【課題を解決するための手段】
【0035】
前記リガンドは、受容体に結合する分子であり、その基礎的な(すなわち、アゴニストによって刺激されていない)活性を場合によっては0にまでも低減する逆アゴニストであってもよい。
【0036】
前記リガンドは、受容体に結合し、アゴニストの結合を阻害して、生物学的応答を妨げるアンタゴニストであってもよい。逆アゴニスト及び部分的アゴニストは、あるアッセイ条件下では、アンタゴニストとなり得る。
【0037】
上記リガンドは、オルトステリック(orthosteric)であってよく、これは、それらが内在性アゴニストと同じ部位に結合するという意味を含む。または、それらはアロステリック(allosteric)又はアロトピック(allotopic)であってよく、これは、それらがオルトステリック部位と異なる部位に結合するという意味を含む。上記リガンドはシントピック(syntopic)であってよく、これは、それらが同じ又は重複する部位で他のリガンドと相互作用するという意味を含む。それらは、可逆的又は非可逆的であってよい。
【0038】
アンタゴニストに関しては、サーマウンタブル(surmountable)であってよく、これは、アゴニストの最大の効果が、アンタゴニストを用いた事前処理又は同時処理によって低減されないという意味を含み;或いは、それらはインサーマウンタブル(insurmountable)であってよく、これは、アゴニストの最大の効果が、アンタゴニストの事前処理又は同時処理のいずれかによって低減されるという意味をふくみ;或いは、それらはニュートラル(neutral)であってよく、これは、アンタゴニストが逆アゴニスト又は部分的アゴニスト活性を有しないものであるという意味を含む。典型的には、アンタゴニストは、逆アゴニストでもある。
【0039】
本発明に使用するリガンドは、ポジティブアロステリックモジュレータ、ポテンシエーター、ネガティブアロステリックモジュレータ、及びインヒビターなどのアロステリックモジュレータであってもよい。それらは、それら自体でアゴニスト又は逆アゴニストとしての活性を有してよく、又はそれらはアゴニスト又は逆アゴニストの存在下でのみ活性を有してよく、その場合には、GPCRと結合するためにその様な分子と組み合わせて使用される。
【0040】
参照によって本明細書に取り込むNeubig et al (2003) Pharmacol. Rev. 55, 597-606は、各種のリガンドを開示している。
【0041】
好ましくは、上述のリガンドは、低分子の有機又は無機成分であるが、ペプチド又はポリペプチドであってよい。典型的には、前記リガンドが低分子の有機又は無機成分である際は、50から2000、100から1000など、例えば、100から500のM
rを有する。
【0042】
典型的には、前記リガンドは、mMからpM、例えばμM(マイクロモーラー)からnMの範囲のK
dでGPCRに結合する。一般的には、最も低いK
dを有するリガンドが好ましい。
【0043】
有機低分子のリガンドは、当該技術分野においてよく知られており、例えば、以下の実施例を参照のこと。他の低分子のリガンドは、5HT1A受容体において完全なアゴニストである5HT;5HT1A受容体に部分的なアゴニストであるエルトプラジン(Newman-Tancredi et al (1997) Neurophamacology 36, 451-459参照);ドーパミンD2受容体アゴニストである(+)−ブタクラモール及びスピペロン(Roberts & Strange (2005) Br. J. Pharmacol. 145, 34-42参照);並びにCB2のニュートラルアゴニストであるWIN55212−3(Savinainen et al (2005) Br. J. Pharmacol. 145, 636-645)を含む。
【0044】
前記リガンドは、ペプチドミメティック、核酸、ペプチド核酸(PNA)、又はアプタマーであってよい。Na
+又はZn
+などのイオン、オレアミドなどの脂質、又はヘパリンなどの炭水化物であってもよい。
【0045】
前記リガンドは、GPCRに結合するポリペプチドであってよい。そのようなポリペプチド(オリゴペプチド含む)は、典型的には、500から50,000の分子量であるが、それより大きいものであってもよい。前記ポリペプチドは、天然のGPCR相互作用タンパク質又はGPCRと相互作用する他のタンパク質又はその誘導体若しくは断片であってよいが、特定の立体構造にあるGPCRに選択的に結合するものである。GPCR相互作用タンパク質は、シグナル伝達と関連するもの及び輸送に関連するものを含み、多くの場合においては、GPCRのC末端部分のPDZドメインを介して作用する。
【0046】
あるGPCRに結合することが既知のポリペプチドは、Gタンパク質、アレスチン、RGSタンパク質、Gタンパク質受容体キナーゼ、RAMP、14−3−3タンパク質、NSF、ペリプラキン、スピノフィリン、GPCRキナーゼ、レセプターチロシンキナーゼ、イオンチャンネル又はそのサブユニット、アンキリン、並びにShanks又はHomerタンパク質の任意のものを含む。他のポリペプチドは、NMDA受容体サブユニットNR1又はNR2a、カルシオン、又はフィブロネクチンドメインフレームワークを含む。前記ポリペプチドは、フィブリンー1などのGPCRの細胞外ドメインに結合するものであってよい。前記ポリペプチドは、ヘテロオリゴマーにおいて選択したGPCRを結合する他のGPCRであってよい。GPCRにおけるタンパク質−タンパク質相互作用のレヴューは、参照によって本明細書に取り込むMilligan & White (2001) Trends Pharmacol. Sci. 22, 513-518又はBockaert et al (2004) Curr. Opinion Drug Discov. Dev. 7, 649-657において認められる。
【0047】
ポリペプチドリガンドは、好都合には、GPCRに結合する抗体であってよい。用語「抗体」によって、本願では、天然の抗体、モノクローナル抗体、及びそれらの断片が含まれる。単鎖Fv(scFv)分子及びドメイン抗体(dAb)を含む、遺伝子操作した抗体及びその結合特性において抗体様である分子も含む。ラクダ科の動物の抗体及びラクダ科の抗体であって遺伝子操作したものも挙げられてよい。GPCRに結合するその様な分子は当該技術分野において既知であり、任意に、既知の技術を使用して作製されてよい。適切な抗体は、立体構造エピトープを認識する傾向があるため、GPCRに対するラジオイムノアッセイ(RIA)で現在使用されているものである。
【0048】
前記ポリペプチドは、アンキリンリピートタンパク質、アルマジロリピートタンパク質、ロイシンリッチタンパク質、テトラトリオペプチドリピートタンパク質、又は設計アンキリンリピートタンパク質(DARP)などのモジュール構成に基づく結合タンパク質、或いはリポカリン若しくはフィブロネクチンドメイン又はヒトγクリスタリン若しくはヒトユビキチンのいずれかに基づくアフィリンスカフォールド(affilin scaffold)であってもよい。
【0049】
本発明の1つの実施態様では、前記リガンドはGPCRに共有結合し、例えば、G−タンパク質又はアレスチン融合タンパク質などである。幾つかのGPCR(例えば、トロンビン受容体)は、プロテアーゼによってN末端で切断され、新しいN末端はアゴニスト部位と結合する。かくして、その様なGPCRは天然のGPCR−リガンド融合体である。
【0050】
抗体又は他の「ユニバーサルな」結合ポリペプチド(例えば、多数の異なるGPCRに結合することが既知のGタンパク質)の使用は、天然のリガンド及び低分子リガンドが未知の「オーファン」GPCRに対する本発明の方法の使用において特に有利であり得ると解されるであろう。
【0051】
一度リガンドが選択されると、当該選択したリガンドの結合に関して親GPCRと比較して、前記GPCR変異体又はその各々が、前記リガンドの結合に関して増大した安定性を有するか否かが測定される。当該工程(c)は、選択したリガンドによって決定される特定の立体構造について、前記GPCR変異体又はその各々が(親と比較して)増大した安定性を有するか否かを測定するものである。かくして、前記GPCR変異体は、選択したリガンド結合の間に測定されるか又はリガンド結合によって測定される、選択したリガンドの結合の結合に関して増大した安定性を有する。以下に記載するように、増大した安定性が、選択したリガンドの結合の間に評価されることが好ましい。
【0052】
増大した安定性は、好都合には、不安定にする可能性がある曝露条件下(例えば、熱、強力な界面活性剤条件、及びカオトロピック剤など)における、前記変異体の寿命の延長によって測定される。前記曝露条件下における不安定化は、典型的には、変性又は構造の損失の測定によって測定される。以下に記載するように、これは、リガンド結合能の損失又は二次若しくは三次構造の指標の損失によって現れる。
【0053】
以下の
図12(特に好ましい実施態様を記載する)に関して記載するように、GPCR変異体の安定性を測定するために使用してよい各種のアッセイ形式が存在する。
【0054】
1つの実施態様では、前記GPCR変異体を、当該変異体の安定性を測定する方法に供する前にリガンドと接触させる(前記GPCR変異体及びリガンドは、試験の間に接触した状態のままである)。かくして、例えば、本発明の方法が、1つの立体構造においてリガンドと結合し、且つ、改善された熱安定性を有するGPCR変異体を選択するために使用される際は、前記受容体を、加熱される前に前記リガンドと接触させ、次いで、加熱後に前記受容体に結合しているリガンドの量を使用して、親受容体との比較における熱安定性を表わしてよい。これによって、変性条件(例えば、熱)に曝露した後にリガンド結合能を保持しているGPCRの量の測定が提供され、これが安定性の指標である。
【0055】
代替的(であるが上記のものよりは好ましいものではない)実施態様では、前記GPCR変異体を、前記リガンドと接触させる前に、前記変異体の安定性を測定する手法に供する。かくして、例えば、本発明の方法が、1つの立体構造においてリガンドと結合し、且つ、改善された熱安定性を有する膜受容体変異体を選択するために使用される際は、前記リガンドと接触させる前に、まず前記受容体を加熱し、次いで、前記受容体に結合したリガンドの量を使用して熱安定性を表わしてよい。そして、これによって、変性条件に曝露した後にリガンド結合能を保持しているGPCRの量の測定が提供される。
【0056】
双方の実施態様において、前記変異体の安定性の比較が、同一の条件下における親分子を参照することによって為されると解されるであろう。
【0057】
これらの実施態様の双方において、選択された変異体は、親タンパク質と比較して、特定の立体構造を備える際に増大した安定性を有するものである。
【0058】
好ましい経路は、特定のGPCRに依存し、リガンドの非存在下におけるタンパク質のとり得る立体構造の数に依存するであろう。
図12に記載の実施態様では、所望の立体構造が選択される可能性を増大するため、リガンドが加熱工程の間に存在することが好ましい。
【0059】
したがって、本発明は、増大した熱安定性を有するGPCR変異体を選択するための方法であって、(a)親GPCRの1つ又は複数の変異体を提供する工程、(b)前記親GPCRに結合するアンタゴニスト又はアゴニストを選択する工程、(c)前記アンタゴニスト又はアゴニストの存在下において、特定の温度で特定の時間の後に前記選択したアンタゴニスト又はアゴニストに結合するGPCR変異体の能力を測定することによって、前記変異体又はその各々が親GPCRと比較して増大した熱安定性を有するか否かを測定する工程、及び(d)同一の条件下における親GPCRよりも、特定の温度で特定の時間の後に多くの前記選択したアゴニスト又はアンタゴニストと結合するGPCR変異体を選択する工程を含む、方法、を含むと解されるであろう。工程(c)では、特定の温度における一定の期間が、典型的には、前記選択したアンタゴニスト又はアゴニストと結合するGPCR変異体の能力の測定において使用される。工程(c)では、典型的には、選択した前記アンタゴニスト又はアゴニストの結合が当該温度で一定期間の間に50%低減する(50%の受容体が不活化されていることを示す:「見かけ上の」Tm)温度及び時間が選択される。
【0060】
