特許第6426422号(P6426422)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6426422蓄電デバイス用セパレータ及び非水電解液電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6426422
(24)【登録日】2018年11月2日
(45)【発行日】2018年11月21日
(54)【発明の名称】蓄電デバイス用セパレータ及び非水電解液電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/16 20060101AFI20181112BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20181112BHJP
   H01G 11/52 20130101ALI20181112BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20181112BHJP
   B32B 5/32 20060101ALI20181112BHJP
【FI】
   H01M2/16 L
   H01M2/16 P
   H01M2/16 M
   H01M10/0566
   H01G11/52
   B32B27/32 Z
   B32B5/32
【請求項の数】8
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-204746(P2014-204746)
(22)【出願日】2014年10月3日
(65)【公開番号】特開2016-76337(P2016-76337A)
(43)【公開日】2016年5月12日
【審査請求日】2017年7月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】石川 真己
【審査官】 小川 知宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−079933(JP,A)
【文献】 特開2011−081995(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/017651(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/126325(WO,A1)
【文献】 特開2010−092881(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/047747(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/132791(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/16
B32B 5/32
B32B 27/32
H01G 11/52
H01M 10/0566
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂多孔膜の少なくとも片面に、無機フィラーと樹脂バインダとを含む多孔層を備えた蓄電デバイス用セパレータであって、
前記ポリオレフィン樹脂多孔膜のMD方向とTD方向のLiイオン拡散係数の比D(MD)/D(TD)が、2.1以上4.0以下であり、
前記ポリオレフィン樹脂多孔膜の平均孔径が、0.08μm以上0.15μm以下であり、
前記樹脂バインダが、平均粒径が50〜1,000nmである樹脂製ラテックスバインダを原料とするものである蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項2】
前記ポリオレフィン樹脂多孔膜の膜厚方向のLiイオン拡散係数D(Z)が、2.0×10−11/s以上10.0×10−11/s以下である、請求項1に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項3】
前記無機フィラーの平均粒径が、0.5μm以上1.5μm以下である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項4】
前記無機フィラーが、アルミニウム化合物を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項5】
前記ポリオレフィン樹脂多孔膜の気孔率が、25%以上95%以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項6】
前記蓄電デバイス用セパレータの150℃での熱収縮率が、MD方向、TD方向ともに0%以上15%以下である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項7】
前記樹脂バインダが、アクリルラテックスである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータから成る非水電解液電池用セパレータと、正極と、負極と、電解液とを有する、非水電解液電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイス用セパレータ、非水電解液電池用セパレータ及びそれを用いた非水電解液電池に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン多孔膜は優れた電気絶縁性及びイオン透過性を示すことから、電池、コンデンサー等におけるセパレータとして広く利用されている。特に近年では、携帯機器の多機能化及び軽量化に伴い、その電源として高出力密度及び高容量密度のリチウムイオン二次電池が使用されており、このような電池用セパレータにも主としてポリオレフィン多孔膜が用いられている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は高い出力密度及び容量密度を持つ反面、電解液に有機溶媒を用いているために、短絡、過充電等の異常事態に伴う発熱によって電解液が分解し、最悪の場合には、発火に至ることがある。このような事態を防ぐため、リチウムイオン二次電池には幾つかの安全機能が組み込まれており、その中の一つに、セパレータのシャットダウン機能がある。シャットダウン機能とは、電池が異常発熱を起こした際、セパレータの微多孔が熱溶融等により閉塞して、電解液内のイオン伝導を抑制し、電気化学反応の進行をストップさせる機能のことである。一般に、シャットダウン温度が低いほど安全性が高いとされ、ポリエチレンがセパレータの成分として用いられている理由の一つとして、適度なシャットダウン温度を持つという点が挙げられる。
【0004】
しかし、高いエネルギーを有する電池においては、シャットダウンにより電気化学反応の進行をストップさせても電池内の温度が上昇し続け、その結果、セパレータが熱収縮して破膜し、両極が短絡(ショート)するという問題が生じる場合がある。
【0005】
これまで、安全性の高い電池を製造することを目的として、熱可塑性樹脂を主成分とする第一の多孔膜に耐熱層を積層してセパレータを形成する技術が一般的に知られている。
【0006】
特許文献1〜4には、セパレータの(リチウムイオン)拡散係数がある特定の範囲内で有る場合に、そのセパレータを用いたリチウムイオン二次電池は、ハイレート特性、高温保持特性、高い出力等を発現し、長時間使用時の性能劣化を防止することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−79933号公報
【特許文献2】特開2011−81994号公報
【特許文献3】特開2011−81995号公報
【特許文献4】国際公開第2013/105300号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者が確認したところ、特許文献1〜3に記載のセパレータは、高温熱収縮性が劣り、そのセパレータを用いたリチウムイオン二次電池は、トリクル特性が劣り、なお改良の余地を有するものであった(後述する比較例3)。特許文献4に記載のセパレータは、芳香族ポリアミド多孔膜から成り、無機塗工層との適合性については検討されていない。
【0009】
