【実施例】
【0042】
以下、実施例により本出願の実施の形態に係る導電性グラファイトの製造方法及び導電性グラファイトをより詳細に説明する。なお、本出願の実施の形態に係る導電性グラファイトの製造方法及び導電性グラファイトは、以下の実施例に限定されるものではない。
まず、各実施例及び比較例のグラファイトからなる粉体試料に対する測定内容を説明する。
【0043】
1)元素分析測定
粉体の試料約2mgを計量し、以下の条件でCHNO元素分析を行った。
<測定条件>
測定装置:MT−6(ヤナコ分析工業株式会社社製)
1.C、H、N分析
キャリアーガス:ヘリウム180mL/min
助燃ガス:高純度酸素20mL/min
試料炉温度:950℃、燃焼炉温度:850℃、還元炉温度:550℃
TCD検出器(差動熱伝道度計):100℃
水吸収剤:アンヒドロン(過塩素酸マグネシウム)
二酸化炭素吸収剤:ソーダタルク
2、O分析
キャリアーガス:ヘリウム180mL/min
試料炉温度:1050℃、燃焼炉温度:1000℃、吸収炉温度:500℃
酸性ガス吸収:室温
酸化炉温度:300℃
TCD検出器(差動熱伝道度計):100℃
二酸化炭素吸収剤:ソーダタルク
【0044】
2)シート抵抗
グラファイト試料2gを水100gに分散し、超音波を1時間印加してグラファイトインクを作製した。このグラファイトインクを、無アルカリガラス イーグルXG(コーニング社製、厚さ1.1mm×50mm×50mm)のガラス表面に、スプレーコーター(株式会社エアテックス製 APC−04コンプレッサー、XP−727エアブラシ)でスプレー塗工した。塗布膜を乾燥させ、乾燥後の膜厚を10μmとした。そののち、抵抗率計ロレスタGP(三菱化学株式会社製)のPSPプローブを使用して、塗布膜表面のシート抵抗を測定した。
【0045】
3)窒素含有量
導電性グラファイトの窒素含有量を以下のとおりに求めた。
まず、イオンクロマトグラフィーを用いてグラファイトより遊離する窒素含有化合物量を測定した。グラフェン紛体試料5mgをサンプリングし、そこに水を約5mL添加した。このグラフェン含有溶液に対して15分間超音波処理を行い、窒素含有化合物を抽出した。また、試料を入れないで同様の操作を行ったものをブランクとして測定した。この抽出液の遠心上清をイオンクロマトグラフィーで測定した。
【0046】
次に以下の式より窒素含有量を求めた。
(窒素含有量)=(元素分析で得られた窒素量)−(グラファイトより遊離する窒素含有化合物量)
また、使用したイオンクロマトグラフィー装置及び測定条件は以下のとおりである。
測定装置:東ソー株式会社製 IC−2001
分離カラム:東ソー株式会社製 TSKgel SuperIC−CR(カラムサイズ:4.6mmI.D.×150mm)
溶離液:2.2mMメタンスルホン酸+1.0mMクラウンエーテル+0.5mMヒスチジン
溶離液流量:0.7mL/min
検出器:電気伝導度検出器
恒温槽温度:40℃
試料注入量:30μL
【0047】
4)アルカリ金属含有量
導電性グラファイトのアルカリ金属含有量を以下のとおりに求めた。
グラファイト試料約50mgをサンプリングし、塩酸が約2%、硝酸が約6%の混酸で酸処理を行い純水で定容して検液とした。以下のICP発光分光分析装置で、検量線法によって上述した検液のアルカリ金属濃度を測定した。
測定装置:サーモフイッシャーサイエンティフィック社製 iCAP6300 Duo
【0048】
5)塗布性
グラファイト試料2gを水100gに分散し、超音波を1時間印加してグラファイトインクを作製した。このグラファイトインクを、無アルカリガラス イーグルXG(コーニング社製、厚さ1.1mm×50mm×50mm)のガラス表面に、スプレーコーター(株式会社エアテックス製 APC−04コンプレッサー、XP−727エアブラシ)でスプレー塗工した。目視で凝集が確認されれば×とし、凝集が確認されなければ○として塗布性を判断した。
【0049】
<合成例1>
容積2000mLのビーカーに濃硫酸460mLを投入し、撹拌翼で撹拌を行った。市販の薄層グラファイト(平均層数16層、酸素の含有比率O=3.5重量%)20.05gと硝酸ナトリウム10.06gとをビーカーに加え、均一になるまで撹拌した。反応容器を氷浴につけて撹拌させながら、過マンガン酸カリウム60.08gを10分間かけて滴下した。この反応液を室温で5日間撹拌した。5日後、液は高粘度となっていた。この反応液を液1とする。
