特許第6426561号(P6426561)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6426561
(24)【登録日】2018年11月2日
(45)【発行日】2018年11月21日
(54)【発明の名称】異常検出装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 17/22 20060101AFI20181112BHJP
【FI】
   B60T17/22 Z
【請求項の数】5
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-169236(P2015-169236)
(22)【出願日】2015年8月28日
(65)【公開番号】特開2017-43300(P2017-43300A)
(43)【公開日】2017年3月2日
【審査請求日】2017年7月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 脩
(74)【代理人】
【識別番号】100190333
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 群司
(74)【代理人】
【識別番号】100130188
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 喜一
(72)【発明者】
【氏名】岡野 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】神谷 雄介
(72)【発明者】
【氏名】駒沢 雅明
(72)【発明者】
【氏名】大川 剛史
【審査官】 谷口 耕之助
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−283836(JP,A)
【文献】 特開2007−216773(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキシステムにおいてブレーキ操作に係りブレーキ操作量またはブレーキ操作力の増大とともに増大する第一検出対象を検出する第一センサから第一検出結果を取得する第一検出結果取得部と、
前記第一検出対象と相互関係を有しかつ前記ブレーキシステムにおいてブレーキ操作に係り前記ブレーキ操作量またはブレーキ操作力の増大とともに増大する第二検出対象を検出する第二センサから第二検出結果を取得する第二検出結果取得部と、
前記第一検出結果取得部によって取得された前記第一検出結果と、前記第二検出結果取得部によって取得された前記第二検出結果とから、前記第一センサおよび前記第二センサの出力であって往動作と復動作とを含む出力の動作方向を判定する動作方向判定部と、
前記動作方向判定部によって判定された動作方向に応じて、前記第一検出対象と前記第二検出対象との相互関係の異常に係る前記ブレーキシステムの故障を検出するための故障検出範囲を切り替える故障検出範囲切替部と、
前記故障検出範囲切替部によって切り替えられた故障検出範囲、前記第一検出結果取得部によって取得された前記第一検出結果、および前記第二検出結果取得部によって取得された前記第二検出結果から、前記ブレーキシステムの故障を判定する故障判定部と、
を備えている異常検出装置。
【請求項2】
前記故障検出範囲は、
前記動作方向が往動作方向であるとき、前記ブレーキシステムが正常である第一正常範囲、
前記動作方向が復動作方向であるとき、前記第一検出対象が同一値であるときの前記第二検出対象が前記第一正常範囲より小さくかつ前記ブレーキシステムが正常である第二正常範囲、
前記第一検出対象が同一値であるときの前記第二検出対象が前記第一正常範囲より大きい上方範囲、
前記第一検出対象が同一値であるときの前記第二検出対象が前記第二正常範囲より小さい下方範囲、
および、前記第一正常範囲と前記第二正常範囲との間に位置する中間範囲のうち少なくとも1つから構成され、
前記故障検出範囲切替部は、前記動作方向が前記往動作方向であるとき、前記上方範囲、前記中間範囲、前記第二正常範囲、および前記下方範囲から構成される範囲に、前記故障検出範囲を切り替え、一方、前記動作方向が前記復動作方向であるとき、前記上方範囲、前記第一正常範囲、前記中間範囲および前記下方範囲から構成される範囲に、前記故障検出範囲を切り替える請求項1記載の異常検出装置。
【請求項3】
前記故障検出範囲は、
前記動作方向が往動作方向であるとき、前記ブレーキシステムが正常である第一正常範囲、
前記動作方向が復動作方向であるとき、前記第一検出対象が同一値であるときの前記第二検出対象が前記第一正常範囲より小さくかつ前記ブレーキシステムが正常である第二正常範囲、
前記第一検出対象が同一値であるときの前記第二検出対象が前記第一正常範囲より大きい上方範囲、
前記第一検出対象が同一値であるときの前記第二検出対象が前記第二正常範囲より小さい下方範囲、
および、前記第一正常範囲と前記第二正常範囲との間に位置する中間範囲のうち少なくとも1つから構成され、
前記故障検出範囲切替部は、前記動作方向が前記往動作方向であるとき、前記上方範囲、前記中間範囲、前記第二正常範囲、および前記下方範囲から構成される範囲に、前記故障検出範囲を切り替え、一方、前記動作方向が前記復動作方向であるとき、前記上方範囲および前記下方範囲から構成される範囲に、前記故障検出範囲を切り替える請求項1記載の異常検出装置。
【請求項4】
前記故障検出範囲は、
前記動作方向が往動作方向であるとき、前記ブレーキシステムが正常である第一正常範囲、
前記動作方向が復動作方向であるとき、前記第一検出対象が同一値であるときの前記第二検出対象が前記第一正常範囲より小さくかつ前記ブレーキシステムが正常である第二正常範囲、
前記第一検出対象が同一値であるときの前記第二検出対象が前記第一正常範囲より大きい上方範囲、
前記第一検出対象が同一値であるときの前記第二検出対象が前記第二正常範囲より小さい下方範囲、
および、前記第一正常範囲と前記第二正常範囲との間に位置する中間範囲のうち少なくとも1つから構成され、
前記故障検出範囲切替部は、前記動作方向が前記往動作方向から前記復動作方向に変更した後に再び前記往動作方向に変更したとき、前記上方範囲および前記下方範囲から構成される範囲に、前記故障検出範囲を切り替える請求項1記載の異常検出装置。
【請求項5】
前記動作方向が前記往動作方向から前記復動作方向に変更した後に再び前記往動作方向に変更した旨を判定する判定閾値は、前記第一センサの前記第一検出結果および前記第二センサの前記第二検出結果に応じて可変である請求項4記載の異常検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
異常検出装置の一形式として、特許文献1に示されているものが知られている。特許文献1の図1に示されている異常検出装置においては、ストロークセンサ25の測定値とレギュレータ圧センサ71の測定値との相互関係により、ブレーキシステムの故障検出が実施されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−224332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1に記載されている異常検出装置において、ストロークセンサ25の測定値とレギュレータ圧センサ71の測定値との相互関係にはヒステリシスがあるため、ブレーキシステムの故障検出精度をさらに向上したい要請がある。