したがって、本発明は、サイクル特性及びトリクル特性が良好であり、長期間作動しても電池特性が低下しない蓄電デバイス用セパレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記事情に鑑み鋭意検討の結果、MD方向とTD方向のLiイオン拡散係数の比D(MD)/D(TD)が、特定範囲内であることを特徴とするポリオレフィン微多孔膜を含んだ、蓄電デバイス用セパレータを用いることによって、上記の課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] ポリオレフィン樹脂多孔膜の少なくとも片面に、無機フィラーと樹脂バインダとを含む多孔層を備えた蓄電デバイス用セパレータであって、
前記ポリオレフィン樹脂多孔膜のMD方向とTD方向のLiイオン拡散係数の比D(MD)/D(TD)が、2.0以上5.0以下である、前記蓄電デバイス用セパレータ。
[2] 前記ポリオレフィン樹脂多孔膜の膜厚方向のLiイオン拡散係数D(Z)が、2.0×10−11/s以上10.0×10−11/s以下である、[1]に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[3] 前記ポリオレフィン樹脂多孔膜の平均孔径が、0.08μm以上0.15μm以下である、[1]または[2]に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[4] 前記無機フィラーの平均粒径が、0.5μm以上1.5μm以下である、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[5] 前記無機フィラーが、アルミニウム化合物を含む、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[6] 前記Liイオン拡散係数の比D(MD)/D(TD)が、2.2以上3.0以下である、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[7] [1]〜[6]のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータから成る、非水電解液電池用セパレータ。
[8] [7]に記載の非水電解液電池用セパレータと、正極と、負極と、電解液とを有する、非水電解液電池。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、サイクル特性及びトリクル特性が良好であり、長期間作動しても、電池特性が低下しない蓄電デバイス用セパレータを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、「本実施形態」と略記する。)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その
要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0013】
本発明における多孔膜について説明する。
上記多孔膜としては、電子伝導性が小さく、イオン伝導性を有し、有機溶媒に対する耐性が高く、孔径の微細なものが好ましい。
そのような多孔膜としては、例えば、ポリオレフィン樹脂を含む多孔膜、ポリエチレンテレフタレート、ポリシクロオレフィン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリイミド、ポリイミドアミド、ポリアラミド、ポリシクロオレフィン、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン等の樹脂を含む多孔膜、ポリオレフィン系の繊維を織ったもの(織布)、ポリオレフィン系の繊維の不織布、紙、並びに、絶縁性物質粒子の集合体が挙げられる。これらの中でも、塗工工程を経て多層多孔膜、すなわち蓄電デバイス用セパレータを得る場合に塗工液の塗工性に優れ、セパレータの膜厚をより薄くして、電池等の蓄電デバイス内の活物質比率を高めて体積当たりの容量を増大させる観点から、ポリオレフィン樹脂を含む多孔膜(以下、「ポリオレフィン樹脂多孔膜」ともいう。)が好ましい。
【0014】
ポリオレフィン樹脂多孔膜について説明する。
ポリオレフィン樹脂多孔膜は、蓄電デバイス用セパレータとした時のシャットダウン性能等を向上させる観点から、多孔膜を構成する樹脂成分の50質量%以上100質量%以下をポリオレフィン樹脂が占めるポリオレフィン樹脂組成物により形成される多孔膜であることが好ましい。ポリオレフィン樹脂組成物におけるポリオレフィン樹脂が占める割合は、60質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、70質量%以上100質量%以下であることが更に好ましい。
【0015】
ポリオレフィン樹脂組成物に含有されるポリオレフィン樹脂としては、特に限定されず、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、及び1−オクテン等をモノマーとして用いて得られるホモ重合体、共重合体、又は多段重合体等が挙げられる。また、これらのポリオレフィン樹脂は、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
中でも、蓄電デバイス用セパレータとした時のシャットダウン特性の観点から、ポリオレフィン樹脂としてはポリエチレン、ポリプロピレン、及びこれらの共重合体、並びにこれらの混合物が好ましい。
ポリエチレンの具体例としては、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン等、
ポリプロピレンの具体例としては、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン等、
共重合体の具体例としては、エチレン−プロピレンランダム共重合体、エチレンプロピレンラバー等、が挙げられる。
【0016】
中でも、蓄電デバイス用セパレータとした時に低融点かつ高強度の要求性能を満たす観点から、ポリオレフィン樹脂としてポリエチレン、特に高密度ポリエチレンを用いることが好ましい。なお、本発明において、高密度ポリエチレンとは密度0.942〜0.970g/cmのポリエチレンをいう。高密度ポリエチレンの密度は、多孔膜の強度の点から、それぞれ、0.960〜0.969(g/cm3)、0.950〜0.958(g/cm3)であることが好ましい。なお、本発明においてポリエチレンの密度とは、JIS K7112に従って測定した値をいう。
【0017】
また、多孔膜の耐熱性を向上させる観点から、ポリオレフィン樹脂としてポリエチレン及びポリプロピレンの混合物を用いることが好ましい。この場合、ポリオレフィン樹脂組成物中の、総ポリオレフィン樹脂に対するポリプロピレンの割合は、耐熱性と良好なシャットダウン機能を両立させる観点から、1〜35質量%であることが好ましく、より好ましくは3〜20質量%、さらに好ましくは4〜10質量%である。
【0018】
ポリオレフィン樹脂組成物には、任意の添加剤を含有させることができる。添加剤としては、例えば、ポリオレフィン樹脂以外の重合体;無機フィラー;フェノール系、リン系、イオウ系等の酸化防止剤;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類;紫外線吸収剤;光安定剤;帯電防止剤;防曇剤;着色顔料等が挙げられる。これらの添加剤の総添加量は、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましく、より好ましくは10質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下である。
【0019】
多孔膜は、非常に小さな孔が多数集まって緻密な連通孔を形成した多孔構造を有しているため、イオン伝導性に非常に優れると同時に耐電圧特性も良好であり、しかも高強度であるという特徴を有する。
多孔膜は、上述した材料からなる単層膜であってもよく、積層膜であってもよい。
【0020】
多孔膜の膜厚は、0.1μm以上100μm以下が好ましく、より好ましくは1μm以上50μm以下、さらに好ましくは3μm以上25μm以下である。機械的強度の観点から0.1μm以上が好ましく、電池の高容量化の観点から100μm以下が好ましい。多孔膜の膜厚は、ダイリップ間隔、延伸工程における延伸倍率を制御すること等によって調整することができる。
【0021】
多孔膜の平均孔径は、0.08μm以上0.15μm以下が好ましく、より好ましくは0.09μm以上0.14μm以下、さらに好ましくは0.10μm以上0.13μm以下である。高いイオン伝導性と電池安定性の観点から、0.08μm以上0.15μm以下が好ましい。多孔膜の平均孔径は、後述する測定法で測定することができる。平均孔径は、組成比、押出シートの冷却速度、延伸温度、延伸倍率、熱固定温度、熱固定時の延伸倍率、熱固定時の緩和率を制御することや、これらを組み合わせることにより調整することができる。
