(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6426312
(24)【登録日】2018年11月2日
(45)【発行日】2018年11月21日
(54)【発明の名称】カフェインレス紅茶の製造方法及びその製造装置
(51)【国際特許分類】
A23F 3/36 20060101AFI20181112BHJP
A23F 3/06 20060101ALI20181112BHJP
【FI】
A23F3/36
A23F3/06 Z
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-14585(P2018-14585)
(22)【出願日】2018年1月31日
【審査請求日】2018年6月14日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511190339
【氏名又は名称】茶研究・原事務所株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080090
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 邦男
(72)【発明者】
【氏名】原 征彦
【審査官】
小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭61−056042(JP,A)
【文献】
特開2009−291160(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/092976(WO,A1)
【文献】
国際公開第2011/092977(WO,A1)
【文献】
国際公開第2011/092978(WO,A1)
【文献】
特開平07−227210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23F 3/00− 5/50
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紅茶製造過程において、摘採された茶葉を萎れさせ水分蒸発による重量減を伴いつつ花様の香りを発揚させる萎凋工程、萎凋葉を発酵促進させるための揉捻工程、より均一な発酵を行うために茶葉の粒度を揃える篩分け工程、恒温多湿の環境下で茶葉を発酵させる発酵工程、該発酵工程と、最後の乾燥工程との間において、発酵茶葉に熱水シャワーをかけてカフェイン濃度を低減させるのに、前記熱水シャワーの温度は90〜98℃、該熱水シャワーの処理時間は30〜180秒程度とすることでカフェイン低減化処理を行い、前記カフェイン濃度を低減させて紅茶を製造することを特徴とするカフェインレス紅茶の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のカフェインレス紅茶の製造方法において、前記熱水シャワーをかけるカフェイン低減化処理では、発酵止め処理を兼ねてなることを特徴とするカフェインレス紅茶の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のカフェインレス紅茶の製造方法において、前記最後の乾燥工程は、茶葉表面水分の除去処理と発酵止め抜きの乾燥処理とからなることを特徴とするカフェインレス紅茶の製造方法。
【請求項4】
請求項1,2又は3の何れか1項に記載のカフェインレス紅茶の製造方法において、前記熱水シャワーの処理時間は60〜120秒程度とすることを特徴とするカフェインレス紅茶の製造方法。
【請求項5】
摘採した茶生葉を萎凋させる萎凋設備と、萎凋茶葉を揉捻する装置と、該揉捻する装置にて揉捻茶葉を発酵させる発酵設備とがそれぞれ順次の工程として配置され、該発酵設備に隣接して次工程として発酵茶葉のカフェイン含量を熱水シャワーにて低減するカフェイン低減化処理設備と、最終工程でカフェイン低減化された発酵茶葉を乾燥させる乾燥設備とが備えられ、前記カフェイン低減化処理設備においては、前記発酵茶葉に熱水シャワーをかけてカフェイン濃度を低減させるのに、前記熱水シャワーの温度は90〜98℃、該熱水シャワーの処理時間は30〜180秒程度として構成されてなることを特徴とするカフェインレス紅茶の製造設備。