【0050】
容積5000mLのビーカーに3.3wt%硫酸水溶液500mLを投入し、撹拌翼で撹拌を行った。液1をスパーテル(テフロン(登録商標)製)でかきとり硫酸水溶液中へ少しずつ加えた。液1が付着したビーカーを3.3wt%硫酸水溶液で洗浄して、硫酸水溶液と液1との混合液を5000mLビーカー内へゆっくり加えた。3.3wt%硫酸水溶液と液Aとの反応液を室温で2時間撹拌し、その後30wt%過酸化水素水40mLをゆっくり加えた。30wt%過酸化水素水の添加後、室温で2時間撹拌した。この反応液を液2とする。
【0051】
液2を遠心管へ移し入れ、遠心分離(条件:15000rpm×20分)を行った後、上澄みを除去した。この遠心管に3wt%硫酸と0.5wt%過酸化水素水とを加えて再分散を行った後、遠心分離(条件:15000rpm)を行い、上澄みを除去した。この工程を15回繰り返した。遠心管へイオン交換水を加え、酸化グラファイトを再分散させて一晩放置した。静置後、溶液を別の遠心管へ移し替えて沈殿物を除去した。溶液を遠心分離し(条件:15000rpm×10分)、上澄みを除去した。遠心管へ超純水を加えて再分散させた後、遠心分離(条件:15000rpm)を行い、上澄みを除去した。上澄みのpHが中性になるまで繰り返して、酸化グラファイト分散液(1wt%)を得た。
【0052】
<実施例1>
合成例1で得た酸化グラファイト分散液(1wt%)を30mL、28%アンモニア水溶液を3mL、水15mLをビーカーに入れた。このビーカーにタングステン電極を接続し、周波数30kHz、パルス幅2.0μ秒、電極間距離1mmの条件で、5時間、ソリューションプラズマ処理を行った。ソリューションプラズマ処理後、酸化グラファイトが分散された溶液を吸引ろ過したのち水に分散を行い、グラファイトA分散液を得た。このグラファイトA分散液を吸引ろ過して100℃で12時間乾燥し、ソリューションプラズマ処理グラファイトAを得た。
【0053】
このソリューションプラズマ処理グラファイトAに対し、上述の方法で、元素分析、イオンクロマトグラフィーによるグラファイトより遊離する窒素含有化合物量の測定を行った。具体的には、アンモニアの分析を行った。
また、ソリューションプラズマ処理グラファイトA2gを水100gに分散し、超音波を1時間印加してグラファイトインクAを作製した。このグラファイトインクAを用いて、上述の方法でシート抵抗の測定、塗布性の判断を行った。各測定の結果を表2に示す。
【0054】
<実施例2>
合成例1で得た酸化グラファイト分散液(1wt%)を30mL、ピリジンを1mL、水15mLをビーカーに入れた。このビーカーにタングステン電極を接続し、周波数30kHz、パルス幅2.0μ秒、電極間距離1mmの条件で、5時間、ソリューションプラズマ処理を行った。ソリューションプラズマ処理後、酸化グラファイトが分散された溶液を吸引ろ過したのち水に分散を行い、グラファイトB分散液を得た。このグラファイトB分散液を吸引ろ過して100℃で12時間乾燥し、ソリューションプラズマ処理グラファイトBを得た。
【0055】
このソリューションプラズマ処理グラファイトBに対し、上述の方法で、元素分析、イオンクロマトグラフィーによるグラファイトより遊離する窒素含有化合物量の測定を行った。具体的には、ピリジンの分析を行った。
また、ソリューションプラズマ処理グラファイトB2gを水100gに分散し、超音波を1時間印加してグラファイトインクBを作製した。このグラファイトインクBを用いて、上述の方法でシート抵抗の測定、塗布性の判断を行った。各測定の結果を表2に示す。
【0056】
<実施例3>
合成例1で得た酸化グラファイト分散液(1wt%)を30mL、トリエチルアミンを1mL、水15mLをビーカーに入れた。このビーカーにタングステン電極を接続し、周波数30kHz、パルス幅2.0μ秒、電極間距離1mmの条件で、5時間、ソリューションプラズマ処理を行った。ソリューションプラズマ処理後、酸化グラファイトが分散された溶液を吸引ろ過したのち水に分散を行い、グラファイトC分散液を得た。このグラファイトC分散液を吸引ろ過して100℃で12時間乾燥し、ソリューションプラズマ処理グラファイトCを得た。
