Pa以下の炉中で加熱して固相拡散接合することを特徴とするプレート式熱交換器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数枚の伝熱プレートが積層されたプレート式熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
熱交換器としては種々のタイプのものが存在するが、プレート式熱交換器は熱交換性能が極めて高いために、電気給湯機や産業用機器、或いは自動車の空調装置等に使用されている。
プレート式熱交換器は、積層したプレートにより熱交換媒体の通路、つまり高温媒体と低温媒体の通路を隣接して構成し、これら高温媒体の通路と低温媒体の通路に流す温度差を有する媒体が熱の授受により相互に熱交換作用を行うように構成されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、流路となる波形状が付与されたプレートを積層させ、各種接合方法(ガスケットとネジによる締結、溶接、ろう付け)により接合することで高温流路と低温流路が交互に存在する構造を造り出している。
一方、熱交換器そのものの耐久性向上の観点から、素材金属板として耐食性に優れたステンレス鋼板が用いられるようになっている。そして、小中型の熱交換器については耐圧性を考慮し、ろう付けで接合されることが多くなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−85094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、波形状が付与されたプレートを積層してろう付けにより接合しようとすると、接合時に生じる溶損やろう部の割れ、耐食性の低下、溶融したろうによる流路埋没等、ろう材特有の接合不具合が発生する場合がある。また、ろう材の使用によるコストもかかる。
一方、接合部の耐食性低下を抑制する方法として、ろう付けに替えて固相拡散接合の適用が考えられる。固相拡散接合は高温圧力下で接合界面に生じる母材原子の相互拡散を利用した接合方法であり、接合部は母材なみの強度、耐食性を呈している。一方で、固相拡散による接合性は、接合面での加圧力や温度等が影響する。
【0006】
特に、素材金属板としてステンレス鋼板を用いる場合、ステンレス鋼の拡散接合には添加元素が強く影響し、易酸化元素であるAl、Ti、Siが多く含まれると接合界面表層に強固な酸化物または酸化皮膜を形成し接合を阻害することがある。
本発明は、このような問題点を解消するために案出されたものであり、プレート式熱交換器を構成するプレート型部品の端面および流路の接合を、ろう付けに替えて固相拡散接合で行うことにより、特に素材としてステンレス鋼板を用いたものであっても、気密性を確保したプレート式熱交換器を簡便に製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のプレート式熱交換器は、その目的を達成するため、熱交換器ケースを構成する矩形プレート型部品が、周縁のフランジ部に略直角に内曲げされた先端片を備えた箱型部品であり、当該箱型部品と同形の箱型部品が互いに水平面内で向きを反転させて交互に積層されており、積層上部品の前記先端片が積層下部品のフランジ近傍平坦部との当接部において固相拡散接合されて良好な接合強度を有することを特徴とする。当該箱型部品は、水平面内で略180°回転させて向きを反転させることが好ましい。固相拡散接合された当該当接部は、母材強度と同等の接合強度を有することが好ましい。
前記矩形プレート型部品は、対称位置に二種の開口が、一方は当該矩形プレート型部品の上方に開口し、他方は当該矩形プレート型部品の内方に開口した形で形成されたプレス成型品であることが好ましい。前記箱型部品は、所定のフランジ高さ(上面平坦部からフランジ部の下端までの高さをいう。)を有するが、前記二種の開口は、前記上方に開口した高さと前記内方に開口した高さの合計が当該フランジ高さと等しくなるように形成することが好ましく、例えば、両方の開口の高さがいずれも当該フランジ高さの1/2であることが好ましい。
【0008】