【請求項6】
請求項5に記載のカフェインレス紅茶の製造設備において、前記カフェイン低減化処理設備は、茶葉を輸送するための輸送速度を自在に設定可能なネット式の無端輸送帯と、該無端輸送帯上の予め決められた区間に配置された熱水配管に設けられた配置複数の熱水吐出口と、熱水を生成する手段と、熱水を貯蔵する熱水貯蔵タンクと、該熱水貯蔵タンクから熱水を汲み上げ熱水吐出口から吐出させるポンプとから構成され、前記無端輸送帯の一端から投入された発酵茶葉に対し、設定された温度の熱水を吐出し、発酵茶葉のカフェイン濃度を低減させることを特徴とするカフェインレス紅茶の製造設備。
【請求項7】
請求項6に記載のカフェインレス紅茶の製造設備において、前記熱水吐出口の出口箇所下面には、傾斜面片を有する散水板片が設けられ、該散水板片の前記傾斜面片に前記熱水配管からの熱水が吐出されてシャワー状に散水するように構成されてなることを特徴とするカフェインレス紅茶の製造設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紅茶製造過程におけるカフェイン低減化処理に関するカフェインレス紅茶の製造方法及びその製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、紅茶製造については、大きく分けて、摘採した茶葉を萎れさせ、茶葉水分をある程度取り除く「萎凋工程」、萎凋した茶葉を揉み込んで茶葉中の酸化酵素の活性を助ける「揉捻工程」、酸化酵素による酸化を促進させ、適切な発酵を得るための「発酵工程」、適切な発酵を終えた茶葉に対し、それ以上の発酵を抑制するための高温処理「発酵止め」、茶葉を5〜7%の保存に適切な水分にするための「乾燥工程」からなる。
【0003】
紅茶には一般に3〜4%程度のカフェインが含まれている。カフェインは覚醒作用や利尿作用、解熱鎮痛作用の効果がある反面、カフェインの摂取過多による睡眠障害や頭痛、中毒作用もあり、昨今コーヒーや紅茶、緑茶に含まれるカフェインの摂取を気にする人が増加している。
【0004】
これまでにも紅茶に含まれるカフェインの含有量を低減させたものは、例えば「デカフェ紅茶」などとして市販されているが、その低減化技術は、世界的にも2大製法があった。その1つ目が「酢酸エチル抽出法(処理)」であり、2つ目が「超臨界二酸化炭素抽出法(処理)」である。
【0005】
このようになっている背景には、緑茶製法とは異なる紅茶製法に大きく影響している。つまり、緑茶製造(日本式煎茶製造)においては、茶生葉を、まず最初に「蒸し」という処理工程を施すのが必須であり、これにより茶生葉中の酸化酵素など諸酵素が不活化され、酸化酵素によるカテキン類の酸化重合による褐変化(紅茶化反応)や葉緑素の酸化褐変化が防がれ鮮やかな緑色を呈する煎茶が得られる。
【0006】
前記「蒸し」は最短時間で茶生葉中の諸酵素を不活化する工程である。この既設の「蒸し」工程がある故、高温蒸気による「蒸し」に代え高温水で茶生葉を処理し、それにより茶生葉中のカフェインを他成分より優先的に除去するという工程を発想し、その工程を施すことは比較的容易である。この処理により得られる煎茶はカフェインが1/3ほどに低減するが、香味も対照品に比べ若干減少する。
【0007】
このように茶葉を熱水処理すると茶葉中のカフェインが他成分より容易に抽出されることが知られており、「緑茶」製造においては熱水シャワーをかけて茶生葉中のカフェイン含量を低減する方法(特許文献1)や、「緑茶」製造において茶生葉を熱水に浸漬する方法(特許文献2)等の技術が知られている。
【0008】
紅茶の製造工程の従来技術としては、
図11に示すように、摘採された茶葉を萎れさせ水分蒸発による重量減を伴いつつ花様の香りを発揚させる萎凋工程、萎凋葉を発酵促進させるための揉捻工程、より均一な発酵を行うために茶葉の粒度を揃える篩分け工程、恒温多湿の環境下で、茶葉を発酵させる発酵工程、適度な発酵を得た後それ以上の発酵を止めると共に、保存に適切な水分まで乾燥させる乾燥工程がある。この製造は、一貫して、紅茶の茶生葉の生産地にて製造されている。
【0009】