【0005】
そこで、本発明は、上述した問題を解消するためになされたもので、ブレーキシステムの故障検出精度を向上させた異常検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る異常検出装置の発明は、ブレーキシステムにおいてブレーキ操作に係りブレーキ操作量またはブレーキ操作力の増大とともに増大する第一検出対象を検出する第一センサから第一検出結果を取得する第一検出結果取得部と、第一検出対象と相互関係を有しかつブレーキシステムにおいてブレーキ操作に係りブレーキ操作量またはブレーキ操作力の増大とともに増大する第二検出対象を検出する第二センサから第二検出結果を取得する第二検出結果取得部と、第一検出結果取得部によって取得された第一検出結果と、第二検出結果取得部によって取得された第二検出結果とから、第一センサおよび第二センサの出力であって往動作と復動作とを含む出力の動作方向を判定する動作方向判定部と、動作方向判定部によって判定された動作方向に応じて、第一検出対象と第二検出対象との相互関係の異常に係るブレーキシステムの故障を検出するための故障検出範囲を切り替える故障検出範囲切替部と、故障検出範囲切替部によって切り替えられた故障検出範囲、第一検出結果取得部によって取得された第一検出結果、および第二検出結果取得部によって取得された第二検出結果から、ブレーキシステムの故障を判定する故障判定部と、を備えている。
【発明の効果】
【0008】
上述した請求項1に係る異常検出装置によれば、故障判定部は、第一センサおよび第二センサの出力の動作方向に応じて適切に切り替えられた故障判定範囲を使用し、かつ動作方向毎にブレーキシステムの故障を判定することが可能となる。その結果、第一センサの出力および第二センサの出力との相互関係にヒステリシスが存在しても、ブレーキシステムの故障検出精度をさらに向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明による異常検出装置の第一実施形態を示す概要図である。
図2図1に示すブレーキECUのブロック図である。
図3】故障検出範囲を説明するための図である。横軸にストロークを、縦軸に反力液圧を示す。
図4図1に示すブレーキECUにて実行される制御プログラムのフローチャートである。
図5】本発明による異常検出装置の第一参考形態に係るブレーキECUのブロック図である。
図6】本発明による異常検出装置の第一参考形態の作動を説明するための図である。横軸にストロークを、縦軸に反力液圧を示す。
図7図5に示すブレーキECUにて実行される制御プログラムのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第一実施形態)
以下、本発明に係る異常検出装置を車両に適用した第一実施形態を図面を参照して説明する。車両は、直接各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrに液圧制動力を付与して車両を制動させる液圧制動力発生装置Aを備えている。液圧制動力発生装置Aは、図1に示すように、ブレーキ操作部材であるブレーキペダル11、マスタシリンダ12、ストロークシミュレータ部13、リザーバ14、倍力機構15、アクチュエータ(制動液圧調整装置)16、ブレーキECU17(異常検出装置)、およびホイールシリンダWCを備えている。液圧制動力発生装置Aは、ブレーキシステムである。
【0012】
ホイールシリンダWCは、車輪Wの回転をそれぞれ規制するものであり、キャリパCLに設けられている。ホイールシリンダWCは、アクチュエータ16からのブレーキ液の圧力(ブレーキ液圧)に基づいて車両の車輪Wに制動力を付与する制動力付与機構である。ホイールシリンダWCにブレーキ液圧が供給されると、ホイールシリンダWCの各ピストン(図示省略)が摩擦部材である一対のブレーキパッド(図示省略)を押圧して車輪Wと一体回転する回転部材であるディスクロータDRを両側から挟んでその回転を規制するようになっている。なお、本実施形態においては、ディスク式ブレーキを採用するようにしたが、ドラム式ブレーキを採用するようにしてもよい。車輪Wは左右前後輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrのいずれかである。
【0013】
ブレーキペダル11は、操作ロッド11aを介してストロークシミュレータ部13およびマスタシリンダ12に接続されている。
ブレーキペダル11の近傍には、ブレーキペダル11の踏み込みによるブレーキ操作状態であるブレーキペダルストローク(操作量:以下、ストロークという場合もある。)を検出するペダルストロークセンサ(以下、ストロークセンサという場合もある。)11cが設けられている。ストロークは、ブレーキシステムにおいてブレーキ操作に係る第一検出対象である。ストロークセンサ11cは、第一検出対象を検出する第一センサである。このストロークセンサ11cはブレーキECU17に接続されており、検出信号(検出結果)がブレーキECU17に出力されるようになっている。
【0014】
マスタシリンダ12は、ブレーキペダル11(ブレーキ操作部材)の操作量に応じてブレーキ液をアクチュエータ16に供給するものであり、シリンダボディー12a、入力ピストン12b、第一マスタピストン12c、および第二マスタピストン12d等により構成されている。
【0015】
シリンダボディー12aは、有底略円筒状に形成されている。シリンダボディー12aの内部には、内向きフランジ状に突出する隔壁部12a2が設けられている。隔壁部12a2の中央には、前後方向に貫通する貫通孔12a3が形成されている。シリンダボディー12a内には、隔壁部12a2より前方の部分に、軸方向に沿って液密かつ移動可能に第一マスタピストン12cおよび第二マスタピストン12dが配設されている。
【0016】
シリンダボディー12a内には、隔壁部12a2より後方の部分に、軸方向に沿って液密かつ移動可能に入力ピストン12bが配設されている。入力ピストン12bは、ブレーキペダル11の操作に応じてシリンダボディー12a内を摺動するピストンである。
【0017】
入力ピストン12bには、ブレーキペダル11に連動する操作ロッド11aが接続されている。入力ピストン12bは、圧縮スプリング11bによって第一液圧室R3を拡張する方向すなわち後方(図面右方向)に付勢されている。ブレーキペダル11が踏み込み操作されたとき、操作ロッド11aは、圧縮スプリング11bの付勢力に抗して前進する。操作ロッド11aの前進に伴い、入力ピストン12bも連動して前進する。なお、ブレーキペダル11の踏み込み操作が解除されたとき、入力ピストン12bは、圧縮スプリング11bの付勢力によって後退し、規制凸部12a4に当接して位置決めされる。
【0018】