【0057】
このソリューションプラズマ処理グラファイトCに対し、上述の方法で、元素分析、イオンクロマトグラフィーによるグラファイトより遊離する窒素含有化合物量の測定を行った。具体的には、トリエチルアミンの分析を行った。
また、ソリューションプラズマ処理グラファイトC2gを水100gに分散し、超音波を1時間印加してグラファイトインクCを作製した。このグラファイトインクCを用いて、上述の方法でシート抵抗の測定、塗布性の判断を行った。各測定の結果を表2に示す。
【0058】
<実施例4>
合成例1で得た酸化グラファイト分散液(1wt%)を30mL、28%アンモニア水溶液を3mL、水酸化カリウムを0.5g、水15mLをビーカーに入れた。この容器にタングステン電極を接続し、30kHz、パルス幅2.0μ秒、電極間距離1mmの条件で、1時間、ソリューションプラズマ処理を行った。ソリューションプラズマ処理後、酸化グラファイトが分散された溶液を吸引ろ過したのち水に分散を行い、グラファイトD分散液を得た。このグラファイトD分散液を吸引ろ過して100℃で12時間乾燥し、ソリューションプラズマ処理グラファイトDを得た。
【0059】
このソリューションプラズマ処理グラファイトDに対し、上述の方法で、元素分析、イオンクロマトグラフィーによるグラファイトより遊離する窒素含有化合物量の測定、及びアルカリ金属含有量の測定を行った。具体的には、グラファイトより遊離する窒素含有化合物量の測定としてイオンクロマトグラフィーによるアンモニアの分析を行い、アルカリ金属含有量の測定としてICP発光分光分析によるカリウムの分析を行った。
また、ソリューションプラズマ処理グラファイトD2gを水100gに分散し、超音波を1時間印加してグラファイトインクDを作製した。このグラファイトインクDを用いて、上述の方法でシート抵抗の測定、塗布性の判断及び透過率の測定を行った。各測定の結果を表2に示す。
【0060】
<実施例5>
合成例1で得た酸化グラファイト分散液(1wt%)を30mL、水酸化カリウムを0.5g、水15mLをビーカーに入れた。このビーカーにタングステン電極を接続し、周波数30kHz、パルス幅2.0μ秒、電極間距離1mmの条件で、5時間、ソリューションプラズマ処理を行った。ソリューションプラズマ処理後、酸化グラファイトが分散された溶液を吸引ろ過したのち水に分散を行い、グラファイトE分散液を得た。このグラファイトE分散液を吸引ろ過して100℃で12時間乾燥し、ソリューションプラズマ処理グラファイトEを得た。
【0061】
このソリューションプラズマ処理グラファイトEに対し、上述の方法で、元素分析及びアルカリ金属含有量の測定を行った。アルカリ金属含有量の測定としては、具体的に、ICP発光分光分析によるカリウムの分析を行った。
また、ソリューションプラズマ処理グラファイトE2gを水100gに分散し、超音波を1時間印加してグラファイトインクEを作製した。このグラファイトインクEを用いて、上述の方法でシート抵抗の測定、塗布性の判断を行った。各測定の結果を表2に示す。
【0062】
<比較例1>
合成例1で得た酸化グラファイト分散液を吸引ろ過して100℃で12時間乾燥して得た酸化グラファイト(すなわち、ソリューションプラズマ処理を行っていない酸化グラファイト)を、上述の方法で、元素分析及びアルカリ金属含有量の測定を行った。アルカリ金属含有量の測定としては、具体的に、ICP発光分光分析によるカリウムの分析を行った。
また、酸化グラファイト2gを水100gに分散し、超音波を1時間印加して酸化グラファイトインクFを作製した。この酸化グラファイトインクFを用いて、上記の方法でシート抵抗の測定、塗布性の判断を行った。各測定の結果を表2に示す。
【0063】
<比較例2>
合成例1で得た酸化グラファイト分散液(1wt%)を30mL、水15mLをビーカーに入れた。このビーカーにタングステン電極を接続し、添加剤を加えずに、周波数30kHz、パルス幅2.0μ秒、電極間距離1mmの条件で、5時間、ソリューションプラズマ処理を行った。ソリューションプラズマ処理後、酸化グラファイトが分散された溶液を吸引ろ過したのち水に分散を行い、グラファイトG分散液を得た。このグラファイトG分散液を吸引ろ過して100℃で12時間乾燥し、ソリューションプラズマ処理グラファイトGを得た。