特に、紅茶製造においては、上の「緑茶」製造のプロセスをそのまま追従することは全くできない。なぜなら茶生葉を「蒸気」ないし「熱水」処理した瞬間に酸化酵素が不活化され、紅茶化反応が停止され、紅茶には成り得ないからである。そこでこれまで紅茶世界においてカフェインを低減ないし除去するために採られてきた方法は、既にできあがった紅茶に対して何等かの処理を加え、カフェインを低減除去しようということで、前述の2大製法が採用されている。
【0010】
その1つ目の「酢酸エチル抽出法(処理)」は、紅茶を酢酸エチルで処理し、酢酸エチルに易溶であるカフェインを除去する。しかしこの方法ではカフェインのほかに諸成分も殆どが酢酸エチル可溶であり、この処理後酢酸エチルを留去乾燥して得られるデカフェ紅茶は紅茶本来の香味が失われてしまうという重大な欠点がある。
【0011】
その2つ目の「超臨界二酸化炭素抽出法(処理)」は、紅茶(荒茶)を超臨界二酸化炭素で処理し、カフェインを除去するという方法である。しかし香味成分を含む多くの茶水可溶成分(紅茶飲用時の成分)はカフェインと同時に除去されるため、香味の薄れた紅茶となってしまう。すなわちデカフェにするために余分な手間をかけた上、紅茶本来の香味を失った茶が Decaffeinated black tea として世界的に製造、販売されている。
【0012】
このように世界2大製法となっている最大の原因は、紅茶原料(茶生葉)の生産地及び製造地がインド、スリランカ、ケニア、インドネシア等であり、この4ケ国でも世界製造量の約75%であり、全ての当該国で紅茶(荒茶)を完成していることにある。決して英国等で生産・製造しているのではなく、全て、完成後の紅茶(荒茶)を、英国等の外国に輸入されて、カフェインレス紅茶として製造されているのが現実である。
【0013】
従来より、紅茶(荒茶)からのカフェイン低減化技術は、製造コストがかかるものや、製造過程の溶媒について残留してはならないものもあり、手間の掛かる工程であることが多い。つまり、いずれの2大製法も、製造が完了した紅茶(荒茶)を再度カフェイン低減化のために再処理することになり、一度加工を終えた紅茶に対し再度カフェイン低減化処理を行うという意味でも手間がかかっていた。
【0014】
特に、従来の技術での最大の問題(欠点等)は、カフェインだけでなく味や香りも薄くなってしまい、紅茶本来の風味を呈し難いものも多く、最近は、それを補うための香り付け紅茶として販売しているものも多いのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2006−296355号公報(茶生葉低カフェイン処理装置)
【特許文献2】特開昭62−239952号公報(茶生葉の熱処理方法とその装置)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明が解決しようとする課題(技術的課題又は目的等)は、カフェインレス紅茶の安全・安心の課題が大きく要望されており、カフェインレス紅茶としての処理において、手間や処理中の溶媒残留などの安全性の面から、少ない手間で安全にカフェイン低減化できるとともに、できるだけ紅茶本来の風味を損なわないカフェイン低減化技術が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0017】
そこで、発明者は上記課題を解決すべく鋭意,研究を重ねた結果、請求項1の発明を、 紅茶製造過程において、摘採された茶葉を萎れさせ水分蒸発による重量減を伴いつつ花様の香りを発揚させる萎凋工程、萎凋葉を発酵促進させるための揉捻工程、より均一な発酵を行うために茶葉の粒度を揃える篩分け工程、恒温多湿の環境下で茶葉を発酵させる発酵工程、該発酵工程と、最後の乾燥工程との間において、発酵茶葉に熱水シャワーをかけてカフェイン濃度を低減させるのに、前記熱水シャワーの温度は90〜98℃、該熱水シャワーの処理時間は30〜180秒程度とすることでカフェイン低減化処理を行い、前記カフェイン濃度を低減させて紅茶を製造することを特徴とするカフェインレス紅茶の製造方法としたことにより、前記課題を解決したものである。
【0018】