特に、互いに当接する前記先端片および前記フランジ近傍平坦部の少なくとも一部にビードが形成されており、積層上部品の前記先端片のビードが積層下部品の前記フランジ近傍平坦部のビードに嵌め合わされた状態で固相拡散接合されていることが好ましい。前記ビードは、前記先端辺および前記フランジ近傍平坦部の全周または一部分に、断面コの形状に形成されることが好ましい。
また、前記箱型部品の上面平坦部に、断面形状が三角形または台形または四角形で高さがフランジ高さと同じフィンが形成されており、積層上部品の先端片が積層下部品のフランジ近傍平坦部に当接させた際に、前記フィンの先端同士が当接し、当該当接部で両者が固相拡散接合されて形成された流路接合部が良好な接合強度を有することが好ましい。前記流路接合部は、さらに母材強度と同等の接合強度と有することが好ましい。
積層された二つの箱型部品の間に、断面形状が三角形または台形または四角形で高さがフランジ高さと同じフィン部品が挿入され、積層上部品の先端片が積層下部品のフランジ近傍平坦部に当接させた際に、前記フィン部品の先端が箱型部品の上面平坦部に当接し、当該当接部で両者が固相拡散接合されて流路接合部が形成されているものであってもよい。
【0009】
前記形状のプレート式熱交換器を、ステンレス鋼板を素材として製造する場合、化学成分が0.1Si+Ti+Al<0.15質量%、表面粗さRa≦0.3μmのフェライト単相系ステンレス鋼板またはオーステナイト系ステンレス鋼板を使用した箱型部品の積層組立体を、加熱温度が1100℃以上1250℃以下、加圧力が0.3MPa以上0.9MPa以下、1×10−2Pa以下の雰囲気の炉中で加熱して固相拡散接合することにより製造される。ここで1×10−2Pa以下は加熱温度に達したときの雰囲気圧力を示す。加熱中の炉中の雰囲気圧力がこの圧力以下まで低下した後であれば、このあと、炉中にAr、He、Nなどの不活性ガスを導入しても構わない。
化学成分が0.1Si+Ti+Al<0.15質量%、表面粗さRa≦0.4μmのマルテンサイト系ステンレス鋼板を使用し、Ra<0.3μmの場合は加熱温度が1000℃以上1250℃以下、0.3μm<Ra≦0.4μmの場合の加熱温度が1100℃以上1250℃以下、加圧力が0.3MPa以上0.9MPa以下、1×10−2Pa以下の雰囲気の炉中で加熱して固相拡散接合することにより製造される。ここで1×10−2Pa以下は加熱温度に達したときの雰囲気圧力を示す。加熱中の炉中の雰囲気圧力がこの圧力以下まで低下した後であれば、このあと、炉中にAr、He、Nなどの不活性ガスを導入しても構わない。
化学成分が0.1Si+Ti+Al<0.15質量%の2相系ステンレス鋼板を使用し、加熱温度が1000℃以上1250℃以下、加圧力が0.1MPa以上0.9MPa以下、1×10−2Pa以下の雰囲気の炉中で加熱する場合、表面粗さRa≦2.0μmの鋼板でも十分に固相拡散接合することができる。ここで1×10−2Pa以下は加熱温度に達したときの雰囲気圧力を示す。加熱中の炉中の雰囲気圧力がこの圧力以下まで低下した後であれば、このあと、炉中にAr、He、Nなどの不活性ガスを導入しても構わない。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、プレート式熱交換器を構成するプレート型部品の端面および流路の接合を、CuやNi等のろう材を用いることなく行えるために、ろう材の使用時に発生し易い溶損やろう部の割れ、耐食性の低下、溶融したろうによる流路埋没等の発生を抑制した接合を行うことができる。また、高価なCuやNi等のろう材を用いることなく接合できるため、コストダウンや軽量化が果たせる。
さらに、十分に固相拡散接合を行っているので、接合部は母材と同程度の接合強度を発現することが可能となる。
さらにまた、素材鋼板としてステンレス鋼板を使用することにより、耐久性に優れたプレート式熱交換器が低コストで提供できることになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】従来の積層型プレート式熱交換器の構造を説明する図である。
図2】従来の積層型プレート式熱交換器の流路構造を示す図である。
図3】本発明の積層型プレート式熱交換器の流路構造を示す図(その1)である。