好都合には、前記リガンドを使用してGPCRをアッセイする(すなわち、前記アッセイを使用して非変性状態であるか否かを測定する)際は、前記リガンドは検出可能に標識、例えば、放射標識又は蛍光標識される。他の実施態様では、リガンド結合は、二次検出系、例えば、抗体又は検出部位に共有結合する他の高親和性結合パートナー、例えば、比色分析において使用されてよい酵素(例えば、アルカリホスファターゼ又はセイヨウワサビペルオキシダーゼ)を使用して、未結合のリガンドの量を測定することによって評価されてよい。FRET法が使用されてもよい。その安定性の測定においてGPCR変異体をアッセイするために使用するリガンドは、前記方法の工程(b)において選択されるものと同じリガンドである必要はないと解されるであろう。
【0061】
リガンド結合能を非変性タンパク質の存在の指標として使用して、親GPCR及びGPCR変異体の安定性を測定することが好都合であるが、他の方法が当該技術分野で知られている。例えば、内在するトリプトファン蛍光の使用又は1−アニリノ−8−ナフタレンスルホネート(ANS)などの外来性の蛍光プローブの使用のいずれかによる、蛍光スペクトルにおける変化が、アンフォールディングの感度の良好な指標であってよく、例えば、Thermofluor(商標)法(Mezzasalma et al, J Biomol Screening, 2007, Apr;12(3):418-428)において説明されている。タンパク質分解に対する安定性、質量分析器によって測定される重水素/水素交換、Blue Native Gel、キャピラリーゾーン電気泳動、円偏光二色性(CD)分光法、及び光散乱を使用して、二次又は三次構造と関連するシグナルの損失によってアンフォールディングを測定してよい。しかしながら、これらの方法の全てが、それらを使用する前に、適度な量(例えば、高いpmol/nmol量)で精製されたタンパク質を必要とするが、実施例に記載の方法は、pmol量の本質的に未精製のGPCRを使用する。
【0062】
好ましい実施態様では、工程(b)において、各々の存在がGPCRに同一の特定の立体構造を備えさせる、2又はそれ以上の同じ種類のリガンドを選択する。かくして、当該実施態様において、同じ種類の1つ又は複数の(天然又は非天然)リガンド(例えば、完全なアゴニスト又は部分的アゴニスト又はアンタゴニスト又は逆アゴニスト)が使用されてよい。平行して又は連続的に当該方法に同じ種類の多数のリガンドを含めることによって、例えば結合部位において親と実質的に異なるが、代償的変化によって依然としてリガンドに結合することが可能な多数の変性を有する受容体の立体構造を、思わず遺伝子操作及び選択する理論的なリスクが最小化される。以下:
1.例えば結合分析、機能分析、又は分光分析によって根拠付けられる共通の薬理学的分類を有する、化学的に異なるリガンドのセット(例えば、n=2から5)を選択する工程(これらのリガンドは、例えば野生型受容体及び/又は変異型受容体を使用する競争結合試験並びに/或いはそれらが共通のファーマコフォアを表わす必要は無いが分子モデリングによって根拠付けられるように、受容体の共通の空間的領域に結合すると解されるべきである);
2.安定性を増大することが意図される1つ又は複数の受容体変異体を作製し、リガンドセットの全てを使用してタイト結合についてアッセイする工程(前記アッセイは、平行、多重、又は連続的に為されてよい);
3.例えば、各リガンドについての結合等温線の測定によって、及びリガンドを用いた安定性のシフトの測定によって(典型的には、野生型と比較してウィンドウが狭い)、安定化された受容体変異体の確実性を確認する工程
を使用して当該リスクを軽減してよい。
【0063】
変異による結合部位に対する影響によって生じる見掛けの親和性における変化に対する監視のために、好ましくは、同じ薬理学的分類を有するが、異なる化学的分類を有するリガンドを使用して、受容体をプロファイルするべきである。典型的には、これらによって、異なる分子認識特性を有するが、同様の親和性におけるシフト(変異体vs親、例えば野生型)が示されるべきである。結合実験は、好ましくは、同じ薬理学的分類内の標識リガンドを使用して実施するべきである。
【0064】
それにもかかわらず、同じ薬理学的分類内のリガンドの複数の化学的分類に特異的な立体構造基質が存在する可能性があり、これらは、その手法において、選択したリガンドの化学的分類に依存して特異的に安定化される可能性があることが認識されるべきである。
【0065】
典型的には、前記選択したリガンドは、親GPCRに対する結合と同様の作用強度でGPCR変異体に結合する。典型的には、GPCR変異体及び親GPCRに対する特定のリガンド結合についてのKd値は、互いに5から10倍、例えば、2から3倍の範囲である。典型的には、親GPCRと比較してGPCR変異体に対するリガンドの結合は、最大で5倍弱く、最大で10倍強いであろう。
【0066】
典型的には、選択された立体構造で安定化された受容体変異体は、親受容体と同程度(典型的には、2から3倍以内)又はそれ以上の親和性で選択したリガンドに結合するはずである。アゴニスト−立体構造変異体について、前記変異体は、典型的には、親GPCRと同じ又はそれ以上の親和性で前記アゴニストと結合し、典型的には、親GPCRと同定又はそれ以下の親和性でアンタゴニストと結合する。同様に、アンタゴニスト−立体構造変異体について、前記変異体は、典型的には、親GPCRと同じ又はそれ以上の親和性でアンタゴニストと結合し、典型的には、親GPCRと同じ又はそれ以下の親和性でアゴニストと結合する。
【0067】
選択するリガンドについての親和性における顕著な低減(典型的には2から3倍超)を示す変異体は、典型的には除外する。
【0068】
典型的には、同じ分類を有する一連のリガンドの結合の序列は同程度であるが、当該序列において1つ又は2つの逆転が存在する可能性があり、あるいは一連のリガンドに異常値が存在する可能性がある。
【0069】
更なる実施態様では、同じ立体構造の受容体に結合する2つ又はそれ以上のリガンド、例えば、アロステリックモジュレータ及びオルトステリックアゴニストを使用してよい。
【0070】
誤解を避けるために、また、実施例から明らかなように、効果的な方法に多数のリガンドを使用することが必要なわけではない。
【0071】
更なる実施態様では、選択したリガンドに結合することが可能であるが、第一のリガンドとは異なる分類のものである第二の選択したリガンドには結合できないか又は親GPCRより弱く結合するGPCR変異体を選択することも有利であってよい。かくして、例えば、GPCR変異体は、選択したアンタゴニストの結合に関して増大した安定性を有するものであることに基づいて選択されるものであってよいが、その様に選択されたGPCR変異体を更に試験して、完全なアゴニストに結合するか(又は親GPCRよりも弱く完全なアゴニストに結合するか)否かを測定する。完全なアゴニストに結合しない(又は結合が低減する)変異体が選択される。このように、1つの特定の立体構造に固定化されているGPCRを更に選択する。
【0072】
選択されたリガンド(本発明の方法の工程(b)で選択したもの)及び上述の更なる(第二の)リガンドが、リガンドの種類の任意のペア、例えば、完全なアゴニストとアンタゴニスト;アンタゴニストと逆アゴニスト;逆アゴニストとアンタゴニスト;逆アゴニストと完全なアゴニスト;及び完全なアゴニストと逆アゴニストなどであってよい。
【0073】
前記受容体変異体が、更なる(第二の)リガンドに対する親受容体の親和性の50%未満の親和性、より好ましくは10%未満、更に好ましくは1%未満又は0.1%未満又は0.01%未満の親和性で更なる(第二の)リガンドに結合することが好ましい。かくして、前記受容体変異体と第二のリガンドとの相互作用のK
dは、親受容体よりも高い。実施例1に示すように、β−アドレナリン受容体変異体であるβAR−m23(アンタゴニストを使用して本発明の方法によって選択される)は、親よりも3桁弱く(すなわち、K
dが1000倍以上)アゴニストに結合する。同様に、実施例2では、アデノシンA2a受容体変異体であるRant21が、親よりも2から4桁弱くアゴニストに結合する。
【0074】
このタイプの対抗選択を使用して、より特異的(及び、そのため、より迅速且つより効率的)に変異誘発法を、リガンドによって決まる純粋な立体構造に対する経路に沿って管理することが可能であるため有用である。
【0075】
好ましくは、GPCR変異体は、構造の完全性を維持している適切な可溶化形態で提供され、機能的形態である(例えば、リガンドに結合することが可能である)。特定のタンパク質について有効な当業者に選択されてよい適当な可溶化系、例えば、適切な界面活性剤(又は他の両親媒性剤)及び緩衝液系を使用する。典型的には、使用してよい界面活性剤は、例えば、ドデシルマルトシド(DDM)又はCHAPS又はオクチルグルコシド(OG)又は他の多数の界面活性剤を含む。コレステロールヘミスクシネート若しくはコレステロール自体又はヘプタン−1,2,3−トリオールなどの他の化合物を含めることも好都合であってよい。グリセロール又はプロリン又はベタインの存在は有用であってよい。GPCRは、一度膜から可溶化されると、アッセイするために十分に安定である必要があることは重要である。幾つかのGPCRについては、DDMは十分であるが、望ましい場合には、グリセロール又は他のポリオールを添加して、アッセイのための安定性を増大させてよい。さらなるアッセイのための安定性は、任意にグリセロールの存在下において、例えば、DDM、CHAPS、及びコレステロールヘミスクシネートの混合物に可溶化することによって達成されてよい。特に不安定なGPCRについては、ジギトニン又はアンフィポール(amphipol)或いは従来の界面活性剤の非存在下において膜から直接GPCRを可溶化することが可能であり、顕著な数の脂質をGPCRに結合させた状態のままとすることによって典型的に安定性を維持する他のポリマーを使用して可溶することが望ましい。機能的な形態の非常に不安定な膜タンパク質を可溶化するために、ナノディスク(nanodisc)を使用してもよい。
【0076】
典型的には、GPCR変異体は、(例えば、大腸菌などの前記変異体を発現させた宿主細胞由来の膜画分の)粗抽出物で提供される。タンパク質変異体が、典型的には少なくとも75%、より典型的には少なくとも80%、又は85%、又は90%、又は95%、又は98%、又は99%のサンプル中に存在するタンパク質を占める形態で提供されてよい。言うまでもなく、典型的には、上述のように可溶化され、多くの場合にGPCR変異体は界面活性剤及び/又は脂質分子と相互作用する。
【0077】
任意の変性又は変性条件に対して、例えば、熱、界面活性剤、カオトロピック剤、又は極端なpHのいずれか1つ又は複数に対して増大した安定性を有するGPCR変異体が選択される。
【0078】
熱に対する安定性(すなわち、熱安定性)に関して、これは、リガンド結合を測定することによって、或いは特定の温度における蛍光、CD、又は光散乱などの分光学的方法によって容易に測定することが可能である。典型的には、GPCRがリガンドに結合する際は、特定の温度においてリガンドに結合するGPCRの能力を使用して、前記変異体の熱安定性を測定してよい。「見かけのT
m」、すなわち、50%の受容体が所定の条件下で所定の時間(例えば、30分)に亘ってインキュベートした後に、不活化される温度を測定することも好都合であり得る。より高い熱安定性のGPCR変異体は、それらの親と比較してより大きな見かけのT
mを有する。
【0079】
界面活性剤又はカオトロピックに対する増大した安定性に関しては、典型的には、前記GPCRを、試験界面活性剤又は試験カオトロピック剤の存在下において所定の時間に亘ってインキュベートして、例えば、リガンド結合又は上述の分光学的方法を使用して安定性を測定する。
【0080】
極端なpHに関しては、典型的な試験pHは、例えば、4.5から5.5(低pH)の範囲又は8.5から9.5(高pH)の範囲で選択されるであろう。
【0081】
比較的強力な界面活性剤を結晶化の段階で使用するため、GPCR変異体がその様な界面活性剤の存在下において安定であることが好ましい。ある界面活性剤の「強力」さは、DDM、C
11→C
10→C
9→C
8マルトシド又はグルコシド、ラウリルジメチルアミンオキシド(LDAO)及びSDSの順である。GPCR変異体がC
9マルトシド又はグルコシド、C