【0064】
このソリューションプラズマ処理グラファイトGに対し、上述の方法で、元素分析及びアルカリ金属含有量の測定を行った。アルカリ金属含有量の測定としては、具体的に、ICP発光分光分析によるカリウムの分析を行った。
また、ソリューションプラズマ処理グラファイトG2gを水100gに分散し、超音波を1時間印加してグラファイトインクGを作製した。このグラファイトインクGを用いて、上述の方法でシート抵抗の測定、塗布性の判断を行った。各測定の結果を表2に示す。
【0065】
<比較例3>
市販の薄層グラファイト(平均層数16層、D/G=0.17、酸素の含有比率O=3.5重量%)2.0gを水200gに分散させ、液中パルスプラズマ発生装置MPP−HV04(株式会社栗田製作所製)を用いて、周波数30kHz、パルス幅2.0μ秒、電極間距離1mmの条件で、6時間、ソリューションプラズマ処理を行った。ソリューションプラズマ処理後、薄層グラファイトが分散された溶液を吸引ろ過したのち水に分散を行い、グラファイトH分散液を得た。このグラファイトH分散液を吸引ろ過して100℃で12時間乾燥し、ソリューションプラズマ処理グラファイトHを得た。
【0066】
このソリューションプラズマ処理グラファイトHに対し、上述の方法で、元素分析及びアルカリ金属含有量の測定を行った。アルカリ金属含有量の測定としては、具体的に、ICP発光分光分析によるカリウムの分析を行った。
また、ソリューションプラズマ処理グラファイトH2gを水100gに分散し、超音波を1時間印加してグラファイトインクHを作製した。このグラファイトインクHを用いて、上述の方法でシート抵抗の測定、塗布性の判断を行った。各測定の結果を表2に示す。
【0067】
以下の表1に各実施例及び比較例の導電性グラファイトの製造条件を示す。
また、以下の表2に、各測定の結果を示す。
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
実施例及び比較例について考察する。
表1及び表2から、ソリューションプラズマ処理を行った実施例1から実施例5並びに比較例2及び比較例3の酸化グラファイトは、ソリューションプラズマ処理を行っていない比較例1の酸化グラファイトと比べてシート抵抗が顕著に減少していることが分かる。
そして、窒素含有化合物を添加剤として加えた実施例1から実施例4の導電性グラファイトは、添加剤を加えずにソリューションプラズマ処理を行った比較例2の薄層グラファイトに比べてさらにシート抵抗が減少している。
【0070】
比較例2及び比較例3のように、酸化グラファイトに対してソリューションプラズマ処理を行った場合、酸素含有量が減少してシート抵抗が減少している。これに対して、実施例1から実施例4のように、窒素含有化合物を添加してソリューションプラズマ処理を行った場合は、酸素の減少に加えて窒素の増大が起こっている。
また、イオンクロマトグラフィーによる測定結果より、添加剤の窒素含有化合物はほとんど残留していないことが分かる。すなわち、実施例1から実施例4のように窒素含有化合物を加えた場合は、窒素含有化合物がグラファイトになんらかの形で導入され、窒素によるドーピングが起こっていると考えられる。
【0071】
また、実施例4及び実施例5のように水酸化カリウムを用いた場合では、カリウムのドープによりシート抵抗が減少していると考えられる。
また、表2に示すように、実施例1から実施例5に示すソリューションプラズマ処理を行った酸化グラファイトを用いた場合、比較例3に示すソリューションプラズマ処理を行った薄層グラファイトを用い場合と比べて塗布性が向上することが分かった。
これは、酸化グラファイトを用いた場合には酸素官能基が存在するために、薄層グラファイトを用いた場合よりも親水性が向上し、水分散性が上昇するためである。
【0072】
本発明の範囲は、図示又は記載された例示的な実施形態に限定されるものではなく、本発明が目的とするものと均等な効果をもたらす全ての実施形態をも含む。さらに、本発明の範囲は、請求項により画される発明の特徴の組み合わせに限定されるものではなく、全ての開示されたそれぞれの特徴のうち特定の特徴のあらゆる所望する組み合わせによって画されうる。