図4】箱型部品の製造方法の一態様を説明する図である。
図5】本発明の積層型プレート式熱交換器の流路構造を示す図(その2)である。
図6】箱型部品に設けられた先端片にビードを形成する一態様を説明する図である。
図7】本発明において箱型部品の上面平坦部にフィンを設けた態様を説明する図である。
図8】本発明において積層された二つの箱型部品の間にフィン部品が挿入された態様を説明する図である。
図9】実施例で作製した熱交換器の各種部品形状・サイズを示す図である。
図10】実施例で固相拡散接合したときのヒートパターンを示す図である。
図11】実施例で固相拡散接合する際の加圧形態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
前記した通り、プレート式熱交換器は、積層したプレートにより熱交換媒体の通路、つまり高温媒体と低温媒体の通路を隣接して構成し、これら高温媒体の通路と低温媒体の通路に流す温度差を有する媒体が熱の授受により相互に熱交換作用を行うように構成されている。
簡便な構造としては、例えば図1、2に見られるように、同形状の箱型部品を複数製造し、この箱型部品に180°回転させた箱型部品を積み重ね、さらに箱型部品を積み重ねることを繰り返して、熱交換器を構築することが想定される。
【0013】
そして、上記積層体を熱交換器として機能させるためには、積層した箱型部品の周縁部および開口周縁部の当接部位において、上部品と下部品を気密接合する必要がある。
箱型部品として、鋼板にプレス加工を施し、フランジを僅かに下開きにするとともに、対称位置に二種の開口が、一方はフランジ高さの1/2より低い高さで当該矩形プレート型部品の上方に開口し、他方は同じくフランジ高さの1/2より低い高さで当該矩形プレート型部品の内方に開口した形で形成された部品を作製し、この箱型部品を底板の上に載置した後、この箱型部品上に同形の箱型部品を180°回転させて載置する操作を繰り返すと、図2に見られるような熱交換器構造が得られる。なお上側の箱型部品のフランジは下側の箱型部品のフランジにラップするように差し込まれる形態となっている。
【0014】
ここで、上部品と下部品を気密接合する必要があるが、両者を、ろう付けはなく、固相拡散接合しようとすると、上記のような積層構造では接合面への加重付与が困難となる。フランジの当接部位に上下方向から加重を掛けることは極めて難しくなる。
したがって、フランジ部の形状を工夫する必要がある。
そこで、本発明では、箱型部品周縁のフランジ部に、略直角に内曲げされた先端片を備えさせることにした。
【0015】
具体的には、図3(b)に示すように、周縁にフランジが設けられ、上面の対称位置に二種の開口が、一方は当該矩形プレートの上方に開口し、他方は当該矩形プレートの内方に開口した形で形成された箱型部品の、前記周縁のフランジ下端に略直角に内曲げされた先端片を備えさせることにした。
このような先端片を備えさせることにより、図3(a)に示すように、当該箱型部品と同形の箱型部品が互いに水平面内で向きを反転させて交互に積層されたとき、上に載った箱型部品の前記先端片が下側の箱型部品のフランジ近傍平坦部と面接触する形となる。このため上下方向からの加重が容易に掛けられ、加重がかけられた状態で高温下に曝すと当接部において固相拡散接合されることになる。(なお、下側の箱型部品における当該フランジ近傍平坦部は、フランジの上端から連続して当該箱型部品の上面に位置し、当該箱型部品における先端片と反対側に位置する平坦部を指す。)
上下二つの箱型部品の当接部で十分な固相拡散接合が行われれば、母材と同等の接合強度を呈することになる。
前記箱型部品は、図3(b)に示すように、前記矩形プレートの上面平坦部からフランジ下端までのフランジ高さを有しており、箱型部品の前記二種の開口は、いずれも当該箱型部品のフランジ高さの1/2の高さで形成してもよい。また、一方の開口を当該箱型部品の1/2のフランジ高さより低く、他方の開口を当該箱型部品のフランジ高さより高くしてもよい。
【0016】
ところで、図3(b)に示されるような箱型部品は、図4に示されるような金型を使ったプレス成形法により成形することができる。
