特許第6426191号(P6426191)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6426191
(24)【登録日】2018年11月2日
(45)【発行日】2018年11月21日
(54)【発明の名称】膨張タービン及びターボチャージャ
(51)【国際特許分類】
   F01D 25/24 20060101AFI20181112BHJP
   F02B 37/24 20060101ALI20181112BHJP
   F02B 39/00 20060101ALI20181112BHJP
【FI】
   F01D25/24 E
   F02B37/24
   F02B39/00 D
   F02B39/00 Q
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-545164(P2016-545164)
(86)(22)【出願日】2014年8月28日
(86)【国際出願番号】JP2014072571
(87)【国際公開番号】WO2016031017
(87)【国際公開日】20160303
【審査請求日】2016年10月18日
【審判番号】不服2017-17768(P2017-17768/J1)
【審判請求日】2017年11月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】316015888
【氏名又は名称】三菱重工エンジン&ターボチャージャ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】吉田 豊隆
(72)【発明者】
【氏名】横山 隆雄
(72)【発明者】
【氏名】段本 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】秋山 洋二
【合議体】
【審判長】 金澤 俊郎
【審判官】 鈴木 充
【審判官】 水野 治彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−2140(JP,A)
【文献】 特開2011−149306(JP,A)
【文献】 特開昭60−153403(JP,A)
【文献】 実開昭62−101038(JP,U)
【文献】 実開昭62−152034(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 1/08
F01D 5/14
F01D 17/16
F01D 25/24
F02B 37/24
F02B 39/00
F02C 3/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体が持つエネルギーから動力を回収するための膨張タービンであって、
前記作動流体が導入されるスクロール部を含むタービンハウジングと、
前記タービンハウジング内において前記膨張タービンの周方向に間隔を空けて配置され、前記スクロール部を通過した前記作動流体の流路面積が変化するように回動軸周りに回動可能に構成された複数の可変ノズルと、
前記可変ノズルの下流側に位置する動翼を複数有し、前記タービンハウジング内に回転自在に設けられたタービンホイールと、を備え、
前記タービンハウジングは、当該タービンハウジングの外形を画定する外殻と、ノズルプレートと、前記ノズルプレートに対向して設けられるノズルマウントとを含み、
前記ノズルプレートは、前記動翼のチップに対向するシュラウド部と、前記タービンの径方向に沿って延在する平坦面部とを含む第1壁面を有し、前記ノズルマウントは、前記作動流体の流路を挟んで前記第1壁面に対向する第2壁面であって、前記タービンの径方向に沿って延在する第2壁面を有し、
前記可変ノズルの出口側の翼高さは前記動翼の入口側の翼高さより大きく、
前記シュラウド部は、
前記可変ノズルの出口の下流側かつ前記動翼の入口の上流側において、前記作動流体の流路高さが下流側に向かって狭まるように、前記第2壁面に向かって突出する環状の突出部であって、前記突出部の先端が前記動翼の前縁よりも上流側、且つ前記平坦面部よりも前記第2壁面側に位置する突出部と、
前記膨張タービンの軸線方向に沿って延在する直線部、及び前記突出部の先端から前記直線部の上流端に向かって、途中に変曲点を有することなく、曲線状に延在する曲線部、を有するシュラウド壁と、を有し、
前記突出部の突出量は、前記突出部の先端が前記動翼の前記入口の前記チップを越えて前記第2壁面側に突出しないように設定されていることを特徴とする膨張タービン。
【請求項2】
前記膨張タービンは、前記膨張タービンの半径方向に沿って前記作動流体が前記動翼の前記入口に流れ込むラジアルタービンであり、
