特許第6426450号(P6426450)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6426450導電性グラファイトの製造方法及び導電性グラファイト
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  • 特許6426450-導電性グラファイトの製造方法及び導電性グラファイト 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6426450
(24)【登録日】2018年11月2日
(45)【発行日】2018年11月21日
(54)【発明の名称】導電性グラファイトの製造方法及び導電性グラファイト
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/20 20170101AFI20181112BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20181112BHJP
   H01B 1/04 20060101ALI20181112BHJP
   H01B 5/02 20060101ALN20181112BHJP
【FI】
   C01B32/20
   H01B13/00 Z
   H01B1/04
   !H01B5/02 A
【請求項の数】2
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-239994(P2014-239994)
(22)【出願日】2014年11月27日
(65)【公開番号】特開2016-102034(P2016-102034A)
(43)【公開日】2016年6月2日
【審査請求日】2017年8月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(72)【発明者】
【氏名】丸山 公幸
(72)【発明者】
【氏名】荒巻 政昭
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 永宏
(72)【発明者】
【氏名】上野 智永
【審査官】 神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−136566(JP,A)
【文献】 特開2013−147367(JP,A)
【文献】 特開2013−001882(JP,A)
【文献】 特開2011−126742(JP,A)
【文献】 特開2014−144900(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/20
H01B 1/04
H01B 13/00
H01B 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化グラファイトと、窒素含有化合物と、アルカリ金属含有化合物と、を含む溶液に対してソリューションプラズマ処理を行うソリューションプラズマ処理工程と、
ソリューションプラズマ処理を行った前記溶液から、導電性グラファイトを得る工程と、
を備え、
前記導電性グラファイトが窒素及びアルカリ金属を含み、
前記導電性グラファイトにおける前記窒素の含有比率が0.5重量%以上15重量%以下であり、前記導電性グラファイトにおける前記アルカリ金属の含有比率が0.5重量%以上40重量%以下である
導電性グラファイトの製造方法。
【請求項2】
窒素及びアルカリ金属を含み、
前記窒素の含有比率が0.5重量%以上15重量%以下であり、
前記アルカリ金属の含有比率が0.5重量%以上40重量%以下である
導電性グラファイト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性グラファイトの製造方法及び導電性グラファイトに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新規電子材料として、グラフェンが注目されている。グラフェンとは、sp2結合炭素原子の単層シートであり、六角形格子構造を有する。2004年、グラフェンのフェルミ準位付近の電子が、質量ゼロの粒子のように振舞うことが発見された。この振舞いに由来するグラフェンの特異な物性が、電子デバイス、スピンデバイス等の応用技術の側面から大きな注目を集めている(非特許文献1、非特許文献2)。
【0003】
グラフェンの特異な物性としては、例えば室温での量子ホール効果や弾道的キャリア輸送、単結晶シリコンより一桁以上高いキャリア移動度などがある。このような特異な物性に着目してグラフェンのいくつかの用途が提案されている。例えば、各種薄膜型表示装置や太陽電池、タッチパネル用の透明電極、超高移動度トランジスタ、帯電防止膜、単分子検出ガスセンサー、導電性複合材料など多岐にわたる。しかし、これらの用途に対する応用を進めるためには、大面積なグラフェンを簡便かつ再現性よく大量に形成する手法や、様々な基板の上にグラフェンを積層し導電性グラファイトを作製する技術の開発が必要となる。
【0004】
グラフェンの実用化を考えた際、欠陥のない大面積なグラフェンを形成することは難しいため、グラフェンが数層積層した薄層グラファイトの開発が進んでおり、いくつかの作製方法が知られている。例えば、熱CVD(Chemical Vapor Deposition:化学蒸着)法(非特許文献3)、ガスプラズマ法(特許文献1)、グラファイトを硫酸、硫酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム存在下で酸化し、該酸化グラフェンを溶媒に溶かした塗料を基板上に塗布し、ヒドラジン還元や焼成で還元する手法(非特許文献4)などが挙げられる。また、該酸化グラフェンの還元を液中プラズマ照射処理により行う還元方法も提案されている(特許文献2)。
一方で、グラフェン自体を実用化させる研究として、窒素やアルカリ金属でドーピングを行い、導電性を改良する試みが知られている(非特許文献5)。また、酸化グラフェンを窒素含有化合物中で加熱処理し、窒素含有酸化グラフェンを合成する方法も提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−212619号公報
【特許文献2】特開2011−126742号公報
【特許文献3】国際公開第2012/086260号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】K. S. Novoselov, A. K. Geim, S. V. Morozov, D. Jiang, Y. Zhang, S. V. Dubonos, I. V. Grigorieva, A. A. Firsov, Science 306 (2004) 666.