すなわち、第一工程で一枚の鋼板にプレス加工を施して箱型製品を作り出す。なお、この工程で、熱交換媒体の流入口、排出口を開口しておいてもよい。続く第二工程で、周方向外側に伸びる周縁部を縦方向に伸ばした後、第三工程として、縦方向に伸ばした周縁部にカーリング加工を施して内方向に曲げる。その後の第四工程で、周方向に移動可能な内金型と上下金型の併用により、前記内方向に曲げた周縁部をフランジに対して略直角に内曲げするプレス加工を施すことにより成形される。
【0017】
前記上側箱型部品の先端片と下側箱型部品のフランジ近傍平坦部との当接部での強度をさらに高めるためには、当接箇所での接合強度をさらに高める必要がある。
このため、図5(b)に示すように、互いに当接する先端片およびフランジ近傍平坦部の全周または一部分に、断面コの字形状のビードを形成し、積層上部品の前記先端片のビードが積層下部品の前記フランジ近傍平坦部のビードに嵌め合わすようにすることが好ましい。
図5(a)に示すように、ビードが互いに嵌め合わされた状態で固相拡散接合されることにより、接合強度は格段に上昇することになる。
なお、図5(b)に示されるようなビードは、図6に示されるように、上面に凸条を有する下金型と下面に凹溝を有する上金型との間に被加工鋼板を挟んでプレス加工することにより成形することができる。
【0018】
ところで、熱交換器では、熱交換媒体の通路、つまり高温媒体と低温媒体の通路を隣接して構成し、通路に流す媒体が熱交換作用を行うように構成されている。このため、熱交換作用の効率を高めるためには、高温媒体と低温媒体の通路を分ける隔壁面を広くすることが有効である。
そこで、本発明では、箱型部品の上面平坦部に、断面形状が三角形または台形または四角形でフィンを設けることにした。
【0019】
具体的には、図7に示すように、断面形状が三角形または台形または四角形で高さがフランジ高さと同じフィンを、箱型部品の上面平坦部に当該箱型部品の内側方向に形成する。この上面平坦部にフィンを形成した箱型部品を積み重ねて積層上部品の先端片が積層下部品のフランジ近傍平坦部に当接させたとき、前記フィンの先端同士が当接することになる。
したがって、図7に示すような積層体を上下方向からの加重をかけた状態で高温下に保持すると、図中A、B、C及びDで固相拡散接合される他、図中Eのフィン先端の当接部で両者が固相拡散接合されて流路接合部が形成されることになる。
【0020】
箱型部品自体にフィンを設けるのではなく、積層した上下の箱型部品の間にフィン部品を挿入してもよい。
すなわち、図8に示すように、上面平坦部に変形加工を施していない箱型部品同士を積層したその内側空隙部にフィン部品1,2を挿入した後、上下方向から加重をかけた状態で高温下に保持する。この場合は、前記図7におけるA、B、C及びDの他に、図8中のFで示す、フィン部品の先端と箱型部品上面平坦部との当接部で固相拡散接合されることになる。
なお、図8に見られるように、フィン部品1,2は、側端部の形状が相違することになる。
【0021】
以上、本発明のプレート式熱交換器の構造について説明してきたが、課題の項中にも記載しているように、耐食性が必要な環境下で本発明のプレート式熱交換器に耐久性を持たせるには、素材鋼板としてステンレス鋼板を用いることが好ましい。
しかしながら、素材鋼板としてステンレス鋼板を用いる場合、ステンレス鋼の拡散接合には添加元素が強く影響し、易酸化元素であるAl、Ti、Siが多く含まれると接合界面表層に強固な酸化物または酸化皮膜を形成し接合を阻害することがある。
そこで、本発明のプレート式熱交換器を、ステンレス鋼板を素材として製造する際には、易酸化元素であるAl、Ti、Siの含有量を制限し、かつ素材ステンレス鋼板の表面性状や固相拡散接合時の加圧力と加熱温度を規定することにした。
【0022】
用いるステンレス鋼の基本組成に制限はない。JIS等で規定される一般的な組成を有するフェライト単相系ステンレス鋼板、オーステナイト系ステンレス鋼板、マルテンサイト系ステンレス鋼板あるいは2相系ステンレス鋼板を用いることができる。
易酸化元素であるAl、Ti、Siが多く含まれると接合界面表層に強固な酸化物または酸化皮膜を形成し、接合を阻害するので、その総量については制限する。詳細は実施例の記載に譲るが、0.1Si+Ti+Alが0.15質量%以上になると、接合品内部の酸化が進んだ状態となり、接合も不十分となる。
