【実施例】
【0049】
以下、実施例を用いて、本発明を具体的に説明する。実施例に示されたものは、本発明の実施形態の一例であり、本発明はこれに限定されるものではない。 本実施例においては、凍結乾燥製剤の容器として、「ハンプ注射用1000」用円筒形ガラスバイアル(胴外径24.5 mm、内径22.1mm)を採用した。
【0050】
<実施例1:精製白糖の配合条件の検討(白糖プラセボ製剤)>
主な製剤成分として精製白糖が配合され、良好な製品特性を有する凍結乾燥製剤の製剤設計を見出すため、製剤処方及び製造工程(凍結乾燥用液)における精製白糖の配合条件(以下、「白糖配合条件」)を検討した。
本試験における精製白糖量の検討範囲は以下の理由により定めた。カルペリチド現行製品(製品名:「ハンプ注射用1000」)の用法用量においては、製剤1本(バイアル1本)を注射用水10 mLで再溶解することから、本検討においては、医療現場での投薬準備の効率性を維持もしくは向上する観点から、再溶解液の種類は変更せず、量は現行製品以下(10 mL以下)であることが望ましい。一方、医療現場における調剤において、再溶解後の溶液をシリンジ等で抜き取った後の、製剤容器への付着などによる溶液の残存率(残液率)は、溶液量が小さいほど大きくなるため、製品設計においては、この残液率ができるだけ小さくなるように再溶解液量を設定する必要がある。したがって、今回の製品設計においては、再溶解液量を1〜10 mLの範囲に設定した。
また、カルペルチド製剤は、医療現場において注射用水による再溶解後、輸液による希釈なしで直接投与される場合があるため、溶解後は等張である必要がある。精製白糖を主成分とする製剤の場合、等張確保に要する溶解液量は、精製白糖量の約10倍(精製白糖100 mgに対して注射用水約1 mL)である。今回の製品設計において、注射用水量を1〜10 mLとしたことから、精製白糖量の検討範囲は100〜1000 mgとした。
本検討においては、製剤1本(バイアル1本)あたりの精製白糖量(以下、「白糖量」)、凍結乾燥用の溶液における精製白糖の濃度(以下、「白糖濃度」)を変動要因として、また、凍結乾燥体の外観形状及び水分を製剤品質特性として評価を行った。
なお、本試験は、凍結乾燥体の外観、水分などの物理的特性に主眼を置くため、検討対象とするカルペリチド含有量と精製白糖量の比率から、カルペリチドによるこれら物理的特性への影響はほとんど無視できると判断し、本試験は、カルペリチドを含有しない製剤(白糖プラセボ製剤)を用いて実施した。
【0051】
(1)白糖プラセボ製剤の調製(配合例1〜17)
精製白糖(日本薬局方、塩水港精糖株式会社)を、表1の各配合例における所定の白糖濃度となるように精製水に溶解した。白糖溶液をフィルター(Stericup-GV 0.22μm、PVDF、Millipore Corporation)にて濾過した後、テーハー分注機(FH-10s、株式会社ヒラサワ)またはマイクロスケールピペット(PIPETMAN、GILSON, Inc.など)を用い、同様に所定の充填量となるようにガラスバイアル(胴外径24.5 mm)、大和特殊硝子株式会社)に充填した。充填済バイアルに、ゴム栓(V10-F8 D713 RB2-40、株式会社大協精工)を半打栓した後、凍結乾燥機(RL-30KPs、共和真空株式会社)に搬入し、予備凍結(−50℃設定)、引き続いて真空条件下(20 Pa設定)で凍結乾燥(一次乾燥:−20〜−5℃設定、二次乾燥:40℃設定)を行い、乾燥終了後にバイアル内を、窒素導入により復圧した。バイアルにゴム栓を全打栓した後、巻締機(GAC-01、株式会社稲葉機械製作所)を用いてフリップオフキャップ(APキャップ、20AP7.0H、石田プレス工業株式会社)でバイアルを巻き締めし、配合例1〜17の白糖プラセボ製剤を得た。