第一マスタピストン12cは、前方側から順番に加圧筒部12c1、フランジ部12c2、および突出部12c3が一体となって形成されている。加圧筒部12c1は、前方に開口を有する有底略円筒状に形成され、シリンダボディー12aの内周面との間に液密かつ摺動可能に配設されている。加圧筒部12c1の内部空間には、第二マスタピストン12dとの間に付勢部材であるコイルスプリング12c4が配設されている。コイルスプリング12c4により、第一マスタピストン12cは後方に付勢されている。換言すると、第一マスタピストン12cは、コイルスプリング12c4により後方に付勢され、最終的に規制凸部12a5に当接して位置決めされる。この位置が、ブレーキペダル11の踏み込み操作が解除されたときの原位置(予め設定されている)である。
【0019】
フランジ部12c2は、加圧筒部12c1よりも大径に形成されており、シリンダボディー12a内の大径部12a6の内周面に液密かつ摺動可能に配設されている。突出部12c3は、加圧筒部12c1よりも小径に形成されており、隔壁部12a2の貫通孔12a3に液密に摺動するように配置されている。突出部12c3の後端部は、貫通孔12a3を通り抜けてシリンダボディー12aの内部空間に突出し、シリンダボディー12aの内周面から離間している。突出部12c3の後端面は、入力ピストン12bの底面から離間し、その離間距離は変化し得るように構成されている。
【0020】
第二マスタピストン12dは、シリンダボディー12a内の第一マスタピストン12cの前方側に配置されている。第二マスタピストン12dは、前方に開口を有する有底略円筒状に形成されている。第二マスタピストン12dの内部空間には、シリンダボディー12aの内底面との間に、付勢部材であるコイルスプリングコイル12d1が配設されている。コイルスプリング12d1により、第二マスタピストン12dは後方に付勢されている。換言すると、第二マスタピストン12dは、設定された原位置に向けてコイルスプリング12d1により付勢されている。
【0021】
また、マスタシリンダ12は、第一マスタ室R1、第二マスタ室R2、第一液圧室R3、第二液圧室R4、およびサーボ室(駆動液圧室)R5が形成されている。
第一マスタ室R1は、シリンダボディー12aの内周面、第一マスタピストン12c(加圧筒部12c1の前側)、および第二マスタピストン12dによって、区画形成されている。第一マスタ室R1は、ポートPT4に接続されている油路21を介してリザーバ14に接続されている。また、第一マスタ室R1は、ポートPT5に接続されている油路22を介して油路40a(アクチュエータ16)に接続されている。
【0022】
第二マスタ室R2は、シリンダボディー12aの内周面、および第二マスタピストン12dの前側によって、区画形成されている。第二マスタ室R2は、ポートPT6に接続されている油路23を介してリザーバ14に接続されている。また、第二マスタ室R2は、ポートPT7に接続されている油路24を介して油路50a(アクチュエータ16)に接続されている。
【0023】
第一液圧室R3は、隔壁部12a2と入力ピストン12bとの間に形成されており、シリンダボディー12aの内周面、隔壁部12a2、第一マスタピストン12cの突出部12c3、および入力ピストン12bによって区画形成されている。第二液圧室R4は、第一マスタピストン12cの加圧筒部12c1の側方に形成されており、シリンダボディー12aの内周面の大径部12a6、加圧筒部12c1、およびフランジ部12c2によって区画形成されている。第一液圧室R3は、ポートPT1に接続されている油路25およびポートPT3を介して第二液圧室R4に接続されている。
【0024】
サーボ室R5は、隔壁部12a2と第一マスタピストン12cの加圧筒部12c1との間に形成されており、シリンダボディー12aの内周面、隔壁部12a2、第一マスタピストン12cの突出部12c3、および加圧筒部12c1によって区画形成されている。サーボ室R5は、ポートPT2に接続されている油路26を介して出力室R12に接続されている。
【0025】
圧力センサ26aは、サーボ室R5に供給されるサーボ圧(駆動液圧)を検出するセンサであり、油路26に接続されている。第二検出対象は、反力液圧である。圧力センサ26aは、第二検出対象を検出する第二センサである。圧力センサ26aは、検出信号(検出結果)をブレーキECU17に送信する。
【0026】
ストロークシミュレータ部13は、シリンダボディー12aと、入力ピストン12bと、第一液圧室R3と、第一液圧室R3と連通されているストロークシミュレータ13aとを備えている。
第一液圧室R3は、ポートPT1に接続された油路25,27を介してストロークシミュレータ13aに連通している。なお、第一液圧室R3は、図示しない接続油路を介してリザーバ14に連通している。
【0027】
ストロークシミュレータ13aは、ブレーキペダル11の操作状態に応じた大きさのストローク(反力)をブレーキペダル11に発生させるものである。ストロークシミュレータ13aは、シリンダ部13a1、ピストン部13a2、反力液圧室13a3、およびスプリング13a4を備えている。ピストン部13a2は、ブレーキペダル11を操作するブレーキ操作に伴ってシリンダ部13a1内を液密に摺動する。反力液圧室13a3は、シリンダ部13a1とピストン部13a2との間に区画されて形成されている。反力液圧室13a3は、接続された油路27,25を介して第一液圧室R3および第二液圧室R4に連通している。スプリング13a4は、ピストン部13a2を反力液圧室13a3の容積を減少させる方向に付勢する。
【0028】
なお、油路25には、ノーマルクローズタイプの電磁弁である第一制御弁25aが設けられている。油路25とリザーバ14とを接続する油路28には、ノーマルオープンタイプの電磁弁である第二制御弁28aが設けられている。第一制御弁25aが閉状態であるとき、第一液圧室R3と第二液圧室R4とが遮断される。これにより、入力ピストン12bと第一マスタピストン12cとが一定の離間距離を保って連動する。また、第一制御弁25aが開状態であるとき、第一液圧室R3と第二液圧室R4とが連通される。これにより、第一マスタピストン12cの進退に伴う第一液圧室R3および第二液圧室R4の容積変化が、ブレーキ液の移動により吸収される。
【0029】
圧力センサ25bは、第二液圧室R4および第一液圧室R3の反力液圧を検出するセンサであり、油路25に接続されている。圧力センサ25bは、ブレーキペダル11に対する操作力(ブレーキペダル11の操作量と相互関係を有する。)を検出する操作力センサでもある。反力液圧は、上記第一検出対象と相互関係を有しかつブレーキシステムにおいてブレーキ操作に係る第二検出対象である。圧力センサ25bは、第二検出対象を検出する第二センサである。圧力センサ25bは、第一制御弁25aが閉状態の場合には第二液圧室R4の圧力を検出し、第一制御弁25aが開状態の場合には連通された第一液圧室R3の圧力(または反力液圧)も検出することになる。圧力センサ25bは、検出信号(検出結果)をブレーキECU17に送信する。
【0030】
倍力機構15は、ブレーキペダル11の操作量に応じたサーボ圧を発生するものである。倍力機構15は、レギュレータ15a、および圧力供給装置15bを備えている。