請求項2の発明を、請求項1に記載のカフェインレス紅茶の製造方法において、前記熱水シャワーをかけるカフェイン低減化処理では、発酵止め処理を兼ねてなることを特徴とするカフェインレス紅茶の製造方法としたことにより、前記課題を解決した。請求項3の発明を、請求項1又は2に記載のカフェインレス紅茶の製造方法において、前記最後の乾燥工程は、茶葉表面水分の除去処理と発酵止め抜きの乾燥処理とからなることを特徴とするカフェインレス紅茶の製造方法としたことにより、前記課題を解決した。
【0019】
請求項4の発明を、請求項1,2又は3の何れか1項に記載のカフェインレス紅茶の製造方法において、前記熱水シャワーの処理時間は60〜120秒程度とすることを特徴とするカフェインレス紅茶の製造方法としたことにより前記課題を解決した。
【0020】
請求項5の発明を、摘採した茶生葉を萎凋させる萎凋設備と、萎凋茶葉を揉捻する装置と、該揉捻する装置にて揉捻茶葉を発酵させる発酵設備とがそれぞれ順次の工程として配置され、該発酵設備に隣接して次工程として発酵茶葉のカフェイン含量を熱水シャワーにて低減するカフェイン低減化処理設備と、最終工程でカフェイン低減化された発酵茶葉を乾燥させる乾燥設備とが備えられ、前記カフェイン低減化処理設備においては、前記発酵茶葉に熱水シャワーをかけてカフェイン濃度を低減させるのに、前記熱水シャワーの温度は90〜98℃、該熱水シャワーの処理時間は30〜180秒程度として構成されてなることを特徴とするカフェインレス紅茶の製造設備としたことにより前記課題を解決した。
【0021】
請求項6の発明を、請求項5に記載のカフェインレス紅茶の製造設備において、前記カフェイン低減化処理設備は、茶葉を輸送するための輸送速度を自在に設定可能なネット式の無端輸送帯と、該無端輸送帯上の予め決められた区間に配置された熱水配管に設けられた配置複数の熱水吐出口と、熱水を生成する手段と、熱水を貯蔵する熱水貯蔵タンクと、該熱水貯蔵タンクから熱水を汲み上げ熱水吐出口から吐出させるポンプとから構成され、前記無端輸送帯の一端から投入された発酵茶葉に対し、設定された温度の熱水を吐出し、発酵茶葉のカフェイン濃度を低減させることを特徴とするカフェインレス紅茶の製造設備としたことにより、前記課題を解決した。
【0022】
請求項7の発明を、請求項6に記載のカフェインレス紅茶の製造設備において、前記熱水吐出口の出口箇所下面には、傾斜面片を有する散水板片が設けられ、該散水板片の前記傾斜面片に前記熱水配管からの熱水が吐出されてシャワー状に散水するように構成されてなることを特徴とするカフェインレス紅茶の製造設備としたことにより、前記課題を解決した。
【発明の効果】
【0023】
請求項1の発明においては、一度加工を終えた紅茶(荒茶)に対してではなく、紅茶製造過程においての発酵工程と最後の乾燥工程との間において、発酵茶葉に熱水シャワーをかけることで、発酵止め処理を行うと共に、カフェイン濃度を低減させるカフェイン低減化処理ができ、特に顕著なる効果としては、カフェインレスでありながら紅茶本来の香味をできるだけ保った紅茶を製造することができたものである。
【0024】
この製法が特記できるのは、カフェインレスでありながら紅茶本来の香味をできるだけ保った紅茶に製造できる第1効果と、熱水という水成分のみで需要者にとって健康に安全・安心を提供できるという第2効果と、さらには、従来のように一度完成した紅茶(荒茶)を再加工するのではなく、従来の製造の途中での加工であり、トータル的なカフェインレス紅茶の製造費を安価にできるという第3効果との3大効果を同時に得た処に、極めて簡単な方法とはいえ、頗る多大な発明の効果を奏している。つまり、発明の世界において、「後知恵」ならば「極めて簡単とはいえ」この製法を発明するには、長い時間と試行錯誤の連続であり、試行の末、やっと到達したことも事実である。
【0025】
請求項2の発明では、請求項1の効果と同等の効果を奏する。請求項3の発明では、乾燥工程としても、従来公知の乾燥工程とは異なる点(茶葉表面水分の除去処理と発酵止め抜きの乾燥処理)は存在するが、乾燥装置としては、従来公知の揉乾装置や通常の乾燥を行うために比較的割安なる製法にてカフェインレス紅茶を製造できる。
【0026】
請求項4の発明では、前記熱水シャワーの処理時間は60〜120秒程度としたことで、より良好なるカフェインレス紅茶を製造できる。
【0027】