前記動翼の前記入口における根本の軸方向位置を原点とし、前記動翼の前記入口における前記動翼の前記チップの軸方向位置をXとしたとき、前記突出部の先端の軸方向位置Xは0<X≦Xの関係を満たしていることを特徴とする請求項1に記載の膨張タービン。
【請求項3】
前記第1壁面は前記半径方向に対して傾斜したテーパ面を有し、該テーパ面によって前記突出部が形成されており、
前記テーパ面が前記膨張タービンの軸方向に対してなす角度が40度以下であることを特徴とする請求項2に記載の膨張タービン。
【請求項4】
前記膨張タービンの中心軸から前記可変ノズルの前記回動軸までの前記半径方向における距離をRとし、前記膨張タービンの中心軸から前記動翼の前記入口までの前記半径方向における距離をRとしたとき、R/R≧1.4を満たすことを特徴とする請求項2又は3に記載の膨張タービン。
【請求項5】
前記ノズルプレートの前記第1壁面は、前記可変ノズルの入口の上流側において前記第2壁面に向かって突出する突出部を有していない請求項1乃至4の何れか1項に記載の膨張タービン。
【請求項6】
当該膨張タービンの軸線に沿った断面において、前記ノズルプレートの前記第1壁面は、前記シュラウド部の前記突出部から当該第1壁面の上流端にわたって直線状に形成されている請求項1乃至5の何れか1項に記載の膨張タービン。
【請求項7】
前記突出部より上流側の前記シュラウド部には、前記可変ノズルの熱膨張による伸びを許容するように、最大開度時の前記可変ノズルの出口と前記突出部との間に伸び代が設けられている請求項1乃至6の何れか1項に記載の膨張タービン。
【請求項8】
前記タービンホイールのハブのハブ面は、前記動翼の前縁位置まで延在している請求項1乃至7の何れか1項に記載の膨張タービン。
【請求項9】
内燃機関からの排ガスによって駆動されるように構成された請求項1乃至8の何れか一項に記載の膨張タービンと、
前記膨張タービンによって駆動されて前記内燃機関への吸気を圧縮するように構成されたコンプレッサと、を備えていることを特徴とするターボチャージャ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、可変ノズルを有する膨張タービン及び該膨張タービンを備えたターボチャージャに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃費向上を狙って自動車用内燃機関にターボチャージャを装着する傾向が顕著である。ターボチャージャの中で、膨張タービンの入口側に可変ノズルを有する可変容量ターボチャージャがあり、可変容量ターボチャージャは可変ノズルの開度調整で作動流体の流量調整が可能になる。そのため、内燃機関の負荷変動に合わせた運転が可能になると共に、特に、低負荷時のレスポンス性能に優れている。
しかし、可変容量ターボチャージャの特性として、図8に示すように、可変ノズルの開度が小さいとき、タービン効率は、ピーク点(ノズル開度が中開度域付近)と比べて大きく低下する。ノズル開度が小開度域のときのタービン効率は、レスポンス性能に大きく影響する。このため、小開度域でタービン効率を向上させることが求められている。
【0003】
小開度域でのタービン効率を向上させるためには、可変ノズルのインシデンス角(可変ノズルへ流入する作動流体の流入角と可変ノズルの前縁翼角度との差)を小さくすることが有利である。そこで、インシデンス角を小さくするため、小開度域における可変ノズルの前縁翼角度に応じて、タービンハウジングのスクロール部を絞る(スクロール部を小さくする)ことが考えられる。
一方、スクロール部を絞ると、ノズル開度が大開度域のときのインシデンス角が大きくなり、可変ノズルの翼面で流れの剥離が生じ、実流路面積が低下し、作動流体の流量(最大流量)が低下してしまうという問題がある。
このように、タービンハウジングのスクロール部の形状の工夫だけで、可変ノズルの小開度域におけるタービン効率向上と、可変ノズルの大開度域における最大流量の確保と、を両立することは容易ではない。そこで、スクロール部の形状変更以外の手法も活用することで、これら二つの要求を満たすことが望まれる。
【0004】
なお、可変ノズルの小開度域におけるタービン効率向上と大開度域における最大流量の確保の両立を図ったものではないが、特許文献1には、動翼のチップに対向するタービンハウジングのシュラウド壁面における動翼の入口側に、タービンの半径方向に対してタービンホイールの背面側に向かって傾斜した環状のガイド部(ガイド面)が形成されたタービンが開示されている。