【非特許文献2】K. S. Novoselov, D. Jiang, F. Schedin, T. J. Booth, V. V. Khotkevich, S. V. Morozov and A. K. Geim, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 102 (2005) 10451
【非特許文献3】Nano Lett., 9, 30(2009)
【非特許文献4】小幡誠司、グラフェンの機能と応用展望II、監修 斉木幸一郎ら、シーエムシー出版、92頁、2012年
【非特許文献5】JACS, 131, 15939-15944(2009)
【非特許文献6】Nano Letters, 6, 2667-2763(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献3に記載の熱CVD法においては、金属板上にグラフェン薄膜を形成した後、その金属板を溶解除去し、使用する基板上に転写する煩雑な工程が必要となる。
特許文献1に記載のガスプラズマ法では、優れた特性の薄層グラファイトの作製が期待できる一方、高価な装置と厳しい安全対策が必要である。
【0008】
また、特許文献2に記載の酸化グラフェンから還元してグラフェンを得る方法においては、還元処理が完全に行われず、グラフェンの導電性の低下を招くことが問題となっている。これは、酸化工程においての炭素のsp2結合の切断、C−O結合の生成等により、酸化グラフェンがグラフェンに可逆的に戻らないことを示している。
また、特許文献3に記載の酸化グラフェンを窒素含有化合物水溶液中で加熱処理し窒素含有酸化グラフェンを合成する方法については、窒素によるキャリアの導入が期待できるものの、酸化グラフェンの酸素官能基を還元していないことから導電性は低いままである。
【0009】
非特許文献5に記載の金属をドーピングする方法は、真空装置中で数百度から千度の高温でドープ種のガスを流す必要があり、高価な装置と厳しい安全対策が必要となる。更に、グラフェンは塗布性が悪く、均一な層を形成することに課題がある。
そこで、本発明は、塗布性および導電性が良好な導電性グラファイトの製造方法、及び塗布性および導電性が向上した導電性グラファイトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題に鑑み、薄層グラファイトに、窒素含有化合物もしくはアルカリ金属含有化合物、もしくはその両方の存在下でソリューションプラズマ処理を行うことによって、塗布性および導電性が良好な導電性グラファイトが得られることを発見し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の特徴を有している。
【0013】
[]
酸化グラファイトと、窒素含有化合物と、アルカリ金属含有化合物と、を含む溶液に対してソリューションプラズマ処理を行うソリューションプラズマ処理工程と、ソリューシ
ョンプラズマ処理を行った前記溶液から、導電性グラファイトを得る工程と、を備え、前記導電性グラファイトが窒素及びアルカリ金属を含み、前記導電性グラファイトにおける前記窒素の含有比率が0.5重量%以上15重量%以下であり、前記導電性グラファイトにおける前記アルカリ金属の含有比率が0.5重量%以上40重量%以下である導電性グラファイトの製造方法。
[]
窒素及びアルカリ金属を含み、前記窒素の含有比率が0.5重量%以上15重量%以下であり、前記アルカリ金属の含有比率が0.5重量%以上40重量%以下である導電性グラファイト。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、塗布性および導電性が良好な導電性グラファイトの製造方法、及び塗布性および導電性が向上した導電性グラファイトを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】シート状導電体のシート抵抗を説明する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
<1.導電性グラファイトの製造方法>
本実施形態に係る導電性グラファイトは、グラファイトに酸素官能基を付加した酸化グラファイトに対してソリューションプラズマ処理を行うことで製造される。導電性グラファイトは、例えば、特定の化合物を含む溶媒中、薄層化された酸化グラファイトに対してソリューションプラズマ処理を行い導電性を付与することで製造される。
【0017】
(酸化グラファイト)
本実施形態に係る酸化グラファイトは、グラファイトに酸素官能基を付加することにより製造される。
酸化グラファイトを作製するのに使用されるグラファイト原料としては、天然グラファイトと、人造グラファイト(例えば、キッシュ黒鉛、高配向性熱分解黒鉛、熱膨張グラファイト、カーボンナノファイバー等)が挙げられる。酸化グラファイトは、グラファイト原料を酸化剤で処理することで得られる。
【0018】
使用する酸化方法としては、Brodie法、Staudenmaier法、改良Hummers法などで知られている方法を用いることができる。Brodie法は、酸化剤として塩素酸カリウム、硝酸を用いる方法である。Staudenmaier法は、酸化剤として塩素酸カリウム、硝酸、硫酸を用いる方法である。改良Hummers法は、酸化剤として、硫酸、硝酸ナトリウム、過マンガン酸カリウムを用いる方法である。