請求項5の発明では、カフェインレス紅茶の製造装置として、従来の一連の製造装置の中に、発酵茶葉のカフェイン含量を低減するカフェイン低減化処理設備を備えたことで、紅茶本来の香味をできる(第1効果)と共に、熱水シャワーという水成分のみの処理であり健康に安全・安心を提供できる(第2効果)と、さらには、従来のように再加工ではなく製造の途中での装置であり、トータル的なカフェインレス紅茶の製造費の安価性(第3効果)との3大効果発生の同時性にあり、頗る多大な効果を奏した装置を提供できる。
【0028】
請求項6の発明では、従来しられた公知の構成の装置であり、比較的安価に提供できる。さらに、請求項7の発明では、その散水板片で、発酵した茶葉に対して万遍なく散水することができるカフェインレス紅茶の製造装置を製造できる利点がある。
【0029】
〈発明の効果としての全般について〉
発酵後、通常の紅茶は「発酵止め」の工程があるが、熱水処理により茶葉中の酸化酵素の活性が失活するので、カフェイン低減化処理後は単なる乾燥工程でよい。これまでの従来公知のカフェインレス紅茶は、製造完了した紅茶を改めてカフェイン低減化処理にかけるものであるが、本製造方法では紅茶の製造過程の途中でカフェイン低減化処理を行うので、製造された紅茶は既にカフェイン濃度が低減されている。
【0030】
特に、
図5に示すように、紅茶中の他の主成分はそれほど減少していないのに、カフェイン濃度のみが減少しているために、紅茶の風味を損ないにくいという利点もあり、カフェインレスという付加価値に加え本来嗜好性の高い紅茶にあって十分嗜好的にも訴求できる製造法である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明のカフェインレス紅茶の製造方法の各工程又は処理として表した流れ図である。
【
図2】本発明のカフェインレス紅茶の製造装置示す簡略図である。
【
図3】(A)は熱水シャワー処理を行う熱水シャワー処理箇所の要部斜視図、(B)は(A)のX−X矢視の拡大断面図、(C)は(A)の一部斜視図である。
【
図4】(A)はカフェイン低減化処理時間とカフェインの残存率を表したグラフ、(B)は(A)のデータ表である。
【
図5】(A)は主要成分の含有量を表したグラフ、(B)は(A)のデータ表である。
【
図6】(A)は香気成分の比較を表したグラフ、(B)は(A)のデータ表。
【
図9】紅茶の味(風味)はどちらを好むかの表である。
【
図10】紅茶につき全体的にどちらを好むかの表である。
【
図11】公知技術としてのカフェインレス紅茶の製造方法の各工程又は処理として表した流れ図(主に世界2大製法入り)である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて説明すると、
図1に示すように、カフェインレス紅茶の製造法の紅茶製造過程において、発酵工程と、最後の乾燥工程との間の前記発酵工程後において、発酵紅茶に熱水シャワーをかけてカフェイン濃度を低減させるカフェイン低減化処理を行い、前記カフェイン濃度を低減させる紅茶を製造するである。
【0033】
特に、カフェインレス紅茶の発酵工程を行い、該発酵工程が十分に行われていたことが求められる。そして、乾燥工程に入るまでの間に熱水シャワー処理によるカフェイン低減化処理を行うことにより、従来のカフェインレス紅茶の製法とは全く異なる新たな製法である。
【0034】
本発明によるカフェイン低減化処理では、発酵茶葉に熱水シャワーをかけるために茶葉の温度が上昇し、結果として茶葉中の酸化酵素の活性が失活してしまう。即ち、それ以上の発酵が行われなくなる。つまり、熱水シャワーにて、発酵止め処理を同時に行うことができるものである。従来の世界的に製造されている紅茶(荒茶)の最終の乾燥工程では、最初に熱風的な乾燥を行って発酵止め処理をしているが、このような処理は本発明では必要がなく、省エネ作業ができる。
【0035】
具体的なカフェイン低減化処理装置について
図2及び
図3に基づいて説明する。まず、ホッパ1に投入された発酵茶葉は、輸送時間を自在に設定できるネット状の無端輸送帯3上をカキナラシ2で投入厚さを揃えられて処理室13へ輸送される。該処理室13では熱水タンク4で予め温度管理された熱水をポンプ11で圧送し、熱水配管12に多数設けられた熱水吐出口12a,12a,・・から吐出された熱水シャワーにてカフェイン低減化処理が行われる。
