(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6426400
(24)【登録日】2018年11月2日
(45)【発行日】2018年11月21日
(54)【発明の名称】車両用変速装置
(51)【国際特許分類】
F16H 57/04 20100101AFI20181112BHJP
【FI】
F16H57/04 N
F16H57/04 P
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-166621(P2014-166621)
(22)【出願日】2014年8月19日
(65)【公開番号】特開2016-41976(P2016-41976A)
(43)【公開日】2016年3月31日
【審査請求日】2017年5月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】兼田 健介
【審査官】
前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−62995(JP,A)
【文献】
特開2012−141050(JP,A)
【文献】
実開昭52−24185(JP,U)
【文献】
実開昭58−138856(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油が貯留されるケースと、
前記ケース内部に収容されて、当該ケースに対して回転自在なリングギヤと、
前記ケースに対して前記リングギヤを回転自在に支持するリングギヤ用ベアリングと、
前記ケース内部で前記リングギヤに噛合して当該リングギヤを回転させるドライブピニオンギヤと、
前記ケースに対して前記ドライブピニオンギヤを回転自在に支持するドライブピニオンギヤ用ベアリングと、
前記リングギヤの下部を覆うバッフルプレートと、
前記ケース内部と連通するとともに、前記ドライブピニオンギヤ用ベアリングを収容する収容室と、
前記収容室の下部を前記ケースの内側から覆うカバーを有し、前記ケース内に貯留された前記潤滑油の油面よりも高い位置で前記潤滑油を前記収容室内に貯留して、前記ドライブピニオンギヤ用ベアリングの下部を前記潤滑油に浸すためのドライブピニオンギヤ用貯留部とを備えることを特徴とする車両用変速装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両用変速装置において、
前記ケース内に貯留された前記潤滑油の油面よりも高い位置で前記潤滑油を貯留して、前記リングギヤ用ベアリングの下部を前記潤滑油に浸すために、前記リングギヤ用ベアリングの近傍に設けられたリングギヤ用貯留部を備えることを特徴とする車両用変速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用変速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用変速装置においては、リングギヤを回転させてケース内の潤滑油をかき上げることで、リングギヤに噛合するドライブピニオンギヤを潤滑させるようになっている(例えば特許文献1参照)。
図2は、従来の車両用変速装置の要部構成を示す模式図であり、(a)は(b)における矢印A方向から見た図、(b)は(a)における矢印B方向から見た図である。
以下、
図2を参照して具体的に説明する。
図2に示すように従来の車両用変速装置に備わるケース101内には、ケース101に対してベアリング102を介して回転自在に支持されたリングギヤ103と、リングギヤ103を回転させるべく、当該リングギヤ103に噛合するドライブピニオンギヤ104とが設けられている。ドライブピニオンギヤ104は、ケース101に対してベアリング105を介して回転自在に支持されている。ドライブピニオンギヤ104には、図示しない推進軸が締結されたドライブシャフト106が一体的に形成されている。エンジンの動力が推進軸を介してドライブシャフト106に伝達すると、ドライブピニオンギヤ104が回転して、それに伴ってリングギヤ103も回転するようになっている。
また、リングギヤ103の下部は、撹拌抵抗を低減するためのバッフルプレート107によって覆われている。
ベアリング102,105は、略同じ高さ位置に配置されていて、これらのベアリング102,105の下部が浸かるようにケース101内部に潤滑油が貯留されている。潤滑油の油面は
図2の一点鎖線L4である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−209555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ドライブピニオンギヤ104のベアリング105の潤滑性を確保すべく、当該ベアリング105が潤滑油に浸かるような油面L4としてしまうと、リングギヤ103における潤滑油に浸かった部分が大きくなり、撹拌抵抗も高まってしまう。撹拌抵抗の高まりは、燃費悪化に繋がり好ましくない。