【0022】
(Liイオン拡散係数)
本実施の形態に係るポリオレフィン微多孔膜は、磁場勾配NMR法によって測定されたMD方向とTD方向のLiイオン拡散係数の比D(MD)/D(TD)が、2.0以上5.0以下に調整されている。
【0023】
本実施の形態においてD(Z)、D(MD)、D(TD)は、それぞれ、磁場勾配NMR法によって測定された微多孔膜の膜厚方向、MD(縦)方向、TD(幅)方向の拡散係数を示す。
【0024】
(Liイオン拡散係数の比)
本発明者らは、微多孔膜のMD方向とTD方向のLiイオン拡散係数の比D(MD)/D(TD)の数値範囲と、微多孔膜をセパレータとして用いた場合のセパレータの高温熱収縮性、そのセパレータを用いたリチウムイオン二次電池のサイクル特性、及びトリクル特性との間に、相関関係があることを発見した。即ち、磁場勾配NMR法によって測定されたMD方向とTD方向のLiイオン拡散係数の比D(MD)/D(TD)の数値を特定範囲に制御することにより、優れたサイクル特性及びトリクル特性を有するリチウムイオン二次電池が得られることを見出した。その理由は詳らかではないが、Z方向、MD、TDの3次元のパラメータでイオンの通り道である流路を規定することで、リチウムイオンの出入りをスムーズにし、ハイレート特性に対して有効に働いているものと推定される。
【0025】
微多孔膜のMD方向とTD方向の前記Liイオン拡散係数の比D(MD)/D(TD)は、2.0以上5.0以下が好ましく、より好ましくは2.1以上4.0以下、さらに好ましくは2.2以上3.0以下である。高いイオン伝導性とサイクル特性の観点から2.0以上5.0以下が好ましい。
【0026】
D(MD)/D(TD)の値を上記特定範囲に調整するための手段としては、延伸条件、熱固定/熱緩和条件の調整等が挙げられる。より具体的には、上記値を大きくするには、延伸工程の際の延伸倍率を大きくとること、熱固定/熱緩和の工程の際に延伸を行い、延伸倍率を大きくとること、トータルの延伸倍率として、MD方向とTD方向の延伸倍率のどちらかが他方に比べて大きくなるよう調整すること、等が挙げられる。一方、上記値を小さくするには、延伸工程の際の延伸倍率を小さくとること、熱固定/熱緩和の工程の際の延伸倍率を小さくとること、MD方向とTD方向の延伸倍率が等方的になるよう調整すること、等が挙げられる。
【0027】
また、微多孔膜の膜厚み方向のLiイオン拡散係数D(Z)は、2.0×10−11/s以上10.0×10−11/s以下が好ましく、より好ましくは3.0×10−11/s以上9.0×10−11/s以下、さらに好ましくは4.0×10−11/s以上8.0×10−11/s以下である。高いイオン伝導性と電池安定性の観点から2.0×10−11/s以上10.0×10−11/s以下が好ましい。微多孔膜のLiイオン拡散係数は、後述する測定法で測定することが出来る。
【0028】
多孔膜の気孔率は、好ましくは25%以上95%以下、より好ましく30%以上65%以下、更に好ましくは35%以上55%以下である。イオン伝導性向上の観点から25%以上が好ましく、耐電圧特性の観点から95%以下が好ましい。多孔膜の気孔率は、後述する方法で測定することができる。
【0029】
多孔膜の気孔率は、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤の混合比率、延伸温度、延伸倍率、熱固定温度、熱固定時の延伸倍率、熱固定時の緩和率を制御することや、これらを組み合わせることによって調整することができる。
【0030】
多孔膜がポリオレフィン樹脂多孔膜である場合、ポリオレフィン樹脂多孔膜の粘度平均分子量は、30,000以上12,000,000以下であることが好ましく、より好ましくは50,000以上2,000,000未満、さらに好ましくは100,000以上1,000,000未満である。粘度平均分子量が30,000以上であると、溶融成形の際のメルトテンションが大きくなり成形性が良好になると共に、重合体同士の絡み合いにより高強度となる傾向にあるため好ましい。一方、粘度平均分子量が12,000,000以下であると、均一に溶融混練をすることが容易となり、シートの成形性、特に厚み安定性に優れる傾向にあるため好ましい。さらに、蓄電デバイス用セパレータとした時に、粘度平均分子量が1,000,000未満であると、温度上昇時に孔を閉塞しやすく良好なシャットダウン機能が得られる傾向にあるため好ましい。
【0031】
多孔膜を製造する方法としては特に制限はなく、公知の製造方法を採用することができる。例えば、
(1)ポリオレフィン樹脂組成物と孔形成材可塑剤とを溶融混練してシート状に成形後、必要に応じて延伸した後、可塑剤を抽出することにより多孔化させる方法、
(2)ポリオレフィン樹脂組成物を溶融混練して高ドロー比で押出した後、熱処理と延伸によってポリオレフィン結晶界面を剥離させることにより多孔化させる方法、
(3)ポリオレフィン樹脂組成物と無機充填材とを溶融混練してシート上に成形した後、延伸によってポリオレフィンと無機充填材との界面を剥離させることにより多孔化させる方法、
(4)ポリオレフィン樹脂組成物を溶解後、ポリオレフィンに対する貧溶媒に浸漬させてポリオレフィンを凝固させると同時に溶剤を除去することにより多孔化させる方法、
等が挙げられる。
【0032】
以下、多孔膜を製造する方法の一例として、ポリオレフィン樹脂組成物と孔形成材可塑剤とを溶融混練してシート状に成形後、可塑剤孔形成材を抽出する方法について説明する。
【0033】
まず、ポリオレフィン樹脂組成物と上記の孔形成材を溶融混練する。溶融混練方法としては、例えば、ポリオレフィン樹脂及び必要によりその他の添加剤を押出機、ニーダー、ラボプラストミル、混練ロール、バンバリーミキサー等の樹脂混練装置に投入することで、樹脂成分を加熱溶融させながら任意の比率で可塑剤を導入して混練する方法が挙げられる。
上記孔形成材としては、可塑剤または無機材を挙げることができる。
【0034】
可塑剤としては、特に限定されないが、ポリオレフィンの融点以上において均一溶液を形成しうる不揮発性溶媒を用いることが好ましい。このような不揮発性溶媒の具体例としては、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス等の炭化水素類;フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル等のエステル類;オレイルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール等が挙げられる。なお、これらの可塑剤は、抽出後、蒸留等の操作により回収して再利用してよい。さらに、好ましくは、樹脂混練装置に投入する前に、ポリオレフィン樹脂、その他の添加剤及び可塑剤を、予めヘンシェルミキサー等を用いて所定の割合で事前混練しておく。より好ましくは、事前混練においては、可塑剤はその一部のみを投入し、残りの可塑剤は、樹脂混練装置にサイドフィードしながら混練する。このような混練方法を用いることにより、可塑剤の分散性が高まり、後の工程で樹脂組成物と可塑剤の溶融混練物のシート状成形体を延伸する際に、破膜することなく高倍率で延伸することができる傾向にある。
【0035】
可塑剤の中でも、流動パラフィンは、ポリオレフィン樹脂がポリエチレンやポリプロピレンの場合には、これらとの相溶性が高く、溶融混練物を延伸しても樹脂と可塑剤の界面剥離が起こり難く、均一な延伸が実施し易くなる傾向にあるため好ましい。
【0036】
ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤の比率は、これらを均一に溶融混練して、シート状に成形できる範囲であれば特に限定はない。例えば、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤とからなる組成物中に占める可塑剤の質量分率は、好ましくは20〜90質量%、より好ましくは30〜80質量%である。可塑剤の質量分率が90質量%以下であると、溶融成形時のメルトテンションが不足しにくく成形性が向上する傾向にある。一方、可塑剤の質量分率が20質量%以上であると、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤との混合物を高倍率で延伸した場合でもポリオレフィン鎖の切断が起こらず、均一かつ微細な孔構造を形成し易く、強度も増加し易い。