【0036】
前記熱水シャワーは、前記熱水配管12の前記熱水吐出口12a,12a,・・の下面側に固着された散水板片14を介してシャワー的に散水される。該散水板片14は傾斜面片14aと取付片14bとで構成されている。該取付片14bが前記熱水配管12にボルト等にて取り付けられている。具体的には、前記該散水板片14の前記傾斜面片14aの上方側位置に、前記熱水吐出口12a,12a,・・から吐出した熱水が当たってシャワー状に広がり、発酵された茶葉に当たるように構成されている。
【0037】
前記熱水タンク4の熱源は蒸気をタンク内に流入させることにより加熱しているが、熱水の温度をコントロールできる熱源ならば手段は問わない。処理の最終段階では、常温の清水により、茶葉を洗浄すると同時にポンプ8にて空気を圧送し冷却および表面水分の除去を行っている。処理に使われた熱水および清水は、回収槽9を通ってフィルタ10を通過させゴミなどの夾雑物を取り除いて再度熱水タンクで加熱され再利用される。
【0038】
熱水タンク4はカフェイン濃度が一定の値を超えないようにオーバーフローを設け一定の熱水は排出される。本装置の最終工程に設置された清水による洗浄および圧送空気による冷却、表面水分の除去はカフェイン低減化処理とは直接的な関係はないのでその有無や手段については必ずしも本装置の手段である必要は無い。
【0039】
熱水シャワーに用いる熱水温度は約90℃〜約98℃である。熱水温度は、低い場合同一時間におけるカフェインの低減率が悪くなってしまい、100℃を超えた場合には圧送時に蒸気が混入して茶葉に当たる熱水にムラが生じてしまうため、好ましくは、約95℃〜約98℃であり、望ましい。
【0040】
発酵茶葉に熱水シャワーを当てる処理時間は、ネットコンベヤの移送速度によって調節し、該ネットコンベヤの移送速度は該ネットコンベヤの駆動モータの回転数をインバータで変更して、約30秒〜約180秒になるように調節するとよい。その熱水シャワーを当てる好ましい処理時間は、約60秒〜約120秒である。熱水シャワーとしているが、
図3に示すように、散水板片14を介して散水しても茶葉に熱水をかけることが、シャワーの概念に本発明では包含されるものである。
【0041】
ところで、熱水を用いたカフェイン低減化処理方法は、熱水シャワーをかける方法ではなく、熱水槽に浸漬させり方法も知られている(特許文献2参照)。熱水を用いる点では本発明と本質的には同等であるが、浸漬式はカフェイン以外の成分も溶出しやすいのに対し、本発明の熱水シャワー方式はカフェイン以外の成分が溶出しにくい点がある。この点において、茶葉の表面側にカフェイン成分が存在しているとの有力な説もあり、この論理からは本発明での表面側を洗い落すという熱水シャワー方式がカフェイン低減化処理に優れているとも言えよう。
【0042】
〔実施例1〕
実施例1として、
図4(A)は、グラフ[カフェイン低減化処理時間とカフェインの残存率]であり、2016年一番茶時、60秒処理でカフェインの低減率58%、二番茶の90秒処理で63%であった。カフェインの低減率に対し、ポリフェノールの低減率は、それぞれ12%、14%であった。
図4(B)は
図4のグラフ(A)のデータ表である。
【0043】
図4(A)のグラフ[カフェイン低減化処理時間とカフェインの残存率]は、本発明によるカフェイン低減化処理装置を用いた、処理時間に対するカフェイン残存率である。処理時間は、時間をかけるほどカフェインの残存率は低くなるものの香気が乏しくなりまた色褪せもあった。また120秒以降はカフェインの低減率は大きく変わらなかったので処理後の製品品質も考慮して、処理時間は60〜120秒が望ましい。
【0044】
〔実施例2〕
実施例2として、
図5(A)は、グラフ[主要成分の含有率]であり、2016年二番茶の90秒処理の本発明によるカフェインレス紅茶の主要成分について、カフェイン低減化未処理の紅茶との比較である。カフェインが選択的に低減できているのが、グラフからも明らかである。
図5(B)は
図5のグラフ(A)のデータ表である。
【0045】
〔実施例3〕
実施例3として、