本発明の課題は、油面の高さを下げてリングギヤに対する撹拌抵抗を抑えつつも、ドライブピニオンギヤのベアリングに対しても潤滑油を供給可能とすることで、潤滑正を確保しながらも燃費の向上化を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するための請求項1記載の発明に係る車両用変速装置は、
潤滑油が貯留されるケースと、
前記ケース内部に収容されて、当該ケースに対して回転自在なリングギヤと、
前記ケースに対して前記リングギヤを回転自在に支持するリングギヤ用ベアリングと、
前記ケース内部で前記リングギヤに噛合して当該リングギヤを回転させるドライブピニオンギヤと、
前記ケースに対して前記ドライブピニオンギヤを回転自在に支持するドライブピニオンギヤ用ベアリングと、
前記リングギヤの下部を覆うバッフルプレートと、
前記ケース内部と連通するとともに、前記ドライブピニオンギヤ用ベアリングを収容する収容室と、
前記収容室の下部を前記ケースの内側から覆うカバーを有し、前記ケース内に貯留された前記潤滑油の油面よりも高い位置で前記潤滑油を
前記収容室内に貯留して、前記ドライブピニオンギヤ用ベアリングの下部を前記潤滑油に浸すため
のドライブピニオンギヤ用貯留部とを備えることを特徴としている。
【0006】
請求項1記載の発明によれば、ドライブピニオンギヤ用貯留部が、ドライブピニオンギヤ用ベアリングの下部を潤滑油に浸しているので、ドライブピニオンギヤ用ベアリングに対して確実に潤滑油を供給することができる。また、ケース内の潤滑油の油面は、ドライブピニオンギヤ用貯留部に貯留された潤滑油の油面よりも低いために、油量を減らすことができ、リングギヤに対する撹拌抵抗を抑えることができる。したがって燃費を高めることが可能である。
【0007】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の車両用変速装置において、
前記ケース内に貯留された前記潤滑油の油面よりも高い位置で前記潤滑油を貯留して、前記リングギヤ用ベアリングの下部を前記潤滑油に浸すために、前記リングギヤ用ベアリングの近傍に設けられたリングギヤ用貯留部を備えることを特徴としている。
【0008】
請求項2記載の発明によれば、リングギヤ用貯留部が、リングギヤ用ベアリングの下部を潤滑油に浸しているので、リングギヤ用ベアリングに対しても確実に潤滑油を供給することができる。また、ケース内の潤滑油の油面は、リングギヤ用貯留部に貯留された潤滑油の油面よりも低いために、リングギヤに対する撹拌抵抗を抑えることができ、燃費をより高めることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、油面の高さを下げてリングギヤに対する撹拌抵抗を抑えつつも、ドライブピニオンギヤのベアリングに対しても潤滑油を供給することができ、潤滑正を確保しながらも燃費を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係る車両用変速装置の要部構成を模式的に示す説明図である。
【
図2】従来の車両用変速装置の要部構成を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施形態につき図面を参照して説明する。以下は本発明の一実施形態であって本発明を限定するものではない。
【0012】
以下、図面を参照しながら、この発明の一実施形態について詳しく説明する。
図1は、本実施形態に係る車両用変速装置の要部構成を模式的に示す説明図であり、(a)は(b)における矢印A方向から見た図、(b)は(a)における矢印B方向から見た図である。なお、本実施形態では、後述するドライブシャフト41が水平面に対して傾くように車両用変速装置1が配置されている場合を例示しており、このドライブシャフト41の軸方向に沿った方向をA方向としている。
【0013】
図1に示すように、車両用変速装置1には、ケース2と、ケース2内部に収容されて、当該ケース2に対して回転自在なリングギヤ3と、ケース2内部でリングギヤ3に噛合して当該リングギヤ3を回転させるドライブピニオンギヤ4と、リングギヤ3の下方を覆って撹拌抵抗を低減するためのバッフルプレート5とを備えている。
【0014】
ケース2には、リングギヤ3の下部及びバッフルプレート5の下部が浸される程度に潤滑油が貯留されている。この潤滑油の油面は
図1中、一点鎖線L1で示す。
リングギヤ3は、一対のリングギヤ用ベアリング6によってケース2に対して回転自在に支持されている。ケース2の内部には、一対のリングギヤ用ベアリング6が収容される第一収容凹部21が形成されている。第一収容凹部21の下部には、当該第一収容凹部21内に潤滑油を貯留するためのリングギヤ用貯留部7が設けられている。
【0015】
