特許第6426462号(P6426462)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社東芝の特許一覧 ▶ 東芝エネルギーシステムズ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6426462-電力変換装置およびその制御方法 図000002
  • 特許6426462-電力変換装置およびその制御方法 図000003
  • 特許6426462-電力変換装置およびその制御方法 図000004
  • 特許6426462-電力変換装置およびその制御方法 図000005
  • 特許6426462-電力変換装置およびその制御方法 図000006
  • 特許6426462-電力変換装置およびその制御方法 図000007
  • 特許6426462-電力変換装置およびその制御方法 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6426462
(24)【登録日】2018年11月2日
(45)【発行日】2018年11月21日
(54)【発明の名称】電力変換装置およびその制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/487 20070101AFI20181112BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20181112BHJP
【FI】
   H02M7/487
   H02M7/48 G
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-260441(P2014-260441)
(22)【出願日】2014年12月24日
(65)【公開番号】特開2016-123160(P2016-123160A)
(43)【公開日】2016年7月7日
【審査請求日】2017年7月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100189913
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜飼 健
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 隆太
(72)【発明者】
【氏名】河野 真也
(72)【発明者】
【氏名】藤田 崇
(72)【発明者】
【氏名】石月 照之
【審査官】 佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−223279(JP,A)
【文献】 特開2004−222434(JP,A)
【文献】 特開2000−287453(JP,A)
【文献】 特開2014−100025(JP,A)
【文献】 特開2011−193583(JP,A)
【文献】 特開平05−146160(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/487
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3つの電位を有した直流電源に接続される中性点クランプ形の電力変換装置ユニットと、
前記電力変換装置ユニットのスイッチング素子のオンオフを制御する制御手段とを具備し、
前記制御手段は、
前記電力変換装置ユニットをワンパルス制御によって駆動し、系統電圧の基準位相に対する、前記電力変換装置ユニットの出力電圧の位相差を制御することで前記電力変換装置ユニットの出力電流の有効電流成分を制御し、かつ、前記電力変換装置ユニットの出力電圧の所定の奇数次高調波成分を消去するための位相角、および、前記基準位相と前記位相差との和に基づいて前記スイッチング素子のオンオフを制御し、
前記所定の奇数次高調波成分を消去するための位相角は、5次高調波成分を消去するための第1の位相角、および、7次高調波成分を消去するための第2の位相角であり、
前記第1の位相角は0.09radであり、前記第2の位相角は0.54radである
電力変換装置。
【請求項2】
前記制御手段は、
前記電力変換装置ユニットの中性点電位変動が抑制されるように、前記スイッチング素子のスイッチングパターンを選択す
請求項記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記電力変換装置ユニットは、三相の交流電圧を出力し、