【0023】
用いるステンレス鋼板としては、質量%で、C:0.0001〜0.15%、Si:1.5%未満、Mn:0.001〜1.2%、P:0.001〜0.045%、S:0.0005〜0.03%、Ni:0〜0.6%、Cr:11.5〜32.0%、Cu:0〜1.0%、Mo:0〜2.5%、Al:0.15%未満、Ti:0〜0.15%、Nb:0〜1.0%、V:0〜0.5%、N:0〜0.025%、残部Feおよび不可避的不純物からなるフェライト単相系のものが好ましい。
【0024】
また、質量%で、C:0.0001〜0.15%、Si:1.5%未満、Mn:0.001〜2.5%、P:0.001〜0.045%、S:0.0005〜0.03%、Ni:6.0〜28.0%、Cr:15.0〜26.0%、Cu:0〜3.5%、Mo:0〜7.0%、Al:0.15%未満、Ti:0〜0.15%、Nb:0〜1.0%、V:0〜0.5%、N:0〜0.3%、残部Feおよび不可避的不純物からなるオーステナイト系のものであってもよい。
【0025】
さらに、質量%で、C:0.15〜1.5%、Si:1.5%未満、Mn:0.001〜1.0%、P:0.001〜0.045%、S:0.0005〜0.03%、Ni:0.05〜2.5%、Cr:13.0〜18.5%、Cu:0〜0.2%、Mo:0〜0.5%、Al:0.15%未満、Ti:0〜0.15%、Nb:0〜0.2%、V:0〜0.2%、B:0〜0.01%、N:0.005〜0.1%、残部Feおよび不可避的不純物からなるマルテンサイト系のものであってもよい。
【0026】
さらにまた、質量%で、C:0.0001〜0.15%、Si:0.001〜1.5%、Mn:0.001〜1.0%、P:0.001〜0.045%、S:0.0005〜0.03%、Ni:0.05〜6.0%、Cr:13.0〜25.0%、Cu:0〜0.2%、Mo:0〜4.0%、Al:0.15%未満、Ti:0〜0.15%、Nb:0〜0.2%、V:0〜0.2%、N:0.005〜0.2%、残部Feおよび不可避的不純物からなるフェライト+マルテンサイト2相系またはフェライト+オーステナイト2相系のものであってもよい。
以上述べたステンレス鋼は、製造性を確保するためにBを0〜0.01%、Ca、Mg、REMを1種以上で0〜0.1%添加することが可能である。
【0027】
また固相拡散接合では接合しようとする金属を互いに強く押し当てた状態で接合するため、その接合性には両者の表面粗さが影響することになる。
この表面粗さについても詳細は実施例の記載に譲るが、接合しようとする金属間の接触面圧にもよるが、1100℃の加熱温度で0.3MPaの加圧力により固相拡散接合する場合、比較的拡散接合し易い2相系ステンレス鋼板では表面粗さはRa≦2.0μmに、マルテンサイト系ステンレス鋼板ではRa≦0.4μmに、拡散接合し難い他のフェライト単相系ステンレス鋼板またはオーステナイト系ステンレス鋼板ではRa≦0.3μmにする必要がある。
【0028】
拡散接合に供する両ステンレス鋼板間に付加する加圧力は2相系ステンレス鋼では0.1MPa以上、フェライト単相系またはオーステナイト系またはマルテンサイト系ステンレス鋼板では0.3MPa以上とする。加圧力がこれらの値以下であれば、健全な接合界面を形成するためにより高温まで加熱が必要となり、後述するように製品として好ましくない。加圧力がこれらの値以上であれば比較的簡便な設備にて拡散接合が行える。
上下方向への加圧力の付与には金属製の錘を使用することが好ましい。錘には耐熱性に優れ、熱膨張が小さい耐熱フェライト系ステンレス鋼の使用が好ましい。加圧力は錘の荷重を上下接合面積で除すことで求める。
【0029】
加熱時に加圧力が大きいほど接合阻害要因となる接合表面の不動態皮膜や酸化皮膜を破壊し易くなり、鋼板表面の微視的な凹凸の接触面積(境界接触面積)が拡大し易くなるため、原子拡散範囲が拡大し拡散接合し易くなる。一方、加圧力拡大により錘が大きくなることで、重心不安定による荷崩れや、荷重不均一による形状不良が発生し易くなる。また錘の荷重が増大することで炉床または送りレールの許容荷重に占める錘の割合が大きくなるため搭載可能な製品量が制限され、量産性を著しく低下する。また、加圧力が過剰になると製品に変形が生じて外観を著しく損なう。そのため加圧力は製品外観を損なわない0.9MPa以下にすることが望ましい。