【0052】
【表1】
【0053】
(2)凍結乾燥製剤の熱苛酷保管後の製剤品質特性の分析
上記(1)で作製した凍結乾燥製剤を40℃75%RHに設定した恒温恒湿槽(LH31-15M型、株式会社ナガノ科学機械製作所)、または、50℃に設定した恒温槽(LH20-01型、株式会社ナガノ科学機械製作所)で1ヶ月間保管した。製剤の製造時、及び、各条件での保管前後に、凍結乾燥体の外観形状及び水分含量を、以下の方法で評価した。
【0054】
[方法:凍結乾燥体の外観評価]
凍結乾燥製剤の外観形状を目視観察し、以下の通り3段階で符号判定した。製造時には、無作為に選択した23〜25本を観察した。熱苛酷保管では、各温度での保管前に外観形状が良好なものの中から3本を無作為に選択し、保管前後に同一の製剤を観察した。これらの結果を表2及び表3に示した。
○:良好な形状(正常形状)
△:おおむね良好な形状(正常形状と比較し、軽微な変化のみ認められる)
×:不良な形状(形状不良:正常形状と比較し、著しいシュリンクなどの大きな変化が認められる)。
【0055】
[方法:凍結乾燥体の水分測定]
凍結乾燥体の10 mg以上を、吸湿低減のための湿度環境下、ガラス製密栓付採取管に秤量し、電量滴定式微量水分測定装置(CA-100型、三菱化学株式会社)により水分量(凍結乾燥体重量の含水率、%)を測定した。各測定時に無作為に選抜した2または3本について測定し、含水率の平均値を表2及び表3に示した。
【0056】
[結果] 配合例1〜7の製剤(白糖量1000 mgまたは500mg/バイアル)の製造時、40℃75%RH1ヶ月保管後、50℃1ヶ月保管後の外観形状、含水率を表2に示した。同様に、配合例8〜17(白糖量300 mgまたは100 mg/バイアル)の製剤の外観形状、含水率を表3に示した。各配合例について、良好な製剤品質と判定するに当たり、製造時及び熱苛酷保管の全ての時点において、外観形状が○又は△の評価であり、且つ、含水率が1%以下、であることを判定基準とした。
配合例5〜12の製剤(白糖量500 mg/バイアル(白糖濃度125 mg/mL以下)または300 mg/バイアル)は、製造時、熱苛酷保管後ともに外観、水分の判定基準に適合しており、これらの条件でカルペリチド製剤を製造したとき、熱安定性など、良好な製品特性が確保できることを示す。
一方、配合例1〜4の製剤(白糖量1000 mg/バイアルまたは500 mg/バイアル(白糖濃度160 mg/mL以上)は、いずれも製造時に明らかな外観不良(1割以上の×判定)を生じ、また、製造時の水分は1%以上であり、外観、水分共に判定基準に不適合であった。配合例1及び配合例4の製剤のうち、製造時の外観が良好であった製剤について、熱苛酷保管後の評価を実施したところ、50℃保管で外観不良(判定基準へ不適合)となる検体を認めた。これは、水分が判定基準を満足しない製剤には、その熱安定性に不安があることを示している。
配合例13〜17の製剤(白糖量100 mg/バイアル)は、製造時は外観、水分共に判定基準を満足するが、熱苛酷1ヶ月保存後に水分が1%以上への増加(判定基準への不適合)を認めた。白糖量が少ない製剤では、製剤容器の密栓に使用するゴム栓の保有水分の影響を受け、保管中に水分含量が上昇し、製品特性が変化する可能性が示唆された。
【0057】
【表2】
【0058】
※:製造時の外観評価が○判定(外観変化がなし)の製剤を無作為に選抜して各温度下で保管。外観は実測値(製剤3本の判定符号)を記載.−:測定せず.
【0059】
【表3】
【0060】
※:外観評価が○又は△判定(外観変化がなし又は軽微)の製剤を無作為に選抜して各温度下で保管。外観は実測値(製剤3本の判定符号)を記載.−:測定せず.