【0019】
いずれの方法も、グラファイトを酸化剤で処理することによってグラファイトを酸化し、層間のファンデルワールス力を弱めることによって剥離を促進し、薄層化することができる。
薄層化された酸化グラファイトの層数は1層以上30層以下が好ましく、1層以上20層以下がより好ましい。酸化グラファイトに含まれる酸素の量は、10重量%以上60重量%以下が好ましく、10重量%以上50重量%以下がより好ましい。
【0020】
(ソリューションプラズマ処理)
ソリューションプラズマ処理について説明する。ソリューションプラズマとは、液相中で発生させたプラズマである。すなわち、薄層グラファイトを含む水溶液中でプラズマを発生させることにより、水溶液中の薄層グラファイトの導電性をプラズマを発生前よりも向上させるプラズマ処理を、ソリューションプラズマ処理という。
【0021】
溶液中に対向するように配置された2つの電極の間にパルス電圧を印加することにより、2つの電極間にプラズマを発生させることができる。発生したプラズマの周囲には気泡が発生し、その気泡がプラズマを取り囲んだ状態で溶液中に存在している。ソリューションプラズマはこのようにプラズマによる「高エネルギー状態」を溶液中に閉じ込めるという状態を実現しており、これにより周囲の気相、液相またはその界面で様々な化学反応が促進される。このようなソリューションプラズマで薄層グラファイトを処理することにより、本実施形態に係る導電性グラファイトを得ることができる。
【0022】
ソリューションプラズマ処理に使用する電源としては、パルス電圧を印加できるパルス電源が好ましく用いられる。パルス電源を用いることにより、溶液の過熱、電極劣化の抑制をはかることができる。
ソリューションプラズマ処理に用いられる電極としては、タングステン(W)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)等が好ましく用いられる。
【0023】
ソリューションプラズマ処理における電極間距離は、0.01mm以上20mm以下が好ましく、0.1mm以上10mm以下がより好ましい。還元性Hラジカルの発生濃度が大きくなるためである。
ソリューションプラズマ処理におけるパルス電圧の周波数は、100Hz以上30kHz以下が好ましく、1k以上30kHz以下がより好ましい。
ソリューションプラズマ処理におけるパルス電圧のパルス幅は、0.1μ秒以上40μ秒以下の範囲が好ましく、1μ秒以上40μ秒以下がより好ましい。
【0024】
(溶媒)
ソリューションプラズマ処理に使用される溶媒としては、水、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン等)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル等)、脂肪族炭化水素類(ヘキサン、シクロヘキサン等)、ハロゲン化炭化水素類(メチレンクロライド、クロロホルム、四塩化炭素等)、芳香族炭化水素類(ベンゼン、トルエン、キシレン等)、エーテル類(ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル等)等が用いられる。特に、水、メタノール、エタノールが好ましく用いられる。
【0025】
(窒素含有化合物)
本実施形態では、上述した特定の化合物として、例えば窒素含有化合物が用いられる。本実施形態における窒素含有化合物は、薄層グラファイトの骨格に窒素を導入する目的で用いられる。
窒素含有化合物は、例えば、アンモニア、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン等のアミン化合物、ピリジン、ピロール、トリアジン等のヘテロ環状化合物、アセトニトリル等のニトリル化合物、アミド類(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等)、その他の窒素含有化合物(尿素、ヒドラジン、グアニジン等)等が好ましく用いられる。グラファイトへの導入性の観点から、アンモニア、トリエチルアミン、ピリジン、アセトニトリルが特に好ましく用いられる。
【0026】
ソリューションプラズマ処理時における溶媒中の窒素含有化合物の含有量は、0.01mol/L以上50mol/L以下であることが好ましい。窒素の導入量を0.5重量%以上とするための窒素の必要量の観点から、0.01mol/L以上であることが好ましい。また、窒素導入量が多すぎると、導電性グラファイト中のキャリア移動度が低下する観点から、50mol/L以下であることが好ましい。
【0027】
(アルカリ金属含有化合物)
本実施形態では、上述した特定の化合物として、例えばアルカリ金属含有化合物が用いられる。本実施形態におけるアルカリ金属含有化合物は、薄層グラファイトの骨格にアルカリ金属を導入する目的で用いられる。
アルカリ金属含有化合物は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、臭化カリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム等が用いられる。特に、グラファイトへのアルカリ金属導入の容易性の観点から、水酸化カリウムが好ましく用いられる。