前記所定の奇数次高調波成分を消去するための位相角は、前記電力変換装置ユニットの出力電圧の5次以上の奇数次高調波成分を消去するための位相角であ
請求項1記載の電力変換装置。
【請求項4】
3つの電位を有した直流電源に接続される中性点クランプ形の電力変換装置ユニットのスイッチング素子のオンオフを制御する方法であって、
前記電力変換装置ユニットをワンパルス制御によって駆動し、系統電圧の基準位相に対する、前記電力変換装置ユニットの出力電圧の位相差を制御することで前記電力変換装置ユニットの出力電流の有効電流成分を制御し、かつ、および前記電力変換装置ユニットの出力電圧の所定の奇数次高調波成分を消去するための位相角、および、前記基準位相と前記位相差との和に基づいて前記スイッチング素子のオンオフを制御し、
前記所定の奇数次高調波成分を消去するための位相角は、5次高調波成分を消去するための第1の位相角、および、7次高調波成分を消去するための第2の位相角であり、
前記第1の位相角は0.09radであり、前記第2の位相角は0.54radである
電力変換装置の制御方法。
【請求項5】
3つの電位を有した直流電源に接続される中性点クランプ形の電力変換装置ユニットと、
前記電力変換装置ユニットの直流側における高電位側に接続される第1のコンデンサと、
前記第1のコンデンサと直列に接続され、前記直流側における低電位側に接続される第2のコンデンサと、
前記電力変換装置ユニットのスイッチング素子のオンオフを制御する制御手段とを具備し、
前記スイッチング素子は、前記電力変換装置ユニットのレグに属し、
前記制御手段は、
前記電力変換装置ユニットをワンパルス制御によって駆動し、系統電圧の基準位相に対する、前記電力変換装置ユニットの出力電圧の位相差を制御することで前記電力変換装置ユニットの出力電流の有効電流成分を制御し、かつ、前記電力変換装置ユニットの出力電圧の所定の奇数次高調波成分を消去するための位相角、および、前記基準位相と前記位相差との和に基づいて前記スイッチング素子のオンオフを制御し、
前記第1のコンデンサの電位が、前記第2のコンデンサの電位と異なる場合に、前記電力変換装置ユニットの中性点電位変動が抑制されるように、前記スイッチング素子のオンオフを制御するための前記スイッチング素子のスイッチングパターンを、前記第1のコンデンサの電位と前記第2のコンデンサの電位との大小と、前記電力変換装置ユニットの出力電流の方向とに基づいて選択し、
前記中性点電位変動は、前記2つのコンデンサの1つのみが充電又は放電される、定義されたスイッチングパターンで生じ、各レグへの前記位相角の割り当ては、前記定義されたスイッチングパターンの間で切り替えられる
電力変換装置。
【請求項6】
前記所定の奇数次高調波成分を消去するための位相角は、5次高調波成分を消去するための第1の位相角、および、7次高調波成分を消去するための第2の位相角であり、
前記第1の位相角は0.09radであり、前記第2の位相角は0.54radであ請求項記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記電力変換装置ユニットは、三相の交流電圧を出力し、
前記所定の奇数次高調波成分を消去するための位相角は、前記電力変換装置ユニットの出力電圧の5次以上の奇数次高調波成分を消去するための位相角であ
請求項記載の電力変換装置。
【請求項8】
3つの電位を有した直流電源に接続される中性点クランプ形の電力変換装置ユニットのスイッチング素子のオンオフを制御する方法であって、
前記電力変換装置ユニットをワンパルス制御によって駆動し、系統電圧の基準位相に対する、前記電力変換装置ユニットの出力電圧の位相差を制御することで前記電力変換装置ユニットの出力電流の有効電流成分を制御し、かつ、および前記電力変換装置ユニットの出力電圧の所定の奇数次高調波成分を消去するための位相角、および、前記基準位相と前記位相差との和に基づいて前記スイッチング素子のオンオフを制御し、
前記スイッチング素子は、前記電力変換装置ユニットのレグに属し、
前記電力変換装置ユニットの直流側における高電位側に接続された第1のコンデンサの電位が、前記第1のコンデンサと直列に接続されて前記直流側における低電位側に接続された第2のコンデンサの電位と異なる場合に、前記電力変換装置ユニットの中性点電位変動が抑制されるように、前記スイッチング素子のオンオフを制御するための前記スイッチング素子のスイッチングパターンを、前記第1のコンデンサの電位と前記第2のコンデンサの電位との大小と、前記電力変換装置ユニットの出力電流の方向とに基づいて選択し、