【0061】
これらの結果から、凍結乾燥のための容器として胴外径24.5 mm(内径22.1mm)のガラスバイアルを用い、精製白糖を主な固形成分とする凍結乾燥製剤の製造において、外観形状、水分の判定基準を満足する白糖配合条件は、白糖量については300 mg(容器内部断面積当り0.78 mg/mm
2)〜500 mg/バイアル(容器内部断面積当り1.30mg/mm
2)、白糖濃度については48〜125 mg/mL(充填量は2.5 〜6.25 mL/バイアル)であることが示された。
【0062】
当該条件において、製造時の品質特性に着目してみると、バイアル当りの精製白糖量が多い、又は、充填液の白糖濃度が高い場合には、製造時の外観不良の割合が高く、含有水分も高い傾向があった。これらの凍結乾燥体では凍結乾燥工程における水分除去が正常に進行しなかったものと考えられる。凍結乾燥工程の水分除去は、凍結した水分が昇華し、凍結乾燥体の上面から放出されることで進行するため、凍結乾燥体上面の面積(容器の内部断面積)当たりの白糖量が少ないほど、水分の除去効率は高くなると考えられる。本検討においても、同一サイズのバイアルにおいて、白糖量が少ないほど、及び、白糖濃度が低いほど、製造時の含水率が低い傾向があった。従って、製造時に良好な製剤品質特性を確保するためには、容器内部断面積当たりの精製白糖量を少なくする(通常約1.85mg/mm
2以下)する必要がある。また、同様の目的で、凍結乾燥に用いる充填液の濃度は、配合例4(160mg/mL)の場合の品質特性が、基準にわずかに届かなかったことを考慮すると、140mg/mL以下程度であることが望ましいと考えられる。
【0063】
また、熱苛酷保管後において良好な品質特性を確保するためには、製造時の含有水分が少ないことが重要であるが、製造時の水分含量が十分に低い場合であっても、バイアル当たりの白糖量が少なすぎる場合には、ゴム栓等に含まれる水分を保管中に凍結乾燥体が吸収してしまうことの影響が無視できず、保管後の水分含量が規定値以上となってしまうことが示唆された。ゴム栓のサイズは、バイアル径に比例して大きくなることから、ゴム栓の水分の影響を考える場合にも容器の内部断面積当たりの白糖量として考える必要があり、内部断面積当たり約0.50mg/mm
2以上とする必要があるものと考えられる。
【0064】
<実施例2:実薬製剤の製造及び評価>
実施例1で好ましいと判断された白糖配合条件(内径22.1mmのバイアル1本につき300〜500 mg)、白糖濃度(125 mg/mL以下)によりカルペリチド含有製剤(カルペリチド1mg含有)を製造し、製造時の特性、及び、熱安定性を評価した。
(1)配合例A(カルペリチド1 mg/バイアル、白糖量500 mg/バイアル(1.30mg/mm
2)、白糖濃度100mg/mL(10%))の凍結乾燥製剤の製造
カルペリチド 81.6 mg(カルペリチドの設計含量1mg設計に対し、2%の増仕込み)及び精製白糖(日本薬局方、塩水港精糖株式会社)40 gを精製水に溶解した後、精製水で全量を400mLとした。この溶液をフィルター(Stericup-GV 0.22μm、PVDF、Millipore Corporation)にて濾過した後、テーハー分注機(FH-10s、株式会社ヒラサワ)またはマイクロスケールピペット(PIPETMAN、GILSON, Inc.など)を用い、5 mLをガラスバイアル(胴外径24.5 mm、内径22.1 mm)、大和特殊硝子株式会社)に充填した。充填済バイアルに、ゴム栓(V10-F8 D713 RB2-40、株式会社大協精工)を半打栓した後、凍結乾燥機(RL-30KPs、共和真空株式会社)に搬入し、予備凍結(−50℃設定)、引き続いて真空条件下(20 Pa設定)で凍結乾燥(一次乾燥:−20〜−5℃設定、二次乾燥:40℃設定)を行い、乾燥終了後にバイアル内を窒素導入により復圧した。バイアルにゴム栓を全打栓した後、巻締機(GAC-01、株式会社稲葉機械製作所)を用いてフリップオフキャップ(APキャップ、20AP7.0H、石田プレス工業株式会社)でバイアルを巻き締めし、配合例Aのカルペリチド含有製剤を得た。