特許文献1に記載のタービンでは、前記ガイド部の形成により、動翼に流入した作動流体をタービンホイールの背面側へ寄せ、可変ノズルの後流(ウェイク)による励振力が動翼先端縁付近に作用することを抑制し、動翼の振れが抑制される。また、前記ガイド部によって動翼とシュラウド壁面との間の隙間を塞ぐことで、該隙間を介したクリアランスフローが抑制されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−002140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されたタービンでは、動翼とシュラウド壁面との間の隙間を介したクリアランスフローを低減するために、前記ガイド部をハブ側に大きく突出させている。このため、動翼入口前縁の一部はガイド部の先端によって覆われており、流路幅が最も狭まる箇所が動翼入口の上流側に存在する。したがって、縮流効果によって動翼前縁の一部には作動流体が流れ込まず、所期の動翼性能を発揮できず、タービン効率が低下するおそれがある。
【0007】
本発明の少なくとも一実施形態は、かかる従来技術の課題に鑑み、可変ノズルが小開度域のときのタービン効率の低下を抑制すると共に、可変ノズルが大開度域のときの作動流体の流量を確保し、併せて、所期の動翼性能を引き出してタービン効率の低下を抑制することができる膨張タービン及びターボチャージャを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る膨張タービンは、作動流体が持つエネルギーから動力を回収するための膨張タービンであって、前記作動流体が導入されるスクロール部を含むタービンハウジングと、前記タービンハウジング内において前記膨張タービンの周方向に間隔を空けて配置され、前記スクロール部を通過した前記作動流体の流路面積が変化するように回動軸周りに回動可能に構成された複数の可変ノズルと、前記可変ノズルの下流側に位置する動翼を複数有し、前記タービンハウジング内に回転自在に設けられたタービンホイールと、を備え、
前記タービンハウジングは、前記動翼のチップに対向するシュラウド部を含む第1壁面と、前記作動流体の流路を挟んで前記第1壁面に対向する第2壁面とを有し、
前記可変ノズルの出口側の翼高さは前記動翼の入口側の翼高さより大きく、
前記シュラウド部は、前記可変ノズルの出口の下流側かつ前記動翼の入口の上流側において、前記作動流体の流路高さが下流側に向かって狭まるように、前記第2壁面に向かって突出する突出部を有し、
前記突出部の突出量は、前記突出部の先端が前記動翼の前記入口の前記チップを越えて前記第2壁面側に突出しないように設定されている。
【0009】
前記構成(1)によれば、可変ノズルの出口側の翼高さを動翼の入口側の翼高さより大きくしたことで、可変ノズル間の作動流体流路におけるスロート面積を増大させることができる。よって、可変ノズルが大開度域のとき動翼に流入する作動流体の流量(最大流量)を十分に確保できる。
【0010】
また、可変ノズルが小開度域のとき、動翼に流れ込む作動流体は、ノズル開度が小さいために強い旋回成分を持つ一方、半径方向内側に向かう流速成分は小さい。そのため、従来の膨張タービンでは、可変ノズルの小開度域において、動翼に流入する作動流体が持つ旋回成分に起因した遠心力により、作動流体はシュラウド側(第1壁面側)に押し付けられやすい。作動流体がシュラウド壁面側に押し付けられると、動翼出口において、作動流体の流れはシュラウド側に偏り、シュラウド側で流速が大きく、ハブ側(第2壁面側)で流速が小さくなる。そのため、動翼の下流側で流速不均衡を解消するように作動流体が広がり、混合損失が起こりやすい。
この点、前記構成(1)によれば、前記突出部を有するので、作動流体は突出部に沿って流れることで第2壁面側(ハブ側)へ寄せられ、第1壁面側(シュラウド側)への作動流体の偏流が抑制される。そのため、動翼出口での不均衡な流れが緩和され、混合損失が低減するため、タービン効率が向上する。
従って、前記構成(1)により、上述した可変ノズルの大開度域における最大流量確保というメリットに加えて、可変ノズルが小開度域のときのタービン効率向上というメリットも享受できる。
【0011】
また、前記構成(1)によれば、前記突出部の突出量は、前記突出部の先端が動翼の入口のチップを越えて第2壁面側に突出しないように設定されているので、動翼高さ方向における広い範囲に作動流体が流れ込むので、突出部による縮流効果に起因した動翼入口における実効流路面積の低下を抑制できる。そのため、所期の動翼性能が得られやすくなり、タービン効率を高く維持できる。
【0012】
(2)幾つかの実施形態では、前記構成(1)において、
前記膨張タービンは、前記膨張タービンの半径方向に沿って前記作動流体が前記動翼の前記入口に流れ込むラジアルタービンであり、