前記中性点電位変動は、前記2つのコンデンサの1つのみが充電又は放電される、定義されたスイッチングパターンで生じ、各レグへの前記位相角の割り当ては、前記定義されたスイッチングパターンの間で切り替えられる
電力変換装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電力変換装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大電力を出力する電力変換装置は高電圧を変換する。このため、耐電圧が高いスイッチング素子を用いるか、耐電圧が高くないスイッチング素子を直列に接続して耐電圧を高くする必要がある。さらに、トランスを用いて電力変換装置を多段化して、出力電圧を高くする必要がある。
【0003】
スイッチング素子の耐電圧が高い場合、このスイッチング素子のスイッチング損失は大きい。このため、スイッチング素子を出力周波数の1周期あたり1回のみスイッチング(ワンパルス)し、位相をずらすことによって特定の高調波を消去する制御を行うことがある。このような特定高調波を消去するワンパルス制御は、スイッチング素子をスイッチングすることに因る損失を低減でき、かつ高調波を低減できる利点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−100025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
NPC(Neutral-Point-Clamped)(中性点クランプ形)電力変換装置にPWM(Pulse Width Modulation)制御を適用した際、出力電圧は、より正弦波に近づき、高調波成分を大きく低減できる。しかし、この電力変換装置を大電力で使用する場合、スイッチング素子をスイッチングすることに因る損失が、より大きくなる。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、スイッチング損失を低減することが可能であり、また、特定高調波成分を消去することが可能な電力変換装置およびその制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態における電力変換装置は、3つの電位を有した直流電源に接続される中性点クランプ形の電力変換装置ユニットと、前記電力変換装置ユニットのスイッチング素子のオンオフを制御する制御手段とを具備し、前記電力変換装置ユニットをワンパルス制御によって駆動し、系統電圧の基準位相に対する、前記電力変換装置ユニットの出力電圧の位相差を制御することで前記電力変換装置ユニットの出力電流の有効電流成分を制御し、かつ、前記電力変換装置ユニットの出力電圧の所定の奇数次高調波成分を消去するための位相角、および、前記基準位相と前記位相差との和に基づいて前記スイッチング素子のオンオフを制御し、前記所定の奇数次高調波成分を消去するための位相角は、5次高調波成分を消去するための第1の位相角、および、7次高調波成分を消去するための第2の位相角であり、前記第1の位相角は0.09radであり、前記第2の位相角は0.54radである
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電力変換装置のスイッチング損失を低減することができ、また、出力電圧の特定高調波成分を消去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態における電力変換装置の回路構成の一例を示す図。
図2】実施形態における電力変換装置ユニットCNVの回路構成の一例を示す図。
図3】実施形態における電力変換装置ユニットCNVの出力電圧とスイッチング素子の状態の関係の一例を示す図。
図4】実施形態における電力変換装置ユニットCNVと位相の関係の一例を示す図。
図5】実施形態における電力変換装置ユニットの制御装置の機能構成例を示すブロック図。
図6】実施形態における電力変換装置を用いて中性点電位変動を抑制するスイッチング方法の一例を示すフローチャート。
図7】実施形態における電力変換装置ユニットCNVのスイッチング素子状態と出力電圧のタイミングチャートの一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態について図面を用いて説明する。