8マルトシド又はグルコシド、LDAO、及びSDSのいずれかに対して良い安定であることが特に好ましく、そのため、これらの界面活性剤を安定性試験に使用することが好ましい。
【0082】
測定の容易性のため、熱安定性を測定することが好ましく、所定の条件に関して親タンパク質と比較して増大した熱安定性を有する変異体を選択する。熱は変性剤としての作用を有し、サンプルを冷却すること、例えば、氷上に置くことで容易に取り除くことが可能であると解されるであろう。熱安定性は、他の変性剤又は変性条件に対する安定性の指針でもある可能性がある。かくして、増大した熱安定性は、変性界面活性剤、特にDDMよりも変成作用が強いもの、例えば、より小さな頭部基及びより短いアルキル鎖並びに/又は荷電した頭部基を有する界面活性剤中の安定性に置き換えられる可能性がある。本発明者は、熱安定性を有するGPCRが強力な界面活性剤に対してもより安定であることを発見した。
【0083】
変性条件として極端なpHを使用する際は、中和剤を添加することによって迅速にこれを取り除くことができると解されるであろう。同様に、カオトロピック剤を変性剤として使用する際は、カオトロピック剤がカオトロピック効果を奏する濃度未満にサンプルを希釈することによって、変性効果を除去し得る。
【0084】
本発明の特定の実施態様では、GPCRは、βアドレナリン受容体(例えば、シチメンチョウ由来)であり、リガンドはアンタゴニストであるジヒドロアルプレノロール(DHA)である。
【0085】
本発明の更に好ましい実施態様では、GPCRがアデノシンA2a受容体(A2aR)(例えば、ヒト由来)であり、リガンドがアンタゴニストであるZM 241385(4−[2−[[7−アミノ−2−(2−フリル)[1,2,4−]−トリアゾロ[2,3−α][1,3,5]トリアジン−5−イル]アミノ]エチル]フェノール)又はアゴニストであるNECA(5’−N−エチルカルボキサミドアデノシン)である。
【0086】
更に好ましい実施態様では、GPCRがニューロテンシン受容体(NTR)(例えば、ラット由来)であり、リガンドがアゴニストであるニューロテンシンである。
【0087】
本発明の第二の態様は、GPCR変異体を調製する方法であって、
(a)本発明の第一の態様に係る方法を実施する工程、
(b)増大した安定性について選択された1つ又は複数のGPCR変異体中の1つ又は複数の変異したアミノ酸残基の位置を同定する工程、及び
(c)同定した位置の1つ又は複数に変異を含むGPCR変異体を合成する工程
を含む、方法を提供する。
【0088】
実施例において認められるように、驚くべきことに、GPCRの内部の単独のアミノ酸に対する変化が、前記タンパク質が特定の立体構造を備える条件下おいて、親タンパク質と比較して前記タンパク質の安定性を増大させる。かくして、本発明の第二の態様に係る方法の第一の実施態様では、親タンパク質の1つのアミノ酸残基がタンパク質変異体では変化している。典型的には、前記アミノ酸残基は、本発明の第一の態様に係る方法において試験した変異体において認められるアミノ酸残基に変化される。しかしながら、任意の他のアミノ酸残基、例えば、任意の天然アミノ酸残基(特に、「コード可能な」アミノ酸残基)又は非天然アミノ酸に置き換えられてよい。一般的には、簡便にするために、アミノ酸残基は、19の他のコード可能なアミノ酸の1つに置き換えられる。好ましくは、本発明の第一の態様において選択した変異体に存在する置き換えられたアミノ酸残基である。
【0089】
実施例で認められるように、安定性における更なる増大が、親タンパク質のアミノ酸の2つ以上を置き換えることによって得られてよい。典型的には、置き換えられたアミノ酸の各々が、本発明の第一の態様に係る方法を使用して同定されたものである。典型的には、同定された各アミノ酸は、タンパク質変異体に存在するアミノ酸に置き換えられてよいが、上述のように、それは任意の他のアミノ酸で置き換えられてもよい。
【0090】
典型的には、GPCR変異体は、親タンパク質と比較して、1から10の置き換えられたアミノ酸、好ましくは1から8、典型的には2から6、例えば、2、3、4、5、又は6の置き換えられたアミノ酸を含む。
【0091】
多数の変異体が、本発明の第一の態様に係る選択方法に供されてよいと解されるであろう。換言すると、多数の変異体が、本発明の第一の態様に係る方法の工程(a)で提供されてよい。本発明の第一及び/又は第二の態様によって、その構造が非常に安定な多数の点変異タンパク質を作製するために選択された多数の変異誘発されたGPCRが作製されてよいと解されるであろう。
【0092】
GPCR変異体は任意の適切な方法によって調製されてよい。好都合には、前記タンパク質変異体は、適切な核酸分子にコードされ、適切な宿主細胞において発現される。前記GPCR変異体をコードする適切な核酸分子は、当該技術分野でよく知られている標準的なクローニング技術、部位特異的突然変異誘発法、及びPCRを用いて作製されてよい。適切な発現系は、細菌又は酵母における構成的又は誘導性の発現系、バキュロウイルス、セムリキ森林熱ウイルス、及びレンチウイルスなどのウイルス発現系、又は昆虫若しくは哺乳動物細胞における一過性トランスフェクションを含む。適切な宿主細胞は、大腸菌、乳酸連鎖球菌、サッカロミセスセレビシアエ、スキゾサッカロミセスポンベ、ピチアパストリス、スポドプテラフルギペルダ、及びトリコプルシアニ細胞を含む。適切な動物宿主細胞は、HEK293、COS、S2、CHO、NSO、及びDT40などを含む。幾つかのGPCRは、機能するために特定の脂質(例えば、コレステロール)を必要とする。その場合には、脂質を含む宿主細胞を選択することが望ましい。加えて又は代替的に、前記脂質は、前記タンパク質変異体の単離及び精製の間に添加してもよい。これらの発現系及び宿主細胞は、本発明の第一の態様に係る方法の工程(a)におけるGPCR変異体について使用してもよいと解されるであろう。
【0093】
遺伝子及びcDNAのクローニング及び操作のため、DNAを変異させるため、及び宿主細胞においてポリヌクレオチドからポリペプチドを発現させるための分子生物学的方法が、参照によって本明細書に取り込む「Molecular cloning, a laboratory manual”, third edition, Sambrook, J. & Russell, D.W. (eds), Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY」に例示されているように、当該技術分野においてよく知られている。
【0094】
本発明の第一又は第二の態様の更なる実施態様では、選択又は調製したGPCR変異体がGタンパク質に結合することが可能であるか否かを測定する。前記選択又は調製したGPCR変異体が、親GPCRと同程度の広がり及び/又は親和性の順位で、選択したリガンドと同じ分類の複数のリガンドに結合することが可能であるか否かを測定することも好ましい。
【0095】
本発明の第三の態様は、本発明の第二の態様に係る方法によって調製したGPCR変異体を提供する。
【0096】
本発明は、親GPCRと比較して増大した安定性を有する、特に増大した熱安定性を有するGPCR変異体を含む。
【0097】
β−アドレナリン受容体変異体
β−アドレナリン受容体は当該技術分野においてよく知られている。それらは互いに配列相同性を共有し、アドレナリンに結合する。
【0098】
本発明の第四の態様は、対応する野生型のβ−アドレナリン受容体と比較した際に、
図9に記載のシチメンチョウβ−アドレナリン受容体の番号による以下の位置:Ile 55, Gly 67, Arg 68, Val 89, Met 90, Gly 98, Ile 129, Ser 151, Val 160, Gln 194, Gly 197, Leu 221, Tyr 227, Arg 229, Val 230, Ala 234, Ala 282, Asp 322, Phe 327, Ala 334, Phe 338の任意の1つ又は複数に対応する位置で異なるアミノ酸を有する、β−アドレナリン受容体変異体を提供する。
【0099】
β−アドレナリン受容体変異体は、任意のβ−アドレナリン受容体変異体であってよいが、所定のシチメンチョウβ−アドレナリン受容体アミノ酸配列に参照されるアミノ酸の位置の1つ又は複数において変異されている。
【0100】
GPCR変異体が、MacVector及びCLUSTALW(Thompson et al (1994) Nucl. Acids Res. 22, 4673-4680)を使用して測定すると、前記所定のシチメンチョウβ−アドレナリン受容体配列と比較した際に少なくとも20%アミノ酸配列同一性を有する者であることが特に好ましい。より好ましくは、前記受容体変異体は、少なくとも30%、少なくとも40%、又は少なくとも50%のアミノ酸配列同一性を有する。一般的に、より高い程度のアミノ酸同一性が、天然のリガンドが結合するオルトステリック(「活性」)部位の付近では保存されている。
【0101】
以下の実施例1及び
図1に記載のように、親シチメンチョウβ−アドレナリン配列(
図9に示す)における以下のアミノ酸残基:Ile 55, Gly 67, Arg 68, Val 89, Met 90, Gly 98, Ile 129, Ser 151, Val 160, Gln 194, Gly 197, Leu 221, Tyr 227, Arg 229, Val 230, Ala 234, Ala 282, Asp 322, Phe 327, Ala 334, Phe 338の個々の置換は、熱安定性の増大を引き起こす。
【0102】
かくして、本発明は、親と比較した際に、これらのアミノ酸残基の1つ又は複数が他のアミノ酸残基によって置き換えられているシチメンチョウβ−アドレナリン受容体変異体を含む。本発明は、親受容体における1つ又は複数の対応するアミノ酸が他のアミノ酸残基に置き換えられている、他の起源に由来するβ−アドレナリン受容体変異体も含む。誤解を避けるために言及すると、前記親は、天然の配列を有するβ−アドレナリン受容体であってよく、又はその切断型であってよく、又は天然のタンパク質又はその断片との融合体であってよく、又はリガンド結合能を保持している天然配列と比較して変異を含有してよい。
【0103】
「対応するアミノ酸残基」によって、シチメンチョウβ−アドレナリン受容体と他のβ−アドレナリン受容体をMacVector及びCLUSTALWを使用して比較する際に、シチメンチョウβ−アドレナリン受容体中の所定のアミノ酸残基に対して整列(アライン)する他のβ−アドレナリン受容体のアミノ酸残基が含まれる。
【0104】
図9は、シチメンチョウβ−アドレナリン受容体とヒトβ1、β2、及びβ3−アドレアなリン受容体との間のアラインメントを示す。
【0105】
ヒトβ1のIle72はシチメンチョウβ−アドレナリン受容体のIle55と対応し;ヒトβ2のIle47はシチメンチョウβ−アドレナリン受容体のIle55と対応し;ヒトβ3のThr51がシチメンチョウβ−アドレナリン受容体のIle55と対応していることが認められる。ヒトβ1、β2、及びβ3における他の対応するアミノ酸残基は
図9を参照して容易に同定することが可能である。
【0106】
特定のアミノ酸がAlaに置き換えられることが好ましい。しかしながら、特定のアミノ酸残基がAlaである際は、Leuで置きかえられることが好ましい(例えば、
図1におけるシチメンチョウβ−アドレナリン受容体のAla 234、Ala 282、及びAla 334)。
【0107】
さらに大きい安定性が与えられる可能性があるため、β−アドレナリン受容体は、2以上のアミノ酸の位置において、親と比較して異なるアミノ酸を有することが好ましい。特に好ましいヒトβ1受容体変異体は、以下のアミノ酸残基:K85, M107, Y244, A316, F361 及び F372の1つ又は複数が他のアミノ酸残基で置き換えられているものである。典型的には、所定のアミノ酸が、Ala又はVal又はMet又はLeu又はIleで置きかえられる(ただし、それらが既に存在する残基である場合を除く)。
【0108】
上述の3又は4又は5又は6の変異の組み合わせを有するヒトβ1受容体変異体を調製する。
【0109】
特に好ましいヒトβ2受容体変異体は、以下のアミノ酸:K60, M82, Y219, C265, L310 及びF321の1つ又は複数が他のアミノ酸残基で置き換えられているものである。典型的には、所定のアミノ酸残基が、Ala又はVal又はMet又はLeu又はIleで置きかえられる(ただし、それらが既に存在する場合を除く)。