前記動翼の前記入口における根本の軸方向位置を原点とし、前記動翼の前記入口における前記チップの軸方向位置をXとしたとき、前記突出部の先端の軸方向位置Xは0<X≦Xの関係を満たしている。
前記構成(2)によれば、ラジアルタービンにおいて、前記突出部の突出量は、前記突出部の先端が動翼のハブ側に突出しないように設定されている。そのため、動翼入口における流路面積の低下を抑制できるので、所期の動翼性能が得られやすくなり、タービン効率を高く維持できる。
【0013】
(3)幾つかの実施形態では、前記構成(2)において、
前記第1壁面は前記半径方向に対して傾斜したテーパ面を有し、該テーパ面によって前記突出部が形成されており、
前記テーパ面が前記膨張タービンの軸方向に対してなす角度が40度以下である。
前記構成(3)によれば、動翼入口の上流側において前記テーパ面に沿って作動流体を第2壁面側(ハブ側)へ十分に寄せることができ、そのため、第1壁面側(シュラウド側)への作動流体の偏流を抑制できる。これによって、動翼出口における流速分布を均一化し、混合損失を抑制することで、タービン効率が向上する。
【0014】
(4)幾つかの実施形態では、前記構成(2)又は(3)の何れかにおいて、
前記膨張タービンの中心軸から前記可変ノズルの前記回動軸までの前記半径方向における距離をRとし、前記膨張タービンの中心軸から前記動翼の前記入口までの前記半径方向における距離をRとしたとき、R/R≧1.4を満たす。
前記構成(4)によれば、可変ノズル出口から動翼入口までの距離が広がり、この部分の距離が広がることで、可変ノズル出口側で作動流体の流速低下が起り、静圧の低下を抑制できる。そのため、可変ノズルの圧力面と負圧面間の圧力差を低減できるので、クリアランスフローを抑制でき、タービン効率を向上できる。
特に、小開度域では、流れ損失全体に占めるクリアランスフローに起因した損失の割合が高いため、上記構成(4)による効果(クリアランスフローの抑制によるタービン効率向上効果)が大きい。
【0015】
(5)幾つかの実施形態では、前記構成(1)〜(4)の何れかにおいて、
内燃機関からの排ガスによって駆動されるように構成された請求項1乃至6の何れか一項に記載の膨張タービンと、
前記膨張タービンによって駆動されて前記内燃機関への吸気を圧縮するように構成されたコンプレッサと、を備えたターボチャージャである。
前記構成(5)によれば、前記ターボチャージャにおいて、可変ノズルが小開度域のときのタービン効率の低下を抑制できると共に、可変ノズルが大開度域のときの作動流体の流量を確保することができる。また、所期の動翼性能が得られやすくなり、タービン効率を高く維持できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、可変ノズルが小開度域のときのタービン効率の低下を抑制すると共に、可変ノズルが大開度域のときの作動流体の流量を確保し、併せて、動翼性能の低下を抑制し、タービン効率の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係るターボチャージャの全体構成を示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係るターボチャージャの排気タービンを示す縦断面図である。
図3】一実施形態に係る膨張タービンの可変ノズル及び動翼周辺の構造を示す断面図である。
図4】一実施形態に係る膨張タービンの可変ノズル及び動翼周辺の構造を示す断面図である。
図5】一実施形態に係る膨張タービンにおける作動流体の流れを示す説明図である。
図6】従来の膨張タービンの一部拡大断面図である。
図7図6に示す従来の膨張タービンの作動流体の流れを示す説明図である。
図8】膨張タービンの作動流体の流量とタービン効率との関係を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載され又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一つの構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0019】
はじめに、本発明の適用対象であるターボチャージャについて説明する。本発明の適用対象であるターボチャージャは、内燃機関に吸気を強制的に送り込むための過給機であれば特に限定されず、例えば、自動車用のターボチャージャであってもよいし、舶用のターボチャージャであってもよい。
【0020】
図1は、一実施形態に係るターボチャージャの全体構成を示す図である。図2は、一実施形態に係るターボチャージャの排気タービンの詳細構造を示す断面図である。