図1は、実施形態における電力変換装置の回路構成の一例を示す図である。この電力変換装置は、直流電圧を任意の周波数及び電圧に変換して三相(UVW相)交流負荷10を駆動する。
U相の電力変換装置ユニットCNVは、直流電圧VDCを入力する。この電力変換装置ユニットCNVの出力端子は、トランスTRのU相1次側巻線に接続される。
V相、W相の電力変換装置ユニットCNV、CNVもまた、U相と共通の直流電圧VDCを入力し、これらの電力変換装置ユニットの出力端子はトランスTRのV相、W相1次側巻線に1対1で接続される。
図1に示した電力変換装置ユニットの制御装置20は、電圧指令値及び各部の電圧値、電流値及び位相に基づいて、ゲート指令を各相の電力変換装置ユニットを構成するスイッチング素子に出力することで、各相の電力変換装置ユニットを制御する。
【0011】
次に、U相を例として各相の電力変換装置ユニットの詳細構成を説明する。図2は、実施形態における電力変換装置ユニットCNVの回路構成の一例を示す図である。
図1に示すように、電力変換装置ユニットの直流側において高電位側のコンデンサCと、低電位側のコンデンサCとが直列接続される。また、電力変換装置ユニットCNVは、図2に示した8つの自己消弧形スイッチング素子SU1、SU2、SU3、SU4、SU5、SU6、SU7、SU8と、全スイッチング素子に1対1で逆並列接続される8つの還流ダイオードDU1、DU2、DU3、DU4、DU5、DU6、DU7、DU8と、コンデンサC、Cの相互接続点(中性点N)に接続される4つのクランプダイオードDU9、DU10、DU11、DU12とを有する。
【0012】
この電力変換装置ユニットCNVは、スイッチング素子SU1、SU2、SU3、SU4を高電位側から低電位側にかけて直列接続し、またSU5、SU6、SU7、SU8を高電位側から低電位側にかけて直列接続して2つのレグを構成し、クランプダイオードの相互接続点を中性点Nに接続したNPC(中性点クランプ形)フルブリッジ電力変換装置である。なお、スイッチング素子SU2、SU3の接続点電圧VUAとスイッチング素子SU6、SU7の接続点電圧VUBとの電位差VUA−VUBがトランスTRへ出力される。
以下、U相を例にNPCレグの構成を説明する。
U相のNPCレグは、4つの自己消弧形スイッチング素子SU1、SU2、SU3、SU4が高電位側から低電位側にかけて直列に接続され、これらのスイッチング素子と逆並列に還流ダイオードDU1、DU2、DU3、DU4が1対1で接続される。
さらに、スイッチング素子SU1のエミッタと中性点Nとの間にクランプダイオードDU9が接続され、中性点Nとスイッチング素子U3のエミッタとの間にクランプダイオードDU10が接続される。クランプダイオードDU9のアノードは中性点Nに接続され、クランプダイオードDU9のカソードはスイッチング素子SU1のエミッタに接続される。クランプダイオードDU10のアノードはスイッチング素子SU3のエミッタに接続され、クランプダイオードDU10のカソードは中性点Nに接続される。
【0013】
スイッチング素子SU2のエミッタおよびスイッチング素子SU3のコレクタは、トランスTRのU相1次側巻線端子に接続される。スイッチング素子SU6のエミッタおよびスイッチング素子SU7のコレクタは、トランスTRのU相1次側巻線端子に接続される。このように、自己消弧形スイッチング素子SU1、SU2、SU3、SU4、還流ダイオードDU1、DU2、DU3、DU4、クランプダイオードDU9、DU10でU相のNPCレグが構成される。V相、W相のNPCレグ構成はU相のNPCレグと同様である。
V相、W相の各電力変換装置ユニットCNV、CNVの構成は、U相の電力変換装置ユニットと同様である。
【0014】
上述したように構成された実施形態の作用を詳細に説明する。
ここでは、電力変換装置ユニット単体の電圧出力方法をU相の電力変換装置ユニットCNVを例として説明する。
電力変換装置ユニットCNVは上記のようにフルブリッジ構成である。この電力変換装置ユニットCNVを構成するスイッチング素子SU1、SU2、SU3、SU4、SU5、SU6、SU7、SU8を制御装置20によりオン/オフ制御することによって直流電圧をVDCとすると、電力変換装置ユニットCNVは、−VDC、−VDC/2、0、+VDC/2、+VDCでなる5レベルの電圧をトランスTRに出力できる。
【0015】
図3は、実施形態における電力変換装置ユニットCNVの出力電圧とスイッチング素子の状態の関係の一例を示す図である。