【0110】
上述の3又は4又は5又は6の変異の組み合わせを有するヒトβ2受容体変異体を調製する。
図26は、β1−m23における6の熱安定化変異(R68S, M90V, Y227A, A282L, F327A, F338M)は、ヒトβ2受容体に転用して(対応する変異K60S, M82V, Y219A, C265L, L310A, F321M)、ヒトβ2−m23を作製した際の熱安定性に対する効果を示す。ヒトβ2及びβ2−m23のTmは、29℃及び41℃の各々であり、かくして、熱安定化変異を1つの受容体から他の受容体に転用可能であることが例示される。したがって、特に好ましいヒトβ2受容体変異体は、K60S, M82V, Y219A, C265L, L310A, F321Mの変異を含むものである。
【0111】
特に好ましいヒトβ3受容体変異体は、以下のアミノ酸:W64, M86, Y224, P284, A330 及びF341の1つ又は複数が他のアミノ酸残基で置き換えられたものである。典型的には、所定のアミノ酸残基が、Ala又はVal又はMet又はLeu又はIleで置きかえられる(ただし、それらが既に存在する場合を除く)
【0112】
上述の3又は4又は5又は6の変異の組み合わせを有するヒトβ3受容体変異体が、好ましい。
【0113】
特に好ましい変異の組み合わせは、実施例1の表1及び2に詳細に記載しており、本発明は、シチメンチョウβ−アドレナリン受容体変異体を含み、さらに、対応する位置のアミノ酸が他のアミノ酸、典型的には実施例1の表1及び2に示すものと同じアミノ酸に置き換えられているβ−アドレナリン受容体変異体も含む。
【0114】
特に好ましい変異体は、シチメンチョウβ−アドレナリン受容体を参照して挙げられているアミノ酸残基に対応するアミノ酸に変異を含有するものである(R68S, Y227A, A282L, A334L) (下記の表2のm6-10参照); (M90V, Y227A, F338M) (下記の表2のm7-7参照); (R68S, M90V, V230A, F327A, A334L) (下記の表2のm10-8参照); 及び (R68S, M90V, Y227A, A282L, F327A, F338M) (下記の表2のm23参照)。
【0115】
アデノシン受容体変異体
アデノシン受容体は当該技術分野においてよく知られている。それらは互いに配列相同性を共有し、アデノシンに結合する。
【0116】
本発明の第五の態様は、対応する野生型アデノシンと比較した際に、
図10に記載のヒトアデノシンA
2a受容体の番号付けした以下の位置:Gly 114, Gly 118, Leu 167, Ala 184, Arg 199, Ala 203, Leu 208, Gln 210, Ser 213, Glu 219, Arg 220, Ser 223, Thr 224, Gln 226, Lys 227, His 230, Leu 241, Pro 260, Ser 263, Leu 267, Leu 272, Thr 279, Asn 284, Gln 311, Pro 313, Lys 315, Ala 54, Val 57, His 75, Thr 88, Gly 114, Gly 118, Thr 119, Lys 122, Gly 123, Pro 149, Glu 151, Gly 152, Ala 203, Ala 204, Ala 231, Leu 235, Val 239の任意の1つ又は複数に対応する位置に異なるアミノ酸を有するアデノシン受容体変異体を提供する。
【0117】
アデノシン受容体変異体は任意のアデノシン受容体の変異体であってよいが、所定のヒトアデノシンA2a受容体アミノ酸配列を参照して記載されるアミノ酸位置の1つ又は複数において変異されている。
【0118】
MacVector及びCLUSTALWを使用して測定すると、GPCR変異体が所定のヒトアデノシンA
2a受容体配列を比較した際に、少なくとも20%の配列同一性を有するものであることが特に好ましい。好ましくは、GPCR変異体は、少なくとも30%又は少なくとも40%又は少なくとも50%又は少なくとも60%の配列同一性を有する。典型的には、より高い程度の配列保存がアデノシン結合部位に存在する。
【0119】
以下の実施例2に記載するように、(
図10に示す)ヒトアデノシンA
2a受容体配列の以下のアミノ酸残基:Gly 114, Gly 118, Leu 167, Ala 184, Arg 199, Ala 203, Leu 208, Gln 210, Ser 213, Glu 219, Arg 220, Ser 223, Thr 224, Gln 226, Lys 227, His 230, Leu 241, Pro 260, Ser 263, Leu 267, Leu 272, Thr 279, Asn 284, Gln 311, Pro 313, Lys 315の個々の置き換えは、アゴニストである5’−N−エチルカルボキサミドアデノシン(NECA)を使用して測定した際の熱安定性における増大を引き起こす。
【0120】
(
図10に示す)ヒトA
2a受容体配列における以下のアミノ酸残基:Ala 54, Val 57, His 75, Thr 88, Gly 114, Gly 118, Thr 119, Lys 122, Gly 123, Pro 149, Glu 151, Gly 152, Ala 203, Ala 204, Ala 231, Leu 235, Val 239の置き換えは、アンタゴニストであるZM 241385(4-[2-[[7-アミノ-2-(2-フリル) [1,2,4]-トリアゾロ[2,3-α][1,3,5]トリアジン-5-イル]アミノ]エチル]フェノール)を使用して測定した際の熱安定性の増大を引き起こす。
【0121】
かくして、本発明は、親と比較すると、これらのアミノ酸残基の1つ又は複数が他のアミノ酸残基に置き換えられているヒトアデノシンA
2a受容体変異体を含む。本発明は、親受容体の1つ又は複数の対応するアミノ酸が他のアミノ酸残基に置き換えられている、他の起源に由来するアデノシン受容体変異体も含む。誤解を避けるために言及すると、前記親は、天然の配列を有するアデノシン受容体であってよく、又は切断型であってよく、又は天然のタンパク質若しくはその断片に対する融合体であってよく、又は天然の配列と比較して変異を含有してよいが、リガンド結合能を保持する。
【0122】
「対応するアミノ酸残基」によって、ヒトアデノシン受容体A
2a受容体及び他のアデノシン受容体をMacVector及びCLUSTALWを用いて比較する際に、ヒトアデノシンA
2a受容体における所定のアミノ酸残基に対して整列(アライン)する他のアデノシン受容体におけるアミノ酸残基が含まれる。
【0123】
図10は、ヒトアデノシンA
2a受容体及び3種の他のヒトアデノシン受容体(A2b、A3、及びA1)の間のアラインメントを示す。
【0124】
例えば、A
2b受容体(AA2BRと示されている)におけるSer115がA
2a受容体のGly114と対応することが認められる。同様に、A
3受容体(AA3Rと示されている)におけるAla60がA
2a受容体におけるAla54に対応することなどが認められる。ヒトアデノシン受容体A
2b、A
3、及びA
1における他の対応するアミノ酸残基は、
図10を参照して容易に同定することが可能である。
【0125】
親の特定のアミノ酸がAlaに置き換わることが好ましい。しかしながら、親の特定のアミノ酸残基がAlaである際は、Leuで置き換えることが好ましい。
【0126】
アデノシン受容体変異体が、2以上のアミノ酸の位置において親と比較して異なるアミノ酸を有することが好ましい。特に好ましいヒトアデノシンA2b受容体は、以下のアミノ酸残基:A55, T89, R123, L236 及びV240の1つ又は複数が他のアミノ酸残基で置き換わっているものである。典型的には、所定のアミノ酸残基が、Ala又はVal又はMet又はLeu又はIleで置きかえられる(ただし、それらが既に存在する場合を除く)。
【0127】
3又は4又は5の上述の変異を有するヒトアデノシンA2b受容体変異体が好ましい。
【0128】
特に好ましいヒトアデノシンA3受容体は、以下のアミノ酸残基:A60, T94, W128, L232 及びL236の1つ又は複数が他のアミノ酸残基で置き換えられているものである。典型的には、所定のアミノ酸残基が、Ala又はVal又はMet又はLeu又はIleで置きかえられる(ただし、それらが既に存在する場合を除く)。
【0129】
3又は4又は5の上述の変異を有するヒトアデノシンA3受容体変異体が好ましい。
【0130】
特に好ましいヒトアデノシンA1受容体は、以下のアミノ酸残基:A57, T91, A125, L236, 及びL240の1つ又は複数が他のアミノ酸残基で置き換えられているものである。典型的には、所定のアミノ酸残基が、Ala又はVal又はMet又はLeu又はIleで置きかえられる(ただし、それらが既に存在する場合を除く)。
【0131】
変異の特に好ましい組み合わせは実施例2に詳細に記載している。本発明は、これらのヒトアデノシンA2a受容体、及び対応する位置のアミノ酸が他のアミノ酸、典型的には実施例2に示すものと同じアミノ酸によって置き換えられている他のアデノシン受容体変異体を含む。
【0132】
特に好ましいアデノシン受容体変異体は、ヒトアデノシンA2a受容体を参照して挙げられているアミノ酸残基に対応するアミノ酸に変異を含有するものである(A54L, K122A, L235A) (Rant 17); (A54L, T88A, V239A, A204L) (Rant 19); 及び(A54L, T88A, V239A, K122A) (Rant 21)。
【0133】
ニューロテンシン受容体変異体
ニューロテンシン受容体は当該技術分野において知られている。それらは配列相同性を共有し、ニューロテンシンに結合する。
【0134】
本発明の第六の態様は、対応する野生型のニューロテンシン受容体と比較した際に、
図11に記載のラットニューロテンシン受容体の番号付けして記載した以下の位置:Ala 69, Leu 72, Ala 73, Ala 86, Ala 90, Ser 100, His 103, Ser 108, Leu 109, Leu 111, Asp 113, Ile 116, Ala 120, Asp 139, Phe 147, Ala 155, Val 165, Glu 166, Lys 176, Ala 177, Thr 179, Met 181, Ser 182, Arg 183, Phe 189, Leu 205, Thr 207, Gly 209, Gly 215, Val 229, Met 250, Ile 253, Leu 256, Ile 260, Asn 262, Val 268, Asn 270, Thr 279, Met 293, Thr 294, Gly 306, Leu 308, Val 309, Leu 310, Val 313, Phe 342, Asp 345, Tyr 349, Tyr 351, Ala 356, Phe 358, Val 360, Ser 362, Asn 370, Ser 373, Phe 380, Ala 385, Cys 386, Pro 389, Gly 390, Trp 391, Arg 392, His 393, Arg 395, Lys 397, Pro 399の任意の1つ又は複数に対応する位置に異なるアミノ酸を有するニューロテンシン受容体変異体を提供する。
【0135】
MacVector及びCLUSTALWを使用して測定すると、GPCR変異体が所定のラットニューロテンシン受容体配列を比較した際に、少なくとも20%の配列同一性を有するものであることが特に好ましい。好ましくは、GPCR変異体は、少なくとも30%又は少なくとも40%又は少なくとも50%又は少なくとも60%の配列同一性を有する。
【0136】
ニューロテンシン受容体変異体は任意のニューロテンシン受容体変異体であってよいが、所定のラットニューロテンシン受容体アミノ酸配列を参照して言及されるアミノ酸位置の1つ又は複数で変異している。
【0137】
以下の実施例3に記載しているように、(