【0031】
レギュレータ15aは、シリンダボディー15a1と、シリンダボディー15a1内を摺動するスプール15a2とを有して構成されている。レギュレータ15aは、パイロット室R11、出力室R12、および液圧室R13が形成されている。
【0032】
パイロット室R11は、シリンダボディー15a1、およびスプール15a2の第二大径部15a2bの前端面によって区画形成されている。パイロット室R11は、ポートPT11に接続されている減圧弁15b6および増圧弁15b7に(油路31に)接続されている。また、シリンダボディー15a1の内周面には、スプール15a2の第二大径部15a2bの前端面が当接して位置決めされる規制凸部15a4が設けられている。
【0033】
出力室R12は、シリンダボディー15a1、およびスプール15a2の小径部15a2c、第二大径部15a2bの後端面、および第一大径部15a2aの前端面によって区画形成されている。出力室R12は、ポートPT12に接続されている油路26およびポートPT2を介してマスタシリンダ12のサーボ室R5に接続されている。また、出力室R12は、ポートPT13に接続されている油路32を介してアキュムレータ15b2に接続可能である。
【0034】
液圧室R13は、シリンダボディー15a1、およびスプール15a2の第一大径部15a2aの後端面によって区画形成されている。液圧室R13は、ポートPT14に接続されている油路33を介してリザーバ15b1に接続可能である。また、液圧室R13内には、液圧室R13を拡張する方向に付勢するスプリング15a3が配設されている。
【0035】
スプール15a2は、第一大径部15a2a、第二大径部15a2bおよび小径部15a2cを備えている。第一大径部15a2aおよび第二大径部15a2bは、シリンダボディー15a1内を液密に摺動するように構成されている。小径部15a2cは、第一大径部15a2aと第二大径部15a2bとの間に配設されるとともに、第一大径部15a2aと第二大径部15a2bとに一体的に形成されている。小径部15a2cは、第一大径部15a2aおよび第二大径部15a2bより小径に形成されている。
また、スプール15a2は、出力室R12と液圧室R13とを連通する連通路15a5が形成されている。
【0036】
圧力供給装置15bは、スプール15a2を駆動させる駆動部でもある。圧力供給装置15bは、低圧力源であるリザーバ15b1と、高圧力源でありブレーキ液を蓄圧するアキュムレータ15b2と、リザーバ15b1のブレーキ液を吸入しアキュムレータ15b2に圧送するポンプ15b3と、ポンプ15b3を駆動させる電動モータ15b4と、を備えている。リザーバ15b1は大気に開放されており、リザーバ15b1の液圧は大気圧と同じである。低圧力源は高圧力源よりも低圧である。圧力供給装置15bは、アキュムレータ15b2から供給されるブレーキ液の圧力を検出してブレーキECU17に出力する圧力センサ15b5を備えている。
【0037】
さらに、圧力供給装置15bは、減圧弁15b6と増圧弁15b7とを備えている。減圧弁15b6は、非通電状態で開く構造(ノーマルオープン型)の電磁弁であり、ブレーキECU17の指令により流量が制御されている。減圧弁15b6の一方は油路31を介してパイロット室R11に接続され、減圧弁15b6の他方は油路34を介してリザーバ15b1に接続されている。増圧弁15b7は、非通電状態で閉じる構造(ノーマルクローズ型)の電磁弁であり、ブレーキECU17の指令により流量が制御されている。増圧弁15b7の一方は油路31を介してパイロット室R11に接続され、増圧弁15b7の他方は、油路35より油路35が接続されている油路32を介してアキュムレータ15b2に接続されている。
【0038】
ここで、レギュレータ15aの作動について簡単に説明する。減圧弁15b6および増圧弁15b7からパイロット室R11にパイロット圧が供給されていない場合、スプール15a2はスプリング15a3によって付勢されて原位置にある(図1参照)。スプール15a2の原位置は、スプール15a2の前端面が規制凸部15a4に当接して位置決め固定される位置であり、スプール15a2の後端面がポートPT14を閉塞する直前の位置である。
このように、スプール15a2が原位置にある場合、ポートPT14とポートPT12とは連通路15a5を介して連通するとともに、ポートPT13はスプール15a2によって閉塞されている。
【0039】
減圧弁15b6および増圧弁15b7によってブレーキペダル11の操作量に応じて形成されるパイロット圧が増大される場合、スプール15a2は、スプリング15a3の付勢力に抗して後方(図1の右方)に向かって移動する。そうすると、スプール15a2は、これによって閉塞されていたポートPT13が開放される位置まで移動する。また、開放されていたポートPT14はスプール15a2によって閉塞される(増圧時)。
【0040】
そして、スプール15a2の第二大径部15a2bの前端面の押圧力とサーボ圧に対応する力とがつりあうことで、スプール15a2は位置決めされる。このとき、スプール15a2の位置を保持位置とする。ポートPT13とポートPT14とがスプール15a2によって閉塞される(保持時)。
【0041】
また、減圧弁15b6および増圧弁15b7によってブレーキペダル11の操作量に応じて形成されるパイロット圧が減少される場合、保持位置にあったスプール15a2は、スプリング15a3の付勢力によって前方に向かって移動する。そうすると、スプール15a2によって閉塞されていたポートPT13は、閉塞状態が維持される。また、閉塞されていたポートPT14は開放される。このとき、ポートPT14とポートPT12とは連通路15a5を介して連通する(減圧時)。
【0042】
アクチュエータ16は、各ホイールシリンダWCに付与する制動液圧を調整する装置であり、第一、第二配管系統40、50が設けられている。第一配管系統40は、左後輪Wrlと右後輪Wrrに加えられるブレーキ液圧を制御し、第二配管系統50は、右前輪Wfrと左前輪Wflに加えられるブレーキ液圧を制御する。つまり、前後配管の配管構成とされている。
【0043】
マスタシリンダ12から供給される液圧は、第一配管系統40と第二配管系統50を通じて各ホイールシリンダWCrl、WCrr、WCfr、WCflに伝えられる。第一配管系統40には、油路22とホイールシリンダWCrl、WCrrとを接続する油路40aが備えられている。第二配管系統50には、油路24とホイールシリンダWCfr、WCflとを接続する油路50aが備えられ、これら各油路40a、50aを通じてマスタシリンダ12から供給される液圧がホイールシリンダWCrl、WCrr、WCfr、WCflに伝えられる。
【0044】
油路40a、50aは、2つの油路40a1、40a2、50a1、50a2に分岐する。油路40a1、50a1にはホイールシリンダWCrl、WCfrへのブレーキ液圧の増圧を制御する第一増圧制御弁41、51が備えられている。油路40a2、50a2にはホイールシリンダWCrr、WCflへのブレーキ液圧の増圧を制御する第二増圧制御弁42、52が備えられている。