図3に示すように、電力変換装置ユニットCNVの出力電圧ごとに設定される、スイッチング素子SU1、SU2、SU3、SU4、SU5、SU6、SU7、SU8のON/OFF状態は、9通りのパターン[1]〜[9]から成る。
また、SU1がONのときSU3はOFFし、SU4がONのときSU2はOFFし、SU5がONのときSU7はOFFし、SU8がONのときSU6はOFFする。このように、同じレグにおける複数のスイッチング素子がそれぞれ相補的に動作する。
出力電圧が0となるスイッチングパターンは[4]〜[6]の3通り、+VDC/2及び−VDC/2のスイッチングパターンは[2]及び[3]、[7]及び[8]のそれぞれ2通りがあり、冗長性がある。
この冗長性を利用し、制御装置20は、NPC電力変換装置ユニットの中性点電位変動を抑制できるスイッチングパターンを決定する。
【0016】
電力変換装置ユニットの2つのレグの片方のみが中性点Nに接続されているとき、つまりコンデンサC,Cのうち片方のみが電流経路に含まれているとき、中性点電位が変動する。
【0017】
すなわち、出力電圧が+VDC/2(スイッチングパターン[2]、[3])または−VDC/2(スイッチングパターン[7]、[8])のとき、中性点電位が変動する。中性点電位が変動する理由は、コンデンサC,Cの片方のみが充電あるいは放電されるためである。
【0018】
中性点電位の変動方向は、中性点Nに接続されているレグとトランスTRの1次側巻線電流Iの方向とで決定される。
出力電圧が−VDC、+VDCのときは、スイッチングパターンは一意に決定される上、中性点Nには電流が流入しない、つまり2つのコンデンサC,Cに同一の電流が流れるので中性点電位は変動しない。
【0019】
出力電圧が0のときは、スイッチングパターンは[4]〜[6]の3通りであるが、1組(2個)のスイッチング素子のON/OFF状態を変更することで、スイッチングパターンを[2]、[3]、[7]、[8]の何れのスイッチングパターンへ移行できるように、制御装置20は、スイッチングパターン[5]を常に選択する。
【0020】
例えば、出力電圧を0から+VDC/2へ変化させたいとき、スイッチングパターンを[5]から[2]へ移行するためには、SU1とSU3とでなる1組のスイッチング素子のみを制御装置20がスイッチングすればよい。しかし、スイッチングパターンを[6]から[2]へ移行するためには、SU1とSU3、SU2とSU4、および、SU6とSU8の3組のスイッチング素子を制御装置20がスイッチングすることが必要となる。
このように、スイッチングパターンを[5]から[2]、[3]、[7]、および[8]へ移行するには、制御装置20が1組のスイッチング素子をON/OFFすればよいので、スイッチングの回数を最低限にできる。
【0021】
上述したスイッチングパターンに従い、低次高調波を低減した電圧をトランスTRに出力する方法について述べる。
方形波電圧には、基本波(1次)に加え、3次、5次、7次、11次、13次、17次、19次、23次、25次・・・の高調波が重畳する。尚、位相0〜πにおいて出力波形は左右対称であり、位相π〜2πにおいても出力波形は左右対称である。
このような電圧波形を電力変換装置ユニットからトランスTRに出力する場合、偶数次の高調波は発生しない。また、3次高調波は3相線間電圧において互いに打ち消し合う。
【0022】
高調波振幅の大きさは、上記の2つのレグのそれぞれに割り当てられる各電圧レベルの立ち上がり位相α、αによって決定される。そのため、高調波振幅の大きさを決定する自由度、すなわち調整可能な位相はα、αの2つである。
【0023】
高調波電圧の振幅は高調波の次数が上がるほど小さくなるので、低い次数の高調波を消去すると電圧歪みを大きく改善する効果が得られる。よって、高調波で次数が最も低い3次高調波を消去する必要があるが、前述したように3k(kは自然数)倍次の高調波、すなわち3の倍数次の高調波は、位相が120°ずれた3相の線間電圧をトランスTRに出力することによって打ち消し合う。よって、3次高調波の次に次数が高い5、7次高調波を消去するためには、以下の式(1)、式(2)を満たす必要がある。
【0024】
cos(5α1)+cos(5α2)=0 …式(1)
cos(7α1)+cos(7α2)=0 …式(2)
