特許第6426169号(P6426169)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6426169新規結晶構造を有する酸化タングステン型化合物およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6426169
(24)【登録日】2018年11月2日
(45)【発行日】2018年11月21日
(54)【発明の名称】新規結晶構造を有する酸化タングステン型化合物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 41/02 20060101AFI20181112BHJP
   C01G 41/00 20060101ALI20181112BHJP
【FI】
   C01G41/02
   C01G41/00 B
【請求項の数】15
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-525547(P2016-525547)
(86)(22)【出願日】2014年10月21日
(65)【公表番号】特表2016-538215(P2016-538215A)
(43)【公表日】2016年12月8日
(86)【国際出願番号】EP2014072523
(87)【国際公開番号】WO2015059127
(87)【国際公開日】20150430
【審査請求日】2017年9月21日
(31)【優先権主張番号】1302438
(32)【優先日】2013年10月22日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】508079739
【氏名又は名称】ローディア オペレーションズ
(73)【特許権者】
【識別番号】505041416
【氏名又は名称】セントレ ナショナル ドゥ ラ レシェルシェ サイエンティフィーク
(73)【特許権者】
【識別番号】507311027
【氏名又は名称】ユニベルシテ・ピエール・エ・マリー・キュリー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ビュイセット, ヴァレリー
(72)【発明者】
【氏名】ル メルシェ, ティエリー
(72)【発明者】
【氏名】ベナールディエール, ジュリー
(72)【発明者】
【氏名】カッサーイニョン, ソフィ
(72)【発明者】
【氏名】ポルトオート, ダヴィド
(72)【発明者】
【氏名】ヴァレーズ, ジル
【審査官】 村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−532725(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/037932(WO,A1)
【文献】 特開2006−096656(JP,A)
【文献】 特開2012−072402(JP,A)
【文献】 米国特許第04339424(US,A)
【文献】 特開2012−140255(JP,A)
【文献】 GENIN C; DRIOUICHE A; GERAND B; FIGLARZ M,HYDROGEN BRONZES OF NEW OXIDES OF THE WO3-MoO3 SYSTEM WITH HEXAGONAL, PYROCHLORE AND ReO3-TYPE STRUCTURES,SOLID STATE IONICS,NL,NORTH HOLLAND PUB. COMPANY,1992年 7月 1日,VOL:53-56,PAGE(S):315 - 323,URL,http://dx.doi.org/10.1016/0167-2738(92)90394-5
【文献】 ZHAN J; YANG X G; XIE Y; LI B F; QAIN Y T; JIA Y B,A SOLVOTHERMAL ROUTE FOR THE SYNTHESIS OF AMMONIUM TUNGSTEN BRONZE,SOLID STATE IONICS,ELSEVIER,1999年11月 2日,VOL:126, NR:3-4,PAGE(S):373 - 377,URL,http://dx.doi.org/10.1016/S0167-2738(99)00250-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/00−47/00;49/10−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)A1−yMo(式中、Aは、Li、Na、NH、KおよびHカチオンからなる群から選択される)の化合物であって、xおよびyが関係0≦x≦1および0≦y≦0.5を裏付けること、ならびにWO八面体をベースとする六方晶系型の結晶構造を有し、前記構造が、6つ、4つおよび3つの前記八面体で区切られ、かつ軸cに沿って配向したトンネルを有することを特徴とする化合物。