【0037】
無機材としては、特に限定されず、例えば、アルミナ、シリカ(珪素酸化物)、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄などの酸化物系セラミックス;窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス;シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリンクレー、カオリナイト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、ケイ砂等のセラミックス;ガラス繊維が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられる。これらの中でも、電気化学的安定性の観点から、シリカ、アルミナ、チタニアが好ましく、抽出が容易である点から、シリカが特に好ましい。
【0038】
ポリオレフィン樹脂組成物と無機材との比率は、良好な隔離性を得る観点から、これらの合計質量に対して5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、高い強度を確保する観点から、99質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましい。
【0039】
次に、溶融混練物をシート状に成形する。シート状成形体を製造する方法としては、例えば、溶融混練物を、Tダイ等を介してシート状に押出し、熱伝導体に接触させて樹脂成分の結晶化温度より充分に低い温度まで冷却して固化する方法が挙げられる。冷却固化に用いられる熱伝導体としては、金属、水、空気、或いは可塑剤自身等が挙げられるが、熱伝導の効率が高いため、金属製のロールを用いることが好ましい。また、押出した混練物を金属製のロールに接触させる際に、ロール間で挟み込むことは、熱伝導の効率がさらに高まると共に、シートが配向して膜強度が増し、シートの表面平滑性も向上する傾向にあるためより好ましい。溶融混練物をTダイからシート状に押出す際のダイリップ間隔は200μm以上3,000μm以下であることが好ましく、500μm以上2,500μm以下であることがより好ましい。ダイリップ間隔が200μm以上であると、メヤニ等が低減され、スジや欠点など膜品位への影響が少なく、その後の延伸工程において膜破断などのリスクを低減することができる。一方、ダイリップ間隔が3,000μm以下であると、冷却速度が速く冷却ムラを防げると共に、シートの厚み安定性を維持できる。
【0040】
また、シート状成形体を圧延してもよい。圧延は、例えば、ダブルベルトプレス機等を使用したプレス法にて実施することができる。圧延を施すことにより、特に表層部分の配向を増すことができる。圧延面倍率は1倍を超えて3倍以下であることが好ましく、1倍を超えて2倍以下であることがより好ましい。圧延倍率が1倍を超えると、面配向が増加し最終的に得られる多孔膜の膜強度が増加する傾向にある。一方、圧延倍率が3倍以下であると、表層部分と中心内部の配向差が小さく、膜の厚さ方向に均一な多孔構造を形成することができる傾向にある。
【0041】
次いで、シート状成形体から孔形成材可塑剤を除去して多孔膜とする。孔形成材可塑剤を除去する方法としては、例えば、抽出溶剤にシート状成形体を浸漬して孔形成材可塑剤を抽出し、充分に乾燥させる方法が挙げられる。孔形成材可塑剤を抽出する方法はバッチ式、連続式のいずれであってもよい。多孔膜の収縮を抑えるために、浸漬、乾燥の一連の工程中にシート状成形体の端部を拘束することが好ましい。また、多孔膜中の孔形成材可塑剤残存量は多孔膜全体の質量に対して1質量%未満にすることが好ましい。
【0042】
孔形成材可塑剤を抽出する際に用いられる抽出溶剤としては、ポリオレフィン樹脂に対して貧溶媒で、かつ孔形成材可塑剤に対して良溶媒であり、沸点がポリオレフィン樹脂の融点より低いものを用いることが好ましい。このような抽出溶剤としては、例えば、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類;塩化メチレン、1,1,1−トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;ハイドロフルオロエーテル、ハイドロフルオロカーボン等の非塩素系ハロゲン化溶剤;エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類が挙げられる。なお、これらの抽出溶剤は、蒸留等の操作により回収して再利用してよい。また、孔形成材として無機材を用いる場合には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水溶液を抽出溶剤として用いることができる。
【0043】
また、上記シート状成形体または多孔膜を延伸することが好ましい。延伸は前記シート状成形体から孔形成材を抽出する前に行ってもよい。また、前記シート状成形体から孔形成材を抽出した多孔膜に対して行ってもよい。さらに、前記シート状成形体から孔形成材を抽出する前と後に行ってもよい。
延伸処理としては、一軸延伸又は二軸延伸のいずれも好適に用いることができるが、得られる多孔膜の強度等を向上させる観点から二軸延伸が好ましい。シート状成形体を二軸方向に高倍率延伸すると、分子が面方向に配向し、最終的に得られる多孔膜が裂けにくくなり、高い突刺強度を有するものとなる。延伸方法としては、例えば、同時二軸延伸、逐次二軸延伸、多段延伸、多数回延伸等の方法を挙げることができ、突刺強度の向上、延伸の均一性、シャットダウン性の観点から同時二軸延伸が好ましい。
【0044】
ここで、同時二軸延伸とは、MD(微多孔膜連続成形の機械方向)の延伸とTD(微多孔膜のMDを90°の角度で横切る方向)の延伸が同時に施される延伸方法をいい、各方向の延伸倍率は異なってもよい。逐次二軸延伸とは、MD又はTDの延伸が独立して施される延伸方法をいい、MD又はTDに延伸がなされているときは、他方向は非拘束状態又は定長に固定されている状態とする。
【0045】
延伸倍率は、面倍率で20倍以上100倍以下の範囲であることが好ましく、25倍以上50倍以下の範囲であることがより好ましい。各軸方向の延伸倍率は、MDに4倍以上10倍以下、TDに4倍以上10倍以下の範囲であることが好ましく、MDに5倍以上8倍以下、TDに5倍以上8倍以下の範囲であることがより好ましい。総面積倍率が20倍以上であると、得られる多孔膜に十分な強度を付与できる傾向にあり、一方、総面積倍率が100倍以下であると、延伸工程における膜破断を防ぎ、高い生産性が得られる傾向にある。
【0046】
多孔膜の収縮を抑制するために、延伸工程後、又は、多孔膜形成後に熱固定を目的として熱処理を行うこともできる。また、多孔膜に、界面活性剤等による親水化処理、電離性放射線等による架橋処理等の後処理を行ってもよい。
【0047】
多孔膜には、収縮を抑制する観点から熱固定を目的として熱処理を施すことが好ましい。熱処理の方法としては、物性の調整を目的として、所定の温度雰囲気及び所定の延伸率で行う延伸操作、及び/又は、応力低減を目的として、所定の温度雰囲気及び所定の緩和率で行う緩和操作が挙げられる。延伸操作を行った後に緩和操作を行っても構わない。これらの熱処理は、テンターやロール延伸機を用いて行うことができる。
【0048】
延伸操作は、膜のMD及び/又はTDに1.1倍以上、より好ましくは1.2倍以上の延伸を施すことが、さらなる高強度かつ高気孔率な多孔膜が得られる観点から好ましい。
緩和操作は、膜のMD及び/又はTDへの縮小操作のことである。緩和率とは、緩和操作後の膜のMD寸法を緩和操作前の膜のMD寸法で除した値のことである。緩和操作後のTD寸法を操作前の膜のTD寸法で除した値、或いはなお、MD、TD双方を緩和した場合は、MDの緩和率とTDの緩和率を乗じた値のことである。緩和率は、1.0以下であることが好ましく、0.97以下であることがより好ましく、0.95以下であることがさらに好ましい。緩和率は膜品位の観点から0.5以上であることが好ましい。緩和操作は、MD、TD両方向で行ってもよいが、MD或いはTD片方だけ行ってもよい。
この可塑剤抽出後の延伸及び緩和操作は、好ましくはTDに行う。延伸及び緩和操作における温度は、ポリオレフィン樹脂の融点(以下、「Tm」ともいう。)より低いことが好ましく、Tmより1℃から25℃低い範囲がより好ましく、Tmより3℃から23℃低い範囲がさらに好ましく、Tmより5℃から21℃低い範囲が特に好ましい。延伸及び緩和操作における温度が上記範囲であると、熱収縮率低減と気孔率とのバランスの観点から好ましい。