これらの式(1)、式(2)によりα、αは一意に算出できる。ここでは、αは0.09radであり、αは0.54radである。これら算出した位相α、αを2つのレグに1対1で割り当てることで、図4に示すような、5、7次高調波を消去した電圧が電力変換装置ユニットからトランスTRに出力される。
【0025】
ここで、電圧利用率(直流入力電圧に対する基本波振幅の割合)Mは、以下の式(3)にて表わされる。
2(cos(α1)+cos(α2))/π=M …式(3)
上記の式(1)、式(2)より位相α、αは5、7次高調波を消去する値に決定されるため、電圧利用率Mは固定値である。このため、電力変換装置ユニットの出力電流を制御するために出力電圧の振幅を制御することはできない。そこで、本実施形態では、3相出力電流を有効電流成分及び無効電流成分に分離する。
【0026】
図5は、実施形態における電力変換装置の制御装置の機能構成例を示すブロック図である。
図5に示すように、制御装置20は、減算器21、電流制御器22、位相演算部23、加算器24およびゲート生成部25を有する。
減算器21は、電力変換装置ユニットの3相出力電流の有効電流指令値Iと電力変換装置ユニットの出力電流の有効電流成分Iとの差分を電流制御器22に出力する。
電流制御器22は、比例積分制御(PI制御)を行うための演算器22a,22b、加算器22cを有する。
演算器22aは、減算器21からの出力値にフィードバックゲインKを与えた値を加算器22cに出力する。演算器22bは、減算器21からの出力値を積分してフィードバックゲインKiを与えた値を加算器22cに出力する。加算器22cは、演算器22a,22bからの出力値の和を位相演算部23に出力する。
【0027】
位相演算部23は、加算器22cからの出力値の逆正弦(アークサイン)を演算することで、系統電圧の基準位相θ対する、電力変換装置ユニットの出力電圧の位相差θを演算する。
加算器24は、系統電圧の基準位相θと、この基準位相θに対する、電力変換装置ユニットの出力電圧の位相差θとの和をゲート生成部25に出力する。ゲート生成部25は、加算器24からの出力値と、位相α、αとに基づいて電力変換装置ユニットのスイッチング素子へのゲート制御信号を生成してスイッチング素子に出力する。
このようにして、基準位相θに対する、電力変換装置ユニットの出力電圧の位相差θを制御することで、電力変換装置ユニットの出力電流の有効電流成分Iを制御することができる。
上記のように、電圧利用率Mが固定である場合でも、上記の位相制御を適用することで、電圧利用率Mを制御した場合と同様の電流制御が可能となる。
【0028】
図6は、実施形態における電力変換装置を用いて中性点電位変動を抑制するスイッチング方法の一例を示すフローチャートである。図6では、電力変換装置ユニットが出力電圧として−VDC/2又は+VDC/2を出力するときの中性点電位変動を抑制する、制御装置20によるスイッチング方法を示す。
ここで、コンデンサCの電位をVとし、コンデンサCの電位をVとし、出力電流Iが電力変換装置ユニットからトランスTRに向かう方向(電流方向)を正方向とする。
例えば、電力変換装置ユニットCNVの出力電圧Vが±VDC/2で(S1のYES)、電位Vが電位Vより大きく(S3のYES)、電流方向が正の場合(S4のYES)について説明する。
この場合、コンデンサCに充電する方向に電流を流せば電位Vが上昇し、中性点電位変動が抑制される。
このとき、電圧−VDC/2を出力したいときは制御装置20がスイッチングパターン [7]を選択し、電圧+VDC/2を出力したいときは制御装置20がスイッチングパターン[2]を選択すれば、電位Vが電位Vに近づく方向に電流が流れ、中性点電位変動が抑制される(S5)。なお、出力電圧Vが±VDC/2でない場合で(S1のNO)、電圧0を出力したいときは制御装置20がスイッチングパターン[5]を選択し、電圧+VDCを出力したいときは制御装置20がスイッチングパターン[1]を選択し、−VDCを出力したいときは制御装置20がスイッチングパターン[9]を選択すればよい(S2)
【0029】
また、V>Vの場合の他の例について説明する。
上記のようにV>Vで電流方向が正の場合で、コンデンサCから放電する方向に電流を流せば電位Vが低下し、中性点電位変動が抑制される。
また、V>Vで電流方向が負の場合(S4のNO)で、コンデンサCから放電する方向に電流を流せば電位Vが低下し、中性点電位変動が抑制される。
同じくV>Vで電流方向が負の場合で、コンデンサCに充電する方向に電流を流せば電位Vが上昇し、中性点電位変動が抑制される。