【請求項2】
xが前記関係0≦x≦0.2を裏付ける式(1)に相当することを特徴とする、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
xが前記関係0.5≦x≦1を裏付ける式(1)に相当することを特徴とする、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
xおよび/またはy=0である式(1)に相当することを特徴とする、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項5】
格子パラメータa:10.0(1)Åおよびc:3.9(1)Åならびに空間群P6/mmmの結晶構造を有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項6】
直径が50〜500nmおよび厚さが2〜50nmのプレートレットの形状での粒子から構成されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項7】
次の工程:
− (a)W(VI)の塩および、適切な場合には、Mo(VI)の塩の水溶液が、還元剤と接触させられる工程と;
− (b)先行工程の終わりに得られた媒体のpHが、高くても7の値に調整され、その結果として懸濁液が得られる工程であって、カチオンAが工程(a)または(b)の1つに導入される工程と;
− (c)工程(b)の終わりに得られた前記懸濁液が熟成にかけられる工程と;
− (d)工程(c)の終わりに得られた前記媒体が加熱される工程と;
− (e)固体が、先行工程によって生じる前記媒体から分離され、乾燥させられ、その結果としてx>0の化合物A1−yMoが得られる工程と;
− (f)任意選択的に、前記カチオンAが、工程(e)の終わりに得られた前記化合物から取り除かれ、その結果として化合物W1−yMoが得られる工程と
を含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の化合物の製造方法。
【請求項8】
タングステンおよび前記カチオンAの塩が、工程(a)のために使用されることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
工程(b)の間、前記pHが、高くても2の値に調整されることを特徴とする、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
工程(c)の前記熟成が、高くても80℃の温度で実施されることを特徴とする、請求項7〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程(d)が、少なくとも95℃の温度で加熱することによって実施されることを特徴とする、請求項7〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
ヒドラジン、糖類およびアスコルベートから選択される還元剤が、工程(a)に使用されることを特徴とする、請求項7〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
Aが、NHまたはHであること、および工程(f)が空気下で加熱する工程であることを特徴とする、請求項7〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
Aが、Li、Na、K、NHまたはHであること、および工程(f)が電気化学的酸化であることを特徴とする、請求項7〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
Aが、Li、Na、KまたはNHであること、および工程(f)が、Li、Na、KまたはNHをHで置き換えるためのイオン交換と、次に前記イオン交換によって生じる化合物の空気下での加熱または電気化学的酸化とを含むことを特徴とする、請求項7〜12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2013年10月22日にINPI(French National Industrial Property Institute)において出願された先行仏国特許出願第13 02438号の優先権を主張するものであり、その出願の内容は、本出願に関連して完全に援用される。用語の明瞭さに影響を与える本出願と先行仏国特許出願との間の矛盾の場合には、本出願が専ら参照される。
【0002】
本発明は、新規結晶構造を有する酸化タングステン型化合物、およびまたそれの製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