【0045】
これら第一、第二増圧制御弁41、42、51、52は、連通・遮断状態を制御できる2位置電磁弁により構成されている。第一、第二増圧制御弁41、42、51、52は、第一、第二増圧制御弁41、42、51、52に備えられるソレノイドコイルへの制御電流がゼロとされる時(非通電時)には連通状態となり、ソレノイドコイルに制御電流が流される時(通電時)に遮断状態に制御されるノーマルオープン型となっている。
【0046】
油路40a、50aにおける第一、第二増圧制御弁41、42、51、52と各ホイールシリンダWCrl、WCrr、WCfr、WCflとの間は、減圧油路としての油路40b、50bを通じてリザーバ43、53に接続されている。油路40b、50bには、連通・遮断状態を制御できる2位置電磁弁により構成される第一、第二減圧制御弁44、45、54、55がそれぞれ配設されている。これら第一、第二減圧制御弁44、45、54、55は、第一、第二減圧制御弁44、45、54、55に備えられるソレノイドコイルへの制御電流がゼロとされる時(非通電時)には遮断状態となり、ソレノイドコイルに制御電流が流される時(通電時)に連通状態に制御されるノーマルクローズ型となっている。
【0047】
リザーバ43、53と主油路である油路40a、50aとの間には還流油路となる油路40c、50cが配設されている。油路40c、50cにはリザーバ43、53からマスタシリンダ12側あるいはホイールシリンダWCrl、WCrr、WCfr、WCfl側に向けてブレーキ液を吸入吐出する、モータ47によって駆動されるポンプ46、56が設けられている。
【0048】
ポンプ46、56は、リザーバ43、53からブレーキ液を吸入し、油路40a、50aに吐出することで、ホイールシリンダWCrl、WCrr、WCfr、WCfl側にブレーキ液を供給する。
【0049】
また、ブレーキECU17には、車両の車輪Wfl、Wrr、Wfr、Wrl毎に備えられた車輪速度センサSfl、Srr、Sfr、Srlからの検出信号が入力されるようになっている。ブレーキECU17は、車輪速度センサSfl、Srr、Sfr、Srlの検出信号に基づいて、各車輪速度や推定車体速度およびスリップ率などを演算している。ブレーキECU17は、これらの演算結果に基づいてアンチスキッド制御などを実行している。
【0050】
アクチュエータ16を用いた各種制御は、ブレーキECU17にて実行される。例えば、ブレーキECU17は、アクチュエータ16に備えられる各種制御弁41,42,44,45,51,52,54,55や、ポンプ駆動用のモータ47を制御するための制御電流を出力することにより、アクチュエータ16に備えられる油圧回路を制御し、ホイールシリンダWCrl、WCrr、WCfr、WCflに伝えられるホイールシリンダ圧を個別に制御する。例えば、ブレーキECU17は、制動時の車輪スリップ時にホイールシリンダ圧の減圧、保持、増圧を行うことで車輪ロックを防止するアンチスキッド制御や、制御対象輪のホイールシリンダ圧を自動加圧することで横滑り傾向(アンダーステア傾向もしくはオーバステア傾向)を抑制して理想的軌跡での旋回が行えるようにする横滑り防止制御を行なうことができる。
【0051】
ブレーキECU17は、操作量取得部(第一検出結果取得部)17a、油圧取得部(第二検出結果取得部)17b、動作方向判定部17c、故障検出範囲切替部17d、故障判定部17eおよび報知制御部17fを備えている。
【0052】
操作量取得部(第一検出結果取得部)17aは、ブレーキペダル11の操作量(ブレーキ操作に係る操作量:ストローク)をストロークセンサ11cから取得する。操作量取得部17aは、ブレーキシステムにおいてブレーキ操作に係りブレーキ操作量またはブレーキ操作力の増大とともに増大する第一検出対象(ブレーキペダル11の操作量)を検出する第一センサ(ストロークセンサ11c)から第一検出結果(ストロークの測定値)を取得する第一検出結果取得部である。
【0053】
油圧取得部(第二検出結果取得部)17bは、反力液圧を圧力センサ25bから取得する。油圧取得部17bは、第一検出対象(ブレーキペダル11の操作量:ストローク)と相互関係を有しかつブレーキシステムにおいてブレーキ操作に係りブレーキ操作量またはブレーキ操作力の増大とともに増大する第二検出対象(反力液圧)を検出する第二センサ(圧力センサ25b)から第二検出結果(反力液圧の測定値)を取得する第二検出結果取得部である。
【0054】
なお、第一検出結果取得部は、ブレーキペダル11の操作量の代わりに、ブレーキペダル11に直接作用する操作力(踏力)を検出するセンサからその検出された操作力を取得するようにしてもよい。
本実施形態のシステムでは、第二検出対象を反力液圧としたが、例えば、入力ピストンとマスタピストンとが機械的に連結される他のシステムではマスタシリンダ圧を第二検出対象としてもよい。
【0055】
動作方向判定部17cは、操作量取得部17aによって取得されたストロークの検出結果(第一検出結果)と、油圧取得部17bによって取得された反力液圧の検出結果(第二検出結果)とから、ストロークセンサ11cおよび圧力センサ25bの各出力であって往動作と復動作とを含む出力の動作方向を判定する。なお、ストロークの測定値と反力液圧の測定値は、測定時刻(検出時刻)で関連付けられており、例えば、同一時刻に測定(検出)されたものとして関連付けられている。
【0056】
ブレーキシステムが正常である場合、ブレーキペダル11が踏み込まれているとき、ストロークは増大し、それに伴って反力液圧もストロークの増大に応じて増大する。すなわち、図3に示すように、ブレーキペダル11が踏み込まれているとき、ストロークセンサ11cおよび圧力センサ25bの各出力は増大する。このとき、ストロークセンサ11cおよび圧力センサ25bの出力は往動作である。往動作には、ブレーキペダル11の踏み込み速度(増大速度)に応じて複数の動作経路(往動作経路)がある。踏み込み速度が小さい場合は、動作経路na1は略直線状である。踏み込み速度が大きい場合は、動作経路na2は折れ線状になる。踏み込み速度が大きくなるに従って動作経路の立ち上がりは大きくなる。
【0057】
一方、ブレーキペダル11が戻っているとき、ストロークは減少し、それに伴って反力液圧もストロークの減少に応じて減少する。すなわち、図3に示すように、ブレーキペダル11が戻されているとき、ストロークセンサ11cおよび圧力センサ25bの各出力は減少する。このとき、ストロークセンサ11cおよび圧力センサ25bの出力は復動作である。復動作には、往動作と同様に、ブレーキペダル11の戻り速度(減少速度)に応じて複数の動作経路(復動作経路)がある。戻り速度が小さい場合は、動作経路nb1は折線状である。動作経路nb1は、復動作開始時点から短時間の間に折れ点Pまで下降しその後略直線状に減少する経路となる。これは、ストロークと反力液圧の出力(ストロークと反力液圧との相互関係である)にヒステリシスがあるからである。戻り速度が大きい場合は、動作経路nb2は戻り速度が小さい場合より折れ角が小さい略折れ線状になる。戻り速度が大きくなるに従って動作経路の立ち下がりは大きくなる。
【0058】