【0028】
ソリューションプラズマ処理時における溶媒中のアルカリ金属含有化合物の含有量は、0.01mol/L以上50mol/L以下であることが好ましい。アルカリ金属の導入量を0.5重量%以上とするためのアルカリ金属の必要量の観点から0.01mol/L以上であることが好ましい。また、アルカリ金属含有化合物濃度が高すぎると溶液の導電性が上がりすぎ、プラズマの発生が激しくなり、ラジカルの発生に悪影響を及ぼすことから、50mol/L以下であることが好ましい。
【0029】
<2.導電性グラファイト>
本実施形態に係る導電性グラファイトは、窒素および/またはアルカリ金属を含む導電性グラファイトである。
また、本実施形態に係る導電性グラファイトは、上述のような窒素含有化合物および/またはアルカリ金属含有化合物を含む溶媒中で薄層グラファイトをソリューションプラズマ処理して得られる。
【0030】
(導電性グラファイトの窒素含有比率)
導電性グラファイトの窒素(N)の含有比率は、0.5重量%以上であり、1重量%以上が好ましく、3重量%以上がより好ましい。窒素の含有比率が0.5重量%以上の場合、グラファイトに導入されるキャリアの量が増大し、導電性が上がる観点から好ましい。
また、導電性グラファイトの窒素(N)の含有比率は、15重量%以下であり、12重量%以下が好ましく、10重量%以下がより好ましい。窒素の含有比率が15重量%以下の場合、キャリアの伝導パスとなる炭素の結合を阻害しない観点から好ましい。
導電性グラファイトの窒素含有比率は、一般的な元素分析により求められる。
【0031】
(導電性グラファイトのアルカリ金属含有比率)
導電性グラファイトのアルカリ金属の含有比率は、0.5重量%以上であり、1重量%以上が好ましく、2重量%以上がより好ましい。アルカリ金属の含有比率が0.5重量%以上の場合、グラファイトに導入されるキャリアの量が増大し、導電性が上がる観点から好ましい。
また、導電性グラファイトのアルカリ金属の含有比率は、40重量%以下であり、35重量%以下が好ましく、30重量%以下がより好ましい。アルカリ金属の含有比率が40重量%以下の場合、過剰なアルカリ金属が、グラファイト中のキャリアの伝導を阻害しない観点から好ましい。
導電性グラファイトのカリウム含有比率は、ICP発光分光分析により求められる。
【0032】
(導電性グラファイトの平均層数)
導電性グラファイトの平均層数は、2層以上30層以下が好ましく、2層以上20層以下がより好ましい。導電性グラファイトの平均層数は1層より小さくはなりえず、1層より小さい場合は欠陥の値がでていることとなる。その場合、導電性グラファイトの導電性の低下が起こり好ましくない。すなわち、平均層数が2層以上の場合は、欠陥を含むことなく導電性が向上するため好ましい。また、平均層数が30層以下の場合、導電性グラファイトの透過率が向上するため好ましい。
【0033】
導電性グラファイトの平均層数は、ラマンスペクトルの分析により求められる。平均層数は、ラマンスペクトルのDバンドの倍音(2Dバンド)スペクトルのピークの形から見積もる方法(非特許文献5)より求められる。ここで、ラマンスペクトル分析において、Dバンド;約1350cm-1のバンド、Gバンド;sp2カーボン起因の約1580cm-1のバンド、Dバンドの倍音の2Dバンド;約2700cm-1のバンド、とする。
【0034】
単層のグラファイトでは、ラマンスペクトルのピークトップが2690cm−1付近、19層以上では2725cm−1付近にピークトップがくる。このため、ラマンスペクトルのピークトップの位置、ピークの形を文献値(非特許文献6)と比較することによって層数を求めることができる。グラファイトの層数を測定位置を変えて3回以上測定し、各測定で得られた層数の平均をとることで平均層数を求めることができる。
【0035】
(導電性グラファイト膜のシート抵抗)
本実施形態に係る導電性グラファイトを用いた導電性グラファイト膜のシート抵抗としては、0.01Ω/□以上10000Ω/□以下が好ましく、0.01Ω/□以上1000Ω/□以下がより好ましい。
ここで、シート抵抗とは、以下のように定義される。
図1に示すように、シート状導電体の厚さをt、長さをL、幅をWとすると、端子X,Y間の抵抗値RX-Yは次式(1)であらわされる。
X-Y=ρ・{L/(t・W)} …(1)
(式(1)中、ρは材料の比抵抗[Ω・cm]である。)
ここで、厚さtを比抵抗に含めると、式(1)は次式(2)で表される。
X-Y=ρs・(L/W) …(2)
(式(2)中、ρs=ρ/tとし、ρsをシート抵抗[Ω/□]という。)
【0036】
(導電性グラファイトのさらなる薄層化)
本実施形態に係る導電性グラファイトは、公知の手法を用いて剥離し、グラファイト層数をさらに減少させた導電性グラファイトであってもよい。薄層化の方法としては、ビーズミル法、酸化グラフェン法、超音波印加法、超臨界法などの既知の手法を用いることができる。
ビーズミル法は、グラファイトを水、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の溶媒に分散させ、ビーズミル装置でせん断することで、薄層グラファイトを得ることができる。
【0037】
酸化グラフェン法は、グラファイトを濃硫酸、硝酸ナトリウム、過マンガン酸カリウムで処理することによってグラファイトを酸化し、層間のファンデルワールス力を弱めることによって薄層グラファイトを得ることができる。