【0021】
図1に示すターボチャージャ1は、自動車用のターボチャージャであり、自動車用エンジン6に装備されている。ターボチャージャ1は排気タービン1a、軸受台1b及びコンプレッサ1cで構成されている。排気タービン1aは、後で詳述する膨張タービン10A又は膨張タービン10Bによって構成されている。排気タービン1aは、タービンハウジング2aを有し、軸受台1bは軸受ハウジング2bを有し、コンプレッサ1cはコンプレッサハウジング2cを有している。
これらハウジングの内部に中心軸3がターボチャージャ1の軸方向に沿って設けられ、中心軸3は軸受(不図示)によって回転自在に支持されている。タービンハウジング2a側に位置する中心軸3の一端にタービンホイール4が固定され、コンプレッサハウジング2c側に位置する中心軸3の他端にコンプレッサホイール5が固定されている。
【0022】
自動車用エンジン6の排気口6aに排気管7が接続され、排気管7の他端はタービンハウジング2aの入口ケーシング2dに接続されている。コンプレッサハウジング2cの出口ケーシング2gに給気管8が接続され、給気管8の他端は自動車用エンジン6の給気口6bに接続されている。
排気口6aから排出された排ガスeは排気管7を経て、作動流体としてタービンハウジング2aのスクロール部に接線方向に流入し、タービンホイール4を回転させた後、出口開口2eから流出する。
【0023】
タービンホイール4の回転は中心軸3を介してコンプレッサホイール5に伝わり、コンプレッサホイール5の回転によってコンプレッサハウジング2cの入口開口2fから空気aが吸入される。入口開口2fから吸入された空気aはコンプレッサホイール5で圧縮され、コンプレッサハウジング2cの出口ケーシング2gから給気管8に吐出される。給気管8に吐出された高圧空気はインタークーラ9で冷却された後、給気口6bから自動車用エンジン6の燃焼室(不図示)に供給される。
【0024】
なお、図1に示した例示的な実施形態では、ターボチャージャ1の排気タービン(膨張タービン)1aが排ガスのみで駆動されるようになっているが、他の実施形態では、排ガスを主駆動源とし、モータを補助駆動源としてもよい。
【0025】
また、図2に示す例示的な実施形態では、排気タービン1aのタービンハウジング2aと軸受ハウジング2bとが結合具16で結合されている。軸受ハウジング2bに設けられ中心軸3を回転自在に支持する軸受20には、潤滑油路22から潤滑油rが供給される。なお、排気タービン1aとは反対側で軸受ハウジング2bに隣接してコンプレッサハウジング2c(図1参照)が設けられている。
前記ハウジング内にターボチャージャ1の軸方向に沿って設けられた中心軸3のタービン側端部には、タービンホイール4が固定されている。タービンホイール4は、中心軸3に固定されたハブ26と、ハブ26の外表面(ハブ面26a)に周方向に放射状に固定された複数の動翼28とで構成されている。
【0026】
タービンハウジング2aには、作動流体として排ガスeが導入されるスクロール部30が形成され、スクロール部30の内部に排ガスeが導入される渦巻き形状の空間sが形成されている。タービンハウジング2aは、タービンハウジング2aの外形を画定する外殻部12と、空間sの下流端付近に設けられるノズルプレート32と、ノズルプレート32に対向して設けられるノズルマウント34とを有する。
ノズルプレート32とノズルマウント34との間に、空間sに連通する流路fが形成されている。流路fに複数の可変ノズル36が中心軸3の周方向(排気タービン1aの周方向)に配置され、これら複数の可変ノズル36は動翼28の周囲に間隔を空けて配置されている。
【0027】
複数の可変ノズル36には夫々回動軸38が一体に結合されており、各可変ノズル36の回動軸38はノズルマウント34に形成された貫通孔からノズルマウント34の背面側に形成された空間に突出している。ノズルマウント34の背面側で、各回動軸38は同期機構40及び伝導軸(不図示)を介して軸受ハウジング2bの外部に設けられたアクチュエータ(不図示)に接続されている。
該アクチュエータを稼働させることで、複数の可変ノズル36を回動軸38を中心に同期して回動させることができる。複数の可変ノズル36を同期して回動させることで、空間sを通過した排ガスeが流路fを通過して動翼28に流入する際に、流路fの流路面積を変化させることができる。
【0028】
ノズルプレート32の一部は動翼28のチップ28aを覆うシュラウド壁面32aを構成している。タービンハウジング2aのノズルプレート32の壁面は、シュラウド壁面32aを含む第1壁面を構成し、ノズルプレート32に対向したタービンハウジング2aのノズルマウント34の壁面は第2壁面を構成している。これら、タービンハウジング2aの第1壁面及び第2壁面については、後で詳述する。