上記のようにV>Vで電流方向が負の場合で、電圧−VDC/2を出力したいときは制御装置20がスイッチングパターン[8]を選択し、電圧+VDC/2を出力したいときは制御装置20がスイッチングパターン[3]を選択する(S6)。
【0030】
次に、V<Vの場合(S3のNO)の例について説明する。
<Vで電流方向が正の場合(S7のYES)で、コンデンサCに充電する方向に電流を流せば電位Vが上昇し、中性点電位変動が抑制される。
同じくV<Vで電流方向が正の場合で、コンデンサCから放電する方向に電流を流せば電位Vが低下し、中性点電位変動が抑制される。
上記のようにV<Vで電流方向が正の場合で、電圧−VDC/2を出力したいときは制御装置20がスイッチングパターン[8]を選択し、電圧+VDC/2を出力したいときは制御装置20がスイッチングパターン[3]を選択する(S8)。
【0031】
<Vで電流方向が負の場合(S7のNO)で、コンデンサCから放電する方向に電流を流せば電位Vが低下し、中性点電位変動が抑制される。
同じくV<Vで電流方向が負の場合で、コンデンサCに充電する方向に電流を流せば電位Vが上昇し、中性点電位変動が抑制される。
上記のようにV<Vで電流方向が負の場合で、電圧−VDC/2を出力したいときは制御装置20がスイッチングパターン[7]を選択し、電圧+VDC/2を出力したいときは制御装置20がスイッチングパターン[2]を選択する(S9)。
【0032】
尚、スイッチングパターン[3]、[7]は、スイッチング素子SU1、SU2、SU3、SU4により構成されたレグに位相αを閾値として与え、スイッチング素子SU5、SU6、SU7、SU8により構成されたレグに位相αを閾値として与えた状態である。
【0033】
同様に、スイッチングパターン[2]、[8]は、スイッチング素子SU1、SU2、SU3、SU4により構成されたレグに位相αを閾値として与え、スイッチング素子SU5、SU6、SU7、SU8により構成されたレグに位相αを閾値として与えた状態である。
すなわち、スイッチングパターン[3]、[7]とスイッチングパターン[2]、[8]の間で各レグへの位相α、αの割り当てが切り替えられることを示している。
【0034】
このようにして、制御装置20は、電位V、電位Vの大小と出力電流Iの方向とに従って電力変換装置ユニットCNVのスイッチングパターンを決定する。
【0035】
図7は、実施形態における電力変換装置ユニットCNVのスイッチング素子状態と出力電圧のタイミングチャートの一例を示す図である。この図7では、スイッチングパターンと電力変換装置ユニットCNVの直流巻線電圧VU21のタイミングチャートが示される。
電力変換装置ユニットCNVは、立ち上がり位相αとαの電圧をトランスTRに出力する。図7では、SU1、SU4、SU5、SU8のスイッチングパターンのみを示す。SU2、SU3、SU6、SU7は上記素子に対して相補的にスイッチングするので、これらの素子のスイッチングパターンは図7に記載していない。
また、図3に示したスイッチングパターンに対応するように、電圧VU21に対するスイッチング素子の状態を[1]〜[9]で示した。
【0036】
同じ電圧+VDC/2もスイッチングパターンが[2]と[3]の2通り存在するのは、中性点電位変動を抑制するために図5のフローチャートに従って、制御装置20がスイッチングパターンを選択するためである。出力電圧−VDC/2に対する2通りのスイッチングパターン[7]、[8]の選択についても同様である。
以上の電力変換装置ユニットCNVUの動作は他の相の電力変換装置ユニットにも共通する。
【0037】
以上のように、本実施形態における電力変換装置ユニットの構成および制御方法により、単相NPC電力変換装置ユニットにおけるワンパルス制御にて低次高調波の少ない電圧が得られる。
また、電圧利用率Mを固定値とした場合においても、位相制御を適用することで、電流制御が可能となる。加えて、本実施形態では、ワンパルス制御を適用しているため、電力変換装置ユニットのスイッチング回数を抑え、スイッチング損失を低減することが可能となる。
【0038】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0039】
10…負荷、20…制御装置、21…減算器、22…電流制御器、22a,22b…演算器、22c,24…加算器、23…位相演算部、25…ゲート生成部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7