図11及び28に示す)ラットニューロテンシン受容体配列の以下のアミノ酸残基:Leu 72, Ala 86, Ala 90, Ser 100, His 103, Ser 108, Leu 109, Leu 111, Asp 113, Ile 116, Ala 120, Asp 139, Phe 147, Ala 155, Lys 176, Thr 179, Met 181, Ser 182, Phe 189, Leu 205, Thr 207, Gly 209, Gly 215, Leu 256, Asn 262, Val 268, Met 293, Asp 345, Tyr 349, Tyr 351, Ala 356, Phe 358, Ser 362, Ala 385, Cys 386, Trp 391, Arg 392, His 393, Lys 397, Pro 399の個々の置き換えは、ニューロテンシンの不在下について考えた際に熱安定性における増大を引き起こす。
【0138】
以下の実施例3に記載のように、(
図11及び28に記載の)ラットニューロテンシン受容体配列における以下のアミノ酸残基:Ala 69, Ala 73, Ala 86, Ala 90, His 103, Val 165, Glu 166, Ala 177, Arg 183, Gly 215, Val 229, Met 250, Ile 253, Ile 260, Thr 279, Thr 294, Gly 306, Leu 308, Val 309, Leu 310, Val 313, Phe 342, Phe 358, Val 360, Ser 362, Asn 370, Ser 373, Phe 380, Ala 385, Pro 389, Gly 390, Arg 395の個々の置き換えは、ニューロテンシンの存在下について考えると、熱安定性における増大を引き起こす。
【0139】
かくして、本発明は、親と比較すると、これらのアミノ酸残基の1つ又は複数が他のアミノ酸残基によって置き換えられているラットニューロテンシン受容体変異体を含む。本発明は、親受容体の1つ又は複数の対応するアミノ酸が他のアミノ酸残基によって置き換えられている他の起源に由来するニューロテンシン受容体変異体も含む。誤解を避けるために言及すると、前記親は、天然の配列を有するニューロテンシン受容体であってよく、又は切断型であってよく、又は天然のタンパク質若しくはその断片に対する融合体であってよく、又は天然の配列と比較して変異を含有してもよいが、リガンド結合能を保持する。
【0140】
「対応するアミノ酸残基」によって、ラットニューロテンシン受容体と他のニューロテンシン受容体とをMacVector及びCLUSTALWとを使用して比較する際に、ラットニューロテンシン受容体における所定のアミノ酸残基に対して整列(アライン)する他のニューロテンシン受容体におけるアミノ酸残基が含まれる。
【0141】
図11は、ラットニューロテンシン受容体と2つのヒトニューロテンシン受容体1及び2との間のアラインメントを示す。例えば、ヒトニューロテンシン受容体1のAla85がラットニューロテンシン受容体のAla86が対応し;ヒトニューロテンシン受容体1のPhe353がラットニューロテンシン受容体のPhe358に対応することなどが認められる。ヒトニューロテンシン受容体1及び2における他の対応するアミノ酸残基は、
図11を参照して容易に同定可能である。
【0142】
親の特定のアミノ酸残基がAlaに置き換えられることが好ましい。しかしながら、親の特定のアミノ酸残基がAlaである際は、Leuで置き換えられることが好ましい。
【0143】
ニューロテンシン受容体変異体は、2以上のアミノ酸の位置において、親と比較すると異なるアミノ酸を有することが好ましい。特に好ましいヒトニューロテンシン受容体(NTR1)は、以下のアミノ酸残基:Ala 85, His 102, Ile 259, Phe 337 及びPhe 353の1つ又は複数が他のアミノ酸残基で置き換えられているものである。典型的には、所定のアミノ酸残基がAla又はVal又はMet又はLeu又はIleで置きかえられる(ただし、それらが既に存在する場合を除く)。
【0144】
3又は4又は5の上述の変異を有するヒトニューロテンシン受容体(NTR1)が好ましい。
【0145】
特に好ましいヒトニューロテンシン受容体(NTR2)は、以下のアミノ酸残基:V54, R69, T229, P331 及びF347の1つ又は複数が他のアミノ酸残基で置き換えられているものである。典型的には、所定のアミノ酸残基がAla又はVal又はMet又はLeu又はIleで置きかえられる(ただし、それらが既に存在する場合を除く)。3又は4又は5の上述の変異を有するヒトニューロテンシン受容体(NTR2)が好ましい。
【0146】
特に好ましい変異の組み合わせは、実施例3に詳細に記載している。本発明は、ラットニューロテンシン受容体変異体を含み、さらに、対応する位置のアミノ酸が他のアミノ酸、典型的には実施例3に示すものと同じアミノ酸によって置き換えられている他のニューロテンシン受容体変異体も含む。
【0147】
特に好ましいニューロテンシン受容体変異得体は、ラットニューロテンシン受容体を参照して挙げられているアミノ酸残基に対応するアミノ酸残基における変異を含有するものである(F358A, A86L, I260A, F342A) (Nag7m); (F358A, H103A, I260A, F342A) (Nag7n)。
【0148】
ムスカリン受容体変異体
ムスカリン受容体は当該技術分野において知られている。それらは配列相同性を共有し、ムスカリンに結合する。
【0149】
本発明の第七の態様は、対応する野生型のムスカリン受容体と比較した際に、
図17に記載のヒトムスカリン受容体M1の番号付けした以下の位置:Leu 65, Met 145, Leu 399, Ile 383 及びMet 384の任意の1つ又は複数に対応する位置で異なるアミノ酸を有するムスカリン受容体変異体を提供する。
【0150】
MacVector及びCLUSTALWを使用して測定すると、GPCR変異体が所定のヒトムスカリン受容体配列を比較した際に、少なくとも20%の配列同一性を有するものであることが特に好ましい。好ましくは、GPCR変異体は、少なくとも30%又は少なくとも40%又は少なくとも50%の配列同一性を有する。
【0151】
ムスカリン受容体変異体は、任意のムスカリン受容体の変異体であってよいが、所定のムスカリン受容体アミノ酸配列を参照して挙げられているアミノ酸の位置の1つ又は複数で変異されている。
【0152】
かくして、本発明は、親と比較すると、これらのアミノ酸残基の1つ又は複数が他のアミノ酸残基によって置き換えられたヒトムスカリン受容体変異体を含む。本発明は、親受容体における1つ又は複数の対応するアミノ酸が他のアミノ酸によって置き換えられている他の起源由来のムスカリン受容体変異体も含む。誤解を避けるために言及すると、前記親は、天然の配列を有するムスカリン受容体であってよく、又は切断型であってよく、又は天然のタンパク質又はその断片に対する融合体であってよく、又は天然の配列と比較して変異を含有してよいが、リガンド結合能を保持する。
【0153】
「対応するアミノ酸残基」によって、ヒトムスカリン受容体と他のムスカリン受容体とをMacVector及びCLUSTALWを使用して比較した際に、ヒトムスカリン受容体における所定のアミノ酸に対して整列(アライン)する他のムスカリン受容体におけるアミノ酸残基が含まれる。
【0154】
特定のアミノ酸残基がAlaで置き換えられることが好ましい。しかしながら、特定のアミノ酸残基がAlaである際は、Leuで置き換えられることが好ましい。
【0155】
実施例1から3に示し、且つ、上述しているように、本発明者は、シチメンチョウβ1アドレナリン受容体、ヒトアデノシン受容体、ラットニューロテンシン受容体、及びヒトムスカリン受容体の配列全体に広く分布する熱安定化変異を同定した。
図17は、ヒトβ−2ARの配列を有するこれらの配列のアラインメントを提供し、熱安定化変異が前記配列に位置する際に、全部で70のうち11例において、2つの配列が同じ位置に変異を含有している(
図17において星印で示す)。かくして、1つ又は複数の安定化変異が1つのGPCRで同定されると、増大した安定性を有する更なるGPCRを、GPCRのアミノ酸配列アラインメント及び対応する1つ又は複数の位置で1つ又は複数の変異を作製することによって産生されてよい。この概念は、シチメンチョウβ1−23の6つの熱安定化変異がヒトβ2受容体に直接転用した
図26に明確に例示されている。結果として得られた変異体であるβ2−23は、ヒトβ2受容体よりも12℃高いTmを有していた。
【0156】
したがって、本発明の第八の態様は、親GPCRと比較して増大した安定性を有するGPCR変異体を製造するための方法であって、
(i)第一の親GPCRと比較して増大した安定性を有する第一の親GPCRの1つ又は複数の変異のアミノ酸配列において、1つ又は複数の変異体が第一の親GPCRと比較して少なくとも1つの異なるアミノ酸残基を有する、1つ又は複数の位置を同定する工程、及び
(ii)対応する1つ又は複数の位置において、第二のGPCRを規定するアミノ酸配列に1つ又は複数の変異を作製し、第二の親GPCRと比較して増大した安定性を有する第二の親GPCRの1つ又は複数の変異体を提供する工程
を含む、方法を提供する。
【0157】
第一の親GPCRの1つ又は複数の変異体は、本発明の第一又は第二の態様に係る方法に従って選択又は調製されてよい。したがって、第一の親GPCRの1つ又は複数の変異体は、本発明の第三、第四、第五、第六、又は第七の態様に係る変異体であってよい。したがって、本発明の第八の態様に係る方法を使用して、変異誘発により安定で立体構造が固定されたGPCRを作製するために使用してよい。
【0158】
例えば、特定の立体構造における増大した安定性を有するGPCR変異体の選択の後に、安定化変異を同定し、第二のGPCRの対応する位置のアミノ酸が置き換えられ、第二の親GPCRと比較して特定の立体構造において増大した安定性を有するGPCR変異体を製造することが可能である。
【0159】
誤解を避けるために言及すると、第一の親GPCRは、天然の配列を有するGPCRであってよく、又は切断型であってよく、又は天然のタンパク質若しくはその断片に対する融合体であってよく、又は天然の配列と比較して変異を含有してよいが、リガンド結合能を保持する。
【0160】
典型的には、1つ又は複数の変異体が第一の親GPCRと比較して少なくとも1つの異なるアミノ酸残基を有する、1つ又は複数の位置を同定することは、例えば、Clustal Wプログラム(Thompson et al.,1994)を使用して、それらのアミノ酸配列を親GPCRの配列とアラインメントすることを伴う。
【0161】
「対応する1つ又は複数の位置」によって、例えば、MacVector及びClustal Wを使用して、第一の及び第二のGPCRがアラインメントによって比較される際に、第一のGPCRのアミノ酸配列における位置に整列(アライン)する第二のGPCRのアミノ酸配列における位置を含む。例えば、
図17におけるアラインメントで示すように、シチメンチョウβ1−m23における6つの安定化変異であるR68S, M90V, Y227A, A282L, F327A 、及びF338Mが、ヒトβ2受容体における残基であるK60, M82, Y219, C265, L310 、及びF321の各々に対応する位置である。
【0162】
第二のGPCRのアミノ酸配列における対応する1つ又は複数の位置を同定して、それらの位置のアミノ酸を他のアミノ酸で置き換える。典型的には、前記アミノ酸は、第一の親GPCRの変異体における対応する位置のアミノ酸を置き換えたものと同じアミノ酸で置き換えられる(但し、それらのアミノ酸が既にその残基に存在する場合を除く)。例えば、シチメンチョウβ1−m23の68位では(R68S)、アルギニン残基がセリン残基で置き換えられている。したがって、ヒトβ2受容体の対応する位置である60位(K60)において、リジン残基が好ましくはセリン残基で置き換えられる。
【0163】
変異は、例えば、上述のように、且つ、当該技術分野においてよく確立された技術を使用して、アミノ酸配列において作製されてよい。
【0164】