【0065】
(2)配合例B(カルペリチド1 mg/バイアル、白糖量300 mg/バイアル(0.78 mg/mm
2)、白糖濃度75 mg/mL(7.5%))の凍結乾燥製剤の製造
カルペリチド 102 mg(カルペリチドの設計含量1mg設計に対し、2%の増仕込み)及び精製白糖(日本薬局方、塩水港精糖株式会社)30 gを精製水に溶解した後、精製水で全量を400mLとした。この溶液をフィルター(Stericup-GV 0.22μm、PVDF、Millipore Corporation)にて濾過した後、テーハー分注機(FH-10s、株式会社ヒラサワ)またはマイクロスケールピペット(PIPETMAN、GILSON, Inc.など)を用い、4 mLをガラスバイアル(胴外径24.5 mm、内径22.1 mm)、大和特殊硝子株式会社)に充填した。以下、配合例Aと同じ方法により、配合例Bのカルペリチド含有製剤を得た。
【0066】
(3)カルペリチド含有製剤の熱苛酷保存安定性の評価
配合例A及びBの製剤を40℃75%RHに設定した恒温恒湿槽(LH31-15M型、株式会社ナガノ科学機械製作所)で1ヶ月間もしくは3ヶ月間、または、50℃に設定した恒温槽(CH-P 30-01型、株式会社ナガノ科学機械製作所)で1ヶ月間保管した。これらの製剤について、製造時、各保管前及び保管後に、実施例1と同様の基準で目視による外観判定(製造時:9本、保管後:3本)を行った。また、保管後の製剤について、以下の方法でカルペリチド及び類縁物質の含有量を測定した。
【0067】
[方法:製剤中のカルペリチド含量及び類縁物質の測定]
製剤1本につき、希酢酸を添加して内容物を溶解してから全量を10 mLとし、試料溶液とした。また、この試料溶液を希酢酸で20倍に希釈し、類縁物質用標準溶液とした。カルペリチド定量用標準溶液は、別途調製したものを用いた。
高速液体クロマトグラフ装置(株式会社島津製作所)により、固定相にODSカラム、移動相に水/アセトニトルを用いる逆相分離系で、試料溶液、カルペリチド定量用標準溶液、類縁物質試験用標準溶液を測定した(測定本数:3本)。
含量は次のように算出した。高速液体クロマトグラフ法(検出:紫外吸光度法)による試料溶液、カルペリチド定量用標準溶液の測定結果から、1バイアル当りのカルペリチド量を算出し、カルペリチドの設計含量(1mg)に対する比率を求め、これをカルペリチド含量(%)とした。
類縁物質は次のように算出した。高速液体クロマトグラフ法(紫外吸光度検出)による試料溶液、類縁物質用標準溶液の測定結果から、試料溶液の類縁物質ピークエリアの、類縁物質用標準溶液のカルペリチドピークエリアの20倍値に対する比を求め、これを類縁物質量(%)とした。
【0068】
[結果:カルペリチド含有製剤の製剤特性と熱安定性]
配合例AおよびBの製剤の製造時の外観形状、並びに、40℃75%RH1ヶ月および3ヶ月保管時、50℃1ヶ月保管時の外観形状及び含有成分の評価結果を表4に示した。
配合例A(白糖量:500 mg/バイアル、1.30mg/mm
2、白糖濃度:100 mg/mL)、及び、配合例B(白糖量:300 mg/バイアル:0.78mg/mm
2、白糖濃度:75 mg/mL)のカルペリチド含有製剤は、いずれも製造時、40℃75%RH3ヶ月、50℃1ヶ月の熱苛酷期間を通じ、外観形状は正常形状から変化なく良好に維持されていることが明らかである。また、これらの熱苛酷保管期間においてカルペリチド含量の低下、及び、類縁物質の増加はほとんど認められず、主薬の化学的安定性も極めて良好であることがわかる。また、配合例A、Bと同様の精製白糖配合条件で別途同様の試験を行い、製造時、熱苛酷保管時の含水率はいずれも0.5%以下であった。以上のことから、これらの配合条件で作製した凍結乾燥製剤は室温保存を貯法とする製剤に適した品質特性を有することが示された。
【0069】
【表4】
【0070】
※:実測値(製剤3本の判定符号)を記載.