流路fは中心軸3の軸線Cと直交する方向、即ち、排気タービン1aの半径方向に沿って形成されており、排気タービン1aはラジアルタービンを構成している。
排気管7からスクロール部30の空間sに流入した排ガスeは、流路fに接線方向に流入する。流路fに流入した排ガスeは動翼28に達してタービンホイール4及び中心軸3を回転し、その後、中心軸3の軸線C上に形成された出口開口42から流出する。
【0029】
以下、排気タービン1aとして用いることができる膨張タービンの可変ノズル及び動翼周辺の構造について説明する。
【0030】
図3は、一実施形態に係る膨張タービンの可変ノズル及び動翼周辺の構造を示す断面図である。図4は、他の実施形態に係る膨張タービンの可変ノズル及び動翼周辺の構造を示す断面図である。
【0031】
幾つかの実施形態では、図3及び4に示すように、膨張タービン10(10A、10B)のタービンハウジング13は、動翼28のチップ28aに対向するシュラウド部(シュラウド壁面32a)を含む第1壁面50と、作動流体wの流路fを挟んで第1壁面50に対向する第2壁面52とを有する。図3及び図4に示す膨張タービン10(10A,10B)では、可変ノズル36の出口における翼高さは動翼28の入口における翼高さより大きく形成されている。また、可変ノズル36の出口の下流側でかつ動翼28の入口の上流側の第1壁面50に、作動流体の下流側に向かって流路fの流路高さが狭まるように、第2壁面52に向かって突出する突出部44,54が形成されている。図3及び図4に示す例示的な実施形態では、突出部44,54は、膨張タービン10の軸方向(軸線Cの方向)に対して傾斜した平面形状のテーパ面44a,54aを有する。
【0032】
突出部44,54の突出量は、突出部44の先端が動翼28の入口(前縁28b)におけるチップ28aを越えて第2壁面52側に突出しないように設定されている。即ち、動翼28の前縁28bにおける動翼根本の軸方向位置(前縁28bとタービンホイール24のハブ26のハブ面26aとの交点)を原点Oとし、動翼28の前縁28bにおけるチップ28aの軸方向位置をXとしたとき、突出部44の先端の軸方向位置Xは、0<X≦Xを満たしている。
なお、図3に示す例示的な実施形態では、突出部44の先端の軸方向位置Xが、動翼28の前縁28bにおけるチップ28aの軸方向位置と一致している(即ち、X=Xの条件を満たす)。一方、図4に示す例示的な実施形態では、突出部44の先端の軸方向位置Xが、動翼28の前縁28bにおけるチップ28aの軸方向位置よりもシュラウド側に後退している(即ち、X>Xの条件を満たす)。
【0033】
幾つかの実施形態では、突出部44,54のテーパ面44a,54aは軸方向に対して40度以下の角度で傾斜している。
【0034】
また、幾つかの実施形態では、図3及び図4に示すように、軸線Cから回動軸38の軸線までの半径方向の距離Rと、軸線Cから動翼28の入口(前縁28b)までの距離Rとの比は、1.4≦R/Rの条件を満たしている。
また、突出部44,54より上流側のシュラウド壁32aには、可変ノズル36の熱膨張による伸びを許容するため、最大開度時の可変ノズル36の出口端と突出部44,54(テーパ面44a,54a)との間に伸び代hが残るようになっている。
【0035】
かかる構成において、空間sから流路fに流入した作動流体wは可変ノズル36の開度調整により流量が調節される。可変ノズル36の出口で、第1壁面50(シュラウド側)に近い領域を流れる作動流体は、図5中の破線で示すように、突出部44,54の外表面(テーパ面44a,54a)に沿って流れる際に第2壁面52側へ寄せられ、この状態で動翼28の翼高さ方向で比較的均一に動翼28間の流路を流れ、タービンホイール24を回転させた後、出口開口42に流出する。
【0036】
上述した実施形態では、突出部44,54の先端が動翼28の入口のチップ28aを越えて第2壁面52側に突出しないように設定されている。即ち、動翼28の前縁28bにおける動翼根本の軸方向位置(前縁28bとタービンホイールのハブ26のハブ面26aとの交点)を原点Oとし、チップ28aの軸方向(軸線Cの方向)位置をXとしたとき、突出部44,54の先端の軸方向位置Xは、0<X≦Xを満たしているので、突出部44,54による縮流効果に起因した動翼28の入口における実効流路面積の低下を抑制できる。そのため、所期の動翼性能が得られやすくなり、タービン効率を高く維持できる。
【0037】