酸化タングステンは、結晶性または非結晶性の、化学量論的または準化学量論的WO化合物の形態で、文献に広く記載されている。酸化タングステンは、エレクトロクロミックデバイス、スーパーコンデンサ、バッテリーまたはさらには可視範囲における光触媒などの、多くの技術的用途において有用である。
【0004】
これらの用途のためには、これらの酸化物の構造が特にリチウムまたはナトリウムなどのカチオンの、この構造内での、挿入を任意選択的に可能にする、空間を酸化物の構成原子間に有することが重要であると考えられる。
【0005】
例えば、国際公開第02/096559号パンフレットは、実験式:Ax/n[B1−y3+δZHO(式中、Mは、族VbまたはVIbの少なくとも1つの金属を表し;Aは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、銀、アンモニウム、水素およびそれらの混合物からなる群から選択されるカチオンを表し;Bは、MおよびBが異なるという条件で、W、Zr、Mo、V、Ti、Fe、Ce、Sb、Nb、Mn、Co、Cr、Fe、Ta、SnおよびCuからなる群から選択される少なくとも1つの元素を表し;yは、0〜3の数であり;そして3+δは、酸素の化学量論を示す)を有する金属酸化物の組成物を記載しており、これらの組成物は、液体中に存在する、セシウム、ストロンチウム、鉛、銀、遷移金属、ランタニドおよびアクチニドからなる群から選択される少なくとも1つの金属のカチオンを少なくとも部分的に除去するのに役立つ。
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、その構造が公知の酸化タングステンの構造中に存在する空間よりもさらにアクセスしやすい空間を示す化合物を提供することである。
【0007】
この目的のために、本発明の化合物は、式(1)A1−yMo(式中、Aは、Li、Na、NH、KおよびHカチオンからなる群から選択される)の化合物であって、xおよびyが関係0≦x≦1および0≦y≦0.5を裏付けること、ならびにWO八面体をベースとする六方晶系型の結晶構造を有し、前記構造が、6つ、4つおよび3つの前記八面体で区切られ、かつ軸cに沿って配向したトンネルを有することを特徴とする化合物である。
【0008】
J.Zhanら,Solid State Ionics,126(1999),373−373およびGeninら,Solid State Ionics,53−56(1992),315−323は、六方晶系タングステンのブロンズを記載している。これらのブロンズの結晶構造における6つ、4つおよび3つのWO八面体で区切られ、かつ軸cに沿って配向したトンネルの存在は記載されていない。
【0009】
本発明の他の特徴、詳細および利点は、添付の図面に関連して与えられる、次に続く説明を読めば、さらにより十分に明らかになるであろう:
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】先行技術による生成物の結晶構造を例示する略図である。
図2】本発明による生成物の結晶構造を例示する略図である。
図3】本発明による生成物のX線図である。
図4】比較生成物のX線図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
上に示されたように、本発明の化合物は、化学式(1)A1−yMoを有する。この式は、酸素に関してわずかに準化学量論的である化合物をも包含するとして解釈されるべきである。
【0012】
この式において、Aは、Li、Na、NH、KおよびHカチオンから選択される。Aはより特にNaまたはLiであり得る。
【0013】
さらに、xおよびyは、関係0≦x≦1および0≦y≦0.5を裏付ける。yがゼロではない式(1)の化合物は、モリブデンがタングステンと置き換わっている生成物に相当する。
【0014】
特定の実施形態によれば、xは、次の関係0≦x≦0.2および0.5≦x≦1を裏付けることができ、xが後者の関係を裏付ける場合には、Aは、より特にNaまたはLiであり得る。
【0015】
3つの他の特定の実施形態によれば、それぞれ、xは0に等しい、yは0に等しい、そしてxおよびyは両方とも0に等しい。
【0016】
xおよびyの値は、A=H、NHまたはLiである場合には、X線光電子分光法技術によって、そして他の場合には、エネルギー分散型X線分析技術によって測定される。
【0017】
一般に、本発明の化合物は、格子パラメータa:10.0(1)Åおよびc:3.9(1)Åならびに空間群P6/mmmの結晶構造を有する。本構造は、1格子当たり6つのWO単位を含有する。
【0018】
x=0.2およびA=Hである特定の場合には、化合物は、格子パラメータa:9.9973Åおよびc:3.9205Åならびに空間群P6/mmmの結晶構造を有する。
【0019】
本説明の全体について、結晶学的特性は、銅対陰極のX線分析によって得られた。
【0020】