【0030】
拡散接合の加熱温度は2相系ステンレス鋼板、マルテンサイト系ステンレス鋼板では1000℃以上、フェライト単相系ステンレス鋼板またはオーステナイト系ステンレス鋼板では1100℃以上とする。これらの温度に満たないと十分に拡散接合できない。
一般的にステンレス鋼表層の固相拡散は900℃前後より始まる。とくに1100℃以上に加熱すると原子拡散が活発化するため短時間で拡散接合し易くなるが、1300℃以上に加熱すると高温強度が低下し、結晶粒も粗大化し易くなる。高温強度が低下すると接合部品は加熱中に著しい熱変形を生じ、製品外観を損ねる。また結晶粒が粗大化すると母材強度が低下し耐食性が劣化する。そのため極力低温度で拡散接合できる加熱温度を検討するに至った。その結果、上述した化学成分、表面粗さ、加圧力に従うとともに、接合時の加熱温度をフェライト単相系ステンレス鋼板またはオーステナイト系ステンレス鋼板では1100℃〜1250℃、2相系ステンレス鋼板またはマルテンサイト系ステンレス鋼板では1000℃〜1250℃、これらの異材接合においては1100℃〜1250℃の範囲とすればよいことを知見した。
【0031】
ステンレス鋼板同士の拡散接合は、真空引きにより圧力を1×10−2Pa以下とした雰囲気中で被接合部材を加熱保持することによって行うことができる。1×10−2Paを超える雰囲気下では十分に拡散接合できない。
雰囲気圧力が1×10−2Paより高いと(>1×10−2Pa)、ステンレス鋼中に内包する酸素が残存し、加熱時に接合面表層に酸化皮膜が生成することで接合性を著しく阻害する。雰囲気圧力を1×10−2Paより高く、すなわち雰囲気圧力を1×10−2Pa以下にすると表層の酸化皮膜は極薄となり拡散接合に最適な条件となる。なお、前述したように雰囲気圧力1×10−2Pa以下とした後にAr、He、N、などの不活性ガスを封入して接合させることも可能である。
【0032】
加熱方法はヒーターにより炉内の部材全体を均一に加熱する方法を採用する。加熱保持時間は30〜120minの範囲で設定すればよい。
量産性の観点から、加熱保持時間は極力短い方が良い。ただし、接合部品全体へ均一に熱を付与し、原子拡散を十分に励起するためには30min以上の加熱時間が必要であった。一方、120min超の保持時間を与えると母材強度、耐食性に影響を及ぼす程度まで結晶粒が成長するため、好適な保持時間を30〜120minとした。
【実施例】
【0033】
表1に示す成分組成を有する、板厚0.05〜1mmの各種ステンレス鋼板を素材として、図9に示すサイズの各部品を作製し、前記図7に示すような上面平坦部にフィンを形成した熱交換器と、前記図8に示すような内部にフィン部品1、2を挿入した形状の熱交換器を作った。
なお、各種ステンレス鋼板としては、0.1μm、0.2μm、0.3μm、0.4μm、1.0μm、2.0μm及び3.0μmの表面粗さを付したものを用いた。なお本例では表面粗さは酸洗もしくは研磨にて付与しているが、圧延ロールなどの手法で付与しても構わない。
【0034】
【表1】
【0035】
仮組みされた熱交換器を、横型真空炉に入れ、雰囲気圧力を1×10−3Paに到達させた後、図10に示すヒートパターンで加熱し、加熱室温度を950℃から1300℃に変えて固相拡散接合させ、熱交換器を作製した。
なおこの際、図11に示す補助具を用いて仮組みされた熱交換器に、0.1MPa〜1.1MPaに変えた負荷をかけた状態で固相拡散接合させた。
負荷は図11に示すように、SUS430製の錘を載せる態様でかけた。そして、負荷が外側に分散しないように、モリブデン板を介してCCコンポジットで仮組みされた熱交換器の外周を拘束した。
得られた熱交換器について、内部の酸化状況の観察と耐圧試験を行った。
内部の酸化状況の観察は、得られた熱交換器を裁断し、内部の酸化状況を、酸化が進んでいるかどうかを目視で観察した。
また、耐圧試験は、図9中のB、C、Dの3箇所のジョイントを塞ぎ、Aのジョイントから水を圧入することにより、内部に圧力を付与し、内圧3MPaで漏れや破断の無いものを合格と判定した。