また、ストロークの最大値Sxは、ボトミング(ブレーキペダル11が底まで踏み込まれた状態)で規定されている。反力液圧の最大値Pxは、ボトミング時のストロークに対応する液圧に規定されている。なお、反力液圧が最大値Pxであるときの境界線をL5で示し、ストロークが最大値Sxであるときの境界線をL6で示している。
【0059】
以上のことから、動作方向判定部17cは、ストロークの測定値と反力液圧の測定値を取得し、ストロークの測定値と反力液圧の測定値の変化量をそれぞれ演算する。そして、動作方向判定部17cは、ストロークの変化量および反力液圧の変化量の両方が正である場合(すなわちストロークの測定値と反力液圧の測定値の両方が増大している場合)、動作方向は往動作(踏み込み動作)方向であると判定する。また、動作方向判定部17cは、ストロークの変化量および反力液圧の変化量の両方が負である場合(すなわちストロークの測定値と反力液圧の測定値の両方が減少している場合)、動作方向は復動作(戻り動作)方向であると判定する。
【0060】
故障検出範囲切替部17dは、動作方向判定部17cによって判定された動作方向に応じて、第一検出対象と第二検出対象との相互関係の異常に係るブレーキシステムの故障を検出するための故障検出範囲を切り替える。ブレーキシステムの故障は、いずれかの箇所からの作動液の漏れ、電磁制御弁の開閉異常(通電異常、電磁弁自体の異常)、ストロークセンサ11cおよび油圧センサ25bの異常などである。
【0061】
故障検出範囲は、第一正常範囲R1、第二正常範囲R2、上方範囲R3、下方範囲R4および中間範囲R5のうち少なくとも一つから構成されている。
【0062】
第一正常範囲R1は、動作方向が往動作方向であるとき、ブレーキシステムが正常である範囲である。第一正常範囲R1は、ブレーキペダル11を踏み込む往動作の全てのパターンを含むように設定されており、例えば、踏み込み速度が小さい往動作経路na1から踏み込み速度が大きい往動作経路na2までの範囲に設定されている。図3に示すように、第一正常範囲R1は、境界線L1と境界線L2とによって区画されている。境界線L1は、往動作経路na2に沿ってすぐ上方に配置されている。境界線L2は、往動作経路na1に沿ってすぐ下方に配置されている。
【0063】
往動作時に、ストロークおよび反力液圧の測定値が第一正常範囲R1内にある場合、ブレーキシステムは正常であると判定される。一方、ストロークおよび反力液圧の測定値が第一正常範囲R1外にある場合、ブレーキシステムは異常(故障)であると判定することが可能となる。
【0064】
第二正常範囲R2は、動作方向が復動作方向であるとき、ストロークが同一値であるときの反力液圧が第一正常範囲R1より小さく(第一正常範囲R1より下方に位置し)かつブレーキシステムが正常である範囲である。第二正常範囲R2は、ブレーキペダル11を戻す復動作の全てのパターンを含むように設定されており、例えば、戻し速度が小さい復動作経路nb1から戻し速度が大きい復動作経路nb2までの範囲に設定されている。図3に示すように、第二正常範囲R2は、境界線L3と境界線L4とによって区画されている。境界線L3は、復動作経路nb1に沿ってすぐ上方に配置されている。境界線L4は、復動作経路nb2に沿ってすぐ下方に配置されている。
【0065】
復動作時に、ストロークおよび反力液圧の測定値が第二正常範囲R2内にある場合、ブレーキシステムは正常であると判定される。一方、ストロークおよび反力液圧の測定値が第二正常範囲R2外にある場合、ブレーキシステムは異常(故障)であると判定することが可能となる。
【0066】
上方範囲R3は、ストロークが同一値であるときの反力液圧が第一正常範囲R1より大きい(第一正常範囲R1より上方に位置する)範囲である。上方範囲R3は、境界線L1より上方である範囲である。上方範囲R3は、反力液圧が最大値Pxより大きい場合も含む。このとき、ストロークが最大値Sxより小さいことが好ましい。
下方範囲R4は、ストロークが同一値であるときの反力液圧が第二正常範囲R2より小さい(第二正常範囲R2より下方に位置する)範囲である。下方範囲R4は、境界線L4より下方である範囲である。下方範囲R4は、ストロークが最大値Sxより大きい場合も含む。このとき、反力液圧が最大値Pxより小さいことが好ましい。
中間範囲R5は、第一正常範囲R1と第二正常範囲R2との間に位置する範囲である。中間範囲R5は、境界線L2と境界線L3とによって囲まれる範囲である。
【0067】
故障検出範囲切替部17dは、動作方向が往動作方向であるとき、上方範囲R3、中間範囲R5、第二正常範囲R2、および下方範囲R4から構成される範囲を故障検出範囲として切り替える。これにより、往動作時に、ストロークおよび反力液圧の測定値が第一正常範囲R1内にある場合、ブレーキシステムは正常であると判定される。一方、往動作時に、ストロークおよび反力液圧の測定値が第一正常範囲R1外にある場合、ブレーキシステムは異常(故障)であると判定される。
【0068】
一方、故障検出範囲切替部17dは、動作方向が復動作方向であるとき、上方範囲R3、第一正常範囲R1、中間範囲R5および下方範囲R4から構成される範囲を故障検出範囲として切り替える。これにより、復動作時に、ストロークおよび反力液圧の測定値が第二正常範囲R2内にある場合、ブレーキシステムは正常であると判定される。一方、復動作時に、ストロークおよび反力液圧の測定値が第二正常範囲R2外にある場合、ブレーキシステムは異常(故障)であると判定することが可能となる。
【0069】
なお、故障検出範囲切替部17dは、動作方向が復動作方向であるとき、上方範囲R3および下方範囲R4から構成される範囲を故障検出範囲として切り替えるようにしてもよい。これにより、復動作時に、ストロークおよび反力液圧の測定値が上方範囲R3および下方範囲R4にある場合、ブレーキシステムは異常(故障)であると判定することが可能となる。よって、復動作の際に故障検出範囲をさらに狭くかつヒステリシスの影響を受けない範囲に限定することができる。
【0070】
さらに、故障検出範囲切替部17dは、動作方向が往動作方向から復動作方向に変更した後に再び往動作方向に変更したとき、上方範囲R3および下方範囲R4から構成される範囲を故障検出範囲として切り替える。上方範囲R3および下方範囲R4から構成される理由は次のとおりである。再び往動作方向に変更する場合、往動作経路は、少なくとも中間領域R5を通過しなければならないため、故障検出範囲から中間領域R5を削除する必要がある。また、ブレーキペダル11の踏み込み速度によっては、往動作経路が第一正常範囲R1のどこを通過するか確定できないため、故障検出範囲から第一正常範囲R1を削除する必要がある。
【0071】