超音波印加法は、グラファイトをビーズミル法
に用いられる溶媒と同様の溶媒に分散させ、超音波を印加することによって層を剥がし、薄層グラファイトを得ることができる。
超臨界法は、グラファイトをビーズミル法に用いられる溶媒と同様の溶媒に分散させ、耐圧容器に入れた後、超臨界状態−常温常圧状態のサイクルを1〜100回程度繰り返す。これにより、グラファイト層間に溶媒分子が入り込み、薄層グラファイトを得ることができる。
【0038】
(導電性グラファイトの分散と塗布)
本実施形態に係る導電性グラファイトは、導電性グラファイトを溶媒に分散させグラファイトインクとしたのち、基板に塗布することができる。
グラファイトインクに用いられる溶媒としては、水、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン等)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル等)、脂肪族炭化水素類(ヘキサン、シクロヘキサン等)、ハロゲン化炭化水素類(メチレンクロライド、クロロホルム、四塩化炭素等)、芳香族炭化水素類(ベンゼン、トルエン、キシレン等)、アミド類(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等)、エーテル類(ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル等)等が用いられる。特に好ましくは、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミドが用いられる。
【0039】
グラファイトインクには、分散剤を添加しても構わない。分散剤としては、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレアート等のソルビタン系ノニオン界面活性剤、ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル等のフェニルエーテル系ノニオン界面活性剤、ポリオキシエチレン(20)ステアリルエーテル等のアルキルエーテル系ノニオン界面活性剤、エチレングリコール−プロピレングリコール共重合ポリマー(製品名:Pluronic−P123(BASF社製))等の低気泡非イオン界面活性剤、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等の高分子界面活性剤、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアニオン系界面活性剤、などが好ましく用いられる。分散にあたり、超音波ホモジナイザ−、遠心分離器等の物理的な力を印加しても構わない。
【0040】
グラファイトインクの塗布は、ディッピング、スピンコーター、ナイフコーター、バーコーター、ブレードコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター、グラビアロールコーター、スライドコーター、カーテンコーター、スプレーコーター、ダイコーター、キャップコーターなどの公知の方法を用いて実施することができる。これらのうち、スピンコーター、バーコーター、スプレーコーター、ダイコーターが好ましく用いられる。
【0041】
グラファイトインクの塗布後、過熱処理によって溶媒を除去することも好ましく行われる。ホットプレート、真空乾燥機などの公知の方法を用いて溶媒を除去することができる。乾燥温度は、溶媒を効率よく除去するために40℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましい。また、グラファイトへのダメージを与えないために1000℃以下が好ましく、500℃以下がより好ましい。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本出願の実施の形態に係る導電性グラファイトの製造方法及び導電性グラファイトをより詳細に説明する。なお、本出願の実施の形態に係る導電性グラファイトの製造方法及び導電性グラファイトは、以下の実施例に限定されるものではない。
まず、各実施例及び比較例のグラファイトからなる粉体試料に対する測定内容を説明する。
【0043】
1)元素分析測定
粉体の試料約2mgを計量し、以下の条件でCHNO元素分析を行った。
<測定条件>
測定装置:MT−6(ヤナコ分析工業株式会社社製)
1.C、H、N分析
キャリアーガス:ヘリウム180mL/min
助燃ガス:高純度酸素20mL/min
試料炉温度:950℃、燃焼炉温度:850℃、還元炉温度:550℃
TCD検出器(差動熱伝道度計):100℃
水吸収剤:アンヒドロン(過塩素酸マグネシウム)
二酸化炭素吸収剤:ソーダタルク
2、O分析
キャリアーガス:ヘリウム180mL/min
試料炉温度:1050℃、燃焼炉温度:1000℃、吸収炉温度:500℃
酸性ガス吸収:室温
酸化炉温度:300℃
TCD検出器(差動熱伝道度計):100℃
二酸化炭素吸収剤:ソーダタルク
【0044】
2)シート抵抗