リングギヤ用貯留部7には、バッフルプレート5に支持されていて、外側の先端部がケース2の内面に当接するように水平方向に延在する支持部71と、支持部71の先端部から上方に向けて延在し、第一収容凹部21の下部をケース2の内側から覆うカバー部72とが備えられている。このような構成であるため、第一収容凹部21内の潤滑油がカバー部72によって遮られて第一収容凹部21内に溜まることとなる。カバー部72の高さは、リングギヤ用ベアリング6の下部を浸すくらい第一収容凹部21内に溜まった潤滑油を維持することのできる高さとする。また、第一収容凹部21内の潤滑油が一定量を超えないように、超えた量だけ排出することのできる排出口やスリットを所定の高さ位置に設けることが好ましい。
そして、第一収容凹部21及びリングギヤ用貯留部7は、リングギヤ3の回転軸近傍に配置されるため、リングギヤ用貯留部7によって第一収容凹部21に溜まる潤滑油の油面(
図1では一点鎖線L2で示す。)は、ケース2内の潤滑油の油面L1よりも高い位置に配されることになる。
【0016】
ドライブピニオンギヤ4には、図示しない推進軸が締結されたドライブシャフト41が一体的に形成されている。エンジンの動力が推進軸を介してドライブシャフト41に伝達すると、ドライブピニオンギヤ4が回転して、それに伴ってリングギヤ3も回転するようになっている。ドライブピニオンギヤ4は、ドライブピニオンギヤ用ベアリング8によってケース2に対して回転自在に支持されている。ケース2の内部には、ドライブピニオンギヤ用ベアリング8が収容される第二収容凹部22が形成されている。第二収容凹部22の下部には、当該第二収容凹部22内に潤滑油を貯留するためのドライブピニオンギヤ用貯留部9が設けられている。
【0017】
ドライブピニオンギヤ用貯留部9は、略扇板状に形成されていて、ドライブピニオンギヤ4に干渉しないように、第二収容凹部22の下部をケース2の内側から覆っている。ドライブピニオンギヤ用貯留部9は、ケース2の内面に当接しており、これにより、第二収容凹部22内の潤滑油がドライブピニオンギヤ用貯留部9によって遮られて第二収容凹部22内に溜まることとなる。ここで、第二収容凹部22内にドライブピニオンギヤ用ベアリング8の下部を浸すくらいの潤滑油が溜まるように、ドライブピニオンギヤ用貯留部9の形状が設定されている。また、第二収容凹部22内の潤滑油が一定量を超えないように、超えた量だけ排出することのできる排出口やスリットを所定の高さ位置に設けることが好ましい。
そして、第二収容凹部22及びドライブピニオンギヤ用貯留部9は、ドライブピニオンギヤ4の回転軸近傍に配置されるため、ドライブピニオンギヤ用貯留部9によって第二収容凹部22に溜まる潤滑油の油面(
図1では一点鎖線L3で示す。)は、ケース2内の潤滑油の油面L1よりも高い位置に配されることになる。
【0018】
以下、本実施形態の作用について説明する。
エンジンが駆動してその動力が推進軸を介してドライブシャフト41に伝達すると、ドライブピニオンギヤ4が回転して、それに伴ってリングギヤ3も回転する。このとき、回転するリングギヤ3によって、ケース2内の潤滑油が掻き上げられ、ケース2内に潤滑油の液滴が飛散する。飛散した潤滑油の一部は、第一収容凹部21内に到達して(
図1の矢印U1参照)、第一収容凹部21内に溜まり、リングギヤ用ベアリング6を潤滑する。
また、回転に伴ってリングギヤ3からドライブピニオンギヤ4に到達した潤滑油は、遠心力によって徐々に第二収容凹部22に流れ込み(
図1の矢印U2参照)、第二収容凹部22に溜まって、ドライブピニオンギヤ用ベアリング8を潤滑する。
【0019】
以上のように本実施形態によれば、ドライブピニオンギヤ用貯留部9が、ドライブピニオンギヤ用ベアリング8の下部を潤滑油に浸しているので、ドライブピニオンギヤ用ベアリング8に対して確実に潤滑油を供給することができる。また、ケース2内の潤滑油の油面L1は、ドライブピニオンギヤ用貯留部9に貯留された潤滑油の油面L3よりも低いために、油量を減らすことができ、リングギヤ3に対する撹拌抵抗を抑えることができる。したがって潤滑正を確保しながらも燃費を高めることが可能である。
【0020】
また、リングギヤ用貯留部7が、リングギヤ用ベアリング6の下部を潤滑油に浸しているので、リングギヤ用ベアリング6に対しても確実に潤滑油を供給することができる。また、ケース2内の潤滑油の油面L1は、リングギヤ用貯留部7に貯留された潤滑油の油面L2よりも低いために、リングギヤ3に対する撹拌抵抗を抑えることができ、燃費をより高めることができる。
なお、本発明は上記実施形態に限らず適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0021】
1 車両用変速装置
2 ケース
3 リングギヤ
4 ドライブピニオンギヤ
5 バッフルプレート
6 リングギヤ用ベアリング
7 リングギヤ用貯留部
8 ドライブピニオンギヤ用ベアリング
9 ドライブピニオンギヤ用貯留部
21 第一収容凹部
22 第二収容凹部
41 ドライブシャフト
71 支持部
72 カバー部