【0049】
無機フィラーと樹脂バインダとを含む多孔層について説明する。
【0050】
前記多孔層に使用する無機フィラーとしては、特に限定されないが、耐熱性及び電気絶縁性が高く、かつリチウムイオン二次電池の使用範囲で電気化学的に安定であるものが好ましい。
無機フィラーとしては、例えば、アルミニウム化合物、マグネシウム化合物、その他の化合物が挙げられる。
アルミニウム化合物としては、酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、アルミン酸ソーダ、硫酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、ハイドロタルサイト等が挙げられる。
マグネシウム化合物としては、硫酸マグネシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。
その他の化合物としては、酸化物系セラミックス、窒化物系セラミックス、粘土鉱物、シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、チタン酸バリウム、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、ケイ砂、ガラス繊維等が挙げられる。酸化物系セラミックスとしては、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄等が挙げられる。窒化物系セラミックスとしては、窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等が挙げられる。粘土鉱物としては、タルク、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト等が挙げられる。
これらは単独で用いても良いし、複数を併用してもよい。
【0051】
上記の中でも、電気化学的安定性及び耐熱特性の観点から、酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウムが好ましい。酸化アルミニウムの具体例としては、アルミナ、水酸化酸化アルミニウムが挙げられる。ケイ酸アルミニウムの具体例としては、カオリナイト、ディカイト、ナクライト、ハロイサイト、パイロフィライトが挙げられる。
【0052】
前記酸化アルミニウムとしては、電気化学的安定性の観点から、アルミナがより好ましい。多孔層を構成する無機フィラーとして、アルミナを主成分とする粒子を採用することで、高い透過性を維持しながら、非常に軽量な多孔層を実現できる上に、より薄い多孔層厚でも多孔膜の高温での熱収縮が抑制され、優れた耐熱性を発現する傾向にある。アルミナには、α−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、θ−アルミナ等、多くの結晶形態が存在するが、いずれも好適に使用することができる。この中でα−アルミナが熱的・化学的にも安定なので最も好ましい。
【0053】
前記水酸化酸化アルミニウムとしては、リチウムデンドライトの発生に起因する内部短絡を防止する観点から、ベーマイトがより好ましい。多孔層を構成する無機フィラーとして、ベーマイトを主成分とする粒子を採用することで、高い透過性を維持しながら、非常に軽量な多孔層を実現できる上に、より薄い多孔層厚でも多孔膜の高温での熱収縮が抑制され、優れた耐熱性を発現する傾向にある。電気化学素子の特性に悪影響を与えるイオン性の不純物を低減できる合成ベーマイトがさらに好ましい。
【0054】
前記ケイ酸アルミニウムの中では、カオリン鉱物で主に構成されているカオリナイト(以下、カオリンともいう)が軽量性及び透気度の観点から好ましい。カオリンには湿式カオリン及びこれを焼成処理した焼成カオリンがあるが、焼成カオリンは焼成処理の際に結晶水が放出されるのに加え、不純物が除去されるので、電気化学的安定性の点で特に好ましい。多孔層を構成する無機フィラーとして、焼成カオリンを主成分とする粒子を採用することで、高い透過性を維持しながら、非常に軽量な多孔層を実現できる上に、より薄い多孔層厚でも多孔膜の高温での熱収縮が抑制され、優れた耐熱性を発現する傾向にある。
【0055】
前記無機フィラーの平均粒径は、0.5μm以上1.5μm以下であることが好ましく、0.4μm以上1.4μm以下であることがより好ましい。無機フィラーの平均粒径を上記範囲に調整することは、透気度及び高温での熱収縮を抑制する観点から好ましい。
【0056】
無機フィラーの粒度分布としては、最小粒径は0.02μm以上であることが好ましく、0.05μm以上がより好ましく、0.1μm以上がさらに好ましい。最大粒径は20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、7μm以下が更に好ましい。また、最大粒径/平均粒径の比率は、50以下が好ましく、30以下がより好ましく、20以下が更に好ましい。無機フィラーの粒度分布を上記範囲に調整することは、高温での熱収縮を抑制する観点から好ましい。なお、無機フィラーの粒度分布を調整する方法としては、例えば、ボールミル・ビーズミル・ジェットミル等を用いて無機フィラーを粉砕し、所望の粒度分布に調整する方法等を挙げることができる。
【0057】
無機フィラーの形状としては、板状、鱗片状、多面体、針状、柱状、球状、紡錘状、塊状等が挙げられ、上記形状を有する無機フィラーを複数種組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、透過性向上の観点からは、板状、鱗片状、多面体が好ましい。
【0058】
前記無機フィラーが、前記多孔層中に占める割合としては、透過性及び耐熱性等の観点から適宜決定することができるが、50質量%以上100質量%未満であることが好ましく、より好ましくは70質量%以上99.99質量%以下、さらに好ましくは80質量%以上99.9質量%以下、特に好ましくは90質量%以上99質量%以下である。
【0059】
樹脂バインダは、前述した無機フィラーを相互に結着する役割を果たす樹脂である。また、無機フィラーと多孔膜とを相互に結着する役割を果たす樹脂であることが好ましい。
樹脂バインダの種類としては、セパレータとしたときにリチウムイオン二次電池の電解液に対して不溶であり、かつリチウムイオン二次電池の使用範囲で電気化学的に安定なものを用いることが好ましい。
【0060】
樹脂バインダの具体例としては、以下の1)〜7)が挙げられる。
1)ポリオレフィン:例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレンラバー、及びこれらの変性体;
2)共役ジエン系重合体:例えば、スチレン−ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体及びその水素化物;
3)アクリル系重合体:例えば、メタクリル酸エステル−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−アクリル酸エステル共重合体;
4)ポリビニルアルコール系樹脂:例えば、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル;
5)含フッ素樹脂:例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体;
6)セルロース誘導体:例えば、エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース;
7)融点及び/又はガラス転移温度が180℃以上の樹脂あるいは融点を有しないが分解温度が200℃以上のポリマー:例えば、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリエステル。特に、耐久性の観点から全芳香族ポリアミド、中でもポリメタフェニレンイソフタルアミドが好適である。
中でも、電極とのなじみやすさの観点からは上記2)共役ジエン系重合体が好ましく、耐電圧性の観点からは上記3)アクリル系重合体及び5)含フッ素樹脂が好ましい。
【0061】
上記2)共役ジエン系重合体は、共役ジエン化合物を単量体単位として含む重合体である。
上記共役ジエン化合物としては、例えば、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換及び側鎖共役ヘキサジエン類などが挙げられ、これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。中でも、特に1,3−ブタジエンが好ましい。