図6(A)は、グラフ[香気成分の比較]であり、同じく本発明により2016年二番茶の90秒処理で製造されたカフェインレス紅茶と、海外で市販されているDecaffeinated 紅茶との香気成分群の比較である。それぞれの香気成分群において、本発明による製造を経たカフェインレス紅茶の方が、より高い数値を示している。
図6(B)は
図6のグラフ(A)のデータ表である。
【0046】
乾燥工程では、熱水シャワーをかけることにより、その後の乾燥工程が負荷が大きくなるように思えるが、茶葉の表面に付着するだけなので、乾燥時間は短い時間で済む。実施例では製茶機械の粗揉機を用いたが、凡そ30分ほどで、従来の紅茶の乾燥工程に用いる乾燥機に投入できるだけの水分にまで乾燥できた。
【0047】
〔実施例4〕〜〔実施例7〕について
〔実施例4〕が「紅茶の香りはどちらを好むか」の表である([
図7]参照)。
〔実施例5〕が「紅茶の水色はどちらを好むか」の表である([
図8]参照)。
〔実施例6〕が「茶の味(風味)はどちらを好むか」の表である([
図9]参照)。
〔実施例7〕が「紅茶につき全体的にどちらを好むか」の表である([
図10]参照)。
【0048】
本発明により製造した紅茶について、消費者に外国で製造されている市販紅茶と比較試飲してもらい嗜好調査を行った。本発明により製造された紅茶は2017年7月に製造した「やぶきた」品種をカフェイン低減化処理70秒したものを使用した。抽出条件は、熱湯200mlに対し茶葉3gの割合で入れ、3分間抽出したのち消費者に呈した。比較試飲した消費者のうち、614名からアンケートの回答を得た。具体的には、紅茶の香り、紅茶の水色(水の色)、紅茶の味(風味)、紅茶につき全体的にはどちらを好むかについて実施例を試みた。
【0049】
つまり、〔実施例4〕として、グラフ[香りの評価](
図7参照)が、〔実施例5〕として、グラフ[水色の評価](
図8参照)、〔実施例6〕として、グラフ[味(風味)の評価](
図9参照)、〔実施例7〕として、グラフ[全体的な評価](
図10参照)がそれぞれ得られた。
【0050】
このように、
図7乃至
図10の〔実施例4〕乃至〔実施例7〕は、アンケートの結果を示したものであり、本発明により製造した紅茶は、海外製市販紅茶と比べいずれの場合にも高い割合で好まれるという結果であった。成分分析における結果とあわせて本発明は風味を損ないにくい製法であることが判る。
【0051】
なお、
図7乃至
図10のグラフ[香りの評価]「紅茶の香りはどちらを好むか」、[水色の評価]「茶の水色はどちらを好むか」、[味(風味)の評価]「茶の味(風味)はどちらを好むか」、[全体的な評価]「紅茶につき全体的にどちらを好むか」のそれぞれのデータ表は次の通りである。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、世界2大製法となっている茶葉の生産及び製造国(例えば、主にインド、スリランカ、ケニア、インドネシア等でこの4ケ国でも世界製造量の約75%)で、本発明の製造法及びその製造装置を採用することで、カフェインレス紅茶を必要とする世界中の需要者に多大なる健康と利益(味覚及び経済性)を供給できるという国際貢献ができ得るものである。
【符号の説明】
【0053】
1…ホッパ、2…カキナラシ、3…無端輸送帯、4…熱水タンク、9…回収槽、
10…フィルタ、11…ポンプ、12…熱水配管、12a…熱水吐出口、13…処理室、
14…散水板片、14a…傾斜面片。
【要約】
【目的】紅茶製造過程におけるカフェイン低減化処理に関するカフェインレス紅茶の製造方法及びその製造装置とすること。
【構成】紅茶製造過程において、発酵工程と、最後の乾燥工程との間において、発酵茶葉に熱水シャワーをかけてカフェイン濃度を低減させるカフェイン低減化処理を行い、前記カフェイン濃度を低減させて紅茶を製造するカフェインレス紅茶の製造方法とすること。摘採した茶生葉を萎凋させる萎凋設備と、萎凋茶葉を揉捻する装置と、揉捻茶葉を発酵させる発酵設備と、発酵茶葉のカフェイン含量を熱水シャワーにて低減するカフェイン低減化処理設備と、カフェイン低減化された発酵茶葉を乾燥させる乾燥設備とで構成されたカフェインレス紅茶の製造設備とすること。
【選択図】
図1