第二のGPCRは任意の他のGPCRであってよいと解されるであろう。例えば、1つの種に由来するGPCRにおける安定化変異は、他の種に由来する第二のGPCRに転用してよい。同様に、1つの特定のGPCRアイソフォームにおける安定化変異は、異なるアイソフォームである第二のGPCRに転用してよい。好ましくは、第二の親GPCRは、第一の親GPCRと同じGPCRの分類又はファミリーのものである。系統発生解析は、タンパク質配列の類似性に基づいて、GPCRを3つの主な分類、すなわち、クラス1、2、及び3に分けており、それらのフェノタイプはロドプシン、セレクチンレセプター、及びメタボトロピックグルタメート受容体の各々である(Foord et al (2005) Pharmacol. Rev. 57, 279-288)。かくして、第二のGPCRは、第一の親GPCRと同じGPCRの分類のGPCRであってよい。同様に、GPCRは、グルタメート及びGABAなどの天然のリガンドによってファミリーに分類されている。かくして、第二のGPCRは、第一の親GPCRと同じGPCRファミリーのものであってよい。GPCRの分類及びファミリーの一覧は、International Union of Pharmacology(Foord et al (2005) Pharmacol. Rev. 57, 279-288)によって作成されており、その一覧はhttp://www.iuphar-db.org/GPCR/ReceptorFamiliesForwardで定期的に更新されている。
【0165】
第二の親GPCRは、第一のGPCRにおける変異の対応する位置を第二のGPCRにおいて決定し得るように、第一の親GPCRと整列(アライン)することが可能でなくてはならないと解されるであろう。かくして、典型的には、第二の親GPCRは、前記第一の親GPCRに対して少なくとも20%の配列同一性を有し、より好ましくは第一の親GPCRに対して少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、又は90%の配列同一性を有する。しかしながら、幾つかのGPCRは、低い配列同一性を有しており(例えば、ファミリーB及びCのGPCR)、同時に構造においては非常に似ている。かくして、20%の配列同一性のしきい値は絶対的なものではない。
【0166】
本発明者は、増大した安定性を有するGPCR変異体における1つ又は複数の変異が存在する構造モチーフの同定が、増大した安定性を有する更なるGPCR変異体を製造するのに有用であろうと考えた。
【0167】
したがって、本発明の第九の態様は、親G−タンパク質共役型受容体(GPCR)と比較して増大した安定性を有するGPCRを製造するための方法であって、
(i)第一の親GPCRと比較して増大した安定性を有する第一の親GPCRの1つ又は複数の変異体を提供する工程、
(ii)1つ又は複数の変異体が第一の親GPCRと比較して少なくとも1つの異なるアミノ酸残基を有する、1つ又は複数の構造モチーフを構造膜タンパク質モデルにおいて同定する工程、及び
(iii)第二の親GPCRにおける1つ又は複数の対応する構造モチーフを規定するアミノ酸配列における1つ又は複数の変異を作製し、第二の親GPCRと比較して増大した安定性を有する第二の親GPCRの1つ又は複数の変異を提供する工程
を含む、方法を提供する。
【0168】
1つ又は複数の既知の構造モデルにおいて安定化変異をマッピングすることを使用して、その様な安定化変異を有する特定の構造モチーフを同定してよい。本発明者は、その様なモチーフを同定するために、β2−アドレナリン受容体の構造モデルに対してβ1アドレナリン受容体の安定化変異をマッピングした(Rasmussen et al (2007) Nature 450, 383-387; Cherezov et al (2007) Science 318:1258-65; Rosenbaum et al (2007) Science 318:1266-1273)。例えば、表(vi)は、本発明者がヒトβ2−アドレナリン受容体に対してマッピングしたシチメンチョウβ1−アドレナリン受容体変異体を挙げており、それらが存在する対応する構造モチーフを記載している。実施例4に記載のように、Y227A変異(ヒトβ2受容体のY219に対応する)のヒトβ2アドレナリン受容体に対するマッピングは、変異がヘリックス界面におけるパッキングを改善し得るように、ヘリックス間の界面に位置することを明らかにする(実施例15、16、及び23参照)。同様に、M90V変異(ヒトβ
2受容体におけるM82に対応する)のヒトβ
2−受容体に対するマッピングは、ヘリックスがねじれる部分でヘリックス2に変異が存在することを明らかにする(
図15、16、及び20参照)。他の変異は、脂質二重膜、疎水性−親水性境界領域、タンパク質結合ポケット、及びループ領域に向いている膜貫通ヘリックス表面を含む更なる構造モチーフに存在することが認められた(表(vi)及び
図18−19、21−22、及び24−25)。
【0169】
その様な構造モチーフは、安定化変異を含有することによって、タンパク質の安定性の決定に重要である。したがって、これらのモチーフを変異の標的とすることは、安定化GPCR変異体の産生を容易にするであろう。事実、同じ構造モチーフに2以上の変異がマップされた複数の例が存在する。例えば、シチメンチョウβ1アドレナリン受容体Y227A、V230A、及びA234L変異は、同じヘリックス界面にマップされ、V89L及びM90V変異は同じヘリックスのねじれにマップされ、F327A及びA334L変異は脂質二重膜に向いた同じヘリックス表面にマッピングされた(表(vi))。かくして、1つの安定化変異が同定された際は、変異が存在する構造モチーフの決定は、更なる安定化変異の同定を可能にするであろう。
【0170】
本発明の第九の態様の実施態様では、第一の親GPCRの1つ又は複数の変異体が、本発明の第一、第二、又は第八の態様に係る方法に従って選択又は調製される。したがって、第一の親GPCRの1つ又は複数の変異体が、本発明の第三、第四、第五、第六、又は第七の態様に係る変異体の任意のものであってもよい。したがって、本発明の第九の態様に係る方法は、安定な立体構造が固定されたGPCRを変異誘発によって作製するために使用されてもよい。例えば、特定の立体構造における増大された安定性を有するGPCR変異体の選択の後に、その様な安定化変異が存在する構造モチーフを同定してよい。他のGPCRにおいて、対応する構造モチーフを規定するアミノ酸配列における1つ又は複数の変異を作製することが、次いで、親GPCRと比較して特定の立体構造において増大された安定性を有するGPCR変異体を製造するために使用されてよい。
【0171】
本発明者は、ヒトβー2AR、ラットNTR1、シチメンチョウβ−1AR、hitoアデノシンA2aR、及びヒトムスカリンM1受容体のアミノ酸配列(
図17)の多重配列アラインメントを実施し、同定された熱安定化変異(実施例1から3)が前記配列に存在する際は、全部で70のうち11例において、2つの配列が同じ位置で変異を有していることが示されている(
図17において星印で示す)。いずれかの理論につなげることを意図しないが、本発明者は、これらの位置の熱安定化変異は、構造膜タンパク質モデルにマッピングするための促進された転用可能性を有するものであるはずである。かくして、1つの実施態様では、第一の親GPCRの変異体は、対応する親受容体と比較した際に、
図17に記載のヒトβ2ARの番号付けした以下の位置:Ala 59, Val 81, Ser 143, Lys 147, Val 152, Glu 180, Val 222, Ala 226, Ala 271, Leu 275 及びVal 317の任意の1つ又は複数に対応する位置で異なるアミノ酸を有する、ヒトβ−2AR、ラットNTR1、シチメンチョウβ−1AR、ヒトアデノシンA2aR、又はヒトムスカリンM1受容体である。
【0172】
1つ又は複数の構造モチーフを同定するために、安定化変異を膜タンパク質の既知の構造にマッピングする。
【0173】
「膜タンパク質」によって、細胞又はオルガネラの膜に結合又は接合するタンパク質を意味する。好ましくは、前記膜タンパク質は、膜に持続的に組み込まれ、脂質二重層を物理的に破壊する界面活性剤、非極性溶媒、又は変性剤を用いてのみ除去され得る完全な膜タンパク質である。
【0174】
膜タンパク質の構造モデルは任意の適切な構造モデルであってよい。例えば、前記モデルは、既知の結晶構造であってよい。GPCR結晶構造の例は、ウシロドプシン(Palczewski, K. et al., Science 289, 739-745. (2000))及びヒトβ2アドレナリン受容体(Rasmussen et al, Nature 450, 383-7 (2007); Cherezov et al (2007) Science 318:1258-65; Rosenbaum et al (2007) Science 318:1266-1273)を含む。ヒトβ2アドレナリン受容体構造の座標は、RCSB Protein Data Bankにおいて2rh1, 2r4r 及び2r4sの登録番号で認められる。代替的には、構造モデルは、ホモロジーに基づくか又はde novo構造予測法を使用して、コンピューターによって生成されるモデルであってよい(Qian et al Nature (2007) 450: 259-64)。
【0175】
所定のGPCR変異体の安定化変異は、GPCRに対して十分な構造類似性を有する任意の膜タンパク質の構造モデルにマッピングされてよい。特に、膜タンパク質のドメインは、転用可能な所定の変異について、安定化変異が存在するGPCRドメインに対して十分な構造類似性を有する。
【0176】
タンパク質ドメインは、典型的には、単独のタンパク質として単独で存在するか又は他のドメインとの組み合わせにおける大きなタンパク質の一部であってよい二次構造要素の個別的に折りたたまれた集合として規定される。一般的には、機能的な進化単位である。
【0177】
GPCRは本質的には大きなN末端ドメインを有するものを除く単独のドメインタンパク質である。したがって、典型的には、その構造モデルは、GPCRに対して十分な類似性を有する少なくとも1つのドメインを含む膜タンパク質のものである。
【0178】
構造類似性は、配列同一性の分析によって間接的に又は構造の比較によって直接的に決定されてよい。
【0179】
配列同一性に関しては、変異体が第一の親GPCRと比較して少なくとも1つの異なるアミノ酸残基を有するGPCRドメインをコードするアミノ酸配列を、構造モデルが利用可能な膜タンパク質のドメインをコードするアミノ酸配列と整列(アライン)する。これらの配列の1つ又は複数は、主要保存ドメインに加えて、挿入配列又はN末端若しくはC末端伸長を含有してよい。最適なアラインメントのために、その様な配列は、分析を歪めないように除外する。問題のドメインに亘る十分な配列同一性を有する膜タンパク質を、次いで、変異をマッピングするための構造モデルとして使用してよい。可溶性タンパク質ドメインについては、それらの3D構造は、配列同一性が増大すると100%まで増大する構造保存のレベルとともに、約20%の配列同一性で広範に保存されており、良好には30%超の同一性で保存されていることが示されている(Ginalski,K. Curr Op Struc Biol (2006) 16, 172-177)。かくして、構造膜タンパク質モデルが、第一の親GPCRと比較して少なくとも1つの異なるアミノ酸残基を含有するGPCRドメイン変異体と少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、又は90%、さらに好ましくは少なくとも95%又は99%の配列同一性を共有するドメインを含有する膜タンパク質のモデルである。
【0180】