【0062】
上記3)アクリル系重合体は、(メタ)アクリル系化合物を単量体単位として含む重合体である。上記(メタ)アクリル系化合物とは、(メタ)アクリル酸および(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一つを示す。
上記3)アクリル系重合体に用いられる(メタ)アクリル酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸を挙げることができる。
上記3)アクリル系重合体に用いられる(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアメタクリレート;
エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート;が挙げられ、これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。上記の中でも、特にアクリル酸、メタクリル酸が好ましい。
【0063】
上記2)共役ジエン系重合体および3)アクリル系重合体は、これらと共重合可能な他の単量体をも共重合させて得られるものであってもよい。用いられる共重合可能な他の単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸アルキルエステル、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体、不飽和カルボン酸アミド単量体、クロトン酸、マレイン酸、マレイン酸無水物、フマール酸、イタコン酸等が挙げられ、これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。上記の中でも、特に不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体が好ましい。不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体としては、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、ジメチルマレエート、ジエチルマレエート、ジメチルイタコネート、モノメチルフマレート、モノエチルフマレート等が挙げられ、これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
なお、上記2)共役ジエン系重合体は、他の単量体として上記(メタ)アクリル系化合物を共重合させて得られるものであってもよい。
【0064】
多孔層の層厚は、耐熱性、絶縁性を向上させる観点から1μm以上であることが好ましく、電池の高容量化と透過性を向上させる観点から50μm以下であることが好ましい。多孔層の層厚は、より好ましくは1.5μm以上20μm以下、さらに好ましくは2μm以上10μm以下、さらにより好ましくは3μm以上10μm以下、特に好ましくは3μm以上7μm以下である。
【0065】
多孔層における無機フィラーの充填率としては、軽量性及び高透過性の観点から、上限は80体積%以下が好ましく、70体積%以下がより好ましく、60体積%以下が更に好ましい。熱収縮抑制及びデンドライト抑制の観点から、下限は20体積%以上が好ましく、30体積%以上がより好ましく、40体積%以上が更に好ましい。無機フィラーの充填率は、多孔層の層厚、並びに無機フィラーの重量及び比重から算出することができる。
【0066】
多孔層は、多孔膜の片面にのみ形成しても、両面に形成してもよい。
【0067】
多孔層の形成方法としては、例えば、ポリオレフィン樹脂を主成分とする多孔膜の少なくとも片面に、無機フィラーと樹脂バインダとを含む塗工液を塗工して多孔層を形成する方法を挙げることができる。
【0068】
塗工液中の樹脂バインダの形態としては、水に溶解または分散した水系溶液であっても、一般的な有機媒体に溶解または分散した有機媒体系溶液であってもよいが、樹脂製ラテックスが好ましい。「樹脂製ラテックス」とは樹脂が媒体に分散した状態のものを示す。樹脂製ラテックスの樹脂バインダを用いた場合、無機フィラーとバインダとを含む多孔層をポリオレフィン多孔膜の少なくとも片面に積層した際、イオン透過性が低下しにくく高出力特性が得られやすい。加えて異常発熱時の温度上昇が速い場合においても、円滑なシャットダウン特性を示し、高い安全性が得られやすい。
【0069】
樹脂製ラテックスバインダの平均粒径は、50〜1,000nmであることが好ましく、より好ましくは60〜500nm、更に好ましくは80〜250nmである。平均粒径が50nm以上である場合、無機フィラーとバインダとを含む多孔層をポリオレフィン多孔膜の少なくとも片面に積層した際、良好な結着性を発現し、セパレータとした場合に熱収縮が良好となり安全性に優れる傾向にある。平均粒径が1,000nm以下である場合、イオン透過性が低下しにくく高出力特性が得られやすい。加えて異常発熱時の温度上昇が速い場合においても、円滑なシャットダウン特性を示し、高い安全性が得られやすい。平均粒径は、重合時間、重合温度、原料組成比、原料投入順序、pHなどを調整することで制御することが可能である。
【0070】
塗工液の媒体としては、前記無機フィラー、及び前記樹脂バインダを均一かつ安定に分散または溶解できるものが好ましく、例えば、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、水、エタノール、トルエン、熱キシレン、塩化メチレン、ヘキサン等が挙げられる。
【0071】
塗工液には、分散安定化や塗工性の向上のために、界面活性剤等の分散剤;増粘剤;湿潤剤;消泡剤;酸、アルカリを含むPH調整剤等の各種添加剤を加えてもよい。これら添加剤の総添加量は、無機フィラー100重量部に対して、その有効成分(添加剤が溶媒に溶解している場合は溶解している添加剤成分の重量)が20重量部以下が好ましく、より好ましくは10重量部以下、さらに好ましくは5重量部以下である。
【0072】
無機フィラーと樹脂バインダとを、塗工液の媒体に分散または溶解させる方法については、塗工工程に必要な塗工液の分散特性を実現できる方法であれば特に限定はない。例えば、ボールミル、ビーズミル、遊星ボールミル、振動ボールミル、サンドミル、コロイドミル、アトライター、ロールミル、高速インペラー分散、ディスパーザー、ホモジナイザー、高速衝撃ミル、超音波分散、撹拌羽根等による機械撹拌等が挙げられる。
【0073】
塗工液を多孔膜に塗工する方法については、必要とする層厚や塗工面積を実現できる方法であれば特に限定はなく、例えば、グラビアコーター法、小径グラビアコーター法、リバースロールコーター法、トランスファロールコーター法、キスコーター法、ディップコーター法、ナイフコーター法、エアドクタコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、スクイズコーター法、キャストコーター法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、スプレー塗工法等が挙げられる。
【0074】
さらに、塗工液の塗工に先立ち、多孔膜表面に表面処理を施すと、塗工液を塗工し易くなると共に、塗工後の無機フィラー含有多孔層と多孔膜表面との接着性が向上するため好ましい。表面処理の方法は、多孔膜の多孔質構造を著しく損なわない方法であれば特に限定はなく、例えば、コロナ放電処理法、プラズマ放電処理法、機械的粗面化法、溶剤処理法、酸処理法、紫外線酸化法等が挙げられる。
【0075】
塗工後に塗工膜から媒体を除去する方法については、多孔膜に悪影響を及ぼさない方法であれば特に限定はなく、例えば、多孔膜を固定しながらその融点以下の温度にて乾燥する方法、低温で減圧乾燥する方法、抽出乾燥等が挙げられる。また電池特性に著しく影響を及ぼさない範囲においては溶媒を一部残存させても構わない。多孔膜及び多孔層を積層した多孔膜のMD方向の収縮応力を制御する観点から、乾燥温度、巻取り張力等は適宜調整することが好ましい。
【0076】
本発明のセパレータについて説明する。
上記セパレータは、耐熱性に優れ、シャットダウン機能を有しているので電池の中で正極と負極を隔離する蓄電デバイス用セパレータに適している。
特に、上記セパレータは高温においても短絡し難いため、高起電力電池用のセパレータとしても安全に使用できる。
【0077】