WOの結晶構造(含まれるすべての構造、すなわち、公知であるものおよび本発明のもの)は、頂点によって互いにつながっているWO八面体をベースとしている。従来型六方晶系構造は特に、3つおよび6つの八面体を含むトンネルを有する(図1)。本発明の化合物の結晶構造は、3つ、4つおよび6つの八面体のトンネルを形成するようにアセンブルされているWO八面体をベースとしている(図2)。図1および2は、WO八面体(1)の配置からなるこれらの六方晶系構造を示す。
【0021】
本発明の化合物の新規特徴によれば、本構造は、3つのタイプのトンネル、すなわち、6つ、4つおよび3つのWO八面体でそれぞれ区切られたトンネルのアセンブリを示す。これらの3つのタイプのトンネルの存在は、6つ、3つおよび4つの八面体でそれぞれ区切られているトンネル(2)、(3)および(4)を示す図2に見られる。
【0022】
図1は、6つまたは3つの八面体のみで区切られたトンネル(2)および(3)のみを明らかにしている。
【0023】
本新規構造は、3つおよび6つの八面体を含むトンネルを保持しながら、4つの八面体を含むトンネル(4)を追加するという効果を有する。例として、6つの八面体を含むトンネルの直径は、2.6(1)Åであり、この値は、酸素アニオンのサイズを考慮に入れることによって計算される。
【0024】
本発明の生成物の別の特徴によれば、前記生成物は、直径が50〜500nm、より特に50〜100nm、そして厚さが2〜50nm、より特に5〜10nmのプレートレットの形をした粒子から構成される。粒子のこの形状およびサイズは、透過電子顕微鏡法(TEM)によって実証することができる。
【0025】
軸cに沿って配向した、トンネルは、(粒子の基礎面に垂直に)プレートレットの厚さに位置することがまた指摘されるべきである。
【0026】
本化合物は、10〜200m/g、より特に少なくとも50m/gの比表面積、例えば、55m/gであってもよい比表面積を有する。
【0027】
用語「比表面積」は、定期刊行物「The Journal of the American Chemical Society」,60,309(1938)に記載されているBrunauer−Emmett−Teller法から作成された標準ASTM D 3663−78に従って窒素吸着によって測定されるBET比表面積を意味することを意図する。
【0028】
本発明の化合物の製造方法をここで説明する。
【0029】
本方法は、次の工程:
− (a)W(VI)の塩および、適切な場合には、Mo(VI)の塩の水溶液が、還元剤と接触させられる工程と;
− (b)先行工程の終わりに得られた媒体のpHが、高くても7の値に調整され、その結果として懸濁液が得られる工程であって、カチオンAが工程(a)または(b)の1つに導入される工程と;
− (c)工程(b)の終わりに得られた懸濁液が熟成にかけられる工程と;
− (d)工程(c)の終わりに得られた媒体が加熱される工程と;
− (e)固体が、先行工程によって生じる媒体から分離され、乾燥させられ、その結果としてx>0の化合物A1−yMoが得られる工程と;
− (f)任意選択的に、カチオンAが、工程(e)の終わりに得られた化合物から取り除かれ、その結果として化合物W1−yMoが得られる工程と
を含むことを特徴とする。
【0030】
本発明の方法の第1工程は、タングステン塩VIの水溶液と還元剤との混合物を形成することにある。この塩は、タングステン酸ナトリウムなどのアルカリ金属タングステン酸塩であってもよい。
【0031】
yがゼロではない式(1)に従った化合物の製造の場合には、工程(a)の混合物は、アルカリ金属モリブデン酸塩であってもよいモリブデン塩をまた含む。
【0032】
還元剤は、ヒドラジン、グルコースなどの糖類、およびアスコルビン酸塩、例えばアルコルビン酸ナトリウムから選択されてもよい。導入される還元剤の量は、金属イオン(W(VI)+Mo(VI))の量の少なくとも2倍である。
【0033】
本方法の第2工程、工程(b)において、先行工程の終わりに得られた媒体のまたは混合物のpHは、高くても7の値に調整される。この値は、より特に高くても2であり得、それは、さらにより特に1〜2であり得る。このpH調整は、酸、例えば塩酸を添加することによって実施することができる。
【0034】
カチオンAは、工程(a)および(b)の1つにおいて導入されなければならない。AがLi、Na、KまたはNHである場合、このカチオンは、タングステンおよび/またはモリブデン塩を用いて、このおよび/またはこれらの元素のならびにカチオンAの塩、例えばタングステン酸カリウムを使用して工程(a)において導入することができる。カチオンAは、AがLi、Na、KまたはNHである場合、還元剤、例えばアスコルビン酸ナトリウムを用いて、あるいはAがHである場合Aを含有する塩を用いてまた導入することができる。
【0035】
カチオンAはまた、pHを調整するために使用される酸のプロトンによって本方法の工程(b)において導入することができる。