配列同一性は、BLAST又はPSI−BLAST(Altschul et al, NAR (1997), 25, 3389-3402)などのアルゴリズム又はHidden Markov Models (Eddy S et al, J Comput Biol (1995) Spring 2 (1) 9-23)に基づく方法を使用して測定してよい。典型的には、2つのポリペプチドの間の配列同一性の%は、任意の適切なコンピュータープログラム、例えば、University of Wisconsin Genetic Computing GroupのGAPプログラムを使用して測定してよく、配列が最適に整列(アライン)されたポリペプチドに関して同一性の%を計算すると解されるであろう。そのアラインメントは、代替的には、Clustal Wプログラムを使用して実施されてよい(Thompson et al.,1994)。使用するパラメータは、以下:Fast pairwise alignment parameters: K-tuple(word) size; 1, window size; 5, gap penalty; 3, number of top diagonals; 5. Scoring method: x percent. Multiple alignment parameters: gap open penalty; 10, gap extension penalty; 0.05. Scoring matrix: BLOSUMのものであってよい。
【0181】
配列同一性に加えて、構造類似性が、構造モデルの比較によって直接的に決定されてよい。構造モデルを使用して、配列中で連続的であるか又はそうでなくてよい、配列分析のみからは明らかでない構造類似領域を検出してよい。例えば、ファミリーB及びCのGPCRは類似した構造を共有すると解されているが、それらの配列同一性は非常に低い。同様に、水輸送アクアポリンであるホウレンソウSoPip2、大腸菌AqpZ、メタノコッカスAqpM、ラットAqp4、ヒトAqp1、及びヒツジAqp0は、低い配列同一性を共有しているが、それら全ては類似した構造を有する。
【0182】
高い忠実性の構造モデルが、構造が相同的なタンパク質の既知の構造に基づいてモデルを作製するMODELLER(Sali A and Blundell T, J Mol Biol (1993) 234(3) 779-815)などの標準的なソフトウェアパッケージを使用して未知の構造のタンパク質について作製されてよい。その様なモデリングは、配列同一性の増大とともに改善する。典型的には、未知の構造の配列と既知の3D構造の配列との間の配列同一性は、30%超である(Ginalski,K. Curr Op Struc Biol (2006) 16, 172-177)。加えて、配列のみに基づくde novo構造予測法を使用して、未知の構造のタンパク質のモデルを作製してよい(Qian et al, (2007) Nature 450:259-64)。構造を実験的に測定又はモデリングによって導き出すと、構造類似領域が、2以上の3D構造の直接的な比較によって検出されてよい。それらは、例えば、DALI(Holm, L and Sander, C (1996) Science 273, 595-603)などのソフトウェアを使用して検出可能な特定の構造及びトポロジーといった二次的な構造要素を含んでよい。それらは、アミノ酸側鎖及びポリペプチド主鎖の局所的な配列、特定の空間配置における原子の特定のセット若しくは原子のグループを含んでよく、例えば、グラフ理論的表現を使用して検出されてもよい(Artymiuk,P et al, (2005) J Amer Soc Info Sci Tech 56 (5) 518-528)。この手法において、比較するタンパク質又はタンパク質の領域内の原子又は原子のグループが、典型的には、ノードの間の角度及び間隔を表示するグラフのエッジとともにグラフのノードとして表わされる。これらのグラフにおける共通のパターンは、共通の構造モチーフを示す。この手法が拡張されて、水素結合ドナー若しくはアクセプター、疎水性、形状、電荷、又は芳香性などの原子又は原子のグループの任意の記述子を含んでよく、例えば、GRID及び類似性調査のための基礎として使用される当該表示を使用して、その様な記述子にしたがってタンパク質が空間的にマッピングされてよい。前記方法、ソフトウェアの利用可能性、及び使用者の規定するパラメータ、しきい値、及び許容値の選択のためのガイドラインの説明は上述の参考文献に記載している。
【0183】
好ましい実施態様では、構造膜タンパク質モデルは構造GPCRモデルである。GPCRの構造モデルは、第一の親GPCRのモデルであってよいと解されるであろう。例えば、増大された安定性を有するGPCR変異体内の安定化変異は、第一の親GPCR構造及びその様な変異が存在する構造モチーフに直接マッピングされてよい。第一の親GPCRの構造が未知である場合は、他のGPCRの構造モデルを使用してよい。例えば、1つの種に由来するGPCRの安定化変異は、他の種に由来する同じGPCRの既知の構造モデルにマッピングされてよい。同様に、1つの特定のGPCRアイソフォームにおける安定化変異は、他のGPCRアイソフォームの既知の構造モデルにマッピングされてよい。さらに、1つのGPCRに由来する安定化変異は、同じ分類又はファミリーの他のGPCRにマッピングしてよい。GPCRの分類及びファミリーの一覧は、International Union of Pharmacology (Foord et al (2005) Pharmacol. Rev. 57, 279-288)によって作成されており、当該一覧は、http://www.iuphar-db.org/GPCR/ReceptorFamiliesForwardで定期的に更新されている。
【0184】
上述のように、構造モデルが、GPCR変異体が第一の親GPCRと比較して少なくとも1つの異なるアミノ酸を有するドメインに亘って十分な構造類似性を有する任意のGPCRのものであってよいと解されるであろう。かくして、GPCRが、第一の親GPCRと比較して少なくとも1つの異なるアミノ酸残基を含有するタンパク質ドメインに亘って、第一の親GPCRの変異体と少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、又は90%、さらに好ましくは少なくとも95%又は99%の配列同一性を共有することが好ましい。しかしながら、発明者は、20%の配列同一性のしきい値は絶対的なものではないと認識している。第一の親GPCRに対して20%未満の配列同一性を有するGPCRは、低い配列同一性が他の類似性、例えば、第一の親GPCRと比較して同じ配列モチーフの存在、同じG−タンパク質に対する結合、又は同じ機能を有すること、或いは同じ疎水性親水性指標のプロットを有することによって相殺される場合に、安定化変異が転用される構造モデルとしても役に立ち得る。
【0185】
構造モデルに対する安定化変異のマッピングは、当該技術分野において既知の適切な任意の方法を使用して実施されてよい。例えば、典型的には、構造モデルが利用可能なGPCRのアミノ酸配列を、第一の親GPCRの変異体のアミノ酸配列と整列(アライン)する。第一の親GPCRと関係する、GPCR変異体の少なくとも1つの異なるアミノ酸残基の1つ又は複数の位置は、構造モデルが利用可能なGPCRのアミノ酸配列に存在してよい。
【0186】
「構造モチーフ」によって、熱安定化変異のGPCR構造モデルにおける位置の三次元的記載を含める。例えば、構造モチーフは、GPCRの内部の任意の二次又は三次構造モチーフであってよい。「三次構造モチーフ」によって、水素結合ドナー若しくはアクセプター、疎水性、形状、電荷、又は芳香性などの原子又は原子のグループの任意の記述子を含める。例えば、タンパク質は、GRID及び構造モチーフを規定するための基礎として使用される当該表示を使用してその様な記述子にしたがって空間的にマッピングされてよい(Baroni et al (2007) J Chem Inf Mod 47, 279-294)。
【0187】
表(vi)は、安定化変異が存在することが認められるシチメンチョウβ1アドレナリン受容体の構造モチーフを挙げている。表から認められるように、変異は多数の異なる位置に存在している。3つの変異が、水性溶媒に接近可能であることが予測されるループ領域に存在する。8つの変異が、膜貫通α−ヘリックスに存在し、脂質二重層に向いており;これらの変異のうち3つが、ヘリックスの末端近辺であり、疎水性−親水性境界層にあると解されてよい。8つの変異は、膜貫通α−ヘリックスの間にあり、そのうち3つはヘリックスのねじれた又は歪められた領域のいずれかに存在し、他の2つの変異は1つのヘリックスに存在するが、変異残基に対する空間に近接したねじれを含む1つ又は複数の他のヘリックスと近接していると認められる。これらの後者の変異は、ねじれ領域内のアミノ酸のパッキングに作用し、熱安定性を生じさせ得る。他の変異は基質結合ポケットに存在する。
【0188】
したがって、1つの実施態様では、構造モチーフは、ヘリックス界面、ヘリックスねじれ、ヘリックスねじれの逆のヘリックス、脂質二重層に向いたヘリックス表面、疎水性−親水性境界層における脂質二重層に向いたヘリックス表面、ループ領域、又はタンパク質結合ポケットのいずれかである。
【0189】
安定化変異が存在する構造モチーフの同定は、タンパク質安定性におけるモチーフの重要性を示唆する。したがって、対応する1つ又は複数の構造モチーフを規定するアミノ酸配列における1つ又は複数の変異の作製は、第二の親GPCRと比較して増大した安定性を有する第二の親GPCRの1つ又は複数の変異体を提供するはずである。
【0190】
構造モチーフを規定するアミノ酸配列は、タンパク質の二次又は三次構造において結合して構造モチーフを形成する、アミノ酸残基の一次アミノ酸配列である。その様な一次アミノ酸配列が連続的又は非連続的なアミノ酸残基を含んでよいと解されるであろう。かくして、構造モチーフを規定するアミノ酸配列の同定は、関与する残基を決定し、配列を実質的に規定することを伴うであろう。変異は、例えば、上述のように、当該技術分野においてよく確立された技術を使用して、アミノ酸配列において作製されてよい。
【0191】
「対応する1つ又は複数の構造モチーフ」によって、第二の親GPCRに存在する構造モデルにおいて同定される一つ又は複数の類似構造モチーフを意味する。例えば、ヘリックス界面を同定する場合には、第二の親GPCRにおける対応するヘリックス界面は、構造モデルに存在するヘリックスに類似するヘリックスの間の界面であろう。ヘリックスのねじれを同定した場合には、対応するヘリックスのねじれは、構造モデルに存在するねじれたヘリックスに類似するヘリックスにおけるねじれであろう。第二の親GPCRにおける1つ又は複数の類似する構造モチーフは、例えば配列アラインメントによって、構造モデルにおける1つ又は複数のモチーフを規定する第二の親GPCRの配列中の類似のアミノ酸配列を検索することによって同定されてよい。さらに、コンピューターに基づくアルゴリズムは、当該技術分野において広く利用可能であり、アミノ酸配列に基づくタンパク質モチーフの存在の予測に使用されてよい。かくして、アミノ酸配列内の特定のモチーフの相対的な位置及び他のモチーフに関連する位置に基づいて、類似する構造モチーフが容易に同定されてよい。第二の親GPCRの構造モデルが利用可能である場合に、類似する1つ又は複数の構造モチーフがタンパク質の構造に対して直接マッピングされてよいと解されるであろう。典型的には、類似する構造モチーフを規定するアミノ酸配列は、構造モデルにおいてモチーフを規定する配列と少なくとも20%、より好ましくは30%、40%、50%、60%、70%、80%、及び90%、並びにさらに好ましくは95%及び99%の配列同一性を有する。
【0192】
1つの実施態様では、第二の親GPCRは第一の親GPCRである。誤解を避けるために言及すると、第二の親GPCRは、第一の親GPCRの天然の配列を有してよく、又は切断型であってよく、又は天然タンパク質若しくはその断片に対する融合体であってよく、又は天然の配列と比較して変異を含有してよいが、リガンド結合能を保持する。
【0193】
代替的な態様において、第二の親GPCRは、第一の親GPCRではない。例えば、増大した安定性を有する第一の親GPCRの変異体が同定されてよいが、増大した安定性を有する異なるGPCRの変異体を産生することが望ましい。好ましくは、第二の親GPCRは、上述の第一の親GPCRと同じGPCRの分類又はファミリーのものである。しかしながら、第二の親GPCRが任意の既知のGPCRであってよいが、第一の親GPCRの変異体の安定化変異が存在する対応する構造モチーフを含有するように、第一の親GPCRと顕著な構造類似性を共有すると解されるであろう。かくして、典型的には、第二の親GPCRが、第一の親GPCRと少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、又は90%の配列同一性を有する。しかしながら、上述のように、幾つかのGPCRは、低い配列同一性を有するが(例えば、ファミリーB及びCのGPCR)、構造において類似する。かくして、20%の配列同一性のしきい値は絶対的なものではない。