グラファイト試料2gを水100gに分散し、超音波を1時間印加してグラファイトインクを作製した。このグラファイトインクを、無アルカリガラス イーグルXG(コーニング社製、厚さ1.1mm×50mm×50mm)のガラス表面に、スプレーコーター(株式会社エアテックス製 APC−04コンプレッサー、XP−727エアブラシ)でスプレー塗工した。塗布膜を乾燥させ、乾燥後の膜厚を10μmとした。そののち、抵抗率計ロレスタGP(三菱化学株式会社製)のPSPプローブを使用して、塗布膜表面のシート抵抗を測定した。
【0045】
3)窒素含有量
導電性グラファイトの窒素含有量を以下のとおりに求めた。
まず、イオンクロマトグラフィーを用いてグラファイトより遊離する窒素含有化合物量を測定した。グラフェン紛体試料5mgをサンプリングし、そこに水を約5mL添加した。このグラフェン含有溶液に対して15分間超音波処理を行い、窒素含有化合物を抽出した。また、試料を入れないで同様の操作を行ったものをブランクとして測定した。この抽出液の遠心上清をイオンクロマトグラフィーで測定した。
【0046】
次に以下の式より窒素含有量を求めた。
(窒素含有量)=(元素分析で得られた窒素量)−(グラファイトより遊離する窒素含有化合物量)
また、使用したイオンクロマトグラフィー装置及び測定条件は以下のとおりである。
測定装置:東ソー株式会社製 IC−2001
分離カラム:東ソー株式会社製 TSKgel SuperIC−CR(カラムサイズ:4.6mmI.D.×150mm)
溶離液:2.2mMメタンスルホン酸+1.0mMクラウンエーテル+0.5mMヒスチジン
溶離液流量:0.7mL/min
検出器:電気伝導度検出器
恒温槽温度:40℃
試料注入量:30μL
【0047】
4)アルカリ金属含有量
導電性グラファイトのアルカリ金属含有量を以下のとおりに求めた。
グラファイト試料約50mgをサンプリングし、塩酸が約2%、硝酸が約6%の混酸で酸処理を行い純水で定容して検液とした。以下のICP発光分光分析装置で、検量線法によって上述した検液のアルカリ金属濃度を測定した。
測定装置:サーモフイッシャーサイエンティフィック社製 iCAP6300 Duo
【0048】
5)塗布性
グラファイト試料2gを水100gに分散し、超音波を1時間印加してグラファイトインクを作製した。このグラファイトインクを、無アルカリガラス イーグルXG(コーニング社製、厚さ1.1mm×50mm×50mm)のガラス表面に、スプレーコーター(株式会社エアテックス製 APC−04コンプレッサー、XP−727エアブラシ)でスプレー塗工した。目視で凝集が確認されれば×とし、凝集が確認されなければ○として塗布性を判断した。
【0049】
<合成例1>
容積2000mLのビーカーに濃硫酸460mLを投入し、撹拌翼で撹拌を行った。市販の薄層グラファイト(平均層数16層、酸素の含有比率O=3.5重量%)20.05gと硝酸ナトリウム10.06gとをビーカーに加え、均一になるまで撹拌した。反応容器を氷浴につけて撹拌させながら、過マンガン酸カリウム60.08gを10分間かけて滴下した。この反応液を室温で5日間撹拌した。5日後、液は高粘度となっていた。この反応液を液1とする。
【0050】
容積5000mLのビーカーに3.3wt%硫酸水溶液500mLを投入し、撹拌翼で撹拌を行った。液1をスパーテル(テフロン(登録商標)製)でかきとり硫酸水溶液中へ少しずつ加えた。液1が付着したビーカーを3.3wt%硫酸水溶液で洗浄して、硫酸水溶液と液1との混合液を5000mLビーカー内へゆっくり加えた。3.3wt%硫酸水溶液と液Aとの反応液を室温で2時間撹拌し、その後30wt%過酸化水素水40mLをゆっくり加えた。30wt%過酸化水素水の添加後、室温で2時間撹拌した。この反応液を液2とする。
【0051】
液2を遠心管へ移し入れ、遠心分離(条件:15000rpm×20分)を行った後、上澄みを除去した。この遠心管に3wt%硫酸と0.5wt%過酸化水素水とを加えて再分散を行った後、遠心分離(条件:15000rpm)を行い、上澄みを除去した。この工程を15回繰り返した。遠心管へイオン交換水を加え、酸化グラファイトを再分散させて一晩放置した。静置後、溶液を別の遠心管へ移し替えて沈殿物を除去した。溶液を遠心分離し(条件:15000rpm×10分)、上澄みを除去した。遠心管へ超純水を加えて再分散させた後、遠心分離(条件:15000rpm)を行い、上澄みを除去した。上澄みのpHが中性になるまで繰り返して、酸化グラファイト分散液(1wt%)を得た。
【0052】
<実施例1>
合成例1で得た酸化グラファイト分散液(1wt%)を30mL、28%アンモニア水溶液を3mL、水15mLをビーカーに入れた。このビーカーにタングステン電極を接続し、周波数30kHz、パルス幅2.0μ秒、電極間距離1mmの条件で、5時間、ソリューションプラズマ処理を行った。ソリューションプラズマ処理後、酸化グラファイトが分散された溶液を吸引ろ過したのち水に分散を行い、グラファイトA分散液を得た。このグラファイトA分散液を吸引ろ過して100℃で12時間乾燥し、ソリューションプラズマ処理グラファイトAを得た。
【0053】
このソリューションプラズマ処理グラファイトAに対し、上述の方法で、元素分析、イオンクロマトグラフィーによるグラファイトより遊離する窒素含有化合物量の測定を行った。具体的には、アンモニアの分析を行った。