【0036】
その結果、0.1Si+Ti+Al<0.15質量%を満たすステンレス鋼板においては、いずれの条件でも、内部の酸化状況には全く問題なかった。
1×10−2Pa以下の雰囲気下での加熱であるため、ステンレス鋼板の表面酸化が起きなかったものと考えられる。一方、0.1Si+Ti+Al≧0.15質量%となるステンレス鋼板を用いた場合、表面と内部にテンパーカラー程度の酸化皮膜が認められた。易酸化元素が接合時の加熱によって酸化したと推定される。
板厚0.4mmの箱型部品とフィン部品ならびに板厚1.0mmの底板より構成される熱交換器を試作し、その耐圧試験の結果を、表2、表3、表4に示す。
【0037】
表2は、加圧力0.1MPa〜1.1MPa、加熱温度950℃〜1300℃の条件で固相拡散接合したものに3MPaの内圧を付加した耐圧試験を行ったときの結果である。1つの枠の中に左から加圧力0.1MPa、0.3MPa、0.5MPa、0.7MPa、0.9MPa、1.1MPaの条件における結果を示す。記号○は耐圧試験の結果がリーク無し、記号△は耐圧試験の結果がリーク無しであるが、加圧力または加熱温度の過剰により製品に著しい変形が発生、記号×は耐圧試験の結果がリーク有りまたは破断有りであったことを示す。
加熱温度が1300℃または加圧力が1.1MPaの条件ではいずれの鋼種でも満足する耐圧性能が得られているが、製品に変形が生じており製品外観を損なっている。
一方、0.1Si+Ti+Al<0.15質量%を満足するステンレス鋼板は、フェライト単相系、オーステナイト系では、Raが0.3μm以下、加熱温度が1100℃以上1250℃以下で加圧力は0.3MPa以上0.9MPaで十分に接合できかつ外観も良好であることがわかる。またRaが0.4μm以上ではいずれの条件においても十分な接合強度かつ外観良好な製品は得られなかった。
マルテンサイト系では、加圧力は0.3MPa以上0.9MPa以下、Ra≦0.3μmの場合は加熱温度が1000℃以上1250℃以下、0.3μm<Ra≦0.4μmの場合は加熱温度が1100℃以上1250℃以下の条件で十分に接合できかつ外観も良好であることがわかる。Raが1.0μm以上ではいずれの条件においても十分な接合強度かつ外観良好な製品は得られなかった。
2相系ステンレス鋼板では、Raが2.0μm以下、加熱温度が1000℃以上1250℃以下で加圧力は0.1MPa以上0.9MPaで十分に接合できかつ外観も良好であることがわかる。またRaが3.0μmではいずれの条件においても十分な接合強度かつ外観良好な製品は得られなかった。
【0038】
表3は、表面粗さRaが0.3μmの異鋼種を組み合わせた熱交換器の仮組み体を、1100℃の温度、0.3MPaの加圧力の条件で固相拡散接合したものを、前記と同じ条件で耐圧試験を行ったときの結果である。記号○は耐圧試験の結果がリーク無し、記号×は耐圧試験の結果がリーク有りまたは破断有りであったことを示す。いずれの熱交換器も十分に固相拡散接合できている。
【0039】
表4は、板厚が種々異なる材料を素材とした熱交換器の仮組み体を準備して固相拡散接合により熱交換器を製作し、負荷内圧を種々変えた条件で内圧試験を行った結果である。素材は、サンプルNo.2である。A欄は箱形部品の上面平坦部にフィンを形成した箱型部品を積層した熱交換器(図7)について、B欄は2つの箱型部品の間にフィン部品を挿入して積層した熱交換器(図8)についての結果である。また、記号○は、耐圧試験の結果がリーク無し、記号×は耐圧試験の結果がリーク有りまたは破断有りであったことを示す。
素材板厚が0.3mm以上のものでは、熱交換器としての内圧に十分に耐えられることがわかる。素材板厚が0.3mmに満たないものにあっては、固相拡散は十分にできていたが、プレス加工時に板厚が減少した部位で破断が生じていた。
なお、フィンの設置形態の影響はなかった。
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
【表4】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11