【0194】
増大された安定性についてGPCRにおいてスクリーニングされ得る数千の変異体が潜在的に存在するため、安定性に対する寄与において重要であることが既知の特定の変異を標的とすることが有利である。したがって、本発明の第八及び第九の態様に係る方法は、増大した安定性を有するGPCR変異体を選択する方法において使用してよい。特に、本発明の第八又は第九の態様に係る方法を実施して、安定性の決定に重要な構造モチーフを規定する特定のアミノ酸残基又はアミノ酸配列に対する変異を標的としてよい。
【0195】
したがって、1つの実施態様では、本発明の第八又は第九の態様に係る方法は、
(I)特定の立体構造を備えた第二の親GPCRに結合するものであるリガンドを選択する工程、
(II)第二の親GPCRの変異体又はその各々が、特定の立体構造を備える際に、同じ特定の立体構造を備えている第二の親GPCRのリガンド結合についての安定性と比較して、選択したリガンドの結合に関して増大した安定性を有するか否かを測定する工程、及び
(III)選択したリガンドの結合に関して第二の親GPCRと比較して増大した安定性を有する変異体を選択する工程
をさらに含む。
【0196】
工程(I)、(II)、及び(III)は、上述の本発明の第一の態様に係る方法の工程(b)、(c)、及び(c)に対応することに気付くであろう。したがって、安定性を評価するリガンド及び方法は、好ましくは本発明の第一の態様に係る方法に関して上述しているものである。
【0197】
本発明の第十の態様は、本発明の第十の態様に係る方法によって生産される親GPCRと比較して増大した安定性を有するGPCR変異体である。
【0198】
1つの実施態様では、本発明の第十の態様に係るGPCR変異体は、親受容体と比較して、(i)
図9に記載のシチメンチョウβ−アドレナリン受容体の番号付けした以下の位置:Ile 55, Gly 67, Arg 68, Val 89, Met 90, Gly 67, Ala 184, Arg 199, Ala 203, Leu 208, Gln 210, Ser 213, Glu 219, Arg 220, Ser 223, Thr 224, Gln 226, Lys 227, His 230, Leu 241, Pro 260, Ser 263, Leu 267, Leu 272, Thr 279, Asn 284, Gln 311, Pro 313, Lys 315、(iii)
図11に記載のラットニューロテンシン受容体の番号付けした以下の位置:Ala 69, Leu 72, Ala 73, Ala 86, Ala 90, Ser 100, His 103, Ser 108, Leu 109, Leu 111, Asp 113, Ile 116, Ala 120, Asp 139, Phe 147, Ala 155, Val 165, Glu 166, Lys 176, Ala 177, Thr 179, Met 181, Ser 182, Arg 183, Phe 189, Leu 205, Thr 207, Gly 209, Gly 215, Val 229, Met 250, Ile 253, Leu 256, Ile 260, Asn 262, Val 268, Asn 270, Thr 279, Met 293, Thr 294, Gly 306, Leu 308, Val 309, Leu 310, Val 313, Phe 342, Asp 345, Tyr 349, Tyr 351, Ala 356, Phe 358, Val 360, Ser 362, Asn 370, Ser 373, Phe 380, Ala 385, Cys 386, Pro 389, Gly 390, Trp 391, Arg 392, His 393, Arg 395, Lys 397, Pro 399、並びに(iv)
図17に記載のムスカリン受容体の番号付けした以下の位置:Le
u 65, Met 145, Leu 399, Ile 383 及びMet 384の任意の1つ又は複数に対応する位置に少なくとも1つの異なるアミノ酸を有するGPCR変異体である。
【0199】
図17に示すシチメンチョウβ1AR、ヒトアデノシン受容体、ラットニューロテンシン受容体、及びヒトムスカリン受容体アミノ酸配列のアラインメントは、70のうちの11例において、2つの配列が同じ位置、すなわち、
図17に記載のヒトβ2ARの番号付けした以下の位置:Ala 59, Val 81, Ser 143, Lys 147, Val 152, Glu 180, Val 222, Ala 226, Ala 271, Leu 275 及びVal 317に変異を含有することを示す。したがって、好ましい実施態様では、本発明の第十の態様に係るGPCR変異体は、親受容体と比較して、これらの位置の任意の1つに異なるアミノ酸を有するものである。
【0200】
1つの実施態様では、本発明の第十の実施態様に係るGPCR変異体は、βアドレナリン受容体変異体である。例えば、β−アドレナリン受容体変異体は、構造モチーフに少なくとも1つの異なるアミノ酸残基を有してよく、前記受容体変異体は、親受容体と比較して、
図9に記載のシチメンチョウβ−アドレナリン受容体の番号付けした以下の位置:Ile 55, Gly 67, Arg 68, Val 89, Met 90, Gly 98, Ile 129, Ser 151, Val 160, Gln 194, Gly 197, Leu 221, Tyr 227, Arg 229, Val 230, Ala 234, Ala 282, Asp 322, Phe 327, Ala 334, Phe 338のいずれかに対応する位置に異なるアミノ酸を有する。
【0201】
1つの実施態様では、本発明の第十の態様に係るGPCR変異体は、アデノシン受容体変異体である。例えば、アデノシン受容体変異体は、構造モチーフに少なくとも1つの異なるアミノ酸残基を有してよく、前記受容体変異体は、親受容体と比較して、
図10に記載のヒトアデノシンA2a受容体の番号付けした以下の位置:Gly 114, Gly 118, Leu 167, Ala 184, Arg 199, Ala 203, Leu 208, Gln 210, Ser 213, Glu 219, Arg 220, Ser 223, Thr 224, Gln 226, Lys 227, His 230, Leu 241, Pro 260, Ser 263, Leu 267, Leu 272, Thr 279, Asn 284, Gln 311, Pro 313, Lys 315のいずれかに対応する位置に異なるアミノ酸を有する。
【0202】
1つの実施態様では、本発明の第十の態様に係るGPCR変異体はニューロテンシン受容体変異体である。例えば、ニューロテンシン受容体変異体は、構造モチーフに少なくとも1つの異なるアミノ酸残基を有してよく、前記受容体変異体は、親受容体と比較して、
図11に記載のラットニューロテンシン受容体の番号付けした以下の位置:Ala 69, Leu 72, Ala 73, Ala 86, Ala 90, Ser 100, His 103, Ser 108, Leu 109, Leu 111, Asp 113, Ile 116, Ala 120, Asp 139, Phe 147, Ala 155, Val 165, Glu 166, Lys 176, Ala 177, Thr 179, Met 181, Ser 182, Arg 183, Phe 189, Leu 205, Thr 207, Gly 209, Gly 215, Val 229, Met 250, Ile 253, Leu 256, Ile 260, Asn 262, Val 268, Asn 270, Thr 279, Met 293, Thr 294, Gly 306, Leu 308, Val 309, Leu 310, Val 313, Phe 342, Asp 345, Tyr 349, Tyr 351, Ala 356, Phe 358, Val 360, Ser 362, Asn 370, Ser 373, Phe 380, Ala 385, Cys 386, Pro 389, Gly 390, Trp 391, Arg 392, His 393, Arg 395, Lys 397, Pro 399のいずれかに対応する位置で異なるアミノ酸を有する。
【0203】
1つの実施態様では、本発明の第十の態様に係るGPCR変異体は、ムスカリン受容体変異体である。例えば、ムスカリン受容体変異体は、構造モチーフに少なくとも1つの異なるアミノ酸残基を有してよく、前記受容体変異体は、
図17に記載のヒトムスカリン受容体の番号付けした以下の位置:Leu 65, Met 145, Leu 399, Ile 383 及びMet 384のいずれかに対応する位置において異なるアミノ酸を有する。
【0204】
本発明のGPCR変異体は、熱、界面活性剤、カオトロピック剤、及び極端なpHのいずれか1つに対する増大した安定性を有することが好ましい。
【0205】
本発明のGPCR変異体が増大した熱安定性を有することが好ましい。
【0206】
β−アドレナリン受容体、アデノシン受容体、及びニューロテンシン受容体を含む本発明のGPCR変異体が、それらのリガンドの存在下又は不在下に、親と比較して増大した熱安定性を有することが好ましい。典型的には、リガンドは、アンタゴニスト、完全なアゴニスト、部分的アゴニスト、又は逆アゴニストであり、オルトステリック又はアロステリックのいずれかである。上述のように、リガンドは、抗体などのポリペプチドであってよい。
【0207】
本発明のGPCR変異体、例えば、β−アドレナリン受容体変異体又はアデノシン受容体変異体又はニューロテンシン受容体変異体が、親よりも少なくとも2℃、好ましくは少なくとも5℃、より好ましくは少なくとも8℃、さらに好ましくは少なくとも10℃又は15℃又は20℃安定であることが好ましい。典型的には、親受容体及び受容体変異体の熱安定性は、同じ条件下で測定される。典型的には、熱安定性は、GPCRが特定の立体構造を備えている条件下でアッセイされる。典型的には、当該選択される条件は、GPCRに結合するリガンドの存在下である。
【0208】
本発明のGPCR変異体が、可溶化され、且つ、適切な界面活性剤中で精製される際に、ドデシルマルトシド中で精製されたウシロドプシンと類似の熱安定性を有することが好ましい。GPCR変異体が、30分間に亘る40℃の加熱後に少なくとも50%のリガンド結合活性を保持することが、特に好ましい。GPCR変異体が、30分間に亘る55℃の加熱後に少なくとも50%のリガンド結合活性を保持することが、さらに好ましい。
【0209】
本明細書に開示するGPCR変異体は、結晶化試験に関して有用であり、且つ、薬剤探索プログラムにおいて有用である。それらは、例えば表面プラズモン共鳴又は蛍光に基づく技術による、受容体/リガンド動態及び熱動力学的パラメータの生物物理学的測定において使用されてよい。それらは、リガンド結合スクリーニングに使用してもよく、ハイスループットスクリーニングにおいて又はバイオセンサーチップとして使用するための固体表面に結合させてよい。GPCR変異体を含有するバイオセンサーチップを使用して、分子、特に生体分子を検出してよい。
【0210】
本発明は、本発明のGPCR変異体をコードするポリヌクレオチドも含む。特に、ポリヌクレオチドは、本発明のβ−アドレナリン受容体変異体又はアデノシン受容体変異体又はニューロテンシン受容体変異体をコードするものを含む。前記ポリヌクレオチドは、DNA又はRNAであってよい。典型的には、前記GPCR変異体を発現するために使用しうるベクターなどのベクターに含まれる。適切なベクターは、細菌又は哺乳動物又は昆虫細胞において発現を可能にする及び/又は増殖するものである。
【0211】
本発明は、GPCR変異体をコードするポリヌクレオチドを含有する、細菌又は真核生物細胞などの宿主細胞も含む。適切な細胞は、大腸菌細胞、酵母細胞、哺乳動物細胞、及び昆虫細胞を含む。
【0212】
本発明を、以下の図面及び実施例を参照してより詳細に記載する。