また、ソリューションプラズマ処理グラファイトA2gを水100gに分散し、超音波を1時間印加してグラファイトインクAを作製した。このグラファイトインクAを用いて、上述の方法でシート抵抗の測定、塗布性の判断を行った。各測定の結果を表2に示す。
【0054】
<実施例2>
合成例1で得た酸化グラファイト分散液(1wt%)を30mL、ピリジンを1mL、水15mLをビーカーに入れた。このビーカーにタングステン電極を接続し、周波数30kHz、パルス幅2.0μ秒、電極間距離1mmの条件で、5時間、ソリューションプラズマ処理を行った。ソリューションプラズマ処理後、酸化グラファイトが分散された溶液を吸引ろ過したのち水に分散を行い、グラファイトB分散液を得た。このグラファイトB分散液を吸引ろ過して100℃で12時間乾燥し、ソリューションプラズマ処理グラファイトBを得た。
【0055】
このソリューションプラズマ処理グラファイトBに対し、上述の方法で、元素分析、イオンクロマトグラフィーによるグラファイトより遊離する窒素含有化合物量の測定を行った。具体的には、ピリジンの分析を行った。
また、ソリューションプラズマ処理グラファイトB2gを水100gに分散し、超音波を1時間印加してグラファイトインクBを作製した。このグラファイトインクBを用いて、上述の方法でシート抵抗の測定、塗布性の判断を行った。各測定の結果を表2に示す。
【0056】
<実施例3>
合成例1で得た酸化グラファイト分散液(1wt%)を30mL、トリエチルアミンを1mL、水15mLをビーカーに入れた。このビーカーにタングステン電極を接続し、周波数30kHz、パルス幅2.0μ秒、電極間距離1mmの条件で、5時間、ソリューションプラズマ処理を行った。ソリューションプラズマ処理後、酸化グラファイトが分散された溶液を吸引ろ過したのち水に分散を行い、グラファイトC分散液を得た。このグラファイトC分散液を吸引ろ過して100℃で12時間乾燥し、ソリューションプラズマ処理グラファイトCを得た。
【0057】
このソリューションプラズマ処理グラファイトCに対し、上述の方法で、元素分析、イオンクロマトグラフィーによるグラファイトより遊離する窒素含有化合物量の測定を行った。具体的には、トリエチルアミンの分析を行った。
また、ソリューションプラズマ処理グラファイトC2gを水100gに分散し、超音波を1時間印加してグラファイトインクCを作製した。このグラファイトインクCを用いて、上述の方法でシート抵抗の測定、塗布性の判断を行った。各測定の結果を表2に示す。
【0058】
<実施例4>
合成例1で得た酸化グラファイト分散液(1wt%)を30mL、28%アンモニア水溶液を3mL、水酸化カリウムを0.5g、水15mLをビーカーに入れた。この容器にタングステン電極を接続し、30kHz、パルス幅2.0μ秒、電極間距離1mmの条件で、1時間、ソリューションプラズマ処理を行った。ソリューションプラズマ処理後、酸化グラファイトが分散された溶液を吸引ろ過したのち水に分散を行い、グラファイトD分散液を得た。このグラファイトD分散液を吸引ろ過して100℃で12時間乾燥し、ソリューションプラズマ処理グラファイトDを得た。
【0059】
このソリューションプラズマ処理グラファイトDに対し、上述の方法で、元素分析、イオンクロマトグラフィーによるグラファイトより遊離する窒素含有化合物量の測定、及びアルカリ金属含有量の測定を行った。具体的には、グラファイトより遊離する窒素含有化合物量の測定としてイオンクロマトグラフィーによるアンモニアの分析を行い、アルカリ金属含有量の測定としてICP発光分光分析によるカリウムの分析を行った。
また、ソリューションプラズマ処理グラファイトD2gを水100gに分散し、超音波を1時間印加してグラファイトインクDを作製した。このグラファイトインクDを用いて、上述の方法でシート抵抗の測定、塗布性の判断及び透過率の測定を行った。各測定の結果を表2に示す。
【0060】
<実施例5>
合成例1で得た酸化グラファイト分散液(1wt%)を30mL、水酸化カリウムを0.5g、水15mLをビーカーに入れた。このビーカーにタングステン電極を接続し、周波数30kHz、パルス幅2.0μ秒、電極間距離1mmの条件で、5時間、ソリューションプラズマ処理を行った。ソリューションプラズマ処理後、酸化グラファイトが分散された溶液を吸引ろ過したのち水に分散を行い、グラファイトE分散液を得た。このグラファイトE分散液を吸引ろ過して100℃で12時間乾燥し、ソリューションプラズマ処理グラファイトEを得た。
【0061】
このソリューションプラズマ処理グラファイトEに対し、上述の方法で、元素分析及びアルカリ金属含有量の測定を行った。アルカリ金属含有量の測定としては、具体的に、ICP発光分光分析によるカリウムの分析を行った。
また、ソリューションプラズマ処理グラファイトE2gを水100gに分散し、超音波を1時間印加してグラファイトインクEを作製した。このグラファイトインクEを用いて、上述の方法でシート抵抗の測定、塗布性の判断を行った。各測定の結果を表2に示す。
【0062】
<比較例1>
合成例1で得た酸化グラファイト分散液を吸引ろ過して100℃で12時間乾燥して得た酸化グラファイト(すなわち、ソリューションプラズマ処理を行っていない酸化グラファイト)を、上述の方法で、元素分析及びアルカリ金属含有量の測定を行った。アルカリ金属含有量の測定としては、具体的に、ICP発光分光分析によるカリウムの分析を行った。