このとき、動作方向が往動作方向から復動作方向に変更した後に再び往動作方向に変更した旨を判定する判定閾値は、ストロークセンサ11cおよび圧力センサ25bの各検出結果に応じて可変とするのが好ましい。動作方向が往動作方向から復動作方向に変更した後に再び往動作方向に変更する際には、ストロークセンサ11cおよび圧力センサ25bの出力が減少から増大に転じた後、復動作経路から往動作経路に向けて上昇し、再び往動作経路に沿って増大する。このとき、再び往動作経路に沿って増大したか否かの判定が、再び往動作方向に変更した旨の判定である。よって、この判定閾値は、減少から増大に転じた時点での出力と、ヒステリシス量とに応じて設定されるのが好ましい。本実施形態では、ブレーキペダル11の操作速度が小さい場合、減少から増大に転じた時点のストローク測定値が小さいほどヒステリシス量は小さいため、転じた時点でのストローク測定値が大きいほど判定閾値(反力閾値の増大分)は大きく設定されるのが好ましい。
【0072】
故障判定部17eは、故障検出範囲切替部17dによって切り替えられた故障検出範囲、操作量取得部17aによって取得されたストローク(操作量)の測定値、および油圧取得部17bによって取得された反力液圧(油圧)の測定値から、ブレーキシステムの故障を判定する。具体的には、故障判定部17eは、ストロークの測定値および反力液圧の測定値が故障検出範囲内にある場合、ブレーキシステムが故障であると判定し、一方、故障検出範囲外にある場合、ブレーキシステムが故障でない(正常である)と判定する。
【0073】
報知制御部17fは、故障判定部17eによって異常であると判定された場合、ブレーキシステムが異常である旨を報知制御するように報知部18に指示する。報知部18は、表示器、スピーカなどで構成されており、報知指示に従ってブレーキシステムが異常である旨を表示したり、アナウンスしたりする。
【0074】
さらに、上述したブレーキシステムによる作動について図4に示すフローチャートに沿って説明する。ブレーキECU17は、そのフローチャートに沿ったプログラムを所定の短時間毎に実行する。
ブレーキECU17は、ステップS102において、上述した操作量取得部17aと同様に、ストロークセンサ11cからブレーキペダル11の操作量を取得する。
ブレーキECU17は、ステップS104において、上述した油圧取得部17bと同様に、圧力センサ25bから反力液圧を取得する。
【0075】
ブレーキECU17は、ステップS106において、上述した動作方向判定部17cと同様に、操作量取得部17aによって取得されたストロークの測定値と、油圧取得部17bによって取得された反力液圧の測定値とから、ストロークセンサ11cおよび圧力センサ25bの出力の動作方向を判定する。
【0076】
ブレーキECU17は、ステップS108〜ステップS114において、上述した故障検出範囲切替部17dと同様に、ステップS106によって判定された動作方向に応じて、ブレーキシステムの故障を検出するための故障検出範囲を切り替える。ステップS108において、動作方向が増大方向、減少方向、および減少方向から増大方向への切替のいずれかであるかが判定されている。ステップS110において、動作方向が増大方向すなわち往動作方向である場合、故障検出範囲は、上方範囲R3、中間範囲R5、第二正常範囲R2、および下方範囲R4から構成される範囲に切り替えられる。ステップS112において、動作方向が減少方向すなわち復動作方向である場合、故障検出範囲は、上方範囲R3、第一正常範囲R1、中間範囲R5および下方範囲R4から構成される範囲に切り替えられる。ステップS114において、動作方向が往動作方向から復動作方向に変更した後に再び往動作方向に変更した場合、故障検出範囲は、上方範囲R3および下方範囲R4から構成される範囲に切り替えられる。
【0077】
ブレーキECU17は、ステップS116、ステップS118およびステップS122において、上述した故障判定部17eと同様に、ブレーキシステムの故障を判定する。ステップS116において、ブレーキECU17は、ストロークの測定値および反力液圧の測定値が故障検出範囲内にあるか否かを判定する。ステップS118において、ブレーキECU17は、ストロークの測定値および反力液圧の測定値が故障検出範囲内にある場合、ブレーキシステムが故障であると判定する。ステップS122において、ストロークの測定値および反力液圧の測定値が故障検出範囲外にある場合、ブレーキシステムが故障でない(正常である)と判定する。
【0078】
ブレーキECU17は、ステップS120において、上述した報知制御部17fと同様に、ブレーキシステムが異常であると判定された場合、ブレーキシステムが異常である旨を報知制御するように報知部18に指示する。
【0079】
上述した説明から明らかなように、本実施形態のブレーキECU17(異常検出装置)の発明は、液圧制動力発生装置A(ブレーキシステム)においてブレーキ操作に係りブレーキ操作量またはブレーキ操作力の増大とともに増大するストローク(第一検出対象)を検出するストロークセンサ11c(第一センサ)からストロークの測定値(第一検出結果)を取得する操作量取得部17a(第一検出結果取得部)と、ストロークと相互関係を有しかつ液圧制動力発生装置Aにおいてブレーキ操作に係りブレーキ操作量またはブレーキ操作力の増大とともに増大する反力液圧(第二検出対象)を検出する圧力センサ25b(第二センサ)から反力液圧の測定値(第二検出結果)を取得する油圧取得部17b(第二検出結果取得部)と、操作量取得部17aによって取得されたストロークの測定値と、油圧取得部17bによって取得された反力液圧の測定値とから、ストロークセンサ11cおよび圧力センサ25bの出力であって往動作と復動作とを含む出力の動作方向を判定する動作方向判定部17cと、動作方向判定部17cによって判定された動作方向に応じて、液圧制動力発生装置Aの故障を検出するための故障検出範囲を切り替える故障検出範囲切替部17dと、故障検出範囲切替部17dによって切り替えられた故障検出範囲、操作量取得部17aによって取得されたストロークの測定値、および油圧取得部17bによって取得された反力液圧の測定値から、液圧制動力発生装置Aの故障を判定する故障判定部17eと、を備えている。
【0080】
これによれば、故障判定部17eは、ストロークセンサ11cおよび圧力センサ25bの出力の動作方向に応じて適切に切り替えられた故障判定範囲を使用し、かつ動作方向毎に液圧制動力発生装置Aの故障を判定することが可能となる。その結果、ストロークセンサ11cの出力および圧力センサ25bの出力との相互関係にヒステリシスが存在しても、液圧制動力発生装置Aの故障検出精度をさらに向上することができる。
【0081】
また、故障検出範囲は、動作方向が往動作方向であるときに、液圧制動力発生装置Aが正常である第一正常範囲R1、ストロークが同一値であるときの反力液圧が第一正常範囲R1より小さく(第一正常範囲R1より下方に位置し)かつ動作方向が復動作方向であるときに、液圧制動力発生装置Aが正常である第二正常範囲R2、ストロークが同一値であるときの反力液圧が第一正常範囲R1より大きい(第一正常範囲R1より上方に位置する)上方範囲R3、ストロークが同一値であるときの反力液圧が第二正常範囲R2より小さい(第二正常範囲R2より下方に位置する)下方範囲R4、および、第一正常範囲R1と第二正常範囲R2との間に位置する中間範囲R5のうち少なくとも1つから構成され、故障検出範囲切替部17dは、動作方向が往動作方向であるとき、上方範囲R3、中間範囲R5、第二正常範囲R2、および下方範囲R4から構成される範囲に、故障検出範囲を切り替え、一方、動作方向が復動作方向であるとき、上方範囲R3、第一正常範囲R1、中間範囲R5および下方範囲R4から構成される範囲に、故障検出範囲を切り替える。