また、テーパ面44a,54aが軸方向に対してなす角度が40度以下であるため、動翼28の入口でテーパ面44a,54aに沿って作動流体wを第2壁面52側(ハブ側)へ十分寄せることができ、そのため、第1壁面50側(シュラウド壁32a側)への作動流体wの偏流が抑制される。これによって、動翼出口における流速分布を均一化し、混合損失を抑制することで、タービン効率が向上する。
【0038】
また、軸線Cから回動軸38の軸線までの半径方向の距離Rと、軸線Cから前縁28bまでの距離Rとの比が、1.4≦R/Rであるので、可変ノズル36の出口から動翼28の入口までの距離が広がり、この部分の距離が広がることで、可変ノズル出口側で作動流体wの流速低下が起り、静圧の低下を抑制できる。
そのため、可変ノズル36の圧力面と負圧面間の圧力差を低減できるので、クリアランスフローを抑制でき、タービン効率を向上できる。特に、小開度域では、流れ損失全体に占めるクリアランスフローの抑制によるタービン効率向上効果が大きい。
【0039】
また、上述した実施形態によれば、可変ノズル36の出口側翼高さを動翼28の入口側翼高さより大きくしたことで、隣接する可変ノズル36間の作動流体wの流路fにおけるスロート面積を増大させることができる。よって、可変ノズル36が大開度域のとき動翼28に流入する作動流体wの流量(最大流量)を十分に確保できる。
また、突出部44,54によって作動流体wは第2壁面52側(ハブ側)へ寄せられ、第1壁面50側(シュラウド側)への偏流が抑制される。そのため、動翼28の出口で膨張タービン10(10A,10B)の径方向における流速分布(流速Vの径方向分布)の不均一性が緩和され、混合損失が低減する。従って、可変ノズル36が小開度域にある場合でも、タービン効率を高く維持できる。
これによって、スクロール部の形状に依存することなく、可変ノズル36が小開度域のときのタービン効率を向上できると共に、可変ノズル36が大開度域のときの動翼28へ流入する作動流体wの流量(最大流量)を確保できる。
【0040】
図6及び図7は従来の膨張タービンを示しており、本実施形態を示す図3図5に対応する図である。一般に、可変ノズル36が小開度域のときは、作動流体wは強い旋回成分を持ちながら動翼28に流れ込み、作動流体wの半径方向の流速成分は小さい。
従来の膨張タービン100は、可変ノズル36の出口側翼高さと動翼28の入口側翼高さとは同等であり、かつテーパ面44a(54a)及び突出部44(54)が形成されていない。そのため、図7に示すように、可変ノズル36の小開度領域において、動翼28に流入する作動流体wが持つ旋回成分に起因した遠心力により、作動流体wはシュラウド壁32aの壁面を含む第1壁面50側に押し付けられやすい。
従って、作動流体wが第1壁面50側に押し付けられると、動翼28の出口において、作動流体wの流れは第1壁面50側に偏り、第1壁面50側で流速Vが大きく、第2壁面52側で流速が小さくなる。その結果、動翼28の下流側で流速不均衡を解消するように作動流体wが広がり、混合損失が起こりやすい。
【0041】
なお、上述した実施形態は本発明をラジアルタービンに適用した例であるが、本発明の適用対象はラジアルタービンに限定されず、例えば、斜流タービン及び該斜流タービンを有するターボチャージャにも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の少なくとも一態様によれば、可変ノズルが小開度域のときのタービン効率の低下を抑制すると共に、可変ノズルが大開度域のときの作動流体の流量を確保し、併せて、動翼性能の低下を抑制し、タービン効率の低下を抑制できる膨張タービンを実現できる。
【符号の説明】
【0043】
1 ターボチャージャ
1a 排気タービン
1b 軸受台
1c コンプレッサ
2a、13 タービンハウジング
12 外殻部
2d 入口ケーシング
2e、42 出口開口
2b 軸受ハウジング
2c コンプレッサハウジング
2f 入口開口
2g 出口ケーシング
3 中心軸
4 タービンホイール
5 コンプレッサホイール
6 自動車用エンジン
6a 排気口
6b 給気口
7 排気管
8 給気管
9 インタークーラ
10A、10B、100 膨張タービン
16 結合具
20 軸受
22 潤滑油路
26 ハブ
26a ハブ面
28 動翼
28a チップ
28b 前縁
30 スクロール部
32 ノズルプレート
32a シュラウド壁
34 ノズルマウント
36 可変ノズル
38 回動軸
40 同期機構
42 出口開口
44、54 突出部
44a、54a テーパ面
50 第1壁面
52 第2壁面
C 軸線
a 空気
e 排ガス
f 流路
h 伸び代
r 潤滑油
s 空間
w 作動流体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8