また、酸化グラファイト2gを水100gに分散し、超音波を1時間印加して酸化グラファイトインクFを作製した。この酸化グラファイトインクFを用いて、上記の方法でシート抵抗の測定、塗布性の判断を行った。各測定の結果を表2に示す。
【0063】
<比較例2>
合成例1で得た酸化グラファイト分散液(1wt%)を30mL、水15mLをビーカーに入れた。このビーカーにタングステン電極を接続し、添加剤を加えずに、周波数30kHz、パルス幅2.0μ秒、電極間距離1mmの条件で、5時間、ソリューションプラズマ処理を行った。ソリューションプラズマ処理後、酸化グラファイトが分散された溶液を吸引ろ過したのち水に分散を行い、グラファイトG分散液を得た。このグラファイトG分散液を吸引ろ過して100℃で12時間乾燥し、ソリューションプラズマ処理グラファイトGを得た。
【0064】
このソリューションプラズマ処理グラファイトGに対し、上述の方法で、元素分析及びアルカリ金属含有量の測定を行った。アルカリ金属含有量の測定としては、具体的に、ICP発光分光分析によるカリウムの分析を行った。
また、ソリューションプラズマ処理グラファイトG2gを水100gに分散し、超音波を1時間印加してグラファイトインクGを作製した。このグラファイトインクGを用いて、上述の方法でシート抵抗の測定、塗布性の判断を行った。各測定の結果を表2に示す。
【0065】
<比較例3>
市販の薄層グラファイト(平均層数16層、D/G=0.17、酸素の含有比率O=3.5重量%)2.0gを水200gに分散させ、液中パルスプラズマ発生装置MPP−HV04(株式会社栗田製作所製)を用いて、周波数30kHz、パルス幅2.0μ秒、電極間距離1mmの条件で、6時間、ソリューションプラズマ処理を行った。ソリューションプラズマ処理後、薄層グラファイトが分散された溶液を吸引ろ過したのち水に分散を行い、グラファイトH分散液を得た。このグラファイトH分散液を吸引ろ過して100℃で12時間乾燥し、ソリューションプラズマ処理グラファイトHを得た。
【0066】
このソリューションプラズマ処理グラファイトHに対し、上述の方法で、元素分析及びアルカリ金属含有量の測定を行った。アルカリ金属含有量の測定としては、具体的に、ICP発光分光分析によるカリウムの分析を行った。
また、ソリューションプラズマ処理グラファイトH2gを水100gに分散し、超音波を1時間印加してグラファイトインクHを作製した。このグラファイトインクHを用いて、上述の方法でシート抵抗の測定、塗布性の判断を行った。各測定の結果を表2に示す。
【0067】
以下の表1に各実施例及び比較例の導電性グラファイトの製造条件を示す。
また、以下の表2に、各測定の結果を示す。
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
実施例及び比較例について考察する。
表1及び表2から、ソリューションプラズマ処理を行った実施例1から実施例5並びに比較例2及び比較例3の酸化グラファイトは、ソリューションプラズマ処理を行っていない比較例1の酸化グラファイトと比べてシート抵抗が顕著に減少していることが分かる。
そして、窒素含有化合物を添加剤として加えた実施例1から実施例4の導電性グラファイトは、添加剤を加えずにソリューションプラズマ処理を行った比較例2の薄層グラファイトに比べてさらにシート抵抗が減少している。
【0070】
比較例2及び比較例3のように、酸化グラファイトに対してソリューションプラズマ処理を行った場合、酸素含有量が減少してシート抵抗が減少している。これに対して、実施例1から実施例4のように、窒素含有化合物を添加してソリューションプラズマ処理を行った場合は、酸素の減少に加えて窒素の増大が起こっている。
また、イオンクロマトグラフィーによる測定結果より、添加剤の窒素含有化合物はほとんど残留していないことが分かる。すなわち、実施例1から実施例4のように窒素含有化合物を加えた場合は、窒素含有化合物がグラファイトになんらかの形で導入され、窒素によるドーピングが起こっていると考えられる。
【0071】
また、実施例4及び実施例5のように水酸化カリウムを用いた場合では、カリウムのドープによりシート抵抗が減少していると考えられる。
また、表2に示すように、実施例1から実施例5に示すソリューションプラズマ処理を行った酸化グラファイトを用いた場合、比較例3に示すソリューションプラズマ処理を行った薄層グラファイトを用い場合と比べて塗布性が向上することが分かった。
これは、酸化グラファイトを用いた場合には酸素官能基が存在するために、薄層グラファイトを用いた場合よりも親水性が向上し、水分散性が上昇するためである。
【0072】
本発明の範囲は、図示又は記載された例示的な実施形態に限定されるものではなく、本発明が目的とするものと均等な効果をもたらす全ての実施形態をも含む。さらに、本発明の範囲は、請求項により画される発明の特徴の組み合わせに限定されるものではなく、全ての開示されたそれぞれの特徴のうち特定の特徴のあらゆる所望する組み合わせによって画されうる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の製造方法により得られる導電性グラファイトは、各種薄膜型表示装置や太陽電池、タッチパネル用の透明電極、超高移動度トランジスタ、帯電防止膜、単分子検出ガスセンサー、導電性複合材料などに利用することができる。
図1