【0036】
本方法の第3工程は、先行工程(b)の終わりに得られた懸濁液を熟成する工程である。
【0037】
一般に、この熟成は、高くても80℃の温度で実施される。温度が高ければ高いほど、この熟成の継続時間はより短くなる。1つの好ましい態様によれば、この熟成は、例えば12時間の期間にわたって、周囲温度(20℃〜25℃)で実施される。
【0038】
本方法の次の工程、工程(d)において、熟成の終わりに得られた媒体は、還元剤が糖類から選択される場合には特に、少なくとも95℃、より特に少なくとも120℃、さらにより特に少なくとも200℃の温度で加熱される。一般に、加熱温度が低ければ低いほど、加熱時間はより長くなる。例として、この時間は、120℃の温度については少なくとも12時間、95℃の温度については少なくとも3日間であり得る。
【0039】
この加熱は一般に、空気下で実施される。
【0040】
加熱の終わりに、固体は、得られた媒体から任意の公知の手段によって分離される。この固体は、任意選択的に洗浄後に、真空下でまたは空気下で乾燥させられる。
【0041】
乾燥の終わりに、還元形態での本発明による化合物、すなわち、x>0の式(1)の化合物、したがってカチオンAを含む化合物が得られる。
【0042】
本発明の製造方法は、化学量論的形態での化合物、すなわち、x=0の式(1)の化合物、したがってカチオンAなしの化合物を得るための追加の工程を含む。
【0043】
この追加の工程、工程(f)は、異なる変形に従って実施することができる。
【0044】
工程(f)はまず第一に、AがNHまたはHである場合には、特に少なくとも2時間70℃〜400℃の温度で、空気下での加熱であり得る。
【0045】
AがLi、Na、K、NHまたはHである場合には、この追加の工程は、前に得られた化合物を電気化学的酸化にかけることにあり得る。
【0046】
この酸化は、還元形態および粉末形態での化合物を、電極として働く導電性基板上に堆積させることによって実施することができる。この電極は、例えば白金製の、対電極もまた浸漬される電解液中に浸漬される。電位差が次に、本化合物が堆積させられた電極の電位が標準水素電極に対して0Vよりも大きいような方法で、2つの電極間に加えられる。
【0047】
この追加の工程の第3変形によれば、およびAがLi、Na、KまたはNHである場合には、Li、Na、KまたはNHをHで置き換えるために、還元形態での化合物をpH≦1での酸性の水性媒体に再分散させることによって特に、イオン交換を次に実施することができる。そのとき得られた化合物は、AがHである式(1)のものである。この化合物は次に、上述の方法の1つ、すなわち空気下での加熱または電気化学的酸化によって処理される。
【実施例】
【0048】
ここで実施例を示す。
【0049】
実施例1
本実施例は、還元形態でのそしてそのためにA=Hである、および化学量論的形態での本発明による化合物の製造に関する。
【0050】
タングステン酸ナトリウムNaIV・2HOの安定な溶液(0.15モル/l)とヒドラジン(2.5当量)との混合物を形成する。pHを塩酸で1.3に調整する。白色化合物の懸濁液が得られ、それを熟成のために12時間周囲温度(25℃)で維持する。懸濁液を次に95℃で加熱し、その結果としてダークブルーの生成物の懸濁液が得られる。加熱を3日間この温度で維持する。固体生成物を次に、遠心分離により蒸留水で洗浄し、乾燥させる。それは、式H0.1WOに相当する。
【0051】
乾燥生成物を次に空気下で、100℃で12時間加熱する。式WOの化合物がこのようにして得られる。
【0052】
乾燥後および加熱後の2つの生成物は、図3に示される同じX線図を示す。このX線図は、以前に記載された3つのタイプのトンネルを持った構造を実証する。
【0053】
実施例2
本方法は、実施例1におけるように実施するが、懸濁液の加熱を12時間120℃で行う。実施例1と同じ生成物が得られる。
【0054】
実施例3
本方法は、実施例1におけるように、しかし還元剤としてアスコルビン酸ナトリウム(3当量)を使用して実施する。さらに、懸濁液の加熱を12時間220℃で行う。実施例1と同じ生成物が得られる。
【0055】
実施例4
本方法は、実施例1におけるように、しかし還元剤としてグルコース(3当量)を使用して実施する。実施例1と同じ生成物が得られる。
【0056】
比較例5
本方法は、実施例1におけるように行う。しかし、pHの調整後に得られた懸濁液を、熟成なしに直接3日間95℃で加熱する。乾燥後に、六方晶系構造の式(NH0.1WOの生成物が得られ、先行技術に記載されている、銅の波長KαでのそのX線回折図は図4に示され、その格子パラメータは、a=7.3(1)およびc=3.9(1)であり、図1の2つのタイプのトンネル(2)および(3)を有する構造に相当する。熟成を行わないことにより、得られた生成物中のNHの存在をもたらすことが指摘される。
図1
図2
図3
図4