セパレータの最終的な膜厚は、2μm以上200μm以下であることが好ましく、より好ましくは5μm以上100μm以下、さらに好ましくは7μm以上30μm以下である。膜厚が2μm以上であると機械強度が十分となる傾向にあり、また、200μm以下であるとセパレータの占有体積が減るため、電池の高容量化の点において有利となる傾向にある。
【0078】
セパレータの150℃での熱収縮率は、MD方向、TD方向ともに0%以上15%以下であることが好ましく、より好ましくは0%以上10%以下、さらに好ましくは0%以上5%以下である。熱収縮率がMD方向、TD方向ともに15%以下であると、電池の異常発熱時のセパレータの破膜が抑制され、短絡が起こりにくくなる傾向にあるので好ましい。
【0079】
以下、蓄電デバイスについて説明する。上記蓄電デバイスは、上記セパレータを備えるものであり、それ以外の構成は、従来知られているものと同様であってもよい。蓄電デバイスは、特に限定されないが、例えば、非水電解液電池等の電池、コンデンサー及びキャパシタが挙げられる。それらの中でも、本発明による作用効果による利益がより有効に得られる観点から、非水電解液電池が好ましく、非水電解液二次電池がより好ましく、リチウムイオン二次電池が更に好ましい。以下、蓄電デバイスが非水電解液電池である場合についての好適な態様について説明する。
【0080】
正極、負極、非水電解液に限定はなく、公知のものを用いることができる。
正極材料としては、例えば、LiCoO、LiNiO、スピネル型LiMnO、オリビン型LiFePO等のリチウム含有複合酸化物等が、負極材料としては、例えば、黒鉛質、難黒鉛化炭素質、易黒鉛化炭素質、複合炭素体等の炭素材料;シリコン、スズ、金属リチウム、各種合金材料等が挙げられる。
【0081】
また、非水電解液としては、電解質を有機溶媒に溶解した電解液を用いることができ、有機溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等が、電解質としては、例えば、LiClO、LiBF、LiPF等のリチウム塩が挙げられる。
【0082】
上記蓄電デバイスは、特に限定されないが、例えば、下記のようにして製造される。すなわち、上記セパレータを幅10〜500mm(好ましくは80〜500mm)、長さ200〜4000m(好ましくは1000〜4000m)の縦長形状のセパレータとして作製する。次に、当該セパレータを、正極及び負極と共に、正極−セパレータ−負極−セパレータ、又は負極−セパレータ−正極−セパレータの順で重ねて積層物を得る。次いで、その積層物を、円筒形の又は扁平な渦巻状に巻回して巻回体を得る。そして、当該巻回体を外装体内に収納し、更に電解液を注入する等の工程を経ることにより、蓄電デバイスが得られる。
【0083】
また、上記蓄電デバイスは、セパレータ、正極、および負極を平板状に形成した後、正極−セパレータ−負極−セパレータ−正極、又は負極−セパレータ−正極−セパレータ−負極の順に積層して積層体を得た後、外装体内に収容し、そこに電解液を注入する等の工程を経て製造することもできる。
なお、上記外装体としては、電池缶や袋状のフィルムを用いることができる。
【実施例】
【0084】
次に、実施例及び比較例を挙げて本実施形態をより具体的に説明するが、本実施形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
実施例中の物性は以下の方法により測定した。なお、特に測定雰囲気が明示されていないものは、23℃、1気圧の大気中にて測定した。
【0085】
[実施例1]
[η]が7.0dl/gの超高分子量ポリエチレン19.2質量%、[η]が2.8dl/gの高密度ポリエチレン12.8質量%、フタル酸ジオクチル(DOP)48質量%、微粉シリカ20質量%を混合造粒した後、先端にTダイを装着した二軸押出機にて溶融混練した後に押出し、両側から加熱したロールで圧延し、厚さ110μmのシート状に成形した。該成型物からDOP、微粉シリカを抽出除去した後、2枚重ねてMDに120℃で、5倍延伸した。その後、138℃にて熱処理してポリオレフィン樹脂多孔膜を得た。
【0086】
ポリオレフィン樹脂多孔膜の表面に、コロナ放電処理(放電量50W)を実施した後、当該処理面側に、水酸化酸化アルミニウム(平均粒径1.0μm)を96.0質量部とアクリルラテックス(固形分濃度40%、平均粒径145nm、最低成膜温度0℃以下)4.0質量部とポリカルボン酸アンモニウム水溶液(サンノプコ社製 SNディスパーサント5468)1.0質量部を100質量部の水に均一に分散させた塗工液を、上記ポリオレフィン樹脂多孔膜の表面にグラビアコーターを用いて塗工した後、60℃にて乾燥して水を除去し、多孔膜上に厚さ5μmの多孔層が形成したセパレータ得た。結果を表1に併記する。
【0087】
[実施例2]
無機フィラーとして、水酸化酸化アルミニウム(平均粒径0.6μm)を用いる以外は、実施例1の方法に準じてセパレータを得た。結果を表1に併記する。
【0088】
[実施例3]
無機フィラーとして、水酸化酸化アルミニウム(平均粒径1.5μm)を用いる以外は、実施例1の方法に準じてセパレータを得た。結果を表1に併記する。
【0089】
[実施例4]
無機フィラーとして、水酸化酸化アルミニウム(平均粒径2.4μm)を用いる以外は、実施例1の方法に準じてセパレータを得た。結果を表1に併記する。
【0090】
[実施例5]
2枚重ねてMDに120℃で、4.5倍延伸した以外は、実施例1の方法に準じてセパレータを得た。結果を表1に併記する。
【0091】
参考例6]
2枚重ねてMDに120℃で、7.5倍延伸した以外は、実施例1の方法に準じてセパレータを得た。結果を表1に併記する。
【0092】
[実施例7]
2枚重ねてMDに125℃で、5倍延伸した後、143℃にて熱処理した以外は、実施例1の方法に準じてセパレータを得た。結果を表1に併記する。
【0093】
[実施例8]
無機フィラーとして、酸化アルミニウム(平均粒径1.0μm)を用いる以外は、実施例1の方法に準じてセパレータを得た。結果を表1に併記する。
【0094】
[実施例9]
無機フィラーとして、水酸化酸化アルミニウム(平均粒径2.6μm)を用いる以外は、実施例1の方法に準じてセパレータを得た。結果を表1に併記する。
【0095】
[比較例1]
2枚重ねてMDに120℃で、8.5倍延伸した以外は、実施例1の方法に準じてセパレータを得た。結果を表1に併記する。
【0096】
[比較例2]
粘度平均分子量(Mv)20万のホモポリマーのポリエチレン95質量部、Mv40万のホモポリマーのポリプロピレン5質量部、可塑剤として流動パラフィン(37.78℃における動粘度7.59×10−5/s)60質量部、酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]1質量部を用意し、これらをヘンシェルミキサーにて予備混合した。
【0097】
得られたポリマー等混合物を溶融混錬するために二軸同方向スクリュー式押出機のフィード口へ供給した。また、溶融混練し押し出される全混合物中に占める流動パラフィン量比が50質量%となるように、流動パラフィンを二軸同方向スクリュー式押出機のシリンダーにサイドフィードした。溶融混練条件は、設定温度200℃、スクリュー回転数200rpm、吐出量15kg/hとした。
【0098】
次に、溶融混練物をTダイを用いて表面温度25℃に制御された冷却ロール間に押出し、厚さ1050μmのシート状成形体を得た。
【0099】
次に、シート状成形体を連続して同時二軸テンター延伸機へ導き、MD方向に7倍、TD方向に6.4倍に同時二軸延伸を行い延伸フィルムを得た。この時、同時二軸テンターの設定温度は118℃であった。次に、得られた延伸フィルムをメチルエチルケトン槽に導き、可塑剤を除去した後、メチルエチルケトンを乾燥除去した。
【0100】
さらに、延伸フィルムをTDテンター熱固定機に導き、熱固定を行った。最大延伸倍率1.5倍、最終延伸倍率1.3倍、最大延伸時設定温度123℃、最終延伸時設定温度128℃で熱固定を行いポリオレフィン樹脂多孔膜を得た。
【0101】
上記ポリオレフィン樹脂多孔膜の表面に、実施例1と同じ多孔層を形成してセパレータを得た。結果を表1に併記する。
【0102】
[比較例3]
実施例1で基材に用いたポリオレフィン樹脂多孔膜について評価した。結果を表1に併記する。
【0103】
[電池の組み立て]
(1)正極の作製