【0082】
これによれば、ヒステリシスに起因して往動作と復動作の両経路が異なる場合、往動作の際に液圧制動力発生装置Aが正常であると判定された後、復動作の際に故障検出範囲を狭くかつヒステリシスの影響を受けない範囲に限定することができる。よって、液圧制動力発生装置Aの故障検出精度をさらに向上することができる。
【0083】
また、故障検出範囲切替部17dは、動作方向が往動作方向であるとき、上方範囲R3、中間範囲R5、第二正常範囲R2、および下方範囲R4から構成される範囲に、故障検出範囲を切り替え、一方、動作方向が復動作方向であるとき、上方範囲R3および下方範囲R4から構成される範囲に、故障検出範囲を切り替えるようにしてもよい。
【0084】
これによれば、ヒステリシスに起因して往動作と復動作の両経路が異なる場合、往動作の際に液圧制動力発生装置Aが正常であると判定された後、復動作の際に故障検出範囲をさらに狭くかつヒステリシスの影響を受けない範囲に限定することができる。
【0085】
また、故障検出範囲切替部17dは、動作方向が往動作方向から復動作方向に変更した後に再び往動作方向に変更したとき、上方範囲R3および下方範囲R4から構成される範囲に、故障検出範囲を切り替える。
【0086】
これによれば、動作方向が往動作方向から復動作方向に変更した後に再び往動作方向に変更したとき、故障検出範囲を適切に設定することができるので、液圧制動力発生装置Aの故障検出精度をさらに向上することができる。
【0087】
また、動作方向が往動作方向から復動作方向に変更した後に再び往動作方向に変更した旨を判定する判定閾値は、ストロークセンサ11cおよび圧力センサ25bの各検出結果に応じて可変である。
【0088】
これによれば、動作方向の往動作方向から復動作方向への変更、および復動作方向から往動作方向への変更を的確に判定することができる。その結果、液圧制動力発生装置Aの故障検出精度をさらに向上することができる。
【0089】
第一参考形態
第一参考形態に係るブレーキECU17の発明は、液圧制動力発生装置Aにおいてブレーキ操作に係るストロークを検出するストロークセンサ11cからストロークの測定値を取得する操作量取得部17aと、ストロークと相互関係を有しかつ液圧制動力発生装置Aにおいてブレーキ操作に係る反力液圧を検出する圧力センサ25bから反力液圧の測定値を取得する油圧取得部17bと、液圧制動力発生装置Aの故障を検出するための故障検出範囲、操作量取得部17aによって取得されたストロークの測定値、および油圧取得部17bによって取得された反力液圧の測定値から、液圧制動力発生装置Aの故障の判定をする故障判定部17eと、を備え、故障判定部17eは、ブレーキ操作の一操作中(一制動操作中)において、液圧制動力発生装置Aの故障の判定がすでに行われた、ストロークの測定値および反力液圧の測定値の領域を判定対象から除外して、領域以外であって液圧制動力発生装置Aの故障の判定が未実施であるストロークの測定値および反力液圧の測定値に対して液圧制動力発生装置Aの故障の判定をする。
【0090】
具体的には、ブレーキECU17は、図5に示すように、判定済み領域記憶部17gおよび判定領域除外部17hをさらに備えている。
【0091】
判定済み領域記憶部17gは、故障判定部17eからすでに故障判定が行われたストロークの測定値および反力液圧の測定値の領域を取得して判定済み領域として記憶装置19に記憶する。
【0092】
判定領域除外部17hは、ブレーキ操作の一操作中(一制動操作中)において、記憶装置19から判定済み領域を取得し、その判定済み領域を判定対象から除外する。これにより、故障判定部17eは、故障判定が未実施である判定対象のみに対して液圧制動力発生装置Aの故障の判定を行うこととなる。
【0093】
例えば、図6に示すように、ハッチングした領域は判定済み領域であり、ハッチングした領域の右側の領域が未判定領域である。ストロークの測定値および反力液圧の測定値が判定済み領域内である場合、液圧制動力発生装置Aの故障の判定は行われない。一方、ストロークの測定値および反力液圧の測定値が未判定領域内である場合、液圧制動力発生装置Aの故障の判定が行われる。
【0094】
さらに、上述したブレーキシステムによる作動について図7に示すフローチャートに沿って説明する。ブレーキECU17は、そのフローチャートに沿ったプログラムを所定の短時間毎に実行する。なお、上述した第一実施形態のフローチャートと異なる点について説明する。同一内容については同一符号を付してその説明を省略する。
【0095】
ブレーキECU17は、ステップS202において、ブレーキ操作の一操作中(一制動操作中)であるか否かを判定する。一制動操作中は、ブレーキペダル11の踏み込み開始時点から踏み込み終了時点までの間の一操作中のことであり、往動作経路と復動作経路が接続されて一つの閉回路となる。一制動操作中であるか否かは、往動作経路と復動作経路が接続されて一つの閉回路となるか否かで判定することができる。
【0096】
ブレーキECU17は、一制動操作中である場合、ステップS204において、判定済み領域を記憶装置19から取得する(読み込む)。そして、ブレーキECU17は、ストロークの測定値および反力液圧の測定値が判定済み領域内にある場合(ステップS206にて「NO」と判定)、故障判定を行わない。一方、ブレーキECU17は、ストロークの測定値および反力液圧の測定値が判定済み領域外にある場合(ステップS206にて「YES」と判定)、プログラムをステップS108以降に進めて故障判定を行う。
【0097】
ブレーキECU17は、ステップS208において、ブレーキシステムが正常である旨の判定(ステップS122)がされた後、すでに故障判定が行われたストロークの測定値および反力液圧の測定値の領域を判定済み領域として記憶装置19に記憶する。
【0098】
上述した第一参考形態に係るブレーキECU17によれば、ブレーキ操作の一操作中において、正常と判定されたストロークの測定値および反力液圧の測定値の領域は、その後の液圧制動力発生装置Aの故障の判定において省略できる。その結果、液圧制動力発生装置Aの故障検出精度をさらに向上させることができる。
【符号の説明】
【0099】
11…ブレーキペダル、12…マスタシリンダ、13…ストロークシミュレータ部、14…リザーバ、15…倍力機構、15a…レギュレータ、15b…圧力供給装置(駆動部)、15b1…リザーバ(低圧力源)、15b2…アキュムレータ(高圧力源)、15b6…減圧弁、15b7…増圧弁、16…アクチュエータ、17…ブレーキECU(異常検出装置)、17a…操作量取得部(第一検出結果取得部)、17b…油圧取得部(第二検出結果取得部)、17c…動作方向判定部、17d…故障検出範囲切替部、17e…故障判定部、17f…報知制御部、17g…判定済み領域記憶部、17h…判定領域除外部、A…液圧制動力発生装置(ブレーキシステム)、WC…ホイールシリンダ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7