活物質としてリチウムコバルト複合酸化物LiCoOを92.2重量%、導電剤としてリン片状グラファイトとアセチレンブラックをそれぞれ2.3重量%、バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)3.2重量%をN−メチルピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製する。このスラリーを正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面にダイコーターで塗付し、130℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形する。このとき、正極の活物質塗付量は250g/m、活物質嵩密度は3.00g/cmになるようにする。これを幅約40mmに切断して帯状にする。
【0104】
(2)負極の作製
活物質として人造グラファイト96.9重量%、バインダとしてカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩1.4重量%とスチレン−ブタジエン共重合体ラテックス1.7重量%を精製水中に分散させてスラリーを調製する。このスラリーを負極集電体となる厚さ12μmの銅箔の片面にダイコーターで塗付し、120℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形する。このとき、負極の活物質塗付量は106g/m、活物質嵩密度は1.35g/cmになるようにする。これを幅約40mmに切断して帯状にする。
【0105】
(3)非水電解液の調整
エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート=1:2(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPFを濃度1.0mol/リットルとなるように溶解させて調整する。
【0106】
(4)電池組立
各実施例および比較例の電池用セパレータ,帯状正極及び帯状負極を、帯状負極、セパレータ、帯状正極、セパレータの順に重ねて渦巻状に複数回捲回することで電極板積層体を作製する。
この電極板積層体を平板状にプレス後、アルミニウム製容器に収納し、正極集電体から導出したアルミニウム製リードを容器壁に、負極集電体から導出したニッケル製リードを容器蓋端子部に接続する。さらにこの容器内に前記した非水電解液を注入し封口する。こうして作製されるリチウムイオン電池は、縦(厚み)6.3mm、横30mm、高さ48mmの大きさで、公称放電容量が620mAhとなるように設計されている。
【0107】
(参考例:円筒型の場合)
上記のセパレータ、帯状正極及び帯状負極を、帯状負極、セパレータ、帯状正極、セパレータの順に重ねて渦巻状に複数回捲回することで円筒型積層体を作製する。この円筒型積層体をステンレス金属製容器に収納し、負極集電体から導出したニッケル製リードを容器底に接続し、正極集電体から導出したアルミニウム製リードを容器蓋端子部に接続する。さらに、この容器内に前記した非水電解液を注入し、封口する。こうして作製されるリチウムイオン電池は、直径18mm、高さ65mmの大きさで、公称放電容量が1500mAhとなるよう設計されている。
【0108】
[測定法、評価法]
(1)拡散係数D
エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートを1:2の体積比率で混合した溶媒に、リチウム塩LiN(SOCF(LiTFSI)を1M溶解した電解液を、各実施例および比較例の電池用セパレータの内部に浸透させて保持させた状態で、磁場勾配NMR測定法により、30℃におけるリチウムイオンの拡散係数Dを求めた。磁場勾配NMR測定法では観測されるピーク高さをE、磁場勾配パルスを与えない場合のピーク高さをE0、核磁気回転比をγ(T−1・s−1)、磁場勾配強度をg(T・m−1)、磁場勾配パルス印加時間をδ(s)、拡散待ち時間をΔ(s)、自己拡散係数をD(m・s−1)とした場合、下式が成り立つ。
Ln(E/E)=D×γ×g×δ×(Δ−δ/3)
上式から、g、δ、Δを変化させてNMRピークの変化を観測することでDが得られる。実際には、NMRシーケンスとしてbpp−led−DOSY法を用い、Δ、およびδを固定してgを0からLn(E/E)≦−3となる範囲で10点以上変化させ、Ln(E/E)をY軸、γ×g×δ×(Δ−δ/3)をX軸としてプロットした直線の傾きからDを得た。Δ、およびδの設定値は任意であるが、測定対象の縦緩和時間をT1(s)、横緩和時間をT2(s)とした場合に下記の条件を満たす必要がある。
10ms<Δ<T1
0.2ms<δ<T2
実際には、Δ=50msとし、δを0.4ms≦δ≦3.2msの範囲の任意の値として、磁場勾配NMR測定を実施した。多孔質フィルムの構造の影響により、自己拡散が阻害を受けると上記のプロットが下に凸の曲線となるが、この場合にはLn(E/E)が0から−2の範囲で曲線を直線近似し、この傾きからDを得た。
【0109】
(2)ポリオレフィン樹脂多孔膜の平均孔径(μm)
キャピラリー内部の流体は、流体の平均自由工程がキャピラリーの孔径より大きいときはクヌーセンの流れに、小さい時はポアズイユの流れに従うことが知られている。そこで、微多孔膜の透気度測定における空気の流れがクヌーセンの流れに、また微多孔膜の透水度測定における水の流れがポアズイユの流れに従うと仮定する。
平均孔径d(μm)は、空気の透過速度定数Rgas(m/(m・sec・Pa))、水の透過速度定数Rliq(m/(m・sec・Pa))、空気の分子速度ν(m/sec)、水の粘度η(Pa・sec)、標準圧力P(=101325Pa)、気孔率ε(%)、膜厚L(μm)から、次式を用いて求めた。
d=2ν×(Rliq/Rgas)×(16η/3Ps)×10
ここで、Rgasは透気度(sec)から次式を用いて求められる。
gas=0.0001/(透気度×(6.424×10−4)×(0.01276×101325))
また、Rliqは透水度(cm/(cm・sec・Pa))から次式を用いて求められる。
liq=透水度/100
なお、透水度は次のように求められる。直径41mmのステンレス製の透液セルに、あらかじめエタノールに浸しておいた微多孔膜をセットし、該膜のエタノールを水で洗浄した後、約50000Paの差圧で水を透過させ、120sec間経過した際の透水量(cm)より、単位時間・単位圧力・単位面積当たりの透水量を計算し、これを透水度とした。
また、νは気体定数R(=8.314)、絶対温度T(K)、円周率π、空気の平均分子量M(=2.896×10−2kg/mol)から次式を用いて求められる。
ν=((8R×T)/(π×M))1/2
【0110】
(3)150℃における熱収縮率(%)
実施例及び比較例で得られたセパレータを、MD方向に100mm、TD方向に100mmに切り取り、150℃のオーブン中に1時間静置した。このとき、温風が直接サンプルに当たらないよう、サンプルを2枚の紙に挟んだ。サンプルをオーブンから取り出し冷却した後、長さ(mm)を測定し、以下の式にてMD及びTDの熱収縮率を算出した。
MD熱収縮率(%)=(100―加熱後のMDの長さ)/100×100
TD熱収縮率(%)=(100―加熱後のTDの長さ)/100×100
【0111】
(4)サイクル特性
上記のようにして組み立てたリチウムイオン電池を、60℃において、電流値6mA(約1.0C)で電池電圧4.2Vまで充電し、さらに4.2Vを保持するようにして電流値を6mAから絞り始めるという方法で、合計約3時間充電を行い、そして電流値6mAで電池電圧3.0Vまで放電するというサイクルを100回繰り返し、1サイクル目と100サイクル目の放電容量(mAh)を測定した。
1回目の放電容量に対する100サイクル目の放電容量の割合を算出し、この値をサイクル特性とした。
サイクル特性(%)=(100回目の放電容量/1回目の放電容量)×100
そして、下記基準で評価した。
○:容量保持率が80%以上
△:容量保持率が80%未満60%以上
×:容量保持率が60%未満
【0112】
(5)トリクル充電試験
上記のようにして組み立てたリチウムイオン電池を用いて、4.3Vに充電してから、60℃で4.3V、200時間のトリクル充電試験を行った。そして、下記基準で評価した。
×:電流のリークが起こり、1mA以上の電流が流れたもの(耐久性不良)
△:リーク電流が1mA以下であるが300μA以上のもの
○:リーク電流が300μA以下のもの
【0113】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明によれば、サイクル特性、トリクル特性が良好であり、長期間作動しても、電池特性が低下しない蓄電デバイス用セパレータを提供できる。